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  • 特許-保護フィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】保護フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20230920BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230920BHJP
   C09J 7/29 20180101ALI20230920BHJP
   G02B 5/30 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
B32B27/00 M
B32B27/32 E
C09J7/29
G02B5/30
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022002656
(22)【出願日】2022-01-11
(65)【公開番号】P2022158895
(43)【公開日】2022-10-17
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2021062397
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】大矢 裕
(72)【発明者】
【氏名】松井 智紀
(72)【発明者】
【氏名】和泉 篤士
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-175672(JP,A)
【文献】特開2009-102629(JP,A)
【文献】特開2016-11131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 7/29
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板を、加熱下で熱曲げ加工を施す際に、前記樹脂基板に貼付して用いられる保護フィルムであって、
基材層と、
該基材層と前記樹脂基板との間に位置して、前記樹脂基板に粘着する粘着層とを有し、
前記基材層は、前記粘着層の反対側に位置する第1の層と、前記粘着層側に位置する第2の層とを有する積層体で構成されており、
当該保護フィルムは、その結晶化度が10%以上75%以下であり、かつ、JIS K 7128-1(1998)に準拠して測定される、当該保護フィルムのMDとTDとに対してともに45°傾斜した方向におけるトラウザー破断伸び歪が300%以下であることを特徴とする保護フィルム。
【請求項2】
当該保護フィルムは、145℃で30分加熱し、その後、25℃の条件下で30分冷却した後に、JIS K 7128-1(1998)に準拠して測定される、当該保護フィルムのMDとTDとに対してともに45°傾斜した方向におけるトラウザー破断伸び歪が50%以上250%以下である請求項1に記載の保護フィルム。
【請求項3】
当該保護フィルムは、JIS K 7127に従い、当該保護フィルムから採取した試験片(1号ダンベル)を23℃・60%RHの雰囲気下、島津製作所製オートグラフ(引張速度:500mm/分)にて測定される引張破壊呼び歪が400%以上650%以下である請求項1または2に記載の保護フィルム。
【請求項4】
前記第1の層は、熱可塑性樹脂を主材料として含有する融点が150℃以上のものであり、前記第2の層は、熱可塑性樹脂を主材料として含有する融点が120℃以上のものである請求項1ないしのいずれか1項に記載の保護フィルム。
【請求項5】
前記第1の層が含有する前記熱可塑性樹脂と、前記第2の層が含有する前記熱可塑性樹脂とは、ともにポリオレフィンである請求項に記載の保護フィルム。
【請求項6】
前記樹脂基板の両面に貼付される請求項1ないしのいずれか1項に記載の保護フィルム。
【請求項7】
前記樹脂基板は、平面視において、その縁部を構成する少なくとも1辺が湾曲凸状の曲線をなしている請求項1ないしのいずれか1項に記載の保護フィルム。
【請求項8】
前記樹脂基板は、両面、一方の面または他方の面に、ポリカーボネート樹脂層、ポリアミド樹脂層およびセルロース樹脂層のうちの少なくとも1層を有する単層体または積層体で構成される被覆層を備える請求項1ないしのいずれか1項に記載の保護フィルム。
【請求項9】
前記樹脂基板は、プレス成形または真空成形により、前記熱曲げ加工が施される請求項1ないしのいずれか1項に記載の保護フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基板を、加熱下で熱曲げ加工を施す際に、樹脂基板に貼付して用いられる保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂またはセルロース樹脂で構成される被覆層で偏光子の両面を被覆した構成をなす樹脂基板を備えるサングラス用レンズは、例えば、平面視で平板状をなす前記樹脂基板の両面に保護フィルムを貼付した状態で、平面視で円形状等の所定の形状に、前記樹脂基板を打ち抜き、その後、この樹脂基板を加熱下で熱曲げ加工を施す。そして、熱曲げがなされた樹脂基板から、保護フィルムを剥離させた後に、この樹脂基板の凹面にポリカーボネート層を射出成形することで製造される。
【0003】
この保護フィルムとして、例えば、ポリオレフィン系樹脂を主材料とする基材を、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体等を主材料とする粘着層を介して、前記樹脂基板に対して貼付する構成のものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、かかる構成の保護フィルムでは、樹脂基板の打ち抜き時、および、熱曲げ加工時に剥離させることなく樹脂基板に貼付させることができるものの、次のような問題があった。すなわち、樹脂基板の打ち抜き時に、打ち抜くことで形成された切断面において、粘着層が樹脂基板側にまで伸びてしまう、いわゆるヒゲが生じ、その結果、樹脂基板から保護フィルムを剥離させる際に、ヒゲとして粘着層が樹脂基板の切断面に残存する。その結果、製造されるサングラス用レンズの歩留まりの低下を招くと言う問題があった。
【0005】
なお、このような問題は、上述したサングラス用レンズばかりでなく、ゴーグルが備えるレンズ、ヘルメットが備えるバイザー等の樹脂基板についても同様に生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-145616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、樹脂基板の打ち抜きを経た後、樹脂基板から剥離させた際に、打ち抜きにより形成された切断面に、粘着層が残存するのを的確に抑制または防止することができる保護フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)~()に記載の本発明により達成される。
