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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】大麦若葉の成分を高含量に保持する方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20230920BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20230920BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A23L33/175
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019145340
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021023236
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】517037962
【氏名又は名称】株式会社萌芽プランツ
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】大出水 昭一
(72)【発明者】
【氏名】大出水 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】高▲柿▼ 了士
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06379717(US,B1)
【文献】特開2008-005762(JP,A)
【文献】特開2001-029041(JP,A)
【文献】そこが知りたい家電の新技術 シャープ ウォーターオーブン「ヘルシオPro」,家電Watch[online],2006年,[令和5年4月18日検索],インターネット<URL:https://kaden.watch.impress.co.jp/cda/column/2006/10/04/16.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生鮮大麦若葉を、200℃以上600℃以下に加熱した過熱水蒸気を用いて、5秒以上120秒以下の範囲において過熱処理を行うことを特徴とする、大麦若葉中のγ-アミノ酪酸を高含量に保持する方法。
【請求項2】
生鮮大麦若葉を、200℃以上600℃以下に加熱した過熱水蒸気を用いて、5秒以上120秒以下の範囲において過熱処理を行うことを特徴とする、γ-アミノ酪酸を200mg/100g以上含有する大麦若葉の製造方法。
【請求項3】
生鮮大麦若葉を、200℃以上600℃以下に加熱した過熱水蒸気を用いて、5秒以上120秒以下の範囲において過熱処理工程を有することを特徴とする、γ-アミノ酪酸を200mg/100g以上含有する大麦若葉加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大麦若葉中のγ-アミノ酪酸を高含量に保持する方法と、γ-アミノ酪酸を特定量以上含有する大麦若葉又は大麦若葉加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜の摂取不足の問題を手軽に解決するための飲料として、野菜ジュースなどと共に、いわゆる「青汁」が知られている。この「青汁」の原料として、ケール、大麦若葉、小麦若葉、明日葉、及びクワ若葉などのクロロフィルを含有する緑葉植物が使用されているが、中でも、大麦若葉は青汁の代表的な素材であり、青汁商品の1つとして健康食品素材の大きな市場を形成している。
大麦若葉(葉や茎を含む)は、生鮮状態の茎葉部分で比較的多くのγ-アミノ酪酸(以下、「GABA」という。)を含有していることが知られているものの、乾燥粉末や搾汁粉末などに加工すると、生鮮状態の大麦若葉に比べて、GABAの含有量が大きく低下するという問題があった。
【0003】
GABAには、高血圧の改善、睡眠の質の改善、心理的なストレスの改善など多くの機能や作用を有することが知られており、日常的に食品から摂取を求める需要がある。
そのため、大麦若葉の加工において、GABAを高含量に保持する技術が各種検討され、報告されている。例えば、特許文献1には、大麦若葉をマイクロウェーブ処理する方法が報告されているが、実際の農産物加工工場では、マイクロウェーブを発生する特殊装置は通常使用しないため、新たな設備投資が必要となる。特許文献2には、嫌気処理及び/又は20~50℃で保温処理する方法が報告されているが、40℃前後の温度で最長24時間保温処理するためには、大型の保温設備が必要となり、この方法も新たな設備投資が必要となるほか、長時間の保温保管工程は、生産性の低下要因となる。また、特許文献3には、イネ科植物体を、グルタミン酸(塩)を含有する溶液に浸漬する方法が報告されているが、グルタミン酸(塩)の付着により大麦若葉本来の風味が失われるほか、食品添加物の使用が消費者の消費意欲の減衰を招く恐れもある。このように、改良された製造方法は、特殊な大型装置が必要であるほか、生産効率の点などから、実際の製造方法としては採用することには大きな問題があった。
