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特許7350852高温性能を備えた押出しコンデンサフィルム、その製造法、およびそれを含む物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】高温性能を備えた押出しコンデンサフィルム、その製造法、およびそれを含む物品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20230919BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20230919BHJP
   C08L 23/20 20060101ALI20230919BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20230919BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20230919BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230919BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/103
C08L23/20
C08L23/06
C08L83/04
C08J5/18 CFD
H01G4/32 511L
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021526260
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 US2019061477
(87)【国際公開番号】W WO2020102531
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2021-07-07
(31)【優先権主張番号】18206355.2
(32)【優先日】2018-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521198963
【氏名又は名称】エスエイチピーピー グローバル テクノロジーズ ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マフッド ジェイムズ アラン
(72)【発明者】
【氏名】ニーマイヤー マシュー フランク
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-117298(JP,A)
【文献】国際公開第2017/198808(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/196922(WO,A1)
【文献】特表2019-521203(JP,A)
【文献】特開2018-009160(JP,A)
【文献】特表2016-536418(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0060403(US,A1)
【文献】特開2015-178545(JP,A)
【文献】国際公開第2013/183521(WO,A1)
【文献】特表2019-516837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08K 5/103
C08L 23/20
C08L 23/06
C08L 83/04
C08J 5/18
H01G 4/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、前記組成物が、
65.0~99.85質量%の高温(high heat)コポリカーボネートと、
0.1~15.0質量%の有機スリップ剤と、
0.05~0.5質量%の粗面化剤(roughening agent)と、
を含み、
前記高温コポリカーボネートが、
低温(low heat)モノマーから誘導した低温ビスフェノール基と、
高温ビスフェノールモノマーから誘導した高温ビスフェノール基と、
を含み、
前記低温モノマーは、そのホモポリカーボネートが、ASTM E1640-13に従った昇温速度1℃/分での測定で、155℃未満のTgを持ち、
前記高温ビスフェノールモノマーは、そのホモポリカーボネートが、ASTM E1640-13に従った昇温速度1℃/分での測定で、155℃以上のTgを持ち、
前記高温コポリカーボネートは、ASTME1640-13に従った昇温速度1℃/分での測定で、170~250°のTgを持ち、
更に、前記高温コポリカーボネートの、水素、酸素、およびフッ素原子の合計に対する炭素原子の数比が1.12未満、望ましくは0.83から1.12未満であり、
前記有機スリップ剤が、ポリ(カーボネート-シロキサン)を含み、
前記粗面化剤が微粒子状架橋シリコーンを含み、
それぞれの前記の量が前記組成物の全質量に対してであって、その合計が100質量%であり、
前記高温ビスフェノールモノマーは、N-フェニルフェノールフタレイニルビスフェノール及び3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンビスフェノールのうちの少なくともいずれか一方を含み、前記低温モノマーはビスフェノールAを含み、
前記高温コポリカーボネートに占める前記高温ビスフェノールモノマーの量は32モル%~57モル%の範囲であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であって、前記粗面化剤が、走査型電子顕微鏡による測定で、0.5~2.5μmの平均粒径を持つポリメチルシルセスキオキサンを含むことを特徴とする組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組成物であって、前記高温コポリカーボネートが、ASTM E1640-13に従った昇温速度1℃/分での測定で、175℃~240℃、180℃~240℃、または190℃~240℃のガラス転移温度を持つことを特徴とする組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物であって、前記高温コポリカーボネートが、N-フェニルフェノールフタレイニルビスフェノール-ビスフェノールAコポリカーボネート、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンビスフェノール-ビスフェノールAコポリカーボネート、またはこれらの組み合わせであることを特徴とする組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物であって、前記有機スリップ剤が、3.0~10質量%の前記ポリ(カーボネート-シロキサン)を含み、さらに、0.1~1質量%の四ステアリン酸ペンタエリトリトールを含む、
ことを特徴とする組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物であって、前記組成物が、
65.0~96.85質量%の高温コポリカーボネートと、
0.1~1質量%の四ステアリン酸ペンタエリトリトールと、
3.0~10質量%のポリ(カーボネート-シロキサン)と、
0.05~0.5質量%の微粒子状ポリメチルシルセスキオキサン粗面化剤と、
を含み、
前記高温コポリカーボネートが、N-フェニルフェノールフタレイニルビスフェノール-ビスフェノールAコポリカーボネート、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンビスフェノール-ビスフェノールAコポリカーボネート、またはこれらの組み合わせを含み、
前記微粒子状ポリメチルシルセスキオキサン粗面化剤が、走査型電子顕微鏡による測定で、0.5~2.5μmの平均粒径を持ち、
それぞれの前記の量が前記組成物の全質量に対してであって、その合計が100質量%であることを特徴とする組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物を含むことを特徴とする押出しフィルム。
【請求項8】
請求項7に記載の押出しフィルムであって、前記フィルムが、
ASTM E1640-13に従った測定で、170~250℃のガラス転移温度と、
300V/μmで0~10の Bosch試験クリアリングカウントと、
2.5よりも大きい比誘電率と、
1.0%未満の散逸率と、
の少なくとも1つの特性、望ましくは全ての特性を備えていることを特徴とする押出しフィルム。
【請求項9】
コンデンサであって、前記コンデンサが、
請求項7又は8に記載の押出しフィルムと、
前記フィルムと接している導電性金属層と、
を含み、
望ましくは、前記導電層が、2.0~125.0Ω/(Ω per square)の表面抵抗率を持つことを特徴とするコンデンサ。
【請求項10】
請求項9に記載のコンデンサを含むことを特徴とする電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2018年11月18日出願の欧州特許第18206355.2号に対する優先権およびその利益を主張するものであり、その内容は全て本件に引用して援用する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、押出しコンデンサフィルムと、また特に、この押出しポリマーフィルムを含むコンデンサと、このフィルムおよびコンデンサの製造法とに関する。
【0003】
高い体積エネルギー密度、高い作動温度、および長い寿命を備えた静電フィルムコンデンサは、パルス電力、自動車、および産業電子工学における重要な要素である。基本的にコンデンサは、電気絶縁性(誘電体)フィルムの薄い層で隔てられた2枚の平行した導電板を備えたエネルギー貯蔵デバイスである。導電板に電圧をかけると、誘電体内の電界により電荷が移動してエネルギーが貯蔵される。コンデンサに貯蔵されるエネルギーの量は、フィルムの形成に使用する絶縁材料の誘電率および破壊電圧と、フィルムの大きさ(総面積および厚さ)によって決まる。コンデンサに蓄積できるエネルギーの総量を大きくするには、フィルムの誘電率と破壊電圧を大きく、フィルムの厚さを小さくする。コンデンサ内の誘電材料の物理的特性はコンデンサの性能を決める主な要因であるため、コンデンサ内の誘電材料の物理的特性の1つ以上を改善するとコンデンサコンポーネントの対応する性能を改善することができ、一般に、それを組み込んだ電子装置または製品の性能と寿命の向上につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/196922号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高温用途用に設計したコンデンサは、高温ポリマー(本願で言うところの、170℃以上のガラス転移温度(Tg)を持つポリマーを含む)の薄膜から作ることができる。多くの高温ポリマーは、室温において好ましくない絶縁破壊強さを持ち、その絶縁破壊強さはポリマーが加熱されるにつれて低下する。更に、押出しによる、このようなポリマーの高品質な薄膜の製造は、当該技術において長年求められてきた。押出しは効率的な工程と考えられるが、フィルムが非常に薄いため、その製造、取扱い、および輸送は非常に困難である。
【0006】
従って、高温コンデンサフィルムとその製造法、即ち、高温用途で使用するための、優れた電気的特性、特に、高い絶縁破壊強さを備えたフィルムを製造できる製造法が求められている。このようなフィルムを工業規模で押出しにより製造できるならば、更に有益と考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本件に開示の組成物は、65.0~99.85質量%の高温(high heat)コポリカーボネートと、0.05~0.5質量%の第1の粗面化剤(roughening agent)と、0.1~15.0質量%の有機スリップ剤とを含み、高温コポリカーボネートは、低温(low heat)モノマーから誘導した低温ビスフェノール基と、高温ビスフェノールモノマーから誘導した高温ビスフェノール基とを含み、低温モノマーは、そのホモポリカーボネートが、ASTM E1640-13に従った昇温速度1℃/分での測定で、155℃未満のTgを持ち、高温ビスフェノールモノマーは、少なくとも、そのホモポリカーボネートが、ASTM E1640-13に従った昇温速度1℃/分での測定で、155℃以上のTgを持ち、更に、高温コポリカーボネートの、水素、酸素、およびフッ素原子の合計に対する炭素原子の数比は1.12未満、望ましくは0.83から1.12未満であり、有機スリップ剤は、四ステアリン酸ペンタエリトリトール、六ステアリン酸ジペンタエリトリトール、三ステアリン酸グリセロール、高密度ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリ(カーボネート-シロキサン)、またはこれらの組み合わせを含み、それぞれの量は組成物の全質量に対してであって、その合計は100質量%である。
【0008】
別の態様では、前記組成物を含む押出しフィルムを開示する。詳細には、前記組成物を用いて押出しコンデンサフィルムを製造することができる。
【0009】
上記の押出しフィルムを含むコンデンサを開示する。
【0010】
更に、前記押出しフィルムを含む電子デバイスを開示する。
【0011】
上記およびその他の特徴の例は、後述の詳細な記述に示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ASTM D1894で求めた測定静的COF(y軸)に対する滑り性ランク(slip rank)(x軸)を示すグラフである。
図2】測定Ra-I(y軸)に対する滑り性ランク(x軸)を示すグラフである。
