(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】潤滑剤封止構造、波動歯車装置およびアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F16J 15/447 20060101AFI20230919BHJP
F16H 57/029 20120101ALI20230919BHJP
【FI】
F16J15/447
F16H57/029
(21)【出願番号】P 2022528380
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2020022359
(87)【国際公開番号】W WO2021245920
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】折井 大介
(72)【発明者】
【氏名】小林 修平
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-226459(JP,A)
【文献】特開2015-193922(JP,A)
【文献】特開2012-117671(JP,A)
【文献】特開2007-333054(JP,A)
【文献】特開2019-094997(JP,A)
【文献】特開2006-144971(JP,A)
【文献】国際公開第2018/189798(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/447
F16H 57/029
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線回りに相対的に回転する第1部材および第2部材を備えた装置における前記第1、第2部材の間の隙間部分を通って、潤滑剤が、装置内部から漏れ出ることを防止する潤滑剤封止構造であって、
前記隙間部分を封止するラビリンスシールを備えており、
前記ラビリンスシールは、相互に対峙する前記第1部材の側の第1表面部分と前記第2部材の側の第2表面部分との間に形成されており、
前記第1表面部分および前記第2表面部分には、それぞれ、前記潤滑剤に対する撥油性を備えた撥油面が形成されており、
前記第1表面部分に繋がる前記潤滑剤の漏出方向の上流側の第1上流側表面部分、および、前記第2表面部分に繋がる前記漏出方向の上流側の第2上流側表面部分のうちの少なくとも一方には、前記撥油性を備えた上流側撥油面が形成されており、
前記撥油面および前記上流側撥油面のそれぞれは、微細溝が所定の溝配列パターンで形成された表面テクスチャを備えており、
前記微細溝は、数マイクロメートルから数十ナノメートルの溝幅および溝深さを備えており、
前記溝配列パターンは、前記微細溝が、数マイクロメートルから数十ナノメートルの溝間隔で配列されたパターンで
あり、
前記ラビリンスシールは、第1隙間寸法の第1隙間部分を備えており、
前記第1隙間部分における前記漏出方向の途中の部位には、前記第1隙間寸法よりも大きな第2隙間寸法の油溜まりが形成されている潤滑剤封止構造。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑剤封止構造において、
前記溝配列パターンは、
前記微細溝が、前記溝間隔で、前記装置の中心軸線に沿った方向に、直線状、曲線状あるいは波状に延びる配列パターン、
前記微細溝が、前記溝間隔で、前記中心軸線を中心とする円周方向に、直線状、曲線状あるいは波状に延びる配列パターン、
前記微細溝が、前記溝間隔で、前記中心軸線に沿った方向に対して傾斜した方向に、直線状、曲線状あるいは波形状に延びる配列パターン、
前記微細溝が、前記溝間隔で、螺旋状に延びる配列パターン、および、
前記微細溝が、前記溝間隔で、網目状に形成された配列パターン
のうちの少なくともいずれか一つである潤滑剤封止構造。
【請求項3】
請求項1に記載の潤滑剤封止構造において、
前記油溜まりには、多孔質素材からなる油吸収体が装着されている潤滑剤封止構造。
【請求項4】
請求項1に記載の潤滑剤封止構造において、
前記油溜まりを規定している前記第1表面部分の部位および前記第2表面部分の部位には、前記潤滑剤に対する親油性を備えた親油面が形成されている潤滑剤封止構造。
【請求項5】
入力軸と、
前記入力軸の回転を減速して出力する波動歯車機構と、
前記入力軸を、ベアリングを介して、回転自在の状態で支持している装置ハウジングと、
第1部材である前記装置ハウジングと、第2部材である前記入力軸との間に形成される隙間部分を通って、潤滑剤が、装置内部から外部に漏れ出ることを防止するために配置されてい
る潤滑剤封止構造と、
を備えて
おり、
前記潤滑剤封止構造は、
前記隙間部分を封止するラビリンスシールを備えており、
前記ラビリンスシールは、相互に対峙する前記装置ハウジングの側の第1表面部分と前記入力軸の側の第2表面部分との間に形成されており、
前記第1表面部分および前記第2表面部分には、それぞれ、前記潤滑剤に対する撥油性を備えた撥油面が形成されており、
前記第1表面部分に繋がる前記潤滑剤の漏出方向の上流側の第1上流側表面部分、および、前記第2表面部分に繋がる前記漏出方向の上流側の第2上流側表面部分のうちの少なくとも一方には、前記撥油性を備えた上流側撥油面が形成されており、
前記撥油面および前記上流側撥油面のそれぞれは、微細溝が所定の溝配列パターンで形成された表面テクスチャを備えており、
前記微細溝は、数マイクロメートルから数十ナノメートルの溝幅および溝深さを備えており、
前記溝配列パターンは、前記微細溝が、数マイクロメートルから数十ナノメートルの溝間隔で配列されたパターンであることを特徴とする波動歯車装置。
【請求項6】
モータと、
