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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20230920BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20230920BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230920BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/08
C08L101/00
H05K1/03 610L
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020155438
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049304
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2023-05-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大浦 一郎
(72)【発明者】
【氏名】大山 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】本間 達也
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-67960(JP,A)
【文献】特開2019-106431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L63/
H01F41/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)FeNi合金粉と、(B)分子骨格中に一つ以上の窒素原子を含むエポキシ樹脂と、を含む樹脂組成物であって
(A)成分が、B、P及びSiからなる群より選ばれる一以上の元素を含
(A)成分の量が、樹脂組成物に含まれる不揮発成分100体積%に対して、60体積%以上85体積%以下であり、
(B)成分の量が、樹脂組成物に含まれる不揮発成分100質量%に対して、0.1質量%以上5.0質量%以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
(A)FeNi合金粉と、(B)分子骨格中に一つ以上の窒素原子を含むエポキシ樹脂と、を含む樹脂組成物であって、
(A)成分が、B、P及びSiからなる群より選ばれる一以上の元素を含み、
(A)成分の量が、樹脂組成物に含まれる不揮発成分100体積%に対して、60体積%以上85体積%以下であり、
(B)成分の量が、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量%に対して、1.0質量%以上80質量%以下である、樹脂組成物。
【請求項3】
(A)FeNi合金粉と、(B)分子骨格中に一つ以上の窒素原子を含むエポキシ樹脂と、を含む樹脂組成物であって、
(A)成分が、B、P及びSiからなる群より選ばれる一以上の元素を含み、
(A)成分の量が、樹脂組成物に含まれる不揮発成分100体積%に対して、60体積%以上85体積%以下であり、
樹脂組成物に含まれる不揮発成分100質量%に対する(A)成分及び(B)成分の量をそれぞれM(a)及びM(b)とした場合、比M(b)/M(a)が、0.001以上0.100以下である、樹脂組成物。
【請求項4】
(A)成分の体積平均粒径が、6.0μm未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
(C)23℃における粘度が5mPa・s以上5000mPa・s以下の熱硬化性樹脂を更に含む、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
樹脂組成物に含まれる不揮発成分100質量%に対する(B)成分及び(C)成分の量をそれぞれM(b)及びM(c)とした場合、比M(b)/M(c)が0.05以上2.50以下である、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
(D)硬化剤を更に含む、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
(A)成分が、B、P及びSiからなる群より選ばれる一以上の元素を、0.01質量%以上15.00質量%以下含む、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
(A)成分が、B、P及びSiからなる群より選ばれる一以上の元素を、0.01質量%以上0.90質量%以下含む、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
23℃においてペースト状である、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
ホール充填用である、請求項1~10のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物を含む回路基板。
【請求項14】
請求項13に記載の回路基板を含むインダクタ基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、並びに、当該樹脂組成物を用いた硬化物、回路基板及びインダクタ基板に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ部品のコア材料として、磁性粉体を含む樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物を用いることがある。磁性粉体としては、FeNi合金粉を用いることがあった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-178254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の電子機器の小型化、薄型化の要求に伴い、電子機器に使用される回路基板にも小型化、配線の高密度化が求められている。このような回路基板には、スルーホールが設けられことがある。また、このスルーホール中に、磁性粉体を含む樹脂組成物を充填し、硬化させて、磁性層を含むインダクタ基板を作製することがある。一般に、FeNi合金粉は、結晶構造を有するので、高い比透磁率を有する。そこで、本発明者は、FeNi合金粉が有する高い比透磁率を活用するべく、スルーホールに充填するための樹脂組成物の磁性粉体としてFeNi合金粉を採用することを試みた。
【0005】
スルーホールに樹脂組成物を充填して硬化させた場合、樹脂組成物の硬化物の表面を平滑にするため、一般に、硬化物の研磨が行われる。ところが、FeNi合金粉は結晶構造を有するので硬度が高く、よってそのFeNi合金粉を含む樹脂組成物の硬化物の硬度も高い。したがって、FeNi合金粉を含む樹脂組成物の硬化物は、研磨加工性に劣り、インダクタ基板の製造の困難性が高かった。
【0006】
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、高い比透磁率を有することができ、且つ、研磨加工性に優れる硬化物を得ることができる樹脂組成物;前記の樹脂組成物の硬化物;前記の樹脂組成物の硬化物を含む回路基板及びインダクタ基板;を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、本発明者は、(A)B、P及びSiからなる群より選ばれる一以上の元素とを含むFeNi合金粉と、(B)分子骨格中に一つ以上の窒素原子を含むエポキシ樹脂と、を組み合わせて含む樹脂組成物が、前記の課題を解決できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0008】
〔1〕 (A)FeNi合金粉と、(B)分子骨格中に一つ以上の窒素原子を含むエポキシ樹脂と、を含み、
(A)成分が、B、P及びSiからなる群より選ばれる一以上の元素を含む、樹脂組成物。
〔2〕 (A)成分の体積平均粒径が、6.0μm未満である、〔1〕に記載の樹脂組成物。
〔3〕 (A)成分の量が、樹脂組成物に含まれる不揮発成分100体積%に対して、60体積%以上85体積%以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の樹脂組成物。
〔4〕 (C)23℃における粘度が5mPa・s以上5000mPa・s以下の熱硬化性樹脂を更に含む、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〔5〕 樹脂組成物に含まれる不揮発成分100質量%に対する(B)成分及び(C)成分の量をそれぞれM(b)及びM(c)とした場合、比M(b)/M(c)が0.05以上2.50以下である、〔4〕に記載の樹脂組成物。
〔6〕 (D)硬化剤を更に含む、〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〔7〕 (A)成分が、B、P及びSiからなる群より選ばれる一以上の元素を、0.01質量%以上15.00質量%以下含む、〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〔8〕 (A)成分が、B、P及びSiからなる群より選ばれる一以上の元素を、0.01質量%以上0.90質量%以下含む、〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〔9〕 23℃においてペースト状である、〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〔10〕 ホール充填用である、〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〔11〕 〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物。
〔12〕 〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物を含む回路基板。
〔13〕 〔12〕に記載の回路基板を含むインダクタ基板。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い比透磁率を有することができ、且つ、研磨加工性に優れる硬化物を得ることができる樹脂組成物;前記の樹脂組成物の硬化物;前記の樹脂組成物の硬化物を含む回路基板及びインダクタ基板;を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態の第一の例に係る回路基板の製造方法において用意されるコア基板を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態の第一の例に係る回路基板の製造方法において、スルーホールを形成されたコア基板を模式的に示す断面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態の第一の例に係る回路基板の製造方法において、スルーホール内にめっき層を形成されたコア基板を模式的に示す断面図である。
図4図4は、本発明の一実施形態の第一の例に係る回路基板の製造方法において、コア基板のスルーホール内に樹脂組成物を充填した様子を模式的に示す断面図である。
図5図5は、本発明の一実施形態の第一の例に係る回路基板の製造方法の工程(2)を説明するための模式的な断面図である。
図6図6は、本発明の一実施形態の第一の例に係る回路基板の製造方法の工程(3)を説明するための模式的な断面図である。
図7図7は、本発明の一実施形態の第一の例に係る回路基板の製造方法の工程(5)を説明するための模式的な断面図である。
図8図8は、本発明の一実施形態の第一の例に係る回路基板の製造方法の工程(5)を説明するための模式的な断面図である。
図9図9は、本発明の一実施形態の第二の例に係る回路基板の製造方法において、工程(i)を説明するための模式的な断面図である。
図10図10は、本発明の一実施形態の第二の例に係る回路基板の製造方法において、工程(i)を説明するための模式的な断面図である。
図11図11は、本発明の一実施形態の第二の例に係る回路基板の製造方法において、工程(ii)を説明するための模式的な断面図である。
図12図12は、本発明の一実施形態の第二の例に係る回路基板の製造方法において、工程(iv)を説明するための模式的な断面図である。
図13図13は、インダクタ基板が有する回路基板をその厚さ方向の一方からみた模式的な平面図である。
図14図14は、図13に示すII-II一点鎖線で示した位置で切断した回路基板の切断端面を示す模式的な図である。
図15図15は、インダクタ基板が含む回路基板の第1導体層の構成を説明するための模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。ただし、本発明は、下記実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施されうる。
【0012】
以下の説明において「透磁率」は、別に断らない限り「比透磁率」を表す。
【0013】
[1.樹脂組成物の概要]
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、(A)FeNi合金粉と、(B)分子骨格中に一つ以上の窒素原子を含むエポキシ樹脂と、を含む。(A)FeNi合金粉は、B、P及びSiからなる群より選ばれる一以上の元素を含むFeNi合金で形成されている。以下の説明では、分子骨格中に一つ以上の窒素原子を含むエポキシ樹脂を、適宜「窒素含有エポキシ樹脂」ということがある。また、B、P及びSiからなる群より選ばれる一以上の元素を、適宜「添加元素」ということがある。
【0014】
前記の樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物は、高い比透磁率を有することができ、且つ、研磨加工性に優れる。さらに、前記の硬化物は、通常、低い磁性損失を有する。本実施形態に係る樹脂組成物によってこのように優れた効果が得られる仕組みを、本発明者は、下記のように推察する。
【0015】
(A)FeNi合金粉は、通常、Fe及びNiで形成された結晶構造を有するので、高い結晶性を有する。(A)FeNi合金粉が高い結晶性を有するので、(A)FeNi合金粉を含む樹脂組成物の硬化物は、高い比透磁率を有することができる。また、(A)FeNi合金粉は、Fe及びNiに組み合わせて添加元素を含むので、Fe及びNiの結晶構造は歪められている。よって、添加元素によって結晶構造が歪められた分だけ(A)FeNi合金粉の結晶性が低下しているので、(A)FeNi合金粉の硬度は低くなる。したがって、その(A)FeNi合金粉を含む硬化物の硬度が低くなるから、研磨加工性の改善がなされうる。また、前記のように(A)FeNi合金粉の結晶性が低下したことにより、(A)FeNi合金粉中の磁壁に起因した渦電流損失が軽減し、その結果、高い比透磁率を維持しながら磁性損失の抑制がなされうる。
【0016】
さらに、(B)窒素含有エポキシ樹脂を含む樹脂組成物の硬化物は、通常、研磨に適した硬度を有することができる。また、分子骨格中に窒素原子を含む(B)窒素含有エポキシ樹脂は、上述した組成を有する(A)FeNi合金粉との親和性に優れる。よって、(B)窒素含有エポキシ樹脂を含む樹脂成分は、(A)FeNi合金粉と高い均一性で混合できる。したがって、(A)FeNi合金粉の凝集による偏在化を抑制できるので、上述した(A)FeNi合金粉の優れた利点を活用できる。したがって、上述した(A)FeNi合金粉に組み合わせて(B)窒素含有エポキシ樹脂を含む樹脂組成物によれば、その硬化物の比透磁率及び研磨加工性を向上させることができ、更に通常は磁性損失を抑制できる。
ただし、本発明の技術的範囲は、ここで説明した本発明の効果が得られる仕組みによっては制限されない。
【0017】
前記の樹脂組成物は、(C)23℃において低い特定の範囲の粘度を有する熱硬化性樹脂、及び、(D)硬化剤等の、任意の成分を含んでいてもよい。以下の説明では、23℃において低い特定の粘度を有する熱硬化性樹脂を、適宜「低粘度熱硬化性樹脂」ということがある。また、以下の説明において、樹脂組成物の「樹脂成分」とは、樹脂組成物に含まれる不揮発成分のうち、(A)FeNi合金粉等の無機粒子を除いた成分を表す。
