(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】手動工作機械を作動させる方法、及び、手動工作機械
(51)【国際特許分類】
B25B 23/14 20060101AFI20230919BHJP
B25F 5/00 20060101ALI20230919BHJP
B25B 21/02 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
B25B23/14 630Z
B25F5/00 C
B25B21/02 Z
(21)【出願番号】P 2022504664
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(86)【国際出願番号】 EP2020069289
(87)【国際公開番号】W WO2021018538
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】102019211305.2
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ブルーム,イエンス
(72)【発明者】
【氏名】モック,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ホルシャー,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ザウア,ディートマー
(72)【発明者】
【氏名】エアブレ,ジーモン
(72)【発明者】
【氏名】ヘルベルガー,ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ヘル,トビアス
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-150671(JP,A)
【文献】特開2001-353672(JP,A)
【文献】国際公開第2016/067809(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 23/14
B25F 5/00
B25B 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手動工作機械(100)を作動させる方法において、前記手動工作機械(100)は電気モータ(180)を含み、前記方法
は、
第1の方法ステップ(S1
)を含み、該第1の方法ステップ(S1)では、少なくとも1つのモデル信号形状(240)が提供され、
該モデル信号形状(240)
が前記手動工作機械(100)の作業進捗に割当可能であり、
第2の方法ステップ(S2
)を含み、該第2の方法ステップ(S2)では、前記電気モータ(180)の
第1の動作
量の信号が
、該第1の動作量の測定値の時間的推移として記録され、
前記第2の方法ステップ(S2)に後続する方法ステップである後続方法ステップ(S2a)を含み、該後続方法ステップ(S2a)では、該第2の方法ステップ(S2)で記録された前記第1の動作量の測定値の時間的推移が、時間的推移と相関関係にある前記電気モータ(180)の量としての第2の動作量の測定値の推移に変換され、
第3の方法ステップ(S3
)を含み、該第3の方法ステップ(S3)では、前記
後続方法ステップ(S2a)で得られた前記第2の動作量の測定値の推移が前記モデル信号形状(240)と比較され、
該比較から一致評価が判定され、
第4の方法ステップ(S4
)を含み、該第4の方法ステップ(S4)では、前記
第3の方法ステップ
(S3
)で判定された一致評価を少なくとも部分的に参照して
前記作業進捗が認識され、
第5の方法ステップ(S5
)を含み、該第5の方法ステップ(S5)では、前記
第4の方法ステップ
(S4
)で認識された作業進捗を少なくとも部分的にベースとして前記手動工作機械(100)の第1のルーチンが実行され
る
方法。
【請求項2】
前記第1のルーチンは、少なくとも1つの定義された、および/または設定可能
なパラメータを考慮したうえでの前記電気モータ(180)の停止を含む
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のルーチンは
、前記電気モータ(180)の回転数の変
更を含む
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記電気モータ(180)の回転数の変更の振幅
、および/または
該電気モータ(180)の回転数の目標値
が、前記手動工作機械(100)の利用者によって定義可能である
ことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記電気モータ(180)の回転数の変更が
、複数回および/またはダイナミック
に、および/または回転数変更の特性曲線に沿って、および/または前記手動工作機械(100)の作業進捗に依存して行われる
ことを特徴とする、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記手動工作機械
(100)の出力装置を利用して
、前記作業進捗が
該手動工作機械(100)の利用者に出力される
ことを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のルーチン
、および/または
該第1のルーチンの特徴的なパラメータ
が、アプリケーションソフトウエア(「App」)またはユーザーインターフェース(「ヒューマン・マシン・インターフェース」、「HMI」)を通じて利用者により調整可能
、および/または表示可能である
ことを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記モデル信号形状(240)は
、振動推
移である
ことを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の動作量は
、前記電気モータ(180)の回転数
、または
該回転数と相関関係にある動作量である
ことを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記
第3の方法ステップ
(S3
)で
は、前記
第2の動作量
の測定値の推移が
、少なくとも1つの所定の閾値
を用いて比較される
ことを特徴とする、請求項1から
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記手動工作機械(100)は
、インパクトねじ締め
機である
ことを特徴とする、請求項1から
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記電気モータ(180)と、
該電気モータ(180)の
前記第1の動作量
の記録器と、制御ユニット(370)と
、を含
み、
前記制御ユニット(370)は
、請求項1から
11のいずれか1項に記載の方法を実施するためにセットアップされる
ことを特徴とする、手動工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手動工作機械を作動させる方法、およびこの方法を実施するためにセットアップされた手動工作機械に関する。特に本発明は、手動工作機械によってねじ手段のねじ込みまたはねじ外しをする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1を参照すべき従来技術より、たとえばねじナットやねじなどのねじ部材を締め付けるためのインパクトドライバーが公知である。このような型式のインパクトドライバーは、たとえば1つの回転方向の打撃力がハンマーの回転打撃力によってねじ部材に伝達される構造を含んでいる。このような構造を有するインパクトドライバーは、モータと、モータにより駆動されるべきハンマーと、ハンマーによって打撃されるアンビルと、工具とを含んでいる。インパクトドライバーではハウジングに組み付けられたモータが駆動され、ハンマーがモータによって駆動され、回転するハンマーによってさらにアンビルが打撃されて、打撃力が工具へと放出され、2つの異なる動作状態すなわち「打撃動作なし」と「打撃動作」とを区別することができる。
【0003】
特許文献2より、打撃機構を有する電気駆動式の工具も公知となっており、ハンマーがモータによって駆動される。
【0004】
インパクトドライバーを使用するときには、たとえば打撃機構の開始や停止などの特定の機械特性の切換時に相応に対応するために、たとえば電気モータを止めるために、および/または手動スイッチを通じて回転数の変更を行うために、作業進捗に対する高度の集中力が利用者の側で必要とされる。作業進捗に対して利用者側でしばしば十分に迅速に、あるいは適切に対応することができないため、インパクトドライバーの使用時にたとえばねじ込みプロセスではねじの過回転が起こることがあり、およびねじ外しプロセスでは、ねじが高すぎる回転数で外し回転された場合にねじの落下が起こることがある。
【0005】
したがって一般に動作をほぼ自動化し、機械側でリリースされる器具の相応の対応またはルーチンにより利用者の負担を軽減し、そのようにして、高い信頼度で再現可能な高品質のねじ込みプロセスとねじ外しプロセスを実現することが望ましい。機械側でリリースされるこのような対応またはルーチンの例は、たとえばモータのスイッチオフ、モータ回転数の変更、あるいは利用者へのメッセージの発出などを含む。
【0006】
こうしたすぐれた工具機能の提供は、特に、そのときに生じている動作状態の識別によって行うことができる。このような動作状態の識別は、従来技術では、作業進捗の判定や使用状況の判定には関わりなく、たとえば回転数や電気的なモータ電流などの電気モータの動作量のたとえば監視によって行われる。その際に動作量は、特定の限界値および/または閾値に達したか否かという形で調べられる。相応の評価手法も、絶対的な閾値および/または信号勾配を用いて進められる。
