(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物
(51)【国際特許分類】
H10K 50/16 20230101AFI20230920BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20230920BHJP
【FI】
H10K50/16
H10K85/60
(21)【出願番号】P 2020550391
(86)(22)【出願日】2019-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2019038173
(87)【国際公開番号】W WO2020071276
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018186680
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 美音
(72)【発明者】
【氏名】田中 達夫
(72)【発明者】
【氏名】片倉 利恵
(72)【発明者】
【氏名】北 弘志
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-200941(JP,A)
【文献】特開2015-213147(JP,A)
【文献】特開2008-041302(JP,A)
【文献】特開2006-066294(JP,A)
【文献】国際公開第2010/110280(WO,A1)
【文献】特開2012-033383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/16
H10K 85/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビアリール化合物、活性水素化合物及び有機溶媒Yを含有する有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物であって、
前記ビアリール化合物が分子内水素結合可能な基を含む下記一般式(1)で表される構造を有し、
前記活性水素化合物が水素結合可能な極性基を含む下記一般式(2)で表される構造を有し、かつ、
前記有機溶媒Yが室温で液状であり、
前記活性水素化合物は、炭素数が6以下のフッ素原子で置換されたアルコール類で
あり、
前記活性水素化合物の含有量が、前記混合組成物の総溶媒量に対して40質量%以下である有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物。
【化1】
一般式(2):Z-X
[一般式(1)において、A
1~A
5で表される環A及びB
1~B
5で表される環Bは、各々置換基を有していてもよい5員又は6員の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表し、少なくとも一方は芳香族複素環である。また、置換基同士が結合してさらに縮環を形成していてもよいが、環A上の置換基と環B上の置換基がそれぞれ結合し、縮合環を形成することはない。
A
1及びB
1は、炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子のいずれかを表し、少なくとも一方は窒素原子、酸素原子又は硫黄原子のいずれかを表す。
A
2~A
5及びB
2~B
5は、炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子のいずれかを表す。
n及びmは、1又は2の整数を表す。Lは、単結合、酸素原子又は窒素原子を表す。
一般式(2)において、Zは水素結合可能な極性基を表す。Xは、水素結合を阻害しない置換基を表す。]
【請求項2】
前記活性水素化合物の含有量が、前記混合組成物の総溶媒量に対して10質量%以下である請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物。
【請求項3】
前記有機溶媒Yが、水素結合性を示す水素原子を持たない有機化合物である請求項1
又は請求項
2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物に関し、特に、平面性の高い化合物を用いた場合でも、凝集が防止され、溶媒に対する溶解性を向上させることができる有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビやコンピューター等の映像表示部であるディスプレイは、現代社会において欠かすことのできない電子デバイスの一つとなっている。近年ではディスプレイの大型化や設置の自由度の向上といった要求が急速に高まっており、これに伴って有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELともいう。)素子の開発が活発化している。
有機EL素子は、構造が比較的単純で視野角にも富んだ自発光型の全固体発光素子であり、そのディスプレイの構成要素として理想的な特性から、今後更なる普及が見込まれている。
【0003】
従来、有機EL素子の製造には化学蒸着法や真空蒸着法といったドライプロセスが用いられてきたが、これらは大型の装置を必要とし、かつ真空環境が必要となるためコストがかさむといった問題があった。
そこで近年では代替手段として、溶液の塗布や印刷により機能膜を成膜する湿式塗布法(以下、塗布法という。)に注目が集まっている。中でも、大面積化が可能であり、高精細かつ高生産性、そして任意のパターンで有機EL素子の製造が可能である点で、インクジェット印刷法は最も期待されるプロセスの一つである。
【0004】
一方で、塗布法で成膜を行った場合、得られた膜(塗布膜)は蒸着法で得られた膜と比較して性能が劣ることが知られていた。この要因の一つには、一般的に有機EL素子に用いられる化合物は配向性を高くするために平面性が高く設計されており、分子間相互作用により凝集を生じやすいため、溶媒に対する溶解性が低くなることが挙げられる。例えば、性能の点で有機EL素子の電子輸送層に好適に用いられるオルトフェニルピリジン誘導体も、一般的な有機溶媒には溶けにくいことが知られている。
【0005】
この溶解性の問題を解決するため、フッ素原子で置換されたフッ化アルコールが従来、溶媒として用いられてきた(例えば、特許文献1及び2参照。)。フッ化アルコールは、有機EL素子の電子輸送層の下層、例えば発光層に用いられる化合物を溶解させない点でも好ましいとされている。ただし、この溶媒を溶媒としてインクジェット印刷法に用いた場合、溶液を吐出するヘッド部分の部材を膨潤させてしまうため、長期的に安定した射出ができないという問題が残されていた。
又は、平面性の高いテトラベンゾポルフィリン(BP)にエチレンを付加させた前駆体を用いることで溶解性を向上させた例が知られている。この前駆体は成膜後、180℃に高温加熱してBPに熱変換することにより結晶化し、優れた半導体特性を示すことが分かった(非特許文献1参照。)。しかしながら、有機EL素子に用いる基板は、薄型・軽量・柔軟性に優れる一方で耐熱性は低いため、高温での加熱は好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-216956号公報
【文献】特開2004-265672号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Columnar Structure in Bulk Heterojunction in Solution-processable Three-layered p-i-n Organic Photovoltaic Devices Using Tetrabenzoporphyrin Precursor and Silylmethyl[60]fullerene,Yutaka Matsuo et al.,J.Am.Chem.Soc.,2009,131(44),16048-16050
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、平面性の高い化合物を用いた場合でも、凝集が防止され、溶媒に対する溶解性を向上させることができ、インクジェット印刷法にも好適に用いることができる有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、平面性の高いビアリール化合物と、活性水素化合物との間に形成される水素結合を活用することによって、ビアリール化合物を溶解させた溶液が得られることを見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0010】
1.ビアリール化合物、活性水素化合物及び有機溶媒Yを含有する有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物であって、
前記ビアリール化合物が分子内水素結合可能な基を含む下記一般式(1)で表される構造を有し、
前記活性水素化合物が水素結合可能な極性基を含む下記一般式(2)で表される構造を有し、かつ、
前記有機溶媒Yが室温で液状であり、
前記活性水素化合物は、炭素数が6以下のフッ素原子で置換されたアルコール類で
あり、
前記活性水素化合物の含有量が、前記混合組成物の総溶媒量に対して40質量%以下である有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物。
【化1】
一般式(2):Z-X
[一般式(1)において、A
1~A
5で表される環A及びB
1~B
5で表される環Bは、各々置換基を有していてもよい5員又は6員の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表し、少なくとも一方は芳香族複素環である。また、置換基同士が結合してさらに縮環を形成していてもよいが、環A上の置換基と環B上の置換基がそれぞれ結合し、縮合環を形成することはない。
A
1及びB
1は、炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子のいずれかを表し、少なくとも一方は窒素原子、酸素原子又は硫黄原子のいずれかを表す。
A
2~A
5及びB
2~B
5は、炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子のいずれかを表す。
n及びmは、1又は2の整数を表す。Lは、単結合、酸素原子又は窒素原子を表す。
一般式(2)において、Zは水素結合可能な極性基を表す。Xは、水素結合を阻害しない置換基を表す。]
【0012】
2.前記活性水素化合物の含有量が、前記混合組成物の総溶媒量に対して10質量%以下である第1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物。
【0013】
3.前記有機溶媒Yが、水素結合性を示す水素原子を持たない有機化合物である第1項又は第2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の上記手段により、平面性の高い化合物を用いた場合でも、凝集が防止され、溶媒に対する溶解性を向上させることができ、インクジェット印刷法にも好適に用いることができる有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物を提供することができる。
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