図3】測定Rz-I(y軸)に対する滑り性ランク(x軸)を示すグラフである。
図4】300V/umでのクリアリングカウント(y軸)とRa-I(x軸)との関係を示すグラフである。
図5】300V/umでのクリアリングカウント(y軸)とRz-I(x軸)との関係を示すグラフである。
図6】300V/umでのクリアリングカウント(y軸)と滑り性ランク(rating)(x軸)との関係を示すグラフである。
図7】電圧/μmの関数としてクリアリングカウントの累積数を示すグラフである。
図8】大面積電極の、電圧/μmに対するクリアリングの累積数を示すグラフである。
図9】電気的クリアリングカウント試験装置の構造を示す図である。
図10】Bosch試験装置の試験ローラ構造を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の発明者は、押出しによる極めて薄い高温コンデンサフィルムの製造を可能とする組成物を発見した。このフィルム形成組成物は、水素、酸素、およびフッ素原子の合計に対して特定の炭素原子数比を持つ高温ポリカーボネートと、スリップ剤と、粗面化剤とを特定の量で含むものである。良好な流動性、機械的強さ、電気的特性、および摩擦特性を有利に併せ持つよう、各成分とその量を調整する。押出しによるコンデンサフィルムの製造に使用可能な配合物において、これらの特性を併せ持つことは著しく困難であった。発明者は、押出し、マスターロールへの巻取り、金属化、スリッティング、および最終的に乾式(dry)巻回型コンデンサへ巻取る工程の際に、フィルムの滑りを良く、扱い易くすると同時に、巻回型コンデンサの体積効率とフィルムの絶縁破壊強さ(breakdown strength)が最大となるようフィルムの表面粗さを最適化することが重要であると気付いたため、摩擦特性に特に着目した。
【0014】
この高温フィルムは、軟化または溶融することなく140~150℃の温度に容易に耐えられるため、外部冷却の必要性を低減し、またはそれを除くこともでき、車両重量を減らすことができる。機械的には、このフィルムは、低い摩擦係数(<0.6)と適度な引裂き抵抗(>70MPa)を持つことができ、非常に薄い(厚さ10μm未満)フィルムの製造および取扱いが可能で、高い作動温度でも安定である。電気的には、このフィルムは、高い絶縁破壊強さ(300V/ミクロンよりも大きい)、高い誘電率(2.5よりも大きい)、低い散逸率(1%未満)、および良好な自己クリアリング(self-clearing)を持つことができる。
【0015】
このフィルムは特に自動車産業において有用であり、そこでは特に、ボンネット下の環境中140~150℃で、またはその付近の周囲温度で作動可能な、高温乾式フィルムコンデンサが必要とされる。車両寿命の間、高温において電気容量、誘電体絶縁抵抗、および定格電圧を維持できる高温コンデンサは、付属の冷却コンポーネントを少なく、または除くことができ、更に、システムの複雑さとシステム自重(system vehicle weight)の両方を減らすことができる。高温コンデンサは設計の柔軟性を高め、重要なコンポーネントの近くにコンデンサを配置し、より効率的にパッケージすることができる。
【0016】
先に述べたように、押出しによる極めて薄い高温コンデンサフィルムの製造に使用可能な組成物は、高温コポリカーボネートと、少なくとも第1の粗面化剤と、スリップ剤とを含んでいる。
【0017】
文中で使用している“コポリカーボネート”は、少なくとも2種類の異なるカルボナート基、例えば、2、3、または4種類の異なるカルボナート基を含む。文中で使用している“高温(high heat)コポリカーボネート”は、低温ビスフェノール基と高温ビスフェノール基とを含むコポリカーボネートである。低温ビスフェノール基は、炭素原子が19個未満の低温ビスフェノールモノマーから誘導する。低温ビスフェノールモノマーは、そのモノマーのホモポリカーボネートが155℃未満のTgを持つモノマーである。高温ビスフェノール基は、炭素原子が19個以上の高温ビスフェノールモノマーから誘導する。高温ビスフェノールモノマーは、そのモノマーのホモポリカーボネートが155℃以上のTgを持つモノマーである。望ましくは、低温ビスフェノールモノマーは、そのホモポリカーボネートが150℃未満または145℃未満のTgを持つモノマーであり、高温ビスフェノールモノマーは、そのホモポリカーボネートが160℃以上または165℃以上のTgを持つモノマーである。低温モノマーから生成したホモポリカーボネートは80℃の最低Tgを持つことができる。高温モノマーから生成したホモポリカーボネートは400℃の最高Tgを持つことができる。
【0018】
ある態様において、高温コポリカーボネートは、170~250℃、175℃~240℃、180℃~240℃、または190℃~240℃のTgを持つ。ホモポリカーボネートおよびコポリカーボネートのそれぞれのTgは、ASTM E1640-13に従い、昇温速度1℃/分、周波数1Hzでの、動的機械分析(dynamic mechanical analysis :DMA)によって求めることができる。
【0019】
炭素数の条件について更に詳しく述べるならば、本フィルムで使用する高温コポリカーボネートは、構造式(1)で示される低温ビスフェノールカルボナート単位を含んでいる。
【化1】
式中、RおよびRはそれぞれ独立してC1~6アルキル、C2~6アルケニル、C3~6シクロアルキル、またはC1~3アルコキシであり、pおよびqはそれぞれ独立して0~4であり、Xは、単結合、-O-、-S-、-S(O)-、-S(O)-、-C(O)-、構造式 -C(R)(R)- (式中、RcおよびRはそれぞれ独立して、水素またはC1~3アルキルである)で示されるC1~6アルキリデン、または、構造式 -C(=R)- (式中、Rは二価のC1~5炭化水素基である)で示される基である。X基の例としては、メチレン、エチリデン、ネオペンチリデン、およびイソプロピリデンが挙げられる。それぞれのCアリーレン基の架橋基Xとカルボナート酸素原子は、Cアリーレン基上において互いに、オルト、メタ、またはパラ(望ましくはパラ)位に配置することができる。
【0020】
ある態様において、RおよびRはそれぞれ独立してC1~2アルキル基であり、pおよびqはそれぞれ独立して0~1であり、Xは、単結合、-O-、-S(O)-、-S(O)-、-C(O)-、構造式 -C(R)(R)- (式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素またはC1~3アルキルである)で示されるC1~6アルキリデン、または、構造式 -C(=R)- (式中、Rは二価のC1~5炭化水素基である)で示される基である。
【0021】
ある態様において、RおよびRはそれぞれ独立してメチル基であり、pおよびqはそれぞれ独立して0または1であり、Xは、単結合、または、構造式 -C(R)(R)- (式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素またはメチルである)で示されるC1~6アルキリデンである。
【0022】
ある態様において、pおよびqはそれぞれ1であり、RおよびRはそれぞれC1~3アルキル基、望ましくは、それぞれの環上の酸素に対してメタ位にあるメチルである。ビスフェノールカルボナート単位(1)は、ビスフェノールAから誘導することができ、このとき、pおよびqはいずれも0であり、Xはイソプロピリデンである。
【0023】
低温カルボナート単位(1)は、対応するジヒドロキシ(ビスフェノール)化合物から作ることができる。第1のカルボナート単位(1)の製造に使用できる特定のビスフェノール化合物のいくつかの具体例は、例えば、国際公開第2013/175448A1号、米国特許出願公開第2014/0295363号、および国際公開第2014/072923号に記載されている。少なくとも1つのビスフェノール化合物を含む組み合わせも使用できる。望ましい態様において、低温ビスフェノール化合物は、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(“ビスフェノールA”または“BPA”)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-n-ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-t-ブチルフェニル)プロパン、またはこれらの組み合わせである。ある態様において、低温モノマーはビスフェノールAであり、これにより構造式(1a)で示される低温ビスフェノール基が得られる。
【化2】
【0024】
コポリカーボネート中の高温カルボナート単位は、構造式(2)で示されるものである。
【化3】
式中、RおよびRはそれぞれ独立して、C1~12アルキル、C2~12アルケニル、C3~8シクロアルキル、またはC1~12アルコキシであり、mおよびnはそれぞれ独立して0~4の整数であり、XはC3~8シクロアルキレン、縮合C6~18シクロアルキレン、構造式 -J-G-J- (式中、JおよびJは同じまたは異なるC1~6アルキレン基であり、Gは、C3~12シクロアルキレン、C3~12シクロアルキリデン、またはC6~16アリーレンである)で示される基、構造式 -C(R)(R)- (式中、RおよびRはそれぞれ独立して、水素、C1~24アルキル、C4~12シクロアルキル、C6~12アリール、C7~12アリールアルキレン、C7~12ヘテロアリールアルキレン、C7~12アルキルアリーレン、C1~12ヘテロアルキル、C3~12ヘテロシクロアルキル、またはC7~12ヘテロアリールである)で示されるC12~25アルキリデン、構造式 -C(=R)- (式中、Rは、二価のC7~31炭化水素基、C3~18シクロアルキリデン、縮合C7~18シクロアルキリデン、または縮合C6~18ヘテロシクロアルキリデンである)で示される基である。
【0025】
このような高温ビスフェノール基の例としては、構造式(2a)~(2g)で示される基が挙げられる。
【化4】
式中、RおよびRはそれぞれ独立して、C1~12アルキル、C2~12アルケニル、C3~8シクロアルキル、またはC1~12アルコキシであり、それぞれのRは水素であり、または2つのRでカルボニル基となっており、それぞれのRは独立してC1~6アルキルであり、Rは、水素、C1~6アルキル、または、必要に応じて1~5個のC1~6アルキル基で置換されたフェニルであり、Rは独立して、C1~3アルキルまたはフェニル、望ましくはメチルであり、Xは、C6~12多環アリール、C3~18モノまたはポリシクロアルキレン、C3~18モノまたはポリシクロアルキリデン、-C(R)(R)- (式中、Rは、水素、C1~12アルキル、またはC6~12アリールであり、Rは、C6~10アルキル、C6~8シクロアルキル、またはC6~12アリールである)、または -(Q-G-(Q- (式中、QおよびQはそれぞれ独立してC1~3アルキレンであり、GはC3~10シクロアルキレンであり、xは0または1であり、yは0または1である)であり、j、m、およびnはそれぞれ独立して0~4である。高温ビスフェノール基の組み合わせも使用可能である。
【0026】
ある実施形態において、RおよびRはそれぞれ独立してC1~3アルキルまたはC1~3アルコキシであり、それぞれのRはメチルであり、それぞれのRは独立してC1~3アルキルであり、Rはメチルまたはフェニルであり、それぞれのRは独立してC1~3アルキルまたはフェニル、望ましくはメチルであり、Xは、C6~12多環アリール、C3~18モノまたはポリシクロアルキレン、C3~18モノまたはポリシクロアルキリデン、-C(R)(R)- (式中、Rは、水素、C1~12アルキル、またはC6~12アリールであり、Rは、C6~10アルキル、C6~8シクロアルキル、またはC6~12アリールである)、または -(Q-G-(Q-基 (式中、QおよびQはそれぞれ独立してC1~3アルキレンであり、GはC3~10シクロアルキレンであり、xは0または1であり、yは0または1である)であり、j、m、およびnはそれぞれ独立して0または1である。
【0027】
高温ビスフェノール基の例としては、構造式(2h)~(2s)で示されるものが挙げられる。
【化5】
式中、RおよびRは構造式(2h)~(2s)で定義したものと同じであり、それぞれのRは独立して水素またはC1~4アルキルであり、mおよびnはそれぞれ独立して0~4であり、それぞれのRは独立してC1~4アルキルまたは水素であり、RはC1~6アルキル、または、必要に応じて1~5個のC1~6アルキル基で置換されたフェニルであり、gは0~10である。望ましい態様において、二価基のそれぞれの結合は、連鎖基、つまりXに対してパラ位にある。別の望ましい態様において、RおよびRはそれぞれ独立してC1~3アルキルまたはC1~3アルコキシであり、それぞれのRはメチルであり、xは0または1であり、yは1であり、mおよびnはそれぞれ独立して0または1である。
【0028】
再度、炭素数の条件についてより詳しく述べるならば、高温ビスフェノール基は、望ましくは構造式(2t)で示されるものである。
【化6】
式中、Rはメチルまたはフェニルである。望ましくは、高温ビスフェノール基は、2-フェニル-3,3’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フタルイミジン(PPPBP)または1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(BP-TMC、ビスフェノールイソホロン(BPI)としても知られる)から誘導する。
【化7】
【0029】
望ましい態様において、高温コポリカーボネートは、N-フェニルフェノールフタレイニルビスフェノール-ビスフェノールAコポリカーボネート、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンビスフェノール-ビスフェノールAコポリカーボネート、またはこれらの組み合わせとすることができる。
