(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】免震装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20230919BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
F16F15/02 L
E04H9/02 331E
(21)【出願番号】P 2022170151
(22)【出願日】2022-10-24
【審査請求日】2023-03-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】閻 星宇
(72)【発明者】
【氏名】山口 路夫
(72)【発明者】
【氏名】林 哲也
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-121754(JP,A)
【文献】特開2015-048929(JP,A)
【文献】特許第6976471(JP,B1)
【文献】特開2005-140276(JP,A)
【文献】特開2020-190320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1免震装置と、
前記第1免震装置の下に配置される第2免震装置と、
前記第1免震装置と前記第2免震装置との間に配置され、前記第1免震装置から伝達される面圧を前記第2免震装置が受けることのできる基準面圧以下に調整する調整手段と、
を有する、
ことを特徴とする免震装置。
【請求項2】
前記調整手段は、連結板である、
ことを特徴とする請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
前記連結板は、前記第1免震装置から伝達される面圧を受け、前記第2免震装置に伝達する荷重伝達領域を有し、
前記荷重伝達領域の大きさは、前記連結板の厚みによって設定される、
ことを特徴とする請求項2に記載の免震装置。
【請求項4】
前記連結板は、前記第1免震装置から伝達される面圧を受け、前記第2免震装置に伝達する荷重伝達領域を有し、
前記荷重伝達領域の大きさは、前記連結板の平面視における面積によって設定される、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の免震装置。
【請求項5】
前記連結板は、円形、又は頂点の数が4以上の正多角形である、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の免震装置。
【請求項6】
前記第1免震装置は、球面滑り装置であり、
前記第2免震装置は、平面滑り装置であり、
前記平面滑り装置は、
平板と、
前記平板の上面もしくは下面に取り付けられている滑り材と、
を有し、
前記球面滑り装置は、
上沓と、
下沓と、
前記上沓と前記下沓との間を摺動するスライダーと、
を有し、
前記平面滑り装置と前記球面滑り装置との間には、前記連結板が設置される、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の免震装置。
【請求項7】
前記連結板は、前記第1免震装置から伝達される面圧を受け、前記第2免震装置に伝達する荷重伝達領域を有し、
前記荷重伝達領域の広がり角は、前記連結板の剛性、曲げ剛性、及び材料強度と、前記平面滑り装置の前記滑り材の弾性剛性と、によって設定される、
ことを特徴とする請求項6に記載の免震装置。
【請求項8】
前記連結板は、前記第1免震装置から伝達される面圧を受け、前記第2免震装置に伝達する荷重伝達領域を有し、
前記荷重伝達領域の前記滑り材に接する面である受圧面が、前記免震装置に水平荷重が加わっていない状態で、前記滑り材の領域内に存在する、
ことを特徴とする請求項7に記載の免震装置。
【請求項9】
前記球面滑り装置の摩擦係数が、前記平面滑り装置の摩擦係数よりも小さい、
ことを特徴とする請求項8に記載の免震装置。
【請求項10】
前記スライダーが外力により変位した際に前記滑り材に加わる一時的な面圧が、前記滑り材の圧縮限界強度以下である、
ことを特徴とする請求項9に記載の免震装置。
【請求項11】
前記荷重伝達領域の前記滑り材に接する面である受圧面が所定面積を確保できるように、
前記連結板が前記球面滑り装置から伝達される面圧を受け、前記平面滑り装置に伝達する荷重伝達領域の大きさが、前記連結板の厚み及び前記連結板の平面視における面積の少なくとも一方によって設定された、
ことを特徴とする請求項9に記載の免震装置。
【請求項12】
前記連結板は、前記第1免震装置から伝達される面圧を受け、前記第2免震装置に伝達する荷重伝達領域を有し、
前記荷重伝達領域の前記滑り材に接する面である受圧面が、
前記スライダーが外力により変位した際に領域内に存在するように前記滑り材が形成された、
ことを特徴とする請求項9に記載の免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建物をはじめとする地上の構造物について、地震による被害を軽減するために、地盤と構造物との間に免震装置を配置することがある。
特許文献1では、平面滑り装置の上に球面滑り装置を可動自在に載置することで、球面滑り装置の規模を大きくすることなく、風荷重等の小さな水平荷重に対して可動することなく、レベル2地震動とレベル3地震動の双方に対して十分な制震性能を発揮することのできる免震装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
球面滑り装置と平面滑り装置を組み合わせることで、幅広い震度に対して性能を発揮できる免震装置とすることができる。しかしながら、球面滑り装置が対応可能な面圧(基準面圧)と、平面滑り装置の基準面圧の差が大きく、球面滑り装置と平面滑り装置とを直列に組み合わせることで、平面滑り装置が面圧に耐えられなくなる課題がある。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、対応可能な面圧の異なる複数の免震構造を直列に配置することができる免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
