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特許7351313カルボン酸エステル化合物及びその製造方法、並びに香料組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】カルボン酸エステル化合物及びその製造方法、並びに香料組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/753 20060101AFI20230920BHJP
   C07C 67/38 20060101ALI20230920BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20230920BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
C07C69/753 C CSP
C07C67/38
C11B9/00 U
C07B61/00 300
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020555581
(86)(22)【出願日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2019043662
(87)【国際公開番号】W WO2020100708
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2018216004
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松浦 豊
(72)【発明者】
【氏名】宇多村 竜也
(72)【発明者】
【氏名】袴田 智彦
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/063433(WO,A1)
【文献】特開昭57-8757(JP,A)
【文献】特開昭60-190738(JP,A)
【文献】国際公開第2018/051776(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 69/753
C07C 67/38
C07B 61/00
C11B 9/00
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物。
【化1】

(式中、Rは炭素数2~6のアルキル基である。)
【請求項2】
Rがエチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基である、請求項1に記載のカルボン酸エステル化合物。
【請求項3】
式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物を含有する香料組成物。
【化2】

(式中、Rは炭素数2~6のアルキル基である。)
【請求項4】
フッ化水素の存在下、式(2)で表される化合物を一酸化炭素と反応させ、次いで炭素数2~6のアルコールと反応させる、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物の製造方法。
【化3】

(式中Rは炭素数2~6のアルキル基である。)
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なカルボン酸エステル化合物及びその製造方法、並びに該カルボン酸エステル化合物を含有する香料組成物に関し、特に、調合香料原料として有用なカルボン酸エステル化合物及びその製造方法、並びに該カルボン酸エステル化合物を含有する香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エステル類には香料として有用な化合物があることが知られている。例えば、ローズ様香気を持つ酢酸ゲラニル、ジャスミン様の甘い香気を持つジャスモン酸メチル、フルーティーな香調を持つフルテート(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-2-カルボン酸エチル)、強くドライフルーティーな香調を持つ安息香酸メチル等が調合香料原料として有用である。また、特許文献1には、カンフェンの誘導体であるカルボン酸エステル化合物が、爽やかなパイン(松)様の香気を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2012/063433号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、調合香料原料として有用な、フルーティーな香気を有する新規なカルボン酸エステル化合物及びその製造方法、並びに当該カルボン酸エステル化合物を含有する香料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、種々の化合物を合成し、その香気について検討したところ、特定のカルボン酸エステル化合物がフルーティーな香気を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
本発明は、以下の<1>~<4>を提供する。
<1> 式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物。
【0007】
【化1】

(式中、Rは炭素数2~6のアルキル基である。)
【0008】
