(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】量子エラー訂正のための量子情報の伝送のための超伝導インタポーザ
(51)【国際特許分類】
G06N 10/70 20220101AFI20230919BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20230919BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20230919BHJP
H01L 25/065 20230101ALI20230919BHJP
H01L 25/18 20230101ALI20230919BHJP
【FI】
G06N10/70
H01L23/12 Q
H01L25/08 D
(21)【出願番号】P 2021560851
(86)(22)【出願日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2020064208
(87)【国際公開番号】W WO2020254055
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-10-21
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【氏名又は名称】太佐 種一
(72)【発明者】
【氏名】ブロン、ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ボゴリン、ダニエラ
(72)【発明者】
【氏名】グマン、パトリク
(72)【発明者】
【氏名】ハート、シーン
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァデーセ、サルヴァトーレ
【審査官】武田 広太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0043822(US,A1)
【文献】米国特許第10248491(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2016/199029(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0052101(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/70
H10N 60/10
H01L 25/07
H01L 23/12
H01L 25/095
H01L 39/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステムであって、
複数の補助量子ビットを含む補助量子ビット・チップと、
前記補助量子ビット・チップから離間されたデータ量子ビット・チップであり、複数のデータ量子ビットを含む、前記データ量子ビット・チップと、
前記補助量子ビット・チップおよび前記データ量子ビット・チップに結合されたインタポーザであり、誘電体材料および前記誘電体材料に形成された複数の超伝導構造体を含む、前記インタポーザと
を備え、
前記超伝導構造体が、量子エラー訂正のための仮想光子を介して、前記データ量子ビット・チップ上の前記複数のデータ量子ビットと前記補助量子ビット・チップ上の前記複数の補助量子ビットとの間の量子情報の伝送を可能にする、量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステム。
【請求項2】
前記補助量子ビット・チップが、前記複数の補助量子ビットに結合された補助測定共振器であって、前記複数の補助量子ビットを測定するように構成されている、前記補助測定共振器をさらに備える、請求項1に記載の量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステム。
【請求項3】
前記データ量子ビット・チップが、前記複数のデータ量子ビットに結合されたデータ測定共振器であって、前記複数のデータ量子ビットを測定するように構成されている、前記データ測定共振器をさらに備える、請求項2に記載の量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステム。
【請求項4】
前記補助測定共振器が、前記データ測定共振器が測定電子機器に結合されるよりも強く前記測定電子機器に結合されている、請求項3に記載の量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステム。
【請求項5】
前記インタポーザが、第1の表面と、前記第1の表面とは反対側の第2の表面とを含み、
前記補助量子ビット・チップが前記インタポーザの前記第1の表面に結合され、前記データ量子ビット・チップが前記インタポーザの前記第2の表面に結合されている、請求項1に記載の量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステム。
