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特許7350885溶解性ポリマー製眼用インサート及びその使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】溶解性ポリマー製眼用インサート及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/36 20060101AFI20230919BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230919BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230919BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230919BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20230919BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230919BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230919BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230919BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230919BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230919BHJP
   A61F 9/007 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
A61K47/36
A61K47/10
A61K47/22
A61K47/14
A61K9/00
A61K45/00
A61P27/02
A61P27/06
A61P37/08
A61P29/00
A61F9/007 170
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021561006
(86)(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-01
(86)【国際出願番号】 IB2020054148
(87)【国際公開番号】W WO2020222195
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】62/841,901
(32)【優先日】2019-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/927,885
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520000722
【氏名又は名称】アルコン インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ケテルソン,ハワード・アレン
(72)【発明者】
【氏名】ランガージャン,レカー
(72)【発明者】
【氏名】ラレド,ウォルター・アール
(72)【発明者】
【氏名】コリンズ,ステファン・ジョン
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-075547(JP,A)
【文献】特表2010-518116(JP,A)
【文献】Indonesian Journal of Clinical Pharmacy,2015年,Vol. 4, No. 4,pp. 281-288,DOI:10.15416/ijcp.2015.4.4.281
【文献】International Journal of Pharmaceutics,1989年,Vol. 51, No. 3,pp. 203-212,DOI:10.1016/0378-5173(89)90193-2
【文献】Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol,2011年,Vol. 249, No. 10,pp. 1503-1510,DOI:10.1007/s00417-011-1703-z
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
9/00-9/72
45/00
A61P 1/00-43/00
A61F 9/007
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー製眼用インサートであって、前記インサートは、
眼の眼球表面と涙膜とに生体適合性の1種以上の粘膜付着性ポリマー、及び可塑剤又は柔軟剤を含み、前記1種以上の粘膜付着性ポリマーが、ヒドロキシプロピルグアー(HPグアー)、ヒアルロン酸、又はヒアルロン酸ナトリウムであり、前記1種以上の粘膜付着性ポリマーが、前記ポリマー製眼用インサートの80%~90%w/wの量で存在し、前記眼の結膜嚢に前記ポリマー製眼用インサートを挿入する際に、少なくとも挿入30分後に前記涙膜の厚さを増大させる、ポリマー製眼用インサート。
【請求項2】
前記可塑剤又は前記柔軟剤が、
ポリエチレングリコール(PEG)、水、ビタミンE、及びクエン酸トリエチルからなる群から選択される、請求項に記載のポリマー製眼用インサート。
【請求項3】
前記可塑剤又は前記柔軟剤が、前記ポリマー製眼用インサートの2~30%w/w、5~25%w/w、5~20%w/w、又は5~15%w/wの量で存在する、請求項に記載のポリマー製眼用インサート。
【請求項4】
前記可塑剤又は前記柔軟剤がPEGである、請求項又はに記載のポリマー製眼用インサート。
【請求項5】
前記インサートが、約40%w/wのHPグアー、約10%w/wのPVP、約40%w/wのヒアルロン酸ナトリウム、及び約10%w/wのPEGから構成される、請求項1~のいずれか一項に記載のポリマー製眼用インサート。
【請求項6】
1~200ppmのメントールを更に含む、請求項1に記載のポリマー製眼用インサート。
【請求項7】
20~100ppmのメントールを更に含む、請求項に記載のポリマー製眼用インサート。
【請求項8】
前記インサートが、追加の薬学的活性剤を含まない、請求項1に記載のポリマー製眼用インサート。
【請求項9】
前記インサートが、1種以上の薬学的活性剤を含む、請求項1に記載のポリマー製眼用インサート。
【請求項10】
前記1種以上の薬学的活性剤が、一酸化窒素供与体でないアトロピン誘導体、一酸化窒素とのコドラッグであるトラボプロスト、潤滑剤、ステロイド、抗生物質、非ステロイド性抗炎症剤、抗ヒスタミン剤、抗ウイルス剤、抗菌薬、血管収縮剤、及びプロスタグランジン類似体からなる群から選択される、請求項に記載のポリマー製眼用インサート。
【請求項11】
前記涙膜の厚さが、挿入約2時間後まで挿入前の厚さに戻らない、請求項1に記載のポリマー製眼用インサート。
【請求項12】
前記眼の前記結膜嚢に挿入する際に、少なくとも挿入2時間後に前記涙膜の前記厚さを増大させる、請求項1に記載のポリマー製眼用インサート。
【請求項13】
前記インサートの形状が、任意の単一次元で5~6mmの最大サイズを有するフィルム、ロッド、球体、環、又は不規則形状である、請求項1に記載のポリマー製眼用インサート。
【請求項14】
前記インサートが、円形形状で、約5mmの直径、50~400μmの厚さ、1%~50%w/wの含水量を有する、請求項13に記載のポリマー製眼用インサート。
【請求項15】
前記インサートが、150~250μmの厚さを有し、30~50%w/wの含水量を有する、請求項14に記載のポリマー製眼用インサート。
【請求項16】
前記HPグアーが2~4百万ダルトンの重量平均分子量を有し、前記ヒアルロン酸ナトリウムが0.1~2百万ダルトンの重量平均分子量を有する、請求項に記載のポリマー製眼用インサート。
【請求項17】
前記眼の結膜嚢に前記ポリマー製眼用インサートを適用することを含む、眼疾患を治療する方法において使用するための、請求項1~16のいずれか一項に記載のポリマー製眼用インサート。
【請求項18】
前記眼疾患が、ドライアイ、眼発赤、近視、緑内障、アレルギー、及び炎症からなる群から選択される、請求項17に記載のポリマー製眼用インサート
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載される発明は、Novartis Pharma AGとAlcon Inc.との共同研究契約に準拠する。
【0002】
本開示は、一般にポリマー製眼用インサート技術に関し、より詳細には、局所用滴剤での投薬形態と比較して、長時間にわたる持続時間で潤滑剤及び薬剤を眼球(前眼部及び後眼部が挙げられるがこれらに限定されない)に放出する、溶解性ポリマー製眼用インサートに関する。
【背景技術】
【0003】
多くの眼科用製剤には、潤滑性及び他の望ましい特性をもたらす化合物が含まれている。これらの製剤が点眼されると、そのような化合物の特性によって、生体接着性及び摩擦によって誘発される組織損傷の形成などの望ましくない問題を防止することができ、加えて自然治癒及び以前に損傷を受けた組織の修復を促すことができる。
【0004】
