IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ヒ素含有廃水の処理方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】ヒ素含有廃水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/62 20230101AFI20230920BHJP
   C02F 1/52 20230101ALI20230920BHJP
   C02F 1/66 20230101ALI20230920BHJP
【FI】
C02F1/62 Z
C02F1/52 K
C02F1/66 510L
C02F1/66 510M
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019215687
(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公開番号】P2021084084
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】林 浩志
(72)【発明者】
【氏名】中山 翔太
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-285078(JP,A)
【文献】特開2006-116468(JP,A)
【文献】特開昭60-051593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/52、1/58-1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ素を含む酸性の廃水について、鉄の存在下で中和処理し、ヒ素を澱物化してヒ素濃度を低減する処理方法において、鉄とヒ素の重量比(Fe/As比)が29~110の範囲で変動する上記廃水に対して、上記中和処理で生成したヒ素の澱物を含む汚泥を回収し、Fe/As比が55~66であって固形物濃度60~120g/Lの回収した汚泥を上記中和処理に返送し、上記廃水に加えて中和処理することによって、上記Fe/As比の変動を緩和してヒ素の澱物化を進めることを特徴とするヒ素含有廃水の処理方法。
【請求項2】
ヒ素を含む廃水が鉱山の坑廃水である請求項1に記載するヒ素含有廃水の処理方法。
【請求項3】
上記Fe/As比および上記固形物濃度の回収した汚泥を上記中和処理に返送し、上記廃水1Lに対して0.02~0.2Lの割合で加えて中和処理する請求項1または請求項2に記載するヒ素含有廃水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱山の坑廃水などのヒ素を含む廃水について、ヒ素濃度を安定に排水基準以下に低減する処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱山の廃水には、坑道などから生じる水(坑内水)と、坑外の選鉱場や製錬場または捨石や鉱滓の集積場などから生じる水(坑外水)とがあり、これらの坑内水および坑外水を含めて坑廃水と云われる。この坑廃水は、鉄、マンガン、銅、亜鉛、鉛、ヒ素、カドミウムなどの重金属を含む酸性の廃水であり、坑廃水を外部に排水するときには、これらが汚染源にならないように処理する必要がある。
【0003】
ヒ素を含む廃水について、ヒ素は水酸化第二鉄に取り込まれて共沈するので、従来、鉄の存在下で該廃水を中和処理し、ヒ素を澱物化してヒ素濃度を低減している。例えば、ヒ素を含む廃水について、特許文献1~特許文献3に記載された処理方法が知られている。
【0004】
特許文献1には、ヒ素および硫化鉄を含む鉱山廃水に、中和剤として水酸化マグネシウムまたは水酸化ナトリウムを添加して撹拌することにより中和し、かつ硫酸マグネシウム沈殿物または硫酸ナトリウム沈殿物とともに、ヒ素沈澱物を共沈させて、それらの沈殿物を分離することを特徴とする鉱山廃水の処理方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、As、F含有廃水にFe/As=2以上の第2鉄塩およびCa/F=20以上のカルシウム塩を添加してpH8.0~8.5の範囲で凝集沈澱を行なう第1段の処理工程と、その上澄分離水に対しAl/As=30以上かつAl/F=2以上のアルミニウム塩を添加してpH6.5~7.0の範囲で凝集沈澱を行なう第2段の処理工程とからなるヒ素およびフッ素含有廃水の処理方法が記載されている。
【0006】
特許文献3には、ガリウムおよびヒ素を含む廃水に可溶性第二鉄塩を添加し、アルカリ剤によりpHを調節してガリウムおよびヒ素を水酸化第二鉄の沈澱と共沈させ、この沈澱を廃水から分離除去する処理方法が記載されており、さらに分離した沈澱を水に懸濁させて、pHをアルカリ側に調整してガリウムを溶出させ、固液分離した液分を蒸発乾固してガリウムを回収する工程が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-116468号公報
【文献】特開昭61-185375号公報
