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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/44 20060101AFI20230920BHJP
   C04B 35/505 20060101ALI20230920BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20230920BHJP
   C01F 17/34 20200101ALI20230920BHJP
【FI】
C04B35/44
C04B35/505
H01L21/302 101Z
C01F17/34
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022536919
(86)(22)【出願日】2021-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2021045146
(87)【国際公開番号】W WO2022163150
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2021010693
(32)【優先日】2021-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592097244
【氏名又は名称】日本イットリウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松倉 賢人
(72)【発明者】
【氏名】田崎 義昭
(72)【発明者】
【氏名】団 未那美
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-224226(JP,A)
【文献】特開平11-157916(JP,A)
【文献】国際公開第2020/217552(WO,A1)
【文献】特開2000-044235(JP,A)
【文献】特開平8-268751(JP,A)
【文献】浜野健也編,ファインセラミックスハンドブック,1984年02月10日,P.266
【文献】SUDHANSHU RANJAN,SINTERING AND MECHANICAL PROPERTIES OF ALUMINA-YTTRIUM ALUMINATE COMPOSITES,DEPARTMENT OF CERAMIC ENGINEERING NATIONAL INSTITUTE OF TECHNOLOGY Rourkela,A THESIS SUBMITTED IN P,2015年05月,P1-35,http://ethsis.nitrkl.ac.in/7062/
【文献】SMOLEN Jら,Influence of high-energy milling parameters on the synthesis of single phase yttrium aluminium perovskite(YAP),materialy ceramiczne ,2020年,vol.72 no.4,p.235-246
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型YAlOを主相とする焼結体であって、ビッカース硬度が11GPa以上であり、結晶粒の平均粒径が10μm以下であり、密度が5.3g/cm以上であり、CuKα線を用いたX線回折測定においてY Al 12 相及びY Al 相が観察されないか、或いは、立方晶Y Al 12 のピーク又は単斜晶Y Al のピークが観察され、後者の場合、直方晶YAlO の(112)ピーク強度をS1とし、立方晶Y Al 12 の(420)ピーク強度をS3とし、単斜晶Y Al の(-221)ピーク強度をS4としたとき、S1に対するS3の比であるS3/S1の値及びS1に対するS4の比であるS4/S1の値が0.1以下であり、直方晶YAlO の(112)ピークのピーク高さを100としたときに、YAlO 、Y Al 12 、Y Al 以外の成分に由来する最大ピークのピーク高さが10以下である焼結体。
【請求項2】
開気孔率が1%以下である、請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の焼結体の製造方法であって、
YAlOを含む平均粒子径1μm以下の原料粉末の成形体を得る工程と、前記成形体を、5MPa以上100MPa以下の圧力下、1200℃以上1700℃以下の温度で焼結することにより前記焼結体を得る工程と、を有する、焼結体の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の焼結体の製造方法であって、
YAlOを含む平均粒子径1μm以下の原料粉末を加圧力20MPa以上200MPa以下の成形工程に供して成形体を得る工程と、前記成形体を、無加圧下、1400℃以上1900℃以下の温度で焼結する工程と、を有する、焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記YAlOを含む平均粒子径1μm以下の原料粉末のBET比表面積が7m/g以上13m/g以下である、請求項又はに記載の焼結体の製造方法。
【請求項6】
ハロゲン系ガス雰囲気下でプラズマに曝される表面を、請求項1又は2に記載の焼結体により形成した耐プラズマ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型YAlO(イットリウム-アルミニウム-ペロブスカイト、以下「YAP」ともいう。)を含む多結晶セラミックスである焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
、Alなどは、耐食性の高いセラミックスとして半導体製造プロセスにおいてその皮膜や焼結体が保護材料として用いられている。
とりわけイットリウム(Y)を含む化合物は、化学的なプラズマ耐性が高いことが知られている。また近年では、微細化が進む半導体製造装置において、高出力のプラズマが用いられるため、物理的なスパッタ耐性も同時に求められることから、高硬度を有するイットリウムとアルミニウムの複合酸化物であるガーネット構造のYAl12(イットリウム-アルミニウム-ガーネット、以下「YAG」ともいう。)が注目されている。また他のイットリウムとアルミニウムの複合酸化物としてペロブスカイト型YAlO(YAP)やモノクリニック型YAl(イットリウム-アルミニウム-モノクリニック、以下「YAM」ともいう。)が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、プラズマエッチング装置において、プラズマ処理装置内の壁部材に溶射する材料を、Al,YAG,Y,Gd,Yb,YFのいずれか1種類もしくは2種類以上で構成され、この溶射材料内に導体を混入したことを特徴とする、プラズマエッチング装置が記載されている。