(1) 樹脂基板を、加熱下で熱曲げ加工を施す際に、前記樹脂基板に貼付して用いられる保護フィルムであって、
基材層と、
該基材層と前記樹脂基板との間に位置して、前記樹脂基板に粘着する粘着層とを有し、
前記基材層は、前記粘着層の反対側に位置する第1の層と、前記粘着層側に位置する第2の層とを有する積層体で構成されており、
当該保護フィルムは、その結晶化度が10%以上75%以下であり、かつ、JIS K 7128-1(1998)に準拠して測定される、当該保護フィルムのMDとTDとに対してともに45°傾斜した方向におけるトラウザー破断伸び歪が300%以下であることを特徴とする保護フィルム。
【0009】
(2) 当該保護フィルムは、145℃で30分加熱し、その後、25℃の条件下で30分冷却した後に、JIS K 7128-1(1998)に準拠して測定される、当該保護フィルムのMDとTDとに対してともに45°傾斜した方向におけるトラウザー破断伸び歪が50%以上250%以下である上記(1)に記載の保護フィルム。
【0010】
(3) 当該保護フィルムは、JIS K 7127に従い、当該保護フィルムから採取した試験片(1号ダンベル)を23℃・60%RHの雰囲気下、島津製作所製オートグラフ(引張速度:500mm/分)にて測定される引張破壊呼び歪が400%以上650%以下である上記(1)または(2)に記載の保護フィルム。
【0012】
) 前記第1の層は、熱可塑性樹脂を主材料として含有する融点が150℃以上のものであり、前記第2の層は、熱可塑性樹脂を主材料として含有する融点が120℃以上のものである上記(1)ないし()のいずれかに記載の保護フィルム。
【0013】
) 前記第1の層が含有する前記熱可塑性樹脂と、前記第2の層が含有する前記熱可塑性樹脂とは、ともにポリオレフィンである上記()に記載の保護フィルム。
【0014】
) 前記樹脂基板の両面に貼付される上記(1)ないし()のいずれかに記載の保護フィルム。
【0015】
) 前記樹脂基板は、平面視において、その縁部を構成する少なくとも1辺が湾曲凸状の曲線をなしている上記(1)ないし()のいずれかに記載の保護フィルム。
【0016】
) 前記樹脂基板は、両面、一方の面または他方の面に、ポリカーボネート樹脂層、ポリアミド樹脂層およびセルロース樹脂層のうちの少なくとも1層を有する単層体または積層体で構成される被覆層を備える上記(1)ないし()のいずれかに記載の保護フィルム。
【0017】
) 前記樹脂基板は、プレス成形または真空成形により、前記熱曲げ加工が施される上記(1)ないし()のいずれかに記載の保護フィルム。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、保護フィルムにおいて、JIS K 7128-1(1998)に準拠して測定される、保護フィルムのMDとTDとに対してともに45°傾斜した方向におけるトラウザー破断伸び歪が300%以下に設定される。このように、保護フィルムのMDとTDとに対してともに45°傾斜した方向におけるトラウザー破断伸び歪を前記上限値以下に設定することで、樹脂基板の打ち抜きを経た後、樹脂基板から保護フィルムを剥離させた際に、打ち抜きにより形成された切断面に、樹脂基板側にまで粘着層が伸びてしまう、いわゆるヒゲとして、粘着層が残存するのを的確に抑制または防止することができる。そのため、樹脂基板を、例えば、サングラス用レンズが備える樹脂基板に適用した場合には、サングラス用レンズを歩留まりよく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】保護フィルムを用いたサングラス用レンズの製造方法を説明するための模式図である。
図2】本発明の保護フィルムの好適実施形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の保護フィルムを添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、本明細書中における主材料とは、各層において、50重量%以上含まれている構成材料のことを指し、例えば、「第1の層16は、その主材料として熱可塑性樹脂を含有している。」とは、第1の層16の総重量を100重量%とした場合、第1の層16に含まれる熱可塑性樹脂が50重量%以上を、第1の層16において占めていることを指す。
【0021】
本発明の保護フィルムは、樹脂基板を、加熱下で熱曲げ加工を施す際に、前記樹脂基板に貼付して用いられる保護フィルムであり、基材層と、該基材層と前記樹脂基板との間に位置して、前記樹脂基板に粘着する粘着層とを有し、前記基材層は、前記粘着層の反対側に位置する第1の層と、前記粘着層側に位置する第2の層とを有する積層体で構成されており、当該保護フィルムは、JIS K 7128-1(1998)に準拠して測定される、当該保護フィルムのMDとTDとに対してともに45°傾斜した方向におけるトラウザー破断伸び歪が300%以下であることを特徴とする。
【0022】
保護フィルムを、かかる構成をなすものとすること、すなわち、保護フィルムのMDとTDとに対してともに45°傾斜した方向におけるトラウザー破断伸び歪を前記上限値以下に設定することで、樹脂基板の打ち抜きを経た後、樹脂基板から保護フィルムを剥離させた際に、打ち抜きにより形成された切断面に、樹脂基板側にまで粘着層が伸びてしまう、いわゆるヒゲとして、粘着層が残存するのを的確に抑制または防止することができる。そのため、樹脂基板を、例えば、サングラス用レンズが備える樹脂基板に適用した場合には、サングラス用レンズを歩留まりよく製造することができる。
【0023】
以下、本発明の保護フィルムを、説明するのに先立って、本発明の保護フィルムを用いて製造される、サングラス用レンズの製造方法について説明する。
【0024】
<サングラス用レンズの製造方法>
図1は、保護フィルムを用いたサングラス用レンズの製造方法を説明するための模式図である。なお、以下では、説明の都合上、図1の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0025】
以下、サングラス用レンズの製造方法の各工程を詳述する。
[1]まず、平板状をなす樹脂基板21を用意し、この樹脂基板21の両面に、保護フィルム10(マスキングテープ)を貼付することで、樹脂基板21の両面に保護フィルム10が貼付された積層体100を得る(図1(a)参照)。
【0026】
なお、本実施形態では、樹脂基板21として、偏光していない自然光から、所定の一方向に偏光面をもつ直線偏光を取出す光学素子として機能する偏光子23を、その両面を被覆層24で被覆したものが用意される。なお、この樹脂基板21において、被覆層24は、ポリカーボネート樹脂層、ポリアミド樹脂層、および、トリアセチルセルロースのようなセルロース樹脂層のうちの少なくとも1層を有する単層体または積層体で構成され、さらに、被覆層24は、偏光子23の両面(双方の面)に形成される場合の他、上面(一方の面)および下面(他方の面)のうちのいずれかに形成されるものであってもよい。
【0027】
