(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/20 20060101AFI20230920BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
F01N3/20 C
F02D45/00 345
(21)【出願番号】P 2021021278
(22)【出願日】2021-02-12
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉本 仁己
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-163932(JP,A)
【文献】特開2013-148023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/20
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に排気を浄化する触媒を備えるとともに複数の気筒を有した内燃機関に適用される制御装置であって、
前記排気通路に酸素を供給する酸素供給処理と、
前記触媒の劣化速度を低下させる劣化低減処理と、
前記酸素供給処理の実行中における前記触媒の劣化度である第1劣化度から当該酸素供給処理を実行しなかったと仮定した場合の前記触媒の劣化度である第2劣化度を減じた劣化増大量を算出する処理と、
前記劣化増大量の積算値を算出する処理と、
前記積算値が規定の第1判定値以上となった場合に前記劣化低減処理を実行する処理と、を実行する
内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記酸素供給処理を実行しているときの機関運転情報と前記第1劣化度との関係が規定されており、前記酸素供給処理を実行しているときに取得した機関運転情報に基づいて前記第1劣化度を算出する
請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記酸素供給処理を実行していないときの機関運転情報と前記第2劣化度との関係が規定されており、前記酸素供給処理を実行しているときに取得した機関運転情報に基づいて前記第2劣化度を算出する
請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記劣化低減処理の実行中における前記触媒の劣化度である第3劣化度を、当該劣化低減処理を実行しなかったと仮定した場合の前記触媒の劣化度である第4劣化度から減じた劣化低減量を算出する処理と、
前記積算値から前記劣化低減量を減じることで前記積算値を更新する処理と、当該処理にて更新された積算値が前記第1判定値よりも小さい値に設定された規定の第2判定値以下となった場合には前記劣化低減処理を終了する処理と、を実行する
請求項1~3のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記劣化低減処理を実行しているときの機関運転情報と前記第3劣化度との関係が規定されており、前記劣化低減処理を実行しているときに取得した機関運転情報に基づいて前記第3劣化度を算出する
請求項4に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記劣化低減処理を実行していないときの機関運転情報と前記第4劣化度との関係が規定されており、前記劣化低減処理を実行しているときに取得した機関運転情報に基づいて前記第4劣化度を算出する
請求項4または5に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1に記載の内燃機関は、排気通路に設けられた触媒の劣化度が所定値よりも大きくなると、触媒の劣化進行を抑制する劣化低減処理を実行するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、排気通路に酸素を供給する酸素供給処理を実行すると、触媒の劣化速度が増加するため、触媒の劣化が使用限界に至るまでの時間が短くなるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する内燃機関の制御装置は、排気通路に排気を浄化する触媒を備えるとともに複数の気筒を有した内燃機関に適用される制御装置である。この制御装置は、前記排気通路に酸素を供給する酸素供給処理と、前記触媒の劣化速度を低下させる劣化低減処理と、前記酸素供給処理の実行中における前記触媒の劣化度である第1劣化度から当該酸素供給処理を実行しなかったと仮定した場合の前記触媒の劣化度である第2劣化度を減じた劣化増大量を算出する処理と、前記劣化増大量の積算値を算出する処理と、前記積算値が規定の第1判定値以上となった場合に前記劣化低減処理を実行する処理とを実行する。
