(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】脱水状態推定装置及び脱水状態推定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/026 20060101AFI20230920BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
A61B5/026 120
A61B5/0245 100A
(21)【出願番号】P 2020148275
(22)【出願日】2020-09-03
【審査請求日】2022-07-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年12月18日~20日開催のBio4Apps2019国際会議にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野上 大史
(72)【発明者】
【氏名】白石 隆太
(72)【発明者】
【氏名】澤田 廉士
(72)【発明者】
【氏名】神矢 圭一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】無津呂 大輔
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-072152(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208645(WO,A1)
【文献】特開2018-015172(JP,A)
【文献】特表2018-502612(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0324866(US,A1)
【文献】国際公開第2013/038552(WO,A1)
【文献】特開2018-007894(JP,A)
【文献】SHIRAISHI, R., et al.,Building a Dehydration Detection System Using Blood Flow in Fingertip and Machine Learning Algorithm,International Conference on BioSensors, BioElectronics, BioMedical Devices, BioMEMS/NEMS & Applications (Bio4Apps 2019),Vol.8,2019年12月18日,pp.75-76
【文献】HIRATA, T., et al.,暑熱環境下における労働従事者の脱水検知,第7回バイオメカニクス研究センター&エレクトロニクス実装学会九州支部合同研究会,ROMBUNNO.P3,2019年02月08日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/03
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血流量から脱水状態を推定する脱水状態推定装置であって、
被測定者から一定時間以上かけて測定された血流量データを取得する計測データ取得部と、
前記血流量データから
人体接触部位とセンサとの接触に起因するノイズを除去した前処理済データを生成する前処理部と、
前記前処理済データを、心拍ピーク値に由来する動的成分の周波数帯と血流量の変動に由来する静的成分の周波数帯とに分離して動的特徴量及び静的特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
前記動的特徴量及び前記静的特徴量を使用して脱水状態を推定する脱水推定部とを備え
、
前記前処理部では、ノイズ除去後のデータの総データ長が10秒未満又は連続データが5秒以下の場合には前記前処理済データから除外することを特徴とする脱水状態推定装置。
【請求項2】
前記動的特徴量は、前記動的成分の振幅値の平均値、中央値、標準偏差及び分散の少なくとも1つであり、
前記静的特徴量は、前記静的成分の平均値、変動係数及び形状指数の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の脱水状態推定装置。
【請求項3】
前記脱水推定部による脱水状態の推定は、ランダムフォレストを用いたアンサンブル学習によって得られた成果により脱水率を推定することで行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱水状態推定装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の脱水状態推定装置によって血流量から脱水状態を推定する脱水状態推定方法であって、
被測定者から一定時間以上かけて測定された血流量データを取得するステップと、