【文献】特開昭59-95991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ヒ素を含む廃水を、鉄の存在下で中和処理し、ヒ素を水酸化鉄沈澱と共沈させて澱物化する特許文献1~3の処理方法において、該廃水に含まれる鉄含有量が低く、鉄とヒ素の重量比(Fe/As比)が大幅に変動する廃水についてはヒ素を十分に澱物化することができず、ヒ素の除去効果を高めることが難しいと云う問題がある。
【0009】
さらに、特許文献2の処理方法では第2処理工程でアルミニウム塩を用いるので処理工程が煩雑であり、コスト高になる。また、特許文献3の処理方法では、共存するガリウムの影響でヒ素を十分に除去し難い問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の処理方法は、ヒ素を含む廃水の処理において、従来の上記問題を解消し、ヒ素と鉄の含有量が大幅に変動する廃水であっても、安定にヒ素濃度を排水基準以下に低減することができる処理方法を提供する。
【0011】
本発明の処理方法は、以下の構成からなるヒ素含有廃水の処理方法である。
〔1〕ヒ素を含む酸性の廃水について、鉄の存在下で中和処理し、ヒ素を澱物化してヒ素濃度を低減する処理方法において、鉄とヒ素の重量比(Fe/As比)が29~110の範囲で変動する上記廃水に対して、上記中和処理で生成したヒ素の澱物を含む汚泥を回収し、Fe/As比が55~66であって固形物濃度60~120g/Lの回収した汚泥を上記中和処理に返送し、上記廃水に加えて中和処理することによって、上記Fe/As比の変動を緩和してヒ素の澱物化を進めることを特徴とするヒ素含有廃水の処理方法。
〔2〕ヒ素を含む廃水が鉱山の坑廃水である上記[1]に記載するヒ素含有廃水の処理方法。
〔3〕上記Fe/As比および上記固形物濃度の回収した汚泥を上記中和処理に返送し、上記廃水1Lに対して0.02~0.2Lの割合で加えて中和処理する上記[1]または上記[2]に記載するヒ素含有廃水の処理方法。
【0012】
〔具体的な説明〕
本発明の処理方法は、ヒ素を含む酸性の廃水について、鉄の存在下で中和処理し、ヒ素を澱物化してヒ素濃度を低減する処理方法において、鉄とヒ素の重量比(Fe/As比)が29~110の範囲で変動する上記廃水に対して、上記中和処理で生成したヒ素の澱物を含む汚泥を回収し、Fe/As比が55~66であって固形物濃度60~120g/Lの回収した汚泥を上記中和処理に返送し、上記廃水に加えて中和処理することによって、上記Fe/As比の変動を緩和してヒ素の澱物化を進めることを特徴とするヒ素含有廃水の処理方法である。

【0013】
第二鉄イオンを含む酸性の廃水に消石灰などを加えてpH5.8~pH8.6に中和処理すると、水酸化第二鉄の中和澱物が生成する。この廃水中にヒ素イオンが含まれていると、上記中和澱物にヒ素イオンが取り込まれて共沈し、ヒ素含有澱物が形成され、ヒ素濃度が低減する。
【0014】
本発明の処理方法は、鉄とヒ素の重量比(Fe/As比)が変動する廃水に対して、中和処理で生成したヒ素含有澱物を含む汚泥を回収し、上記廃水のFe/As比変動幅の中間的なFe/As比を有する汚泥を上記中和処理に返送して中和処理することによって、上記Fe/As比の変動を緩和してヒ素の澱物化を進める処理方法である。
【0015】
本発明の処理方法において、廃水のFe/As比変動幅の中間的なFe/As比を有する汚泥とは、該廃水のFe/As比の下限値の約1.9倍から該廃水のFe/As比の上限値の約0.6倍の範囲のFe/As比を有する汚泥を云う。具体的には、例えば、廃水のFe/As比が29~110の範囲で変動するとき、55~66の範囲のFe/As比を有する汚泥である。
【0016】
本発明の処理方法は、Fe/As比が変動する廃水に消石灰などを加えて中和処理する中和工程と、該中和処理によって生成したヒ素含有澱物を含む汚泥を回収する工程と、該汚泥のFe/As比が、上記廃水のFe/As比変動幅の中間的なFe/As比を有する汚泥を中和工程に返送して消石灰と共に廃水に加える返送工程とを有する。
【0017】
廃水のFe/As比変動幅の中間的なFe/As比を有する汚泥を中和工程に返送して廃水に加えることによって、廃水のFe/As比の変動が緩和され、この汚泥の返送を繰り返すことによって、消石灰を加えた中和処理において、安定したヒ素濃度を有するヒ素含有澱物が形成され、ヒ素濃度を安定に低く抑えた中和処理を行うことができる。なお、中和処理後に回収したヒ素含有澱物を含む汚泥が上記廃水のFe/As比変動幅の中間的なFe/As比から外れるときは、中和工程に返送するときに該中間的なFe/As比の範囲になるように、鉄ヒ素源を加えて上記Fe/As比の範囲に調整すればよい。この調整に用いる鉄ヒ素源は、別途回収したヒ素含有澱物を含む汚泥を利用することができる。
【0018】
中和工程に返送する汚泥の量は、例えば、固形分濃度60~120g/Lの汚泥について、廃水1Lに対して0.02~0.2Lの割合であればよい。
【0019】
本発明の処理方法は、鉄およびヒ素を含有する坑廃水の中和処理について好適に用いることができる。本発明の処理方法を坑廃水の処理に適用した例を図1に示す。
