(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】改善されたトライボロジー材料特性を有するポリエーテルエーテルケトンの熱可塑性組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
C08L 71/08 20060101AFI20230919BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230919BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20230919BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230919BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230919BHJP
C08K 3/30 20060101ALI20230919BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20230919BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20230919BHJP
B29B 7/46 20060101ALI20230919BHJP
B29B 9/02 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
C08L71/08
C08K3/36
C08K7/06
C08K3/22
C08K3/04
C08K3/30
C08J3/22 CEZ
C08J5/04
B29B7/46
B29B9/02
(21)【出願番号】P 2023504352
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(86)【国際出願番号】 EP2021069173
(87)【国際公開番号】W WO2022022988
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-03-09
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カール カウマン
(72)【発明者】
【氏名】レインハルド ラインマン
(72)【発明者】
【氏名】ヨシャ ザントハウゼン
(72)【発明者】
【氏名】フランク ロレンズ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェラ シーマン
(72)【発明者】
【氏名】アロイス ケイ スチラーブ
(72)【発明者】
【氏名】レナ ジョシュ
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル ブッセ
(72)【発明者】
【氏名】リュ リン
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-533872(JP,A)
【文献】特表2015-529730(JP,A)
【文献】特開2011-184693(JP,A)
【文献】特表2007-506833(JP,A)
【文献】欧州特許第01511625(EP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 71/00-71/14
C08K 3/00-3/36
C08K 7/06
C08J 3/22
C08J 5/04
B29B 7/46
B29B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性組成物であって、
A)ポリエーテルエーテルケトンを含むマトリックス成分を有し、
B)充填剤成分を有し、
式Iのポリエーテルエーテルケトン構造要素を含み、
400℃、荷重2.16kg、8mmの長さおよび2.095mmの直径を有する毛細管、入口角180°で決定され
た10~90cm
3/10分のMVRを有する、前記熱可塑性組成物の全組成に対して30重量%~95重量%のポリエーテルエーテルケトンがマトリックス成分A)として存在すること、および
前記全組成に対して、
1重量%~20重量%の疎水性
ヒュームド二酸化ケイ素、
1重量%~20重量%の炭素繊維、
1重量%~20重量%の二酸化チタン粒子、
1重量%~20重量%のグラファイト粒子、および
1重量%~20重量%の二価金属硫化物およびアルカリ土類金属硫酸塩から選択される微粒子潤滑剤を含む、
前記熱可塑性組成物の前記全組成中5重量%~70重量%の無機および炭素含有粒子が充填剤成分B)として存在すること
を特徴とし、
前記全組成が100重量%であり、
潤滑剤を含まないトライボロジー用途のコンポーネントとして使用するための、熱可塑性組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性組成物の前記全組成が、充填剤成分として、
2重量%~20重量%
の疎水性ヒュームド二酸化ケイ素、
2重量%~20重量%の炭素繊維、
1重量%~15重量%の、二価金属硫化物およびアルカリ土類金属硫酸塩から選択される微粒子潤滑剤、
2重量%~20重量%のグラファイト粒子、および
1重量%~15重量%の二酸化チタン粒子を含むことを特徴とし、
前記熱可塑性組成物の前記全組成が100重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、
式Iの構造要素を含有する30重量%~81重量%のポリエーテルエーテルケトン、
5重量%~15重量%
の疎水性ヒュームド二酸化ケイ素、
2重量%~8重量%の、二価金属硫化物およびアルカリ土類金属硫酸塩から選択される微粒子潤滑剤、
5重量%~15重量%のグラファイト粒子、
2重量%~8重量%の二酸化チタン粒子、および
5重量%~15重量%の炭素繊維を含むことを特徴とし、
前記熱可塑性組成物の前記全組成が100重量%である、請求項1または2のいずれかに記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、
式Iの構造要素を含有する30重量%~73.5重量%のポリエーテルエーテルケトン、