【0030】
低温カルボナート単位(1)と高温カルボナート単位(2)との相対モル比は、後でより詳しく論じる炭素数パラメータに、このコポリカーボネートが合致するという条件で、Tg、加水分解安定性、衝撃強さ、延性、流動性(flow)、誘電特性、その他考慮すべき事項など、コポリカーボネートに望まれる特性に応じて、99:1~1:99に変えることができる。例えば、低温カルボナート単位(l):高温カルボナート単位(2)のモル比は、90:10~10:90、80:20~20:80、70:30~30:70、または60:40~40:60とすることができる。詳細な態様において、コポリカーボネートは、60~80モルパーセント(mol%)の低温カルボナート単位(1)と、20~40mol%の高温カルボナート単位(2)とを含み、または25~65mol%の低温カルボナート単位(1)と、45~75mol%の高温カルボナート単位(2)とを含む。ある態様において、コポリカーボネートはPPPBP-BPAまたはBPI-BPA、望ましくはPPP-BPAであって、低温カルボナート単位(1)と高温カルボナート単位(2)のモル比は99:1~50:50または80:20~45:55とすることができる。ある態様において、コポリカーボネートは、35~55mol%の低温カルボナート単位(1)と、45~65mol%の高温カルボナート単位(2)とを含む。別の態様において、コポリカーボネートはBPAまたはBPI-BPA、望ましくはBPI-BPであって、低温カルボナート単位(1)と高温カルボナート単位(2)のモル比は20:80~60:40または30:70~50:50とすることができる。ある態様において、コポリカーボネートは、35~65mol%の低温カルボナート単位(1)と、55~65mol%の高温カルボナート単位(2)とを含む。
【0031】
コポリカーボネート中に別のカルボナート単位、例えば、ポリ(カーボネート-シロキサン)に関連して後に述べるような、また、例えば、米国特許第8114929B2号に記載されているような、ポリジメチルシロキサンブロックなどのポリシロキサンブロックを含むカルボナート基が存在していても良い。ポリシロキサンブロックを含むカルボナート単位の存在量は、コポリカーボネート中の単位の全モル数に対して、1~25mol%とすることができる。更に別のカルボナート単位が、相対的に少量で、例えば、コポリカーボネート中の単位の全モル数に対して10mol%未満、5mol%未満、または1mol%未満の量で存在していても良い。更に別の実施形態において、コポリカーボネートには別の種類の繰り返し単位は存在しない。ある実施形態において、他のカルボナート単位は存在しない。
【0032】
コポリカーボネートの製造法は知られており、例えば、界面重合や溶融重合などの工程を含む。ポリカーボネートの末端基は、その末端基がフィルム形成組成物の望ましい特性に著しく悪影響を及ぼさない限り、全ての種類が使用できると考えられる。重合の際に分岐剤を加えると、分枝ポリカーボネートブロックが調製できる。コポリカーボネートの製造法、末端基、分岐剤は、例えば、国際公開第2013/175448A1号、米国特許出願公開第2014/0295363号、および国際公開第2014/072923号に記載されている。
【0033】
高温コポリカーボネートは、1万~20万ドルトン(Da)、2万~10万Da、5,000~10万Da、より望ましくは1万~65,000Da、または15,000~35,000Daの質量平均分子量を持つことができる。これらの値は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、架橋スチレン-ジビニルベンゼンカラムを使用し、ビスフェノールAホモポリカーボネート標準で較正を行って測定したものである。GPC試料は、濃度1mg/mlに調製し、流速1.5ml/分で溶出する。流動性の異なるコポリカーボネートを組み合わせて用いることで、全体的に望ましい流動性とすることができる。本発明の発明者は、他の望ましい機械的および電気的特性と共に、適度な自己クリアリングを達成するには、高温コポリカーボネートの、水素、酸素、およびフッ素原子の合計に対する炭素原子の数比が1.12未満、望ましくは0.83から1.12未満であると良いことを発見した。自己クリアリングは、電圧下での絶縁破壊によって瞬間的短絡が起きた故障領域を消去する、コンデンサの性能である。理論によって束縛されるものではないが、良好な自己クリアリング性能を持つフィルムは、故障領域周囲の電極を蒸発させる、または“焼き払う(burn off)”(“一次クリアリング”)のに十分な表面酸素含量を持つと考えられる。例えば、蒸発した電極と、短絡で生じた誘電体の副生成物は、一酸化炭素および二酸化炭素ガスを生じることがある。適切な自己クリアリング性能を持たない組成物は炭素堆積物(“チャー”)を生じる。この炭素堆積物は導電性で、誘電材料を通る漏れ径路となって、二次クリアリングやコンデンサの壊滅的な故障を引き起こすことがある。自己クリアリングは、少なくともその一部が、材料特性と、コンデンサ設計および構造仕様の両方によって決まるため、定量の難しい性能属性である。しかし、チャーが溜まりにくい材料、例えば、N下、熱重量分析(thermogravimetric analysis:TGA)で求めたチャー生成量が15%未満の材料は、自己クリアリングが良好であることが認められている。水素、酸素、およびフッ素原子の合計に対する炭素原子の数比が1.54であると、適度な自己クリアリングが得られる。水素、酸素、およびフッ素原子の合計に対する炭素原子の数比が0.5である(例えば、BOPPのように)と、適度な自己クリアリングとなるが、先に述べたように、その材料のTgは高温用途には低すぎてしまう。有益なことに、高温コポリカーボネートの、水素、酸素、およびフッ素原子の合計に対する炭素原子の数比が1.11未満、1.07未満、0.832~1.11、または0.855~1.07であると、適度な自己クリアリング性と高温用途に適したTgとを備えたフィルムが得られることが分かった。
【0034】
組成物中の高温コポリカーボネートの量は、組成物の全質量に対して65.0~99.85質量%に変えることができる。この範囲内で、その量は、使用する特定の高温コポリカーボネート、粗面化剤、およびスリップ剤、また、先に述べたようなフィルムの望ましい特性に応じて変わる。例えば、組成物の全質量に対して、75.0~99.0質量%、85.0~98.0質量%、または90~96質量%の高温コポリカーボネートを用いると、良好な取扱い性が達成できる。
【0035】
前述の高温コポリカーボネートに加えて、フィルムには、高温コポリカーボネート以外の追加のポリカーボネートを必要に応じて更に加えることができる。追加ポリカーボネートを用いてフィルム形成組成物の流動性を調節することができる。追加ポリカーボネートは、構造式(1)で示されるカルボナート単位を含むことができる。追加ポリカーボネートは、ホモポリカーボネートでもコポリカーボネートでも良い。望ましい態様において、追加ポリカーボネートはホモポリマー、特にビスフェノールAホモポリマーである。追加ポリカーボネートは、クロロホルム中、25℃での測定で、0.3~1.5dl/gm、望ましくは0.45~1.0dl/gmの固有粘度を持つことができる。追加ポリカーボネートは、前述のGPCによる測定で、1万~35万Da、19,000~21,000Da、または30万~32万DaのMwを持つことができる。流動性の異なる追加ポリカーボネートの組み合わせを用いて全体的に望ましい流動性を達成しても良い。使用する場合、追加ポリカーボネートの存在量は、組成物の全質量に対して、例えば、1~50質量%、1~35質量%、5~50質量%、5~35質量%、1~25質量%、または5~25質量%とすることができる。追加のポリカーボネート、望ましくはビスフェノールAホモポリマーの存在量は、組成物の全質量に対して0.5~35質量%とすることができる。
【0036】
一部の態様では、1つ以上の高温コポリカーボネート以外のポリカーボネートは存在しない。具体的には、ビスフェノールAポリカーボネートなどの追加の低温ポリカーボネートは存在しない。低温ポリカーボネートを何も加えないと、熱老化など、1つ以上の特性を改善できると考えられる。
【0037】
重要な特徴として、本フィルムは更に、有機スリップ剤と粗面化剤を組み合わせて含んでいる。驚くことに、有機スリップ剤と粗面化剤の2つを組み合わせると、取扱い性と誘電特性の組み合わせが最も良いフィルムが得られることが分かった。先に述べたように、コンデンサ用の薄い押出しフィルムのフィルム取扱い性は、当該技術において長年の課題であった。薄いフィルムは互いに接着し易いため層を分けておくことが難しく、このフィルムを産業規模で貯蔵および使用することは困難である。更に、付着によってフィルムに皺が生じ、これはコンデンサフィルムの性能に有害である。スリップ剤は、フィルムの表面特性を修正して、フィルム層と他の面との摩擦を小さくすることができる。
【0038】
有機スリップ剤を単独で使用するとフィルムの取扱い性を改善できるが、有機スリップ剤の量が増えると電気的特性が低下することがある。更に、スリップ剤が多すぎると、金属とフィルムとの接着性が悪くなることがある。また、後述の巻回型コンデンサを平板化する場合、過剰のスリップ剤によって巻回型コンデンサのわん状変形(telescoping)が起こることがある。しかし、驚くことに、有機スリップ剤を粗面化剤と併用すると、取扱い性が向上すると同時に良好な誘電特性が維持できることが分かった。文中で使用している“粗面化剤”とは、フィルムの表面に表面粗さ、即ち、物理的テクスチャを与える試剤である。理論によって束縛されるものではないが、表面を粗くすると更に固着防止性が生じて、フィルムが扱い易くなると考えられる。
【0039】
スリップ剤について述べるならば、スリップ剤として作用することが知られている全ての材料が、本フィルムでの使用に適しているわけではないことが分かっている。例えば、エチレンビス(ステアロアミド)(ポリカーボネート組成物での使用が知られているスリップ剤)は、一ステアリン酸グリセロール(データは示されていない)と同じように適していない。ヒドロキノンの二(ジフェニル)リン酸エステルやビスフェノールAの二(ジフェニル)リン酸エステルなどの二官能または多官能芳香族リン酸エステルなど、他の既知のスリップ剤もTgを低下させるため(データは示されていない)適していない。その他、適さないスリップ剤としては、ポリ(α-オレフィン)および様々なフッ素化ポリマーが挙げられる。
【0040】
適したスリップ剤は、移動性でも非移動性でも良い。理論によって束縛しようとするものではないが、移動性スリップ剤は、フィルム表面へ移動できるように、高温コポリカーボネートに対してある程度の非相溶性を持つと考えられる。例えば、加工の間、スリップ剤は融解物に溶けているが、組成物が冷えるにつれてスリップ剤は表面へ移動し、フィルム表面に潤滑層を形成することができる。移動性スリップ剤の使用量は、非移動性スリップ剤よりも少なく、例えば、組成物の全質量に対して0.01~5質量%とすることができる。非移動性スリップ剤は溶融物に可溶化せず、高温ポリカーボネートのTgと同程度のTg、例えば、ASTM E1640-13に従った、昇温速度1℃/分、周波数1Hzでの動的機械分析(DMA)による測定で、150℃より大きい、170℃より大きい、175℃~240℃、180℃~240℃、または190℃~240℃のTgを持つことができ、あるいは、高温コポリカーボネートとは混和しないポリマー系スリップ剤であっても良い。非移動性スリップ剤の使用量は、組成物の全質量に対して1~15質量%とすることができる。ただし、当然のことであるが、移動性および非移動性という用語は便宜上使用しているものであり、ある程度高分子量の化合物は移動性と非移動性の間にあるということができる。
【0041】
移動性スリップ剤としては、4,5-エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル;エポキシ化大豆油;シリコーン油などのシリコーン類;多官能エステル、例えば、ジ、トリ、またはテトラ(C12~36アルキル)エステルなどの多官能脂肪酸エステル、例えば、トリステアリン(tristearin)または四ステアリン酸ペンタエリトリトールなど;ステアリン酸ステアリルなどの、C12~36カルボン酸の(C12~36アルキル)エステル;ポリプロピレングリコールポリマー、ポリ(エチレングリコール-コ-プロピレングリコール)共重合体、または前述のグリコールポリマーの少なくとも1つを含む組み合わせ;あるいは、蜜ろう、モンタンろう、パラフィンろうなどのワックス類が挙げられる。これらの材料の存在量は、組成物の全質量に対して0.01~5質量%とすることができる。望ましい態様において、スリップ剤は、多価アルコールの、ジ、トリ、テトラ、またはそれ以上のC12~36脂肪酸エステル、例えば、四ステアリン酸ペンタエリトリトール、六ステアリン酸ジペンタエリトリトール、三ステアリン酸グリセロール、またはこれらの組み合わせなどであって、その存在量は、組成物の全質量に対して0.01~5質量%または0.1~3質量%である。
【0042】
適当なポリマー系スリップ剤としては、ポリメチルペンテン、スチレン系共重合体(スチレン-アクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)など)、ポリ(カーボネート-シロキサン)、またはこれらの組み合わせが挙げられる。これらの材料の使用量は、組成物の全質量に対して1~15質量%または3~10質量%とすることができる。
【0043】