特にドライアイ、アレルギー、感染症、及び緑内障などの徐々に進行する疾患を治療するための、液剤、軟膏、ゲル、スプレーなどの局所的に適用される眼科用製剤の投与には服薬遵守が低いものが多く、眼に潤いを与え、薬物を送達するために、1日に複数回の適用が必要となる。局所的に投与された水性製剤への暴露は、多くの場合、眼球表面に製剤が留まる時間が短いことに起因して、点眼後25分未満となる場合がある。Paugh et al.,Optom Vis Sci.2008 Aug;85(8):725-31。眼球に使用される典型的な水性製剤は、数分内に眼球表面で希釈されるか又は眼球表面から洗い流されてしまう可能性があり、用法にばらつきが生じるか、又は眼に投与されるのにそれほど正確で厳密でない投与量となる結果となる。したがって、治療の負担を減らし、服薬遵守を向上させることが必要とされている。
【0005】
極めて粘稠な、通常は液剤よりも長時間眼内に留まる軟膏及びゲルは、より正確な投与をもたらすことができる。しかしながら、それらはまた、患者の視界を妨げ、最低でも1日に2~3回の投与が必要となる可能性がある。これらの理由及び他の理由のため、使用を中断する割合が極めて高いものとなり得る。Swanson,M.,J.Am.Optom.Assoc.,2011;10:649-6。
【0006】
インサートには生体内分解性のものと非生体内分解性のものが両方あるが、これらもまた利用可能であり、それほど頻繁でない投与が可能である。Pescina S et al.,Drug Dev Ind Pharm;2017 May 7:1-8;Karthikeyan,MB et al.,Asian J.Pharmacol;2008;Oct-Dec.192-200。しかしながら、これらのインサートは、複雑で精緻に調製することが必要とされ、且つ患者にとって不快である可能性がある。非生体内分解性インサートの更なる問題は、使用後に取り外さなければならないことである。しかしながら、適切な使用及び十分な患者への教育によって、インサートはドライアイ患者にとって効果的で安全な治療の選択肢となり得る。
【0007】
LACRISERT(登録商標)(Aton Pharmaceuticals Inc.)などのヒドロキシプロピルセルロース製の眼科用インサートが、ドライアイ患者に使用されている。これらのインサートは、直径1.27mm及び長さ3.5mmの半透明のセルロースベースのロッドである。これらのインサートの各々は、5mgのヒドロキシプロピルセルロースを含有し、防腐剤又は他の成分を含まない。薬物は、瞼板の底部の下の眼の結膜嚢の内部に単一のインサートを配置することによって投与される。これらのインサートは、特に、人工涙液による適切な試験治療の後にドライアイの症状が続く患者に指示される。それらはまた、乾性角結膜炎、兎眼性角膜炎、角膜知覚の低下、及び再発性角膜びらん患者に指示される。HPC製の眼科用インサートの有効性を評価するために、いくつかの試験が実施されている。(Luchs,J,et al.,Cornea,2010;29:1417-1427;Koffler B,et al.,Eye Contact Lens;2010;36:170-176;McDonald M,et al.,Trans Am Ophthalmol.Soc.,2009;107:214-221;Wander A,and Koffler B,Ocul Surf.2009 Jul;7(3):154-62)。
【0008】
しかしながら、これらの種類のインサートを使用するには課題もある。例えば、LACRISERT(登録商標)インサートは、ゆっくりと溶解する傾向があり、15~20時間後であっても眼の中に残っている可能性がある。ロッド形状の設計であるため、ロッドは端部が硬質で非弾性である。ロッドの硬さ及び設計と相まって、このゆっくりとした溶解特性は、かすみ目、異物感及び/又は不快感、眼球刺激又は充血、過敏性、羞明、眼瞼浮腫、睫毛上の粘着性物質の固化若しくは乾燥を含む副作用をもたらす恐れがある。これらのヒドロキシプロピルセルロース製の眼科用インサートの最も一般的な副作用は、インサートが留まる時間が長いことによるかすみ目である。したがって、快適で患者の服薬遵守を向上させるポリマー製眼用インサートを開発するための、更なる手法が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリマー製眼用インサートを提供するものであり、インサートは、眼の眼球表面と涙膜とに生体適合性の1種以上の粘膜付着性ポリマーを含み、眼の結膜嚢にポリマー製眼用インサートを挿入する際に、少なくとも挿入30分後に涙膜の厚さを増大させる。本発明はまた、本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートの挿入を眼の結膜嚢に適用することを含む、眼疾患を治療する方法を提供する。
【0010】
本発明は、LACRISERT(登録商標)インサートなどの商業的に入手可能な眼科用インサートを使用する時に、ゆっくりと溶解する傾向があり、15~20時間後であっても眼の中に残っているという問題を発見したことに部分的に基づくものである。本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートを使用することにより、この問題を解決することができるが、このポリマー製眼用インサートは、眼の結膜嚢に嵌め込むのに十分小さく、挿入時にほとんど又は全く刺激がないように速やかに湿潤し、また、インサートは潤滑剤及び/又は薬学的活性剤を放出して発生させることができるように、約30~120分の範囲にわたって溶解することが可能なほど十分大きいものである。インサートはまた、使用者にとって比較的快適な厚さを有する。好ましい厚さは50~250ミクロンであり、最も好ましい厚さは70~150ミクロンである。2時間未満で溶解するフィルムの目標となる厚さは90ミクロンである。
【0011】
本発明をより完全に理解するために、ここで、添付の図面と併せて以下の説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の実施形態による、ポリマー製眼用インサートの配置を示す。
図2A-2C】SYSTANE(登録商標)ULTRA点眼薬の投与前(図2A)、投与直後(図2B)、及び投与5分後(図2C)の涙膜の測定値を示す。
図3A-3C】GENTEAL(登録商標)ゲル滴剤の投与前(図3A)、投与直後(図3B)、及び投与5分後(図3C)の涙膜の測定値を示す。
図4A-4E】PROVISC(登録商標)注射剤の投与前(図4A)、投与直後(図4B)、投与5分後(図4C)、投与10分後(図4D)及び投与20分後(図4E)の涙膜の測定値を示す。
図5A-5I】本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートの挿入に関する涙膜の測定値を反映したものである。
図6A】本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートを使用した涙膜の平均測定値を反映したものである。
図6B】本開示の実施形態による、個々の動物による涙膜の測定値を反映したものである。
図6C】本開示の一実施形態による、眼の下部、眼の上部、側頭、及び鼻を含む眼の位置に基づいた涙膜の測定値を反映したものである。
図7A】本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートに関する涙膜の厚さの動的な変化を反映したものである。
図7B】本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートに関する、位置(頂点、鼻、側頭、上部及び下部)ごとの涙膜の測定値を反映したものである。
図8】右眼及び左眼のGENTEAL(登録商標)ゲルの涙膜の平均測定値を反映したものである。
図9】涙膜の厚さのデータを投与後の経過時間の関数として反映したものである。
図10A-10C】本開示の実施形態による、様々なポリマー製眼用インサートの形状及び特徴を図示する。
図11】本開示の実施形態による2つの実施形態(厚いインサート及び薄いインサート)の主要評価項目(快適性評価)の結果を図示する。
図12】本開示の実施形態による2つの実施形態(厚いインサート及び薄いインサート)の副次評価項目(かすみ目)の結果を図示する。
図13】本開示の実施形態のポリマー製眼用インサートの溶解についての評価の結果を図示する。
図14】本開示による2つの実施形態(厚いインサート及び薄いインサート)の副次評価項目(NITBUT)の結果を図示する。
図15】本開示による2つの実施形態(厚いインサート及び薄いインサート)の副次評価項目(涙液メニスカスの高さ)の結果を図示する。
図16】本開示による2つの実施形態(厚いインサート及び薄いインサート)の眼球刺激についての質問の結果を図示する。
図17】本開示による2つの実施形態(厚いインサート及び薄いインサート)の眼球の乾燥についての質問の結果を図示する。
図18】本開示による2つの実施形態(厚いインサート及び薄いインサート)の眼球の灼熱感/刺痛感についての質問の結果を図示する。
図19】本開示による2つの実施形態(厚いインサート及び薄いインサート)の眼球の掻痒感についての質問の結果を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の実施形態は、1種以上のポリマーを含有する眼用潤滑剤を含む、ポリマー製眼用インサートを提供する。本開示の実施形態では、ポリマー製眼用インサートは、ヒアルロン酸、ヒドロキシプロピルグアー(HPグアー)、及びポリエチレングリコール(PEG)などの可塑剤から構成されていてもよい。しかしながら、本明細書に記載されるように、本開示から逸脱することなく他のポリマー及び可塑剤/柔軟剤を使用してもよい。本開示の実施形態によるインサートは、眼の下眼瞼(結膜嚢としても知られている)内に挿入することができ、挿入されると、涙を速やかに吸収し、涙膜に眼用潤滑剤を放出するように溶解して、既に公知の局所用の眼科用組成物よりも優れた、長時間にわたる持続時間で眼球表面を潤滑して保護することができる。薬学的活性剤もまた、本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートに組み込まれていてもよい。本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートを挿入することによって、ドライアイの症状並びに他の眼の状態からの緩和を患者にもたらすことが可能となる。
