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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】演算装置および全固体電池システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/382 20190101AFI20230920BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230920BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230920BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20230920BHJP
   G01R 31/388 20190101ALI20230920BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20230920BHJP
【FI】
G01R31/382
H01M10/0562
H01M10/48 P
G01R31/385
G01R31/388
G01R31/367
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021032520
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022133689
(43)【公開日】2022-09-14
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】宮島 貴之
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-013634(JP,A)
【文献】特開2020-161300(JP,A)
【文献】特開2013-055005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/382
H01M 10/0562
H01M 10/48
G01R 31/385
G01R 31/388
G01R 31/367
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層、固体電解質層および負極層を有する全固体電池の実際に取り出せる電池残量を演算する演算装置であって、
前記演算装置は、
前記全固体電池の作動履歴に基づいて、前記正極層および前記負極層の少なくとも一方である電極層における、厚さ方向のLi占有状態を設定する設定部と、
前記Li占有状態に基づいて、前記電池残量を演算する演算部と、
を備え、
前記演算装置は、前記Li占有状態および前記電池残量の関係を示すマップを記憶した記憶部をさらに備え、
前記演算部は、前記設定部で設定された前記Li占有状態と、前記マップとに基づいて、前記電池残量を演算する、演算装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記電極層を前記厚さ方向に沿って複数の電極構成層に分割したモデルを用いて、前記全固体電池の作動履歴に対応するLi占有パターンを作成し、前記Li占有パターンに基づいて、前記Li占有状態を設定する、請求項1に記載の演算装置。
【請求項3】
前記演算装置は、
前記全固体電池の作動履歴に基づいて、前記設定部で設定された前記Li占有状態を補正する補正部と、
前記補正されたLi占有状態を、前記演算部にフィードバックするフィードバック部と、
を備える、請求項1または請求項2に記載の演算装置。
【請求項4】
前記演算部、前記補正部および前記フィードバック部は、前記全固体電池の作動中に機能する、請求項に記載の演算装置。
【請求項5】
前記補正部は、前記電極層を前記厚さ方向に沿って複数の電極構成層に分割したモデルを用いて、前記全固体電池の作動履歴に対応するLi占有パターンを作成し、前記Li占有パターンに基づいて、前記Li占有状態を補正する、請求項または請求項に記載の演算装置。
【請求項6】
正極層、固体電解質層および負極層を有する全固体電池と、
前記全固体電池の実際に取り出せる電池残量を演算する演算装置と、
を備える全固体電池システムであって、
前記演算装置が、請求項1から請求項までのいずれかの請求項に記載の演算装置である、全固体電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、演算装置および全固体電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電池残量を演算する演算装置が知られている。例えば特許文献1には、車両に搭載された走行用バッテリに蓄えられた電力の残量を演算する残量演算手段を備えた、車両の航続距離演算装置が開示されている。この技術では、バッテリ残量に基づいて電費の変動を抑制した抑制電費を演算し、バッテリ残量および抑制電費に基づいて航続距離を演算することで、航続距離の演算値の信頼性および妥当性を向上させている。