<2> Rがエチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基である、上記<1>に記載のカルボン酸エステル化合物。
<3> 式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物を含有する香料組成物。
【0009】
【化2】

(式中、Rは炭素数2~6のアルキル基である。)
【0010】
<4> フッ化水素の存在下、式(2)で表される化合物を一酸化炭素と反応させ、次いで炭素数2~6のアルコールと反応させる、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物の製造方法。
【0011】
【化3】

(式中Rは炭素数2~6のアルキル基である。)
【0012】
【化4】
【発明の効果】
【0013】
本発明のカルボン酸エステル化合物は、フルーティーな香気を有し、トイレタリー用品や石鹸、衣料用洗剤等の幅広い製品への賦香成分として有用である。また、本発明のカルボン酸エステル化合物の製造方法によれば、該カルボン酸エステル化合物を工業的に有利な方法で製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について実施形態を用いて説明する。なお、以下の説明において、数値範囲を示す「A~B」の記載は、「A以上B以下」(A<Bの場合)、又は、「A以下B以上」(A>Bの場合)を表す。すなわち、端点であるA及びBを含む数値範囲を表す。
また、質量部及び質量%は、それぞれ、重量部及び重量%と同義である。
【0015】
[カルボン酸エステル化合物]
本発明のカルボン酸エステル化合物は、下記式(1)で表される。
【0016】
【化5】

(式中、Rは炭素数2~6のアルキル基である。)
【0017】
式(1)中、Rは、炭素数2~6のアルキル基である。炭素数2~6のアルキル基としては、直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましく、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。これらのうち、香気性の観点から、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基が好ましく、エチル基がより好ましい。
【0018】
式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物は、立体異性体を有し、Exo体であっても、Endo体であってもよく、また、Exo体とEndo体が任意の比率で混合されていてもよく、特に限定されない。
これらの中でも、製造容易性及び香気性の観点から、Exo体であることが好ましい。
【0019】
[カルボン酸エステル化合物の製造方法]
本発明のカルボン酸エステル化合物(式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物)は、フッ化水素(以下、「HF」ともいう)の存在下、式(2)で表される化合物を一酸化炭素と反応させ、次いで炭素数2~6のアルコールと反応させる方法によって工業的に有利に製造することができる。
具体的には、フッ化水素(HF)の存在下、式(2)で表される化合物を一酸化炭素と反応させてカルボニル化し、式(3)で表される酸フロライドを得る。そして、フッ化水素の存在下、式(3)で表される酸フロライドを炭素数2~6のアルコールと反応させてエステル化する。
【0020】
【化6】

(式中、Rは炭素数2~6のアルキル基である。)
【0021】
(式(2)で表される化合物)
式(2)で表される化合物は2-エチリデンノルボルナンであり、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)を水素化して得ることができる。なお、ENBは、エチレン-プロピレン-ジエン(EPDM)ゴムの原料として知られている。
【0022】
(一酸化炭素)
本発明に使用される一酸化炭素は、窒素やメタン等の不活性ガスが含まれていてもよい。反応時の一酸化炭素分圧は、好ましくは0.5~5MPaG、より好ましくは1~3MPaGの範囲である。一酸化炭素分圧が0.5MPaGより高ければ、カルボニル化反応が十分に進行し、不均化や重合等の副反応が併発せず、高収率に目的物である脂環式カルボニル化合物を得ることができる。また一酸化炭素分圧は5MPaG以下であることが設備負荷の観点から好ましい。
【0023】
(フッ化水素)
本発明に使用されるHFは、反応の溶媒であり、触媒であり、かつ原料となるため、実質的に無水のものを用いることが好ましい。HFの使用量は、原料である式(2)で表される化合物に対して、好ましくは4~25モル倍、より好ましくは6~15モル倍である。HFのモル比が4モル倍以上あれば、カルボニル化反応は効率良く進行し、不均化や重合等の副反応を抑制でき、高収率で目的物であるカルボニル化合物を得ることができる。また、原料コスト及び生産性の観点から25モル倍以下のHFの使用が好ましい。
【0024】
(反応溶媒)
カルボニル化反応においては、原料を良く溶解し、HFに対して不活性な溶媒を使用してもよい。例えば、ヘキサン、ヘプタン、デカンのような飽和炭化水素化合物を用いることができる。溶媒の使用の有無及び量は、特に限定されず適宜選択すればよいが、重合反応を抑制し、収率を向上させる観点からは、原料である式(2)の化合物に対して0.2~2.0質量倍が好ましく、生産性及びエネルギー効率の観点からは0.5~1.2質量倍が好ましい。