【0004】
特許文献2には、金属元素としてAlをAl換算で70~98質量%、YをY換算で2~30質量%含有し、AlまたはYAGからなる結晶を主結晶とする焼結体からなり、少なくともハロゲン元素が含まれた腐食性ガス又はそのプラズマに曝される面における上記YAGの結晶粒子が楔形形状であることを特徴とする耐食性部材が記載されている。
【0005】
特許文献3には、塩素系腐食ガス或いはそのプラズマに曝される部位が、周期律表3a族金属と、Al及び/又はSiを含む複合酸化物からなることを特徴とする耐食性部材が記載されており、その実施例にはYAlO(YAP)についての記載もある。
【0006】
非特許文献1には、原料となるイットリウムとアルミニウムの複合酸化物の作製方法とその原料を用いて成形体を作製して焼結させた焼結体の特性が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】US2008/0236744A
【文献】特開2006-199562号公報
【文献】US2003/0049499A1
【非特許文献】
【0008】
【文献】SUDHANSHU RANJAN著、「SINTERING AND MECHANICAL PROPERTIES OF ALUMINA-YTTRIUM ALUMINATE COMPOSITES」DEPARTMENT OF CERAMIC ENGINEERING NATIONAL INSTITUTE OF TECHNOLOGY Rourkela、A THESIS SUBMITTED IN PARTIAL FULFILMENT OF THE REQUIRMENT FOR THE DEGREE of Master of Technology in INDUSTRIAL CERAMICS 2015年5月、p1-35
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1からわかる通り、プラズマエッチング装置の耐食材料として従来、AlやY又はイットリウムとアルミニウムの複合酸化物であるガーネット型YAl12(YAG)が検討されてきた。YはAlよりもハロゲン系プラズマに対して高い耐食性を示す一方で、硬度が十分とはいえない。一方、特許文献2、非特許文献1に記載されるように、イットリウムとアルミニウムの複合酸化物であるYAGは硬度及び耐食性の両立が図りやすい成分とされてきた。
一方、YAGと同じイットリウムとアルミニウムの複合酸化物であるペロブスカイト型YAlO(YAP)に関する知見としては、特許文献3にて、AlやYの混合物を成型したものを反応焼結により作製した焼結体のプラズマ耐性の評価を行っている。しかし、その焼結体の詳細な組成や物性については明らかでなかった。
【0010】
更に、本発明者が検討した結果、Y、YAG焼結体並びに特許文献3に記載の方法で得られた焼結体は、耐熱衝撃性の点で十分でないことが判った。
【0011】
本発明は、上述した従来技術の課題を解決することを目的とし、Yの成分量がYAGよりも多いためYAGよりも耐ハロゲン系プラズマ耐性を向上しうるYAPを用い、耐熱衝撃性に優れた焼結体を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明はペロブスカイト型YAlO(YAP)を主相とする焼結体であって、ビッカース硬度が11GPa以上である焼結体を提供するものである。
【0013】
また本発明は上記焼結体の製造方法であって、
ペロブスカイト型YAlOを含む平均粒子径1μm以下の原料粉末の成形体を得る工程と、前記成形体を、5MPa以上100MPa以下の圧力下、1200℃以上1700℃以下の温度で焼結することにより前記焼結体を得る工程と、を有する、焼結体の製造方法の製造方法を提供する。
【0014】
また本発明は上記焼結体の製造方法であって、
ペロブスカイト型YAlOを含む平均粒子径1μm以下の原料粉末の成形体を得る工程と、前記成形体を、無加圧下、1400℃以上1900℃以下の温度で焼結する工程と、を有する、焼結体の製造方法を提供する。
【0015】
また本発明は、ハロゲン系腐食性ガス雰囲気下でプラズマに曝される表面を、上記焼結体により形成した耐プラズマ部材を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例1で得られた焼結体の走査型電子顕微鏡写真である。
図2図2は、比較例3で得られた焼結体の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の焼結体は多結晶セラミック焼結体である。
本発明者は、YAPを含む高硬度な焼結体が耐熱衝撃性に優れた特性を持つことを見出した。これにより本発明の焼結体は、従来のプラズマ耐性の高いY-O結合(YAPの他にYやYAGなど)を含む焼結体では適用が難しかった温度環境下での部品などに使用可能であり、従来の焼結体より耐食性部材としての適用範囲に優れる。なお、本明細書における「プラズマ耐性」は、プラズマに対する耐食性を指し、「対プラズマ耐性」や「対プラズマ耐食性」と呼ばれることもある。
【0018】
(焼結体の組成)
本発明の焼結体をX線回折測定に付すと、YAlOに由来する回折ピークが観察される。本発明の焼結体は、ハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングにおいて高い耐食性を示す。YAlOには、立方晶及び直方晶の2つの相が存在することが知られている。本発明の焼結体では、これら2つの相のうち、直方晶であるYAlOに由来する回折ピークが観察される。この場合、ハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングに対して安定性の高いものとなるためである。
【0019】
