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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】透明物品
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/02 20060101AFI20230920BHJP
   B32B 7/02 20190101ALI20230920BHJP
   C03C 17/25 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
G02B5/02 C
B32B7/02
C03C17/25 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021169369
(22)【出願日】2021-10-15
(62)【分割の表示】P 2017214300の分割
【原出願日】2017-11-07
(65)【公開番号】P2022009173
(43)【公開日】2022-01-14
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2017078326
(32)【優先日】2017-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】梶岡 利之
(72)【発明者】
【氏名】池上 耕司
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-513029(JP,A)
【文献】特開2008-209867(JP,A)
【文献】特開2000-279905(JP,A)
【文献】特開2015-196303(JP,A)
【文献】国際公開第2016/068112(WO,A1)
【文献】特開2002-189107(JP,A)
【文献】特開2015-210273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/02
C03C 17/25
B32B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、前記透明基材における少なくとも一方の面に設けられた粗面状の凹凸面とを備える透明物品であって、
前記凹凸面は、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqが26nm以下であり、
40μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqと、20μm以下の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqとの比(Sq[≧40μm]/Sq[≦20μm])が0.40以下であることを特徴とする透明物品。
【請求項2】
前記凹凸面は、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqが5nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の透明物品。
【請求項3】
前記凹凸面は、フィルタリングなしに測定された表面粗さSqが26nm以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の透明物品。
【請求項4】
前記凹凸面は、フィルタリングなしに測定された表面粗さSqが50nm以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の透明物品。
【請求項5】
40μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqと、20μm以下の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqとの比(Sq[≧40μm]/Sq[≦20μm])が0.30以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の透明物品。
【請求項6】
前記凹凸面は、SiO、Al、ZrO、TiOから選ばれる少なくとも一種を含有する凹凸層により構成されることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の透明物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチグレア面等の粗面状の凹凸面を有する透明物品に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置の視認性を向上する観点から、表示装置の表示面に配置される透明物品の表面を粗面状のアンチグレア面とすることが提案されている。特許文献1には、透明ガラス板の表面に設けられたアンチグレア面の表面粗さSq(RMS表面粗さ)を特定の範囲に設定することにより、スパークル(スパークル現象によるぎらつき)が抑えられることが開示されている。具体的には、40μm~640μmの横方向の空間周期の範囲で測定された300nmまでの第1の表面粗さSq(S1)と、20μm未満の横方向の空間周期の範囲で測定された第2の表面粗さSq(S2)との比(S1/S2)を3.9未満とすることにより、スパークルが抑えられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6013378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、表示装置が高精細なものであるほど、表示装置の表示面に配置される透明物品のスパークルが目立ちやすくなる傾向がある。そのため、表示装置の高精細化にともなって、透明物品にも、より高いスパークルの抑制効果が求められるようになっている。
