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  • 特許-免震建物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】免震建物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20230920BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20230920BHJP
   F16F 1/40 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
E04H9/02 331A
E04H9/02 331D
E04H9/02 331E
F16F15/04 P
F16F1/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019168274
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2021046676
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】黒川 雄太
(72)【発明者】
【氏名】濱口 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】木下 貴博
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅史
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-014911(JP,A)
【文献】特開2018-096501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
F16F 1/00 - 6/00
F16F 9/00 - 9/58
F16F 15/00 - 15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造物の上に設けられ、上部構造物を支持する免震層と、
前記免震層に設けられ、ハードニングを開始するせん断変形量が異なる複数の積層ゴム支承と、
を備え
前記免震層の許容変形量に達するまえにハードニングを開始する前記積層ゴム支承を一以上含む、
免震建物。
【請求項2】
前記複数の積層ゴム支承のうち、
ハードニングを開始するせん断変形量が最大の前記積層ゴム支承は、前記上部構造物の鉛直荷重を支持し、
他の前記積層ゴム支承は、
前記上部構造物の鉛直荷重を受けずに前記上部構造物の水平方向の変位が伝達されるように設けられている、
又は、
前記上部構造物の柱と柱との中間部の下に設けられている、
請求項1に記載の免震建物。
【請求項3】
前記上部構造物の柱の直下に設けられた前記積層ゴム支承は、前記柱の直下以外に設けられた前記積層ゴム支承よりもハードニングを開始するせん断変形量が大きい、
請求項1又は請求項2に記載の免震建物。
【請求項4】
前記複数の積層ゴム支承は、ゴム層厚を異ならせて、ハードニングを開始するせん断変形量を異ならせている、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の免震建物。
【請求項5】
前記複数の積層ゴム支承は、
前記上部構造物を支持する第一積層ゴム支承と、
前記第一積層ゴム支承よりも許容せん断変形量が小さく、前記免震層の許容変形量に達するまえにハードニングを開始する第二積層ゴム支承と、
を有している、
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の免震建物。
【請求項6】
下部構造物の上に設けられ、上部構造物を支持する免震層と、
前記免震層に設けられ、前記上部構造物を支持する免震支承と、
前記免震層に設けられ、前記上部構造物と前記下部構造物との水平方向の相対移動によってせん断変形し、前記免震層の許容変形量に達するまえに、ハードニングを開始するハードニング部材と、
を備えた免震建物。
【請求項7】
前記許容変形量は、前記上部構造物が前記下部構造物の擁壁に衝突する変位量に設定されている、
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の免震建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震建物に関する。
【背景技術】
【0002】
免震建物は、地震時に免震層を変形させて上部構造物への地震動の伝達を抑制するものであるが、この免震層の変形が問題となることがある。例えば、免震建物が建築基準法等で示される地震を大きく上回る過大地震動や長周期成分が卓越する長周期地震動などを受けた場合、免震層に設計で想定した変形量を上回る過大変形が生じ、免震建物の上部構造物が擁壁等に衝突することが考えられる。
【0003】
