(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】制御装置およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
B64G 3/00 20060101AFI20230919BHJP
B64G 1/24 20060101ALI20230919BHJP
B64G 1/64 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
B64G3/00
B64G1/24 200
B64G1/64 600
(21)【出願番号】P 2022511784
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2021010236
(87)【国際公開番号】W WO2021200055
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2020062397
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 大貴
(72)【発明者】
【氏名】森田 大地
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-330943(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0242700(US,A1)
【文献】特開2014-226974(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110412868(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 3/00
B64G 1/22
G05D 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙航行体に搭載される制御装置であって、
非協力対象物の撮像画像を画像処理することによって、前記非協力対象物の重心位置と、前記重心位置を通り前記非協力対象物の長手方向と平行なベクトルであって前記宇宙航行体を前記非協力対象物に接近させるべき方向のベクトル成分を有する第1ベクトルとを取得する画像処理部と、
前記宇宙航行体が前記非協力対象物に接近航行するための目標軌道を生成する軌道生成部と、
前記宇宙航行体の姿勢を制御することによって、前記宇宙航行体を前記目標軌道上で航行させる制御部と、
を備え
、
前記画像処理部は、前記宇宙航行体が前記目標軌道上を航行している間における前記非協力対象物の撮像画像から前記第1ベクトルおよび前記撮像画像中の前記非協力対象物のアスペクト比を取得し、
前記制御部は、取得された前記第1ベクトル及び前記アスペクト比に基づいて、前記宇宙航行体が前記目標軌道上の目標位置に到達したか否かを判定する、
制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の制御装置であって、
前記画像処理部は、前記宇宙航行体が前記目標軌道上を航行している間における前記非協力対象物の撮像画像中の前記非協力対象物のアスペクト比を繰り返し取得し、
前記制御部は、取得された前記アスペクト比が1になるまでの間、前記目標軌道における前記接近させるべき方向側において前記宇宙航行体の姿勢を変化させて前記目標軌道を航行させる、
制御装置。
【請求項3】
請求項1
または請求項
2に記載の制御装置であって、
前記制御部は、前記目標軌道を生成する際に用いられた前記第1ベクトルと、前記宇宙航行体が前記目標軌道を航行中に前記画像処理部により新たに取得された前記第1ベクトルとが一致しない場合、少なくとも、前記目標軌道の生成と、生成された前記目標軌道上の航行とを繰り返す、
制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項
3までのいずれか一項に記載の制御装置であって、
前記撮像画像は二値化画像である、
制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項
4までのいずれか一項に記載の制御装置であって、
前記目標軌道は、前記非協力対象物を中心とする円軌道を含む経路であり、
前記制御部は、
前記宇宙航行体の姿勢を制御することによって、前記宇宙航行体を前記円軌道上で周回航行させる、
制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項
5までのいずれか一項に記載の制御装置であって、
前記画像処理部は、前記非協力対象物における長手方向の非対称性に基づいて、前記第1ベクトルを算出する、
制御装置。
【請求項7】
請求項1から請求項
6までのいずれか一項に記載の制御装置を備える宇宙航行体であって、
前記非協力対象物を除去する除去装置と、
前記除去装置を前記非協力対象物に固定する固定装置と、
を備える、
宇宙航行体。
【請求項8】
請求項
7に記載の宇宙航行体であって、
進行方向前方に向かって伸展する伸展部と、
前記伸展部における前記進行方向前方の端部に取り付けられ、前記非協力対象物の端部に設けられているPAFの開口部に係合する係合部と、
を備える、
宇宙航行体。
【請求項9】
請求項
7または請求項
8に記載の宇宙航行体であって、
前記除去装置は、EDTを備える、
宇宙航行体。
【請求項10】
請求項
7から請求項
9までのいずれか一項に記載の宇宙航行体であって、
前記宇宙航行体の姿勢を制御する装置として、スラスタと、リアクションホイールとのうちの少なくとも一方を備える、
宇宙航行体。
【請求項11】
コンピュータプログラムであって、
非協力対象物の撮像画像を画像処理することによって、前記非協力対象物の重心位置と、前記重心位置を通り前記非協力対象物の長手方向と平行なベクトルであっ
て宇宙航行体を前記非協力対象物に接近させるべき方向のベクトル成分を有する第1ベクトルとを取得する機能と、
前記宇宙航行体が前記非協力対象物に接近航行するための目標軌道を生成する機能と、
前記宇宙航行体の姿勢を制御することによって、前記宇宙航行体を前記目標軌道上で航行させる機能と、
をコンピュータに実現させ
、
前記非協力対象物の重心位置と前記第1ベクトルとを取得する機能は、前記宇宙航行体が前記目標軌道上を航行している間における前記非協力対象物の撮像画像から前記第1ベクトルおよび前記撮像画像中の前記非協力対象物のアスペクト比を取得する機能を含み、