本発明の焼結体は、ペロブスカイト型YAlOを主相とする。本発明の焼結体がペロブスカイト型YAlOを主相とすることは、2θ=20°~60°の走査範囲におけるX線回折測定における最大ピーク高さのピークがペロブスカイト型YAlOに由来することから確認できる。以下X線回折測定という場合、特に断らない場合には前記走査範囲におけるX線回折測定を指す。特に本発明の焼結体は、X線回折測定において観察されたピークのうち、直方晶YAlOの(112)ピークが最大ピーク強度を示すピークであることが好ましい。本発明の焼結体は、YAlO以外の結晶相を有していてもよいが、YAlO以外の結晶相を有する場合、当該結晶相としては実質的にYAl12及び/又はYAlの結晶相のみであることが、AlやYの存在に起因する機械的強度の低下を防止する点、ハロゲン系プラズマ照射時のパーティクル発生を抑制する点で好ましい。
【0020】
本発明の焼結体におけるYAlO以外の結晶相が実質的にYAl12及び/又はYAlのみであることは、焼結体をX線回折測定に供し、直方晶YAlOの(112)ピークのピーク高さを100としたときに、YAlO、YAl12、YAl以外の成分に由来する最大ピークのピーク高さが10以下であることを意味することが好ましく、5以下であることを意味することがより好ましく、1以下であることを意味することが更に好ましく、YAlO、YAl12、YAl以外のピークが観察されないことが特に好ましい。
【0021】
本発明の焼結体は、X線回折測定においてアルミナ相のピークが観察されないか、又は観察されてもごく小さいことがハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングに対する耐食性を高める点で好ましい。本発明の焼結体をX線回折測定に付したとき、直方晶YAlOのピークに加えて三方晶Alのピークが観察される場合、直方晶YAlOの(112)ピーク強度をS1とし、三方晶Alの(104)ピーク強度をS2としたとき、S1に対するS2の比であるS2/S1の値が0.1以下であることが好ましく、0.05以下であることが好ましく、0.01以下であることがより好ましく、三方晶Alの(104)ピークが観察されないことが最も好ましい。なお本明細書でいうピーク強度比はピークの高さの比を指し、ピークの積分強度の比を指すのではない。
【0022】
本発明の焼結体を、CuKα線を用いたX線回折測定に付したときにYAlO以外の結晶相として、実質的にYAl12及び/又はYAlのみである場合であって、直方晶YAlOのピークに加えて立方晶YAl12のピーク又は単斜晶YAlのピークが観察される場合、直方晶YAlOの(112)ピーク強度をS1とし、立方晶YAl12の(420)ピーク強度をS3とし、単斜晶YAlの(-221)ピーク強度をS4としたとき、S1に対するS3の比であるS3/S1の値及びS1に対するS4の比であるS4/S1の値がそれぞれ独立に1未満であることが好ましい。この理由は、(a)本発明の焼結体においては、直方晶YAlOがイットリウムとアルミニウムの複合酸化物の中でも最も高密度であるため高硬度になり、物理的エッチング耐性が高いこと、及び(b)同様に高硬度を有する立方晶YAl12の単一組成と比して、直方晶YAlOは、ハロゲン系プラズマ耐性が高いことで知られているイットリウム成分をより多く含有する組成であること等による。
ハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングに対する耐食性を一層高める観点から、S3/S1及びS4/S1の値はそれぞれ独立に0.7以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましく、0.1以下であることが特に好ましく、立方晶YAl12の(420)ピーク及び単斜晶YAlの(-221)ピークが観察されないことが最も好ましい。
【0023】
本発明の焼結体はYを含まないか、又は含む場合には微量であることが、焼結体の機械的強度を高め、ハロゲン系プラズマに対する耐食性を十分に発現させる点から好ましい。この観点から、本発明の焼結体を、CuKα線を用いたX線回折測定に付したとき、直方晶YAlOの(112)ピーク強度をS1とし、立方晶Yの(222)ピーク強度をS5としたとき、S1に対するS5の比であるS5/S1の値が0.1以下であることが好ましい。
ハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングに対する耐食性を更に一層高める観点及び機械的強度を高める点から、S5/S1の値は0.05以下であることが好ましく、0.01以下であることがより好ましく、0.01未満であることが更に一層好ましく、立方晶Yの(222)ピークが観察されないことが最も好ましい。
【0024】
CuKα線を用いたX線回折測定において直方晶YAlOの(112)ピークは2θ=34°付近に観察される。具体的には2θ=34.3°±0.15°の範囲に観察される。
また、CuKα線を用いたX線回折測定において三方晶Alの(104)ピークは、通常2θ=35°に観察される。具体的には35.2°±0.15°に観察される。
また、CuKα線を用いたX線回折測定において立方晶YAl12の(420)ピークは、通常2θ=33°付近に観察される。具体的には33.3°±0.15°の範囲に観察される。
更に、CuKα線を用いたX線回折測定において単斜晶YAlの(-221)ピークは、通常2θ=30°付近に観察される具体的には29.6°±0.15°の範囲に観察される。
更に、CuKα線を用いたX線回折測定において立方晶Yの(222)ピークは、通常2θ=29°付近に観察される具体的には29.2°±0.15°の範囲に観察される。
【0025】
また、本発明の焼結体においてペロブスカイト型である直方晶YAlO以外のYAlO相、立方晶YAl12以外のYAl12相、単斜晶YAl以外のYAl相、三方晶Al以外のAl相、及び、立方晶Y以外のY相はいずれも通常、観察されないが、仮に観察される場合には、それぞれ独立に2θ=20°~60°の走査範囲において、それぞれの結晶相に由来する最大ピークのピーク高さが、直方晶YAlOの(112)ピークのピーク高さを100としたときに、5以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましく、0.5以下であることが更に好ましく、観察されないことが最も好ましい。
【0026】
〔ビッカース硬度〕