【0003】
一方、特許文献2には、充電状態と開放電圧との関係が、充電時と放電時とでヒステリシスを有する全固体電池の制御装置であって、全固体電池の温度および直流抵抗に基づいて、全固体電池の充電状態を推定する推定手段を備えた、全固体電池の制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-003905号公報
【文献】特開2019-132696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全固体電池では、電解質として固体電解質を用いており、電極層(正極層、負極層)の厚さ方向において充放電ムラ(反応ムラ)が生じやすい。この充放電ムラにより、全固体電池の開回路電圧(Open Circuit Voltage)または充電状態(State of Charge、SOC)が同一であっても、実際に取り出せる電池残量が異なる場合がある。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、全固体電池の電池残量を精度良く演算可能な演算装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示においては、正極層、固体電解質層および負極層を有する全固体電池の電池残量を演算する演算装置であって、上記演算装置は、上記全固体電池の作動履歴に基づいて、上記正極層および上記負極層の少なくとも一方である電極層における、厚さ方向のLi占有状態を設定する設定部と、上記Li占有状態に基づいて、上記電池残量を演算する演算部と、を備える、演算装置を提供する。
【0008】
本開示によれば、電極層における厚さ方向のLi占有状態を設定し、そのLi占有状態に基づいて演算を行うことで、全固体電池の電池残量を精度良く求めることができる。
【0009】
上記開示において、上記設定部は、上記電極層を上記厚さ方向に沿って複数の電極構成層に分割したモデルを用いて、上記全固体電池の作動履歴に対応するLi占有パターンを作成し、上記Li占有パターンに基づいて、上記Li占有状態を設定してもよい。
【0010】
上記開示において、上記演算装置は、上記Li占有状態および上記電池残量の関係を示すマップを記憶した記憶部をさらに備え、上記演算部は、上記設定部で設定された上記Li占有状態と、上記マップとに基づいて、上記電池残量を演算してもよい。
【0011】
上記開示において、上記演算装置は、上記全固体電池の充電状態に基づいて、仮の電池残量を予測する予測部をさらに備え、上記演算部は、上記設定部で設定された上記Li占有状態と、上記仮の電池残量とに基づいて、上記電池残量を演算してもよい。
【0012】
上記開示において、上記演算装置は、上記全固体電池の作動履歴に基づいて、上記設定部で設定された上記Li占有状態を補正する補正部と、上記補正されたLi占有状態を、上記演算部にフィードバックするフィードバック部と、を備えていてもよい。
【0013】
上記開示において、上記演算部、上記補正部および上記フィードバック部は、上記全固体電池の作動中に機能してもよい。
【0014】
上記開示において、上記補正部は、上記電極層を上記厚さ方向に沿って複数の電極構成層に分割したモデルを用いて、上記全固体電池の作動履歴に対応するLi占有パターンを作成し、上記Li占有パターンに基づいて、上記Li占有状態を補正してもよい。
【0015】
また、本開示において、正極層、固体電解質層および負極層を有する全固体電池と、上記全固体電池の電池残量を演算する演算装置と、を備える全固体電池システムであって、上記演算装置が、上述した演算装置である、全固体電池システムを提供する。
【0016】
本開示によれば、上述した演算装置を設けることで、全固体電池の電池残量を精度良く演算可能な全固体電池システムとなる。
【発明の効果】
【0017】
本開示における演算装置は、全固体電池の電池残量を精度良く演算可能である、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
図2】本開示における演算装置、その演算装置を含む全固体電池システム、および、その全固体電池システムが搭載された車両の全体構成を概略的に例示する模式図である。
図3】充放電ムラを例示する説明図である。
図4】充放電ムラによる放電挙動の違いを説明する説明図である。
図5】電池残量の演算方法を例示するフローチャートである。
図6】Li占有状態の設定方法を例示する説明図である。
