(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】ベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/573 20060101AFI20230919BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230919BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230919BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230919BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20230919BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20230919BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230919BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
A61K31/573
A61K47/22
A61K47/34
A61K9/10
A61P17/04
A61P17/06
A61P17/00
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2022508439
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2021011180
(87)【国際公開番号】W WO2021187593
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2020049760
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316008352
【氏名又は名称】シオノギヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村里 博志
(72)【発明者】
【氏名】友田 宜孝
(72)【発明者】
【氏名】岩田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】純浦 文枝
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-110696(JP,A)
【文献】特開2006-028123(JP,A)
【文献】特表2002-542293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61P 17/00
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ベタメタゾン吉草酸エステルと、
(B)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種と、
(C)トコフェロールまたは
トコフェロール酢酸エステルとを
含有する、組成物。
【請求項2】
前記(B)成分が、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセトステアリルエーテルおよびポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
さらに(D)pH調節剤を含有する請求項1または2に記載する組成物。
【請求項4】
さらに(E)外用基剤を含有する請求項1~3のいずれか一項に記載する組成物。
【請求項5】
さらに(F)非ステロイド系抗炎症剤、局所麻酔剤、鎮痒剤、血行促進剤、殺菌剤、皮膚保護剤、抗生物質、保湿剤、及び/又は清涼剤を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載する組成物。
【請求項6】
皮膚外用剤である、請求項1~5のいずれか一項に記載する組成物。
【請求項7】
(A)ベタメタゾン吉草酸エステルと、(B)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種を含有する組成物の安定性改善のための製造方法であって、
前記組成物中に(C)トコフェロールまたは
トコフェロール酢酸エステルを共存させる工程を有することを特徴とする、前記製造方法。
【請求項8】
前記組成物がさらに(D)pH調節剤を含有するものである、請求項7に記載する製造方法。
【請求項9】
前記安定性改善が前記組成物のpH低下の抑制である、請求項7または8に記載する製造方法。
【請求項10】
前記(B)成分が、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセトステアリルエーテルおよびポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1つである、請求項7~9のいずれか一項に記載する製造方法。
【請求項11】
(A)ベタメタゾン吉草酸エステルと、(B)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種を含有する組成物の安定性を改善する方法であって、
前記組成物中に(C)トコフェロールまたは
トコフェロール酢酸エステルを共存させることを特徴とする、前記安定性改善方法。
【請求項12】
前記組成物がさらに(D)pH調節剤を含有するものである、請求項11に記載する安定性改善方法。
【請求項13】
前記安定性改善方法が前記組成物のpH低下を抑制する方法である、請求項11または12に記載する安定性改善方法。
【請求項14】
