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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】即席麺の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/113 20160101AFI20230920BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20230920BHJP
【FI】
A23L7/113
A23L7/109 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021032394
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022053445
(43)【公開日】2022-04-05
【審査請求日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2020159998
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501478506
【氏名又は名称】マルキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】八木 裕三
(72)【発明者】
【氏名】辻山 茂
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-295880(JP,A)
【文献】特開2005-110562(JP,A)
【文献】特開2003-153660(JP,A)
【文献】特開2014-161273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109-7/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生麺を茹でる茹で工程と、
茹でられた麺を水洗いする水洗い工程と、
水洗いされた麺を所定量ずつの麺塊に取り分けて水に漬ける工程と、
前記水に漬けられた状態で冷凍し、麺塊を水とともに固化させる冷凍工程と、
冷凍された前記麺塊を固化した形状を保ったまま乾燥させる乾燥工程とからなる
ことを特徴とする即席麺の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程が、低温乾燥である請求項1記載の即席麺の製造方法。
【請求項3】
前記冷凍工程で、-20℃で一気に冷凍し、固化した水を解凍する解凍工程、麺の表面を乾燥する表面乾燥工程、麺に含まれる水分を乾燥する内面乾燥工程の各工程で、28℃~35℃の間の所定温度で所定時間掛けて乾燥させる請求項1に記載の即席麺の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、即席麺の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
即席麺の製造法に関しては、特許文献1,2に記載の従来技術がある。
【0003】
これらの従来技術は、中華麺やそうめん、うどん等において、新鮮さを維持した状態で即席麺に加工することに重点をおいた技術である。これらの従来技術では、図4に示すように、麺線を茹であげる処理201→麺線を水洗いする工程202→水切りをする工程203→冷凍工程204→解凍しながら乾燥する工程205の手順によって製造される。
【0004】
上記従来の製法は、水切りした直後に冷凍し、その後乾燥するので、麺の鮮度を良好に保持できるというものである。すなわち、水洗いの後、水切りして水分を無くしてから冷凍する点に特徴がある。
【0005】
上記従来例では、水切りした後の麺線がまるめられた状態のままで冷凍し、解凍して乾燥するので、製造後の状態はまるめられた状態の麺線同士が互いにくっつき合って麺線同士の間に隙間が生じなくなることがある。この場合、熱湯を注いでも、まるまった乾燥麺の外表面は湯に接触するが、内部には湯が浸透しにくいので、麺の全部がほぐれるまでに、例えば5分位か、それ以上かかることがあった。
【0006】
この状態を解消する目的で特開2007-295880には、茹いた麺を水切りし、麺に水を含ませた後に冷凍する発明が開示されている。前記冷凍工程で麺塊全体が固化するとともに、各麺線の外表面に氷の被膜が形成された状態となる。次いで乾燥工程に移行するが、当該乾燥時に上記麺線の表面の氷の被膜のみが溶けてしまうので、多くの麺線同士の間に隙間が生じることになるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公平2-6221号
【文献】特公平4-79630号
【文献】特開2007-295880号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特開2007-295880の方法で麺を加工すると、後に比較例として示すように、麺塊が全体として薄く固まった状態となり、当該特開2007-295880が解消しようとする課題が解決されたとは言い難い状態となり、湯戻り時間も長くなる。