【0007】
その場合の欠点は、固定的な限界値および/または閾値が、実際には1つの適用ケースについてしか完璧に設定され得ないということにある。適用ケースが変わるとただちに、これに帰属する電流値や回転数値もしくはその時間的推移も変化し、設定されている限界値および/または閾値もしくはその時間的推移を参照しての打撃認識は機能しなくなる。
【0008】
たとえば打撃動作の認識に依拠する自動式のスイッチオフは、セルフタッピンねじを使用するいくつかの適用ケースではさまざまな回転数領域で確実にスイッチオフを行うが、セルフタッピンねじを使用する別の適用ケースではスイッチオフが行われないということが起こり得る。
【0009】
インパクトドライバーで動作モードの判定をする別の方法では、そのときに生じている動作モードを工具の振動状態から推定するために、加速度センサなどの追加のセンサが利用される。
【0010】
このような方法の欠点はセンサのための追加のコスト経費であり、ならびに手動工作機械のロバスト性に関わる損失にある。というのも組み込まれるコンポーネントや電気接続の個数が、こうしたセンサ装置のない手動工作機械と比較して増加するからである。
【0011】
さらに、打撃機構が作動しているか否かというシンプルな情報は、作業進捗に関する適切な情報提供を得るためにはしばしば十分でない。たとえば、特定の木ねじのねじ込みのとき回転打撃機構がすでに非常に早期から開始され、その間にねじはまだ完全に材料にねじ込まれていないが、要求されるトルクは回転打撃機構のいわゆるリリーストルクをすでに上回っている。すなわち、純粋に動作状態(打撃動作または打撃動作なし)に基づく回転打撃機構の対応は、たとえばスイッチオフなどの工具の正確な自動式のシステム機能にとって十分ではない。
【0012】
基本的には、打撃穿孔機などの他の手動工作機械においても動作をほぼ自動化するという問題が存在しており、したがって本発明はインパクトドライバーだけに限定されるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】欧州特許出願公開第3381615号明細書
【文献】独国実用新案第202017003590号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、上に挙げた欠点を少なくとも部分的に取り除く、手動工作機械を作動させるための従来技術に比べて改良された方法を提供することにあり、または、従来技術に対する少なくとも1つの対案を提供することにある。さらに別の課題は、これに対応する手動工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題は、独立請求項のそれぞれの対象物によって解決される。本発明の好ましい実施形態は、それぞれ従属請求項の対象となっている。
【0016】
本発明によると、手動工作機械を作動させる方法が開示され、手動工作機械は電気モータを有する。この方法は次の各ステップを含む:
S1 少なくとも1つのモデル信号形状が提供され、モデル信号形状を手動工作機械の作業進捗に割当可能であり;
S2 電気モータの動作量の信号が判定され;
S3 動作量の信号がモデル信号形状と比較され、比較から一致評価が判定され;
S4 方法ステップS3で判定された一致評価を少なくとも部分的に参照して作業進捗が認識され;
S5 方法ステップS4で認識された作業進捗を少なくとも部分的にベースとして手動工作機械の第1のルーチンが実行される。
【0017】
本発明の方法により、手動工作機械の利用者が再現可能な高品質の使用結果を得るにあたって効果的にサポートされる。特に本発明の方法によって、完全に完結した作業進捗を実現することが利用者にとって簡易および/または迅速に可能となる。
このときインパクトドライバーは、いくつかの実施形態では、特徴的な信号形状の発見を利用したうえで、打撃状態と作業進捗の認識に対して対応する。
さまざまなルーチンにより、1つまたは複数のシステム機能性を利用者に提供することが可能であり、これらを用いて利用者が適用ケースをいっそう簡易および/または迅速に完結することができる。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態を次のようにカテゴライズすることができる:
1.「純粋な」打撃認識に対するルーチンまたは対応を含む実施形態
2.非打撃認識に対するルーチンまたは対応を含む実施形態
3.作業進捗(打撃評価/打撃品質)に対するルーチンまたは対応を含む実施形態
【0019】
これらすべての実施形態は、適用ケースを可能な限り迅速かつ完全に完結させることが可能であるという基本的な利点を有しており、利用者にとって作業の簡易化につながる。
【0020】
当業者は、モデル信号形状という構成要件が、作業プロセスの連続的な進捗の信号形状を含むことを認識する。1つの実施形態ではモデル信号形状は、たとえば取付基材の上にねじ頭が載ることや外れたねじの空転など、手動工作機械の特定の作業進捗について状態典型的である状態典型的なモデル信号形状である。
【0021】
たとえば電気モータの回転数などの工具内部での測定量における動作量を通じて作業進捗を認識するための取り組みは、このような手法によって作業進捗が特別に高い信頼度で、かつ工具の全般的な動作状態ないしその適用ケースにほぼ関わりなく行われるので、特別に好ましいことが判明している。
【0022】
このとき基本的に、工具内部の測定量を検出するための、たとえば加速度センサユニットなどの特に追加のセンサユニットが省略されるので、実質的に本発明による方法だけが作業進捗の認識のための役目を果たす。
【0023】
1つの実施形態では、第1のルーチンは、少なくとも1つの定義された、および/または設定可能な、特に手動工作機械の利用者により設定可能なパラメータを考慮したうえでの電気モータの停止を含む。このようなパラメータの例は、時間、電気モータの回転の数、工具マウントの回転の数、電気モータの回転角、および手動工作機械の打撃機構の打撃の数を含む。
【0024】
別の実施形態では、第1のルーチンは、電気モータの回転数の変更、特に低減および/または増大を含む。このような電気モータの回転数の変更は、たとえばモータ電流、モータ電圧、蓄電池電流、または蓄電池電圧の変更などによって実現することができ、またはこれらの方策の組合せによって実現することができる。
【0025】
電気モータの回転数の変更の振幅を手動工作機械の利用者によって定義可能であるのが好ましい。その代替または追加として、電気モータの回転数の変更を目標値によって設定することもできる。振幅という概念は、ここでの関連では一般的に変更の大きさの意味であるとも理解されるものとし、周期的なプロセスとだけ関連づけられるのではない。
【0026】
1つの実施形態では、電気モータの回転数の変更は複数回および/またはダイナミックに、特に時間的に段階づけて、および/または回転数変更の特性曲線に沿って、および/または手動工作機械の作業進捗を参照して行われる。
【0027】
手動工作機械の出力装置を利用して第1のルーチンの作業進捗が手動工作機械の利用者に出力されるのが好ましい。出力装置による出力とは、特に、作業進捗の表示またはドキュメンテーションであると理解することができる。このときドキュメンテーションは、作業進捗の評価および/または保存でもあり得る。このことは、たとえば複数回のねじ締めプロセスのメモリへの保存も含む。
【0028】
1つの実施形態では、第1のルーチンおよび/または第1のルーチンの特徴的なパラメータは、アプリケーションソフトウエア(「App」)またはユーザーインターフェース(「ヒューマン・マシン・インターフェース」、「HMI」)を通じて利用者により調整可能および/または表示可能である。
【0029】
さらに1つの実施形態では、HMIは機械そのものに配置されていてよく、それに対して別の実施形態ではHMIは外部の器具に、たとえばスマートフォン、タブレット、またはコンピュータなどに配置されていてよい。
【0030】
本発明の1つの実施形態では、第1のルーチンは利用者への光学式、音響式、および/または触覚式のフィードバックを含む。
【0031】
モデル信号形状は振動推移、たとえば平均値を中心とする振動推移、特に実質的に三角法の振動推移であるのが好ましい。このときモデル信号形状は、たとえば回転打撃機構のアンビルに対するハンマーの理想的な打撃動作を表すことができ、理想的な打撃動作は、手動工作機械の工具スピンドルのさらなる回転なしでの打撃であるのが好ましい。
【0032】
原則として、適当な測定値検出器を通じて記録される動作量として、さまざまな動作量が考慮の対象となる。本発明に基づき、この点に関して追加のセンサが必要ないということは特別な利点である。なぜなら、たとえば回転数監視のための種々のセンサ、特にホールセンサなどが、電気モータにすでに組み込まれているからである。
【0033】
動作量は、電気モータの回転数または回転数と相関関係にある動作量であるのが好ましい。電気モータと打撃機構との固定的な伝達比によって、たとえば打撃周波数とモータ回転数との直接的な依存性が生じる。回転数と相関関係にあるさらに別の考えられる動作量はモータ電流である。電気モータの動作量として、モータ電圧、モータのホール信号、バッテリ電流またはバッテリ電圧も考えられ、電気モータの加速度、工具マウントの加速度、または手動工作機械の打撃機構の音響信号も動作量として考えられる。
【0034】
本発明の1つの実施形態では、方法ステップS3で動作量の信号が、一致の少なくとも1つの所定の閾値が充足されるか否かに関して比較方法により比較される。
【0035】
比較方法は、少なくとも1つの周波数ベースの比較方法および/または比較による比較方法を含むのが好ましい。
【0036】