前記(B)成分が、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセトステアリルエーテルおよびポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1つである、請求項11~13のいずれか一項に記載する安定性改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物に関する。より詳細には、抗炎症剤としてベタメタゾン吉草酸エステルを含有する外用製剤に関する。また、本発明は、ベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物の製剤安定性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステロイド骨格を有する化合物は、微量で高い生理活性を示すことが知られている。なかでも副腎皮質ホルモンは、炎症を伴う皮膚の痒み、赤み、及び腫れなどの症状の改善に有効であり、湿疹(アトピー性皮膚炎による湿疹を含む。以下、同じ。)、痒疹(汗疹、蕁麻疹、かぶれ、及び虫さされ等による痒疹を含む。以下、同じ。)、皮膚炎、および乾癬等の治療に広く用いられている。通常、副腎皮質ホルモンを含む外用製剤には、その他の有効成分として、非ステロイド系抗炎症剤、局所麻酔剤、血行促進剤、殺菌剤、皮膚保護剤、抗生物質、及び清涼剤などが、適宜に組み合わせて配合されるが、配合成分の組み合わせによっては、製剤的安定性を確保することが難しくなったり、皮膚刺激が惹起されたり、また使用感が悪いものになる等の製剤上の問題が発生する。
【0003】
このため、製剤の設計には、薬理作用(効能・効果)に加えて、製剤の物理的安定性、皮膚等の生体への安全性、及び使用感等を総合的に考慮する必要がある。
【0004】
前述する副腎皮質ホルモンのうち、17位または21位にヒドロキシル基を有するステロイドがアセチル化またはバレリル化してなるエステル化ステロイドは、併用する化合物によって、製剤中で分解されやすくなることが指摘されている(特許文献1及び2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-343890号公報
【文献】特開2005-343891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、良好な製剤安定性を有するベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、当該ベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物の製剤安定性を改善する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ベタメタゾン吉草酸エステルを含有する製剤の設計に際して、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルを配合すると、製剤のpHが経時的に低下する現象が生じることを知見した。これを解消すべく、鋭意検討を重ねていたところ、ベタメタゾン吉草酸エステル、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルに、さらにトコフェロールまたはその誘導体を併用することで、前記現象が有意に改善され、pHが安定に維持されたベタメタゾン吉草酸エステル含有製剤が得られることを見出した。
【0008】
本発明は、これらの知見に基づいて、さらなる改良を重ねて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
【0009】
(I)ベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物
(I-1)(A)ベタメタゾン吉草酸エステルと、
(B)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種と、
(C)トコフェロールまたはその誘導体とを
含有する、組成物。
(I-2)前記(B)成分が、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセトステアリルエーテルおよびポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1つである、(I-1)記載の組成物。
(I-3)さらに(D)pH調節剤を含有する(I-1)または(I-2)に記載する組成物。
(I-4)さらに(E)外用基剤を含有する(I-1)~(I-3)のいずれか一項に記載する組成物。
(I-5)医薬組成物、好ましくは皮膚外用剤である、(I-1)~(I-4)のいずれか一項に記載する組成物。
【0010】
(II)ベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物の安定化製造方法
(II-1)(A)ベタメタゾン吉草酸エステルと、(B)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種を含有する組成物の安定性を改善した製造方法であって、
前記組成物中に(C)トコフェロールまたはその誘導体を共存させる工程を有することを特徴とする、前記製造方法。
(II-2)前記組成物がさらに(D)pH調節剤を含有するものである、(II-1)に記載する製造方法。
(II-3)前記(B)成分が、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセトステアリルエーテルおよびポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1つである、(II-1)又は(II-2)に記載する製造方法。
(II-4)前記安定性の改善がpH低下の抑制である、(II-1)~(II-3)のいずか一項に記載する製造方法。
【0011】
(III)ベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物の安定性改善方法
