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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】組成物、積層体及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/312 20060101AFI20230919BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20230919BHJP
   H01L 25/065 20230101ALI20230919BHJP
   H01L 25/18 20230101ALI20230919BHJP
   C08G 73/06 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
H01L21/312 C
H01L25/08 Y
C08G73/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022547627
(86)(22)【出願日】2021-09-08
(86)【国際出願番号】 JP2021033032
(87)【国際公開番号】W WO2022054839
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2020152329
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 雄三
(72)【発明者】
【氏名】茅場 靖剛
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 潤
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-308731(JP,A)
【文献】国際公開第2020/085183(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/086361(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/312
H01L 25/07
C08G 73/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1級窒素原子及び2級窒素原子から選択される少なくとも1つを含むカチオン性官能基とSi-O結合とを有する化合物(A)と、
-C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、3つ以上の-C(=O)OX基のうち、1つ以上6つ以下が-C(=O)OH基である化合物(B)と、
環構造及び前記環構造に直接結合した1つ以上の1級窒素原子を有する化合物(C)と、を含み、
化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子と化合物(C)に含まれる1級窒素原子との合計に占める化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子の割合が10モル%~95モル%である、組成物。
【請求項2】
化合物(C)は環構造に直接結合した1級窒素原子を2つ以上有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
化合物(C)の重量平均分子量が80以上600以下である、請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
化合物(A)は前記Si-O結合を構成する酸素原子に結合したアルキル基を2つ有する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
化合物(B)の重量平均分子量が200以上600以下である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
さらに極性溶媒を含む、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
半導体装置の製造に用いるための、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
基板上又は基板間に層を形成するための、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
1級窒素原子及び2級窒素原子から選択される少なくとも1つを含むカチオン性官能基とSi-O結合とを有する化合物(A)と、
-C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、3つ以上の-C(=O)OX基のうち、1つ以上6つ以下が-C(=O)OH基である化合物(B)と、
環構造及び前記環構造に直接結合した1つ以上の1級窒素原子を有する化合物(C)と、の反応生成物を含み、
反応前の化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子と化合物(C)に含まれる1級窒素原子との合計に占める化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子の割合が10モル%~95モル%である層と、基板と、を含む積層体。
【請求項10】
前記基板が第1の基板と第2の基板とを含み、第1の基板、前記反応生成物を含む層、及び第2の基板がこの順に配置される、請求項9に記載の積層体。
【請求項11】
1級窒素原子及び2級窒素原子から選択される少なくとも1つを含むカチオン性官能基とSi-O結合とを有する化合物(A)と、
-C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、3つ以上の-C(=O)OX基のうち、1つ以上6つ以下が-C(=O)OH基である化合物(B)と、
環構造及び前記環構造に直接結合した1つ以上の1級窒素原子を有する化合物(C)と、を含み、
化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子と化合物(C)に含まれる1級窒素原子との合計に占める化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子の割合が10モル%~95モル%である層を基板上又は基板間に形成する工程と、前記層を硬化させる工程と、を有する積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、積層体及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、軽量化及び高性能化が進行するに伴い、半導体チップ等の高集積化が求められている。しかし、回路の微細化のみではその要求に十分に応えることは困難である。そこで、近年、複数枚の基板(ウェハ)、半導体チップ等を縦に積層し、多層の三次元構造とすることにより高集積化する方法が提案されている。
【0003】
基板(ウェハ)、チップ等(以後、「基板等」と称する場合がある)を積層する方法としては、基板同士を直接接合する方法(フュージョンボンディング)、接着剤を用いて基板同士を接着する方法等が提案されている
【0004】
上記方法の詳細は、例えば、特開平4-132258号公報、特開2010-226060号公報、特開2016-47895号公報、A.Bayrashev, B.Ziaie, Sensors and Actuators A 103 (2003) 16-22、及び、Q. Y. Tong, U. M. Gosele, Advanced Material 11, No. 17 (1999) 1409-1425を参照できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
接着剤を用いる方法は、フュージョンボンディングよりも低温で基板同士を接合できるなどの利点を有する一方で、接着剤と基板の熱膨張率の差に起因するひずみが接合面に生じて反りや剥離が生じるおそれがある。接着剤の熱膨張率を低減する方法としては無機フィラーを添加することが考えられるが、無機フィラーの添加により接着強度が低下するおそれがある。したがって、低熱膨張率と高接合強度を両立し得る材料の開発が望まれている。
【0006】
本発明の一態様は、上記問題に鑑みてなされたものであり、熱膨張率が低く、かつ基板との接合強度に優れる組成物、この組成物を用いて得られる積層体、及びこの組成物を用いる積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
<1>1級窒素原子及び2級窒素原子から選択される少なくとも1つを含むカチオン性官能基とSi-O結合とを有する化合物(A)と、
-C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、3つ以上の-C(=O)OX基のうち、1つ以上6つ以下が-C(=O)OH基である化合物(B)と、
環構造及び前記環構造に直接結合した1つ以上の1級窒素原子を有する化合物(C)と、を含み、
化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子と化合物(C)に含まれる1級窒素原子との合計に占める化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子の割合が3モル%~95モル%である、組成物。
<2>化合物(C)は環構造に直接結合した1級窒素原子を2つ以上有する、<1>に記載の組成物。
<3>化合物(C)の重量平均分子量が80以上600以下である、<1>又は<2>に記載の組成物。
<4>化合物(A)は前記Si-O結合を構成する酸素原子に結合したアルキル基を2つ有する、<1>~<3>のいずれか1項に記載の組成物。
<5>化合物(B)の重量平均分子量が200以上600以下である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の組成物。
<6>さらに極性溶媒を含む、<1>~<5>のいずれか1項に記載の組成物。
<7>半導体装置の製造に用いるための、<1>~<6>のいずれか1項に記載の組成物。
<8>基板上又は基板間に層を形成するための、<1>~<7>のいずれか1項に記載の組成物。
<9>1級窒素原子及び2級窒素原子から選択される少なくとも1つを含むカチオン性官能基とSi-O結合とを有する化合物(A)と、
