IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許-認識装置及び認識方法 図1
  • 特許-認識装置及び認識方法 図2
  • 特許-認識装置及び認識方法 図3
  • 特許-認識装置及び認識方法 図4
  • 特許-認識装置及び認識方法 図5
  • 特許-認識装置及び認識方法 図6
  • 特許-認識装置及び認識方法 図7
  • 特許-認識装置及び認識方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】認識装置及び認識方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/06 20060101AFI20230920BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20230920BHJP
   G01B 11/00 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
G01C15/06 Z
G01C15/00 103Z
G01C15/00 104Z
G01B11/00 H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020110529
(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2022007511
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-09-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち人工知能未来農業創造プロジェクト)」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】三田 達也
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-120502(JP,A)
【文献】特開2017-078877(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0187724(US,A1)
【文献】特開平11-278799(JP,A)
【文献】特開2003-028614(JP,A)
【文献】特開2017-127055(JP,A)
【文献】国際公開第2019/209169(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0244388(US,A1)
【文献】特開2019-032599(JP,A)
【文献】特開2017-092947(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0188015(US,A1)
【文献】特開平07-254037(JP,A)
【文献】特表平11-502348(JP,A)
【文献】特開2011-070566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/06
G01C 15/00
G01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷役対象物に取り付けられたマーカを認識する認識装置であって、
前記マーカを撮像し、撮像結果に基づく画像データを取得する撮像装置と、
前記画像データに基づいて前記マーカの3次元位置を推定する推定部と、を備え、
前記マーカは、円状部分と、前記円状部分と同心に前記円状部分を囲む円環状部分とを組み合わせてなる二重円パターンを少なくとも4つ含む組を有し、
前記推定部は、前記画像データから前記二重円パターンにおける前記円状部分の中心と前記円環状部分の中心とをそれぞれ抽出し、前記中心同士の間隔が所定値以上である二重円パターンを除外し、前記中心同士の間隔が所定値未満である二重円パターンのみを用いて前記マーカの3次元位置の推定を実行し、
前記推定部は、前記中心同士の間隔が所定値未満である二重円パターンの存在数をカウントし、前記存在数が4以上である場合に前記マーカの3次元位置の推定を実行し、前記存在数が4未満である場合に前記マーカの3次元位置の推定を中止する認識装置。
【請求項2】
前記推定部が前記マーカの3次元位置の推定を中止した場合に、その旨を外部に報知する報知部を更に備える請求項記載の認識装置。