【0005】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アンチグレア面等の粗面状の凹凸面におけるスパークルを抑制した透明物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、アンチグレア面等の粗面状の凹凸面における20μm以上の空間周期で測定された表面粗さSqが50nm以下である場合に、透明物品のスパークルが顕著に抑えられることを見出した。
【0007】
すなわち、上記課題を解決する透明物品は、透明基材と、前記透明基材における少なくとも一方の面に設けられた粗面状の凹凸面とを備える透明物品であって、前記凹凸面は、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqが50nm以下である。また、透明物品は、40μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqと、20μm以下の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqとの比(Sq[≧40μm]/Sq[≦20μm])が0.70以下である。
【0008】
上記透明物品において、前記凹凸面は、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqが5nm以上であることが好ましい。
上記透明物品において、前記凹凸面は、フィルタリングなしに測定された表面粗さSqが26nm以上であることが好ましい。なお、フィルタリングなしに測定とは、ローパスフィルタやハイパスフィルタ等のフィルタを使用せずに測定することを意味する。
【0009】
上記透明物品において、前記凹凸面は、フィルタリングなしに測定された表面粗さSqが50nm以上であることが好ましい。
上記透明物品において、前記凹凸面は、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqが26nm以下であり、フィルタリングなしに測定された表面粗さSqが50nm未満であることが好ましい。
【0010】
上記透明物品において、前記凹凸面は、SiO、Al、ZrO、TiOから選ばれる少なくとも一種を含有する凹凸層により構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の透明物品によれば、アンチグレア面等の粗面状の凹凸面におけるスパークルを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】透明物品の説明図。
図2】スパークル値の測定方法の説明図。
図3】パターンマスクの説明図。
図4】Sq[≧20μm]とスパークル値との関係を示すグラフ。
図5】表面粗さSqの比とスパークル値との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
図1に示すように、透明物品10は、板状をなす透光性の透明基材11を備えている。透明基材11の厚さは、例えば、0.1~5mmである。透明基材11の材質としては、例えば、ガラス、及び樹脂が挙げられる。透明基材11の材質は、ガラスであることが好ましく、ガラスとしては、例えば、無アルカリガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライム等の公知のガラスを用いることができる。また、化学強化ガラス等の強化ガラスやLAS系結晶化ガラス等の結晶化ガラスを用いることができる。これらのなかでも、アルミノシリケートガラスを用いること、特に、質量%で、SiO:50~80%、Al:5~25%、B:0~15%、NaO:1~20%、KO:0~10%を含有する化学強化ガラスを用いることが好ましい。また、樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、エポキシ樹脂が挙げられる。
【0014】
透明基材11の一方の主面には、凹凸構造をなす粗面状の表面である凹凸面12aを有する凹凸層12が設けられている。凹凸面12aは、例えば、凹凸構造により光を散乱させて映り込みを抑制するアンチグレア面、凹凸構造により、例えば、スタイラスペン等により表面に触れた場合に、書き味を向上させる書き味向上面として設けられる。凹凸層12及びその凹凸構造は、例えば、SiO、Al、ZrO、TiO等の無機酸化物からなるマトリックスにより構成される。凹凸面12aたる凹凸構造としては、例えば、複数の島状の凸部間に平坦部分を有する島状の凹凸構造が挙げられる。凹凸層12は、無機酸化物のみにより構成されるか、または、有機化合物を含まないことが好ましい。
【0015】
凹凸層12は、例えば、マトリックス前駆体、及びマトリックス前駆体を溶解する液状媒体を含むコーティング剤を透明基材11の表面に塗布し、加熱することにより形成できる。コーティング剤に含まれるマトリックス前駆体としては、例えば、シリカ前駆体、アルミナ前駆体、ジルコニア前駆体、チタニア前駆体等の無機前駆体が挙げられる。凹凸層12の屈折率を低くする点、反応性を制御しやすい点から、シリカ前駆体が好ましい。
【0016】
シリカ前駆体としては、ケイ素原子に結合した炭化水素基及び加水分解性基を有するシラン化合物、シラン化合物の加水分解縮合物、シラザン化合物等が挙げられる。凹凸層12を厚く形成した場合にも凹凸層12のクラックが充分に抑えられる点から、シラン化合物、及びその加水分解縮合物のいずれか一方又は両方を少なくとも含むことが好ましい。