【0025】
(カルボニル化反応の反応条件)
カルボニル化反応の形式には特に制限なく、回分式、半連続式、連続式等のいずれの方法でもよい。
カルボニル化反応の反応温度は、好ましくは-50℃~30℃、より好ましくは-30℃~20℃の範囲である。反応速度の観点から-50℃以上で行うことが好ましい。また、異性体生成量を抑制する観点から30℃以下で行うことが好ましい。
カルボニル化反応の反応時間は、反応を十分に進行させる観点から1時間以上が好ましく、そして、反応効率の観点から5時間以下が好ましい。反応終点は特に限定されないが、一酸化炭素の吸収が停止した時点が例示される。
【0026】
カルボニル化反応では、HFと一酸化炭素により酸フロライド(式(3))が生成する。生成した酸フロライド反応液(カルボニル化反応液)は過剰のHFを留去した後、蒸留等の常法により精製し、次工程であるエステル化工程の原料として用いてもよいが、通常はHF触媒が入ったままのカルボニル化反応液をそのままアルコールと反応させカルボン酸エステル化合物を製造する方法が採られる。
【0027】
(アルコール)
本発明に使用されるアルコールは、炭素数2~6のアルコールである。
炭素数2~6のアルコールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、iso-ブタノール、tert-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールが挙げられる。これらの中でも、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、iso-ブタノールが好ましく、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノールがより好ましく、エタノールが更に好ましい。
炭素数2~6のアルコールの使用量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、原料である式(2)の化合物に対して、好ましくは0.5~2.0倍モル、より好ましくは0.8~1.7倍モル、更に好ましくは1.0~1.7倍モルである。
【0028】
(エステル化反応の反応条件)
エステル化反応の反応温度は、収率を向上させる観点から-20℃以上が好ましく、そして、エステルの分解や添加したアルコールの脱水反応等の副反応を抑制する観点から20℃以下が好ましい。
エステル化反応の反応時間は、反応を十分に進行させる観点から0.5時間以上が好ましく、そして、反応効率の観点から3時間以下が好ましい。反応終点は特に限定されないが、反応熱上昇が認められなくなった時点が例示される。
【0029】
こうして得られたエステル化生成物はカルボン酸エステル・HF錯体溶液である。カルボン酸エステル・HF錯体溶液を加熱することにより、カルボン酸エステルとHFとの結合が分解され、HFを気化分離し、回収、再利用することができる。この錯体の分解操作はできるだけ迅速に進めて、生成物の加熱変質、異性化等を避ける必要がある。錯体の熱分解を迅速に進めるためには、例えばHFに不活性な溶媒(例えばヘプタン等の飽和脂肪族炭化水素や、トルエン等の芳香族炭化水素)の還流下で分解することが好ましい。また、反応液を氷水中に抜き出す場合は、例えば、オートクレーブ底部より氷水中に抜液し、油相と水相を分離した後、油相を2質量%水酸化ナトリウム水溶液で2回、蒸留水で2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水を行うことが好ましい。更に、得られた液をエバポレータにより低沸物等を除去した後、理論段数20段程度の精留塔を用いて精留を行うことにより、精製されたカルボン酸エステル化合物を得ることができる。
【0030】
なお、本発明のカルボン酸エステル化合物は、上記以外の方法でも製造することができる。例えば、下記スキームに示すように、シクロペンタジエンと2-エチルアクロレインとのディールス・アルダー反応により得られるアルデヒド化合物(式(4))を酸化してカルボン酸化合物(式(5))を得、該カルボン酸化合物を炭素数2~6のアルコールと反応させてエステル化合物(式(6))を得、該エステル化合物を水素化することで本発明のカルボン酸エステル化合物(式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物)を得ることができる。また、式(5)で表されるカルボン酸化合物は、シクロペンタジエンと2-エチルアクリル酸(2-メチレン酪酸)とのディールス・アルダー反応によっても得ることができる。
【0031】
【化7】

(式中、Rは炭素数2~6のアルキル基である。)
【0032】
本発明のカルボン酸エステル化合物は、フルーティーな香気を有することから、単独で又は他の成分と組み合わせて石鹸、シャンプー、リンス、洗剤、化粧品、スプレー製品、芳香剤、香水、入浴剤等の賦香成分として使用できる。また、食品、医薬、農薬、液晶等の合成中間体としての使用が期待できる。
【0033】
[香料組成物]
本発明の香料組成物は、前記式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物を含有する。