【請求項3】
前記マーカは、前記二重円パターンの組とは異なる補助パターンを有し、
前記推定部は、前記補助パターンの撮像結果に基づいて前記マーカまでの距離を検出する請求項1又は2記載の認識装置。
【請求項4】
荷役対象物に取り付けられたマーカを認識する認識方法であって、
前記マーカを撮像し、撮像結果に基づく画像データを取得する撮像ステップと、
前記画像データに基づいて前記マーカの3次元位置を推定する推定ステップと、を備え、
前記マーカは、円状部分と、前記円状部分と同心に前記円状部分を囲む円環状部分とを組み合わせてなる二重円パターンを少なくとも4つ含む組を有し、
前記推定ステップでは、前記画像データから前記二重円パターンにおける前記円状部分の中心と前記円環状部分の中心とをそれぞれ抽出し、前記中心同士の間隔が所定値以上である二重円パターンを除外し、前記中心同士の間隔が所定値未満である二重円パターンのみを用いて前記マーカの3次元位置の推定を実行し、
前記推定ステップでは、前記中心同士の間隔が所定値未満である二重円パターンの存在数をカウントし、前記存在数が4以上である場合に前記マーカの3次元位置の推定を実行し、前記存在数が4未満である場合に前記マーカの3次元位置の推定を中止する認識方法。
【請求項5】
前記推定ステップにおいて前記マーカの3次元位置の推定を中止した場合に、その旨を外部に報知する報知ステップを更に備える請求項記載の認識方法。
【請求項6】
前記マーカは、前記二重円パターンの組とは異なる補助パターンを有し、
前記二重円パターンの組の撮像にあたって、前記補助パターンの撮像結果に基づいて前記マーカまでの距離を検出する請求項4又は5記載の認識方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、認識装置、認識方法、及びマーカに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の位置検知装置としては、例えば特許文献1に記載の位置検出装置が知られている。この従来の位置検知装置は、マーカの撮影画像を取得する第1の撮像部と、第1の撮像部よりも長い焦点距離を有し、マーカの撮影画像を取得する第2の撮像部と、第1の撮像部及び第2の撮像部により取得された撮影画像において認識したマーカを用いて、移動体の位置を取得する位置取得部とを備えている。位置取得部は、第1の撮像部及び第2の撮像部の両方においてマーカの撮影画像が取得された場合には、第1の撮像部及び第2の撮像部により取得されたマーカの撮影画像のうち、精度の高い位置を取得できる撮影画像を用いて移動体の位置を取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-117584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような認識装置は、自動運転フォークリフトといった産業車両への適用が検討されている。自動運転フォークリフトでは、屋内外の任意の位置に置かれたパレットの荷取りが行われる。この場合、例えば白黒柄のマーカをパレットに取り付け、当該マーカを車両側の認識装置で認識することにより、マーカの3次元位置の推定を実施できる。
【0005】
しかしながら、上記パレットが屋内外の任意の位置に置かれることから、マーカに汚れ・摩耗・破損が生じたり、マーカが物体の陰になってしまうことが想定される。認識装置によるマーカの3次元位置の推定精度は、マーカを正しく認識できることが前提となっている。このため、上記のような要因によってマーカの一部又は全部の認識に異常が生じると、マーカの3次元位置の推定精度が低下してしまうおそれがある。
【0006】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、マーカに汚れ等の異常が生じた場合でもマーカの3次元位置の推定精度の低下を抑制できる認識装置、認識方法、及びマーカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る認識装置は、荷役対象物に取り付けられたマーカを認識する認識装置であって、マーカを撮像し、撮像結果に基づく画像データを取得する撮像装置と、画像データに基づいてマーカの3次元位置を推定する推定部と、を備え、マーカは、円状部分と、円状部分と同心に円状部分を囲む円環状部分とを組み合わせてなる二重円パターンを少なくとも4つ含む組を有し、推定部は、画像データから二重円パターンにおける円状部分の中心と円環状部分の中心とをそれぞれ抽出し、中心同士の間隔が所定値以上である二重円パターンを除外し、中心同士の間隔が所定値未満である二重円パターンのみを用いてマーカの3次元位置の推定を実行する。