【0017】
シラン化合物は、ケイ素原子に結合した炭化水素基、及び加水分解性基を有する。炭化水素基は、炭素原子間に-O-、-S-、-CO-、及び-NR’-(R’は水素原子または1価の炭化水素基である。)から選ばれる1つ又は2つ以上を組み合わせた基を有していてもよい。
【0018】
炭化水素基は、1つのケイ素原子に結合した1価の炭化水素基であってもよく、2つのケイ素原子に結合した2価の炭化水素基であってもよい。1価の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基等が挙げられる。2価の炭化水素基としては、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基等が挙げられる。
【0019】
加水分解性基としては、アルコキシ基、アシロキシ基、ケトオキシム基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、イソシアネート基、ハロゲン原子等が挙げられ、シラン化合物の安定性と加水分解のしやすさとのバランスの点から、アルコキシ基、イソシアネート基、及びハロゲン原子(特に塩素原子)が好ましい。アルコキシ基としては、炭素数1~3のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、又はエトキシ基がより好ましい。
【0020】
シラン化合物としては、アルコキシシラン(テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン等)、アルキル基を有するアルコキシシラン(メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等)、ビニル基を有するアルコキシシラン(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等)、エポキシ基を有するアルコキシシラン(2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等)、アクリロイルオキシ基を有するアルコキシシラン(3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等)等が挙げられる。これらのシラン化合物のなかでも、アルコキシシラン、及びアルコキシシランの加水分解縮合物のいずれか一方、又は両方を用いることが好ましく、アルコキシシランの加水分解縮合物を用いることがより好ましい。
【0021】
シラザン化合物は、その構造内にケイ素と窒素の結合(-SiN-)をもった化合物である。シラザン化合物としては、低分子化合物でも高分子化合物(所定の繰り返し単位を有するポリマー)であってもよい。低分子系のシラザン化合物としては、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、ジメチルアミノトリメチルシラン、トリシラザン、シクロトリシラザン、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルシクロトリシラザン等が挙げられる。
【0022】
アルミナ前駆体としては、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシドの加水分解縮合物、水溶性アルミニウム塩、アルミニウムキレート等が挙げられる。ジルコニア前駆体としては、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解縮合物等が挙げられる。チタニア前駆体としては、チタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解縮合物等が挙げられる。
【0023】
コーティング剤に含まれる液状媒体は、マトリックス前駆体を溶解する溶媒であり、マトリックス前駆体の種類に応じて適宜、選択される。液状媒体としては、例えば、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、エステル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物、含硫黄化合物等が挙げられる。
【0024】
アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等が挙げられる。セロソルブ類としては、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等が挙げられる。エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル等が挙げられる。グリコールエーテル類としては、エチレングリコールモノアルキルエーテル等が挙げられる。含窒素化合物としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。含硫黄化合物としては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。液状媒体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
なお、液状媒体は、水を含む液状媒体、すなわち、水、又は水と他の液状媒体の混合液であることが好ましい。他の液状媒体としては、アルコール類が好ましく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールが特に好ましい。
【0026】