本発明の香料組成物は、通常用いられる他の香料成分や所望組成の調合香料に、前記式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物を単独で又は2種以上を混合し、配合して得られる。前記式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物の配合量は、調合香料の種類、目的とする香気の種類及び香気の強さ等により異なるが、調合香料中に0.01~90質量%を加えることが好ましく、0.1~50質量%加えることがより好ましい。
【0034】
本発明のカルボン酸エステル化合物と組み合わせて用いることができる他の香料成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、
リモネン、α-ピネン、β-ピネン、テルピネン、セドレン、ロンギフォレン、バレンセン等の炭化水素類;
【0035】
リナロール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、テルピネオール、ジヒドロミルセノール、エチルリナロール、ファルネソール、ネロリドール、シス-3-ヘキセノール、セドロール、メントール、ボルネオール、β-フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、フェニルヘキサノール、2,2,6-トリメチルシクロヘキシル-3-ヘキサノール、1-(2-t-ブチルシクロヘキシルオキシ)-2-ブタノール、4-イソプロピルシクロヘキサンメタノール、4-メチル-2-(2-メチルプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-4-オール、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、イソカンフィルシクロヘキサノール、3,7-ジメチル-7-メトキシオクタン-2-オール等のアルコール類;
オイゲノール、チモール、バニリン等のフェノール類;
【0036】
リナリルホルメート、シトロネリルホルメート、ゲラニルホルメート、n-ヘキシルアセテート、シス-3-ヘキセニルアセテート、リナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、テルピニルアセテート、ノピルアセテート、ボルニルアセテート、イソボルニルアセテート、o-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、p-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、3-ペンチルテトラヒドロピラン-4-イルアセテート、シトロネリルプロピオネート、トリシクロデセニルプロピオネート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、エチル2-シクロヘキシルプロピオネート、ベンジルプロピオネート、シトロネリルブチレート、ジメチルベンジルカルビニルn-ブチレート、トリシクロデセニルイソブチレート、メチル2-ノネノエート、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、メチルシンナメート、メチルサリシレート、n-ヘキシルサリシレート、シス-3-ヘキセニルサリシレート、ゲラニルチグレート、シス-3-ヘキセニルチグレート、メチルジャスモネート、メチルジヒドロジャスモネート、メチル-2,4-ジヒドロキシ-3,6-ジメチルベンゾエート、エチルメチルフェニルグリシデート、メチルアントラニレート、フルテート等のエステル類;
【0037】
n-オクタナール、n-デカナール、n-ドデカナール、2-メチルウンデカナール、10-ウンデセナール、シトロネラール、シトラール、ヒドロキシシトロネラール、ジメチルテトラヒドロベンズアルデヒド、4(3)-(4-ヒドロキシ-4-メチルペンチル)-3-シクロヘキセン-1-カルボアルデヒド、2-シクロヘキシルプロパナール、p-t-ブチル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p-イソプロピル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p-エチル-α,α-ジメチルヒドロシンナミックアルデヒド、α-アミルシンナミックアルデヒド、α-ヘキシルシンナミックアルデヒド、ピペロナール、α-メチル-3,4-メチレンジオキシヒドロソンナミックアルデヒド等のアルデヒド類;
【0038】
メチルヘプテノン、4-メチレン-3,5,6,6-テトラメチル-2-ヘプタノン、アミルシクロペンタノン、3-メチル-2-(シス-2-ペンテン-1-イル)-2-シクロペンテン-1-オン、メチルシクロペンテノロン、ローズケトン、γ-メチルヨノン、α-ヨノン、カルボン、メントン、ショウ脳、ヌートカトン、ベンジルアセトン、アニシルアセトン、メチルβ-ナフチルケトン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン、マルトール、7-アセチル-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロ-1,1,6,7-テトラメチルナフタレン、ムスコン、シベトン、シクロペンタデカノン、シクロヘキサデセノン等のケトン類;
【0039】
アセトアルデヒドエチルフェニルプロピルアセタール、シトラールジエチルアセタール、フェニルアセトアルデヒドグリセリンアセタール、エチルアセトアセテートエチレングリコールケタール類のアセタール類及びケタール類;