(III-1)(A)ベタメタゾン吉草酸エステルと、(B)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種を含有する組成物の安定性を改善する方法であって、
前記組成物中に(C)トコフェロールまたはその誘導体を共存させることを特徴とする、前記安定性改善方法。
(III-2)前記組成物がさらに(D)pH調節剤を含有するものである、(III-1)に記載する安定性改善方法。
(III-3)前記安定性改善方法が前記組成物のpH低下を抑制する方法である、(II-1)または(II-2)に記載する安定性改善方法。
(III-4)前記(B)成分が、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセトステアリルエーテルおよびポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1つである、(II-1)~(II-3)のいずれかに記載する安定性改善方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好な製剤安定性を有するベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物を提供することができる。より詳細には、本発明によれば、ベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物にポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルを配合することで経時的に生じるpH低下が、トコフェロールまたはその誘導体を配合することで有意に抑制されることを特徴とするベタメタゾン吉草酸エステル含有製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実験例1においてサンプル1-1~1-4のpH安定性を比較評価した結果を示す。
【
図2】実験例1においてサンプル1-1及び1-5~1-7のpH安定性を比較評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(I)ベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物、及びその製造方法
本発明のベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物(以下、単に「本組成物」とも称する)は、下記の(A)、(B)及び(C)成分を含有する組成物である。
(A)ベタメタゾン吉草酸エステル
(B)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種、及び
(C)トコフェロールまたはその誘導体。
【0015】
本固形組成物は、前記(A)及び(B)成分に加えて、下記の(D)成分を含有していてもよい。
(D)pH調節剤。
【0016】
また本固形組成物は、前記(A)~(C)成分、または前記(A)~(D)成分に加えて、下記の(E)成分を含有していてもよい。
(E)外用基剤。
【0017】
以下、これらの成分について説明する。
(A)成分
ベタメタゾン吉草酸エステルは、17位のヒドロキシル基がバレリル化され、21位のヒドロキシル基がアセチル化されてなるエステル化ステロイドである。当該化合物は、抗炎症作用を有するストロングなステロイドであり、下記の効能・効果が知られている:
湿疹・皮膚炎群(進行性指掌角皮症、女子顔面黒皮症、ビダール苔癬、放射線皮膚炎、日光皮膚炎を含む)、皮膚そう痒症、痒疹群(じん麻疹様苔癬、ストロフルス、固定じん麻疹を含む)、虫さされ、乾癬、掌蹠膿疱症、扁平苔癬、光沢苔癬、毛孔性紅色粃糠疹、ジベルバラ色粃糠疹、紅斑症(多形滲出性紅斑、結節性紅斑、ダリエ遠心性環状紅斑)、紅皮症(悪性リンパ腫による紅皮症を含む)、慢性円板状エリテマトーデス、薬疹・中毒疹、円形脱毛症(悪性を含む)、熱傷(瘢痕、ケロイドを含む)、凍瘡、天疱瘡群、ジューリング疱疹状皮膚炎(類天疱瘡を含む)、痔核、鼓室形成手術・内耳開窓術・中耳根治手術の術創。
【0018】
本組成物中に含まれる(A)成分の量は、本発明の効果を妨げることなく、所望の薬効を発揮する量であればよく、その範囲で適宜設定調整することができる。例えば、本組成物を、炎症を伴う皮膚の痒み、赤みまたは腫れなどの症状を有する皮膚疾患(例えば、湿疹、痒疹、皮膚炎または乾癬等)を改善する外用製剤(医薬製剤)として調製する場合、本組成物中の(A)成分の含有量としては、0.0002~10質量%の範囲を例示することができる。好ましくは0.002~2質量%であり、より好ましくは0.01~0.3質量%である。
【0019】
(B)成分
ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルは、界面活性作用を有する非イオン性の化合物である。本発明が対象とするポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルは、医薬品、医薬部外品または化粧料に配合可能なものである。
【0020】
このようなポリオキシエチレンアルキルエーテルの具体例としては、ポリオキシエチレン(E.O)の付加モル数が4~200のポリオキシエチレンと炭素数8~22のアルキル基とのモノエーテル等が挙げられる。これらの中には、ポリオキシエチレンカプリルエーテル、ポリオキシエチレンカプリリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアイルエーテル、ポリオキシエチレンセトステアリルエーテル、及びポリオキシエチレンベヘニルエーテル等が含まれる。好ましくは、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセトステアリルエーテル、より好ましくは、ポリオキシエチレンセチルエーテル、及びポリオキシエチレンステアリルエーテルである。
【0021】
またポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルの具体例としては、ポリオキシエチレン(E.O)の付加モル数が4~200のポリオキシエチレンとアリールフェニルとのエーテル等が挙げられる。これらの中には、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル等が含まれる。好ましくはポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルである。
これらの(B)成分は、一種単独で、前記(A)成分と併用されてもよいし、また二種以上を任意に組み合わせて、前記(A)成分と併用されてもよい。なお、(B)成分を二種以上併用する場合、その一種として前述する好適なポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いることが好ましい。
【0022】
本組成物中に含まれる(B)成分の量は、本発明の効果を妨げることなく、所望の界面活性作用を発揮する量であればよく、その範囲で適宜設定調整することができる。制限されないものの、具体的には、油成分と水成分の界面に存在する界面張力を下げ、水成分中に油成分を微細に分散させる作用を発揮するように調整することができる。制限されないものの、本組成物中の(B)成分の含有量(総量)として、0.1~10質量%の範囲を例示することができる。下限量として好ましくは0.15質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上が挙げられる。その範囲として好ましくは0.25~7.5質量%であり、より好ましくは0.3~5質量%、さらに好ましくは0.5~5質量%である。また、(A)成分100質量部に対する(B)成分の割合としては、制限されないものの、例えば10~100000質量部、好ましくは100~50000質量部、より好ましくは500~10000質量部の範囲、特に好ましくは1000~5000質量部を例示することができる。
【0023】
(C)成分
トコフェロールまたはその誘導体は、医薬品、医薬部外品または化粧料に配合可能なものであればよく、天然品または合成品の別を問わない。トコフェロールには、d-α-トコフェロール、dl-α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、及びδ-トコフェロールが含まれる。また、トコフェロールの誘導体には、トコフェロール酢酸エステル(例えば、酢酸d-α-トコフェロール、酢酸dl-α-トコフェロールが含まれる)、トコフェロールニコチン酸エステル、トコフェロールコハク酸エステル、及びトコフェロールリノレン酸エステル等のトコフェロールのエステル体;α-トコフェリル酢酸、α-トコフェリルリン酸、α-トコフェリルコハク酸、及びこれらの塩;α-トコレチナート、β-トコレチナート、δ-トコレチナート等のトコレチナートが含まれる。好ましくはトコフェロールの誘導体として好ましくはトコフェロールのエステル体(ビタミンEエステル体)であり、より好ましくは、トコフェロール酢酸エステルである。これらの(C)成分は、一種単独で、前記(A)及び(B)成分と併用されてもよいし、また二種以上を任意に組み合わせて、前記(A)及び(B)成分と併用されてもよい。
【0024】
(C)成分は、それ自体、抗酸化作用、血行促進作用等の作用を有する化合物であるが、本組成物においては、これらの少なくとも1つの作用(好ましくは血行促進作用)に加えて、後述する実施例に示すように、前述する(A)及び(B)成分を含有することにより生じる組成物のpH低下現象を抑制する作用を発揮する。
【0025】
本組成物中に含まれる(C)成分の量は、所望の薬効を発揮するとともに、前記作用を発揮する量であればよく、その範囲で適宜設定調整することができる。例えば、本組成物を、炎症を伴う皮膚の痒み、赤みまたは腫れなどの症状を有する皮膚疾患(例えば、湿疹、痒疹、皮膚炎または乾癬等)を改善する外用製剤(医薬製剤)として調製する場合、本組成物中の(C)成分の含有量としては、0.001~10質量%の範囲を例示することができる。好ましくは0.005~10質量%であり、より好ましくは0.025~5質量%である。また、(A)成分100質量部に対する(C)成分の割合としては、制限されないものの、例えば10~10000質量部、好ましくは30~7000質量部、より好ましくは50~5000質量部の範囲を例示することができる。
【0026】
(D)成分
pH調節剤としては、医薬品、医薬部外品または化粧料に配合可能なものであって、通常pH調整に用いられる酸もしくは塩基またはそれらの塩であればよい。制限されないものの、例えば、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸またはその塩;アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸塩、炭酸水素塩等の無機物;酢酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、レブリン酸、フマル酸、マレイン酸等の有機酸またはその塩;エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、リジン、アルギニン等を例示することができる。
【0027】
一般に、人体の皮膚(肌、皮膚膜)のpHは約4.5~約6.5の弱酸性であり、健康な皮膚のpHは約5.5前後であると言われている。このため、例えば、本組成物を、炎症を伴う皮膚の痒み、赤みまたは腫れなどの症状を有する皮膚疾患(例えば、湿疹、痒疹、皮膚炎または乾癬等)を改善する外用製剤(医薬製剤)として調製する場合、本組成物中の(D)成分の含有量としては、本組成物を上記のpH範囲、好ましくはpH5.0~6.0に調整することができる割合であればよい。この限りにおいて、特に制限されず、本組成物100質量%中、0.01~10質量%の範囲から適宜調整することができる。好ましくは0.05~5質量%であり、より好ましくは0.1~1質量%である。