また、コーティング剤は、マトリックス前駆体の加水分解及び縮合を促進する酸触媒を含むものであってもよい。酸触媒は、マトリックス前駆体の加水分解及び縮合を促進し、凹凸層12を短時間で形成させる成分である。酸触媒は、コーティング剤の調製に先立って、マトリックス前駆体の溶液の調製の際に、原料(アルコキシシラン等)の加水分解、縮合のために添加されたものであってもよく、必須成分を調製した後にさらに添加されたものであってもよい。酸触媒としては、無機酸(硝酸、硫酸、塩酸等)、有機酸(ギ酸、シュウ酸、酢酸、モノクロル酢酸、ジクロル酢酸、トリクロル酢酸等)が挙げられる。
【0027】
コーティング剤の塗布方法としては、公知のウェットコート法(スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スクリーンコート法、インクジェット法、フローコート法、グラビアコート法、バーコート法、フレキソコート法、スリットコート法、ロールコート法等)等が挙げられる。塗布方法としては、凹凸を形成しやすい点から、スプレーコート法が好ましい。
【0028】
スプレーコート法に用いるノズルとしては、2流体ノズル、1流体ノズル等が挙げられる。ノズルから吐出されるコーティング剤の液滴の粒径は、通常0.1~100μmであり、1~50μmが好ましい。液滴の粒径が0.1μm以上であれば、防眩効果が充分に発揮される凹凸を短時間で形成できる。液滴の粒径が100μm以下であれば、防眩効果が充分に発揮される適度な凹凸を形成しやすい。コーティング剤の液滴の粒径は、ノズルの種類、スプレー圧力、液量等により適宜、調整できる。例えば、2流体ノズルでは、スプレー圧力が高くなるほど液滴は小さくなり、また、液量が多くなるほど液滴は大きくなる。なお、液滴の粒径は、レーザ測定器によって測定されるザウター平均粒子径である。
【0029】
コーティング剤を塗布する際の塗布対象(例えば、透明基材11)の表面温度は、例えば、20~75℃であり、35℃以上であることが好ましく、60℃以上であることが更に好ましい。塗布対象を加熱する方法としては、例えば、温水循環式の加熱装置を用いることが好ましい。また、コーティング剤を塗布する際の湿度は、例えば、20~80%であり、50%以上であることが好ましい。
【0030】
透明物品10は、凹凸層12の表面である凹凸面12aの表面粗さSqが特定範囲に設定されている。なお、表面粗さSqは、ISO25178に準拠して測定される表面粗さSqである。
【0031】
詳述すると、凹凸面12aは、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSq(Sq[≧20μm])が50nm以下である。また、Sq[≧20μm]は、40nm以下であることが好ましく、26nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることが更に好ましい。Sq[≧20μm]を50nm以下に設定することにより、透明物品10の凹凸面12aにおけるスパークルが顕著に抑えられ、26nm以下に設定することによりスパークルが更に顕著に抑えられる。なお、Sq[≧20μm]の下限値は、例えば、5nmである。
【0032】
また、凹凸面12aは、フィルタリングなしに測定された表面粗さSq(Sq[All])が26nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、60nm以上であることが更に好ましい。この場合には、凹凸面12aにおける映り込みを効果的に抑制することができるため、凹凸面12aをアンチグレア面として適用する場合に有効である。なお、フィルタリングなしに測定された表面粗さSq(Sq[All])の上限値は、例えば、300nmである。
【0033】
また、凹凸面12aは、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSq(Sq[≧20μm])26nm以下であり、フィルタリングなしに測定された表面粗さSq(Sq[All])が50nm未満であることが好ましい。さらに、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSq(Sq[≧20μm])20nm以下であり、フィルタリングなしに測定された表面粗さSq(Sq[All])が40nm以下であることが好ましい。この場合には、凹凸面12aが光沢のある質感となるため、凹凸面12aを書き味向上面として適用する場合に有効である。なお、Sq[All]の下限値は、例えば、26nmである。
【0034】
また、凹凸面12aは、40μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSq(Sq[≧40μm])と、20μm以下の横方向の空間周期で測定された表面粗さSq(Sq[≦20μm])との比(Sq[≧40μm]/Sq[≦20μm])が0.70以下であることが好ましく、0.40以下であることがより好ましい。
【0035】
また、凹凸面12aは、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSq(Sq[≧20μm])が5nm以上であること、及びフィルタリングなしに測定された表面粗さSq(Sq[All])が26nm以上であることの少なくとも一方を満たすことが好ましい。20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqが5nm以上である凹凸面12aは、アンチグレア面として好適である。また、フィルタリングなしに測定された表面粗さSq(Sq[All])が26nm以上である凹凸面12aは、書き味向上面として好適である。
【0036】