前記宇宙航行体を前記目標軌道上で航行させる機能は、取得された前記第1ベクトル及び前記アスペクト比に基づいて、前記宇宙航行体が前記目標軌道上の目標位置に到達したか否かを判定する機能を含む、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、宇宙航行体を非協力対象物に接近させる航法に関する。
【背景技術】
【0002】
スペースデブリは年々増加の一途をたどっており、宇宙利用あるいは宇宙開発に大きな影響を及ぼしつつある。そこで、現存するスペースデブリを積極的に除去するためにさまざまな技術が提案されている。代表的な一例としては、衛星を利用してスペースデブリ除去装置(以下、「除去装置」という)を非協力対象物であるスペースデブリに固定し捕獲する技術が知られている。
【0003】
ターゲットとなるスペースデブリは役目を終えた人工衛星やロケット等であり、リフレクタや通信機器を有していないため、スペースデブリの除去においては、除去装置を備えた除去衛星をスペースデブリに確実に接近させる必要がある。一般的に、除去衛星はスペースデブリに対して以下のフェーズで順次接近させる。
【0004】
まず、遠距離域では例えばGPS航法等を利用してスペースデブリまで数キロメートル程度の距離まで接近させる。次に、中距離域では、例えば光学カメラ等の撮像装置を用いて、スペースデブリの方角情報のみを用いた相対航法(Angles-Only Navigation:AON)により数百メートル程度の距離まで接近させる。さらに近距離域では、スペースデブリの相対位置または姿勢を計測してフライアラウンドによりスペースデブリまで数十メートル程度の距離まで接近させる(フライアラウンドフェーズ)。そして固定域では、スペースデブリに対して数センチメートル程度までを接近させる(プレドッキングフェーズ)。
【0005】
このような除去衛星をスペースデブリに接近させる技術として、例えば特許文献1では中距離域における宇宙機の誘導方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の誘導方法は、宇宙機から非協力対象物であるターゲットの推定軌道の情報を地上局に送信し、地上局は宇宙機の軌道を変更または誘導する処理を行う。しかし、特許文献1の誘導方法では、特に近距離域のフライアラウンド中にターゲットの姿勢が変化してしまうと、宇宙機がターゲットに対して望ましい位置に誘導されない可能性がある。
【0008】
そこで、本開示は、簡易な構成で非協力対象物に対して、より望ましい位置に宇宙航行体を航行させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一形態によれば、宇宙航行体に搭載される制御装置が提供される。この制御装置は、非協力対象物の撮像画像を画像処理することによって、前記非協力対象物の重心位置と、前記重心位置を通り前記非協力対象物の長手方向と平行なベクトルであって前記宇宙航行体を前記非協力対象物に接近させるべき方向のベクトル成分を有する第1ベクトルとを取得する画像処理部と、前記宇宙航行体が前記非協力対象物に接近航行するための目標軌道を生成する軌道生成部と、前記宇宙航行体の姿勢を制御することによって、前記宇宙航行体を前記目標軌道上で航行させる制御部と、を備え、前記軌道生成部は、前記第1ベクトルと、前記撮像画像の撮像方向のベクトルである第2ベクトルとにより規定される平面において前記目標軌道を生成する。
【0010】
上記形態の制御装置によれば、非協力対象物の重心位置を通り非協力対象物の長手方向と平行なベクトルであって宇宙航行体を非協力対象物に接近させるべき方向のベクトル成分を有する第1ベクトルと、撮像画像の撮像方向のベクトルである第2ベクトルとにより規定される平面において目標軌道を生成するので、地上局を介さずに目標軌道を生成できる。したがって、地上局を介して目標軌道を生成する構成に比べて、情報処理量が増加することを抑制できる。
【0011】
本開示は、制御装置以外の種々の形態で実現できる。例えば、制御装置を備える宇宙航行体、宇宙航行体の制御方法、かかる方法を実現するためのコンピュータプログラム、かかるコンピュータプログラムを記憶した記憶媒体等の形態で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態としての制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2Aは、宇宙航行体がスペースデブリに接近する様子を模式的に示す説明図であり、
図2Bは、宇宙航行体の固定装置がスペースデブリに固定された様子を模式的に示す説明図である。
【
図3】
図3は、画像航法処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5A及び
図5Bは、宇宙航行体の姿勢の制御の一例を模式的に示す説明図である。
【
図6】
図6は、目標軌道が生成される手順を説明する説明図である。
【
図7】
図7は、目標軌道の一例を模式的に示す説明図である。
【
図8】
図8は、宇宙航行体が目標軌道上を周回航行する様子を模式的に示す説明図である。
【
図9】
図9A、
図9B及び
図9Cは、宇宙航行体がスペースデブリを捕獲して除去する様子を模式的に示す説明図である。
【
図10】スペースデブリ除去システムの概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[装置構成]
図1に示すように、制御装置10は、宇宙航行体100に搭載され、宇宙航行体100の航行を制御する。本実施形態において、宇宙航行体100は、宇宙空間における非協力対象物であるスペースデブリを捕獲して除去する人工衛星である。スペースデブリは、軌道上に存在する不要な人工物体であり、例えば、使用済みの人工衛星、打ち上げロケットの上段、爆発や衝突により生じた破片等が該当する。
【0014】
図2A及び
図2Bに示すように、スペースデブリ200は、長手方向において非対称な外観形状を有する。スペースデブリ200は、円筒状の本体部220と、本体部220の一方の端部に連設された円錐台状の衛星分離部(PAF:Payload Attach Fitting)210とを備える。PAF210は、人工衛星とロケットを分離する機構であり、開口部230を有している。
【0015】
図1に示すように、宇宙航行体100には、制御装置10の他、撮像装置40、宇宙航行体100の姿勢を制御する姿勢制御装置50、スペースデブリ200に宇宙航行体100を固定する固定装置20およびスペースデブリ200を除去する除去装置30が搭載されている。撮像装置40、固定装置20および姿勢制御装置50は、制御信号線を介して制御装置10に接続されている。
【0016】