このとき少なくとも部分的に周波数ベースの比較方法によって、特に帯域通過フィルタリングおよび/または周波数分析によって、認識されるべき作業進捗が動作量の信号のなかに識別されたか否かの決定を下すことができる。
【0037】
1つの実施形態では、周波数ベースの比較方法は帯域通過フィルタリングおよび/または周波数分析を少なくとも含み、所定の閾値は所定の限界値の少なくとも90%、特に95%、きわめて特に98%である。
【0038】
帯域通過フィルタリングでは、たとえば記録された動作量の信号が、通過領域がモデル信号形状と一致する帯域通過を介してフィルタリングされる。結果的に生じる信号での相応の振幅が、認識されるべき主な作業進捗が存在する場合に、特に打撃される部材のさらなる回転がない理想的な打撃のときに、予期される。したがって帯域通過フィルタリングの所定の閾値は、認識されるべき作業進捗における、特に打撃される部材のさらなる回転のない理想的な打撃における、相応の振幅の少なくとも90%、特に95%、きわめて特に98%であり得る。このとき所定の限界値は、認識されるべき理想的な作業進捗の結果的に生じる信号における、特に打撃される部材のさらなる回転のない理想的な打撃の信号における、相応の振幅であり得る。
【0039】
周波数分析の周知の周波数ベースの比較方法により、事前に規定されたモデル信号形状を、たとえば認識されるべき作業進捗の周波数スペクトルを、特に打撃される部材のさらなる回転のない理想的な打撃の周波数スペクトルを、動作量の記録された信号のなかに探すことができる。動作量の記録された信号のなかには、認識されるべき作業進捗の、特に打撃される部材のさらなる回転のない理想的な打撃の、相応の振幅が予期される。周波数分析の所定の閾値は、認識されるべき作業進捗における、特に打撃される部材のさらなる回転のない理想的な打撃における、相応の振幅の少なくとも90%、特に95%、きわめて特に98%であり得る。このとき所定の限界値は、認識されるべき理想的な作業進捗の、特に打撃される部材のさらなる回転のない理想的な打撃の、記録された信号における相応の振幅であり得る。その際に、動作量の記録された信号の適切なセグメント化が必要になることがあり得る。
【0040】
1つの実施形態では、比較による比較方法は少なくとも1つのパラメータ推定および/または相互相関を含み、所定の閾値は、動作量の信号とモデル信号形状との一致の少なくとも40%である。
【0041】
動作量の測定された信号を、比較による比較方法によってモデル信号形状と比較することができる。動作量の測定された信号は、それがモデル信号形状の信号長さと実質的に同一の有限の信号長さを有するように判定される。このとき動作量の測定された信号とモデル信号形状との比較を、特に離散的または連続的な、有限の長さの信号として出力することができる。比較の一致または相違の度合いに依存して、認識されるべき作業進捗が、特に打撃される部材のさらなる回転のない理想的な打撃が、存在するか否かに関する結果を出力することができる。動作量の測定された信号がモデル信号形状と少なくとも40%だけ一致するときには、認識されるべき作業進捗が、特に打撃される部材のさらなる回転のない理想的な打撃が存在し得る。さらに、動作量の測定された信号がモデル信号形状と比較されることによる比較による方法が、相互の比較の度合いを比較の結果として出力できることが考えられる。このとき少なくとも60%の相互の比較が、認識されるべき作業進捗の、特に打撃される部材のさらなる回転のない理想的な打撃の、存在についての基準となり得る。その際には、一致についての下限が40%であり、一致についての上限が90%であることが前提となる。それに応じて相違についての上限は60%であり、相違についての下限は10%となる。
【0042】
パラメータ推定では、事前に規定されたモデル信号形状と動作量の信号との間の比較を簡易な方式で行うことができる。そのために、モデル信号形状の推定されたパラメータを識別して、モデル信号形状を動作量の測定された信号に適合させることができる。事前に規定されたモデル信号形状の推定されたパラメータと限界値との間の比較によって、認識されるべき作業進捗の、特に打撃される部材のさらなる回転のない理想的な打撃の、存在に関する結果を判定することができる。引き続いて、所定の閾値に達していたか否かに関して、比較の結果のさらなる評価を行うことができる。このような評価は推定されたパラメータの品質決定であってよく、または、規定されたモデル信号形状と動作量の検出された信号との間の一致であってよい。
【0043】
別の実施形態では、方法ステップS3は、動作量の信号のなかでのモデル信号形状の識別が品質決定されるステップS3aを含み、方法ステップS4で、作業進捗の認識が少なくとも部分的に品質決定を参照して行われる。品質決定の目安として、推定されたパラメータの適合度を判定することができる。
【0044】
方法ステップS4で、少なくとも部分的に品質決定によって、特に品質の目安によって、認識されるべき作業進捗が動作量の信号のなかで識別されたか否かの決定を下すことができる。
【0045】
品質決定の追加または代替として、方法ステップS3aは、モデル信号形状の識別と動作量の信号との一致決定を含むことができる。モデル信号形状の推定されたパラメータと、動作量の測定された信号との一致はたとえば70%、特に60%、きわめて特に50%であり得る。方法ステップS4で、認識されるべき作業進捗が存在するか否かの決定が、少なくとも部分的に一致決定を参照して行われる。認識されるべき作業進捗の存在に関する決定は、動作量の測定された信号とモデル信号形状との一致の少なくとも40%の所定の閾値のもとで行うことができる。
【0046】
相互相関の場合には、事前に規定されたモデル信号形状と、動作量の測定された信号との間で比較を行うことができる。相互相関では、事前に規定されたモデル信号形状を、動作量の測定された信号と相関づけることができる。動作量の測定された信号とモデル信号形状との相関づけにあたって、これら両方の信号の一致の目安を判定することができる。一致の目安はたとえば40%、特に50%、きわめて特に60%であり得る。
【0047】
本発明による方法の方法ステップS4で、動作量の測定された信号とモデル信号形状との相互相関を少なくとも部分的に参照して作業進捗の認識を行うことができる。このとき認識は、動作量の測定された信号とモデル信号形状との少なくとも40%の一致の所定の閾値を少なくとも部分的に参照して行うことができる。
【0048】
1つの実施形態では、一致の閾値は手動工作機械の利用者によって規定可能であり、および/または工場側で事前定義される。
【0049】
別の実施形態では、手動工作機械はインパクトねじ回し機、特に回転インパクトねじ回し機であり、作業進捗は打撃動作の、特に回転打撃動作の開始または停止である。
【0050】
1つの実施形態では、一致の閾値は、工場側で事前定義された手動工作機械の適用ケースの事前選択に基づいて利用者により選択可能である。このことは、たとえばHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)、たとえばモバイル機器、特にスマートフォンおよび/またはタブレットなどのたとえばユーザーインターフェースを通じて行うことができる。
【0051】
特に方法ステップS1で、モデル信号形状を可変に、特に利用者によって規定することができる。このときモデル信号形状が認識されるべき作業進捗に割り当てられ、それにより、認識されるべき作業進捗を利用者が設定することができる。
【0052】
モデル信号形状が方法ステップS1で事前定義され、特に工場側で規定されるのが好ましい。原則として、モデル信号形状が器具内部に格納または保存され、その代替および/または追加として手動工作機械に提供され、特に外部のデータ機器から提供されることが考えられる。
【0053】
別の実施形態では、動作量の信号が方法ステップS2で動作量の測定値の時間的推移として記録され、または時間的推移と相関関係にある電気モータの量としての動作量の測定値として記録され、たとえば加速度、特に高次のジャーク、出力、エネルギー、電気モータの回転角、工具マウントの回転角、または周波数などが記録される。
【0054】
直前に挙げた実施形態では、調べられるべき信号の変わらずに保たれる周期性が、モータ回転数に関わりなく生じることを保証することができる。
【0055】
動作量の信号が方法ステップS2で動作量の測定値の時間的推移として記録されるときは、方法ステップS2に後続するステップS2aで、伝動装置の固定的な伝達比をベースとしたうえで、時間的推移と相関関係にある電気モータの量としての動作量の測定値の推移への、動作量の測定値の時間的推移の変換が行われる。このようにして、時間を通じての動作量の信号の直接的な記録の場合と同じ利点がここでももたらされる。
【0056】
このように本発明による方法は、電気モータの少なくとも1つの目標回転数、電気モータの少なくとも1つの始動特性、および/または手動工作機械のエネルギー供給部の、特に蓄電池の少なくとも1つの充電状態に関わりなく、作業進捗の認識を可能にする。
【0057】
動作量の信号は、ここでは測定値の時間的なシーケンスとして把握されるべきである。その代替および/または追加として、動作量の信号が周波数スペクトルであってもよい。その代替および/または追加として、動作量の信号を後処理することもでき、たとえば平滑化、フィルタリング、フィッティングなどをすることができる。
【0058】
別の実施形態では、動作量の信号は測定値の連続として、特に手動工作機械の記憶装置に、好ましくはリングバッファに保存される。
【0059】