前記血流量データから
人体接触部位とセンサとの接触に起因するノイズを除去した前処理済データを生成するステップと、
前記前処理済データを、心拍に関する動的成分の周波数帯と血流量の変動に関する静的成分の周波数帯とに分離して動的特徴量及び静的特徴量を抽出するステップと、
前記動的特徴量及び静的特徴量を使用して脱水状態を推定するステップとを備え
、
前記前処理済データを生成するステップでは、ノイズ除去後のデータの総データ長が10秒未満又は連続データが5秒以下の場合には前記前処理済データから除外することを特徴とする脱水状態推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血流量から脱水状態を推定する脱水状態推定装置及び脱水状態推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2に開示されているように、測定対象部位にレーザ光を出射して散乱された散乱光を受光させることで、血流量などの液体流量の測定を行うことができる流量測定装置が知られている。
【0003】
例えば人の指を測定対象部位として、流量測定装置によって血流量を測定することで、血行などの健康状態や脱水状態を把握することができるようになる。一方、人の脱水状態を判定する装置としては、特許文献3に開示されているように、血流量の血流回復勾配や水分比率低下度から脱水症状を判定するものも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/208645号
【文献】国際公開第2015/199159号
【文献】特開2015-54219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、軽度な脱水症状については検出が非常に困難であるが、発症の予防という観点からは症状が軽い段階から把握できるようにしておく必要がある。また、血流量データの特徴量の変動は複雑であり、回帰モデルにより体重減少量を推定することでは、精度の高い脱水状態の推定を行うことができない。
【0006】
そこで本発明は、血流量データから高精度に脱水状態を推定することが可能な脱水状態推定装置及び脱水状態推定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の脱水状態推定装置は、血流量から脱水状態を推定する脱水状態推定装置であって、被測定者から一定時間以上かけて測定された血流量データを取得する計測データ取得部と、前記血流量データからノイズを除去した前処理済データを生成する前処理部と、前記前処理済データを、心拍ピーク値に由来する動的成分の周波数帯と血流量の変動に由来する静的成分の周波数帯とに分離して動的特徴量及び静的特徴量を抽出する特徴量抽出部と、前記動的特徴量及び前記静的特徴量を使用して脱水状態を推定する脱水推定部とを備えたことを特徴とする。
【0008】
ここで、前記動的特徴量は、前記動的成分の振幅値の平均値、中央値、標準偏差及び分散の少なくとも1つであり、前記静的特徴量は、前記静的成分の平均値、変動係数及び形状指数の少なくとも1つであることが好ましい。また、前記脱水推定部による脱水状態の推定は、ランダムフォレストを用いたアンサンブル学習によって得られた成果により脱水率を推定することで行われるようにすることができる。
【0009】
また、脱水状態推定方法の発明は、血流量から脱水状態を推定する脱水状態推定方法であって、被測定者から一定時間以上かけて測定された血流量データを取得するステップと、前記血流量データからノイズを除去した前処理済データを生成するステップと、前記前処理済データを、心拍に関する動的成分の周波数帯と血流量の変動に関する静的成分の周波数帯とに分離して動的特徴量及び静的特徴量を抽出するステップと、前記動的特徴量及び静的特徴量を使用して脱水状態を推定するステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このように構成された本発明の脱水状態推定装置及び脱水状態推定方法は、被測定者から測定された血流量データからノイズを除去した前処理済データを生成し、その前処理済データを、心拍ピーク値に由来する動的成分の周波数帯と血流量の変動に由来する静的成分の周波数帯とに分離して、動的特徴量及び静的特徴量を抽出する。そして、それらの動的特徴量及び静的特徴量を使用して、脱水状態を推定する。
【0011】
このため、血流量データから高精度に脱水状態を推定することができる。また、軽度な脱水症状についても検出できるようになるので、発症の予防という観点から症状が軽い段階から脱水症になる可能性を把握することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施の形態の脱水状態推定装置の構成を説明するブロック図である。