図7】Li占有状態の設定方法を例示する説明図である。
図8】Li占有状態の設定方法を例示する説明図である。
図9】電池残量の演算方法を例示する説明図である。
図10】電池残量の演算方法を例示する説明図である。
図11】電池残量の演算方法を例示する説明図である。
図12】電池残量の演算方法を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示における演算装置および全固体電池システムについて、詳細に説明する。
【0020】
A.演算装置
本開示における演算装置は、正極層、固体電解質層および負極層を有する全固体電池の電池残量を演算する装置である。図1は、本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。図1に示す全固体電池10は、正極層1と、負極層2と、正極層1および負極層2の間に配置された固体電解質層3と、正極層1の集電を行う正極集電体4と、負極層2の集電を行う負極集電体5とを有する。また、図1に示す全固体電池10は、発電要素PG(正極層1、負極層2および固体電解質層3)を一つ有する単電池であるが、本開示における全固体電池は、発電要素を複数有する組電池であってもよい。また、複数の発電要素は、互いに直列に接続されていてもよく、並列に接続されていてもよい。
【0021】
図2は、本開示における演算装置、その演算装置を含む全固体電池システム、および、その全固体電池システムが搭載された車両の全体構成を概略的に例示する模式図である。車両200は、全固体電池システム100と、パワーコントロールユニット(PCU:Power Control Unit)110と、モータジェネレータ(MG:Motor Generator)120と、駆動輪130とを備える。電池システム100は、全固体電池10と、監視装置20と、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)30と、を備える。
【0022】
ECU30は、車両200の各種電子制御を行うが、全固体電池10の電池残量を演算する演算装置としても機能する。演算装置は、その機能を実現するための処理ブロックとして、後述する設定部および演算部を少なくとも備える。また、監視装置20は、全固体電池10の状態を監視し、その監視結果をECU30に出力する。
【0023】
本開示によれば、電極層における厚さ方向のLi占有状態を設定し、そのLi占有状態に基づいて演算を行うことで、全固体電池の電池残量を精度良く求めることができる。ここで、上述したように、全固体電池には、電極層(正極層、負極層)の厚さ方向において充放電ムラ(反応ムラ)が顕著に生じる。この点について、図3を用いて説明する。
【0024】
図3(a)に示す全固体電池10は、正極層1、固体電解質層3および負極層2を有する。図3(a)に示すように、正極層1にLiが含まれ、負極層2にLiが含まれていない状態は、SOC0%に該当する。次に、このような全固体電池10を完全に充電すると、図3(b)に示すように、負極層2にLiが含まれ、正極層1にLiが含まれていない状態が得られ、この状態はSOC100%に該当する。
【0025】
次に、図3(b)、(c)に示すように、SOC100%からSOC60%まで放電する。この際、負極層2では、固体電解質層3に近い領域において、固体電解質層3から遠い領域よりも、優先的にLi脱離反応が生じる。逆に、正極層1では、固体電解質層3に近い領域において、固体電解質層3から遠い領域よりも、優先的にLi挿入反応が生じる。液電池では、流動性を有する電解液を用いるため、電極の厚さ方向において、均一な反応が生じるが、流動性を有しない固体電解質を用いた全固体電池では、電極層の厚さ方向において、不均一な反応が生じる。次に、図3(d)に示すように、SOC60%から放電を行うと、負極層2に含まれるLi(黒枠内の領域に含まれるLi)は、正極層1におけるLi非存在領域(黒枠内の領域)まで移動する。
【0026】
一方、図3(e)に示す全固体電池10も、図3(a)と同様にSOC0%に該当する。次に、このような全固体電池10を充電すると、図3(f)に示すように、負極層2および正極層1にLiが含まれた状態が得られる(SOC70%)。次に、図3(f)、(g)に示すように、SOC70%からSOC60%まで放電する。次に、図3(h)に示すように、SOC60%から放電を行うと、負極層2に含まれるLi(黒枠内の領域に含まれるLi)は、正極層1におけるLi非存在領域(黒枠内の領域)まで移動する。
【0027】