<1>本発明の態様1に係る免震装置は、第1免震装置と、前記第1免震装置の下に配置される第2免震装置と、前記第1免震装置と前記第2免震装置との間に配置され、前記第1免震装置から伝達される面圧を前記第2免震装置が受けることのできる基準面圧以下に調整する調整手段と、を有することを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、第1免震装置から伝達される面圧を第2免震装置が受けることのできる基準面圧以下にして調整する調整手段を有する。これにより、第1免震装置が構造物から受ける面圧に対して第2免震装置が受けることのできる基準面圧が低い場合であっても、第1免震装置の下に第2免震装置を配置することができる。よって、対応可能な面圧の異なる複数の免震構造を直列に配置することができる免震装置とすることができる。
【0008】
<2>本発明の態様2に係る免震装置は、態様1に係る免震装置において、前記調整手段は、連結板であることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、調整手段は、連結板である。つまり、調整手段は板状の部材であり、複雑な機構を有さない。このように、上述の面圧の調整を複雑な機構を用いずに行うことで、より簡素な構造とすることができる。
【0010】
<3>本発明の態様3に係る免震装置は、態様2に係る免震装置において、前記連結板は、前記第1免震装置から伝達される面圧を受け、前記第2免震装置に伝達する荷重伝達領域を有し、前記荷重伝達領域の大きさは、前記連結板の厚みによって設定されることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、荷重伝達領域の大きさは、連結板の厚みによって設定される。つまり、荷重伝達領域の大きさを設定するために検討する条件として、連結板の厚みが用いられる。これにより、検討する条件として用いられる変数をより簡素なものとすることができる。よって、設計検討を効率化することができる。
【0012】
<4>本発明の態様4に係る免震装置は、態様2又は態様3に係る免震装置において、前記連結板は、前記第1免震装置から伝達される面圧を受け、前記第2免震装置に伝達する荷重伝達領域を有し、前記荷重伝達領域の大きさは、前記連結板の平面視における面積によって設定されることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、荷重伝達領域の大きさは、連結板の平面視における面積によって設定される。つまり、荷重伝達領域の大きさを設定するために検討する条件として、連結板の平面視における面積が用いられる。これにより、例えば、連結板の高さに制限がある場合に、連結板の面積を大きくすることで対応することができる。よって、より設計検討の利便性を向上することができる。
【0014】
<5>本発明の態様5に係る免震装置は、態様2から態様4のいずれか1つに係る免震装置において、前記連結板は、円形、又は頂点の数が4以上の正多角形であることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、連結板は、円形、又は頂点の数が4以上の正多角形である。連結板が円形であることで、面圧を伝達する領域を広くすることができる。また、連結板が多角形である場合と比較して、いずれかの頂点に面圧が集中することを防ぐことができる。よって、連結板の耐久性を向上することができる。連結板が、頂点の数が4以上の正多角形であることで、頂点の数が3である場合よりも、正多角形の周長を一定とした条件において、正多角形の面積を大きくすることができる。したがって、連結板に付加される面圧の大きさを小さくすることができる。よって、連結板の耐久性を向上することができる。
【0016】
<6>本発明の態様6に係る免震装置は、態様2から態様5のいずれか1つに係る免震装置において、前記第1免震装置は、球面滑り装置であり、前記第2免震装置は、平面滑り装置であり、前記平面滑り装置は、平板と、前記平板の上面もしくは下面に取り付けられている滑り材と、を有し、前記球面滑り装置は、上沓と、下沓と、前記上沓と前記下沓との間を摺動するスライダーと、を有し、前記平面滑り装置と前記球面滑り装置との間には、前記連結板が設置されることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、第1免震装置は、球面滑り装置であり、第2免震装置は、平面滑り装置である。つまり、2種類の滑り装置によって、1つの免震装置を構成する。これにより、本発明に係る免震装置が配置された構造物と基礎構造との間の免震を、2つの構造によって行うことができる。よって、より免震の効果を顕著にもたらすことができる。
【0018】
また、平面滑り装置と球面滑り装置の間には、連結板が設置される。これにより、平面滑り装置と球面滑り装置との間の面圧の伝達を円滑に行うことができる。よって、平面滑り装置及び球面滑り装置の両方の性能を十分に発揮することができる。
【0019】
<7>本発明の態様7に係る免震装置は、態様6に係る免震装置において、前記連結板は、前記第1免震装置から伝達される面圧を受け、前記第2免震装置に伝達する荷重伝達領域を有し、前記荷重伝達領域の広がり角は、前記連結板の剛性、曲げ剛性、及び材料強度と、前記平面滑り装置の前記滑り材の弾性剛性と、によって設定されることを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、荷重伝達領域の広がり角は、連結板の剛性、曲げ剛性、及び材料強度と、平面滑り装置の滑り材の弾性剛性と、によって設定される。これにより、例えば、設置場所において免震装置の大きさが制限される場合等に、連結板の形状を変更することなく、荷重伝達領域の形状を調整することができる。
【0021】
<8>本発明の態様8に係る免震装置は、態様6又は態様7に係る免震装置において、前記連結板は、前記第1免震装置から伝達される面圧を受け、前記第2免震装置に伝達する荷重伝達領域を有し、前記荷重伝達領域の前記滑り材に接する面である受圧面が、前記免震装置に水平荷重が加わっていない状態で、前記滑り材の領域内に存在することを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、受圧面が、免震装置に水平荷重が加わっていない状態で、滑り材の領域内に存在する。つまり、免震装置が作動していない状態において、受圧面は、平面視において、平面滑り装置の滑り材の領域内に存在する。このような構成とすることで、免震装置が作動していない状態における、球面滑り装置から平面滑り装置への面圧の伝達を確実に行うことができる。