【請求項6】
前記補助量子ビット・チップおよび前記データ量子ビット・チップが前記インタポーザの同じ表面に結合されている、請求項1に記載の量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステム。
【請求項7】
前記複数の超伝導構造体の各超伝導構造体が、前記複数のデータ量子ビットのうちのデータ量子ビットから前記複数の補助量子ビットのうちの補助量子ビットまで延在する、請求項1に記載の量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステム。
【請求項8】
前記データ量子ビットが第1の周波数を有し、前記補助量子ビットが第2の周波数を有し、前記インタポーザに形成された前記超伝導構造体を含む超伝導共振器が第3の周波数を有し、
前記第3の周波数が、前記データ量子ビットと前記補助量子ビットとの間の実光子の転送を防ぐために、前記第1の周波数および前記第2の周波数から十分に離調されている、請求項1に記載の量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステム。
【請求項9】
前記複数のデータ量子ビットの各データ量子ビットについて、前記超伝導構造体が、前記データ量子ビットと前記複数の補助量子ビットのうちの少なくとも2つの補助量子ビットとの間の量子情報の伝送を可能にする、請求項1に記載の量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステム。
【請求項10】
前記複数の補助量子ビットの各補助量子ビットについて、前記超伝導構造体が、前記補助量子ビットと前記複数のデータ量子ビットのうちの少なくとも2つのデータ量子ビットとの間の量子情報の伝送を可能にする、請求項1に記載の量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステム。
【請求項11】
前記補助量子ビット・チップが前記インタポーザに接合されている、請求項1に記載の量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステム。
【請求項12】
前記データ量子ビット・チップが前記インタポーザに接合されている、請求項1に記載の量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステム。
【請求項13】
前記複数の補助量子ビットが複数の周波数調整可能な補助量子ビットを含む、請求項1に記載の量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステム。
【請求項14】
前記補助量子ビットのそれぞれが1μsを超える緩和時間およびコヒーレンス時間を有する、請求項1に記載の量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステム。
【請求項15】
前記データ量子ビットのそれぞれが75μs以上の緩和時間およびコヒーレンス時間を有する、請求項1に記載の量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステム。
【請求項16】
量子エラー訂正のための量子情報を伝送する方法であって、
複数の補助量子ビットを提供することと、
前記複数の補助量子ビットから離間された複数のデータ量子ビットを提供することと、
超伝導マイクロ波伝送線路において仮想光子を介して前記複数のデータ量子ビットから前記複数の補助量子ビットにエラーをマッピングすることと、
前記エラーを検出するために前記複数の補助量子ビットを測定することと、
前記検出されたエラーに基づいて量子エラー訂正を実行することと
を含む、量子エラー訂正のための量子情報を伝送する方法。
【請求項17】
前記複数の補助量子ビットを前記測定することにより、前記複数のデータ量子ビットのパリティが得られる、請求項16に記載の量子エラー訂正のための量子情報を伝送する方法。
【請求項18】
量子コンピュータであって、
封じ込め容器を含む真空下の冷凍システムと、
前記封じ込め容器によって画定された冷凍真空環境内に収容された補助量子ビット・チップであり、複数の補助量子ビットを含む、前記補助量子ビット・チップと、
前記封じ込め容器によって画定された前記冷凍真空環境内に収容されたデータ量子ビット・チップであり、前記補助量子ビット・チップから離間され、複数のデータ量子ビットを含む、前記データ量子ビット・チップと、
前記封じ込め容器によって画定された前記冷凍真空環境内に収容されたインタポーザであり、前記補助量子ビット・チップおよび前記データ量子ビット・チップに結合され、誘電体材料および前記誘電体材料に形成された複数の超伝導構造体を含む、前記インタポーザと
を備え、