ここで、図3(c)および図3(g)を比べると、SOCは、ともに60%であるが、電極層におけるLi占有状態が異なる。また、図3(d)および図3(h)を比べると、図3(d)では、Liの移動距離が長く、Li移動抵抗の影響を受けやすいが、図3(h)では、Liの移動距離が短く、Li移動抵抗の影響を受けにくい。Li移動抵抗の影響は、実際に取り出せる電池残量に影響を与えるため、SOCが同一な全固体電池であっても、実際に取り出せる電池残量が異なる場合がある。
【0028】
電池残量を演算する従来方法として、例えば、SOCに基づく演算方法が知られている。上記のように、SOCが同一な全固体電池であっても、実際に取り出せる電池残量が異なる場合があるため、図4(a)に示すように、従来の演算から想定される放電曲線と、実際の放電曲線との間に乖離が生じる場合がある。図4(a)では、実際の放電電圧が、従来の演算から想定される放電電圧よりも早くカット電圧に到達する。そのため、例えば、全固体電池を搭載した車両において、従来の演算から想定される走行可能距離が、実際の走行可能距離よりも過多に見積もられる可能性がある。
【0029】
これに対して、本開示においては、Li占有状態に基づいて、全固体電池の電池残量を演算する。そのため、全固体電池の電池残量を精度良く演算することができる。また、後述するように、全固体電池の作動中に、Li占有状態の補正を繰り返すことで、図4(b)に示すように、本開示における演算から想定される放電曲線と、実際の放電曲線との間に乖離が生じることを防止できる。
【0030】
図5(a)は、本開示における電池残量の演算方法を例示するフローチャートである。なお、このフローチャートは、駆動用電池およびエンジンを有するハイブリッド自動車を想定している。
【0031】
図5(a)に示すように、ステップS1では、エンジンがONになることで車両が始動する。ステップS2では、演算装置が起動し、ステップS3では、演算装置が、電極層における厚さ方向のLi占有状態(ΣU)を設定する。Li占有状態(ΣU)として、例えば、前回の車両停止時のLi占有状態であるΣUが設定される。なお、前回の車両停止時から充電を行った場合は、例えば、ΣUおよび充電履歴に基づいてΣUが設定される。また、前回の車両停止時から長時間経過している場合は、例えば、ΣUおよび自己放電履歴に基づいてΣUが設定される。例えば、初めて車両を始動する場合は、例えば全固体電池の製造履歴に基づいてΣUが設定される。ステップS4では、演算装置が、ΣUに基づいて、電池残量Pを演算する。この際、Li占有状態および電池残量の関係を、予めマップ(例えば、SOCおよび温度を考慮したマップ)として用意しておき、そのマップおよびΣUから、電池残量Pを求める。
【0032】
ステップS5では、演算装置が、電池残量Pおよび消費電気量pに基づいて、EV航続可能距離Dを求め、それを表示装置が表示する。例えば、電池残量Pが8kWhで、消費電気量pが10km/kWhである場合は、EV航続可能距離Dが80kmとなる。ステップS6、7では、車両が走行可能な状態(車両のエンジンがONである状態)で、演算装置が、全固体電池の作動履歴に基づいてΣUを補正し、ΣU´を求め、そのΣU´をステップS4にフィードバックすることで、電池残量Pを再び演算する。ステップS8、9では、エンジンがOFFになることで車両が停止し、演算装置も停止する。演算装置は、その時点のLi占有状態(ΣU)を記憶する。
【0033】
一方、図5(b)は、従来の電池残量の演算方法を例示するフローチャートである。図5(b)に示すように、ステップS11では、エンジンがONになることで車両が始動する。ステップS12では、演算装置が起動し、ステップS13、14では、演算装置が、OCVおよびSOC-OCV曲線に基づいて、全固体電池のSOCを求め、そのSOCに基づいて、電池残量Pを演算する。
【0034】
ステップS15では、演算装置が、電池残量Pおよび消費電気量pに基づいて、EV航続可能距離Dを求め、それを表示装置が表示する。ステップS16、17では、車両が走行可能な状態で、演算装置が、OCVに基づいてSOCを補正し、SOC´を求め、そのSOC´をステップS14にフィードバックすることで、電池残量Pを再び演算する。ステップS18、19では、エンジンがOFFになることで車両が停止し、演算装置も停止する。この演算方法に比べて、本開示における演算方法は、充放電ムラの影響を考慮しているため、演算される電池残量の精度が高い。
【0035】
本開示における演算装置は、電極層における厚さ方向のLi占有状態を設定し、そのLi占有状態に基づいて、全固体電池の電池残量を演算するように構成されている。演算装置は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、各種信号を入出力するための入出力ポートとを含む。メモリは、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、および、書き換え可能な不揮発性メモリを含む。メモリに記憶されているプログラムをCPUが実行することで、各種制御が実行される。演算装置が行なう各種処理については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