【0028】
(E)成分
本組成物は、前述する(A)~(C)成分、または(A)~(D)成分を、(E)外用基剤とともに混合して外用剤として調製することができる。より好ましくは皮膚外用剤である。その剤型は、制限されず、医薬品、医薬部外品または化粧料において通常採用されている剤型を挙げることができる。例えば、液剤(ローション状、乳液状、エアゾール状を含む)、スティック剤、クリーム剤、軟膏剤、硬膏剤、ゲル剤、パップ剤、フォーム剤、パウダー剤などを挙げることができる。好ましくはクリーム剤、軟膏剤、液剤またはゲル剤である。
【0029】
(E)成分としては、本組成物の形状(剤型)に応じて、慣用の外用基剤を用いることができる。本発明の効果を妨げることがない限り、医薬品、医薬部外品または化粧料に配合可能な基剤であればよく、特に制限されない。
例えば、白色ワセリン,セタノール,ミツロウ,ラノリン,パラフィン、流動パラフィン等の油類;天然ゴム,イソプレンゴム,ポリイソブチレン,スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体,スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体,スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体,(メタ)アクリル酸アルキルエステル(共)重合体,ポリ(メタ)アクリル酸エステル,(メタ)アクリル酸エステル,ポリイソブチレン,ポリブテン,液状ポリイソプレン等のゴム類;カルボキシビニルポリマー,アクリル酸デンプン,ポリアクリル酸ナトリウム,カルメロースナトリウム等の水溶性高分子;グリセリン;マクロゴール;無水ケイ酸等を例示することができる。また外用基剤の成分として、賦形剤(例えば、白糖などの糖類;デキストリンなどのデンプン誘導体;カルメロースナトリウムなどのセルロース誘導体;キサンタンガムなどの水溶性高分子等)を用いることもできる。これらは1種または2種以上を任意に組み合わせて用いることができる。
本組成物中の(E)成分の含有量としては、本組成物の全量が100質量%となるように調整されればよく、制限されないが、100質量%未満、例えば99.999質量%を上限とする範囲を例示することができる。好ましくは5~99.999質量%であり、より好ましくは10~99.99質量%である。
【0030】
(F)任意の薬理活性成分
本組成物には、本発明の効果を妨げないことを限度として、前述する(A)~(C)成分、(A)~(D)成分、または(A)~(E)成分に加えて、さらに他の薬理活性成分が含まれていてもよい。制限されないものの、非ステロイド系抗炎症剤、局所麻酔剤、鎮痒剤、血行促進剤、殺菌剤、皮膚保護剤、抗生物質、保湿剤、及び/又は清涼剤を例示することができる。これらは、外用剤、特に皮膚外用剤に配合できる成分であればよいが、本発明の本組成物を、炎症を伴う皮膚の痒み、赤みまたは腫れなどの症状を有する皮膚疾患(例えば、湿疹、痒疹、皮膚炎または乾癬等)を改善する外用製剤(医薬製剤)として調製する場合は、当該外用製剤に配合することができる成分であることが好ましい。
【0031】
(G)任意の担体・添加剤
本組成物は、前述する成分以外に、本発明の効果を妨げないことを限度として、適宜、従来公知の担体や添加剤を任意に配合することができる。これらの担体や添加剤としては、例えば賦形剤、増粘剤、界面活性剤、抗酸化剤、緩衝剤、乳化剤、pH調整剤、分散剤、溶解補助剤、流動化剤、着色剤、保存剤、及び/又は香料等を、制限なく、例示することができる。
【0032】
本組成物は、前述する成分のうち、少なくとも(A)~(C)成分または(A)~(D)成分を、必要に応じて(E)成分及び/又は(F)成分と混合することで、(A)成分と(B)成分を含む組成物中に少なくとも(C)成分が共存させる工程を有する製造方法により製造することができ、それ以外は基本的に外用剤の慣用の製造方法に従って、外用剤の形態に製造することができる。
【0033】
斯くして外用製剤の形態に調製される本組成物は、炎症を伴う皮膚の痒み、赤みまたは腫れなどの症状を有する皮膚疾患(例えば、湿疹、痒疹、皮膚炎または乾癬等)を改善する外用製剤(医薬製剤)として好適に用いることができる。適用部は、制限されず、手、足、指、顔、頭、及び体など、皮膚全般に対して広く用いることができる。また肛門部や陰部周辺などの皮膚の角質が薄い部位にも適用することができる。これらの皮膚への適用量や用法も特に制限されず、患部の症状や有効成分の含有量に応じて、一日1回~数回、適量を皮膚などの外皮に塗布することなどにより用いることができる。
【0034】
(II)ベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物の安定性改善方法
本発明は、前述する(A)成分を含有する組成物(ベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物)について、その安定性を改善する方法を提供する。
後述する実験例に示すように、(A)成分含有組成物は、前述する(B)成分を配合することで安定性が低下し、経時的にpHが低下する現象が生じる。この現象は、(A)成分含有組成物にpH調節剤((D)成分)が配合されている場合でも、その緩衝能を超えて生じる場合がある。当該pH低下現象は、当該組成物((A)及び(B)成分含有組成物)中に、前述する(C)成分を共存させることで改善することができる。当該(A)及び(B)成分を含有する組成物に、前述する(D)成分が含まれていてもよい。
【0035】