前記モータに同軸に連結した入力軸、入力軸の回転を減速する波動歯車減速機構および減速回転を出力する出力軸を備えた波動歯車装置と、
第1部材である前記出力軸と、第2部材である前記入力軸との間に形成される隙間部分を通って、潤滑剤が、前記波動歯車装置の装置内部から外部に漏れ出ることを防止するために配置されてい
る潤滑剤封止構造と、
を備えて
おり、
前記潤滑剤封止構造は、
前記隙間部分を封止するラビリンスシールを備えており、
前記ラビリンスシールは、相互に対峙する前記出力軸の側の第1表面部分と前記入力軸の側の第2表面部分との間に形成されており、
前記第1表面部分および前記第2表面部分には、それぞれ、前記潤滑剤に対する撥油性を備えた撥油面が形成されており、
前記第1表面部分に繋がる前記潤滑剤の漏出方向の上流側の第1上流側表面部分、および、前記第2表面部分に繋がる前記漏出方向の上流側の第2上流側表面部分のうちの少なくとも一方には、前記撥油性を備えた上流側撥油面が形成されており、
前記撥油面および前記上流側撥油面のそれぞれは、微細溝が所定の溝配列パターンで形成された表面テクスチャを備えており、
前記微細溝は、数マイクロメートルから数十ナノメートルの溝幅および溝深さを備えており、
前記溝配列パターンは、前記微細溝が、数マイクロメートルから数十ナノメートルの溝間隔で配列されたパターンであることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項7】
モータと、
前記モータの前端に設けた取付けフランジに同軸に取り付けた波動歯車装置と、
前記取付けフランジを貫通して前記波動歯車装置の内部に延びるモータ軸と、
前記波動歯車装置の内部において前記モータ軸の先端部に同軸に連結されている入力軸と、
第1部材である前記取付けフランジと、第2部材である前記モータ軸および前記入力軸との間に形成される隙間部分を通って、潤滑剤が、前記波動歯車装置から前記モータの内部に漏れ出ることを防止するために配置されてい
る潤滑剤封止構造と、
を備えて
おり、
前記潤滑剤封止構造は、
前記隙間部分を封止するラビリンスシールを備えており、
前記ラビリンスシールは、相互に対峙する前記取付けフランジの側の第1表面部分と前記モータ軸および前記入力軸の側の第2表面部分との間に形成されており、
前記第1表面部分および前記第2表面部分には、それぞれ、前記潤滑剤に対する撥油性を備えた撥油面が形成されており、
前記第1表面部分に繋がる前記潤滑剤の漏出方向の上流側の第1上流側表面部分、および、前記第2表面部分に繋がる前記漏出方向の上流側の第2上流側表面部分のうちの少なくとも一方には、前記撥油性を備えた上流側撥油面が形成されており、
前記撥油面および前記上流側撥油面のそれぞれは、微細溝が所定の溝配列パターンで形成された表面テクスチャを備えており、
前記微細溝は、数マイクロメートルから数十ナノメートルの溝幅および溝深さを備えており、
前記溝配列パターンは、前記微細溝が、数マイクロメートルから数十ナノメートルの溝間隔で配列されたパターンであることを特徴とするアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波動歯車装置、波動歯車装置およびモータを備えたアクチュエータ、その他の機械装置に用いる潤滑剤封止構造に関する。更に詳しくは、相対回転する第1部材および第2部材の間を通って、潤滑剤が、装置の内部から外部に漏れ出ることを防止する潤滑剤封止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置等の歯車装置においては、入力軸、出力軸等の回転側部材が、軸受を介して、装置ハウジング等の固定側の部材によって支持される。回転側部材と固定側部材の間には隙間が形成される。装置内部に充填されるオイル、グリース等の潤滑剤が、隙間を通って装置内の他の部位あるいは装置の外に漏れ出ることを防止するために、一般にオイルシールによって隙間が封止される。
【0003】
特許文献1(特開2006-258234号公報)には、オイルシールのシール性を高めた潤滑剤封止構造が提案されている。この潤滑剤封止構造では、オイルシールによる回転部材のシール部分に、潤滑剤に対して撥油性を有するフッ素系グリースを塗布して、シール性を高めている。
【0004】
オイルシールの代わりに、ラビリンスシールを用いた潤滑剤封止構造も知られている。特許文献2(特開2007-333054号公報)には、固定側部材と回転側部材との間に形成したラビリンス隙間と、ラビリンス隙間を形成している表面に撥油撥水材をコーティングして形成した撥油撥水面とを備えたロール軸受装置が提案されている。特許文献3(特開2017-9085号公報)には、鉄道車両用歯車装置のケーシングと車軸との間に組み込まれた、撥油処理面によって規定されるラビリンス流路を備えた非接触式シール装置が提案されている。
【0005】
ここで、摺動面等の表面改質技術として、対象となる表面に微細溝等を加工する表面テクスチャリングが知られている。特許文献4(特開2017-214996号公報)には、フェムト秒レーザーを用いた表面加工により、摺動面に微細なグレーティング状凹凸の周期構造を形成し、潤滑不足による摩擦増加、焼き付けを防止することが提案されている。また、特許文献5(特許第5465109号公報)には、レーザー加工により、二部材の間の摺動面に潤滑流体を介在させると共に、摺動面に微小溝を形成することで、高い摩擦低減効果を与えることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-258234号公報
【文献】特開2007-333054号公報
【文献】特開2017-9085号公報
【文献】特開2017-214996号公報
