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  • -グルカゴン由来ペプチド及びその用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】グルカゴン由来ペプチド及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/605 20060101AFI20230919BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230919BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230919BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230919BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230919BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230919BHJP
   A61K 38/26 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
C07K14/605 ZNA
A61P3/00
A61P3/04
A61P3/10
A61P3/06
A61P1/16
A61K38/26
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021525711
(86)(22)【出願日】2019-11-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 CN2019117715
(87)【国際公開番号】W WO2020103729
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-08-03
(31)【優先権主張番号】201811338218.2
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521201551
【氏名又は名称】天津薬物研究院有限公司
【氏名又は名称原語表記】TIANJIN INSTITUTE OF PHARMACEUTICAL RESEARCH CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 306 Huiren Road, Binhai New District, Tianjin 300451, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】韓英梅
(72)【発明者】
【氏名】劉巍
(72)【発明者】
【氏名】劉冰▲ニー▼
(72)【発明者】
【氏名】孔維苓
(72)【発明者】
【氏名】趙娜夏
(72)【発明者】
【氏名】夏廣萍
(72)【発明者】
【氏名】商倩
(72)【発明者】
【氏名】孔曉華
(72)【発明者】
【氏名】▲ジン▼京
(72)【発明者】
【氏名】李玉▲チュエン▼
(72)【発明者】
【氏名】劉旭圓
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-521043(JP,A)
【文献】国際公開第2017/181452(WO,A1)
【文献】特表2019-520314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I
HX2QGTFTSDX10SX12YLX15161718AX20EFX2324WLX2728293031において、
2はAibであり、
10はLys又はTyrであり、
12はLys又はArgであり、
15はAsp又はGluであり、
16はGluであり、
17はArg又はLysであり、
18はLys、Ala又はArgであり、
20はArg又はLysであり、
23はVal又はIleであり、
24はAla、Glu又はLysであり、
27は存在せず、
28はGlu又は存在せず、
29はAla又はGluであり、
30はZであり、
31は存在せず、
28がGluであるときX29がAlaであり、X28が存在せずのときX29がGluであり、
ZはフラグメントペプチドGGPSSGであり、
C末端カルボキシ基は遊離し又はアミド化され、
且つ、X10、X17、X20及びX24のうち1つのみが、側鎖が修飾されたLysである、
上記の一般式Iの配列で示されるポリペプチドを含むことを特徴とするポリペプチド誘導体又はその塩。
【請求項2】
一般式Ia)
HX2QGTFTSDX10SKYLEX161718AX20EFX2324WLX27282930において、
2はAibであり、
10はTyr又はLysであり、
16はGluであり、
17はArg又はLysであり、
18はLys、Ala又はArgであり、
20はArg又はLysであり、
23はVal又はIleであり、
24はAla、Glu又はLysであり、
27は存在せず、
28はGluであり、
29はAlaであり、
30はZであり、ZはフラグメントペプチドGGPSSGであり、
10、X17、X20及びX24のうち1つのみが、側鎖が修飾されたLysであり、
C末端カルボキシ基は遊離し又はアミド化される、
上記の一般式Ia)の配列で示されるポリペプチドを含む請求項1に記載のポリペプチド誘導体又はその塩。
【請求項3】
前記一般式Ia)で、
2はAibであり、
16はGluであり、
17はArg又はLysであり、
20はLysであり、
27は存在せず、
28はGluであり、
30はZであり、
10及びX20のうち1つのみが、側鎖が修飾されたLysであることを特徴とする請求項2に記載のポリペプチド誘導体又はその塩。
【請求項4】
前記一般式Ia)は、
17はArgで且つX18はAlaである、
17はArgで且つX18はLysである、又は
17はLysで且つX18はArgである、
上記のアミノ酸配列の組み合わせを含むことを特徴とする請求項2又は3に記載のポリペプチド誘導体又はその塩。
【請求項5】
前記一般式Ia)は、
23はValで且つX24はAlaもしくはGluである、又は
23はIleで且つX24はAlaもしくはGluである、
