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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】IgA分泌促進用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/718 20060101AFI20230920BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230920BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230920BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230920BHJP
   A23L 33/21 20160101ALI20230920BHJP
【FI】
A61K31/718
A61P37/04
A61P37/08
A61P31/00
A23L33/21
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018193057
(22)【出願日】2018-10-12
(65)【公開番号】P2020059681
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-10-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年8月20日 日本応用糖質科学会平成30年度大会(第67回)・応用糖質科学シンポジウム講演要旨集50頁に公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月10日秋田県立大学において開催された日本応用糖質科学会平成30年度大会(第67回)の一般講演で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月11日秋田県立大学において開催された日本応用糖質科学会平成30年度大会(第67回)のポスター発表にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月7日 公益社団法人日本農芸化学会中部支部第183回例会の講演予稿集にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月15日名古屋大学において開催された公益社団法人日本農芸化学会中部支部第183回例会ポスター発表にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511169999
【氏名又は名称】石川県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】松本 健司
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏和
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】高木 宏基
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-523250(JP,A)
【文献】特開2006-137719(JP,A)
【文献】砂糖類・でん粉情報,2017年,p.52-57
【文献】Bioscience of Microbiota, Food and Health,2016年,Vol.35, No.1,p.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/718
A23L 33/21
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物、前記加熱縮合物の酵素処理物、前記加熱縮合物の分画処理物、前記加熱縮合物の還元処理物から選ばれた少なくとも一種からなる難消化性グルカンを有効成分とすることを特徴とするIgA分泌促進用組成物。
【請求項2】
粘膜免疫機能増強のために用いられる、請求項1記載のIgA分泌促進用組成物。
【請求項3】
感染症予防のために用いられる、請求項1記載のIgA分泌促進用組成物。
【請求項4】
アレルギー性疾患予防のために用いられる、請求項1記載のIgA分泌促進用組成物。
【請求項5】
IgA分泌促進のための飲食品として用いられる、請求項1~4のいずれか1項に記載のIgA分泌促進用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難消化性グルカンを有効成分とするIgA分泌促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
粘膜は、ウイルスや細菌等の病原体と常に接している。そのため、粘膜免疫系においては、病原体の粘膜上皮細胞への付着・定着阻止、病原体から生産される毒素や酵素に対する中和作用等の働きを担う、免疫グロブリンA(IgA)抗体の分泌応答が誘導される。つまりIgAの分泌促進によって、粘膜免疫機能を増強させ、感染症やアレルギー性疾患を予防する等の効果が期待できるため、IgA分泌促進作用を有する組成物の開発が望まれている。