望ましい非移動性スリップ剤はポリ(カーボネート-シロキサン)である。ある態様において、本組成物は、1~15質量%、望ましくは3~10質量%のポリ(カーボネート-シロキサン)を含むことができる。ポリ(カーボネート-シロキサン)は、構造式(1)で示されるカルボナートブロックと、構造式(3)で示される繰り返しジオルガノシロキサン単位を含むシロキサンブロックとを含むものである。
【化8】
式中、それぞれのRは独立して一価のC1~13有機基である。例えば、Rは、C1~13アルキル、C1~13アルコキシ、C2~13アルケニル、C2~13アルケニルオキシ、C3~6シクロアルキル、C3~6シクロアルコキシ、C6~14アリール、C6~10アリールオキシ、C7~13アリールアルキレン、C7~13アリールアルキレンオキシ、C7~13アルキルアリーレン、またはC7~13アルキルアリーレンオキシとすることができる。前述の基は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素、あるいはこれらの組み合わせで完全にまたは部分的にハロゲン化されていても良い。ある態様において、透明なポリ(カーボネート-シロキサン)が好ましい場合、Rはハロゲンで置換されていない。同じ共重合体中に、前述のR基を組み合わせたものを用いても良い。
【0044】
構造式(3)中のEの値は、熱可塑性組成物中の各成分の種類および相対量、組成物の望ましい特性など、考慮すべき事柄に応じて幅広く変えることができる。Eの平均値は、2~1,000、望ましくは2~500、2~200、2~125、5~80、または10~70である。ある態様において、Eの平均値は10~80または10~40であり、更に別の態様において、Eの平均値は40~80または40~70である。Eの値が低い、例えば、40未満の場合、相対的に大量のポリ(カーボネート-シロキサン)を使用することが望ましいと考えられる。反対に、Eの値が高い、例えば、40を超える場合、相対的に少量のポリ(カーボネート-シロキサン)を使用することができる。第1および第2(またはそれ以上)のポリ(カーボネート-シロキサン)の組み合わせを使用しても良く、このときの第1共重合体のEの平均値は第2共重合体のEの平均値よりも小さい。
【0045】
ある態様において、シロキサンブロックは構造式(4)または(5)で示されるものである。
【化9】
式中、Eは構造式(3)で定義されたものと同じであり、それぞれのRは同じでも異なっていても良く、構造式(3)で定義されたものと同じであり、Arは同じでも異なっていても良く、置換または非置換C6~30アリーレンであって、その結合は芳香族基に直接結合しており、それぞれのRは独立して二価のC1~30有機基である。シロキサンブロックは、対応するジヒドロキシ化合物の反応残基である。構造式(4)中のAr基は、C6~30ジヒドロキシアリーレン化合物、例えば、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-n-ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-1-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニルスルフィド)、および1,1-ビス(4-ヒドロキシ-t-ブチルフェニル)プロパン、またはこれらの組み合わせから誘導することができる。詳細な態様において、シロキサンブロックは構造式(5a)で示されるものである。
【化10】
式中、RおよびEは構造式(3)で定義されたものと同じであり、Rは二価のC28脂肪族基であり、それぞれのMは同じでも異なっていても良く、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1~8アルキルチオ、C1~8アルキル、C1~8アルコキシ、C2~8アルケニル、C2~8アルケニルオキシ、C3~8シクロアルキル、C3~8シクロアルコキシ、C6~10アリール、C6~10アリールオキシ、C7~12アリールアルキレン、C7~12アリールアルキレンオキシ、C7~12アルキルアリーレン、またはC7~12アルキルアリーレンオキシであって良く、それぞれのnは独立して、0、1、2、3、または4である。ある態様において、Mは、ブロモまたはクロロ、アルキル(メチル、エチル、プロピルなど)、アルコキシ(メトキシ、エトキシ、プロポキシなど)、またはアリール(フェニル、クロロフェニル、トリルなど)であり、Rは、ジメチレン、トリメチレン、またはテトラメチレンであり、Rは、C1~8アルキル、ハロアルキル(トリフルオロプロピルなど)、シアノアルキル、またはアリール(フェニル、クロロフェニル、トリルなど)である。別の態様において、Rは、メチル、またはメチルとトリフルオロプロピルとの組み合わせ、あるいはメチルとフェニルとの組み合わせである。更に別の態様において、Rはメチルであり、Mはメトキシであり、nは1であり、Rは二価のC~C脂肪族基である。具体的なシロキサンブロックは、構造式(5b)、(5c)、または(5d)で示されるもの、またはこれらを含む組み合わせであり、
【化11】
式中、Eの平均値は、2~200、2~125、5~125、5~100、5~50、20~80、または5~20である。
【0046】
不透明または透明なポリ(カーボネート-シロキサン)が使用可能であり、透明な共重合体は、ビスフェノールAから誘導したカルボナート単位(1)と、繰り返しシロキサン単位(5b)、(5c)、(5d)、またはこれらの組み合わせ(望ましくは構造式5bのもの)とを含むことができ、このとき、Eの平均値は4~50、4~15、5~15、6~15、または7~10である。透明な共重合体は、米国特許出願公開第2004/0039145A1号に記載の管型反応器法、または、ポリ(シロキサン-カーボネート)共重合体の合成に使用できる、米国特許第6,723,864号に記載の方法の、一方または両方を用いて製造可能である。(カーボネート-シロキサン)のその他の製造法は、例えば、欧州特許第0524731A1号、5頁、調製法2、または米国特許第8389662号に記載されている。
【0047】
ポリ(カーボネート-シロキサン)は、50~99質量%のカルボナート単位と1~50質量%のシロキサン単位を含むことができる。この範囲内で、ポリ(カーボネート-シロキサン)は、70~98質量%、より望ましくは75~97質量%のカルボナート単位と、2~30質量%、より望ましくは3~25質量%のシロキサン単位を含むことができる。ポリ(カーボネート-シロキサン)は、架橋スチレン-ジビニルベンゼンカラムを使用し、試料濃度を1mg/mlとし、ビスフェノールAポリカーボネート標準で較正した、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定で、2,000~10万Da、望ましくは5,000~5万DaのMwを持つことができる。ポリ(カーボネート-シロキサン)は、300℃/1.2kgでの測定で、1~50立方cm/10分(cc/10分)、望ましくは2~30cc/10分の溶融体積流量(melt volume flow rate)を持つことができる。流動性の異なるポリ(カーボネート-シロキサン)の混合物を用いて、全体的に好ましい流動性とすることができる。
【0048】
次に、スリップ剤と併用する粗面化剤について述べるならば、第1のタイプの粗面化剤は、フィルム表面から物理的に突出して表面に粗さを与える粒子状材料である。無機微粒子、例えば、合成シリカ、石灰石、天然シリカ、タルク、ゼオライトなどをポリマー組成物に加えることは知られている。しかし、本発明の発明者は、有機粗面化剤を用いると優れた結果が得られることに気付いた。理論によって束縛するものではないが、無機微粒子は凝集して、押出し工程の際にメルトフィルタ(melt filter)を目詰まりさせ、コンデンサフィルムの製造を妨げると考えられる。また、無機微粒子が凝集し易いとフィルム中に電気的弱点を生じ、フィルムの電気的性能の低下につながることがある。一方、有機粗面化剤は、微粒子状有機粗面化剤が組成物全体により均一に分散して、押出しの際にメルトフィルタを詰まらせないよう、高温コポリカーボネートと相溶性にすることができる。更に、微粒子状有機粗面化剤は無機微粒子よりも柔軟性または伸縮性があり、これによってもフィルタの目詰まりを防ぐと考えられる。他方、有機微粒子は、コンデンサフィルムの誘電特性に悪影響を及ぼすことがある。
【0049】
発明者は、柔軟な有機粗面化剤により、良好な加工性、取扱い性、および誘電特性の都合の良い組み合わせが得られることを発見した。本件で用いる“柔軟性”とは、粗面化剤が圧力下では変形し、または形状が変わるが、その粒子の形は保てることを意味する。このような粒子となる材料は10~90、例えば50~80のショア(Shore)OOデュロメータ硬度(Durometer rating)を持つことができる。この基準に合う第1の粗面化剤は、架橋シリコーン、望ましくはシルセスキオキサン、より望ましくはポリメチルシルセスキオキサンとすることができる。シルセスキオキサンは、Si-O-Si結合を含み、四面体の頂点がSiとなったかご形構造物である。シルセスキオキサンは、6、8、10、および12個のSi頂点を持つ分子構造、更に、ポリマー構造を持つことができる。かご形構造は、それぞれ、T、T、T10、およびT12(T=四面体頂点)と呼ばれることもある。Tかご形は、化学式 [R-SiO1.5 (または、RSi12に等しい)で示される。それぞれのSi中心は3つのオキソ基と結合し、このオキソ基は他のSi中心とも結合している。Si上の4番目の基はR基である。それぞれのR基は独立して、C1~8アルキル、C1~8アルキレン、アクリラート、メタクリラート、ヒドロキシル、またはエポキシドとすることができる。
【0050】
微粒子状架橋シリコーンは、例えば、Momentive Performance Chemicalsより、TOSPEARLの商標名で市販されている。TOSPEARLなどの架橋シリコーンは球状で、柔軟なゲル様のコンシステンシーを持つため、細かいフィルタを使用する工程にも適応できる。例えば、組成物をメルトフィルタ(例えば、5μmのフィルタ)に通す場合、この粗面化剤はフィルタを目詰まりさせず、無機微粒子を粗面化剤として用いた場合に起こる問題が避けられる。
【0051】
有機粗面化剤の粒子、特に、シルセスキオキサンなどの架橋シリコーンは、規則的な形(例えば、球状)や不規則な形など、どのような形状であっても良い。微粒子状有機粗面化剤の直径はフィルムの厚さに応じて変えることができ、望ましい粗さとなるように選ぶ。文中で使用している“直径”とは、球状粒子の直径、または、球形でない粒子と同じ体積を持つ球の直径を指す。微粒子状有機粗面化剤は、0.1~5μm、例えば0.2~3μmまたは0.5~2μm、別の態様において0.1~1μmまたは0.2~0.8μm、更に別の態様において1~3μmの平均直径を持つことができる。ある態様において、微粒子状有機粗面化剤は、0.1~5μm、例えば0.2~3μmまたは0.5~2μm、別の態様において0.1~1μmまたは0.2~0.8μm、更に別の態様において1~3μmの平均直径を持つことができる。望ましくは、粒子は、製造が容易になるよう、5μm以下の最大直径を持つ。粒子は更に、狭い粒度分布を持つことができ、例えば、最小直径と最大直径との差は0.2~2.0μm、0.3~1μm、または0.4~0.8μmである。平均(Average)、平均(mean)、最少、および最大直径は、粒子試料の走査型電子顕微鏡分析により、クールタカウンタにより、あるいは、吸光度と粒子濃度との比例関係をストークスの沈降方程式と組み合わせて使用し、光透過率から測定値を求める、重力加速度および遠心加速度を用いた液相光沈降法(liquid phase photosedimentation)によって求めることができる。
【0052】
第2のタイプの粗面化剤は、コポリカーボネートおよび必要に応じて追加したポリカーボネートと部分的に混和性のポリマーであって、コンデンサフィルムの機械的特性、誘電特性、または加工性にあまり悪影響を及ぼさないように選ぶ。理論によって束縛するものではないが、このようなポリマー粗面化剤は、コポリカーボネートと、必要に応じて追加したポリカーボネートとを含む連続相中に混和しない島(islands)を生成すると考えられる。理論によって束縛するものではないが、加工の際、特に押出しの際、この島は小さく微細になり、フィルム表面へ移動して押出しフィルムに粗さを生じると考えられる。第2粗面化剤の島は、フィルム表面に不均一に分配される。
【0053】
第2粗面化剤は環状オレフィン共重合体(COC)とすることができる。COCは、例えば、環状オレフィンモノマー(8,9,10-トリノルボルナ-2-エン(ノルボルネン)、1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン(テトラシクロドデセン)など)と、非環状オレフィン系モノマー(エテンなど)との連鎖重合により、または、様々な環状モノマーを開環メタセシス重合後に水素化することによって製造できる。1種類のモノマーを使用する後者の材料も、文中で使用している用語の、COCの範疇に含まれる。環状オレフィンモノマーは環内二重結合(二重結合の両方の炭素原子が環内にある)または環外二重結合(炭素結合の一方は環内にあるが、もう一方はそうではない)を含む。COCの製造に使用できる環状オレフィンモノマーの例としては、ノルボルネンおよびその誘導体(2-ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン、5,5-ジメチル-2-ノルボルネン、5-ブチル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メトキシカルボニル-2-ノルボルネン、5-シアノ-2-ノルボルネン、5-メチル-5-メトキシカルボニル-2-ノルボルネン、5-フェニル-2-ノルボルネンなど)と、シクロペンタジエンおよびその誘導体(ジシクロペンタジエン、2,3-ジヒドロシクロペンタジエンなど)が挙げられる。他の環状オレフィンモノマーは、米国特許第5087677号に記載されている。環状オレフィンモノマーを1つ以上含む組み合わせも使用できる。