アネトール、β-ナフチルメチルエーテル、β-ナフチルエチルエーテル、リモネンオキシド、ローズオキシド、1,8-シネオール、ラセミ体又は光学活性のドデカヒドロ-3a,6,6,9a-テトラメチルナフト[2,1-b]フラン等のエーテル類;
シトロネリルニトリル等のニトリル類;
【0040】
γ-ノナラクトン、γ-ウンデカラクトン、σ-デカラクトン、γ-ジャスモラクトン、クマリン、シクロペンタデカノリド、シクロヘキサデカノリド、アンブレットリド、エチレンブラシレート、11-オキサヘキサデカノリド等のラクトン類;
オレンジ、レモン、ベルガモット、マンダリン、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミル、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、セダー、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナム等の天然精油や天然抽出物等;
等が挙げられる。なお、当該他の香料成分は単独又は複数配合してもよい。
【0041】
前記式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物を含む香料組成物は、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物がフルーティーな優れた香気を付与することから、配合対象物の香気の改良を行うために、香粧品類、健康衛生材料、雑貨、食品、医薬部外品、医薬品等の各種製品の香気成分として使用できる。
【0042】
前記式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物を含む香料組成物は、例えば、香水、コロン類等のフレグランス製品;シャンプー、リンス類、ヘアートニック、ヘアークリーム類、ムース、ジェル、ポマード、スプレーその他毛髪用化粧料;化粧水、美容液、クリーム、乳液、パック、ファンデーション、おしろい、口紅、各種メークアップ類等の肌用化粧料;皿洗い洗剤、洗濯用洗剤、ソフナー類、消毒用洗剤類、消臭洗剤類、室内芳香剤、ファーニチャーケア、ガラスクリーナー、家具クリーナー、床クリーナー、消毒剤、殺虫剤、漂白剤、その他の各種健康衛生用洗剤類;歯磨、マウスウォッシュ、入浴剤、制汗製品、パーマ液等の医薬部外品;トイレットペーパー、ティッシュペーパー等の雑貨;医薬品等;食品等の製品の香気成分として使用することができる。
【0043】
また、製品に対する本発明の香料組成物の配合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物の製品への配合量として、0.001~50質量%が好ましく、0.01~20質量%がより好ましい。
【実施例
【0044】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に制限されるものではない。
【0045】
<ガスクロマトグラフィー分析条件>
ガスクロマトグラフィーは、ガスクロマトグラフ装置(株式会社島津製作所製、「GC-2010Plus」)及びキャピラリーカラム(信和化工株式会社製、「HR-1」(0.32mmφ×25m))を用いた。昇温条件は100℃から310℃まで5℃/分で昇温した。
【0046】
<GC-MS>
日本電子株式会社製GC-MSスペクトル装置のJMS-T100GCVを使用した。
【0047】
1H-NMR、13C-NMRスペクトル分析>
以下の条件にて測定した。
装置:日本電子株式会社製NMRスペクトル装置 JNM-ECA500
内部標準物質:テトラメチルシラン(TMS)
【0048】
<カルボン酸エステル化合物収率、異性体比>
・カルボン酸エステル化合物収率(モル%)=(カルボン酸エステル化合物のモル数)/(2-エチリデンノルボルナンのモル数)×100
・異性体比(%)=(2-エチルノルボルナン-Exo-2-カルボン酸エステルのモル数)/(カルボン酸エステル化合物合計のモル数)×100
【0049】
合成例1
(5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)の水素化による2-エチリデンノルボルナンの調製)
磁力誘導式撹拌機、上部に3個の入口ノズル、底部に1個の抜き出しノズルを備え、ジャケットにより内部温度を制御できる内容積200mLのステンレス製オートクレーブに、Cu-Cr系触媒(日揮触媒化成株式会社製、「N-203S」)2.0g、ヘプタン(和光純薬工業株式会社製、特級)30gを仕込み、170℃、水素圧1MPaG下で1時間の活性化を行った。冷却後、5-エチリデン-2-ノルボルネン(東京化成工業株式会社製)100gを仕込み、90℃、水素圧2MPaG下で2時間撹拌して水素化反応を行った。反応液をろ過して触媒を除き、溶媒であるヘプタンを留去して、2-エチリデンノルボルナン濃度95質量%、2-エチルノルボルナン濃度5質量%を含有する液状の反応生成物(以下、「反応液」ともいう。)89gを得た(収率88モル%(なお、収率は、原料である5-エチリデン-2-ノルボルネンのモル数に対する、2-エチリデンノルボルナン及び2-エチルノルボルナンの合計モル数から算出した。))。また、2-エチリデンノルボルナンの収率は、84モル%(原料である5-エチリデン-2-ノルボルネンのモル数に対する2-エチリデンノルボルナンのモル数から算出した。)であった。
