(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04858 20160101AFI20230920BHJP
H01M 8/1009 20160101ALI20230920BHJP
H01M 8/1011 20160101ALI20230920BHJP
H01M 8/04492 20160101ALI20230920BHJP
H01M 8/043 20160101ALI20230920BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20230920BHJP
H01M 8/04225 20160101ALI20230920BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230920BHJP
【FI】
H01M8/04858
H01M8/1009
H01M8/1011
H01M8/04492
H01M8/043
H01M8/04746
H01M8/04225
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2019198714
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】久保 厚
(72)【発明者】
【氏名】中井 基生
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 利幸
(72)【発明者】
【氏名】高里 明洋
(72)【発明者】
【氏名】武田 恭英
(72)【発明者】
【氏名】上田 裕介
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/052500(WO,A1)
【文献】特開2007-173071(JP,A)
【文献】特開2009-123589(JP,A)
【文献】特開2008-192525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸またはアルコールの水溶液を燃料とする直接液体型の燃料電池と、
制御装置と、
前記燃料電池に前記燃料を供給する燃料供給装置と、
を有する燃料電池システムであって、
前記燃料電池は、
前記燃料が供給される燃料極と、大気中の酸素が供給される空気極と、前記燃料極と前記空気極の間に挟まれた電解質膜と、を有しており、
前記制御装置は、
前記電解質膜の含水状態を推定する含水状態推定部と、
前記含水状態推定部によって推定した前記電解質膜の含水状態に基づいて、前記燃料電池の発電電力の供給を開始できるか否かを判定する電力供給開始判定部と、
を有し、
前記空気極に大気中の前記酸素を供給し、前記燃料供給装置を用いて前記燃料極に前記燃料の供給を開始した後、前記含水状態推定部と前記電力供給開始判定部を介して前記燃料電池による発電電力の供給を開始できると判定した場合に、前記燃料電池の発電電力の供給を開始するように制御
し、
前記燃料極に前記燃料の供給を開始してから前記燃料電池による発電電力の供給を開始するまでの期間である準備期間では、前記燃料電池による発電電力の供給の開始以降に前記燃料極に供給する第1燃料流量よりも多い第2燃料流量を前記燃料極に供給するように前記燃料供給装置を制御する、
燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池の内部抵抗を検出する内部抵抗検出装置を備え、
前記制御装置は、
前記含水状態推定部にて、前記電解質膜の含水状態を、前記内部抵抗検出装置を用いて検出した前記燃料電池の内部抵抗に基づいて推定し、
前記電力供給開始判定部にて、検出した前記燃料電池の内部抵抗が所定抵抗値以下となった場合に、前記燃料電池による発電電力の供給を開始できると判定する、
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料極に前記燃料の供給を開始してからの経過時間を計測する時間計測手段を有し、
前記制御装置は、
前記含水状態推定部にて、前記電解質膜の含水状態を、前記時間計測手段を用いて計測した前記経過時間に基づいて推定し、
前記電力供給開始判定部にて、計測した前記経過時間が所定時間以上となった場合に、前記燃料電池による発電電力の供給を開始できると判定する、
燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池には様々な種類があり、その中には、液体の燃料を改質せずに燃料極に直接投入する直接液体型燃料電池がある。直接液体型燃料電池は、燃料を酸化する燃料極と、大気中の酸素などの酸化剤ガスを還元する空気極と、燃料極と空気極との間にプロトン(H+)伝導を行う電解質膜とを備えている。ここで、燃料極はアノードで、空気極はカソードである。燃料極および空気極の両方の電極では、電極の酸化還元反応の速度を促進させる電極触媒を含む触媒層が設けられている。燃料極の触媒層では、燃料が酸化されてプロトン(H+)が生成する。さらにプロトン(H+)は、電解質膜内を透過して、燃料極の触媒層から空気極の触媒層に移動する。空気極の触媒層では、プロトン(H+)が大気中の酸素と反応して水が生成される。
