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特許7351058室温ナノインプリンティングを応用した表面微細構造漆フィルムの生成および表面微細構造漆フィルムを使用した漆製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】室温ナノインプリンティングを応用した表面微細構造漆フィルムの生成および表面微細構造漆フィルムを使用した漆製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B44C 3/00 20060101AFI20230920BHJP
   B44C 5/06 20060101ALI20230920BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20230920BHJP
   B32B 37/00 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
B44C3/00 E
B44C5/06 D
B32B3/30
B32B37/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021186674
(22)【出願日】2021-10-20
(65)【公開番号】P2023061864
(43)【公開日】2023-05-02
【審査請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】521501358
【氏名又は名称】株式会社セミナリオ
(72)【発明者】
【氏名】黄 嘉怡
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 大
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-098261(JP,A)
【文献】特開2015-134479(JP,A)
【文献】特開昭63-141800(JP,A)
【文献】特開平01-155965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44B 1/00 - 11/04
B44C 1/00 - 1/14、
1/18 - 7/08
B44D 2/00 - 7/00
B44F 1/00 - 99/00
B05D 1/00 - 7/26
B32B 3/30
B32B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項4】
請求項1に記載の方法により前記フィルム(2)を前記基材(1)から離型した後に、マスキングシート(3)#1,#2を用いて表面微細構造を保護し、前記フィルム(2)を自由な形状に切断、そのようにしてできた積層体(4)にさらにマスキングシート(3)#3を貼り付け、積層体(4)における前記フィルム(2)部分に釦漆(5)を塗布し、貼り付け先基材(6)の器面に接着し、漆塗膜(7)の塗布と研磨を繰り返して製造する漆フィルム加飾漆製品(8)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温ナノインプリンティングを応用した表面微細構造漆フィルムの製造方法と、それを色材として加飾技法に応用し、漆製品を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、漆器における色材表現には、顔料によるもの、染料によるもの、構造色によるものがあった。顔料によるものは、顔料とJIS K-5950精製漆を混練した「色漆」と呼ばれる漆の塗布と研磨を繰り返す技術である。また染料による色材表現は、上記精製漆に染料を混和して染色し、透明度の高い漆を作ったのちそれを塗布および研磨して仕上げる技術である。構造色による色材表現には、貝の真珠層の色彩を利用した螺鈿、玉虫の多層膜構造を応用した玉虫、また各種金銀の粒径の大小を応用した蒔絵技法などが知られている。
【0003】