-C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、3つ以上の-C(=O)OX基のうち、1つ以上6つ以下が-C(=O)OH基である化合物(B)と、
環構造及び前記環構造に直接結合した1つ以上の1級窒素原子を有する化合物(C)と、の反応生成物を含み、
反応前の化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子と化合物(C)に含まれる1級窒素原子との合計に占める化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子の割合が3モル%~95モル%である層と、基板と、を含む積層体。
<10>前記基板が第1の基板と第2の基板とを含み、第1の基板、前記反応生成物を含む層、及び第2の基板がこの順に配置される、請求項9に記載の積層体。
<11>1級窒素原子及び2級窒素原子から選択される少なくとも1つを含むカチオン性官能基とSi-O結合とを有する化合物(A)と、
-C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、3つ以上の-C(=O)OX基のうち、1つ以上6つ以下が-C(=O)OH基である化合物(B)と、
環構造及び前記環構造に直接結合した1つ以上の1級窒素原子を有する化合物(C)と、を含み、
化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子と化合物(C)に含まれる1級窒素原子との合計に占める化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子の割合が3モル%~95モル%である層を基板上又は基板間に形成する工程と、前記層を硬化させる工程と、を有する積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、熱膨張率が低く、かつ基板との接合強度に優れる組成物、この組成物を用いて得られる積層体、及びこの組成物を用いる積層体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0010】
<組成物>
本実施形態の組成物は、1級窒素原子及び2級窒素原子から選択される少なくとも1つを含むカチオン性官能基とSi-O結合とを有する化合物(A)と、-C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、3つ以上の-C(=O)OX基のうち、1つ以上6つ以下が-C(=O)OH基である化合物(B)と、環構造及び前記環構造に直接結合した1つ以上の1級窒素原子を有する化合物(C)と、を含み、化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子と化合物(C)に含まれる1級窒素原子との合計に占める化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子の割合が3モル%~95モル%である、組成物である。
【0011】
上記組成物は、化合物(B)と反応する成分として、化合物(A)及び化合物(C)の2種を含む。本発明者らの検討の結果、この組成物を用いて得られる硬化物は、化合物(B)と反応する成分として化合物(A)のみを用いて得られる硬化物に比べ、熱膨張率が低くなることがわかった。このため、上記組成物を用いて得られる積層体は組成物からなる層と基板との接合面にひずみが生じにくく、信頼性に優れると考えられる。
上記組成物を用いて得られる層はさらに、基板との接合強度にも優れている。
【0012】
(化合物(A))
化合物(A)は、1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含むカチオン性官能基とSi-O結合とを有する。カチオン性官能基は、正電荷を帯びることができ、かつ1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含む官能基であれば特に限定されない。
【0013】
化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含むカチオン性官能基は、化合物(B)のカルボキシ基と反応して硬化物を形成する。化合物(A)が有するSi-O結合は、基板との接合強度の向上に寄与する。
化合物(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
化合物(A)は、1級窒素原子及び2級窒素原子のほかに、3級窒素原子を含んでいてもよい。
【0015】
本開示において、「1級窒素原子」とは、水素原子2つ及び水素原子以外の原子1つのみに結合している窒素原子(例えば、1級アミノ基(-NH基)に含まれる窒素原子)、又は、水素原子3つ及び水素原子以外の原子1つのみに結合している窒素原子(カチオン)を指す。
「2級窒素原子」とは、水素原子1つ及び水素原子以外の原子2つのみに結合している窒素原子(即ち、下記式(a)で表される官能基に含まれる窒素原子)、又は、水素原子2つ及び水素原子以外の原子2つのみに結合している窒素原子(カチオン)を指す。
「3級窒素原子」とは、水素原子以外の原子3つのみに結合している窒素原子(即ち、下記式(b)で表される官能基である窒素原子)、又は、水素原子1つ及び水素原子以外の原子3つのみに結合している窒素原子(カチオン)を指す。
【0016】
【化1】
【0017】
式(a)及び式(b)において、*は、水素原子以外の原子との結合位置を示す。
前記式(a)で表される官能基は、2級アミノ基(-NHR基;ここで、Rはアルキル基を表す)の一部を構成する官能基であってもよいし、ポリマーの骨格中に含まれる2価の連結基であってもよい。
前記式(b)で表される官能基(即ち、3級窒素原子)は、3級アミノ基(-NR基;ここで、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基を表す)の一部を構成する官能基であってもよいし、ポリマーの骨格中に含まれる3価の連結基であってもよい。
【0018】
硬化物の吸水率を低下させ、かつアウトガスの量を少なくする観点から、化合物(A)は、Si-O結合を構成する酸素原子に結合したアルキル基を2つ有することが好ましく、Si-O結合を構成する1つのケイ素原子に結合した2つの酸素原子にそれぞれ結合したアルキル基を有することがより好ましい。2つのアルキル基の炭素数はそれぞれ独立に1~5であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、2であることがさらに好ましい。
【0019】
化合物(A)の重量平均分子量は、特に制限されない。例えば、130以上10000以下であってもよく、130以上5000以下であってもよく、130以上2000以下であってもよい。
【0020】
本開示において化合物の重量平均分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography)法によって測定された、ポリエチレングリコール換算の重量平均分子量を指す。
具体的には、重量平均分子量は、展開溶媒として硝酸ナトリウム濃度0.1mol/Lの水溶液を用い、分析装置としてShodex DET RI-101及び2種類の分析カラム(東ソー製 TSKgel G6000PWXL-CP及びTSKgel G3000PWXL-CP)を用いて流速1.0mL/minで屈折率を検出し、ポリエチレングリコール/ポリエチレンオキサイドを標準品として解析ソフト(Waters製 Empower3)にて算出される。
【0021】
化合物(A)は、必要に応じて、アニオン性官能基、ノニオン性官能基等をさらに有していてもよい。
前記ノニオン性官能基は、水素結合受容基であっても、水素結合供与基であってもよい。前記ノニオン性官能基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボニル基、エーテル基(-O-)等を挙げることができる。
前記アニオン性官能基は、負電荷を帯びることができる官能基であれば特に制限はない。前記アニオン性官能基としては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸基等を挙げることができる。
【0022】
化合物(A)として具体的には、Si-O結合とアミノ基とを有する化合物が挙げられる。Si-O結合とアミノ基とを有する化合物としては、例えば、シロキサンジアミン、アミノ基を有するシランカップリング剤、アミノ基を有するシランカップリング剤のシロキサン重合体等が挙げられる。
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、下記式(A-3)で表される化合物が挙げられる。
【0023】
【化2】
【0024】
式(A-3)中、Rは置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。R及びRは、それぞれ独立に、置換(骨格にカルボニル基、エーテル基等を含んでもよい)されていてもよい炭素数1~12のアルキレン基、エーテル基又はカルボニル基を表す。R及びRは、それぞれ独立に、置換されていてもよい炭素数1~4のアルキレン基又は単結合を表す。Arは2価又は3価の芳香環を表す。Xは水素又は置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基を表す。Xは水素、シクロアルキル基、ヘテロ環基、アリール基又は置換(骨格にカルボニル基、エーテル基等を含んでもよい)されていてもよい炭素数1~5のアルキル基、を表す。複数のR、R、R、R、R、Xは同じであっても異なっていてもよい。
、R、R、R、R、X、Xにおけるアルキル基及びアルキレン基の置換基としては、それぞれ独立に、アミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、カルボン酸基、スルホン酸基、ハロゲン等が挙げられる。
Arにおける2価又は3価の芳香環としては、例えば、2価又は3価のベンゼン環が挙げられる。Xにおけるアリール基としては、例えば、フェニル基、メチルベンジル基、ビニルベンジル基等が挙げられる。
【0025】