制御装置10は、除去対象となるスペースデブリ200に宇宙航行体100を接近させる軌道(以下、「目標軌道」とも呼ぶ)を生成する。また、制御装置10は、宇宙航行体100の姿勢を制御することによって、宇宙航行体100を目標軌道上を航行させるとともに、
図2Aの実線矢印に示すように、スペースデブリ200に接近させて、スペースデブリ200を捕獲可能な位置まで宇宙航行体100を移動させる。本実施形態において制御装置10は、CPUおよびメモリを備えるマイクロコンピュータとして構成されている。制御装置10のCPUは、メモリに記憶されたコンピュータプログラムを展開して実行することにより、制御部11、画像処理部12および軌道生成部13として機能する。
【0017】
制御部11は、宇宙航行体100の全体の動作を制御する。
【0018】
画像処理部12は、撮像装置40により撮像されたスペースデブリ200の撮像画像を画像処理し、スペースデブリ200の重心位置と、スペースデブリ200の第1ベクトルと、撮像画像におけるスペースデブリ200のアスペクト比とを取得する。本実施形態において「第1ベクトル」とは、スペースデブリ200の重心位置を通り、スペースデブリ200の長手方向に平行なベクトルであり、宇宙航行体100をスペースデブリ200に接近させるべき方向のベクトル成分を有するベクトルを意味する。また、「宇宙航行体100をスペースデブリ200に接近させるべき方向」とは、スペースデブリ200の長手方向においてPAF210が位置する側に向かう方向を意味する。重心位置、第1ベクトルおよびアスペクト比の取得手順については、後述する。
【0019】
軌道生成部13は、画像取得部12により取得された第1ベクトルを利用して目標軌道を生成する。
【0020】
撮像装置40は、スペースデブリ200を撮像し、撮像画像を画像処理部12に出力する。撮像装置40は、例えば、光学カメラである。本実施形態では、撮像装置40は、撮像画像を二値化した二値化画像を出力する。
【0021】
姿勢制御装置50は、制御部11からの指示に応じてスラスタ51およびリアクションホイール52を駆動させることによって、宇宙航行体100の姿勢を制御する。なお、姿勢制御装置50は、スラスタ51とリアクションホイール52とのうちのいずれか一方を省略してもよい。また、姿勢制御装置50は、スラスタ51およびリアクションホイール52に代えて、または、スラスタ51およびリアクションホイール52に加えて、磁気トルカ、モーメンタムジャイロ等の他の姿勢制御装置を備えていてもよい。
【0022】
固定装置20は、除去装置30が備える後述の導電性テザー31をスペースデブリ200に固定する。
図2Bに示すように、固定装置20は、伸展部21と、係合部22とを備える。伸展部21は、宇宙航行体100の進行方向の前方、すなわち、PAF210に向かって伸展する部位である。係合部22は、伸展部21における宇宙航行体100の進行方向の前方の端部に設けられている。係合部22は、複数の突出部材と、突出した状態を維持する固定部材とを有し、収納状態から突出状態に移行可能である。突出部材が収納状態にあるときには、係合部22全体の寸法が開口部230よりも小さい。伸展部21が伸展して突出部材が開口部230内に挿入されると、開口部230の半径よりも長い棒状で維持され(突出状態)、係合部22の寸法が、PAF210の開口部230よりも大きくなる。PAF210の内部空間は開口部230よりも広いため、係合部22はPAF210内で抜け落ちることはない。このように、簡素な構成でスペースデブリ200に容易かつ確実に捕獲することができる。なお、係合部22の突出部材は、複数であればよいが、3つ以上であることが好ましい。また、3つ以上の突出部材が突出状態にあるときには、突出部材同士の角度がそれぞれ等角度となることが好ましい。これにより、突出状態にある複数の突出部材の先端を結んだ多角形が正多角形となるため、PAF210の内部空間で均等な方向に広がり、係合部22をPAF210に対して安定して係合させることができる。
【0023】
除去装置30は、導電性テザー(EDT:ElectroDynamic Tether)31を備える。EDT31は、導電性を有する紐部材であり、リールに巻き取られた状態で除去装置30に設けられている。
図9Aに示すように、EDT31は、固定装置20を介してスペースデブリ200のPAF210に固定される。
【0024】
スペースデブリ200が地球を周回する軌道上を進行するに伴ってEDT31が地球磁場中を移動すると、EDT31に誘導起電力およびローレンツ力が生じる。その結果、スペースデブリ200に対しては、進行方向とは逆方向に推進力が生じるので、スペースデブリ200の推進速度を低減させることができる。スペースデブリ200の推進速度が低減すると、スペースデブリ200の高度が徐々に低下してスペースデブリ200は軌道上から離脱して大気圏に突入する。なお、除去装置30は、EDT31を備える構成に限定されず、スペースデブリ200の軌道を変更するスラスタを備えていてもよい。この場合、除去装置30は、固定装置20に直接連結されてもよいし、EDT31のようなテザーを介して固定装置20に連結されてもよい。また、除去装置30の動作(例えば、リールからEDT31を繰り出す動作等)を制御部11が制御してもよい。
【0025】
[宇宙航行体100の画像航法]
本実施形態では、宇宙航行体100は、スペースデブリ200との距離に応じて、遠距離域、中距離域、近距離域および固定域の4段階で順次スペースデブリ200に接近する。遠距離域では、例えばGPS航法等を利用して、スペースデブリ200まで数百メートル、例えば、100メートル付近まで宇宙航行体100を接近させる。中距離域では、撮像装置40による角度を用いた相対航法によりスペースデブリ200まで数十メートル、例えば30メートル付近まで宇宙航行体100を接近させる。近距離域では、
図3に示す画像航法処理を実行することにより、スペースデブリ200まで数メートルまで宇宙航行体100を接近させ、その後、宇宙航行体100をスペースデブリ200の目標位置まで航行させる。画像航法処理は、宇宙航行体100が近距離域に到達すると開始される。
【0026】
制御部11は、スペースデブリ200の撮像画像が取得可能か否かを判定する(ステップS1)。本実施形態では、制御部11は、スペースデブリ200が日陰内にあるか否かを判定することによって、撮像画像の取得可否を判定する。スペースデブリ200が日陰内にあれば、撮像装置40においてスペースデブリ200の二値化画像を取得しやすいためである。なお、ステップS1は、制御部11により実行されなくてもよく、撮像装置40により実行されてもよい。また、例えば、宇宙航行体100に光センサを設けて、かかる光センサの検出結果に基づいて、スペースデブリ200が日陰内にあるか否かを判定してもよい。スペースデブリ200が日陰内にあれば、宇宙航行体100からスペースデブリ200の方向に光を照射することでスペースデブリ200の二値化画像を容易に取得できる。また、撮像画像の取得可否は、スペースデブリ200が日陰内にあるか否かに基づいて判定しなくてもよく、スペースデブリ200の二値化画像を取得可能であることを判定できれば、他の任意の判断基準を採用してもよい。