そこで、一般的な大麦若葉の製造工程で採用されている製造装置を使用し、生産効率が低下しない、かつ、食品添加物等の使用のない、大麦若葉中のGABAを高含量に保持する新たな製造方法の提案が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-300209号公報
【文献】特開2001-029041号公報
【文献】特開2001-352941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであり、僅かな追加設備で、かつ、生産効率が低下しない、大麦若葉中のGABAを高含量に保持する方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、生鮮大麦若葉を特定の温度に加熱した過熱水蒸気処理することにより、大麦若葉中のGABAを高含量に保持できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0007】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.生鮮大麦若葉を、200℃以上600℃以下に加熱した過熱水蒸気を用いて、5秒以上120秒以下の範囲において過熱処理を行うことを特徴とする、大麦若葉中のγ-アミノ酪酸を高含量に保持する方法。
2.生鮮大麦若葉を、200℃以上600℃以下に加熱した過熱水蒸気を用いて、5秒以上120秒以下の範囲において過熱処理を行うことを特徴とする、γ-アミノ酪酸を200mg/100g以上含有する大麦若葉の製造方法。
3.生鮮大麦若葉を、200℃以上600℃以下に加熱した過熱水蒸気を用いて、5秒以上120秒以下の範囲において過熱処理工程を有することを特徴とする、γ-アミノ酪酸を200mg/100g以上含有する大麦若葉加工品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生鮮大麦若葉を、200℃以上600℃以下に加熱した過熱水蒸気処理することにより、大麦若葉中のGABAを高含量に保持することができる。しかも、この過熱水蒸気処理を行うことにより、GABAが高い含量のまま保持された最終的な加工品とすることができるため、非常に有用である。
この過熱水蒸気を発生させるためには、通常の水蒸気を加熱するために使用するヒーター(熱源発生装置)があればよく、通常の農産物加工工場にあるボイラー等の水蒸気を発生させる装置に、僅かな追加設備で過熱水蒸気を発生させることができるため、簡便である。
さらに、本発明における、生鮮大麦若葉と過熱水蒸気との接触時間は、5秒以上120秒以下の範囲と非常に短時間であるため、生産効率の点からも非常に有効である。
本発明は、これまで報告された改良方法に比べて、大型な特殊装置を必要とせず、しかも、非常に短時間な処理で完了する点において、大麦若葉中のGABAを高含量に保持する方法として極めて優れている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の大麦若葉中のGABAを高含量に保持する方法、GABA高含量の大麦若葉の製造方法及び、GABA高含量の大麦若葉加工品の製造方法について詳細に説明する。
なお、本明細書において「大麦若葉」とは、大麦の葉とその葉が付いている茎を含むものを意味する。
【0010】
本発明における大麦は、具体的には例えば、穂及び種子の形状の違いから、二条大麦、六条大麦、裸麦が挙げられるが、これらは特に限定されず何れも使用することができる。大麦の品種としては、具体的には例えば、あおみのり、あぐりもち、くすもち二条、アサカゴールド、きぬゆたか、おうみゆたか、カワホナミ、カワミズキ、キリニジョウ、はるな二条、あまぎ二条、ふじ二条、イシュクシラズ、きぬか二条、こまき二条、さきたま二条、とね二条、サチホゴールデン、さつきばれ、しゅんれい、スカイゴールデン、タカホゴールデン、つゆしらず、なす二条、ニシノゴールド、ニシノチカラ、ニシノホシ、はるか二条、にらさき二条、にら二条、はるしずく、さつき二条、ほうしゅん、ミカモゴールデン、みょうぎ二条、ミサトゴールデン、ミハルゴールド、ミホゴールデン、ヤシオゴールデン、ヤチホゴールデン、北育41号、彩の星、りょうふう等の二条皮麦、ビューファイバー、キラリモチ、ユメサキボシ、ワキシーファイバー等の二条裸麦、アサマムギ、カシマゴール、ミノリムギ、カトリムギ、ムサシノムギ、ドリルムギ、サナダムギ、はがねむぎ、さやかぜ、すずかぜ、シュンライ、シルキースノウ、シンジュボシ、セツゲンモチ、ナトリオオムギ、ハマユタカ、ハヤミオオムギ、ファイバースノウ、はねうまもち、ホワイトファイバー、倍取、ミユキオオムギ等の六条大麦、イチバンボシ、センボンハダカ、サヌキハダカ、キカイハダカ、サンシュウ、ナンプウハダカ、シラタマハダカ、ユウナギハダカ、ダイシモチ、トヨノカゼ、ハヤテハダカ、一早生、ビワイロハダカ、ベニハダカ、ハシリハダカ、マンネンボシ(旧マンテンボシ)等の裸麦が挙げられるが、特に限定されない。これらの大麦は、1種を単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0011】