式(A-3)で表されるシランカップリング剤の具体例としては、例えば、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノイソブチルジメチルメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノイソブチルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-11-アミノウンデシルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェニルトリエトキシシラン、メチルベンジルアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ベンジルアミノエチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、N-[2-[3-(トリメトキシシリル)プロピルアミノ]エチル]エチレンジアミン、3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3-アミノプロピルジメトキシメチルシラン、3-アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン、トリメトキシ[2-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル]シラン、ジアミノメチルメチルジエトキシシラン、メチルアミノメチルメチルジエトキシシラン、p-アミノフェニルトリメトキシシラン、N-メチルアミノプロピルトリエトキシシラン、N-メチルアミノプロピルメチルジエトキシシラン、(フェニルアミノメチル)メチルジエトキシシラン、アセトアミドプロピルトリメトキシシラン、及びこれらの加水分解物が挙げられる。
【0026】
式(A-3)以外のアミノ基を含むシランカップリング剤としては、例えば、N,N-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N,N’-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、ビス[(3-トリエトキシシリル)プロピル]アミン、ピペラジニルプロピルメチルジメトキシシラン、ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]ウレア、ビス(メチルジエトキシシリルプロピル)アミン、2,2-ジメトキシ-1,6-ジアザ-2-シラシクロオクタン、3,5-ジアミノ-N-(4-(メトキシジメチルシリル)フェニル)ベンズアミド、3,5-ジアミノ-N-(4-(トリエトキシシリル)フェニル)ベンズアミド、5-(エトキシジメチルシリル)ベンゼン-1,3-ジアミン、及びこれらの加水分解物が挙げられる。
【0027】
前述のアミノ基を有するシランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
また、これらのシランカップリング剤から、シロキサン結合(Si-O-Si)を介して形成される重合体(シロキサン重合体)を用いてもよい。例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシランの加水分解物からは、線形シロキサン構造を有する重合体、分岐状シロキサン構造を有する重合体、環状シロキサン構造を有する重合体、かご状シロキサン構造を有する重合体等が得られる。かご状シロキサン構造は、例えば、下記式(A-1)で表される。
【0029】
【化3】
【0030】
シロキサンジアミンとしては、例えば、下記式(A-2)で表される化合物が挙げられる。なお、式(A-2)中、iは0~4の整数、jは1~3の整数、Meはメチル基である。
【0031】
【化4】
【0032】
また、シロキサンジアミンとしては、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(式(A-2)において、i=0、j=1)、1,3-ビス(2-アミノエチルアミノ)プロピルテトラメチルジシロキサン(式(A-2)において、i=1、j=1)が挙げられる。
【0033】
化合物(A)は、1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含むカチオン性官能基を有するため、基板の表面に存在し得る水酸基、エポキシ基、カルボキシ基、アミノ基、メルカプト基等の官能基との静電相互作用により、又は、前記官能基との共有結合を密に形成することにより、基板同士を強く接着することができる。
また、化合物(A)は、1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含むカチオン性官能基を有するため、極性溶媒への溶解性に優れている。このため、シリコン等の表面が親水性である基板との親和性が高く、平滑な膜を形成することができる。
【0034】
化合物(A)としては、耐熱性の点から、カチオン性官能基としてアミノ基を有する化合物が好ましい。さらに、アミド、アミドイミド、イミドなどの熱架橋構造を形成して耐熱性をより向上させる観点から、1級アミノ基を有する化合物が好ましい。
【0035】
化合物(A)中の1級窒素原子及び2級窒素原子の合計数と、ケイ素原子の数との比率(1級窒素原子及び2級窒素原子の合計数/ケイ素原子の数)は特に制限されないが、0.2以上5以下であると、平滑な薄膜形成の点から好ましい。
【0036】
化合物(A)は、分子中のSi元素と、Si元素に結合するメチル基などの非架橋性基とのモル比(非架橋性基/Si元素)が2未満である(非架橋性基/Si元素<2の関係を満たす)ことが好ましい。この条件を満たすことにより、形成される膜の架橋(Si-O-Si結合とアミド結合、イミド結合等との架橋)密度が向上し、優れた接合強度が得られると考えられる。
【0037】
前述のように、化合物(A)は、1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含むカチオン性官能基を有する。ここで、化合物(A)が1級窒素原子を含む場合には、化合物(A)中の全窒素原子中に占める1級窒素原子の割合が20モル%以上であることが好ましく、25モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることがさらに好ましい。また、化合物(A)は、1級窒素原子を含み、かつ1級窒素原子以外の窒素原子(例えば、2級窒素原子、3級窒素原子)を含まないカチオン性官能基を有していてもよい。
化合物(A)中の全窒素原子中に占める1級窒素原子の割合が20モル%以上であると、基板の表面に存在し得る官能基との結合が密に形成され、基板同士をより強く接着することができる。
【0038】
化合物(A)が2級窒素原子を含む場合には、化合物(A)中の全窒素原子中に占める2級窒素原子の割合が5モル%以上50モル%以下であることが好ましく、5モル%以上30モル%以下であることがより好ましい。
【0039】
化合物(A)は、1級窒素原子及び2級窒素原子のほかに、3級窒素原子を含んでいてよく、化合物(A)が3級窒素原子を含む場合には、化合物(A)中の全窒素原子中に占める3級窒素原子の割合が20モル%以上50モル%以下であることが好ましく、25モル%以上45モル%以下であることがより好ましい。
【0040】
組成物における化合物(A)の含有量は、化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子と化合物(C)に含まれる1級窒素原子との合計に占める化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子の割合が3モル%~95モル%となる量であれば、特に制限されない。
熱膨張率と接合強度とのバランスの観点からは、上記割合は5モル%~75モル%であることが好ましく、10モル%~50モル%であることがより好ましい。
【0041】
(化合物(B))
化合物(B)は、分子内に-C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、3つ以上の-C(=O)OX基(以下、「COOX」とも称する。)のうち、1つ以上6つ以下が-C(=O)OH基(以下、「COOH」とも称する。)である化合物である。
化合物(B)が分子内に-C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を有していると、組成物中での溶解性が向上する。
化合物(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
化合物(B)は、分子内に-C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である。)を3つ以上有する化合物であるが、好ましくは、分子内に-C(=O)OX基を3つ以上6つ以下有する化合物であり、より好ましくは、分子内に-C(=O)OX基を3つ又は4つ有する化合物である。
化合物(B)が分子内に-C(=O)OX基を3つ又は4つ有していると、化合物(A)と効率よく反応することができる。
【0043】
化合物(B)において、-C(=O)OX基中のXとしては、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基が挙げられ、中でも、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基が好ましい。なお、-C(=O)OX基中のXは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0044】
化合物(B)は、分子内にXが水素原子である-C(=O)OH基を1つ以上6つ以下有する化合物であるが、好ましくは、分子内に-C(=O)OH基を1つ以上4つ以下有する化合物であり、より好ましくは、分子内に-C(=O)OH基を2つ以上4つ以下有する化合物であり、さらに好ましくは、分子内に-C(=O)OH基を2つ又は3つ有する化合物である。
化合物(B)が分子内に-C(=O)OH基を1つ以上4つ以下有していると、組成物中での溶解性が向上する。
【0045】
化合物(B)の重量平均分子量は、特に制限されない。例えば、化合物(B)の重量平均分子量は200以上600以下であってもよく、200以上500以下であってもよく、200以上450以下であってもよく、200以上400以下であってもよい。
化合物(B)の重量平均分子量が上記範囲内であると、組成物中での溶解性が向上する。
【0046】
化合物(B)は、分子内に環構造を有することが好ましい。環構造としては、脂環構造、芳香環構造などが挙げられる。また、化合物(B)は、分子内に複数の環構造を有していてもよく、複数の環構造は、同じであっても異なっていてもよい。
化合物(B)が分子内に環構造を有していると、硬化物の耐熱性が向上する。