【0014】
本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートを形成するための生体材料は、眼球表面及び涙膜と生体適合性の1種以上のポリマーから構成されていてもよい。本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートに使用することができるポリマーとしては、ヒアルロン酸(酸形態又は塩形態)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース、タマリンド種子多糖体(TSP)、ガラクトマンナン、例えばヒドロキシプロピルグアー(HPグアー)などのグアー及びその誘導体、スクレログルカンポロキサマー、ポリ(ガラクツロン)酸、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、キシログルカンガム、キトサン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリジン、カルボマー、ポリアクリル酸及び/又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
好ましい生体適合性ポリマーは、ヒアルロン酸、グアー及び誘導体、並びに/又はこれらの組み合わせである。ヒアルロン酸は、β-1,4及びβ-1,3のグリコシド結合が交互に生じることによって共に連結されたN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)とグルクロン酸(GlcUA)との二糖単位の繰り返しから構成される非硫酸化グリコサミノグリカンである。ヒアルロン酸は、ヒアルロナン、ヒアルロナート、又はHAとしても知られている。本明細書で使用する場合、ヒアルロン酸という用語には、ヒアルロン酸ナトリウムなどのヒアルロン酸の塩形態も含まれる。好ましいヒアルロン酸は、ヒアルロン酸ナトリウムである。本発明のインサートに使用されるヒアルロン酸の重量平均分子量は変動してもよいが、典型的には0.1~2.0Mダルトンの重量平均分子量である。一実施形態では、ヒアルロン酸は、0.5~1Mダルトンの重量平均分子量を有する。別の実施形態では、ヒアルロン酸は、1.5~2.0Mダルトンの重量平均分子量を有する。
【0016】
本発明のガラクトマンナンは、複数の供給源から得てもよい。そのような供給源としては、コロハガム、グアーガム、ローカストビーンガム、及びタラガムからのものが挙げられる。更に、ガラクトマンナンはまた、古典的な合成ルートによって得てもよく、又は自然発生のガラクトマンナンを化学修飾することによって得てもよい。本明細書で使用する場合、「ガラクトマンナン」という用語は、主な構成成分として、上記の天然ガム、又はマンノース若しくはガラクトース部分を含有する類似の天然若しくは合成ガム、又はその両方の群に由来する多糖体を意味する。本発明の好ましいガラクトマンナンは、(1-6)結合によって連結されたα-D-ガラクトピラノシル単位を有する(1-4)-β-D-マンノピラノシル単位の直鎖から構成される。好ましいガラクトマンナンに関して、D-ガラクトースとD-マンノースの比率は変動するが、一般的には約1:2~1:4となる。D-ガラクトース:D-マンノース比が約1:2のガラクトマンナンが最も好ましい。更に、他の化学修飾された多糖体の変形形態も「ガラクトマンナン」の定義に含まれる。例えば、本発明のガラクトマンナンに、ヒドロキシエチル置換、ヒドロキシプロピル置換及びカルボキシメチルヒドロキシプロピル置換を行ってもよい。ガラクトマンナンに対する非イオン性の変形形態は、柔らかいゲルを所望する場合、アルコキシ基及びアルキル(C1~C6)基を含有するようなものが特に好ましい(例えば、ヒドロキシルプロピル置換)。非シスヒドロキシル位置における置換が最も好ましい。本発明のガラクトマンナンの非イオン性置換の例は、約0.4のモル置換を有するヒドロキシプロピルグアーである。また、アニオン性置換をガラクトマンナンに行ってもよい。強く反応するゲルを所望する場合、アニオン性置換が特に好ましい。本発明の好ましいガラクトマンナンは、グアー及びヒドロキシプロピルグアーである。ヒドロキシプロピルグアーが特に好ましい。本発明のインサート内のヒドロキシプロピルグアーの重量平均分子量は変動してもよいが、典型的には1~5Mダルトンである。一実施形態では、ヒドロキシプロピルグアーは、2~4Mダルトンの重量平均分子量を有する。別の実施形態では、ヒドロキシプロピルグアーは、3~4Mダルトンの重量平均分子量を有する。
【0017】
本開示の実施形態によるインサートに使用されるポリマーは、非毒性でなければならず、眼球体液内で可溶化して、最終的には、一般に60分の時間枠にわたってインサートを眼から確実に除去することができる。選択されるポリマーは、粘膜付着性でなければならないということが理解されよう。1種以上のポリマーは、本開示の実施形態に従ってブレンドしてもよいこともまた理解されよう。例えば、本開示の実施形態では、ヒアルロン酸(HA)は、タマリンド種子多糖体(TSP)とブレンドしてもよい。なぜなら、TSPは凝集したブレンド中でHAの滞留時間を増加させることが示されており、このブレンドは所望のフィルムの機械的特性及び潤滑特性を有するためである。本開示の他の実施形態では、更に下記で詳細に説明するように、ヒアルロン酸をHPグアーと組み合わせてもよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、1種以上の粘膜付着性ポリマーは、ポリマー製眼用インサートの乾燥重量で約50%~約99%w/w、約60%~約95%w/w、約70%~約90%w/w、又は約80%~約90%w/wの量で存在する。特定の実施形態では、粘膜付着性ポリマーは、ポリマー製眼用インサートの乾燥重量で約75%、約80%、約85%、約90%、又は約95%w/wの量で存在する。ポリマー製眼用インサートの全体的な乾燥重量又は乾燥質量は、約1~約10mg、又は約2~約8mgの範囲であってよく、特定の実施形態では、約2.5~約5mgであってよい。
【0019】
本開示のいくつかの実施形態では、柔軟剤及び/又は可塑剤を1種以上のポリマーに添加して、より柔軟で順応性のある送達システムの製造を容易にし、挿入時の改善された快適性をもたらすこともできる。可塑剤によって材料を軟化させ、望ましい溶解速度をもたらすことができる。柔軟剤及び/又は可塑剤は、ポリエチレングリコール(PEG)及びその誘導体、水、ビタミンE、並びにクエン酸トリエチルが挙げられるがこれらに限定されない、分子量の低い又は高い化合物であってよいということが理解されよう。
【0020】
いくつかの実施形態では、可塑剤又は柔軟剤は、ポリマー製眼用インサートの乾燥重量で約2%~約30%w/w、約5%~約25%w/w、約5%~約20%w/w、又は約5%~約15%w/wの量で存在する。特定の実施形態では、可塑剤又は柔軟剤は、ポリマー製眼用インサートの乾燥重量で約5%、約7%、約10%、又は12%、又は約15%w/wの量で存在する。
【0021】
いくつかの実施形態では、ポリマー製眼用インサートは、水和後に約1%~約50%の含水量を有し得る。特定の実施形態では、ポリマー製眼用インサートは、30~40%の含水量を有し得る。
【0022】
ポリマー製眼用インサートは、眼に投与するのに好適な任意のサイズ及び形状であってよい。例示的な形状としては、任意の単一次元で5~6mmの最大サイズを有するフィルム、ロッド、球体、又は不規則形状が挙げられる。更なる例示的な形状を図10A~10Cに示す。
【0023】
いくつかの実施形態では、ポリマー製眼用インサートは、約50~400μm、約100~300μm、約150~250μm、又は約200μmの厚さを有する。
【0024】
いくつかの実施形態では、ポリマー製眼用インサートは、約150~250μmの厚さを有し、30~50%w/wの含水量を有する。
【0025】
本開示のいくつかの実施形態では、ポリマー製眼用インサートは、追加の薬学的活性剤を含まない。他の実施形態では、ポリマー製眼用インサートは、1種以上の追加の薬学的活性剤を含んでもよい。いくつかの実施形態では、1種以上の薬学的活性剤は、眼用潤滑剤、抗発赤緩和剤、例えば、ブリモニジン、アプラクロニジン等などのα-2アドレナリンアゴニスト、テトラヒドロゾリン、ナファゾリンなどの交感神経作用アミン、メントール、メントール類似体などのTRPM8アゴニスト、眼痛及び炎症を緩和するためのステロイド及び非ステロイド性抗炎症剤、抗生物質、オロパタジンなどの抗ヒスタミン剤、感染性結膜炎用の抗ウイルス薬、抗生物質及び抗菌剤、近視治療用のアトロピン及びその誘導体などの抗ムスカリン剤、並びに緑内障薬物送達、例えば、トラボプロストなどのプロスタグランジン及びプロスタグランジン類似体、又は治療上好適なそれらの組み合わせの群から選択してもよい。
【0026】