[2]次に、図1(b)に示すように、用意した積層体100を、すなわち、樹脂基板21の両面に保護フィルム10を貼付した状態で樹脂基板21を、その厚さ方向に打ち抜くことで、積層体100を平面視で円形状をなすものとする。
【0028】
[3]次に、図1(c)に示すように、円形状とされた積層体100に対して、加熱下で熱曲げ加工を施す。
【0029】
この熱曲げ加工は、通常、金型を用いたプレス成形または真空成形(レマ成形)により実施される。
【0030】
この際の積層体100(樹脂基板21)の加熱温度(成形温度)は、前述の通り、本実施形態では、樹脂基板21が被覆層24を備え、被覆層24が、ポリカーボネート樹脂層、ポリアミド樹脂層、および、セルロース樹脂層のうちの少なくとも1層を有する単層体または積層体で構成されているため、被覆層24の溶融または軟化温度を考慮して、好ましくは110℃以上160℃以下程度、より好ましくは140℃以上150℃以下程度に設定される。加熱温度をかかる範囲内に設定することにより、樹脂基板21の変質・劣化を防止しつつ、樹脂基板21を軟化または溶融状態として、樹脂基板21を確実に熱曲げすることができる。
【0031】
[4]次に、図1(d)に示すように、熱曲げがなされた樹脂基板21すなわち積層体100から、保護フィルム10を剥離させた後、この樹脂基板21の凹面にポリカーボネート樹脂で構成されるポリカーボネート層30を射出成形する。なお、樹脂基板21の凹面には、ポリカーボネート層30に代えて、ポリアミド樹脂で構成されるポリアミド層を形成してもよい。
【0032】
これにより、熱曲げがなされた樹脂基板21を備えるサングラス用レンズ200が製造される。
【0033】
ここで、上記のような、サングラス用レンズの製造方法において、特に、前記工程[2]における、樹脂基板21の打ち抜き時に、打ち抜くことで形成された樹脂基板21の切断面(端面)で、図2に示す粘着層11が樹脂基板21側にまで伸びてしまう、いわゆるヒゲが生じることがある。このようなヒゲが生じた状態で、前記工程[4]において、樹脂基板21から保護フィルム10を剥離させると、ヒゲとして粘着層11が樹脂基板21の切断面に残存する。そのため、製造されるサングラス用レンズ200の歩留まりの低下を招くと言う問題があった。
【0034】
かかる問題点について、本発明者が検討を行った結果、樹脂基板21の切断面における、粘着層11が伸びることに起因するヒゲの発生は、上記の通り、積層体100を平面視で円形状をなすように打ち抜く場合、すなわち、樹脂基板21を平面視で、その縁部を構成する辺が湾曲凸状をなす曲線を形成するように打ち抜く場合に、湾曲凸面とされる樹脂基板21の切断面に、高頻度に生じることが判ってきた。
【0035】
また、本発明者のさらなる検討により、樹脂基板21の切断面(湾曲凸面)における前記ヒゲの発生は、JIS K 7128-1(1998)に準拠して測定される、保護フィルム10のトラウザー破断伸び歪の大きさと関係し、さらに、トラウザー破断伸び歪が測定される保護フィルム10の角度とも密接に関係していることが判ってきた。
【0036】
そして、本発明者は、湾曲凸面とされる樹脂基板21の切断面における前記ヒゲの発生と、保護フィルム10のトラウザー破断伸び歪の大きさ、および、トラウザー破断伸び歪を測定する保護フィルム10の角度と関係について、さらなる検討を行った結果、保護フィルム10のMDとTDとに対してともに45°傾斜した方向におけるトラウザー破断伸び歪の大きさを300%以下に設定することで、湾曲凸面とされる樹脂基板21の切断面における前記ヒゲの発生を的確に抑制または防止し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0037】
このように、前記トラウザー破断伸び歪の大きさを300%以下に設定することで、前記工程[2]における、樹脂基板21の打ち抜き時に、打ち抜くことで形成された樹脂基板21の切断面で、粘着層11が樹脂基板21側に伸びるヒゲの発生が的確に抑制または防止される。よって、前記工程[4]において、樹脂基板21から保護フィルム10を剥離させる際に、前記ヒゲが樹脂基板21の切断面に残存するのを的確に抑制または防止した状態で、保護フィルム10(粘着層11)を樹脂基板21から剥離させることができる。そのため、サングラス用レンズ200を歩留まりよく製造することができる。以下、この保護フィルム10(本発明の保護フィルム)について詳述する。
【0038】
<保護フィルム10>
図2は、本発明の保護フィルムの好適実施形態を示す縦断面図である。なお、以下では、説明の都合上、図2の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0039】
保護フィルム10は、基材層15と、この基材層15と樹脂基板21との間に位置し、樹脂基板21に粘着(接合)する粘着層11とを有し、図2に示すように、基材層15は、粘着層11の反対側、すなわち、成形型側に位置する第1の層16と、粘着層11側、すなわち、樹脂基板21側に位置する第2の層17とを有している。
【0040】
以下、これら各層について詳述する。
<<粘着層11>>
粘着層11は、基材層15と樹脂基板21との間に位置(介在)し、樹脂基板21に粘着することで、基材層15を樹脂基板21に接合するためのものである。
【0041】
この粘着層11は、樹脂基板21から保護フィルム10を剥離させることなく前記工程[2]および前記工程[3]における樹脂基板21の打ち抜きおよび熱曲げを実施することができるとともに、前記工程[4]における樹脂基板21からの保護フィルム10の剥離を実施し得るものが好ましく用いられる。
【0042】
この粘着層11は、熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン系樹脂が単独で粘着層11に含まれる構成のもの、または、ポリオレフィン系樹脂とエラストマーとの組み合わせで粘着層11に含まれる構成のものであることが好ましい。粘着層11を、熱可塑性樹脂として、このようなものを含む構成のものとすることで、粘着層11としての機能を確実に発揮させることができる。
【0043】
また、粘着性を有するポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリプロピレンの単独重合体(ホモポリマー)、ポリエチレンの単独重合体、EPR相(ゴム相)を備えるプロピレン-エチレンブロック共重合体、エチレン-酢酸ビニルブロック共重合体、エチレン-エチルアクリレートブロック共重合体、エチレン-メチルメタクリレートブロック共重合体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができ、中でも、ポリエチレンの単独重合体(ホモポリマー)であることが好ましい。ポリエチレンの単独重合体は、比較的安価に入手することができる。また、ポリエチレンの単独重合体であれば粘着層11に透明性を付与することができる。そのため、基材層15も同様に透明性を有している場合には、保護フィルム10が透明性を備えるものとなる。したがって、前記工程[1]における保護フィルム10の樹脂基板21への貼付の際に、ホコリ等のゴミが保護フィルム10と樹脂基板21との間に介在しているか否かを視認し得ることから、前記工程[2]以降にゴミが介在している積層体100が移行するのを確実に防止することができるため、結果として、得られるサングラス用レンズ200の歩留まりの向上が図られる。