【0009】
特に、作り立ての麺にこの方法を適用すると、前記の欠点が顕著に表れることになる。
【0010】
作ってから長時間経った乾燥麺を上記方法に適用すると、麺塊での麺相互のくっ付き具合も緩やかになる。従って、明細書記載の「熱湯をかけると、隙間を通って熱湯が内部に浸透し、個々の麺線の隅々まで加温するので、麺のほぐれが全体に均一になり、3分程度の熱湯浸漬で食べられる状態になる。」の効果についてある程度の成果を得るには、作ってから1年以上経過した麺を用いる必要があるが、一年以上も作った麺を貯蔵することはコスト面での課題を残すことになる。
【0011】
本発明は上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、作り立ての麺であっても湯戻り時間を短くできる即席麺の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、生麺を茹でる茹で工程と、茹でられた麺を水で水洗いする水洗い工程と、水洗いされた麺を1食分ずつの麺塊に取り分けて水に漬ける浸漬工程と、前記水に漬けられた状態で冷凍し、麺塊を水とともに固化させる冷凍工程と、冷凍された前記麺塊を固化した形状を保ったまま乾燥させる乾燥工程とからなる。
【0013】
前記乾燥工程は、低温乾燥であり、前記冷凍工程で、-20℃で一気に冷凍し、固化した水を解凍する解凍工程、麺の表面を乾燥する表面乾燥工程、麺に含まれる水分を乾燥する内面乾燥工程の各工程で、28℃~35℃の間の所定温度で所定時間掛けて乾燥させる。
【発明の効果】
【0014】
上記工程を経て作られた即席麺は、麺線間に水が介在した状態で水とともに凍結するので、水が介在していた隙間が氷になり、乾燥時にそのままの状態で保持されて、乾燥状態でも麺線間に隙間ができる。従って、熱湯をそそぐと、麺線間に湯が入り込むので、湯戻りがはやく、食感にも優れている。この効果は作り立ての生麺を原料としても同じである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のフロー図。
図2】本発明の凍結前の工程を示す図。
図3】本発明の効果を示す図(写真)。
図4】本発明の更に別の効果を示す図(写真)。
図5】乾燥条件を変えた本発明品と比較品(写真)。
図6図5の比較品の断面図(写真)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は生麺を出発原料とすることもできるが、素麺のような乾麺を出発原料とすることもできる。
【0017】
生麺の製造法は、基本的には、小麦粉と水を混捏してできた生地を線状に形成することにあり、線状に形成する方法は、引き延ばして1本の麺線とする撚延方式(手延べを含む)と、押圧して平板になった生地から線切りする線切り方式(手打ちを含む)の両方があるが、本発明に関しては、生麺の製法はどちらによるものであってもよい。
【0018】
素麺は前記撚延方式を採るが、引き伸ばしてから乾燥するので、種類としては乾麺である。
【0019】
以下の手延べ素麺を出発原料とする本願発明について説明する。近年共稼ぎ増え、食事の準備に手間を掛けられない家庭が増えている現状で、素麺を食べようとすると、比較的時間を要する湯がきをしなければいけないことになり、単純に湯を注ぐだけで食することができる、ラーメンに客を奪われているのが現状である。そこで、素麺を即席麺化することが業界で要望されている。
【0020】
まず、上記の手順に従って、手延べ素麺の生麺が製造され、その生麺が以下の製法によって即席素麺に加工される。
【0021】
まず、素麺を茹がいて柔らかくほぐす(図1、S1)。このようにほぐされて柔らかくなった素麺を水通し(水洗)す(図1、S2)。この状態の麺を食べるのが通常の素麺の食べ方であるが、上記したようにラーメンと同様、湯を注ぐだけで食することができる、即席素麺を実現させたいという素麺業界の願望がある。
【0022】
そこで、上記茹がいた素麺を所定量(例えば1食分)ざるに入れ、冷水を通した後、図2に示すように、当該素麺1が入ったざる2を容器3にいれた水に浸す。この状態で水ごとマイナス20℃の冷凍庫に入れ、急速冷凍する(図1、S3)。
【0023】
ついで、このように冷凍され氷で固まった素麺をざる2とともに、容器3から外して、乾燥室に多数配列して低温解凍しながら乾燥(冷温乾燥)させる(図1、S4)。
【0024】
前記氷で固まった素麺塊は、各麺線間に氷が介在することになり、この状態を保って解凍・乾燥すると、各麺線間に空間を確保できることになり、ユーザが食するときの食感が良好となる。前記「各麺線間に空間を確保」した状態で乾燥させるには種々の工程を考えることができ一概に温度調整パターンや時間を決めることはできないが、例えば以下のように、前記冷温乾燥は、解凍工程、表面乾燥工程、内面乾燥工程の3段階を採用する。