1つの方法ステップで、認識されるべき作業進捗が手動工作機械の打撃機構の10回よりも少ない打撃を参照して、特に電気モータの10回よりも少ない打撃振動周期を参照して、好ましくは手動工作機械の打撃機構の6回よりも少ない打撃を参照して、特に電気モータの6回よりも少ない打撃振動周期を参照して、きわめて好ましくは打撃機構の4回よりも少ない打撃を参照して、特に電気モータの4回よりも少ない打撃振動周期を参照して、識別される。このとき打撃機構の打撃として、軸方向、径方向、接線方向、および/または円周方向を向く打撃機構打撃部の、特にハンマーの、打撃機構体に対する、特にアンビルに対する打撃を意味するものとする。電気モータの打撃振動周期は、電気モータの動作量と相関関係にある。電気モータの打撃振動周期は、動作量の信号における動作量変動を参照して判定することができる。
【0060】
本発明のさらに別の対象物を形成するのは、電気モータと、電気モータの動作量の測定値記録器と、制御ユニットとを有する手動工作機械であり、手動工作機械はインパクトねじ締め機、特に回転インパクトねじ締め機であり、手動工作機械は上に説明した方法を実施するためにセットアップされるのが好ましい。
【0061】
認識されるべき作業進捗は、手動工作機械の工具マウントのさらなる回転のない打撃に相当するのが好ましい。
【0062】
手動工作機械の電気モータが入力スピンドルを回転させ、出力スピンドルが工具マウントと結合される。アンビルは出力スピンドルと回転不能に結合され、ハンマーが入力スピンドルと結合されていて、入力スピンドルの回転運動の結果として、入力スピンドルの軸方向への間欠的な運動と、入力スピンドルを中心とする間欠的な回転運動とを行うようになっており、ハンマーはこのような方式でアンビルに対して間欠的に打撃を行い、そのようにしてアンビルおよびこれに伴って出力スピンドルに打撃インパルスと回転インパルスを出力する。第1のセンサが、たとえばモータ回転角を判定するための第1の信号を制御ユニットへ伝送する。さらに第2のセンサが、モータ速度を判定するための第2の信号を制御ユニットへ伝送することが可能である。
【0063】
手動工作機械は、種々の値を保存することができる記憶ユニットを有するのが好ましい。
【0064】
別の実施形態では、手動工作機械は蓄電池動作式の手動工作機械であり、特に蓄電池動作式のインパクトドライバーである。このようにして、フレキシブルで電源非依存的な手動工作機械の利用が保証される。
【0065】
手動工作機械はインパクトねじ締め機、特に回転インパクトねじ締め機であり、認識されるべき作業進捗は、打撃される部材ないし工具マウントのさらなる回転のない回転打撃機構の打撃であるのが好ましい。
【0066】
手動工作機械の打撃機構の打撃の識別、特に電気モータの打撃振動周期の識別は、たとえばファスト・フィッティング・アルゴリズムが適用され、これにより100ms、特に60ms、きわめて特に40msよりも短い間での打撃認識評価を可能にできることによって実現することができる。このとき上述した発明的な方法は、実質的に上に挙げた一切の適用ケースについて、および取付担体の緩んでいる取付部材だけでなく固定された取付部材のねじ締めについても、作業進捗の認識を可能にする。
【0067】
本発明により、たとえばフィルタ、信号ループバック、システムモデル(スタティックならびにアダプティブ)、信号トラッキングなど、比較的高いコストのかかる信号処理の手法の大幅な省略が可能である。
【0068】
それに加えて、これらの手法は打撃動作ないし作業進捗のいっそう迅速な識別を可能にし、それに伴っていっそう迅速な工具の対応をもたらすことができる。このことが特に該当するのは、打撃機構の開始から識別までに経過した打撃の回数についてであり、たとえば駆動モータの始動段階などの特別な動作状況においても該当する。その際に、たとえば最大駆動回転数の低下など、工具の機能性の制約を講じる必要もない。さらに、アルゴリズムの機能がたとえば目標回転数や充電量状態などの他の影響量に左右されない。
【0069】
原則として追加のセンサ装置(たとえば加速度センサ)は必要ないが、それにもかかわらず、このような評価手法を他のセンサ装置の信号にも適用することができる。さらに、たとえば回転数検出がなされない別のモータコンセプトで、このような手法を他の信号のもとで適用することもできる。
【0070】
1つの好ましい実施形態では、手動工作機械はコードレスドライバー、穿孔機、打撃穿孔機、または穿孔ハンマーであり、工具としてドリル、ドリルビット、またはさまざまなビットアタッチメントを使用することができる。本発明による手動工作機械は特にインパクトねじ回し工具として構成され、モータエネルギーの衝撃的な解放によって、ねじやねじナットのねじ込みまたはねじ外しのためのいっそう高いピークトルクが生成される。電気エネルギーの伝達とは、ここでの関連では特に、手動工作機械が蓄電池および/または電気ケーブル接続を介して本体にエネルギーを転送することを意味するものとする。
【0071】
さらに、選択される実施形態に依存して、ねじ締め工具が回転方向に関してフレキシブルに構成されていてよい。このようにして、ねじやねじナットのねじ込みにもねじ外しにも、提案される方法を適用することができる。
【0072】
本発明の枠内において「判定する」とは、特に測定または記録することを含むものとし、「記録する」は測定および保存するという意味で把握されるものとし、さらに「判定する」は、測定された信号の可能な信号処理も含むものとする。
【0073】
さらに、「決定する」は認識または検知することとしても理解されるものとし、一義的な割当が実現されるものとする。「識別する」として理解されるのは、たとえばパターンに合わせた信号のフィッティング、フーリエ分析などによって可能にすることができるパターンとの部分的な一致の認識とする。「部分的な」一致とは、所定の閾値よりも低い、特に30%よりも低い、きわめて特に20%よりも低い誤差をフィッティングが有することとして理解されるものとする。
【0074】
本発明のその他の構成要件、適用可能性、および利点は、図面に示されている本発明の実施例についての以下の説明から明らかとなる。ここで留意すべきは、図面に記載または図示されている構成要件はそれ自体として、または任意の組合において、特許請求の範囲でのその要約や引用に関わりなく本発明の対象物を構成し、ならびに、明細書ないし図面での表現ないし図示に関わりなく説明としての性格だけを有し、何らかの形で本発明を限定するために想定されてはいないことである。
【0075】
次に、好ましい実施例を参照しながら本発明について詳しく説明する。図面は模式的なものであり、次のものを示す:
【図面の簡単な説明】
【0076】
【
図2(a)】事例用途の作業進捗ならびにこれに対応する動作量の信号である。
【
図2(b)】
図2(a)に示す動作量の信号とモデル信号との一致である。
【
図3】例示的用途の作業進捗ならびにこれに対応する動作量の2つの信号である。
【
図4】本発明の2つの実施形態に基づく動作量の信号の推移である。
【
図5】本発明の2つの実施形態に基づく動作量の信号の推移である。
【
図6】例示的用途の作業進捗ならびにこれに対応する動作量の2つの信号である。
【
図7】本発明の2つの実施形態に基づく2つの動作量の信号の推移である。
【
図8】本発明の2つの実施形態に基づく2つの動作量の信号の推移である。
【
図9(a)】動作量の信号
の記録を示す模式図である。
【
図9(b)】
動作量の信号の記録を示す模式図である。
【
図10(b)】
図10(a)の信号に含まれる第1の周波数の振幅関数である。
【
図10(c)】
図10(a)の信号に含まれる第2の周波数の振幅関数である。
【
図11(a)】モデル信号をベースとする、動作量の信号と帯域通過フィルタリングの出力信号と
の図である。
【
図11(b)】
モデル信号をベースとする、動作量の信号と帯域通過フィルタリングの出力信号との図である。
【
図12(a)】モデル信号をベースとする、動作量の信号と周波数分析の出力と
の図である。
【
図12(b)】
モデル信号をベースとする、動作量の信号と周波数分析の出力との図である。
【
図12(c)】
モデル信号をベースとする、動作量の信号と周波数分析の出力との図である。
【
図12(d)】
モデル信号をベースとする、動作量の信号と周波数分析の出力との図である。
【
図13(a)】動作量の信号とパラメータ推定のためのモデル信号と
の図である。
【
図13(b)】
動作量の信号とパラメータ推定のためのモデル信号との図である。
【
図14(a)】動作量の信号と相互相関のためのモデル信号と
の図である。
【
図14(b)】
動作量の信号と相互相関のためのモデル信号との図である。
【
図14(c)】
動作量の信号と相互相関のためのモデル信号との図である。
【
図14(d)】
動作量の信号と相互相関のためのモデル信号との図である。
【
図14(e)】
動作量の信号と相互相関のためのモデル信号との図である。
【
図14(f)】
動作量の信号と相互相関のためのモデル信号との図である。
【発明を実施するための形態】
【0077】
図1は、ハンドグリップ115を備えたハウジング105を有する、本発明による手動工作機械100を示している。図示した実施形態では、手動工作機械100は電源非依存的な電流供給のために、蓄電池パック190と機械的および電気的に結合可能である。
図1では、手動工作機械100は例示として蓄電池式インパクトドライバーとして構成されている。しかしながら指摘しておくと、本発明は蓄電池式インパクトドライバーだけに限定されるものではなく、原則として、打撃穿孔機などのように作業進捗の認識が必要とされる手動工作機械100で適用することができる。
【0078】
ハウジング105の中に、蓄電池パック190から電流を供給される電気式の電気モータ180と伝動装置170とが配置されている。電気モータ180は、伝動装置170を介して入力スピンドルと結合されている。さらにハウジング105の内部には蓄電池パック190の領域に、たとえば調整されるモータ回転数n、選択される角運動量、所望の伝動装置段xなどによって電気モータ180と伝動装置170を制御および/またはコントロールするために、これらに対して作用する制御ユニット370が配置されている。