【0044】
このポリエチレンの単独重合体としては、特に限定されないが、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
また、エラストマーとしては、特に限定されないが、例えば、α-ポリオレフィン系樹脂/ポリエチレン共重合体エラストマー、α-ポリオレフィン系樹脂/ポリプロピレン共重合体エラストマー、スチレンブロックエラストマー等が挙げられ、中でも、スチレンブロックエラストマーであることが好ましく、特に、スチレン-オレフィン-スチレンブロック共重合体エラストマーであることが好ましい。このように、ポリオレフィン系樹脂の他に、さらにエラストマーが含まれることにより、前記工程[4]における樹脂基板21からの保護フィルム10の剥離の際に、樹脂基板21に粘着層11が残存すること、すなわち、樹脂基板21における糊残りの発生を的確に抑制または防止することができるため、樹脂基板21からの保護フィルム10の剥離をより円滑に行うことができる。そして、エラストマーを、モノマー成分としてスチレンを含むものとすることで、前記工程[4]において、樹脂基板21に糊残りが発生するのをより的確に抑制または防止することができる。
【0046】
なお、α-ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-ブテン、1-ペンテンおよび1-ヘプテン等が挙げられる。
【0047】
また、エラストマーとして、スチレン-オレフィン-スチレンブロック共重合体エラストマーを用いる場合、エラストマーにおけるスチレンの含有量は、25重量%以下であることが好ましく、10重量%以上18重量%以下であることがより好ましい。これにより、スチレン含有量が高くなることに起因して、粘着層11の硬度の上昇を招くのを的確に抑制または防止することができる。そのため、粘着層11の樹脂基板21(被覆層24)に対する密着力を確実に維持しつつ、樹脂基板21に糊残りが発生するのをより的確に抑制または防止することができる。
【0048】
さらに、スチレン-オレフィン-スチレンブロック共重合体としては、例えば、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)等が挙げられるが、中でも、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)であることが好ましい。スチレン-オレフィン-スチレンブロック共重合体として、SEBSを選択することにより、エラストマーにおけるスチレンの含有量を、容易に25重量%以下に設定することができ、前述した効果を確実に得ることができる。
【0049】
また、粘着層11にエラストマーが含まれる場合、粘着層11における、エラストマーの含有量は、特に限定されないが、好ましくは2重量%以上60重量%以下、より好ましくは4重量%以上40重量%以下に設定される。これにより、粘着層11に、エラストマーを含有させることにより得られる効果を、より顕著に発揮させることができる。
【0050】
また、粘着層11は、その平均厚さが5μm以上40μm以下であることが好ましく、10μm以上20μm以下であることがより好ましい。これにより、前述した粘着層11としての機能を確実に発揮させることができる。
【0051】
<<基材層15>>
基材層15は、粘着層11を介して樹脂基板21(被覆層24)に接合し、前記工程[2]および前記工程[3]における樹脂基板21の打ち抜きおよび熱曲げの際に、樹脂基板21を保護(マスキング)し、前記工程[3]における熱曲げの後に、熱曲げに用いた金型から樹脂基板21(保護フィルム10)を剥離(離脱)させるための保護層(機能層)として機能するものである。
【0052】
また、前記工程[4]において、熱曲げがなされた樹脂基板21から、保護フィルム10を剥離させる際に、基材層15と粘着層11との間で剥離が生じることなく、粘着層11に対して、優れた密着性を発揮するためのものである。
【0053】
基材層15は、これらの機能を基材層15に発揮させるために、本発明では、図2に示すように、粘着層11の反対側、すなわち、成形型側に位置する第1の層16と、粘着層11側、すなわち、樹脂基板21側に位置する第2の層17とを有する積層体で構成される。
【0054】
以下、これら第1の層16および第2の層17について説明する。
<<第1の層16>>
第1の層16は、粘着層11の反対側に位置して、前記工程[2]および前記工程[3]における樹脂基板21の打ち抜きおよび熱曲げの際に、樹脂基板21を保護(マスキング)するための最外層として機能するものである。
【0055】
この第1の層16は、前記工程[3]における熱曲げの後に、成形型からの優れた離脱性を維持させること、すなわち、成形型(金型)に第1の層16を密着させないことを目的に、第1の層16の融点は、150℃以上であることが好ましく、155℃以上170℃以下程度であることがより好ましい。ここで、前述の通り、前記工程[3]における熱曲げの際の被覆層24(樹脂基板21)の加熱温度は、好ましくは、110℃以上160℃以下程度に設定される。そのため、第1の層16の融点を前記の通り設定することにより、前記工程[3]における熱曲げの際に、第1の層16が溶融または軟化状態となるのを確実に防止することができるため、前記工程[3]における熱曲げの後に、成形型から確実に積層体100を離脱させることができる。
【0056】
このような第1の層16は、その主材料として、融点が好ましくは150℃以上である熱可塑性樹脂、より好ましくは155℃以上170℃以下程度である熱可塑性樹脂を含有している。これにより、第1の層16の融点を比較的容易に150℃以上に設定することができる。そのため、前記工程[3]における熱曲げの後に、成形型からの積層体100の優れた離脱性を維持することができる。
【0057】
なお、本明細書において、第1の層16を含む保護フィルム10を構成する各層の融点とは、それぞれ、各層に含まれる各構成材料の融点(DSC測定によるピーク温度)に、各構成材料が含まれる比率を乗じたものの和により求められた値を融点とする。
【0058】
また、後述する第2の層17も150℃以上の熱可塑性樹脂を含む構成とした際には、第1の層16と第2の層17とをより優れた密着性を有するものとし得る。そのため、前記工程[4]において、熱曲げがなされた樹脂基板21から、保護フィルム10を剥離させる際に、第1の層16と第2の層17との間おいて剥離が生じるのを的確に抑制または防止することができる。
【0059】
さらに、第1の層16は、150℃以上の熱可塑性樹脂として、150℃以上のポリオレフィン系樹脂が単独で第1の層16に含まれる構成のものであるのが好ましい。150℃以上のポリオレフィン系樹脂は、150℃以上の熱可塑性樹脂として、比較的容易かつ安価に入手することができる。
【0060】