本発明者は、ペロブスカイト型YAlOの焼結体が特定以上のビッカース硬度を有することで驚くべきことに、優れた耐熱衝撃性を有することを見出した。本発明の焼結体はビッカース硬度が11GPa以上である。当該ビッカース硬度を有することで耐熱衝撃性を高めることができる理由は明確ではないが、高硬度であると塑性変形が起こりにくく、結晶界面での転蓄積の許容が大きいため、熱衝撃に対しても熱応力の許容が大きくなったことが理由の一つと推測している。またビッカース硬度が所定値以上のペロブスカイト型YAlO焼結体は、ハロゲン系プラズマ耐食性にも優れる。本発明の焼結体において、ビッカース硬度は12GPa以上であることが好ましく、13GPa以上であることがより好ましい。またビッカース硬度は大きいほど好ましいものではあるが、焼結体の製造容易性の観点からは、17GPa以下であることがより好ましく、16GPa以下であることが更に好ましい。
ビッカース硬度は後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0027】
また、上記のビッカース硬度を有するペロブスカイト型YAlOの焼結体は、本発明の焼結体を後述する製造方法で製造することにより得ることができる。
【0028】
〔密度〕
本発明ではペロブスカイト型YAlOの緻密な焼結体であることを反映して、絶対密度の高いものである。密度の高い焼結体とすることにより、ハロゲン系腐食ガスの遮断性を高いものとすることが可能である。本発明の焼結体は緻密性が高く、ハロゲン系腐食ガスの遮断性に優れるため、これを例えば半導体装置の構成部材に用いた場合、この部材内部へのハロゲン系腐食ガスの流入を防止できる。このため本発明の焼結体は、ハロゲン系腐食ガスによる腐食防止性能の高いものである。このようにハロゲン系腐食ガスの遮断性が高い部材は、例えば、エッチング装置の真空チャンバー構成部材やエッチングガス供給口、フォーカスリング、ウェハーホルダーなどに好適に用いられる。本発明の焼結体をより緻密なものにする観点から、該焼結体は密度が5.1g/cm以上であることが好ましく、5.2g/cm以上であることがより好ましく、5.3g/cm以上が特に好ましい。
【0029】
〔開気孔率〕
更に、耐食性向上の観点から、気孔率、特に開気孔率(OP)は小さいほうが好ましい。開気孔率は下記に記載する方法で求められ1%以下が好ましく、0.1%以下がさらに好ましく、0.01%以下が特に好ましい。
【0030】
上記の密度及び開気孔率(OP)を有する焼結体は、本発明の焼結体を後述する製造方法で製造する際に、その温度条件や圧力条件を調整することにより得ることができる。
【0031】
〔結晶粒の平均粒径〕
本発明の焼結体は、結晶粒の平均粒径が小さいことが焼結体表面の粒子が脱落した場合でも大きさが小さいため表面粗さが滑らかであり、加工時の加工性と歩留まりが向上する点から好ましい。本発明の焼結体において、結晶粒の平均粒径は10μm以下であることが好ましく、9μm以下であることがより好ましく、8μm以下であることが特に好ましい。焼結体の結晶粒の平均粒径は1μm以上であることが、焼結が進行しており、焼結体の強度が得られるため好ましい。結晶粒の平均粒径が上記範囲内である焼結体は、後述する好適な焼結体の製造方法において、原料粒径、成形条件、焼結条件を調整することにより得ることができる。焼結体の結晶粒の平均粒径は後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0032】
〔製造方法〕
次に本発明の焼結体の好適な製造方法について説明する。本製造方法は以下の製造方法1又は製造方法2である。
YAlOを含む平均粒子径1μm以下の原料粉末の成形体を得る工程(以下、「成形工程」ともいう。)と、前記成形体を、以下の焼結工程1又は焼結工程2にて焼結する工程。焼結工程2を採用する場合は、成形工程における加圧力を20MPa以上200MPa以下とすることが好ましい。
焼結工程1:前記成形体を、5MPa以上100MPa以下の圧力下、1200℃以上1700℃以下の温度で焼結することにより前記焼結体を得る(以下、「焼結工程1」ともいう。)。
焼結工程2:前記成形体を、無加圧下、1400℃以上1900℃以下の温度で焼結する工程。
【0033】
〔原料粉末〕
前記成形工程に供される原料粉末は平均粒子径D50が1μm以下であって、YAlOを含む。当該原料粉末は、ペロブスカイト型YAlOを主相とする組成を有することが好ましい。
本発明者は、平均粒子径D50が1μm以下であって、YAlOを含み、好ましくはペロブスカイト型YAlOを主相とする原料粉末を用いることで、以下に記載する2点で優れた焼結体を作製出来ることを見出した。まず1点目にこの原料粉末の真密度が高いため、成形体の密度も高めることが可能となる。つまり焼結後の理論密度との差が小さくなりグレイン(粒子)の隙間である気孔の形成が抑制され高密度かつ高硬度の焼結体を作製することができる点。2点目にYAlOを含む原料粉末ではなく、Al及びYの混合粉末を用いると焼結体においてAlやYが一部残存しやすく機械的強度の低下やハロゲン系ガスに対する耐食性が低下しやすいという問題点があった。これはAl及びYの混合粉末を用いる場合、反応焼結の際にAl粒子とY粒子の粒子径の差が生じたり、成形体中の隣接粒子の配置が偏析したりすることを回避しづらいことが原因とみられる。これに対し、本製造方法では前駆体時からYAlOを含み、好ましくはペロブスカイト型YAlOを主相とする組成となっていることから、AlやYの残存が起こりにくい。
なお上述した通り、CuKα線を用いたX線回折測定にてペロブスカイト型YAlOを主相とするとは、当該X線回折測定における最大ピーク高さのピークが直方晶YAlOに由来することを指す。上述のとおり走査範囲は2θ=20°~60°である。
【0034】
上記の通り、原料粉末においてYAlOを含有する粒子は密度の高く高硬度の焼結体を得る点から、該原料粉末の平均粒子径D50が1μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることがより好ましく、0.6μm以下が特に好ましい。原料粉末の平均粒子径は例えば以下の方法にて測定できる。原料粉末の平均粒子径D50の下限としては、例えば0.2μm以上であると、原料製造が容易である点と、成形体の収縮率が大きくなり過ぎず大型の焼結体を作製しやすい点で利点があるため好ましく、0.3μm以上であることがより好ましい。
なお、平均粒子径は、原料粉末を造粒した後に成形する場合には、造粒前に測定する粒子径である。
【0035】
(平均粒子径の測定)