【0003】
近年では、IgA分泌促進作用を有する化合物が提案されており、例えば、フラクトオリゴ糖(特許文献1)、ガラクトオリゴ糖(特許文献2、非特許文献1)、ラクチュロース(特許文献2)等の難消化性オリゴ糖や、難消化性デンプン(非特許文献2)、難消化デキストリン(特許文献3)、ポリデキストロース(特許文献4)、ペクチンやグルコマンナン等の食物繊維(非特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-201239号公報
【文献】特開2017-57174号公報
【文献】特許第6160011号公報
【文献】特許第4793533号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】佐藤岳治、日本栄養・食糧学会誌、第61巻、第2号(2008)
【文献】田邊宏基、日本食物繊維学会誌、第8巻、第1号(2004)
【文献】山田耕路、日本食物繊維学会誌、第5巻、第1号(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの化合物でも、化合物によっては下痢をしたり、効果が少なかったりと粘膜免疫機能の増強効果が十分とはいえなかった。また、化合物によっては農作物から抽出精製することで得られたり、製造に特殊な酵素を必要としたりするため、供給安定性や製造コストの点で問題があった。更に、選択肢を広げる意味でも、新たなIgA分泌促進組成物の開発が望まれていた。
【0007】
したがって、本発明の目的は、新たなIgA分泌促進作用を有する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物等からなる難消化性グルカンが生体内でIgA分泌促進作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物、前記加熱縮合物の酵素処理物、前記加熱縮合物の分画処理物、前記加熱縮合物の還元処理物から選ばれた少なくとも一種からなる難消化性グルカンを有効成分とすることを特徴とするIgA分泌促進用組成物を提供するものである。本発明のIgA分泌促進用組成物は、人間を含む哺乳動物に摂取させることにより、IgAの分泌が促進されるので、粘膜免疫機能を増強させ、免疫機能の低下に起因して起こる感染症やアレルギー性疾患、あるいは炎症性疾患等、様々な疾患の予防につなげることができる。また、有効成分である難消化性グルカンは水やアルコール溶液に対する優れた溶解性を示し、また、甘味度が低く、酸味やエグ味のない自然な味質という特徴を有しているので、あらゆる医薬品や飲食品に配合することができる。
【0010】
本発明のIgA分泌促進用組成物においては、前記難消化性グルカンの食物繊維含量が固形分換算で70%以上であることが好ましい。これによれば、有効成分である難消化性グルカンの食物繊維含量が70%以上であるので、前述した効果に加えて、便通を改善したり、食後血糖値の上昇を抑制する効果が期待できる。
【0011】
本発明のIgA分泌促進用組成物は、粘膜免疫機能増強のために用いられることが好ましい。
【0012】
また、本発明のIgA分泌促進用組成物は、感染症予防のために用いられることが好ましい。
【0013】
更に、本発明のIgA分泌促進用組成物は、アレルギー性疾患予防のために用いられることが好ましい。
【0014】
更に、本発明のIgA分泌促進用組成物は、IgA分泌促進のための飲食品として用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のIgA分泌促進用組成物は、人間を含む哺乳動物に摂取させることにより、IgAの分泌が促進されるので、粘膜免疫機能を増強させ、免疫機能の低下に起因して起こる感染症やアレルギー性疾患、あるいは炎症性疾患等、様々な疾患の予防につなげることができる。また、有効成分である難消化性グルカンは、水やアルコール溶液に対する優れた溶解性を示し、また、甘味度が低く自然な味質を有しているので、あらゆる医薬品や飲食品に配合することができる。また、有効成分である難消化性グルカンは、水やアルコール溶液に対する優れた溶解性を示し、また、甘味度が低く自然な味質を有しているので、あらゆる医薬品や飲食品に配合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】試験飼料摂取中の体重変化を示す図表である。
図2】試験飼料摂取中の1日当たりの餌の摂取量を示す図表である。
図3】試験飼料摂取中の1日当たりの乾燥糞重量を示す図表である。
図4】試験飼料摂取中の糞便に含まれる1日当たりのIgA量を示す図表である。
図5】試験飼料摂取中の乾燥糞便に含まれるIgA濃度を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のIgA分泌促進用組成物の有効成分である難消化性グルカンは、難消化性のグルカン(グルコースポリマー)を意味し、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物、前記加熱縮合物の酵素処理物、前記加熱縮合物の分画処理物、前記加熱縮合物の還元処理物から選ばれた少なくとも一種からなっている。