【0023】
<9>本発明の態様9に係る免震装置は、態様6から態様8のいずれか1つに係る免震装置において、前記球面滑り装置の摩擦係数が、前記平面滑り装置の摩擦係数よりも小さいことを特徴とする。
【0024】
この発明によれば、球面滑り装置の摩擦係数が、平面滑り装置の摩擦係数よりも小さい。これにより、平面滑り装置が作動するよりも早く、球面滑り装置を作動させることができる。よって、例えば、比較的震度が小さい地震が発生した際には、平面滑り装置を作動させることなく、球面滑り装置のみを作動させることによって対応することができる。
【0025】
<10>本発明の態様10に係る免震装置は、態様6から態様9のいずれか1つに係る免震装置において、前記スライダーが外力により変位した際に前記滑り材に加わる一時的な面圧が、前記滑り材の圧縮限界強度以下であることを特徴とする。
【0026】
この発明によれば、スライダーが外力により変位した際に滑り材に加わる一時的な面圧が、滑り材の圧縮限界強度以下である。これにより、地震によって球面滑り装置のスライダーが変位した際に、滑り材が破損することを防ぐことができる。よって、免震装置の耐久性を十分に確保することができる。
【0027】
<11>本発明の態様11に係る免震装置は、態様6から態様10のいずれか1つに係る免震装置において、前記荷重伝達領域の前記滑り材に接する面である受圧面が所定面積を確保できるように、前記連結板が前記球面滑り装置から伝達される面圧を受け、前記平面滑り装置に伝達する荷重伝達領域の大きさが、前記連結板の厚み及び前記連結板の平面視における面積の少なくとも一方によって設定されたことを特徴とする。
【0028】
この発明によれば、荷重伝達領域の大きさを、前記連結板の厚み及び前記連結板の平面視における面積の少なくとも一方によって調整することで、前記荷重伝達領域の前記滑り材に接する面である受圧面が所定面積を確保できる。そのため、球面滑り装置を、平面滑り装置の作動よりも確実に早く作動させることができるとともに、球面滑り装置が最大変位になる前に平面滑り装置が作動することを確実に防止できる。
【0029】
<12>本発明の態様12に係る免震装置は、態様6から態様11のいずれか1つに係る免震装置において、前記連結板は、前記第1免震装置から伝達される面圧を受け、前記第2免震装置に伝達する荷重伝達領域を有し、前記荷重伝達領域の前記滑り材に接する面である受圧面が、前記スライダーが外力により変位した際に領域内に存在するように前記滑り材が形成されたことを特徴とする。
【0030】
この発明によれば、前記滑り材は、前記連結板が有する、前記第1免震装置から伝達される面圧を受け、前記第2免震装置に伝達する荷重伝達領域の前記滑り材に接する面である受圧面が、前記スライダーが外力により変位した際に領域内に存在するように形成されている。つまり、スライダーの変位によって受圧面の面積が変化しない。そのため、球面滑り装置を、平面滑り装置の作動よりも確実に早く作動させることができるとともに、球面滑り装置が最大変位になる前に平面滑り装置が作動することを確実に防止できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、対応可能な面圧の異なる複数の免震構造を直列に配置することができる免震装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図3】水平力と水平変形量との相関を示すグラフの第1例である。
【
図4】水平力と水平変形量との相関を示すグラフの第2例である。
【
図5】水平力と水平変形量との相関を示すグラフの第3例である。
【
図6】第1免震装置のスライダーがストッパーリングに衝突した後に、第2免震装置が作動した場合の模式図である。
【
図7】第1免震装置のスライダーがストッパーリングに衝突する前に、第2免震装置が作動した場合の模式図である。
【
図9】第2免震装置の摩擦係数について面圧依存性について説明する説明図である。
【
図10】本発明に係る別の実施形態の免震装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る免震装置100を説明する。免震装置100は、例えば、建物をはじめとする構造物Cと地盤との間に配置される。これにより、地震による地盤の揺動が構造物Cに伝達することを抑制する。
免震装置100は、
図1に示すように、第1免震装置10と、第2免震装置20と、調整手段30と、を有する。
【0034】
第1免震装置10は、構造物Cの下部に連結される。本実施形態において、第1免震装置10は、いわゆる球面滑り装置である。球面滑り装置である第1免震装置10は、上沓11と、下沓12と、上沓11と下沓12との間を摺動するスライダー13とを有する。上沓11と下沓12はいずれも、平面視矩形(長方形もしくは正方形)の板材であり、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)等から形成されている。上沓11の下面と下沓12の上面にはそれぞれ、曲率を有する上滑り面11a及び下滑り面12aが設けられている。上滑り面11a及び下滑り面12aは、ステンレス製の滑り板である。また、上沓11と下沓12には、滑り板の外周において、スライダー13の脱落を防止するための平面視環状のストッパーリング14が固定されている。
【0035】
一方、スライダー13は、曲率を有する上下の滑り面を備え、略円柱状を呈している。また、スライダー13は、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)等から形成され、面圧60N/mm2(60MPa)程度の耐荷強度を有している。以下、前記耐荷強度を基準面圧と呼称する。つまり、言い換えれば、本実施形態において、第1免震装置10の基準面圧は、60MPaである。また、本実施形態において、スライダー13の外径は、例えば、200mmである。
【0036】
図2に示すように、スライダー13が上沓11と下沓12との間を摺動することで、上沓11と下沓12とは水平方向に相対移動が可能である。これにより、地震動による地盤の振動が下沓12に伝達された時、下沓12が上沓11に対して相対移動する。このような動きをすることで、地震動による地盤の振動が上沓11を介して構造物Cに伝達されることを防ぐ。
