(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】一酸化窒素ガス検知方法及び一酸化窒素ガス検知装置
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20230920BHJP
G01N 31/22 20060101ALI20230920BHJP
G01N 21/77 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
G01N31/00 H
G01N31/22 121Z
G01N21/77 A
(21)【出願番号】P 2019206665
(22)【出願日】2019-11-15
【審査請求日】2022-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】597124316
【氏名又は名称】学校法人東北工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【氏名又は名称】林 恒徳
(74)【代理人】
【識別番号】100106356
【氏名又は名称】松枝 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 容子
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 光吾
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-142667(JP,A)
【文献】特開2000-081426(JP,A)
【文献】米国特許第06362005(US,B1)
【文献】特開平09-274032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00 -31/22
G01N 21/75 -21/83
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PTIO(2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチルイミダゾリン-1-オキシル 3-オキシド)より
なる検知剤を多孔体の孔内に配置して構成される第1の検知素子とザルツマン試薬よりなる検知剤を多孔体の孔内に配置して構成される第2の検知素子の両方を検知対象の有限の一定体積の空気中に暴露する暴露工程と、
前記暴露工程により前記検知対象の空気中に暴露された前記第1の検知素子及び前記第2の検知素子の吸光度を測定する測定工程と、
検知対象の空気中に暴露する前にあらかじめ測定された前記第1の検知素子及び前記第2の
検知素子の吸光度と、前記測定工程により測定された各々の吸光度との比較に基づいて、検知対象の空気中の一酸化窒素ガスを検知する検知工程とを有することを特徴とする一酸化窒素ガス検知方法。
【請求項2】
請求項1に記載の一酸化窒素ガス検知方法において、
前記第1の検知素子の550から575nmの間の波長の吸光度を測定し、前記第2の検知素子の470から570nmの間の波長の吸光度を測定することを特徴とする一酸化窒素ガス検知方法。
【請求項3】
請求項1に記載の一酸化窒素ガス検知方法において、
前記多孔体は可視光領域において透明な材料から構成されることを特徴とする一酸化窒素ガスの検知方法。
【請求項4】
PTIO(2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチルイミダゾリン-1-オキシル3-オキシド)よりなる検知剤を多孔体の孔内に配置して構成される第1の検知素子と、
ザルツマン試薬よりなる検知剤を多孔体の孔内に配置して構成される第2の検知素子と、
所定波長の光を放出する発光部と、
前記発光部から放出されて前記第1の検知素子及び第2の検知素子を透過した光を受光する受光部と、