【0008】
この認識装置では、円状部分と、円状部分と同心に円状部分を囲む円環状部分とを組み合わせてなる二重円パターンを少なくとも4つ含む組を有するマーカを撮像する。このマーカが正常である場合、二重円パターンを3次元空間で回転させた際に画像データ上の円状部分の中心と円環状部分の中心とが一致する。一方、このマーカに汚れ等の異常がある場合、二重円パターンを3次元空間で回転させた際に画像データ上の円状部分の中心と円環状部分の中心との間にずれが生じる。この認識装置では、円状部分の中心と円環状部分の中心との間隔に基づいてマーカに異常があるか否かを検出し、異常が認められる二重円パターンを除外してマーカの3次元位置の推定を実行する。したがって、マーカに汚れ等の異常が生じた場合でもマーカの3次元位置の推定精度の低下を抑制できる。
【0009】
推定部は、中心同士の間隔が所定値未満である二重円パターンの存在数をカウントし、存在数が4以上である場合にマーカの3次元位置の推定を実行し、存在数が4未満である場合にマーカの3次元位置の推定を中止してもよい。正常な二重円パターンが4つ以上存在する場合、画像データ上の二重円パターンの中心位置と既知の3次元空間の座標とに基づいてマーカの3次元位置を精度良く推定することが可能となる。また、正常な二重円パターンの存在数が4未満である場合にマーカの3次元位置の推定を中止することで、精度の低い推定結果の出力を防止できる。
【0010】
認識装置は、推定部がマーカの3次元位置の推定を中止した場合に、その旨を外部に報知する報知部を更に備えていてもよい。この場合、ユーザに向けてマーカの異常を速やかに把握させることができ、マーカの交換等を促すことができる。
【0011】
マーカは、二重円パターンの組とは異なる補助パターンを有し、推定部は、補助パターンの撮像結果に基づいてマーカまでの距離を検出してもよい。この場合、例えば補助パターンの撮像結果を利用してマーカまでの大まかな距離を検出しておくことで、二重円パターンの組の撮像が容易となる。
【0012】
本開示の一側面に係る認識方法は、荷役対象物に取り付けられたマーカを認識する認識方法であって、マーカを撮像し、撮像結果に基づく画像データを取得する撮像ステップと、画像データに基づいてマーカの3次元位置を推定する推定ステップと、を備え、マーカは、円状部分と、円状部分と同心に円状部分を囲む円環状部分とを組み合わせてなる二重円パターンを少なくとも4つ含む組を有し、推定ステップでは、画像データから二重円パターンにおける円状部分の中心と円環状部分の中心とをそれぞれ抽出し、中心同士の間隔が所定値以上である二重円パターンを除外し、中心同士の間隔が所定値未満である二重円パターンのみを用いてマーカの3次元位置の推定を実行する。
【0013】
この認識方法では、円状部分と、円状部分と同心に円状部分を囲む円環状部分とを組み合わせてなる二重円パターンを少なくとも4つ含む組を有するマーカを撮像する。このマーカが正常である場合、二重円パターンを3次元空間で回転させた際に画像データ上の円状部分の中心と円環状部分の中心とが一致する。一方、このマーカに汚れ等の異常がある場合、二重円パターンを3次元空間で回転させた際に画像データ上の円状部分の中心と円環状部分の中心との間にずれが生じる。この認識方法では、円状部分の中心と円環状部分の中心との間隔に基づいてマーカに異常があるか否かを検出し、異常が認められる二重円パターンを除外してマーカの3次元位置の推定を実行する。したがって、マーカに汚れ等の異常が生じた場合でもマーカの3次元位置の推定精度の低下を抑制できる。
【0014】
推定ステップでは、中心同士の間隔が所定値未満である二重円パターンの存在数をカウントし、存在数が4以上である場合にマーカの3次元位置の推定を実行し、存在数が4未満である場合にマーカの3次元位置の推定を中止してもよい。正常な二重円パターンが4つ以上存在する場合、画像データ上の二重円パターンの中心位置と既知の3次元空間の座標とに基づいてマーカの3次元位置を精度良く推定することが可能となる。また、正常な二重円パターンの存在数が4未満である場合にマーカの3次元位置の推定を中止することで、精度の低い推定結果の出力を防止できる。
【0015】