【0003】
直接液体型燃料電池に関する技術が各種提案されている。例えば、特許文献1には、燃料にメタノールを用いる直接メタノール型燃料電池と、燃料にギ酸を用いる直接ギ酸型燃料電池とが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プロトン(H+)は、通常、水分子(H2O)にプロトン(H+)が結合したオキソニウムイオン(H3O+)として存在している。そして、プロトン(H+)の周囲に水分子が無ければ、プロトン(H+)は容易には移動できない。このため、プロトン(H+)が、電解質膜内を容易に透過できるためには、電解質膜が水を十分含んだ含水状態になっている必要がある。
【0006】
電解質膜が含水状態になる前に、直接液体型燃料電池による発電電力の供給を開始すると、プロトン(H+)の移動は、電解質膜の水を含んでいる部分では容易だが、電解質膜の水を含んでいない部分では容易ではない。プロトン(H+)は、電解質膜の水を含んでいない部分を経由して燃料極の触媒層から空気極の触媒層に移動し難いため、空気極の触媒層のうちプロトン(H+)が到達できる部分は限られる。そして、空気極の触媒層のうちプロトン(H+)が到達できない部分では、プロトン(H+)と酸素とが反応できないこと等により、直接液体型燃料電池の発電は安定し難い。
【0007】
特許文献1に記載の直接液体型燃料電池は、電解質膜が水を十分含んでいるか否かに関わらず、燃料電池による発電電力の供給を開始するため、燃料電池による発電電力を必ずしも安定して供給できないという問題があった。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、燃料電池による発電電力をより安定して供給できる燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の第1の発明は、ギ酸またはアルコールの水溶液を燃料とする直接液体型の燃料電池と、制御装置と、前記燃料電池に前記燃料を供給する燃料供給装置と、を有する燃料電池システムであって、前記燃料電池は、前記燃料が供給される燃料極と、大気中の酸素が供給される空気極と、前記燃料極と前記空気極の間に挟まれた電解質膜と、を有しており、前記制御装置は、前記電解質膜の含水状態を推定する含水状態推定部と、前記含水状態推定部によって推定した前記電解質膜の含水状態に基づいて、前記燃料電池の発電電力の供給を開始できるか否かを判定する電力供給開始判定部と、を有し、前記空気極に大気中の前記酸素を供給し、前記燃料供給装置を用いて前記燃料極に前記燃料の供給を開始した後、前記含水状態推定部と前記電力供給開始判定部を介して前記燃料電池による発電電力の供給を開始できると判定した場合に、前記燃料電池の発電電力の供給を開始するように制御する、燃料電池システムである。
【0010】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る燃料電池システムであって、前記燃料電池の内部抵抗を検出する内部抵抗検出装置を備え、前記制御装置は、前記含水状態推定部にて、前記電解質膜の含水状態を、前記内部抵抗検出装置を用いて検出した前記燃料電池の内部抵抗に基づいて推定し、前記電力供給開始判定部にて、検出した前記燃料電池の内部抵抗が所定抵抗値以下となった場合に、前記燃料電池による発電電力の供給を開始できると判定する、燃料電池システムである。
【0011】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明に係る燃料電池システムであって、前記燃料極に前記燃料の供給を開始してからの経過時間を計測する時間計測手段を有し、前記制御装置は、前記含水状態推定部にて、前記電解質膜の含水状態を、前記時間計測手段を用いて計測した前記経過時間に基づいて推定し、前記電力供給開始判定部にて、計測した前記経過時間が所定時間以上となった場合に、前記燃料電池による発電電力の供給を開始できると判定する、燃料電池システムである。
【0012】
次に、本発明の第4の発明は、上記第1の発明から第3の発明のいずれか1つに係る燃料電池システムであって、前記制御装置は、前記燃料極に前記燃料の供給を開始してから前記燃料電池による発電電力の供給を開始するまでの期間である準備期間では、前記燃料電池による発電電力の供給の開始以降に前記燃料極に供給する第1燃料流量よりも多い第2燃料流量を前記燃料極に供給するように前記燃料供給装置を制御する、燃料電池システムである。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、燃料電池システムは、燃料極に燃料の供給を開始した後、電解質膜が水を含んだ含水状態になったと推定された場合に、燃料電池による発電電力の供給を開始する。燃料電池による発電電力の供給は、電解質膜が十分水を含んだ含水状態になったと推定された場合に行われるため、燃料電池システムは、燃料電池による発電電力をより安定して供給できる。