そこで、特許文献1には、中小地震に対しては低い減衰係数で減衰力を発揮し、大地震に対しては高い減衰係数で減衰力を発揮することが可能なダンパに関する技術が開示されている。この先行技術のダンパは、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されてシリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、ピストンに設けられて伸側室と圧側室とを連通する通路と、ピストンが中立位置から予め設定された変位量以上変位すると通路を閉塞する蓋部材と、を備えたことを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-26095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
減衰係数が変化するダンパを用いないで、しかも簡単な機構で、免震層の過大変形を抑制することを検討する。
【0006】
本発明は、上記事実に鑑み、簡単な機構で、免震層の過大変形を抑制することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一態様は、下部構造物の上に設けられ、上部構造物を支持する免震層と、前記免震層に設けられ、ハードニングを開始するせん断変形量が異なる複数の積層ゴム支承と、を備えた免震建物である。
【0008】
第一態様の免震建物の免震層に設けられた積層ゴム支承は、上部構造物と下部構造物との水平方向の相対移動によってせん断変形する。ハードニングを開始するせん断変形量の小さい積層ゴム支承が、先行してハードニングを開始することで、免震層の水平剛性が大きくなり、変形を抑制する。このように、ハードニングを開始するせん断変形量が異なる積層ゴム支承を用いることで、免震層の変形を簡単な機構で抑制することができる。
【0009】
第二態様は、前記複数の積層ゴム支承のうち、ハードニングを開始するせん断変形量が最大の前記積層ゴム支承は、前記上部構造物の鉛直荷重を支持し、他の前記積層ゴム支承は、前記上部構造物の鉛直荷重を支持しない又は前記免震層の直上階を除く前記上部構造物の鉛直荷重を支持しない、第一態様に記載の免震建物である。
【0010】
第二態様の免震建物は、ハードニングを開始するせん断変形量が最大の積層ゴム支承が上部構造物の鉛直荷重を支持し、他の積層ゴム支承は上部構造物の鉛直荷重を支持しない又は免震層の直上階を除く上部構造物の鉛直荷重を支持しない。つまり、先行してハードニングを開始する積層ゴム支承は、上部構造物の鉛直荷重を支持していない又は免震層の直上階を除く上部構造物の鉛直荷重を支持していない。よって、先行してハードニングを開始する積層ゴム支承は、大きくせん断変形しても座屈しない又は座屈しにくいので、大きなせん断変形にも耐えることができる。また、水平剛性のみを考慮して選択できるため、ハードニングを開始するタイミングを容易に制御することができる。
【0011】
なお、先行してハードニングした積層ゴム支承は、上部構造物の鉛直荷重又は免震層の直上階を除く上部構造物の鉛直荷重を支持していないので、交換が容易である。
【0012】
第三態様は、前記上部構造物の柱の直下に設けられた前記積層ゴム支承は、前記柱の直下以外に設けられた前記積層ゴム支承よりもハードニングを開始するせん断変形量が大きい、第一態様又は第二態様に記載の免震建物である。
【0013】
第三態様の免震建物は、上部構造物の柱の直下に設けられた積層ゴム支承が、上部構造物の鉛直荷重を主に負担し、柱の直下以外に設けられた積層ゴム支承は、上部構造物の鉛直荷重を負担しない又は負担が少ない。そして、柱の直下以外に設けられた積層ゴム支承は、先行してハードニングを開始する。よって、柱の直下以外に設けられた先行してハードニングを開始する積層ゴム支承は、大きくせん断変形をしても座屈しない又は座屈しにくいので、大きなせん断変形にも耐えることができる。
【0014】
第四態様は、前記複数の積層ゴム支承は、ゴム層厚を異ならせて、ハードニングを開始するせん断変形量を異ならせている、第一態様~第三態様のいずれか一態様に記載の免震建物である。
【0015】
第四態様の免震建物は、ゴム層厚を異ならせることで、積層ゴム支承のハードニングを開始するせん断変形量を、容易に異ならせることができる。
【0016】
第五態様は、下部構造物の上に設けられ、上部構造物を支持する免震層と、前記免震層に設けられ、前記上部構造物を支持する免震支承と、前記免震層に設けられ、前記上部構造物と前記下部構造物との水平方向の相対移動によってせん断変形し、所定のせん断変形量を超えるとハードニングを開始するハードニング部材と、を備えた免震建物である。
【0017】
第五態様の免震建物は、免震層に設けられたハードニング部材は、上部構造物と下部構造物との水平方向の相対移動によってせん断変形し、所定のせん断変形量を超えるとハードニングを開始し、免震層の水平剛性が大きくなる。このようにハードニング部材を免震層に設けた簡単な機構で、免震層の過大変形を抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡単な機構で、免震層の過大変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第一実施形態の免震建物の構造を模式的に示す断面図である。
図2】免震層の水平方向の変位と層せん断力との関係を示すグラフである。