【文献】特許第5465109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、微細溝加工(表面テクスチャリング)を利用して、相対回転する第1、第2部材の間の隙間部分を通って潤滑剤が漏れ出ることを確実に防止できるようにした潤滑剤封止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、中心軸線回りに相対的に回転する第1部材および第2部材を備えた装置における前記第1、第2部材の間の隙間を通って、潤滑剤が、装置内部から漏れ出ることを防止する潤滑剤封止構造において、
前記隙間を封止するラビリンスシールを備えており、
前記ラビリンスシールは、相互に対峙する前記第1部材の側の第1表面部分と前記第2部材の側の第2表面部分との間に形成されており、
前記第1表面部分および前記第2表面部分には、それぞれ、前記潤滑剤に対する撥油性を備えた撥油面が形成されており、
前記第1表面部分に繋がる前記潤滑剤の漏出方向の上流側の第1上流側表面部分、および、前記第2表面部分に繋がる前記漏出方向の上流側の第2上流側表面部分のうちの少なくとも一方には、前記撥油性を備えた上流側撥油面が形成されており、
前記撥油面および前記上流側撥油面のそれぞれは、微細溝が所定の溝配列パターンで形成された表面テクスチャを備えており、
前記微細溝は、数マイクロメートルから数十ナノメートルの溝幅および溝深さを備えており、
前記溝配列パターンは、前記微細溝が、数マイクロメートルから数十ナノメートルの溝間隔で配列されたパターンであることを特徴としている。
【0009】
本発明の潤滑剤封止構造においては、第1、第2部材の間の隙間を封止しているラビリンスシールを形成している第1、第2表面部分に、微細溝の溝配列パターンを施した撥油面が形成されている。また、ラビリンスシールよりも潤滑剤の漏出方向の上流側に位置する第1、第2上流側表面部分にも、上流側撥油面が形成されている。隙間を通って漏れ出す潤滑剤は、上流側撥油面によってはじかれて球状に変形する。ラビリンスシールの隙間寸法を球状の潤滑剤の大きさ(直径)よりも小さくしておくことで、潤滑剤がラビリンスシールを規定している隙間に流れ込むことが抑制される。また、ラビリンスシールは、撥油面によって規定されているので、ラビリンスシールに流れ込んだ潤滑剤の流れが抑制される。
【0010】
本発明の潤滑剤封止構造では、微細溝加工による表面テクスチャリングを施すことによって形成した上流側撥油面による撥油効果、ラビリンスシールによるシール効果、およびラビリンスシールを規定している撥油面による撥油効果が相乗されて、優れたシール性が得られ、また、シール性が維持される。これにより、装置内部の潤滑剤封入部分から装置外部等に潤滑剤が漏れ出ることが確実に阻止される。
【0011】
ここで、部材表面に、撥油性を与えるための溝配列パターンとしては、次の配列パターン(1)~(5)のいずれか一つを採用することができる。また、これらの配列パターンのうちから選択した複数の配列パターンを組み合わせた複合配列パターンを採用することもできる。
(1)前記微細溝が、前記溝間隔で、前記装置の中心軸線に沿った方向に、直線状、曲線状あるいは波状に延びる配列パターン
(2)前記微細溝が、前記溝間隔で、前記中心軸線を中心とする円周方向に、直線状、曲線状あるいは波状に延びる配列パターン
(3)前記微細溝が、前記溝間隔で、前記中心軸線に沿った方向に対して傾斜した方向に、直線状、曲線状あるいは波形状に延びる配列パターン
(4)前記微細溝が、前記溝間隔で、螺旋状に延びる配列パターン
(5)前記微細溝が、前記溝間隔で、網目状に形成された配列パターン
【0012】
本発明の潤滑剤封止構造において、ラビリンスシールを構成している隙間部分の一部に、大きな隙間寸法の油溜まりを形成することができる。ラビリンスシールの隙間部分に侵入した潤滑剤を、油溜まりに捕捉することで、潤滑剤の漏出を確実に防止できる。
【0013】
この場合、油溜まりに、不織布等の多孔質素材からなる油吸収体を装着しておくことができる。潤滑剤が油溜まりから下流側に流れ出ることを確実に防止できる。
【0014】
また、油溜まりの内周面部分を、潤滑剤に対する親油性を備えた親油面にしておくことができる。これにより、油溜まりに溜まった潤滑剤が下流側に漏れ出ることを効果的に防止できる。
【0015】
一方、ラビリンスシールを構成している隙間部分の一部に、潤滑材の漏出方向に向かって隙間寸法が漸減している隙間部分を形成することができる。例えば、クサビ形断面の隙間部分を形成しておくことができる。この隙間部分の隙間寸法を適切に設定しておくことで、この隙間部分において潤滑剤が補足されやすくなり、下流側に潤滑剤が漏れ出ることを効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】本発明の潤滑剤封止構造を備えた波動歯車装置を示す概略縦断面図である。
【
図1B】
図1Aの波動歯車装置における潤滑剤封止構造が組み込まれている部位1Bを示す説明図である。
【
図1C】
図1Aの波動歯車装置における潤滑剤封止構造が組み込まれている部位1Cを示す説明図である。
【
図1D】
図1Aの波動歯車装置における潤滑剤封止構造が組み込まれている部位1Dを示す説明図である。
【
図1E】
図1Bに示す潤滑剤封止構造の改変例を示す説明図である。
【
図2A】本発明の潤滑剤封止構造を備えたアクチュエータを示す概略縦断面図である。
【
図2B】
図2Aのアクチュエータにおける潤滑剤封止構造が組み込まれている部位2Bを示す説明図である。
【
図2C】
図2Aのアクチュエータにおける潤滑剤封止構造が組み込まれている部位2Cを示す説明図である。
【
図2D】