【0006】
同構成によれば、上記劣化増大量は、酸素供給処理の影響による触媒の劣化度の増大量を示す値になる。そして、その劣化増大量の積算値が第1判定値以上になると劣化低減処理が実行される。そのため、酸素供給処理の実行によって触媒の劣化が進んだとしても、劣化低減処理の実行によってその後の触媒の劣化は抑えられるようになるため、触媒の劣化が使用限界に至るまでの時間を長くすることができる。
【0007】
前記第1劣化度は、前記酸素供給処理を実行しているときの機関運転情報と前記第1劣化度との関係が規定されており、前記酸素供給処理を実行しているときに取得した機関運転情報に基づいて算出してもよい。
【0008】
また、前記第2劣化度は、前記酸素供給処理を実行していないときの機関運転情報と前記第2劣化度との関係が規定されており、前記酸素供給処理を実行しているときに取得した機関運転情報に基づいて算出してもよい。
【0009】
上記制御装置において、前記劣化低減処理の実行中における前記触媒の劣化度である第3劣化度を、当該劣化低減処理を実行しなかったと仮定した場合の前記触媒の劣化度である第4劣化度から減じた劣化低減量を算出する処理と、前記積算値から前記劣化低減量を減じることで前記積算値を更新する処理と、当該処理にて更新された積算値が前記第1判定値よりも小さい値に設定された規定の第2判定値以下となった場合には前記劣化低減処理を終了する処理とを実行してもよい。
【0010】
同構成によれば、上記劣化低減量は、劣化低減処理の効果に相当する触媒劣化度の低減量を示す値になる。そして、上記積算値から同劣化低減量を減じることにより更新された当該積算値が第2判定値以下になると劣化低減処理は終了される。従って、劣化低減処理を適切なタイミングで終了させることができる。
【0011】
前記第3劣化度は、前記劣化低減処理を実行しているときの機関運転情報と前記第3劣化度との関係が規定されており、前記劣化低減処理を実行しているときに取得した機関運転情報に基づいて算出してもよい。
【0012】
前記第4劣化度は、前記劣化低減処理を実行していないときの機関運転情報と前記第4劣化度との関係が規定されており、前記劣化低減処理を実行しているときに取得した機関運転情報に基づいて算出してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態にかかる内燃機関、駆動系、及び制御装置の構成を示す図。
【
図2】同実施形態の制御装置が実行する処理に関する手順を示すフローチャート。
【
図3】同実施形態の作用を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、内燃機関の制御装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
<車両及び内燃機関の構成>
図1に示すように、車両500に搭載される内燃機関10は、4つの気筒#1~#4を備える。内燃機関10の吸気通路12には、スロットルバルブ14が設けられている。吸気通路12の下流部分である吸気ポート12aには、吸気ポート12aに燃料を噴射するポート噴射弁16が設けられている。吸気通路12に吸入された空気やポート噴射弁16から噴射された燃料は、吸気バルブ18の開弁に伴って燃焼室20に流入する。燃焼室20には、燃料を気筒内に噴射する筒内噴射弁22から燃料が噴射される。また、燃焼室20内の空気と燃料との混合気は、点火プラグ24の火花放電に伴って燃焼に供される。そのときに生成される燃焼エネルギは、クランク軸26の回転エネルギに変換される。
【0015】
燃焼室20において燃焼に供された混合気は、排気バルブ28の開弁に伴って、排気として排気通路30に排出される。排気通路30には、排気を浄化する排気浄化部材として、酸素吸蔵能力を有した三元触媒32とガソリンパティキュレートフィルタ(GPF34)とが設けられている。なお、本実施形態では、GPF34として、粒子状物質(PM)を捕集するフィルタに酸素吸蔵能力を有した三元触媒が担持されたものを想定している。
【0016】
クランク軸26は、動力分割装置を構成する遊星歯車機構50のキャリアCに機械的に連結されている。遊星歯車機構50のサンギアSには、第1モータジェネレータ52の回転軸52aが機械的に連結されている。また、遊星歯車機構50のリングギアRには、第2モータジェネレータ54の回転軸54aと駆動輪60とが機械的に連結されている。第1モータジェネレータ52の端子には、インバータ56によって交流電圧が印加される。また、第2モータジェネレータ54の端子には、インバータ58によって交流電圧が印加される。