【0027】
ステップS1においてスペースデブリ200の撮像画像を取得可能でないと判定された場合(ステップS1:NO)、スペースデブリ200の撮像画像を取得可能と判定されるまで、上述のステップS1が繰り返し実行される。他方、スペースデブリ200の撮像画像を取得可能であると判定された場合(ステップS1:YES)、制御部11は、撮像装置40からスペースデブリ200の撮像画像を取得する(ステップS2)。上述のとおり、スペースデブリ200の撮像画像は、二値化画像である。
【0028】
制御部11は、画像処理部12に撮像画像を画像処理させる(ステップS3)。具体的には、画像処理部12は、公知の画像処理方法により、撮像画像から、スペースデブリ200の重心位置と、撮像画像におけるスペースデブリ200のアスペクト比と、スペースデブリ200の第1ベクトルとを取得する。スペースデブリ200の重心位置は、撮像画像中のスペースデブリ200の形状に応じて算出できる。例えば、撮像画像中のスペースデブリ200の形状が長方形である場合は、対角線の交点を算出することにより重心位置を取得できる。また、撮像画像におけるスペースデブリ200のアスペクト比は、撮像画像の長辺と短辺との比から算出できる。短辺を基準とした場合、アスペクト比は1以上の値が算出され、長辺を基準とした場合には、アスペクト比は1以下の値が算出される。また、第1ベクトルは、スペースデブリ200の形状が長手方向に非対称であることに基づき算出できる。
【0029】
制御部11は、第1ベクトルを取得可能か否かを判定する(ステップS4)。
【0030】
図4A、
図4B及び
図4Cに示すスペースデブリ200の撮像画像Img1、Img2及びImg3において、白抜きの実線L1は第1ベクトルに沿った方向、白抜きの破線L2はスペースデブリ200の姿勢を検出するための基準線である。
【0031】
図4Aに示すように、スペースデブリ200を斜め方向から撮像した場合、撮像画像Img1中のスペースデブリ200aは、実際のスペースデブリ200の長手方向の長さよりも短く見えるが、アスペクト比は1ではない。
図4Bに示すように、スペースデブリ200を横方向(側方)から撮像した場合には、撮像画像Img2中のスペースデブリ200aは、実際のスペースデブリ200の長手方向に対応した形状に見える。この場合においてもアスペクト比は1ではなく、短辺を基準とすれば最大値に、長辺を基準とすれば最小値になっている。
【0032】
図4A,
図4Bではいずれも、便宜上、略円柱状のスペースデブリ200を撮像した状態で図示しているが、実際には、スペースデブリ200は長手方向に非対称な形状を有しているので、撮像画像Img1及びImg2では、スペースデブリ200aの長手方向である実線L1を検出することができ、また、第1ベクトルの向きも検出できる。このように、宇宙航行体100が、
図4Aまたは
図4Bに例示する撮像画像Img1及びImg2撮像可能な位置にある場合、制御部11は第1ベクトルを取得できると判定する(ステップS4:YES)。
【0033】
これに対して、
図4Cに示すように、スペースデブリ200の長手方向のいずれか一方の端部からスペースデブリ200を撮像した場合には、撮像画像Img3においてスペースデブリ200aは略円形に見える。そのため、スペースデブリ200aの長手方向を特定できないため、実線L1を検出できない。
図4Cでは、便宜上、
図4A,
図4Bと同様に実線L1を図示しているが、実際の長手方向は不明である。この場合、撮像画像Img3においてスペースデブリ200aのアスペクト比は実質的に1であるため、第1ベクトルを取得できない。このように、宇宙航行体100が、
図4Cに例示する撮像画像Img3しか撮像できない位置にある場合には、制御部11は第1ベクトルを取得できないと判定する(ステップS4:NO)。
【0034】
第1ベクトルが取得できないと判定された場合(ステップS4:NO)、制御部11は、第1ベクトルを取得できるようにするために、姿勢制御装置50を動作させてスペースデブリ200に対して宇宙航行体100を相対移動させる(ステップS5)。宇宙航行体100の姿勢制御は、航行中に継続的に実施され、例えば、リアクションホイール52を用いたゼロモーメンタム方式等により行われる。宇宙航行体100が予め設定された軌道上を航行する際は、航行中に撮像装置40の撮像範囲内にスペースデブリ200が常に入るように宇宙航行体100の姿勢を制御することで、撮像画像の中心とスペースデブリ200の重心とを対応させることができる。以下、具体的に説明する。
図5A,
図5Bの左側図では、宇宙航行体100を立方体状に図示し、スペースデブリ200の二値化画像200aを
図4A~
図4Cと同様に円柱状に図示している。
図5A,
図5Bの右側図では、スペースデブリ200の撮像画像Img4及びImg5を示し、撮像画像Img4及びImg5において、撮像画像Img4及びImg5の中心位置を点線十字のレチクルにより示し、スペースデブリ200aの重心位置FPは、×印により示している。以降の説明では、スペースデブリ200aの重心位置FPを「デブリ重心」と呼ぶ。
【0035】
図5Aの左側に示すように、撮像装置40の撮像方向D1は、破線矢印により示している。宇宙航行体100からデブリ重心に向かう方向(以下、「重心方向」と呼ぶ)D2は、点線矢印により示している。重心方向D2は撮像方向D1よりも上側となっている。
【0036】
図5Aの右側に示すように、スペースデブリ200の二値化画像200aは、撮像画像Img4の中心よりも上側に位置している。なお、
図5A及び
図5Bに示す撮像画像Img4及びImg5には、スペースデブリ200の重心位置FPaが重ねて示されている。
【0037】
制御部11は、撮像画像の中心よりも上側に位置するデブリ重心FPaが撮像画像の中心に位置するように、姿勢制御装置50のリアクションホイール52を動作させて、宇宙航行体100の姿勢を制御する。
【0038】
図5Bの左側図では、宇宙航行体100の回転方向D3を実線の矢印により示している。リアクションホイール52を制御することによって、宇宙航行体100を回転方向D3に回転させることにより、
図5Bの右側図に示すように、デブリ重心FPaと撮像画像Img5の中心とを一致させることができる。
【0039】