【
図2】血流量センサの概略構成を示した説明図である。
【
図3】本実施の形態の脱水状態推定方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図4】測定された血流量データを使ったノイズ除去の方法の説明図である。
【
図5】血流量データから動的成分と静的成分とを分離する概念を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の脱水状態推定装置2の構成を説明するためのブロック図である。また、
図2は、脱水状態推定装置2に血流量データを提供するための血流量センサ1の概略構成を説明するための図である。
【0014】
血流量センサ1は、被測定者となる人体の血流量を計測するための測定器である。血流量センサ1では、例えば
図2に示すように、人の指先FGの血流量を計測する。すなわち、血流量センサ1にセットされた指先FGに光源から光を出射し、指先FGで散乱された光を受光させ、その受光量の情報を基に指先FGに流れる血液の流量を測定する。
【0015】
図2に例示した血流量センサ1は、函体10と、指先FGを載せる接触部11と、圧力を測定するための歪ゲージ13と、光を出射する発光部14と、光を受光する受光部15とを備えている。
【0016】
函体10は、上面が解放された収容器であり、内部の底面には発光部14と受光部15とが設置される。そして、函体10の開口された上面は、透明なアクリル板12によって塞がれる。
【0017】
アクリル板12の上面には、接触部11が貼り付けられ、その接触部11の上面に指先FGの内側(腹)を接触させることになる。すなわち、アクリル板12と接触部11は、後述する出射光L1及び散乱光L2の波長に対して透光性を有する素材によって形成される。例えば接触部11とアクリル板12とを同じ素材によって形成することで、境界での屈折率差が小さくなり、光の透過性を高めることができる。
【0018】
函体10の上面開口に架け渡されるアクリル板12は、指先FGを載せたときに作用する荷重によって撓むことになる。この撓みは、アクリル板12の下面側に貼り付けられた歪ゲージ13によって測定され、アクリル板12に作用する接触圧として求めることができる。
【0019】
発光部14には、例えば垂直共振器面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting LASER)を使用することができる。レーザ駆動回路の駆動により発光部14から出射された出射光L1の少なくとも一部は、アクリル板12及び接触部11を通過して指先FGに向かう。出射光L1の波長は、例えば850nm-1300nmの近赤外光の波長に設定することができる。
【0020】
出射光L1は、指先FGにより反射や散乱(以下まとめて単に「散乱」ともいう。)して散乱光L2となる。すなわち出射光L1は、被測定者の生体組織内となる指先FG内の毛細血管内の血球や組織によって散乱を繰り返しながら、ほぼ半球状に伝播していく。そして、出射光L1が指先FGによって散乱された散乱光L2は、受光部15において受光される。
【0021】
受光部15は、血流量測定用のフォトダイオードによって形成される受光素子である。受光部15は、散乱光L2を光電変換して散乱光L2の強度に応じた光検出信号を生成する。光検出信号は、増幅器により増幅される構成とすることもできる。
【0022】
血流量センサ1の接触部11に指先FGを載せると、歪ゲージ13の検出情報に基づいて、アクリル板12の撓み量及び傾きが算出され、指先FGによる接触部11に対する接触圧が算定されて、接触部11に対する荷重分布が推定される。
【0023】
また、受光部15の検出情報からは、ドップラーシフトを利用して指先FGの血流量が算出される。例えば、接触部11への接触圧が所定の圧力(例えば80mmHg)以上であることが検出されたときに、血流量の計測が開始される構成とすることができる。
【0024】
例えば、指先FGの毛細血管内を動いている血球により散乱された散乱光L2では、血球の移動速度に比例したドップラー効果によって、周波数のシフトが生じている。静止した組織からの散乱光L2と動いている血球からの散乱光L2とでは、周波数の差(シフト)が数百Hz程度から数十kHzの帯域に分布する。
【0025】
このため、両者の散乱光L2の干渉によって生じるうなり信号(ビート信号)のパワースペクトルにおいて、ドップラー効果によりシフトした周波数は血球の速度に対応し、パワーは血球の量に対応する。血流量とは、各々の血球の速度と血球の数の積の総和であるため、ビート信号のパワースペクトルに周波数を乗算して積分することで、血流量の演算が可能となる。
【0026】
