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特許7351142転がり軸受の状態監視方法及び状態監視装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】転がり軸受の状態監視方法及び状態監視装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/045 20190101AFI20230920BHJP
   F16C 41/00 20060101ALI20230920BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20230920BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
G01M13/045
F16C41/00
F16C19/06
G01N29/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019154680
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021032769
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯川 謹次
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-070570(JP,A)
【文献】特開2006-189333(JP,A)
【文献】特開2008-164448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/04-13/045
F16C 41/00-41/04
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
G01N 29/00-29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の状態を監視する軸受の状態監視方法であって、
前記転がり軸受の外輪、該外輪が嵌合するハウジング、内輪、又は該内輪が嵌合する軸の少なくともいずれか1つに取り付けられた超音波センサのプローブから前記外輪、又は前記内輪に向けて超音波を発生させ、前記外輪と転動体との境界、前記外輪と前記ハウジングとの境界、又は前記内輪と前記転動体との境界、あるいは前記内輪と前記軸との境界からの反射波を受信し、該受信した反射波のエコー高さの変動に基づいて、前記転動体の実測公転数を求める工程と、
前記転がり軸受が内輪回転の場合は、前記内輪、又は前記軸、外輪回転の場合は前記外輪、又は前記ハウジングの回転数を回転センサにより検出し、該回転数に基づいて、前記転動体の理論公転数を求める工程と、
前記転動体の実測公転数と前記転動体の理論公転数を比較することで、前記転がり軸受の公転滑りを監視する工程と、
を備え、
前記反射波は、前記外輪と前記ハウジングとの境界又は前記内輪と前記軸との境界からの第1の反射波と、前記外輪と前記転動体との境界又は前記内輪と前記転動体との境界からの第2の反射波とを含み、
少なくとも前記第1の反射波のエコー高さの変動に基づいて、前記転動体の実測公転数が求められることを特徴とする転がり軸受の状態監視方法。
【請求項2】
転がり軸受の状態を監視する軸受の状態監視装置であって、
前記転がり軸受の外輪、該外輪が嵌合するハウジング、内輪、又は該内輪が嵌合する軸に取り付けられたプローブを有する超音波センサと、
前記転がり軸受が内輪回転の場合は、前記内輪、又は前記軸、外輪回転の場合は前記外輪、又は前記ハウジングの回転数を検出する回転センサと、
前記転動体の実測公転数と前記転動体の理論公転数を比較することで、前記転がり軸受の公転滑りを監視する演算部と、
を備え、請求項1に記載の軸受の状態監視方法を用いることを特徴とする転がり軸受の状態監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の状態監視方法及び状態監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受は、回転軸を支持するため、風力発電用増速機や自動車用トランスミッションなど、機械装置や車両に多数使用されている。一方、はく離など、転がり軸受の損傷は、装置の回転精度に影響を及ぼすだけでなく、損傷度合いによっては、部品の交換が必要となる。このため、これらの不具合を予測或いは早期に発見すべく、転がり軸受の状態を監視する手法が種々考案されている。