7.5重量%~12.5重量%
の疎水性ヒュームド二酸化ケイ素、
2重量%~8重量%の、二価金属硫化物およびアルカリ土類金属硫酸塩から選択される微粒子潤滑剤、
7.5重量%~12.5重量%のグラファイト粒子、
2重量%~8重量%の二酸化チタン粒子、および
7.5重量%~12.3重量%の炭素繊維を含むことを特徴とし、前記熱可塑性組成物の前記全組成が100重量%である、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記炭素繊維が15~555マイクロメートルの繊維長を
有することを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記疎水性ヒュームド二酸化ケイ素が、2~5μ
mの粒径分布D50、および150μm未満のD10
0を有し、粒径分布が乾式分散粒子を用いてISO 13320に応じて決定されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記疎水性ヒュームド二酸化ケイ素が、前記二酸化ケイ素に基づいて、ISO 3262-20に応じて1重量%~2重量%の炭素含有量を有することを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記二酸化チタン粒子が二峰性粒径分布を有することを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記グラファイト粒子が、5~15μ
mの粒径分布D50、および50μm未
満のD100を有し、粒径分布が乾式分散粒子を用いてISO 13320に応じて決定されていることを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記微粒子潤滑剤がZnSであり、500~1000nmのD
50および20μm未満のD
90を有する粒径分布を有することを特徴とする、請求項1~9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の熱可塑性組成物を製造する方法であって、
i)第1のマスターバッチが、式Iの構造要素を含むポリエーテルエーテルケトンを
疎水性ヒュームド二酸化ケイ素と押出機中で高温で混合することで製造され、前記第1のマスターバッチが絶対圧1000~5mbarの真空圧力で製造され、第1のマスターバッチが得られる、少なくとも1つの工程i)を有し、
この第1のマスターバッチがベースフィードに供給され、炭素繊維が下流に供給され、前記熱可塑性組成物が得られる、方法。
【請求項12】
前記第1のマスターバッチが、絶対圧300~100mbarの真空圧力で製造されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
i)前記第1のマスターバッチが、380~450℃で
、押出
機で製造されること、および/または
ii)第2のマスターバッチが、380~450℃で
、押出
機で製造されること、および/または
iii)前記熱可塑性組成物が、380~450℃で製造されること、
を特徴とする、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記熱可塑性組成物が、押出
機で製造され、前記押出機の押出ダイで排出され、成形さ
れることを特徴とする、請求項11~13のいずれかによって入手可能なペレット化材料。
【請求項15】
請求項14によって入手可能な成形物品であって、
a)1成分~多成分射出成形プロセスを含む射出成形プロセス、
b)熱溶解積層法(FDM)またはフィラメント溶融製法(FFF)、
c)加圧成形法、
d)
共押出法を含む押出法、および/または
e)材料除去プロセス、
によって製造されることを特徴とする、成形物品。
【請求項16】
潤滑剤を含まないトライボロジー用途におけるコンポーネントとしての、請求項15に記載の成形物品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックス成分A)および充填剤成分B)を含む熱可塑性組成物に関し、マトリックス成分A)はポリエーテルエーテルケトンを含み、充填剤成分B)は無機粒子および炭素含有粒子を含み、全組成は、疎水性二酸化ケイ素、炭素繊維、二酸化チタン粒子、グラファイト粒子、ならびに二価金属硫化物およびアルカリ土類金属硫酸塩から選択される微粒子潤滑剤の等しいまたは異なる割り当てを含む。
【背景技術】
【0002】
欧州特許第1511624B1号、欧州特許第1511625B1号および欧州特許第1526296B1号は、金属保護層を有する滑り軸受複合材料を製造するためのポリエーテルエーテルケトンの調製を開示しており、ここで滑り軸受複合材料は、ポリマーマトリックスの材料特性を変えるための硫化亜鉛および/または硫酸バリウム、炭素繊維、グラファイト粒子および二酸化チタンと共に、PEEKベースの滑り層材料を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】欧州特許第1511624B1号
【文献】欧州特許第1511625B1号
【文献】欧州特許第1526296B1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二酸化炭素を節減するため、およびエネルギー需要を最小化するために、軽量で高性能な材料であって、その特性が工具製造、自動車部門および航空機構造における金属材料の特性に相当する材料への需要が、それらを置き換えるために高まっている。
さらに、特定の選択された充填剤およびその異方性配向は、巨視的な材料特性にかなり大きな影響を及ぼし得る。さらに、特定の充填剤は、高温のために、または電磁放射線の作用下で、触媒活性部位としてのポリマーマトリックスの分解促進に寄与し得る。これは、ヘテロ原子を有するポリマーマトリックスの場合に特に関連し得る。
したがって、対処される問題は、改善されたトライボロジー特性および延性特性、特に高圧下および/または高温での改善された摩耗率を有するポリエーテルエーテルケトンベースの組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