推定ステップにおいてマーカの3次元位置の推定を中止した場合に、その旨を外部に報知する報知ステップを更に備えていてもよい。この場合、ユーザに向けてマーカの異常を速やかに把握させることができ、マーカの交換等を促すことができる。
【0016】
マーカは、二重円パターンの組とは異なる補助パターンを有し、二重円パターンの組の撮像にあたって、補助パターンの撮像結果に基づいてマーカまでの距離を検出してもよい。この場合、例えば補助パターンの撮像結果を利用してマーカまでの大まかな距離を検出しておくことで、二重円パターンの組の撮像が容易となる。
【0017】
本開示の一側面に係るマーカは、荷役対象物に取り付けられるマーカであって、円状部分と、円状部分と同心に円状部分を囲む円環状部分とを組み合わせてなる二重円パターンを少なくとも4つ含む組を有する。
【0018】
このマーカが正常である場合、二重円パターンを3次元空間で回転させた際に2次元画像上の円状部分の中心と円環状部分の中心とが一致する。一方、このマーカに汚れ等の異常がある場合、二重円パターンを3次元空間で回転させた際に2次元画像上の円状部分の中心と円環状部分の中心との間にずれが生じる。したがって、このマーカを撮像した際の2次元画像上の円状部分の中心と円環状部分の中心との間隔に基づいて、マーカに汚れ等の異常があるか否かを判別することができる。
【0019】
二重円パターンの組において、少なくとも2つの二重円パターンが上下方向に配列されていてもよい。上下方向に配列された二重円パターンを有することで、ピッチ方向を含めたマーカの3次元位置の推定が可能となる。
【0020】
二重円パターンの組において、二重円パターンが上下方向及び左右方向にマトリクス状に配列されていてもよい。この場合、ピッチ方向及びヨー方向を含めたマーカの3次元位置の推定が可能となる。
【0021】
二重円パターンの組は、互いに離間した状態で左右一対に配置されていてもよい。これにより、マーカの3次元位置の推定精度の向上が図られる。
【0022】
左右一対の二重円パターンの組の間に二重円パターンの組とは異なる補助パターンを有していてもよい。この場合、例えば補助パターンの撮像結果を利用してマーカの大まかな位置を検出しておくことで、二重円パターンの組の撮像が容易となる。
【0023】
二重円パターンの組と補助パターンとは、互いに離間していてもよい。この場合、左右一対の二重円パターンの間隔を十分に保つことができ、マーカの3次元位置の推定精度の一層の向上が図られる。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、マーカに汚れ等の異常が生じた場合でもマーカの3次元位置の推定精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本開示の一側面に係る認識装置を適用したフォークリフトを示す側面図である。
図2】フォークリフトで取り扱う荷役対象物としてのパレットの一例を示す正面図である。
図3】パレットに取り付けられるマーカの一例を示す正面図である。
図4】マーカの作用を示す概略図である。
図5】フォークリフトに搭載される認識装置のブロック図である。
図6】撮像装置の配置構成の一例を示す斜視図である。
図7】認識装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図8】マーカの変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係る認識装置、認識方法、及びマーカの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0027】
図1は、本開示の一側面に係る認識装置を適用したフォークリフトを示す側面図である。図1に示すように、フォークリフト1は、4体の車輪2aを有する走行装置2と、走行装置2の前側に配置された荷役装置3と、荷役装置3で取り扱う荷役対象物としてのパレット31に取り付けられたマーカ35(図2及び図3参照)を認識する認識装置4(図5参照)とを備えている。このフォークリフト1は、マーカ35の3次元位置を推定することにより、屋内外の任意の位置に置かれたパレット31の荷取位置まで自動で走行する自動運転フォークリフトとして構成されている。
【0028】
走行装置2は、ヘッドガード11aを含むフレームによって構成された運転室11を有している。運転室11内には、リフトシリンダ12の操作に用いるリフト操作レバー13、ティルトシリンダ14の操作に用いるティルト操作レバー15、フォークリフト1の操舵のためのステアリング16などが配置されている。本実施形態では、4体の車輪2aのうち、前輪が駆動輪、後輪が操舵輪となっている。