前記解凍工程では低い温度で時間を掛けると、各麺線がくっつき易くなる、逆に高い温度で短時間で処理すると、麺の質が落ちる。この工程での適温は28℃~35℃である。次いで、表面乾燥工程では、できるだけ早く表面を乾燥させたいが、当該乾燥工程に至るまでの製麺の段階で油を使用している場合は、当該油を酸化させない温度35℃を最高温度とする必要がある。35℃以上で乾燥させた麺は、油の酸化臭がして味がおちる。油を使用しない麺もあるが、その場合はこの限定は解除される。当該表面乾燥工程で各麺の表面が一見乾燥したように見えても、内面は水分を含んだ状態であり、長時間経つと各麺線がくっつく状態となる。この段階で高い温度を掛けると、表面だけがカラカラに乾いて内面の乾燥度との均衡が保てない。そこで次の内面乾燥工程では28~32℃の比較的低い温度で、各麺の芯に水分を残さない程度の時間を掛けて処理する。尚、上記では各温度を掛ける時間を明確にしていないが、当該時間は送風量、麺の種類、麺の量に依存するので、一概に言えない。
上記の温度の決定はあくまで一例であって、基本的には「氷で固まった麺塊をそのままの状態(各麺線の間に空間を保った状態)で乾燥させる」という前提で決定する。より詳しくは「解凍工程では低い温度で時間を掛けて各麺線をくっつかせない、逆に高い温度で短時間で処理して商品の味を落さない」、「表面乾燥工程ではできるだけ高い温度で早く処理するが、使用して油を酸化させない」、また「内面乾燥工程では各麺の芯に水分を残さない」という原則のもとに、設備の能力との関係で決定する必要がある。
【0025】
このようにして乾燥された素麺は、即席素麺として包装され販売される。
【0026】
ユーザは、前記包装を解いて、前記乾燥された麺を容器に入れ、熱湯を注ぐ。これによって2~3分で前記熱湯が麺に浸み込んだ状態を形成する。にゅーめんとして食するのであれば、前記熱湯を注ぐと同時に調味料を添加しておけばよい。いわゆる素麺として食する場合は、上記熱湯によってほぐれた麺の湯を切って、水で冷却し、更にその水も切ることになる。
【0027】
以上素麺について説明したが、最初の茹で工程の時間は素麺を用いる場合に比して多少短くなるが、うどんやラーメン等の生麺に対して上記の各工程を適用することももちろんできる。
【0028】
<実施例・比較例>
図3は、ラーメンについて、前記特開2007-295880(比較品)を実施した結果(左側)と、本発明を実施した結果(右側)を比較したものである。
【0029】
乾燥条件は、以下のようになる。
【0030】
本発明品:温度32℃(2.3時間)→35℃(3.5時間)→30℃(4時間)。
【0031】
比較品:温度34~41℃で一定、9時間。
【0032】
本願発明を実施した結果の方が仕上がりのボリューム感があり、実際に、熱湯を注ぐと、2~3分で食することができる状態となるが、特開2007-295880を実施したものは、食することができる状態になるまで5分程度もかかり、即席麺とは言い難い。
【0033】
図4は素麺についての、同様に比較である。上記同様、左側が特開2007-295880の方法による比較品、右側が本願方法による本発明品である。
【0034】
条件は、本発明品、比較品とも、ラーメンの時と同じである。
【0035】
本発明品の方が遥かにボリューム感があり、実際に食することができる状態になるまでの時間も、上記ラーメンと同じ程度の時間差がある。
【0036】
にゅーめんであれば、前記湯を注いだ状態で食すればいいが、素麺であれば、一旦、湯を切って、水で冷やして食することになる。
【0037】
<乾燥時間と温度に関する検証>
図5は乾燥温度・時間を変えた場合の仕上がり状態を示すものであり、写真左が乾燥不足の比較品、写真右が本発明品である。図6は比較品の断面を示す写真である。
【0038】
乾燥条件は、以下のようになる。
【0039】
本発明品:温度32℃(2.3時間)→35℃(3.5時間)→30℃(4時間)。
【0040】
比較品:温度30℃(2.0時間)→温度35℃(2.0時間)→温度30℃(3時間)。
【0041】
上記3段階は前記した解凍工程→表面乾燥工程→内面乾燥工程に対応する。
【0042】
本発明品(図5右写真)は、各麺線間に隙間ができて、ふわっとした仕上がりになっており、お湯を注いだときに、お湯は各麺線の間に入込み、短時間で各麺線を柔らかくすることになる。ところが、比較品は、乾燥時間、あるいは温度不足で乾燥が十分でないので、図5の左写真に示すように、同右写真の本発明品に比べて、ボリューム感に欠ける状態で仕上がる。この状態を図6に示す断面で観察すると、中央部に多数の麺線がより集まって密度が高くなっており、当然お湯をかけてもこの部分には短時間でお湯が浸透しないで麺がほぐれない。また、食感としても当然べとつく感じを与えることになる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上説明したように、本発明は生麺、乾麺にかかわらず、茹がいた状態から直ちに水とともに、当該麺を凍結乾燥させているので、乾燥時に各麺線間に隙間ができ、調理するために注ぐ湯が通りやすい。従って、湯戻りが早く、しかも麺線相互がくっついた状態とはならない。
【符号の説明】
【0044】
1・・素麺
2・・ざる
3・・容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6