【0037】
第2免震装置20は、第1免震装置10の下に配置される。第2免震装置20は、例えば地盤の上に設けられた基礎構造BCと連結される。本実施形態において、第2免震装置20は、いわゆる平面滑り装置である。平面滑り装置である第2免震装置20は、平板21と、平板21の上面もしくは下面に取り付けられている滑り材22とを有する。平板21は、上沓11等と同様に平面視矩形で平面寸法が第1免震装置10よりも大きな板材であり、ステンレス鋼等により形成されている。一方、滑り材22はPTFE等により形成されている。
【0038】
滑り材22が平板21の上面に取り付けられる場合は、平板21が地盤に連結される。滑り材22が平板21の下面に取り付けられる場合は、滑り材22が地盤に連結される。以下、本実施形態においては、滑り材22が平板21の上側に配置され、平板21が地盤に連結されているものとして説明する。なお、本実施形態では、基礎構造BCの上面に設けられたベースプレート23と平板21とが相対移動しないように固定されている。ベースプレート23は溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)等で形成されている。
【0039】
平板21と滑り材22とは、水平方向に摺動することで相対移動が可能である。これにより、地震動による地盤の振動が平板21又は滑り材22に伝達された時、平板21と滑り材22とが相対移動する。このような動きをすることで、地震動による地盤の振動が構造物Cに伝達されることを防ぐ。本実施形態において、第2免震装置20の基準面圧は、20MPaである。
【0040】
本実施形態において、球面滑り装置である第1免震装置10の摩擦係数、すなわちスライダー13と上沓11及び下沓12との間の摩擦係数(静摩擦係数)は、平面滑り装置である第2免震装置20の摩擦係数、すなわち平板21と滑り材22との間の摩擦係数よりも小さい。これにより、
図3、
図4、
図5のグラフに示すように、地震による入力(水平力)を縦軸に、水平方向における地盤と構造物Cとの移動量(水平変形量)を横軸に取ると、次のような相関となる。なお、水平力の単位はkNである。水平変形量の単位はmmである。
【0041】
まず、水平力が第1水平力Q1となり、水平力が第1免震装置10の静止摩擦力を上回ると、第1免震装置10が作動する。上述のように、第1免震装置10は、球面滑り装置である。球面滑り装置においては、地震の後にスライダー13、上沓11及び下沓12の位置関係が元に戻ろうとする力が働く。このため、第1免震装置10が作動する時は、水平力が一定の割合で増加しつつ、水平変形量が増加する。
【0042】
その後、水平力が更に増加し、第2水平力Q2となると、第2免震装置20が作動する。上述のように、第2免震装置20は、平面滑り装置である。平面滑り装置においては、地震の後に平板21と滑り材22との位置関係が元に戻ろうとする力が働かない。このため、第2免震装置20が作動した後は、水平力は一定となる。
【0043】
上記態様は、
図3、
図4、
図5のいずれのグラフに示す場合においても同様である。以下、
図3、
図4、
図5のそれぞれに示す場合ごとにおける、第1免震装置10と第2免震装置20の動きについて説明する。
【0044】
図3のグラフに示す場合は、次のような動きとなる。すなわち、水平変形量が第1変形量δ1となると、第1免震装置10のスライダー13が、上沓11及び下沓12に備えるストッパーリング14に衝突する。これにより、第1免震装置10の変形(上沓11と下沓12との相対移動)が止まる。つまり、
図3における第1変形量δ1は、スライダー13が、ストッパーリング14に衝突した時の変形量である。スライダー13がストッパーリング14に衝突した後、第1免震装置10の水平変形量が増加しないまま更に水平力が増加し、第2水平力Q2となると、第2免震装置が作動する。
【0045】
図4のグラフに示す場合は、次のような動きとなる。すなわち、水平変形量が第1変形量δ1となると、スライダー13がストッパーリング14に衝突する。これにより、第1免震装置10の変形(上沓11と下沓12との相対移動)が止まる点で、
図3の場合と同じである。
図4の場合は、水平変形量が第1変形量δ1となる水平力が、第2免震装置20が作動する第2水平力Q2と等しい点で、
図3の場合と相違する。つまり、
図4の場合は、スライダー13がストッパーリング14に衝突した直後に、第2免震装置が作動する点で、
図3の場合と相違する。
【0046】
図5のグラフに示す場合は、次のような動きとなる。すなわち、水平変形量が第1変形量δ1となる前に、第2免震装置20が作動する。つまり、スライダー13がストッパーリング14に衝突する前に、第2免震装置が作動する。この場合は、第2免震装置20が作動した後にも、第1免震装置10の変形(上沓11と下沓12との相対移動)が止まらない点で、
図3及び
図4の場合と相違する。
【0047】
上述の相関に基づき、本実施形態に係る免震装置100は、次のように作動する。すなわち、地震動による水平力が第1水平力Q1を超えた時、
図2に示すように、まず第1免震装置10の上沓11と下沓12とが相対移動する。この時、水平力が第2水平力Q2に至っていないため、第2免震装置20の平板21と滑り材22とは相対移動しない。言い換えれば、平面滑り装置が作動するよりも早く、球面滑り装置が作動する。これにより、例えば、比較的震度が小さい地震動が発生した際には、第2免震装置20を作動させることなく、第1免震装置10のみ作動することで、免震の効果を発揮する。
【0048】
そして、比較的震度が大きい地震が発生し、水平力が第2水平力Q2を超えた際には、第2免震装置20が作動する。本実施形態において、第1変形量δ1は、以下の2例のように定義される。
すなわち、第1変形量δ1の第1例は、第1免震装置10のスライダー13の最大移動量である。具体的には、
図6に示すように、第1免震装置10のスライダー13が下沓12の端部に設けられたストッパーリング14に接触した時の移動量が、第1変形量δ1である。このとき、上沓11及びストッパーリング14がスライダー13によって下沓12を水平方向に押し出すように水平力が作用することで、第2水平力Q2を超える力が第2免震装置20に付加される。これにより、第2免震装置が作動する。上述の