前記受光部が受光した光量に基づいて、前記第1の検知素子及び前記第2の検知素子の吸光度を測定する測定部とを備えることを特徴とする一酸化窒素ガス検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有限の一定体積中に存在する一酸化窒素ガスを検知する一酸化窒素ガス検知方法及び一酸化窒素ガス検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年医学の分野で、生体内で生成する一酸化窒素が注目され、血管の弛緩作用や発ガンの機構、神経伝達・学習・記憶等に関与していると言われている。また、気管支喘息の患者には呼気中に含まれる一酸化窒素が上昇するとの報告が有り(非特許文献1:日本呼吸学会誌48(1),17-22(2010))、呼気一酸化窒素濃度を測定できる簡易型測定器が販売されている。代表的な測定器にAerocrine製Niox Mino(http://www.niox.com/en-US/feno-asthma/)やチェスト株式会社のNIOX MINO(http://www.chest-mi.co.jp/product/一酸化窒素ガス分析装置niox-mino/)が有り、米国食品医薬品局(FDA)に承認されたり、日本で薬事承認されている。これら装置は、イオン電極を用い、呼気を吹き込んで測定を行う。しかし、呼気の吹き込みは個体差があり測定結果のばらつきの原因となるなど問題点が多かった。またポンプを使用する必要があり、呼気以外への適用が難しいという問題点があった。
【0003】
また比色法によって測定する方法として酵素により亜硝酸イオンに変換して、その後ザルツマン試薬による発色反応によって測定する方法(http://www.cosmobio.co.jp/product/detail/cbl-20130517-1.asp?entry_id=11049)も報告されている。しかし、この方法は溶液の測定に限定され、また酵素を用いるので測定環境等制約が多かった。
【0004】
また大気中の一酸化窒素については、横浜市環境科学研究所により大気中の一酸化窒素をPTIOを含浸させたろ紙に暴露して、PTIOの酸化力により一酸化窒素を亜硝酸イオンに変換し、その後溶液に溶出させて、ザルツマン反応により亜硝酸イオンを測定する方法が報告されている。(http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/mamoru/kenkyu/shiryo/pub/d0001/d0001.pdf)しかし、この方法によると複雑な溶液を使った操作を必要とする。さらにザルツマン試薬によって発色した色がPTIOと干渉するなどの問題があった。
【0005】
また、大気中の一酸化窒素を測定する方法では、本願の発明者により提案された多孔質ガラスとPTIO(2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチルイミダゾリン-1-オキシル 3-オキシド)を組み合わせた方法(特許文献1:特開2016-142667号公報)があるがこの方法によるとPTIOの自己分解があり、複雑な解析が必要であった。また薄い濃度の場合、自己分解による変化量が多く精度良く測定できないという問題点があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】日本呼吸学会誌48(1),17-22(2010)
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは呼気などの有限一定体積中の気体状態の一酸化窒素をポンプ等を必要とせず、高精度にかつ簡便に検知可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一酸化窒素ガス検知方法は、PTIO(2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチルイミダゾリン-1-オキシル 3-オキシド)よりなる検知剤を多孔体の孔内に配置して構成される一酸化窒素ガス検知素子(第1の検知素子)とザルツマン試薬よりなる検知剤を多孔体の孔内に配置して構成される二酸化窒素ガス検知素子(第2の検知素子)の両方を有限の一定体積を有する検知対象の空気中に暴露する暴露工程と、暴露工程により上記検知対象の空気中に暴露された上記検知素子両方の吸光度を測定する測定工程と、検知対象の空気中に暴露する前にあらかじめ測定された上記検知素子両方の吸光度と、上記測定工程により測定された各々の吸光度との比較に基づいて、検知対象の空気中の一酸化窒素ガスを検知する検知工程とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る一酸化窒素ガス検知方法は、まず、可視光領域で実質的に透明な例えばガラスからなる多孔体と、その多孔体の孔内に配置されたPTIOよりなる検知剤を備えるようにした一酸化窒素ガス検知素子及び可視光領域で実質的に透明な例えばガラスからなる多孔体と、その多孔体の孔内に配置されたザルツマン試薬よりなる検知剤を備えるようにした二酸化窒素ガス検知素子の両方を用意し、検知対象の有限の一定体積の空気中に暴露する。