驚くべきことに、炭素繊維と組み合わせた疎水性二酸化ケイ素、特に疎水性ヒュームド二酸化ケイ素は、延性に悪影響を及ぼすことなく、高温でのトライボロジー応力下でのポリエーテルエーテルケトンの摩耗率を改善することがここで見出された。
本発明は、熱可塑性組成物を提供し、組成物は、
A)ポリエーテルエーテルケトンを含むマトリックス成分を有し、
B)充填剤成分を有し、
式Iのポリエーテルエーテルケトン構造要素を含み、
400℃、荷重2.16kg、毛細管(長さ8mm* 直径2.095mm)で決定した10~90cm
3/10分のMVRを有する、熱可塑性組成物の全組成に対して30重量%~95重量%のポリエーテルエーテルケトンがマトリックス成分A)として存在し、
全組成に対して、
1重量%~20重量%の疎水性二酸化ケイ素、
1重量%~20重量%の炭素繊維、
1重量%~20重量%の二酸化チタン粒子、
1重量%~20重量%のグラファイト粒子、および
1重量%~20重量%の二価金属硫化物およびアルカリ土類金属硫酸塩から選択される微粒子潤滑剤を含む、
5重量%~70重量%の無機および炭素含有粒子が熱可塑性組成物の全組成中に充填剤成分B)として存在すること
を特徴とし、
全組成は、100重量%であり、
潤滑剤を含まないトライボロジー用途のコンポーネントとして使用するためのものである。
【0006】
本発明はさらに、本発明による組成物を製造する方法を提供し、本発明による方法は、疎水性二酸化ケイ素を含有する少なくとも1つのマスターバッチをベースフィードに供給し、炭素繊維を下流で供給することによって、押出機中で配合することによって実施される。
【0007】
本発明はさらに、成形物品の製造のための本発明による組成物の使用、および潤滑剤を含まないトライボロジー用途における、それから製造されたコンポーネントを提供する。
本発明による組成物、本発明による方法および本発明による使用は、本発明がこれらの例示的な実施形態に限定されることを何ら意図することなく、以下の例として記載される。範囲、一般式、または化合物のクラスが以下に記載されている場合、これらは、明示的に言及された化合物の対応する範囲または群だけでなく、個々の値(範囲)または化合物を抽出することによって得ることができる化合物のすべての部分範囲および部分群も包含することを意図している。本明細書の文脈で文献が引用される場合、その全内容は、本発明の開示内容の一部であることが意図される。パーセンテージデータが以下に提供される場合、特に明記しない限り、これらは重量%でのデータである。組成物の場合、%値は、特に明記しない限り、全組成に基づく。以下に平均値を示す場合、特に記載のない限り、これらは質量平均(重量平均)である。以下に測定値が提供される場合、これらの測定値は、特に明記しない限り、101 325Paの圧力および25℃の温度で測定された。
保護の範囲には、本発明の製品の商業的に従来使用されている完成および包装された形態が、それ自体だけでなく可能な粉砕された形態も、特許請求の範囲で定義されていない限りにおいて含まれる。
【0008】
本発明による組成物およびそれから製造されるコンポーネントの1つの利点は、トライボロジー特性が従来技術よりも改善されることである。特に、摩擦が低減され、摩耗が低減される。これは、本発明による組成物におけるSiO2粒子の特に有利な使用を示す。
【0009】
本発明による組成物のさらなる利点は、特に1つのコンポーネントが金属および本発明による他の組成物からなるシステムおける、摩擦の低減である。高温であっても摩擦係数が低いことがさらに有利である。さらに、摩擦の発生に関する特性が改善される。
特別に調整されたプロセス設定の1つの利点は、第1に均質な組成物の生成であり、第2に、使用される炭素繊維に関して、炭素繊維が規定された方法で短縮されることである。
有利には、特に本発明による組成物を用いて高温でトライボロジー用途を達成することが可能である。
【0010】
さらに、疎水性二酸化ケイ素粒子と組み合わせた炭素繊維の特定の繊維長が、ポリエーテルエーテルケトンのトライボロジー特性にさらなるプラスの効果を及ぼすことが分かった。疎水化二酸化ケイ素、特に疎水化ヒュームド二酸化ケイ素の使用は、通例のケイ素粒子によって及ぼされる熱可塑性組成物の製造における溶融粘度への悪影響を明白に減少させた。
【0011】
本発明による組成物に必要な高い加工温度での熱可塑性組成物の加工性をさらに改善するために、溶融粘度を、ポリエーテルエーテルケトンの分子量の選択によって特に充填剤成分に適応させた。本発明による組成物は、マトリックス成分として、400℃、荷重2.16kgで、長さ8mmかつ直径2.095mmの毛細管を用いて決定された、10~90cm3/10分、好ましくは15~80cm3/10分、より好ましくは20~75cm3/10分、特に好ましくは30~60cm3/10分のMVRを有するポリエーテルエーテルケトンを含む。
【0012】
マトリックス成分は、好ましくはポリエーテルエーテルケトンからなる。
使用される炭素繊維は、加工前に、好ましくは4~8mm、より好ましくは5~7mmの繊維長、好ましくは5~10マイクロメートル(μm)、より好ましくは6~8μmの直径を有する。
【0013】
本発明による組成物は、第1にプロセス設定が均質な組成物の製造を可能にし、第2に、使用される炭素繊維に関して、使用される炭素繊維が短縮されるという点で有利であることが見出されている。短縮された炭素繊維がプロセスレジームの結果として特徴的な分布を有することが、ここで特に有利である。
【0014】
本発明による組成物は、好ましくは15~555μmの繊維長を有する炭素繊維を含み、好ましくは炭素繊維の少なくとも95%(繊維の数に基づく)は、15~350マイクロメートルの繊維長を有し、より好ましくは炭素繊維の少なくとも90%は、20~300μmの繊維長を有し、特に好ましくは炭素繊維の少なくとも75%は、25~180μmの繊維長を有し、特に好ましくは炭素繊維の少なくとも50%は、30~110μmの繊維長を有する。
【0015】
本発明による組成物に使用される疎水性二酸化ケイ素は、好ましくはヒュームド疎水性二酸化ケイ素である。
【0016】
当業者は、ヒュームド二酸化ケイ素粒子の製造方法を知っており、これらは、好ましくはハロシランの分解による酸化火炎処理によって得られる。
【0017】