反応式を下記に示す。
【0050】
【化8】
【0051】
実施例1
(2-エチリデンノルボルナンのカルボニル化及びエステル化による2-エチルノルボルナン-2-カルボン酸エチルの製造)
磁力誘導式撹拌機、上部に3個の入口ノズル、底部に1個の抜き出しノズルを備え、ジャケットにより内部温度を抑制できる内容積500mLのステンレス製オートクレーブを用いて実験を行った。
まず、オートクレーブ内部を一酸化炭素で置換した後、フッ化水素158g(7.9モル)を導入し、液温0℃とした後、一酸化炭素にて2MPaGまで加圧した。
反応温度を0℃に保持し、かつ反応圧力を2MPaGに保ちながら、合成例1で調製した反応液(2-エチリデンノルボルナン濃度95質量%、2-エチルノルボルナン濃度5質量%)82gとヘプタン(和光純薬工業株式会社製、特級)82gとの混合液をオートクレーブ上部から60分かけて供給してカルボニル化反応を行った。原料の供給終了後、一酸化炭素の吸収が認められなくなるまで約20分間撹拌を継続した。
【0052】
引き続いて、反応温度を0℃に保持しながら、エタノール46g(1.0モル、原料である2-エチリデンノルボルナンに対して1.6モル倍)をオートクレーブ上部から15分かけて供給して、撹拌下にて1時間エステル化を行った。反応液をオートクレーブ底部より氷水中に抜き出し、油相と水相とを分離した後、油相を2質量%水酸化ナトリウム水溶液100mLで2回、蒸留水100mLで2回洗浄し、無水硫酸ナトリウム10gで脱水した。
【0053】
得られた液をエバポレータにより低沸物を除去した後、理論段数20段の精留塔を用いて精留(留出温度150℃、真空度60torr)を行った後、内部標準法によりガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、カルボン酸エステル化合物(Exo体とEndo体の混合物)の収率は94.1モル%(2-エチリデンノルボルナン基準)であった。また、主生成物である2-エチルノルボルナン-2-exo-カルボン酸エチルの収率は84.9モル%(2-エチリデンノルボルナン基準、異性体比90.3%)であった。
主生成物についてGC-MS(CI)で分析した結果、目的物の分子量196.29に対して197.15([M+H])を示した。また、重クロロホルム溶媒中でのH-NMRのケミカルシフト値、及び13C-NMRのケミカルシフト値(δppm,TMS基準)は、以下の通りであり、この結果から、2-エチルノルボルナン-2-カルボン酸エチルであると同定した。なお、NMRの同定において、[2]は、下記化学式において、2の符号が付された炭素原子又は該炭素原子に結合する水素原子であることを意味する。以下、同様である。
【0054】
【化9】
【0055】
1H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 0.76 (t, J=7.5Hz, 3H, [9]), 0.90 (dd, J=12.5, 3.0Hz, 1H, [5a<endo>]), 1.06-1.11 (m, 1H, [7a<endo>]), 1.19-1.21 (m, 1H, [3b]), 1.23 (t, J=7.0Hz, 3H, [13]), 1.28-1.32 (m, 1H, [3a]), 1.33-1.41 (m, 1H, [6a<endo>]), 1.45-1.50 (m, 1H, [7b<exo>]), 1.51-1.58 (m, 1H, [6b<exo>]), 1.58-1.64 (m, 2H, [8]), 2.17-2.19 (m, 1H, [4]), 2.20-2.24 (m, 1H, [5b<exo>]), 2.54 (br d, J=4.0, 1H, [2]), 4.09-4.13 (m, 2H, [12])
【0056】
【化10】
【0057】
13C NMR (126MHz, CDCl3) δ (ppm): 10.55 [9], 14.37 [13], 23.15 [6], 29.05 [7], 29.60 [8], 36.81 [4], 38.81 [3], 41.29 [5], 42.78 [2], 54.35 [1], 60.27 [12], 178.06 [10]
2-エチルノルボルナン-2-カルボン酸エチルは、フルーティーで、ハーバル、ウッディー様(fruity-herbal-woody)の香気を有していた。
【0058】
実施例2
(2-エチリデンノルボルナンのカルボニル化及びエステル化による2-エチルノルボルナン-2-カルボン酸n-プロピルの製造)
実施例1において、エステル化で使用するアルコールをn-プロパノールに代えたこと以外は、実施例1と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。
ガスクロマトグラフィーで分析した結果、カルボン酸エステル化合物の収率は92.9モル%(2-エチリデンノルボルナン基準)であり、主生成物である2-エチルノルボルナン-exo-2-カルボン酸n-プロピルの収率は83.0モル%(2-エチリデンノルボルナン基準、異性体比89.4%)であった。
主生成物についてGC-MS(CI)で分析した結果、目的物の分子量210.32に対して211.13([M+H])を示した。また、重クロロホルム溶媒中でのH-NMRのケミカルシフト値、及び13C-NMRのケミカルシフト値(δppm,TMS基準)は、以下の通りであり、この結果から、2-エチルノルボルナン-2-カルボン酸n-プロピルであると同定した。