【0047】
脂環構造としては、例えば、炭素数3以上8以下の脂環構造、好ましくは炭素数4以上6以下の脂環構造が挙げられ、環構造内は飽和であっても不飽和であってもよい。より具体的には、脂環構造としては、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環などの飽和脂環構造;シクロプロペン環、シクロブテン環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、シクロヘプテン環、シクロオクテン環などの不飽和脂環構造が挙げられる。
【0048】
芳香環構造としては、芳香族性を示す環構造であれば特に限定されず、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ペリレン環などのベンゼン系芳香環、ピリジン環、チオフェン環などの芳香族複素環、インデン環、アズレン環などの非ベンゼン系芳香環などが挙げられる。
【0049】
化合物(B)が分子内に有する環構造としては、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、ベンゼン環及びナフタレン環からなる群より選択される少なくとも1つが好ましく、硬化物の耐熱性をより高める点から、ベンゼン環及びナフタレン環の少なくとも一方がより好ましい。
【0050】
前述したように、化合物(B)は、分子内に複数の環構造を有していてもよく、環構造がベンゼンの場合、ビフェニル構造、ベンゾフェノン構造、ジフェニルエーテル構造などを有してもよい。
【0051】
化合物(B)は、分子内にフッ素原子を有していてもよい。例えば、分子内に1つ以上6つ以下のフッ素原子を有していてもよく、分子内に3つ以上6つ以下のフッ素原子を有していてもよい。例えば、化合物(B)は、分子内にフルオロアルキル基を有していてもよく、具体的には、トリフルオロアルキル基又はヘキサフルオロイソプロピル基を有していてもよい。
化合物(B)が分子内にフッ素原子を有していると、硬化物の吸水性が低下する。
【0052】
さらに、化合物(B)としては、脂環カルボン酸、ベンゼンカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、ジフタル酸、フッ化芳香環カルボン酸などのカルボン酸化合物;脂環カルボン酸エステル、ベンゼンカルボン酸エステル、ナフタレンカルボン酸エステル、ジフタル酸エステル、フッ化芳香環カルボン酸エステルなどのカルボン酸エステル化合物が挙げられる。なお、カルボン酸エステル化合物は、分子内にカルボキシ基(-C(=O)OH基)を有し、かつ、3つ以上の-C(=O)OX基において、少なくとも1つのXが炭素数1以上6以下のアルキル基(すなわち、エステル結合を有する)である化合物である。本実施形態では、化合物(B)がカルボン酸エステル化合物であることにより、化合物(A)と化合物(B)との会合による凝集が抑制され、凝集体及びピットが少なくなり、膜厚の調整が容易となる。
【0053】
前記カルボン酸化合物としては、-C(=O)OH基を4つ以下含む4価以下のカルボン酸化合物であることが好ましく、-C(=O)OH基を3つ又は4つ含む3価又は4価のカルボン酸化合物であることがより好ましい。
【0054】
前記カルボン酸エステル化合物としては、分子内にカルボキシ基(-C(=O)OH基)を3つ以下含み、かつエステル結合を3つ以下含む化合物であることが好ましく、分子内にカルボキシ基を2つ以下含み、かつエステル結合を2つ以下含む化合物であることがより好ましい。
【0055】
また、前記カルボン酸エステル化合物では、3つ以上の-C(=O)OX基において、Xが炭素数1以上6以下のアルキル基である場合、Xは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが好ましいが、化合物(A)と化合物(B)との会合による凝集をより抑制する点から、エチル基又はプロピル基であることが好ましい。
【0056】
前記カルボン酸化合物の具体例としては、これらに限定されず、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサカルボン酸等の脂環カルボン酸;1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、ピロメリット酸、ベンゼンペンタカルボン酸、メリト酸等のベンゼンカルボン酸;1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸等のナフタレンカルボン酸;3,3’,5,5’-テトラカルボキシジフェニルメタン、ビフェニル-3,3’,5,5’-テトラカルボン酸、ビフェニル-3,4’,5-トリカルボン酸、ビフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸、ベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸、4,4’-オキシジフタル酸、3,4’-オキシジフタル酸、1,3-ビス(フタル酸)テトラメチルジシロキサン、4,4’-(エチン-1,2-ジイニル)ジフタル酸(4,4'-(Ethyne-1,2-diyl)diphthalic acid)、4,4’-(1,4-フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸(4,4'-(1,4-phenylenebis(oxy))diphthalic acid)、4,4’-([1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス(オキシ))ジフタル酸(4,4'-([1,1'-biphenyl]-4,4'-diylbis(oxy))diphthalic acid)、4,4’-((オキシビス(4,1-フェニレン))ビス(オキシ))ジフタル酸(4,4'-((oxybis(4,1-phenylene))bis(oxy))diphthalic acid)等のジフタル酸;ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸等のペリレンカルボン酸;アントラセン-2,3,6,7-テトラカルボン酸等のアントラセンカルボン酸;及び4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、9,9-ビス(トリフルオロメチル)-9H-キサンテン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、1,4-ジトリフルオロメチルピロメリット酸等のフッ化芳香環カルボン酸が挙げられる。
【0057】
前記カルボン酸エステル化合物の具体例としては、前述のカルボン酸化合物の具体例における少なくとも1つのカルボキシ基がエステル基に置換された化合物が挙げられる。カルボン酸エステル化合物としては、例えば、下記一般式(B-1)~(B-6)で表されるハーフエステル化された化合物が挙げられる。
【0058】
【化5】
【0059】
一般式(B-1)~(B-6)におけるRは、それぞれ独立に炭素数1以上6以下のアルキル基であり、中でもメチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基が好ましく、エチル基及びプロピル基がより好ましい。
【0060】
ハーフエステル化された化合物は、例えば、前述のカルボン酸化合物の無水物であるカルボン酸無水物を、アルコール溶媒に混合し、カルボン酸無水物を開環させて生成することが可能である。
【0061】
組成物における化合物(B)の含有量は、例えば、化合物(A)及び化合物(C)の合計のアミン当量数(N)に対する化合物(B)のカルボキシ基当量数(COOH)の比(COOH/N)が、0.1以上3.0以下となる量であることが好ましく、0.3以上2.5以下となる量であることがより好ましく、0.4以上2.2以下となる量であることがさらに好ましい。COOH/Nが0.1以上3.0以下であると、化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)の反応による架橋構造が充分に形成されて、耐熱性及び絶縁性に優れる硬化物が得られる傾向にある。
【0062】
(化合物(C))
化合物(C)は、環構造及び前記環構造に直接結合した1つ以上の1級窒素原子を有する化合物である。
化合物(C)は、化合物(A)とともに化合物(B)と反応して硬化物を形成する。
化合物(C)は、環構造と、前記環構造に直接結合した1つ以上の1級窒素原子を有している。この構造が硬化物中に導入されることで、硬化物の剛直性が増して熱膨張率が低下すると考えられる。
化合物(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
本開示において「環構造に直接結合した1級窒素原子」とは、環構造に単結合で(すなわち、炭素原子等を介さずに)結合している1級窒素原子(-NH)を意味する。
【0064】
化合物(C)が分子内に有する環構造に直接結合した1級窒素原子の数は、1つ以上であれば特に制限されない。架橋密度を高める観点からは、2つ以上であることが好ましく、1級アミノ基を2つ有するジアミン化合物又は1級アミノ基を3つ有するトリアミン化合物がより好ましい。
【0065】
化合物(C)は、分子内に1つの環構造を有していても、複数の環構造を有していてもよい。化合物(C)が分子内に複数の環構造を有する場合、それぞれの環構造に直接結合した1級窒素原子を含むカチオン性官能基を有していても、いずれかの環構造のみに直接結合した1級窒素原子を含むカチオン性官能基を有していてもよい。
【0066】
化合物(C)が分子内に複数の環構造を有する場合、複数の環構造は、同じであっても異なっていてもよく、縮合環を形成してもよい。あるいは、複数の環構造が単結合で結合していても、エーテル基、カルボニル基、スルホニル基、メチレン基等の連結基を介して結合していてもよい。
【0067】
化合物(C)に含まれる環構造としては、脂環構造、芳香環(複素環を含む)構造、これらの縮合環構造などが挙げられる。
脂環構造としては、炭素数3以上8以下、好ましくは炭素数4以上6以下の脂環構造が挙げられる。環構造内は飽和であっても不飽和であってもよい。より具体的には、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環などの飽和脂環構造;シクロプロペン環、シクロブテン環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、シクロヘプテン環、シクロオクテン環などの不飽和脂環構造が挙げられる。
