(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】ハロゲンランプ
(51)【国際特許分類】
H01K 1/40 20060101AFI20230920BHJP
H01K 1/20 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
H01K1/40
H01K1/20
(21)【出願番号】P 2020050337
(22)【出願日】2020-03-20
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106862
【氏名又は名称】五十畑 勉男
(72)【発明者】
【氏名】河村 忠和
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-075606(JP,A)
【文献】特開2003-059459(JP,A)
【文献】特開2009-009927(JP,A)
【文献】特開2013-179002(JP,A)
【文献】特開2016-065270(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0122484(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01K 1/40
H01K 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管内部にコイル状のフィラメントからなる発光部を備えてなるハロゲンランプにおいて、
前記発光管の端部には金属箔がシールされた封止部を備えてなり、
前記金属箔には、発光管の外部に延びる外部リードと、発光管の内部に延びる内部リードがそれぞれ通電可能に取り付けられており、
前記内部リードは、一端が前記金属箔に接続されるとともに、他端は前記発光部に電気的に接続されてなり、
前記内部リードの径は前記フィラメントの素線径よりも大きく、
前記内部リードの少なくとも一部は、結晶組織が再結晶化された再結晶化部を有していることを特徴とするハロゲンランプ。
【請求項2】
前記内部リードの再結晶化部は、前記金属箔との接合部分以外の部分に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のハロゲンランプ。
【請求項3】
前記内部リードの径は、前記発光部を構成するフィラメントの内径よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載のハロゲンランプ。
【請求項4】
前記内部リードは、軸方向の中間位置に膨径部が形成されていることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のハロゲンランプ。
【請求項5】
前記内部リードには、前記発光管内の位置を保持するサポータが設けられていることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のハロゲンランプ。
【請求項6】
前記発光部は、複数の素線がコイル状に巻回されたフィラメントで構成されていることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のハロゲンランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発光管内に発光部を形成するコイル状のフィラメントを有するハロゲンランプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プリンタや複写機の画像形成装置には、記録媒体上にインクを加熱定着させる定着ユニットが搭載されており、この定着ユニット内部にはハロゲンランプが搭載されている。
特許第3873635(特許文献1)には、このハロゲンランプの代表的な構造が開示されている。この文献に示されたハロゲンランプでは、発光管内にコイル状のフィラメントからなる発光部と、非発光部とが形成されており、非発光部の電気抵抗を小さくして消費電力を抑える目的で、当該非発光部には短絡導電棒が取り付けられている。
【0003】
このようなハロゲンランプでは、特許文献1にも示されるように、発光管の端部の封止部では金属箔を介してシールされる構造が一般的であり、この金属箔に接合された内部リードの他端部が、前記発光部に電気的に接続される構造とされている。
この内部リードは発光することはなく、通常はフィラメントの素線と同様に線状に細く形成されているので、電気抵抗が大きく、これによって電力消費又は発熱による熱ロスを発生させてしまっていた。これにより、ランプ点灯直後の発光部(フィラメント)の立ち上がり時間が遅くなってしまい、エネルギーの使用効率が低くなり、発光部での熱エネルギーが低減してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、発光管内部にコイル状のフィラメントからなる発光部を備えてなるハロゲンランプにおいて、封止部の金属箔と発光部を電気的に接続する内部リードでの熱ロスを低減させ、発光部の立ち上がりを速くするとともに、当該発光部での熱エネルギーを高めることができるハロゲンランプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明のハロゲンランプでは、前記発光管の端部には金属箔がシールされた封止部を備えてなり、前記金属箔には、発光管の外部に延びる外部リードと、発光管の内部に延びる内部リードがそれぞれ通電可能に取り付けられており、前記内部リードは、一端が前記金属箔に接続されるとともに、他端は前記発光部に電気的に接続されてなり、前記内部リードの少なくとも一部は、結晶組織が再結晶化された再結晶化部を有していることを特徴とする。