図3及び
図4のグラフに示す場合がこれに該当する。
【0049】
第1変形量δ1の第2例は、地震動による水平力と、スライダー13と上沓11及び下沓12との間に生じる水平方向の反力がつり合った状態となる時の移動量である。この場合、
図7に示すように、第2免震装置20は、スライダー13がストッパーリング14に接触する前に作動する。具体的には、地震動による水平力によってスライダー13が下沓12を水平方向に押すように作用する力が、第2免震装置20の静止摩擦力を越えることで作動する。上述の
図5のグラフに示す場合がこれに該当する。
このように、免震装置100は、第1免震装置10の効果に加えて第2免震装置20の効果を発揮することで、比較的大きな震度の地震動に対しても、免震の効果を発揮する。
【0050】
上述の震度の大きさについては、以下のように規定する。すなわち、稀に起きる(50年に一度程度)震度をレベル1とする。極めて稀に起きる(500年に一度程度)震度をレベル2とする。また、レベル2地震動よりも規模の大きな極大地震動をレベル3とする。
このとき、例えば、レベル3以上の震度の場合に第2免震装置20が作動するようにするためには、第2免震装置20の摩擦係数は、例えば、0.13から0.15程度に設定することが好ましい。レベル1又はレベル2の震度で第1免震装置10が作動するようにするためには、第1免震装置10の摩擦係数は、例えば、第2免震装置20より小さく設定することが好ましい。ここで、第1免震装置10の摩擦係数は、風荷重等の比較的小さな水平荷重に対して第1免震装置10が可動しないように設定してもよい。
上記考慮の上、構造物Cの重量、地域ごとに想定される震度、あるいは構造物Cの目的に合わせた費用対効果を加味して、第1免震装置10及び第2免震装置20を設計することが好ましい。
【0051】
なお、球面滑り装置である第1免震装置10は、地震動が収束するとスライダー13が上沓11及び下沓12の中央に自然と戻ることから、地震動後に上沓11と下沓12との相対位置は地震動が発生する前の位置に戻る。これに対し、平面滑り装置である第2免震装置20が作動すると、地震動後に平板21と滑り材22との相対位置がずれた状態のままとなる。この場合は、ジャッキ等で滑り材22以上の各構成を押すことによって、地震動が発生する前の位置に戻すことが好ましい。
【0052】
調整手段30は、第1免震装置10と第2免震装置20との間に配置される。ここで、上述のように、第1免震装置10の基準面圧は、例えば、60MPaである。これに対し、第2免震装置20の基準面圧は、例えば、20MPaである。つまり、第2免震装置20の基準面圧によっては、第1免震装置10の基準面圧に相当する面圧に対応することができない。これに対し、調整手段30は、第1免震装置10から伝達される面圧を、第2免震装置20が受けることのできる基準面圧、すなわち第2免震装置20の機能を保証可能な面圧以下に調整する役割を有する。
【0053】
また、本実施形態において、第1免震装置10のスライダー13が外力により変位した際に滑り材22に加わる一時的な面圧は、滑り材22の圧縮限界強度以下である。つまり、調整手段30は、免震装置100に外力が付加されていない場合における、構造物Cの荷重によって発生する面圧を基準面圧以下に調整することに加えて、前記一時的な面圧を滑り材22の圧縮限界強度以下に調整する役割を有する。
【0054】
ここで、外力とは、地震動によって免震装置100に入力された水平荷重をいう。一時的な面圧とは、
図2に示すように、地震動によって第1免震装置10の上沓11と下沓12とが水平方向に相対移動した時、スライダー13から下沓12及び調整手段30を介して第2免震装置20の滑り材22に一時的に入力される面圧をいう。滑り材22の圧縮限界強度とは、滑り材22に対して鉛直方向に圧縮荷重を付加した場合における、滑り材22としての性能を保証可能な圧縮荷重の最大値をいう。
【0055】
本実施形態において、滑り材22の圧縮限界強度は、例えば、80MPaである。このとき、上述のように、第1免震装置10の基準面圧は60MPaであるとすると、外力による一時的な面圧が80MPa以下となるようにすることが好ましい。このため、外力による面圧の増加代が20MPa以下となるように免震装置100を構成することが好ましい。これにより、地震によって球面滑り装置のスライダー13が変位した際に、滑り材22が破損することを防ぐ。
【0056】
本実施形態において、調整手段30は、連結板である。つまり、調整手段30は板状の部材である。つまり、本実施形態において、連結板である調整手段30は、平面滑り装置である第2免震装置20と球面滑り装置である第1免震装置10との間に配置される。調整手段30は、鉄製であってもよいし、鉄筋コンクリート製であってもよい。あるいは、その他の材質によって形成されてもよい。
調整手段30の上面は、第1免震装置10の下沓12に固定される。具体的には、
図1に示すように、調整手段30の上面に設けられた上ベースプレート31と、下沓12とが、ボルトBによって相対移動しないように固定される。
【0057】
調整手段30の下面は、第2免震装置20の平板21又は滑り材22のうち、上側に位置するものに固定される。つまり、本実施形態においては、滑り材22の上面が調整手段30の下面に固定される。具体的には、
図1に示すように、調整手段30の下面に設けられた下ベースプレート32と滑り材22とが、ボルトBによって相対移動しないように固定される。
【0058】
連結板である調整手段30は、荷重伝達領域30aを有する。荷重伝達領域30aは、第1免震装置10から伝達される面圧を受ける。荷重伝達領域30aは、前記面圧を第2免震装置20に伝達する。荷重伝達領域30aは、第1免震装置10から調整手段30へ作用する面圧を、第2免震装置20の上面、すなわち滑り材22の上面に伝達させる。本実施形態において、面圧は、例えば、構造物Cから第1免震装置10に付加される鉛直荷重によって生じる。あるいは、面圧は、上述の地震動による一時的な荷重によって生じる。調整手段30のうち、荷重伝達領域30aは、荷重伝達領域30a外の部分に比べて応力が高い。なお荷重伝達領域30aは、仮想の領域である。
【0059】