本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートは、圧縮成形及び溶液流延法が挙げられるがこれらに限定されない様々な加工技術を用いて作製してもよい。材料を変化させない、又は重大な副反応を生じさせない温度及び圧力で圧縮成形を実施してもよい。例えば、部分的に水和した多糖体を圧縮成形するのに、摂氏約200~300度で約1~2分間、約5,000~12,000ポンドの圧縮力を用いてもよい。欠陥がほとんど又は全くない均質なフィルムをもたらすことが可能な溶媒及び/又は共溶媒を使用して、溶液又はフィルム流延法を実施してもよい。溶媒を空気乾燥又は真空乾燥によって除去してもよく、その結果、残留溶媒を含まない可能性のあるインサート材料を得ることができる。例えば、1%(w/v)のポリマー(又はブレンド)水溶液を流延し、次いで蒸発させてもよい。次いで、フィルムを所望のサイズ及び形状の楕円形状の穿孔器で切断してもよい。圧縮成形及び溶液/フィルム流延法について説明してきたが、本開示を逸脱することなく他の加工技術を使用してもよいことが理解されよう。
【0027】
一実施形態では、使用されるフィルム流延方法により、再現可能なインサート及び良好な構造的一体性が生じることが分かった。本実施形態では、蒸留水を1Lの三角フラスコに入れ、続いてポリマーを添加した。フラスコを超音波処理器に入れ、オーバーヘッドメカニカルスターラーに取り付けた。混合物を30℃で60分間、超音波処理して撹拌した。メカニカルスターラーの速度を700rpmに調整し、60分間撹拌させた。撹拌を停止し、フラスコに可塑剤(PEG及び/又はPVP)を添加した。この混合物を、均質な透明溶液が得られるまで30℃で30分間、700rpmでの超音波処理の下で撹拌した。次いで機械的撹拌を停止し、全ての気泡を除去するため、超音波処理を更に30分間継続させた。次いで三角フラスコを超音波処理器から取り出し、室温で30分間静置した。フィルムを調製するために、ペトリ皿(直径150mm×高さ15mm)に約150g±2gのストック溶液を充填した。このストック溶液は、異なる蒸発技術の評価を受けたものである。第1の実験では、50℃の真空オーブンを使用した。ペトリ皿をオーブンに入れ、真空ポンプを使用してオーブンを真空引きした。30時間後、得られたフィルムは、色が黄色であり、フィルムのいくつかは湾曲した表面を呈した。同じ真空条件下で、45℃、40℃、及び35℃にて実験を繰り返した。上記の実験条件の全てにおいて、着色フィルム又は不均一な重量分布のフィルムが得られた。温度が高いほど黄色が暗く、濃くなったことも観察された。好ましい蒸発技術には、可変速度の排気装置を備えたチャンバー内での室温における蒸発が含まれた。蒸発プロセスの間に、気流、温度、及び湿度を全て測定した。上記で説明した技術によって均一な蒸発が生じ、均一な厚みを有するフィルムが得られた。
【0028】
前述したように、インビボ試験では、従来の局所用の眼科用潤滑剤は約25分よりも長く眼内に残らないことが示されている。しかしながら、可塑剤(PEGなど)とブレンドしたHPグアー及びヒアルロン酸などの可塑剤/柔軟剤を組み合わせた1種以上のポリマーを使用することによって、快適な挿入のための調整可能な水和速度及び溶解速度を有する可撓性フィルムをもたらすことができる。本発明のある特定の実施形態は、ヒアルロン酸、HPグアー及びPEGのブレンドを含有するポリマー製眼用インサートであるが、他のブレンドを本開示の他の実施形態によるポリマー製眼用インサートに使用することができることが理解されよう。図1は、本開示の実施形態による眼用インサートの、眼球表面上の配置を示す。
【0029】
本開示の眼用インサートは、潤滑剤及び他の薬学的活性剤を送達して、眼球表面における症状(発赤、掻痒感、及び乾燥など)を治療するためのプラットフォームである。いくつかの実施形態では、ポリマー製眼用インサートを使用して、薬学的活性剤の暴露を持続させることができる、又は眼に対して長時間にわたる薬学的活性剤の薬物送達をもたらすことができる。したがって、いくつかの実施形態では、本開示は、薬学的活性剤を含むポリマー製眼用インサートを、それを必要とする患者に投与することによって、長時間にわたる薬物送達を提供すること、又は眼に対する薬学的活性剤の暴露を持続させることをもたらす方法を提供する。
【0030】
いくつかの実施形態では、本開示は、本開示によるポリマー製眼用インサートをそれを必要とする患者に投与することを含む、ドライアイ疾患(乾性角結膜炎)の徴候及び/又は症状を治療又は低減する方法を提供する。
【0031】
本発明の実施形態を例示するために、以下の非限定的な実施例を提供する。
【実施例
【0032】
実施例1
本開示の実施形態では、ヒアルロナート-フルオレセイン(Creative PegWorks;Chapel Hill,NC)、ヒアルロン酸ナトリウム(Novozyme;Franklinton,NC)、HPグアー、HPグアー-フルオレセイン、PEG 400、及び水を使用して、HPグアー及びヒアルロン酸ナトリウムを含むポリマー製眼用インサートを形成することができる。しかしながら、異なるロット及び/又は配給業者からの、より多くの又はより少ない成分を使用して、本開示を逸脱することなくポリマー製眼用インサートを形成してもよいことが理解されよう。
【0033】
このHPグアー/ヒアルロン酸ナトリウムのインサートを形成するために、約30分間オートクレーブされた三角フラスコに、約100mLの水を添加した。水は、摂氏約22度の温度であった。HA成分は、インビボ放出を追跡するために、フルオロセインイソチオシアネート(FITC)でタグ付けした。次いで、IKA(登録商標)Ret Control-Visc Cホットプレート/スターラーを使用して、500(1/分)の設定で摂氏約23度で撹拌しながら、FITC-ヒアルロン酸(約102.2mg)を水に添加した。ヒアルロン酸ナトリウム(約354.3mg)を次いで添加し、その後HPグアー(454.1mg)及びPEG 400(約97.2mg)を添加した。次いで、追加の水(約100mL)を添加した。600(1/分)の撹拌設定を用いて、混合物を周囲温度(摂氏約22度)で約20時間撹拌した。次いで、溶液を無菌のポリスチレン製使い捨てペトリ皿(VWR社製、直径55mm、高さ15mm)に注ぎ入れた。次いで、溶液を含有したペトリ皿を、Lindberg Blue M対流式オーブン(Thermo Scientific)に入れて摂氏約35度で加熱し、次いで、高真空下で約1~2日間、摂氏約23度で乾燥した。
【0034】
このポリマー製眼用インサートの実施形態で得られた組成物は、以下の通りであった:102.2mg(約10%)のFITC-ヒアルロン酸/354.3mg(約35%)のヒアルロン酸ナトリウム、454.1mg(約45%)のHPグアー、及び97.2mg(約9%)のPEG 400。インビボ評価試験のため、次いで直径6mmのディスクを打ち抜いた。本開示の実施形態によるHPグアー/ヒアルロン酸インサートを形成するための手法を説明してきたが、他の手法を使用して、本開示を逸脱することなくこれらの又は類似したポリマー製眼用インサートを形成してもよいことが理解されよう。
【0035】
単一のポリマー製眼用インサート及びニュージーランドシロウサギを使用して、インビボ忍容性試験を実施した。本試験で使用されるポリマー製眼用インサートは、HPグアー/ヒアルロン酸ブレンドを含有し、PEGを可塑剤として使用した3~7mmのディスクからなるものであった。ヒアルロン酸成分は、インビボ放出を追跡するために、フルオロセインイソチオシアネート(FITC)でタグ付けした。本試験により、直径6mmの200μm厚のフィルムを使用することによって、忍容性及び快適性が許容できるものであることが明らかとなった。HPグアー/ヒアルロン酸/PEGブレンド(5%のFITC-ヒアルロン酸を使用した)の単一フィルムを使用して、インビボ保持試験も実施した。フィルムは眼の結膜嚢内で水和したが、2時間後に断片が残っていた。しかしながら、これらの断片は、対象であるウサギに関連した、頻度が低く断続的な瞬きによるものであることが説明できる。これらのポリマー製眼用インサートの蛍光発光の測定値の結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
全てのポリマー製眼用インサートは、物理的反応、分泌物、眼を細める行為、又は手で擦る行為がなく、非常に良好な忍容性を示した。一度配置されると、インサートは溶解するまでほとんど動かずに眼の中に残っていた。インサートは、挿入後の最初の30分の間に溶解した。1時間後、潤滑剤の残留物が角膜表面で見られた。残留物は、6時間後には既に存在していなかった。角膜強膜縁上に侵入することなく結膜嚢に嵌め込まれるであろう最大直径は、6mmのサイズと判断された。直径が7mmでは、インサートは角膜縁を横断していた。しかしながら、本開示を逸脱することなく他のインサートの直径を使用してもよい。
【0038】
Spectralis HRA-OCTを使用して、本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートを試験する検査を実施した。Spectralis HRA-OCTとは、SD-OCTにcSLO眼底イメージングを組み込んだ診断デバイスである。Spectralis社によって提供されるAnterior Segment Moduleによって、前眼部構造のイメージングが可能となり得る。タグ付けされた被験物質を必要とせず、視覚的特性及び定量的特性の両方を提供し、涙膜/ポリマー製眼用インサートのマイクロメートルの直接測定を提供し、数秒で眼の4象限から涙膜の高さを取得することができることから、SD-OCTイメージングが望ましい。このイメージングによって、低い涙液メニスカスにおけるポリマー製インサートの貯留を観察することができる。