【0018】
この難消化性グルカンは、NMR分析及びメチル化分析により、α,βのいずれのグルコシド結合も含み、1,6-、1,2-、1,3- 並びに1,4- 結合を有し、1,6-結合が最も多い多分岐多糖であることが確認されている。ただし、上記結合は加熱縮合によってランダムになされるため、単一構造ではなく、重合度も多いものや少ないものなどが混在している。参考までに、その構造の一例を示すと、下記化学式(1)に示されるようなものが挙げられる。
【0019】
【化1】
【0020】
なお、この難消化性グルカンは、日本食品化工株式会社より、商品名「フィットファイバー(登録商標)#80」、「フィットファイバー(登録商標)#80P」として販売されており、このような市販品を本発明に用いることもできる。
【0021】
本発明において、難消化性グルカンの重量平均分子量は、特に限定されないが、500~5000が好ましく、1500~3000がより好ましい。因みに、上記商品名「フィットファイバー(登録商標)#80」の重量平均分子量は約2000である。なお、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)法によって測定することができる。
【0022】
本発明のIgA分泌促進用組成物の有効成分である難消化性グルカンは、水溶性食物繊維画分を豊富に有しているので、便通を改善したり、食後血糖値の上昇を抑制する効果が期待できる。また、甘味度が砂糖の10分の1程度であり、酸味やエグ味のない自然な味質という特徴を有するので、例えば食品等に含有させても、元の食品素材の味質を損なうことがない。
【0023】
次に、本発明のIgA分泌促進用組成物の有効成分である難消化性グルカンの製造方法について、更に詳しく説明する。
難消化性グルカンの原料として用いられる澱粉分解物としては、DEが70~100である澱粉分解物を使用することができ、好ましくはDEが75~100であり、より好ましくはDEが80~100である澱粉分解物を使用することができる。DEが70を下回ると、分解が不十分であるために得られる難消化性グルカンに澱粉由来の構造が多く残存してしまい、体内酵素により分解され易く容易に吸収されてしまう傾向があり、整腸効果の点で好ましくない。
【0024】
ここで、「DE(Dextrose Equivalent)」とは、澱粉分解物の分解度合いの指標であり、試料中の還元糖をブドウ糖として固形分に対する百分率で示した値であり、その値は、例えばレーンエイノン法等で測定することができる。
【0025】
また、難消化性グルカンの原料として用いられる澱粉分解物としては、DEが上記の範囲を満たす澱粉分解物であればよく、例えば、マルトオリゴ糖、水飴、粉飴、グルコース等が挙げられる。その性状も特に制限はなく、結晶品(無水ぶどう糖結晶、含水ぶどう糖結晶等)、液状品(液状ぶどう糖、水飴等)、非結晶粉末品(粉飴等)のいずれでも良いが、ハンドリングや製造コストを考慮すると液状品を用いることが好ましい。特に、グルコースの精製工程で生じる副産物である「ハイドロール」と呼ばれるグルコースシラップの使用は、リサイクルや原料コスト削減の観点から極めて有利である。
【0026】
本発明における、DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物、前記加熱縮合物の酵素処理物、前記加熱縮合物の分画処理物、前記加熱縮合物の還元処理物から選ばれた少なくとも一種である難消化性グルカンは、一例には、特許第4966429号公報に記載の方法で得ることができる。
【0027】
ここで「加熱縮合物」とは、DE70~100の澱粉分解物を加熱条件下において縮合させて得られた糖縮合物を意味する。以下の説明においては、上記「加熱縮合物」を「糖縮合物」として説明する。
【0028】
加熱縮合における加熱条件は、縮合反応により水溶性食物繊維が豊富な難消化性グルカンが得られれば特に制限はなく、当業者であれば適宜決定することができる。この場合、得られる難消化性グルカンの食物繊維含量が無水物換算で、好ましくは40%以上、より好ましくは55%以上、更に好ましくは70%以上、最も好ましくは75%以上となるように加熱処理する。例えば、100℃~300℃で1~180分間、より好ましくは、150℃~250℃で1~180分間加熱処理することができる。
【0029】
なお、食物繊維含量は平成27年3月30日消食表第139号「食品表示基準について」における「別添栄養成分等の分析方法等」に記載されている高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)により測定することができる。
【0030】
縮合反応に用いる機器としては、上記条件の加熱ができる機器であれば特に制限はないが、例えば、棚式熱風乾燥機、薄膜式蒸発器、フラッシュエバポレーター、減圧乾燥機、熱風乾燥機、スチームジャケットスクリューコンベヤー、ドラムドライヤー、エクストルーダー、ウォームシャフト反応機、ニーダー等を用いることができる。
【0031】