一酸化窒素ガス検知素子の孔内に一酸化窒素が侵入すると、孔内に配置されたPTIOにより一酸化窒素が酸化されて、二酸化窒素ガスが生成するとともに、PTIOはイミノニトロオキサイド化合物になる。それとともにPTIO特有の光吸収度合いが減少し、イミノニトロオキサイド化合物による光吸収度合いが増加する。なおこの時PTIOは湿度があると自己分解するため、自己分解によってもPTIO特有の光吸収度合いが減少する。しかし自己分解によっては二酸化窒素ガスは生成しない。一方PTIOと一酸化窒素の反応により生成された二酸化窒素ガスは検知素子から放出されて有限の一定体積中の二酸化窒素ガス濃度が増加する。この二酸化窒素ガスは一定体積の空気中内に設置された二酸化窒素ガス検知素子の孔内に侵入し、孔内に配置されたザルツマン試薬と反応しジアゾカップリング反応を起こしてアゾ色素が生成する。それとともにアゾ色素特有の光吸収度合いが増加する。二酸化窒素ガス検知素子の孔内に二酸化窒素ガスが侵入するのはザルツマン試薬にアミノ基が存在し局所的に二酸化窒素ガスの捕集に有効なpH条件になっているためと考えられる。従って、検知対象の空気中への暴露前後の両方の検知素子の吸光度を測定することで、検知対象の空気中の一酸化窒素ガスを検出することが可能となる。このとき、一連の操作を紫外可視光を遮断した状態で行う。ガラスからなる多孔体内に配置されたPTIOは、紫外可視光を吸収すると分解されるので一酸化窒素ガスを酸化するためには紫外可視光を遮断する必要がある。
【0011】
上記吸収が変化するので測定する波長は、一酸化窒素ガス検知素子は550から575nmの間から、また二酸化窒素ガス検知素子は470から570nmの間で選択する。なお、多孔体は、孔径が20nm以下であればよい。
【0012】
本発明にかかる一酸化窒素ガス検知素子は、可視光領域で透明な多孔体と、前記多孔体の孔内に配置されたPTIO(2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチルイミダゾリン-1-オキシル 3-オキシド)よりなる検知剤とを備える。また、二酸化窒素ガス検知素子は可視光領域で透明な多孔体と、前記多孔体の孔内に配置されたザルツマン試薬よりなる検知剤とを備える。
【0013】
本発明にかかる一酸化窒素ガス検知装置は、PTIO(2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチルイミダゾリン-1-オキシル3-オキシド)よりなる検知剤を多孔体の孔内に配置して構成される第1の検知素子と、ザルツマン試薬よりなる検知剤を多孔体の孔内に配置して構成される第2の検知素子と、所定波長の光を放出する発光部と、前記発光部から放出されて前記第1の検知素子及び第2の検知素子を透過した光を受光する受光部と、前記受光部が受光した光量に基づいて、前記第1の検知素子及び前記第2の検知素子の吸光度を測定する測定部とを備えることを特徴とする。
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、ガラスからなる多孔体の孔内に,PTIOからなる検知剤を備えるようにした一酸化窒素ガス検知素子とガラスからなる多孔体の孔内に,ザルツマン試薬からなる検知剤を備えるようにした二酸化窒素ガス検知素子の両方を、紫外可視光を遮断した状態で用いるようにしたので、有限の一定体積の気体中に含まれている一酸化窒素ガスを、高精度にかつ簡便に測定することが出来るようになるという優れた効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明においてはPTIOを担持させた多孔質の検知素子とザルツマン試薬を担持させた多孔質の検知素子の両方を用い、紫外可視光を遮断した状態で使用し、2つの検知素子の測定を行うことにより、検知対象の有限の一定体積の気体中に含まれる一酸化窒素ガスを高感度且つ高精度にしかも簡便に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態における有限の一定体積の空気中への暴露について説明するための説明図である。
【