前記インタポーザに形成された前記超伝導構造体を含む超伝導共振器が、量子エラー訂正のための仮想光子を介して、前記データ量子ビット・チップ上の前記複数のデータ量子ビットと前記補助量子ビット・チップ上の前記複数の補助量子ビットとの間の量子情報の伝送を可能にする、量子コンピュータ。
【請求項19】
前記複数の超伝導構造体の各超伝導構造体が、前記複数のデータ量子ビットのうちのデータ量子ビットから、前記複数の補助量子ビットのうちの補助量子ビットまで延在する、請求項18に記載の量子コンピュータ。
【請求項20】
前記データ量子ビットが第1の周波数を有し、前記補助量子ビットが第2の周波数を有し、前記インタポーザに形成された前記超伝導構造体を含む前記超伝導共振器が第3の周波数を有し、
前記第3の周波数が、前記データ量子ビットと前記補助量子ビットとの間の実光子の転送を防ぐために、前記第1の周波数および前記第2の周波数から十分に離調されている、請求項19に記載の量子コンピュータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
現在特許請求されている本発明の実施形態は、量子エラー訂正のためのシステムおよび方法に関し、より詳細には、量子エラー訂正のための量子情報の伝送のための超伝導インタポーザに関する。
【0002】
所与の量子プロセッサ上の量子ビットの数が増加するにつれ、特に量子エラー訂正などの用途では、別々のチップ上に形成された量子ビット間で量子情報を移動させる必要がある。現在の最先端技術では、バス共振器などの平面構造を使用して、量子ビット間で量子情報を伝送している。
【発明の概要】
【0003】
本発明の実施形態によると、量子エラー訂正のための量子情報の伝送のためのシステムは、複数の補助量子ビットを含む補助量子ビット・チップと、補助量子ビット・チップから離間されたデータ量子ビット・チップであって、複数のデータ量子ビットを含む、データ量子ビット・チップとを含む。本システムは、補助量子ビット・チップおよびデータ量子ビット・チップに結合されたインタポーザであって、誘電体材料および誘電体材料に形成された複数の超伝導構造体を含む、インタポーザを含む。超伝導構造体は、量子エラー訂正のための仮想光子を介して、データ量子ビット・チップ上の複数のデータ量子ビットと補助量子ビット・チップ上の複数の補助量子ビットとの間の量子情報の伝送を可能にする。
【0004】
本発明の実施形態によると、量子エラー訂正のための量子情報を伝送する方法は、複数の補助量子ビットを提供することと、複数の補助量子ビットから離間された複数のデータ量子ビットを提供することとを含む。本方法は、超伝導マイクロ波伝送線路において仮想光子を介して複数のデータ量子ビットから複数の補助量子ビットにエラーをマッピングすることと、複数の補助量子ビットを測定してエラーを検出することとを含む。本方法は、検出されたエラーに基づいて量子エラー訂正を実行することを含む。
【0005】
本発明の実施形態によると、量子コンピュータは、封じ込め容器を含む真空下の冷凍システムを含む。本システムは、封じ込め容器によって画定された冷凍真空環境内に収容された補助量子ビット・チップであって、複数の補助量子ビットを含む、補助量子ビット・チップを含む。本システムは、封じ込め容器によって画定された冷凍真空環境内に収容されたデータ量子ビット・チップを含む。データ量子ビット・チップは、補助量子ビット・チップから離間されており、複数のデータ量子ビットを含む。本システムは、封じ込め容器によって画定された冷凍真空環境内に収容されたインタポーザを含む。インタポーザは、補助量子ビット・チップおよびデータ量子ビット・チップに結合され、誘電体材料および誘電体材料に形成された複数の超伝導構造体を含む。インタポーザに形成された超伝導構造体を含む超伝導共振器は、量子エラー訂正のための仮想光子を介して、データ量子ビット・チップ上の複数のデータ量子ビットと補助量子ビット・チップ上の複数の補助量子ビットとの間の量子情報の伝送を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の実施形態による量子エラー訂正のための量子情報の伝送のためのシステムの概略図である。
【
図2A】本発明の実施形態による補助量子ビット・チップの上面図の概略図である。
【
図2B】本発明の実施形態によるインタポーザの上面図の概略図である。
【
図2C】本発明の実施形態によるデータ量子ビット・チップの上面図の概略図である。
【
図2D】本発明の実施形態による、
図2Aの補助チップおよび
図2Cのデータ・チップに結合された
図2Bのインタポーザの上面図の概略図である。
【
図3】本発明の実施形態による、補助量子ビットと、補助量子ビットの測定用に構成された補助測定共振器とを含む補助量子ビット・チップの概略図である。
【
図4】本発明の実施形態による、データ量子ビットと、データ量子ビットの測定用に構成されたデータ測定共振器とを含むデータ量子ビット・チップの概略図である。
【