マイクロトラック・ベル社製Microtrac MT3300EXIIを用いた。0.2質量%ヘキサメタリン酸を溶解させた純水に、粉末試料を適正濃度であると装置が判定するまで投入して、内蔵の超音波分散処理を施した後測定を行いD50の値を得た。超音波分散の条件は40W、5分間とした。
【0036】
本発明において原料粉末の組成は、原料粉末のうち、CuKα線を用いたX線回折測定にて直方晶YAlOを主相とし、直方晶YAlOの(112)ピーク強度をS1とし、立方晶YAl12の(420)ピーク強度をS3とし、単斜晶YAlの(-221)ピーク強度をS4としたとき、S1に対するS3の比であるS3/S1の値及びS1に対するS4の比であるS4/S1の値がそれぞれ独立に1未満であることが特に好ましい。前記の原料粉末のうち、ハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングに対する耐食性を一層高める観点から、S3/S1及びS4/S1の値はそれぞれ独立に0.7以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましく、0.1以下であることが特に好ましく、立方晶YAl12の(420)ピーク及び単斜晶YAlの(-221)ピークが観察されないことが最も好ましい。
【0037】
同様の点から、原料粉末のX線回折測定を行ったときに20°~60°の走査範囲における最大ピークがYAlOに由来するピークであり、且つ原料粉末においてイットリウムとアルミニウムの複合酸化物以外の成分に由来するピークのうち最大高さのピークの高さが、YAlOのメインピークを100としたときに10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、1以下であることが更に好ましく、イットリウムとアルミニウムの複合酸化物以外の成分に由来するピークが観察されないことが最も好ましい。ただしここで、イットリウムとアルミニウムの複合酸化物以外の成分としては焼結助剤及び造粒に用いるバインダーを除くものとする。原料粉末においてYAlOのメインピークは直方晶YAlOに由来する(112)ピークであることが好ましい。
【0038】
機械的強度の高い焼結体を得る観点から、原料粉末について、原料粉末をX線回折測定に供したときに、YAlO以外のイットリウムとアルミニウムの複合酸化物のピークを含有する場合、原料粉末を走査範囲20°~60°のX線回折測定に供した場合に、直方晶YAlOに由来する最大高さのピークの高さ100に対し、当該直方晶YAlO以外のイットリウムとアルミニウムの複合酸化物に由来する最大高さのピークのピーク高さが70以下であることが好ましく、30以下であることが特に好ましい。YAlO以外のイットリウムとアルミニウムの複合酸化物としては、YAl12、YAl等が挙げられる。
【0039】
(原料粉末の製造工程)
上記原料粉末の製造方法としては、例えば以下が挙げられる。一例として、アルミニウム源とイットリウム源とを混合して焼成して、ペロブスカイト型YAlOを主相とするイットリウム及びアルミニウムの複合酸化物原料を得る方法が挙げられる。例えばアルミニウム源としては、酸化アルミニウム、オキシ水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム及び塩基性炭酸アルミニウムから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。イットリウム源としては酸化イットリウム、オキシ水酸化イットリウム、水酸化イットリウム及び炭酸イットリウムから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。アルミニウム源とイットリウム源との混合比率はアルミニウム源のアルミニウム1モルに対してイットリウム源のイットリウムが0.85モル超1.15モル以下であることが好適である。焼成温度は所望の組成を容易に得られ、また後工程の粉砕がしやすい点から800℃以上1550℃以下が好適であり、850℃以上1500℃以下とすることがより好ましい。
【0040】
ペロブスカイト型YAlOを主相とするイットリウムとアルミニウムの複合酸化物原料に対し、湿式粉砕を行い平均粒子径が1μm以下である粒子を含むスラリーを得る。このときスラリーの粉末を一部乾燥させた粉末は、BET比表面積が7m/g以上13m/g以下であることが好ましい。BET比表面積を7m/g以上とすることで焼結体を低温で十分に緻密化させることができる。一方、BET比表面積を13m/g以下とすることで、成形体を焼結させて焼結体とした際に収縮する割合(収縮率)を小さくすることができ、焼結体作製時に焼結体にかかる応力を低減することができるため大きな焼結体を作製するのが容易となる。これらの観点から、原料粉末に係る上記BET比表面積は8m/g以上12m/g以下とすることが更に好ましく、9m/g以上11m/g以下とすることが一層好ましい。原料粉末に係る上記のBET比表面積は、原料粉末を造粒した後に成形する場合には、造粒前に測定するものとし、造粒のためのバインダーや焼結助剤を添加する場合には、それらの添加剤の添加前に測定するものとする。BET比表面積は、BET1点法を用いて測定する。液媒の種類に特に制限はなく、例えば水や各種の有機溶媒を用いることができる。
また後工程で成形の加工性を向上するために添加剤としてバインダーや可塑剤を加えても良い。このときの添加剤としては、PVA、PVB、ポリアクリル酸系重合体やポリカルボン酸系共重合体、などを用いることができる。このときの添加剤の成分としては、200℃以上1000℃以下で分解するものが好ましい。
十分に粉砕したYAPを含むイットリウムとアルミニウムの複合酸化物スラリーの乾燥を行い成形体の原料粉末を得る。乾燥には静置乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥及び噴霧乾燥(スプレードライヤー)などの各種乾燥方法を用いることができる。
【0041】
〔成形工程〕
上記で得られたYAPを含むイットリウムとアルミニウムの原料粉末を成型により押し固めることで成形体を作製する。成形には金型プレス法、ラバープレス(静水圧プレス)法、シート成形法、押し出し成形法、鋳込み成形法等を用いることができる。
【0042】