図8に示すように、荷重伝達領域30aは、調整手段30の上面から下面に向けて立体的に広がるように形成される。言い換えると、調整手段30が受けた荷重は、水平方向に拡散しながら下方に伝達される。このような構造とすることで、第1免震装置10から伝達される面圧を、第1免震装置10よりも大きな面で受け止めることができるようにする。これにより、第1免震装置10から伝達される面圧を、第2免震装置20が受けることができる基準面圧以下に調整する。
【0060】
荷重伝達領域30aは、調整手段30内に円錐台状に規定される。荷重伝達領域30aの上面は、調整手段30の上面のうち、スライダー13の直下に位置する部分となる。荷重伝達領域30aの下面は、荷重伝達領域30aの滑り材22に接する面である。以下、当該部位を、受圧面22aを呼称する。荷重伝達領域30aは、所定の広がり角Aをもって伝達される。広がり角Aとは、
図8に示すように、荷重伝達領域30aが上方から下方に向けて広がる際の、鉛直方向に対する角度をいう。広がり角Aは、荷重伝達領域30aの上面の外周縁から下方に延びる仮想線と、荷重伝達領域30aの外周面(境界面)と、が、所定の断面視においてなす角度である。荷重伝達領域30aの外周面(境界面)は、例えば、平面視における荷重伝達領域30aの上面及び下面のそれぞれの外縁を面状につなぐように形成される。前記所定の断面視に係る断面は、スライダー13の中心を通る鉛直方向の断面である。広がり角Aは、スライダー13の中心を通る任意の断面において一様であることが好ましい。
【0061】
荷重伝達領域30aの広がり角Aは、連結板である調整手段30の剛性、曲げ剛性、及び材料強度と、平面滑り装置である第2免震装置20の滑り材22の弾性剛性と、によって設定される。ここで、剛性の単位は、N/mmである。曲げ剛性の単位は、N・mm2である。材料強度の単位は、MPa(N/mm2)である。弾性剛性は、ある物体の弾性領域において、前記物体に力を付加した際に、前記物体が変形する量を示す物性値である。すなわち、弾性剛性は、F(力、kN)/δ(変形量、mm)で求められる。したがって、弾性剛性の単位は、kN/mmである。
【0062】
調整手段30の剛性及び材料強度が低いと、第1免震装置10の面圧に対して調整手段30が変形する。このため、荷重伝達領域30aの広がり角Aが小さくなり、第2免震装置20へ伝達する面圧の減少が図りにくくなる。調整手段30の剛性及び材料強度が高いと、荷重伝達領域30aの広がり角Aが大きくなり、第2免震装置20へ伝達する面圧の減少が図りやすくなる。
【0063】
荷重伝達領域30aの大きさは、連結板である調整手段30の厚みによって設定される。ここで、荷重伝達領域30aの大きさとは、免震装置100を平面視した際の大きさをいう。荷重伝達領域30aの大きさは、調整手段30の下端において最大となる。つまり、荷重伝達領域30aの大きさとは、特に受圧面22aの大きさをいうものとする。受圧面22aは、免震装置100に水平荷重が加わっていない状態で、滑り材22の領域内に存在する。
【0064】
調整手段30の厚みが大きいほど、荷重伝達領域30aが大きくなる。つまり、調整手段30の厚みが大きいほど、第2免震装置20に伝達される面圧が小さくなる。
荷重伝達領域30aの大きさは、連結板である調整手段30の平面視における面積によって設定されてもよい。調整手段30の面積を大きくすることは、例えば、荷重伝達領域30aの広がり角Aに対して調整手段30の面積が小さく、第2免震装置20へ伝達する面圧を減少する機能が十分に活かすことができない場合に有効である。あるいは、調整手段30の厚みが過度に大きいと、調整手段30に対して転倒モーメントが発生することがある。これを防ぐために、調整手段30の面積を大きくしてもよい。
平面視において、連結板である調整手段30は、例えば、円形である。あるいは、調整手段30は、頂点の数が4以上の正多角形であってもよい。この場合、調整手段30は、例えば、八角形であることが特に好ましい。
【0065】
以下において、調整手段30の大きさを設定するための具体的な手順について以下で詳細に説明する。
まず、第2免震装置20の起動時(滑り出し時)の摩擦係数について面圧依存性の基礎データをまとめる。具体的には、第2免震装置20の摩擦係数について面圧依存性について説明する説明図である
図9に示すように、ステンレス鋼とPTFEとの摩擦において、面圧が大きいほど摩擦係数が小さくなるという面圧依存性があるため、平板21と滑り材22との間の摩擦係数の面圧による変化を基礎データとしてまとめる。
【0066】
次に、第1免震装置10のスライダー13が当初位置にある場合、つまり第1免震装置10においてスライダー13が中央にある状態と、最大変位まで移動した場合(スライダー13がストッパーリング14に当接する位置まで移動した状態)との各第2免震装置20の許容面圧を設定する。本実施形態では、第1免震装置10のスライダー13が当初位置にある状態で面圧20N/mm2以下とし、スライダー13がストッパーリング14に当接する位置まで移動した状態では面圧40N/mm2以下とする。
【0067】
そして、上述したように設定した条件で、上述の第1変形量δ1の第1例のように、第1免震装置10のスライダー13が下沓12の端部に設けられたストッパーリング14に接触してから第2免震装置20が作動するように構成する場合は、第2免震装置20の摩擦係数(静止摩擦係数)が第1免震装置10の摩擦係数(動摩擦係数)より常に大きくなることを確認し、上述の第1変形量δ1の第2例のように、スライダー13がストッパーリング14に接触する前に第2免震装置20が作動するように構成する場合は、第2免震装置20が作動する前までの間、第2免震装置20の摩擦係数(静止摩擦係数)が第1免震装置10の摩擦係数(動摩擦係数)より常に大きくなることを確認する。
【0068】
そのため、FEM解析により、各条件での第2免震装置20に鉛直荷重が載荷される面積、荷重分布(荷重伝達領域30a)を確認し、第2免震装置20が許容面圧以下となるように調整手段30の厚み(高さ)及び直径を算出し、設定する。
なお、調整手段30の直径は、第2免震装置20の外径より外径が小さな第1免震装置10よりも大きくなるように設定する。
【0069】
このとき、上述の第1変形量δ1の第1例のように、第1免震装置10のスライダー13が下沓12の端部に設けられたストッパーリング14に接触してから第2免震装置20が作動するように構成する場合は、