図5】本発明の実施形態によるインタポーザによって
図4のデータ量子ビット・チップに結合された
図3の補助量子ビット・チップの概略図である。
【
図6】インタポーザの同じ表面に結合された補助量子ビット・チップおよびデータ量子ビット・チップの概略図である。
【
図7】本発明の実施形態による、量子エラー訂正のための量子情報の伝送のためのシステムの概略図である。
【
図8】本発明の実施形態による、量子エラー訂正のための量子情報を伝送する方法を示す流れ図である。
【
図9】本発明の実施形態による量子コンピュータの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1は、本発明の実施形態による、量子エラー訂正のための量子情報の伝送のためのシステム100の概略図である。システム100は、複数の補助量子ビット104、106、108を含む補助量子ビット・チップ102を含む。システム100は、補助量子ビット・チップ102から離間されたデータ量子ビット・チップ110を含む。データ量子ビット・チップ110は、複数のデータ量子ビット112、114、116を含む。システム100は、補助量子ビット・チップ102およびデータ量子ビット・チップ110に結合されたインタポーザ118を含む。インタポーザ118は、誘電体120および誘電体120に形成された複数の超伝導構造体122、124、126を含む。超伝導構造体122、124、126は、量子エラー訂正のための仮想光子を介して、データ量子ビット・チップ110上の複数のデータ量子ビット112、114、116と補助量子ビット・チップ102上の複数の補助量子ビット104、106、108との間の量子情報の伝送を可能にする。
【0008】
図1に示すように、本発明の実施形態によるインタポーザ118は、第1の表面128と、第1の表面128とは反対側の第2の表面130とを含む。補助量子ビット・チップ102は、インタポーザ118の第1の表面128に結合され、データ量子ビット・チップ110は、インタポーザ118の第2の表面130に結合されている。
【0009】
本発明の実施形態によると、複数の超伝導構造体の各超伝導構造体は、複数のデータ量子ビットのうちのデータ量子ビットから、複数の補助量子ビットのうちの補助量子ビットまで延在する。例えば、
図1では、超伝導構造体122は、データ量子ビット112から補助量子ビット104まで延在する。本発明の実施形態によると、データ量子ビット112は、第1の周波数を有し、補助量子ビット104は、第2の周波数を有し、超伝導構造体122、はんだバンプ132および138、ならびにチップ102および110上の直角コンデンサ・カプラを含む超伝導共振器は、第3の周波数を有する。インタポーザに形成された超伝導構造体122は、超伝導共振器の一部を形成するため、量子情報の伝送を可能にする。超伝導共振器はまた、はんだバンプ132および138、ならびにはんだバンプ132および138にガルバニックに結合された補助量子ビット・チップおよびデータ量子ビット・チップ上の構造体を含むことができる。補助量子ビット・チップおよびデータ量子ビット・チップ上の構造体は、図の場合のように、コプレーナ導波路伝送線路であってもよいが、本発明の実施形態は、コプレーナ導波路伝送線路に限定されない。一部の実施形態では、超伝導構造体122自体が超伝導共振器を形成してもよい。
【0010】
本明細書で第3の周波数と呼ばれる超伝導共振器の周波数は、データ量子ビットと補助量子ビットとの間の実光子の転送を防ぐために、第1の周波数および第2の周波数から十分に離調されている。代わりに、量子情報は、仮想光子の転送によってデータ量子ビット112および補助量子ビット104から転送される。仮想光子の転送は、データ量子ビット112に記憶されている量子情報が電磁的なパーセル効果の影響を受けないことを保証する。仮想光子の転送はまた、インタポーザ118を形成する絶縁材料の誘電損失の影響から量子情報を保護する。
【0011】
本発明の実施形態によると、補助量子ビット・チップは、インタポーザに接合されている。
図1では、補助量子ビット・チップ102は、複数のはんだバンプ132、134、136を使用してインタポーザ118に接合されている。はんだバンプは、補助量子ビット104、106、108を超伝導構造体122、124、126に結合する。
図1に示すように、はんだバンプは、超伝導構造体122、124、126にガルバニックに結合され、補助量子ビット104、106、108に容量結合されていてもよい。本発明の実施形態は、
図1に示す特定の数の補助量子ビット、データ量子ビット、および超伝導構造体、ならびにはんだバンプに限定されない。
【0012】
本発明の実施形態によると、データ量子ビット・チップは、インタポーザに接合されている。
図1では、データ量子ビット・チップ110は、複数のはんだバンプ138、140、142を使用してインタポーザ118に接合されている。