【0017】
制御装置70は、内燃機関10を制御対象とし、その制御量としてのトルクや排気成分比率等を制御するために、スロットルバルブ14、ポート噴射弁16、筒内噴射弁22、および点火プラグ24等の内燃機関10の操作部を操作する。また、制御装置70は、第1モータジェネレータ52を制御対象とし、その制御量である回転速度を制御すべく、インバータ56を操作する。また、制御装置70は、第2モータジェネレータ54を制御対象とし、その制御量であるトルクを制御すべくインバータ58を操作する。
図1には、スロットルバルブ14、ポート噴射弁16、筒内噴射弁22、点火プラグ24、およびインバータ56,58のそれぞれの操作信号MS1~MS6を記載している。制御装置70は、内燃機関10の制御量を制御するために、エアフローメータ80によって検出される吸入空気量Ga、クランク角センサ82の出力信号Scr、水温センサ86によって検出される冷却水温THW、および三元触媒32の上流に設けられた空燃比センサ88によって検出される空燃比Afを参照する。また、制御装置70は、第1モータジェネレータ52や第2モータジェネレータ54の制御量を制御するために、第1モータジェネレータ52の回転角を検知する第1回転角センサ90の出力信号Sm1、および第2モータジェネレータ54の回転角を検知する第2回転角センサ92の出力信号Sm2を参照する。なお、制御装置70は、出力信号Scrに基づいて機関回転速度NEを算出する。また、制御装置70は、機関回転速度NE及び吸入空気量Gaに基づいて機関負荷率KLを算出する。機関負荷率KLは、燃焼室20に充填される空気量を定めるパラメータであり、基準流入空気量に対する、1気筒の1燃焼サイクル当たりの流入空気量の比である。なお、基準流入空気量は機関回転速度NEに応じて可変設定される。
【0018】
制御装置70は、CPU72、ROM74、および周辺回路76を備えており、それらが通信線78によって通信可能とされている。ここで、周辺回路76は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路や、電源回路、リセット回路等を含む。制御装置70は、ROM74に記憶されたプログラムをCPU72が実行することにより上記制御量を制御する。
【0019】
<再生処理>
制御装置70のCPU72は、機関回転速度NE、機関負荷率KL、及び冷却水温THWなどに基づいてGPF34に捕集されたPMの堆積量DPMを算出する。
【0020】
そして、堆積量DPMが規定の再生開始閾値以上になると、制御装置70は、GPF34を再生する再生処理として、特定気筒フューエルカット処理(以下、特定気筒FC処理と記載)を実行する。
【0021】
特定気筒FC処理は、複数の気筒のうちの一部の気筒における混合気の燃焼を停止させる停止処理を含む。また、この特定気筒FC処理は、当該一部の気筒以外の残りの気筒における混合気の燃焼に際して同混合気の空燃比が理論空燃比よりもリッチとなるように燃焼室20に供給される燃料量を上記停止処理の非実行時よりも増加させる増量処理を含む。
【0022】
上記停止処理は、例えば気筒#1のポート噴射弁16及び筒内噴射弁22からの燃料噴射を停止することにより同気筒#1での混合気の燃焼を停止する処理である。なお、この停止処理が実施される気筒を以下ではFC気筒といい、FC気筒以外の残りの気筒、つまり混合気の燃焼が実施される気筒を燃焼気筒という。
【0023】
上記増量処理は、排気通路30に未燃燃料を供給するために、気筒#2、気筒#3、及び気筒#4の各燃焼室20に供給される燃料量を上記停止処理の非実行時よりも増加させる処理である。この増量処理の実行に際しては、気筒#2、気筒#3、及び気筒#4の各燃料噴射量Qとして、混合気の空燃比を理論空燃比とするための噴射量であるベース噴射量Qbに増量係数Kを乗算した値が設定される。CPU72は、気筒#2、気筒#3、及び気筒#4から排気通路30に排出される排気中の未燃燃料が気筒#1から排出される酸素と過不足なく反応する量以下となるように上記増量係数Kを設定する。詳しくは、CPU72は、GPF34の再生処理の初期には、三元触媒32の温度を早期に上昇させるべく、気筒#2、気筒#3、及び気筒#4内の混合気の空燃比を、上記過不足なく反応する量に極力近い値とする。
【0024】
こうした特定気筒FC処理が実施されると、排気通路30には酸素と未燃燃料とが排出されることにより三元触媒32では未燃燃料が酸化して同三元触媒32の温度は上昇する。三元触媒32が高温になると、高温の排気がGPF34に流入することによってGPF34の温度が上昇する。そして、高温となったGPF34に酸素が流入することにより、GPF34に捕集されたPMは酸化除去される。この特定気筒FC処理は排気通路に酸素を供給する酸素供給処理となっている。