例えば、受光部15からの検出情報に対して、散乱光L2の干渉成分の周波数解析(例えばFFT(Fast Fourier Transform)演算)を行う。この周波数解析によりビート信号のスペクトル列を導出し、各スペクトル列に対して対応する周波数を乗算して積分することで、指先FGの血流量を導出することができる。
【0027】
このようにして血流量センサ1によって得られる血流量データを使用して、本実施の形態の脱水状態推定装置2では、被測定者の脱水状態の推定を行う。暑熱環境下における体重減少は発汗に起因するため、体重減少率や脱水率を推定して脱水状態の推定を行うことで、適切な水分補給を促すことができるようになり、脱水症状や熱中症の予防へとつなげることができる。
【0028】
本実施の形態の脱水状態推定装置2は、
図1に示すように、血流量データを取得する計測データ取得部21と、ノイズ除去などの前処理を行う前処理部22と、前処理済データから動的特徴量及び静的特徴量を抽出する特徴量抽出部23と、脱水状態を推定する脱水推定部24とを備えている。
【0029】
計測データ取得部21は、血流量センサ1を使って被測定者から一定時間以上かけて測定された血流量データを取り込む。例えば、
図4に例示した「血流量生データ」が、計測データ取得部21によって取得される血流量のデータとなる。
【0030】
前処理部22は、取り込まれた血流量データからノイズを除去した前処理済データを生成する。血流量の計測の開始時や終了時には、人体接触部位とセンサとの接触に起因するノイズが発生する。このノイズは、脱水率の推定に影響を及ぼすことになるため、計測データから算出される指標を用いた二値化法、あるいは他のセンサによるフラグ処理などを用いてノイズを除去する。
【0031】
二値化法によるフィルタリングは、例えば
図4に示すように、血流量生データに対して任意区間の移動平均(移動平均データ)を算出し、高値として突出する箇所をノイズと推定して除去する方法である。
【0032】
他のセンサを用いたフラグ処理とは、例えば歪ゲージ13の検出情報から算出された接触圧が、閾値以上となって任意時間の検出がされた場合にのみ、血流量データの計測を開始するという方法である。
【0033】
また、血流量データの計測におけるノイズは、教師なし分類法である例えばマハラノビス距離、特異スペクトル変換法を用いた異常値検出による信号処理などで除去することもできる。
【0034】
そして、ノイズの除去によって、総データ長が10秒を下回ったり、連続データが5秒以下となったりした場合は、計測データから除外するという処理も前処理部22において行われる。
【0035】
特徴量抽出部23では、前処理部22で生成された前処理済データを、心拍ピーク値に由来する動的成分の周波数帯と、血流量の変動に由来する静的成分の周波数帯とに分離する。
【0036】
具体的には、ノイズ除去を実施した血流量データである前処理済データに対して、特異値分解、高速フーリエ変換、連続ウェーブレット変換の少なくとも一つを適用して、
図5に示すように、動的成分の周波数帯と静的成分の周波数帯とに分離する。
【0037】
さらに、心拍ピーク値に由来する動的成分からは、振幅値の平均値、中央値、標準偏差、分散などを動的特徴量として算出する。また、血流量データの変動に由来する静的成分からは、平均値、変動係数、形状指数などを静的特徴量として算出する。
【0038】
静的特徴量として算出される形状指数Iwは、例えば以下の式によって求められる。
Iw=AvgAmp
2×AvgBF
2
ここで、AvgAmpは振幅値の平均値、AvgBFは血流量データの平均値を示す。
【0039】
そして、脱水推定部24では、特徴量抽出部23によって算出された動的特徴量及び静的特徴量を使用して、脱水状態の推定を行う。この脱水状態の推定は、例えば推定された脱水率や体重減少率に基づいて行われる。
【0040】
脱水率や体重減少率の推定モデルの構築には、ランダムフォレストを用いたアンサンブル学習を使用することができる。アンサンブル学習は、複数の弱分類器の分類結果を統合することにより、高精度な分類を行う分類器を構築するための手法である。アンサンブル学習としては、バギング、ブースティング、ランダムフォレストなどが知られている。
【0041】
ランダムフォレストは、与えられたデータセットからブートストラップ法によるサンプリングで複数の教師データセットを作成し、それら複数の教師データセットから決定木である複数の弱分類器が構築される。そして、複数の決定木の結果の多数決により、最終的な分類結果が取得されることになる。
【0042】
具体的には、アンサンブル学習による脱水率の推定モデルは、以下の流れで構築される。
まず、動的特徴量及び静的特徴量によって構築されたデータセットから、ブートストラップ法によってデータセットサイズの60%を抽出し、全部で100個の標本(教師データセット)を作成する。