処理前に、疎水性ヒュームド二酸化ケイ素は、2~5μm、好ましくは2.5~4μmの粒径分布D50、および150μm未満のD100、好ましくは100μm未満のD100を有し、粒径分布は乾式分散粒子を用いてISO 13320に従って決定されている。
【0018】
ISO13320によれば、粒径は、好ましくは、乾燥空気流中でMalvern Mastersizer 3000を用いて決定される。
【0019】
疎水性ヒュームド二酸化ケイ素は、二酸化ケイ素に基づいて、ISO 3262-20に応じて1重量%~2重量%の炭素含有量を有する。
疎水性ヒュームド二酸化ケイ素は、一次粒径が10~30ナノメートルの一次粒子を有することが好ましい。
【0020】
疎水性ヒュームド二酸化ケイ素は、メチル基で修飾されていることが好ましい。
【0021】
さらに好ましくは、疎水性ヒュームド二酸化ケイ素は、400nm~100マイクロメートルの凝集体の粒径を有する二酸化ケイ素凝集体の凝集体を含む。ここで、D50が2~20マイクロメートルである粒径を有する、特に50マイクロメートル以下のD90を有する二酸化ケイ素の凝集粒子の凝集体が使用される場合がさらに好ましく、2~5マイクロメートルのD50、好ましくは20マイクロメートル以下のD90を有する凝集体が好ましい。凝集体が、処理条件のために、少なくとも部分的に凝集して凝集粒子を形成する場合、特に有利であることが分かった。したがって、組成物は、好ましくは二酸化ケイ素の凝集粒子の凝集体を含む疎水性ヒュームド二酸化ケイ素を含み、ここで二酸化ケイ素は表面メチル基を有する。
【0022】
10ナノメートル~100ナノメートル、好ましくは10ナノメートル~30ナノメートルの一次粒子を含む疎水性ヒュームド二酸化ケイ素が特に好ましく、ここで二酸化ケイ素は特に有機官能性シランで表面修飾されており、二酸化ケイ素は好ましくはアルキル官能性シランで修飾されており、二酸化ケイ素はより好ましくは表面メチル基を有する。
【0023】
本発明による組成物のグラファイト粒子は、好ましくは70μm未満、より好ましくは60μm未満、特に好ましくは50μm未満、特に好ましくは40μm未満のD100を有する粒径分布を有する。
【0024】
グラファイト粒子は、好ましくは、5~15μm、好ましくは8~12μmのD50、および50μm未満、好ましくは40μm未満のD100を有する粒度分布を有する。
【0025】
さらに好ましくは、モード径(Dmode)、すなわち分布の最大値は、D50からの測定値の変動が多くても30%、好ましくは25%である。より好ましくは、D50は、Dmodeよりも30%、好ましくは25%未満小さい。
【0026】
さらに好ましくは、グラファイト粒子は、5~15μmのD50、50μm未満のD100、およびモード径より25%未満小さいD50を有する粒度分布を有する。
【0027】
グラファイト粒子の炭素含有量は、好ましくは、100重量%のグラファイト粒子の全組成に対して、99重量%以上、特に99.5重量%以上、好ましくは99.7重量%超~99.99重量%である。
【0028】
粒径分布の測定は、乾式分散粒子を用いるISO13320に応じて実施される。
ISO13320によれば、粒径は、好ましくは、乾燥空気流中でMalvern Mastersizer 3000を用いて決定される。
【0029】
本発明による組成物の好ましい二酸化チタン粒子は、ケイ素、アルミニウムおよび/もしくはジルコニウムを含有する金属酸化物、またはこれらを含む混合酸化物を含有する外殻を有し、二酸化チタン粒子は、少なくとも部分的に上記シェルで完全に包まれている。二酸化チタン粒子は、好ましくは、ケイ素、アルミニウムおよびジルコニウムを含有する混合酸化物のシェルで完全に包まれている。ケイ素、アルミニウムおよび/もしくはジルコニウムを含有する金属酸化物、またはこれらを含む混合酸化物を含む好ましくは完全な外殻を有する二酸化チタン粒子は、好ましくはコア-シェル形態であり、好ましくはプラズマ法または熱法によって製造されている。したがって、本発明に従って使用される二酸化チタン粒子は、好ましくは二酸化チタンコア-シェル粒子であり、そのコアは二酸化チタンを含み、そのシェルは触媒特性、特に光触媒特性を有さない金属酸化物からなる。より詳細には、二酸化チタン粒子は完全に閉じたシェルを有する。したがって、これらの二酸化チタン粒子は、二酸化チタンを含むコアと、ケイ素、アルミニウムおよびジルコニウムを含有する混合酸化物を含むシェルとを有するコア-シェル粒子とも呼ばれ得る。これは、ポリマーマトリックスの分解の加速に寄与する、高温および/または高いトライボロジー影響下での二酸化チタンによる触媒活性部位の形成を防止する。外側不活性シェルを有さない二酸化チタン粒子の欠点は、これらの二酸化チタン粒子が電磁放射線、トライボロジー応力および/または高温の影響下で触媒活性部位として作用し得ることであることが分かった。しかし、二酸化チタンの機械的特性を利用することができると同時に二酸化チタン粒子の悪影響を回避するために、保護外殻を備えたこれらの特定の二酸化チタン粒子を使用することが好ましい。したがって、熱可塑性組成物中にケイ素化合物、アルミニウム化合物および/またはジルコニウム化合物、特にその酸化物を含むシェルを有する二酸化チタン粒子を使用することが特に好ましい。前述の化合物の酸化物は、前述の化合物のSiO2、二酸化ジルコニウム、Al2O3または混合酸化物およびシリケート化合物、すなわち結晶性化合物としてシェル中に存在し得る。これらの粒子は、ポリマーマトリックス中で触媒部位として機能する能力に関して不活性化される。
【0030】
二酸化チタン粒子は、二峰性の粒子分布を有することが好ましい。
【0031】
好ましい二酸化チタン粒子は、100ナノメートル(nm)~10マイクロメートル、特に好ましくは150~600nmのD50、より好ましくは250~500nmのD50の粒径を有する。
【0032】
粒径分布は、280~350nm、好ましくは295~330nmの最大値(Dmode)を有することがさらに好ましい。
【0033】
さらに好ましくは、二酸化チタン粒子は、第2の最大値が2.5~6μmの範囲、好ましくは3~5μmの範囲にある、二峰性粒径分布を有することが好ましい。
【0034】