【0079】
電気モータ180はたとえば手動スイッチ195を通じて操作可能であり、すなわちオン・オフ可能であり、任意のモータ型式、たとえば電子整流型モータや直流モータであってよい。原則として電気モータ180は、反転動作だけでなく所望のモータ回転数nおよび所望の角運動量に関わる設定も具体化可能であるように、電子式に制御可能ないしコントロール可能である。適当な電気モータの機能形態と構造は従来技術から十分に知られているので、ここでは説明を簡略にする目的から詳細な説明は省略する。
【0080】
入力スピンドルと出力スピンドルを通じて、工具マウント140が回転可能なようにハウジング105で支承されている。工具マウント140は工具を受容する役目を果たし、出力スピンドルに直接的に一体成形されていてよく、またはアタッチメント形式でこれと結合可能であってよい。
【0081】
制御ユニット370は電流源と接続されており、電気モータ180をさまざまな電流信号によって電子式に制御可能ないしコントロール可能に励起することができるように構成される。さまざまな電流信号は電気モータ180の異なる角運動量をもたらし、電流信号は制御回線を介して電気モータ180へと送られる。電流源はたとえばバッテリとして、または図示している実施例のように蓄電池パック190として、あるいは電源接続部として構成されていてよい。
【0082】
さらに、さまざまな動作モードおよび/または電気モータ180の回転方向を調整するために、詳しくは図示しない操作部材が設けられていてよい。
【0083】
本発明の1つの態様では、手動工作機械100を作動させる方法が提供され、これによってたとえば
図1に示す手動工作機械100の作業進捗を、たとえばねじ込みプロセスやねじ外しプロセスなどの適用時に確認することができ、またこの方法においてこのような確認の帰結として機械側でリリースされる相応の対応またはルーチンをリリースする。それにより、高い信頼度で再現可能な高品質のねじ込みプロセスやねじ外しプロセスを実現することができる。この方法の各態様は、特に、信号形状を調べることと、たとえば手動工作機械100により駆動されるねじ等の部材のさらなる回転の評価に相当し得る、当該信号形状の一致の度合いを決定することに依拠する。
【0084】
図2にはこの点に関して、インパクトドライバーの用途に即した使用時にこのような形で、またはこれに類似する形で現れるように、インパクトドライバーの電気モータ180の動作量200の例示の信号が示されている。以下の説明はインパクトドライバーを対象としているが、本発明の枠内において、たとえば打撃穿孔機などの別の手動工作機械100にも内容に即して当てはまる。
【0085】
横軸xには、
図2の本例では基準量としての時間がプロットされている。しかしながら別案の実施形態では、たとえば工具マウント140の回転角、電気モータ180の回転角、加速度、特に高次のジャーク、出力、エネルギーなど、時間と相関関係にある量が基準量としてプロットされる。縦軸f(x)には、この図面では各時点で印加されるモータ回転数nがプロットされている。モータ回転数に代えて、モータ回転数と相関関係にある別の動作量を選択することもできる。本発明の別案の実施形態では、f(x)はたとえばモータ電流の信号を表す。
【0086】
モータ回転数やモータ電流は、手動工作機械100では通常かつ付加コストなしに、制御ユニット370により検出される動作量である。電気モータ180の動作量200の信号の判定は、本発明による方法の模式的なフローチャートを示す
図4では、方法ステップS2として表示されている。本発明の好ましい実施形態では、手動工作機械100の利用者は、どのような動作量をベースとして本発明の方法が実施されるべきかを選択することができる。
【0087】
図2(a)には、たとえば木の板などの取付担体902への、たとえばねじ900などの緩んだ取付部材の適用ケースが示されている。
図2(a)に見られるとおり、信号は、モータ回転数の単調増加によって特徴づけられるとともにプラトーとも呼ぶことができる比較的一定のモータ回転数の領域によって特徴づけられる第1の領域310を含んでいる。
図2(a)の横軸xと縦軸f(x)の交点は、ねじ回しプロセスにおけるインパクトドライバーの始動に相当する。
【0088】
第1の領域310では、ねじ900は取付担体902で比較的低い抵抗を受け、ねじ込みのために必要なトルクは回転打撃機構のリリーストルクを下回る。すなわち第1の領域310でのモータ回転数の推移は、打撃なしでのねじ回しの動作状態に相当する。
【0089】
図2(a)に見て取ることができるように、領域322ではねじ900の頭が取付担体902の上に載っておらず、このことは、インパクトドライバーによって駆動されるねじ900が打撃ごとにさらに回転することを意味する。このような追加の回転角が、作業プロセスが進捗していくときに減っていくことがあり、このことは、図面では短くなっていく周期時間で反映されている。さらに、平均して減少していく回転数によっても、さらなるねじ込みが示されている。
【0090】
引き続いてねじ900の頭が基材902に到達すると、さらなるねじ込みのためにいっそう高いトルク、およびこれに伴ってさらに多くの打撃エネルギーが必要となる。しかし、手動工作機械100はもはや打撃エネルギーを供給しないので、ねじ900はさらに回転をしなくなり、もしくは有意により小さい回転角だけしかさらに回転しなくなる。
【0091】
第2の領域322と第3の領域324で行われる回転打撃動作は、動作量200の信号の振動性の推移によって特徴づけられ、振動の形状はたとえば三角法またはその他の形に基づいて振動性であり得る。本例ではこの振動は、変形三角関数と呼ぶことができる推移を有している。インパクトねじ回し動作におけるこのように特徴的な動作量200の信号の形状は、打撃機構打撃部の引き上げと惰性運動、および打撃機構と電気モータ180との間にある特に伝動装置170のシステム連鎖によって生じる。
【0092】
すなわち打撃動作の定性的な信号形状は、インパクトドライバーの固有の特性に基づいて基本的に既知である。
図4の本発明の方法では、このような知見を前提としたうえで、ステップS1で少なくとも1つの状態典型的なモデル信号形状240が提供され、状態典型的なモデル信号形状240は、たとえば取付担体902の上へのねじ900の頭の載置への到達などの作業進捗に割り当てられる。換言すると、状態典型的なモデル信号形状240は、振動推移の存在、振動周波数ないし振動振幅、または連続的な、準連続的な、または離散した形状の個々の信号シーケンスなど、作業進捗について典型的な指標を含んでいる。
【0093】
別の用途では、検知されるべき作業進捗は、関数f(x)における不連続性や増加率など、振動とは別の信号形状によって特徴づけられていてよい。このようなケースでは、状態典型的なモデル信号形状が、振動の代わりにまさにこれらのパラメータによって特徴づけられる。
【0094】
本発明による方法の好ましい実施形態では、方法ステップS1で、状態典型的なモデル信号形状240を利用者によって規定することができる。状態典型的なモデル信号形状240が同じく器具内部に格納または保存されていてよい。別案の実施形態では、たとえば外部のデータ機器から状態典型的なモデル信号形状を代替的および/または追加的に手動工作機械100へ提供することができる。
【0095】
本発明による方法の方法ステップS3で、電気モータ180の動作量200の信号が、状態典型的なモデル信号形状240と比較される。「比較する」という構成要件は、本発明との関連では信号分析の意味で広く解釈されるべきものであり、したがって比較の結果は、状態典型的なモデル信号形状240と電気モータ180の動作量200の信号との特に部分的または漸次的な一致であってもよく、両方の信号の一致の度合いを、あとの個所でまた挙げるさまざまな数学的方法によって判定することができる。
【0096】
ステップS3では、比較からさらに状態典型的なモデル信号形状240と電気モータ180の動作量200の信号との一致評価が判定され、そのようにして、両方の信号の一致に関する情報提供がなされる。このとき一致評価の実行と感度は、工場側または利用者側で調整可能な作業進捗の認識についてのパラメータである。
【0097】
図2(b)は、電気モータ180の動作量200の信号と状態典型的なモデル信号形状240との間の一致の値を横軸xの各々の個所で表す、
図2(a)の動作量200の信号と対応する一致評価201の関数q(x)の推移を示している。
【0098】
ねじ900のねじ込みの本例では、このような評価は、打撃のときのさらなる回転の目安を決定するために援用される。ステップS1で事前決定される状態典型的なモデル信号形状240は、この例ではさらなる回転のない理想的な打撃に相当し、すなわち
図2(a)の領域324に示すように、ねじ900の頭が取付担体902の表面に載る状態に相当する。それに応じて領域324では両方の信号の高い一致が生じ、このことは、一致評価201の関数q(x)の変わらない高い値によって反映される。それに対して、各々の打撃がねじ900の大きい回転角を伴う領域310では、低い一致値しか得られていない。ねじ900が打撃でさらに回転することが少なくなるほど、この一致は高くなっていき、このことは、打撃ごとにねじ込み抵抗が増すためにねじ200の回転角が継続して小さくなっていくことで特徴づけられる領域322での打撃機構の開始時に、すでに一致評価201の関数q(x)が連続的に増加する一致値を反映している様子を見れば明らかである。
【0099】
そして本発明による方法の方法ステップS4で、方法ステップS3で判定された一致評価201を少なくとも部分的に参照して作業進捗が認識される。