【0054】
非環状オレフィンモノマーは、モノマー中に存在する環の完全に外に二重結合を含むものである。非環状オレフィンモノマーの例としては、1~20個の炭素原子、望ましくは1~12個の炭素原子、最も望ましくは1~6個の炭素原子を含むアルケンが挙げられる。α-オレフィン、例えば、エチレン、1-プロペン、および1-ブテンが望ましい。他の非環状オレフィンモノマーとしては、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンおよび1-エイコセン、1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、および5-ビニル-2-ノルボルネンが挙げられる。望ましくは、非環状オレフィンモノマーはエチレンである。
【0055】
望ましい態様において、COCは環状オレフィンモノマーとエチレンとの共重合体である。別の態様において、COCはノルボルネンとエチレンとの共重合体である。COCは、ポリマーの総モル数に対して、少なくとも15モルパーセント(mol%)の、環状オレフィンモノマーから誘導した単位、あるいは15~90mol%または15~40mol%の、不飽和環状モノマーから誘導した単位を含むことができる。COCは、60~180℃、60~150℃、70~100℃、または100~180℃のTgを持つことができる。COCは、ISO 75、パート1および2に従った、0.45MPaでの測定で、120~175℃の熱たわみ温度を持つことができる。適当なCOCは、Topas Advanced Polymersより、TOPASの商標名で販売されている。
【0056】
フィルム中、即ち、フィルムの製造に用いる組成物中におけるそれぞれのコポリカーボネートとCOCの相対量は、望ましい特性を持つフィルムが得られるよう変えることができる。全ての成分の合計が100質量%に等しくなるとして、COCの存在量は、1~30質量%、1~20質量%、または1~15質量%、望ましくは2~10質量%とすることができる。
【0057】
望ましい態様において、フィルム形成組成物は、高温ポリカーボネートと、有機スリップ剤と、第1粗面化剤と、必要に応じて第2粗面化剤とを含み、必要に応じてビスフェノールAホモポリマーと、必要に応じて酸化防止剤とを含む。高温コポリカーボネートは、組成物の全質量の65.0~99.85質量%で存在でき、水素、酸素、およびフッ素原子の合計に対する炭素原子の数比は0.83から1.12未満である。高温ポリカーボネートは、望ましくは、N-フェニルフェノールフタレイニルビスフェノール-ビスフェノールAコポリカーボネート、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンビスフェノール-ビスフェノールAコポリカーボネート、またはこれらの組み合わせである。有機スリップ剤は、組成物の全質量の0.1~15.0質量%で存在でき、望ましくは、四ステアリン酸ペンタエリトリトール、六ステアリン酸ジペンタエリトリトール、三ステアリン酸グリセロール、高密度ポリエチレン、ポリメチルペンテン、またはポリ(カーボネート-シロキサン)、あるいはこれらの組み合わせである。有機スリップ剤がポリ(カーボネート-シロキサン)である場合、フィルム形成組成物中におけるポリ(カーボネート-シロキサン)の望ましい量は、組成物の全質量の5.0~15.0質量%である。有機スリップ剤がポリ(カーボネート-シロキサン)以外である場合、フィルム形成組成物中の有機スリップ剤の望ましい量は、組成物の全質量の0.1~5.0質量%である。組成物の全質量に対してそれぞれ、第1粗面化剤の存在量は0.05~0.5質量%、第2粗面化剤の存在量は2.0~10.0質量%とすることができる。
【0058】
酸化防止剤の存在量は、組成物の全質量に対して0.02~0.06質量%とすることができる。
【0059】
フィルム形成組成物および押出しフィルムに含まれるある種の金属イオンの濃度が低いと良好な電気的特性が得られる。つまり、フィルム形成組成物およびフィルムに含まれるアルミニウム、カルシウム、クロム、マグネシウム、鉄、ニッケル、カリウム、マンガン、モリブデン、ナトリウム、チタン、および亜鉛のそれぞれの質量は、50ppm未満、望ましくは40ppm、30ppm、20ppm、または10ppm未満とすることができる。ある態様において、フィルム形成組成物およびフィルム中のアルミニウム、カルシウム、クロム、マグネシウム、鉄、ニッケル、カリウム、マンガン、モリブデン、ナトリウム、チタン、および亜鉛の総量は10ppm未満である。コポリカーボネートと、必要に応じて追加するポリカーボネートの他に、フィルム形成組成物およびフィルムには、コンデンサフィルムに通常加えられる様々な添加剤を、これらの添加剤がフィルム形成組成物およびフィルムの望ましい特性、特に絶縁破壊強さにあまり悪影響を与えないように選ばれているならば、加えることができる。この理由により、イオン性の添加剤は望ましくは使用しない。使用可能な添加剤としては、耐衝撃性改良剤、流動性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、防曇剤、抗菌剤、放射線安定剤、非イオン性難燃剤、アンチドリップ剤、またはこれらの組み合わせが挙げられる。一般に、それぞれの添加剤は、効果があることが一般的に知られている量、例えば、0.005~5質量%の量で使用される。ある態様において、添加剤の総量は、フィルム形成組成物またはフィルムの全質量に対して0.01~5質量%とすることができる。
【0060】
酸化防止剤としては、有機亜リン酸エステル(亜リン酸トリス(ノニルフェニル)、亜リン酸トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)、二亜リン酸ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリトリトール、二亜リン酸ジステアリルペンタエリトリトールなど);アルキル化モノフェノールまたはポリフェノール;ポリフェノールとジエンとのアルキル化反応生成物(テトラキス[メチレン(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロケイ皮酸)]メタンなど);p-クレゾールまたはジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物;アルキル化ヒドロキノン;ヒドロキシル化チオジフェニルエーテル;アルキリデンビスフェノール;ベンジル化合物;β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸と一価または多価アルコールとのエステル;β-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロピオン酸と一価または多価アルコールとのエステル;チオアルキルまたはチオアリール化合物のエステル(チオプロピオン酸ジステアリル、チオプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジトリデシルなど)、3-(3,5-di-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシル、テトラキス3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ペンタエリトリトール(pentaerythrityl);β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸のアミド、または前述の酸化防止剤の少なくとも1つを含む組み合わせが挙げられる。酸化防止剤の使用量は、フィルム形成組成物またはフィルムの全質量に対して0.01~0.2質量%とすることができる。
【0061】
熱安定剤添加物としては、有機亜リン酸エステル(例えば、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリス(2,6-ジメチルフェニル)、亜リン酸トリス(混合モノおよびジノニルフェニル)など)、ホスホン酸エステル(例えば、ホスホン酸ジメチルベンゼンなど)、リン酸エステル(例えば、リン酸トリメチルなど)、または、前述の熱安定剤の少なくとも1つを含む組み合わせが挙げられる。熱安定剤は、IRGAPHOS 168として市販されている、亜リン酸トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)であっても良い。熱安定剤の使用量は、フィルム形成組成物またはフィルムの全質量に対して0.01~5質量%とすることができる。
【0062】
ある態様において、押出しフィルムは、65.0~99.85質量%の高温コポリカーボネートと、5.0~15.0質量%のポリ(カーボネート-シロキサン)スリップ剤と、0.1~5.0質量%の、ポリ(カーボネート-シロキサン)スリップ剤以外の有機スリップ剤と、必要に応じて、0.02~0.06質量%の酸化防止剤とを含み、このとき、それぞれの量は組成物の全質量に対してであって、その合計は100質量%であり、高温コポリカーボネートの、水素、酸素、およびフッ素原子の合計に対する炭素原子の数比は1.12未満、望ましくは0.83から1.12未満である。
【0063】
ある態様において、押出しフィルムは、65.0~99.85質量%の高温コポリカーボネートと、2.0~10.0質量%の環状オレフィン共重合体粗面化剤と、0.1~5.0質量%の有機スリップ剤と、必要に応じて、0.02~0.06質量%の酸化防止剤とを含み、このとき、それぞれの量は組成物の全質量に対してであって、その合計は100質量%であり、高温コポリカーボネートの、水素、酸素、およびフッ素原子の合計に対する炭素原子の数比は1.12未満、望ましくは0.83から1.12未満である。
【0064】
コンデンサフィルムは、フィルム形成組成物を押出して製造する。フィルム形成組成物は、良く混和した混合物ができるような条件下で成分を混合することにより調製できる。このような条件には、単軸または二軸型押出機、ミキシングボウル、または同様に成分に剪断力を加えられる混合装置内で溶融混合する工程がしばしば含まれる。二軸押出機は、単軸押出機よりも混合性能および自己清掃性能(self-wiping capability)が良いため望ましいことが多い。押出機の少なくとも1つの排出口を通過する際に混合物を減圧して、組成物中の揮発性不純物を除去することはしばしば有益である。溶融前に成分を乾燥することもしばしば有益である。ポリマーの分解を少なく、または分解させないようにする一方、十分に溶融させて、未溶融成分の全くない良く混和したポリマー混合物ができるよう、溶融工程は240~360℃で行うことができる。ポリマー混合物は、キャンドルフィルタまたはスクリーンフィルタを用いて溶融濾過(melt filtered)し、好ましくない黒いちりや異質な汚染物質を除くことができる。
【0065】
フィルム形成組成物は、従来から熱可塑性組成物で使用されている、フラットダイ(flat die)を用いる押出機を使って押し出すことができる。押出しキャストフィルム法は、前述のフィルム形成組成物を押出機中で溶融する工程と、溶融したフィルム形成組成物を、リップ間隙の狭い(small lip gap separation)フラットダイを通して搬送する工程と、必要に応じて、相対的に高い巻取り速度でフィルムを延伸する工程と、フィルム形成組成物を冷却/固化して最終的なフィルムを形成する工程とを含むことができる。押出機は、単軸または二軸構造のものとすることができ、メルトポンプを用いて、ダイを通る、一定した、脈動しないポリマーの流れを生じることができる。ダイリップ間隙は100~200μm程度に小さくすることができ、巻取りローラは、最大200メートル(m)/分の速度で作動させることができる。この設計には、フィルムを焼戻し(temper)/焼鈍し(anneal)して、凍結される(frozen-in)内部応力の発生を少なくするための、加熱ローラを追加しても良い。フィルム端をトリミングし、張力を制御した巻取り装置を用いて、フィルムをロールに巻くことができる。ダイを通る溶融ポリマーの流れを一定および均一にする精度、フィルムの製造に使用するポリマーのレオロジー特性、ポリマーおよび装置の両方の清浄度、巻取り装置の機械的特性は全て、比較的薄い押出しフィルムの良好な製造に寄与すると考えられる。
【0066】
押出しキャストフィルム法は有益なことに、スケールアップ(大規模製造など)が容易な一段階工程とすることができる。溶融押出しは、少なくとも次の理由で溶液流延法よりも有利である。ある種の高温コポリカーボネートフィルムの溶液流延法について述べられたものはあるが、そのフィルムが大規模製造であるという記述はない。溶液流延法はまた、溶媒を使用する必要があり、これにより加工コストが上がり、VOCsを発生させ、廃棄物管理の懸念が生じることがある。驚くことに、高分子量または高Tgのポリマーであることを考慮に入れても、ポリマーの環境を、材料の熱分解または機械的分解を起こすおそれのある必要以上の温度にしないように、押出し工程を設計することができる。溶融物用の濾過装置を使用すると、溶融物から適切に除去されないとフィルムの品質、つまりフィルムの誘電特性に悪影響を及ぼすおそれのある粒子状汚染物質を実質的に含まないフィルムができる。この方法で製造されたフィルムは薄く(厚さ10μm以下)、全体的に厚さが均一で平らである。皺やたるみのないフィルムを製造することができる。
【0067】