【0018】
[2.(A)FeNi合金粉]
本実施形態に係る樹脂組成物は、(A)成分としての(A)FeNi合金粉を含む。(A)FeNi合金粉は、B、P及びSiからなる群より選ばれる一以上の添加元素を含むFeNi合金の粉末である。よって、(A)FeNi合金粉は、Feと、Niと、1又は2以上の添加元素と、を組み合わせて含む。
【0019】
(A)FeNi合金粉に含まれるFeの量は、(A)FeNi合金粉100質量%に対して、好ましくは33.00質量%以上、より好ましくは38.00質量%以上、更に好ましくは43.00質量%以上、特に好ましくは48.00質量%以上であり、好ましくは65.00質量%以下、より好ましくは60.00質量%以下、更に好ましくは55.00質量%以下、特に好ましくは50.00質量%以下である。Feの量が前記の範囲にある場合に、硬化物の比透磁率及び研磨加工性を効果的に向上させることができ、更に通常は磁性損失を効果的に抑制できる。
【0020】
(A)FeNi合金粉に含まれるNiの量は、(A)FeNi合金粉100質量%に対して、好ましくは33.00質量%以上、より好ましくは38.00質量%以上、更に好ましくは43.00質量%以上、特に好ましくは48.00質量%以上であり、好ましくは65.00質量%以下、より好ましくは60.00質量%以下、更に好ましくは55.00質量%以下、特に好ましくは50.00質量%以下である。Niの量が前記の範囲にある場合に、硬化物の比透磁率及び研磨加工性を効果的に向上させることができ、更に通常は磁性損失を効果的に抑制できる。
【0021】
(A)FeNi合金粉に含まれるFeの量とNiの量との比(Fe/Ni)は、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.7以上、特に好ましくは0.9以上であり、好ましくは1.6以下、より好ましくは1.4以下、特に好ましくは1.2以下である。Feの量とNiの量との比(Fe/Ni)が前記の範囲にある場合に、硬化物の比透磁率及び研磨加工性を効果的に向上させることができ、更に通常は磁性損失を効果的に抑制できる。
【0022】
(A)FeNi合金粉に含まれるFe及びNiの合計量は、(A)FeNi合金粉100質量%に対して、好ましくは85.00質量%以上、より好ましくは94.00質量%以上、更に好ましくは98.00質量%以上、更に好ましくは99.10質量%以上、特に好ましくは99.40質量%以上であり、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.95質量%以下、更に好ましくは99.90質量%以下、更に好ましくは99.80質量%以下、特に好ましくは99.60質量%以下である。Fe及びNiの合計量が前記の範囲にある場合に、硬化物の比透磁率及び研磨加工性を効果的に向上させることができ、更に通常は磁性損失を効果的に抑制できる。
【0023】
(A)FeNi合金粉は、B、P及びSiからなる群より選ばれる一以上の添加元素を含む。(A)FeNi合金粉は、1種類の添加元素を単独で含んでいてもよく、2種類以上の添加元素を組み合わせて含んでいてもよい。添加元素の中でも、磁性損失を効果的に抑制する観点では、B及びSiが好ましく、Bが特に好ましい。
【0024】
(A)FeNi合金粉に含まれる添加元素の量は、(A)FeNi合金粉100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.10質量%以上、更に好ましくは0.20質量%以上、特に好ましくは0.40質量%以上であり、好ましくは15.00質量%以下、より好ましくは6.00質量%以下、更に好ましくは2.00質量%以下、更に好ましくは0.90質量%以下、特に好ましくは0.60質量%以下である。添加元素の量が前記の範囲にある場合に、硬化物の比透磁率及び研磨加工性を効果的に向上させることができ、更に通常は磁性損失を効果的に抑制できる。
【0025】
(A)FeNi合金粉は、Fe、Ni及び添加元素以外の任意の元素を含んでいてもよい。任意の元素としては、例えば、(A)FeNi合金粉の製造方法に応じて不可避的に混入しうる不純物に由来する元素が挙げられる。ただし、本発明の効果を顕著に発揮する観点では、(A)FeNi合金粉は、Fe、Ni及び添加元素以外の任意の元素を含まないことが好ましい。
【0026】
(A)FeNi合金粉に含まれるFe、Ni及び添加元素の量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(例えば、アジレント・テクノロジー社製「ICP-OES 720ES」)により測定できる。
【0027】
(A)FeNi合金粉は、通常、Fe及びNiで形成された結晶構造を有するので、高い結晶性を有する。しかし、(A)FeNi合金粉は、Fe及びNiに組み合わせて添加元素を含むので、Fe及びNiの結晶構造は歪められている。このように、添加元素を含まないFeNi合金粉に比べ、添加元素を含む(A)FeNi合金粉の結晶性が低下していることが、上述したように、本発明の効果が得られる一因であるものと本発明者は推察する。
【0028】
添加元素を含まないFeNi合金粉に比べ、添加元素を含む(A)FeNi合金粉の結晶性が低下していることは、X線回折スペクトルによって確認できる。添加元素を含まないFeNi合金粉のX線回折スペクトルを測定した場合、一般に、面指数(0,0,2)に対応する強いピークが観察されうる。このピークは、通常、2θ=50.5~52.0°の範囲で観察される。また、Fe及びNiの結晶構造に歪みが生じた場合、当該ピークの幅(積分幅)は広くなりうる。よって、添加元素を含まないFeNi合金粉に比べ、添加元素を含む(A)FeNi合金粉の前記ピークの積分幅が広い場合、結晶構造に歪みがあることを確認できる。
【0029】
(A)FeNi合金粉の体積平均粒径D50は、好ましくは6.0μm未満、より好ましくは5.5μm以下、更に好ましくは5.0μm以下、更に好ましくは4.5μm以下、特に好ましくは4.0μm以下である。(A)FeNi合金粉の体積平均粒径D50が前記の上限値以下である場合に、硬化物の比透磁率及び研磨加工性を効果的に向上させることができる。また、この場合、通常は、磁性損失を効果的に抑制できる。前記の範囲の体積平均粒径D50を有する(A)FeNi合金粉は、当該(A)FeNi合金粉の粒子自体が小さいものであることができる。したがって、特定の体積平均粒径D50が有する(A)FeNi合金粉を含む硬化物では、(A)FeNi合金粉の巨大粒子を含まないことができるので、(A)FeNi合金粉の低い硬度を有効に活用して優れた研磨加工性を得ることができる。さらに、前記のように(A)FeNi合金粉の巨大粒子を硬化物が含まないことができるので、当該巨大粒子による大きな過電流損失の発生を抑制できるから、通常は、磁性損失を抑制することができる。これらの作用は、特に(A)FeNi合金粉の量が大きい場合に有効である。(A)FeNi合金粉の体積平均粒径D50の下限は、好ましくは1.5μm以上、好ましくは2.0μm以上、より好ましくは2.5μm以上である。(A)FeNi合金粉の体積平均粒径D50が前記下限値以上であることは、(A)FeNi合金粉を取り扱う上での安全性の点で、好ましい。さらに、(A)FeNi合金粉の体積平均粒径D50が前記下限値以上である場合、(A)FeNi合金粉と(B)窒素含有エポキシ樹脂を含む樹脂成分とを高い均一性で混合できるので、凝集による(A)FeNi合金粉の偏在化を効果的に抑制できる。よって、硬化物の比透磁率及び研磨加工性を効果的に向上させることができ、更に通常は磁性損失を効果的に抑制できる。
【0030】
(A)FeNi合金粉の体積平均粒径D50は、ミー(Mie)散乱理論に基づくレーザー回折・散乱法により測定することができる。具体的には、レーザー回折散乱式粒径分布測定装置により、粒径分布を体積基準で作成し、そのメディアン径を体積平均粒径D50とすることで測定することができる。測定サンプルは、合金粉を超音波により水に分散させたものを好ましく使用することができる。レーザー回折散乱式粒径分布測定装置としては、堀場製作所社製「LA-960」、島津製作所社製「SALD-2200」等を使用することができる。
【0031】
(A)FeNi合金粉の比表面積は、好ましくは3.5m/g以上、より好ましくは4.0m/g以上、さらに好ましくは4.5m/g以上であり、好ましくは15m/g以下、より好ましくは13m/g以下、さらに好ましくは11m/g以下である。(A)FeNi合金粉の比表面積が前記の範囲にある場合、硬化物の比透磁率及び研磨加工性を効果的に向上させることができ、更に通常は磁性損失を効果的に抑制できる。比表面積は、BET法によって測定できる。
【0032】
(A)FeNi合金粉の粒子は、球状であることが好ましい。本発明者の検討によれば、添加元素を含む(A)FeNi合金粉の粒子は、通常、添加元素を含まないFeNi合金粉の粒子に比べて、表面に凹凸の少ない形状を有することができ、よって球に近い形状を有することができる。このように添加元素を含まないFeNi合金粉とは異なる粒子形状を有しうるので、(A)FeNi合金粉の樹脂に対する相性は、添加元素を含まないFeNi合金粉とは異なりうる。本実施形態では、このように添加元素を含まない従来のFeNi合金粉とは異なる相性を有する(A)FeNi合金粉に(B)窒素含有エポキシ樹脂等の樹脂成分を組み合わせることで、上述した優れた効果を得ている。
【0033】
(A)FeNi合金粉の粒子の長軸の長さを短軸の長さで除した値(アスペクト比)としては、好ましくは2以下、より好ましくは1.6以下、さらに好ましくは1.4以下である。(A)FeNi合金粉のアスペクト比が前記の範囲にある場合、磁気損失を抑制したり、樹脂組成物の粘度を低くしたりできる。
【0034】
(A)FeNi合金粉の製造方法に制限はない。(A)FeNi合金粉は、例えば、アトマイズ法を用いて製造できる。このアトマイズ法では、通常、溶解した鉄、ニッケル及び添加元素を含む浴湯を落下させながら、高圧の水又はガスを吹き付けて急冷凝固させることを含む方法により、(A)FeNi合金粉を得る。前記のアトマイズ法の中でも、落下する浴湯に水を吹き付ける水アトマイズ法が好ましい。このようなアトマイズ法としては、例えば、特開2018-178254号公報に記載の方法を採用しうる。
【0035】
樹脂組成物に含まれる(A)FeNi合金粉の量は、樹脂組成物に含まれる不揮発成分100体積%に対して、好ましくは60体積%以上、より好ましくは63体積%以上、特に好ましくは65体積%以上であり、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下、特に好ましくは75体積%以下である。(A)FeNi合金粉の量が前記の範囲にある場合、硬化物の比透磁率及び研磨加工性を効果的に向上させることができ、更に通常は磁性損失を効果的に抑制できる。特に、(A)FeNi合金粉の量が前記範囲の下限値以上である場合に、硬化物の比透磁率を効果的に高めることができる。また、(A)FeNi合金粉の量が前記範囲の上限値以下である場合に、硬化物の磁性損失を効果的に抑制でき、更に通常は、樹脂組成物の粘度を効果的に低くして容易にペースト状にできる。
【0036】
樹脂組成物に含まれる(A)FeNi合金粉の量は、樹脂組成物に含まれる不揮発成分100質量%に対して、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは92質量%以上であり、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下、特に好ましくは97質量%以下である。(A)FeNi合金粉の量が前記の範囲にある場合、硬化物の比透磁率及び研磨加工性を効果的に向上させることができ、更に通常は磁性損失を効果的に抑制できる。特に、(A)FeNi合金粉の量が前記範囲の下限値以上である場合に、硬化物の比透磁率を効果的に高めることができる。また、(A)FeNi合金粉の量が前記範囲の上限値以下である場合に、硬化物の磁性損失を効果的に抑制でき、更に通常は、樹脂組成物の粘度を効果的に低くして容易にペースト状にできる。
【0037】
[3.(B)窒素含有エポキシ樹脂]
本実施形態に係る樹脂組成物は、(B)成分としての(B)窒素含有エポキシ樹脂を含む。(B)窒素含有エポキシ樹脂は、前記のように、その分子骨格中に一つ以上の窒素原子を含むエポキシ樹脂である。また、「エポキシ樹脂」とは、別に断らない限り、エポキシ基を有する樹脂を表す。この(B)窒素含有エポキシ樹脂を(A)FeNi合金粉と組み合わせて含む樹脂組成物は、硬化物の比透磁率及び研磨加工性を向上させることができ、また、通常は磁性損失を抑制できる。
【0038】
(B)窒素含有エポキシ樹脂が分子骨格中に含む窒素原子の数は、1でもよく、2以上でもよい。よって、(B)窒素含有エポキシ樹脂は、分子骨格中に1又は2以上の窒素原子とエポキシ基とを含む化合物でありうる。このような(B)窒素含有エポキシ樹脂としては、例えば、分子骨格中に1又は2以上のアミノ基を含むアミン型エポキシ樹脂が挙げられる。前記のアミノ基は、1級、2級、3級のいずれでもよい。
【0039】
(B)窒素含有エポキシ樹脂の一部又は全部は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有することが好ましい。(B)窒素含有エポキシ樹脂の不揮発成分100質量%に対して、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する(B)窒素含有エポキシ樹脂の割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。
【0040】
(B)窒素含有エポキシ樹脂は、分子内に1個以上の芳香環を有することが好ましい。芳香環には、別に断らない限り、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族炭素環、及び、ピリジン環、ピロール環、フラン環、チオフェン環などの芳香族複素環を包含する。分子内に2個以上の芳香環を有する場合、芳香環同士は、直接結合されていてもよく、酸素原子、アルキレン基、それらの組み合わせ等の連結基を介して結合されていてもよい。アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、1,1-ジメチルエチレン基等が挙げられ、これらの結合位置は特に限定されない。
【0041】
(B)窒素含有エポキシ樹脂は、温度23℃で固体状のエポキシ樹脂(以下「固体状エポキシ樹脂」ということがある。)であってもよく、温度23℃で液状のエポキシ樹脂(以下「液状エポキシ樹脂」ということがある。)であってもよい。また、(B)窒素含有エポキシ樹脂として、固体状エポキシ樹脂と液状エポキシ樹脂とを組み合わせて用いていてもよい。中でも、ペースト状の樹脂組成物を得る観点では、23℃で液状の(B)窒素含有エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0042】
(B)窒素含有エポキシ樹脂としては、本発明の所望の効果を顕著に得る観点から、グリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましい。グリシジルアミン型エポキシ樹脂は、グリシジルアミノ基及び/又はジグリシジルアミノ基を少なくとも1個含むエポキシ樹脂を表す。通常、グリシジルアミノ基は1個のエポキシ基を有し、ジグリシジルアミノ基は2個のエポキシ基を有する。グリシジルアミン型エポキシ樹脂は、グリシジルアミノ基を含んでいてもよく、ジグリシジルアミノ基を含んでいてもよく、グリシジルアミノ基及びジグリシジルアミノ基を組み合わせて含んでいてもよい。
【0043】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する、2官能以上のグリシジルアミン型エポキシ樹脂であることが好ましい。さらに、グリシジルアミン型エポキシ樹脂は、1分子中に2個又は3個のエポキシ基を有する、2官能又は3官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂であることがより好ましい。ここで、エポキシ基は、グリシジルアミノ基及びジグリシジルアミノ基が有するものに限られず、グリシジルオキシ基が有する以外のものであってもよい。