図2の例で明らかなように、程度の差こそあれ飛躍的な特徴に基づく打撃区別のための信号の一致評価201がそのために良く適しており、このような飛躍的な変化は、例示としての作業プロセスの完了時におけるねじ900のさらなる回転角の、同じく程度の差こそあれ飛躍的な変化に起因する。このとき作業進捗の認識は、たとえば
図2(b)に破線202で表示している閾値と一致評価201との比較を少なくとも部分的に参照して行うことができる。
図2(b)の本例では、一致評価201の関数q(x)と線202との交点SPが、取付担体902の表面にねじ900の頭が載るという作業進捗に割り当てられる。
【0100】
このとき、多種多様な適用ケースについて関数を適用可能にするために、ここから導き出される、作業進捗が決定されるときに参照される基準を調整可能である。その際に留意すべきは、この関数がねじ込みのケースにのみ限定されるものではなく、ねじ外しの用途での適用も含んでいることである。
【0101】
すなわち本発明では信号形状が区別されることで、使用の作業進捗を確認するために、インパクトドライバーによって駆動される部材のさらなる回転の評価を行うことができる。
【0102】
打撃動作への動作状態の転換時に生じる回転数の減少にもかかわらず、たとえば小さな木ねじの場合やタッピンねじの場合、ねじ頭が材料に食い込むのを阻むのはきわめて困難にしか可能でない。その理由は、打撃機構の打撃によって、トルクが増大しているときにも高いスピンドル回転数が生じることにある。
【0103】
このような挙動が
図3に示されている。
図2と同じく、横軸xには一例として時間がプロットされており、それに対して縦軸f(x)にはモータ回転数、縦軸g(x)にはトルクg(x)がプロットされている。したがってグラフfおよびgは、モータ回転数fとトルクgの推移を時間に対して表す。
図3の下側領域には、同じく
図2の表示に類似して、取付担体902への木ねじ900,900’,および900’’のねじ込みプロセスにおけるさまざまな状態が模式的に示されている。
【0104】
図面では符号310によって示されている動作状態「打撃なし」のとき、ねじは高い回転数fと低いトルクgで回転する。符号320で表示されている動作状態「打撃」のときにはトルクgが迅速に上昇し、それに対して回転数fは、上ですでに述べたとおりわずかにしか減少しない。
図3の領域310’は、その内部で
図2との関連で説明した打撃認識が行われる領域を表す。
【0105】
たとえばねじ900のねじ頭が取付担体902に食い込むのを防ぐために、本発明によると方法ステップS5で、用途関連の適切な工具のルーチンまたは対応が、方法ステップS4で認識された作業進捗を少なくとも部分的にベースとして実行され、たとえば機械のスイッチオフ、電気モータ180の回転数の変更、および/または手動工作機械100の利用者への光学式、音響式、および/または触覚式のフィードバックが実行される。
【0106】
本発明の1つの実施形態では、第1のルーチンは、少なくとも1つの定義された、および/または設定可能な、特に手動工作機械の利用者により設定可能な、パラメータを考慮したうえでの電気モータ180の停止を含む。
【0107】
その例として
図4には打撃認識310’の後の即座の器具の停止が模式的に示されており、それにより利用者が、取付担体902へのねじ頭の食い込みを回避することについてサポートされる。図面では、このことは領域310’の後で急激に低下するグラフfの分岐f’によって示されている。
【0108】
定義された、および/または設定可能な、特に手動工作機械100の利用者によって設定可能なパラメータの1つの例は、利用者によって定義される器具が停止されるまでの時間であり、このことは
図4では時間帯T
Stoppによって、ならびにグラフfの付属の分岐f’’によって示されている。理想的な場合、ねじ頭がねじ載置面と同一平面上にあるときにちょうど手動工作機械100が停止する。ただし、この状況が発生するまでの時間は適用ケースごとにまちまちであるため、時間帯T
Stoppを利用者によって定義可能であると好ましい。
【0109】
その代替または追加として本発明の1つの実施形態では、第1のルーチンは打撃認識の後の電気モータ180の回転数の、特に目標回転数の、およびこれに伴ってスピンドル回転数の変更、特に低減および/または増大を含むことが意図される。回転数の低減が実行される実施形態が
図5に示されている。同じく手動工作機械100がまず動作状態「打撃なし」310で作動し、これはグラフfで表されたモータ回転数の推移によって表示されている。領域310’で打撃認識が行われた後、モータ回転数がこの例では特定の振幅だけ低減され、このことはグラフf’ないしf’’によって示されている。
【0110】
図5のグラフfの分枝f’’についてΔ
Dで表示されている電気モータ180の回転数の変更の振幅すなわち大きさは、本発明の1つの実施形態では利用者によって調整することができる。回転数が低減されることで、ねじ頭が取付担体902の表面に近づいたときに、利用者が対応のためにいっそう長い時間を有する。ねじ頭が載置面に対して十分に同一平面状にあると利用者が考えたとき、ただちにスイッチを用いて手動工作機械100を停止することができる。打撃認識後の手動工作機械100の停止と比較して、モータ回転数の変更は、
図5の例では低減は、利用者が決めるスイッチオフによってこのルーチンが適用ケースにほぼ左右されないという利点を有する。
【0111】
本発明の1つの実施形態では、電気モータ180の回転数の変更振幅ΔDは、および/または電気モータ180の回転数の目標値は、手動工作機械100の利用者によって定義可能であり、このことはこのルーチンのフレキシビリティを、多種多様な適用ケースについての適用可能性という意味でいっそう向上させる。
【0112】
電気モータ180の回転数の変更は、本発明の実施形態では複数回および/またはダイナミックに行われる。特に、電気モータ180の回転数の変更が時間的に段階づけられて、および/または回転数変更の特性曲線に沿って行われ、および/または手動工作機械100の作業進捗に依存して行われることが意図されていてよい。
【0113】
これについての例は、特に回転数低減と回転数増大の組合せを含む。さらに、さまざまなルーチンないしその組合せを、打撃認識に対して時間的にオフセットして実行することができる。さらに本発明は、2つまたはそれ以上のルーチンの間での時間的なオフセットが意図される実施形態も含む。たとえば打撃認識の直後にモータ回転数が低減されたとき、特定の時間値の後にモータ回転数を再び増やすこともできる。さらに、さまざまなルーチンそのものだけでなく、各ルーチンの間の時間オフセットも特性曲線によって設定される実施形態が意図される。
【0114】
冒頭で述べたとおり、本発明は、領域320の動作状態「打撃」から領域310の動作状態「打撃なし」への交代によって作業進捗が特徴づけられる実施形態を含み、このことは
図6に明示されている。
【0115】
手動工作機械の動作状態のこのような移行は、たとえばねじ900が取付担体902から外れる作業進捗のとき、すなわちねじ外しプロセスのときに与えられ、このことは
図6の下側領域に模式的に示されている。
図3と同じく、
図6でもグラフfは電気モータ180の回転数を表し、グラフgはトルクを表している。
【0116】
すでに本発明の他の実施形態との関連でも説明したとおり、ここでも特徴的な信号形状の発見を利用して手動工作機械の動作状態が検出され、本例では打撃機構の動作状態が検出される。
【0117】
動作状態「打撃」のとき、すなわち
図6では領域320のとき、ねじ900は回転せず、高いトルクgが印加される。換言すると、スピンドル回転数がこの状態ではゼロに等しい。動作状態「打撃なし」のとき、すなわち
図6では領域310のとき、トルクgが急速に低下していき、このことはひいてはスピンドル・モータ回転数fが同じく急速に上昇する結果をもたらす。取付担体902からねじ900が外れた時点以降のトルクgの低下によってもたらされる、このようなモータ回転数fの急激な上昇により、外れたねじ900やねじナットを受け止めて落下を妨げることが利用者にとってしばしば困難になる。
【0118】
本発明による方法は、ねじ900やナットであってよいねじ手段が取付担体902から外れた後に、それが落下するほど素早くでねじ抜きされるのを防止するために適用することができる。これに関しては
図7を援用する。
図7は、図示している軸とグラフに関しては実質的に
図6に相当し、対応する符号は対応する構成要件を表している。
【0119】
第1の実施形態では、ルーチンはステップS5で手動工作機械100の停止を含んでおり、その後で即座に、手動工作機械100が動作モード「打撃なし」で作動していることが確認され、このことは
図7では、領域310で急傾斜で降下していくモータ回転数のグラフfの分枝f’によって示されている。別案の実施形態では、器具が停止されるまでの時間T
Stoppを利用者によって定義することができる。図面では、このことはモータ回転数のグラフfの分枝f’’によって示されている。
図6にも示すように、領域320(動作状態「打撃」)から領域310(動作状態「打撃なし」)への移行後に、モータ回転数がまず急速に上昇し、時間帯T
Stoppの経過後に急勾配で低下していくことは当業者に明らかである。
【0120】
時間帯TStoppが適切に選択されていれば、ねじ900やナットがちょうどねじ山にはまり込むときに、モータ回転数をちょうど「ゼロ」まで下げることが可能である。このケースでは利用者は、ねじ900やナットを少数回だけねじ回しすることによって取り出すことができ、またはその代替として、たとえばクランプを開けるためにねじ山の中に残しておくことができる。
【0121】
次に、本発明の別の実施形態について
図8を参照しながら説明する。このケースでは、領域320(動作状態「打撃」)から領域310(動作状態「打撃なし」)への移行後に、モータ回転数の低減が行われる。この低減の振幅すなわち大きさは、図面では、領域320におけるモータ回転数の平均値f’’と、低下したモータ回転数f’との間の目安としてのΔ