上記のアミノ酸配列の組み合わせを含むことを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体又はその塩。
【請求項6】
前記一般式Iで、
2はAibであり、
16はGluであり、
17はArg又はLysであり、
27は存在せず、
28は存在せず、
29はGluであり、
30はZであり、
31は存在せず、
10及びX20のうち1つのみが、側鎖が修飾されたLysであることを特徴とする請求項1に記載のポリペプチド誘導体又はその塩。
【請求項7】
前記一般式Iは、
17はArgで且つX18はAlaである、
17はArgで且つX18はLysである、又は
17はLysで且つX18はArgである、
上記のアミノ酸配列の組み合わせを含むことを特徴とする請求項6に記載のポリペプチド誘導体又はその塩。
【請求項8】
前記一般式Iは、
23はValで且つX24はAlaもしくはGluである、又は
23はIleで且つX24はAlaもしくはGluである、
上記のアミノ酸配列の組み合わせを含むことを特徴とする請求項6又は7に記載のポリペプチド誘導体又はその塩。
【請求項9】
20が、側鎖が修飾されたLysである場合に、X10はTyrであることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体又はその塩。
【請求項10】
前記側鎖が修飾されたLysとは、前記Lysの側鎖ε-アミノ基に親水性リンカーを介して脂肪酸がカップリングされて修飾されることであることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体又はその塩。
【請求項11】
前記親水性リンカーは、Glu、γGlu、Gly及びAdo(8-アミノ-3,6ジオキシオクタン酸)のうちの1つ以上によって構成されたフラグメントから選ばれることを特徴とする請求項10に記載のポリペプチド誘導体又はその塩。
【請求項12】
前記親水性リンカーは、γGlu-γGlu-、Glu-γGlu-、Glu-γGlu-、γGlu-Gly-Gly、γGlu-Gly-γGlu-、γGlu-Ado-Ado-、Ado-Ado-γGlu-、又はγGlu-Ado-Ado-γGlu-であることを特徴とする請求項10に記載のポリペプチド誘導体又はその塩。
【請求項13】
前記脂肪酸はC14~20脂肪酸であることを特徴とする請求項10に記載のポリペプチド誘導体又はその塩。
【請求項14】
前記脂肪酸はC16~20脂肪族ジカルボン酸であることを特徴とする請求項10に記載のポリペプチド誘導体又はその塩。
【請求項15】
前記ポリペプチドの配列は配列番号4~27のいずれか1つである請求項1に記載のポリペプチド誘導体又はその塩。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体又はその塩と、任意選択で薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項17】
代謝性疾患の治療薬を製造するための請求項1~15のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体又はその塩の使用。
【請求項18】
前記代謝性疾患は糖尿病、肥満、脂肪肝、高脂血症及び/又はメタボリックシンドロームである請求項17に記載のポリペプチド誘導体又はその塩の使用。
【請求項19】
前記脂肪肝は非アルコール性脂肪性肝疾患である請求項18に記載のポリペプチド誘導体又はその塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製薬及びバイオテクノロジーの分野に属し、具体的には、グルカゴン由来ペプチド及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は様々な疾患を引き起こす危険因子で、世界的な公衆衛生上の問題となっている。特に、2型糖尿病(T2DM)をはじめとするメタボリックシンドローム、心血管疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患などの一般的な疾患で、発生率と疾患の進行は肥満と密接に関係している。正常体重の集団と比べて、心血管疾患と複数の代謝性疾患の発生率がBMI25.0~29.9kg/m2、30.0~34.9kg/m2及びBMI>35.0kg/m2の体重過多、肥満又は重度肥満の集団でそれぞれ2倍、5倍、15倍高いことが複数の大規模な臨床研究から判明した(Lancet 2,e277-e285,2017)。また、T2DM患者の80~90%が体重過多又は肥満であることが研究から判明し、適度の減量(4~5kg)は疾患の予防及び緩和につながり、例えば、罹患率低減、血糖値や障害発生率(致死率)の管理である(Curr.Med.Res.Opin.2011,27(7),1431-1438)。
【0003】
食事制限、運動は体重を減らすために最も理想的な手段とされるものの、満足のいく効果が得られないことも多い。薬物を用いる肥満治療は効果が限定的でしかも様々なリスクがあり、例えば、心血管系に対する重度な影響や中枢神経系の作用で生じる精神障害などの副作用である。これまでに、5~10%を超える体重減少を単一の薬物で達成する例はまれである。T2DM治療薬のうち体重管理に効果的なのはSGLT2阻害薬、GLP-1受容体アゴニストだけである。減量手術の効果が明らかであるが、手術のリスクが大きく、長期的な効果に疑問がある。これに鑑みて、臨床上、体重管理薬物の需要がまだ大きく、原発性疾患の治療効果を持ち合わせ安全でかつ効果的な体重管理を実現できる薬物は理想的な選択肢である。
【0004】
血糖・エネルギー調節信号システムはペプチドホルモンなどの様々な因子によって保たれる精密なバランスである。プログルカゴン(pro-glucagon)は158のアミノ酸を有する前駆体ポリペプチドで、様々な組織で加工されてグルカゴン(GC)、グルカゴン様ペプチド-1、2(GLP-1、2)やオキシントモジュリンなどの様々なプログルカゴン由来ペプチドが生成され、これらのホルモンが体内のグルコースバランス、インスリン分泌、胃内容排出、腸の成長や食物摂取などの様々な生理学的機能の調節に関与する。したがって、プログルカゴンに基づく腸ホルモンでの治療は、代謝性疾患分野で関心を集めており研究の方向性となっている。