【0014】
第2の発明によれば、燃料電池システムは、燃料極に燃料の供給を開始した後、内部抵抗検出装置を用いて検出した燃料電池の内部抵抗が、所定抵抗値以下となった場合に、燃料電池による発電電力の供給を開始する。ここで、燃料電池の内部抵抗が所定抵抗値以下の場合は、電解質膜が水を含んだ含水状態なったと推定できる。燃料電池システムは、電解質膜が水を含んだ含水状態になったと推定できる状態になってから、燃料電池による発電電力の供給を開始する。そして、燃料電池システムは、電解質膜が含水状態になったか否かの推定をするために、燃料電池の内部抵抗を検出する内部抵抗検出装置を用いるため、電解質膜が含水状態になったか否かの推定をより正確に判断し得る。
【0015】
第3の発明によれば、燃料電池システムは、燃料極に燃料の供給を開始した後、時間計測手段を用いて計測した、燃料の供給を開始してからの経過時間が所定時間以上となった場合に、燃料電池による発電電力の供給を開始する。ここで、燃料の供給を開始してからの経過時間が所定時間以上となった場合は、電解質膜が水を含んだ含水状態なったと推定できる。従って、燃料電池システムは、電解質膜が水を含んだ含水状態になったと推定できる状態になってから、燃料電池による発電電力の供給を開始する。そして、燃料電池システムは、電解質膜が含水状態になったか否かの推定を、時間計測手段が計測する経過時間だけで判断できるため、電解質膜が十分水を含んでいるか否かの判断をより簡易に行うことが出来る。
【0016】
第4の発明によれば、制御装置は、燃料の供給を開始してから発電電力の供給を開始するまでの期間である準備期間では、発電電力の供給の開始以降に燃料極に供給する第1燃料流量よりも多い第2燃料流量を燃料極に供給する。これにより、燃料極に供給する燃料流量は、準備期間ではより多くなるため、準備期間においてより速やかに電解質膜に水を含ませ得る。その結果、準備期間に必要な時間を短縮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1の実施の形態に係る、燃料電池システムの全体構成を説明する図である。
【
図2】第1の実施の形態に係る、燃料電池の構成を説明する分解斜視図である。
【
図3】第1の実施の形態における、制御装置による処理手順の例を説明するフローチャートである。
【
図4】内部抵抗の時間変化を説明するグラフである。
【
図5】第2の実施の形態における、制御装置による処理手順の例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態の燃料電池システム1について、図面を用いて説明する。なお、本実施の形態にて説明する燃料電池システム1の燃料電池7は、ギ酸、またはメタノール等のアルコールの水溶液を燃料とする直接液体型燃料電池であり、以下ではギ酸を燃料とする直接ギ酸型燃料電池を例として説明する。ここで、直接液体型燃料電池とは、液体の燃料を、改質せずに燃料極に直接投入する燃料電池を意味する。そして、直接ギ酸型燃料電池は、燃料としてギ酸水溶液を用い、ギ酸を改質せずに燃料極10(
図2参照)に直接投入する燃料電池である。なお、図中にX軸、Y軸、Z軸が記載されている場合、各軸は互いに直交しており、Z軸方向は鉛直上方に向かう方向、Y軸方向は燃料電池7の積層方向、X軸方向は燃料電池7の水平幅方向を示している。
【0019】
●[燃料電池システム1の全体構成(
図1)]
図1は、燃料電池7を含む燃料電池システム1の全体構成を示す図であり、
図2は燃料電池7の構成を説明する分解斜視図である。燃料電池システム1は、
図1に示すように、燃料タンク50、燃料供給ポンプ52(燃料供給装置に相当)、燃料電池7、排液タンク60、内部抵抗検出装置71、スイッチSW1、制御装置80等を有している。以下に詳細を説明するが、本実施の形態の燃料電池システム1では、制御装置80は、内部抵抗検出装置71が検出する燃料電池7の内部抵抗を用いて、燃料電池7による発電電力の供給を開始するタイミングを決める制御を行うことができる。
【0020】
燃料タンク50は、燃料となる所定濃度のギ酸を含むギ酸水溶液(燃料水溶液)を収容している。燃料水溶液中のギ酸の濃度は、例えば10~40[%]程度である。また燃料タンク50には燃料供給配管51の一方端が接続され、燃料供給配管51の他方端は燃料電池7の燃料流入口7Aに接続されている。
【0021】
燃料供給ポンプ52(燃料供給装置に相当)は電動ポンプであり、燃料供給配管51に設けられており、制御装置80に接続されている。燃料供給ポンプ52は、制御装置80から出力された制御信号に基づいて、燃料タンク50内の燃料を燃料電池7の燃料流入口7Aに向けて圧送する。後述する様に、燃料電池7は、燃料水溶液が流入する燃料流入口7Aと、燃料電池7で使用された燃料水溶液を排出する燃料流出口7Bと、を有している。燃料流出口7Bには、燃料排出配管61の一方端が接続されている。