通常、前記一般式(1)に示すような構造を有するビアリール化合物は分子内水素結合性を有するため、有機溶媒に対する溶解性は低い、又は不溶である。しかし、本発明のように、ビアリール化合物に活性水素化合物を添加することにより、疑似的に、ビアリール化合物と活性水素化合物との間に新たに水素結合が形成されるため、ビアリール化合物の環同士のねじれが増強される作用が働くことが予想される。その結果、ビアリール化合物同士の凝集が防げられることにより、分散した溶媒が得られることが推察される。
さらに、この水素結合による分子間相互作用は、溶媒の蒸発により解消され、元の化合物の構造に戻ることが可能であるため、従来技術のように基板を傷つけることがない。なお、このときの活性水素化合物はビアリール化合物に対して必要量存在していれば、ほかに別種の溶媒を含んでいてもよい。以上から、これまで溶解性の面で用いることのできなかった溶媒を用いることができることが示されたため、本発明は溶媒の選択性の拡大に大きく貢献しうる発明であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物は、ビアリール化合物、活性水素化合物及び有機溶媒Yを含有する有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物であって、前記ビアリール化合物が分子内水素結合可能な基を含む前記一般式(1)で表される構造を有し、前記活性水素化合物は、炭素数が6以下のフッ素原子で置換されたアルコール類であり、前記活性水素化合物の含有量が、前記混合組成物の総溶媒量に対して40質量%以下である。
この特徴は、下記各実施形態に共通又は対応する技術的特徴である。
【0017】
本発明の実施態様としては、従来、溶解性の観点で用いることのできなかったインクジェットプロセスに適した溶媒を製造プロセスに用いる場合でも、前記混合組成物の総溶媒量に対し、前記活性水素化合物を40質量%以下とすることで、ビアリール化合物に対する溶解性を維持しつつもヘッドを損傷させない、インクジェット印刷法に適した混合溶媒が得られる点で好ましい。特に、前記活性水素化合物の含有量は、混合組成物の総溶媒量に対して10質量%以下であることが好ましい。さらに、溶液中での溶解性の維持のためには、1%質量以上であることがより好ましい。
また、前記有機溶媒Yが、水素結合性を示す水素原子を持たない有機化合物であることが、含窒素芳香族複素環化合物と活性水素化合物の相互作用を阻害しない点で好ましい。
【0018】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0019】
[本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物の概要]
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物(以下、単に、混合組成物ともいう。)は、ビアリール化合物、活性水素化合物及び有機溶媒Yを含有する有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物であって、前記ビアリール化合物が分子内水素結合可能な基を含む下記一般式(1)で表される構造を有し、前記活性水素化合物が水素結合可能な極性基を含む下記一般式(2)で表される構造を有し、かつ、前記有機溶媒Yが室温で液状である。
【0020】
<活性水素化合物>
本願において、「活性水素化合物」とは、下記一般式(1)で表される構造を有するビアリール化合物の共存下で、当該ビアリール化合物と相互作用し得る水素原子、例えば、電気陰性度の大きな酸素(O)や窒素(N)などに結合した水素原子のような水素結合を形成し得る活性水素原子を有する化合物をいう。
具体的には、アルコール、フェノール、カルボン酸、第一級又は第二級アミン化合物、活性メチレン化合物等の、遊離しやすい形の水素原子を分子内に持つ化合物が該当する。特に、本発明に係る活性水素化合物は、水素結合可能な極性基を含む下記一般式(2)で表される構造を有する。
一般式(2):Z-X
[一般式(2)において、Zは水素結合可能な極性基を表す。Xは、水素結合を阻害しない置換基を表す。]
【0021】
前記一般式(2)において、Zは水素結合可能な極性基を表し、極性基としては、ヒドロキシ基、カルボニル基、アミノ基等が挙げられる。Xは、水素結合を阻害しない置換基を表し、置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、アリール基(フェニル基、ベンジル基、トリル基、ナフチル)等が挙げられ、これらは全て置換されていてもよい。
【0022】
一般に、炭素原子に結合している水素原子は反応性に乏しいが、窒素や酸素、硫黄などの原子に結合した水素は反応性が高くなる。
前記一般式(2)で表される構造を有する活性水素化合物としては、メタノール、エタノール等のアルコール類が挙げられ、炭素数が6以下であることが好ましい。
また、フッ素原子で置換されたアルコール類(フッ化アルコール)であることがより好ましく、例えば2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール(TFPO)、2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール(PFPO)、2-トリフルオロメチル-2-プロパノール(TFMPO)、2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロ-1-ブタノール(HFBO)、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロ-1-ペンタノール(OFPO)、2,3-ジフルオロベンジルアルコール(DFBA)、2,2,2-トリフルオロエタノール(TFEO)、1,3-ジフルオロプロパン-2-オール(DFPO)、1H,1H-ペンタデカフルオロ-1-オクタノール(PDFOO)、1H,1H、2H,2H-トリデカフルオロ-1-n-オクタノール(TDFOO)、1H,1H,7H-ドデカフルオロ-1-ヘプタノール(DFHO)、1H,1H,9H-ヘキサデカフルオロ-1-ノナノール(DFHO)、1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロ-1-デカノール(HDFDO)、2-パーフルオロへキシルエタノール(PFHEO)等が挙げられる。
【0023】
さらに、前記活性水素化合物に、下記一般式(1)で表される構造を有するビアリール化合物を添加させてプロトンNMRで測定した際、活性水素化合物のうち少なくとも一つのHを表すプロトンNMRのケミカルシフトが、ビアリール化合物が存在しない系に比べ、ビアリール化合物の存在下では低磁場側にシフトしていることが好ましく、低磁場側に0.2ppm以上シフトしているものがより好ましい。
【0024】
また、NMRのケミカルシフトの変化も観測され、かつ溶解性の向上も確認されることから、ビアリール化合物に対して活性水素化合物はモル数で20倍以上を含むことが好ましい。
【0025】
なお、前記活性水素化合物は、本発明において前記有機溶媒Yとともに溶媒として用いられる。
【0026】
<ビアリール化合物>
本発明におけるビアリール化合物は、分子内水素結合可能な基を含む下記一般式(1)で表される構造を有する。
【0027】
【化2】
[一般式(1)において、A
1~A
5で表される環A及びB
1~B
5で表される環Bは、各々置換基を有していてもよい5員又は6員の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表し、少なくとも一方は芳香族複素環である。また、置換基同士が結合してさらに縮環を形成していてもよいが、環A上の置換基と環B上の置換基がそれぞれ結合し、縮合環を形成することはない。
A
1及びB
1は、炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子のいずれかを表し、少なくとも一方は窒素原子、酸素原子又は硫黄原子のいずれかを表す。
A
2~A
5及びB
2~B
5は、炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子のいずれかを表す。
n及びmは、1又は2の整数を表す。Lは、単結合、酸素原子又は窒素原子を表す。
一般式(2)において、Zは水素結合可能な極性基を表す。Xは、水素結合を阻害しない置換基を表す。]
【0028】
前記一般式(1)において、A1~A5で表される環A及びB1~B5で表される環Bは、各々置換基を有していてもよい5員又は6員の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表し、少なくとも一方は芳香族複素環である。
前記芳香族炭化水素環又は芳香族複素環としては、例えば、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o-ターフェニル環、m-ターフェニル環、p-ターフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、インデン環、フルオレン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピレン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環、テトラリン環、フラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ジベンゾチオフェン環、オキサゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノリン環、イソキノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、カルバゾール環、カルボリン環、ジアザカルバゾール環等から導出される基等が挙げられる。
【0029】
一般式(1)で表される構造を有するビアリール化合物は、環Aのオルト位に有する-L-H基と、環Bのオルト位にあたるB1又はB1が有する水素原子との間で、分子内水素結合が可能な構造を有する。この分子内水素結合が形成されることにより、環Aと環Bが同一平面上に存在し平面性の高い分子構造となる。
具体的な例としては、例えば下記に示す2例が挙げられる。
【0030】
【0031】
一般的に、平面性が高い化合物は分子間で相互作用が起こりやすく、成膜時には配向しやすい傾向がある。配向することにより、特に芳香族環で構成される化合物の場合は、分子間のキャリアホッピングが起こりやすくなる等の効果が期待でき、有機ELのように電荷輸送性が求められる有機薄膜においては好ましい性能が得られやすい。
一方で、平面性の高い化合物は凝集しやすく溶媒に溶けにくいという傾向もある。特に芳香族環を多数有する化合物ではその傾向が強い。そのため溶媒の選択肢が狭く、所望の溶媒を使用できない場合があり、塗布プロセスに対して大きな課題である。
そこで本発明においては、分子内水素結合性を有する平面性の高いビアリール化合物と、活性水素化合物との間で形成される水素結合を活用することによって、所望の溶媒を用いた前記ビアリール化合物の溶液を得ることが可能となった。これによりの溶媒を使用することが可能となり、塗布プロセスへの適正を高めることができた。
【0032】
本発明におけるビアリール化合物の溶解性向上技術の思想を、本発明の一般式(1)で表されるビアリール化合物の具体例(1-1)と、同じく一般式(2)で表される活性水素化合物の具体例TFPOを用いて説明する。
【0033】