【0025】
<三元触媒の劣化に関する処理>
特定気筒FC処理が実行されると、三元触媒32の雰囲気は高酸素濃度になるため、特定気筒FCが実行されていないときよりも三元触媒32の劣化速度は速くなる。また、特定気筒FC処理が実行されると、三元触媒32は高温になるため、これによっても三元触媒32の劣化速度は速くなる。そこで、制御装置70は、三元触媒32の劣化度を積算した積算値Sを算出する。そして、積算値Sが規定の第1判定値Sref1以上になると、三元触媒32の劣化速度を低下させる劣化低減処理を実行する。なお、こうした劣化低減処理としては、三元触媒32に流入する排気の酸素濃度を低下させる処理や、三元触媒32の温度を下げる処理を実行することが望ましい。そこで、本実施形態では、内燃機関の燃料噴射弁から噴射する燃料の量を増量補正して混合気の空燃比を理論空燃比よりもリッチ化することにより三元触媒32の温度を低下させる処理を劣化低減処理として実行する。なお、本実施形態では、三元触媒32の温度が規定の温度閾値THref以上になると混合気をリッチ化することにより三元触媒32の過昇温を抑える、いわゆるOT増量処理を劣化低減処理として利用する。
【0026】
以下、そうした三元触媒32の劣化に関する処理について説明する。
図2に、本実施形態にかかる制御装置70が実行する処理の手順を示す。
図2に示す処理は、ROM74に記憶されたプログラムをCPU72がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、各処理のステップ番号を表現する。
【0027】
図2に示す一連の処理において、フラグFの値が「1」であるか否かを判定する(S100)。フラグFは、後述のS160やS220にて値が操作されるものであり、初期値は「0」である。
【0028】
フラグFが「1」ではないと判定する場合(S100:NO)、CPU72は、現在、酸素供給処理である特定気筒FC処理の実行中であるか否かを判定する(S110)。そして、酸素供給処理の実行中であると判定する場合(S110:YES)、CPU72は、機関運転情報を取得する(S120)。このS120で取得する機関運転情報は、吸入空気量Ga、機関回転速度NE、及び機関負荷率KLなどである。
【0029】
次に、CPU72は、取得した機関運転情報を利用して劣化増大量Aを算出する(S130)。
この劣化増大量Aは、特定気筒FC処理の実行中に増加する三元触媒32の単位時間当たりの劣化度を第1劣化度A1とし、仮に当該特定気筒FC処理を実行しなかった場合の三元触媒32の単位時間当たりの劣化度の増大量を第2劣化度A2としたときに、第1劣化度A1から第2劣化度A2を減じた値である。つまり、劣化増大量Aは、特定気筒FC処理の影響による三元触媒32の劣化度の増大量を単位時間当たりの値で示したものである。
【0030】
第1劣化度A1は、特定気筒FC処理の実行中の三元触媒32の温度であるFC時触媒温度Tfc、FC気筒から三元触媒32に供給される酸素の濃度である酸素濃度OC、
図2に示す処理の実行周期の時間t、適合された各定数K、α、mに基づき、次式(1)から定量化される。
【0031】
A1=f[exp(-K/Tfc)・OC^α・t^m]…(1)
また、第2劣化度A2は、仮に特定気筒FC処理を実行しなかったと仮定したときの三元触媒32の温度である非FC時触媒温度Tfcn、
図2に示す処理の実行周期の時間t、適合された各定数K、α、mに基づき、次式(2)から定量化される。
【0032】
A2=f[exp(-K/Tfcn)・t^m]…(2)
なお、FC時触媒温度Tfcは、S120で取得した機関回転速度NEや機関負荷率KL等といった機関運転情報と特定気筒FC処理の実行中における三元触媒32の温度との関係が規定されたマップあるいは関数式などに基づいてCPU72が算出する。
【0033】
また、非FC時触媒温度Tfcnは、S120で取得した機関回転速度NEや機関負荷率KL等といった機関運転情報と特定気筒FC処理の非実行中における三元触媒32の温度との関係が規定されたマップあるいは関数式などに基づいてCPU72が算出する。
【0034】
また、特定気筒FC中には、FC気筒から三元触媒32に供給される酸素の濃度が空気中の酸素濃度とほぼ同じになるため、上記酸素濃度OCには空気中の酸素濃度が設定されている。ちなみに、特定気筒FC処理を実行しない場合には、基本的にストイキ燃焼が行われるため、排気通路30内の排気には酸素が含まれていない。従って、上記式(2)では、上記式(1)における「OC^α」の項が「1」になっている。