本発明における生鮮大麦若葉は、出穂前の地上からの高さが30~50cm程度に達したものを刈り取り、収穫したもの、すなわち、乾燥等の処理を施していないものを意味する。原料の生鮮大麦若葉は、収穫後直ちに処理されることが望ましいが、処理までに時間を要する場合には、原料の変質を防止するために低温貯蔵や氷点下で冷凍貯蔵など汎用される貯蔵手段により貯蔵したものでもよい。
収穫により得られた生鮮大麦若葉は、異物や枯葉等の不良物を除去した後に、約5~10cm程度に裁断し、これを水洗して遠心分離等により脱水処理を行った後、200℃以上600℃以下に加熱した過熱水蒸気処理に使用される。
【0012】
(1)過熱水蒸気処理
本発明における過熱水蒸気処理は、生鮮大麦若葉を、200℃以上600℃以下に加熱した過熱水蒸気を用いて、5秒以上120秒以下の範囲において過熱処理を行うものである。加熱した過熱水蒸気の温度下限値は、200℃が好ましく、250℃がより好ましく、温度上限値は400℃が好ましく、350℃がより好ましい。また、過熱水蒸気による処理時間は、処理する生鮮大麦若葉の量と処理装置の大きさ等に応じて設定すればよいが、概略100秒以下が好ましく、80秒以下がより好ましく、70秒以下がさらに好ましい。
過熱水蒸気の温度が150℃以上200℃未満でも、大麦若葉中のGABAの含量をある程度高く保持することは可能であるが、処理時間が長くかかることになるため、大麦若葉の風味や色調の点からは好ましくない。
本発明における過熱水蒸気とは、100℃以上の温度に加熱された水蒸気を意味し、沸騰によって発生した飽和水蒸気を圧力は変えず、常圧でさらに加熱昇温させて得られるものである。過熱水蒸気の製造装置は特に限定されないが、例えば、株式会社宮村鐵工所製の過熱エンジンなどを使用して製造することができる。
この過熱水蒸気による処理は、生鮮大麦若葉が過熱水蒸気処理装置内を移動することにより、行われる。このため、本発明における過熱水蒸気による処理時間とは、当該装置内において加熱した過熱水蒸気に生鮮大麦若葉が接触した時点から、大麦若葉がこの装置外部に出て過熱水蒸気の影響を受けなくなった時点までの時間を意味する。
この過熱水蒸気処理により、大麦若葉中のGABAを高含量に保持することができるほか、大麦の若葉及び茎の変色や変質の原因となる葉体中の酵素を失活させ、大麦の若葉及び茎に柔軟性を与えることもできる。
過熱水蒸気処理の後、大麦若葉は送風により冷却するか、冷風若しくは真空冷却器などを使用して急速冷却するなどにより、品温を常温程度に冷却させることが好ましい。急速に冷却することにより、加熱が過剰に進行することを防ぐことができる。これにより、大麦若葉の品質劣化を抑制することができる。
【0013】
本発明の方法は、生鮮大麦若葉を、200℃以上600℃以下に加熱した過熱水蒸気を用いて、5秒以上120秒以下の範囲において加熱処理を行う、上記「過熱水蒸気処理」を行えばよく、それ以外の処理方法は特に限定されず、公知の方法に従い処理すればよい。上記「過熱水蒸気処理」以降の処理方法としては、特に限定されないが、例えば、以下に示す「搾汁及び粉末化」、「乾燥処理」、「細断処理」、「殺菌処理」、「粉砕処理」等の処理を例示することができる。
また、「過熱水蒸気処理」を行った後、速やかに以下に示す加工処理を行うことができない場合には、一旦冷凍処理により貯蔵を行うこともできる。
生鮮大麦若葉に「過熱水蒸気処理」を行った後冷凍貯蔵する場合には、そのまま冷凍処理を行っても良いが、大麦若葉を引き裂くような処理を行った後に冷凍すると冷凍工程による品質の劣化が少なく、冷凍後の取り扱いも容易な大麦若葉冷凍品を製造することができる。
大麦若葉に引き裂くような処理を行うには、例えば、株式会社宮村鐵工所製のグリーンアップなどを使用することができる。
【0014】
(2)搾汁及び粉末化
過熱水蒸気処理を行った冷却後の大麦若葉は、必要により細断し、既知の方法に従って、例えば、スクリュープレス、コールドプレスなど圧力を加えることができる機器を使用して、搾汁を行うことが好ましい。搾汁液は低温の液状のまま又は冷凍して使用しても良いし、必要に応じて、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、マルトース等の賦形剤等を添加した後、噴霧乾燥又は凍結乾燥することによって粉末化して使用することもできる。