【0005】
GCはプログルカゴンの33~61位のアミノ酸によって構成された29のアミノ酸を含む誘導ペプチドで、膵α細胞での加工で生成され、飢餓や冷え込みなどのストレス状態下で肝臓に作用し、糖分解と糖新生により血糖レベルを正常な範囲に保つ。血糖レベル
を上げる効果の他にも、動物又はヒト試験結果によりGCが熱生成、満腹感、脂肪分解、脂肪酸化、ケトン体生成などの役割を有し、長期投与すると、体重が減少するなどエネルギー代謝を改善させることが判明されたが、これらのエネルギー代謝に有益な効果はその固有の血糖増加作用のため利用されていない。
【0006】
GLP-1はプログルカゴンの72~108位のアミノ酸によって構成された37のアミノ酸残基を含む誘導ペプチドで、摂食後に腸のL細胞によって分泌され、膵β細胞に作用してインスリン分泌を促すとともに、GC受容体に拮抗して血糖増加を抑える。GLP-1受容体アゴニストは糖尿病患者用の高血糖治療薬として開発され、血糖降下と同時に膵島細胞を保護及び増殖させ、胃内容排出を遅らせ食物摂取を抑えることにより、体重を効果的に減らすことができる。現在、市場で販売されているGLP-1受容体アゴニストは7種で、短時間作用型のエキセナチド、リラグルチド、リキシセナチド(1~2回/日)、長時間作用型のアルビグルチド、デュラグルチド、Byuderon、セマグルチド(1回/週)である。GLP-1受容体作動薬は安全で独特な血糖降下効果があるものの、体重を減らすために用いる場合には一般に大用量が必要で、しかも大用量下でこれらの薬物は胃腸に副作用があり、忍容性が悪く、治療ウィンドウが狭い。したがって、忍容性が高められ、効果的に血糖を制御し体重を減らせる治療薬が必要である。
【0007】
オキシントモジュリン(Oxyntomodulin、略称OXM)はプログルカゴンの翻訳後の修飾加工段階で腸で生成されたホルモンで、摂食に応じて回腸のL細胞によってGLP-1などのホルモンと一緒に分泌される。OXMの急性効果は胃内容排出、胃及び膵臓の外分泌、食物摂取阻害、安静時のエネルギー消費などを含み、体重を減らす効果がある。OXMの特異的な受容体はまだ判明されないが、OXMは内因性GCGR/GLP-1Rデュアルアゴニストで、両方の受容体に対する活性は各受容体の天然リガンドより弱いということが研究から明かになった。動物又はヒト試験により、OXMの末梢投与は食物摂取量を低減させ体重を減らし、肥満対象での代謝率、特に運動関連のエネルギー消費を増やすことが判明されている。特に、OXMの大用量末梢投与臨床試験では、体重減少の一方、吐き気、嘔吐などの一般的な胃腸副作用の発生率が比較的低かった。したがって、OXM又はGLP-1/GCGRデュアルアゴニストに基づく治療は肥満や肥満型糖尿病に潜在的な価値があるにもかかわらずまだ市販の関連薬物が見当たらない現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】中国特許出願第CN200980132562.9号
【文献】中国特許出願第CN201080027026.5号
【文献】中国特許出願第CN201680062196.4号
【文献】中国特許出願第CN201680036771.3号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Lancet 2,e277-e285,2017
【文献】Curr.Med.Res.Opin.2011,27(7),1431-1438
【文献】Andreas Evers et al.,J.Med.Chem.2017,60,4293-4303
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の1つの目的は、グルカゴンのポリペプチド誘導体を提供することである。前記ポリペプチドはGCの天然配列に基づいて設計された変異体で、GC/GLP-1受容体に対する二重の作動効果でエネルギー代謝に相乗効果を与え、効果的に血糖を降下させ体重を減らし、体内の脂肪レベルを改善させることができ、単独のGLP-1受容体アゴニストに比べて、糖尿病、肥満、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪性肝疾患などの症状改善にもっと有益である。
【0011】
本発明のもう一つの目的は、本発明のグルカゴンのポリペプチド誘導体を含む医薬組成物を提供することである。
【0012】
本発明のもう一つの目的は、本発明のグルカゴンのポリペプチド誘導体の用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は次の技術的解決手段によって達成される。
【0014】
本発明の第1態様では、
一般式I
HX2QGTFTSDX10SX12YLX15161718AX20EFX2324WLX2728293031において、
2はSer、D-Ser又はAibであり、
10はLys又はTyrであり、
12はLys又はArgであり、
15はAsp又はGluであり、
16はSer又はGluであり、
17はArg、Glu又はLysであり、
18はLys、Ala又はArgであり、
20はArg又はLysであり、
23はVal又はIleであり、
24はAla、Glu又はLysであり、
27はLeu、Valであり又は存在せず、
28はAla、Gly、Lys、Glu、Zであり又は存在せず、
29はAla、Glu、Arg、Gly、Zであり、
30はGlu、Zであり、
31はZであり又は存在せず、
ZはフラグメントペプチドGGPSSGであり、X28、X29、X30及びX31のうち1つのみがZであり、C末端カルボキシ基は遊離又はアミド化され、
且つ、X10、X17、X20及びX24のうち1つのみが、側鎖が修飾されたLysである、
上記の一般式Iの配列で示されるポリペプチドを含むポリペプチド誘導体、その修飾誘導体又はその塩を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、
一般式Ia)
HX2QGTFTSDX10SKYLEX161718AX20EFX2324WLX27282930において、
2はSer又はAibであり、
10はTyr又はLysであり、
16はSer又はGluであり、
17はArg、Glu又はLysであり、
18はLys、Ala又はArgであり、