なお、上記の凹凸面12aの各種表面粗さSqは、凹凸層12の形成条件を変化させることにより制御することができる。例えば、スプレーコート法により凹凸層12を形成する場合において、コーティング剤の塗布量を増加させると、Sq[≧20μm]及びSq[All]が増加する。また、コーティング剤の液滴の粒径を小さくすると、Sq[≧20μm]が減少する。
【0037】
上記のように構成された透明物品10は、例えば、表示装置の表示面(例えば、画素密度200ppi~800ppiのディスプレイ)に配置されて使用される。この場合、透明物品10は、表示装置の表示面の上に取り付けられる部材であってもよい。すなわち、透明物品10は、表示装置に事後的に取り付けられる部材であってもよい。
【0038】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)透明物品10は、透明基材11と、透明基材11の一方の面に設けられた粗面状の凹凸面12aとを備える。凹凸面12aは、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSq(Sq[≧20μm])が50nm以下である。
【0039】
Sq[≧20μm]が50nm以下である凹凸面12aは、Sq[≧20μm]が50nmを超える凹凸面12aと比較してスパークルが顕著に抑えられる。したがって、凹凸面12aのスパークルが抑制された透明物品となる。
【0040】
(2)凹凸面12aは、Sq[≧20μm]が26nm以下である。
Sq[≧20μm]が50nm以下である凹凸面12aのなかでも、Sq[≧20μm]が26nm以下である凹凸面12aは、Sq[≧20μm]が26nmを超える凹凸面12aと比較してスパークルが顕著に抑えられる。したがって、凹凸面12aのスパークルが更に抑制された透明物品となる。
【0041】
(3)凹凸面12aは、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqが5nm以上である。上記構成によれば、凹凸面12aをアンチグレア面として好適に適用することができる。
【0042】
(4)凹凸面12aは、フィルタリングなしに測定された表面粗さSqが26nm以上である。上記構成によれば、凹凸面12aを書き味向上面として好適に適用することができる。
【0043】
(5)凹凸面12aは、フィルタリングなしに測定された表面粗さSqが50nm以上である。上記構成によれば、凹凸面12aにおける映り込みを効果的に抑制することができるため、凹凸面12aをアンチグレア面として好適に適用することができる。
【0044】
(6)凹凸面12aは、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSq26nm以下であり、フィルタリングなしに測定された表面粗さSqが50nm未満であることが好ましい。上記構成によれば、凹凸面12aに対して、粗面による触感を付与しつつも、光沢のある質感となる。したがって、凹凸面12aを書き味向上面として好適に適用することができる。
【0045】
(7)凹凸面12aは、SiO、Al、ZrO、TiOから選ばれる少なくとも一種を含有する凹凸層12により構成される。この場合には、上記(1)~(6)の効果をより確実に得ることができる。
【0046】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・透明物品10は、透明基材11及び凹凸層12に加えて、反射防止層や防汚層等のその他の層を有するものであってもよい。
【0047】
・凹凸面12aは、透明基材11の一方の主面に設けられた凹凸層12の表面に限定されるものではない。例えば、透明基材11の表面に対して、ブラスト処理やエッチング処理等の他の方法により形成される凹凸構造の凹凸面であってもよい。
【0048】
・透明基材11の表面の二面以上に凹凸面12aを設けてもよい。
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)前記凹凸面は、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqが26nm以下である前記透明物品。
【0049】
(ロ)前記凹凸面は、40μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSq(Sq[≧40μm])と、20μm以下の横方向の空間周期で測定された表面粗さSq(Sq[≦20μm])との比(Sq[≧40μm]/Sq[≦20μm])が0.70以下である前記透明物品。
【0050】
(ハ)透明基材と、前記透明基材における少なくとも一方の面に設けられたアンチグレア面とを備える透明物品であって、前記アンチグレア面は、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqが50nm以下である透明物品。
【0051】
(ニ)透明基材と、前記透明基材における少なくとも一方の面に設けられた触感付与面とを備える透明物品であって、前記触感付与面は、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqが50nm以下である透明物品。
【0052】
(ホ)透明基材と、前記透明基材における少なくとも一方の面に設けられた粗面状の凹凸面とを備える透明物品であって、前記凹凸面は、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqが50nm以下であり、画素密度200ppi~800ppiのディスプレイに使用される透明物品。
【0053】