【0044】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂は、芳香環を含むことが好ましい。このとき、グリシジルアミン型エポキシ樹脂のグリシジルアミノ基及びジグリシジルアミノ基は、芳香環に直接結合していることが好ましい。また、この芳香環には、グリシジルアミノ基及びジグリシジルアミノ基に加えて、更に置換基が結合していてもよい。ここで、置換基としては、例えば、1価のエポキシ含有基、1価の炭化水素基等が挙げられる。1価のエポキシ含有基としては、グリシジルオキシ基等が挙げられる。1価の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アリール基等が挙げられる。アルキル基の炭素原子数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~5である。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基等が挙げられる。また、アリール基の炭素原子数は、好ましくは6~14であり、より好ましくは6~10である。アリール基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、ビフェニリル基、2-アンスリル基等が挙げられる。
【0045】
好ましいグリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、下記式(B-1)で表されるものが挙げられる。
【0046】
【化1】
【0047】
式(B-1)において、nは、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。nは、好ましくは0~3、より好ましくは0~2、更に好ましくは0又は1、特に好ましくは1である。
【0048】
式(B-1)において、mは、1~3の整数を表す。mは、1又は2が好ましく、1がさらに好ましい。
【0049】
式(B-1)において、R11は、それぞれ独立に、1価のエポキシ含有基又は1価の炭化水素基を表す。1価のエポキシ含有基としては、例えば、グリシジルオキシ基等が挙げられる。1価の炭化水素基としては、例えば、アルキル基及びアリール基が挙げられる。アルキル基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。アルキル基の炭素原子数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~5である。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基等が挙げられる。また、アリール基の炭素原子数は、好ましくは6~14であり、より好ましくは6~10である。アリール基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、ビフェニリル基、2-アンスリル基等が挙げられる。
【0050】
11がグリシジルオキシ基である場合、そのR11は、窒素原子とベンゼン環との結合部位を基準としてパラ位に結合していることが好ましい。R11がアルキル基である場合、そのR11は、窒素原子とベンゼン環との結合部位を基準として、オルト位に結合していることが好ましい。
【0051】
式(B-1)において、R12は、水素原子、又は1~3価の炭化水素基を表す。1価の炭化水素基としては、R11の説明で例示したのと同じ例が挙げられる。2価の炭化水素基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基が挙げられる。アルキレン基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。アルキレン基の炭素原子数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~5である。アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、1,1-ジメチルエチレン基等が挙げられる。アリーレン基の炭素原子数は、好ましくは6~14、より好ましくは6~10である。アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基が挙げられる。
【0052】
式(B-1)においてmが1である場合、R12としては、アルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。式(B-1)においてmが2である場合、R12としては、アルキレン基が好ましく、メチレン基がより好ましい。
【0053】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂の具体例としては、三菱ケミカル社製の「630」(下記式(B-2))、「630LSD」、「604」;ADEKA社製の「EP-3980S」(下記式(B-3))、「EP3950S」、「EP3950L」;住友化学社製の「ELM-100」(下記式(B-4))、「ELM-100H」、「ELM-434」(下記式(B-5))、「ELM-434L」;などが挙げられる。
【0054】
【化2】
【0055】
(B)窒素含有エポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
(B)窒素含有エポキシ樹脂のエポキシ当量は、好ましくは50g/eq.~5000g/eq.、より好ましくは60g/eq.~3000g/eq.、さらに好ましくは80g/eq.~2000g/eq.、特に好ましくは110g/eq.~1000g/eq.である。(B)窒素含有エポキシ樹脂のエポキシ当量が前記の範囲にある場合、樹脂組成物の硬化物の架橋密度が十分となり、研磨加工性に優れる硬化物を得ることができる。エポキシ当量は、エポキシ基1当量あたりの樹脂の質量を表す。このエポキシ当量は、JIS K7236に従って測定することができる。
【0057】
(B)窒素含有エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは100~5000であり、より好ましくは250~3000であり、さらに好ましくは400~1500である。樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、ポリスチレン換算の値として測定できる。
【0058】
樹脂組成物に含まれる(B)窒素含有エポキシ樹脂の量は、樹脂組成物に含まれる不揮発成分100質量%に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.4質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以下、特に好ましくは1.0質量%以下である。(B)窒素含有エポキシ樹脂の量が前記の範囲にある場合、硬化物の比透磁率及び研磨加工性を効果的に向上させることができ、更に通常は磁性損失を効果的に抑制できる。
【0059】
樹脂組成物に含まれる(B)窒素含有エポキシ樹脂の量は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量%に対して、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上、さらに好ましくは6.0質量%以上、特に好ましくは10質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。(B)窒素含有エポキシ樹脂の量が前記の範囲にある場合、硬化物の比透磁率及び研磨加工性を効果的に向上させることができ、更に通常は磁性損失を効果的に抑制できる。
【0060】
樹脂組成物に含まれる不揮発成分100質量%に対する(A)FeNi合金粉及び(B)窒素含有エポキシ樹脂の量をそれぞれM(a)及びM(b)とした場合、比M(b)/M(a)は、特定の範囲にあることが好ましい。具体的には、比M(b)/M(a)の範囲は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.002以上、更に好ましくは0.003以上、特に好ましくは0.005以上であり、好ましくは0.100以下、より好ましくは0.050以下、更に好ましくは0.030以下、特に好ましくは0.010以下である。比M(b)/M(a)が前記の範囲にある場合、硬化物の比透磁率及び研磨加工性を効果的に向上させることができ、更に通常は磁性損失を効果的に抑制できる。
【0061】
[4.(C)低粘度熱硬化性樹脂]
本実施形態に係る樹脂組成物は、(C)成分としての(C)低粘度熱硬化性樹脂を更に含むことが好ましい。(C)低粘度熱硬化性樹脂は、23℃において低い特定の範囲の粘度を有する熱硬化性樹脂である。ただし、(C)低粘度熱硬化性樹脂には、前記の(B)窒素含有エポキシ樹脂は含めない。この(C)低粘度熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物は、樹脂組成物の使用環境において低い粘度を有することができる。よって、(C)低粘度熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物は、基板のホールへの充填性に優れる磁性ペーストでありうる。
【0062】
(C)低粘度熱硬化性樹脂の23℃における粘度は、通常5mPa・s以上、好ましくは7mPa・s以上、特に好ましくは10mPa・s以上であり、通常5000mPa・s以下、好ましくは4500mPa・s以下、特に好ましくは4000mPa・s以下である。(C)低粘度熱硬化性樹脂が前記範囲の粘度を有する場合、樹脂組成物の粘度を効果的に低くして容易にペースト状にできる。
【0063】
樹脂の粘度は、試料温度を23℃に保ち、E型粘度計(東機産業社製「RE-80U」、3°×R9.7ロータ)を用いて、測定サンプル量0.22ml、回転数5rpmの測定条件にて測定できる。
【0064】
(C)低粘度熱硬化性樹脂は、通常、熱によって反応可能な反応性基を有する。そして、この反応性基が反応できるので、(C)低粘度熱硬化性樹脂は熱硬化性を有しうる。(C)低粘度熱硬化性樹脂が有する反応性基は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。また、(C)低粘度熱硬化性樹脂が1分子中に有する反応性基の数は、1個でもよく、2個以上でもよい。反応性基としては、例えば、エポキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基、オキセタン基等が挙げられる。中でも、反応性基としては、樹脂組成物の粘度を効果的に低下させる観点から、エポキシ基が好ましい。
【0065】
(C)低粘度熱硬化性樹脂がエポキシ基を有する場合、当該(C)低粘度熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂に分類されうる。このとき、(C)低粘度熱硬化性樹脂は、グリシロール型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エステル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、及びブタジエン構造を有するエポキシ樹脂からなる群より選ばれるものが好ましく、グリシロール型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、及びビスフェノールF型エポキシ樹脂からなる群より選ばれるものが更に好ましい。
【0066】
(C)低粘度熱硬化性樹脂の反応性基当量は、特に制限は無い。(C)低粘度熱硬化性樹脂の反応性基当量とは、反応性基当量1当量あたりの(C)低粘度熱硬化性樹脂の質量を表す。例えば、(C)低粘度熱硬化性樹脂がエポキシ基を有する場合、反応性基当量はエポキシ当量を表す。(C)低粘度熱硬化性樹脂の反応性基当量は、研磨加工性に優れる硬化物を得る観点では、(B)窒素含有エポキシ樹脂のエポキシ当量の範囲と同じ範囲にあることが好ましい。
【0067】
(C)低粘度熱硬化性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に制限は無い。(C)低粘度熱硬化性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、(B)窒素含有エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)の範囲と同じ範囲にあってもよい。
【0068】
(C)低粘度熱硬化性樹脂としては、市販品を用いることができる。(C)低粘度熱硬化性樹脂の具体例としては、DIC社製の「HP4032」、「HP4032D」、「HP4032SS」(ナフタレン型エポキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「828US」、「jER828EL」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、「jER807」(ビスフェノールF型エポキシ樹脂)、「jER152」(フェノールノボラック型エポキシ樹脂);ADEKA社製の「EP-4088S」(グリシジルエーテル型脂肪族エポキシ樹脂);日鉄ケミカル&マテリアル社の「ZX1059」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合品);ナガセケムテックス社製の「EX-721」(グリシジルエステル型エポキシ樹脂);ダイセル社製の「セロキサイド2021P」(エステル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂)、「PB-3600」(ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂);新日鉄化学社製の「ZX1658」、「ZX1658GS」(液状1,4-グリシジルシクロヘキサン);等が挙げられる。
【0069】
(C)低粘度熱硬化性樹脂は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
樹脂組成物に含まれる不揮発成分100質量%に対する(B)窒素含有エポキシ樹脂及び(C)低粘度熱硬化性樹脂の量をそれぞれM(b)及びM(c)とした場合、比M(b)/M(c)は、特定の範囲にあることが好ましい。具体的には、比M(b)/M(c)の範囲は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上、特に好ましくは0.15以上であり、好ましくは2.50以下、より好ましくは2.00以下、特に好ましくは1.70以下である。比M(b)/M(c)が前記範囲にある場合、樹脂組成物の粘度を効果的に小さくできるので、ペースト状の樹脂組成物を得やすくできる。
【0071】
樹脂組成物に含まれる(C)低粘度熱硬化性樹脂の量は、樹脂組成物に含まれる不揮発成分100質量%に対して、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上、更に好ましくは2質量%以上、特に好ましくは3質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。(C)低粘度熱硬化性樹脂の量が前記範囲にある場合、樹脂組成物の粘度を効果的に小さくできるので、ペースト状の樹脂組成物を得やすくできる。
【0072】
樹脂組成物に含まれる(C)低粘度熱硬化性樹脂の量は、樹脂組成物に含まれる樹脂成分100質量%に対して、好ましくは10重量%以上、より好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50質量%以上、特に好ましくは70質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下、特に好ましくは76質量%以下である。(C)低粘度熱硬化性樹脂の量が前記範囲にある場合、樹脂組成物の粘度を効果的に小さくできるので、ペースト状の樹脂組成物を得やすくできる。
【0073】
樹脂組成物に含まれる不揮発成分100質量%に対する(A)FeNi合金粉及び(C)低粘度熱硬化性樹脂の量をそれぞれM(a)及びM(c)とした場合、比M(c)/M(a)は、特定の範囲にあることが好ましい。具体的には、比M(c)/M(a)の範囲は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、特に好ましくは0.03以上であり、好ましくは0.50以下、より好ましくは0.10以下、特に好ましくは0.060以下である。比M(c)/M(a)が前記範囲にある場合、樹脂組成物の粘度を効果的に小さくできるので、ペースト状の樹脂組成物を得やすくできる。