図2】本発明の実施の形態における一酸化窒素ガスに暴露前後の一酸化窒素ガス検知素子の光吸収スペクトルを示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における一酸化窒素ガスに暴露前後の二酸化窒素ガス検知素子の光吸収スペクトルを示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態における一酸化窒素ガスに暴露前後の二酸化窒素ガス検知素子の吸光度と暴露雰囲気の一酸化窒素ガス濃度の関係を示す図である。
【
図5】本発明の比較例における一酸化窒素ガスを含まない空気に暴露前後の一酸化窒素ガス検知素子の光吸収スペクトルを示す図である。
【
図6】本発明の比較例における一酸化窒素ガスを含まない空気に暴露前後の二酸化窒素ガス検知素子の光吸収スペクトルを示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態における一酸化窒素ガス検知装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の最良の形態について説明する。しかしながら、かかる実施例が本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0018】
本発明の実施の形態における一酸化窒素ガス検知方法について説明する。
図1は、本発明の実施の形態における一酸化窒素ガス検知方法を説明するための図である。
【0019】
まず、一酸化窒素ガス検知素子の作製方法について説明する。PTIO 0.0780gにエタノール100mlを加え溶解して含浸液を作製する。次に、検知剤溶液(含浸液)に、平均孔径4nmの多孔質ガラスである多孔体を浸漬する。多孔体は、例えば技研科学社製の多孔質ガラスである。また、多孔体は、例えば8(mm)×8(mm)で厚さ1(mm)のチップサイズである。なお、多孔体は、平均孔径が20nm以下であると良い。また、ここでは検知素子を板状としたが、これに限るものではなく、ファイバ状に形成するようにしても良い。
【0020】
多孔体をガラス(硼珪酸ガラス)から構成した場合、この平均孔径を20nm以下とすることで、可視UV波長領域(波長200~2000nm)での透過スペクトルの測定において、可視光領域(350~800nm)では光が透過する。しかし、平均孔径が20nmを越えて大きくなると、可視光領域で急激な透過率の減少が観測されることが判明している(特許第3639123号公報参照)。このことにより、多孔体は、可視光領域において実質的に透明とするために、平均孔径が20nm以下とした方がよい。本実施の形態における多孔体の比表面積は1g当たり100m2以上である。なお、多孔体は、多孔質ガラスに限らず、担持する検知剤(検知溶液)と反応しない透明な(透光性を有する)材料から構成されていてもよい。
【0021】
上述した多孔体を検知剤溶液に24時間浸漬し、多孔体の孔内に検知剤溶液を含浸させた後、検知剤が含浸した多孔体を風乾し、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥し、一酸化窒素ガス検知素子を作製する。このときに容器は遮光フィルムで覆って光が入らないようにする。これにより、検知素子には、PTIOよりなる検知剤が導入され、検知素子の多孔質の孔内に上記検知剤が担持されているものとなる。このように構成された一酸化窒素ガス検知素子によれば、孔内に一酸化窒素ガスが浸入すると、孔内に配置されたPTIOとが反応する。
【0022】
一酸化窒素ガス検知素子の孔内に一酸化窒素ガスが侵入すると、孔内に配置されたPTIOにより一酸化窒素ガスが酸化されて、二酸化窒素ガスが生成するとともに、PTIOはイミノニトロオキサイド化合物になる。それとともにPTIO特有の光吸収特性が減少し、イミノニトロオキサイド化合物による光吸収特性が増加する。二酸化窒素ガスは有限の測定対象の気体中に放出されて、有限の測定対象の空気中の二酸化窒素ガス濃度が上昇する。
【0023】
なお、検知素子の作製の際に光の遮光は行わないようにすると、検知素子には、PTIOよりなる検知剤が導入され、検知素子の多孔質の孔内に上記検知剤が担持されているものとなるが、多孔質ガラス上のPTIOは徐々に分解されて、作製された検知素子はPTIO特有の光吸収特性を有さなくなる。このように構成された検知素子によれば、すでにPTIOが存在しないため、一酸化窒素ガスの検知ができなくなる。PTIOは溶液においては比較的安定で光による分解は起こりにくく、多孔質ガラスの孔内において特に光に対して不安定になると考えられる。また多孔質ガラスの孔内においてPTIOは湿度を含む気体に対しても不安定で徐々に分解される。しかしこのような分解の際は、二酸化窒素ガスは生成しない。