図1に示すように、はんだバンプは、超伝導構造体122、124、126にガルバニックに結合され、データ量子ビット112、114、116に容量結合されていてもよい。はんだバンプは、超伝導材料から形成されてもよいが、本発明の実施形態は、超伝導材料から形成されたはんだバンプに限定されない。はんだバンプの材料の一例は、インジウムである。本発明の実施形態によるシステム100は、複数の補助量子ビット・チップおよびデータ量子ビット・チップを含むことができる。補助量子ビット・チップおよびデータ量子ビット・チップは、単一のインタポーザまたは複数のインタポーザに接合されていてもよい。
【0013】
図2Aは、本発明の実施形態による補助量子ビット・チップ200の上面図の概略図である。補助量子ビット・チップ200は、3つの補助量子ビット202、204、206を含む。しかしながら、本発明の他の実施形態による補助量子ビット・チップは、特定の数の補助量子ビットに限定されない。他の実施形態では、3つよりも多い、または3つよりも少ない補助量子ビットがあってもよい。
【0014】
図2Bは、インタポーザ208の上面図の概略図である。インタポーザは、複数の超伝導構造体210、212、214、216を含む。超伝導構造体は、例えば、超伝導ビアであってもよい。超伝導ビアは、インタポーザ内に部分的または全体的に形成された超伝導伝送線路共振器の一部である可能性がある。超伝導構造体は、例えば、ニオブ、アルミニウム、スズ、電気めっきされたレニウム、またはインジウムのうちの1つまたは複数から形成されてもよい。
図2Bの実施形態は、4つの超伝導構造体210、212、214、216の例を示すが、他の実施形態は、4つよりも少ないまたは4つよりも多い超伝導構造体を有することができる。
【0015】
図2Cは、データ量子ビット・チップ218の上面図の概略図である。データ量子ビット・チップ218は、2つのデータ量子ビット220、222を含む。データ量子ビット・チップの他の実施形態は、2つよりも多いまたは少ないデータ量子ビットを有することができる。
【0016】
図2Dは、補助チップおよびデータ・チップに結合されたインタポーザの上面図の概略図である。補助量子ビット202、204、206およびデータ量子ビット220、222は、超伝導構造体210、212、214、216によって互いに接続されている。
【0017】
本発明の実施形態は、量子エラー訂正のための量子情報の伝送を可能にする。量子エラー訂正では、しばしば、多数のデータ量子ビットと補助量子ビットを互いに結合させる必要がある。データ量子ビットは、比較的長い緩和時間およびコヒーレンス時間を有する量子ビットであるが、補助量子ビットは、比較的短い緩和時間およびコヒーレンス時間を有する量子ビットであってもよい。量子情報は、データ量子ビットの集合体にわたって分散されている。データ量子ビットは、量子情報のエラーがデータ量子ビットから補助量子ビットにマッピングされるように、補助量子ビットに結合されている。補助量子ビットを測定して、エラーを検出または訂正あるいはその両方をすることができる。
【0018】
限定されないが、表面コード、ショア・コード、ステイン・コードなどの量子エラー訂正アルゴリズムでは、補助量子ビットを頻繁に測定する必要がある。これらの測定値は、補助量子ビットが結合されているデータ量子ビットに関する情報を提供し、またデータ量子ビットを安定化させる。測定の周波数は、高速測定を必要とし、これは補助量子ビットに結合された測定共振器と環境との間の強い結合を必要とする。強い結合により、補助量子ビットの高速測定が可能になるが、補助量子ビットが環境ノイズの影響をより受けやすくもなり、パーセル効果によって補助量子ビットの自然崩壊率が増加する。この強い結合がデータ量子ビットに対して行われると、データ量子ビットの量子状態の寿命が短くなる。
【0019】
本発明の実施形態は、補助量子ビットと環境との間の強い結合を可能にする一方で、データ量子ビットと環境との間の結合を低減することができる。補助量子ビットは、データ量子ビットから物理的に分離され、インタポーザに形成された超伝導構造体によってデータ量子ビットに結合されている。
【0020】
物理的な分離により、データ量子ビット・チップおよび補助量子ビット・チップの形成に異なる材料およびプロセスを使用することも可能になる。両方のチップは、複数の量子ビットを含むことができるが、データ量子ビットおよび補助量子ビットの品質要件は、大きく異なる場合がある。補助量子ビットに対する要件は、それらが測定される頻度に基づいている場合がある。一部の実施形態によると、補助量子ビットの測定サイクルは、約1μsであってもよく、そのため補助量子ビットは、1μsを超える、例えば、数マイクロ秒のオーダのコヒーレンス時間を有することができる。このような量子ビットに対する材料要件は、データ量子ビットなどの高品質の量子ビットを形成するために使用される材料要件ほどは厳しくない。さらに、補助量子ビット・チップは、補助量子ビットの周波数を変化させることができるリソグラフィなどの製造方法を使用して形成および修正することができる。補助量子ビット・チップは、補助量子ビットが調整可能な量子ビットとなるように形成することもできる。調整可能な量子ビットを有することは、システム制御に役立つ可能性があるが、調整可能な量子ビットを形成するプロセスでは、量子ビットに結合されたマイクロ波共振器の接地面を壊す必要がある場合がある。これは、磁束ノイズの影響の受けやすさおよびスプリアス・マイクロ波モードがもたらされるため、データ量子ビットにとって望ましくない可能性があるが、比較的短いコヒーレンス時間が許される補助量子ビットには許容可能である場合がある。