漆によるフィルム生成の技術に関しては、非浸透性かつ可撓性のある基材上に漆塗料等を塗り重ねた積層体を形成し、前記積層体を前記基材から離型させることにより得られる漆製品が知られている(特許文献1参照)。また、特許文献1に見られる耐久性の問題点を、織布および糊漆層によって克服した漆シートの製造方法が公知である(特許文献2参照)。また、ナノインプリントの色材応用に関しては、2次元フォトニック結晶製造方法の発明は一般的であり、公知である。しかし、漆を用いてナノインプリントを施した発明は少なく、熱硬化によってナノインプリントモールドに表面微細構造を発生させた非特許文献1が公知である。ここでは、一般的な熱ナノインプリントの方法に従い、ナノインプリントの金型を樹脂に圧着し、熱で硬化する方法が用いられている。この実験によって、漆塗膜を虹色に成型できることがわかっており、ここから漆で表面微細構造を作れば色材への応用が可能であることが判る。また、本発明と同様の原理を用いた発明として、チョコレートへの構造色の付与が挙げられる。スイスのデザイン会社であるMorphotonix社によるナノインプリンティングによるフォトニックチョコレートや、スイス連邦工科大学らの研究が公知である(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6239388号公報
【0005】
【文献】特許出願2019-230700
【非特許文献】
【0006】
【文献】渡邊宏臣,藤本綾と高原淳.「漆工芸の新しい加飾法:先端テクノロジーと伝統工芸の融合 バイオポリマー漆のナノインプリンティング法による表面微細構造の形成」,111,2011年 https://main.spsj.or.jp/koho/20PMF/20PMF_3.pdf
【0007】
【文献】ETH Zurich.「Making chocolate colourful」.ETH Zurich,2019.https://ethz.ch/en/news-and-events/eth-news/news/2019/12/shimmering-chocolate.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでの技術には、ナノインプリントモールドが工芸品製作のためには高価であることや、ナノインプリント機材が工芸製作の現場では一般的に用いられていないことを中心とした課題が存在した。そこで本発明は、常温かつナノインプリントモールド以外の金型(例えば天然の回折格子素材である薄貝など)を使うことで、漆器産地や工芸家などの工芸制作者が、身近かつ安価に構造色を有する漆フィルムを生成し、表面微細構造を保護しながら漆製品を製作する方法を提供する。
【0009】
漆製品には、可能な限り漆を主成分とする塗料を使うことで付加価値が向上するという大前提がある。
【0010】
これまで漆製品に構造色を付与するためには、漆以外の素材が用いられてきた。だが、これまでの分光材料を用いた螺鈿、玉虫などの漆製品加飾材料は、炭酸カルシウムによる構造体や虫の羽などの生体材料であるため、利用できる面積が限られ、また曲面に貼り付けることが難しいという問題が生じていた。また、漆製品の色感においては、ウルシオールの重合後に多かれ少なかれ茶褐色を生じるため、色の彩度が低く、色数が限られるという問題があった。例えば、「白漆」として知られている白レーキあるいはチタニウムホワイトと上記精製漆を混和した漆は、JIS慣用色名におけるホワイトではなく、むしろアイボリーに近い発色を示す。そのためホワイトを漆工で表現したい場合は漆以外の媒材を用いるしかない。他の色彩に関しても同様に、再度の高い発色を実現するためには、漆以外の材料である玉虫の羽や薄貝などを加飾する必要がある。
【0011】
そこで、漆自体に構造色を付与する発明も試みられた(非特許文献1)。この、熱ナノインプリント法を用いた表面微細構造を持つ漆塗膜の形成には、100度以上の熱で漆を熱硬化させる必要があるが、このような高温には一般的な漆製品の支持体である木や布に対して変形やひび割れを引き起こす可能性が高い。また、漆フィルムとして用いる場合でも、現在の漆製品生産の現場である漆製品産地や漆芸作家の工房においては、高価なナノインプリント機器を導入することは現実的な漆フィルム生成方法とはいえない。したがって、速度の求められる工業製品よりも時間をかけ生産が可能な工芸品の生産においては、一般的な酸化重合を利用して室温で漆を硬化させるべきである。
【0012】
本発明は、かかる課題を解消して、モールドを樹脂に押し付ける従来の熱ナノインプリンティングの手法を使わず、繊維質以外には非浸透であるという漆の特性を用いて、漆をモールドに塗布し常温硬化させる。そうすることで、漆のみを用いながらも鮮やかかつ神秘的に発色し、かつ曲面にも容易に接着可能な漆フィルムおよびその製造方法(請求項1)を示す。また、高価なナノインプリントモールドがなくても、天然素材のみでも構造色を発色させるフィルム製造方法(請求項2)、また漆フィルムの接着による漆製品の製造方法(請求項4)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、課題解決のため、表面微細構造を有し、構造発色の可能な漆フィルムを、漆成分を含む塗料によって作成し、それを離型して器面に接着できるようにする。この漆フィルムは片方の面に分光可能な表面微細構造を有することを特徴としている(請求項3)。