【0024】
次に、二酸化窒素ガス検知素子の作製方法について説明する。スルファニルアミド0.3441gにメタノール50 mlを加え溶解した溶液と、N,N-ジメチル-1-ナフチルアミン0.0428gにエタノール10mlを含浸液を加え溶解した溶液を混合しさらにエタノール40mlを加え含浸溶液を作製する。次に、検知剤溶液(含浸液)に、平均孔径4nmの多孔質ガラスである多孔体を浸漬する。多孔体は、例えば技研科学社製の多孔質ガラスである。また、多孔体は、例えば8(mm)×8(mm)で厚さ1(mm)のチップサイズである。なお、多孔体は、平均孔径が20nm以下であると良い。また、ここでは検知素子を板状としたが、これに限るものではなく、ファイバ状に形成するようにしても良い。
【0025】
多孔体をガラス(硼珪酸ガラス)から構成した場合、この平均孔径を20nm以下とすることで、可視UV波長領域(波長200~2000nm)での透過スペクトルの測定において、可視光領域(350~800nm)では光が透過する。しかし、平均孔径が20nmを越えて大きくなると、可視光領域で急激な透過率の減少が観測されることが判明している(特許第3639123号公報参照)。このことにより、多孔体は、可視光領域において実質的に透明とするために、平均孔径が20nm以下とした方がよい。本実施の形態における多孔体の比表面積は1g当たり100m2以上である。なお、多孔体は、多孔質ガラスに限らず、担持する検知剤(検知溶液)と反応しない透明な(透光性を有する)材料から構成されていてもよい。
【0026】
上述した多孔体を検知剤溶液に2時間浸漬し、多孔体の孔内に検知剤溶液を含浸させた後、検知剤が含浸した多孔体を風乾し、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥し、二酸化窒素ガス検知素子を作製する。これにより、検知素子には、ザルツマン試薬よりなる検知剤が導入され、検知素子の多孔質の孔内に上記検知剤が担持されているものとなる。このように構成された二酸化窒素ガス検知素子によれば、孔内に二酸化窒素ガスが浸入すると、孔内に配置されたザルツマン試薬とが反応する。
【0027】
二酸化窒素ガス検知素子の孔内に二酸化窒素ガスが侵入すると、孔内に配置されたザルツマン試薬によりアゾ色素が生成されて、アゾ色素特有の光吸収特性が増加する。
【0028】
次に、上記手法により作製された一酸化窒素ガス検知素子及び二酸化窒素ガス検知素子の両方を用いた一酸化窒素ガスの検出方法について説明する。まず、大気の空気中において両方の検知素子の厚さ方向の吸光度を測定する。例えば、光強度I0の入射光を透過させた透過光の強度INO及びINO2を測定し、これらより吸光度(=log10(I0/I))を各々求める。各々の検知素子を構成している多孔体が、可視光領域(350~800nm)において高い透過率を有しているので、各々の検知素子の透過率を測定することで、各々の検知素子の吸光度を測定することができる。すなわち、本実施の形態例によれば、各々の検知素子を検知対象である有限の一定体積中の空気に暴露する前と暴露する後とでの各々の検知素子の吸光度を測定することで、検知対象の有限の一定体積中の空気に含まれる一酸化窒素ガスを検知することができる。
【0029】
図1は、本発明の実施の形態における有限の一定体積中の空気に各々の検知素子を配置した時の図である。検知対象の空気は、バルブ101の開閉により、密閉された有限体積の容器102に封入され、大気から遮断された環境下にて測定が行われる。
【0030】
図1に示すように、例えば、60ppbの濃度の一酸化窒素ガスが存在する検知対象の空気103中に、一酸化窒素ガス検知素子104及び二酸化窒素ガス検知素子105を24時間暴露する。このとき、気体を入れる容器102の体積は例えば2Lである。この暴露は、室温(約20℃)の状態で行う。この後、暴露後の一酸化窒素ガス検知素子104及び二酸化窒素ガス検知素子105を検知対象の空気103中より取り出し、暴露後の一酸化窒素ガス検知素子104及び二酸化窒素ガス検知素子105の厚さ方向の吸光度を再び測定する。上述した2回(検知対象の空気103への暴露前と暴露後)の吸光度の測定(吸光光度分析)結果を