(A)透明基材と、前記透明基材における少なくとも一方の面に設けられた粗面状の凹凸面とを備える透明物品であって、前記凹凸面は、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqが50nm以下であることを特徴とする透明物品。
【0054】
(B)前記凹凸面は、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqが5nm以上であることを特徴とする前記(A)に記載の透明物品。
(C)前記凹凸面は、フィルタリングなしに測定された表面粗さSqが26nm以上であることを特徴とする前記(A)又は前記(B)に記載の透明物品。
【0055】
(D)前記凹凸面は、フィルタリングなしに測定された表面粗さSqが50nm以上であることを特徴とする前記(A)~前記(C)のいずれか一項に記載の透明物品。
(E)前記凹凸面は、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqが26nm以下であり、フィルタリングなしに測定された表面粗さSqが50nm未満であることを特徴とする前記(A)~前記(D)のいずれか一項に記載の透明物品。
【0056】
(F)前記凹凸面は、SiO、Al、ZrO、TiOから選ばれる少なくとも一種を含有する凹凸層により構成されることを特徴とする前記(A)~前記(E)のいずれか一項に記載の透明物品。
【実施例
【0057】
以下に試験例を挙げ、上記実施形態をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
(試験例1~16)
表面粗さSqの異なる凹凸面を有する試験例1~16の透明物品を作製した。
【0058】
厚さ1.3mmの板状の化学強化ガラスからなる透明基材(日本電気硝子株式会社製:T2X-1)の一方側の表面に対して、スプレーコーティング装置により、コーティング剤を塗布することにより粗面状の凹凸面を有する凹凸層を形成した。スプレーコーティング装置のノズルは、2流体ノズルであり、コーティング剤は、水を含む液状媒体に凹凸層の前駆体(オルトケイ酸テトラエチル)を溶解することで調製した溶液であり、当該コーティング剤を、流量0.3kg/時で透明基材に塗布した。試験例1~16の透明物品は、表1及び表2に示すように、凹凸層を形成する際におけるコーティング剤の単位面積当たりの塗布量、コーティング剤とともに噴射される噴霧エア流量、透明基材の表面温度、雰囲気湿度を変化させることによって、凹凸面の表面粗さSqを変化させた。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
(表面粗さSqの測定)
ISO25178に準拠して、各試験例の透明物品における凹凸面の表面粗さSqを測定した。走査型白色干渉顕微鏡(株式会社菱化システム製:VertScan)を用いて透明物品の凹凸面の三次元データを測定した。測定条件は以下のとおりである。
【0061】
測定モード:WAVEモード
フィルタ:530whiteフィルタ
対物レンズ:20倍の対物レンズ
測定領域:316.77μm×237.72μm
解像度:640ピクセル×480ピクセル
次に、測定した三次元データを解析ソフトVS-Viewerにて1次面補正し、粗さデータを得て、そこから表面粗さSqを算出した。その結果を表3及び表4に示す。表3及び表4の「All」欄に示す表面粗さSqは、得られた粗さデータからフィルタリングなしに算出した表面粗さSqである。「≧20μm」欄に示す表面粗さSqは、VS-ViewerのFFT2機能のローパスフィルタを使用し、20μm以上の横方向の空間周期で算出した表面粗さSqである。「≧40μm」欄に示す表面粗さSqは、FFT2機能のローパスフィルタを使用し、40μm以上の横方向の空間周期で算出した表面粗さSqである。「≦20μm」欄に示す表面粗さSqは、VS-ViewerのFFT2機能のハイパスフィルタを使用し、20μm以下の横方向の空間周期で算出した表面粗さSqである。
【0062】
また、各試験例の透明物品について、40μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSq(Sq[≧40μm])と、20μm以下の横方向の空間周期で測定された表面粗さSq(Sq[≦20μm])との比(Sq[≧40μm]/Sq[≦20μm])を求めた。その結果を表3及び表4の「Sq[≧40μm]/Sq[≦20μm]」欄に示す。
【0063】
(スパークル値の測定)
各試験例の透明物品における凹凸面のスパークル値を測定した。その結果を表3及び表4の「スパークル値」欄に示す。
【0064】
スパークル値は、透明物品の凹凸面の反対に位置する面側にパターンマスクを挟んで面光源を配置し、許容錯乱円径53μmにおける前方被写界深度内に透明物品の凹凸面及びパターンマスクのトップ面が含まれるようにして、凹凸面側から透明物品を撮像し、撮像することで得られた画像データを解析して得られるパターンマスクのピクセル輝度の標準偏差を、上記画像データを解析して得られるパターンマスクのピクセル輝度の平均値で除した値である。上記スパークル値は、凹凸面におけるスパークルの度合を示す値であり、凹凸面におけるスパークルが抑制されているほど、上記スパークル値は低くなる。上記スパークル値を用いることにより、スパークルに関して、人の視覚に基づく画像認識に近い定量的な評価を行うことができる。
【0065】
以下、上記スパークル値の具体的な測定方法について記載する。
図2に示すように、面光源20の上に、パターンマスク21を配置するとともに、パターンマスク21の上に、凹凸面12aの反対側に位置する面がパターンマスク21側を向くようにして透明物品10を配置した。また、透明物品10の凹凸面12a側に、許容錯乱円径を53μmに設定した光検出器22を配置した。