Dで表されている。この低下は特定の実施形態では利用者により調整することができ、特に、
図8では分枝f’のレベルに位置する、手動工作機械100の回転数の目標値の指定によって調整することができる。
【0122】
モータ回転数およびこれに伴うスピンドル回転数の低下によって、ねじ900の頭がねじ載置面から離れたとき、利用者が対応をするためにいっそう長い時間を有する。ねじ頭やナットが十分な程度までねじ締めされたと利用者が考えたとき、ただちにスイッチを用いて手動工作機械100を停止することができる。
【0123】
領域320(動作状態「打撃」)から領域310(動作状態「打撃なし」)への移行の直後に、または移行後に遅延をもって、手動工作機械100が停止される
図7との関連で説明した実施形態と比較したとき、回転数低減は適用ケースへのいっそう高い非依存性という利点を有する。なぜなら手動工作機械が回転数低減の後にいつスイッチオフされるかを、利用者が最終的に決めるからである。このことは、たとえば長いねじ付きロッドの場合に有益であり得る。その場合、ねじ付きロッドを緩めた後に、かつこれに伴う打撃機構の停止後に、程度の差こそあれ長いねじ外しプロセスをさらに行わなくてはならない適用ケースが存在する。すなわちこうしたケースでは、打撃機構の停止後に手動工作機械100がスイッチオフされるのは目的に適っていないであろう。
【0124】
本発明のいくつかの実施形態では、手動工作機械の出力装置を利用して、手動工作機械の利用者に作業進捗が出力される。
【0125】
以下において、方法ステップS1-S4の実行に関わる技術的な関連事項と実施形態について説明する。
【0126】
実際の用途においては、実行されている用途の作業進捗を監視するために、方法ステップS2およびS3が手動工作機械100の作動中に反復して実行されることが意図されていてよい。この目的のために方法ステップS2で、動作量200の判定された信号のセグメント化を行うことができ、それにより方法ステップS2およびS3が、好ましくは常に同じ規定された長さの信号セグメントに関して実行される。
【0127】
この目的のために、動作量200の信号を測定値のシーケンスとして記憶装置に、好ましくはリングバッファに、保存しておくことができる。この実施形態では手動工作機械100は記憶装置、好ましくはリングバッファを含む。
【0128】
図2との関連ですでに述べたとおり、本発明の好ましい実施形態では方法ステップS2で、動作量200の信号が動作量の測定値の時間的推移として判定され、または、時間的推移と相関関係にある電気モータ180の量としての、動作量の測定値として判定される。このとき測定値は離散的、準連続的、または連続的であってよい。
【0129】
このとき1つの実施形態は、動作量200の信号が方法ステップS2で動作量の測定値の時間的推移として記録され、方法ステップS2に後続する方法ステップS2aで、たとえば工具マウント140の回転角、モータ回転角、加速度、特に高次のジャーク、出力、またはエネルギーなど、時間的推移と相関関係にある電気モータ180の量としての動作量の測定値の推移への、動作量の測定値の時間的推移の変換が行われることを意図する。
【0130】
このような実施形態の利点について、以下に
図9を参照しながら説明する。
図2と類似して
図9aは、本例では時間tである横軸xに対して動作量200の信号f(x)を示している。
図2と同じく、動作量はモータ回転数またはモータ回転数と相関関係にあるパラメータであってよい。
【0131】
この図面は、それぞれ1つの作業進捗に、すなわちたとえばインパクトドライバーのケースでは回転インパクトねじ回しモードに、割り当てられていてよい動作量200の2つの信号推移を含んでいる。両方のケースにおいて信号は、理想化して正弦波形と想定される振動推移の波長を含んでおり、短いほうの波長T1を有する信号は打撃周波数が大きい推移を有し、長いほうの波長T2を有する信号は打撃周波数が小さい推移を有する。
【0132】
これら両方の信号は同一の手動工作機械100によって異なるモータ速度のもとで生成することができ、特に、利用者が操作スイッチを通じてどのような回転速度を手動工作機械100に要求するかに依存する。
【0133】
すなわち、たとえばパラメータ「波長」を状態典型的なモデル信号形状240の定義のために援用しようとすれば、本例では少なくとも2つの異なる波長T1およびT2が、状態典型的なモデル信号形状の考えられる部分として保存されなければならないことになり、それは両方のケースで、状態典型的なモデル信号形状240と動作量200の信号との比較を結果「一致」につなげるためである。モータ回転数は時間に対して一般に広い範囲で変化し得るので、このことは、探索される波長も変化し、それによって打撃周波数の認識のための手法もそれに応じてアダプティブに調整されなければならないことにつながる。
【0134】
可能性のある波長が多数ある場合、方法およびプログラミングのコストがすぐに相応に上昇することになる。
【0135】
したがって好ましい実施形態では、横軸の時間値が、たとえば加速度値、高次のジャーク値、出力値、エネルギー値、周波数値、工具マウント140の回転角値、または電気モータ180の回転角値など、時間値と相関関係にある値へと変換される。それが可能である理由は、電気モータ180から打撃機構への、および工具マウント140への固定的な伝達比によって、モータ回転数と打撃周波数との直接的な既知の依存性が生じることである。このような標準化によって、モータ回転数に依存しない、変わらずに保たれる周期性の振動信号が実現され、このことは図9bに、T1およびT2に対応する信号の変換から生じる両方の信号によって図示されており、ここでは両方の信号は等しい波長P1=P2を有している。
【0136】
それに応じて本発明のこの実施形態では、たとえば工具マウント140の回転角、モータ回転角、加速度、特に高次のジャーク、出力、またはエネルギーなどの時間と相関関係にある量を通じて、状態典型的なモデル信号形状240を波長のただ1つのパラメータによってあらゆる回転数について有効に規定することができる。
【0137】
1つの好ましい実施形態では、方法ステップS3での動作量200の信号の比較は比較方法によって行われ、比較方法は少なくとも1つの周波数ベースの比較方法および/または比較による比較方法を含む。比較方法は、少なくとも1つの所定の閾値が充足されるか否か、動作量200の信号を状態典型的なモデル信号形状240と比較する。比較方法は、動作量200の測定された信号を、少なくとも1つの所定の閾値と比較する。周波数ベースの比較方法は、帯域通過フィルタリングおよび/または周波数分析を少なくとも含む。比較による比較方法は、パラメータ推定および/または相互相関を少なくとも含む。周波数ベースの比較方法と比較による比較方法について、以下により詳細に説明する。
【0138】
帯域通過フィルタリングを含む実施形態では、場合により上述したように時間と相関関係にある量へと変換された入力信号が、1つまたは複数の状態典型的なモデル信号形状と通過領域が一致する1つまたは複数の帯域通過を介してフィルタリングされる。通過領域は、状態典型的なモデル信号形状240から得られる。通過領域が、状態典型的なモデル信号形状240との関連で規定された周波数と一致することも考えられる。認識されるべき作業進捗への到達時に該当するように、このような周波数の振幅が事前に規定された限界値を上回っているケースでは、方法ステップS3での比較は、動作量200の信号が状態典型的なモデル信号形状240に等しく、したがって認識されるべき作業進捗に達しているという結果につながる。振幅限界値の規定は、この実施形態では、動作量200の信号と状態典型的なモデル信号形状240との一致評価の判定として把握されることが可能であり、これを基礎として方法ステップS4で、認識されるべき作業進捗が存在しているか否かが決定される。
【0139】
図10を参照して、周波数ベースの比較方法として周波数分析が適用される実施形態について説明する。このケースでは、
図10(a)に示す、例示として時間に対する電気モータ180の回転数の推移に相当する動作量200の信号が、たとえば高速フーリエ変換(Fast-Fourier-Transformation,FFT)などの周波数分析を基礎として、時間領域から、相応の周波数の重みづけを含む周波数領域へと変換される。ここで上記の説明における「時間領域」という概念は、「時間にわたっての動作量の推移」としてだけでなく、「時間と相関関係にある量としての動作量の推移」としても理解される。
【0140】
この態様における周波数分析は信号分析の数学的なツールとして数多くの工学の分野で十分に知られており、特に、測定された信号を、重みづけされた周期的な調和関数の級数展開として、さまざまに異なる波長に近似させるために適用されている。
図10(b)および10(c)には例示として、時間にわたっての関数推移203および204としての重みづけ係数κ
1(x)およびκ
2(x)は、ここでは図面の見やすさのために表示していない対応する周波数ないし周波数帯域が調べられた信号すなわち動作量200の推移のなかに存在するか否か、どれだけの強さで存在するかを表している。
【0141】
すなわち本発明による方法に関しては周波数分析を用いて、状態典型的なモデル信号形状240に付属する周波数が動作量200の信号のなかに存在するか否か、どのような振幅で存在するかを規定することができる。ただしこれに加えてその非存在が、認識されるべき作業進捗の存在を表す目安となる周波数を定義することもできる。帯域通過フィルタリングとの関連で述べたように、状態典型的なモデル信号形状240と動作量200の信号との一致の度合いの目安となる振幅の限界値を規定することができる。
【0142】
たとえば
図10(b)の例では時点t
2(点SP