【0007】
また、前記内部リードの再結晶化部は、前記金属箔との接合部分以外の部分に形成されていることを特徴とする。
また、前記内部リードの径は、前記発光部を構成するフィラメントの内径よりも大きいことを特徴とする。
また、前記内部リードは、軸方向の中間位置に膨径部が形成されていることを特徴とする。
また、前記内部リードには、前記発光管内の位置を保持するサポータが設けられていることを特徴とする。
また、前記発光部は、複数の素線がコイル状に巻回されたフィラメントで構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、発光管内の発光部と封止部内の金属箔とを接続する内部リードの少なくとも一部を再結晶化させる構造とすることで、当該内部リードの電気抵抗値を低下させ、内部リードでの電力ロスを低減させて、発光部に十分な電気的エネルギーを供給することができるようにしたものである。
また、内部リードの径を、発光部を構成するフィラメントの内径よりも大きくすることで、更にその電気抵抗値を低下させることができる。
また、内部リードの中間位置に膨径部を形成することで、その電気抵抗値をより一層低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のハロゲンランプの断面図(A)、部分拡大図(B)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1(A)は、本発明のハロゲンランプ1、2の全体断面図であって、
図1(B)はその端部の部分拡大図である。
なお、
図1では異なる形状の2種類のハロゲンランプ1、2が示されていて、第1のハロゲンランプ1においては、管状のガラス製発光管11内にコイル状のタングステン製のフィラメントからなる発光部12が設けられ、発光管11の両端部の封止部13内には金属箔14がピンチシールされている。こうして密閉された発光管11内にはハロゲンが封入されている。
そして、前記金属箔14にはタングステン製の内部リード15の一端と外部リード16の一端とが接合されて電気的に接続されている。
そして、内部リード15は、その他端側が前記発光部(フィラメント)12に接続されている。
ここで、フィラメント12は、金属素線がコイル状に巻回されて構成されるが、内部リード15は、電気抵抗値を抑える観点から、その径は当該フィラメント12の素線径よりも大きくすることが望ましい。
【0011】
図1(A)は、本発明のハロゲンランプを定着加熱装置に用いた場合の構成例であって、第2のハロゲンランプ2においては、発光部22が第1の発光部22aと第2の発光部22bとに2分割されていて、その中間に短絡導体棒28が設けられており、この短絡導体棒28は非発光部となる。これにより、第1のハロゲンランプ1と第2のハロゲンランプ2とでは発光領域が異なるものが得られる。
このような2種類のランプ1、2を用いることで、加熱対象物(紙媒体)のサイズに応じて加熱領域を可変にすることができるように構成されている。
例えば、第1のハロゲンランプ1のみを点灯することで、その発光部12が発光してA4用紙に対応し、第1のハロゲンランプ1と第2のハロゲンランプ2を同時に点灯することで、第1のハロゲンランプ1の発光部12と、第2のハロゲンランプ2の発光部22(22a、22b)とが併せて発光して、A3用紙に対応するものである。
【0012】
上記の構成において、内部リード15、25の径は、発光部12、22を形成するフィラメントの内径よりも大きなものとすることが好ましい。これは、内部リード15、25の抵抗値を小さなものとして、これによる電力ロスをできるだけ小さなものとして、発光部12、22に十分な電気的エネルギーを供給するためである。この内部リード15、25の径は、封止部13、23でのシールに支障が生じない範囲で大きなものとされる。
【0013】
そして、この内部リード15、25はタングステンにより構成され、その結晶組織が再結晶化されている。再結晶化される領域は長さ方向の全領域であってもよいし、後述するように、長さ方向の一部であってもよい。
図1(B)は、要部の拡大図であり、再結晶化された内部リード15は、一端部を封止部13内で金属箔14に溶接接合されており、また、その他端部にはコイル状のフィラメント(発光部)12が取り付けられている。
また、
図1(A)に示す第2のハロゲンランプ2における、2つの発光部22である第1の発光部22aと第2の発光部22bの間に挿入された短絡導体棒28も再結晶化された構造とすることが好適である。
こうして再結晶化された内部リード15、25は、再結晶化前の状態に比べて、その電気抵抗値が小さなものとなり、当該部位での電力ロスを抑制して、発光部12、22に十分な電気的エネルギーを供給できるものである。
【0014】
図1(A)に示す第1のハロゲンランプ1の例では、発光部12の領域が発光管11の全長に対して限定的となり、相対的に内部リード15が長くなる。このような場合、内部リード15に発光管11内の位置を保持するサポータ17を設けてもよい。こうすることで、封止部13への負荷を軽減することができる。また、内部リード15自身が再結晶化により強度低下を招くことがあっても、このサポータ17により強度面で補強することができる。
一方、
図1(A)に示す第2のハロゲンランプ2の例では、短絡導体棒28にサポータ27が設けられている。こうすることで、短絡導体棒28の両側に位置する発光部22(22a、22b)への負荷を軽減して、その変形を防止することができる。