図2Aのアクチュエータにおける潤滑剤封止構造が組み込まれている部位2Dを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照して本発明を適用した潤滑剤封止構造の実施の形態を説明する。以下の実施の形態は、本発明の潤滑剤封止構造を、波動歯車装置、および、波動歯車装置とモータとを備えたアクチュエータに適用した場合である。本発明は、波動歯車装置以外の歯車式減速機などの回転伝達装置にも同様に適用可能である。
【0018】
[実施の形態1]
図1Aは、本発明の実施の形態1に係る波動歯車装置を示す概略縦断面図である。波動歯車装置1は、中心軸線1aの方向に所定の間隔で対峙する円盤状の端板2および端板3と、これらの端板2、3の中心部分を同軸状態に貫通して延びている中空入力軸4と、端板2、3の間において中空入力軸4を同軸に取り囲む状態に組み込まれた波動歯車機構5とを備えている。中空入力軸4は、ボールベアリング6、7を介して、端板2、3によって回転自在の状態に支持されている。波動歯車機構5は、円環形状をした剛性の内歯歯車8と、シルクハット形状をした弾性の外歯歯車9と、楕円状輪郭の波動発生器10と、内歯歯車8および外歯歯車9を相対回転自在の状態で支持しているクロスローラベアリング11とを備えている。
【0019】
外歯歯車9は、外歯9aが形成されている可撓性の円筒状胴部9bと、円筒状胴部9bの端から半径方向の外方に広がっている円盤状のダイヤフラム9cと、ダイヤフラム9cの外周縁部分に一体形成した円環状の剛性のボス9dとを備えている。外歯9aが形成されている円筒状胴部9bの開口端の側の部分が、内歯歯車8の内側に同軸に配置されている。円筒状胴部9bの開口端の側の部分の内側には、同軸に波動発生器10が嵌め込まれている。波動発生器10は、中空入力軸4の外周面部分に一体形成したプラグ部10aと、このプラグ部10aの楕円状外周面に装着したウエーブベアリング10bとを備えている。波動発生器10によって、外歯歯車9の円筒状胴部9bは楕円状に撓められて、その長軸の両端に位置する外歯9aの部分が内歯歯車8の内歯8aにかみ合っている。
【0020】
外歯歯車9のボス9dは、中心軸線1aの方向の両側から端板2とクロスローラベアリング11の外輪12との間に挟まれており、この状態で、三部材が締結固定されている。内歯歯車8は、中心軸線1aの方向の両側から、端板3とクロスローラベアリング11の内輪13との間に挟まれており、この状態で、三部材が締結固定されている。
【0021】
中空入力軸4は、モータ等に連結される回転入力部材である。中空入力軸4が回転すると、それと一体となって波動発生器10が回転して、外歯歯車9の内歯歯車8に対するかみ合い位置が円周方向に移動する。両歯車8、9の間には、それらの歯数差に応じた相対回転が発生する。例えば、外歯歯車9が締結されている端板2が固定側部材とされ、内歯歯車8が締結されている端板3が回転出力部材とされ、端板3から相対回転(減速回転)が出力される。
【0022】
波動歯車装置1の装置内部の潤滑部分には、外歯歯車9と内歯歯車8のかみ合い部分、外歯歯車9と波動発生器10の接触部分、波動発生器10のウエーブベアリング10b、クロスローラベアリング11の摺動部、ボールベアリング6、7の摺動部などがある。波動歯車装置1には、これらの部分に封入あるいは塗布されている潤滑剤が装置内部から外部に漏れ出ることを防止するための潤滑剤封止構造が組み込まれている。本例の波動歯車装置1は、ラビリンスシール20を備えた潤滑剤封止構造が組み込まれている部位1B、ラビリンスシール30を備えた潤滑剤封止構造が組み込まれている部位1C、およびラビリンスシール40を備えた潤滑剤封止構造が組み込まれている部位1Dを備えている。
【0023】
部位1Bのラビリンスシール20を備えた潤滑剤封止構造は、端板2と、中空入力軸4の一方の軸端部4aとの間を封止しており、端板2、3の間における外歯歯車9と中空入力軸4との間の潤滑剤封入部分26およびボールベアリング6の部分から、装置外部に潤滑剤が漏れ出ることを防止する。部位1Cのラビリンスシール30を備えた潤滑剤封止構造は、端板3と、中空入力軸4の他方の軸端部4bとの間を封止しており、潤滑剤封入部分26およびボールベアリング7の部分から、装置外部に潤滑剤が漏れ出ることを防止する。部位1Dのラビリンスシール40を備えた潤滑剤封止構造は、クロスローラベアリング11の外輪12と内輪13の間を封止しており、外歯歯車9とクロスローラベアリング11と内歯歯車の間に形成される潤滑剤封入部分46およびクロスローラベアリング11の部分から、装置外部に潤滑剤が漏れ出ることを防止する。
【0024】
(部位1Bの潤滑剤封止構造)
図1Bは、端板2と中空入力軸4の軸端部4aとの間を封止しているラビリンスシール20を備えた潤滑剤封止構造を示す説明図である。中空入力軸4の一方の軸端部4aは、ボールベアリング6を介して、端板2に対して回転自在に支持されている。端板2の中心部分を通って、中空入力軸4の軸端部4aが装置外部に突出している。端板2と中空入力軸4の軸端部4aとの間には、ボールベアリング6の側(潤滑剤封入部分26の側)から装置外部に連通する隙間が形成される。この隙間は、ラビリンスシール20によって封止されている。
【0025】
端板2と中空入力軸4の軸端部4aとの間の隙間には、円環状部材22が装着されている。円環状部材22は、中空入力軸4の軸端部4aの外周面部分4cに圧入固定されている。円環状部材22にアキシャル方向から対峙するように、端板2の内周面には内方に突出した円環状突部2aが形成されている。ラビリンスシール20は、端板2の円環状突部2aの側の表面部分2bと、これに対峙する中空入力軸4の円環状部材22の側の表面部分22aとの間に形成されている。
【0026】