【0021】
本発明の実施形態によると、インタポーザは、例えば、プリント回路板、有機ラミネート、シリコン・チップ、セラミック、FR-4などのガラス強化エポキシ・ラミネート材料、デュロイド、またはポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)である誘電体材料を含む。
【0022】
本発明の実施形態によると、補助量子ビット・チップは、複数の補助量子ビットに結合された補助測定共振器を含む。補助測定共振器は、複数の補助量子ビットを測定するように構成されている。補助測定共振器は、例えば、超伝導マイクロ波コプレーナ導波路共振器であってもよい。
図3は、補助量子ビット302と、補助量子ビット302の測定のために構成された補助測定共振器304とを含む補助量子ビット・チップ300の概略図である。補助測定共振器304は、測定および制御機器に補助量子ビット302を容量結合することができる。
図3は、補助測定共振器304および補助量子ビット302を、測定および制御機器のためのポート308に容量結合するコンデンサ306を示す。
【0023】
本発明の実施形態によると、データ量子ビット・チップは、複数のデータ量子ビットに結合されたデータ測定共振器を含む。データ測定共振器は、例えば、超伝導マイクロ波共振器であってもよい。
図4は、データ量子ビット402と、データ量子ビット402の測定のために構成されたデータ測定共振器404とを含むデータ量子ビット・チップ400の概略図である。
図4は、データ測定共振器404およびデータ量子ビット402を、測定および制御機器のためのポート408に容量結合するコンデンサ406を示す。
【0024】
図5は、インタポーザによって
図4のデータ量子ビット・チップ400に結合された
図3の補助量子ビット・チップ300の概略図である。
図5に示すように、補助量子ビット502および補助測定共振器504を測定および制御機器に結合するコンデンサ500は、データ量子ビット508およびデータ測定共振器510を測定および制御機器に結合するコンデンサ506よりもはるかに大きい。補助測定共振器504と読み出し電子機器との間の強い結合により、補助量子ビット502の高速測定が可能となる。これは、1μs当たり1回程度の測定サイクルが必要になる可能性がある量子エラー訂正に有用である。対照的に、データ量子ビット508は、1μsごとではなく、量子アルゴリズムが完了したときにのみ読み取られればよいため、データ測定共振器510は、測定電子機器に弱く結合されている。弱い結合を補うために、より長い測定時間を使用してもよい。データ量子ビット508と測定電子機器との間の弱い結合は、データ量子ビット508のコヒーレンスを維持するのに役立つ。データ量子ビット508は、例えば、75μsを超える緩和時間およびコヒーレンス時間を有することができる。データ量子ビット508は、例えば、100μsのオーダである緩和時間およびコヒーレンス時間を有することができる。
【0025】
図1に示す構成の代替として、補助量子ビット・チップおよびデータ量子ビット・チップは、インタポーザの同じ表面に結合されてもよい。
図6は、インタポーザ606の同じ表面604に結合された補助量子ビット・チップ600およびデータ量子ビット・チップ602の概略図である。
【0026】
本発明の実施形態によると、複数のデータ量子ビットの各データ量子ビットについて、超伝導構造体は、データ量子ビットと複数の補助量子ビットのうちの少なくとも2つの補助量子ビットとの間の量子情報の伝送を可能にする。同様に、複数の補助量子ビットの各補助量子ビットについて、超伝導構造体は、補助量子ビットと複数のデータ量子ビットのうちの少なくとも2つのデータ量子ビットとの間の量子情報の伝送を可能にしてもよい。測定を行っても量子情報が破壊されないように、少なくとも2つのデータ量子ビットから補助量子ビットに量子情報をマッピングしてデータ量子ビットの固有状態の測定を可能にすることができる。
【0027】
図7は、本発明の実施形態による、量子エラー訂正のための量子情報を伝送するためのシステム700の概略図である。補助量子ビット・チップ704上の補助量子ビット702は、2つの超伝導構造体706、708に結合されている。超伝導構造体は、補助量子ビット702と2つのデータ量子ビット710、712との間の量子情報の伝送を可能にする。別の超伝導構造体714は、データ量子ビット712と第2の補助量子ビット716との間の量子情報の伝送を可能にする。