【0003】
特許文献1では、軸受ハウジングに取り付けられる超音波探触子から超音波を軸受外輪に向けて発生させ、軸受外輪とボールとの境界からの反射波を測定することにより、軸受外輪とボールの間に存在する潤滑油や潤滑状態を観測することが知られている。
【0004】
また、特許文献2では、転動体と固定輪との間の接触面積の変化を超音波センサのエコーで測定することで、転がり軸受に作用する荷重を求めることが行われている。
また、特許文献3では、転動体を挟んで磁石とホール素子を配置して転動体の公転数を測定しており、特許文献4では、回転センサにて保持器と回転体の回転数を測定し、演算することにより、軸受の公転滑り率を算出することが行なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-181237号公報
【文献】特許第4899444号公報
【文献】特開2001-33469号公報
【文献】特開2006-125475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、転がり軸受の運転時に、転動体の転走面が内輪又は外輪の軌道面に対して滑りながら公転する、所謂、公転滑りもまた、摩耗の進展、スキッディング、また、白色はく離など、転がり軸受の不具合発生原因となる。このため、公転滑りを監視することが求められるが、従来、公転数を正確に測定することは困難であった。
【0007】
例えば、近接センサ等を用いてころの通過を測定することも可能であるが、近接センサをハウジングの内部の転動体に近い場所に設置する必要があり、実機で実施するのは困難であった。特許文献1及び2では、いずれも公転数の測定を監視対象としておらず、装置の構成や監視のロジックが大きく異なる。
また、特許文献3や、特許文献4に示すようにホール素子や渦電流式の回転センサを用いることも可能であるが、これもハウジング内部の転動体に近い場所にホール素子センサや渦電流式の回転センサを設置する必要があり実機で実施するのは困難である。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、実機での実施が容易な手法で、転がり軸受の公転滑りを監視することで、転がり軸受の不具合発生の予測、又は該不具合発生を防止することができる転がり軸受の状態監視方法及び状態監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 転がり軸受の状態を監視する軸受の状態監視方法であって、
前記転がり軸受の外輪、該外輪が嵌合するハウジング、内輪、又は該内輪が嵌合する軸の少なくともいずれか1つに取り付けられた超音波センサのプローブから前記外輪、又は前記内輪に向けて超音波を発生させ、前記外輪と転動体との境界、前記外輪と前記ハウジングとの境界、又は前記内輪と前記転動体との境界、あるいは前記内輪と前記軸との境界からの反射波を受信し、該受信した反射波のエコー高さの変動に基づいて、前記転動体の実測公転数を求める工程と、
前記転がり軸受が内輪回転の場合は、前記内輪、又は前記軸、外輪回転の場合は前記外輪、又は前記ハウジングの回転数を回転センサにより検出し、該回転数に基づいて、前記転動体の理論公転数を求める工程と、
前記転動体の実測公転数と前記転動体の理論公転数を比較することで、前記転がり軸受の公転滑りを監視する工程と、
を備えることを特徴とする転がり軸受の状態監視方法。
(2) 転がり軸受の状態を監視する軸受の状態監視装置であって、
前記転がり軸受の外輪、該外輪が嵌合するハウジング、内輪、又は該内輪が嵌合する軸の少なくともいずれか1つに取り付けられたプローブを有する超音波センサと、
前記転がり軸受が内輪回転の場合は、前記内輪、又は前記軸、外輪回転の場合は前記外輪、又は前記ハウジングの回転数を検出する回転センサと、
前記転動体の実測公転数と前記転動体の理論公転数を比較することで、前記転がり軸受の公転滑りを監視する演算部と、
を備え、請求項1に記載の転がり軸受の状態監視方法を用いることを特徴とする軸受の状態監視装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の転がり軸受の状態監視方法及び状態監視装置によれば、実機での実施が容易な手法で、転がり軸受の公転滑りを監視することができ、転がり軸受の不具合発生の予測、又は運転条件の変更により該不具合発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態に係る軸受の状態監視装置の概略構成図である。