図9に示すように、荷重伝達領域30aによる受圧面22aの面積(以下において受圧面積Xという)が所定の大きさとなるように設定する。
【0070】
具体的には、
図9(a)に示すように、水平力が免震装置100に作用し、第1免震装置10が作動し、スライダー13が当初の位置から変位しても、受圧面積Xは荷重伝達領域30aの大きさ、高さ及び広がり角Aによって設定される。しかしながら、
図9(b)に示すように、スライダー13が所定の変位量を超えると、荷重伝達領域30aの一部が滑り材22を超えるため、受圧面積Xは低減することとなる。
【0071】
図9(c)に示すように、ステンレス鋼等により形成されている平板21と、PTFEにより形成されている滑り材22とが摺動する第2免震装置20における摩擦係数と面圧の関係において、面圧Pが増加すると、摩擦係数μは減少し、面圧Pが増加するほど摩擦係数μの減少率が小さくなる近似曲線を示す。
【0072】
ここで摩擦係数μは、構造物Cの重量等によって作用する鉛直方向の荷重Nとの積によって摩擦反力Qとなり、面圧Pは荷重Nを受圧面積Xで除した値である。なお、荷重Nは一定であるため、N=1とすると、摩擦反力Qと、1/受圧面積Xとの関係となる。この摩擦反力Qと、1/受圧面積Xとの関係は、
図9(d)に示すように、1/受圧面積Xが増加すると、摩擦反力Qは減少し、1/受圧面積Xが増加するほど摩擦反力Qの減少率が小さくなる近似曲線を示す。
【0073】
近似曲線を示す摩擦反力Qと、1/受圧面積Xとの関係に基づくと、荷重Nとの積によって摩擦反力Qとなる摩擦係数μと受圧面積Xとの関係は、
図9(e)に示すように、
図9(d)の近似曲線と逆向きであり、受圧面積Xが増加すると、摩擦係数μも増加するが、受圧面積Xが増加するほど摩擦係数μの増加率が小さくなる逆向きの近似曲線を示す。
換言すると、摩擦係数μと受圧面積Xとの関係は、受圧面積Xが減少すると、摩擦係数μも減少するが、受圧面積Xが減少するほど摩擦係数μの減少率が大きくなる近似曲線を示す。
【0074】
そのため、
図9(e)において例示するように、荷重伝達領域30aによる受圧面積Xが一定の状態における第2免震装置20の摩擦係数μ
2と、第1免震装置10の摩擦係数μ
1とが近似するとともに、荷重伝達領域30aによる受圧面積Xが小さい場合、スライダー13の変位によって、受圧面積Xが少し減少することで、第2免震装置20の摩擦係数μ
2が第1免震装置10の摩擦係数μ
1より小さくなるおそれがある。
【0075】
そのため、上述の第1変形量δ1の第1例のように、第1免震装置10のスライダー13が下沓12の端部に設けられたストッパーリング14に接触してから第2免震装置20が作動するように構成する場合は、荷重伝達領域30aによる受圧面積Xが減少しても第2免震装置20の摩擦係数μが第1免震装置10の摩擦係数μより小さくならないように、受圧面積Xが所定の大きさとなるように調整手段30を設定する。
【0076】
以上説明したように、本実施形態に係る免震装置100によれば、第1免震装置10から伝達される面圧を第2免震装置20が受けることのできる基準面圧以下にして調整する調整手段30を有する。これにより、第1免震装置10が構造物Cから受ける面圧に対して第2免震装置20が受けることのできる基準面圧が低い場合であっても、第1免震装置10の下に第2免震装置20を配置することができる。よって、対応可能な面圧の異なる複数の免震構造を直列に配置することができる免震装置100とすることができる。
【0077】
また、調整手段30は、連結板である。つまり、調整手段30は板状の部材であり、複雑な機構を有さない。このように、上述の面圧の調整を複雑な機構を用いずに行うことで、より簡素な構造とすることができる。
【0078】
また、荷重伝達領域30aの大きさは、連結板の厚みによって設定される。つまり、荷重伝達領域30aの大きさを設定するために検討する条件として、連結板の厚みが用いられる。これにより、検討する条件として用いられる変数をより簡素なものとすることができる。よって、設計検討を効率化することができる。
【0079】
また、荷重伝達領域30aの大きさは、連結板の平面視における面積によって設定される。つまり、荷重伝達領域30aの大きさを設定するために検討する条件として、連結板の平面視における面積が用いられる。これにより、例えば、連結板の高さに制限がある場合に、連結板の面積を大きくすることで対応することができる。よって、より設計検討の利便性を向上することができる。
【0080】
また、連結板は、円形、又は頂点の数が4以上の正多角形である。連結板が円形であることで、面圧を伝達する領域を広くすることができる。また、連結板が多角形である場合と比較して、いずれかの頂点に面圧が集中することを防ぐことができる。よって、連結板の耐久性を向上することができる。連結板が、頂点の数が4以上の正多角形であることで、頂点の数が3である場合よりも、正多角形の周長を一定とした条件において、正多角形の面積を大きくすることができる。したがって、連結板に付加される面圧の大きさを小さくすることができる。よって、連結板の耐久性を向上することができる。
【0081】
また、第1免震装置10は、球面滑り装置であり、第2免震装置20は、平面滑り装置である。つまり、2種類の滑り装置によって、1つの免震装置100を構成する。これにより、本発明に係る免震装置100が配置された構造物Cと基礎構造BCとの間の免震を、2つの構造によって行うことができる。よって、より免震の効果を顕著にもたらすことができる。
【0082】
また、平面滑り装置と球面滑り装置の間には、連結板が設置される。これにより、平面滑り装置と球面滑り装置との間の面圧の伝達を円滑に行うことができる。よって、平面滑り装置及び球面滑り装置の両方の性能を十分に発揮することができる。
【0083】
また、荷重伝達領域30aの広がり角Aは、連結板の剛性、曲げ剛性、及び材料強度と、平面滑り装置の滑り材22の弾性剛性と、によって設定される。これにより、例えば、設置場所において免震装置100の大きさが制限される場合等に、連結板の形状を変更することなく、荷重伝達領域30aの形状を調整することができる。
【0084】
また、受圧面22aが、免震装置100に水平荷重が加わっていない状態で、滑り材22の領域内に存在する。つまり、免震装置100が作動していない状態において、受圧面22aは、平面視において、平面滑り装置の滑り材22の領域内に存在する。このような構成とすることで、免震装置100が作動していない状態における、球面滑り装置から平面滑り装置への面圧の伝達を確実に行うことができる。