図2及び
図3に示す。
【0031】
図2は、一酸化窒素ガスを含む空気に暴露前の一酸化窒素ガス検知素子と、暴露後の一酸化窒素ガス検知素子の光吸収スペクトルを示す図である。
図2では、横軸は波長、縦軸は吸光度であり、検知対象の空気に暴露する(晒す)前の吸光度の測定結果を実線で示し、暴露した後の吸光度の測定結果を点線で示す。
図2に示すように、波長570nm付近(550から575nmの間の波長領域)の吸収において、実線と点線との間に大きな違いが見られる。
【0032】
図3は、一酸化窒素ガスを含む空気に暴露前の二酸化窒素ガス検知素子と、暴露後の二酸化窒素ガス検知素子の光吸収スペクトルを示す図である。
図3では、横軸は波長、縦軸は吸光度であり、検知対象の空気に暴露する(晒す)前の吸光度の測定結果を実線で示し、暴露した後の吸光度の測定結果を点線で示す。
図3に示すように、波長525nm付近(470から570nmの間の波長領域)の吸収において、実線と点線との間に大きな違いが見られる。
【0033】
図2に示したように、一酸化窒素ガスが含まれる空気に一酸化窒素ガス検知素子104を暴露した後の、検知素子104の吸光度の測定(点線)では、波長570nmを中心とした吸収は減少している。従って、本実施の形態における一酸化窒素ガス検知素子における光吸収の変化の測定や、色の変化の観察により、一酸化窒素ガスの検知及びその濃度などの測定が可能となる。例えば、黄緑色の発光ダイオード(中心波長570nm)からの光の透過率を測定することで上記光吸収の変化が測定可能である。しかしこの光の吸収の減少はPTIOの自己分解でも起こる現象である。しかしその自己分解の際は二酸化窒素ガスを生成することはない。従ってPTIOと反応した一酸化窒素ガスと等量の二酸化窒素ガスが生成される。またこの生成された二酸化窒素ガスは一酸化窒素ガス検知素子上に吸着されたままではなく気体中に放出されることが明らかになり、放出された二酸化窒素ガスは二酸化窒素ガス検知素子105により速やかに吸収されて二酸化窒素ガス検知素子105中のザルツマン試薬と反応し、
図3に示すように波長525nm付近(470から570nmの間の波長領域)の吸収が増加する。従って、本実施の形態における二酸化窒素ガス検知素子における光吸収の変化の測定や、色の変化の観察により、一酸化窒素ガスの検知及びその濃度などの測定が可能となる。例えば、緑色の発光ダイオード(中心波長525nm)からの光の透過率を測定することで上記光吸収の変化が測定可能である。
【0034】
従って、一酸化窒素ガス検知素子104の光吸収の変化と二酸化窒素ガス検知素子105の光吸収の変化の両方を組み合わせることでより高精度の、また高感度の一酸化窒素ガスの測定が可能となる。ただし測定対象気体が有限でない場合は、二酸化窒素ガスは大気中に存在する気体であるため、一酸化窒素ガスとPTIOの反応により生成したもののみの測定が不可能になるため、本実施の方法は有限体積の空気(気体)の測定の時のみ有効である。
【0035】
次に、本実施の形態における検知素子を用いた測定例について説明する。例えば、一酸化窒素ガスの濃度を30~150ppbの濃度範囲で作製した試料空気に、本実施の形態の一酸化窒素ガス検知素子及び二酸化窒素ガス検知素子を24時間暴露する。この暴露前と暴露後とにおける各々検知素子の、波長570nmm及び525nmにおける吸光度の差と、試料空気における一酸化窒素ガスの濃度との関係を調べると各々には線形の関係が存在する。
【0036】
図4は、一酸化窒素ガスを含む試料空気に、本実施の形態例の一酸化窒素ガス検知素子及び二酸化窒素ガス検知素子を24時間暴露することによる二酸化窒素ガス検知素子の525nmの吸光度と暴露雰囲気の一酸化窒素ガス濃度の測定結果を示す特性図である。二酸化窒素ガス検知素子の525nmの吸光度を測定することにより1から40ppbの低濃度の一酸化窒素ガスを測定可能なことが示される。
【0037】
このように、各々の吸光度差と一酸化窒素ガス濃度の相関関係から、吸光度差を一酸化窒素ガス濃度に換算することができ、吸光度に基づいて該濃度を求めることができる。
【0038】
以上
図2乃至
図4に示すように、両方の検知素子を用いることでより高精度の、また高感度の一酸化窒素ガスの測定が可能となる。
【0039】