【0068】
芳香環構造としては、炭素数6以上20以下、好ましくは炭素数6以上10以下の芳香環構造が挙げられる。具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ペリレン環などのベンゼン系芳香環構造、ピリジン環、チオフェン環、インデン環、アズレン環などの非ベンゼン系芳香環構造などが挙げられる。
【0069】
複素環構造としては、3員環から10員環、好ましくは5員環又は6員環の複素環構造が挙げられる。複素環に含まれるヘテロ原子としては硫黄原子、窒素原子及び酸素原子が挙げられ、これらのうち1種のみでも2種以上であってもよい。
複素環構造として具体的には、オキサゾール環、チオフェン環、ピロール環、ピロリジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、イソシアヌル環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、トリアジン環、インドール環、インドリン環、キノリン環、アクリジン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、プリン環、キノキサリン環等が挙げられる。
【0070】
化合物(C)が分子内に有する環構造としては、ベンゼン環、シクロヘキサン環、及びベンゾオキサゾール環がより好ましい。
【0071】
化合物(C)が分子内に有する環構造は、1級窒素原子以外の置換基を有していてもよい。例えば、炭素数1以上6以下のアルキル基、ハロゲン原子が置換したアルキル基等を有していてもよい。
【0072】
化合物(C)の重量平均分子量は、特に制限されない。例えば、80以上600以下であってもよく、90以上500以下であってもよく、100以上450以下であってもよい。
【0073】
化合物(C)としては、脂環式アミン、芳香環アミン、窒素を含有する複素環を有する複素環アミン、複素環と芳香環の両方を有するアミン化合物などが挙げられる。
脂環式アミンとして具体的には、シクロヘキシルアミン、ジメチルアミノシクロヘキサンなどが挙げられる。
芳香環アミンとして具体的には、ジアミノジフェニルエーテル、キシレンジアミン(好ましくはパラキシレンジアミン)、ジアミノベンゼン、ジアミノトルエン、メチレンジアニリン、ジメチルジアミノビフェニル、ビス(トリフルオロメチル)ジアミノビフェニル、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノベンズアニリド、ビス(アミノフェニル)フルオレン、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)ビフェニル、ジカルボキシジアミノジフェニルメタン、ジアミノレゾルシン、ジヒドロキシベンジジン、ジアミノベンジジン、1,3,5-トリアミノフェノキシベンゼン、2,2’-ジメチルベンジジン、トリス(4-アミノフェニル)アミンなどが挙げられる。
窒素を含有する複素環を有する複素環アミンとして具体的には、メラミン、アンメリン、メラム、メレム、トリス(4-アミノフェニル)アミンなどが挙げられる。
複素環と芳香環の両方を有するアミン化合物として具体的には、N2,N4,N6-トリス(4-アミノフェニル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン、2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール-5-アミンなどが挙げられる。
【0074】
組成物における化合物(C)の含有量は、化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子と化合物(C)に含まれる1級窒素原子との合計に占める化合物(A)に含まれる1級窒素原子の割合が3モル%~95モル%となる量であれば、特に制限されない。
熱膨張率と接合強度とのバランスの観点からは、上記割合は5モル%~75モル%であることが好ましく、10モル%~50モル%であることがより好ましく、10モル%~30モル%であることがさらに好ましい。
【0075】
(極性溶媒)
組成物は、極性溶媒を含んでもよい。本開示において「極性溶媒」とは、室温(25℃)における比誘電率が5以上である溶媒を指す。
組成物が極性溶媒を含んでいると、組成物中の各成分の溶解性が向上する。
極性溶媒は、1種のみを単独で用いても、2種以上を組み合わせてもよい。
【0076】
極性溶媒として具体的には、水、重水などのプロトン性溶媒;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、ベンジルアルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル類;フルフラール、アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノンなどのアルデヒド・ケトン類;無水酢酸、酢酸エチル、酢酸ブチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ホルムアルデヒド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ヘキサメチルリン酸アミドなどの酸誘導体;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類;及びニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ化合物;ジメチルスルホキシドなどの硫黄化合物が挙げられる。
極性溶媒としては、プロトン性溶媒を含むことが好ましく、水を含むことがより好ましく、超純水を含むことがさらに好ましい。
【0077】
組成物が極性溶媒を含む場合、その含有量は特に限定されず、例えば、組成物全体に対して1.0質量%以上99.99896質量%以下であってもよく、40質量%以上99.99896質量%以下であってもよい。
【0078】
(添加剤)
組成物は、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、カルボキシ基を有する重量平均分子量46以上195以下の酸、及び窒素原子を有する重量平均分子量17以上120以下の環構造を有しない塩基が挙げられる。
【0079】
組成物がカルボキシ基を有する重量平均分子量46以上195以下の酸を含むことにより、化合物(A)及び化合物(C)の1級又は2級窒素原子と、酸におけるカルボキシ基とがイオン結合を形成することで、化合物(A)及び化合物(C)と化合物(B)との会合による凝集が抑制されると推測される。より詳細には、化合物(A)及び化合物(C)に由来するアンモニウムイオンと酸におけるカルボキシ基に由来するカルボキシラートイオンとの相互作用(例えば、静電相互作用)が、化合物(A)及び化合物(C)に由来するアンモニウムイオンと化合物(B)におけるカルボキシ基に由来するカルボキシラートイオンとの相互作用よりも強いため、凝集が抑制されると推測される。なお、本発明は上記推測によって何ら限定されない。
【0080】
カルボキシ基を有する重量平均分子量46以上195以下の酸の種類は特に限定されず、モノカルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物、オキシジカルボン酸化合物などが挙げられる。より具体的には、ギ酸、酢酸、マロン酸、シュウ酸、安息香酸、乳酸、グリコール酸、グリセリン酸、酪酸、メトキシ酢酸、エトキシ酢酸、フタル酸、テレフタル酸、ピコリン酸、サリチル酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸などが挙げられる(ただし、化合物(B)に該当するものを除く)。
【0081】
組成物が重量平均分子量46以上195以下の酸を含む場合、その含有量は特に制限されないが、例えば、化合物(A)及び化合物(C)の1級及び2級窒素原子の合計数に対する酸のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が、0.01以上10以下となる量が好ましく、0.02以上6以下となる量がより好ましく、0.5以上3以下となる量がさらに好ましい。
【0082】
組成物が窒素原子を有する重量平均分子量17以上120以下の塩基を含むことで、化合物(B)のカルボキシ基と塩基のアミノ基とがイオン結合を形成することで、化合物(A)及び化合物(C)と化合物(B)との会合による凝集が抑制されると推測される。より詳細には、化合物(B)におけるカルボキシ基に由来するカルボキシラートイオンと塩基におけるアミノ基に由来するアンモニウムイオンとの相互作用が、化合物(A)及び化合物(C)に由来するアンモニウムイオンと化合物(B)におけるカルボキシ基に由来するカルボキシラートイオンとの相互作用よりも強いため、凝集が抑制されると推測される。なお、本発明は上記推測によって何ら限定されない。
【0083】
窒素原子を有する重量平均分子量17以上120以下の化合物の種類は特に限定されず、モノアミン化合物、ジアミン化合物などが挙げられる(ただし、化合物(A)及び化合物(C)に該当するものを除く)。より具体的には、アンモニア、エチルアミン、エタノールアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N-アセチルエチレンジアミン、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン、N-(2-アミノエチル)グリシンなどが挙げられる。
【0084】
組成物が重量平均分子量17以上120以下の塩基を含む場合、その含有量は特に制限されないが、例えば、化合物(B)中のカルボキシ基の数に対する塩基の窒素原子の数の比率(N/COOH)が、0.5以上5以下であることが好ましく、0.9以上3以下であることがより好ましい。
【0085】
(その他の成分)
組成物に対し、プラズマエッチング耐性の選択性が求められる場合(例えばギャップフィル材料や埋め込み絶縁膜として用いる場合)、下記一般式(I)で表される金属アルコキシドを含んでもよい。