溶融したフィルム形成組成物は、メルトポンプを使って、押出機ダイを通して搬送することができる。ある態様において、250~500℃、例えば300~450℃の温度でフィルムを押し出し、押出しフィルムを一軸延伸して誘電体基板フィルムを製造する。ある態様において、フィルム形成組成物の成分を配合、溶融、および密接に混合後、メルトフィルタ(例えば、2~15μmまたは3~5μm)に通して濾過し、15μmを超える、10μmを超える、望ましくは5μmを超える、または望ましくは3μmを超える大きさの粒子を除去し、前述の温度でフラットダイを通して押し出す。フィルムはダイから出ると同時に流れ方向に引き延ばされ、250μm(ダイリップ開口部)からフィルムの最終的な厚さである3~15μmとなる。フィルムは後に述べるように直接金属化しても良く、あるいは貯蔵または輸送のため巻取りロールに巻き取っても良い。ある態様において、フィルムは、少なくとも10メートル、または100~1万mの長さと、少なくとも300mm、または300~3,000mmの幅を持つことができる。フィルムを押し出す速度は変えることができる。商業的な態様では、フィルムの押出し速度は10ポンド/時間(4.5kg/時間)から1000ポンド/時間(450kg/時間)まで変えることができる。押出機のダイプレートからフィルムを引き出す速度(巻取り速度)は10m/分~300m/分の範囲とすることができる。
【0068】
本ポリマーフィルムはどのような非晶質フィルムの用途にも使用できるが、コンデンサや他の電子デバイスを製造するための金属化に特に適している。フィルムは、その少なくとも一方の側を金属化することができる。フィルムの使用目的に応じて様々な金属および金属合金、例えば、銅、アルミニウム、銀、金、ニッケル、亜鉛、チタン、クロム、バナジウム、白金、タンタル、ニオブ、黄銅、または前述のものの少なくとも1つを含む組み合わせが使用できる。フィルムは少なくとも一方の側、つまり、後で詳しく述べるように、光学的プロフィロメトリー(表面粗さ測定法:profilometry)でそれぞれ定義および測定する、表面粗さRa、Rz、またはRyを備えている側を金属化する。ポリマーフィルムの金属化法は知られており、例えば、真空金属蒸着(vacuum metal vapor deposition)、金属スパッタリング、プラズマ処理、電子ビーム処理、化学酸化、または還元反応、更に、無電解湿式化学析出法(electroless wet-chemical deposition)が挙げられる。従来の無電解めっき法でフィルムの両側を金属化しても良い。別の態様では、模様のある金属層を、例えばインクジェット印刷法でフィルム表面に形成することができる。
【0069】
金属化層の厚さは金属化フィルムの使用目的によって決まり、例えば、0.1~1000nm、0.5~500nm、または1~10nmとすることができる。ある態様において、金属フィルムの厚さは、1~3000オングストローム(Å)、1~2000Å、または1~1000Åとすることができる。導電性金属を用いる場合、フィルム上の金属層の抵抗率は、ASTM D257による測定で、0.1~1000オーム(Ω)/平方(Ohm per square)、または2.0~125.0Ω/平方の範囲で変えることができる。
【0070】
このようにして製造したフィルムおよび金属化フィルムは様々な有利な物理的特性を備えている。
【0071】
この押出しフィルムは非常に薄く、1~10μm、1~7μm、3~7μm、または3~5μmの厚さとすることができる。
【0072】
ある態様において、非金属化フィルムの絶縁破壊強さは、150℃において、700 V/μmよりも大きく、望ましくは700~1250V/μm、より望ましくは780~1000V/μm、更に望ましくは750~900V/μmである。ある態様において、フィルムの絶縁破壊強さは、150℃において、環状オレフィン共重合体を含まない同様のフィルムよりも15~50%大きい。
【0073】
非金属化フィルムのTgは、ASTM E1640-13に従った、昇温速度1℃/分、周波数1Hzでの測定で、150~250℃、170~250℃、175℃~240℃、180℃~240℃、または190℃~240℃、望ましくは180~250℃とすることができる。従って、この押出しフィルムは高温(high heat)用途、例えば、自動車などの輸送機械用の巻回型コンデンサに適している。
【0074】
Bosch試験クリアリングカウント(Bosch Test clearing count)(後に述べる試験法)を、300V/μmにおいて0~10とすることができる。
【0075】
非金属化フィルムは高い比誘電率、より詳しくは、1kHz、20℃、相対湿度50%での測定で、2.5よりも大きい、望ましくは2.5~3.4の比誘電率を持つことができる。
【0076】
非金属化フィルムは、1kHz、20℃、相対湿度50%での測定で、0.1以下、または0.01以下の散逸率を持つことができる。
【0077】
非金属化フィルムの厚さの均一性は、ある特定の範囲に亘ってフィルムの厚さの変動を測定することで求められる。ある態様において、非金属化フィルムの厚さの変動は、測定した領域全体のフィルムの平均厚さに対して、プラスまたはマイナス(+/-)10%以下、あるいは+/-9%以下、+/-8%以下、+/-6%以下、または+/-5%、+/-4%、+/-3%、+/-2%、+/-1%以下とすることができる。ある態様では、厚さの変動を、+/-1%程まで小さくすることができる。
【0078】
非金属化フィルム表面の粗さは、光学的プロフィロメトリーによって表面粗さ特性値を測定することで、より詳しくは算術平均粗さ(Ra)、最大高さ表面粗さ(Ry)、および交差点平均高さ(Rz)で定量化することができる。押出しフィルムの表面粗さを最適化することで、押出し、マスターロールへの巻取り、金属化、スリッティング、および乾式巻回型コンデンサへの最終的な巻取りの際の、フィルムの滑りを良くし、また扱い易くする。取扱い、巻取り、またコンデンサの平坦化に良い滑り性のレベルとするには、より高い表面粗さが好ましい。滑り性能に対するRaおよびRzの関係をそれぞれ図2および図3に示す。一方、巻回型コンデンサの体積効率とフィルムの絶縁破壊強さを最大化するのに最も適したフィルムの表面粗さは、できるだけ小さいことである。図4および図5に示すように、表面粗さが大きいと絶縁破壊数が多くなる。従って、望ましい表面粗さは、押出しおよびマスターロールへの巻取りの際に、更に、適用できるならば、金属化、スリッティング、および乾式巻回型コンデンサへの巻取りの際に、滑りが良く、取り扱い易いよう最適化しつつ、可能な限りRa、Ry、またはRz(望ましくは3つ全て)を小さくしたものである。ある態様において、非金属化フィルムは、光学的プロフィロメトリーによる測定で、フィルムの平均厚さの+/-3%未満、+/-2%未満、または+/-1%程までに低い平均Raを持った表面を持つことができる。別の態様において、非金属化フィルムは、0.01~0.04%の平均または絶対Raと、0.05~0.2の平均または絶対Rzと、0.05~0.35の平均または絶対Ryを持った表面を持つことができる。別の態様において、非金属化フィルムは、フィルムの平均厚さの+/-3%未満、+/-2%未満、または+/-1%程までに低い平均Raと、0.05~0.2の平均または絶対Rzと、0.05~0.35の平均または絶対Ryを持った表面を持つことができる。
【0079】
フィルムおよび金属化フィルムは本質的に無溶媒、つまり、含まれる250Da未満の分子量を持つ化合物を、1,000ppm未満、750ppm未満、500ppm未満、または250ppm未満とすることができる。
【0080】
フィルムおよび金属化フィルムは、ポリカーボネート層中に含まれるアルミニウム、カルシウム、クロム、マグネシウム、鉄、ニッケル、カリウム、マンガン、モリブデン、ナトリウム、チタン、および亜鉛のそれぞれを、50ppm未満、25ppm未満、または10ppm未満とすることができる。
【0081】
この金属化フィルムはどのような金属化フィルムの用途にも使用できるが、電気的用途、例えば、コンデンサまたは回路材料として特に適している。
【0082】
高エネルギー密度で高電圧の無極性コンデンサは、円筒形に巻いた金属化ポリマーフィルムを用いて製造することができる。より詳細な態様において、ポリマーフィルムを押出し後、真空チャンバ内で蒸着して、移動するポリマーフィルム上に銅やアルミニウムなどの導電性金属を、例えば、1Å~1000nm、1~3000Å、または1~1000Åの厚さに吹き付けて金属化する。押出しフィルム上の金属の抵抗率は、ASTM D257による測定で、0.1Ω/平方~100Ω/平方の範囲とすることができる。最後に末端に金属化を行う際にコンデンサの電極の電気的短絡が起きないよう、金属化フィルムを交互に重ねた層(コンデンサを組み立てた際)の両側の(opposite)縁に非金属化部分が残るように、金属化工程を行う前に押出しフィルムを適切にマスキングして、フィルム幅の縁に金属化しないマージンを作ることができる。
【0083】
次に、2枚重ねた金属化ポリマーフィルムを管状に巻いてコンデンサを製造することができる。電気配線をそれぞれの金属層に繋ぐ。より詳細な態様において、2本の別々の金属化フィルムのロールをコンデンサ巻取機内に置き、層が、ポリマー組成物/金属化層/ポリマー組成物/金属化層の順に並ぶよう、共にマンドレル(後に除去できる)にしっかりと巻き付け、典型的なコンデンサの構造、即ち、2枚の金属層で挟まれた誘電体を作る。両側に非金属化マージンを設けて、2本のフィルムロールを巻く。
【0084】
コンデンサを巻取る程度は、希望するコンデンサの物理的大きさや希望する電気容量に応じて変わる。2本のロールをきつく巻くと、早期の故障に繋がる空気の閉じ込めを避けることができる。個々のコンデンサは、異物による誘電体フィルム層間の接点の汚染の可能性を低くするため、また、誘電体に入り込む湿気を少なくするため、少なくともクラス100のクリーンルーム環境(HEPAフィルタを設置)内で加工することができる。電気巻取機(Electric winding)を用いると、それぞれのコンデンサにより均一な張力を保つことができる。次に、コンデンサの端を縛り、両側の開いたトレイ内に固定して、フィルム層の巻き戻りを防止し、また円筒の縁または端に、導電性元素、例えば、亜鉛含量の高いはんだを、次に、90%のスズと10%の亜鉛から成る通常の軟らかなエンドスプレーはんだ(end spray solder)をスプレーできるようにする。最初のスプレーで金属化表面を擦り、誘電体フィルム上の金属層(metallization)との接触を良くするための溝を作る。エンドスプレーを組み合わせると終端(final termination)との接着が更に良くなる。次に、導電性の、例えば、アルミニウムリード線をそれぞれの端にはんだ付けして終端を作ることができる。一方の終端を缶の底にスポット溶接し、他方の終端を蓋にストレートビード溶接(parallel welded)することができる。真空充填装置内でコンデンサに含浸液(例えば、イソプロピルフェニルスルホン)を充填し、閉じることができる。
【0085】
他のコンデンサ構造も可能である。例えば、コンデンサは、重ねて配置した少なくとも1つの第1および第2電極と、第1および第2電極の間に、それぞれと少なくとも部分的に接するよう配置した押出しフィルムとを含む平坦構造とすることができる。追加の押出しフィルムと電極層を、交互に配置した層として加えても良い。つまり、電子デバイスを作るための多層構造物も、ポリマー組成物/金属層/誘電体層を含む本発明の範囲に含まれ、このとき、誘電体層は、文中に述べられているポリマー組成物フィルムでも、他の誘電材料であっても良い。必要に応じて、追加の層(例えば、追加の交互に並んだ誘電体/金属層)を加えることができる。
【0086】
押出しフィルム、金属化フィルム、およびフィルムを含むコンデンサは様々な用途、例えば、輸送(航空、陸上、および海上)用途に有用である。最新の電気およびハイブリッド電気輸送の設計では、バッテリまたは燃料電池からの直流(DC)を駆動モータのための高圧交流(AC)に変換する電力回路の部品として、二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルムを含む大型コンデンサを使用している。これらのBOPPコンデンサは、電力損失を小さくするため車両のボンネット下に設置されるが、エンジンルーム内の温度はBOPPを溶融させる程に高い。現在の解決法は、BOPPコンデンサの溶融を防ぐ電子ユニットへの特別な専用冷却ループを設けることである。このような冷却ループの追加は非常にコストがかかり、また自動車を重くする。本コンデンサフィルムは、回生ブレーキによるバッテリの再充電と、駆動装置への電力供給の両方が可能な、電気自動車およびハイブリッド車(例えば、自転車、モペッド、オートバイ、自動車、トラックを含む)を実現する、インバータ/コンバータユニットを作る上で有用である。インバータは、バッテリからの低電圧(<250V)DC出力を、駆動モータを効率良く作動させるために必要な高電圧(>600V)AC出力へ変換する回路の一部である。これらのコンデンサは、エンジンルームからの外部加熱と回路抵抗による内部加熱の両者による高温環境中で作動することが望ましい。本コンデンサフィルムおよびこのフィルムを含むコンデンサは、車両用途で用いられる高温(例えば、140~150℃)に耐えることができる。
【0087】
以下の実施例により、本開示内容を更に詳しく説明するが、これらに限定するものではない。
【実施例
【0088】
実施例で使用する材料を表1に示す。
【表1】
【0089】
<製造方法>