次に、本実施の比較の形態における検知素子を用いた測定例について説明する。
【0040】
図5は、一酸化窒素ガスを含まない試料空気に、本実施の形態例の一酸化窒素ガス検知素子を24時間暴露することによる吸光度差の測定結果を示す特性図である。横軸は波長、縦軸は吸光度であり、検知対象の空気に暴露する(晒す)前の吸光度の測定結果を実線で示し、暴露した後の吸光度の測定結果を点線で示す。
図5に示すように、波長570nm付近(550から575nmの間の波長領域)の吸収において、実線と点線との間に違いが見られる。これはPTIOの自己分解によるものである。
【0041】
図6は、一酸化窒素ガスを含まない試料空気に、本実施の形態例の二酸化窒素ガス検知素子を24時間暴露することによる吸光度差の測定結果を示す特性図である。横軸は波長、縦軸は吸光度であり、検知対象の空気に暴露する(晒す)前の吸光度の測定結果を実線で示し、暴露した後の吸光度の測定結果を点線で示す。
図6に示すように、波長525nm付近の吸収において、実線と点線との間に少しの違いは見られるがほとんど差はない。これは雰囲気中に二酸化窒素ガスが存在しないことを示すものであり、一酸化窒素ガス検知素子の光の吸収の差がPTIOの自己分解によるものであり、自己分解の時は二酸化窒素ガスは生成しないためである。
【0042】
以上
図5及び
図6に示すように、両方の検知素子を用いることでより高精度の、また高感度の一酸化窒素ガス測定が可能となる。
【0043】
以上に説明したように、本実施の形態例における方法によれば、光を透過する多孔質ガラスである多孔体を基質とし、この複数の孔内にPTIOを含む検知剤を担持させた一酸化窒素ガス検知素子と光を透過する多孔質ガラスである多孔体を基質とし、この複数の孔内にザルツマン試薬を含む検知剤を担持させた二酸化窒素ガス検知素子の両方を用いることで、有限の一定体積の気体中に含まれるppbレベルの極微量な一酸化窒素ガスを、精度良く測定することが可能となる。また、24時間で2Lの気体中の一酸化窒素ガスの95%が捕集されるが、暴露時間による捕集効率の値は一酸化窒素ガス濃度によらず一定であるため測定の時間を短くしても測定は可能である。PTIOと一酸化窒素ガスの反応は数分で完了し、二酸化窒素ガス検知素子は一酸化窒素ガス検知素子より高感度であるので、一酸化窒素ガス検知素子の吸光度の変化が測定限界以下であっても一酸化窒素ガス濃度を検出可能である。
【0044】
図7は、本実施の形態例における一酸化窒素ガス検知装置の構成例を示す図である。一酸化窒素ガス検知装置は、上記2つの検知素子、すなわち一酸化窒素ガス検知素子104及び二酸化窒素ガス検知素子105を備え、さらに、発光部110、111、受光部120及び測定部140を備えて構成される。一酸化窒素ガス検知素子104の測定として、例えば、発光光の中心波長が570nmの発光ダイオード(発光部)110とフォトディテクタ(受光部)120との間に一酸化窒素ガス検知素子104を配置し、発光ダイオード110から出力されて一酸化窒素ガス検知素子104を透過した光をフォトディテクタ120で検出し、測定部140によってフォトディテクタ120からの出力信号を処理して検知素子104の吸光度の変化を出力する構成とし、二酸化窒素ガス検知素子105の測定として、例えば、発光光の中心波長が525nmの発光ダイオード(発光部)111とフォトディテクタ(受光部)120との間に二酸化検知素子105を配置し、発光ダイオード111から出力されて検知素子105を透過した光をフォトディテクタ120で検出し、測定部140によってフォトディテクタ120からの出力信号を処理して二酸化窒素ガス検知素子105の吸光度の変化を出力する構成とすればよい。このような簡便な装置構成で、上述した極微量な一酸化窒素ガスの測定が容易に行える。フォトディテクタ120により受光された光量はアナログ又はデジタルの電気信号に変換され、測定部140(各種分析装置、コンピュータ装置など)により処理される。
【0045】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る各種変形、修正を含む要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0046】
101:バルブ、102:容器、103:検知対象の空気、104:一酸化窒素ガス検知素子、105:二酸化窒素ガス検知素子、110:発光部、111:発光部、120:受光部、140:測定部