なお、スペースデブリ200の重心と撮像画像の中心とを完全に一致させなくてもよく、例えば、撮像画像の中心を基準としてデブリ重心を所定範囲内に対応させてもよいし、逆に、デブリ重心を基準として所定範囲内に画面中心を対応させてもよい。あるいは、撮像画像の中心以外の基準を設けてデブリ重心を一致または対応させてもよい。
【0040】
図3に示すように、ステップS5の実行後、上述のステップS2、ステップS3及びステップS4が繰り返し実行される。他方、上述のステップS4において第1ベクトルを取得できると判定された場合(ステップS4:YES)、制御部11は、軌道生成部13に、目標軌道を生成させる(ステップS6)。具体的には、軌道生成部13は、第1ベクトルと、撮像方向D1のベクトルである第2ベクトルとにより規定される平面(以下、「軌道計画用平面」と呼ぶ)において目標軌道を生成する。
【0041】
軌道計画用平面は、取得した撮像画像の画像処理結果に基づいて規定することができ、例えば、
図6に示すように、スペースデブリ200を中心とする円(
図6において格子線で網掛けした領域)を含む平面Fである。なお、宇宙航行体100において撮像画像の中心とデブリ重心FPとを一致させた場合には、軌道計画用平面Fは、デブリ重心を含む平面として規定されればよい。
【0042】
図6では、第1ベクトルV1をブロック矢印により示している。第1ベクトルV1の向きをスペースデブリ200の前方と規定したとき、宇宙航行体100は、スペースデブリ200の斜め後方の位置P1にあるとする。撮像装置40はデブリ重心FPを向いてスペースデブリ200を撮像しているので、第2ベクトルV2は、位置P1からデブリ重心FPに向かうベクトルとなる。この場合、軌道計画用平面Fは、第1ベクトルV1および第2ベクトルV2により規定される円を含む平面である。
【0043】
なお、
図6では、スペースデブリ200の位置を基準とする宇宙航行体100の相対的な位置として、斜め後方の位置P1の他、側方の位置P2、斜め前方の位置P3、前方の位置P4、および後方の位置P5を示しているが、これらのいずれの位置であっても、第2ベクトルV2はデブリ重心FPに向かうベクトルであり、軌道計画用平面Fは、第1トルV1および第2ベクトルV2を含むように規定されていればよい。また、
図6に示す5つの位置P1、P2、P4、P4及びP5はいずれも軌道計画用平面Fに含まれる図面手前側の円周上の位置であるが、図面奥側の円周上の位置であってもよい。
【0044】
ステップS6では、制御部11は、目標軌道として、
図7に示すようにスペースデブリ200のPAF210直上までの軌道であって、デブリ重心FPを中心とする円の円周上を含む経路R1を生成する。経路R1は、円軌道を含む経路である。目標軌道を円軌道を含む経路とすることで、宇宙航行体100を円軌道上で周回させることができるので、スペースデブリ200に対して宇宙航行体100を相対停止させてPAF210直上となる位置(以下、「目標位置」という)に接近させるための航行を複数回繰り返すことができる。なお、目標軌道は、円軌道を含む経路R1に代えて、楕円軌道を含む経路であってもよい。
【0045】
また、軌道計画用平面Fがデブリ重心FPを中心とする円を含む平面であっても、目標軌道は円軌道を含まない経路であってもよい。例えば、宇宙航行体100の推進薬消費ができる限り小さくなる経路であってもよい。具体的には、
図7に示す目標軌道R2のように、軌道計画用平面Fに含まれる円周上の位置から放物線状に航行して、スペースデブリ200の前方の位置を目指す経路としてもよい。また、例えば、宇宙航行体100から目標位置までの到達時間をできる限り小さくする(あるいは最小にする)経路を目標軌道としてもよい。具体的には、
図7に示す目標軌道R3のように、軌道計画用平面Fに含まれる円周上の位置から、目標軌道R2の経路よりも距離が短くなるような放物線状の経路として、スペースデブリ200の前方の位置を目指す経路としてもよい。
【0046】
また、軌道計画用平面Fは、スペースデブリ200を含む平面であればよく、デブリ重心FPを含む平面でなくてもよい。
【0047】
図3に示すように、制御部11は、宇宙航行体100を生成された目標軌道上を航行させる(ステップS7)。具体的には、制御部11は、姿勢制御装置50を制御することによって宇宙航行体100の姿勢を制御して、宇宙航行体100に目標軌道上を航行させる。
【0048】
ここで、スペースデブリ200には摂動が生じる可能性があり、スペースデブリ200の実際の航行位置と、ステップS6で生成した目標軌道との間で誤差が生じる場合がある。そのため、制御部11は、宇宙航行体100が目標軌道上を航行している間、スペースデブリ200の摂動により目標軌道を再度生成する必要があるか否かを判定する必要がある。
【0049】
そこで、制御部11は、撮像装置40からスペースデブリ200の撮像画像を取得し(ステップS8)、取得した撮像画像を画像処理部12に画像処理させて(ステップS9)、第1ベクトルV1を取得する。ステップS8及びステップS9は、上述のステップS2及びステップS3と同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0050】
制御部11は、現時点の目標軌道生成時における第1ベクトルV1と、ステップS9において再取得した第1ベクトルV1とが一致するか否かを判定する(ステップS10)。現時点の目標軌道生成時における第1ベクトルV1とは、現時点の目標軌道を生成する際に軌道計画用平面Fを規定するために用いられた第1ベクトルV1を意味し、上述のステップS3において取得された第1ベクトルV1である。かかる第1ベクトルV1を「前回の第1ベクトルV11」とし、ステップS9において新たに取得された第1ベクトルV1を「今回の第1ベクトルV12」としたとき、スペースデブリ200に摂動が生じていなければ、前回の第1ベクトルV11と今回の第1ベクトルV12とが一致していることになる。これに対して、スペースデブリ200に摂動が生じていれば、前回の第1ベクトルV11を取得した時点における目標軌道上のスペースデブリ200の位置に対して、今回の第1ベクトルV12を取得した時点、すなわち現在のスペースデブリ200の位置がずれていることになる。この場合、現時点の目標軌道上で宇宙航行体100を航行させても、宇宙航行体100を目標位置に到達させることができない。それゆえ、本実施形態では、現時点の目標軌道が現在のスペースデブリ200の位置に対して適切であるか否かを判定するために、前回の第1ベクトルV11と今回の第1ベクトルV12とが一致するか否かを判定することとしている。第1ベクトルV11及びV12が一致しているか否かの判定は、互いの軸方向を対比させて行う。