【0029】
荷役装置3は、走行装置2の前部に取り付けられたマスト21を有している。マスト21には、リフトブラケット22が昇降可能に支持されている。リフトブラケット22には、後述するパレット31を保持する左右一対のフォーク23,23が取り付けられている。また、リフトブラケット22には、マストよりも前側に配置されたバックレスト24が設けられている。バックレスト24は、フォーク23,23で保持されたパレット31が後方に変位することを防ぐ荷受け枠である。その他、荷役装置3には、フォーク23を昇降させるリフトシリンダ12、マスト21を傾動させるティルトシリンダ14などが配置されている。
【0030】
図2は、フォークリフトで取り扱う荷役対象物としてのパレットの一例を示す正面図である。図2の例では、パレット31は、メッシュパレットであり、メッシュ状(網状)に構成されたパレット本体32と、パレット本体32の下部に取り付けられた4体の脚部33とを有している。パレット31の前面(正面)の下部には、当該パレット31の左右方向に延びる長方形状のプレート34が取り付けられている。このプレート34には、認識装置4での認識対象となる2枚の位置検知用のマーカ35が貼り付けられている。
【0031】
図3は、パレットに取り付けられるマーカの一例を示す正面図である。同図に示すように、マーカ35は、プレート34の形状に合わせた横長の長方形状をなしている。このマーカ35は、左右一対の二重円パターンP1の組K,Kと、補助パターンP2とを有している。二重円パターンP1の組Kは、マーカ35の左右方向の両端部にそれぞれ配置されている。二重円パターンP1の組Kは、少なくとも4つの二重円パターンP1を含んで構成されている。図3の例では、二重円パターンP1の組Kは、4つの二重円パターンP1を有しており、これらの二重円パターンP1は、上下方向及び左右方向に2×2のマトリクス状に配列されている。
【0032】
二重円パターンP1のそれぞれは、円状部分36と、円状部分36と同心に円状部分36を囲む円環状部分37とを組み合わせた形状となっている。円状部分36及び円環状部分37は、いずれもマーカ35の正面視において真円である。円環状部分37は、一定の幅を有しており、円状部分36との間には、円環状部分37の幅と同程度の間隔が設けられている。すなわち、円環状部分37の内径と円状部分36の直径との差は、円環状部分37の外径と内径との差と同程度となっている。
【0033】
図4は、二重円パターンの作用を示す図である。図4(a)に示すように、二重円パターンP1では、円状部分36及び円環状部分37が同心となっている。したがって、マーカ35の正面視において、円状部分36の中心F1と円環状部分37の中心F2とは、互いに一致した状態となっている。円状部分36の中心F1及び円環状部分37の中心F2は、当該円状部分36及び円環状部分37の円近似或いは楕円近似に基づいて定めることができる。
【0034】
二重円パターンP1が正常である場合、すなわち、二重円パターンP1に汚れ・摩耗・破損等が生じておらず、影がかかるなどの影響も受けていない場合、二重円パターンP1が3次元空間で回転した場合でも、図4(b)に示すように、2次元画像上の円状部分36の中心F1と円環状部分37の中心F2とは、一致した状態を維持する。図4(b)の例は、二重円パターンP1を左右方向に45°及び上下方向に45°回転させた場合の2次元画像上の形状を示している。この場合、円状部分36及び円環状部分37の形状は、いずれも真円から楕円に変化するが、これらの中心F1,F2は一致している。
【0035】
一方、二重円パターンP1が異常である場合、すなわち、二重円パターンP1に汚れ・摩耗・破損等が生じ、或いは影がかかるなどの影響を受けている場合、図4(c)に示すように、2次元画像上の円状部分36の中心F1と円環状部分37の中心F2との間にずれが生じる。図4(c)の例では、二重円パターンP1における円状部分36の一部に欠けが生じており、円状部分36の中心(一部が欠けた円状部分36を近似した楕円Cの中心)F1と円環状部分37の中心F2との間に欠けに起因するずれが生じている。二重円パターンP1が異常である場合、円状部分36の中心F1と円環状部分37の中心F2との間のずれは、二重円パターンP1が3次元空間で回転した場合でも維持される。
【0036】