2)のとき、動作量200の信号において状態典型的なモデル信号形状240には典型的には見い出されることがない第1の周波数の振幅κ
1(x)が、付属の限界値203(a)よりも下降しており、このことは本例では、認識されるべき作業進捗の存在について必要ではあるが十分ではない基準である。時点t
3(点SP
3)のとき、動作量200の信号において状態典型的なモデル信号形状240に典型的に見い出される第2の周波数の振幅κ
2(x)が、付属の限界値204(a)を上回る。本発明の対応する実施形態では、振幅関数κ
1(x)ないしκ
2(x)による限界値203(a),204(a)の下回りないし上回りの共通の存在が、状態典型的なモデル信号形状240と動作量200の信号との一致評価についての主要な基準となる。それに応じてこのケースでは方法ステップS4で、認識されるべき作業進捗に達していることが確認される。
【0143】
本発明の別案の実施形態ではこれらの基準のうち1つだけが利用され、あるいは、一方または両方の基準と、たとえば電気モータ180の目標回転数への到達などの別の基準との組み合わせも利用される。
【0144】
比較による比較方法が適用される実施形態では、動作量200の信号が状態典型的なモデル信号形状240と比較され、それにより、動作量200の測定された信号が状態典型的なモデル信号形状240と少なくとも50%の一致を有しているか否か、それに伴って所定の閾値に達しているか否かを見い出す。両方の信号の相互の一致を判定するために、動作量200の信号が状態典型的なモデル信号形状240と比較されることも考えられる。
【0145】
比較による比較方法としてパラメータ推定が適用される本発明の方法の実施形態では、動作量200の測定された信号が状態典型的なモデル信号形状240と比較され、このとき、状態典型的なモデル信号形状240について推定されたパラメータが識別される。推定されたパラメータを用いて、認識されるべき作業進捗に到達しているか否かに関して、状態典型的なモデル信号形状240と動作量200の測定された信号との一致の目安を判定することができる。このときパラメータ推定は、当業者には周知である数学的な最適化手法である補正計算をベースとする。この数学的な最適化手法は、推定されたパラメータを用いて、状態典型的なモデル信号形状240を動作量200の信号の一連の測定データに合わせて調整することを可能にする。推定されたパラメータによってパラメータ化された状態典型的なモデル信号形状240と限界値との一致の目安に依存して、認識されるべき作業進捗に達しているか否かの決定を下すことができる。
【0146】
パラメータ推定の比較による方法の補正計算を用いて、動作量200の測定された信号に対する、状態典型的なモデル信号形状240の推定されたパラメータの一致の目安も判定することができる。
【0147】
動作量200の測定された信号に対して、推定されたパラメータを含む状態典型的なモデル信号形状240の十分な一致または十分に低い差異が存在するか否かを決定するために、方法ステップS3に後続する方法ステップS3aで一致決定が実行される。動作量の測定された信号に対して状態典型的なモデル信号形状240の70%の一致が判定されたとき、動作量の信号を参照して認識されるべき作業進捗が識別されたか否か、および、認識されるべき作業進捗に到達したか否かの決定を下すことができる。
【0148】
動作量200の信号と状態典型的なモデル信号形状240の十分な一致が存在するか否かを決定するために、別の実施形態では、方法ステップS3に後続する方法ステップS3bで、推定されたパラメータについて品質決定が実行される。品質決定にあたっては品質の値が0と1の間で判定され、このとき低い値ほど識別されたパラメータの値の高い信頼度を意味し、したがって、動作量200の信号と状態典型的なモデル信号形状240との間のいっそう高い一致を表すことが肝要である。認識されるべき作業進捗が存在するか否かの決定は、好ましい実施形態では方法ステップS4で、品質の値が50%の領域にあるという条件を少なくとも部分的に参照して下される。
【0149】
本発明による方法の1つの実施形態では、比較による比較方法として方法ステップS3で相互相関の方法が適用される。上記で説明した数学的な方法と同じく、相互相関の方法も当業者にはそれ自体として周知である。相互相関の方法では、状態典型的なモデル信号形状240が動作量200の測定された信号と相関づけられる。
【0150】
さらに上に記述したパラメータ推定の方法と比較したとき、相互相関の結果は、また、動作量200の信号の長さと状態典型的なモデル信号形状240の長さからなる加算された信号長さを有する信号シーケンスであり、時間をずらした入力信号の類似性を表す。このとき、この出力シーケンスの最大値が両方の信号の、すなわち動作量200の信号と状態典型的なモデル信号形状240との最大の一致の時点を表し、それに伴って相関そのものを表す目安ともなり、これが本実施形態では方法ステップS4で、認識されるべき作業進捗への到達についての決定基準として利用される。本発明による方法での具体化においてパラメータ推定との主要な相違点は、相互相関については任意の状態典型的なモデル信号形状を使うことができるのに対して、パラメータ推定では状態典型的なモデル信号形状240をパラメータ化可能な数学関数によって表現できなければならないことにある。
【0151】
図11は、動作量200の測定された信号を、周波数ベースの比較方法として帯域通過フィルタリングが適用されるケースについて示している。ここでは横軸xとして時間、または時間と相関関係にある量がプロットされている。
図11aは、動作量の測定された信号を帯域通過フィルタリングの入力信号として示しており、第1の領域310では手動工作機械100がねじ回し動作で作動する。第2の領域320では、手動工作機械100が回転打撃動作で作動する。
図11bは、帯域通過が入力信号をフィルタリングした後の出力信号を示している。
【0152】
図12は、動作量200の測定された信号を、周波数ベースの比較方法として周波数分析が適用されるケースについて示している。
図12aおよびbには、手動工作機械100がねじ回し動作にある第1の領域310が示されている。図
12aの横軸xには、時間t、または時間と相関関係にある量がプロットされている。
図12bには動作量200の信号が変換されて示されており、たとえば高速フーリエ変換によって時間領域から周波数領域への変換を行うことができる。
図12bの横軸x’には例示として周波数fがプロットされており、それにより動作量200の信号の振幅が表されている。
図12cおよびdには、手動工作機械100が回転打撃動作にある第2の領域320が示されている。
図12cは動作量200の測定された信号を、回転打撃動作の時間にわたってプロットして示している。
図12dは動作量200の変換された信号を示しており、動作量200の信号が周波数fにわたって横軸x’としてプロットされている。
図12dは、回転打撃動作について特徴的な振幅を示している。
【0153】
図13aは、
図2で説明した第1の領域310における、動作量200の信号と状態典型的なモデル信号形状240との間のパラメータ推定の比較による比較方法を用いた比較の典型的なケースを示している。状態典型的なモデル信号形状240は実質的に三角法の推移を有するのに対して、動作量200の信号はこれと著しく相違する推移を有している。上に説明した比較方法のうちの1つの選択に関わりなく、このケースでは方法ステップS3で実行される状態典型的なモデル信号形状240と動作量200の信号との間の比較は、両方の信号の一致の度合いが、認識されるべき作業進捗が方法ステップS4で認識されない程度に低いという結果となる。
【0154】
これに反し、
図13bには、認識されるべき作業進捗が存在しており、したがって、個々の測定点では差異を確認可能であるとしても、状態典型的なモデル信号形状240と動作量200の信号とが全体として高い度合の一致を有するケースが示されている。このように、パラメータ推定の比較による比較方法で、認識されるべき作業進捗に達しているか否かの決定を下すことができる。
【0155】
図14は、
図14aおよび14dを参照すべき動作量200の測定された信号と、
図14bおよび14eを参照すべき状態典型的なモデル信号形状240との比較を、比較による比較方法として相互相関が適用されるケースについて示している。
図14a-fでは、横軸xに時間、または時間と相関関係にある量がプロットされている。
図14a-cには、ねじ回し動作に相当する第1の領域310が示されている。
図14d-fには、認識されるべき作業進捗に対応する第3の領域324が示されている。さらに上で説明したとおり、
図14aおよび
図14dの動作量の測定された信号が、
図14bおよび14eの状態典型的なモデル信号形状と相関づけられる。
図14cおよび14fには、相関づけのそれぞれの結果が示されている。
図14cには第1の領域310の中での相関づけの結果が示されており、両方の信号の低い一致が存在することが明らかである。したがって
図14cの例では方法ステップS4で、認識されるべき作業進捗に達していないことが決定される。
図14fには、第3の領域324の中での相関づけの結果が示されている。
図14fに明らかなとおり高い一致が存在しており、それにより方法ステップS4で、認識されるべき作業進捗に達していることが決定される。
【0156】
本発明は、説明および図示した実施例だけに限定されるものではなく、むしろ、特許請求の範囲によって定義される発明の枠内での当業者による一切の発展形も含む。
【0157】
説明および図示した実施形態に加えて、さらなる改変ならびに構成要件の組合せを含むことができる他の実施形態も考えられる。
【符号の説明】
【0158】
100 手動工作機械
180 電気モータ
200 動作量
240 モデル信号形状
370 制御ユニット