このとき成形体には添加剤を原料粉末の製造工程で加えている場合がある。そのような添加剤としては、上記のスラリーを調製する工程で述べたバインダーや可塑剤のほか、パラフィンワックス、アクリル樹脂等が挙げられる。このときの原料粉末における前記添加剤の含有量としては、イットリウムとアルミニウムの複合酸化物に対して7質量%以下が好ましい。7質量%以下とすることで後工程にて焼結させる際に添加剤の成分が焼結体内に残留することを防ぐことができる。これらの観点から6質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以下とすることが一層好ましい。
【0043】
特に、焼結工程において常圧焼結を行う場合、成形工程において、加圧力20MPa以上200MPa以下の成形工程に供することが好ましい。例えば、一軸加圧による静水圧成形を行うことが好ましい。この場合の加圧力としては、20MPa以上であることが、高密度の焼結体を得る点で好ましく、200MPa以下であることがそれ以上の加圧を施しても密度の向上が得られない点や装置・器具の消耗を低減できる点で好ましい。この点から、静水圧成形による加圧力は、80MPa以上140MPa以下であることがより好ましい。静水圧成形は成型による油圧プレス等で行うことができる。
また、焼結工程において常圧焼結を行う場合、成形工程において、一軸加圧による金型プレス成形を行うことも可能である。この場合の加圧力としては、静水圧成形の場合より下限値は大きい40MPa以上であることが、高密度の焼結体を得る点で好ましく、200MPa以下であることがそれ以上の加圧を施しても密度の向上が得られない点や装置・器具の消耗を低減できる点で好ましい。金型ブレス成形による加圧力は、80MPa以上140MPa以下であることがより好ましい。
【0044】
〔焼結工程〕
成形工程で得られた成形体を、大気または雰囲気制御中で焼結を行う。焼結法としては常圧焼結法と加圧焼結法がある。加圧焼結法としては、ホットプレス、パルス通電加圧(SPS)、熱間等方圧加圧(HIP)を用いることができる。常圧焼結の焼結温度としては1400℃以上1900℃以下であることが好ましい。1400℃以上であることで緻密化が進みやすいほか、添加したバインダーの分解・蒸発が進む等の利点を有する。1900℃以下であることでYAPの溶融を抑える、電気炉のエネルギー消費を抑える等の利点を有する。これらの観点から、焼結温度は1500℃以上1700℃以下がより好ましい。
或いは、加圧焼結する場合には例えば5MPa以上100MPa以下の圧力下、1200℃以上1700℃以下の温度で焼結する方法が挙げられる。
【0045】
なお、本発明の焼結体は、焼結体の後圧縮工程を行う必要はない。例えば本発明の焼結体は、2mmのセラミック物体の肉厚の際に、99%超の密度および300nm~4000nmの波長範囲において10%超のRITを有する透明セラミック物体を製造する方法であって、
以下の方法工程:
平均粒子径d50が5μm未満のセラミック粉末を分散させることによってスリップを製造する工程、
平均粒子径d50が 1mm未満の顆粒を前記スリップから流動層造粒によって製造する工程、
前記顆粒を簡単な非サイクルのプレスにより生成形体にする工程、
前記生成形体を焼結して焼結体にする工程、および
前記焼結体を後圧縮する工程
を特徴とする、前記方法で製造されたものを除くことが好ましく、2mmのセラミック物体の肉厚の際に、300nm~4000nm(又は300nm~800nm)の波長範囲において10%超のRITを有する透明セラミック物体を製造する方法であって、前記の方法工程で製造されたものを除くことがより好ましい。なおd50は本明細書の平均粒子径D50と同様の方法で測定できるが、その場合、顆粒の測定の際には、超音波処理を行わないものとする。
焼結体が不透明である場合、透明セラミックスで必要な光散乱要因(粒界のばらつきや異相の存在)を厳密に制御する必要がなく、比較的安価にプラズマ耐性の高い焼結体を提供する点で好ましい。ただし、ここでいう不透明とは2mmのセラミック物体の肉厚の際に、300nm~4000nm(又は300nm~800nm)において10%以下のRITを有することを要さず、例えば照度500ルクス~1000ルクスの何れかの照度の室内において、文字が記入された用紙の上をセラミック物体で覆った場合には、被覆された箇所の文字が読めなくなる程度であることも含む。例えば後述する実施例又はそれと同様の製法で得られた焼結体は通常、厚さ1mmにおいて不透明である。
【0046】
本発明の焼結体は、特定組成及び特定硬度を有することに起因した耐熱衝撃性の高さとハロゲン系プラズマに対する耐食性に起因して、ハロゲン系ガス雰囲気下でプラズマに曝される表面を、当該焼結体により形成した耐プラズマ部材として好適に用いられる。耐プラズマ部材は、半導体のプラズマ処理プロセスで利用されるフッ素系及び塩素系等のハロゲン系の腐食性ガス存在下でプラズマに曝される部材であることが好ましく、プラズマ処理装置用部材と呼ぶこともできる。耐プラズマ部材としては、具体的に、プラズマエッチング装置における真空チャンバー等のチャンバーやチャンバー内部で使用されるものが挙げられる。チャンバー内部で使用される耐プラズマ部材としては、例えば、半導体デバイス製造工程において、基板等にプラズマエッチング処理を行う際に用いられるフォーカスリング、シャワーヘッド、静電チャック、天板やガスノズル等が挙げられる。ハロゲン系の腐食性ガスとしては、SF,CF,CHF,ClF,HF等のフッ素系ガス、Cl,HCl,BCl等の塩素系ガス、Br,HBr,BBr等の臭素系ガスおよびヨウ素系ガス等が知られているがこれに限定されない。本発明の焼結体は半導体製造装置内部やその構成部材以外にも各種プラズマ処理装置、化学プラントの構成部材の用途に用いることができる。プラズマに曝される表面の表面粗さRaとしては、例えば2nm~2μmが好適に挙げられる。表面粗さRaは触針式表面粗さ測定器(JIS B0651:2001)にて測定できる。
【実施例
【0047】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。なお、下記の実施例において、焼成の雰囲気に特に断りがない場合、大気雰囲気下で焼成を行っている。
なお、スラリーの粉末中のBET比表面積は測定装置としてマウンテック社製Macsorbを用い、BET1点法で求めた。測定用のガスとしては窒素30体積%-ヘリウム70体積%の混合ガスを、キャリブレーション用のガスとしては純窒素を用いた。BET比表面積の測定に供するスラリーの乾燥はスラリー20gを120℃の環境で2時間乾燥させることにより行った。