【0051】
第1ベクトルV11及びV12が一致していないと判定された場合(ステップS10:NO)、新たに目標軌道を生成する必要がある。したがって、制御部11は、第1ベクトルV11及びV12が一致すると判定されるまでの間、上述のステップS6、S7、S8、S9及びS10を繰り返し実行する。この場合、ステップS10における前回の第1ベクトル11は、目標軌道を再生成したときに用いた第1ベクトル(すなわち、ステップS9で取得された第1ベクトル)である。これに対して、第1ベクトルV11及びV12が一致していると判定された場合(ステップS10:YES)には、第1ベクトルV11及びV12の方向にずれがないので、現時点の目標軌道は、現在のスペースデブリ200の位置から見て適切な軌道である。
【0052】
制御部11は、宇宙航行体100を航行させつつ、第1ベクトルV1側の位置においてアスペクト比が1であるか否かを判定する(ステップS11)。目標軌道として、例えば、
図6に示す、軌道計画用平面Fに含まれる円周上の円軌道を含む経路が作成された場合、宇宙航行体100は、かかる円周上を太線矢印により示される方向Nに周回する。位置P1で撮像装置40がスペースデブリ200を撮像すると、
図4Aに示す撮像画像Img1が得られ、上述のとおり、スペースデブリ200の二値化画像200aのアスペクト比は1ではない。宇宙航行体100が位置P1から位置P2に航行すると、撮像装置40はスペースデブリ200の側方からスペースデブリ200を撮像することになる。それゆえ、
図4Bに示す撮像画像Img2が得られ、上述のとおり、スペースデブリ200の二値化画像200aのアスペクト比は1ではない(短辺を基準とすれば最大値、長辺を基準とすれば最小値である)。宇宙航行体100が位置P2から位置P3に航行すると、位置P1の場合と同様に
図4Aに示す撮像画像Img1が得られる。宇宙航行体10が位置P4に位置すると、
図4Cに示す撮像画像Img3が得られ、スペースデブリ200の二値化画像200aのアスペクト比は実質的に1となる。なお、位置P4は、上述のとおり、スペースデブリ200の前方の位置であって、スペースデブリ200の第1ベクトルV1側の位置であり、PAF210の直上となる位置である。なお、宇宙航行体100が位置P5でスペースデブリ200を撮像すると、位置P4の場合と同様に、
図4Cに示す撮像画像Img3が得られ、スペースデブリ200の二値化画像200aのアスペクト比は実質的に1となる。しかし、位置P5は目標位置ではないので、ステップS11ではアスペクト比が1になるか否かに加えて、宇宙航行体100の位置が目標軌道上における第1ベクトルV1側であるか否かも判断している。
【0053】
ステップS11において第1ベクトルV1側の位置においてアスペクト比が1でないと判定された場合(ステップS11:NO)、第1ベクトルV1側の位置においてアスペクト比が1であると判定されるまで、上述のステップS7、S8、S9、S10及びS11が繰り返し実行される。このように、宇宙航行体100は、自身の航行軌道が現在の軌道でよいのか、あるいは、改めて軌道を生成すべきかを、継続的に監視しながら、ステップS7~ステップS11を繰り返している。
【0054】
他方、第1ベクトルV1側においてアスペクト比が1であると判定された場合には(ステップS11:YES)、制御部11は、宇宙航行体100が目標位置に到達したと判断して宇宙航行体100を相対停止させる(ステップS12)。ステップS12の実行後、制御部11は画像航法処理を終了して、スペースデブリ200の除去処理に移行する。
【0055】
なお、生成された目標軌道が
図7に示す経路R1のように、円軌道を含む経路であれば、制御部11は、アスペクト比が1になった後に、
図6に示す位置P4からスペースデブリ200のPAF210の前方に向かって接近する航行を実行した後、目標位置に到達したと判定してもよい。あるいは、目標軌道が
図7に示す軌道R2またはR3のように、円軌道の途中からショートカットしてPAF210に接近する場合には、アスペクト比が1になった時点で目標位置に到達したと判定してもよい。
【0056】
以上の構成により、デブリ重心、第1ベクトルV1、アスペクト比および第2ベクトルV2という容易に取得できるデータを用いることで、スペースデブリ200の姿勢を検出した上で目標軌道を生成することができる。それゆえ、情報処理量が過剰になることなく容易に、かつ正確に宇宙航行体100をスペースデブリ200に接近させることができる。また、地上局を介さずに宇宙航行体100単体で目標軌道を生成することが可能となり、スペースデブリ200の撮像画像を地上局に送信して地上局で目標軌道を生成する必要がなくなる。
【0057】
加えて、生成された目標軌道に基づいて宇宙航行体100を航行させる際には、第1ベクトルV1側の位置でスペースデブリ200の撮像画像のアスペクト比が1になる位置を到達目標とし、アスペクト比が1にならない場合には、改めて画像処理および目標軌道の生成を繰り返すフィードバック制御を行う。これにより、宇宙航行体100は地上局と通信しなくても、スペースデブリ200の目標位置まで自律的に航行させることができる。その結果、より正確な位置に宇宙航行体100を航行させることができる。
【0058】
また、軌道計画用平面Fがスペースデブリ200を中心とする円を含む面であれば、その円周上を目標軌道の一部とすることができる。そのため、スペースデブリ200を中心とする円軌道上で宇宙航行体100を周回航行させることができるので、スペースデブリ200の撮像画像のアスペクト比が1になる位置に到達するまで宇宙航行体100の周回航行を継続することができる。
【0059】
上述のステップS12において目標位置に到達したと判定されて宇宙航行体100が航行を相対停止したときに、その位置でアスペクト比が1からずれていれば、目標位置と宇宙航行体100との間に誤差が発生することになる。例えば、
図8に示すように、位置P2から矢印N1方向に宇宙航行体100が周回航行し、スペースデブリ200の前方の位置P4を目指したものの、少し行き過ぎて斜め前方の前側寄りの位置P6に至ったとする。このとき、宇宙航行体100は、矢印N1方向の周回航行を再開するのではなく、矢印N1方向とは反対側の矢印N2方向に周回航行してもよい。
【0060】
このように、宇宙航行体100は、アスペクト比が1からずれた位置P6から、アスペクト比が1になる位置P4に収束するように、周回航行を再開すればよい。これにより、宇宙航行体100は、周回航行を一度相対停止しても、アスペクト比に基づいて周回航行を再開し、目標位置に相対停止するための動作を再チャレンジすることができる。
【0061】