さらに好ましくは、二峰性分布における二酸化チタン粒子の粒径は、7:1~9.5:1、好ましくは8:1~9.3:1、より好ましくは9:1の2つの範囲(範囲1はDmodeを含む;範囲2は第2の最大値を含む)の重量比を有する(好ましくは面積比の測定精度を3%と仮定する)。
【0035】
粒径分布の測定は、乾式分散粒子を用いるISO13320に応じて実施される。
ISO13320によれば、粒径は、好ましくは、乾燥空気流中でMalvern Mastersizer 3000を用いて決定される。
【0036】
二酸化チタン粒子は、Si、ZrおよびAlで表面修飾されていることが好ましい。
【0037】
さらに好ましくは、二酸化チタン粒子は、二峰性の粒度分布を有し、表面修飾されていることが好ましい。
【0038】
さらに好ましくは、二酸化チタン粒子は、280~350nmの最大値(Dmode)(範囲1)および2.5~6μmの範囲2の第2の最大値を有する二峰性粒径分布を有し、Si、ZrおよびAlで表面修飾されていることが好ましい。
【0039】
本発明による組成物の微粒子潤滑剤は、二価金属硫化物およびアルカリ土類金属硫酸塩、好ましくはZnSおよび/またはBaSO4から選択される。微粒子潤滑剤は、特にZnSである。微粒子潤滑剤は、好ましくは20μm未満、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下の粒度分布D90を有する。
さらに、微粒子潤滑剤は、好ましくは500~1000nm、より好ましくは600~950nm、特に好ましくは700~900nm、特に好ましくは750~850nmのD50を有する。
【0040】
さらに好ましくは、微粒子ZnS潤滑剤は、500~1000nmのD50および20μm未満のD90、特に700~900nmのD50および5μm以下のD90を有する。
粒径分布の測定は、湿式分散(水分散)粒子を用いるISO 13320に応じて実施される。
【0041】
ISO 13320によれば、粒径は、好ましくはMalvern Mastersizer 3000を用いて決定される。
【0042】
マトリックス成分A)として60重量%のポリエーテルエーテルケトンと、10重量%の疎水化SiO
2、10重量%のグラファイト粒子、10重量%の炭素繊維、5重量%のZnSおよび5重量%のTiO
2を含む40重量%の充填剤成分B)とを含む熱可塑性組成物を用いて、広範な材料試験を行った。含有量はそれぞれ、100重量%の熱可塑性組成物の全組成に対する。この組成物について、驚くべきことに、ポリエーテルエーテルケトンの比較的高いMVRと共に優れたトライボロジー特性が得られることが見出された。
好ましい熱可塑性組成物は、式Iのポリエーテルエーテルケトン構造要素を含み、
400℃、荷重2.16kg、長さ8mmおよび直径2.095mmを有する毛細管、入口角180°で決定された10~90cm
3/10分、好ましくは15~80cm
3/10分、より好ましくは20~75cm
3/10分、特に好ましくは30~60cm
3/10分のMVRを有する、マトリックス成分A)としての30重量%~95重量%のポリエーテルエーテルケトンと、
2重量%~20重量%の疎水性ヒュームド二酸化ケイ素、
2重量%~20重量%の炭素繊維、
1重量%~15重量%の、二価金属硫化物およびアルカリ土類金属硫酸塩から選択される微粒子潤滑剤、
2重量%~20重量%のグラファイト粒子および、
1重量%~15重量%の、二峰性粒径分布を有する二酸化チタン粒子を含む充填剤成分B)とを、全組成に基づいて含む。
【0043】
特に好ましい熱可塑性組成物は、100重量%の熱可塑性組成物の全組成に基づいて、式Iのポリエーテルエーテルケトン構造要素を有し、400℃、荷重2.16kg、長さ8mmおよび直径2.095mmを有する毛細管、入口角180°で決定された10~90cm3/10分、特に好ましくは15~80cm3/10分、より好ましくは20~75cm3/10分、特に好ましくは30~60cm3/10分のMVRを有する、マトリックス成分A)としての30重量%~90重量%のポリエーテルエーテルケトンを含み、
2~5μm、好ましくは2.5~4μmのD50、および150μm未満のD100、好ましくは100μm未満のD100を有する粒径分布を有する、5重量%~15重量%の疎水性ヒュームド二酸化ケイ素、
500~1000nm、好ましくは600~950nm、より好ましくは700~900nm、特に好ましくは750~850nmの粒径D50を有する、2重量%~8重量%の微粒子潤滑剤としてのZnS、
5重量%~15重量%のグラファイト粒子、
二峰性粒径分布を有し、Si、ZrおよびAlで表面修飾されている、2重量%~8重量%の二酸化チタン粒子、および
5重量%~15重量%の炭素繊維を含む。
特に好ましい熱可塑性組成物は、100重量%の熱可塑性組成物の全組成に基づいて、10~90cm3/10分、特に好ましくは15~80cm3/10分、より好ましくは20~75cm3/10分、特に好ましくは30~60cm3/10分のMVRを有する、30重量%~81重量%程度のポリエーテルエーテルケトン
500~1000nmのD50および20μm未満のD90、特に700~900nmのD50および5μm以下のD90を有する粒径分布を有する、2重量%~8重量%の微粒子潤滑剤としてのZnS
0.5~30μm、好ましくは5~20μm、より好ましくは5~15μm、特に好ましくは8~12μmの粒径を有する5重量%~15重量%のグラファイト、
280~350nm(範囲1)の最大値(Dmode)および2.5~6μmの範囲2の第2の最大値を有する二峰性粒径分布を有し、Si、ZrおよびAlで表面修飾されている、2重量%~8重量%の二酸化チタン粒子、
2~5μm、好ましくは2.5~4μmのD50、および150μm未満のD100、好ましくは100μm未満のD100を有する粒径分布を有する、5重量%~15重量%の疎水性ヒュームド二酸化ケイ素、および
5~10μm、好ましくは6~8μmの直径、および15~555μmの繊維長を有する、5重量%~15重量%のチョップド炭素繊維、からなる。
【0044】
特に好ましい熱可塑性組成物は、100重量%の熱可塑性組成物の全組成に基づいて、10~90cm3/10分、特に好ましくは15~80cm3/10分、より好ましくは20~75cm3/10分、特に好ましくは30~60cm3/10分のMVRを有する、30重量%~73.5重量%のポリエーテルエーテルケトン、