また、各実施例及び比較例の焼結体に関する下記条件のX線回折測定において、直方晶YAlO以外のYAlO相のピーク、立方晶YAl12以外のYAl12相のピーク、単斜晶YAl以外のYAl相のピーク、三方晶Al以外のAl相のピーク、及び立方晶Y以外のY相のピークはいずれも観察されなかった。
【0048】
〔実施例1〕
第1工程の原料となるYAlO粉末としては、Al(D50=0.4μm)とY(D50=0.4μm)をモル比でAl:Y=1:1の割合で混合後、1400℃で5時間焼成して得られたペロブスカイト型YAlO粉末を用いた。
(第1工程)
YAlO粉末15kgを純水とともに湿式粉砕して500g/LのYAlO粒子スラリーとした。湿式粉砕後のYAlO粒子はMicrotrac MT3300EXIIにより測定したD50が0.4μmであり、スラリーの一部を採取し上記方法にて、乾燥させた粉末をBET1点法を用いて測定したBET比表面積が10m/gであった。
【0049】
(第2工程)
第1工程で得られたスラリーに、バインダーとして有機物バインダー(200℃以上1000℃以下で分解)を、イットリウムとアルミニウムの複合酸化物に対して約5質量%となるように添加した後に、均一に分散するように十分に撹拌した。
【0050】
(第3工程)
第2工程で得られたスラリーをスプレードライヤー(大川原加工機(株)製)を用いて造粒・乾燥し、造粒物を得た。得られた造粒物のスプレードライヤーの操作条件は以下に示すとおりとした。
・スラリー供給速度:75mL/min
・アトマイザー回転数:12500rpm
・入口温度:250℃
【0051】
(第4工程)
第3工程で得られたYAlO粉末(造粒物)を、φ50mmの成型金型に投入した後に油圧プレスにて100MPaの圧力で一軸成形を行い、成形体を得た。
【0052】
(第5工程)
第4工程で得られたYAlO成形体をY製の敷板に乗せて大気雰囲気下、電気炉中で焼成して焼結体を得た。最終的な焼成温度は1650℃で焼成時間は5時間保持した。
【0053】
なお、第4工程では30個の成形体を作成し、第5工程では該30個の成形体を焼成して30個の焼結体を得た。
【0054】
[焼結体の評価]
得られた実施例の焼結体について、以下の方法で評価した。
<組成>
焼結体のXRD測定を行った。XRDの測定条件は下記とした。なお、XRDは標準試料台のサンプルホルダーを取り付ける部分に直接焼結体を差し込んで測定した。得られたX線回折図に基づき、直方晶YAlOの(112)ピーク、立方晶YAl12の(420)ピーク、単斜晶YAlの(-221)ピーク、三方晶Alの(104)ピーク、及び立方晶Yの(222)ピークについて相対強度を算出した。結果を表1に示す。なお、YAlO、YAl12及びYAl、Al、Y以外の成分に由来するピークは観察されなかった。
〔X線回折測定〕
・装置:UltimaIV(株式会社リガク製)
・線源:CuKα線
・管電圧:40kV
・管電流:40mA
・スキャン速度:2度/min
・ステップ:0.02度
・スキャン範囲:2θ=20°~60°
【0055】
〔密度と開気孔率〕
密度及び開気孔率はアルキメデス法にて測定した。具体的には、株式会社島津製作所製の精密電子天秤AUX320を用いて、乾燥重量(W1)、水中重量(W2)及び飽水重量(W3)の測定を行い、密度(g/cm)と開気孔率(質量%)を以下の式を用いて求めた。
・密度=W1/(W3-W2)
・開気孔率=(W3-W1)/(W3-W2)×100
【0056】
〔ビッカース硬度〕
焼結体を粗研磨の後に平均粒径0.05μmのダイヤモンドスラリーを用いて研磨した。この試料を用いて、JIS R1610 に基いて、ビッカース硬度を測定した。測定には、ビッカース硬度計MVK-G1(明石製作所)を用いた。ビッカース硬度試験の条件は、荷重100gf(0.980665N)で、JIS R1610の4.6.11の規定に沿う圧痕を採用し、15秒保持とし、10点測定し、平均値を求めた。圧痕を光学顕微鏡により観察し、圧痕の大きさを測定した。ビッカース硬度HV[MPa]は、以下の式により算出した。
HV=(0.1891F)/d(MPa)
ここで、F は試験荷重[N]、dは圧痕の対角線長さの平均[mm]である。
【0057】
〔結晶粒の平均粒径〕
<結晶粒の平均粒径(結晶粒径)>
インターセプト法を用いて結晶粒の平均粒径を測定した。インターセプト法は、走査型電子顕微鏡(SEM)画像上で直線を引き、1つの線が1つの粒子を横切る長さを結晶粒径とし、この平均値を結晶粒の平均粒径とするものである。SEM画像(写真)上に、対角線方向に5本の直線を平行に引く。5本の直線は、矩形状のSEM画像(写真)における前記直線と平行な対角線方向と交差するもう一つの対角線方向において互いに向き合う二つの角部の間の距離を6等分する位置に引くものとする。前記の直線は、画像の一方の端に最も近い粒界から、当該画像の他方の端に最も近い粒界まで引くものとする。これを異なる2視野分行う。2視野における計10本の直線それぞれの長さの合計と、粒界との交点の数から下記式1にて計算する。ただし、この交点の数には、直線の両端は含まないものとする。
(式1)結晶粒の平均粒径=2視野分の計10本の直線の長さの合計/(2視野分の直線の総本数+2視野分の計10本の直線における粒界との交点の総数)
SEM画像の倍率は、当該画像中に観察される結晶粒の数が、10個~30個となる倍率とする(ただし、ここでカウントする結晶粒には、一の結晶粒全体が画像中に観察されるもののみを含め、一部が切れて見えないものは含めないものとする)。
サンプルは破断して断面を切り出した後、断面を鏡面研磨し、次いでアルゴン雰囲気下で焼成し、サーマルエッチングした。焼成温度は焼結体の融点に基づき、1500℃とした。保持時間は5時間とした。次いでエッチングした面をSEMで撮影して画像を得た。実施例1の焼結体について得られたSEM画像を図1に示し、比較例3の焼結体について得られたSEM画像を図2に示す。
【0058】
〔原子数密度〕
組成と密度より、Yの原子数密度を計算した。X線回折測定において、主相以外の成分に由来する回折ピークが観察された場合には、XRF測定にてYとAlの成分分析をして各種成分の成分比を求め、当該成分比に基づいてYの原子数密度を求めた。XRF測定には、リガク社製ZSXprimusIIの酸化物計算モードを用いた。
【0059】
〔熱衝撃破壊温度〕