【0074】
[5.(D)硬化剤]
本実施形態に係る樹脂組成物は、(D)成分としての(D)硬化剤を更に含むことが好ましい。ただし、(D)硬化剤には、前記の(B)窒素含有エポキシ樹脂及び(C)低粘度熱硬化性樹脂は含めない。(D)硬化剤には、(B)窒素含有エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂を硬化する機能を有するエポキシ樹脂硬化剤と、エポキシ樹脂の硬化速度を促進する機能を有する硬化促進剤とがある。樹脂組成物は、エポキシ樹脂硬化剤及び硬化促進剤の一方を含んでいてもよく、両方を含んでいてもよい。中でも、樹脂組成物は、(D)硬化剤として、硬化促進剤を含むことがより好ましい。
【0075】
エポキシ樹脂硬化剤は、通常、エポキシ樹脂と反応して樹脂組成物を硬化させうる。エポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、フェノール系エポキシ樹脂硬化剤、活性エステル系エポキシ樹脂硬化剤、酸無水物系エポキシ樹脂硬化剤、ベンゾオキサジン系エポキシ樹脂硬化剤、シアネートエステル系エポキシ樹脂硬化剤、アミン系エポキシ樹脂硬化剤が挙げられる。エポキシ樹脂硬化剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
フェノール系エポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂硬化剤、ナフタレン型エポキシ樹脂硬化剤、フェノールノボラック型エポキシ樹脂硬化剤、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂硬化剤、トリアジン骨格含有フェノール系エポキシ樹脂硬化剤が挙げられる。特に、ナフタレン型エポキシ樹脂硬化剤、トリアジン骨格含有フェノール系エポキシ樹脂硬化剤がより好適である。
【0077】
フェノール系エポキシ樹脂硬化剤の具体例としては、ビフェニル型エポキシ樹脂硬化剤としての「MEH-7700」、「MEH-7810」、「MEH-7851」(明和化成社製);ナフタレン型エポキシ樹脂硬化剤としての「NHN」、「CBN」、「GPH」(日本化薬社製)、「SN170」、「SN180」、「SN190」、「SN475」、「SN485」、「SN495」、「SN375」、「SN395」(新日鐵化学社製)、「EXB9500」(DIC社製);フェノールノボラック型エポキシ樹脂硬化剤としての「TD2090」(DIC社製);ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂硬化剤としての「EXB-6000」(DIC社製);トリアジン骨格含有フェノール系エポキシ樹脂硬化剤としての「LA3018」、「LA7052」、「LA7054」、「LA1356」(DIC社製);等が挙げられる。
【0078】
活性エステル系エポキシ樹脂硬化剤としては、特に制限はないが、一般にフェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N-ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等の反応活性の高いエステル基を1分子中に2個以上有する化合物が好ましく用いられる。当該活性エステル系エポキシ樹脂硬化剤は、カルボン酸化合物及び/又はチオカルボン酸化合物とヒドロキシ化合物及び/又はチオール化合物との縮合反応によって得られるものが好ましい。特に耐熱性向上の観点から、カルボン酸化合物とヒドロキシ化合物とから得られる活性エステル系エポキシ樹脂硬化剤が好ましく、カルボン酸化合物とフェノール化合物及び/又はナフトール化合物とから得られる活性エステル系エポキシ樹脂硬化剤がより好ましい。カルボン酸化合物としては、例えば安息香酸、酢酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸等が挙げられる。フェノール化合物又はナフトール化合物としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールフタリン、メチル化ビスフェノールA、メチル化ビスフェノールF、メチル化ビスフェノールS、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、カテコール、α-ナフトール、β-ナフトール、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、フロログルシン、ベンゼントリオール、ジシクロペンタジエン型ジフェノール化合物、フェノールノボラック等が挙げられる。ここで、「ジシクロペンタジエン型ジフェノール化合物」とは、ジシクロペンタジエン1分子にフェノール2分子が縮合して得られるジフェノール化合物をいう。
【0079】
具体的には、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル系エポキシ樹脂硬化剤、ナフタレン構造を含む活性エステル系エポキシ樹脂硬化剤、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル系エポキシ樹脂硬化剤、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル系エポキシ樹脂硬化剤が好ましい。「ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造」とは、フェニレン-ジシクロペンチレン-フェニレンからなる2価の構造を表す。
【0080】
活性エステル系エポキシ樹脂硬化剤の市販品としては、例えば、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル系硬化剤として、DIC社製の「EXB9451」、「EXB9460」、「EXB9460S」、「EXB-8000L」、「EXB-8000L-65M」、「EXB-8000L-65TM」、「HPC-8000L-65TM」、「HPC-8000」、「HPC-8000-65T」、「HPC-8000H」、「HPC-8000H-65TM」;ナフタレン構造を含む活性エステル系硬化剤としてDIC社製の「EXB-8100L-65T」、「EXB-8150-60T」、「EXB-8150-62T」、「EXB-9416-70BK」、「HPC-8150-60T」、「HPC-8150-62T」;りん含有活性エステル系硬化剤として、DIC社製の「EXB9401」;フェノールノボラックのアセチル化物である活性エステル系硬化剤として、三菱ケミカル社製の「DC808」;フェノールノボラックのベンゾイル化物である活性エステル系硬化剤として、三菱ケミカル社製の「YLH1026」、「YLH1030」、「YLH1048」;スチリル基及びナフタレン構造を含む活性エステル系硬化剤として、エア・ウォーター社製の「PC1300-02-65MA」;等が挙げられる。
【0081】
酸無水物系エポキシ樹脂硬化剤としては、1分子内中に1個以上の酸無水物基を有するエポキシ樹脂硬化剤が挙げられる。酸無水物系エポキシ樹脂硬化剤の具体例としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、3,3’-4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-C]フラン-1,3-ジオン、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、スチレンとマレイン酸とが共重合したスチレン・マレイン酸樹脂などのポリマー型の酸無水物などが挙げられる。酸無水物系エポキシ樹脂硬化剤の市販品としては、新日本理化社製の「HNA-100」、「MH-700」等が挙げられる。
【0082】
ベンゾオキサジン系エポキシ樹脂硬化剤の具体例としては、JFEケミカル社製の「JBZ-OP100D」、「ODA-BOZ」;昭和高分子社製の「HFB2006M」、四国化成工業社製の「P-d」、「F-a」が挙げられる。
【0083】
シアネートエステル系エポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、ビスフェノールAジシアネート、ポリフェノールシアネート、オリゴ(3-メチレン-1,5-フェニレンシアネート)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルフェニルシアネート)、4,4’-エチリデンジフェニルジシアネート、ヘキサフルオロビスフェノールAジシアネート、2,2-ビス(4-シアネート)フェニルプロパン、1,1-ビス(4-シアネートフェニルメタン)、ビス(4-シアネート-3,5-ジメチルフェニル)メタン、1,3-ビス(4-シアネートフェニル-1-(メチルエチリデン))ベンゼン、ビス(4-シアネートフェニル)チオエーテル、及びビス(4-シアネートフェニル)エーテル等の2官能シアネート樹脂、フェノールノボラック及びクレゾールノボラック等から誘導される多官能シアネート樹脂、これらシアネート樹脂が一部トリアジン化したプレポリマーなどが挙げられる。シアネートエステル系エポキシ樹脂硬化剤の具体例としては、ロンザジャパン社製の「PT30」及び「PT60」(いずれもフェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂)、「BA230」、「BA230S75」(ビスフェノールAジシアネートの一部又は全部がトリアジン化され三量体となったプレポリマー)等が挙げられる。
【0084】
アミン系エポキシ樹脂硬化剤としては、1分子内中に1個以上の活性水素を有するアミノ基を有するエポキシ樹脂硬化剤が挙げられる。アミン系エポキシ樹脂硬化剤の具体例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジシアンジアミド、などが挙げられる。アミン系エポキシ樹脂硬化剤の市販品としては、三菱ケミカル社製の「DICY7」等が挙げられる。
【0085】
エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤との量比は、[エポキシ樹脂のエポキシ基の合計数]:[エポキシ樹脂硬化剤の反応基の合計数]の比率で、1:0.2~1:2の範囲であることが好ましく、1:0.3~1:1.5の範囲であることがより好ましく、1:0.4~1:1の範囲であることがさらに好ましい。ここで、エポキシ樹脂硬化剤の反応基とは、活性水酸基、活性エステル基等であり、エポキシ樹脂硬化剤の種類によって異なる。また、エポキシ樹脂のエポキシ基の合計数とは、各エポキシ樹脂の不揮発成分の質量をエポキシ当量で除した値を、すべてのエポキシ樹脂について合計した値である。さらに、エポキシ樹脂硬化剤の反応基の合計数とは、各エポキシ樹脂硬化剤の不揮発成分の質量を反応基当量で除した値を、すべてのエポキシ樹脂硬化剤について合計した値である。エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤との量比をかかる範囲内とした場合、硬化物としたときの耐熱性がより向上する。
【0086】
硬化促進剤は、通常、エポキシ樹脂の硬化反応に触媒として作用して、硬化反応を促進しうる。硬化促進剤としては、例えば、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、リン系硬化促進剤、グアニジン系硬化促進剤、ウレア系硬化促進剤、金属系硬化促進剤等が挙げられる。硬化促進剤は、樹脂組成物の粘度を低下させる観点から、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、及びグアニジン系硬化促進剤が好ましく、さらに得られる硬化物の機械強度を向上させる観点からイミダゾール系硬化促進剤がより好ましい。硬化促進剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
アミン系硬化促進剤としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のトリアルキルアミン、4-ジメチルアミノピリジン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6,-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン等が挙げられ、4-ジメチルアミノピリジン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセンが好ましい。アミン系硬化促進剤としては、市販品を用いてもよく、例えば、味の素ファインテクノ社製の「PN-50」、「PN-23」、「MY-25」等が挙げられる。
【0088】
イミダゾール系硬化促進剤としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾール、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、2-メチルイミダゾリン、2-フェニルイミダゾリン等のイミダゾール化合物及びイミダゾール化合物とエポキシ樹脂とのアダクト体が挙げられ、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾールが好ましい。イミダゾール系硬化促進剤としては、市販品を用いてもよく、例えば、四国化成工業社製の「2MZA-PW」、「2PHZ-PW」、三菱ケミカル社製の「P200-H50」等が挙げられる。
【0089】
リン系硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、ホスホニウムボレート化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、n-ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラブチルホスホニウムデカン酸塩、(4-メチルフェニル)トリフェニルホスホニウムチオシアネート、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート、ブチルトリフェニルホスホニウムチオシアネート等が挙げられ、トリフェニルホスフィン、テトラブチルホスホニウムデカン酸塩が好ましい。
【0090】
グアニジン系硬化促進剤としては、例えば、ジシアンジアミド、1-メチルグアニジン、1-エチルグアニジン、1-シクロヘキシルグアニジン、1-フェニルグアニジン、1-(o-トリル)グアニジン、ジメチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トリメチルグアニジン、テトラメチルグアニジン、ペンタメチルグアニジン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、1-メチルビグアニド、1-エチルビグアニド、1-n-ブチルビグアニド、1-n-オクタデシルビグアニド、1,1-ジメチルビグアニド、1,1-ジエチルビグアニド、1-シクロヘキシルビグアニド、1-アリルビグアニド、1-フェニルビグアニド、1-(o-トリル)ビグアニド等が挙げられ、ジシアンジアミド、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エンが好ましい。
【0091】