下記(A)に示すように、水素結合性を示す水素原子を持たない有機溶媒Y中のビアリール化合物(1-1)は、弱い分子内水素結合によってフェニルピリジン部位が平面構造を取っている。このため、溶媒分子に対する親和性よりもビアリール化合物(1-1)同士の分子間相互作用が強く、有機溶媒Yに対して低い溶解性又は不溶である。
【0034】
しかし、活性水素化合物であるTFPOを添加すると、下記(B)に示すように、ビアリール化合物(1-1)とTFPOとの間で新たに水素結合が形成され、疑似的にビアリール化合物(1-1)のオルト位にTFPOが付加した状態となると考えられる。そのため、ビアリール化合物(1-1)の平面性が崩れ、さらには付加したTFPOの立体障害によりベンゼン環とピリジン環とがねじれが増強される作用が働く。これによりビアリール化合物(1-1)間の分子間相互作用が弱まり、有機溶媒Y中に分散した溶液が得ることができたと推測する。
【0035】
(B)で調製した本発明の混合組成物を用いて塗布製膜し乾燥させると、下記(C)に示すように、溶媒分子は膜中から除去される。そのため、ビアリール化合物(1-1)は、再び分子内水素結合が可能となり、平面性の高い状態で膜中に存在できる。また、TFPOはビアリール化合物(1-1)と水素結合しているのでゆっくりと除去されるため、結果、ビアリール化合物(1-1)が成膜時に急激に凝集し結晶化することを抑えていると考えられる。
【0036】
【0037】
<DFT計算>
密度汎関数法(Density functional theory:DFT)とは、物質の電子エネルギーを電子密度の汎関数として表す理論であり、特性の計算に幅広く応用される、第一原理計算手法の一つである。本発明では、ビアリール化合物のみ、又はビアリール化合物と溶媒分子が相互作用している系についてDFT計算を行って得られた最適化構造から、一般式(1)中の環A及び環Bの二面角を算出することで、化合物の立体構造を検討した。
なお、立体構造の検討にDFT計算による二面角を利用する手法は、下記非特許文献2中にも記載されている。
非特許文献2:Helical Self-Organization and Hierarchical Self-Assembly of an Oligoheterocyclic Pyridine-Pyridazine Strand into Extended Supramolecular Fibers,Louis A.Cuccia et al.,Chem.Eur.J.2002,8,No.15
【0038】
以下の表Iに、下記に示すA-1、A-2、B-1のビアリール化合物について矢印で示した位置にTFPOを配位させる前後の構造でDFT計算を行い、得られた環A及び環B間の二面角の角度変化を示す。
分子軌道計算用ソフトウェアとして、米国Gaussian社製のGaussian09(Revision D.01,M.J.Frisch,et al,Gaussian,Inc.,2010.)を用い、密度汎関数にはB3LPY、基底関数には6-31G(d)を用いた。なお、化合物B-1については数種類の構造から分子構造の最適化を行い、最もエネルギーが低い安定構造を初期構造として選択した。
【0039】
【0040】
【0041】
表Iの二面角の角度変化より、前述した分子内相互作用が働くと考えられる化合物A-1,A-2の場合に、TFPOが少なくとも化合物の周辺に1分子存在することにより、ピリジン環とベンゼン環のねじれが増強され、凝集の要因となる平面性が低下していることが示された。溶媒分子が付加された形態となることで立体障害が働くのと同様の効果が得られた結果、化合物同士の凝集が生じにくくなり、溶媒分子に対する分散性が向上するため、溶解性が向上すると考えられる。
【0042】
また、本発明において、前記ビアリール化合物として好ましい例示化合物を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
<有機溶媒Y>
本発明における有機溶媒Yは、室温(25℃)で液状であり、水素結合性を示す水素原子を持たない有機化合物である。
また、前記有機溶媒Yは、本発明において前記活性水素化合物とともに溶媒として用いられる。
前記有機溶媒Yとしては、例えば、非プロトン性の溶媒であるクロロホルム、トルエン、重クロロホルム、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリルなどが好ましい。
【0047】
[有機EL素子の構成]
本発明の有機EL素子用の混合組成物を用いて製造される有機EL素子における代表的な素子構成としては、以下の構成を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(i)陽極/発光層/陰極
(ii)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(iii)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(iv)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(v)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(vi)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(vii)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/(電子阻止層/)発光層/(正孔阻止層/)電
子輸送層/電子注入層/陰極
上記の中で(vii)の構成が好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。
【0048】
本発明に係る発光層は、単層又は複数層で構成されており、発光層が複数の場合は各発光層の間に非発光性の中間層を設けてもよい。必要に応じて、発光層と陰極との間に正孔阻止層(正孔障壁層ともいう)や電子注入層(陰極バッファー層ともいう)を設けてもよく、また、発光層と陽極との間に電子阻止層(電子障壁層ともいう)や正孔注入層(陽極バッファー層ともいう)を設けてもよい。
本発明に係る電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する層であり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。また、複数層で構成されていてもよい。
本発明に係る正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する層であり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。また、複数層で構成されていてもよい。
上記の代表的な素子構成において、陽極と陰極を除いた層を「有機層」ともいう。
【0049】
(タンデム構造)
また、本発明に係る有機EL素子は、少なくとも1層の発光層を含む発光ユニットを複数積層した、いわゆるタンデム構造の素子であってもよい。
タンデム構造の代表的な素子構成としては、例えば以下の構成を挙げることができる。
陽極/第1発光ユニット/第2発光ユニット/第3発光ユニット/陰極
陽極/第1発光ユニット/中間層/第2発光ユニット/中間層/第3発光ユニット/陰極
ここで、上記第1発光ユニット、第2発光ユニット及び第3発光ユニットは全て同じであっても、異なっていてもよい。また二つの発光ユニットが同じであり、残る一つが異なっていてもよい。
また、第3発光ユニットはなくてもよく、一方で第3発光ユニットと電極の間にさらに発光ユニットや中間層を設けてもよい。
【0050】
複数の発光ユニットは直接積層されていても、中間層を介して積層されていてもよく、中間層は、一般的に中間電極、中間導電層、電荷発生層、電子引抜層、接続層、中間絶縁層とも呼ばれ、陽極側の隣接層に電子を、陰極側の隣接層に正孔を供給する機能を持った層であれば、公知の材料及び構成を用いることができる。
【0051】
中間層に用いられる材料としては、例えば、ITO(インジウム・スズ酸化物)、IZO(インジウム・亜鉛酸化物)、ZnO2、TiN、ZrN、HfN、TiOx、VOx、CuI、InN、GaN、CuAlO2、CuGaO2、SrCu2O2、LaB6、RuO2、Al等の導電性無機化合物層や、Au/Bi2O3等の2層膜や、SnO2/Ag/SnO2、ZnO/Ag/ZnO、Bi2O3/Au/Bi2O3、TiO2/TiN/TiO2、TiO2/ZrN/TiO2等の多層膜、またC60等のフラーレン類、オリゴチオフェン等の導電性有機物層、金属フタロシアニン類、無金属フタロシアニン類、金属ポルフィリン類、無金属ポルフィリン類等の導電性有機化合物層等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0052】
発光ユニット内の好ましい構成としては、例えば上記の代表的な素子構成で挙げた(i)~(vii)の構成から、陽極と陰極を除いたもの等が挙げられるが、本発明はこれらに
限定されない。
【0053】
タンデム型有機EL素子の具体例としては、例えば、米国特許第6337492号、米国特許第7420203号、米国特許第7473923号、米国特許第6872472号、米国特許第6107734号、米国特許第6337492号、国際公開第2005/009087号、特開2006-228712号、特開2006-24791号、特開2006-49393号、特開2006-49394号、特開2006-49396号、特開2011-96679号、特開2005-340187号、特許第4711424号、特許第3496681号、特許第3884564号、特許第4213169号、特開2010-192719号、特開2009-076929号、特開2008-078414号、特開2007-059848号、特開2003-272860号、特開2003-045676号、国際公開第2005/094130号等に記載の素子構成や構成材料等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0054】
以下、本発明に係る有機EL素子を構成する各層について説明する。
《発光層》
本発明に係る発光層は、電極又は隣接層から注入されてくる電子及び正孔が再結合し、励起子を経由して発光する場を提供する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても、発光層と隣接層との界面であってもよい。本発明に係る発光層は、本発明で規定する要件を満たしていれば、その構成に特に制限はない。
発光層の厚さの総和は、特に制限はないが、形成する層の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、かつ、駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、2nm~5μmの範囲内に調整することが好ましく、より好ましくは2~500nmの範囲内に調整され、さらに好ましくは5~200nmの範囲内に調整される。
また、個々の発光層の厚さとしては、2nm~1μmの範囲内に調整することが好ましく、より好ましくは2~200nmの範囲内に調整され、さらに好ましくは3~150nmの範囲に調整される。
【0055】
発光層には、発光ドーパント(発光性ドーパント化合物、ドーパント化合物、単にドーパントともいう。)と、ホスト化合物(マトリックス材料、発光ホスト化合物、単にホストともいう。)と、を含有することが好ましい。
【0056】
(1)発光ドーパント