20はArg又はLysであり、
23はVal又はIleであり、
24はAla、Glu又はLysであり、
27はLeuであり又は存在せず、
28はGluであり又は存在せず、
29はAlaであり、
30はZであり、ZはフラグメントペプチドGGPSSGであり、
10、X17、X20及びX24のうち1つのみが、側鎖が修飾されたLysであり、
C末端カルボキシ基は遊離し又はアミド化される、
上記の一般式Ia)の配列で示されるポリペプチドを含むポリペプチド誘導体、その修飾誘導体又はその塩を提供する。
【0016】
本発明の好ましい実施形態では、前記一般式Ia)で、
2はAibであり、
10はLys又はTyrであり、
16はGluであり、
17はArg又はLysであり、
18はAla、Lys又はArgであり、
20はLysであり、
27は存在せず、
28はGluであり、
29はAlaであり、
30はZであり、
10及びX20のうち1つのみが、側鎖が修飾されたLysであり、
C末端カルボキシ基は遊離し又はアミド化される。
【0017】
いくつかの好ましい実施形態では、前記一般式Ia)は、
17はArgで且つX18はAlaである、
17はArgで且つX18はLysである、又は
17はLysで且つX18はArgである、
上記のアミノ酸配列の組み合わせを含む。
【0018】
好ましい実施形態では、前記一般式Ia)は、
23はValで且つX24はAlaもしくはGluである、又は
23はIleで且つX24はAlaもしくはGluである、
上記のアミノ酸配列の組み合わせを含む。
【0019】
本発明の好ましい実施形態で、前記ポリペプチド誘導体は、配列番号4~15から選ばれたいずれかの配列を有するポリペプチドを含む。
【0020】
本発明のまたいくつかの好ましい実施形態では、
前記一般式Iで、
2はAibであり、
10はLys又はTyrであり、
16はGluであり、
17はArg又はLysであり、
18はAla、Lys又はArgであり、
20はArg又はLysであり、
27は存在せず、
28は存在せず、
29はGluであり、
30はZであり、
31は存在せず、
10及びX20のうち1つのみが、側鎖が修飾されたLysであり、
C末端カルボキシ基は遊離し又はアミド化される、
上記の一般式Iの構造を有するポリペプチドを提供する。
【0021】
本発明の好ましい実施形態で、前記一般式Iは、
17はArgで且つX18はAlaである、
17はArgで且つX18はLysである、又は
17はLysで且つX18はArgである、
上記のアミノ酸配列の組み合わせを含む。
【0022】
本発明のより好ましい実施形態で、前記一般式Iは、
23はValで且つX24はAlaもしくはGluである、又は
23はIleで且つX24はAlaもしくはGluである、
上記のアミノ酸配列の組み合わせを含む。
【0023】
本発明の好ましい実施形態で、前記ポリペプチド誘導体は、配列番号16~27から選ばれたいずれかの配列を有するポリペプチドを含む。
【0024】
本発明の好ましい実施形態で、前記ポリペプチド誘導体は、X20が、側鎖が修飾されたLysである場合、X10はTyrであることを特徴とする。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態で、前記側鎖が修飾されたLysとは、前記Lysの側鎖ε-アミノ基に親水性リンカーを介して脂肪酸がカップリングされて修飾されることである。
【0026】
好ましくは、前記Lysの側鎖ε-アミノ基を修飾する親水性リンカーは、Glu、γGlu、Gly及びAdo(8-アミノ-3,6ジオキシオクタン酸)のうちの1つ以上によって構成されたフラグメントから選ばれ、好ましくはγGlu-γGlu-、Glu-γGlu-、Glu-γGlu-、γGlu-Gly-Gly、γGlu-Gly-γGlu-、γGlu-Ado-Ado-、Ado-Ado-γGlu-、又はγGlu-Ado-Ado-γGlu-である。
【0027】
本発明の好ましい実施形態において、前記の脂肪酸はC14~20脂肪酸であり、より好ましくはC16~20脂肪族ジカルボン酸である。
【0028】
本発明の第2態様は、本発明に記載のポリペプチド誘導体、その修飾誘導体又はその塩を含む医薬組成物を提供することである。
【0029】
好ましくは、前記医薬組成物は薬学的に許容される1種以上の賦形剤をさらに含む。前記薬学的に許容される賦形剤は担体、希釈剤、水溶性充填剤、pH調整剤、安定剤、注射用水、浸透圧調整剤などを含む。
【0030】
好ましくは、前記水溶性充填剤はマンニトール、低分子デキストラン、ソルビトール、ポリエチレングリコール、グルコース、ラクトース、ガラクトースなどを含むが、但しこれらに限定されず、前記pH調整剤はクエン酸、リン酸、乳酸、酒石酸、塩酸などの有機酸又は無機酸及び水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム塩などの生理的に許容される無機塩基又は塩を含むが、但しこれらに限定されず、前記安定剤はEDTA-2Na、チオ硫酸ナトリウム、二亜硫酸二ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、リン酸水素二カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、アルギニン、リシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシ/ヒドロキシセルロース又はその誘導体(例えば、HPC、HPC-SL、HPC-L、HPMC)、シクロデキストリン、ドデシル硫酸ナトリウム又はトリスヒドロキシメチルアミノメタンなどを含むが、これらに限定されず、前記浸透圧調整剤は塩化ナトリウム、塩化カリウムを含むが、これらに限定されるのではない。
【0031】
好ましくは、本発明に記載の医薬組成物は静脈内、筋肉内又は皮下注射されてもよいし、経口、経直腸又は経鼻投与されてもよい。用量範囲は5μg~10mg/回で、治療対象、投与方法、適応症、他の要因によって決まる。
【0032】
本発明の第3態様は、代謝性疾患の治療薬を製造するための、本発明に記載のポリペプチド誘導体、その修飾誘導体又はその塩の用途を提供することであって、好ましくは、前記の代謝性疾患は糖尿病、肥満、脂肪肝、高脂血症及び/又はメタボリックシンドロームであり、より好ましくは、前記脂肪肝は非アルコール性脂肪性肝疾患である。