図2図1の軸受の状態監視装置を軸方向から見た概略構成図であり、(a)は超音波の音軸が転動体間に位置する状態を示し、(b)は、超音波の音軸上に転動体が位置する状態を示す。
図3図1の軸受の状態監視装置で超音波センサで検出された第1反射波のエコー高さを示すグラフのイメージ図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る軸受の状態監視装置の概略構成図である。
図5図4の軸受の状態監視装置を軸方向から見た概略構成図であり、(a)は超音波の音軸が転動体間に位置する状態を示し、(b)は、超音波の音軸上に転動体が位置する状態を示す。
図6図4の軸受の状態監視装置で超音波センサで検出された反射波のエコー高さを示すグラフであり、(a)は第1反射波のイメージ図であり、(b)は第2反射波のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態に係る転がり軸受の状態監視方法及び状態監視装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1に示すように、第1実施形態の転がり軸受の状態監視装置10は、深溝玉軸受(転がり軸受)1の状態を監視するための装置である。深溝玉軸受1は、内輪2と、外輪3と、内外輪2,3間に転動自在に配設された転動体である複数の玉4と、複数の玉4を回動自在に保持する保持器5と、を備える。内輪2は回転軸6に嵌合固定され、外輪3はハウジング7に嵌合固定されている。
【0014】
状態監視装置10は、超音波センサ20と、回転センサ22と、演算部30とを備える。なお、演算部30は、例えばパーソナルコンピュータ等によって構成される。
【0015】
超音波センサ20は、外輪3に取り付けられたプローブ21と接続されており、プローブ21から外輪3に向けて超音波を発生させるように、プローブ21を駆動させる。また、超音波センサ20は、信号処理や、受信した反射波の表示・解析なども行う。超音波の音軸sは、深溝玉軸受1の回転中心の方向を向いており、超音波は、外輪3と玉4との境界に向けて照射される。
【0016】
図2(a)に示すように、超音波の音軸sが玉4間に位置する状態では、超音波は、外輪3の内周面の位置で第1反射波w1として受信される。
一方、図2(b)に示すように、超音波の音軸s上に玉4が位置する状態では、外輪3と玉4との境界で超音波は玉4へ透過し、一部が第1反射波w1としてプローブ21で受信される。
【0017】
したがって、深溝玉軸受1の運転時に、玉4が公転することで、図3に示すような第1反射波w1の波形(エコー高さ)のグラフが取得される。エコー高さの変動は、玉4の通過により生じるため、演算部30は、エコー高さの変動の間隔Tを抽出することで、玉4の実測公転数を求めることができる。
【0018】
一方、回転センサ22は、回転軸6に対向配置されて回転軸6の回転を検出し、演算部30に入力する。演算部30は、回転センサ22で検出された回転軸6の回転から、回転軸6の回転速度を求め、この回転速度に基づいて、玉4の理論公転数を求める。
【0019】
そして、演算部30は、玉4の実測公転数と理論公転数とを比較することで、深溝玉軸受1の公転滑りを監視する。例えば、実測公転数と理論公転数との差分を理論公転数で割った公転滑り率を算出し、公転滑り率の大きさに応じて、転がり軸受の不具合発生の予測、又は運転条件の変更により該不具合発生を防止する。
【0020】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態の転がり軸受の状態監視装置10を示す。
【0021】
超音波センサ20は、ハウジング7に取り付けられたプローブ21と接続されており、プローブ21から外輪3に向けて超音波を発生させるように、プローブ21を駆動させる。また、超音波センサ20は、信号処理や、受信した反射波の表示・解析なども行う。超音波の音軸sは、深溝玉軸受1の回転中心の方向を向いており、超音波は、ハウジング7と外輪3との境界、外輪3と玉4との境界に向けて照射される。
【0022】
プローブ21から照射された超音波は、ハウジング7と外輪3との境界で一部が反射し、第1反射波としてプローブ21で受信される。また、超音波の一部は、ハウジング7と外輪3との境界を透過するが、超音波が透過する量は、ハウジング7と外輪3との間に作用する面圧の大きさに依存し、面圧が大きいほど透過しやすい。
【0023】