発光ドーパントとしては、蛍光発光性ドーパント(蛍光ドーパント、蛍光性化合物ともいう)と、リン光発光性ドーパント(リン光ドーパント、リン光性化合物ともいう)が好ましく用いられる。本発明においては、少なくとも1層の発光層がリン光発光ドーパントを含有することが好ましい。
発光層中の発光ドーパントの濃度については、使用される特定のドーパント及びデバイスの必要条件に基づいて、任意に決定することができ、発光層の膜厚方向に対し、均一な濃度で含有されていてもよく、また任意の濃度分布を有していてもよい。
また、本発明に係る発光ドーパントは、複数種を併用して用いてもよく、構造の異なるドーパント同士の組み合わせや、蛍光発光性ドーパントとリン光発光性ドーパントとを組み合わせて用いてもよい。これにより、任意の発光色を得ることができる。
【0057】
本発明に係る有機EL素子の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の
図4.16において、分光放射輝度計CS-1000(コニカミノルタ(株)製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
本発明においては、1層又は複数層の発光層が、発光色の異なる複数の発光ドーパントを含有し、白色発光を示すことも好ましい。
白色を示す発光ドーパントの組み合わせについては特に限定はないが、例えば青と橙や、青と緑と赤の組み合わせ等が挙げられる。
本発明に係る有機EL素子における白色とは、特に限定はなく、橙色寄りの白色であっても青色寄りの白色であってもよいが、2度視野角正面輝度を前述の方法により測定した際に、1000cd/m
2でのCIE1931表色系における色度がx=0.39±0.09、y=0.38±0.08の領域内にあることが好ましい。
【0058】
(1.1)リン光発光性ドーパント
本発明に係るリン光発光性ドーパント(以下、「リン光ドーパント」ともいう。)について説明する。
本発明に係るリン光ドーパントは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には、室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。
【0059】
上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明に係るリン光ドーパントは、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
リン光ドーパントの発光は原理としては2種挙げられ、一つはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こってホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーをリン光ドーパントに移動させることでリン光ドーパントからの発光を得るというエネルギー移動型である。もう一つはリン光ドーパントがキャリアトラップとなり、リン光ドーパント上でキャリアの再結合が起こりリン光ドーパントからの発光が得られるというキャリアトラップ型である。いずれの場合においても、リン光ドーパントの励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。
【0060】
本発明において使用できるリン光ドーパントとしては、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
本発明に使用できる公知のリン光ドーパントの具体例としては、以下の文献に記載されている化合物等が挙げられる。
Nature 395,151 (1998)、Appl. Phys. Lett. 78, 1622 (2001)、Adv. Mater. 19, 739 (2007)、Chem. Mater. 17, 3532 (2005)、Adv. Mater. 17,1059 (2005)、国際公開第2009/100991号、国際公開第2008/101842号、国際公開第2003/040257号、米国特許公開第2006/835469号、米国特許公開第2006/0202194号、米国特許公開第2007/0087321号、米国特許公開第2005/0244673号、Inorg. Chem. 40, 1704 (2001)、Chem. Mater. 16, 2480 (2004)、Adv. Mater. 16, 2003 (2004)、Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 7800、Appl.Phys. Lett. 86, 153505 (2005)、Chem. Lett. 34, 592 (2005)、Chem. Commun. 2906 (2005)、Inorg. Chem. 42, 1248 (2003)、国際公開第2009/050290号、国際公開第2002/015645号、国際公開第2009/000673号、米国特許公開第2002/0034656号、米国特許第7332232号、米国特許公開第2009/0108737号、米国特許公開第2009/0039776号、米国特許第6921915号、米国特許第6687266号、米国特許公開第2007/0190359号、米国特許公開第2006/0008670号、米国特許公開第2009/0165846号、米国特許公開第2008/0015355号、米国特許第7250226号、米国特許第7396598号、米国特許公開第2006/0263635号、米国特許公開第2003/0138657号、米国特許公開第2003/0152802号、米国特許第7090928号、Angew. Chem. Int. Ed. 47, 1 (2008)、Chem. Mater. 18, 5119 (2006)、Inorg. Chem. 46, 4308(2007)、Organometallics 23, 3745 (2004)、Appl. Phys. Lett. 74, 1361 (1999)、国際公開第2002/002714号、国際公開第2006/009024号、国際公開第2006/056418号、国際公開第2005/019373号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2007/004380号、国際公開第2006/082742号、米国特許公開第2006/0251923号、米国特許公開第2005/0260441号、米国特許第7393599号、米国特許第7534505号、米国特許第7445855号、米国特許公開第2007/0190359号、米国特許公開第2008/0297033号、米国特許第7338722号、米国特許公開第2002/0134984号、米国特許第7279704号、米国特許公開第2006/098120号、米国特許公開第2006/103874号、国際公開第2005/076380号、国際公開第2010/032663号、国際公開第2008140115号、国際公開第2007/052431号、国際公開第2011/134013号、国際公開第2011/157339号、国際公開第2010/086089号、国際公開第2009/113646号、国際公開第2012/020327号、国際公開第2011/051404号、国際公開第2011/004639号、国際公開第2011/073149号、米国特許公開第2012/228583号、米国特許公開第2012/212126号、特開2012-069737号、特開2012-195554号、特開2009-114086号、特開2003-81988号、特開2002-302671号、特開2002-363552号等である。
【0061】
中でも、好ましいリン光ドーパントとしてはIrを中心金属に有する有機金属錯体が挙げられる。さらに好ましくは、金属-炭素結合、金属-窒素結合、金属-酸素結合、金属-硫黄結合の少なくとも一つの配位様式を含む錯体が好ましい。
【0062】
(1.2)蛍光発光性ドーパント
本発明に係る蛍光発光性ドーパント(以下、「蛍光ドーパント」ともいう)について説明する。
本発明に係る蛍光ドーパントは、励起一重項からの発光が可能な化合物であり、励起一重項からの発光が観測される限り特に限定されない。
本発明に係る蛍光ドーパントとしては、例えば、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、クリセン誘導体、フルオランテン誘導体、ペリレン誘導体、フルオレン誘導体、アリールアセチレン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、スチリルアミン誘導体、アリールアミン誘導体、ホウ素錯体、クマリン誘導体、ピラン誘導体、シアニン誘導体、クロコニウム誘導体、スクアリウム誘導体、オキソベンツアントラセン誘導体、フルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体、ピリリウム誘導体、ペリレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、又は希土類錯体系化合物等が挙げられる。
【0063】
また、近年では遅延蛍光を利用した発光ドーパントも開発されており、これらを用いてもよい。
遅延蛍光を利用した発光ドーパントの具体例としては、例えば、国際公開第2011/156793号、特開2011-213643号、特開2010-93181号等に記載の化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0064】
(2)ホスト化合物
本発明に係るホスト化合物は、発光層において主に電荷の注入及び輸送を担う化合物であり、有機EL素子においてそれ自体の発光は実質的に観測されない。
好ましくは室温(25℃)においてリン光発光のリン光量子収率が、0.1未満の化合物であり、さらに好ましくはリン光量子収率が0.01未満の化合物である。また、発光層に含有される化合物の内で、その層中での質量比が20%以上であることが好ましい。
また、ホスト化合物の励起状態エネルギーは、同一層内に含有される発光ドーパントの励起状態エネルギーよりも高いことが好ましい。
【0065】
ホスト化合物は、単独で用いてもよく、又は複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。
本発明で用いることができるホスト化合物としては、特に制限はなく、従来有機EL素子で用いられる化合物を用いることができる。低分子化合物でも繰り返し単位を有する高分子化合物でもよく、また、ビニル基やエポキシ基のような反応性基を有する化合物でもよい。
【0066】
公知のホスト化合物としては、正孔輸送能又は電子輸送能を有しつつ、かつ、発光の長波長化を防ぎ、さらに、有機EL素子を高温駆動時や素子駆動中の発熱に対して安定して動作させる観点から、高いガラス転移温度(Tg)を有することが好まし。好ましくはTgが90℃以上であり、より好ましくは120℃以上である。
ここで、ガラス転移点(Tg)とは、DSC(Differential Scanning Calorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS-K-7121に準拠した方法により求められる値である。
【0067】
本発明における有機EL素子に用いられる、公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