補助パターンP2は、図3に示すように、二重円パターンP1の組Kと同程度の寸法の正方形状をなし、マーカ35の左右方向の中央に配置されている。補助パターンP2は、二重円パターンP1とは異なる白黒柄のパターンを有している。左右の二重円パターンP1の組Kと補助パターンP2との間には、それぞれ無地部分38が設けられている。これにより、二重円パターンP1の組Kと補助パターンP2とは、互いに離間した状態となっている。無地部分38の形状・寸法に特に制限はないが、図3の例では、横長の長方形状となっている。無地部分38の形状は、正方形状などの他の形状であってもよい。
【0037】
図5は、フォークリフトに搭載される認識装置のブロック図である。図5に示すように、認識装置4は、荷役装置3の前方を撮像する撮像装置41と認識装置4等の動作を制御する制御部42とを含んで構成されている。撮像装置41と制御部42とは、相互に情報通信可能に接続されている。
【0038】
撮像装置41は、例えばCCDカメラなどの二次元撮像素子を備えて構成されている。撮像装置41は、カラー画像を取得するものであってもよく、モノクロ画像を取得するものであってもよい。撮像装置41は、図6に示すように、リフトブラケット22に取り付けられた矩形の取付板50を介してフォークリフト1に固定されている。取付板50は、左右のフォーク23,23間に位置し、撮像装置41は、この取付板50を介してリフトブラケット22の車幅方向の中央に配置されている。撮像装置41は、パレット31に貼り付けられているマーカ35を撮像し、マーカ35の画像データを取得する。撮像装置41は、取得した画像データを制御部42に出力する。
【0039】
再び図5を参照し、制御部42は、物理的な構成要素として、CPU、RAM、ROM、及び入出力インターフェース等を備えている。制御部42は、撮像装置41で取得した画像データに基づいてマーカ35の3次元位置を推定し、フォークリフト1がパレット31の荷取位置に到達するように走行モータ43及び操舵モータ44を制御する。荷取位置とは、フォークリフト1の一対のフォーク23,23がパレット31を荷取りすることが可能な位置である。走行モータ43及び操舵モータ44は、いずれも走行装置2を構成するモータである。走行モータ43は、フォークリフト1の前側に配置された車輪2a(駆動輪)を回転させるモータである。操舵モータ44は、フォークリフト1の後側に配置された車輪2a(操舵輪)を転舵させるモータである。
【0040】
制御部42は、機能的な構成要素として、画像処理部45と、推定部46と、経路生成部47と、駆動制御部48とを備えている。画像処理部45は、撮像装置41から受け取ったマーカ35の画像データを処理する部分である。画像処理部45での画像処理としては、例えば二値化や特徴抽出などが挙げられる。画像処理部45は、処理後の画像データを推定部46に出力する。
【0041】
推定部46は、画像処理部45から受け取った画像データに基づいてマーカ35の3次元位置を推定する部分である。推定部46は、画像処理部45から補助パターンP2についての画像データを受け取ると、当該画像データに基づいて、マーカ35までの距離を大まかに検出する。マーカ35までの距離の検出結果を示す情報は、撮像装置41に出力され、撮像の焦点を二重円パターンP1に合わせるために用いられる。
【0042】
推定部46は、画像処理部45から二重円パターンP1の組Kについての画像データを受け取ると、まず、当該画像データから二重円パターンP1における円状部分36の中心F1と円環状部分37の中心F2とをそれぞれ抽出する。次に、推定部46は、二重円パターンP1のそれぞれについて、円状部分36の中心F1と円環状部分37の中心F2との間隔を所定値と比較する。比較に用いる所定値は、例えば画像データの1ピクセルである。推定部46は、中心F1,F2同士の間隔が1ピクセル未満である二重円パターンP1を正常と判定し、中心F1,F2同士の間隔が1ピクセル以上である二重円パターンP1を異常と判定する。
【0043】
二重円パターンP1の正常・異常を判定した後、推定部46は、正常な二重円パターンP1の存在数を判断する。正常な二重円パターンP1の存在数が4以上である場合、推定部46は、異常な二重円パターンP1を除外し、正常な二重円パターンP1のみを用いてマーカ35の3次元位置の推定を実行する。マーカ35の3次元位置の推定では、例えばPNP問題(Perspective-n-Points Problem)の解を得る処理を実行する。この処理では、撮像装置41の内部パラメータ(焦点距離及びレンズ歪み)を用い、画像データ上の二重円パターンP1の中心位置と既知の3次元空間の座標とに基づいて、撮像装置41の外部パラメータ(回転ベクトル及び並進ベクトル)を算出する。推定部46は、算出した撮像装置41の外部パラメータに基づいてマーカ35の3次元位置の推定結果を示す結果情報を生成し、経路生成部47に出力する。