【0039】
実施例2
ポリマーの適合性を評価するために、フィルム流延法によって様々なポリマー製インサートを調製して、クリア且つ/又は適度に透明なインサートフィルムを作製した。様々な濃度比の各特定のポリマーを用いて、以下のポリマー配合物を調製して評価した:HA/PEG、HA/PVP/PEG、HA/PVP、HA/HPグアー/PEG、HPグアー/PVP/PEG、HA/HPグアー/PVP/PEG、HA/HPグアー/PAA/PEG、HA/HPグアー/HPMC/PEG。インサートフィルムの特性評価方法の説明を下記に示す。
【0040】
1.モルホロジー
インサートフィルムの表面モルホロジーを、適切な顕微鏡を用いて検査した。インサートフィルムの質感及び透明度を調査し、観測結果を記録した。フィルム表面がクリアで透明であることが見出された場合、これを記録した。溶解しなかった粒子又は曇りが観察された場合、これも記録した。
【0041】
2.厚さ均一性
4つのフィルムのサンプルを抽出し、直径6mmのインサートのディスクを切断することによってそれらの厚さを評価した。ディスクの厚さを測定した。切断するディスクの位置は、各フィルムの中央又は端部付近において無作為に選択された。ディスクの厚さは、株式会社ミツトヨ社製デジタルノギスを使用して測定した。フィルムごとに12個のディスクの平均偏差及び標準偏差を算出した。
【0042】
3.重量均一性
重量均一性を判断するために、異なる4つのフィルムを選択し、直径6mmの12個のディスクを切断した。切断されるディスクの位置は、元のフィルム上において無作為に選択された。高精度のSartorius社製天秤を使用して、各ディスクの重量を決定した。各個々のディスクの重量を測定し、フィルムごとに12個のディスクの平均重量を決定した。12個のデータ点の標準偏差を計算して記録した。
【0043】
4.水分吸収率
水分吸収率検査のために、直径150mmの円形フィルムを4つ用意した。各フィルムから、直径20mmの円形ディスク4つを切断した。この4つのディスクを、100mlの塩化アルミニウムの飽和溶液を含むチャンバー内に置いた。チャンバーを72時間密閉した。この間、ディスクの外観はクリアなままであった。ディスクをチャンバーから慎重に取り出して、各ディスクの重量を測定した。各ディスクの水分吸収率を下記の式に従って計算した。
%MA=((最終重量-初期重量)/初期重量)×100
【0044】
異なる4つのフィルムから切断された、12個のディスクの平均水分吸収率を記録した。
【0045】
5.水分損失率
水分吸収率用に作製した同じフィルムを使用して、水分損失率を測定した。上記の4つのディスクを、無水塩化カルシウムを含むデシケータに72時間入れた。次いで、ディスクをデシケータから取り出し、それらの重量を測定した。以下の等式を用いて、フィルムごとの水分損失率を算出した。
%ML=((初期重量-最終重量)/最終重量)×100
【0046】
異なる4つのフィルムから切断された、12個のディスクの平均水分損失を記録した。
【0047】
6.耐折強さ
直径150mmの大型の円形フィルムを4つ用意した。各フィルムから、4cm×4cmの寸法の4つの正方形のフィルムを用意した。フィルムが破損するか、又は明らかに亀裂が入るまで、フィルム細片を同じ箇所で繰り返し折り畳んだ。フィルムが破損せずに同じ箇所で折り畳むことが可能な回数が、耐折強さの値となる。データを収集し、平均の結果を記録した。異なる4つのフィルムから切断された、16個の正方形の細片の平均耐折強さを決定した。
【0048】
7.溶解時間及び溶液のpH
直径150mmの主な円形フィルムから、直径6mmの4つの円形ディスクを切断した。フィルムを2mlのDI水が入ったバイアルに入れ、完全に溶解するのに必要とされる時間を記録した。各群の平均溶解時間及び標準偏差を記録した。
【0049】
8.引張り強度、モジュラス、変位、及び伸び率
データ点ごとの測定のために、4cm×2cmの寸法の4つのフィルム細片を使用した。全てのフィルムを気泡及び物理的欠陥について検査した。フィルム細片を、測定の際に3cmの距離に配置された2つのクランプに保持した。使用されるセルの負荷は5キログラムである。細片を、10cm/分の速度で上部クランプによって引っ張った。平均引張り強度、モジュラス、及び伸び率を測定し、記録した。検査用フィルムを調製するために使用される配合物を、ポリマー組成及び検査データと共に下記に示す。表2の結果は、HA/PEG配合物中、5%のPVPが存在することによって、フィルムの可撓性及び弾性が向上することを示している。表3に示されるように、また、30%のPVP及び30%のHPグアーが存在することによって、比較的良好な弾性及び可撓性を有するフィルムが得られた。表4のデータによって示されるように、検査対象の配合物にカーボポールが存在することによって、脆いフィルムが得られる結果となった。表5に示されるように、200ppmのメントールによって、より素早い溶解速度がもたらされ、硬いフィルムが生成された。200ppmより少ない(150ppmなどの)メントールを含むフィルムは、メントールを添加しなかった同じフィルムに類似したモジュラス及び伸び率によって改善された。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
HA/HPグアー/PEGフィルムの特性評価
広範囲のフィルム組成物について生成されたデータに基づいて、45.4%のヒアルロン酸(HA)、45.4%のヒドロキシプロピルグアー(HPグアー)、9.2%のポリエチレングリコール(PEG 400)が含有された好ましいポリマー組成を決定した(下記で配合物2と称される)。このフィルムは、次のように調製した。
【0055】
【表6】
【0056】
1Lの三角フラスコに750mlの蒸留水を注ぎ入れ、続いてヒアルロン酸(5.107グラム)を添加した。次いで、フラスコを超音波処理器に入れ、オーバーヘッドメカニカルスターラーに取り付けた。この混合物を、均質な透明溶液が得られるまで25℃~35℃で30分間(±10分)、700rpmの速度で撹拌させて超音波処理した。次いで、ヒドロキシプロピルグアー(5.107グラム)をフラスコに添加した。フラスコを再度超音波処理器に入れ、オーバーヘッドメカニカルスターラーに取り付けた。この混合物を、均質な透明溶液が得られるまで38℃~42℃で120分間(±10分)、700rpmの速度で撹拌して超音波処理した。可塑剤であるポリエチレングリコール-400(1.035グラム)をフラスコに添加した。この混合物を、均質な透明溶液が得られるまで40℃~45℃で30分間(±10分)、700rpmの速度で撹拌させて超音波処理した。この混合物を、均質で透明な溶液(気泡のない)が得られるまで、40℃~45℃で撹拌せずに更に30分間(±10分)超音波処理した。フラスコを室温で30分間(±10分)静置させた。適切な混合の後、流延溶液(150g±2g)を清浄なペトリ皿(150mm×15mm)に注ぎ入れた。ペトリ皿を室温で60時間(±5時間)、換気扇を備えた蒸発チャンバー内で乾燥させた。乾燥後、ディスクを9cm×9cmの試験片に切り分け、更なる特性評価試験で使用するために、制御された湿度(<50%)及び温度(26℃~23℃)レベル下で、気密バッグ内に24時間(±3時間)保管した。
【0057】
【表7】
【0058】
【表8】
【0059】
【表9】
【0060】
【表10】
【0061】
【表11】
【0062】
【表12】
【0063】
実施例3
HRA-OCTを使用すると、涙膜の厚さの直接測定が可能となる。HRA-OCTイメージングを使用すると、インサートを挿入した後の涙膜の厚さの測定値が得られるが、この厚さは、潤滑剤の送達により生じる効果を間接的に示すものである(すなわち、涙膜の厚さの増強は、潤滑剤及び/又は薬物が送達されたことを示している)。挿入後、インサートはゆっくりと溶解し、潤滑剤及び/又は薬剤を放出することが予想される。使用される一般的方法を、ニュージーランドウサギを使用して下記で説明する。この手順では、HRA-OCTを使用して、45.4%のヒドロキシプロピルグアー(HPグアー)及び9.2%のポリエチレングリコール(PEG 400)を使用したインサートを、ウサギを対象に評価した。1日目に、鉗子又は別の適切な器具を使用して、右眼の中央下側の結膜嚢に単一のインサートを入れた。3日目にインサートを右眼に適用して、処置を繰り返した。試験処置デザインを表13に要約した。
【0064】
【表13】
【0065】
動物は、必要に応じて最大3時間の様々なタイムポイントで光干渉断層撮影(OCT)スキャンを受ける。ウサギにおけるOCTイメージングの方法及び画像解析は以下の通りである。
1.イメージングを促進するために、画像室内の照明を暗くした。
2.自然な瞬き反応を誘導するために、イメージングする眼の下を綿棒で軽く擦る。
3.角膜頂点を中心とした1つの水平方向の画像をキャプチャする。
4.自然な瞬き反応を誘導するために、再度眼の下を綿棒で軽く擦る。
5.角膜頂点を中心とした1つの垂直方向の画像をキャプチャする。
6.投与情報及び画像番号を記録する。
7.分析のために、各画像上の3つの点を決定する(水平方向:鼻、眼の頂点、側頭部、垂直方向:眼の上部、頂点、下部)。
8.Bioptogen社の測定工具を使用して、各分析点における涙膜の厚さを決定し、測定値を記録する。
【0066】
処置群及び被験動物のイメージングスケジュールを、以下の表14及び15に示す。
【0067】
【表14】
【0068】
【表15】
【0069】