特開2001-257076号公報、同2002-308855号公報、同2001-313179号公報、同2002-319491号公報、同2001-357977号公報、同2002-334786号公報、同2002-8860号公報、同2002-334787号公報、同2002-15871号公報、同2002-334788号公報、同2002-43056号公報、同2002-334789号公報、同2002-75645号公報、同2002-338579号公報、同2002-105445号公報、同2002-343568号公報、同2002-141173号公報、同2002-352957号公報、同2002-203683号公報、同2002-363227号公報、同2002-231453号公報、同2003-3165号公報、同2002-234888号公報、同2003-27048号公報、同2002-255934号公報、同2002-260861号公報、同2002-280183号公報、同2002-299060号公報、同2002-302516号公報、同2002-305083号公報、同2002-305084号公報、同2002-308837号公報、米国特許公開第2003/0175553号、米国特許公開第2006/0280965号、米国特許公開第2005/0112407号、米国特許公開第2009/0017330号、米国特許公開第2009/0030202号、米国特許公開第2005/0238919号、国際公開第2001/039234号、国際公開第2009/021126号、国際公開第2008/056746号、国際公開第2004/093207号、国際公開第2005/089025号、国際公開第2007/063796号、国際公開第2007/063754号、国際公開第2004/107822号、国際公開第2005/030900号、国際公開第2006/114966号、国際公開第2009/086028号、国際公開第2009/003898号、国際公開第2012/023947号、特開2008-074939号、特開2007-254297号、EP2034538、等である。
【0068】
《電子輸送層》
本発明において電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する材料からなり、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。
本発明における電子輸送層の総膜厚については特に制限はないが、通常は2nm~5μmの範囲内であり、より好ましくは2~500nmの範囲内であり、さらに好ましくは5~200nmの範囲内である。
【0069】
電子輸送層に用いられる材料(以下、電子輸送材料という。)としては、電子の注入性又は輸送性、正孔の障壁性のいずれかを有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
例えば、含窒素芳香族複素環誘導体(カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体(カルバゾール環を構成する炭素原子の一つ以上が窒素原子に置換されたもの)、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリダジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、アザトリフェニレン誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体等)、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、シロール誘導体、芳香族炭化水素環誘導体(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、トリフェニレン等)等が挙げられる。
【0070】
また、配位子にキノリノール骨格やジベンゾキノリノール骨格を有する金属錯体、例えば、トリス(8-キノリノール)アルミニウム(Alq3)、トリス(5,7-ジクロロ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7-ジブロモ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(2-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、ビス(8-キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。
【0071】
その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様にn型-Si、n型-SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
また、これらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0072】
本発明に係る電子輸送層においては、電子輸送層にドープ材をゲスト材料としてドープして、n性の高い(電子リッチ)電子輸送層を形成してもよい。ドープ材としては、金属錯体やハロゲン化金属など金属化合物等のn型ドーパントが挙げられる。このような構成の電子輸送層の具体例としては、例えば、特開平4-297076号公報、同10-270172号公報、特開2000-196140号公報、同2001-102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等の文献に記載されたものが挙げられる。
【0073】
本発明に係る有機EL素子に用いられる、公知の好ましい電子輸送材料の具体例としては、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
米国特許第6528187号、米国特許第7230107号、米国特許公開第2005/0025993号、米国特許公開第2004/0036077号、米国特許公開第2009/0115316号、米国特許公開第2009/0101870号、米国特許公開第2009/0179554号、国際公開第2003/060956号、国際公開第2008/132085号、Appl. Phys. Lett. 75, 4 (1999)、Appl. Phys. Lett. 79, 449 (2001)、Appl. Phys.Lett. 81, 162 (2002)、Appl. Phys. Lett. 81, 162 (2002)、Appl. Phys. Lett. 79, 156 (2001)、米国特許第7964293号、米国特許公開第2009/030202号、国際公開第2004/080975号、国際公開第2004/063159号、国際公開第2005/085387号、国際公開第2006/067931号、国際公開第2007/086552号、国際公開第2008/114690号、国際公開第2009/069442号、国際公開第2009/066779号、国際公開第2009/054253号、国際公開第2011/086935号、国際公開第2010/150593号、国際公開第2010/047707号、EP2311826号、特開2010-251675号、特開2009-209133号、特開2009-124114号、特開2008-277810号、特開2006-156445号、特開2005-340122号 、特開2003-45662号、特開2003-31367号、特開2003-282270号、国際公開第2012/115034号、等である。
【0074】
本発明におけるより好ましい電子輸送材料としては、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、トリアジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体が挙げられる。
電子輸送材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0075】
《正孔阻止層》
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有する層であり、好ましくは電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が小さい材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、前述する電子輸送層の構成を必要に応じて、本発明に係る正孔阻止層として用いることができる。
前記正孔阻止層は、発光層の陰極側に隣接して設けられることが好ましい。
また、正孔阻止層の膜厚としては、好ましくは3~100nmの範囲内であり、さらに好ましくは5~30nmの範囲内である。
正孔阻止層に用いられる材料としては、前述の電子輸送層に用いられる材料が好ましく用いられ、また、前述のホスト化合物として用いられる材料も正孔阻止層に好ましく用いられる。
【0076】
《電子注入層》
本発明に係る電子注入層(「陰極バッファー層」ともいう)とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陰極と発光層との間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)に詳細に記載されている。
本発明において電子注入層は必要に応じて設け、上記のように陰極と発光層との間、又は陰極と電子輸送層との間に存在させてもよい。
電子注入層はごく薄い膜であることが好ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1~5nmの範囲内が好ましい。また構成材料が断続的に存在する不均一な膜であってもよい。
【0077】
電子注入層は、特開平6-325871号公報、同9-17574号公報、同10-74586号公報等にもその詳細が記載されており、電子注入層に好ましく用いられる材料の具体例としては、ストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等に代表されるアルカリ金属化合物、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等に代表されるアルカリ土類金属化合物、酸化アルミニウムに代表される金属酸化物、リチウム8-ヒドロキシキノレート(Liq)等に代表される金属錯体等が挙げられる。また、前述の電子輸送材料を用いることも可能である。
また、上記の電子注入層に用いられる材料は単独で用いてもよく、複数種を併用して用いてもよい。
【0078】
《正孔輸送層》
本発明において正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する材料からなり、陽極より注入された正孔を発光層に伝達する機能を有していればよい。
前記正孔輸送層の総膜厚については特に制限はないが、通常は5nm~5μmの範囲内であり、より好ましくは2~500nmの範囲内であり、さらに好ましくは5~200nmの範囲内である。
【0079】
正孔輸送層に用いられる材料(以下、正孔輸送材料という)としては、正孔の注入性又は輸送性、電子の障壁性のいずれかを有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
例えば、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、イソインドール誘導体、アントラセンやナフタレン等のアセン系誘導体、フルオレン誘導体、フルオレノン誘導体、及びポリビニルカルバゾール、芳香族アミンを主鎖又は側鎖に導入した高分子材料又はオリゴマー、ポリシラン、導電性ポリマー又はオリゴマー(例えばPEDOT:PSS、アニリン系共重合体、ポリアニリン、ポリチオフェン等)等が挙げられる。
【0080】