図5(a)に示すように、超音波の音軸sが玉4間に位置する状態では、第1反射波w1の大きさは大きくなり、ハウジング7と外輪3との境界を反射した超音波は、外輪3の内周面の位置で第1反射波w1として受信される。
一方、図5(b)に示すように、超音波の音軸s上に玉4が位置する状態では、面圧が大きいので、外輪3内へ透過する超音波の量は多くなり、第1反射波w1の大きさは小さくなる。また、外輪3を透過した超音波は、外輪3と玉4との境界で超音波は玉4へ透過し、一部が第2反射波w2としてプローブ21で受信され、残りが玉4へと透過する。
【0024】
したがって、深溝玉軸受1の運転時に、玉4が公転することで、図6(a)に示すような第1反射波w1の波形(エコー高さ)、図6(b)に示すような第2反射波w2の波形(エコー高さ)のグラフが取得される。エコー高さの変動は玉4の通過により生じるため、演算部30は、エコー高さの変動の間隔Tを抽出することで、玉4の実測公転数を求めることができる。
【0025】
一方、回転センサ22は、回転軸6に対向配置されて回転軸6の回転を検出し、演算部30に入力する。演算部30は、回転センサ22で検出された回転軸6の回転から、回転軸6の回転速度を求め、この回転速度に基づいて、玉4の理論公転数を求める。
【0026】
そして、演算部30は、玉4の実測公転数と理論公転数とを比較することで、深溝玉軸受1の公転滑りを監視する。例えば、実測公転数と理論公転数との差分を理論公転数で割った公転滑り率を算出し、公転滑り率の大きさに応じて、転がり軸受の不具合発生の予測、又は運転条件の変更により該不具合発生を防止する。
【0027】
以上説明したように、本実施形態の転がり軸受の状態監視方法によれば、深溝玉軸受1の外輪3、あるいは外輪3が嵌合するハウジング7に取り付けられた超音波センサ20のプローブ21から外輪3に向けて超音波を発生させ、プローブ21を外輪3に取り付ける場合は、外輪3と玉4からの第1反射波w1、プローブ21を、例えば、前述の風力発電用増速器等のハウジングに取り付ける場合はハウジング7と外輪3の境界からの第1反射波w1、外輪3と玉4との境界からの第2反射波w2を受信し、該受信した反射波w1、又はw2のエコー高さの変動に基づいて、玉4の実測公転数を求める工程と、深溝玉軸受1の内輪2、又は該内輪2が嵌合する回転軸6の回転数を回転センサ22により検出し、該回転数に基づいて、玉4の理論公転数を求める工程と、玉4の実測公転数と玉4の理論公転数を比較することで、深溝玉軸受1の公転滑りを監視する工程と、を備える。これにより、実機での実施が容易な手法で、例えば、前述の風力発電用増速器等の様に、人が点検し難いような場所に設置される設備に使用される転がり軸受である深溝玉軸受1の公転滑りを監視することができ、深溝玉軸受1の不具合発生の予測、又は運転条件の変更により該不具合発生を防止することができる。
【0028】
なお、本実施形態の転がり軸受の状態監視装置10は、深溝玉軸受1の外輪3、あるいは外輪3が嵌合するハウジング7に取り付けられたプローブ21を有する超音波センサ20と、深溝玉軸受1の内輪2、又は該内輪2が嵌合する回転軸6の回転数を検出する回転センサ22と、玉4の実測公転数と玉4の理論公転数を比較することで、深溝玉軸受1の公転滑りを監視する演算部30と、を備えて、上記状態監視方法を実現する。
【0029】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、上記実施形態では、測定対象として、深溝玉軸受を挙げたが、任意の転がり軸受が測定可能である。また、本発明は、保持器無し軸受への適用も可能である。
また、転がり軸受が外輪回転の場合、プローブは内輪、あるいは内輪が嵌合する軸に取り付けることも可能である。この場合、プローブは、内輪に向けて超音波を発生させ、プローブを内輪に取り付ける場合は、内輪と転動体からの第1反射波w1、プローブを軸に取り付ける場合は、軸と内輪の境界からの第1反射波w1、内輪と転動体との境界からの第2反射波w2を受信し、該受信した反射波w1、又はw2のエコー高さの変動に基づいて、転動体の実測公転数を求める。また、回転センサは、外輪、又はハウジングの回転数を回転センサにより検出し、該回転数に基づいて、転動体の理論公転数を求める。
【符号の説明】
【0030】
1 深溝玉軸受(転がり軸受)
10 軸受の状態監視装置
20 超音波センサ
21 プローブ
22 回転センサ
30 演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6