なお、第2のハロゲンランプ2では、内部リード25にサポータが設けられていない形態が示されているが、発光管21内での突出長さによっては、第1のハロゲンランプ1と同様に、当該内部リード25にもサポータを取り付ける構造としてもよい。
【0015】
上記のようなタングステン製の内部リード15、25や短絡導体棒28を再結晶化させる工程は、素材であるタングステン棒を水素ガスまたは水素と窒素の混合ガスなどの還元雰囲気中で通電加熱することにより行われる。
詳述すると、
(1)還元雰囲気中にタングステン素材(内部リード部材)を配置する。
(2)素材の端部に、それぞれ通電用部材を電気的に接続する。
(3)各通電用部材の間に所定の高電圧を加えて素材を通電加熱する。
(4)この通電加熱を一定時間維持し、素材を再結晶温度まで加熱する。
以下その一具体例を示す。
通電用部材間の離間距離:300mm
通電用部材間の印加電圧:200V
通電加熱時間 :15秒
なお、素材(内部リード)の一部領域を再結晶化させるには、再結晶化させたい領域の両端部に通電用部材を配置し、この間に通電すればよい。
【0016】
こうして得られる再結晶化による結晶組織が
図2に示されている。
図2(A)(B)は、再結晶化前の素材断面写真(A)とその模式図(B)であり、
図2(C)(D)は、再結晶化後の素材断面写真(C)とその模式図(D)である。
図2(A)(B)に示すように再結晶化前の素材(タングステン棒)は繊維状組織構造であり、
図2(C)(D)に示すように再結晶化後の素材は粗大化組織構造となっている。
ここで、本発明でいう再結晶化後の粗大化組織とは、素材断面において、長手方向に垂直な検証線を引いたとき、当該検証線を横切る結晶粒の数が20個以下の状態まで組織が粗大化された状態とする。
【0017】
このように再結晶化処理を施した内部リードの電気抵抗値を測定した。2つのサンプルA、Bについて同条件で上記再結晶化処理した後に、その電気抵抗値の変化を見た。その結果が表1に示される。
<表1>
表1から分かるように、いずれのサンプルにおいても再結晶化後では、再結晶化前に比べてその電気抵抗値が低下していることが確認された。このように再結晶化された内部リードや短絡導体棒を採用することで、当該部位での電力ロスを抑制して、ランプの点灯特性を向上させることができる。
【0018】
図3には、部分的に再結晶化された内部リード15を用いた例が示されている。この実施例では、内部リード15は長手方向の一部が再結晶化された再結晶化部15aと、再結晶化されていない非再結晶化部15bとからなり、内部リード15はこの非再結晶化部15bで金属箔13に接合される。
一般に、金属を再結晶化処理すると、その機械的強度が低下するが、内部リード15の一部領域を再結晶化しないままの構造とすることで当該非再結晶化部15bでは機械的強度を維持するので、金属箔13との接合時に負荷がかかっても内部リード15が破損することがない。
【0019】
図4に他の実施例が示されていて、この実施例では、第1のハロゲンランプ1の内部リード15に膨径部15cが形成されている。この膨径部15cは、金属箔14や発光部12との接続部以外の軸方向の中間位置に形成されるものであって、こうすることで、内部リード15の電気抵抗値を低下させることができる。
また、第2のハロゲンランプ2における短絡導体棒28にも軸方向の中間位置に膨径部28cを形成することもできる。
【0020】
図5に示された他の実施例においては、発光部12を形成するコイル状に巻回されたフィラメントが複数本の素線12x、12yからなるものである。
発光部12での発熱はその接続部を介して内部リード15に伝熱されるが、この伝熱量が大きいと内部リード15が加熱され、その再結晶化状態がより進む方向に変化させてしまう恐れがある。内部リード15の最適な再結晶化は、電気抵抗値の減少と機械的強度の低下の兼ね合いで決定されるが、不所望な再結晶化はそのバランスを損ねることになる。
そこで、発熱部12での必要以上の加熱を避けることから、この実施例のように、発光部12を複数本(2本)のフィラメント12x、12yにより構成したものである。同一光量の光照射をする場合、単一のフィラメントの熱容量に対して2本のフィラメントの総熱容量は下がり、発光部12の熱容量を下げることができるため、内部リード15への伝熱量を低下させることができる。
これにより、内部リード15が加熱され再結晶化が不所望に促進されてしまうことを防止できる。
【0021】
以上説明したように、本発明におけるハロゲンランプでは、封止部内の金属箔と発光部とを接続する内部リードの少なくとも一部が、結晶組織が再結晶化された再結晶化部を有していることにより、該内部リードでの電気抵抗値を低下させることができ、当該部位での電力ロスを低減させて、発光部に十分な電気的エネルギーを供給することができ、ランプ点灯直後の発光部(フィラメント)の立ち上がり時間が早くなるという効果を奏するものである。
また、金属箔との接合部にあたる部位を再結晶化させない構造とすることで、内部リードと金属箔の接合時の負荷により内部リードが破損することを防止できる。
【符号の説明】
【0022】
1:(第1の)ハロゲンランプ
11:発光管
12 :発光部(フィラメント)
13 :封止部
14 :金属箔
15 :内部リード
15a:再結晶化部
15b:非再結晶化部
15c:膨径部
16 :外部リード
17 :サポータ
2 :(第2の)ハロゲンランプ
21:発光管
22 :発光部(フィラメント)
23 :封止部
24 :金属箔
25 :内部リード
26 :外部リード
27 :サポータ
28 :短絡導体棒
28c:膨径部