【0036】
本開示における演算装置は、その機能を実現するための処理ブロックとして、設定部および演算部を少なくとも備える。また、演算装置は、後述する、記憶部、予測部、補正部、フィードバック部等の各種の処理ブロックをさらに備えていてもよい。
【0037】
1.設定部
本開示における設定部は、全固体電池の作動履歴に基づいて、正極層および負極層の少なくとも一方である電極層における、厚さ方向のLi占有状態を設定するように構成されている。Li占有状態を設定する電極層は、正極層および負極層の一方であってもよく、正極層および負極層の両方であってもよい。
【0038】
Li占有状態の設定方法は、特に限定されないが、例えば、電極層を厚さ方向に沿って複数の電極構成層に分割したモデルを用いる方法が挙げられる。例えば図6に示すモデルでは、正極層(CA)、固体電解質層(SE)および負極層(AN)が厚さ方向に沿って、この順に配置されている。正極層(CA)は、10層の正極構成層を有し、固体電解質層(SE)側から順に、1層目から10層目までナンバリングされている。また、負極層(AN)は、10層の負極構成層を有し、固体電解質層(SE)側から順に、1層目から10層目までナンバリングされている。図6に示すモデルは、正極層(CA)にLiが含まれ、負極層(AN)にLiが含まれていない状態を示しており、この状態はSOC0%に該当する。
【0039】
電極構成層の数は、特に限定されないが、多いほど精度は向上する。電極構成層の数は、例えば5以上であり、10以上であってもよく、50以上であってもよく、100以上であってもよい。一方、電極構成層の数は、例えば1000以下である。また、電極構成層の数をNとした場合、1つの電極構成層が、全固体電池の全容量の1/Nに該当することが好ましい。また、正極構成層の数と、負極構成層の数とは、同じであることが好ましい。
【0040】
設定部は、上記モデルを用いて、全固体電池の作動履歴に対応するLi占有パターンを作成することが好ましい。Li占有パターンの作成は、例えば、以下のルールに基づく。すなわち、充電時には、Liを含有する正極構成層のうち、固体電解質層に最も近い正極構成層から順にLiが脱離し、かつ、Liを含有しない負極構成層のうち、固体電解質層に最も近い負極構成層に順にLiが挿入される。逆に、放電時には、Liを含有する負極構成層のうち、固体電解質層に最も近い負極構成層から順にLiが脱離し、かつ、Liを含有しない正極構成層のうち、固体電解質層に最も近い正極構成層に順にLiが挿入される。
【0041】
例えば図7(a)に示すLi占有パターンは、負極層(AN)にLiが含まれ、正極層(CA)にLiが含まれていない状態を示しており、この状態はSOC100%に該当する。この状態から、全固体電池の全容量の40%分を放電すると、図7(b)に示すLi占有パターンが得られる。具体的には、Liを含有する負極構成層のうち、固体電解質層に最も近い負極構成層(1層目)からLiが脱離し、Liを含有しない正極構成層のうち、固体電解質層に最も近い正極構成層(1層目)にLiが挿入される。同様にして、負極構成層(2層目)からLiが脱離し、正極構成層(2層目)にLiが挿入され、負極構成層(3層目)からLiが脱離し、正極構成層(3層目)にLiが挿入され、負極構成層(4層目)からLiが脱離し、正極構成層(4層目)にLiが挿入される。その結果、図7(b)に示すLi占有パターンが得られる。
【0042】
また、例えば図8(a)に示すLi占有パターンは、負極層(AN)および正極層(CA)にLiが含まれている状態(SOC30%)を示している。この状態から、全固体電池の全容量の30%分を充電すると、図8(b)に示すようなLi占有パターンが得られる。具体的には、Liを含有する正極構成層のうち、固体電解質層に最も近い正極構成層(1層目)からLiが脱離し、Liを含有しない負極構成層のうち、固体電解質層に最も近い負極構成層(1層目)にLiが挿入される。同様にして、正極構成層(2層目)からLiが脱離し、負極構成層(3層目)にLiが挿入され、正極構成層(4層目)からLiが脱離し、負極構成層(4層目)にLiが挿入される。その結果、図8(b)に示すLi占有パターンが得られる。
【0043】
Li占有パターンに基づいてLi占有状態を設定する方法は、特に限定されない。固体電解質層に近い電極構成層は、固体電解質層から遠い電極構成層に比べて、イオン移動抵抗の点で有利であるため、例えば、固体電解質層からの距離に応じて、電極構成層の重み付けを行うことで、Li占有状態を設定できる。