【0035】
こうして定量化された第1劣化度A1から第2劣化度A2を減じた値が上記劣化増大量Aとして算出される。
次に、CPU72は、S130で算出した劣化増大量Aを積算値Sに加算することにより当該積算値Sを更新する(S140)。このS140で算出される積算値Sは、劣化増大量Aの積算値であり、特定気筒FC処理の影響によって増加した三元触媒32の劣化度を示す。なお、積算値Sの初期値は「0」に設定されている、また、積算値Sの値は、バックアップRAM等に記憶されることにより、機関運転が停止した後も保持される。
【0036】
次に、CPU72は、S140で更新した積算値Sが上記第1判定値Sref1以上であるか否かを判定する(S150)。この第1判定値Sref1としては、積算値Sが第1判定値Sref1以上であることに基づき、劣化低減処理の実行を促す必要がある程度に積算値Sが大きくなっていることを的確に判定できるように、その値の大きさは設定されている。
【0037】
そして、積算値Sが第1判定値Sref1以上であると判定する場合(S150:YES)、CPU72は、フラグFの値を「1」に設定する(S160)。このフラグFが「1」に設定されると、上記OT増量処理を実行する三元触媒32の温度閾値THrefが規定値αの分だけ低い値に設定される。これにより、フラグFが「0」に設定されている場合と比較して、OT増量処理は実行されやすくなる。
【0038】
上記S100にて、フラグFが「1」であると判定する場合(S100:YES)、CPU72は、現在、劣化低減処理の実行中であるか否か、つまりOT増量処理の実行中であるか否かを判定する(S170)。そして、劣化低減処理の実行中であると判定する場合(S170:YES)、CPU72は、機関運転情報を取得する(S180)。このS180で取得する機関運転情報は、機関回転速度NE及び機関負荷率KLなどである。
【0039】
次に、CPU72は、取得した機関運転情報を利用して劣化低減量Bを算出する(S190)。
この劣化低減量Bは、劣化低減処理の実行中に増加する三元触媒32の単位時間当たりの劣化度を第3劣化度B3とし、仮に当該劣化低減処理を実行しなかった場合の三元触媒32の単位時間当たりの劣化度の増大量を第4劣化度B4としたときに、第4劣化度B4から第3劣化度B3を減じた値である。つまり、劣化低減量Bは、劣化低減処理の効果に相当する劣化度の低減量を単位時間当たりの値で示したものである。
【0040】
第3劣化度B3は、劣化低減処理の実行中の三元触媒32の温度である劣化低減時触媒温度Tdr、
図2に示す処理の実行周期の時間t、適合された各定数K、α、mに基づき、次式(3)から定量化される。
【0041】
B3=f[exp(-K/Tdr)・t^m]…(3)
また、第4劣化度B4は、仮に劣化低減処理を実行しなかったと仮定したときの三元触媒32の温度である非劣化低減時触媒温度Tdrn、
図2に示す処理の実行周期の時間t、適合された各定数B、α、mに基づき、次式(4)から定量化される。
【0042】
B4=f[exp(-K/Tdrn)・t^m]…(4)
なお、劣化低減時触媒温度Tdrは、劣化低減処理の実行中における三元触媒32の温度と、S180で取得した機関回転速度NEや機関負荷率KL等といった機関運転情報との関係が規定されたマップあるいは関数式などに基づいてCPU72が算出する。
【0043】
また、非劣化低減時触媒温度Tdrnは、劣化低減処理の非実行中における三元触媒32の温度と、S180で取得した機関回転速度NEや機関負荷率KL等といった機関運転情報との関係が規定されたマップあるいは関数式などに基づいてCPU72が算出する。ちなみに、劣化低減処理の実行時や非実行時には、混合気の空燃比が理論空燃比よりもリーンにされるリーン燃焼が行われないため、排気通路30内の排気には酸素が含まれていない。従って、上記式(3)や上記式(4)では、上記式(1)における「OC^α」の項が「1」になっている。
【0044】
こうして定量化された第4劣化度B4から第3劣化度B3を減じた値が上記劣化低減量Bとして算出される。
次に、CPU72は、S190で算出した劣化低減量Bを積算値Sから減算することにより当該積算値Sを更新する(S200)。
【0045】
次に、CPU72は、S200で更新された積算値Sが規定の第2判定値Sref2以下であるか否かを判定する(S210)。この第2判定値Sref2は、上記第1判定値Sref1よりも小さい値である。同第2判定値Sref2としては、積算値Sが第2判定値Sref2以下であることに基づき、劣化低減処理を終了してもよい程度に積算値Sが小さくなっていることを的確に判定できるように、その値の大きさは設定されている。ちなみに、本実施形態では第2判定値Sref2を「0」としている。