【0066】
パターンマスク21としては、図3に示すように、ピクセルピッチ50μm、ピクセルサイズ10μm×40μmの500ppiのパターンマスクを用いた。光検出器22としては、SMS-1000(Display-Messtechnik&Systeme社製)を用いた。光検出器22のセンサーサイズは1/3型であり、ピクセルサイズは3.75μm×3.75μmである。光検出器22のレンズの焦点距離は100mmであり、レンズ絞り径は4.5mmである。パターンマスク21は、そのトップ面21aが光検出器22の焦点位置に位置するように配置し、透明物品は、パターンマスク21のトップ面21aから凹凸面12aまでの距離が1.8mmとなる位置に配置した。
【0067】
次に、透明物品10の凹凸面12aに対して、パターンマスク21を介して面光源20からの光を照射した状態として、光検出器22により、透明物品10を撮像し、透明物品10の凹凸面12aの画像データを取得した。得られた画像データを、SMS-1000のスパークル測定モード(ソフトウェア Sparkle measurement system)により解析して、パターンマスク21の各ピクセルのピクセル輝度、ピクセル間のピクセル輝度の標準偏差、及びピクセル輝度の平均値を求めた。得られたピクセル間のピクセル輝度の標準偏差及びピクセル輝度の平均値に基づいて、下記式(1)によりスパークル値を算出した。
【0068】
スパークル値=[パターンマスクのピクセル輝度の標準偏差]/[パターンマスクのピクセル輝度の平均値] ・・・(1)
(スパークルの官能評価)
518ppiの解像度の表示装置(ファーウェイ社製スマートフォン:H1512)の表示面に、凹凸面が形成されている側を上側にして各試験例の透明物品を配置した。10人のパネラーに、各試験例の透明物品を通した表示装置の映像を観察させて、ぎらつきを感じるか否かを評価させた。その結果を表3及び表4の「官能評価」欄に示す。なお、「官能評価」欄においては、ぎらつきを感じたと評価した人数が1人以下のものを「◎」、2人以上3人以下のものを「○」、4人以上8人以下のものを「△」、9人以上のものを「×」で示している。
【0069】
(グロス値の測定)
JIS Z8741(1997)に準拠して、各試験例の透明物品における凹凸面の入射角60°におけるグロス値を測定した。なお、グロス値は、裏面(凹凸面と反対側の面)からの反射光も含めて測定した値である。その結果を表3及び表4の「グロス値」欄に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
表3及び表4に示すように、20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSq(Sq[≧20μm])の値が低下するにしたがって、スパークル値が低下することが分かる。図4は、Sq[≧20μm]の値とスパークル値との関係を示すグラフである。図4のグラフに示されるように、Sq[≧20μm]の値が50~55nmの間において、スパークル値が顕著に低下しており、Sq[≧20μm]の値が少なくとも50nm以下である場合に、スパークル値が低い透明物品になることが分かる。また、Sq[≧20μm]の値が26~30nmの間(特に、26~27nmの間)においても、スパークル値が顕著に低下しており、Sq[≧20μm]の値が少なくとも26nm以下である場合に、スパークル値が更に低い透明物品になることが分かる。そして、官能評価においても、Sq[≧20μm]の値が50nm以下である場合、及びSq[≧20μm]の値が26nm以下である場合にそれぞれスパークルが強く抑制されることを示す結果が得られた。
【0072】
また、表3に示すように、フィルタリングなしに測定された表面粗さSq(Sq[All])の値が50nm以上である試験例1~9は、グロス値が100%以下であり、映り込みの抑制効果が高いことが分かる。特に、Sq[≧20μm]が50nm以下であり、スパークルが抑制されている試験例4~9は、アンチグレア面を有する透明物品として有用である。
【0073】
また、表3及び表4に示すように、スパークルが強く抑制されている20μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSq(Sq[≧20μm])の値が26nm以下である試験例のなかでも、フィルタリングなしに測定された表面粗さSq(Sq[All])の値が50nm未満である試験例10,12~16は、グロス値が100%以上であり、粗面状の凹凸面により触感が付与されつつも、光沢のある質感が得られている。したがって、試験例10,12~16は、書き味向上面を有する透明物品として特に有用である。
【0074】
参考として、40μm以上の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqと、20μm以下の横方向の空間周期で測定された表面粗さSqとの比(Sq[≧40μm]/Sq[≦20μm])と、スパークル値との関係を示すグラフを図5に示す。上記の表面粗さSqの比は、特許文献1において、スパークルが抑制されたアンチグレア面を特定するために用いられているパラメータである。図5に示すグラフからは、強い相関性や、上記の表面粗さSqの比が特定範囲である場合におけるスパークル値の顕著な低下を見出すことはできない。この結果から、上記の表面粗さSqの比には、スパークルが抑制された凹凸面を特定するためのパラメータとして不適な範囲(例えば、0.70以下)が存在することが示唆される。
【符号の説明】
【0075】
10…透明物品、11…透明基材、12…凹凸層、12a…凹凸面。
図1
図2
図3
図4
図5