φ40mm×5mmのサイズの焼結体を評価した。試験温度としては110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、180℃、190℃及び200℃の温度とした。焼結体は各試験温度に対し2つずつ用意した。オーブンにて所定の試験温度でそれぞれ焼結体を5時間保持し加熱した後、4℃±1℃の水中に投入した。少なくとも1つの焼結体にクラックが発生しない最大の温度を熱衝撃破壊温度とした。
【0060】
〔プラズマ照射前後の表面粗さの測定〕
20mm×20mm×2mm厚さに切断加工した各焼結体の片面を鏡面研磨後、鏡面研磨面の表面粗さを測定した。
鏡面研磨面の表面粗さを測定した試料をエッチング装置(サムコ株式会社製のRIE-10NR)のチャンバーに鏡面側が上を向いた状態で載置し、プラズマエッチングを行い、照射後の表面粗さを測定した。プラズマエッチング条件は以下のとおりにした。表面粗さは触針式表面粗さ測定器(JIS B0651:2001)を用いて、算術平均粗さ(Ra)を求めた。触針式表面粗さ測定器としては、KLA-Tencor社製の触針式プロファイラP-7を用いた。算術平均粗さ(Ra)の測定条件は、評価長さ:5mm、測定速度:100μm/sとしし、3点の平均値を求めた。
(プラズマエッチング条件)
・雰囲気ガス:CF/O/Ar=15/30/20 (cc/min)
・高周波電力:RF 300W
・圧力:5Pa
・エッチング時間:4時間
【0061】
〔実施例2〕
実施例1の第5工程における焼成温度を1600℃とした以外は実施例1と同様にして焼結体を得て評価した。なお得られた焼結体のX線回折測定において、YAlO、YAl12及びYAl、Al、Y以外の成分に由来するピークは観察されなかった。
【0062】
〔実施例3〕
実施例1の第5工程における焼成温度を1550℃とした以外は実施例1と同様にして焼結体を得て評価した。なお得られた焼結体のX線回折測定において、YAlO、YAl12及びYAl、Al、Y以外の成分に由来するピークは観察されなかった。
【0063】
〔実施例4〕
Al(D50=0.4μm)とY(D50=0.4μm)をモル比でAl:Y=10:11の割合で混合後、1400℃で5時間焼成して得た複合酸化物粉末を、実施例1における第1工程における原料であるYAlO粉末の代わりに用いた。複合酸化物粉末は上記条件のX線回折測定に供したところ、直方晶YAlOの(210ピーク)と単斜晶YAlの(-221)ピークを持ち両ピークの強度比がYAlO:YAl=100:14であった。また湿式粉砕後の複合酸化物粉末は、Microtrac MT3300EXIIにて測定したD50が0.4μmであった。スラリーの一部を採取し上記方法にて、乾燥させた粉末をBET1点法を用いて測定したBET比表面積は9m/gであった。
その点以外は、実施例1と同様にして焼結体を得て評価した。なお得られた焼結体のX線回折測定において、YAlO、YAl12及びYAl、Al、Y以外の成分に由来するピークは観察されなかった。
【0064】
〔実施例5〕
Al(D50=0.4μm)とY(D50=0.4μm)をモル比でAl:Y=11:10の割合で混合後1400℃で5時間焼成して得た複合酸化物粉末を、実施例1の第1工程における原料となるYAlO粉末の代わりに用いた。複合酸化物粉末は上記条件のX線回折測定に供したところ、直方晶YAlOの(112)ピークと立方晶YAl12の(420)ピークを持ち両ピークの強度比がYAlO:YAl12=100:15であった。また湿式粉砕後の複合酸化物粉末は、Microtrac MT3300EXIIにて測定したD50が0.4μmであった。スラリーの一部を採取し上記方法にて、乾燥させた粉末をBET1点法を用いて測定したBET比表面積は10m/gであった。
その点以外は、実施例1と同様にして焼結体を得て評価した。なお得られた焼結体のX線回折測定において、YAlO、YAl12及びYAl、Al、Y以外の成分に由来するピークは観察されなかった。
【0065】
〔比較例1〕
実施例1の第1工程における原料であるYAlO粉末に変えて、Y粉末を用いた。湿式粉砕後のY粉末は、Microtrac MT3300EXIIにて測定したD50が0.5μmであった。その点以外は実施例1と同様にして焼結体を得て評価した。
【0066】
〔比較例2〕
実施例1の第1工程における原料であるYAlO粉末に変えて、YAl12粉末を用いた。湿式粉砕後のYAl12粉末は、Microtrac MT3300EXIIにて測定したD50が0.4μmであった。その点以外は実施例1と同様にして焼結体を得て評価した。
【0067】
〔比較例3〕
本比較例は、特許文献3に相当する比較例である。実施例1の第1工程における原料粉末について、YAlO粉末に替えて、Al粉末4.7kgとY粉末10.3kgとを用いた。湿式粉砕後の原料粉末(Al及びYとを合わせて湿式粉砕した混合粉末)は、Microtrac MT3300EXIIにて測定したD50が0.5μmであった。その点以外は実施例1と同様にして焼結体を得て評価した。なお得られた焼結体のX線回折測定において、YAlO、YAl12及びYAl、Al、Y以外の成分に由来するピークは観察されなかった。
【0068】
〔比較例4〕
比較例3の第5工程における焼成温度を1550℃とした以外は比較例3と同様にして焼結体を得て評価した。なお得られた焼結体のX線回折測定において、YAlO、YAl12及びYAl、Al、Y以外の成分に由来するピークは観察されなかった。
【0069】
【表1】

【0070】
表1からわかる通り、各実施例で得られたYAlO(YAP)を主相とし、ビッカース硬度が11GPa以上の焼結体は、Yの原子数密度が高いことに起因して高いハロゲン系プラズマ耐性を有する上に、熱衝撃破壊温度が高く、耐熱衝撃性に優れることが判る。
一方、Y又はYAGを主相とする比較例1及び2は耐熱衝撃性に劣ること、YAPを主相としても、特定のビッカース硬度を満たさない比較例3及び4も、耐熱衝撃性に劣ることが判る。各実施例はプラズマエッチング照射試験における表面粗さRaの変化が、Y密度が各実施例よりも高いYを用いた比較例1、従来用いられてきた耐食性材料であるYAGを用いた比較例2、YAPを主相としても、特定のビッカース硬度を満たさない比較例3及び4のいずれに比しても抑制されており、ハロゲンガス存在下での対プラズマ耐食性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、Yの成分量がYAGよりも多いためYAGよりも対ハロゲン系プラズマ耐性を向上しうるYAPを主相とし、従来よりも耐熱衝撃性に優れた焼結体を提供する。また本発明は上記焼結体を首尾よく製造できる焼結体の製造方法を提供する。
図1
図2