トリアリールアミン誘導体としては、α-NPDに代表されるベンジジン型や、MTDATAに代表されるスターバースト型、トリアリールアミン連結コア部にフルオレンやアントラセンを有する化合物等が挙げられる。
また、特表2003-519432号公報や特開2006-135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体も同様に正孔輸送材料として用いることができる。
さらに不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4-297076号公報、特開2000-196140号公報、同2001-102175号公報の各公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
また、特開平11-251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような、いわゆるp型正孔輸送材料やp型-Si、p型-SiC等の無機化合物を用いることもできる。さらにIr(ppy)3に代表されるような中心金属にIrやPtを有するオルトメタル化有機金属錯体も好ましく用いられる。
正孔輸送材料としては、上記のものを使用することができるが、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、アザトリフェニレン誘導体、有機金属錯体、芳香族アミンを主鎖又は側鎖に導入した高分子材料又はオリゴマー等が好ましく用いられる。
【0081】
本発明に係る有機EL素子に用いられる、公知の好ましい正孔輸送材料の具体例としては、上記で挙げた文献の他、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
例えば、Appl. Phys. Lett. 69, 2160 (1996)、J. Lumin. 72-74, 985 (1997)、Appl. Phys. Lett. 78, 673 (2001)、Appl. Phys. Lett. 90, 183503(2007)、Appl. Phys. Lett. 90, 183503 (2007)、Appl. Phys. Lett. 51, 913 (1987)、Synth. Met. 87, 171 (1997)、Synth. Met. 91, 209 (1997)、Synth. Met. 111,421 (2000)、SID SymposiumDigest, 37, 923 (2006)、J. Mater. Chem. 3, 319 (1993)、Adv. Mater. 6, 677 (1994)、Chem. Mater. 15,3148 (2003)、米国特許公開第2003/0162053号、米国特許公開第2002/0158242号、米国特許公開第2006/0240279号、米国特許公開第2008/0220265号、米国特許第5061569号、国際公開第2007/002683号、国際公開第2009/018009号、EP650955、米国特許公開第2008/0124572号、米国特許公開第2007/0278938号、米国特許公開第2008/0106190号、米国特許公開第2008/0018221号、国際公開第2012/115034号、特表2003-519432号公報、特開2006-135145号、米国特許出願番号13/585981号等である。
正孔輸送材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0082】
《電子阻止層》
電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層の機能を有する層であり、好ましくは正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、前述する正孔輸送層の構成を必要に応じて、本発明に係る電子阻止層として用いることができる。
前記電子阻止層は、発光層の陽極側に隣接して設けられることが好ましい。
また、電子阻止層の膜厚としては、好ましくは3~100nmの範囲内であり、さらに好ましくは5~30nmの範囲内である。
電子阻止層に用いられる材料としては、前述の正孔輸送層に用いられる材料が好ましく用いられ、また、前述のホスト化合物として用いられる材料も電子阻止層に好ましく用いられる。
【0083】
《正孔注入層》
本発明に係る正孔注入層(「陽極バッファー層」ともいう)とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陽極と発光層との間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)に詳細に記載されている。
本発明において正孔注入層は必要に応じて設け、上記のように陽極と発光層又は陽極と正孔輸送層との間に存在させてもよい。
【0084】
正孔注入層は、特開平9-45479号公報、同9-260062号公報、同8-288069号公報等にもその詳細が記載されており、正孔注入層に用いられる材料としては、例えば前述の正孔輸送層に用いられる材料等が挙げられる。
中でも銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニン誘導体、特表2003-519432号や特開2006-135145号等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体、酸化バナジウムに代表される金属酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム錯体等に代表されるオルトメタル化錯体、トリアリールアミン誘導体等が好ましい。
前述の正孔注入層に用いられる材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0085】
《含有物》
前述した本発明における有機層は、さらに他の含有物が含まれていてもよい。
含有物としては、例えば臭素、ヨウ素及び塩素等のハロゲン元素やハロゲン化化合物、Pd、Ca、Na等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属の化合物や錯体、塩等が挙げられる。
含有物の含有量は、任意に決定することができるが、含有される層の全質量%に対して1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは500ppm以下であり、さらに好ましくは50ppm以下である。
ただし、電子や正孔の輸送性を向上させる目的や、励起子のエネルギー移動を有利にするための目的などによってはこの範囲内ではない。
【0086】
《陽極》
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上、好ましくは4.5V以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In2O3-ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。
【0087】
陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、又はパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
又は、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/sq.以下が好ましい。
陽極の膜厚は材料にもよるが、通常10nm~1μm、好ましくは10~200nmの範囲で選ばれる。
【0088】
《陰極》
陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する。)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム、希土類金属等が挙げられる。
これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。
【0089】
陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/sq.以下が好ましく、膜厚は通常10nm~5μm、好ましくは50~200nmの範囲で選ばれる。
なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が透明又は半透明であれば発光輝度が向上し好ましい。
また、陰極に上記金属を1nm~20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げる導電性透明材料をその上に作製することで、透明又は半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0090】
《支持基板》
本発明における有機EL素子に用いることのできる支持基板(以下、基体、基板、基材、支持体等ともいう。)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。支持基板側から光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な支持基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい支持基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
【0091】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル又はポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)又はアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。
【0092】
樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜又はその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が0.01g/(m2・24h)以下のバリア性フィルムであることが好ましく、さらには、JIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、10-3mL/(m2・24h・atm)以下、水蒸気透過度が、10-5g/(m2・24h)以下の高バリア性フィルムであることが好ましい。
【0093】
バリア膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。さらに該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
【0094】
バリア膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004-68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
【0095】
不透明な支持基板としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
本発明に係る有機EL素子の発光の室温における外部取り出し量子効率は、1%以上であることが好ましく、5%以上であるとより好ましい。
ここで、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。
【0096】