【0046】
そして、積算値Sが第2判定値Sref2以下であると判定する場合(S210:YES)、CPU72は、フラグFの値を「0」に設定する(S220)。このフラグFが「0」に設定されると、上記規定値αの分だけ低い値に設定されていた上記温度閾値THrefは元の値に戻される。これにより劣化低減処理として実行されているOT増量処理は終了される。
【0047】
なお、CPU72は、S160、S220の処理を完了する場合や、S110、S150、S170、S210の処理において否定判定する場合には、
図2に示す一連の処理を一旦終了する。
【0048】
<本実施形態の作用>
図3を参照して、本実施形態の作用を説明する。なお、
図3に示す実線L1は、実際の三元触媒32の実際の劣化進行度合いを示し、二点鎖線L2は、仮に酸素供給処理及び劣化低減処理を全く実行しなかった場合の三元触媒32の劣化進行度合いを示す。
【0049】
時刻t1において、酸素供給処理である特定気筒FC処理が実行されると、積算値Sは増加していく。そして、時刻t2において特定気筒FC処理が停止されると、積算値Sの増加も停止する。
【0050】
その後、時刻t3において再び特定気筒FC処理が実行されると、積算値Sも再び増加していく。そして、時刻t4において積算値Sが第1判定値Sref1以上になると、フラグFが「1」に設定される。その後、時刻t5において特定気筒FC処理が停止されると、積算値Sの増加は停止する。
【0051】
時刻t6において、実行条件が成立することにより劣化低減処理が実行されると、積算値Sは小さくなっていく。そして、時刻t7において、積算値Sが第2判定値Sref2以下になると、フラグFは「0」に設定されて劣化低減処理は停止される。
【0052】
<本実施形態の効果>
本実施形態の効果について説明する。
(1)上述したように、上記劣化増大量Aは、酸素供給処理の影響による三元触媒32の劣化度の増大量を示す値になる。そして、その劣化増大量Aの積算値Sが第1判定値Sref1以上になると劣化低減処理が実行される。そのため酸素供給処理の実行によって三元触媒32の劣化が進んだとしても、劣化低減処理の実行によってその後の三元触媒32の劣化は抑えられるようになるため、三元触媒32の劣化が許容限界に至るまでの時間を長くすることができる。
【0053】
(2)上述したように、上記劣化低減量Bは、劣化低減処理の効果に相当する触媒劣化度の低減量を示す値になる。そして、上記積算値Sから劣化低減量Bを減じることで更新された積算値Sが第2判定値Sref2以下になると劣化低減処理は終了される。従って、劣化低減処理を適切なタイミングで終了させることができる。
【0054】
<変更例>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0055】
・第1劣化度A1の増大量や第2劣化度A2の増大量は、酸素供給処理の実行時間と正の相関がある。そこで、簡易的には酸素供給処理の実行時間に適宜の適合係数を乗算することにより、第1劣化度A1の増大量や第2劣化度A2の増大量を求めてそれら各増大量の差を算出することにより上記劣化増大量Aの積算値に相当する値SAを算出する。そして、この値SAが上記第1判定値Sref1以上である場合には上記フラグFを「1」に設定してもよい。
【0056】
また、第3劣化度B3の増大量や第4劣化度B4の増大量は、劣化低減処理の実行時間と正の相関がある。そこで、簡易的には劣化低減処理の実行時間に適宜の適合係数を乗算することにより、第3劣化度B3の増大量や第4劣化度B4の増大量を求めてそれら各増大量の差を算出することにより上記劣化低減量Bの積算値に相当する値SBを算出する。そして、この値SBを上記値SAから減じた値が上記第2判定値Sref2以下である場合には上記フラグFを「0」に設定してもよい。
【0057】
・第2判定値Sref2を「0」としたが他の値にしてもよい。例えば、第1判定値Sref1よりも小さく「0」よりも大きい値にしてもよい。また、第2判定値Sref2を負の値としてもよく、この場合には劣化低減量Bの累積値が劣化増大量Aの累積値を超えた場合にフラグFは「1」に設定される。
【0058】
・フラグFが「1」の場合には、上記温度閾値THrefを変更するようにした。この他、フラグFが「1」の場合には、OT増量処理で増量される燃料の量をさらに多くして三元触媒32の温度がより一層低下するようにしてもよい。
【0059】
・フラグFが「1」の場合には、劣化低減処理が実行されやすいようにその実行にかかる温度閾値THrefを変更するようにした。この他、フラグFが「1」の場合には、劣化低減処理を強制的に実行するようにしてもよい。