R1M(OR2)m-n・・・(I)(式中、R1は非加水分解性基であり、R2は炭素数1~6のアルキル基であり、MはTi、Al、Zr、Sr、Ba、Zn、B、Ga、Y、Ge、Pb、P、Sb、V、Ta、W、La、Nd及びInの金属原子群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を示し、mは金属原子Mの価数で、3又は4であり、nは、mが4の場合は0~2の整数、mが3の場合は0又は1であり、R1が複数ある場合、各R1は互いに同一であっても異なっていてもよく、OR2が複数ある場合、各OR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0086】
組成物から製造される膜に絶縁性が求められる場合(例えばシリコン貫通ビア用絶縁膜用途、埋め込み絶縁膜用途)において、絶縁性又は機械強度改善の為、シラン化合物(ただし、化合物(A)に該当するものを除く)を含んでもよい。
シラン化合物として具体的には、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、ビストリエトキシシリルエタン、ビストリエトキシシリルメタン、ビス(メチルジエトキシシリル)エタン、1,1,3,3,5,5-ヘキサエトキシ-1,3,5-トリシラシクロヘキサン、1,3,5,7-テトラメチル―1,3,5,7-テトラヒドロキシルシクロシロキサン、1,1,4,4-テトラメチル-1,4-ジエトキシジシルエチレン、1,3,5-トリメチル-1,3,5-トリメチル-1,3,5-トリエトキシ-1,3,5-トリシラシクロヘキサン、アミノ基以外の官能基(エポキシ基、メルカプト基等)を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
【0087】
組成物は、極性溶媒以外の溶媒を含んでいてもよい。極性溶媒以外の溶媒としては、ノルマルヘキサンなどが挙げられる。
【0088】
組成物は、例えば銅の腐食を抑制するため、ベンゾトリアゾール又はその誘導体を含有していてもよい。
【0089】
組成物のpHは特に限定されないが、2.0以上12.0以下であることが好ましい。
組成物のpHが2.0以上12.0以下であると、組成物による基板へのダメージが抑制される。
組成物は、ナトリウム及びカリウムの含有量がそれぞれ元素基準で10質量ppb以下であることが好ましい。ナトリウム又はカリウムの含有量がそれぞれ元素基準で10質量ppb以下であれば、トランジスタの動作不良など半導体装置の電気特性に不都合が発生することを抑制できる。
【0090】
組成物が化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)以外の成分を含む場合、化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)の合計質量が、組成物中の不揮発分の合計質量の50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。本開示において「不揮発分」とは、組成物が硬化物になる際に除去される成分(溶媒等)以外の成分をいう。
【0091】
(組成物の用途)
本実施形態の組成物の用途は特に制限されず、半導体装置の製造をはじめとした種々の用途に使用できる。例えば、基板上又は基板間に層を形成するために用いるものであってもよく、後述する積層体の製造に用いるものであってもよい。
【0092】
<積層体>
本実施形態の積層体は、1級窒素原子及び2級窒素原子から選択される少なくとも1つを含むカチオン性官能基とSi-O結合とを有する化合物(A)と、-C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、3つ以上の-C(=O)OX基のうち、1つ以上6つ以下が-C(=O)OH基である化合物(B)と、環構造及び前記環構造に直接結合した1つ以上の1級窒素原子を有する化合物(C)と、の反応生成物を含み、反応前の化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子と化合物(C)に含まれる1級窒素原子との合計に占める化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子の割合が3モル%~95モル%である層(以下、硬化物層ともいう)と、基板と、を含む積層体である。
【0093】
反応生成物の出発物質となる各化合物の詳細及び好ましい態様は、上述した組成物に含まれる各化合物の詳細及び好ましい態様と同様である。反応生成物を含む層は、必要に応じて上述した組成物に含まれてもよい成分を含んでもよい。
【0094】
硬化物層は、例えば、基板の表面と接するように配置されて基板と接合している。上述したように、本実施形態の組成物から得られる硬化物層は熱膨張率が低いため、基板との熱膨張率の差に起因するひずみが接合面に生じにくく、積層体の信頼性に優れている。
【0095】
積層体に含まれる基板の数は特に制限されず、1つであっても複数であってもよい。基板が2つ以上である場合、その材質は同じであっても異なっていてもよい。
本発明の効果を充分に得る観点からは、硬化物層の熱膨張率と等しいか、硬化物層の熱膨張率より小さい熱膨張率を有する基板が好ましい。
【0096】
積層体のある実施態様では、基板が第1の基板と第2の基板とを含み、第1の基板、硬化物層(反応生成物を含む層)、及び第2の基板がこの順に配置される。
【0097】
基板の材質としては、無機材料、有機材料及びこれらの複合体が挙げられる。
無機材料として具体的には、Si、InP、GaN、GaAs、InGaAs、InGaAlAs、SiGe、SiC等の半導体;ホウ素珪酸ガラス(パイレックス(登録商標))、石英ガラス(SiO)、サファイア(Al)、ZrO、Si、AlN、MgAl、等の酸化物、炭化物又は窒化物;BaTiO、LiNbO,SrTiO、LiTaO、等の圧電体又は誘電体;ダイヤモンド;Al、Ti、Fe、Cu、Ag、Au、Pt、Pd、Ta、Nb等の金属;カーボンなどが挙げられる。
有機材料として具体的には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ベンゾシクロブテン樹脂、ポリベンゾオキサゾールなどが挙げられる。
【0098】
各材料は主な用途として、次のものに使用される。
Siは、半導体メモリー、LSIの積層、CMOSイメージセンサー、MEMS封止、光学デバイス、LEDなど;
SiOは、半導体メモリー、LSIの積層、MEMS封止、マイクロ流路、CMOSイメージセンサー、光学デバイス、LEDなど;
BaTiO、LiNbO,SrTiO、LiTaOは、弾性表面波デバイス;
PDMSは、マイクロ流路;
InGaAlAs、InGaAs、InPは、光学デバイス;
InGaAlAs、GaAs、GaNは、LEDなど。
【0099】
基板の表面(少なくとも、硬化物層と接する面)は、水酸基、エポキシ基、カルボキシ基、アミノ基及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有することが好ましい。これにより、組成物の硬化物の層との接合強度をより強固なものにすることができる。
【0100】
水酸基を有する表面は、基板の表面に、プラズマ処理、薬品処理、オゾン処理等の表面処理を行うことで得ることができる。
【0101】
エポキシ基、カルボキシ基、アミノ基又はメルカプト基を有する表面は、基板の表面に、エポキシ基、カルボキシ基、アミノ基又はメルカプト基を有するシランカップリング等を用いた表面処理を行うことで得ることができる。
【0102】
水酸基、エポキシ基、カルボキシ基、アミノ基及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1種は、基板に含まれる元素と結合した状態であることが好ましく、Si、Al、Ti、Zr、Hf、Fe、Ni、Cu、Ag、Au、Ga、Ge、Sn、Pd、As、Pt、Mg、In、Ta及びNbからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と結合した状態であることがより好ましく、水酸基を含むシラノール基(Si-OH基)の状態であることがさらに好ましい。
【0103】
基板は、少なくとも一方(好ましくは、硬化物層に対向する側)の面に電極を有していてもよい。
【0104】
基板の厚さは1μm~1mmであることが好ましく、2μm~900μmであることがより好ましい。基板が複数ある場合、上記厚さはそれぞれの基板の厚さであり、同じであっても異なっていてもよい。
【0105】
基板の形状は、特に制限されない。例えば、基板がシリコン基板である場合、層間絶縁層(Low-k膜)が形成されたシリコン基板であってもよい。基板には、微細な溝(凹部)、微細な貫通孔などが形成されていてもよい。
【0106】
本実施形態の積層体は、硬化物層と接していない基板をさらに含んでもよい。硬化物層と接していない基板の好ましい材質その他の態様は、上述した基板と同様である。
【0107】
硬化物層の厚さは特に制限されず、用途に応じて設定できる。例えば0.1nm~20000nmであってもよく、0.5nm~10000nmであってもよく、5nm~5000nmであってもよく、5nm~3000nmであってもよい。
【0108】
硬化物層は、最大径が0.3μm以上の無機または樹脂フィラーの含有量が硬化物層全体の30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、0質量%であることがさらに好ましい。
硬化物層に含まれるフィラーの含有量が上記範囲であると、硬化物層の厚みを薄くした場合でも、積層体の接合不良を抑制することができる。また、硬化物層が形成された第1の基板を、第2の基板に積層する際、各基板に形成されたアラインメントマークを機械で認識し、位置合わせを行う場合がある。このときにフィラーの含有量が上記範囲であると硬化物層の透明性が向上し、より正確な位置合わせが可能となる。
【0109】
硬化物層のガラス転移温度(Tg)は、100℃以上400℃以下であることが好ましい。Tgが上記温度範囲であると、高温プロセスを経た際に膜の弾性率が小さくなることにより、積層体の反りや内部応力を低減させることができ、剥離等による接合強度の低下を抑制させることが出来る。Tgは100℃以上350℃以下であることがより好ましく、120℃以上300℃以下であることがさらに好ましく、120℃以上250℃以下であることがさらに好ましい。
【0110】
硬化物層のTgは、下記の方法で測定する。
組成物を樹脂フィルム上に塗布し、窒素雰囲気中、350℃、1時間でベークすることで硬化させる。続いて樹脂フィルムから剥離し、膜厚が10μm~70μmの硬化物層を作成する。示差走査熱量(DSC)計測計(TAインスツルメント社製、DSC2500)を用いて、窒素雰囲気下、23℃~400℃における熱流(昇温速度および冷却速度:10℃/分)を求め、変曲点の温度から硬化物層のTgを求める。