【0033】
本発明の第4態様は、治療を必要とする患者に本発明に記載のポリペプチド誘導体、その修飾誘導体又はその塩を投与するステップを含む代謝性疾患の治療方法を提供することであって、好ましくは、前記の代謝性疾患は糖尿病、肥満、脂肪肝、高脂血症及び/又はメタボリックシンドロームであり、より好ましくは、前記脂肪肝は非アルコール性脂肪性肝疾患である。
【発明の効果】
【0034】
単独のGLP-1受容体アゴニストと比べて、本発明のポリペプチド誘導体はより効果的に血糖を降下させ、体重減量を促進し、また体重増加を防ぎ、インスリン抵抗性を逆転させる効果があって、従来の薬物には予期されない有益な効果がある。
【0035】
グルカゴン由来ペプチドの構造:内因性GLP-1はプログルカゴンの72~108位のアミノ酸によって構成された30~31のアミノ酸残基(7~36/37)を含む誘導ペプチドで、そのアミノ酸配列はHAEGTFTSDVSSYLEGQAAKEFIAWLVKGR(7~36)(配列番号1)、HAEGTFTSDVSSYLEGQAAKEFIAWLVKGRG(7~37)で、そのC末端は遊離し又はアミド化される。内因性GCはプログルカゴンの33~61位のアミノ酸によって構成された29のアミノ酸を含む誘導ペプチドで、そのアミノ酸配列はHSQGTFTSDYSKYLDSRRAQDFVQWLMNT(配列番号2)で、C末端カルボキシ基は遊離する。天然GLP-1とGCとのアミノ酸配列に47%の相同性があり(Andreas Evers et al.,J.Med.Chem.2017,60,4293-4303)、両者のN末端配列は高度に保存的であり、GLP-1はその受容体に対して選択性が高く、GCはGLP-1受容体の弱いアゴニストでもある。したがって、GC配列に基づくGLP-1/GCGRデュアルアゴニストの設計は可能である。
【0036】
OXMのアミノ酸配列はHSQGTFTSDYSKYLDSRRAQDFVQWLMNTKRNRNNIA(配列番号3)で、GCの原配列(1~29)及びプログルカゴンのアミノ酸配列82~89に対応するインサートペプチド-1(IP-1、30~37)を含む。OXMがGC/GLP-1Rに二重の作動活性があることから、GC配列のC末端配列の調整がGC/GLP-1Rの力価のバランスを実現するために役立つと示唆される。中国特許出願第CN200980132562.9号、第CN201080027026.5号、第CN201680062196.4号などの公開特許技術文献は、GCの原配列(1~29)の変異体に対して、エキセンディン-4のC末端の10アミノ酸ペプチド(GPSSGAPPPS、Cexと略す)の配列でC末端を伸長させたものである。中国特許出願第CN201680036771.3号はOXM配列のC末端のインサートペプチドセグメント(KRNRNNIA)をペプチドセグメントGGPSSGに置き換えるという設計である。これらの従来技術ではいずれもGC完全長配列(1~29)を保持させつつ複数の部位突然変異を加え、そして異なるペプチドセグメントで伸長させるという設計である。
【0037】
GC配列に基づくポリペプチドのC末端変化はGC/GLP-1受容体の認識に、特にGC受容体の活性に高度に敏感である。したがって、GC配列のC末端の保持がGC受容体の作動活性の保持に特に重要であるということは一般的に受け入れられている。従来技術は一般にGC完全長配列(1~29)を保持させつつ個別の部位突然変異を加えたもので、当該分野で周知された合理的な置換規則が適用される。例えば、21位のAspをGluに置き換え、24位のGlnを保持させ又はGluに置き換え、C末端の27~29位のフラグメントにおける敏感なアミノ酸、例えば27位のMetをLeuに、28位のAsnをGlu又はAlaに置き換える。本発明者が研究したところ、これらの保存的な方法を用いた上で、C末端を伸長させ脂肪アシル化修飾を行っても、力価にバランスがとれたGC/GLP-1受容体に対する二重の受容体アゴニストを得ることが予想しにくい、ということが判明した。また、これらの手段がポリペプチドの疎水性の改善につながらず、特に長鎖脂肪アシル化修飾を入れる場合、合成の難度が減らせないだけでなく、コストが増え、最終の生成物の溶解性が悪いため、製剤の実施可能性に影響がある。
【0038】
本発明に係る技術的解決手段は従来と違い、ポリペプチド主鎖の設計においてはGC配列の1~26位のペプチドセグメントだけが保持され、個別の部位に合理的な変異を加えた上でC末端を適切に伸長させ、後に脂肪アシル化修飾を行って、活性対力価比のバランスがとれた、溶解性及び安定性がともに優れたGC/GLP-1受容体に対する二重の受容体アゴニストを得た。
【0039】
本発明のいくつかの特定の実施形態では、GC(1~26)配列の16~20位に合理的な置換を行い、例えば、16位のSerをGluに、18位のArgをAla又はLysに、20位のGlnをLysに置き換えており、本分野ではこれらがGLP-1受容体の選択性向上に役立つ設計処置として周知されている。また、いくつかの特定の実施形態では、該当するペプチドセグメントの電荷分布を調整するために24位のGlnがGluに置き換えられる。これまでに公開された技術的解決手段では、一般的にGC配列の27位のMetを中性電荷又は正電荷のアミノ酸、例えばLeuやLysで置換するが、本発明の好ましい技術的解決手段に係るポリペプチド配列の対応する部位はGlu残基で、その上Alaを挿入、あるいは直接親水性アミノ酸残基を含むペプチドセグメント(GGPSSG)でC末端を伸長して主鎖配列を得る。例えば、実施例1の化合物1、2、化合物4~7、化合物10~15、化合物21、22、化合物27~39及び化合物41~81の主鎖配列である。
【0040】
脂肪アシル化修飾は本技術分野で周知されたポリペプチドの長時間作用化技術である。本発明の実施形態では、活性ペプチド配列の特定の部位のLys側鎖に親水性スペーサーを介して脂肪アシル基が修飾されている。いくつかの実施形態では、前記リシン残基は10位に位置し、いくつかの実施形態では、修飾部位は20位である。修飾後のポリペプチドの溶解性の改善及びポリペプチド構造の柔軟性保持のため、親水性スペーサーでポリペプチドと脂肪アシル化修飾基を接続させる必要がある。本発明のいくつかの実施形態では前記親水性スペーサーは-γ-Glu-γ-Glu-で、いくつかの実施形態では-γ-Glu-Ado-Ado-γ-Gluで、またいくつかの実施形態では-Ado-Ado-γ-Gluである。前記脂肪アシル基はC16~20のモノ脂肪酸又は脂肪族ジカルボン酸であることが好ましい。いくつかの実施形態において、前記脂肪アシル基はC16又はC18のアシル基で、いくつかの特定の実施形態ではC18、C20のジカルボン酸モノエステルアシル基である。