【0015】
(3)乾燥処理
過熱水蒸気処理を行った冷却後の大麦若葉は、乾燥処理を行うことも好ましい。この乾燥処理は、例えば、通風ベルトコンベア上に、過熱水蒸気処理した大麦若葉を載置し、30℃以上40℃以下の品温となるように70~100℃程度の温風を吹き付けることにより行う。最終的な水分含有量は、10%程度が好ましく、10%より少ない水分含有量がより好ましい。仕上げ乾燥は、例えば、ベルトコンベア上に大麦若葉を載置し熱風で連続乾燥により行ってもよく、棚等での静置式熱風乾燥により行ってもよい。
【0016】
(4)細断処理と殺菌処理
細断処理は、当業者が植物体を細断する際に通常使用する方法を用いることができ、長さ1cmより小さく細断することが好ましい。
細断化した大麦若葉は、殺菌処理することが好ましい。殺菌処理は当業者に通常知られている処理であれば特に限定されないが、例えば、温度、圧力、電磁波、薬剤などを用いて物理的又は化学的に微生物を殺滅させる処理であるということができる。中でも、気流式殺菌機による殺菌が好適である。
【0017】
(5)粉砕処理
細断処理や殺菌処理により得られた大麦若葉乾燥物を粉砕して、微粉末とする粉砕処理を行うことができる。
粉砕処理は、例えば、衝撃式粉砕機の一例である摩砕効果のある衝撃式粉砕機(摩砕型衝撃式粉砕機)を用いて、大麦若葉乾燥物を粉砕することができるが、これに限定されず、ピンミル、ジェットミルのような衝撃式粉砕機、剪断式粉砕機、マスコロイダー、グラインダー、石臼のような磨砕式粉砕機、又は低温凍結粉砕機のような複合型粉砕機等、その他の公知の粉砕機を用いて行ってもよい。
粉砕処理では、大麦若葉粉末の粒子径を、30メッシュ通過~250メッシュ残留粉末とすることが好ましい。この粒子径が250メッシュを通過する程度に小さい場合、食品素材、医薬品原料として加工する際、扱いにくくなるおそれがあり、他方、粒径が30メッシュに残留する程度に大きい場合は、他の食品素材との均一な混合が妨げられるおそれがある。ただし、用途、嗜好に応じて他の粒子径とすることを妨げるものではない。
なお、上記各(2)~(5)などの処理で使用する装置は、特に限定されるものではなく、大麦若葉の硬さ、繊維の方向性、葉体組織等を考慮して適切な装置等を選択すればよい。
【0018】
<GABA高含量大麦若葉>
本発明によれば、GABA含量が200mg/100g以上である大麦若葉を得ることができる。GABA含量としては、300mg/100g以上であることが好ましく、400mg/100g以上であることがより好ましい。
一般に、GABAの分析方法として、分析検体をあらかじめ加水分解処理を行った後分析する方法A(後述する実施例1)と、加水分解処理を行わず遊離状態のGABAを分析する方法B(後述する実施例2)の2つの方法が公知である。植物に含まれるGABAを分析すると、方法Aの方が方法Bに比べて分析値が少し高くなる傾向にある。これは、植物中における、遊離状態のGABAに加えて、何らかの成分と結合した状態のGABAが存在することが分析数値差の原因と考えられている。これらを踏まえ、本発明におけるGABA含量は、分析検体をあらかじめ加水分解処理を行った後にGABAを分析する方法Aによる分析値を意味する。
【0019】
本発明におけるGABAを高含量に保持した大麦若葉は、粉末や搾汁粉末として、そのまま飲食に供することができる。また、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料等と混合し、用途に応じて粉末、顆粒、錠剤等の形態に成形し、それを各種の飲食品に配合して飲食に供することも可能である。
本発明におけるGABAを高含量に保持した大麦若葉は、GABAを高濃度で含有するが、必要に応じて精製し、GABAの純品を得ることも可能である。
【実施例
【0020】
以下、本発明の大麦若葉中のGABAを高含量に保持する方法、GABA高含量の大麦若葉の製造方法及び、GABA高含量の大麦若葉加工品の製造方法について詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
【0021】
<実施例1>
<乾燥大麦若葉加工品の製造方法>
1.刈取り、収穫
大麦の高さが地面から35cm程度となった段階で、地面から15cm以上の部位で刈取りを行い、大麦若葉を収穫した。使用した大麦品種を以下に示す。
二条皮麦:ニシノホシ
二条裸麦:キラリモチ、ビューファイバー
2.大麦若葉の過熱水蒸気処理
上記「1」で刈取り収穫を行った大麦若葉を7cm程度に裁断し、水洗、水切り後、350℃に加熱した過熱水蒸気(株式会社宮村鐵工所製の過熱エンジン使用)による処理を50秒間行った。
3.大麦若葉の乾燥処理
上記「2」の処理後、吹き出し温度80℃の熱風乾燥機により大麦若葉の乾燥を行った。
4.乾燥大麦若葉の殺菌