図9は、検査からの涙膜の厚さのデータを示している。本検査では、LACRISERT(登録商標)を対照として使用した。このインビボ実験では、LACRISERT(登録商標)及びHPグアー/HA/PEGを含有する被験物質において、安全性又は忍容性に関連する重大な問題はなかった。このインビボ試験では、被験物質を異なる2種類の投与後の治療計画に供した。第1のケースでは、挿入後、BSSを15分毎に添加し、インサートの溶解を促進するようにした。第2のケースでは、インサートが挿入された後に一度だけBSSを投与した。LACRISERT(登録商標)を、指示書通りにヒトの眼に単に挿入した。OCT測定値によって、両方のシナリオにおいて被験物質の涙膜の厚さが増大することが示された。BSSを添加することにより、約5分で涙膜の厚さが急速に増大し、15分後に涙膜の厚さが最大50ミクロンまで増大したことによって示されるように、インサートの溶解が促進された。これと比較して、挿入後に滴剤を単回投与するシナリオでは、涙膜の厚さが90分にわたって拡張し、続いて2時間以内にベースラインまで減少したことが示された。この時間枠の間、LACRISERT(登録商標)は涙膜の厚さにおいて際立った効果を示さず、3時間後に固体のような状態で残っていた。被験物質であるHA/HPG/PEGインサートは、本実験では2時間後に完全に溶解した。
【0070】
実施例4-薬学的活性剤を含むインサート
本発明のインサートは、上記で詳細に述べたように、1種以上の薬学的活性剤を含んでもよい。抗ムスカリン剤であるアトロピンと共に調製されたインサートフィルムを下記に示す。
【0071】
アトロピンを含む眼用インサートの調製
40%のヒアルロン酸(HA):40%のヒドロキシプロピルグアー(HP):10%のポリエチレングリコール(PEG 400):10%のポリビニルピロリドン:500ppmのアトロピン
【0072】
【表16】
【0073】
手順:
350gのインサート配合物を調整するために、以下の量が必要となる:350mlの蒸留水中に、HA(2.1g)、HPグアー(2.1g)、PEG-400(0.525g)、PVP(0.525g)、アトロピン(0.175g)。1Lの三角フラスコに、350mlの蒸留水を、2.1gのヒアルロン酸及び0.525gのポリビニルピロリドンと共に混合した。フラスコをオーバーヘッドメカニカルスターラーに取り付け、混合物を35℃で30分間、600RPMで撹拌した。次いで、ヒドロキシプロピルグアー2.1gを添加した。この混合物を、次いで均質な透明溶液が得られるまで38℃で120分間撹拌した。次いで、可塑剤であるポリエチレングリコール-400(0.525g)と、アトロピン(0.175g)とをフラスコに添加し、混合物を700RPMで更に30分間撹拌した。混合物を30分間放置して冷却した。この段階で、溶液はフィルム流延法を行う準備ができた。
【0074】
フィルム流延法:
150g±2gの溶液を、清浄なペトリ皿(150mm×15mm)に注ぎ入れた。ペトリ皿を室温で30時間、乾燥チャンバーを使用して乾燥させた。得られたフィルムは透明であり、あらゆる結晶化又は異常な外観を示さなかった。
【0075】
ポビドンヨードを含む眼用インサートの調製
別の例では、広域スペクトル殺生物剤であるポビドンヨードをインサートと共に使用した。本インサートは以下の配合物を有していた:40%のヒアルロン酸(HA):40%のヒドロキシプロピルグアー(HP):10%のポリエチレングリコール(PEG 400):10%のポリビニルピロリドン、及び全質量で500ppmのPVP-I。
【0076】
手順:
1Lの三角フラスコ内に濃度0.015g/mLで350gのバッチ配合物を調製するための手順。350mlの蒸留水中に、HA(2.1g)、HPグアー(2.1g)、PEG-400(0.525g)、PVP(0.525g)、PVP-I(0.175g)。1Lの三角フラスコに、350mLの蒸留水、ヒアルロン酸(2.1g)、及びポリビニルピロリドン(0.525g)を添加した。フラスコを超音波処理浴槽に入れ、オーバーヘッドメカニカルスターラーに取り付けた。この混合物を、均質な透明溶液が得られるまで25℃~35℃の温度で30分間(±10分)、600RPMの速度で、撹拌と超音波処理とを同時に行った。次いで、ヒドロキシプロピルグアー(2.1g)を添加した。フラスコの内容物を、均質な透明溶液が得られるまで38℃~41℃の温度で120分間(±10分)、600RPMの速度で撹拌した。次いで、ポリエチレングリコール-400(0.525g)及びPVP-I(0.175g)をフラスコに添加した。混合物を更に45分間撹拌した。150gm±2gの溶液を、清浄なペトリ皿(150mm×15mm)に注ぎ入れた。ペトリ皿を室温で30時間(±1時間)、換気されたチャンバー内で乾燥させた。500ppmのPVP-Iは、水を含む全質量に基づいて計算した。
【0077】
実施例5
本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートの涙膜の測定値を、SYSTANE(登録商標)ULTRA点眼薬、並びにGENTEAL(登録商標)ゲル点眼薬、及びPROVISC(登録商標)注射剤の涙膜の測定値とも比較した。
【0078】
図2A~2Cは、SYSTANE(登録商標)ULTRA点眼薬の投与前(図2A)、投与直後(図2B)、及び投与5分後(図2C)の涙膜の測定値を示している。図2A~2Cは、涙膜が投与前で22μm、投与直後で60μm、投与5分後で19μmという測定値であることを反映するものである。
【0079】
図3A~3Cは、GENTEAL(登録商標)ゲル点眼薬の投与前(図3A)、投与直後(図3B)、及び投与5分後(図3C)の涙膜の測定値を示している。図3A~3Cは、涙膜が投与前で20μm、投与直後で31μm、投与5分後で19μmという測定値であることを反映するものである。
【0080】
図4A~4Eは、PROVISC(登録商標)注射剤の投与前(図4A)、投与直後(図4B)、投与5分後(図4C)、投与10分後(図4D)及び投与20分後(図4E)の涙膜の測定値を示している。図4A~4Eは、涙膜が投与前で19μm、投与直後で194μm、投与5分後で114μm、投与10分後で61μm、及び投与20分後で16μmという測定値であることを反映するものである。
【0081】
図2A~2C、3A~3C、及び4A~4Eに記載される涙膜の測定値の各々は、涙膜の厚さが投与直後で増大するが、投与後5~20分の範囲のうちに、測定された投与前の厚さと同様の厚さに戻ることを反映している。
【0082】
対照的に、図5A~5Iは、本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートの挿入に関する涙膜の測定値を反映したものである。これらの測定値は、涙膜が、投与前で14μm(図5A)、投与15分後で20μm(図5B)、投与30分後で81μm(図5C)、投与45分後で45μm(図5D)、投与1時間後で43μm(図5E)、投与1時間15分後で37μm(図5F)、投与1時間30分後で33μm(図5G)、投与1時間45分後で22μm(図5H)、及び投与2時間後で18μm(図5I)という測定値であることを反映したものである。したがって、本開示の本実施形態では、涙膜の厚さが投与約2時間後まで投与前の厚さに戻ることがない。
【0083】
ニュージーランドシロウサギに対し、更に涙膜の測定を実施した。各ウサギに、単一のポリマー製眼用インサートを与えた。1つのタイムポイントにつき3つの水平方向画像と3つの垂直方向画像とを得た。各ライン上の3つのポイントを測定して800%に拡大し、涙膜の深さ/被験物質を決定した。
【0084】
図6Aは、本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートを使用した涙膜の平均測定値を反映したものである。3羽のウサギを検査し、各ウサギは画像キャプチャ前に3回の瞬きをした。インサートの直径(6mm)は各ウサギの試験全体で同一のままであり、インサートの重量は2.6mg~2.9mgの範囲であった。図6Bは、個々の動物ごとの涙膜の測定値を反映したものである。図6Cは、眼の下部、眼の上部、側頭、及び鼻を含む眼の位置に基づいた涙膜の測定値を反映したものである。
【0085】
ニュージーランドシロウサギに更なる検査を行い、本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートに関する涙膜の厚さの動的な変化を測定した(図7A)。インサートの直径は6mmのままであった。左眼(OS)のインサートの重量は3.2~3.8mgの範囲であり、右眼のインサートの重量は2.2~2.6mmの範囲であった。図7Bは、位置(頂点、鼻、側頭、上部、及び下部)ごとの涙膜の測定値を反映したものである。
【0086】
この検査では、眼の中央下側の結膜嚢への80μL又は約76.3mgの投与量でのGENTEAL(登録商標)ゲルと比較しても同様の測定値であった。図8は、右眼及び左眼のGENTEAL(登録商標)ゲルの涙膜の平均測定値を反映したものである。
【0087】
本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートとGENTEAL(登録商標)ゲルとの両方を測定した後に、結果を分析した。下記の表18は、6回の読み取り値の平均が30μm以上の動物の数を反映するものである。
【0088】
【表17】
【0089】