【0111】
硬化物層の吸水率は、3質量%以下であることが好ましい。吸水率が上記数値範囲内であると、樹脂からのアウトガスを効果的に抑制することができ、積層体のボイドや剥離等の不良の発生を効果的に抑制することが出来る。吸水率は2質量%以下であることがより好ましい。
【0112】
硬化物層の吸水率は、吸水標準試験法(ASTM D570)に従い、Tgの測定と同様にして得た硬化物層を純水に浸漬(23℃、24時間)する前後の質量変化から測定する。
【0113】
硬化物層の250℃における弾性率は、0.01GPa以上20GPa以下であることが好ましい。250℃における弾性率が上記数値範囲内であると、積層体を加熱した際の内部応力を小さくすることができ、反り、剥がれ、デバイス層の誤動作等を抑制することができる。硬化物層の250℃における弾性率は0.01GPa以上12GPa以下であることがより好ましく、0.1GPa以上8GPa以下であることがさらに好ましい。
【0114】
硬化物層の250℃における弾性率は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、下記の方法で測定する。
Si基板上に形成した硬化物層について、AFM(商品名 E-sweep、エスアイアイナノテクノロジー社製、AFMフォースマッピングモード、Si製探針(バネ定数2N/m相当))を用いて、真空下、ステージ温度250℃でのフォースカーブ測定結果からDMT理論式でフィッティングを行い、弾性率を算出する。
DMT理論式を下記に示す。式中、Eは樹脂膜の弾性率を表し、νは樹脂膜のポアソン比、Rはカンチレバーの先端径、δは押込み深さ、Fは試料に印可される力、Fは最大凝着力を示す。ポアソン比は、0.33と仮定する。
【0115】
【数1】
【0116】
硬化物層の室温(23℃)における硬さは、0.05GPa以上1.8GPa以下であることが好ましい。硬さが上記数値範囲内であると、積層体へワイヤーボンディングなどの外力が加わった際に膜の割れを抑制することが出来る。硬さは0.2GPa以上1.5GPa以下であることがより好ましく、0.3GPa以上1.0GPa以下であることがさらに好ましい。
【0117】
硬化物層の硬さは、ISO14577に準拠する方法(ナノインデンテーション)で測定される硬度とする。
具体的には、硬化物層をシリコン基板上に形成した状態で、ナノインデンテーター(バーコビッチ型圧子)を用い、押込み深さ20nmの条件にて23℃における除荷-変位曲線を測定する。参考文献(Handbook of Micro/nano Tribology (second Edition)、Bharat Bhushan編、CRCプレス社)の計算手法に従い、最大負荷から、23℃における硬さを計算により求める。硬さ(H)は、下記式により定義される。式中、Pmaxは押込み深さ20nmにおける最大負荷を表し、Aは押込み時の圧子の試料への投影面積を表す。
【0118】
【数2】
【0119】
硬化物層の室温(23℃)における弾性率は、0.1GPa以上20GPa以下であることが好ましい。硬化物層の室温における弾性率が上記範囲内であると、積層体へ圧縮・せん断などの外力が加わった際の反り、剥がれ等を抑制できる。室温における弾性率は0.5GPa以上15GPa以下であることがより好ましく、1GPa以上10GPa以下であることがさらに好ましい。
硬化物層の室温における弾性率は、硬化物層をシリコン基板上に形成した状態で、ナノインデンテーター(バーコビッチ型圧子)を用い、押込み深さ20nmの条件にて23℃における除荷-変位曲線を測定する。参考文献(Handbook of Micro/nano Tribology (second Edition)、Bharat Bhushan編、CRCプレス社)の計算手法に従い、最大負荷及び最大変位から、23℃における弾性率を計算により求める。
弾性率は、下記式により定義される。式中、Eは弾性率を表し、Eは圧子のヤング率を表し、1140GPaであり、νは圧子のポアソン比を表し、0.07であり、E及びνはそれぞれ試料のヤング率及びポアソン比を表す。
【0120】
【数3】
【0121】
(積層体の積層構造の例)
積層体は、半導体装置の部品をはじめとした種々の用途に用いることができる。
以下に、各用途における基板積層体の積層構造の例を示す。
MEMSパッケージング用;Si/硬化物層/Si、SiO/硬化物層/Si、SiO/硬化物層/SiO、Cu/硬化物層/Cu、
マイクロ流路用;PDMS/硬化物層/PDMS、PDMS/硬化物層/SiO
CMOSイメージセンサー用;SiO/硬化物層/SiO、Si/硬化物層/Si、SiO/硬化物層/Si、
シリコン貫通ビア(TSV)用;SiO(Cu電極付き)/硬化物層/SiO(Cu電極付き)、
メモリー、LSI用;SiO/硬化物層/SiO
光学デバイス用;(InGaAlAs、InGaAs、InP、GaAs)/硬化物層/Si、
LED用;(InGaAlAs、GaAs、GaN)/硬化物層/Si、(InGaAlAs、GaAs、GaN)/硬化物層/SiO、(InGaAlAs、GaAs、GaN)/硬化物層/(Au、Ag、Al)、(InGaAlAs、GaAs、GaN)/硬化物層/サファイア、
弾性表面波デバイス用;(BaTiO、LiNbO、SrTiO、LiTaO)/硬化物層/(MgAl、SiO、Si、Al)。
【0122】
積層体は、上述した構成のほか、基板の表面、表面に形成された凹部、貫通孔等に絶縁膜として形成された硬化物を備えるものであってもよい。
硬化物層は、一時的に形成されるものであってもよい。例えば、犠牲膜のような半導体装置の製造工程にて基板上に一時的に形成され、後工程にて除去される用途にも用いることができる。
【0123】
積層体の引張接合強度は、意図せぬ剥離を抑制する観点及び信頼性の観点から高いほど好ましい。具体的には、積層体の引張接合強度は5MPa以上であることが好ましく、10MPa以上であることがより好ましい。積層体の引張接合強度は、引張試験機で測定して得られる降伏点より求めることができる。なお、引張接合強度は、200MPa以下であってもよく、100MPa以下であってもよい。
【0124】
積層体は、アウトガスによる接合強度の低下を抑制する観点から、アウトガスの圧力が2×10-6Paになる温度は、400℃以上であることが好ましく、420℃以上であることがより好ましく、440℃以上であることがさらに好ましい。上記アウトガスの圧力が2×10-6Paになる温度は、減圧環境下で測定された値である。減圧環境下とは、10-7Paである。なお、アウトガスの圧力が2×10-6Paになる温度は、600℃以下であってもよく、550℃以下であってもよい。
【0125】
積層体は、ボイドの合計の面積の割合(ボイド面積率)が、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。ボイド面積率は、赤外光透過観察において、ボイドの面積の合計を、透過光を観測できた面積の合計で除し、かつ100を乗じて算出した値である。赤外光透過観察が困難な場合は、超音波顕微鏡の反射波、超音波顕微鏡の透過波、又は赤外光反射光を用いて、好ましくは超音波顕微鏡の反射波を用いて同様の手法で求めることができる。
【0126】
積層体の接合強度は、意図せぬ剥離の抑制及び信頼性の観点から高いほど好ましい。具体的には、接合強度を表面エネルギーで表した場合、0.2J/m以上であることが好ましく、0.5J/m以上であることがより好ましく、1.0J/m以上であることがさらに好ましく、2.5J/m以上であることが特に好ましい。
積層体が第1の基板と第2の基板とを含む場合、第1の基板と第2の基板との接合強度を表す表面エネルギーが上記範囲内であることが好ましい。積層体の表面エネルギーは、後述するブレード挿入試験により求めることができる。
【0127】
<積層体の製造方法>
本実施形態の積層体の製造方法は、
1級窒素原子及び2級窒素原子から選択される少なくとも1つを含むカチオン性官能基とSi-O結合とを有する化合物(A)と、
-C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、3つ以上の-C(=O)OX基のうち、1つ以上6つ以下が-C(=O)OH基である化合物(B)と、
環構造及び前記環構造に直接結合した1つ以上の1級窒素原子を有する化合物(C)と、を含み、
化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子と化合物(C)に含まれる1級窒素原子との合計に占める化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子の割合が3モル%~95モル%である層を基板上又は基板間に形成する第1工程と、前記層を硬化させる第2工程と、を有する積層体の製造方法である。
【0128】
上記方法で使用する基板及び化合物の詳細及び好ましい態様は、上述した組成物及び積層体に関して記載した詳細及び好ましい態様と同様である。
【0129】
(第1工程)
第1工程を実施する方法は特に制限されない。例えば、化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)を一括して(すなわち、上述した組成物の状態で)基板上又は基板間に付与して層を形成しても、化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)を複数の工程に分けて基板上又は基板間に付与して形成してもよい。化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)を複数の工程に分けて付与する場合、その順序は特に制限されない。また、それぞれを分けて付与しても、いずれか2成分を一括して付与してもよい。化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)を複数の工程に分けて付与する場合、各工程後に必要に応じて乾燥、洗浄等を実施してもよい。
【0130】
基板上又は基板間に厚みの均等な層を形成する観点からは、化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)は溶液の状態であることが好ましい。溶液は、例えば、上述した組成物に含まれてもよい溶媒を用いて調製することができる。
【0131】