このような表面微細構造の漆への加飾は、従来はナノインプリンティング用の高価なモールドを必要としたが、本発明では、そのような人造のモールドに加え、アワビ貝などの天然素材の薄貝を研磨する事によって得られる天然の回折格子でも表面微細構造を持った漆フィルムが作れる。また、接着の際には、マスキングシートを多重に貼付した積層体(4)を漆基板に圧着することで、現場で作業をする職人や作家が、大規模な設備投資なく、新技法を実践できる(請求項2)。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、漆フィルムの片面に構造色を人為的に生じさせることにより、漆を用いながらも、これまでの漆には見られなかったような、鮮やかで複雑な発色を可能にする。また、薄い漆フィルムの可塑性を利用し、角のある曲面にも容易に接着可能である。そのうえ、ナノインプリンティングの技術を応用することによってさまざまな模様を発色させたり、望ましい発色を引き出したりできる。
このような発明によって、ブラックおよびレッド、アイボリーの色漆が選択されることの多かった従来の漆製品の色材選択に多様性を付与することができる。
更に、使用する漆は、黒や茶褐色の精製漆だけでなく、顔料や染料を混練した従来の色漆も使用可能である。その場合も、角度に応じて顔料が発色し、角度に応じて構造発色が現れる。この事によって、表現の幅が飛躍的に広がるだろう。
【図面の簡単な説明】
図は全て積層構造の断面図である。図1-3までは、表面微細構造漆フィルムの製造過程(請求項1-3)である。図4-17までは、表面微細構造漆フィルムの漆面への貼り付け方法(請求項4)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0016】
本実施例では、鮑貝の薄貝を基材(1)として、基材に漆塗料を漆工用の刷毛にて塗布し、常温(20~25℃)、相対湿度60%前後に調整した環境下に48時間静置して、漆塗料を乾燥硬化させ、漆フィルム(2)を形成した。また、漆フィルムの貼り付け先基材(6)には、石川県輪島市の日南彩漆堂による手板を駿河炭にて研磨したものを用いた。一般的に、薄貝はその製造工程で表面に傷が入るが、本表面微細構造加飾用漆フィルムは、製造時の傷がそのままフィルムの審美的効果に影響を与える。そのため、貝の表面は可能な限り研磨しておくことが望ましい。実施例では、600番、800番、1000番、2000番と耐水ペーパーで研磨した後、最終磨きを三彩加工社製の「サンジェット L-676」を付着させた脱脂綿にて行った。
【0017】
図1から図3に示したのは漆フィルムの作成と剥離の工程である。フィルムの作成と剥離には3工程ある。
【0018】
図1は基材となるモールド(1)で、このとき、離型剤などは不要である。表面の油分を、予めテレピンを噴霧して除去し拭き取るか、完全に揮発するのを待つ。
【0019】
図2は基材(1)の上に漆(2)を塗布した図である。このとき最も注意されたいのが、縮みが生じないよう、玉毛(猫の毛を用いたもの)の筆やナイロン筆など、塗膜が比較的薄くなる筆で塗布することである。縮みが生じると、表面微細構造が形成されないどころか、モールドに塗料が残存し、モールドが汚染される可能性がある。
【0020】
図3は硬化後、24℃、60RHで3日程度、メスやスクレイパーなどを用いてフィルム(2)を基材(1)から剥離させている図である。剥離は、指触時に強くフィルムを押し込んだ際もフィルムが破けず、完全硬化したことを確認してから行う必要がある。
【0021】
剥離時は基材を傷つけないように細心の注意を払う必要がある。そのためには、剥離に使う工具を予め仕立てる必要がある。今回、剥離に用いたメス、スクレイパーは、株式会社松永トイシの「キングデラックス#1000」で研磨したのち、同「キング仕上砥(#6000)」で仕上げ、最終仕上げに合資会社武蔵野金属工業所が販売するオイルストーンの「ポケットアーカンサス ハード」及び同「トランスルーセント」を用いて研磨し仕立てた。
【0022】
なお、この時点で、図案の形状と見比べながら、入射光などを考慮に入れ、仕上がり時のフィルムの向きを決定しておく必要がある。なぜなら、本表面微細構造漆フィルムは、切断前にマスキングシートで微細構造を保護する都合上、通常の螺鈿のように切断後に反射の確認ができないためである。
【0023】
図4から図5まではマスキングの工程である。
【0024】
図4は、図3で剥離した漆フィルム(2)を、マスキングシート(3)#1に接着した図である。
【0025】