上記縮合反応は、無触媒条件下で行ってもよいが、縮合反応の反応効率の点から触媒存在下で行うことが好ましい。前記触媒としては糖縮合反応を触媒するものであれば特に制限はないが、無機酸(塩酸、リン酸、硫酸、硝酸等)、有機酸(クエン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、酢酸等)、鉱物性物質(珪藻土、活性白土、酸性白土、ベントナイト、カオリナイト、タルク等)及び活性炭(水蒸気炭、塩化亜鉛炭、スルホン化活性炭、酸化活性炭)等から選ばれた1種を用いることができ、また、2種以上を組み合わせて用いることもできる。得られる難消化性グルカンの着色や安全性、更には味・臭いを考慮すると、触媒として活性炭を用いることが好ましい。
【0032】
このようにして得られた加熱縮合物(糖縮合物)は、そのまま用いることができるが、更に糖質分解酵素で酵素処理して得られる酵素分解物、分画処理で特定重合度の糖質を除去した分画処理物、還元処理(水素添加反応)により糖の還元末端のグルコシル基のアルデヒド基を水酸基に還元した還元処理物として用いることもできる。
【0033】
ここで、糖質分解酵素とは、糖質に作用し加水分解反応を触媒する酵素であり、上記酵素処理物は、糖縮合物を糖質分解酵素で酵素処理して得ることができる。当該処理により難消化性グルカン中の消化性部位を分解することができるため、食物繊維含量を高めることができる。
【0034】
用いる糖質分解酵素としては特に制限はないが、例えば、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ(アミログルコシダーゼ)、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、α-グルコシダーゼ、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ、β-グルコシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-マンノシダーゼ、β-フルクトシダーゼ、セロビアーゼ、ゲンチオビアーゼ等を挙げることができ、前記酵素を単独で用いてもよく、複数の酵素を組み合わせて用いてもよい。難消化性グルカンへの分解作用からα-アミラーゼ、グルコアミラーゼが好ましく、両酵素のいずれかを単独で作用させてもよいが、α-アミラーゼ及びグルコアミラーゼを共に作用させるのが特に好ましい。
【0035】
酵素処理の処理条件は、酵素処理により糖縮合物の易消化性部分が消化される条件であれば特に制限はなく、当業者であれば酵素処理条件を適宜決定することができるが、酵素処理によりグルコース含量が1%以上、より好ましくは2%以上増加するように処理するのが好ましく、例えば、20~120℃で30分間~48時間、より好ましくは、50~100℃で30分間~48時間酵素処理することができる。
【0036】
本発明にかかる難消化性グルカンは、IgAの分泌を促進させることができるので、これを有効成分とする本発明のIgA分泌促進用組成物を、人間を含む哺乳動物に摂取させることにより、IgA分泌を促進し、また、粘膜免疫機能を増強させ、免疫機能の低下に起因して起こる感染症やアレルギー性疾患、あるいは炎症性疾患等、様々な疾患の予防につなげることができる。また、これら以外にもIgA分泌促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0037】
ここで、粘膜免疫とは、特にIgA等の分泌型の免疫グロブリンを産生し、粘膜固有のリンパ小節やパイエル板等のT細胞を多数含む組織等における免疫をさす。また、腸管免疫とは、経口的に侵入した病原体や異物を排除し、共生する腸内細菌から大きな影響を受けてその機能を維持し、恒常性を保つことをいう(ルミナコイド研究、第21巻、第2号(2017)、57-68頁参照)。なお、本明細書における「粘膜免疫」には、「腸管免疫」を含むものとする。
【0038】
粘膜免疫の異常を伴う疾患としては、アレルギー性疾患や炎症性腸疾患(例:クローン病、潰瘍性大腸炎)等が挙げられる。粘膜免疫の増強が所望される疾患又は状態としては、例えば、感染症(例:細菌等の微生物、ウイルス又は寄生虫による感染症)や癌等が挙げられる。
【0039】
感染症とは、ウイルスや細菌等の病原体が生体内に侵入・増殖して引き起こす疾患であり、具体的には、インフルエンザ、ウイルス性肝炎、ウイルス性髄膜炎、ウイルス性胃腸炎、ウイルス性結膜炎、後天性免疫不全症候群(AIDS)、成人T細胞白血病、エボラ出血熱、黄熱、風邪症候群、狂犬病、サイトメガロウイルス感染症、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、進行性多巣性白質脳症、水痘・帯状疱疹、単純疱疹、手足口病、デング熱、日本脳炎、伝染性紅斑、伝染性単核球症、天然痘、風疹、急性灰白髄炎(ポリオ)、麻疹、咽頭結膜熱(プール熱)、マールブルグ出血熱、腎症候性出血熱、ラッサ熱、流行性耳下腺炎、ウエストナイル熱、ヘルパンギーナ、及びチクングニア熱等のウイルス感染症、レンサ球菌(A群β溶連菌、肺炎球菌等)、黄色ブドウ球菌(MSSA、MRSA)、表皮ブドウ球菌、腸球菌、リステリア、髄膜炎菌、淋菌、病原性大腸菌(O157:H7等)、クレブシエラ(肺炎桿菌)、プロテウス菌、百日咳菌、緑膿菌、セラチア菌、シトロバクター、アシネトバクター、エンテロバクター、マイコプラズマ、クロストリジウム、結核・非結核性抗酸菌、コレラ、ペスト、ジフテリア、赤痢、猩紅熱、炭疽、梅毒、破傷風、ハンセン病、レジオネラ肺炎(在郷軍人病)、レプトスピラ症、ライム病、野兎病、Q熱、発疹チフス、ツツガムシ病、日本紅斑熱、クラミジア肺炎、トラコーマ、性器クラミジア感染症、及びオウム病等の細菌感染症等が挙げられるが、これに限定されない。