化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)を含む層を形成する方法は特に制限されず、通常用いられる方法により行ってもよい。例えば、ディッピング法、スプレー法、スピンコート法、バーコート法などが挙げられる。これらの中で、ミクロンサイズの厚みを有する層を形成する場合はバーコート法を用いることが好ましく、ナノサイズ(数nm~数百nm)の厚みを有する層を形成する場合はスピンコート法を用いることが好ましい。
【0132】
スピンコート法により層を形成する方法は特に限定されず、例えば、基板をスピンコーターで回転させながら、その表面に溶液を滴下し、次いで基板の回転数を上げて乾燥させる方法を用いることができる。基板の回転数、溶液の滴下量及び滴下時間、乾燥時の基板の回転数などの諸条件は特に制限されず、形成する層の厚さなどを考慮しながら適宜調整すればよい。
【0133】
(第2工程)
第2工程では、化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)を含む層を硬化させる。具体的には、層に含まれる化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)を反応させて、これらの反応生成物を含む層(硬化物層)を形成する。
化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)を反応させる方法としては、これらの成分が反応する温度(例えば、70℃~450℃)で加熱する方法が挙げられる。
上記温度は、100℃~450℃が好ましく、100℃~400℃がより好ましく、150℃~350℃がさらに好ましい。また、前記温度は、70℃~280℃であってもよく、80℃~250℃であってもよく、90℃~2000℃であってもよい。
【0134】
加熱するときの圧力は特に制限されない。例えば、絶対圧(17Pa)超、大気圧以下で実施してもよい。前記圧力は、1000Pa以上大気圧以下が好ましく、5000Pa以上大気圧以下がより好ましく、10000Pa以上大気圧以下がさらに好ましい。
【0135】
加熱の方法は特に制限されず、炉又はホットプレートを用いた通常の方法により行うことができる。炉としては、例えば、アペックス社製のSPX-1120、光洋サーモシステム(株)製のVF-1000LP等を用いることができる。
また、加熱工程における加熱は、大気雰囲気下で行ってもよく、不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等)雰囲気下で行ってもよい。
【0136】
加熱の時間は特に制限されず、例えば3時間以下であってもよく、1時間以下であってもよい。加熱の時間の下限は特に制限されず、例えば30秒以上であってもよく、3分以上であってもよく、5分以上であってもよい。
【0137】
加熱を70℃~250℃で加熱する場合、加熱時間は300秒以下であってもよく、200秒以下であってもよく、120秒以下であってもよく、80秒以下であってもよい。この場合の加熱時間は、10秒であってもよく、20秒以上であってもよく、30秒以上であってもよい。
【0138】
加熱の温度は一定であっても、変化させてもよい。例えば、低温加熱工程(70℃~250℃)で加熱する工程と、より高温(100℃~450℃)で加熱する工程と、を備えていてもよい。
【0139】
加熱工程の時間を短縮させる目的で、基板上に付与された化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)に対して紫外線照射を行ってもよい。紫外線としては、波長170nm~230nmの紫外光、波長222nmのエキシマ光、波長172nmのエキシマ光などが好ましい。また、不活性ガス雰囲気下で紫外線照射を行うことが好ましい。
【0140】
(加圧工程)
積層体の製造方法において、第2工程(加熱)と同時、又は第2工程(加熱)の後に、積層体をプレスすることが好ましい。積層体をプレスすることで、基板と硬化物層とが接する面積が増加して、接合強度がより向上する傾向にある。
【0141】
積層体を加熱しながらプレスする場合のプレス圧は、0.1MPa~50MPaが好ましく、0.1MPa~10MPaがより好ましく、0.1MPa~5MPaがさらに好ましい。プレス装置としては、例えば、(株)東洋精機製作所製のTEST MINI PRESS等を用いればよい。
積層体を加熱しながらプレスする場合の加熱温度は、100℃~450℃が好ましく、100℃~400℃がより好ましく、150℃~350℃がさらに好ましい。これにより、基板に半導体回路が形成されている場合に、半導体回路へのダメージが抑制される傾向にある。
【0142】
積層体を加熱した後にプレスする場合のプレス圧は、0.1MPa~50MPaが好ましく、0.1MPa~10MPaがより好ましい。プレス装置としては、例えば、(株)5精機製作所製のTEST MINI PRESS等を用いればよい。また、加圧時間は、特に制限されないが、例えば0.5秒~1時間とすることができる。
【0143】
積層体を加熱した後にプレスする際の温度は、10℃以上100℃未満が好ましく、10℃~70℃がより好ましく、15℃~50℃であることがさらに好ましく、20℃~30℃であることが特に好ましい。前記温度は、基板の化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)が付与された面の温度を指す。
【0144】
(後加熱工程)
積層体の製造方法は、第2工程の後、積層体をさらに加熱する後加熱工程を有していてもよい。後加熱工程を有することにより、接合強度がより優れる傾向にある。
【0145】
後加熱工程における加熱温度は、100℃~450℃が好ましく、150℃~420℃がより好ましく、150℃~400℃がさらに好ましい。
後加熱工程が行われる際の圧力は、絶対圧17Pa超、大気圧以下であってもよく、1000Pa以上大気圧以下が好ましく、5000Pa以上大気圧以下がより好ましく、10000Pa以上大気圧以下がさらに好ましい。
後加熱工程では、積層体のプレスは行わないことが好ましい。
【実施例
【0146】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0147】
(組成物の調製)
表1に示す成分を含む実施例及び比較例の組成物をそれぞれ調製した。各成分の量は、化合物(A)及び化合物(C)の合計のアミン当量数が化合物(B)のカルボキシ基当量数と等しく、かつ、化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子と化合物(C)に含まれる1級窒素原子との合計に占める化合物(A)に含まれる1級窒素原子及び2級窒素原子の割合が表1に示す値(モル%)となるように調整した。化合物(A)中に記載している値(質量%)は、化合物(A)に対する値とした。
各組成物は、極性溶媒として水、エタノール及びN,N-ジメチルアセトアミドを含んでいる。
【0148】
【表1】
【0149】
表1に示す成分の詳細は、下記の通りである。
3APDES…3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン
3APTES…3-アミノプロピルトリエトキシシラン
M3TMSPA…N-メチル-3-(トリメトキシシリル)プロピルアミン
ODPA…4,4’-オキシジフタル酸無水物をエタノールで開環して得られるハーフエステル化合物
BPDA…3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物をエタノールで開環して得られるハーフエステル化合物
PMDA…ピロメリット酸二無水物をエタノールで開環して得られるハーフエステル化合物
TFDB…4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル
AAPD…4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル
pXDA…パラキシレンジアミン
【0150】
(接合強度の評価)
シリコン基板(基板1)の上に組成物をスピンコート法により塗布し、その上に別のシリコン基板(基板2)を配置し、1MPaで加圧しながら250℃に加熱して、硬化物層が基板1と基板2の間に配置された積層体を得た。次いで、既報(Journal of Applied Physics, 64 (1988) 4943-4950)に記載された手法に従って、基板と硬化物層との接合界面の表面エネルギーをブレード挿入試験で測定し、接合強度の指標とした。具体的には、基板1と基板2との間に厚さ0.25mmのブレードを挿入し、赤外線光源と赤外線カメラを用いて、ブレードの刃先から基板1と基板2とが剥離した距離を測定し、下記式に基づいて表面エネルギーを測定した。表面エネルギーの値が大きいほど、基板に対する接合強度が大きいと考えられ、0.2J/m以上であれば接合強度が充分であると評価できる。結果を表1に示す。
【0151】
γ=3×10×t ×E×t/(32×L×E×t
ここで、γは表面エネルギー(J/m)、tはブレード厚さ(m)、Eは基板1及び基板2のヤング率(GPa)、tは基板1及び基板2の合計厚さ(m)、Lはブレード刃先からの基板1と基板2とが剥離した距離(m)を表す。
【0152】
(熱膨張率の評価)
ポリイミドフィルム(宇部興産株式会社、「ユーピレックス」)の片面に組成物をスピンコート法により塗布し、350℃で加熱して、厚さが13μm~40μmの硬化物層を形成した。次いで、ポリイミドフィルムから硬化物層を剥離し、自立膜を得た。熱機械分析(TMA)装置(日立ハイテクサイエンス社製、TMA7100C)を用いて、窒素雰囲気下、250℃における平均線膨張係数(CTE)を測定した。CTEの値が小さいほど、熱膨張率が小さいと考えられる。結果を表1に示す。
【0153】
表1に示すように、本実施形態の組成物に相当する組成物を用いた実施例は、化合物(C)を含まない組成物を用いた比較例1、及び化合物(C)に代えてアミノ基が環構造に直接結合していないジアミン化合物を含む組成物を用いた比較例2よりも硬化物層のCTEが小さく、熱膨張率がより低いと評価できる。
さらに、本実施形態の組成物に相当する組成物を用いた実施例は、化合物(A)を含まない組成物を用いた比較例3よりも表面エネルギーが大きく、接合強度により優れると評価できる。
【0154】
日本国特許出願第2020-152329号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。