【0044】
図9(a)に示すLi占有パターンでは、固体電解質層(SE)に近い負極構成層(1~6層目)にLiが含まれており、放電時のイオン移動抵抗は最も小さくなる。逆に、図9(b)に示すLi占有パターンでは、固体電解質層(SE)から遠い負極構成層(5~10層目)にLiが含まれており、放電時のイオン移動抵抗は最も大きくなる。そこで、負極層(AN)において、固体電解質層(SE)に最も近い負極構成層(1層目)にLiが含まれている状態を例えば10ポイントとし、以下順に、負極構成層(10層目)にLiが含まれている状態を例えば1ポイントとする。
【0045】
図9(a)に示すLi占有パターンでは、45ポイントとなり、図9(b)に示すLi占有パターンでは、21ポイントとなる。このポイントを用いてLi占有状態を設定することができる。Li占有状態(ΣU)の設定方法としては、例えば、上記ポイントを規格化する方法(0≦ΣU≦1)が挙げられる。例えば、図9(a)、(b)のように、SOC60%、かつ、10層モデルの場合、xポイントのΣUは、(x-21)/24で表現できる。なお、負極層における充電時の重み付けは、放電時とは逆にすることが好ましい。具体的には、負極層(AN)において、固体電解質層(SE)に最も近い負極構成層(1層目)にLiが含まれている状態を例えば1ポイントとし、以下順に、負極構成層(10層目)にLiが含まれている状態を例えば10ポイントとすることが好ましい。
【0046】
図10(a)に示すLi占有パターンでは、固体電解質層(SE)に近い正極構成層(1~6層目)にLiが含まれておらず、放電時のイオン移動抵抗は最も小さくなる。逆に、図10(b)に示すLi占有パターンでは、固体電解質層(SE)から遠い正極構成層(5~10層目)にLiが含まれておらず、放電時のイオン移動抵抗は最も大きくなる。そこで、正極層(CA)において、固体電解質層(SE)に最も近い負極構成層(1層目)にLiが含まれていない状態を例えば10ポイントとし、以下順に、負極構成層(10層目)にLiが含まれていない状態を例えば1ポイントとする。
【0047】
図10(a)に示すLi占有パターンでは、45ポイントとなり、図10(b)に示すLi占有パターンでは、21ポイントとなる。このポイントを用いてLi占有状態を設定することができる。Li占有状態(ΣU)の設定方法としては、例えば、上記ポイントを規格化する方法(0≦ΣU≦1)が挙げられる。例えば、図10(a)、(b)のように、SOC60%、かつ、10層モデルの場合、yポイントのΣUは、(y-21)/24で表現できる。なお、正極層における充電時の重み付けは、放電時とは逆にすることが好ましい。
【0048】
2.演算部
本開示における演算部は、Li占有状態に基づいて、電池残量を演算するように構成されている。
【0049】
電池残量の演算方法としては、例えば、設定部で設定されたLi占有状態と、マップ(Li占有状態および電池残量の関係を示すマップ)とを用いる方法が挙げられる。例えば図11に示すように、横軸を、負極層における厚さ方向のLi占有状態(ΣUAN)とし、縦軸を電池残量(P)としたマップを予め準備し、マップで規定される関係式に、設定部で設定されたLi占有状態(ΣUAN)を代入することで、電池残量Pを求めることができる。図11では、P=P+αΣUAN(Pは電池残量の初期値(切片)、αは負極層におけるLi占有係数)という線形関係を例示したが、マップで規定される関係式は、線形関係に限定されない。
【0050】
また、図12に示すように、横軸を、正極層における厚さ方向のLi占有状態(ΣUCA)とし、縦軸を電池残量(P)としたマップを予め準備し、マップで規定される関係式に、設定部で設定されたLi占有状態(ΣUCA)を代入することで、電池残量Pを求めることができる。図12では、P=P+βΣUCA(Pは電池残量の初期値(切片)、βは正極層におけるLi占有係数)という線形関係を例示したが、マップで規定される関係式は、線形関係に限定されない。
【0051】
本開示においては、Li占有状態として、ΣUANおよびΣUCAの一方を用いて電池残量を演算してもよく、ΣUANおよびΣUCAの両方を用いて電池残量を演算してもよい。後者の場合、マップで規定される関係式として、例えば、P=P+αΣUAN+βΣUCAを用いることができる。また、マップは、例えばSOC毎に準備することが好ましい。また、マップは、SOC毎および温度毎に準備してもよい。
【0052】
電池残量の他の演算方法としては、例えば、設定部で設定されたLi占有状態と、全固体電池の充電状態に基づいて予測された仮の電池残量とを用いる方法が挙げられる。仮の電池残量は、従来と同様にSOCに基づいて予測することができる。例えば、仮の電池残量に、Li占有状態に基づく係数を乗じることで、電池残量を求めてもよい。