図3】第二実施形態の免震建物の構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態の免震建物について説明する。なお、図1は断面図であるが、図が煩雑になるのを避けるため、断面を示す斜線(ハッチング)の図示を省略している。
【0021】
[構造]
先ず、本実施形態の免震建物の構造について説明する。
【0022】
図1に示すように、免震建物100は、基礎免震構造とされ、下部構造物10、免震層102、上部構造物20、第一積層ゴム支承110及び第二積層ゴム支承120を有して構成されている。
【0023】
下部構造物10は、地盤Gを掘削して形成された凹部12に設けられ、底盤14と、この底盤14の周りに形成された擁壁16と、で構成されている。下部構造物10の上には、上部構造物20を支持する免震層102が設けられている。
【0024】
免震層102には、第一積層ゴム支承110及び第二積層ゴム支承120が設置されている。
【0025】
なお、本実施形態の上部構造物20は、柱22と梁24とを有するラーメン構造とされ、各柱22の下端部を基礎梁26が連結した構造とされているが、これに限定されるものではない。
【0026】
本実施形態では、第一積層ゴム支承110は、柱22の直下に設けられている。第二積層ゴム支承120は、柱22の直下以外、本実施形態では柱22と柱22との中間部に設けられている。
【0027】
別の観点から説明すると、第一積層ゴム支承110は、上部構造物20の鉛直荷重を支持するように設けられ、第二積層ゴム支承120は、免震層102の直上階27の重量を除いた上部構造物20の鉛直荷重を支持しないように設けられている。
【0028】
なお、「免震層102の直上階27の重量を除いた上部構造物20の鉛直荷重を支持しない」とは、「第二積層ゴム120の上部の免震基礎重量、基礎梁26の重量、直上階27の固定荷重及び積載荷重を負担することは許容する」と言う意味である。
【0029】
第一積層ゴム支承110及び第二積層ゴム支承120は、ゴム50と鋼鈑52とを積層して構成された免震支承である。第二積層ゴム支承120のゴム層厚は、第一積層ゴム支承110のゴム層厚よりも薄い。なお、「ゴム層厚」とは、積層された複数のゴム50の合計の厚みである。
【0030】
第一積層ゴム支承110及び第二積層ゴム支承120は、所定のせん断変形量を超えると、ゴム50がハードニングを開始し、せん断剛性が大きくなる特性を有している。前述したように、第二積層ゴム支承120のゴム層厚は、第一積層ゴム支承110のゴム層厚よりも薄い。よって、第二積層ゴム支承120の方が第一積層ゴム支承110よりもハードニングを開始するせん断変形量が小さい。したがって、地震時等に上部構造物20が水平方向に移動すると、第一積層ゴム支承110に先行して第二積層ゴム支承120がハードニングを開始する。
【0031】
この先行してハードニングを開始する第二積層ゴム支承120は、免震層102の許容変形量に達する前に、ハードニングを開始するように設定されている。また、柱22の直下に設けられ上部構造物20の鉛直荷重を支持する第一積層ゴム支承110は、免震層102の許容変形量に達する前にハードニングを開始しないように設定されている。
【0032】
本実施形態では、免震層102の許容変形量は、上部構造物20が下部構造物10の擁壁16に衝突する変位量に設定されている。よって、第二積層ゴム支承120は、上部構造物20が擁壁16に衝突する前にハードニングを開始する。また、第一積層ゴム支承110は、上部構造物20が擁壁16に衝突する前にハードニングを開始しない。なお、免震層102の許容変形量は、擁壁16への衝突以外で決定してもよい。
【0033】
[作用及び効果]
次に本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0034】
免震層102に設けられた第一積層ゴム支承110及び第二積層ゴム支承120は、地震時等にせん断変形し、上部構造物20が下部構造物10に対して水平方向に移動する。そして、ハードニングを開始するせん断変形量の小さい第二積層ゴム支承120が、第一積層ゴム支承110に先行してハードニングを開始することで、免震層102の水平剛性が大きくなる。
【0035】
また、本実施形態では、第一積層ゴム支承110及び第二積層ゴム支承120のゴム層厚を異ならせることで、第一積層ゴム支承110及び第二積層ゴム支承120のハードニングを開始するせん断変形量を、容易に異ならせることができている。
【0036】
なお、本実施形態では、第二積層ゴム支承120は、上部構造物20が擁壁16に衝突する前にハードニングを開始するように設定されている。よって、上部構造物20が擁壁16に衝突する前に免震層102の水平剛性が大きくなる。したがって、上部構造物20の擁壁16への衝突が防止又は抑制される。
【0037】
また、第二積層ゴム支承120は、免震層102の直上階27の重量を除いた上部構造物20の鉛直荷重を支持しないように設けられており、水平剛性のみを考慮して選択できるため、ハードニングを開始するタイミングを容易に制御することができる。よって、簡単な機構で、免震層102の変形を低減することができる。