ウレア系硬化促進剤としては、例えば、1,1-ジメチル尿素;1,1,3-トリメチル尿素、3-エチル-1,1-ジメチル尿素、3-シクロヘキシル-1,1-ジメチル尿素、3-シクロオクチル-1,1-ジメチル尿素等の脂肪族ジメチルウレア;3-フェニル-1,1-ジメチル尿素、3-(4-クロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、3-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-1,1-ジメチル尿素、3-(2-メチルフェニル)-1,1-ジメチル尿素、3-(4-メチルフェニル)-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジメチルフェニル)-1,1-ジメチル尿素、3-(4-イソプロピルフェニル)-1,1-ジメチル尿素、3-(4-メトキシフェニル)-1,1-ジメチル尿素、3-(4-ニトロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、3-[4-(4-メトキシフェノキシ)フェニル]-1,1-ジメチル尿素、3-[4-(4-クロロフェノキシ)フェニル]-1,1-ジメチル尿素、3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,1-ジメチル尿素、N,N-(1,4-フェニレン)ビス(N’,N’-ジメチル尿素)、N,N-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(N’,N’-ジメチル尿素)〔トルエンビスジメチルウレア〕等の芳香族ジメチルウレア等が挙げられる。
【0092】
金属系硬化促進剤としては、例えば、コバルト、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、マンガン、スズ等の金属の、有機金属錯体又は有機金属塩が挙げられる。有機金属錯体の具体例としては、コバルト(II)アセチルアセトナート、コバルト(III)アセチルアセトナート等の有機コバルト錯体、銅(II)アセチルアセトナート等の有機銅錯体、亜鉛(II)アセチルアセトナート等の有機亜鉛錯体、鉄(III)アセチルアセトナート等の有機鉄錯体、ニッケル(II)アセチルアセトナート等の有機ニッケル錯体、マンガン(II)アセチルアセトナート等の有機マンガン錯体等が挙げられる。有機金属塩としては、例えば、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸スズ、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0093】
樹脂組成物に含まれる(D)硬化剤の量は、樹脂組成物中の不揮発成分100質量%に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。(D)硬化剤の量が前記範囲にある場合、樹脂組成物の粘度を下げたり、粘度のポットライフを向上させたりすることができる。
【0094】
樹脂組成物に含まれる(D)硬化剤の量は、樹脂組成物中の樹脂成分100質量%に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。(D)硬化剤の量が前記範囲にある場合、樹脂組成物の粘度を下げたり、粘度のポットライフを向上させたりすることができる。
【0095】
樹脂組成物に含まれる不揮発成分100質量%に対する(B)窒素含有エポキシ樹脂、(C)低粘度熱硬化性樹脂及び(D)硬化剤の量をそれぞれM(b)、M(c)及びM(d)とした場合、比{M(b)+M(c)}/M(d)は、特定の範囲にあることが好ましい。具体的には、比{M(b)+M(c)}/M(d)の範囲は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、特に好ましくは4以上であり、好ましくは15以下、より好ましくは12以下、特に好ましくは10以下である。比{M(b)+M(c)}/M(d)が前記範囲にある場合、樹脂組成物の粘度を効果的に小さくできるので、ペースト状の樹脂組成物を得やすくできる。
【0096】
[6.任意の成分]
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述した成分に組み合わせて、更に任意の不揮発成分を含んでいてもよい。任意の不揮発成分としては、例えば、(A)FeNi合金粉以外の無機粒子;マレイミド系ラジカル重合性化合物、ビニルフェニル系ラジカル重合性化合物、(メタ)アクリル系ラジカル重合性化合物、アリル系ラジカル重合性化合物、ポリブタジエン系ラジカル重合性化合物等のラジカル重合性化合物;過酸化物系ラジカル重合開始剤、アゾ系ラジカル重合開始剤等のラジカル重合開始剤;ポリビニルアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂;ゴム粒子等の有機充填材;有機銅化合物、有機亜鉛化合物等の有機金属化合物;ハイドロキノン、カテコール、ピロガロール、フェノチアジン等の重合禁止剤;シリコーン系レベリング剤、アクリルポリマー系レベリング剤等のレベリング剤;ベントン、モンモリロナイト等の増粘剤;シリコーン系消泡剤、アクリル系消泡剤、フッ素系消泡剤、ビニル樹脂系消泡剤等の消泡剤;ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;尿素シラン等の接着性向上剤;トリアゾール系密着性付与剤、テトラゾール系密着性付与剤、トリアジン系密着性付与剤等の密着性付与剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤等の酸化防止剤;スチルベン誘導体等の蛍光増白剤;フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等の界面活性剤;リン系難燃剤(例えばリン酸エステル化合物、ホスファゼン化合物、ホスフィン酸化合物、赤リン)、窒素系難燃剤(例えば硫酸メラミン)、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤(例えば三酸化アンチモン)等の難燃剤;リン酸エステル系分散剤、ポリオキシアルキレン系分散剤、アセチレン系分散剤、シリコーン系分散剤、アニオン性分散剤、カチオン性分散剤等の分散剤;ボレート系安定剤、チタネート系安定剤、アルミネート系安定剤、ジルコネート系安定剤、イソシアネート系安定剤、カルボン酸系安定剤、カルボン酸無水物系安定剤等の安定剤等が挙げられる。任意の不揮発成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0097】
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述した不揮発性成分以外に、揮発性成分として、さらに任意の有機溶剤を含んでいてもよい。有機溶剤としては、不揮発性成分の少なくとも一部を溶解可能なものが好ましい。有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系溶剤;テトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジフェニルエーテル等のエーテル系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶剤;酢酸2-エトキシエチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチルジグリコールアセテート、γ-ブチロラクトン、メトキシプロピオン酸メチル等のエーテルエステル系溶剤;乳酸メチル、乳酸エチル、2-ヒドロキシイソ酪酸メチル等のエステルアルコール系溶剤;2-メトキシプロパノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)等のエーテルアルコール系溶剤;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶剤;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶剤;ヘキサン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤等を挙げることができる。有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0098】
一実施形態において、有機溶剤の量は少ないほど好ましい。具体的には、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、有機溶剤の量は、例えば、3質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、また、0.01質量%以下でありうる。中でも、樹脂組成物は、有機溶媒を含まないこと(即ち、有機溶剤の量が0質量%)が特に好ましい。有機溶剤の量が少ない場合、有機溶剤の揮発によるボイドの発生を抑制することができる。さらに、樹脂組成物の取扱い性及び作業性を改善することができる。
【0099】
[7.樹脂組成物の特性]
上述した実施形態に係る樹脂組成物によれば、高い比透磁率を有する硬化物を得ることができる。例えば、樹脂組成物を180℃で90分間加熱して、硬化物を得る。この硬化物の比透磁率を測定周波数50MHz、室温23℃の条件で測定した場合に、当該比透磁率は、好ましくは12.0以上、より好ましくは15.0以上、更に好ましくは18.0以上、特に好ましくは20.0以上である。比透磁率の上限は、特段の制限は無く、例えば、35.0以下、30.0以下、25.0以下、23.0以下などでありうる。比透磁率は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0100】
上述した実施形態に係る樹脂組成物によれば、研磨加工性に優れる硬化物を得ることができる。具体的には、樹脂組成物を熱硬化させて硬化物を得た場合に、その硬化物は、単位時間当たりの研磨量を大きくすることができる。このように研磨加工性に優れる硬化物は、所定の厚みに研磨するまでに要する時間(タクト)を短くできる。
【0101】
したがって、上述した実施形態に係る樹脂組成物によれば、比透磁率及び研磨加工性の両方に優れる硬化物を得ることができる。従来、比透磁率の高い硬化物を得るためには、樹脂組成物における磁性フィラーの量を多くすることが一般であった。しかし、そのように磁性フィラーの量を多くすると、硬化物の硬度が大きくなり、研磨加工性は劣る傾向があった。このような事情によって、従来は比透磁率及び研磨加工性の両方に優れる硬化物を実現することが困難であったことに鑑みると、比透磁率及び研磨加工性の両方を改善できる前記の樹脂組成物の効果は、工業上、有益である。
【0102】
また、上述した実施形態に係る樹脂組成物によれば、通常、低い磁性損失を有する硬化物を得ることができる。例えば、樹脂組成物を180℃で90分間加熱して、硬化物を得る。この硬化物の磁性損失を測定周波数50MHz、室温23℃の条件で測定した場合、当該磁性損失は、好ましくは0.10未満、より好ましくは0.08未満、更に好ましくは0.05未満である。磁性損失は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0103】
Fe及びNiを含む合金粉のような結晶性合金粉は、一般に、高い比透磁率を有することができる一方で、磁性損失が大きい傾向があった。よって、従来は、比透磁率が高く且つ磁性損失が小さい硬化物を得ることが困難であった。このような従来の事情に鑑みると、比透磁率及び磁性損失の両方を改善できる前記の樹脂組成物の効果は、工業上、有益である。
【0104】
樹脂組成物の性状に特段の制限は無い。樹脂組成物は、例えば、固体状であってもよい。また、樹脂組成物は、流動性を有するペースト状であってもよい。ペースト状の樹脂組成物は、基材のホールへの充填性に優れる。中でも、樹脂組成物は、23℃においてペースト状であることが好ましい。このペースト状の樹脂組成物の粘度は、好ましくは20Pa・s以上、より好ましくは25Pa・s以上、更に好ましくは30Pa・s以上、特に好ましくは50Pa・s以上であり、好ましくは200Pa・s以下、より好ましくは180Pa・s以下、更に好ましくは160Pa・s以下である。粘度は、(C)低粘度熱硬化性樹脂の粘度と同じ方法によって測定できる。
【0105】
上述した優れた特性を活用して、樹脂組成物は、インダクタ製造用の樹脂組成物として用いることが好ましい。例えば、インダクタ基板に含まれる回路基板を製造するために、上述した樹脂組成物は、回路基板が備える基板のホールに充填されるためのホール充填用樹脂組成物として用いることが好ましい。また、例えば、上述した樹脂組成物は、回路基板に硬化物層を形成するために用いることも好ましい。これらの用途への適用を容易にするため、樹脂組成物は、ペースト状の形態で用いてもよく、該樹脂組成物の層を含む樹脂シートの形態で用いてもよい。
【0106】
[8.樹脂組成物の製造方法]
本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、当該樹脂組成物に含ませる成分を任意の調製容器を用いて混合することによって、製造できる。樹脂組成物に含ませる成分は、任意の順で混合してもよく、一部若しくは全部を同時に混合してもよい。また、各成分を混合する過程で、温度を適切に設定してもよい。例えば、一時的に又は終始にわたって、加熱及び/又は冷却を行ってもよい。また、各成分を混合する過程において、撹拌又は振盪を行ってもよい。また、混合する際に又はその後に、樹脂組成物を、例えば、ミキサーなどの撹拌装置又は振盪装置を用いて撹拌又は振盪し、均一に分散させてもよい。また、撹拌又は振盪と同時に、真空下等の低圧条件下で脱泡を行ってもよい。
【0107】
[9.樹脂シート]
樹脂シートは、支持体と、該支持体上に前記の樹脂組成物によって形成された樹脂組成物層と、を含む。
【0108】
樹脂組成物層の厚さは、薄型化の観点から、好ましくは250μm以下、より好ましくは200μm以下である。樹脂組成物層の厚さの下限は、特に限定されないが、例えば、5μm以上、10μm以上等でありうる。
【0109】
支持体としては、例えば、プラスチック材料のフィルム、金属箔、離型紙が挙げられ、プラスチック材料のフィルム、金属箔が好ましい。
【0110】
支持体としてプラスチック材料のフィルムを使用する場合、プラスチック材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称することがある。)、ポリエチレンナフタレート(以下「PEN」と略称することがある。)等のポリエステル、ポリカーボネート(以下「PC」と略称することがある。)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリルポリマー、環状ポリオレフィン、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエーテルサルファイド(PES)、ポリエーテルケトン、ポリイミド等が挙げられる。中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましく、安価なポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0111】
支持体として金属箔を使用する場合、金属箔としては、例えば、銅箔、アルミニウム箔等が挙げられ、銅箔が好ましい。銅箔としては、銅の単金属からなる箔を用いてもよく、銅と他の金属(例えば、スズ、クロム、銀、マグネシウム、ニッケル、ジルコニウム、ケイ素、チタン等)との合金からなる箔を用いてもよい。
【0112】
支持体は、樹脂組成物層と接合する面にマット処理、コロナ処理を施してあってもよい。
【0113】
また、支持体としては、樹脂組成物層と接合する面に離型層を有する離型層付き支持体を使用してもよい。離型層付き支持体の離型層に使用する離型剤としては、例えば、アルキド系離型剤、ポリオレフィン系離型剤、ウレタン系離型剤、及びシリコーン系離型剤からなる群から選択される1種以上の離型剤が挙げられる。離型層付き支持体は、市販品を用いてもよく、例えば、シリコーン系離型剤又はアルキド樹脂系離型剤を主成分とする離型層を有するPETフィルムである、リンテック社製の「PET501010」、「SK-1」、「AL-5」、「AL-7」;東レ社製の「ルミラーT60」;帝人社製の「ピューレックス」;ユニチカ社製の「ユニピール」等が挙げられる。
【0114】
支持体の厚みとしては、特に限定されないが、5μm~75μmの範囲が好ましく、10μm~60μmの範囲がより好ましい。なお、離型層付き支持体を使用する場合、離型層付き支持体全体の厚さが上記範囲であることが好ましい。
【0115】
樹脂シートにおいて、樹脂組成物層の支持体と接合していない面(即ち、支持体とは反対側の面)には、支持体に準じた保護フィルムをさらに積層することができる。保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、1μm~40μmである。保護フィルムを積層することにより、樹脂組成物層の表面へのゴミ等の付着やキズを抑制することができる。樹脂シートは、ロール状に巻きとって保存することが可能である。樹脂シートが保護フィルムを有する場合、保護フィルムを剥がすことによって使用可能となる。