図7の量子ビットのうちの2つだけが2つの他の量子ビットに結合されるように示されているが、補助チップおよびデータ・チップ上の量子ビットのそれぞれは、超伝導構造体によって他のチップ上の2つ以上の量子ビットに結合されてもよい。例えば、表面コードなどの量子エラー訂正コードでは、各データ量子ビットを複数の補助量子ビットに結合し、各補助量子ビットを複数のデータ量子ビットに結合する必要がある場合がある。表面コードの例では、CNOTゲートを使用して、超伝導構造体を通して交換される仮想光子を介して、データ量子ビットから補助量子ビットにエラーをマッピングすることができる。補助量子ビットを測定することにより、例えば表面コードにおけるデータ量子ビットのパリティが得られる。パリティは、ベル状態の固有値であるため、補助量子ビットの測定により、データ量子ビットの量子情報が安定化する。本明細書では表面コードについて論じているが、本発明の実施形態は、表面コードに限定されない。他の量子エラー訂正アルゴリズムを使用することができる。
【0028】
図8は、本発明の実施形態による、量子エラー訂正のための量子情報を伝送する方法800を示す流れ図である。方法800は、複数の補助量子ビットを提供すること802と、複数の補助量子ビットから離間された複数のデータ量子ビットを提供すること804とを含む。方法800は、超伝導マイクロ波伝送線路において仮想光子を介して複数のデータ量子ビットから複数の補助量子ビットにエラーをマッピングすること806を含む。方法800は、複数の補助量子ビットを測定してエラーを検出すること808と、検出されたエラーに基づいて量子エラー訂正を実行すること810とをさらに含む。
【0029】
本発明の実施形態によると、複数の補助量子ビットを測定すること808により、複数のデータ量子ビットのパリティが得られる。
【0030】
図9は、本発明の実施形態による量子コンピュータ900の概略図である。量子コンピュータ900は、封じ込め容器902を含む真空下の冷凍システムを含む。量子コンピュータ900は、封じ込め容器902によって画定された冷凍真空環境内に収容された補助量子ビット・チップ904を含む。補助量子ビット・チップ904は、複数の補助量子ビット906、908、910を含む。量子コンピュータ900は、封じ込め容器902によって画定された冷凍真空環境内に収容されたデータ量子ビット・チップ912を含む。データ量子ビット・チップ912は、補助量子ビット・チップ904から離間されており、複数のデータ量子ビット914、916、918を含む。量子コンピュータ900は、封じ込め容器902によって画定された冷凍真空環境内に収容されたインタポーザ920を含む。インタポーザ920は、補助量子ビット・チップ904およびデータ量子ビット・チップ912に結合され、誘電体材料922および誘電体材料922に形成された複数の超伝導構造体924、926、928を含む。超伝導構造体924、926、928は、量子エラー訂正のための仮想光子を介して、データ量子ビット・チップ912上の複数のデータ量子ビット914、916、918と補助量子ビット・チップ904上の複数の補助量子ビット906、908、910との間の量子情報の伝送を可能にする。
【0031】
本発明の実施形態による量子コンピュータは、複数の補助量子ビット・チップ、データ量子ビット・チップ、およびインタポーザを含むことができる。さらに、本発明の実施形態は、
図9に示す特定の数の補助量子ビット、データ量子ビット、および超伝導構造体、ならびにはんだバンプに限定されない。
【0032】
本発明の実施形態は、部分的に埋め込まれたマイクロ波伝送線路バス共振器を有する誘電体インタポーザを使用して、量子情報の転送を可能にする。量子情報は、共振器において仮想光子を介して伝達される。仮想光子を使用することで、電磁的なパーセル効果または材料の誘電損失のために量子情報が失われないことが確実になる。量子ビット・チップを、データ量子ビットを含むもの(長寿命で高品質の量子ビット)と、補助量子ビットを含むもの(高速測定および制御を必要とし、したがって損失チャネルの影響を受けやすい)とに分離することによって、超伝導インタポーザを使用して、エラーを補助量子ビットにマッピングすることができる。
【0033】
本発明の様々な実施形態の説明は、例示の目的で提示されてきたが、網羅的であることを意図するものではなく、または開示された実施形態に限定されることを意図するものではない。説明される実施形態の範囲および思想から逸脱することなく、多くの修正形態および変形形態が当業者には明らかであろう。本明細書で使用される用語は、実施形態の原理、市場で見られる技術に対する実際の適用または技術的改善を最もよく説明するため、または当業者が本明細書に開示される実施形態を理解できるようにするために選択された。