【0059】
【化11】
【0060】
1H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 0.76 (t, J=7.5Hz, 3H, [9]), 0.89-0.92 (m, 1H, [5b<endo>]), 0.93 (t, J=7.0Hz, 3H, [14]), 1.05-1.11 (m, 1H, [7a<endo>]), 1.18-1.22 (m, 1H, [3b]), 1.27-1.32 (m, 1H, [3a]), 1.33-1.40 (m, 1H, [6b<endo>]), 1.45-1.51 (m, 1H, [7b<exo>]), 1.52-1.59 (m, 1H, [6a<exo>]), 1.60-1.67 (m, 4H, [13], [8]), 2.17-2.19 (m, 1H, [4]), 2.20-2.24 (m, 1H, [5a<exo>]), 2.54 (br d, J=3.5Hz, 1H, [2]), 4.98-4.05 (m, 2H, [12])
【0061】
【化12】
【0062】
13C NMR (126MHz, CDCl3) δ (ppm): 10.59 [9, 14], 22.16 [13], 23.16 [6], 29.06 [7], 29.64 [8], 36.82 [4], 38.82 [3], 41.30 [5], 42.80 [2], 54.52 [1], 65.98 [12], 178.14 [10]
また、2-エチルノルボルナン-2-カルボン酸n-プロピルは、フルーティーで、ウッディー様、ハーバル様(fruity-woody-herbal)の香気を有していた。
【0063】
実施例3
(2-エチリデンノルボルナンのカルボニル化及びエステル化による2-エチルノルボルナン-2-カルボン酸イソプロピルの製造)
実施例1において、エステル化で使用するアルコールをイソプロパノールに代えたこと以外は、実施例1と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。
ガスクロマトグラフィーで分析した結果、カルボン酸エステル化合物の収率は92.4モル%(2-エチリデンノルボルナン基準)であり、主生成物である2-エチルノルボルナン-2-exo-カルボン酸イソプロピルの収率は81.2モル%(2-エチリデンノルボルナン基準、異性体比87.9%)であった。
主生成物についてGC-MS(CI)で分析した結果、目的物の分子量210.32に対して211.12([M+H])を示した。また、重クロロホルム溶媒中でのH-NMRのケミカルシフト値、及び13C-NMRのケミカルシフト値(δppm,TMS基準)は、以下の通りであり、この結果から、2-エチルノルボルナン-2-カルボン酸イソプロピルであると同定した。
【0064】
【化13】
【0065】
1H NMR (500MHz, CDCl3) δ (ppm): 0.76 (t, J=7.0Hz, 3H, [9]), 0.87-0.90 (m, 1H, [5b<endo>]), 1.05-1.11 (m, 1H, [7a<endo>]), 1.19-1.21 (m, 7H, [3b], [13], [15]), 1.29-1.30 (m, 1H, [3a]), 1.33-1.39 (m, 1H, [6b<endo>]), 1.45-1.51 (m, 1H, [7b<exo>]), 1.51-1.56 (m, 1H, [6a<exo>]), 1.56-1.64 (m, 2H, [8]), 2.16-2.19 (m, 1H, [4]), 2.19-2.22 (m, 1H, [5a<exo>]), 2.54 (br d, J=4.0Hz, 1H, [2]), 4.96-5.01 (m, 1H, [12])
【0066】
【化14】
【0067】
13C NMR (126MHz, CDCl3) δ (ppm): 10.47 [9], 21.85-21.88 [13], [15], 23.16 [6], 29.08 [7], 29.53 [8], 36.80 [4], 38.74 [3], 41.25 [5], 42.79 [2], 54.25 [1], 67.22 [12], 177.49 [10]
また、2-エチルノルボルナン-2-カルボン酸イソプロピルは、ハーバルで、フルーティー様、アップル様、ウッディー様(herbal-fruity-apple-woody)の香気を有していた。
【0068】
実施例4
(香料組成物)
下記表1の処方に従い、実施例1で得られたカルボン酸エステル化合物を用いてフローラル-フルーティー調香料組成物を調製した。
【0069】
【表1】
【0070】
官能評価は、5年以上経験した4人の専門パネラーが行い、その結果、実施例1の化合物を含有するフローラル-フルーティー調香料組成物は、強いフルーティー調香気を有し、嗜好性が高く、また拡散性においても優れているとパネラー全員が判断した。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の新規カルボン酸エステル化合物は、フルーティーな香気を有し、優れた香気性を有することから、トイレタリー製品や石鹸、衣料用洗剤等の幅広い賦香成分として有効である。また、本発明のカルボン酸エステル化合物の製造方法によれば、該カルボン酸エステル化合物を工業的に有利な方法で製造することが可能となる。