本例のラビリンスシール20はアキシャルラビリンスシールであり、潤滑剤の漏出方向の上流側から下流側に向けて、アキシャル方向に延びる隙間部分21a、21c、21eと、ラジアル方向に延びる隙間部分21b、21dとが交互に形成されている。また、隙間部分21a~21eは、上流側の隙間部分に対して下流側の隙間部分の方が狭い隙間部分となっている。さらに、ラビリンスシール20の最も上流側の隙間部分21aは、そのラジアル方向の隙間寸法が、以下に説明する撥油面によってはじかれて球状化する潤滑剤の粒の径よりも小さい値に設定されている。
【0027】
各隙間部分21a~21eを形成している端板2の側の表面部分2bには、潤滑剤に対する撥油性を備えた撥油面が形成されている。
図1Bにおいては、表面部分2bにおける撥油面が形成されている領域をドット模様で示してある。また、端板2の側の表面部分2bに対峙している円環状部材22の表面部分22a、および、中空入力軸4の外周面部分4dにも撥油面が形成されている。表面部分22a、外周面部分4dにおける撥油面が形成されている領域も、ドット模様で示してある。中空入力軸4の軸端部4aにおいては、隙間部分21aを形成する外周面部分4dだけでなく、外周面部分4dからボールベアリング6の外輪装着部位までの外周面部分4d1(上流側表面部分)にも撥油面(上流側撥油面)が形成されている。
【0028】
本例の撥油面は、封入されている潤滑剤に対する撥油性が得られるように、微細溝が所定の溝配列パターンで形成された表面テクスチャを備えている。微細溝は、数マイクロメートルから数十ナノメートルの溝幅および溝深さを備えており、溝配列パターンは、微細溝が、数マイクロメートルから数十ナノメートルの溝間隔で配列されたパターンである。例えば、中空入力軸4の外周面部分4dの撥油面を形成している微細溝25は、
図1Bにおいて模式的に示すように、円周方向に延びる溝であり、中心軸線1aの方向に一定の間隔で配列されている。
【0029】
ここで、撥油面を形成している微細溝25の溝配列パターンとして、各種の溝配列パターンを採用できる。例えば、中心軸線1aに沿った方向に、直線状、曲線状あるいは波状に延びる微細溝25が円周方向に一定の間隔で形成された溝配列パターンを用いることができる。中心軸線1aを中心とする円周方向に、直線状、曲線状あるいは波状に延びる微細溝25が、中心軸線1aの方向に一定の間隔で形成された溝配列パターンでもよい。中心軸線1aに沿った方向に対して傾斜した方向に、直線状、曲線状あるいは波形状に延びる微細溝25から構成される溝配列パターンにすることもできる。また、中心軸線1aの方向に一定のピッチで螺旋状に延びている微細溝25から構成される溝配列パターンとすることもできる。さらに、中心軸線1aの方向に延びる微細溝25と、円周方向に延びる微細溝25とが交差する網目状の溝配列パターンとすることもできる。さらには、これらの溝配列パターンを重ね合わせた構成の溝配列パターンとすることもできる。
【0030】
以上説明したように、中空入力軸4と端板2の間はラビリンスシール20によって封止されており、潤滑剤が装置外部に漏出することが防止される。また、ラビリンスシール20を構成している隙間部分21a~21eは撥油面によって規定されているので、ラビリンスシール20に侵入した潤滑剤が装置外部に向けて流れ出ることが効果的に防止される。さらに、中空入力軸4の外周面部分4d1も撥油面(上流側撥油面)となっている。ボールベアリング6の側からラビリンスシール20に流れ込む潤滑剤は、この撥油面によってはじかれ、ラビリンスシール20の隙間部分21aに侵入する手前で、球状の粒に変形する。隙間部分21aのラジアル方向の隙間寸法は、形成される球状の潤滑剤の粒の径よりも小さいので、潤滑剤が隙間部分21aに流入することが抑制される。また、ラビリンスシール20を構成している隙間部分21a~21eにおいては、上流側の隙間部分よりも下流側の隙間部分の方が狭いので、上流側の隙間部分に侵入した潤滑剤が下流側の隙間部分に流れ込むことが効果的に防止される。
【0031】
ここで、本例では、アキシャル方向に延びる隙間部分21a、21c、21eのそれぞれにおいて、ラジアル方向の各位置の隙間寸法が同一である。また、ラジアル方向に延びる隙間部分21b、21dのそれぞれにおいても、アキシャル方向の隙間寸法が同一である。隙間寸法が、装置内部から装置外部の側に向けて漸減している隙間部分(クサビ状断面の隙間部分)を用いることもできる。
【0032】
例えば、
図1Eに示すように、隙間部分21aを、ラジアル方向の隙間寸法が、潤滑剤封入部分26の側から装置外部に向けて漸減する隙間部分にすることができる。例えば、端板2の側の表面部分2bにおける隙間部分21aを形成している内周面部分2cをテーパー状内周面とすればよい。この場合には、少なくとも、その最小隙間寸法が、撥油面上において球状化する潤滑剤の粒の径よりも小さい値に設定すればよい。なお、隙間寸法が下流側に向けて漸減する隙間部分は、以下の各潤滑剤封止構造および後述の実施の形態2における各潤滑剤封止構造においても同様に適用可能である。
【0033】
(部位1Cの潤滑剤封止構造)
図1Cは、端板3と中空入力軸4の他方の軸端部4bとの間を封止しているラビリンスシール30を備えた潤滑剤封止構造を示す説明図である。中空入力軸4の軸端部4bは、ボールベアリング7を介して、端板3に対して回転自在に支持されている。端板3の中心部分を貫通して、中空入力軸4の軸端部4bが装置外部に突出している。端板3と中空入力軸4の軸端部4bとの間には、ボールベアリング7の側(潤滑剤封入部分26の側)から装置外部に連通する隙間が形成される。この隙間はラビリンスシール30によって封止されている。
【0034】