【0044】
一方、正常な二重円パターンP1の存在数が4未満である場合、推定部46は、マーカ35の3次元位置の推定を中止する。この場合、推定部46は、マーカ35の3次元位置の推定を中止する旨の結果情報を生成し、報知部49に出力する。報知部49は、例えばランプやスピーカ、或いはモニタなどによって構成されている。報知部49は、推定部46からマーカ35の3次元位置の推定を中止する旨の結果情報を受け取った場合に作動し、認識装置4がマーカ35の3次元位置の推定を中止した旨を外部に報知する。
【0045】
経路生成部47は、推定部46から受け取った結果情報に基づいて、パレット31の荷取位置までのフォークリフト1の走行経路に関する経路情報を生成し、駆動制御部48に出力する。駆動制御部48は、経路生成部47から受け取った経路情報に基づいて走行装置2を制御する部分である。駆動制御部48は、経路情報に従い、フォークリフト1がパレット31の荷取位置に到達するように走行モータ43及び操舵モータ44を制御する。
【0046】
図7は、認識装置の動作の一例を示すフローチャートである。図7に示すように、認識装置4では、まず、マーカ35における補助パターンP2の撮像が行われる(ステップS01)。次に、補助パターンP2の撮像で得られた画像データに対して二値化等の処理が行われ(ステップS02)、処理後の画像データに基づいて、マーカ35までの大まかな距離の検出がなされる(ステップS03)。
【0047】
続いて、ステップS03で検出されたマーカ35までの距離に基づいて撮像装置の焦点が調整され、マーカ35における二重円パターンP1の組Kの撮像が行われる(ステップS04)。次に、二重円パターンP1の組Kの撮像で得られた画像データに対して二値化等の処理が行われ(ステップS05)、処理後の画像データから二重円パターンP1における円状部分36の中心F1と円環状部分37の中心F2とがそれぞれ抽出される(ステップS06)。
【0048】
中心F1,F2の抽出の後、二重円パターンP1のそれぞれについて、円状部分36の中心F1と円環状部分37の中心F2との間隔と所定値との比較が行われる(ステップS07)。この所定値との比較により、中心F1,F2同士の間隔が所定値未満である二重円パターンP1は正常と判定され、中心F1,F2同士の間隔が所定値以上である二重円パターンP1は異常と判定される。
【0049】
二重円パターンP1の正常・異常の判定がなされた後、正常な二重円パターンP1の存在数の判断がなされる(ステップS08)。ステップS08において、正常な二重円パターンP1の存在数が4以上であると判断された場合、異常な二重円パターンP1が除外され、正常な二重円パターンP1のみを用いてマーカ35の3次元位置の推定が実行される(ステップS09)。そして、マーカ35の3次元位置の推定結果に基づいて、走行装置2の駆動制御が実行される(ステップS10)。一方、ステップS08において、正常な二重円パターンP1の存在数が4未満であると判断された場合、マーカ35の3次元位置の推定が中止される(ステップS11)。この場合、マーカ35の3次元位置の推定を中止した旨が外部に報知され(ステップS12)、走行装置2の駆動制御が実行されずに処理が終了する。
【0050】
以上説明したように、この認識装置4では、円状部分36と、円状部分36と同心に円状部分36を囲む円環状部分37とを組み合わせてなる二重円パターンP1を少なくとも4つ含む組Kを有するマーカ35を撮像する。このマーカ35が正常である場合、二重円パターンP1を3次元空間で回転させた際に画像データ上の円状部分36の中心F1と円環状部分37の中心F2とが一致する。一方、このマーカ35に汚れ等の異常がある場合、二重円パターンP1を3次元空間で回転させた際に画像データ上の円状部分36の中心F1と円環状部分37の中心F2との間にずれが生じる。この認識装置4では、円状部分36の中心F1と円環状部分37の中心F2との間隔に基づいてマーカ35に異常があるか否かを検出し、異常が認められる二重円パターンP1を除外してマーカ35の3次元位置の推定を実行する。したがって、マーカ35に汚れ等の異常が生じた場合でもマーカ35の3次元位置の推定精度の低下を抑制できる。