【0116】
樹脂シートは、例えば、樹脂組成物を、ダイコーター等を用いて支持体上に塗布し、樹脂組成物層を形成させることにより製造することができる。必要に応じて樹脂組成物に有機溶剤を混合してから支持体上に塗布してもよい。有機溶剤を用いる場合、必要に応じて塗布後に乾燥を行ってもよい。
【0117】
乾燥は、加熱、熱風吹きつけ等の方法により実施してよい。乾燥条件は特に限定されないが、樹脂組成物層中の有機溶剤の含有量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下となるように乾燥させる。樹脂組成物中に含まれる成分によっても異なるが、50℃~150℃で3分間~10分間乾燥させることにより、樹脂組成物層を形成することができる。
【0118】
樹脂シートは、ロール状に巻きとって保存することが可能である。樹脂シートが保護フィルムを有する場合、保護フィルムを剥がすことによって使用可能となる。
【0119】
[10.回路基板]
本発明の一実施形態に係る回路基板は、上述した樹脂組成物の硬化物を含む。回路基板の具体的な構造は、樹脂組成物の硬化物を含む限り、制限は無い。第一の例に係る回路基板は、ホールを形成された基板と、このホールに充填された樹脂組成物の硬化物と、を含む。また、第二の例に係る回路基板は、樹脂組成物の硬化物で形成された硬化物層を含む。以下、これら第一の例及び第二の例に係る回路基板の製造方法を説明する。
【0120】
[10.1.第一の例に係る回路基板]
第一の例に係る回路基板は、ホールが形成された基板と、前記のホールに充填された樹脂組成物の硬化物と、を含む。この回路基板は、例えば、
(1)基板のホールに樹脂組成物を充填する工程、及び、
(2)樹脂組成物を熱硬化させ、硬化物を得る工程、
を含む製造方法によって、製造できる。また、第一の例に係る回路基板の製造方法は、更に、
(3)硬化物の表面を研磨する工程
(4)硬化物に粗化処理を施す工程、及び、
(5)硬化物を粗化処理した面に導体層を形成する工程、
を含んでいてもよい。通常、前記の工程(1)~(5)は、工程(1)~(5)の順で行われる。第一の例に係る回路基板の製造方法では、ペースト状の樹脂組成物を用いて硬化物を形成することが好ましい。以下の説明では、基板を厚み方向に貫通するホールとしてのスルーホールを形成された基板を用いた例を示して、説明する。
【0121】
<工程(1)>
工程(1)は、通常、スルーホールが形成された基板を用意する工程を含む。基板は、市場から購入して用意してもよい。また、基板は、適切な材料を用いて製造して用意してもよい。以下、一例に係る基板の製造方法を説明する。
【0122】
図1は、本発明の一実施形態の第一の例に係る回路基板の製造方法において用意されるコア基板10を模式的に示す断面図である。基板を用意する工程は、図1に示す例のように、コア基板10を用意する工程を含んでいてもよい。コア基板10は、通常、支持基板11を含む。支持基板11としては、例えば、ガラスエポキシ基板、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板等の絶縁性基材が挙げられる。また、該支持基板11上には、金属層が設けられていてもよい。金属層は、支持基板11の片面に設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。ここでは、支持基板11の両表面に第1金属層12及び第2金属層13が設けられた例を示す。第1金属層12及び第2金属層13としては、銅等の金属によって形成された層が挙げられる。第1金属層12及び第2金属層13は、例えば、キャリア付銅箔等の銅箔であってもよく、後述する導体層の材料で形成された金属層であってもよい。
【0123】
図2は、本発明の一実施形態の第一の例に係る回路基板の製造方法において、スルーホール14を形成されたコア基板10を模式的に示す断面図である。基板を用意する工程は、図2に示す例のように、コア基板10にスルーホール14を形成する工程を含んでいてもよい。スルーホール14は、例えば、ドリル加工、レーザー照射、プラズマ照射等の方法により形成することができる。通常は、コア基板10に貫通穴を形成することにより、スルーホール14を形成することができる。具体例を挙げると、スルーホール14の形成は、市販されているドリル装置を用いて実施することができる。市販されているドリル装置としては、例えば、日立ビアメカニクス社製「ND-1S211」等が挙げられる。
【0124】
図3は、本発明の一実施形態の第一の例に係る回路基板の製造方法において、スルーホール14内にめっき層20を形成されたコア基板10を模式的に示す断面図である。基板を用意する工程は、必要に応じてコア基板10に粗化処理を施した後、図3に示すようにめっき層20を形成する工程を含んでいてもよい。前記の粗化処理としては、乾式及び湿式のいずれの粗化処理を行ってもよい。乾式の粗化処理の例としては、プラズマ処理等が挙げられる。また、湿式の粗化処理の例としては、膨潤液による膨潤処理、酸化剤による粗化処理、及び、中和液による中和処理をこの順に行う方法が挙げられる。めっき層20は、めっき法により形成されうる。めっき法によりめっき層20が形成される手順は、後述する工程(5)における導体層の形成と同じでありうる。ここでは、スルーホール14内、第1金属層12の表面、及び、第2金属層13の表面にめっき層20を形成した例を示して説明する。
【0125】
図4は、本発明の一実施形態の第一の例に係る回路基板の製造方法において、コア基板10のスルーホール内に樹脂組成物30aを充填した様子を模式的に示す断面図である。工程(1)は、前記のようにスルーホール14を形成されたコア基板10を用意した後で、図4に示すように、コア基板10のスルーホール14に、樹脂組成物30aを充填することを含む。充填は、例えば印刷法で行いうる。印刷法としては、例えば、スキージを介してスルーホール14へ樹脂組成物30aを印刷する方法、カートリッジを介して樹脂組成物30aを印刷する方法、マスク印刷して樹脂組成物30aを印刷する方法、ロールコート法、インクジェット法等が挙げられる。通常は、余剰の樹脂組成物30aがスルーホール14aの外に突出又は付着する。よって、樹脂組成物30aは、スルーホール14a内だけでなく、スルーホール14aの外にも設けられうる。
【0126】
<工程(2)>
図5は、本発明の一実施形態の第一の例に係る回路基板の製造方法の工程(2)を説明するための模式的な断面図である。工程(2)は、スルーホール14内に樹脂組成物30aを充填した後で、図5に示すように、樹脂組成物30aを硬化して硬化物30を形成することを含む。
【0127】
樹脂組成物30aの硬化は、通常、熱硬化によって行う。樹脂組成物30aの熱硬化条件は、樹脂組成物30aの硬化が進行する範囲で、適切に設定しうる。硬化温度は、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは150℃以上であり、好ましくは245℃以下、より好ましくは220℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。硬化時間は、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは15分以上であり、好ましくは120分以下、より好ましくは110分以下、さらに好ましくは100分以下である。
【0128】
工程(2)で得られる硬化物30の硬化度は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。硬化度は、例えば示差走査熱量測定装置を用いて測定できる。
【0129】
第一の例に係る回路基板の製造方法は、樹脂組成物30aをスルーホール14に充填した後、樹脂組成物30aを硬化させる前に、樹脂組成物30aを硬化温度よりも低い温度で加熱する工程(予備加熱工程)を含んでいてもよい。例えば、樹脂組成物30aを硬化させるのに先立ち、通常50℃以上120℃未満(好ましくは60℃以上110℃以下、より好ましくは70℃以上100℃以下)の温度にて、樹脂組成物30aを、通常5分間以上(好ましくは5分間~150分間、より好ましくは15分間~120分間)、予備加熱してもよい。
【0130】
<工程(3)>
図6は、本発明の一実施形態の第一の例に係る回路基板の製造方法の工程(3)を説明するための模式的な断面図である。工程(3)は、樹脂組成物30aを硬化して硬化物30を得た後で、図6に示すように、コア基板10から突出又は付着している余剰の硬化物30を研磨することを含む。研磨により、余剰の硬化物30が除去されるので、硬化物30の表面を平坦化することができる。また、研磨によって平坦化された硬化物30の表面(研磨面)31は、通常、当該研磨面31の周囲の面21(例えば、コア基板10の表面、めっき層20の表面)と面一な平面を形成しうる。上述した実施形態に係る樹脂組成物の硬化物30は、研磨加工性に優れるので、前記の研磨を円滑かつ速やかに行うことができる。
【0131】
硬化物30の研磨方法としては、コア基板10から突出又は付着している余剰の硬化物30を除去できる方法を採用しうる。このような研磨方法としては、例えば、バフ研磨、ベルト研磨、セラミック研磨等が挙げられる。市販されているバフ研磨装置としては、例えば、石井表記社製「NT-700IM」等が挙げられる。
【0132】
硬化物30の研磨面31の算術平均粗さ(Ra)としては、導体層との間の密着性を向上させる観点から、好ましくは300nm以上、より好ましくは350nm以上、さらに好ましくは400nm以上である。上限は、好ましくは1000nm以下、より好ましくは900nm以下、さらに好ましくは800nm以下である。表面粗さ(Ra)は、例えば、非接触型表面粗さ計を用いて測定することができる。
【0133】
第一の例に係る回路基板の製造方法は、工程(3)の後で、硬化物30の硬化度をさらに高めるために、硬化物30に熱処理を施す工程を含んでいてもよい。前記の熱処理における温度は、上記した硬化温度に準じうる。具体的な熱処理温度は、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは150℃以上であり、好ましくは245℃以下、より好ましくは220℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。熱処理時間は、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは15分以上であり、好ましくは90分以下、より好ましくは70分以下、さらに好ましくは60分以下である。
【0134】
<工程(4)>
工程(4)は、硬化物30の研磨面31に粗化処理(デスミア処理)を施すことを含む。粗化処理の手順、条件は特に限定されず、例えば、多層プリント配線板の製造方法に際して使用される手順、条件を採用することができる。具体例を挙げると、膨潤液による膨潤処理、酸化剤による粗化処理、中和液による中和処理をこの順に実施することにより、硬化物30に粗化処理を施すことができる。
【0135】
粗化工程に用いられうる膨潤液としては、例えば、アルカリ溶液、界面活性剤溶液等が挙げられ、好ましくはアルカリ溶液である。膨潤液であるアルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液がより好ましい。市販されている膨潤液としては、例えば、アトテックジャパン社製「スウェリング・ディップ・セキュリガンスP」、「スウェリング・ディップ・セキュリガンスSBU」等が挙げられる。
【0136】
膨潤液による膨潤処理は、例えば、30℃~90℃の膨潤液に硬化物30を1分間~20分間浸漬することにより行うことができる。硬化物30に含まれる樹脂の膨潤を適度なレベルに抑える観点から、40℃~80℃の膨潤液に硬化物30を5分間~15分間浸漬させることが好ましい。
【0137】
酸化剤による粗化処理に用いられうる酸化剤としては、例えば、水酸化ナトリウムの水溶液に過マンガン酸カリウムや過マンガン酸ナトリウムを溶解したアルカリ性過マンガン酸溶液が挙げられる。アルカリ性過マンガン酸溶液等の酸化剤による粗化処理は、60℃~80℃に加熱した酸化剤の溶液に硬化物30を10分間~30分間浸漬させることにより行うことが好ましい。また、アルカリ性過マンガン酸溶液における過マンガン酸塩の濃度は5質量%~10質量%とすることが好ましい。市販されている酸化剤としては、例えば、アトテックジャパン社製「コンセントレート・コンパクトP」、「ドージングソリューション・セキュリガンスP」等のアルカリ性過マンガン酸溶液が挙げられる。
【0138】
中和処理に用いられうる中和液としては、酸性の水溶液が好ましい。中和液の市販品としては、例えば、アトテックジャパン社製「リダクションソリューション・セキュリガンスP」が挙げられる。中和液による中和処理は、酸化剤溶液による粗化処理がなされた処理面を30℃~80℃の中和液に5分間~30分間浸漬させることにより行うことができる。作業性等の点から、酸化剤溶液による粗化処理がなされた硬化物30を、40℃~70℃の中和液に5分間~20分間浸漬する方法が好ましい。
【0139】
硬化物30の表面の粗化処理後の算術平均粗さ(Ra)としては、導体層との間の密着性を向上させる観点から、好ましくは300nm以上、より好ましくは350nm以上、さらに好ましくは400nm以上である。上限は、好ましくは1500nm以下、より好ましくは1200nm以下、さらに好ましくは1000nm以下である。表面粗さ(Ra)は、例えば、非接触型表面粗さ計を用いて測定することができる。
【0140】
<工程(5)>
図7は、本発明の一実施形態の第一の例に係る回路基板の製造方法の工程(5)を説明するための模式的な断面図である。工程(5)は、図7に示すように、硬化物30の研磨面31上に導体層40を形成することを含む。ここでは、硬化物30の研磨面31だけでなく、その周囲の面21(例えば、コア基板10の表面、めっき層20の表面)にも導体層40を形成した例を示す。また、図7では、コア基板10の両側に導体層40を形成した例を示すが、導体層40は、コア基板10の片側のみに形成してもよい。
【0141】
図8は、本発明の一実施形態の第一の例に係る回路基板の製造方法の工程(5)を説明するための模式的な断面図である。図8に示すように、工程(5)は、導体層40を形成した後、エッチング等の処理により、導体層40、第1金属層12、第2金属層13、及びめっき層20の一部を除去して、パターン導体層41を形成することを含んでいてもよい。
【0142】
導体層40の形成方法は、例えば、めっき法、スパッタ法、蒸着法などが挙げられ、中でもめっき法が好ましい。好適な実施形態では、セミアディティブ法、フルアディティブ法等の適切な方法によって硬化物30(及びめっき層20)の表面にめっきして、所望の配線パターンを有するパターン導体層41を形成しうる。導体層40の材料としては、例えば、金、白金、パラジウム、銀、銅、アルミニウム、コバルト、クロム、亜鉛、ニッケル、チタン、タングステン、鉄、スズ、インジウム等の単金属;金、白金、パラジウム、銀、銅、アルミニウム、コバルト、クロム、亜鉛、ニッケル、チタン、タングステン、鉄、スズ及びインジウムの群から選択される2種以上の金属の合金が挙げられる。中でも、汎用性、コスト、パターニングの容易性等の観点から、クロム、ニッケル、チタン、アルミニウム、亜鉛、金、パラジウム、銀若しくは銅、又はニッケルクロム合金、銅ニッケル合金、銅チタン合金を用いることが好ましく、クロム、ニッケル、チタン、アルミニウム、亜鉛、金、パラジウム、銀若しくは銅、又はニッケルクロム合金を用いることがより好ましく、銅を用いることがさらに好ましい。
【0143】
ここで、硬化物30の研磨面31上にパターン導体層41を形成する方法の例を、詳細に説明する。硬化物30の研磨面31に、無電解めっきにより、めっきシード層を形成する。次いで、形成されためっきシード層上に、電解めっきにより電解めっき層を形成する。その後、必要に応じて、不要なめっきシード層をエッチング等の処理により除去して、所望の配線パターンを有するパターン導体層41を形成できる。パターン導体層41の形成後、パターン導体層41の密着強度を向上させるために、必要に応じてアニール処理を行ってもよい。アニール処理は、例えば、150~200℃で20~90分間加熱することにより行うことができる。