また、融点が150℃以上のポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリプロピレンの単独重合体(ホモポリマー)、ポリエチレンの単独重合体、プロピレン-エチレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体等のうち融点が150℃以上のものが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができ、中でも、融点が150℃以上のポリプロピレンの単独重合体(ホモポリマー)であることが好ましい。これにより、融点が150℃以上のポリオレフィン系樹脂を容易かつ安価に入手することができる。また、第1の層16に透明性を付与することができる。そのため、第2の層17および粘着層11も同様に透明性を有している場合には、保護フィルム10が透明性を備えるものとなる。したがって、前記工程[1]における保護フィルム10の樹脂基板21への貼付の際に、ホコリ等のゴミが保護フィルム10と樹脂基板21との間に介在しているか否かを視認し得ることから、前記工程[2]以降にゴミが介在している積層体100が移行するのを確実に防止することができるため、結果として、得られるサングラス用レンズ200の歩留まりの向上が図られる。
【0061】
なお、前記共重合体は、ブロック共重合体およびランダム共重合体のうちの何れであってもよい。
【0062】
また、第1の層16は、その平均厚さが2μm以上40μm以下であることが好ましく、5μm以上25μm以下であることがより好ましい。これにより、前述した第1の層16としての機能を確実に発揮させることができる。
【0063】
<<第2の層17>>
第2の層17は、粘着層11側、すなわち、樹脂基板21側に位置することで、粘着層11と第1の層16との間に位置して、これら同士を接合する中間層として機能するものである。
【0064】
この第2の層17は、前記機能を発揮するために、接着性(粘着性)を有する熱可塑性樹脂を主材料として含有しており、これにより、粘着層11と第1の層16とを、第2の層17を介して、優れた密着性をもって接合することができる。そのため、前記工程[4]において、保護フィルム10を樹脂基板21から剥離させる際に、粘着層11と第2の層17との間、および、第1の層16と第2の層17との間で剥離が生じるのが的確に抑制または防止される。
【0065】
接着性を有する熱可塑性樹脂(接着性樹脂)としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、エラストマー、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも、接着性を有するポリオレフィン系樹脂およびエラストマーであることが好ましい。また、粘着層11にエラストマーが含まれる場合には、特に、ポリオレフィン系樹脂とエラストマーとの組み合わせであることが好ましい。これにより、粘着層11と第2の層17との間の密着性の向上を図り、粘着層11と第2の層17との間において剥離が生じるのを的確に抑制または防止することができる。
【0066】
また、ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-エチルアクリル酸共重合体(EEA)、エチレン-メタクリレート-グリシジルアクリレート三元共重合体の他、各種ポリオレフィン系樹脂に、アクリル酸、メタクリル酸等の一塩基性不飽和脂肪酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の二塩基性不飽和脂肪酸またはこれらの無水物をグラフトさせたグラフト化物、各種ポリオレフィン系樹脂に、カルボン酸基、水酸基、アミノ基、酸無水物基、オキサゾリン基、エポキシ基のような官能基が導入された官能基導入物が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、前記グラフト化物としては、例えば、マレイン酸グラフト化EVA、マレイン酸グラフト化エチレン-α-ポリオレフィン系樹脂共重合体等が挙げられる。
【0067】
さらに、エラストマーとしては、粘着層11に含まれるエラストマーとして説明したのと同様のものを用いることができ、中でも、スチレンブロックエラストマーであることが好ましく、特に、スチレン-オレフィン-スチレンブロック共重合体エラストマーであることが好ましい。このように、エラストマーを、モノマー成分としてスチレンを含むものとすることで、第2の層17の粘着層11に対する密着性の向上が図られるため、前記工程[4]において、樹脂基板21に糊残りが発生するのをより的確に抑制または防止することができる。
【0068】
また、第2の層17は、その構成材料として、接着性を有する熱可塑性樹脂の他に、非接着性を有する熱可塑性樹脂(非接着性樹脂)を含有していてもよい。非接着性を有する熱可塑性樹脂は、第1の層16に含まれる融点が150℃以上のポリオレフィン系樹脂に対して優れた親和性を示すことから、第1の層16と第2の層17との密着性の向上を図ることができる。そのため、前記工程[4]において、樹脂基板21から保護フィルム10を剥離させる際に、第1の層16と第2の層17と間で剥離が生じるのを的確に抑制または防止することができる。
【0069】
非接着性を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、シリコーン樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましく、融点が150℃以上のポリオレフィン系樹脂であることがより好ましい。これにより、前記効果をより顕著に発揮させることができる。
【0070】
また、ポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリプロピレンの単独重合体(ホモポリマー)、ポリエチレンの単独重合体、プロピレン-エチレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができ、中でも、ポリプロピレンの単独重合体(ホモポリマー)であることが好ましい。これにより、ポリオレフィン系樹脂を容易かつ安価に入手することができる。また、第2の層17に透明性を付与することができる。そのため、第1の層16および粘着層11も同様に透明性を有している場合には、保護フィルム10が透明性を備えるものとなる。したがって、前記工程[1]における保護フィルム10の樹脂基板21への貼付の際に、ホコリ等のゴミが保護フィルム10と樹脂基板21との間に介在しているか否かを視認し得ることから、前記工程[2]以降にゴミが介在している積層体100が移行するのを確実に防止することができるため、結果として、得られるサングラス用レンズ200の歩留まりの向上が図られる。
【0071】
さらに、融点が150℃以上のポリオレフィン系樹脂の融点は、155℃以上170℃以下であることが好ましい。
【0072】