2.5~4μmのD50および100μm未満のD100を有する粒径分布を有する、二酸化ケイ素に基づいて、ISO 3262-20に応じて1重量%~2重量%の炭素含有量を有する7.5重量%~12.5重量%の疎水性ヒュームド二酸化ケイ素、
700~900nmのD50および5μm以下のD90を有する粒径分布を有する、2重量%~8重量%の微粒子潤滑剤としてのZnS、
5~15μm、好ましくは8~12μmのD50、および50μm未満、好ましくは40μm未満のD100を有する粒径を有する7.5重量%~12.5重量%のグラファイト粒子、
280~350nm(範囲1)の最大値(Dmode)および2.5~6μmの範囲2の第2の最大値を有する二峰性粒径分布を有し、2つの範囲の重量比が7:1~9.5:1、好ましくは8:1~9.3:1、より好ましくは9:1であり、粒子がSi、ZrおよびAlでさらに表面修飾されている、2重量%~8重量%の二酸化チタン粒子、および
6~8μmの直径を有し、炭素繊維の少なくとも90%が20~300μmの繊維長を有し、より好ましくは、炭素繊維の少なくとも75%が25~180μmの繊維長を有し、特に好ましくは、炭素繊維の少なくとも50%が30~110μmの繊維長を有する、7.5~12.5重量%の炭素繊維、からなる。
【0045】
本発明はさらに、熱可塑性組成物を製造するための方法および方法によって得られる組成物を提供し、方法は、
i)第1のマスターバッチが、押出機、好ましくは二軸押出機、より好ましくは分散および混合ゾーンを有する共回転二軸押出機において、
式Iの構造要素を含み、400℃、荷重2.16kg、長さ8mmおよび直径2.095mmを有する毛細管、入口角180°で決定された10~90cm3/10分、特に好ましくは15~80cm3/10分、より好ましくは20~75cm3/10分、特に好ましくは30~60cm3/10分のMVRを有する、40重量%~95重量%、好ましくは60重量%~90重量%のポリエーテルエーテルケトンを、
5重量%~60重量%、好ましくは10重量%~40重量%の疎水性二酸化ケイ素、特に疎水性ヒュームド二酸化ケイ素と、高温、好ましくはポリエーテルエーテルケトンの融点付近またはそれ以上の温度、好ましくは350~500℃で混合することによって製造され、第1のマスターバッチが得られ、
第1のマスターバッチが、それぞれ絶対圧として1000~5mbar、好ましくは800~10mbar、より好ましくは500~50mbar、特に好ましくは300~100mbarの真空圧力で製造される、工程i)を少なくとも含み、
この第1のマスターバッチがベースフィードに供給され、炭素繊維が下流で供給され、熱可塑性組成物が得られる。
【0046】
本発明による好ましいプロセスは、前述のプロセス工程i)に加えて、
ii)第2のマスターバッチが、押出機、好ましくは二軸押出機、より好ましくは分散および混合ゾーンを有する共回転二軸押出機において、
式Iの構造要素を含み、400℃、荷重2.16kg、長さ8mmおよび直径2.095mmを有する毛細管、入口角180°で測定された10~90cm3/10分のMVRを有する、30重量%~90重量%、好ましくは50重量%~80重量%のポリエーテルエーテルケトンを、
5重量%~40重量%、好ましくは10重量%~30重量%の二酸化チタン粒子、および5重量%~40重量%、好ましくは10重量%~30重量%の、二価金属硫化物およびアルカリ土類金属硫酸塩から選択される微粒子潤滑剤と高温、好ましくはポリエーテルエーテルケトンの融点付近またはそれ以上の温度、好ましくは350~500℃で混合することによって製造され、第2のマスターバッチが得られる、プロセス工程ii)をさらに有し、
第1および第2のマスターバッチがベースフィードに供給され、炭素繊維が下流で供給され、熱可塑性組成物が得られる。
【0047】
本発明による特に好ましいプロセスは、前述のプロセス工程i)およびプロセス工程ii)に加えて、
iii)式Iの構造要素を含み、400℃、荷重2.16kg、長さ8mmおよび直径2.095mmを有する毛細管、入口角180°で決定された10~90cm3/10分のMVRを有する、0重量%~70重量%、好ましくは1重量%~50重量%、より好ましくは2重量%~20重量%、特に好ましくは3重量%~10重量%のポリエーテルエーテルケトン、
第1のマスターバッチおよび
第2のマスターバッチを含む混合物を
押出機、好ましくは二軸押出機、より好ましくは分散および混合ゾーンを有する共回転二軸押出機において、高温で、好ましくはポリエーテルエーテルケトンの融点付近またはそれ以上の温度、好ましくは350~550℃で混合することによって製造し、グラファイト粒子および炭素繊維を、好ましくは350~550℃で、下流でこの混合物に連続的に添加および混合することによって組成物を製造する、プロセス工程iii)をさらに有し、
熱可塑性組成物が得られる。
【0048】
プロセス工程に列挙されていない本発明による組成物中の充填剤は、ベースフィード中に既に存在していてもよく、または後に添加されてもよい。炭素繊維の添加後に充填剤を添加しないことが好ましい。
【0049】
それぞれのプロセス工程における上述の重量%の数値は、工程i)における第1のマスターバッチの100重量%の全組成、工程ii)における第2のマスターバッチの100重量%の全組成、および工程iii)における組成物の100重量%の全組成に基づく。
【0050】
好ましくはプロセス工程iii)において、第1のマスターバッチと第2のマスターバッチとの重量比は、好ましくは0.1(1:10)~10(10:1)、好ましくは0.5~5、より好ましくは1~3の比に設定される。
【0051】
第1および第2のマスターバッチは、好ましくは押出機内で380~450℃で製造される。熱可塑性組成物もまた、好ましくは押出機内で380~450℃で製造される。
4~8mm、より好ましくは5~7mmの繊維長、および好ましくは5~10マイクロメートル(μm)、より好ましくは6~8μmの直径を有する炭素繊維を使用することが好ましい。
【0052】