【0040】
アレルギー性疾患とは、免疫反応が、特定の抗原に対して過剰に起こることに由来する疾患であり、具体的には、アトピー性皮膚炎、アレルギー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性胃腸炎、花粉症、喘息、食物アレルギー、薬物アレルギー、蕁麻疹等が挙げられるが、これに限定されない。
【0041】
本発明のIgA分泌促進用組成物の1日当たりの摂取量としては、難消化性グルカンの摂取量(無水物換算)として、0.01~1g/体重1kgが好ましく、0.02~1g/体重1kgがより好ましく、0.04~1g/体重1kgが最も好ましい。難消化性グルカンの摂取量(無水物換算)が0.01g/体重1kg未満であると本発明の効果が得られにくくなる傾向にあり、1g/体重1kgを超えると、それを摂取した人間を含む哺乳動物に一過性の下痢を生じさせる可能性がある。
【0042】
本発明のIgA分泌促進用組成物は、難消化性グルカンの他に、他の原料を含んでいてもよく、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、発色剤、矯味剤、着香剤、酸化防止剤、防腐剤、呈味剤、酸味剤、甘味剤、強化剤、ビタミン剤、膨張剤、増粘剤、界面活性剤等を含むことができる。
【0043】
本発明のIgA分泌促進用組成物は、必要に応じて、有効成分である難消化性グルカンに対し許容される基材や担体を添加して、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤、粉末、顆粒、カプセル(ソフト、ハード)剤、スティック、ゼリー等の形態とすることができる。このような製剤化は、通常、医薬品や飲食品の製造に用いられる方法に従って製造することができる。
【0044】
本発明のIgA分泌促進用組成物は、IgA分泌促進のための食品又は医薬品として用いることができる。IgA分泌促進のための食品の形態は、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、及び特別用途食品等の健康食品の形態であってもよく、その他の一般的な飲食品の形態であってもよい。なお、「特定保健用食品」とは、機能等を表示して食品の製造又は販売等を行う場合に、保健上の観点から法上の何らかの制限を受けることがある食品をいう。
【0045】
飲食品としては、例えば、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、フリカケ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、焼き肉のタレ、カレールウ、シチューの素、スープの素、ダシの素、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガー等の各種調味料、せんべい、あられ、おこし、求肥、餅類、まんじゅう、ういろう、餡類、羊羹、水羊羹、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉等の各種和菓子、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、ヌガー、キャンディー等の各種洋菓子、アイスクリーム、シャーベット等の氷菓、果実のシロップ漬、氷蜜等のシロップ類、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト等のペースト類、ジャム、マーマレード、シロップ漬、糖果等の果実、野菜の加工食品類、福神漬け、べったら漬、千枚漬等の漬物類、たくわん漬の素、白菜漬の素等の漬物の素、ハム、ソーセージ等の畜肉製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、カマボコ、チクワ、天ぷら等の魚肉製品類、ウニ、イカの塩辛、酢コンブ、さきするめ、タラ、タイ、エビ等の田麩等の各種珍味類、海苔、山菜、するめ、小魚、貝等で製造される佃煮類、煮豆、煮魚、ポテトサラダ、コンブ巻等の惣菜食品、乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜の瓶詰、缶詰類、プリンミックス、ホットケーキミックス、即席ジュース、即席コーヒー、即席汁粉、即席スープ等の即席食品、冷凍食品、果汁含有飲料、果汁ジュース、野菜ジュース等の果実・野菜飲料、サイダー、ジンジャーエール等の炭酸飲料、アイソトニック飲料、アミノ酸飲料等のスポーツ飲料、コーヒー飲料、緑茶等の茶系飲料、乳酸飲料、ココア等の乳系飲料、チューハイ、清酒、果実酒等のアルコール飲料、栄養ドリンク、更には、離乳食、治療食、流動食、ドリンク剤、ペプチド食品等が挙げられるが、これに限定されない。