なお、本実施形態では、制御部11は、第1ベクトルV1側の位置でアスペクト比が1になるように、宇宙航行体100を航行させているが、本開示はこれに限定されない。制御部11は、第1ベクトルV1およびアスペクト比に基づいて宇宙航行体100が目標軌道上の目標位置に到達したことを判定する構成であればよい。例えば、制御部11は、第1ベクトルV1側の位置でのアスペクト比の航行中の変化が極小を示す位置に達するまで姿勢制御装置50を動作させて宇宙航行体100を目標軌道上で航行させてもよい。このとき、アスペクト比の変化の極小を所定の数値範囲に設定し、アスペクト比がこの数値範囲に入ったときに、実質的にアスペクト比が1であると判定してもよい。あるいは、制御部11は、第1ベクトルV1を基準として、スペースデブリ200の二値化画像200aのアスペクト比が所定の数値範囲に入る場合に、宇宙航行体100が目標位置に到達したと判定してもよい。なお、アスペクト比は0.5であってもよい。
【0062】
[スペースデブリの除去]
宇宙航行体100が目標位置に到達し、
図2Aに示すように、スペースデブリ200のPAF210に対向した状態で固定域(固定装置20による固定動作が可能な距離、例えば、スペースデブリ200まで1.5メートル程度)まで到達すると、スペースデブリ200を捕獲する処理が実行される。具体的には、制御部11は、固定装置20による除去装置30の固定動作を開始させる。固定装置20の伸展部21が伸展し、これにより係合部22がPAF210の開口230内に挿入される。その後、係合部22は、開口230から脱離しないでPAF210内に係合され、その結果、除去装置30は固定装置20を介してスペースデブリ200のPAF210に固定される。
【0063】
宇宙航行体100がスペースデブリ200を捕獲すると、
図9Aに示すように、宇宙航行体100は、スペースデブリ200から離脱する方向に航行する。これに伴い、除去装置30内に収容されていたEDT31がリールから引き出される。
図9Bに示すように、除去装置30および固定装置20は宇宙航行体100から分離するとともに、宇宙航行体100はスペースデブリ200の周回軌道から離脱する。宇宙航行体100が離脱した後も、除去装置30は、スペースデブリ200から離れる方向に航行を続けるため、
図9Cに示すように、除去装置30からのEDT31の繰り出しが継続し、EDT31が大きく延伸する。EDT31は、最終的には数キロメートル(例えば5キロメートルから10キロメートル)まで延伸する。その後、EDT31の作用によってスペースデブリ200の推進速度が低減し、地球周回軌道からデオービットされ、スペースデブリ200は大気圏に突入して燃え尽きる。
【0064】
[変形例1]
図10に示すスペースデブリ除去システム500は、宇宙航行体100aと、管理センタ300とを備える。スペースデブリ除去システム500では、宇宙航行体100aと管理センタ300とが通信を行い、管理センタ300が宇宙航行体100aの管理を行う。宇宙航行体100aは、管理センタ300と通信する衛星通信部60を追加して備える点において、実施形態の宇宙航行体100と異なる。宇宙航行体100aのその他の構成は、宇宙航行体100の構成と同じであるので、同一の構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。管理センタ300は、地上局であり、宇宙航行体100aと通信する地上通信装置310と、宇宙航行体100aを管理する地上管理装置320とを備える。
【0065】
スペースデブリ除去システム500では、例えば、遠距離域および中距離域での宇宙航行体100aの航行を地上管理装置320が制御してもよい。また、例えば、宇宙航行体100aが近距離域まで接近したときに、
図3に示す画像航法処理の開始を地上管理装置320から制御部11に対して指示してもよい。あるいは、例えば
図3に例示する画像航法処理において、必要に応じて地上管理装置320による管理制御のステップが含まれていてもよい。地上管理装置320によって制御が管理されるステップとしては、例えば、宇宙航行体100aが目標軌道を周回航行する際の周回方向が挙げられる。具体的には、宇宙航行体100aの初期位置が
図8に示す位置P2である場合に、矢印N1方向に周回航行させるのか、矢印N1方向とは反対方向である矢印N2方向に周回航行させるかを、地上から指示してもよい。また、例えば、固定装置20による除去装置30の固定動作の開始を地上管理装置320から制御部11に対して指示してもよい。また、例えば、除去装置30がスペースデブリ200のPAF210に固定された後におけるスペースデブリ200から離脱する方向への宇宙航行体100aの航行を、地上管理装置320が制御してもよい。
【0066】
[変形例2]
上記形態において、宇宙航行体100、100aは、スペースデブリ200を捕獲する人工衛星であったが、本開示はこれに限定されない。例えば、宇宙航行体100、100aは、人工衛星に推進薬を補充するための人工衛星であってもよい。この場合、宇宙航行体100、100aの目標位置は、推進薬補給の挿入口の直上としてもよく、また、除去装置30が固定される位置は、薬液補給の挿入口であってよい。
【0067】
[変形例3]
上記形態において、撮像装置40は、二値化画像を画像処理部12に出力していたが、本開示はこれに限定されない。例えば、撮像装置40から出力される画像は、モノクロ多階調画像またはカラー画像であってもよい。この場合、撮像装置40から取得した画像を画像処理部12が二値化してもよい。
【0068】
[変形例4]
上記形態において、固定装置20によるスペースデブリ200の固定部位は限定されない。例えば、固定装置20は、スペースデブリ200に銛を打ち込んで固定する構成であってもよい。また、例えば、固定装置20は、スペースデブリ200を投網で包みとる構成であってもよいし、ロボットアームでスペースデブリ200の一部を把持する構成等の他の任意の構成であってもよい。
【0069】
[変形例5]
上記実施形態では、撮像画像を取得可能であると判定された場合に撮像画像を取得していたが、本開示はこれに限定されない。例えば、撮像装置40は常時撮影を行っており、画像処理部12に入力される撮像画像が二値化画像でない場合には、画像処理部12において画像処理を行うことによってスペースデブリ200を検出してもよい。
【0070】