<有機EL素子の作製方法>
本発明における有機層(正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層等)の形成方法について説明する。
前記有機層の形成方法は、特に制限はなく、従来公知の例えば真空蒸着法、湿式法(ウェットプロセスともいう)等による形成方法を用いることができ、本発明の有機EL素子用の混合組成物を用いる場合には、湿式法を用いる。
湿式法としては、例えばグラビア印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等の印刷法のほか、スピンコート法、キャスト法、インクジェット印刷法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、ロールコート法、ディップコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、ドクターコート法、LB法(ラングミュア-ブロジェット法)等があるが、塗布液を容易に精度良く塗布することが可能で、かつ高生産性の点から、インクジェットヘッドを用いたインクジェット印刷法により塗布することがより好ましい。
【0097】
さらに層毎に異なる製膜法を適用してもよい。製膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50~450℃、真空度10-6~10-2Pa、蒸着速度0.01~50nm/秒、基板温度-50~300℃、膜厚0.1nm~5μm、好ましくは5~200nmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
本発明における有機層の形成は、1回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる製膜法を施してもかまわない。その際は作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0098】
《インクジェットヘッド》
本発明に適用可能なインクジェットヘッドは、例えば、特開2012-140017号公報、特開2013-010227号公報、特開2014-058171号公報、特開2014-097644号公報、特開2015-142979号公報、特開2015-142980号公報、特開2016-002675号公報、特開2016-002682号公報、特開2016-107401号公報、特開2017-109476号公報、特開2017-177626号公報等に記載されている構成からなるインクジェットヘッドを適宜選択して適用することができる。
【0099】
湿式法に用いる塗布液は、有機層を形成する材料が液媒体に均一に溶解される溶液でも、材料が固形分として液媒体に分散される分散液でも良い。分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法により分散することができる。
液媒体としては本発明の有機EL素子用の混合組成物の他、特に制限はなく、例えば、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、ジクロロヘキサノン等のハロゲン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、n-プロピルメチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系溶媒、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族系溶媒、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン、炭酸ジエチル等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、メタノール、エタノール、1-ブタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒、ジメチルスルホキシド、水又はこれらの混合液媒体等が挙げられる。
これらの液媒体の沸点としては、迅速に液媒体を乾燥させる観点から乾燥処理の温度未満の沸点が好ましく、具体的には60~200℃の範囲内が好ましく、さらに好ましくは、80~180℃の範囲内である。
【0100】
塗布液は、塗布範囲を制御する目的や、塗布後の表面張力勾配に伴う液流動(例えば、コーヒーリングと呼ばれる現象を引き起こす液流動)を抑制する目的に応じて、界面活性剤を含有することができる。
界面活性剤としては、溶媒に含まれる水分の影響、レベリング性、基板f1への濡れ性等の観点から、例えばアニオン性又はノニオン性の界面活性剤等が挙げられる。具体的には、含フッ素系活性剤等、国際公開第08/146681号、特開平2-41308号公報等に挙げられた界面活性剤を用いることができる。
【0101】
塗布膜の粘度についても、膜厚と同様に、有機層として必要とされる機能と有機材料の溶解度又は分散性により、適宜選択することが可能で、具体的には例えば0.3~100mPa・sの範囲内で選択することができる。
塗布膜の膜厚は、有機層として必要とされる機能と有機材料の溶解度又は分散性により適宜選択することが可能で、具体的には例えば1~90μmの範囲内で選択することができる。
湿式法により塗布膜を形成した後、上述した液媒体を除去する塗布工程を有することができる。乾燥工程の温度は特に制限されないが、有機層や透明電極や基材が損傷しない程度の温度で乾燥処理することが好ましい。具体的には、塗布液の組成等によって異なるため一概には言えないが、例えば、80℃以上の温度とすることができ、上限は300℃程度までは可能な領域と考えられる。時間は10秒以上10分以下程度とすることが好ましい。このような条件とすることにより、乾燥を迅速に行うことができる。
【0102】
《封止》
有機EL素子の封止に用いられる封止手段としては、例えば、封止部材と、電極、支持基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されていればよく、凹板状でも、平板状でもよい。また、透明性、電気絶縁性は特に限定されない。
具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる1種以上の金属又は合金からなるものが挙げられる。
【0103】
本発明においては、有機EL素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。さらには、ポリマーフィルムはJIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10-3mL/m2/24h以下、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%)が、1×10-3g/(m2/24h)以下のものであることが好ましい。
【0104】
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。
接着剤として具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2-シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
なお、有機EL素子が熱処理により劣化する場合があるので、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、前記接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。封止部分への接着剤の塗布は市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
【0105】
また、有機層を挟み支持基板と対向する側の電極の外側に該電極と有機層を被覆し、支持基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、該膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。
【0106】
さらに該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。これらの膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
【0107】
封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコーンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また、真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
吸湿性化合物としては、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0108】
《保護膜、保護板》
有機層を挟み支持基板と対向する側の前記封止膜又は前記封止用フィルムの外側に、素子の機械的強度を高めるために、保護膜又は保護板を設けてもよい。特に、封止が前記封止膜により行われている場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護膜、保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料としては、前記封止に用いたのと同様なガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等を用いることができるが、軽量かつ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
【0109】
《光取り出し向上技術》
本発明における有機EL素子は、空気よりも屈折率の高い(屈折率1.6~2.1程度の範囲内)層の内部で発光し、発光層で発生した光のうち15%から20%程度の光しか取り出せないことが一般的に言われている。これは、臨界角以上の角度θで界面(透明基板と空気との界面)に入射する光は、全反射を起こし素子外部に取り出すことができないことや、透明電極又は発光層と透明基板との間で光が全反射を起こし、光が透明電極又は発光層を導波し、結果として、光が素子側面方向に逃げるためである。
【0110】
この光の取り出しの効率を向上させる手法としては、例えば、透明基板表面に凹凸を形成し、透明基板と空気界面での全反射を防ぐ方法(例えば、米国特許第4774435号明細書)、基板に集光性を持たせることにより効率を向上させる方法(例えば、特開昭63-314795号公報)、素子の側面等に反射面を形成する方法(例えば、特開平1-220394号公報)、基板と発光体の間に中間の屈折率を持つ平坦層を導入し、反射防止膜を形成する方法(例えば、特開昭62-172691号公報)、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法(例えば、特開2001-202827号公報)、基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法(特開平11-283751号公報)などが挙げられる。
【0111】
本発明においては、これらの方法を前記有機EL素子と組み合わせて用いることができるが、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法、又は基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法を好適に用いることができる。