【実施例
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
1.試験飼料の製造
(1)対照飼料
コーンスターチ5%を、Research Diet社の精製飼料D12450Hに添加、調製し、対照飼料を得た。対照飼料の組成を表1に示した。
【0048】
(2)飼料1-1,1-2
DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる難消化性グルカンとして、難消化性グルカン粉末品である「フィットファイバー#80P」(商品名、日本食品化工社製)を用いた。
【0049】
上記難消化性グルカンの食物繊維含量を、平成27年3月30日消食表第139号「食品表示基準について」における「別添栄養成分等の分析方法等」に記載されている高速液体 クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)により測定したところ、77.0%であった。
【0050】
上記難消化性グルカン2%又は5%を、Research Diet社の精製飼料D12450Hに添加、調製し、飼料1-1,1-2を得た。飼料1-1,1-2の組成を表1に示した。
【0051】
(3)飼料2-1,2-2
難消化性グルカンの代わりとして、フラクトオリゴ糖(富士フィルム和光純薬社製)、ハイアミロースコーンスターチ(日本食品化工社製)を用い、それぞれ5%をResearch Diet社の精製飼料D12450Hに添加、調製し、飼料2-1,2-2を得た。飼料2-1,2-2の組成を表1に示した。
【0052】
【表1】
【0053】
2.試験方法
マウス(C57BL/6N、6週齢、雄)30匹を2週間予備飼育の後、6群に分け、それぞれに上記で製造した試験飼料を6週間摂取させた。
【0054】
摂取前、3週目及びに6週目に糞便を回収した。糞便は適宜希釈し、糞便中に含まれるIgA量をMOUSE IgA ELISAキット(ベチルラボラトリーズ社製)用いて測定した。
【0055】
統計処理は対応ありの二元配置分散分析を行い、単純主効果で有意な場合にTurkeyの多重比較を用い検定した。P<0.05を有意差ありとした。
【0056】
3.試験結果
(1)体重変化
試験飼料摂取中の体重変化を図1に示した。試験期間中、各個体は健常的な成長を示し、各群の有意差は無かった。
【0057】
(2)餌の摂取量
試験飼料摂取中の1日当たりの餌の摂取量を図2に示した。試験飼料摂取5週目において、フラクトオリゴ糖群は他群より有意に摂取量が低かった。
【0058】
(3)乾燥糞重量
試験飼料摂取中の1日当たりの乾燥糞重量を図3に示した。試験飼料摂取3週目において、難消化性グルカン5%群は他すべての群に対して有意に高かった。また、3週目において、ハイアミロースコーンスターチ群と難消化性グルカン2%群はコントロール群、フラクトオリゴ糖群に対して有意に高かった。6週目において、ハイアミロースコーンスターチ群、難消化性グルカン2%群、及び難消化性グルカン5%群はコントロール群に対して有意に高かった。また、6週目において、難消化性グルカン5%群はフラクトオリゴ糖群に対して有意に高かった。
【0059】
(4)糞中IgA量
試験飼料摂取中の糞便に含まれる1日当たりのIgA量を図4に示した。試験飼料摂取3週目において、難消化性グルカン2%群、難消化性グルカン5%群はコントロール群に対して有意に高かった。6週目において、フラクトオリゴ糖群、難消化性グルカン2%群、及び難消化性グルカン5%群はコントロール群に対して有意に高かった。3週目、6週目において、難消化性グルカン5%群は他すべての群に対して有意に高かった。6週目において、フラクトオリゴ糖群と難消化性グルカン2%群は同程度の糞中IgA量であった。
【0060】
(5)糞中IgA濃度
試験飼料摂取中の乾燥糞便に含まれるIgA濃度を図5に示した。試験飼料摂取3週目において、難消化性グルカン5%群はコントロール群に対して有意に高かった。6週目において、フラクトオリゴ糖群、難消化性グルカン2%群、及び難消化性グルカン5%群はコントロール群に対して有意に高かった。3週目、6週目において、難消化性グルカン5%群は他すべての群に対して有意に高かった。6週目において、フラクトオリゴ糖群と難消化性グルカン2%群は同程度の糞中IgA濃度であった。
【0061】
本試験により、難消化性グルカン群では、糞便中に含まれるIgA量及びIgA濃度が、コントロール群より有意に高かったことが明らかとなった。また、難消化性グルカン5%群のIgA量及びIgA濃度は、IgA分泌促進作用を有すると知られているフラクトオリゴ糖やハイアミロースコーンスターチを5%添加した群より有意に高く、更に、難消化性グルカン2%群とフラクトオリゴ糖5%群が同程度のIgA量及びIgA濃度であることが明らかとなった。
【0062】
すなわち、難消化性グルカンはIgA分泌促進作用を有しており、IgA分泌促進用組成物として有用であることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5