なお、前記共重合体は、ブロック共重合体およびランダム共重合体のうちの何れであってもよい。ただし、融点が150℃以上のポリオレフィン系樹脂は、一般的に、単独で、接着性を有しないため非接着性を有する熱可塑性樹脂として用いられるが、例えば、プロピレン-エチレンランダム共重合体(融点:151℃)は、接着性を有するため、接着性を有する熱可塑性樹脂として用いられる。
【0073】
以上のことから、第2の層17が非接着性を有する熱可塑性樹脂を含む場合、接着性を有する熱可塑性樹脂と非接着性を有する熱可塑性樹脂とは、エラストマーと、融点が150℃以上のポリオレフィン系樹脂とが好ましい組み合わせである。かかる組み合わせとすることで、粘着層11と第2の層17との間、および、第1の層16と第2の層17との間で剥離が生じるのを的確に抑制または防止することができる。
【0074】
以上のような構成をなす第2の層17は、その融点が120℃以上であることが好ましい。ここで、前述の通り、前記工程[3]における熱曲げの際の被覆層24(樹脂基板21)の加熱温度は、好ましくは、110℃以上160℃以下程度に設定される。そのため、第2の層17の融点を120℃以上150℃未満に設定した際には、前記工程[3]における熱曲げのときに、第2の層17を比較的容易に溶融または軟化状態とすることができる。したがって、前記工程[3]において、この第2の層17に溶融または軟化状態の中間層としての機能を発揮させて、樹脂基板21の面方向に対して、第1の層16を位置ずれさせ得ることから、積層体100の縁部に第1の層16による掴みシロが形成されることとなる。そのため、前記工程[4]における保護フィルム10の剥離を、掴みシロを掴むことで実施し得ることから、この剥離を容易に行うことができる。また、前記工程[3]において、この第2の層17に溶融または軟化状態の中間層としての機能を発揮させて、金型による成形時の第2の層17によるクッション性を向上させることができる。その結果、金型が有している凹凸もしくは金型と保護フィルム10との間に不本意に混入してしまったコンタミの凹凸を効果的に吸収することができるため、熱曲げがなされた樹脂基板21を優れた外観を有するものとして得ることができる。
【0075】
また、第2の層17の融点を150℃以上に設定した際には、前記工程[3]における熱曲げのときに、第2の層17が溶融または軟化状態となるのを抑制または防止することができる。そのため、第1の層16と第2の層17との間の密着力が低下するのを的確に抑制または防止することができる。したがって、前記工程[4]において、熱曲げがなされた樹脂基板21から、保護フィルム10を剥離させる際に、第1の層16と第2の層17との間での剥離の発生が確実に防止される。
【0076】
また、第2の層17は、その平均厚さが10μm以上60μm以下であることが好ましく、10μm以上40μm以下であることがより好ましい。これにより、前述した第2の層17としての機能を確実に発揮させることができる。
【0077】
以上のような構成をなす、粘着層11と基材層15とを備える保護フィルム10は、保護フィルム10のMDとTDとに対してともに45°傾斜した方向におけるトラウザー破断伸び歪の大きさAが300%以下であることを満足していればよいが、前記トラウザー破断伸び歪の大きさAが、275%以下であることが好ましく、110%以上250%以下であることがより好ましく、130%以上240%以下であることがさらに好ましく、130%以上220%以下であることが特に好ましい。これにより、前記工程[2]における、樹脂基板21の打ち抜き時に、湾曲凸面とされる樹脂基板21の切断面において、粘着層11が樹脂基板21側にまで伸びてしまう、いわゆるヒゲの発生をより的確に抑制または防止することができる。
【0078】
なお、トラウザー破断伸び歪Aは、JIS K 7128-1(1998)に準拠して、縦100mm、横50mm、厚さ50μm、切込み50mmの保護フィルム10を試験片として用意し、この試験片を、そのMDとTDとに対してともに45°傾斜した状態で、試験片のつかみ間距離を50mm、引張速度を200mm/minとして引裂くことにより求めることができる。
【0079】
また、トラウザー破断伸び歪(引張伸び歪)の計算方法は破断点のチャック間距離を、試験片のつかみ間距離(50mm)で割った値とし、下記の式(1)で算出される。
破断点(mm) / チャック間距離(mm)=トラウザー破断伸び歪 … (1)
【0080】
また、この保護フィルム10は、145℃で30分加熱し、その後、25℃の条件下で30分冷却した後に、JIS K 7128-1(1998)に準拠して測定される、当該保護フィルムのMDとTDとに対してともに45°傾斜した方向におけるトラウザー破断伸び歪Bが100%以上250%以下であることが好ましく、110%以上160%以下であることがより好ましく、110%以上130%以下であることがさらに好ましい。このように、145℃で30分加熱した後における前記トラウザー破断伸び歪Bが前記範囲内に設定されることにより、この保護フィルム10を、比較的容易に切断し得るものとすることができるため、前記工程[2]における、樹脂基板21の打ち抜きを、湾曲凸面とされる樹脂基板21の切断面におけるヒゲの発生を的確に抑制または防止しつつ、確実に実施することができる。
【0081】
さらに、保護フィルム10は、JIS K 7127に従い、保護フィルム10のMD方向がダンベルの長手方向になるように採取した試験片(1号ダンベル)を23℃・60%RHの雰囲気下、島津製作所製オートグラフ(引張速度:500mm/分)にて測定される引張破壊呼び歪が400%以上650%以下であることが好ましく、450%以上600%以下であることがより好ましい。
【0082】
保護フィルム10の前記引張破壊呼び歪を、前記範囲内に設定することにより、前記トラウザー破断伸び歪Aの大きさを、比較的容易に前記上限値以下、さらには、前記トラウザー破断伸び歪Bの大きさを、比較的容易に前記範囲内に設定することができる。
【0083】
また、保護フィルム10の結晶化度は、10%以上75%以下であることが好ましく、17%以上60%以下であることがより好ましく、20%以上55%以下であることがさらに好ましい。保護フィルム10の結晶化度を前記範囲内に設定することにより、保護フィルム10の前記引張破壊呼び歪を、比較的容易に前記範囲内に設定することができるため、結果的に、前記トラウザー破断伸び歪Aの大きさを、前記上限値以下、さらには、前記トラウザー破断伸び歪Bの大きさを、前記範囲内に設定することができる。
【0084】
保護フィルム10の結晶化度は、広角X線回折装置を用いて、全面積に対する結晶ピーク面積比を算出することで求めることができる。
結晶化度[%] =(Σ結晶ピーク面積)÷(全面積)×100
【0085】
なお、かかる範囲内の結晶化度を有する保護フィルム10は、例えば、以下のようにして、その結晶化度を調整することで得ることができる。
【0086】