指示されている場合を除き、全ての組成物は、Werner & Pfleiderer同方向回転二軸押出機(長さ/直径(L/D)比=30/1、ダイフェース付近に真空ポートを設置)で混和した。二軸押出機は、ポリマー組成物を良く混ぜ合わせるために十分な分配および分散混合要素を備えている。組成物を、285~330℃の温度で混和したが、本方法はこの温度範囲に限定されないことは明らかであろう。溶融物の流れが脈動しないようメルトポンプを利用し、25ミリメートル(mm)の単軸押出機を用いてフィルムを押出した。290~350℃の温度でダイ中の溶融物圧力が最適となるように、メルトポンプを調節した。ダイ間隙を100~300μmとした、450mm幅の垂直Tダイを通して溶融物を押し出した。溶融物カーテンを磨いた冷却ロール上に排出し、流れ方向に延伸して3~15μmの厚さとした。均一で一定したフィルム厚さとなるよう、メルトポンプの排出量と下流の装置の巻取り速度が釣り合うようにゲージを調整した。
【0090】
<試験方法>
フィルムの摩擦係数(CoF)を、ASTM D1894に従い、2つの面上、一方は、アルミニウムから作成した金属化200g Boppそり(63.5mm×63.5mmの面)、またはそれぞれの試料自体の上で測定した。パラメータは以下のとおりであった。(1)テーブルは強化ガラス(150mm×600mm)、(2)試験速度は150mm/秒、(3)試験伸長は50mm、(4)ロードセルは10N、(5)試料毎に5回測定、(6)Bluehill 3ソフトウェアを備えた Instron試験ラック。二軸延伸ポリプロピレン(BOPP、10mm)を裁断し、金属化面を下向きにして試料と接するようそりに取り付けた。フィルム試料は強化ガラステーブルに固定した。フィルム同士(Against Self):(1)フィルム試料を、ロール面の“外側”を下にしてそりに取り付けた。(2)フィルム試料を強化ガラステーブルに、ロール面の“内側”を上にして固定した。(3)トランスデューサからの初期ピーク負荷に基づいて静的CoFを計算した。(4)伸長の間の平均負荷から動的CoFを計算した。
【0091】
トラウザー引裂き試験法(Trouser Tear Test procedure)ISO 6383-1を用いて引裂き抵抗を測定した。結果は、5回測定した平均をニュートン/ミリメートル(N/mm)で示した。パラメータは以下のとおりであった。(1)試験速度:200mm/秒、(2)試験伸長:50mm、(3)ロードセル:10N、(4)試料毎に5回測定、(5)Bluehill 3ソフトウェアを備えたInstron試験ラック、(6)10mmのフィルム試料を25mm×200mmのストリップに裁断、(7)引裂き開始部として、試料の幅の狭い辺に30mmの切り込みを作成、(8)空気圧グリップを用いて、試料のそれぞれの端を固定、(9)脱イオン化エアガンを用いて試料から静電気を除去、(10)オペレータの選択した負荷/伸長曲線の面積から平均引裂き強さ(tear)を計算した。
【0092】
COFまたは一群の押出しフィルム内での比較滑り性(comparative slip)を測定する別の測定法として、フィルム同士の滑り性を主観的に評価する手法を開発した。5人のオペレータが、フィルムロールの皺を目視検査し、フィルム同士がどの程度良く滑るかを見て、滑り性のレベルをランク付けし、フィルムの滑り性レベルを1~3(1=低い滑り性、2=中程度の滑り性、3=高い滑り性。高レベル(高い滑り性)は取扱い性が良いことを示す)の段階で評価した。平均とした(average rated)レベルを報告する。滑りによるランク付け(slip forced ranking)も5人のオペレータを用いて行った。試験した各グループ内で、平均値を1~13に規格化した。ランク付けは規格化した値(1=低い滑り性、13=最も高い滑り性(良好な取扱い性))の平均で報告した。COF測定を行ってその結果を下に示すが、図1は、ASTM D1894で求めた測定静的COF(y軸)と、滑り性ランク(x軸)を示すグラフである。このグラフから、静的COFと滑り性ランクがあまり良く相関しないことがわかる。滑り性ランク付けはフィルム取扱い性の観測可能なひとつの評価法であり、フィルムを取り扱う上での実際的要求を良く反映していることから、好ましい配合物を決める上では滑り性ランク付けにより重みを置くことができる。
【0093】
表面粗さは、Keyence共焦点顕微鏡を用いて求めた。50倍対物レンズを用いて、一次粗さ像を Keyence VK-200に取り込んだ。表面のずれを小さくするため、試料を平らなポリカーボネート製の板(plaque)上に固定した。レーザー測定モードとし、ステージ高調節装置を用いてフィルムの頂面を焦点内に入れた。走査範囲をフィルム頂面の1μm上からフィルム頂面の1μm下までに手動でセットした。走査範囲の合計がフィルムの厚さを超えることはなかった。データ収集の際、フィルムの底部側の画像を取り込まないよう、目標Z走査範囲を2~4μmとした。視野全体が目標走査範囲内に捕らえられない場合、フラットな画像が得られるよう試料をXおよびY方向に移動させた。走査範囲を設定後、走査範囲全体が良好な明るさおよびコントラスト設定となるようオートゲインを行った。高精度設定ではダブルスキャンオプションを使用した。Zステップ高さは0.1μmであった。これらの設定の下で50倍対物レンズを用い、280~300mm×200mmをデータ分析の視野として測定を行った。1つの50mm×100mm試料を用い、様々な位置で5回の個別の測定を行った。JIS B0601:1994標準計算法に従い、それぞれの画像について表面粗さ測定を行った。マルチライン走査分析用テンプレートを用いて、5回の個別の走査のそれぞれについて求めた平均値を計算し、報告した。この分析は、それぞれの画像を流れ方向に横切る60本のラインを含んでおり、Ra(算術平均粗さ)、Ry(最大高さ)、Rz(交差点平均高さ)、およびRMS(二乗平均平方根粗さ)のそれぞれの値の平均を報告した。得られた画像の前処理は、Keyenceの推奨に従って、自動ティルト補正;自動ノイズ除去;高さカットレベル(height cut level);および、DCL/BCLレベルのステップを含む。JIS B0601:1994に基づいて、Ra、Ty、Rz、およびRMSを求めた。粗さ曲線補正:高さデータは、ティルト補正した表面の粗さ測定を行って発生させた。これにより、ライン粗さ断面曲線から表面粗さを求めることができる。表面粗さから、高さデータに対する最小二乗法を用いてベースラインを決定し、そのベースラインからの各高さデータポイントの距離を求めた。Ra計算により、基準面と測定面との高差の絶対値を求め、次に、粗さ曲面上の各点と基準面との距離の平均を求めた。Ry計算は、基準面と、粗さ曲面上の各点との距離を比較し、最も高いピークの高さ(Yp)と、最も低い谷の深さ(Yv)の合計を求めることによって行った。Rz値は、最も高い5つのピークの高さの絶対値の平均と、最も低い5つの谷の深さの絶対値の平均との合計から求めた。RMS計算は、基準面と粗さ曲面との差の、二乗の合計の平方根を示したものである。
【0094】
電気的特性は、Bosch試験(電気的クリアリングカウント)を使用し、150V/μm、200V/μm、250V/μm、300V/μm、350V/μm、400V/μm、および450V/μmで求めた。表に挙げた値は、特定の電圧レベル(150V/μm、200V/μm、250V/μm、300V/μm、350V/μm、および400V/μm)でのクリアリングカウントである。クリアリングカウントはカウント/mで求め、電圧レベル毎に5回の試験の平均を報告する。それぞれの試験は、レベル毎に試験した1平方メートルから成る。Bosch試験は、特定の電圧レベルで生じるフィルム中の絶縁破壊の数を測定できる、連続式絶縁破壊試験法(continuous electrical break down test procedure)および装置である。使用したBosch試験装置の構造を図9に示す。図9では、供給するフィルム(供試フィルム)をローラ1に巻き、金属化した対極フィルムをローラ2に巻く。図9は更に、接地ローラ3、接地ローラ4、高電位ローラ5、テンション(tensioning)ローラ6、および巻取りローラ7を示している。ローラ3、4、および6は接地している。2つの電気絶縁セグメント10、12と、絶縁セグメント10、12の間の導電セグメント14を含む、試験ローラ8の概略側面図を図10に示す。導電セグメント14の長さは200mmである。供試フィルムを、対極フィルム2の接地金属化層と、磨いたスチールローラとの間に挟んだ。供試フィルムと、付随する接地金属化フィルム(対極)を、10メートル/分で装置を通してロールからロールへ巻き取った。高電位ローラ5の電位は、TREK 20/20C 増幅器を接続した BK Precision 1788B 電力供給装置を用いて制御した。Labview ソフトウェア制御インターフェースを National instruments NI-9223 電圧入力モジュールと接続して使用し、特定電圧での電圧/電流スパイクを測定して絶縁破壊カウント数を求めた。特定の電圧レベル100~500V/ミクロンについて、50V/mmの増加率で、フィルムの1平方メートルの絶縁破壊カウントの数と位置を記録した。試料を5回試験(合計5平方メートルを試験)し、電圧レベル毎に平均クリアリングカウント/平方メートルを報告する。試験に用いたパラメータは以下のとおりであった。供試フィルムの幅/金属セグメント長さは200mm、フィルムの線速度は10m/分、Trek Power Amplifier & BK Precision 1788B 電源(20kV以下);National Instrument DAQ モジュール(NI-9223、NI-9263);Labview データ収集および制御;電圧レベルは、100、150、200、250、300、350、400V/mm;フィルム長さは5m/電圧レベル;各電圧レベルで1mを試験;各電圧レベルを5回繰り返した(合計5m);レベル毎の平均クリアリングカウント/mを報告した。
【0095】
<滑り性ランク付けに対する表面粗さおよびクリアリングカウント>
図2は、様々な配合物に関する、測定Ra-I(y軸)と滑り性ランク(x軸)を示すグラフである。相関性があり、Ra-Iが大きくなると滑り性ランク付けが良くなることを示している。図3は、測定Rz-I(y軸)と滑り性ランク(x軸)を示すグラフである。Rz-Iが大きくなると滑り性ランク付けが良くなる。
【0096】
図4および図5は、PPPBP-BPAポリマー配合物における、300V/umでのクリアリングカウント(y軸)と、Ra-I(x軸、図4)およびRz-I(x軸、図5)の関係を示すグラフである。図4および5はいずれも、クリアリングカウントが最も高い3つの例(四角形)が中程の範囲のRa-IおよびRz-Iを持つことを示している。これらの配合物は、COCとSEBSとの組み合わせを含んでいる。架橋ポリシルセスキオキサン粒子とスリップ剤とを含み、カウントの低い(5未満)3つの配合物(三角形)は、Ra-Iの範囲の端と、Rz-Iの中程の範囲の低い位置のいずれかに見られる。
【0097】
図6は、300V/umにおけるクリアリングカウント(y軸)と滑り性ランク(x軸)との関係を示すグラフである。図6は、高い滑り性ランクと高いクリアリングカウント(電気的性能がより不良)が相関することを示している。クリアリングカウントが最も高い3つの実施例(四角形)はCOCとSEBSの組み合わせを含んでおり、滑り性ランクはそれぞれ10.0以上である。一方、滑り性ランクが良好(5~10)でカウントの低い(5未満)3つの配合物(三角形)はそれぞれ、架橋ポリシルセスキオキサン粒子とスリップ剤との組み合わせを含んでいる。
【0098】
<実施例1~43>
実施例1~43の配合物および結果を表2~4に示す。別途指示のない限り、フィルムは7μmの厚さに押し出した。各成分の量は質量部である。
【0099】
組成物毎に5つの試料からデータを取り、CoF、引裂き強さ、粗さ、および電気的クリアリングカウント試験に関する5つの値の平均を示した。
【0100】
比較用配合物は、スリップ剤(SEBS、PC-Si、またはPETS)、粗面化剤(COC、PMSS-1、またはPMSS-2)を何も加えない(with none of)もので、アスタリスク(*)付きで示した。
【0101】
入手時のBPA/BPI高温共重合体は、0.35質量%のPETSと、未知量の亜リン酸トリフェニル酸化防止剤とを含んでいた。BPA/BPIを含む配合物について表中に示されているPETSの値は、BPA/BPI中に存在した量と、加えた全ての量との合計を計算したものである。BPA/BPIを含む配合物について表中に示されているAOの量は添加した量のみである。
【表2】
【表3】
【表4】
【0102】
先に論じたように、ダイの条が見える、または欠陥の数の多いフィルムは、電気的データの信頼性が低かった。実施例4、8、28、および29は、Bosch試験でのクリアリングカウントが高く、妥当と考えられる原因はダイの条であった。ダイの条は他の測定値には影響しないようであった。
【0103】
実施例20~26は厚さ5μmで、電圧レベルを厚さについて標準化(normalized)しても、電気的クリアリングカウントは僅かに高くシフトするようである(can sift)。厚さの違いはより高いクリアリングカウントの原因と成り得るが、他の測定値には影響しないと考えられる。
【0104】
実施例1~7は、高温コポリカーボネートと、BPAホモポリカーボネートと、スリップ剤とを含む、7μmのフィルムについて、微粒子状架橋ポリメチルシルセスキオキサンを加えるとフィルムの滑り性評価は良くなるが、電気的クリアリングカウントが僅かに上昇することを示している。微粒子状架橋ポリメチルシルセスキオキサンの量を増やすとフィルムの滑り性評価は更に上がるが、電気的クリアリングカウントが著しく上昇する(実施例2に対する実施例3、および実施例6に対する実施例7)。
【0105】