【0038】
また、第二積層ゴム支承120は、基礎梁26の下における柱22と柱22との中間部に設けられ、免震層102の直上階27の重量を除いた上部構造物20の鉛直荷重を支持しないように設けられている。よって、先行してハードニングを開始する第二積層ゴム支承120は、大きくせん断変形しても座屈しない又は座屈しにくいので、大きなせん断変形にも耐えることができる。
【0039】
ここで、第二積層ゴム支承120が大きな鉛直荷重を支持していると仮定した場合、先行してハードニングを開始する前に座屈する恐れがある。しかし、本実施形態では、第二積層ゴム支承120に作用する鉛直荷重は小さい。よって、第二積層ゴム支承120は、先行してハードニングを開始する前に座屈する恐れがない。
【0040】
また、先行してハードニングした第二積層ゴム支承120は、柱22と柱22との中間部に設けられ、免震層102の直上階27の重量を除いた上部構造物20の鉛直荷重を支持していないので、地震後の交換が容易である。
【0041】
(免震層における積層ゴムの水平方向の荷重-変形関係)
次に、免震層における積層ゴムの水平方向の荷重-変形関係を図2のグラフを使って説明する。免震層の履歴特性には、減衰要素の履歴特性が加わるが、簡便のため、ここでは積層ゴム部分のみの荷重-変形関係を示している。
【0042】
なお、図2のグラフは、模式的に図示してあると共に一例であって、この特性に限定されるものではない。
【0043】
二点鎖線Aは、第一積層ゴム支承110の特性を示している。なお、P点は、第一積層ゴム支承110がハードニングを開始する変位である。一点鎖線Bは、第二積層ゴム支承120の特性を示している。なお、Q点は、第二積層ゴム支承120がハードニングを開始する変位である。
【0044】
実線Cは、第一積層ゴム支承110及び第二積層ゴム支承120が設けられた本実施形態の免震層102における積層ゴムの復元力特性を示している。破線Dは、第二積層ゴム支承120を第一積層ゴム支承110に置き換え、第一積層ゴム支承110のみが設けられた従来の比較例の免震層の特性を示している。
【0045】
なお、変位Rは、上部構造物20が擁壁16に衝突する変位を示している。Q1は、ある地震応答によって生じる免震層の層せん断力である。δc及びδdは、免震層の層せん断力がQ1の場合における本実施形態の変位量と第一積層ゴム支承110のみが設けられた比較例の変位量をそれぞれ示している。
【0046】
図2を見るとわかるように、実線Cで示す本実施形態は、破線Dで示す第一積層ゴム支承110のみが設けられた比較例と比較して、第二積層ゴム支承120が先行してハードニングを開始するまでは同様の履歴特性を示す。
【0047】
第二積層ゴム支承120が先行してハードニングを開始する変形量を超えた場合では、本実施形態は比較例と比較して、剛性が大きくなる。剛性が大きくなることによる免震層に生じる層せん断力の増分が微量であるとすれば、δc<δdとなるため本実施形態により免震層の変形を低減できる。
【0048】
<第二実施形態>
本発明の第二実施形態の免震建物について説明する。なお、図3は断面図であるが、図が煩雑になるのを避けるため、断面を示す斜線(ハッチング)の図示を省略している。また、第一実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0049】
[構造]
先ず、本実施形態の免震建物の構造について説明する。
【0050】
図3に示すように、免震建物200は、基礎免震構造とされ、下部構造物10、免震層202、上部構造物20、滑り支承210及びハードニング部材220を有して構成されている。ハードニング部材220は、所定のせん断変形量を超えるとハードニングを開始するハードニング特性を有する部材であればよく、例えばゴム部材及び長鎖分岐構造を有するポリプロピレン部材等を用いることができる。
【0051】
免震層202には、滑り支承210及びハードニング部材220が設けられ、これら滑り支承210及びハードニング部材220は、下部構造物10の上に設置されている。
【0052】
本実施形態では、免震支承の一例としての滑り支承210は、柱22の直下に設けられ、上部構造物20の鉛直荷重を支持している。
【0053】
本実施形態では、ハードニング部材220は、基礎梁26の下における柱22と柱22との中間部に設けられている。しかし、ハードニング部材220の設置位置は、この位置に限定されない。ハードニング部材220は、免震層202のどこに設けられていてもよい。なお、本実施形態のハードニング部材220は、上部構造物20の鉛直荷重を支持していない。しかし、ハードニング部材220は、上部構造物20の免震層102の直上階27の重量を支持してもよい。
【0054】
ハードニング部材220は、上端部222が上部構造物20の基礎梁26に接合部材223を介して接合され、下端部224が下部構造物10の底盤14に接合部材225を介して接合されている。
【0055】