【0060】
・劣化低減処理として、OT増量処理を利用するようにしたが他の処理を利用してもよい。
例えば、一般的に、減速時には全気筒において燃料カットを実施する減速時フューエルカットが実行される。ここで、三元触媒32の温度が規定の温度閾値THref2以上であるときにそうした燃料カットを実行すると、高温状態の三元触媒32に酸素が供給されることになるため、三元触媒32が熱劣化してしまう。そこで、減速時において三元触媒32の温度が温度閾値THref2以上であるときには、燃料カットを禁止して失火しない程度に各気筒でストイキ燃焼を行う減速時ファイアリング処理が実行される。この減速時ファイアリング処理の実行中には、燃料カットを実行する場合と比べて三元触媒32に流入する排気の酸素濃度が低下するため、この減速時ファイアリング処理を劣化低減処理として利用することができる。そこで、上記フラグFが「1」の場合には、温度閾値THref2を規定値βの分だけ低い値に設定するようにしてもよい。この場合には、フラグFが「0」に設定されている場合と比較して、減速時ファイアリング処理は実行されやすくなるため、劣化低減処理が実施されやすくなる。
【0061】
また、混合気に含まれるEGR量(内部EGR量や外部EGR量)を増大させると混合気の燃焼温度が低下するため、三元触媒32の温度が低下する。そこで、劣化低減処理として、そうしたEGR量の増大処理を実行してもよい。この場合には、上記フラグFが「1」の場合には、「0」の場合に比べてEGR量が増えるように周知の態様で機関運転を制御すればよい。なお、劣化低減処理として、上述した各変更例にかかる処理を適宜併用してもよい。
【0062】
・特定気筒FC処理を実行する処理としては、上述した再生処理に限らない。たとえば、触媒暖機や硫黄被毒回復のために特定気筒FC処理を実行してもよい。
・特定気筒FC処理を実行する処理としては、上述した再生処理に限らない。たとえば、三元触媒32の酸素吸蔵量が規定値以下となる場合に、一部の気筒のみ燃焼制御を停止し、残りの気筒における混合気の空燃比を理論空燃比とする制御を実行する処理であってもよい。
【0063】
・上述した特定気筒FC処理の実行時に燃焼を停止する気筒の数は「1」であったが、燃焼を停止する気筒の数は、「気筒数-1」を最大値として適宜変更することができる。また、燃焼を停止する気筒を予め定められた気筒に固定することは必須ではない。たとえば、1燃焼サイクル毎に燃焼を停止する気筒を変更してもよい。
【0064】
・酸素供給処理としては、上述した特定気筒FC処理に限らない。たとえば、複数の気筒のうちの一部の気筒の混合気の空燃比を理論空燃比よりもリーンとし、残りの気筒における混合気の空燃比を理論空燃比よりもリッチとするディザ制御であってもよい。また、例えば減速時の燃料カット処理のように、全ての気筒の燃焼を停止する全気筒フューエルカット処理であってもよい。
【0065】
・GPF34としては、三元触媒が担持されたフィルタに限らず、フィルタのみであってもよい。また、GPF34としては、排気通路30のうちの三元触媒32の下流に設けられるものに限らない。また、三元触媒32を、排気に含まれる成分を酸化する酸化触媒に置き換えてもよい。また、排気浄化装置としてGPF34を備えること自体必須ではない。
【0066】
・制御装置としては、CPU72とROM74とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置及びプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置及びプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0067】
・車両としては、シリーズ・パラレルハイブリッド車に限らず、たとえばパラレルハイブリッド車やシリーズハイブリッド車であってもよい。もっとも、ハイブリッド車に限らず、たとえば、車両の動力発生装置が内燃機関10のみの車両であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
10…内燃機関
12…吸気通路
12a…吸気ポート
14…スロットルバルブ
16…ポート噴射弁
18…吸気バルブ
20…燃焼室
22…筒内噴射弁
24…点火プラグ
26…クランク軸
28…排気バルブ
30…排気通路
32…三元触媒
34…GPF
50…遊星歯車機構
52…第1モータジェネレータ
52a…回転軸
54…第2モータジェネレータ
54a…回転軸
56…インバータ
58…インバータ
60…駆動輪
70…制御装置