【0053】
3.補正部およびフィードバック部
本開示における補正部は、全固体電池の作動履歴に基づいて、設定部で設定されたLi占有状態を補正するように構成されている。具体的には、設定部でLi占有状態が設定された後における、全固体電池の作動履歴に基づいて、Li占有状態を補正する。Li占有状態を補正する電極層は、正極層および負極層の一方であってもよく、正極層および負極層の両方であってもよい。
【0054】
Li占有状態の補正方法は、特に限定されないが、例えば、電極層を厚さ方向に沿って複数の電極構成層に分割したモデルを用いる方法が挙げられる。Li占有状態の補正方法については、上述したLi占有状態の設定方法と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0055】
本開示におけるフィードバック部は、補正されたLi占有状態を、演算部にフィードバックするように構成されている。補正されたLi占有状態に基づいて、演算部が電池残量を再び演算することで、全固体電池の電池残量の精度がより向上する。特に、本開示において、演算部、補正部およびフィードバック部は、全固体電池の作動中に機能することが好ましい。全固体電池の電池残量をリアルタイムで演算することができるからである。Li占有状態の補正は、例えば、所定の時間毎に行うことが好ましい。
【0056】
また、演算装置は、全固体電池の状態(例えば、電圧、電流、温度)を取得する取得部、Li占有状態および他のパラメータ(例えば電池残量)の関係を示すマップを記憶した記憶部、全固体電池の充電状態に基づいて仮の電池残量を予測する予測部等の処理ブロックをさらに備えていてもよい。
【0057】
B.全固体電池システム
図2は、本開示における全固体電池システムを例示する模式図である。図2に示す全固体電池システム100は、全固体電池10と、監視装置20と、ECU30と、を備える。ECU30は、上記「A.演算装置」に記載した演算装置として機能する。
【0058】
本開示によれば、上述した演算装置を設けることで、全固体電池の電池残量を精度良く演算可能な全固体電池システムとなる。
【0059】
1.演算装置
本開示における演算装置については、上記「A.演算装置」に記載した内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0060】
2.全固体電池
本開示における全固体電池は、正極層、固体電解質層および負極層を有する。正極層は、少なくとも正極活物質を含有し、必要に応じて、固体電解質層、導電材およびバインダの少なくとも1つを含有していてもよい。また、負極層は、少なくとも負極活物質を含有し、必要に応じて、固体電解質層、導電材およびバインダの少なくとも1つを含有していてもよい。また、固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有し、必要に応じて、バインダを含有していてもよい。
【0061】
全固体電池に用いられる固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質等の無機固体電解質が挙げられる。全固体電池の種類は、特に限定されないが、例えばリチウムイオン二次電池が挙げられる。また、全固体電池は、移動体を駆動させる駆動用電池であることが好ましい。
【0062】
3.監視装置
本開示における電池システムは、通常、全固体電池の状態を監視する監視装置を備える。監視装置としては、例えば、全固体電池の電圧を測定する電圧センサ、全固体電池の電流を測定する電流センサ、全固体電池の温度を測定する温度センサ、全固体電池の湿度を測定する温度センサ、全固体電池に印可される振動を測定する振動センサが挙げられる。
【0063】
4.全固体電池システム
本開示における全固体電池システムの用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車、電気自動車、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両に用いられるシステムであることがこのましい。また、本開示における全固体電池システムは、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)に用いられるシステムであってもよい。
【0064】
本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0065】
1…正極層
2…負極層
3…固体電解質層
4…正極集電体
5…負極集電体
10…全固体電池
20…監視装置
30…電子制御装置
200…車両
図1
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