【0041】
一般に、相同性を保持させるためには天然配列をなるべく変えない方が有利であるが、内因性プログルカゴン配列は製薬上、次のいくつかの難点がある。N末端のジペプチドが体内のジペプチドキニンにより識別され、加水分解で不活性となるため、血中濃度半減期が12分間以下に短縮される。物理的特性が不安定で、等電点(pI)7.6の中性であり、しかも疎水性と溶解性が悪いため、溶液で凝集して沈殿しやすい。配列にMet、Asp、Asnなどの酸化又はラセミ化されやすいアミノ酸があるため、化学的性質が不安定となる。
【0042】
本発明の好ましい実施形態において、前記ポリペプチドの代謝安定性を高めるために、2位のSerを一般にAib又はD-Serに置換して、ポリペプチドの活性の持続的な発揮を保証した。また本発明の好ましい実施形態では、さらにGC配列中の敏感なアミノ酸が置換された。例えば15位、21位のAspがGluに置き換えられ、調整後のC末端のペプチドセグメントにMet、Gln、Asnなどの敏感なアミノ酸残基が含まれないため、化学的安定性が大幅に向上される。前記の調整及び改良手段は活性のバランス、物理的及び化学的特性の改善に複数の有益な効果をもたらしており、従来技術より優れた効果が得られる。
【0043】
本発明で提供されるGLP-1/グルカゴンに二重の作動効果を有するペプチドは、本発明に記載の構造設計により、活性的に以下の特徴が得られる。本発明に係るポリペプチドはGLP-1/GCGRの各受容体の天然リガンドと比べて少なくとも1%の受容体作動活性を有する。複数の構造の最適化設計により、GLP-1受容体に対する作動作用強度が内因性天然リガンドGLP-1(7~36/37)と同等、又は天然リガンドの150%、200%、300%、500%もしくは1000%以上になる。グルカゴン受容体に対する作動活性は内因性リガンド(GC)と同等、又は内因性アゴニストの作用強度の10~1000%に相当する。いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドは内因性リガンドと同等で又はより高い受容体作動活性を有する。またいくつかの実施形態では、グルカゴン受容体よりもGLP-1受容体に対する作動作用が強く、又は両方の受容体に対する作動作用の強度が等しい。GLP-1とグルカゴン受容体に対する活性強度は力価比で示されてもよく、即ち本発明に係る一般式Iの配列を含むポリペプチドのGLP-1/グルカゴン受容体に対する力価比は10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、3:1又は1:1~1:10であるが、これらに限定されるのではない。
【0044】
本発明に係る一般式Iの構造を有するポリペプチド誘導体の基本的なペプチド鎖は本分野で周知された方法で得られる。
1)従来の固相法又は液相法によって段階的又は断片組み立により合成できる。
2)宿主細胞においてポリペプチドをコードする核酸構築物を発現させ、宿主細胞の培養物から発現産物を回収する。
3)ポリペプチドをコードする核酸構築物の無細胞インビトロ発現に影響を与え、発現産物を回収する。
あるいは、方法1)、2)又は3)の任意の組み合わせでペプチドフラグメントを得、その後、これらのフラグメントを接続させて目的ペプチドを得る。
【0045】
本発明に係る実施形態で、Fmoc固相合成方法を用いて目的ペプチドを合成することが好ましく、当該技術は当業者に周知されている。
【0046】
置換基は前記ペプチド合成ステップで段階的に導入されてもよい。適切な保護置換基、例えば、Fmoc-8-アミノ-3,6ジオキサオクタン酸、又はFmoc-γ-Glu-OtBuを用いる。脂肪鎖部分の導入で、特に脂肪族ジカルボン酸モノエステルアシル基の導入は、非限定的に、例えばC18、C20アルカン酸モノ-t-ブチルエステルで実現してもよい。各カップリングステップ後に、過剰の無水酢酸とピリジンで未反応の中間体をブロックさせてもよい。修飾可能なLysのε-アミノ基はMtt又はDdeで保護してもよい。
【0047】
精製:抱合反応後に、本分野で周知された適切な方法で目的生成物を分離してもよい。適切な方法は限外濾過、透析、クロマトグラフィーなどを含むが、これらに限定されるのではない。本発明の実施形態では、分取高速液体クロマトグラフィーで精製することが好ましい。
【0048】
受容体活性測定:本発明の実施形態ではGLP-1/GC受容体に媒介されるインビトロcAMP発生に対する影響によって、GLP-1/GC受容体に対する前記ポリペプチドの作用を評価する。
【0049】
体重及び血糖に対する調節効果:本発明の実施形態では高脂肪食肥満型糖尿病マウス(DIO)モデルを用いて本発明のポリペプチドの体重及び血糖に対する影響を評価した。その結果、本発明に係るポリペプチド誘導体は有意な体重減少と血糖降下の効果を示し、体重減少効果が陽性対照薬より有意に優れていることから、肥満などの代謝性疾患の緩和と糖尿病の治療薬開発で潜在的な利点があることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1図1は実施例3の化合物1、4、6、22のDIOマウスの体重に対する影響で、図中のサンプル番号1~4番はそれぞれ化合物1、化合物4、化合物6及び化合物22である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
次に、具体的な実施例を用いて本発明を一層説明する。これらの実施例は本発明を解釈するためのものに過ぎず、何らかの形で本発明の内容を限定するものではない。
【0052】
アミノ酸略号:
Gly:グリシン(G)
Ala:アラニン(A)
Val:バリン(V)
Leu:ロイシン(L)
Phe:フェニルアラニン(F)
Trp:トリプトファン(W)
Ser:セリン(S)
Thr:トレオニン(T)
Glu:グルタミン酸(E)