【0085】
また、球面滑り装置の摩擦係数が、平面滑り装置の摩擦係数よりも小さい。これにより、平面滑り装置が作動するよりも早く、球面滑り装置を作動させることができる。よって、例えば、比較的震度が小さい地震が発生した際には、平面滑り装置を作動させることなく、球面滑り装置のみを作動させることによって対応することができる。
【0086】
また、スライダー13が外力により変位した際に滑り材22に加わる一時的な面圧が、滑り材22の圧縮限界強度以下である。これにより、地震によって球面滑り装置のスライダー13が変位した際に、滑り材22が破損することを防ぐことができる。よって、免震装置100の耐久性を十分に確保することができる。
【0087】
また、荷重伝達領域30aの滑り材22に接する面である受圧面22aが所定面積を確保できるように、調整手段30が第1免震装置10から伝達される面圧を受け、第2免震装置20に伝達する荷重伝達領域30aの大きさが、調整手段30の厚み及び調整手段30の平面視における面積の少なくとも一方によって設定されている。
【0088】
これにより、荷重伝達領域30aの大きさを、調整手段30の厚み及び調整手段30の平面視における面積の少なくとも一方によって調整することで、荷重伝達領域30aの滑り材22に接する面である受圧面22aが所定面積を確保できる。そのため、第1免震装置10を、第2免震装置20の作動よりも確実に早く作動させることができるとともに、第1免震装置10が最大変位になる前に第2免震装置20が作動することを確実に防止できる。
【0089】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、平面視において、調整手段30は八角形であることが特に好ましいとしたが、これに限らない。例えば、調整手段30を四角形とすることで、調整手段30の小型化及び製造性の向上を図ってもよい。
【0090】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0091】
なお、上述の説明では、荷重伝達領域30aによる受圧面積Xが減少しても第2免震装置20の摩擦係数μが第1免震装置10の摩擦係数μより小さくならないように、受圧面積Xが所定の大きさとなるように調整手段30を設定し、上述の第1変形量δ1の第1例のように、第1免震装置10のスライダー13が下沓12の端部に設けられたストッパーリング14に接触してから第2免震装置20が作動するように構成したが、例えば、
図10に示すように、上述の免震装置100に比べて、第1免震装置10に対する第2免震装置20及び調整手段30の大きさを大きく形成してもよい。
図10に示す免震装置100は、第1免震装置10のスライダー13がストッパーリング14に当接するまで移動した状態での荷重伝達領域30aを考慮して、第2免震装置20及び調整手段30の大きさを設定している。
【0092】
具体的には、
図10(a)に示すように、基礎構造BCに対して構造物Cが右側に相対移動するように外力が作用し、第1免震装置10のスライダー13がストッパーリング14に当接した状態において、当状態での広がり角Aに基づく荷重伝達領域30aによる受圧面22aが滑り材22の領域内に含まれるように、調整手段30及び第2免震装置20を設定している。
【0093】
同様に、
図10(b)に示すように、基礎構造BCに対して構造物Cが左側に相対移動するように外力が作用し、第1免震装置10のスライダー13がストッパーリング14に当接した状態において、当状態での広がり角Aに基づく荷重伝達領域30aが滑り材22の領域内に含まれるように、調整手段30及び第2免震装置20を設定している。
【0094】
なお、
図10は、免震装置100における一断面方向のみを図示しているが、平面視矩形(長方形もしくは正方形)状に形成された免震装置100において直交する断面方向においても同様に、第1免震装置10のスライダー13がストッパーリング14に当接した状態において、当状態での広がり角Aに基づく荷重伝達領域30aが滑り材22の領域内に含まれるように、調整手段30及び第2免震装置20を設定している。
【0095】
上述したように、第1免震装置10のスライダー13がストッパーリング14に当接した状態において、当状態での広がり角Aに基づく荷重伝達領域30aが含まれるように、調整手段30及び第2免震装置20を設定することで、スライダー13が外力により変位した際に滑り材22に加わる一時的な面圧が、滑り材22の圧縮限界強度以下となり、地震によって球面滑り装置のスライダー13がストッパーリング14に当接するまで変位した場合であっても、滑り材22が破損することを防ぐことができる。よって、免震装置100の耐久性を十分に確保することができる。
【0096】
また、調整手段30は、第1免震装置10から伝達される面圧を受け、第2免震装置20に伝達する荷重伝達領域30aを有し、荷重伝達領域30aの滑り材22に接する面である受圧面22aが、スライダー13が外力により変位した際に領域内に存在するように滑り材22が形成されている。
【0097】
これにより、スライダー13の変位によって受圧面22aの面積が変化しない。そのため、第1免震装置10を、第2免震装置20の作動よりも確実に早く作動させることができるとともに、第1免震装置10が最大変位になる前に第2免震装置20が作動することを確実に防止できる。
【符号の説明】
【0098】
10 第1免震装置
11 上沓
11a 上滑り面
12 下沓
12a 下滑り面
13 スライダー
20 第2免震装置
21 平板
22 滑り材
22a 受圧面
30 調整手段
30a 荷重伝達領域
100 免震装置
A 広がり角
【要約】
【課題】対応可能な面圧の異なる複数の免震構造を直列に配置することができる免震装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る免震装置100は、第1免震装置10と、第1免震装置10の下に配置される第2免震装置20と、第1免震装置10と第2免震装置20との間に配置され、第1免震装置10から伝達される面圧を第2免震装置20が受けることのできる基準面圧以下に調整する調整手段30と、を有する、ことを特徴とする。
【選択図】
図1