端板3と中空入力軸4の軸端部4bとの間の隙間には、円環状部材32が装着されている。円環状部材32は、中空入力軸4の軸端部4bの外周面部分4eに圧入固定されている。円環状部材32にアキシャル方向から対峙するように、端板3の内周面には内方に突出した円環状突部3aが形成されている。ラビリンスシール30は、端板3の円環状突部3aの側の表面部分3bと、これに対峙する円環状部材32の側の表面部分32aとの間に形成されている。
【0035】
本例のラビリンスシール30においては、潤滑剤の漏出方向の上流側から下流側に向けて(潤滑剤封入部分26から装置外部に向かう方向に向けて)、アキシャル方向に延びる隙間部分31a、31c、31eと、ラジアル方向に延びる隙間部分31b、31dとが交互に形成されている。また、隙間部分31a~31eは、上流側の隙間部分に対して下流側の隙間部分の方が狭い。さらに、ラビリンスシール30の最も上流側の隙間部分31aは、そのラジアル方向の隙間寸法が、以下に述べる撥油面によってはじかれて球状化する潤滑剤の粒の径よりも小さい値に設定されている。
【0036】
各隙間部分31a~31eを形成している端板3の側の表面部分3bは、潤滑剤に対する撥油性を備えた撥油面である。
図1Cにおいては、撥油面が形成されている範囲をドット模様で示してある。この表面部分3bに対峙している円環状部材32の表面部分32aも撥油面としてある。表面部分32aにおける撥油面が形成されている範囲をドット模様で示してある。また、中空入力軸の軸端部4bにおいて、ボールベアリング7が装着されている外周面部分4fの一部にも撥油面(上流側表面部分)が形成されている。撥油面は、前述のラビリンスシール20の撥油面の場合と同様な構成であるので、その説明を省略する。
【0037】
ここで、ラビリンスシール30の隙間部分31aには油溜まりが形成されている。すなわち、端板3の円環状突部3aの内周面には、円周方向に延びる矩形断面の溝32bが形成されている。この溝32bによって、隙間部分31aにおける他の部分に比べてラジアル方向の隙間寸法が大きい油溜まりが形成されている。また、溝32bには多孔質素材、例えば不織布からなる油吸収体33が充填されている。さらに、溝32bの底面部分および両側の内周側面部分は、表面処理が施されて、潤滑油に対する親油性を備えた親油面とされている。
図1Cにおいては、新油面の形成領域を、網目模様で示してある。
【0038】
潤滑剤は、装置内部のボールベアリング7の側から、中空入力軸4と端板3の間の隙間に流出する。ラビリンスシール30によって、潤滑剤が装置外部に漏出することが防止される。また、ラビリンスシール30を構成している隙間部分31a~31eにおいては、上流側の隙間部分よりも下流側の隙間部分の方が狭いので、上流側の隙間部分に侵入した潤滑剤が下流側の隙間部分に流れ込むことが効果的に防止される。さらに、ラビリンスシール30を構成している隙間部分31a~31eは撥油面によって規定されているので、ラビリンスシール30に侵入した潤滑剤が装置外側に向けて流れ出ることが効果的に防止される。これに加えて、ボールベアリング7の側からラビリンスシール30に向かう潤滑剤は、中空入力軸4の軸端部4bの外周面部分4fに形成した撥油面によってはじかれ、ラビリンスシール30の隙間部分31aに侵入する手前で、球状の粒に変形する。隙間部分31aのラジアル方向の隙間寸法は、形成される球状の潤滑剤の粒の径よりも小さいので、潤滑剤が隙間部分31aに流入することが抑制される。
【0039】
また、ラビリンスシール30の隙間部分31aには、油吸収体33が充填された油溜まりが形成されている。ラビリンスシール30に侵入した潤滑剤は、油溜まりに捕捉され、下流側(装置外側)に向けて流れ出すことが防止される。油溜まりを形成している溝の内周面部分は、親油面となっているので、これによっても、油溜まりに捕捉された潤滑剤が下流側に流れ出すことが効果的に防止される。このように、ラビリンスシール30によるシール効果、撥油面による効果、油吸収体および親油面を備えた油溜まりによる効果によって、潤滑油が装置外部に漏出することを確実に防止できる。
【0040】
(部位1Dの潤滑剤封止構造)
次に、クロスローラベアリング11の外輪12と内輪13の間の隙間をシールしているラビリンスシール40を備えた潤滑剤封止構造を説明する。
図1Dは、外輪12と内輪13との間を封止しているラビリンスシール40を備えた潤滑剤封止構造を示す説明図である。外輪12と内輪13との間には、軌道溝14から装置外部に連通する隙間が形成される。隙間はラビリンスシール40によって封止されている。ラビリンスシール40は、外輪12の内周側表面部分12aと、この内周側表面部分12aに対峙している内輪13の外周側表面部分13aとの間に形成されている。
【0041】
ラビリンスシール40において、潤滑剤封入部分から装置外部に向かう方向に向けて、アキシャル方向に延びる隙間部分41a、41c、41eと、ラジアル方向に延びる隙間部分41b、41dとが交互に形成されている。また、隙間部分41a~41eは、上流側の隙間部分に対して下流側の隙間部分の方が狭い。
【0042】
各隙間部分41a~41eを形成している外輪12の内周側表面部分12aは、潤滑剤に対する撥油性を備えた撥油面である。
図1Dにおいては、撥油面が形成されている範囲をドット模様で示してある。また、内周側表面部分12aに対峙している内輪13の外周側表面部分13aも撥油面としてある。
図1Dにおいては、外周側表面部分13aにおける撥油面が形成されている範囲をドット模様で示してある。撥油面は、前述のラビリンスシール20の撥油面の場合と同様に構成されているので、説明を省略する。
【0043】