Gln:グルタミン(Q)
Asp:アスパラギン酸(D)
Asn:アスパラギン(N)
Tyr:チロシン(Y)
Arg:アルギニン(R)
Lys:リシン(K)
His:ヒスチジン(H)
Aib:α-アミノイソブタン酸
Ado:8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸
【0053】
試薬略号:
Boc:t-ブトキシカルボニル基
Tert-Bu:t-ブチル基
DCM:ジクロロメタン
DIC:ジイソプロピルカルボジイミド
Fmoc:9-フルオレニルメトキシカルボニル基
HoBt:1-ヒドロキシベンゾトリアゾール
HBTU:2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチル-ウロニウムヘキサフルオロホスファート
HATU:O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチル-ウロニウムヘキサフルオロホスファート
Mtt:4-メチルトリチル基
NMP:N-メチルピロリドン
DMF:ジメチルホルムアミド
Pbf:2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロベンゾフラン
Dde:1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキシリデン)-3-メチル-ブチル
Trt:トリフェニルメチル基
EDT:エタンジチオール
TFA:トリフルオロ酢酸
TIS:トリイソプロピルシラン
FBS:ウシ胎児血清
【0054】
実施例1:
本発明に係るポリペプチドの基本的な線形配列及び側鎖修飾誘導ペプチドは次の一般的な方法で合成する。
1)合成:Fmocストラテジーを用い、PSI200型ポリペプチドシンセサイザーで次のステップで段階的に合成した。
a)活性化試薬系の存在下で樹脂固相担体とFmocによって保護されたC末端アミノ酸をカップリングさせてFmoc-アミノ酸-樹脂を得た。C末端アミド化ポリペプチドの合成にはアミノ樹脂、例えば、Rink Amide AM、Rink Amide、Rink MBHAなどを用いた。Fmoc-アミノ酸と樹脂の比(mol/mol)は3~5:1で、HOBT/DIC又はHOBT/HBTU/DIEAをカップリング活性化試薬とした。
【0055】
b)ペプチド鎖の伸長:固相合成によりペプチド配列のアミノ酸の順番でアミノ酸を接続させて、N末端で側鎖保護を備えるペプチド-樹脂コンジュゲートを得た。側鎖を有するアミノ酸は次の方法で保護した。トリプトファンはBocで、グルタミン酸はOtBuで、リシンはBocで、グルタミンはTrtで、チロシンはtBuで、セリンはTrt又はtBuで、アスパラギン酸はOtBuで、トレオニンはtBuで、システインはTrtで、アルギニンはPbfで保護し、ヒスチジン(Trt)のα-アミノ基はBocで保護し、修飾可能なリシンのε-アミノ基はDdeで保護した。カップリング活性化試薬としてHOBT/DIC、HOBT/HBTU/DIEA及びHOBT/HATU/DIEAを使用し、ニンヒドリン反応で反応終了を検出し、脱保護剤はピペリジンを20%含むNMP(DMF)溶液である。
【0056】
c)リシンのε-アミノ基の脱保護:
前記ステップで合成した完全保護したポリペプチド-樹脂をNMP-DCM(1:1v/v)で3回洗浄し、新たに調製した2.0%ヒドラジン一水和物のNMP溶液を加え、室温下で12分間攪拌し、濾過し、2回繰り返し、樹脂をDCM、NMPでそれぞれ3回洗浄した。
【0057】
d)リシン側鎖の修飾:
リシンのε-アミノ基の脱保護を完了した後、樹脂:接続基1:4~5(mol/mol)の比率でFmoc-Ado又はFmoc-γ-Glu(tBu)及びHOBt/HBTU、DIEAを加え、攪拌しながら2~4時間反応させ、Fmoc保護を除去し、同じ方法で引き続き連結アームと脂肪アシル基を接続させて所定の鎖長にした。2回繰り返しても完全に反応できない場合、過剰の無水酢酸/ピリジンを加えてブロックさせ、次のステップの反応を行った。
【0058】
e)ポリペプチドの開裂:完全に保護されたペプチド-樹脂をNMPで洗浄し、次にDCMで3~6回洗浄してNMPを除去し、TFA/EDT/TIS/H2O(92.5:2.5:2.5:2.5v/v)溶液を添加して、室温で、窒素の保護下で90分間攪拌して脱保護と脱樹脂を行った。吸引濾過して濾液を得、過剰の氷ジエチルエーテルで沈殿させてポリペプチド粗品を得、遠心分離で沈殿物を収集し、少量のジエチルエーテルで沈殿物を洗浄し、そして真空下で乾燥してポリペプチド粗品を得た。
【0059】
2)精製:ポリペプチド粗品を水又は10~15%アセトニトリル(10~50mg/mL)に溶解し、分取HPLC(C8又はC18カラム、アセトニトリル-水-トリフルオロ酢酸系)により分離及び精製し、濃縮し、凍結乾燥して、ポリペプチド精製品を得た(純度97%以上)。
【0060】
前記方法で次の構造のポリペプチド誘導体を合成した。
【0061】
【表1】


*:γE-γE-OC1631
**:-Ado-Ado-γE-OC1732COOH
***:-Ado-Ado-γE-OC1936COOH
【0062】
実施例2:GLP-1/GC受容体に対する作用
GLP-1/GC受容体に媒介されるインビトロcAMP生成に対する影響により前記ポリペプチドのGLP-1/GC受容体に対する作用を評価した。
【0063】
ヒトGLP-1受容体をトランスフェクトした中国モルモット肺細胞、GC受容体をトランスフェクトしたHEK293細胞を96ウェルマイクロプレートに接種し、(20万個/ウェル)、Hanks’平衡塩バッファーで洗浄した後、200mmol/Lの3-イソブチル-1-メチルアリザリンの存在下で異なる濃度の被験ポリペプチドサンプル(10-5~10-12mol/L)と一緒に37℃で20分間インキュベートした。培地を除去し、細胞を溶解し、分析キットの取扱説明書の測定手順に従ってcAMP値を測定した。ソフトウェアOriginで50%効果濃度(EC50)を算出した。結果は表2に示すとおりである。
【0064】
【表2】
【0065】