透明電極と透明基板の間に低屈折率の媒質を光の波長よりも長い厚さで形成すると、透明電極から出てきた光は、媒質の屈折率が低いほど、外部への取り出し効率が高くなる。
本発明は、これらの手段を組み合わせることにより、さらに高輝度又は耐久性に優れた素子を得ることができる。
【0112】
低屈折率層としては、例えば、エアロゲル、多孔質シリカ、フッ化マグネシウム、フッ素系ポリマーなどが挙げられる。透明基板の屈折率は一般に1.5~1.7程度の範囲内であるので、低屈折率層は、屈折率がおよそ1.5以下であることが好ましい。またさらに1.35以下であることが好ましい。
また、低屈折率媒質の厚さは、媒質中の波長の2倍以上となるのが望ましい。これは、低屈折率媒質の厚さが、光の波長程度になってエバネッセントで染み出した電磁波が基板内に入り込む膜厚になると、低屈折率層の効果が薄れるからである。
【0113】
全反射を起こす界面又は、いずれかの媒質中に回折格子を導入する方法は、光取り出し効率の向上効果が高いという特徴がある。この方法は、回折格子が1次の回折や、2次の回折といった、いわゆるブラッグ回折により、光の向きを屈折とは異なる特定の向きに変えることができる性質を利用して、発光層から発生した光のうち、層間での全反射等により外に出ることができない光を、いずれかの層間又は、媒質中(透明基板内や透明電極内)に回折格子を導入することで光を回折させ、光を外に取り出そうとするものである。
導入する回折格子は、二次元的な周期屈折率を持っていることが望ましい。これは、発光層で発光する光はあらゆる方向にランダムに発生するので、ある方向にのみ周期的な屈折率分布を持っている一般的な一次元回折格子では、特定の方向に進む光しか回折されず、光の取り出し効率がさほど上がらない。
しかしながら、屈折率分布を二次元的な分布にすることにより、あらゆる方向に進む光が回折され、光の取り出し効率が上がる。
回折格子を導入する位置としては、いずれかの層間、又は媒質中(透明基板内や透明電極内)でも良いが、光が発生する場所である有機発光層の近傍が望ましい。このとき、回折格子の周期は、媒質中の光の波長の約1/2~3倍程度の範囲内が好ましい。回折格子の配列は、正方形のラチス状、三角形のラチス状、ハニカムラチス状など、二次元的に配列が繰り返されることが好ましい。
【0114】
《集光シート》
本発明における有機EL素子は、支持基板(基板)の光取出し側に、例えばマイクロレンズアレイ上の構造を設けるように加工したり、又は、いわゆる集光シートと組み合わせることにより、特定方向、例えば素子発光面に対し正面方向に集光することにより、特定方向上の輝度を高めることができる。
マイクロレンズアレイの例としては、基板の光取り出し側に一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を二次元に配列する。一辺は10~100μmの範囲内が好ましい。これより小さくなると回折の効果が発生して色付く、大きすぎると厚さが厚くなり好ましくない。
【0115】
集光シートとしては、例えば液晶表示装置のLEDバックライトで実用化されているものを用いることが可能である。このようなシートとして例えば、住友スリーエム社製輝度上昇フィルム(BEF)などを用いることができる。プリズムシートの形状としては、例えば基材に頂角90度、ピッチ50μmの△状のストライプが形成されたものであってもよいし、頂角が丸みを帯びた形状、ピッチをランダムに変化させた形状、その他の形状であっても良い。
また、有機EL素子からの光放射角を制御するために光拡散板・フィルムを、集光シートと併用してもよい。例えば、(株)きもと製拡散フィルム(ライトアップ)などを用いることができる。
【0116】
《用途》
本発明における有機EL素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。
発光光源として、例えば、照明装置(家庭用照明、車内照明)、時計や液晶用バックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではないが、特に液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
本発明における有機EL素子においては、必要に応じ成膜時にメタルマスクやインクジェット印刷法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもよいし、電極と発光層をパターニングしてもよいし、素子全層をパターニングしてもよく、素子の作製においては、従来公知の方法を用いることができる。
【0117】
《照明装置の一態様≫
本発明における有機EL素子を具備した、照明装置の一態様について説明する。
前記有機EL素子の非発光面をガラスケースで覆い、厚さ300μmのガラス基板を封止用基板として用いて、周囲にシール材として、エポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を適用し、これを陰極上に重ねて透明支持基板と密着させ、ガラス基板側からUV光を照射して、硬化させて、封止し、
図1、
図2に示すような照明装置を形成することができる。
図1は、照明装置の概略図を示し、本発明に係る有機EL素子101はガラスカバー102で覆われている(なお、ガラスカバーでの封止作業は、有機EL素子101を大気に接触させることなく窒素雰囲気下のグローブボックス(純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下)で行った。)。
図2は、照明装置の断面図を示し、
図2において、105は陰極、106は有機EL層、107は透明電極付きガラス基板を示す。なお、ガラスカバー102内には窒素ガス108が充填され、捕水剤109が設けられている。
【実施例】
【0118】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例で使用した化合物を下記に示す。
【0119】
【0120】
【0121】
[実施例1]
各ビアリール化合物を有機溶媒Y(ここでは成分1とする。)に添加したのち、それぞれ異なる溶媒(ここでは成分2とする。なお、成分2は活性水素化合物を含む。)を濃度別にさらに添加した各溶液1-1~1-21について様子を観察した。成分2の添加前と比較して溶液が透明となり溶解性が向上したものを〇、1日静置後に溶解していたものを△、変化が見られなかったものを×として以下の表II中に示した。
【0122】
<溶液1-1の調液>
2.5mgのビアリール化合物A-1に0.5mLのトルエン(成分1)を添加した。その後、30秒間超音波処理を行い、70℃で1分間加熱したのちに1時間静置したときの溶液の様子を確認した。
【0123】
<溶液1-2の調液>
2.5mgのビアリール化合物A-1に、0.5mLのトルエンを添加後、ビアリール化合物に対して10倍のモル数となるようにTFPO(成分2)を添加した。続いて30秒間超音波処理を行い、70℃で1分間加熱後に1時間静置した時の溶液の様子を確認した。
【0124】
<溶液1-3の調液>
溶液1-2の調液において、TFPOの添加量を20倍のモル数としたこと以外は同様にして、溶液1-3を得て、様子を確認した。
【0125】
<溶液1-4~1-7の調液>
溶液1-2の調液において、成分2の種類と添加量を表IIに記載のとおりとしたこと以外は同様にして、溶液1-4~1-7を得て、それぞれ様子を確認した。
【0126】
<溶液1-8~1-21の調液>
溶液1-1~1-7の調液において、用いるビアリール化合物を表IIに記載のとおりとしたこと以外は同様にして、溶液1-8~1-21を得て、それぞれ様子を確認した。
【0127】
【0128】
成分1(有機溶媒Y)のトルエンのみでは、各ビアリール化合物は溶解せず沈殿がみられていたが、成分2としてTFPO又は1-ペンタノールを添加したところ、A-1、A-2のビアリール化合物を用いた場合、沈殿の減少が見られた。すなわち、分子内水素結合を形成するビアリール化合物に対して水素結合性を有する溶媒を添加した場合、溶解性が向上したことが分かった。また、化合物A-1とA-2は分子量がほぼ同程度だが、A-2がより溶解性が高かった。このことから、A-2はA-1と比較して分子内結合の働く部位が少ないため、ビアリール化合物が溶液中で溶解するために必要な活性水素化合物の量は少ないことが推測された。
以上のように、少量の水素結合性を有する溶媒を添加することにより、従来化合物を分散させることのできなかった溶媒を用いることができるようになるため、各段に溶媒の選択性の向上が見込めるといえる。
【0129】
[実施例2]
各ビアリール化合物を溶媒に添加して得た溶液について、以下の評価法によりヘッドに及ぼす影響と溶解性を比較した。
<溶液2-1の調液>
以下の質量構成比となるよう、溶液2-1を調液した。
・8-ヒドロキシキノリノラトリチウム 0.06質量%
・ビアリール化合物:A-3 0.54質量%
・酢酸セシウム 0.04質量%
・シクロヘキサン(成分1:有機溶媒Y) 添加無し
・OFPO(成分2:活性水素化合物) 99.36質量%
【0130】
<溶液2-2~2-30の調液>
溶液2-1の調液において、ビアリール化合物、溶媒の成分1及び成分2の種類及び添加量(総溶媒量に対する成分2の濃度)を以下の表IIIに示すものに置き換えたこと以外は同様にして、溶液2-2~2-30を調液した。
【0131】
[評価]
<射出安定性>
前記で得られた各溶液を、コニカミノルタ株式会社製のピエゾ方式インクジェットプリンターヘッド「KM1024i」(ノズル数:1024)に充填し、1分間連続射出した後で、インクジェットプリンターヘッドのノズル面を開放系にして、2分間静置した。次いで、ヘッドより溶液を再射出し、ノズル詰まりによるノズル欠や斜め射出を起こしているノズル数をカウントし、下記の基準にて射出安定性の評価を行った。
(評価基準)
◎:全ノズルにおいて、ノズル欠や斜め射出が生じていない
○:1~5のノズルで軽度のノズル欠や斜め射出が見られるが、実用上は問題なし
△:6~10のノズルで軽度のノズル欠や斜め射出が見られるが、実用上は問題なし
×:10を超えるノズルでノズル欠や斜め射出が生じており、使用が難しい
【0132】
<溶解性>
前記で得られた各溶液の総量が3.0mLとなるようバイアル瓶中で調液し、これを70℃で加熱したのち蓋をして密封し、12時間後に再度溶液の様子を目視で観察、下記の基準にて溶解性の評価を行った。
(評価基準)
○:溶液中には析出物は見られない、又は析出があっても微細であり、溶液は透明である
△:溶液中にいくつかの微細な析出がみられるが、実用上問題のない範囲である
×:含窒素芳香族複素環が溶解せず、12時間静置後に多量の析出物がみられる
【0133】
【0134】
以上の結果より、溶媒の総質量に示す活性水素化合物の含有量が40質量%以下となるとき、溶媒に対してビアリール化合物が溶解しつつも、インクジェットヘッドに対して悪影響も与えないことが分かった。よって、本発明の混合組成物は、塗布法のインクジェット印刷法に好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明は、平面性の高い化合物を用いた場合でも、凝集が防止され、溶媒に対する溶解性を向上させることができる有機エレクトロルミネッセンス素子用の混合組成物に利用することができる。
【符号の説明】
【0136】
101 有機EL素子
102 ガラスカバー
105 陰極
106 有機EL層
107 透明電極付きガラス基板
108 窒素ガス
109 捕水剤