本検査により、Spectralis HRA+OCTによって涙膜の厚さの変化を効果的にモニターすることが可能であることが確認された。インサートは、ほとんどの動物で投与15分後までに溶解し始める。本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートを投与したほとんどの動物は、投与後少なくとも30分間で涙膜の厚さが著しく増大した。ポリマー製眼用インサートの位置、最初の配置と瞬きをした後の動きとの両方により、特に早期のタイムポイントでデータにばらつきが生じる可能性があり、しかしながら、IR画像及びOCTは、インサートの位置の影響を識別するのに役立ち得ることが理解されよう。インサートの重量は、保持の長さに影響を及ぼし得ることも理解されよう。更に、動物間に固有の相違が、結果に影響を与え得ることが理解されよう。例えば、ある動物では、インサートのサイズに関係なく、涙膜の厚さが増大する持続時間が最も長かったが、より大きなインサートでは約45分よりも長く保持された。水溶液によって涙膜の厚さにほとんど変化が生じなかったということにも留意されたい。
【0090】
上記に記載される試験によって反映されているように、本開示の一実施形態によるポリマー製眼用インサートは、高い粘膜付着性及び水素結合特性を有する親水性ポリマーから構成される溶解性フィルムの形態を想定してもよい。フィルムは、生体適合性で眼に良好な認容性が示される1種以上の天然由来の多糖体又は合成ポリマーを含んでもよい。溶解性フィルムは、目の結膜嚢に容易に快適に挿入することを可能にし得る、薄いフィルム状の設計を有してもよく、そのため、フィルムは挿入時にほとんど刺激がなく、結膜嚢に嵌め込むのに十分小さいが、溶解がより長期間にわたって発生するようなほど十分大きいものでなくてはならない。そのような溶解性フィルムは、速やかに水和して可溶性ゲルを形成し、短い時間枠(例えば、挿入後最初の5~10分)の範囲内で潤滑剤及び/又は薬学的活性剤を放出することができる。潤滑剤のこのゆっくりとした脈動化された流れにより、局所用滴剤の用法と比較して、潤滑剤の眼球表面上の粘着性と滞留時間とを最大にすることができる。眼の潤滑剤の滞留時間は、涙膜及び眼球表面のゆっくりとした送達によって増大させることができる。
【0091】
本開示の実施形態による溶解性フィルムの挿入は、数分後に視覚障害をもたらすものではない。溶解性フィルムは、潤滑剤を約2時間以上保持することができることを理解されたい。しかしながら、保持を約30~60分にわたって生じさせることが可能な本開示の実施形態があってもよい。したがって、本開示の実施形態による溶解性フィルム又はポリマー製眼用インサートは、ぼやけを低減するための速やかな溶解、濡れ動態と眼球の忍容性とを増強させるための薄いフィルム状の設計、挿入時の改善された快適性、及び低減された異物感が挙げられるがこれらに限定されない利点を提供することができる。更に、他の局所用送達システム又はインサートと比較して、忍容性と潤滑剤の送達とを向上させることができる。
【0092】
ドライアイを治療する潤滑剤及び/又は薬学的活性剤として使用するために本開示の実施形態を説明してきたが、本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートは、他の眼疾患を治療する薬学的活性剤を眼に送達するという利点を有し得ることも理解されよう。そのような疾患の非包括的なリストとしては、高眼圧症、緑内障、緑内障性網膜症、視神経症、黄斑変性症、糖尿病性網膜症、脈絡膜血管新生、増殖性硝子体網膜症、眼球創傷及び眼感染症、並びに近視が挙げられる。
【0093】
いくつかの実施形態ではフィルムとして説明してきたが、本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートは、フィルム、ロッド、及び球体が挙げられるがこれらに限定されない様々な形状を想定することができることが理解されよう。本開示の実施形態では、直径約0.5~10mmの円形フィルムを使用してもよい。他の実施形態では、直径4~7の円形フィルムが特に好ましい。ある特定の実施形態では、図10A~10Cで示される形状などのような様々な他のフィルム形状を使用してもよい。
【0094】
想定するインサートがどのような形状であるかに関係なく、本開示の実施形態によるポリマー製眼用インサートは、眼の結膜嚢に嵌め込むのに十分小さく、挿入時にほとんど又は全く刺激がないように速やかに湿潤しなければならない。また、このインサートは、潤滑剤及び/又は薬学的活性剤を放出して発生させることができるように、約30~120分の範囲にわたって溶解することが可能なほど十分大きいものでなければならない。インサートはまた、使用者にとって比較的快適な厚さを有するものでなければならない。好ましい厚さは50~250ミクロンであり、最も好ましい厚さは70~150ミクロンである。2時間未満で溶解するフィルムの目標となる厚さは90ミクロンである。
【0095】
実施例6
サルによる忍容性試験
ウサギの忍容性評価後、本試験のために、中国由来の(タンパク質が未変性の)雄のカニクイザルを、サルの眼の薬理学的及び解剖学的関連性に基づいて選択した。サルの眼は、ヒトと同様の頻度で瞬きをする。投与15、30、45、60、120、180及び240分後に、眼の被験物質の忍容性に対する臨床観察を実施した。涙膜の保持及び忍容性について、特別な注意が払われた。肉眼的検査には、流涙、発赤、腫脹、及び瞬きが含まれる。投与して24時間後、群1及び2の動物を軽く鎮静させ、処置した眼を涙膜のあらゆる存在について入念に検査した。任意の涙液が検出された場合、臨床観察に記録して、残ったフィルムを除去する。最終観察時点が過ぎて異常が続く場合、必要に応じて追加の臨床観察を記録する。任意の予想外の臨床徴候がある場合、直ちに獣医に通知する。動物を、手で、化学的に(獣医ガイドラインにより、必要に応じてケタミン又は代替物、例えばテラゾール)又は機械的(椅子)に拘束する。軽く鎮静させて投与を行う。軽く鎮静させた、又は覚醒している動物に対して観察を行う。軽く鎮静させた動物に、被験物質を投与する(ケタミン5~15mg/kg、IM、又は代替物[例えばテラゾール5~10mg/kg、IM])。用量を投与する時間を、一方の眼に対する投与が完了した時点とみなす。一度軽く鎮静させてから、鉗子又は別の適切な器具を使用して、全ての動物の左眼の中央下側の結膜嚢に単一のインサート被験物質を入れた。
【0096】
眼用インサートディスクは、40%のHPグアー/40%のHA/10%のPVP/10%のPEGから構成され、TA1及びTA2と表記する。TA1は、6mmの直径を有し、86ミクロンの厚さを有する(標準偏差は8.4ミクロンである)。TA2は、6mmの直径を有し、108ミクロンの厚さを有する(標準偏差は8.3ミクロンである)。SYSTANE ULTRA(登録商標)を対照として使用した。
【0097】
観測結果及び結論
T=0投与後、より薄いTA1のインサートでは配置するのがより難しく、それらは一度組織上の水分に接触すると折り畳まる傾向があったが、一度配置されてしまうと、大きな問題もなく平坦になった。より厚いフィルムであるTA2は、折り畳まることはなく、容易に挿入されて、組織の上で直ちに平坦になった。挿入後のTA1及びTA2の両群では、軽度から中度の流涙があった(滴剤を受けた動物には流涙がなかった)。炎症の徴候、発赤、眼を擦る行為、他の眼を細める行為が3時間以上なかったことが観察された。24時間後、あらゆる動物において残留したインサート材料が存在せず、処置を受けた眼の全ては発赤、腫脹、又はその他の炎症の徴候がなく、SYSTANE ULTRA(登録商標)局所用滴剤と比較して許容可能であるように見えた。
【0098】
実施例7-潤滑性ポリマー製眼用インサートのヒト試験
ポリマー製眼用インサートの生体適合性、安全性、及び忍容性を評価するために、本開示の実施形態の試験を、ヒト参加者を対象としてランダム化クロスオーバーデザインで検証した。1日の試験日の期間にわたって、合計で3回の処置(2種類のポリマー製眼用インサート及び1種類の眼用潤滑滴剤)を、各参加者に適用した。処置を一方の眼のみに適用し、未処置の僚眼は対照眼としての役割を果たした。
【0099】
試験デザイン:
10人の参加者を本試験に組み入れた(女性5人、男性5人)。参加者の平均年齢は35.5歳であった(中央値33歳、23~61歳の範囲)。
【0100】
本試験の評価項目は以下の通りであった:
主要評価変数:眼球の快適性の主観的評価。
副次的評価変数:かすみ目、ポリマー製眼用インサートの溶解速度の主観的評価、取り扱い及び非侵襲的涙液遮断時間(NITBUT)の治験責任医師の評価。
【0101】
試験を以下のように実施した。試験日は約9時間続き、スクリーニング及び適格性調査を含んでいた。1回目の処置(ポリマー製眼用インサート又は眼用潤滑滴剤)を1つの眼に挿入して評価し、挿入約2時間後に眼をすすいだ。最低でも1時間待機した後に、2回目の処置を別の眼(前回使用していない眼)に適用し、手順を繰り返した。最後の処置が適用される前に最低でも1時間待機して、手順を繰り返した。処置ごとの眼の快適性及び視野評価を、挿入前、挿入5、15、30、60、90、及び105分後に完了し、処置の忍容性を評価した。涙膜評価を、挿入5、60、90、及び105分後に実施した。スクリーニング時及び各処置後に、眼の安全性測定を実施した。試験の最終日に、参加者に処置に対する好みを示すように質問をした。
【0102】
試験材料:
異なる2種類のポリマー製眼用インサートは以下の通りである。
【0103】
【表18】
【0104】
対照処置として、眼用潤滑滴剤(Systane)を使用した。眼用潤滑滴剤の成分は以下の通りである。
【0105】
【表19】
【0106】
本試験は1日の試験日にわたって行われた。試験日の間に、参加者は予定された来院を5回行うことが求められた。
来院1:スクリーニング及び適格性(0.75時間)
来院2:処置1の挿入、評価、及び除去(2.0時間)