表2のインビトロ受容体作動活性結果から分かるように、本発明のアミノ酸配列を持ったポリペプチド誘導体はGLP-1/GC受容体に対する二重の作動活性を有し、同じ条件で、C末端27位から末端の配列がEAGGPSSG又はEGGPSSGであるポリペプチド誘導体、とりわけ前者の方が、他の末端配列を有するポリペプチド誘導体に比べて活性強度及び力価比が優れていた。好ましく選択されたポリペプチド誘導体の力価比が10:1~1:10の範囲にあって、GLP-1/GC受容体に対する良好な二重の作動活性が実現された。
【0066】
実施例3:
実施例1の代表的な化合物1、4、6、22のDIOマウスの体重及び血糖に対する影響
1)体重に対する影響
35匹のC57BL/6Jマウスを用い、モデル群(n=30)はH10060高脂肪食による飲食誘導肥満(DIO)で、ブランク対照群(n=5)は標準食で飼育し、いずれも34週飼育した。初回投与の前日、モデル群は体重に基づいて、1群当たり5匹ずつ、モデル対照群、陽性対照群(セマグルチド)、被験サンプル群(1~4番は化合物1、化合物4、化合物6及び化合物22)にそれぞれランダムに群分けした(平均体重範囲は45.0~52.0g)。ブランク対照群、モデル対照群は毎日生理食塩水を皮下投与し、陽性対照群、被験サンプル群は毎日皮下注射投与で、14日間投与した。毎日動物の体重を秤量及び記録し、最終投与日に開始時体重との比較で体重変化率(%)を算出した。結果は表3及び図1に示すとおりである。
【0067】
計算式:(開始時体重-最終重量)/開始時体重=体重変化率(%)
計算結果が正の値である場合は減少、負の値である場合は増加を表す。
【0068】
【表3】
【0069】
2)グルコース負荷モデル動物に対する血糖降下効果:
DIOマウスを16時間絶食させ、皮下注射で投与し、投与から1時間後にグルコース溶液(1g/kg)を腹腔内投与して糖負荷試験を行い、糖投与後0.5、1、1.5時間にそれぞれ血糖値を測定し、血中糖濃度-時間曲線下面積(AUC)を算出し、モデル対照群との比較で血糖阻害率(%)を算出した。結果は表4に示すとおりである。
【0070】
【表4】
**はモデル対照群との比較でP<0.01であることを、*はモデル対照群との比較でP<0.05であることを表す。
【0071】
結論:表3及び表4に示すように、モデル群と比べて、陽性薬及び本発明の被験化合物は有意な体重減少効果を示し耐糖能を有意に改善できた。本発明の被験化合物は陽性対照薬と同等な血糖降下効果を有するほか、GLP-1受容体アゴニスト(陽性対照薬)単独と比べて、より優れた体重減少作用があることが示唆された。
【0072】
実施例4:
実施例1の化合物27、35、54、57及び66のDIOマウスの体重及び血糖に対する影響
方法は実施例3と同じで、体重に対する影響の試験結果を表5、血糖に対する影響を表6に示す。表中、5~9番はそれぞれ化合物27、化合物35、化合物54、化合物57及び化合物66であった。
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
**はモデル対照群との比較でP<0.01であることを、*はモデル対照群との比較でP<0.05であることを表す。
【0075】
結論:表5、表6に示すように、化合物27、化合物35、化合物54、化合物57及び化合物66投与は治療を受けないモデル対照群と比べて、耐糖能が有意に改善され(P<0.01)、体重が顕著に減少していた。被験化合物投与群はいずれも陽性薬と同等な血糖降下活性を表し、陽性薬より顕著な体重減少効果があることが判明される。
【0076】
実施例5:
実施例1の化合物の短期投与のモデル動物の食物摂取量及び体重に対する影響
方法:飲食誘導肥満マウス(DIO)を用い、平均体重は52.5gで、1群当たり5匹ずつモデル対照群、被験群に分けた。pH7.4の10mMのPBSで被験サンプルを溶解し、30nmol/kgの用量で24時間おきに1回注射し、2回の投与とし、モデル群は溶媒を注射し、48時間の食物摂取量及び体重変化を測定し、投与前日に対する変化率を算出した。結果を表7に示す。
【0077】
【表7】
【0078】
表7の結果が示すように、モデル群と比べ、被験化合物の投与期間で食物摂取量が顕著に低減し、体重が有意に減少していることから、被験化合物の体重減少効果が食物摂取量の低減とある程度関係していることが示される。
【0079】
実施例6:
実施例1の化合物の溶解性に関する研究
2mgの化合物を秤量し、それぞれ、異なる濃度(10、20mM)とpH(7.5、8.0)のリン酸塩バッファー1mLで溶解して、遠心分離し、上清液を採取し、HPLC(カラム:Aeris widepore XB-C18 3.6mm、4.6×150mm、移動相:A:0.05%TFA、B:95%アセトニトリル、検出波長:214nm)でピーク面積を測定し、対応するサンプル標準溶液と比較して被験サンプル溶液の相対濃度を算出した。結果を表8に示す。
【0080】
【表8】
【0081】
結論:表8に示すように、グルカゴンと比べて、本発明の化合物は生理学的に許容されるpH条件下で溶解度が高められており、本発明の好ましい技術的解決手段である短縮GC(1~26)配列の伸長ペプチド誘導体は保存的な原配列の突然変異伸長ペプチド(化合物3、化合物16、化合物25、化合物26)と比べて、溶解性が大幅に改善された。長鎖脂肪アシル化修飾を含んだ化合物でも、生理学的に許容されるpH条件での水溶性が高められたことから、薬物の製剤化に好適になったことが期待される。
【0082】
実施例7:
実施例1の化合物の化学的安定性
加速安定性試験で本発明の化合物の注射溶液系における化学的安定性を評価した。
【0083】
方法:適量の実施例1の化合物を秤量し、10mMのpH8.5のリン酸水素二ナトリウムバッファーで溶解して、0.1Nの塩酸で溶液の最終pHを7.3に調整し、適量のTween80及びフェノールを加え、10、37℃で14日間静置し、HPLC-UVで検出し、ピーク面積の正規化によりメインピーク面積を得、0日に対する変化を得た。結果を表9に示す。
【0084】
HPLC検出は実施例6と同じで、クロマトグラフィーのピーク分離状況に基づいて移動相の勾配を適切に調整した。
【0085】
【表9】
【0086】
結論:表9で示すように、注射製剤の初歩的な配合系で、被験化合物の化学的安定性が製剤学的に許容される範囲にあって、実施の最適化が期待できる。
図1
【配列表】
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