【0144】
パターン導体層41の厚さは、薄型化の観点から、好ましくは70μm以下、より好ましくは60μm以下、さらに好ましくは50μm以下、さらにより好ましくは40μm以下、特に好ましくは30μm以下、20μm以下、15μm以下又は10μm以下である。下限は好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。
【0145】
以上の方法により、樹脂組成物30aの硬化物30を含む回路基板1を製造することができる。
【0146】
[10.2.第二の例に係る回路基板]
第二の例に係る回路基板は、樹脂組成物の硬化物により形成された硬化物層を含む。この硬化物層は、樹脂シートを用いて形成することが好ましい。この回路基板は、例えば、
(i)樹脂シートを、樹脂組成物層が内層基板と接合するように内層基板に積層し、硬化物層を形成する工程、
(ii)硬化物層に穴あけ加工を行う工程、
(iii)硬化物層の表面を粗化処理する工程、及び
(iv)硬化物層の面に導体層を形成する工程、
を含む製造方法によって、製造できる。
【0147】
<工程(i)>
工程(i)は、樹脂シートを、樹脂組成物層が内層基板と接合するように内層基板に積層し、硬化物層を形成することを含む。例えば、樹脂シートを、樹脂組成物層が内層基板と接合するように内層基板に積層し、樹脂組成物層を熱硬化して硬化物層を形成する。
【0148】
図9は、本発明の一実施形態の第二の例に係る回路基板の製造方法において、工程(i)を説明するための模式的な断面図である。図9に示すように、支持体330と、この支持体330上に設けられた樹脂組成物層320aとを含む樹脂シート310を用意する。そして、樹脂組成物層320aが内層基板200と接合するように、樹脂シート310と内層基板200とを積層する。
【0149】
内層基板200としては、絶縁性の基板を用いうる。内層基板200としては、例えば、ガラスエポキシ基板、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板等の絶縁性基材が挙げられる。内層基板200は、その厚さ内に配線等が作り込まれた内層回路基板であってもよい。
【0150】
本例に示す内層基板200は、第1主表面200a上に設けられた第1導体層420と、第2主表面200b上に設けられた外部端子240とを備える。第1導体層420は、複数の配線を含んでいてもよい。ただし、図9に示す例では、インダクタ素子のコイル状導電性構造体400(図12参照)を構成する配線のみが示されている。外部端子240は、図示されていない外部の装置等と電気的に接続するための端子でありうる。外部端子240は、第2主表面200bに設けられる導体層の一部として構成することができる。
【0151】
第1導体層420、及び外部端子240を構成し得る導体材料としては、例えば、第一の例で説明した導体層の材料と同じものが挙げられる。
【0152】
第1導体層420、及び外部端子240は、単層構造であっても、異なる種類の金属若しくは合金からなる単金属層又は合金層が2層以上積層した複層構造であってもよい。また、第1導体層420、外部端子240の厚さは、後述する第2導体層440と同じでありうる。
【0153】
第1導体層420及び外部端子240のライン(L)/スペース(S)比は特に制限されないが、表面の凹凸を減少させて平滑性に優れる硬化物層を得る観点から、通常900/900μm以下、好ましくは700/700μm以下、より好ましくは500/500μm以下、さらに好ましくは300/300μm以下、さらにより好ましくは200/200μm以下である。ライン/スペース比の下限は特に制限されないが、スペースへの樹脂組成物層の埋め込みを良好にする観点から、好ましくは1/1μm以上である。
【0154】
内層基板200は第1主表面200aから第2主表面200bに至るように内層基板200を貫通する複数のスルーホール220を有していてもよい。スルーホール220にはスルーホール内配線220aが設けられている。スルーホール内配線220aは、第1導体層420と外部端子240とを電気的に接続している。
【0155】
樹脂組成物層320aと内層基板200との接合は、例えば、支持体330側から、樹脂シート310を内層基板200に加熱圧着することにより行うことができる。樹脂シート310を内層基板200に加熱圧着する部材(以下、「加熱圧着部材」ともいう。)としては、例えば、加熱された金属板(ステンレス(SUS)鏡板等)又は金属ロール(SUSロール)等が挙げられる。なお、加熱圧着部材を樹脂シート310に直接的に接触させてプレスするのではなく、内層基板200の表面の凹凸に樹脂シート310が十分に追随するよう、耐熱ゴム等の弾性材からなるシート等を介してプレスするのが好ましい。
【0156】
加熱圧着する際の温度は、好ましくは80℃~160℃、より好ましくは90℃~140℃、さらに好ましくは100℃~120℃の範囲であり、加熱圧着する際の圧力は、好ましくは0.098MPa~1.77MPa、より好ましくは0.29MPa~1.47MPaの範囲であり、加熱圧着する際の時間は、好ましくは20秒間~400秒間、より好ましくは30秒間~300秒間の範囲である。樹脂シートと内層基板との接合は、圧力26.7hPa以下の減圧条件下で実施することが好ましい。
【0157】
樹脂シート310の樹脂組成物層320aと内層基板200との接合は、市販の真空ラミネーターによって行うことができる。市販の真空ラミネーターとしては、例えば、名機製作所社製の真空加圧式ラミネーター、ニッコー・マテリアルズ社製のバキュームアプリケーター等が挙げられる。
【0158】
樹脂シート310と内層基板200との接合の後に、常圧下(大気圧下)、例えば、加熱圧着部材を支持体330側からプレスすることにより、積層された樹脂シート310の平滑化処理を行ってもよい。平滑化処理のプレス条件は、上記積層の加熱圧着条件と同様の条件とすることができる。平滑化処理は、市販のラミネーターによって行うことができる。なお、積層と平滑化処理とは、上記の市販の真空ラミネーターを用いて連続的に行ってもよい。
【0159】
図10は、本発明の一実施形態の第二の例に係る回路基板の製造方法において、工程(i)を説明するための模式的な断面図である。樹脂シート310を内層基板200に積層した後、樹脂組成物層320aを硬化して硬化物層を形成する。本例では、図10に示すように、内層基板200に接合させた樹脂組成物層320aを熱硬化し第1硬化物層320を形成する。
【0160】
樹脂組成物層320aの熱硬化条件は、樹脂組成物の硬化が進行する範囲で、適切に設定しうる。硬化温度は、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは150℃以上であり、好ましくは245℃以下、より好ましくは220℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。硬化時間は、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは15分以上であり、好ましくは120分以下、より好ましくは110分以下、さらに好ましくは100分以下である。
【0161】
支持体330は、工程(i)の熱硬化後と工程(ii)との間に除去してもよく、工程(ii)の後に剥離してもよい。
【0162】
硬化物層の粗化処理前の算術平均粗さ(Ra)としては、めっきとの間の密着性を向上させる観点から、好ましくは300nm以上、より好ましくは350nm以上、さらに好ましくは400nm以上である。上限は、好ましくは1000nm以下、より好ましくは900nm以下、さらに好ましくは800nm以下である。表面粗さ(Ra)は、例えば、非接触型表面粗さ計を用いて測定することができる。
【0163】
工程(i)は、樹脂シートの代わりに樹脂組成物を、ダイコーター等を用いて内層基板200上に塗布し、熱硬化させることで硬化物層を形成してもよい。
【0164】
<工程(ii)>
図11は、本発明の一実施形態の第二の例に係る回路基板の製造方法において、工程(ii)を説明するための模式的な断面図である。工程(ii)は、図11に示すように、第1硬化物層320に穴あけ加工をし、ビアホール360を形成することを含む。ビアホール360は、第1導体層420と、後述する第2導体層440とを電気的に接続するための経路となる。ビアホール360の形成は、例えば、ドリル、レーザー、プラズマ等を使用して実施してよい。ホールの寸法や形状は、プリント配線板のデザインに応じて適宜決定してよい。
【0165】
<工程(iii)>
工程(iii)において、ビアホールを形成した硬化物層の表面を粗化処理する。工程(iii)における粗化処理は、第一の例の工程(4)で説明したのと同じ方法で行いうる。
【0166】
硬化物層の粗化処理後の算術平均粗さ(Ra)としては、めっきとの間の密着性を向上させる観点から、好ましくは300nm以上、より好ましくは350nm以上、さらに好ましくは400nm以上である。上限は、好ましくは1500nm以下、より好ましくは1200nm以下、さらに好ましくは1000nm以下である。表面粗さ(Ra)は、例えば、非接触型表面粗さ計を用いて測定することができる。
【0167】
<工程(iv)>
図12は、本発明の一実施形態の第二の例に係る回路基板の製造方法において、工程(iv)を説明するための模式的な断面図である。図12に示すように、工程(iv)では、第1硬化物層320上に、第2導体層440を形成する。
【0168】
第2導体層440を構成し得る導体材料としては、第一の例で説明した導体層の材料と同じものが挙げられる。
【0169】
第2導体層440の厚さは、薄型化の観点から、好ましくは70μm以下、より好ましくは60μm以下、さらに好ましくは50μm以下、さらにより好ましくは40μm以下、特に好ましくは30μm以下、20μm以下、15μm以下又は10μm以下である。下限は好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。
【0170】
第2導体層440は、めっきにより形成することができる。第2導体層440は、例えば、無電解めっき工程、マスクパターン形成工程、電解めっき工程、フラッシュエッチング工程を含むセミアディティブ法、フルアディティブ法等の湿式めっき法により形成されることが好ましい。湿式めっき法を用いて第2導体層440を形成することにより、所望の配線パターンを含む第2導体層440として形成することができる。なお、この工程により、ビアホール360内にビアホール内配線360aが併せて形成される。
【0171】
第1導体層420及び第2導体層440は、例えば後述する図13~15に一例を示すように、渦巻状に設けられていてもよい。一例において、第2導体層440の渦巻状の配線部のうちの中心側の一端はビアホール内配線360aにより第1導体層420の渦巻状の配線部のうちの中心側の一端に電気的に接続されている。第2導体層440の渦巻状の配線部のうちの外周側の他端はビアホール内配線360aにより第1導体層42のランド420aに電気的に接続されている。よって第2導体層440の渦巻状の配線部のうちの外周側の他端はビアホール内配線360a、ランド420a、スルーホール内配線220aを経て外部端子240に電気的に接続される。
【0172】
コイル状導電性構造体400は、第1導体層420の一部分である渦巻状の配線部、第2導体層440の一部分である渦巻状の配線部、第1導体層420の渦巻状の配線部と第2導体層440の渦巻状の配線部とを電気的に接続しているビアホール内配線360aにより構成されている。
【0173】
工程(iv)後、さらに導体層上に硬化物層を形成する工程を行ってもよい。詳細は、図14に一例を示すように、第2導体層440及びビアホール内配線360aが形成された第1硬化物層320上に第2硬化物層340を形成する。第2硬化物層は既に説明した工程と同様の工程により形成してもよい。以上の方法により、樹脂組成物の硬化物で形成された第1硬化物層320及び第2硬化物層340を含む回路基板100を製造することができる。
【0174】
[11.インダクタ基板]
インダクタ基板は、上述した回路基板を含む。このようなインダクタ基板は、上述した第一の例に係る回路基板の製造方法により得られた回路基板を含む場合、樹脂組成物の硬化物の周囲の少なくとも一部に導体によって形成されたインダクタパターンを有しうる。この場合、インダクタ基板は、例えば、第1金属層12、第2金属層13、めっき層20及びパターン導体層41の少なくとも一部で形成されたインダクタパターンと、このインダクタパターンに囲まれた硬化物30で形成された芯部とによって構成されるインダクタ素子を含みうる。このようなインダクタ基板は、例えば特開2016-197624号公報に記載のものを適用できる。
【0175】
また、第二の例に係る回路基板の製造方法により得られた回路基板を含む場合、インダクタ基板は、硬化物層と、この硬化物層に少なくとも一部分が埋め込まれた導電性構造体とを有しうる。そして、このインダクタ基板は、導電性構造体と、硬化物層の厚さ方向に延在し、かつ導電性構造体に囲まれた硬化物層のうちの一部分とによって構成されるインダクタ素子を含みうる。
【0176】
図13は、インダクタ基板が有する回路基板100をその厚さ方向の一方からみた模式的な平面図である。図14は、図13に示すII-II一点鎖線で示した位置で切断した回路基板100の切断端面を示す模式的な図である。図15は、インダクタ基板が含む回路基板100の第1導体層420の構成を説明するための模式的な平面図である。
【0177】
回路基板100は、図13及び図14に一例として示されるように、複数の硬化物層(第1硬化物層320、第2硬化物層340)及び複数の導体層(第1導体層420、第2導体層440)を有する、即ちビルドアップ硬化物層及びビルドアップ導体層を有するビルドアップ配線板でありうる。また、回路基板100は、内層基板200を備えている。
【0178】
図14に示すように、第1硬化物層320及び第2硬化物層340は一体的な硬化物層としてみることができる磁性部300を構成している。よってコイル状導電性構造体400は、磁性部300に少なくとも一部分が埋め込まれるように設けられている。すなわち、この例に示す回路基板100において、インダクタ素子はコイル状導電性構造体400と、磁性部300の厚さ方向に延在し、かつコイル状導電性構造体400に囲まれた磁性部300のうちの一部分である芯部によって構成されている。
【0179】
図15に一例として示されるように、第1導体層420はコイル状導電性構造体400を構成するための渦巻状の配線部と、スルーホール内配線220aと電気的に接続される矩形状のランド420aとを含んでいる。ここに示す例では、渦巻状の配線部は直線状部と直角に屈曲する屈曲部とランド420aを迂回する迂回部を含んでいる。また、第1導体層420の渦巻状の配線部は全体の輪郭が略矩形状であって、中心側からその外側に向かうにあたり反時計回りに巻いている形状を有している。
【0180】
同様に、第1硬化物層320上には第2導体層440が設けられている。第2導体層440はコイル状導電性構造体400を構成するための渦巻状の配線部を含んでいる。図13又は図14では渦巻状の配線部は直線状部と直角に屈曲する屈曲部とを含んでいる。図13又は図14では第2導体層44の渦巻状の配線部は全体の輪郭が略矩形状であって、中心側からその外側に向かうにあたり時計回りに巻いている形状を有している。
【0181】
上述したインダクタ基板は、半導体チップ等の電子部品を搭載するための配線板として用いることができ、かかる配線板を内層基板として使用した(多層)プリント配線板として用いることもできる。また、かかる配線板を個片化したチップインダクタ部品として用いることもでき、該チップインダクタ部品を表面実装したプリント配線板として用いることもできる。
【0182】
またかかる配線板を用いて、種々の態様の半導体装置を製造することができる。かかる配線板を含む半導体装置は、電気製品(例えば、コンピューター、携帯電話、デジタルカメラおよびテレビ等)および乗物(例えば、自動二輪車、自動車、電車、船舶および航空機等)等に好適に用いることができる。
【実施例
【0183】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。以下において、量を表す「部」及び「%」は、別途明示のない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。特に温度の指定が無い場合の温度条件及び圧力条件は、室温(25℃)及び大気圧(1atm)である。