【0043】
さらに、各標本から機械学習によって回帰木(決定木)を作成する際に、使用する特徴量数Nは以下の式で決定し、全ての特徴量の中からランダムで選択する。
N=log2P+1
ここで、Pは標本に含まれる特徴量の総数を示す。また、機械学習を行う際には、回帰木の深さに制限は設けない。
【0044】
このようにして得られた機械学習の成果となる各回帰木が推定した値の平均値を、脱水率の推定モデルの算出結果として出力する。推定された脱水率は、そのまま脱水状態の推定結果としてディスプレイやプリンタなどの出力部3に出力させることができる。また、推定された脱水率を基準値と比較して、例えば脱水症状のランク(軽症、中等症、重症など)を判定して脱水状態の推定結果として出力部3に出力させることもできる。
【0045】
次に、本実施の形態の脱水状態推定方法の処理の流れについて、
図3を参照しながら説明する。
まず、ステップS1では、被測定者の指先FGを血流量センサ1の接触部11に載せて(
図2参照)、一定時間以上をかけて血流量を測定し、それにより得られた血流量データを、脱水状態推定装置2の計測データ取得部21によって取得する。
【0046】
続いてステップS2では、信号処理Aとして、取得された血流量データからノイズを除去する。ここでは、
図4に示すように、血流量生データの形状を移動平均データの形状と比較することで異常値を判断して、ノイズとして除去することで前処理済データを生成する。
【0047】
さらにステップS3では、信号処理Bとして、ノイズ除去された前処理済データに対してフィルタリングを行う。ここでは、
図5に示すように、ハイパスフィルタによって動的成分となる振幅データを算出し、残差データを静的成分として平均値を算出する。
【0048】
ステップS31,S32に示すように、前処理済データから分離されたハイパスデータ(動的成分)と残差データ(静的成分)とからは、ステップS4において、それぞれ動的特徴量と静的特徴量とが算出される。そして、算出された動的特徴量と静的特徴量から、分類器に入力するデータセットを構築する。
【0049】
ステップS5において、上述したようなアンサンブル学習の成果物である分類器に被測定者から計測された血流量データに基づくデータセットが入力されると、分類器の各回帰木の推定結果が出力される。
【0050】
ステップS6では、分類器の推定結果に基づいて、脱水率の推定を行う。例えば、各回帰木が推定した値の平均値を、脱水率として算出する。このようにして脱水推定部24で推定された脱水率は、そのまま、又は軽症など脱水症状のランクが付されて、脱水状態として出力部3に出力される。
【0051】
次に、本実施の形態の脱水状態推定装置2及び脱水状態推定方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の脱水状態推定装置2及び脱水状態推定方法は、被測定者から測定された血流量データからノイズを除去した前処理済データを、前処理部22で生成する。
【0052】
さらに、特徴量抽出部23において、その前処理済データを、心拍ピーク値に由来する動的成分の周波数帯と血流量の変動に由来する静的成分の周波数帯とに分離して、動的特徴量及び静的特徴量を抽出する。
【0053】
そして、脱水推定部24において、それらの動的特徴量及び静的特徴量と、機械学習による学習済み推定モデルとを使用して、脱水状態を示す脱水率を推定する。
このため、一過性の脱水状態であっても血流量データから高精度に推定することができる。
【0054】
すなわち、暑熱環境下における体重減少は発汗に起因するため、脱水率を推定して脱水状態の推定を行うことで、一過性の体重減少量も測定できるようになる。さらに、脱水率や体重減少率が一定以上となった場合に水分摂取を促すようにすることで、脱水症状や熱中症の予防へとつなげることができる。
【0055】
このように血流量データに基づいて高精度に脱水状態の推定が行えれば、軽度な脱水症状についても検出できるようになり、発症の予防という観点から症状が軽い段階から脱水症になる可能性を把握することができるようになる。
【0056】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0057】
例えば、前記実施の形態では、ランダムフォレストを用いたアンサンブル学習によって得られた成果により脱水率を推定する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、他の機械学習手法によって学習された推定モデルを使用することもできる。
【符号の説明】
【0058】
2 :脱水状態推定装置
21 :計測データ取得部
22 :前処理部
23 :特徴量抽出部
24 :脱水推定部