すなわち、保護フィルム10を後述する共押し出し法を用いて製造する場合、共押し出しTダイから押し出されることで層状に積層された、溶融または軟化状態の粘着層11、第1の層16および第2の層17の積層体を、冷却する際の冷却速度および冷却温度を適宜設定することで得ることができる。また、前記工程[1]において、樹脂基板21の両面に保護フィルム10を貼付して積層体100を得る際に、保護フィルム10を貼付する際の条件を適宜設定することにより調整することもできる。さらに、保護フィルム10が備える、粘着層11、第1の層16および第2の層17における、構成材料の組み合わせを適宜設定することにより調整することが可能であるし、また、前記構成材料として、結晶核剤を含む構成することによっても調整することが可能である。
【0087】
なお、この結晶核剤としては、例えば、ソルビトール系結晶核剤、有機リン酸系結晶核剤、ロジン酸系結晶核剤、アミド系結晶核剤、芳香族カルボン酸系結晶核剤および無機系結晶核剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0088】
なお、上述した保護フィルム10が備える粘着層11、基材層15(第1の層16および第2の層17)の各層には、それぞれ、上述した構成材料の他に、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。前記添加物の含有量は、10重量%以下とすることもでき、8重量%以下とすることもでき、また0.001重量%以上とすることもでき、0.1重量%以上とすることもできる。
【0089】
特に、第1の層16には、アンチブロッキング剤を含有することが好ましい。これにより、成形型からの優れた離脱性を維持させることができるという第1の層16の機能を、より確実に発揮させることができる。
【0090】
また、アンチブロッキング剤としては、例えば、無機粒子および有機粒子等を用いることができ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、無機粒子としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、ゼオライト、スメクタイト、雲母、バーミキュライトおよびタルク等の粒子が挙げられ、有機粒子としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、シリコーン系樹脂およびフッ素系樹脂等の粒子が挙げられる。
【0091】
第1の層16にアンチブロッキング剤が含まれる場合、第1の層16における、アンチブロッキング剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.5重量%以上10重量%以下、より好ましくは1重量%以上9重量%以下に設定される。これにより、第1の層16の前記機能をより顕著に発揮させることができる。
また、これら各層の間には、上記添加剤等を含む中間層が形成されていてもよい。
【0092】
さらに、上述した保護フィルム10は、いかなる方法により製造されたものであってもよいが、例えば、共押し出し法を用いることで製造し得る。
【0093】
具体的には、3つの押し出し機を用意し、これらに、それぞれ、粘着層11、第1の層16および第2の層17の構成材料を収納した後、これらを溶融または軟化状態としたものを押し出すことで、共押し出しTダイから、これらが層状に積層された、溶融または軟化状態の積層体を、複数の冷却ロール等で構成されるシート成形部に供給し、その後、このシート供給部において積層体を冷却することにより保護フィルム10が製造される。
【0094】
以上、本発明の保護フィルムについて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、保護フィルムを構成する各層は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。
【0095】
また、前記実施形態では、樹脂基板を平面視で円形状をなすように打ち抜く場合、すなわち、樹脂基板21を平面視で見たとき、その縁部を構成する辺の全辺が湾曲凸状をなす曲線を形成するように打ち抜く場合について説明したが、これに限定されず、前記縁部を構成する辺の一辺(一部)が湾曲凸状をなす曲線を形成するように打ち抜くようにしてもよい。
【0096】
さらに、前記実施形態では、本発明の保護フィルムを、サングラス用レンズが有する樹脂基板を熱曲げ加工する際に、樹脂基板に貼付して用いる場合について説明したが、本発明の保護フィルムは、このようなサングラス用レンズが有する樹脂基板の熱曲げに適用できる他、例えば、ゴーグルが備えるレンズ、ヘルメットが備えるバイザー等の樹脂基板を熱曲げする際にも用いることができる。
【実施例
【0097】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0098】
1.原材料の準備
まず、各実施例および比較例の保護フィルムの作製に使用した原料は以下の通りである。
【0099】
<<非接着性を有する熱可塑性樹脂>>
<融点が150℃以上のポリオレフィン系樹脂>
融点が167℃のホモポリプロピレン(h-PP、日本ポリプロ社製、「ノバテックEA9FTD」、MFR=0.4g/10min)
【0100】
<融点が120℃以上150℃未満のポリオレフィン系樹脂>
融点が121℃の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE、宇部丸善ポリエチレン社製、「ユメリット2525F」、MFR=2.5g/10min)
【0101】
<融点が120℃未満のポリオレフィン系樹脂>
融点が114℃の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE、宇部丸善ポリエチレン社製、「ユメリット1520F」、MFR=2.0g/10min)
【0102】
<<接着性を有する熱可塑性樹脂>>
<エラストマー>
スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS、旭化成社製、「タフテックH1221」)
【0103】
<ポリオレフィン系樹脂>
融点が165℃のブロックポリプロピレン(プロピレン-エチレンブロック共重合体)(b-PP、住友化学社製、「ノーブレンKS23F8」、MFR=2.1g/10min)
【0104】
<結晶核剤>
ソルビトール系結晶核剤(IRGACLEAR、BASF社製、「XT 386」)
【0105】
<アンチブロッキング剤>
アンチブロッキング剤(キノプラス FPP-AB05A、住化カラー社製)
【0106】
2.保護フィルムの製造
(実施例1)
[1]まず、粘着層(最内層)を形成するにあたり、ポリオレフィン系樹脂として融点が121℃のLLDPEと、エラストマーとしてSEBSとを、SEBSの含有量が10重量%となるように混練することで粘着層形成材料(樹脂組成物)を調製した。
【0107】
[2]次に、基材層が備える第2の層(中間層)を形成するにあたり、接着性を有する熱可塑性樹脂としてSEBSと、非接着性を有する熱可塑性樹脂として融点が167℃のh-PPとを、SEBSの含有量が20重量%となるように混練することで第2の層形成材料(樹脂組成物)を調製した。
【0108】
[3]次に、調製した粘着層形成材料と、調製した第2の層形成材料と、第1の層(最外層)を形成するための融点が150℃以上のポリオレフィン系樹脂として、融点が167℃のh-PPとを、それぞれ、3つの押し出し機に収納した。