来院3:処置2の挿入、評価、及び除去(2.0時間)
来院4:処置3の挿入、評価、及び除去(2.0時間)
来院5:試験終了(0.25時間)。
来院2及び3、並びに来院3及び4の間に、1時間の休薬期間を適用した。
【0107】
各来院の手順を表20にまとめる。
【0108】
【表20】
【0109】
試験結果:
主要評価変数-快適性評価
各タイムポイント(挿入前、挿入5、15、30、60、90、及び105分後)において、参加者に「眼の快適性についてどのように評価しますか?」という質問をした。
【0110】
参加者は、0で「快適性が非常に悪い」、100で「快適性が優れている」を示す、0~100のスケールを用いて回答した。結果を表11に示す。
【0111】
図11で分かるように、5分及び15分のタイムポイントにおけるインサートと滴剤との間には統計的有意差があり、滴剤は、統計的に有意な高い快適性評価を有していた。2つのインサートは、快適性評価の点で類似した性能を発揮していたが、60分のタイムポイントにおいて統計的有意差があり、厚いインサートの快適性のほうが高いと評価された(90に対して95、p=0.04)。
【0112】
副次的評価変数
副次的評価変数の結果は以下の通りであった。
【0113】
かすみ目-各タイムポイント(挿入前、挿入5、15、30、60、90、及び105分後)において、参加者に「眼のかすみ目についてどのように評価しますか?」という質問をした。参加者は、0で「非常にかすんでいる。よく見えない」及び100で「全くかすまない」を示す、0~100のスケールを用いて回答した。結果を表12に示す。
【0114】
図12で分かるように、両方のインサートは、滴剤と比較して、5、15及び30分のタイムポイントにおけるかすみ目についての評価を統計的に有意に低下させた(p<0.01又はp=0.01)。更に、厚いインサートは、60分のタイムポイントにおけるかすみ目の評価を統計的に有意に低下させた(93に対して100、p=0.01)が、60分における厚いインサートと薄いインサートとの間に統計的有意差はなかった(88に対して93、p=0.28)。
【0115】
臨床医による挿入の容易さ-治験責任医師によって挿入の際のポリマー製眼用インサートの挿入の容易さについての評価が示された。挿入の容易さは、0で「非常に容易」、4で「非常に困難」を示す、0.5刻みの0~4のスケールを用いて評価した。
【0116】
結果は次の通りである:薄いインサートが1.3±0.5、厚いインサートが1.6±0.5。この結果は、2つのインサートの挿入のし易さには有意差がなかったことを示している。更に、インサートは、ごく僅かな訓練さえすれば、眼内に配置するのが比較的容易であった。
【0117】
ポリマー製眼用インサートの溶解速度-各タイムポイントにおけるポリマー製眼用インサートの溶解の程度を評価した。治験責任医師によって、各タイムポイント(挿入時、挿入45、60、75、90、及び105分後)におけるポリマー製眼用インサートの溶解の程度の評価を得た。溶解の評点は、0で「溶解せず」、6で「完全に溶解した」を示す、0~6のスケールを用いて行った。
【0118】
結果を図13に示すが、この結果は、潤滑剤の固形材料の約90%が60~90分の間に溶解することを示している。更に、このデータは、2つのインサートの溶解の評点に有意差がなかったことを示している。
【0119】
NITBUT-非侵襲性涙液遮断時間(NITBUT)の評価を、挿入時、並びに挿入60分、90分、及び105分後に実施した。結果を図14に示す。
【0120】
図14は、挿入時のタイムポイントにおいて両インサートで処置眼と対照眼との間に統計的有意差があり、対照眼よりも処置眼のNITBUTのほうが大きかった(厚いインサート:18.52に対して8.12、p=0.01;薄いインサート:17.26に対して7.93、p<0.01)ということを図示している。また、60分及び90分のタイムポイントにおける厚いインサートでの処置眼と対照眼の間にも統計的有意差があった(60分:14.47に対して5.89、p=0.02;90分:10.36に対して5.77、p=0.02)。
【0121】
涙液メニスカス-治験責任医師によって、処置の際のタイムポイント、並びに挿入60分、90分、及び105分後の涙膜メニスカスの高さの評価が示された。結果を図15に示す。
【0122】
他の変数
眼球刺激-各タイムポイント(挿入前、挿入5、15、30、60、90、及び105分後)において、参加者に「眼の眼球刺激感についてどのように評価しますか?」という質問をした。参加者は、0で「強烈な眼球刺激を感じる」、100で「眼球刺激を全く感じない」を示す、0~100のスケールを用いて回答した。
【0123】
結果を図16に示す。図16で分かるように、5分のタイムポイントにおける両インサートで、処置眼と対照眼との間に統計的有意差があり、処置眼の眼球刺激評価は統計的に有意に低下していた(厚いインサート:71に対して100、p=0.01;薄いインサート:67に対して99、p=0.02)。2つのインサート間の眼球刺激評価に有意差はなかった。
【0124】
眼球の乾燥-各タイムポイント(挿入前、挿入5、15、30、60、90、及び105分後)において、参加者に「眼の乾燥についてどのように評価しますか?」という質問をした。参加者は、0で「非常に乾燥している」、100で「全く乾燥していない」を示す、0~100のスケールを用いて回答した。結果を図17に示す。いずれの処置についても、乾燥の点で治療眼及び対照眼の間に統計的有意差はなかった。インサート間における差もなかった。
【0125】
灼熱感/刺痛感-各タイムポイント(挿入前、挿入5、15、30、60、90、及び105分後)において、参加者に「眼の灼熱感/刺痛感についてどのように評価しますか?」という質問をした。参加者は、0で「強烈な灼熱感/刺痛感を感じる」、100で「灼熱感/刺痛感が全くない」を示す、0~100のスケールを用いて回答した。結果を図18に示す。いずれの処置についても、灼熱感/刺痛感の点で治療眼及び対照眼の間に統計的有意差はなかった。インサート間における差もなかった。
【0126】
掻痒感-各タイムポイント(挿入前、挿入5、15、30、60、90、及び105分後)において、参加者に「眼の掻痒感についてどのように評価しますか?」という質問をした。参加者は、0で「強烈な掻痒感」、100で「掻痒感が全くない」を示す、0~100のスケールを用いて回答した。結果を図19に示す。結果から分かるように、いずれの処置についても、掻痒感の点で治療眼及び対照眼の間に統計的有意差はなかった。インサート間における差もなかった。
【0127】
高照度、高コントラスト視力-治験責任医師によって、スクリーニング時、並びに治療来院の際の挿入時、並びに挿入60分後及び105分後の高コントラスト、高照度での視力の評価が示された。挿入時及び60分のタイムポイントにおける処置眼と対照眼の間に統計的有意差があり、参加者は視力の有意な減少を示した。(挿入時:厚いインサート:0.05に対して-0.11、p<0.01;薄いインサート:0.07に対して-0.10、p=0.01)(60分:厚いインサート:-0.06に対して-0.1、p=0.03;-0.07に対して-0.10、p=0.02)。60分における視力の差は約2文字に相当するものであり、これは臨床的に意義のあるものとみなし得ない。視力は、治療来院が終了するまでに正常に戻っていた。インサート間の視力において統計的有意差はなかった。
【0128】
眼の健康-0で正常であること、及び4で重篤であることを示す、0.1刻みの0~4のスケール(エフロンスケール)を用いて、眼球及び角膜縁の充血(発赤)並びに新血管新生について評価した。眼の健康のあらゆる測定値について、臨床的に意義のある差はなかった。
【0129】
結果の概要
・主観的快適性及び忍容性の主要臨床成績が達成された。インサートは参加者によって忍容性が示され、装着中及び装着後における全ての患者の眼の健康にマイナスの影響を与えなかった。
・SYSTANE ULTRAとインサートとの間に、参加者の灼熱感、刺痛感、掻痒感又は乾燥に関する統計的有意差はなかった。
・インサートは、眼の健康にマイナスの影響を与えなかった。
・インビボのウサギ試験データ及び臨床快適性試験データは、この器具が眼用潤滑剤及び他の局所用眼薬を送達するための有益なプラットフォームとなり得ることを示唆している。
【0130】
本開示及びその利点を詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本明細書において様々な変更形態、置換形態及び変換形態がなされ得ることを理解されたい。更に、本願の範囲は明細書に述べられたプロセス、機械、製造法、物質の組成、手段、方法、及び工程の特定の実施形態に限定することを意図するものではない。当業者であれば本開示から直ちに認識されるように、既存の、或いは将来開発されるであろう、本明細書中で説明した対応する実施形態と実質上同等の機能を行うか、或いは実質上同等の結果を実現するプロセス、機械、製造法、物質の組成、手段、方法、又は工程は、本開示に基づいて利用することが可能である。したがって、添付の特許請求の範囲はその範囲内にこうしたプロセス、機械、製造法、物質の組成、手段、方法、又は工程を包含することが意図される。本明細書で引用された出版物及び特許出願及び特許は全て、その全体が参考として本明細書に組み込まれる。
図1
図2A-2B】
図2C
図3A-3C】
図4A-4B】
図4C-4D】
図4E
図5A-5C】
図5D-5F】
図5G-5I】
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19