潤滑剤は、装置内部のクロスローラベアリング11の軌道溝14の側から、外輪12と内輪13の間の隙間に流出する。ラビリンスシール40によって、潤滑剤が装置外部に漏出することが防止される。また、ラビリンスシール40を構成している隙間部分41a~41eにおいては、上流側の隙間部分よりも下流側の隙間部分の方が狭いので、上流側の隙間部分に侵入した潤滑剤が下流側の隙間部分に流れ込むことが効果的に防止される。さらに、隙間部分41a~41eは撥油面によって規定されているので、ラビリンスシール40に侵入した潤滑剤が装置外側に向けて流れ出ることが効果的に防止される。このように、ラビリンスシール40によるシール効果、撥油面による撥油効果によって、隙間を介して潤滑油が装置外部に漏出することを確実に防止できる。
【0044】
[実施の形態2]
図2Aは本発明の潤滑剤封止構造を備えたアクチュエータを示す概略縦断面図である。アクチュエータ100は、その中心を貫通して延びる中空部を備えた中空型アクチュエータであり、モータ110と波動歯車装置120とを備えている。モータ110は、中空モータ軸111と、この外周面に取り付けたロータ112と、ロータ112を同軸に取り囲むステータ113とを備えている。中空モータ軸111は、その両端において、ボールベアリング(図において一方のボールベアリング114のみを示す。)を介して、モータハウジング116によって回転自在に支持されている。
【0045】
モータハウジング116は、その前端に、大径の取付けフランジ117を備えている。取付けフランジ117の前面に、波動歯車装置120が同軸に取り付けられている。波動歯車装置120は、剛性の内歯歯車121と、シルクハット形状の可撓性の外歯歯車122と、波動発生器123と、内歯歯車121と外歯歯車122を相対回転自在の状態で支持しているクロスローラベアリング124と、円盤状の出力軸125とを備えている。
【0046】
波動発生器123は、中空モータ軸111に同軸に連結された中空入力軸126を備えており、中空入力軸126の外周面に楕円状輪郭のプラグ127が一体形成されている。プラグ127の楕円状外周面には、ウエーブベアリング128が装着されている。波動発生器123によって、外歯歯車122における外歯122aが形成されている円筒状胴部が楕円状に撓められて、内歯歯車121の内歯121aに対して部分的にかみ合っている。
【0047】
外歯歯車122の円環状のボス122cは、取付けフランジ117とクロスローラベアリング124の外輪124aとの間に挟まれ、この状態で、三部材が締結固定されている。内歯歯車121は、クロスローラベアリング124の内輪124bと出力軸125との間に挟まれ、この状態で、三部材が締結固定されている。モータ110の出力回転は、中空モータ軸111から波動発生器123に入力される。波動発生器123が回転すると、内歯歯車121が減速回転し、内歯歯車121に連結されている出力軸125から、不図示の負荷側に、減速回転が出力される。
【0048】
波動歯車装置120の装置内部における各潤滑部分は、外歯歯車122と内歯歯車121のかみ合い部分、外歯歯車122と波動発生器123の接触部分、波動発生器123のウエーブベアリング128、クロスローラベアリング124等である。波動歯車装置120の装置内部の潤滑剤封入部分131、132から、潤滑剤が、装置外部、あるいは、モータ110の側に漏れ出ることを防止するために、波動歯車装置120には、ラビリンスシール140を備えた潤滑剤封止構造の部位2B、ラビリンスシール150を備えた潤滑剤封止構造の部位2C、ラビリンスシール160を備えた潤滑剤封止構造の部位2Dが組み込まれている。
【0049】
(部位2Bの潤滑剤封止構造)
図2Bは、中空入力軸126と出力軸125との間を封止しているラビリンスシール140を備えた潤滑剤封止構造の部位を示す説明図である。高速回転する中空入力軸126と、減速回転する出力軸125との間は、ラビリンスシール140を備えた潤滑剤封止構造によってシールされている。ウエーブベアリング128が配置されている外歯歯車122の内部空間は、ウエーブベアリング128、ウエーブベアリング128と外歯歯車122の間の摺動部分等に供給される潤滑剤が封入された潤滑剤封入部分131である(
図2A参照)。中空入力軸126と出力軸125との間には、装置内部の側に位置するウエーブベアリング128から装置外部に通じる隙間が形成される。隙間は、ラビリンスシール140によってシールされている。ラビリンスシール140は、出力軸125の内周側の表面部分125aと、この内周側の表面部分125aに対峙している中空入力軸126の軸端側の表面部分126aとの間に形成されている。
【0050】
ラビリンスシール140はアキシャルラビリンスシールであり、潤滑剤封入部分から装置外部に向かって、ラジアル方向に延びる隙間部分141a、141c、141eと、アキシャル方向に延びる隙間部分141b、141d、141fとが交互に形成されている。また、隙間部分141a~141eは、上流側の隙間部分に対して下流側の隙間部分の方が狭い隙間部分となっている。さらに、ラビリンスシール140の最も上流側の隙間部分141aは、そのアキシャル方向の隙間寸法が、以下に述べる撥油面によってはじかれて球状化する潤滑剤の粒の径よりも小さい値に設定されている。
【0051】
各隙間部分141a~141fを形成している出力軸125の内周側の表面部分125aには、潤滑剤に対する撥油性を備えた撥油面が形成されている。また、隙間部分141aに対して装置内側(潤滑剤の漏出方向の上流側)に繋がる外周面部分125b(上流側表面部分)にも、撥油面(上流側撥油面)が形成されている。さらに、中空入力軸126の表面部分126aにも撥油面が形成されている。
図2Bにおいては、撥油面が形成されている表面部分を示すために、当該表面部分に沿ってドット模様を付してある。なお、撥油面は、前述の実施の形態1におけるラビリンスシール20の側の撥油面の場合と同様に、微細溝が所定の溝配列パターンで形成された表面部分であるので、それらの説明は省略する。
【0052】