漆フィルムの表面微細構造の上に漆が付着すると、表面微細構造は埋没してしまい、構造色が発生しない。漆フィルムを研ぎ出し技法で用いるためには、表面微細構造を保護しながら、フィルムと同じ高さの面を作ることが肝要である。表面微細構造の保護のため、ここではマスキングシートを用いている。
【0026】
このときマスキングシートには低粘着のものを使うと、後ほど剥がす際に誤ってフィルムごと剥がすことを防げる。また、接着時は必ずマスキングシートの粘着部分を、漆フィルムの表面微細構造部分に接着することを注意されたい。
【0027】
図5は、図4で作成したマスキングシート付き漆フィルムに、補強のために更にマスキングシート(3)#2を貼ったものである。(3)#2のフィルムの粘着面は、#1のフィルムの非粘着面に貼りつける。
【0028】
図6は成形の工程で、図5のフィルムを、自由な形に切断し、積層体(4)を成形したものである。
【0029】
図7から図10までは接着の工程である。
【0030】
図7は、切断したマスキングシート付き漆フィルムを、新たなマスキングシート(3)#3に貼り付けた状態である。
【0031】
この作業を行う理由として、図6の状態のフィルムに直接釦漆を塗布し、表面に接着すると、フィルムの輪郭部分に反りが生じ、浮いたようになってしまうことが挙げられる。そうなると、フィルムに凹凸があるような見た目になってしまい、加飾効果が悪化する。そのため、貼り付けるときは、マスキングシート(3)#3によって全体を均一に圧着するのが重要なのである。
【0032】
図8は、図7のフィルムに、釦漆(5)を塗布したものである。釦漆(5)は漆フィルム(2)の上に塗布する。
【0033】
図9は、貼り付け先基材(6)の表面に漆フィルムを圧着した図である。貼り付け先基材(6)として想定されるのは、漆を用いて中塗り研ぎまで行われた面である。
【0034】
このとき、図7で接着したマスキングシート(3)#3は全体を均一に圧着している。この状態で、少なくとも3日は24℃、60RHの雰囲気中に安置する。
図10は、釦漆(5)が完全硬化した状態で、マスキングシート(3)#3を剥がしている図である。このときに剥がすマスキングシート(3)は#3のみで、#1と#2は最終工程の図17まで剥がさない。
【0035】
図11から図16までは塗り込み・研ぎ出しの工程である。
【0036】
図11は貼り付け先基材(6)の上に漆を刷毛塗りしている図である。以降は、漆フィルムと釦漆の厚み分漆を塗り重ね、合間に研ぎを繰り返す。フィルムを平滑に研ぎ出すためには、漆フィルムと釦漆の厚みを計算し、それに合わせて塗り込みの回数を決定する必要があり、塗りこみ及び研磨は3回程度が望ましい。
【0037】
図12は漆フィルム(7)#1を駿河炭で研磨した図である。このとき、マスキングシート上の漆は除去されているほうがよいが、強く研磨しすぎるとマスキングシートが剥離する可能性があるので、可能な限り除去するのでも構わない。研磨の目的はあくまで表面の凹凸の平滑化である。
【0038】
図13図12の上に2回目の漆を塗布し、漆フィルム(7)#2を生成したものである。
【0039】
図14図12と同様に、駿河炭で研磨を行ったものである。
【0040】
図15図14の研磨の上に3回目の漆を塗り、漆フィルム(7)#3を生成したものである。
【0041】
図16図12と同様に研磨し、一般的な漆工の手法で仕上げと磨きを行った状態である。
【0042】
図17は、仕上げと磨きが全て完了したのち、マスキングシートを剥がした状態。この際、フィルムはピンセットを用いて、傷がつかないように細心の注意で剥がす。これで漆製品(8)が完成となる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、主として漆工産業、あるいは漆工を利用した美術品・工芸品などでの利用に資するものである。特許文献1,2のように、これまで漆をフィルム化する技術は公知であったが、漆工産地や漆工を利用した美術品・工芸品の現場においては、それらを活用する積極的な動機に欠けたように思われる。その理由として考えられるのは、フィルムで制作されようと従来の伝統製法で制作されようと、完成した外観にあまり影響が出なかったことが挙げられる。しかし、本発明は従来製法だけでは再現が難しいため、漆をフィルムとして扱う従来技術の活発な利用も促すものである。
【0044】
また、非特許文献1のように、漆に構造色を付与する研究は行われていたが、それはまだ実用的な段階にはなく、使用例は見られなかった。このような問題に対しても、低コストかつ簡便な本発明は技術の産業応用に寄与するものと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16
図17