【0184】
[実施例1]
FeNi合金粉a1(DOWAエレクトロニクス社製;Fe49.75%、Ni49.75%、B0.5%の合金;体積平均粒径3μm)150質量部、液状エポキシ樹脂a(「630」、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、三菱ケミカル製、エポキシ当量95g/eq.)1質量部、液状エポキシ樹脂b(「ZX-1059」、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合品、日鉄ケミカル&マテリアル社製、23℃における粘度2000mPa・s)3質量部、液状エポキシ樹脂c(「EP-4088S」、グリシジルエーテル型脂肪族エポキシ樹脂、ADEKA製、23℃における粘度230mPa・s)3質量部、及び、硬化促進剤(「2MZA-PW」、イミダゾール系硬化促進剤、四国化成社製)1質量部を混合し、高速回転ミキサーで均一に分散して、ペースト状の樹脂組成物1を得た。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物1の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a1は70体積%であった。
【0185】
[実施例2]
FeNi合金粉a1の代わりに、FeNi合金粉a2(DOWAエレクトロニクス社製;Fe49.75%、Ni49.75%、Si0.5%の合金;体積平均粒径3μm)150質量部を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法により、ペースト状の樹脂組成物2を製造した。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物2の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a2は70体積%であった。
【0186】
[実施例3]
FeNi合金粉a1の代わりに、FeNi合金粉a3(DOWAエレクトロニクス社製;Fe49.75%、Ni49.75%、P0.5%の合金;体積平均粒径3μm)150質量部を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法により、ペースト状の樹脂組成物3を製造した。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物3の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a3は70体積%であった。
【0187】
[実施例4]
FeNi合金粉a1の代わりに、FeNi合金粉a4(DOWAエレクトロニクス社製;Fe39.75%、Ni59.75%、B0.5%の合金;体積平均粒径3μm)150質量部を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法により、ペースト状の樹脂組成物4を製造した。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物4の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a4は70体積%であった。
【0188】
[実施例5]
FeNi合金粉a1の代わりに、FeNi合金粉a5(DOWAエレクトロニクス社製;Fe59.75%、Ni39.75%、B0.5%の合金;体積平均粒径3μm)150質量部を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法により、ペースト状の樹脂組成物5を製造した。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物5の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a5は70体積%であった。
【0189】
[実施例6]
FeNi合金粉a1の量を150質量部から100質量部に変更したこと以外は、実施例1と同じ方法により、ペースト状の樹脂組成物6を製造した。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物6の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a1は61体積%であった。
【0190】
[実施例7]
FeNi合金粉a1の量を150質量部から190質量部に変更したこと以外は、実施例1と同じ方法により、ペースト状の樹脂組成物7を製造した。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物7の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a1は75体積%であった。
【0191】
[実施例8]
FeNi合金粉a1の代わりに、FeNi合金粉a6(DOWAエレクトロニクス社製;Fe49.95%、Ni49.95%、B0.1%の合金;体積平均粒径3μm)150質量部を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法により、ペースト状の樹脂組成物8を製造した。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物8の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a6は70体積%であった。
【0192】
[実施例9]
FeNi合金粉a1の代わりに、FeNi合金粉a7(DOWAエレクトロニクス社製;Fe45%、Ni45%、B10%の合金;体積平均粒径3μm)150質量部を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法により、ペースト状の樹脂組成物9を製造した。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物9の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a7は70体積%であった。
【0193】
[実施例10]
液状エポキシ樹脂aの量を、1質量部から4.5質量部に変更した。また、液状エポキシ樹脂bの量を、3質量部から1.5質量部に変更した。さらに、液状エポキシ樹脂cの量を、3質量部から1質量部に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ方法により、ペースト状の樹脂組成物10を製造した。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物10の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a1は70体積%であった。
【0194】
[実施例11]
液状エポキシ樹脂aの量を、1質量部から0.4質量部に変更した。また、液状エポキシ樹脂bの量を、3質量部から3.3質量部に変更した。さらに、液状エポキシ樹脂cの量を、3質量部から3.3質量部に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ方法により、ペースト状の樹脂組成物11を製造した。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物11の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a1は70体積%であった。
【0195】
[実施例12]
FeNi合金粉a1の代わりに、FeNi合金粉a8(DOWAエレクトロニクス社製;Fe49.75%、Ni49.75%、B0.5%の合金;体積平均粒径5.5μm)150質量部を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法により、ペースト状の樹脂組成物12を製造した。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物12の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a8は70体積%であった。
【0196】
[比較例1]
FeNi合金粉a1の代わりに、FeNi合金粉a9(DOWAエレクトロニクス社製;Fe50%、Ni50%の合金;体積平均粒径3μm)150質量部を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法により、ペースト状の樹脂組成物13を製造した。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物13の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a9は70体積%であった。
【0197】
[比較例2]
FeNi合金粉a1の代わりに、FeNi合金粉a10(DOWAエレクトロニクス社製;Fe35%、Ni65%の合金;体積平均粒径3μm)150質量部を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法により、ペースト状の樹脂組成物14を製造した。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物14の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a10は70体積%であった。
【0198】
[比較例3]
FeNi合金粉a1の代わりに、FeNi合金粉a11(DOWAエレクトロニクス社製;Fe20%、Ni80%の合金;体積平均粒径3μm)150質量部を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法により、ペースト状の樹脂組成物15を製造した。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物15の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a11は70体積%であった。
【0199】
[比較例4]
FeNi合金粉a1の代わりに、FeNi合金粉a12(DOWAエレクトロニクス社製;Fe65%、Ni35%の合金;体積平均粒径3μm)150質量部を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法により、ペースト状の樹脂組成物16を製造した。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物16の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a12は70体積%であった。
【0200】
[比較例5]
液状エポキシ樹脂aを使用しなかった。また、液状エポキシ樹脂bの量を、3質量部から4質量部に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ方法により、ペースト状の樹脂組成物17を製造した。比重を用いて計算したところ、樹脂組成物17の不揮発成分100体積%に対して、FeNi合金粉a1は70体積%であった。
【0201】
[粘度の測定]
試料温度を23℃に保ち、E型粘度計(東機産業社製「RE-80U」、3°×R9.7ロータ)を用いて、測定サンプル量0.22ml、回転数5rpmの測定条件にて粘度測定を行った。
【0202】
[比透磁率及び磁性損失の測定]
支持体として、シリコン系離型剤処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(リンテック社製「PET501010」、厚さ50μm)を用意した。前記の実施例及び比較例で製造した各樹脂組成物を、上記PETフィルムの離型面上に、乾燥後の樹脂組成物層の厚みが100μmとなるよう、ドクターブレードにて均一に塗布して、磁性シートを得た。得られた磁性シートを180℃で90分間加熱することにより、樹脂組成物層を熱硬化した。その後、支持体を剥離することにより、シート状の硬化物を得た。得られた硬化物を、外形19mm、内径9mmのトロイダル型試験片に切断し、評価サンプルを得た。この評価サンプルの比透磁率(μ’)および虚部(μ’’)を、測定器(Keysight Technologies社製「16454A E4991B」)を用いて、測定周波数50MHz、室温23℃にて測定した。磁性損失は、μ’’/μ’より算出した。
【0203】
比透磁率を、以下の基準で評価した。
「良」:比透磁率が12以上。
「不良」:比透磁率が12未満。
【0204】
磁性損失を、以下の基準で評価した。
「良」:磁性損失が0.1未満。
「不良」:磁性損失が0.1以上。
【0205】
[研磨加工性の評価]
-評価基板の作製-
支持体として、表面に銅箔を有するガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板(銅箔の厚さ18μm、基板の厚さ0.8mm、パナソニック社製「R1515A」)を用意した。この支持体の表面の銅箔を、すべてエッチングして除去した。その後、190℃にて30分乾燥を行った。実施例及び比較例で製造した各樹脂組成物を、上記支持体上に、乾燥後の樹脂組成物層の厚みが200μmとなるよう、ドクターブレードにて均一に塗布し、磁性シートを得た。得られた磁性シートを190℃で90分間加熱することにより、樹脂組成物層を熱硬化して、シート状の硬化物を得た。
【0206】
―研磨加工性の評価―
研磨機(石井表記社製「NT-700IM」)を用いて、硬化物の表面を、一定の条件で一定の時間、バフ研磨した。研磨後の硬化物の厚みを膜厚計で測定し、下記の基準で評価した。厚みが小さいほど、研磨加工性に優れていることを表す。
「A」:研磨後の厚みが100μm未満。
「B」:研磨後の厚みが100μm以上150μm未満。
「C」:研磨後の厚みが150μm以上。
【0207】
[結果]
実施例及び比較例の結果を、下記の表1及び表2に示す。下記の表において、D50は、体積平均粒径を表す。
【0208】
【表1】
【0209】
【表2】
【0210】
[参考例1]
FeNi合金粉のX線回折スペクトルを測定した場合、一般に、面指数(0,0,2)において強いピークが観察される。よって、2θ=50.5~52.0°の範囲で観察されるピークの幅(積分幅)により、結晶構造の歪みを評価できる。そこで、添加元素によってFeNi合金の結晶構造の歪みが生じていることを確認するため、下記の実験を行った。下記の実験では、ピークの積分幅として、当該ピークの半値全幅を採用した。
【0211】
添加元素を含むFeNi合金粉a1のX線回折スペクトルを測定し、2θ=50.5~52.0°に現れるピークの積分幅w1を測定した。
添加元素を含まないFeNi合金粉a9のX線回折スペクトルを測定し、2θ=50.5~52.0°に現れるピークの積分幅w9を測定した。
積分幅の比w1/w9を計算したところ、1.28であり、FeNi合金粉a1の方がFeNi合金粉a9よりも積分幅が広くなっていた。この結果から、添加元素を含むことにより、FeNi合金粉の結晶構造に歪みが生じていることが確認された。本発明者は、この結晶構造の歪みが、上述した効果が得られる一因であると考える。
【符号の説明】
【0212】
1 回路基板
10 コア基板
11 支持基板
12 第1金属層
13 第2金属層
14 スルーホール
20 めっき層
21 研磨面の周囲の面
30 硬化物
30a 樹脂組成物
31 研磨された硬化物の面(研磨面)
40 導体層
41 パターン導体層
100 回路基板
200 内層基板
200a 第1主表面
200b 第2主表面
220 スルーホール
220a スルーホール内配線
240 外部端子
310 樹脂シート
320 第1硬化物層
320a 樹脂組成物層
330 支持体
360 ビアホール
360a ビアホール内配線
400 コイル状導電性構造体
420 第1導体層
420a ランド
440 第2導体層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15