工程iii)の後、本発明によるプロセスでは、熱可塑性組成物を冷却して処理することができ、好ましくはペレット化するかまたは製造される成形物品を直ちに成形し、冷却することができる。
【0053】
充填剤成分の上記の選好は、本発明による方法にも対応して適用可能である。
【0054】
本発明による熱可塑性組成物および本発明による方法によって得られる熱可塑性組成物は、三次元成形物品の製造に使用される。
本発明はさらに、熱可塑性組成物を含むコンポーネント、例えば、好ましくは半製品、異形材、フィラメントおよびフィルムを提供し、成形物品の製造は当業者によく知られている。これらは、
a)1成分~多成分射出成形プロセスを含む射出成形プロセス、
b)熱溶解積層法(FDM)またはフィラメント溶融製法(FFF)、
c)加圧成形法、
d)場合によりカレンダ加工または、例えばフィルムブローイングを伴う、共押出法を含む押出法で、および/または
e)材料除去プロセスで得ることができる。
【0055】
得られた成形物品、半製品および異形材は、さらに加工され、熱可塑性物質のための慣例的な接合方法、例えば放射、振動、発熱体または超音波溶接または接合によって接合されてもよい。したがって、本発明はまた、コンポーネント、特に熱可塑性組成物から製造された一体型コンポーネントを提供する。ペレット化材料は、特に、射出成形、押出または加圧法で、および/またはレーザ焼結法などの粉末ベースの方法のための小さな粒径(粉末)で使用可能なペレット化材料を意味すると理解される。例えば、金属コンポーネントを熱可塑性組成物でコーティングすることも可能である。
【0056】
ペレット化材料は、好ましくは、0.5~10mmの範囲の粒径を有し、円形、楕円形または角ばった断面を有する。ほぼ円筒形の形状が好ましい。
【0057】
本発明による成形物品は、トライボロジー用途のコンポーネントの製造に、好ましくは軸受またはギアなどの機械要素およびその部品として使用される。
【0058】
熱可塑性組成物は、高いトライボロジー応力下にある部品、コンポーネント、および機械要素、例えば少なくとも摩擦面に熱可塑性組成物の層を有するラジアルまたはアキシャル軸受(滑り軸受)に特に適しているため、いわゆるトライボロジー化合物として使用されることが好ましい。
【0059】
本発明による軸受または他の成形物品は、例えば、摩擦領域における非常に薄い熱可塑性組成物のみを装備してもよい。例えば、熱可塑性組成物の薄い摩擦層が、鋼スリーブ/鋼ストリップ(例えば箔として)または他の摩擦層に塗布されてもよい。さらに、摩擦層を有する部品またはコンポーネントは、一体部品として熱可塑性組成物からなってもよい。さらに、異なるプラスチックからハイブリッド構造(多成分部品または複合部品)、例えば、トライボロジー化合物+代替プラスチックの支持層および/または他の材料のさらなる領域を製造することも可能である。さらに、ハイブリッドコンポーネントまたはハイブリッド構造(多成分部品)は、本発明の熱可塑性組成物に加えて、異なるポリマーコンポーネントおよび/または金属ベース材料をさらに含んでもよい。さらに、金属支持領域、および熱可塑性組成物のより薄い領域を有するハイブリッド滑り軸受を使用することが可能である。
【0060】
軽量構造における、および移動質量が低減された用途における発泡プラスチック領域との組み合わせも、同様に容易に可能である。さらに、ポリマーベースの繊維強化複合材(例えば、テープまたはオルガノシート)との組み合わせも可能である。
全体として、本発明による熱可塑性組成物およびトライボロジー的に最適化されていないポリマー組成物および/またはさらなる材料を含むか、またはそれらからなる複合部品を達成することが可能である。
【0061】
本発明による熱可塑性組成物は、原則として製造に適しているか、またはトライボロジー的に応力が加えられるすべてのコンポーネント、例えば軸受、レール、ロール要素、場合によりギアなどの部分コンポーネントとして適している。コンポーネントは、熱可塑性組成物から全部または一部のみ(滑空領域)が製造されてもよい。さらに、熱可塑性組成物は、鋼シャフトの場合のように、コンポーネントが乾燥摩擦にさらされる用途、例えばプラスチック-オン-プラスチックまたはプラスチック-オン-メタルで使用することが可能である。
【0062】
本発明の等価の分野では、同等の組成物ならびに油、グリースなどの潤滑剤と共に動作する成形物品およびそのコンポーネントの用途がある。
【0063】
本発明による使用の1つの利点は、金属表面に対する摩耗で明らかにされる。例えば、選択された試験条件、例えば、選択された合金、金属摩擦相手の表面粗さ、とりわけセクション領域内の相対速度、圧力および温度から生じる負荷条件に応じて、例えばブロックオンリング試験では、熱可塑性組成物からなるコンポーネントの摩耗率を明確に低下させることができ、非常に低い摩擦係数が見出される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】段階的に速度を上げる4MPaの圧力での上昇荷重試験において、本発明の実施例1およびVictrex製の市販材料WG 101(CompEx 2)の摩擦係数を示す。上昇の詳細は、表2の説明文に提供される。本発明による成形物品の摩擦係数がより低いことは明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0065】
本発明による組成物から作製されたコンポーネントが速度の変化後にいかなる順応問題も引き起こさないことは、特に有利である。摩擦は非常に迅速に新しい定数値に安定し、摩擦が変動しないこと、すなわち一過性挙動を示さないことが不可欠である。これは、例えば同心走行軸受(concentric runner bearing)における走行速度、すなわち回転速度の変化によって、他のコンポーネントにおける何らかの追加の応力、すなわち、例えば同心軸受の軸に影響を及ぼすトルクの大きな急増が生じないので、特に有利である。
材料:
PEEK:異なるMVRを有するEvonik製のポリエーテルエーテルケトン
SiO2:ヒュームドシリカ、疎水化、炭素含有量1.2%(ISO3262-20);粒子直径(乾式分散)D503.13μm、D100<80μm
ZnS:粒径(湿式分散)D500.80μm、D90<5μm
炭素繊維:Sigrafil C C6-4.0/240-T190