潤滑剤は、装置内部の側から、中空入力軸126と出力軸125の間の隙間に流出する。隙間はラビリンスシール140によって封止されているので、潤滑剤が装置外部に漏出することが防止される。また、ラビリンスシール140を構成している隙間部分141a~141fにおいては、上流側の隙間部分よりも下流側の隙間部分の方が狭いので、上流側の隙間部分に侵入した潤滑剤が下流側の隙間部分に流れ込むことが効果的に防止される。さらに、隙間部分141a~141fは撥油面によって規定されているので、ラビリンスシール140に侵入した潤滑剤が装置外側に向けて流れ出ることが効果的に防止される。さらには、ラビリンスシール140に流れ込む潤滑剤は、出力軸125の外周面部分125bに形成した撥油面によってはじかれ、ラビリンスシール140の隙間部分141aに侵入する手前で、球状の粒に変形する。隙間部分141aのアキシャル方向の隙間寸法は、形成される球状の潤滑剤の粒の径よりも小さいので、潤滑剤が隙間部分141aに流入することが抑制される。
【0053】
このように、上流側の撥油面による撥油効果、ラビリンスシール140によるシール効果、ラビリンスシール140を規定している撥油面による撥油効果によって、潤滑油が装置外部に漏出することを確実に防止できる。
【0054】
(部位2Cの潤滑剤封止構造)
図2Cは、波動歯車装置120とモータ110との間を封止しているラビリンスシール150を備えた潤滑剤封止構造の部位を示す説明図である。この潤滑剤封止構造により、波動歯車装置120の側からモータ110の側に潤滑剤が漏出することが防止される。取付けフランジ117の内周縁部117aと、これに対峙する中空モータ軸111の軸端部111aとの間には、ボールベアリング114が装着されている。中空モータ軸111の軸端部111aの先端は、取付けフランジ117を貫通して波動歯車装置120の側に突出している。中空モータ軸111の軸端部111aには、波動歯車装置120の中空入力軸126が同軸に連結固定されている。
【0055】
取付けフランジ117の内周縁部117aと、これに対峙する中空入力軸126との間に隙間が形成される。隙間はラビリンスシール150によってシールされている。ラビリンスシール150は、取付けフランジの内周縁部117aの表面部分117bと、この表面部分117bにアキシャル方向から対峙している中空入力軸126の軸端の表面部分126cとの間に形成されている。
【0056】
ラビリンスシール150において、波動歯車装置120の側からモータ110の側に向かって、ラジアル方向に延びる隙間部分151a、151c、151eと、アキシャル方向に延びる隙間部分151b、151dとが交互に形成された構成となっている。また、隙間部分151a~151eは、上流側の隙間部分に対して下流側の隙間部分の方が狭い隙間部分となっている。さらに、ラビリンスシール150の最も上流側の隙間部分151aは、そのアキシャル方向の隙間寸法が、以下に述べる撥油面によってはじかれて球状化する潤滑剤の粒の径よりも小さい値に設定されている。
【0057】
各隙間部分151a~151eを形成している取付けフランジの内周縁部117aの表面部分117bは、潤滑剤に対する撥油性を備えた撥油面である。また、表面部分117bに対峙している中空入力軸126の軸端の表面部分126cも撥油面である。さらに、隙間部分151aに対して装置内側の外周面部分126d(上流側表面部分)も撥油面(上流側撥油面)となっている。
図2Cにおいては、撥油面が形成されている表面部分を示すために、当該表面部分に沿ってドット模様を付してある。なお、撥油面は、前述のラビリンスシール20の側の撥油面の場合と同様に、微細溝が所定の溝配列パターンで形成された表面部分であるので、それらの説明は省略する。
【0058】
潤滑剤は、装置内部の側から、中空入力軸126と取付け用フランジの内周縁部117aとの隙間に流出する。隙間はラビリンスシール150によって封止されているので、潤滑剤が装置外部に漏出することが防止される。また、ラビリンスシール150を構成している隙間部分151a~151eにおいては、上流側の隙間部分よりも下流側の隙間部分の方が狭いので、上流側の隙間部分に侵入した潤滑剤が下流側の隙間部分に流れ込むことが効果的に防止される。さらに、隙間部分151a~151eは撥油面によって規定されているので、ラビリンスシール150に侵入した潤滑剤が装置外側に向けて流れ出ることが効果的に防止される。さらには、ラビリンスシール150に流れ込む潤滑剤は、中空入力軸126の軸端の外周面部分126dに形成した撥油面によってはじかれ、ラビリンスシール150の隙間部分151aに侵入する手前で、球状の粒に変形する。さらに、隙間部分151aのアキシャル方向の隙間寸法は、形成される球状の潤滑剤の粒の径よりも小さいので、潤滑剤が隙間部分151aに流入することが抑制される。
【0059】
このように、ラビリンスシール150の上流側の撥油面による撥油効果、ラビリンスシール150によるシール効果、ラビリンスシール150を規定している撥油面による撥油効果によって、潤滑油が装置外部に漏出することを確実に防止できる。
【0060】
(部位2Dの潤滑剤封止構造)
図2Dは、クロスローラベアリング124の外輪124aと内輪124bの間の潤滑剤封止構造の部位を示す説明図である。ラビリンスシール160を備えた潤滑剤封止構造の部位2Dは、外歯歯車122と内歯歯車121との間を相対回転自在に支持するクロスローラベアリング124の部分に配置される。すなわち、クロスローラベアリング124の外輪124aと内輪124bとの間の隙間部分を封止するために配置される。この潤滑剤封止構造は、実施の形態1における
図1Dに示すラビリンスシール40を用いた潤滑剤封止構造と実質的に同一であるので、具体的な説明は省略する。