【0020】
例えばpH3~pH4であって、Fe/As比が約29~約110の範囲で変動している複数の坑廃水(以下、廃水)が原水受槽10に集められる。該原水受槽10の廃水は中和反応槽11に送られる。中和処理に用いる消石灰は消石灰溶解槽12に投入され、消石灰液にして条件槽13に送られ、該条件槽13から上記中和反応槽11に供給される。この中和反応槽11において、廃水は消石灰によって中和され、この中和処理によって廃水中の鉄は水酸化第二鉄沈澱を形成し、この水酸化第二鉄沈澱に廃水中のヒ素が取り込まれて共沈し、ヒ素含有澱物が形成される(中和工程)。消石灰は上記廃水を例えばpH8前後に中和する量が供給される。
【0021】
中和処理された廃水は中和反応槽11から凝集槽14に導入される。該凝集槽14には高分子凝集剤溶解槽15から高分子凝集剤溶液が供給され、高分子凝集剤溶液が添加された中和廃水は沈降分離槽16に送られる。沈降分離槽16において、上記ヒ素含有澱物が沈降して中和汚泥が槽底に堆積する。この中和汚泥が回収されて(回収工程)、条件槽13に返送され(返送汚泥)、該条件槽13の消石灰液に添加され、廃水のFe/As比変動幅の中間的なFe/As比を有する汚泥が該条件槽13から中和反応槽11に送られて供給される(返送工程)。該返送汚泥が加えられることによって廃水のFe/As比の変動が緩和され、中和処理が安定に進む。なお、必要に応じ、条件槽13において、返送汚泥のFe/As比が廃水のFe/As比変動幅の中間的なFe/As比の範囲になるように調整される。
【0022】
一方、返送汚泥を回収した残余の汚泥(余剰汚泥)は沈降分離槽16の槽底から抜き出されて集積場に送られて最終処分される。沈降分離槽16において汚泥が分離された廃水は、大部分のヒ素が上記汚泥に取り込まれて分離されるので、ヒ素濃度を排水基準以下(0.1mg/L以下)に低減することができ、この処理済廃水は沈降分離槽16から濾過設備17を経由して浮遊粒子が除去され、外部に放流される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の処理方法によれば、返送汚泥が中和反応槽に繰り返し供給されて中和処理が進むので、Fe/As比の変動幅が大きい廃水についても、ヒ素を安定して排水基準以下まで除去することができ、さらに汚泥が濃縮されるので汚泥容積を減容化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】坑廃水の処理に適用した本発明の処理工程図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔実施例1〕
図1に示す処理工程において、サンプル用の坑廃水1Lを採取してpHを測定した。次に返送汚泥36mlを取り、3.0wt%消石灰スラリー4.0mlを加えて10分間撹拌し、条件付けした汚泥(固体濃度70g/L、Fe/As比57)を調製した。この条件付け汚泥の全量を該坑廃水に投入し、15分間撹拌してpH8.0となるよう中和処理した。pHが8.0に届かない場合は、消石灰スラリーを微量加えて調整した。その後、中和処理したスラリーに高分子凝集剤(ダイヤフロックAP-825B、三菱ケミカル社製品)の0.05%溶液を0.4ml添加して撹拌し、生成した澱物を沈降分離した。沈降分離後、上澄み液を採取し、鉄濃度およびヒ素濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析装置にて定量分析した。この結果を表1に示した。
表1に示すように、中和工程のFe/As比は55~58の範囲で安定し、汚泥の固形物濃度は2.59g/L~2.66g/Lに濃縮されている。また、上澄み液の鉄濃度は0.1~0.3mg/Lであり、ヒ素濃度は0.06mg/L以下に低減されている。
【0026】
【表1】
【0027】
〔実施例2〕
返送汚泥の固形物濃度、Fe/As比、および返送汚泥量を表2に示すように調整した以外は実施例1と同様にして坑廃水の中和処理を行った。この結果を表2に示した。
表2に示すように、Fe/As比が56~65の返送汚泥を用いた場合、中和工程のFe/As比は53~64の範囲で安定し、汚泥の固形物濃度は2.58~2.64に濃縮されている。また、上澄み液の鉄濃度は0.1~0.2mg/Lであり、ヒ素濃度は0.08mg/L以下に低減されている。
【0028】
【表2】
【0029】
〔比較例1〕
中和用の汚泥を返送しない以外は実施例1と同様にして坑廃水の中和処理を行った。この結果を表3に示した。中和工程のFe/As比は原坑廃水のFe/As比と同様に変動しており、このため上澄み液の鉄濃度は3.4~6.2mg/Lと高く、Fe/As比が51以下の坑廃水はヒ素濃度を排水基準以下(0.1mg/L以下)に低減することができない。また、中和工程で生成する汚泥の固形分濃度は約0.16g/L以下であり、汚泥が濃縮されずに嵩高い。
【0030】
【表3】
【符号の説明】
【0031】
10-原水受槽、11-中和反応槽、12-消石灰溶解槽、13-条件槽、14-凝集槽、15-高分子凝集剤溶解槽、16-沈降分離槽、17-濾過設備。
図1