【0109】
[4]次に、3つの押し出し機から、これらを溶融状態としたものを押し出すことで、共押し出しTダイから、これらが層状に積層された溶融状態の積層体を得た後、この積層体を、40℃の冷却ロールで、40m/minのライン速度で冷却する(冷却条件A)ことにより、第1の層、第2の層および粘着層の平均厚さが、それぞれ10μm、30μmおよび10μmとなっている実施例1の保護フィルムを得た。
【0110】
なお、保護フィルムのMDとTDとに対してともに45°傾斜した方向におけるトラウザー破断伸び歪Aを、JIS K 7128-1(1998)に準拠して、縦100mm、横50mm、厚さ50μm、切込み50mmの保護フィルムを試験片として用意し、この試験片を、精密万能試験機(島津製作所社製、「AG-X plus」)を用いて、そのMDとTDとに対してともに45°傾斜した状態で、試験片のつかみ間距離を50mm、引張速度を200mm/minとして測定したところ、245%であった。
【0111】
また、保護フィルムを、145℃で30分加熱し、その後、25℃の条件下で30分冷却した後に、JIS K 7128-1(1998)に準拠して測定される、保護フィルムのMDとTDとに対してともに45°傾斜した方向におけるトラウザー破断伸び歪Bを、精密万能試験機(島津製作所社製、「AG-X plus」)を用いて前記と同様にして測定したところ、132%であった。
【0112】
さらに、保護フィルムの25℃における引張破壊呼び歪をJIS K 7127に従い、保護フィルムのMD方向がダンベルの長手方向になるように採取した試験片(1号ダンベル)を23℃・60%RHの雰囲気下で、島津製作所製オートグラフ(精密万能試験機、「AG-X plus」)を用いて、引張速度を500mm/分として測定したところ、630%であった。
【0113】
また、保護フィルムの結晶化度[%]は、広角X線回折装置(リガク社製、「Ultima IV 」)を用い、線源としてのCuKα線を、光学系として集中法を用い、ビーム幅は10mmとした。そして、走査速度を2θ=5~35度に対し0.5度/分、試料回転60rpmに設定して、全面積に対する結晶ピーク面積比より算出した。
結晶化度[%] =(Σ結晶ピーク面積)÷(全面積)×100
【0114】
(実施例2~実施例12、比較例1)
前記工程[1]において用いた、ポリオレフィン系樹脂の種類、エラストマーの有無、さらには、結晶核剤の有無、前記工程[2]において用いた、接着性を有する熱可塑性樹脂の種類、非接着性を有する熱可塑性樹脂の有無、さらには、結晶核剤の有無、アンチブロッキング剤の有無、および、前記工程[4]における積層体の冷却条件のうちの少なくとも1つを、それぞれ、表1に示すように変更したこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例2~実施例12、比較例1の保護フィルムを得た。
【0115】
なお、表1に挙げた、前記工程[4]において積層体を冷却する冷却条件A~Eは、それぞれ、以下に示す条件とした。
【0116】
<冷却条件>
A:40℃の冷却ロールで、40m/minのライン速度で冷却した。
B:40℃の冷却ロールで、20m/minのライン速度で冷却した。
C:冷却条件Bでの冷却の後、100℃、30minの条件で加熱し、
その後、大気中で徐冷した。
D:冷却条件Bでの冷却の後、120℃、30minの条件で加熱し、
その後、大気中で徐冷した。
E:40℃の冷却ロールで、80m/minのライン速度で冷却した。
【0117】
3.評価
各実施例および比較例の保護フィルムを、以下の方法で評価した。
【0118】
<1>樹脂基板に対するヒゲ付着の有無の評価
まず、各実施例および比較例の保護フィルムについて、それぞれ、偏光子を2枚のポリカーボネート基板(ポリカーボネート層)で挾持した構成をなす樹脂基板(住友ベークライト社製)の両面に、荷重0.5kg/cmの条件でロールを用いて圧着することで、保護フィルムを貼付することで積層体を得た。
【0119】
次いで、温度50℃、時間12hrの条件で保管した後に、この積層体、すなわち、両面に保護フィルムが貼付された樹脂基板を、その厚さ方向に打ち抜くことで、積層体を平面視で円形状をなすものとした。
【0120】
次いで、積層体から、2枚の保護フィルムを剥離させた後、樹脂基板21の打ち抜き面(切断面)における、ヒゲ(粘着層)の残存の有無について目視にて観察し、ヒゲの残存が認められない場合を◎、ヒゲの残存が若干であるが認められる場合を〇、ヒゲの残存が確実に認められる場合を△、ヒゲの残存がより明らかに認められる場合を×として評価した。
【0121】
<2>樹脂基板の表面に対するオレンジピールの形成の有無の評価
まず、各実施例および比較例の保護フィルムについて、それぞれ、偏光子を2枚のポリカーボネート基板(ポリカーボネート層)で挾持した構成をなす樹脂基板(住友ベークライト社製)の両面に、荷重0.5kg/cmの条件でロールを用いて圧着することで、保護フィルムを貼付することで積層体を得た。
【0122】
次いで、温度50℃、時間12hrの条件で保管した後に、この積層体、すなわち、両面に保護フィルムが貼付された樹脂基板を、その厚さ方向に打ち抜くことで、積層体を平面視で円形状をなすものとした。
【0123】
次いで、円形状とされた積層体に対して、金型を備えるレマ成形機(レマ社製、「CR-32型」)を用いて、加熱下で熱曲げ加工を施した。
【0124】
次いで、積層体から、2枚の保護フィルムを剥離させた後、樹脂基板21の貼付面(剥離面)における、オレンジピール(凹凸)の形成の有無について目視にて観察し、オレンジピールの形成が認められない場合を◎、オレンジピールの形成が若干であるが認められる場合を〇、オレンジピールの形成が確実に認められる場合を△、オレンジピールの形成がより明らかに認められる場合を×として評価した。
【0125】
以上のようにして得られた各実施例および比較例の保護フィルムにおける評価結果を、それぞれ、下記の表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
表1に示したように、各実施例における保護フィルムでは、トラウザー破断伸び歪Aが300%以下であることを満足していることにより、前記工程[2]における樹脂基板の打ち抜きを実施した際に、湾曲凸面とされる樹脂基板の切断面に、粘着層が伸びることに起因して生じるヒゲが残存するのを、的確に抑制または防止し得ることが明らかとなった。
【0128】
これに対して、比較例における保護フィルムではトラウザー破断伸び歪Aを300%以下に設定することができず、その結果、前記工程[2]における樹脂基板の打ち抜きにおいて、湾曲凸面とされる樹脂基板の切断面に、前記ヒゲの残存が認められる結果を示した。
【符号の説明】
【0129】
10 保護フィルム
11 粘着層
15 基材層
16 第1の層
17 第2の層
21 樹脂基板
23 偏光子
24 被覆層
30 ポリカーボネート層
100 積層体
200 サングラス用レンズ
図1
図2