グラファイト粒子:粒径(乾式分散)D50 9.3μm、D100<35μm
TiO2:粒子直径(乾式分散)D(モード、最大)350nm、D(二峰性、最大)3.5μm;Si、ZrおよびAlで表面修飾
【実施例】
【0066】
(実施例1)
34cm3/10分のMVR(試験重量2.16kg/400℃)を有するPEEKベースの組成物
【0067】
(実施例2)
72cm3/10分のMVR(試験重量2.16kg/400℃)を有するPEEKベースの組成物
二軸押出機における熱可塑性組成物の製造:
マスターバッチ1:PEEK80重量%およびSiO220重量%、脱揮発分のために絶対圧約300~100mbarの真空圧力を使用して(シリカの添加位置で)押し出した(溶融温度439℃、ハウジング温度390℃)。
マスターバッチ2:PEEK60重量%、TiO220重量%および硫化亜鉛20重量%(溶融温度428℃、ハウジング温度390℃)。
50重量%のマスターバッチ1および25重量%のマスターバッチ2を一緒に押出機のベースフィードに供給した(5重量%のそれぞれのPEEK)。10重量%のグラファイトおよび10重量%の炭素繊維を下流に連続的に供給した。溶融温度は439℃であり、ハウジング温度は390℃であった。製品は押出の最後にペレット化される。
したがって、実施例からの本発明による組成物は、60重量%のPEEK、10重量%のSiO2粒子、5重量%のZnS粒子、10重量%のグラファイト粒子、5重量%のTiO2粒子および10重量%の炭素繊維を含む。
【0068】
比較例(CompEx1)は、60重量%のPEEK(VESTAKEEP2000、Evonik製)、10重量%のZnS粒子、10重量%のグラファイト粒子、10重量%のTiO2粒子および10重量%の炭素繊維を含む。
さらなる比較例(CompEx2)は、Victrexの市販品であるWG101である。
試験片:ペレットをプラークに射出成形した。プラークの寸法は、厚さ4mm、面積50mm×50mmであった。
試験片を立方体ブロックとして機械加工した。それらは、4×4mm2の試験面積および10mmの長さを有する。繊維は本質的に試験面に整列させた。摩擦力のベクトルと繊維整列のベクトルは互いに直交していた。
トライボロジー特性を決定するために、ブロックオンリングおよびピンオンディスク試験を行った。試験片は同じ寸法を有していた。
異なる速度(v=0.5、1、2、3および4m/s)および異なる接触圧力(圧力負荷)(p=1、2、4、8および10MPa)で測定を行った。慣らし運転段階の後、試験段階が開始された。ブロックは試験材料から形成された。リングおよびディスクは鋼製である(100Cr6H)。摩耗率は、質量損失を決定することによって測定した。測定は、潤滑剤を使用せずに異なる温度で行った。
摩擦係数(COF、摩擦値)および摩耗率Ws[10-6mm3/Nm]を決定した。摩耗率の計算は、式:Ws=(Δm)/ρνtFn(式中、Δmは質量損失、ρは試験材料の密度、νは摺動速度、tは試験継続時間である)による試験片の質量損失に基づく。Fnは試験片の接触力である。
表1a~1dの値は、ブロックオンリング試験ベンチにおいて23℃で見出された。慣らし運転段階は2時間、試験段階は20時間であった。鋼製リングの粗さ高さ(Rz)は2μm、算術平均粗さ(粗さRa)は0.2μmであった。
【0069】
【表1a】
本発明の実施例1および2の摩擦係数は、市販のVictrex WG101製品の摩擦係数よりも低い。さらに、本発明の実施例1および2の摩擦係数は、摺動速度の増加と共に明確に減少したが、CompEx2の摩擦係数は、開始0.5m/sの速度から2m/sの速度まで実際に増加した。
【0070】
【表1b】
本発明の実施例1および2の低摩擦係数は、速度の増加および2MPaの接触圧力の増加に伴ってさらに減少する。
【0071】
【表1c】
本発明の実施例2の摩擦係数は、さらに増加した4MPaの接触圧力においても、速度の増加に伴って連続的にさらに減少する。実施例1の組成物では、2m/sの速度で摩擦係数の最小値が見られる。
【0072】
【表1d】
本発明の実施例1の摩擦係数は、実施例2の摩擦係数よりも低い。両方の摩擦係数は、さらに増加した8MPaの接触圧力で、速度の増加と共に連続的にさらに減少する。実施例1は、2MPaと同様に8MPaで良好な摩擦係数を有する。
表2の値は上昇荷重であり、それらはブロックオンリング試験ベンチにおいて23℃で見出された。慣らし運転段階なしでは、摺動速度は、0.5m/s(10h)で開始して、1m/s(7.5h)、2m/s(5h)、3m/s(5)、4m/s(2.5h)へと段階的に増加させた。鋼製リングの粗さ高さ(Rz)は2μm、算術平均粗さ(粗さRa)は0.2μmであった。
【0073】
【表2】
本発明の実施例1および2の摩耗率は、Victrex WG101の摩耗率よりも低い。さらに、本発明の実施例1の摩耗率は、接触圧力の増加に伴って明確かつ連続的に減少する。
図1は、4MPaの接触圧力での実施例1およびCompEx2からの試験片の上昇荷重実験を示す。摩擦係数の測定値は20℃で得られた。
表3aおよび3bの値は、ピンオンディスク試験ベンチにおいて、23℃および100℃で得られた。試験段階は5000mであった。鋼製リングの粗さ高さ(Rz)は5μm、算術平均粗さ(粗さRa)は0.4μmであった。
【0074】
【0075】
【表3b】
高い接触圧力下で、さらには温度が上昇しても、本発明の実施例の摩耗率および摩擦係数は明らかに減少する。
表4a、4b、5aおよび5bの値は、ブロックオンリング試験ベンチにおいて25℃で見出された。鋼製リングの算術平均粗さ(粗さRa)は0.1μm~0.2μmであった。
【0076】
【表4a】
これらの試験からも、本発明による組成物から製造されたコンポーネントが従来技術よりも有利であることが明らかである。より詳細には、これらの試験は、トライボロジー用途におけるSiO
2粒子の有利な使用を示す。これらの試験では、これが、特に高負荷圧力または高速で現れる。
【0077】
【0078】
【表5b】
摩耗率および摩擦係数は、全体的に従来技術のものよりも低い。これは同様に、トライボロジーシステムのポリマー成分中にSiO
2粒子を添加することの有利な効果を明確に示す。