上記「3」により得られた乾燥大麦若葉を長さ数ミリ程度に細断し、気流式殺菌機で殺菌を行った。
5.乾燥大麦若葉の粉砕
ハンマーミル式粉砕機を用いて、200メッシュの篩を通過する割合が90%以上となる微粉末を製造した。
【0022】
<GABA分析>
(試験溶液の調製)
加水分解用試験管に検体0.5gを精密に量り、20%塩酸(0.04%2-メルカプトエタノール含有)を20mL加えて15分間脱気後、封管し、110℃で24時間加水分解した。冷却後、加水分解液を水で100mLに定容し、この溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH2.2に調整後、クエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.2)で10倍に希釈し、孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過して試験溶液を調製した。
(アミノ酸自動分析計条件)
機種:JLC-500/V2(日本電子株式会社)
カラム:LCR-6、4mm×90mm(日本電子株式会社)
移動相:クエン酸ナトリウム緩衝液(日本電子株式会社)
反応液:日本電子用ニンヒドリン発色溶液キット-II(富士フイルム和光純薬工業株式会社)
流量:移動相0.42mL/min 、反応液0.22mL/min
反応温度:130℃
測定波長:570nm
(アミノ酸自動分析計タイムプログラム)
アミノ酸自動分析計タイムプログラムを下記表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
(分析結果)
過熱水蒸気処理を行った大麦若葉加工品のGABA含量を、下記表2に示す。
比較例として、上記特許文献2の表1、2における、GABA含量を高める処理前のGABA含量を、本発明における過熱水蒸気処理を行わない大麦若葉加工品のGABA含量と同等であるとして、表2に併記した。
【表2】
【0025】
表2に示すとおり、本発明における過熱水蒸気処理を行った大麦若葉加工品のGABA含量は、過熱水蒸気処理を行わない大麦若葉加工品のGABA含量に比べて、極めて高いGABA含量を保持することが確認された。
【0026】
<実施例2>
<搾汁大麦若葉加工品の製造方法>
1.刈取り、収穫
大麦品種「ミハルゴールド」を用いて、大麦の高さが地面から35cm程度となった段階で、地面から15cm以上の部位で刈取りを行い、大麦若葉を収穫した。
2.大麦若葉の過熱水蒸気処理
上記「1」で刈取り収穫を行った大麦若葉を7cm程度に裁断し、水洗、水切り後、250℃に加熱した過熱水蒸気処理を60秒間行った。
3.大麦若葉の搾汁処理
過熱水蒸気処理後の大麦若葉を長さ1cm程度に細断し、搾汁用スクリュープレスで圧搾して搾汁を行った。
4.大麦若葉搾汁液の粉末化
搾汁液にデキストリンを加えプレート式殺菌機で殺菌を行った後、スプレードライヤーで乾燥して粉末状の搾汁大麦若葉加工品を調製した。搾汁大麦若葉加工品は、生鮮大麦若葉100部から搾汁大麦若葉加工品10部の出来上がりとなるように調整した。
(比較例)
上記「2」の過熱水蒸気処理に変えて、90℃の温水中で30秒間加熱処理を行い、搾汁以降は実施例2と同様の手順で搾汁大麦若葉加工品比較例を調整した。
【0027】
<GABA分析>
(試験溶液の調製)
クエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.2)100mLに検体0.5gを精密に量って投入し、室温で1時間撹拌抽出を行う。抽出液をクエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.2)で10倍に希釈し、孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過して試験溶液を調製した。
(アミノ酸自動分析計条件)
上記実施例1と同じ条件で分析を行った。
【0028】
(分析結果)
上記「搾汁大麦若葉加工品」の実施例と比較例のGABA含量を、下記表3に示す。
【表3】
【0029】
表3に示すとおり、本発明における過熱水蒸気処理を行った搾汁大麦若葉加工品のGABA含量は、過熱水蒸気処理を行わない搾汁大麦若葉加工品のGABA含量に比べて、極めて高いGABA含量を保持することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の大麦若葉中のGABAを高含量に保持する方法、GABA高含量の大麦若葉の製造方法及び、GABA高含量の大麦若葉加工品の製造方法は、200℃以上600℃以下に加熱した過熱水蒸気を用いて、5秒以上120秒以下の範囲において過熱処理を行うことにより、その後の乾燥、粉砕、搾汁などの加工工程を経ても、GABAが高い含量のまま保持されるという、極めて優れた効果を奏する方法であり、非常に有用である。