本発明が対象とする「ベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物の安定性改善」には、好ましくは、ベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物に(B)成分を配合することによって生じる経時的なpH低下が抑制されることが含まれる。少なくとも(A)~(C)成分または(A)~(D)成分を含む組成物(測定対象)が、(C)成分を含まない以外は前記と同じ成分からなる組成物(比較対象)と比較して、経時的に生じるpH低下が少ない場合、前者の組成物は、(C)成分が配合されていることによりpH低下現象が抑制されており、安定性が改善されていると判断することができる。
経時的pHの低下の有無は、前記測定対象の組成物と比較対象の組成物とを、それぞれ40℃、75%の恒温恒湿条件の暗所条件下に0~6ヶ月程度保存し、その期間中、経時的にpHをpHメータで測定し、そのpH低下の程度を比較することで評価することができる。詳細は、後述する実験例の記載を参照することができる。
【0036】
(A)及び(B)成分(または(A)、(B)及び(D)成分)を含有する組成物に、(C)成分を共存させる方法としては、本発明の効果が得られる方法であればよく、制限されない。制限されないものの、例えば、(E)成分に、(B)成分または(B)成分と(D)成分とを溶解し、この中に(C)成分を混合し、(B)成分と(C)成分との共存状態または(B)成分と(D)成分と(C)成分との共存状態を形成し、これに(A)成分を分散させる方法であってもよい。また、本発明の効果を妨げないことを限度として、他の成分として、前述する(F)成分や(G)成分を配合することもできる。これらの各成分を混合し、少なくとも(A)~(C)成分との共存状態を形成した後、必要に応じて、慣用の方法により、液剤、スティック剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、及び硬膏剤等の慣用の外用剤の形態に調製することもできる。
組成物中の各成分の割合、及び配合比などは、前記(I)に記載した通りであり、当該記載はここに援用することができる。
【0037】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0039】
以下の実験例で使用した化合物は下記の通りである。
ベタメタゾン吉草酸エステル:Sicor(シコール)より入手
トコフェロール酢酸エステル(鹿特級):関東化学(株)より入手
ポリオキシエチレンセチルエーテル(BC-TX):日本サーファクタントより入手
ポリオキシエチレンステアリルエーテル(220R):日油(株)より入手
白色ワセリン(スノーホワイトV):CALUMETより入手
保存剤:パライキシ安息香酸ブチル、パライキシ安息香酸メチル:富士フィルム和光純薬(株)より入手
pH調節剤:リン酸1ナトリウム2水塩、リン酸、水酸化ナトリウム:関東化学(株)より入手
【0040】
[ベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物の経時的安定性の評価方法]
(1)被験組成物の保存方法
測定するベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物(被験組成物)を、空間ができないようにアルミチューブに充填し、この状態で、40℃で75RH%の暗所条件下に6箇月間に亘り、静置保存する。
(2)pH測定用試料の調製方法
保存前(経時月:0)と保存後(経時月:1~6月)の被験組成物5g(±0.02g)を50mL容量のビーカーにとり、メスピペットで注射用蒸留水15mLを加える。これを60℃(±2℃)の水浴中で5分間加温した後、スターラーを用いて5分間攪拌する。その後、品温が24.5℃~25.5℃になるように調整したものを、pH測定用の試料とする。
(3)pH測定用試料のpH測定
前記で調製したpH測定用試料(品温:24.5~25.5℃)のpHを、pHメータにて測定し、保存前の被験組成物のpHと保存後の被験組成物のpHとの差(pH変化)から、被験試料の経時的安定性を評価する。
【0041】
実験例1 ベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物の調製とその安定性評価
(1)実験方法
表1及び2に記載する組成に従って、クリーム形状のベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物(サンプル1-1~1-7)を調製し、pHが5.0~5.5の範囲になるように調整した。具体的には、(E)成分に(D)成分及び(G)成分を溶解し、この中にサンプルに応じて(B)成分及び/又は(C)成分を混合し、共存状態を形成し、(A)成分を分散させた。
【表1】
【表2】
調製した各サンプルを、前述する保存条件下で6箇月間に亘って保存した。保存期間中pHを経時的に測定して、その経時的変化から、サンプル間でpH安定性を比較評価した。
【0042】
(2)実験結果
結果を表3及び4、並びに
図1及び2に示す。
【表3】
【表4】
表3及び
図1、並びに表4及び
図2に示すように、(A)成分及び(C)成分に、(B)成分を組み合わせて配合することで、(A)成分及び(C)成分を含有する組成物(サンプル1-2、1-5)のpH低下が抑制され、良好な安定性(pH安定性)を有するベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物が得られることが確認された(サンプル1-3、1-4、1-6及び1-7)。
実施例2~11:ベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物
C成分を含まないベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物(クリーム)(比較例2~11)に比べて、経時的なpH低下が抑制されている本発明のベタメタゾン吉草酸エステル含有組成物(クリーム)(実施例2~11)の処方を表5~14に記載する。
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】