また、ハードニング部材220は、所定のせん断変形量を超えると、ハードニングを開始し、せん断剛性が大きくなる特性を有している。なお、ハードニング部材220は、免震層202の許容変形量に達する前に、ハードニングを開始するように設定されている。本実施形態では、免震層202の許容変形量は、上部構造物20が下部構造物10の擁壁16に衝突する変位量に設定されている。よって、ハードニング部材220は、上部構造物20が下部構造物10の擁壁16に衝突する前にハードニングを開始する。
【0056】
[作用及び効果]
次に本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0057】
免震層202に設けられたハードニング部材220は、地震時等にせん断変形し、上部楮物20が水平方向に移動する。そして、ハードニング部材220がハードニングを開始することで、免震層202の水平剛性が大きくなる。
【0058】
このように、免震層202にハードニング部材220を設けることで、免震層102の過大変形を容易に抑制することができる。
【0059】
なお、本実施形態では、ハードニング部材220は、上部構造物20が擁壁16に衝突する前にハードニングを開始するように設定されている。よって、上部構造物20が擁壁16に衝突する前に免震層202の水平剛性が大きくなる。したがって、上部構造物20の下部構造物10の擁壁16への衝突が防止又は抑制される。
【0060】
また、ハードニング部材220は、上部構造物20の鉛直荷重を支持していないので、地震後の交換が容易である。
【0061】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0062】
例えば、上記実施形態では、第一積層ゴム支承110、第二積層ゴム支承120、滑り支承210及びハードニング部材220は、基礎梁26の下に設けられていたが、これに限定されない。例えば、これらは、スラブの下に設けられていてもよい。
【0063】
また、例えば、第一実施形態では、第二積層ゴム支承120は、柱22と柱22との中間部に設けられていたが、これに限定されない。第二積層ゴム支承120は、柱22の直下に設けられていてもよいし、上部構造物20の直上階27以外の鉛直荷重も支持してもよい。
【0064】
或いは、第二積層ゴム支承120は、上部構造物20の直上階27を含む鉛直荷重を支持しない構成としてもよい。例えば、第二積層ゴム支承120の上端部を上部構造物20の基礎梁26等に対して間隔をあけて設ける構成等である。なお、この場合、上部構造物20の基礎梁26等から下向きに突出する突出部材等を設け、水平方向の変位が第二積層ゴム支承120の上端部に伝達される構成とする。また、この場合における第二積層ゴム支承120の上端部と上部構造物20の基礎梁26等との間隔を、無収縮モルタル等の充填材で埋めてもよい。
【0065】
また、例えば、第一実施形態では、第一積層ゴム支承110及び第二積層ゴム支承120はゴム層厚によってハードニングを開始するせん断変形量を異ならせていが、これに限定されない。第一積層ゴム支承110及び第二積層ゴム支承120を構成するゴム50の硬度等の材料物性等でハードニングを開始するせん断変形量を異ならせてもよい。
【0066】
また、第一実施形態では、免震層102には、ハードニングを開始するせん断変形量が異なる二種類の第一積層ゴム支承110及び第二積層ゴム支承120が設けられていが、これに限定されない。ハードニングを開始するせん断変形量が異なる三種類以上の積層ゴム支承が、免震層102に設けられていてもよい。なお、この場合は、ハードニングを開始するせん断変形量が最大の積層ゴム支承が上部構造物20の鉛直荷重を支持し、他の積層ゴム支承は上部構造物20の鉛直荷重又は免震層102の直上階27を除く上部構造物20の鉛直荷重を支持しない構造が望ましい。或いは、柱22の直下に設けられた積層ゴム支承は、柱22の直下以外に設けられた積層ゴム支承よりもハードニングを開始するせん断変形量が大きい構造が望ましい。
【0067】
また、第二実施形態では、免震層202には、一種類のハードニング部材220が設けられていが、これに限定されない。ハードニングを開始するせん断変形量が異なる二種類以上のハードニング部材が、免震層202に設けられていてもよい。
【0068】
また、第二実施形態では、滑り支承210が上部構造物20を支持したが、これに限定されない。滑り支承210以外の免震支承、例えば、転がり支承及び積層ゴム支承であってもよい。
【0069】
また、例えば、上記実施形態では、免震建物100、200は、基礎免震構造であったが、これに限定されない。中間免震構造の免震建物にも本発明を適用することができる。また、基礎免震構造と中間免震構造との両方を備えた免震建物など、免震層が複数設けられた免震建物にも本発明を適用することができる。
【0070】
また、複数の実施形態は、適宜、組み合わされて実施可能である。更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。
【符号の説明】
【0071】
10 下部構造物
20 上部構造物
22 柱
27 直上階
102 免震層
110 第一積層ゴム支承
120 第二積層ゴム支承
100 免震建物
200 免震建物
202 免震層
210 滑り支承(免震支承の一例)
220 ハードニング部材
図1
図2
図3