以上説明した本開示の一実施形態に係る制御装置は、宇宙航行体に搭載される制御装置であって、非協力対象物の撮像画像を画像処理することによって、前記非協力対象物の重心位置と、前記重心位置を通り前記非協力対象物の長手方向と平行なベクトルであって前記宇宙航行体を前記非協力対象物に接近させるべき方向のベクトル成分を有する第1ベクトルとを取得する画像処理部と、前記宇宙航行体が前記非協力対象物に接近航行するための目標軌道を生成する軌道生成部と、前記宇宙航行体の姿勢を制御することによって、前記宇宙航行体を前記目標軌道上で航行させる制御部と、を備え、前記軌道生成部は、前記第1ベクトルと、前記撮像画像の撮像方向のベクトルである第2ベクトルとにより規定される平面において前記目標軌道を生成する。
【0071】
上記形態の制御装置によれば、非協力対象物の重心位置を通り非協力対象物の長手方向と平行なベクトルであって宇宙航行体を非協力対象物に接近させるべき方向のベクトル成分を有する第1ベクトルと、撮像画像の撮像方向のベクトルである第2ベクトルとにより規定される平面において目標軌道を生成するので、地上局を介さずに目標軌道を生成できる。したがって、地上局を介して目標軌道を生成する構成に比べて、情報処理量が増加することを抑制できる。
【0072】
上記形態の制御装置において、前記画像処理部は、前記宇宙航行体が前記目標軌道上を航行している間における前記非協力対象物の撮像画像から前記第1ベクトルおよび前記撮像画像中の前記非協力対象物のアスペクト比を取得し、前記制御部は、取得された前記第1ベクトルおよび前記アスペクト比に基づいて、前記宇宙航行体が前記目標軌道上の目標位置に到達したか否かを判定してもよい。この形態の制御装置によれば、宇宙航行体が目標軌道を航行中にも、第1ベクトルおよびアスペクト比の情報を得て宇宙航行体が目標位置に到達したことを判定するので、地上局と通信しなくても、非協力対象物に対して望ましい位置にあるか否かを自律的に判断できる。
【0073】
上記形態の制御装置において、前記画像処理部は、前記宇宙航行体が前記目標軌道上を航行している間における前記非協力対象物の撮像画像中の前記非協力対象物のアスペクト比を繰り返し取得し、前記制御部は、取得された前記アスペクト比が1になるまでの間、前記目標軌道における前記接近させるべき方向側において前記宇宙航行体の姿勢を変化させて前記目標軌道を航行させてもよい。この形態の制御装置によれば、アスペクト比が1になるまでの間、宇宙航行体を非協力対象物に接近させるべき方向側において宇宙航行体の姿勢を変化させつつ目標軌道で宇宙航行体を航行させる。すなわち、第1ベクトル側でアスペクト比が1にならない場合には、改めて画像処理および目標軌道の生成を繰り返すフィードバックを行うことができる。それゆえ、地上局と通信しなくても目標位置に対して宇宙航行体を自律的に航行させることができる。
【0074】
上記形態の制御装置において、前記制御部は、前記目標軌道を生成する際に用いられた前記第1ベクトルと、前記宇宙航行体が前記目標軌道を航行中に前記画像処理部により新たに取得された前記第1ベクトルとが一致しない場合、少なくとも、前記目標軌道の生成と、生成された前記目標軌道上の航行を繰り返してもよい。
【0075】
上記形態の制御装置において、前記撮像画像は二値化画像であってもよい。
【0076】
上記形態の制御装置において、前記目標軌道は、前記非協力対象物を中心とする円軌道を含む経路であり、前記制御部は、前記姿勢制御部を制御することによって、前記宇宙航行体を前記円軌道上で周回航行させてもよい。
【0077】
上記形態の制御装置において、前記画像処理部は、前記非協力対象物における長手方向の非対称性に基づいて、前記第1を算出してもよい。
【0078】
本開示の他の実施形態に係る宇宙航行体は、上記いずれかの形態の制御装置と、前記非協力対象物を除去する除去装置と、前記除去装置を前記非協力対象物に固定する固定装置と、を備えていてもよい。
【0079】
上記形態の宇宙航行体において、進行方向前方に向かって伸展する伸展部と、前記伸展部における前記進行方向前報の端部に取り付けられ、前記非協力対象物の端部に設けられているPAFの開口部に係合する係合部と、を備えていてもよい。
【0080】
上記形態の宇宙航行体において、前記除去装置は、EDTを備えていてもよい。
【0081】
上記形態の宇宙航行体において、前記宇宙航行体の姿勢を制御する装置として、スラスタと、リアクションホイールとのうちの少なくとも一方を備えていてもよい。
【0082】
本開示の他の実施形態に係るコンピュータプログラムは、非協力対象物の撮像画像を画像処理することによって、前記非協力対象物の重心位置を通り前記非協力対象物の長手方向と平行なベクトルであって前記宇宙航行体を前記非協力対象物に接近させるべき方向のベクトル成分を有する第1ベクトルとを取得する機能と、前記宇宙航行体が前記非協力対象物に接近航行するための目標軌道を生成する機能と、前記宇宙航行体の姿勢を制御することによって、前記宇宙航行体を前記目標軌道上で航行させる機能と、をコンピュータに実現させ、前記目標軌道を生成する機能は、前記第1ベクトルと、前記撮像画像の撮像方向のベクトルである第2ベクトルとにより規定される平面において前記目標軌道を生成する機能を含んでいてもよい。
【0083】
本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットはハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0084】
なお、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0085】
また、上記説明から、当業者にとっては、本開示の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本開示を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本開示の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【符号の説明】
【0086】
100、100a:宇宙航行体
10:制御装置
11:制御部
12:画像処理部
13:軌道生成部
40:撮像装置
50:姿勢制御装置
51:スラスタ
52:リアクションホイール
20:固定装置
21:伸展部
22:係合部
30:除去装置
31:EDT
200:スペースデブリ
210:PAF
220:本体部
230:開口部
500:スペースデブリ除去システム
60:衛星通信部
300:管理センタ
310:地上通信装置
320:地上管理装置
Img1,Img2,Img3,Img4,Img5:撮像画像
200a:スペースデブリの二値化画像
D1:撮像方向
D2:重心方向
D3:回転方向
FP,FPa:重心
V1:第1ベクトル
V2:第2ベクトル
F:軌道計画用平面
P1,P2,P3,P4,P5,P6:位置
N,N1,N2:方向
R1:経路
R2,R3:軌道