実施例27~31では、電気的クリアリングカウントが大幅に低下することを期待して、微粒子状架橋ポリメチルシルセスキオキサンの量を0.05質量パーセント(質量%)まで減らしたが、低下はあまり大きくなかった。更に、微粒子状架橋ポリメチルシルセスキオキサンの量を0.5質量%に増やすと、驚くことに、電気的クリアリングカウントは劇的には上昇しなかった。
【0106】
粗面化剤のみを含み、スリップ剤を含んでいない実施例33~35は、10~12の範囲の滑り性ランクと、電気的クリアリングカウントのあまり大きくない上昇を示した。
【0107】
実施例36~43は、ビスフェノールAホモポリカーボネートを使用しないいくつかの配合物において、滑り性ランクは10~12であり、電気的クリアリングカウントが上昇することを示している。
【0108】
図7は、実施例27(PMSS-1を含む)および実施例30(PMSS-2を含む)の、電圧/μmの関数としてクリアリングカウントの累積数を示すグラフである。
【0109】
PC-Si(o)とPMSS-1とPETSとを含む、実施例31のフィルムから製造した大面積電極の、クリアリングの電圧/μmに対するクリアリングの累積数を図8に示す。
【0110】
全体として、実施例は、粗面化剤とスリップ剤とを組み合わせると、効率の良いフィルムの製造および取扱いが可能となり、同時に、高負荷量の粗面化剤またはスリップ剤に伴う、電気的クリアリングカウントの上昇が起きないことを示している。
【0111】
本発明の開示内容を、以下の態様で更に説明する。
【0112】
態様1:65.0~99.85質量%の高温コポリカーボネートと、0.05~0.5質量%の第1粗面化剤と、0.1~15.0質量%の有機スリップ剤と、必要に応じて、2.0~10.0質量%の第2粗面化剤と、必要に応じて、1.0~50.0質量%のビスフェノールAホモポリマーと、必要に応じて、0.02~0.06質量%の酸化防止剤とを含む組成物であって、このときそれぞれの量は組成物の全質量に対してであって、その合計は100質量%であり、高温コポリカーボネートの、水素、酸素、およびフッ素原子の合計に対する炭素原子の数比は1.12未満、望ましくは0.83から1.12未満であり、第1粗面化剤は、微粒子状架橋シリコーンを含み、有機スリップ剤は、四ステアリン酸ペンタエリトリトール、六ステアリン酸ジペンタエリトリトール、三ステアリン酸グリセロール、高密度ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリ(カーボネート-シロキサン)、またはこれらの組み合わせを含む。高温コポリカーボネートは、低温モノマーから誘導した低温ビスフェノール基と、高温ビスフェノールモノマーから誘導した高温ビスフェノール基とを含むことができ、低温モノマーは、そのホモポリカーボネートが、ASTM E1640-13に従った昇温速度1℃/分での測定で、155℃未満のTgを持ち、高温ビスフェノールモノマーは、そのホモポリカーボネートが少なくとも、ASTM E1640-13に従った昇温速度1℃/分での測定で、155℃以上のTgを持つ。
【0113】
態様2:態様1の組成物であって、高温コポリカーボネートは、N-フェニルフェノールフタレイニルビスフェノール-ビスフェノールAコポリカーボネート、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンビスフェノール-ビスフェノールAコポリカーボネート、またはこれらの組み合わせである。
【0114】
態様3:態様1または態様2の組成物であって、高温コポリカーボネート組成物は、ASTM D149に従った、ボール電極を用いる測定で、700V/μmよりも大きい絶縁破壊強さを持つフィルムである。
【0115】
態様4:態様1~3のいずれか1つ以上の組成物であって、第1粗面化剤は、粒子試料の走査型電子顕微鏡による測定で、0.5~2.5μmの平均粒径を持つ微粒子状ポリメチルシルセスキオキサンを含む。
【0116】
態様5:態様1~4のいずれか1つ以上の組成物であって、第2粗面化剤が存在し、第2粗面化剤は環状オレフィン共重合体を含む。
【0117】
態様6:態様1~5のいずれか1つ以上の組成物であって、有機スリップ剤は、5.0~15.0質量%のポリ(カーボネート-シロキサン)を含む。
【0118】
態様7:態様1~6のいずれか1つ以上の組成物であって、有機スリップ剤は、0.1~1質量%の四ステアリン酸ペンタエリトリトールと、3.0~10質量%のポリ(カーボネート-シロキサン)とを含む。
【0119】
態様8:態様1~7のいずれか1つ以上の組成物であって、ビスフェノールAホモポリマーが存在し、その量は望ましくは1.0~35.0質量%である。
【0120】
態様9:態様1~8のいずれか1つ以上の組成物であって、65.0~99.85質量%の高温コポリカーボネートと、0.1~1質量%の四ステアリン酸ペンタエリトリトールと、3.0~10質量%のポリ(カーボネート-シロキサン)と、0.05~0.5質量%の微粒子状ポリメチルシルセスキオキサン粗面化剤とを含み、このときそれぞれの量は組成物の全質量に対してであって、その合計は100質量%であり、高温コポリカーボネートは、N-フェニルフェノールフタレイニルビスフェノール-ビスフェノールAコポリカーボネート、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンビスフェノール-ビスフェノールAコポリカーボネート、またはこれらの組み合わせを含み、微粒子状ポリメチルシルセスキオキサン粗面化剤は、走査型電子顕微鏡による測定で、0.5~2.5μmの平均粒径を持つ。
【0121】
態様10:前記態様のいずれか1つの組成物であって、組成物の全質量に対して2.0~10.0質量%の量の第2粗面化剤を更に含み、第2粗面化剤は環状オレフィン共重合体を含む。
【0122】
態様11:前記態様のいずれか1つの組成物であって、組成物の全質量に対して1.0~50.0質量%の量、望ましくは1.0~35.0質量%の量のビスフェノールAホモポリマーを更に含む。
【0123】
態様12:前記態様のいずれか1つの組成物であって、組成物の全質量に対して0.02~0.06質量%の量の酸化防止剤を更に含む。
【0124】
態様13:態様1~12のいずれか1つ以上の組成物を含む押出しフィルム。
【0125】
態様14:1~10μm、1~7μm、3~7μm、または3~5μmの厚さを持つ、態様13の押出しフィルム。
【0126】
態様15:態様9~12の1つの押出しフィルムであって、このフィルムは、ASTM E1640-13に従った測定で170~250℃のTgと、300V/μmで0~10の Bosch試験クリアリングカウントと、2.5よりも大きい比誘電率と、1.0%未満の散逸率と、の少なくとも1つの特性、望ましくは全ての特性を備えている。
【0127】
態様16:態様13~15のいずれか1つ以上のフィルムと、このフィルムに接している導電性金属層とを含むコンデンサであって、望ましくは、導電層は2.0~125.0Ω/平方メートルの抵抗率を持つ。
【0128】
態様17:態様13~15の1つの押出しフィルム、または態様16のコンデンサを含む電子デバイス。
【0129】
単数形“a”、“an”、および“the”は、文脈が明らかにそうでないことを示していない限り、複数の指示対象を含む。“または(or)”は、文脈が明らかにそうでないことを示していない限り、“および/または(and/or)”を意味する。“その組み合わせ(combination thereof)”は非限定(open)であり、挙げられている成分または特性、必要に応じて、挙げられていない類似または同等の成分または特性も含めて、その少なくとも1つを含む全ての組み合わせを含む。文中で使用している用語“第1(first)”、“第2(second)”等、“一次(primary)”、“二次(secondary)”等は、順番、品質、または重要度を何ら示すものではなく、ある要素と別の要素とを識別するために使用する。同じ要素または特性を対象とする全ての範囲の終点はそこに含まれ、また独立して組み合わせ可能である(例えば、“25質量%以下、または5質量%から20質量%”の範囲は、終点と、“5質量%から25質量%”など、この範囲の中にある全ての値を含む)。より広い範囲に加えて、より狭い範囲またはより詳細な群を開示することは、より広い範囲またはより大きい群の否定ではない。“組み合わせ(combination)”は、混合物(blends、mixtures)、合金、反応生成物などを含む。
【0130】
別途定義のない限り、文中で使用する技術および科学用語は、本発明の属する技術分野の当業者に通常理解されているものと同じ意味を持つ。化合物は標準命名法を用いて記述する。指示された任意の基で置換されていない位置は全て、指示された結合、または水素原子で満たされたその価数を持つものとする。2つの文字または記号に挟まれていないダッシュ("-")は、置換基の結合に使われる位置を示すために使用する。例えば、-CHOは、カルボニル基の炭素で結合している。
【0131】
文中で使用している用語“ヒドロカルビル”および“炭化水素”は、必要に応じて1~3個のヘテロ原子、例えば、酸素、窒素、ハロゲン、ケイ素、硫黄、またはこれらの組み合わせを含む、炭素と水素から成る置換基を広く指しており、“アルキル”は、直鎖または分枝鎖状飽和一価炭化水素基を意味し、“アルキレン”は、直鎖または分枝鎖状飽和二価炭化水素基を意味し、“アルキリデン”は、2つの価標がひとつの共通炭素原子上にある、直鎖または分枝鎖状飽和二価炭化水素基を意味し、“アルケニル”は、炭素-炭素二重結合で結合した少なくとも2個の炭素を含む、直鎖または分枝鎖状一価炭化水素基を意味し、“シクロアルキル”は、少なくとも3個の炭素原子を含む、非芳香族一価単環または多環式炭化水素基を意味し、“アルケニル”は、不飽和度が少なくとも1である、少なくとも2個の炭素原子を含む二価炭化水素基を意味し、“アリール”は、1つ以上の芳香環中に炭素のみを含む芳香族一価基を意味し、“アリーレン”は、1つ以上の芳香環中に炭素のみを含む芳香族二価基を意味し、“アルキルアリーレン”は、先に定義したアルキル基で置換されたアリーレン基を意味し、アルキルアリーレン基の例は4-メチルフェニレンであり、“アリールアルキレン”は、先に定義したアリール基で置換されたアルキレン基を意味し、アリールアルキレン基の例はベンジルであり、“アシル”は、カルボニル炭素橋(-C(=O)-)を経て結合している、示された数の炭素原子を含む先に定義したアルキル基を意味し、“アルコキシ”は、酸素橋(-O-)を経て結合している、示された数の炭素原子を含む先に定義したアルキル基を意味し、“アリールオキシ”は、酸素橋(-O-)を経て結合している、示された数の炭素原子を含む先に定義したアリール基を意味し、“アルキルアリーレンオキシ”は、酸素橋(-O-)を経て結合しているアルキルアリーレン基を意味し、“アリールアルキレンオキシ”は、酸素橋を経て結合しているアリールアルキレンを意味し、“アルケニルオキシ”は、酸素橋を経て結合しているアルケニル基を意味し、“シクロアルコキシ”は、酸素橋を経て結合している、少なくとも3個の炭素原子を含む非芳香族一価単環または多環式炭化水素基を意味する。文中で使用している“縮合した(fused)”は、示された基が、C3~8脂環、C6~13芳香族環、またはC2~12芳香族複素環基に縮合していることを意味する。
【0132】
別途指示のない限り、前述のそれぞれの基は、置換によってその化合物の合成、安定性、または使用に著しい悪影響がない限り、置換されていても置換されていなくても良い。文中で使用している用語“置換された”は、指定された原子または基上の少なくとも1つの水素が、指定された原子の通常の価数を超えないという条件で、別の基で置き換えられていることを意味する。置換基がオキソ(即ち、=O)の場合、その原子上の2つの水素が置き換えられる。置換によってその化合物の合成または使用に著しい悪影響がない限り、置換基を組み合わせても良い。“置換”位置に存在できる基の例としては、シアノ;ニトロ;アルカノイル(アシルなどのC2~6アルカノイル基など);カルボキサミド;C1~6またはC1~3アルキル、シクロアルキル、アルケニル、およびアルキニル(少なくとも1つの不飽和結合と、2~8または2~6個の炭素原子を含む基など);C1~6またはC1~3アルコキシ;C6~10アリールオキシ(フェノキシなど);C1~6アルキルチオ;C1~6またはC1~3アルキルスルフィニル;C1~6またはC1~3アルキルスルホニル;アミノジ(C1~6またはC1~3)アルキル;少なくとも1個の芳香族環を含むC6~12アリール(例えば、フェニル、ビフェニル、ナフチルなど。それぞれの環は置換または非置換芳香族環);1~3個の個別の、または縮合した環と、6~18個の環員炭素原子を含むC7~19アリールアルキル;または、1~3個の個別の、または縮合した環と、6~18個の環員炭素原子を含むアリールアルキレンオキシ(アリールアルキレンオキシの一例はベンジルオキシである)が挙げられる(但し、これらに限定しない)。特定の基に関して示されている炭素原子の数は置換基も含んでいる。
【0133】
引用されている特許、特許出願、その他の参考文献は全て、その内容を全て本件に引用して援用する。本願中の用語が援用している参考文献の用語と矛盾する、または一致しない場合は、本願の用語を優先する。
【0134】
特定の態様について述べてきたが、現時点で予想されていない、または予想されていないと考えられる代替(alternatives)、変更(modifications)、変化(variations)、改善(improvements)、および実質的同等物が、出願者や他の当業者によって考案されることがある。従って、出願時の、および修正の可能性のある添付請求項は、これらの代替、変更、変化、改善、および実質的同等物を全て包含するものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10