【0051】
また、認識装置4では、中心F1,F2同士の間隔が所定値未満である二重円パターンP1の存在数をカウントし、存在数が4以上である場合にマーカ35の3次元位置の推定を実行し、存在数が4未満である場合にマーカ35の3次元位置の推定を中止する。正常な二重円パターンP1が4つ以上存在する場合、画像データ上の二重円パターンP1の中心位置と既知の3次元空間の座標とに基づいてマーカ35の3次元位置を精度良く推定することが可能となる。また、正常な二重円パターンP1の存在数が4未満である場合にマーカ35の3次元位置の推定を中止することで、精度の低い推定結果の出力を防止できる。
【0052】
また、認識装置4は、マーカ35の3次元位置の推定を中止した場合に、その旨を外部に報知する報知部49を更に備えている。この報知部49により、ユーザに向けてマーカ35の異常を速やかに把握させることができ、マーカ35の交換等を促すことができる。
【0053】
また、認識装置4は、補助パターンP2の撮像結果に基づいてマーカ35までの距離を検出する。このように、例えば補助パターンP2の撮像結果を利用してマーカ35までの大まかな距離を検出しておくことで、二重円パターンP1の組Kの撮像が容易となる。
【0054】
また、本実施形態で用いられるマーカ35では、二重円パターンP1の組において、二重円パターンP1が上下方向及び左右方向にマトリクス状に配列されている。このように、上下方向に配列された二重円パターンP1を有することで、ピッチ方向及びヨー方向を含めたマーカ35の3次元位置の推定が可能となる。
【0055】
このマーカ35では、二重円パターンP1の組が互いに離間した状態で左右一対に配置されている。これにより、マーカ35の3次元位置の推定精度の向上が図られる。また、マーカ35は、左右一対の二重円パターンP1の組Kの間に二重円パターンP1の組Kとは異なる補助パターンP2を有している。これにより、補助パターンP2の撮像結果を利用してマーカ35の大まかな位置を検出することが可能となり、二重円パターンP1の組Kの撮像が容易となる。
【0056】
また、マーカ35では、二重円パターンP1の組Kと補助パターンP2とは、互いに離間していてもよい。この場合、左右一対の二重円パターンP1の間隔を十分に保つことができ、マーカ35の3次元位置の推定精度の一層の向上が図られる。
【0057】
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、二重円パターンP1の組Kにおいて、上下方向及び左右方向に2×2のマトリクス状に二重円パターンP1が配列されているが、マーカ35の組Kには、少なくとも2つの二重円パターンP1が上下方向に配列されていればよい。例えば図8の例では、マーカ35は、左右一対の二重円パターンP1の組Kを有しており、各組Kにおいて上下方向に2つの二重円パターンP1が配列されていることで、合計で4つの二重円パターンP1が配置されている。このようなマーカ35においても上記実施形態と同様の効果を奏する。また、二重円パターンP1の組Kにおいて、5つ以上の二重円パターンP1が含まれていてもよい。
【0058】
また、マーカ35において、左右の二重円パターンP1の組Kと補助パターンP2との間の無地部分38は、必ずしも設けられていなくてもよく、左右の二重円パターンP1の組Kと補助パターンP2とが隙間無く隣接していてもよい。また、マーカ35において、補助パターンP2は、必ずしも設けられていなくてもよく、二重円パターンP1の組Kのみでマーカ35が構成されていてもよい。この場合、認識装置4において、補助パターンP2の撮像からマーカ35の距離の検出までの処理(図7におけるステップS01~ステップS03)は、省略される。
【0059】
また、上記実施形態では、パレット31にマーカ35が取り付けられる例を示したが、マーカ35が取り付けられる荷役対象物は、パレット31に限られるものではない。例えばマーカ35は、荷物自体に取り付けられていてもよい。
【符号の説明】
【0060】
4…認識装置、31…パレット(荷役対象物)、35…マーカ、36…円状部分、37…円環状部分、41…撮像装置、46…推定部、F1…円状部分の中心、F2…円環状部分の中心、P1…二重円パターン、P2…補助パターン、K…二重円パターンの組。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8