【0022】
排液タンク60は、燃料排出配管61の他方端が接続されており、燃料排出配管61を介して燃料電池7の燃料流出口7Bに接続されている。また排液タンク60には、回収配管62の一方端が接続され、回収配管62の他方端の側は、空気極20の排出孔23Bに接続されている。排出孔23Bは、後述する様に、空気極20内を流れた空気(酸素)と、空気極20にて発生した水と、を回収配管62に排出する。これにより、排液タンク60には、燃料排出配管61から流入する燃料電池7内で使用された後の燃料と、回収配管62から流入する空気極20にて発生した水(後述)が蓄えられている。また、排液タンク60には、空気極20内を流れた空気(酸素)が回収配管62から流入する。排液タンク60の上部には、内部と外部を連通する排気口(不図示)が設けられており、排液タンク60の内部の圧力が高まると、排液タンク60内の気体が排気口(不図示)から排液タンク60外へ流出する。
【0023】
内部抵抗検出装置71は、電気抵抗を計測できる抵抗計であり、一端側が空気極20の空気極集電体23に接続されており、他端側がスイッチSW1に接続されている。後述するように、スイッチSW1が内部抵抗検出装置71側に切り替わると、スイッチSW1により、燃料極10の燃料極集電体13および内部抵抗検出装置71を接続する。これにより、内部抵抗検出装置71は、一端側が空気極20の空気極集電体23に導通し、他端側は燃料極10の燃料極集電体13に導通する。そして、内部抵抗検出装置71は、空気極集電体23と燃料極集電体13との間の電気抵抗(すなわち、燃料電池7の内部抵抗)を計測することができる。
【0024】
内部抵抗検出装置71は、抵抗計であり、例えば、内部に電気抵抗を有しており、内部の電気抵抗に電気を流し、電気抵抗を流れる電流または電圧の大きさを計測することにより、電気抵抗を、例えばmΩの精度で計測できる。後述する様に、電解質膜30内に、1価の電荷を有するプロトン(H+)が移動することに対応して、内部抵抗検出装置71の有する電気抵抗に電気が流れて、燃料極集電体13と空気極集電体23との間の電気抵抗を計測できる。
【0025】
スイッチSW1は、一端側の端子が燃料極10の燃料極集電体13に接続されており、他端側の2つの端子それぞれが外部回路(電気負荷)、内部抵抗検出装置71それぞれに接続されており、さらに、制御装置80に接続されている。スイッチSW1は、制御装置80から出力される制御信号に応じて、燃料極集電体13および外部回路(電気負荷)を接続させた状態と、燃料極集電体13および内部抵抗検出装置71とを接続させた状態とに、切り替えることができる。
【0026】
制御装置80は、時間を計測できる時間計測手段(タイマ)81、CPU等が搭載された電子回路を有している。制御装置80は、CPU88、RAM82、ROM83、時間計測手段(タイマ)81、EEPROM84等を備えた公知のものである。CPU88は、ROM83に記憶された各種プログラム等に基づいて、種々の演算処理を実行する。また、RAM82は、CPU88での演算結果や各検出装置から入力されたデータ等を一時的に記憶し、EEPROM84は、例えば、燃料電池の運転の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する。またCPU88は、含水状態推定部88A、電力供給開始判定部88Bを有しているが、これらについては後述する。上述した様に、制御装置80は、燃料供給ポンプ52、内部抵抗検出装置71、スイッチSW1に接続されており、これらの制御を行う。また、制御装置80は、これらの制御を行うために種々の情報を記憶している。なお、燃料電池7の構造の詳細について、以下に説明する。
【0027】
●[燃料電池7の構造(
図2)]
燃料電池7は、
図2に示すように、空気極20と燃料極10にて電解質膜30を挟んだ構成を有している。空気極20は、空気極触媒層21、空気極拡散層22、空気極集電体23が積層されて構成されている。燃料極10は、燃料極触媒層11、燃料極拡散層12、燃料極集電体13が積層されて構成されている。
【0028】
空気極集電体23は、厚みが約1~10[mm]程度の導電性を有する板状の金属等である。空気極集電体23には、
図1に示すように、電気負荷(例えば、電動モータ)の一方端が接続される。空気極集電体23には、周囲の空気(酸素)を空気極拡散層22に拡散させるとともに、空気極20にて発生する水を排出するために、圧送された空気を外部から供給する供給口23Aと、供給口23Aに接続された空気流通溝23Cと、空気流通溝23Cに接続された排出孔23Bとが、設けられている。ここで、供給口23Aには、制御装置80に接続されたエアポンプ(図示省略)により空気(酸素)が圧送される。
【0029】
空気極集電体23において、供給口23Aは上方に設けられており、排出孔23Bは下方に設けられている。空気流通溝23Cは、空気極集電体23の空気極拡散層22に接触する側の面に、幅が狭い流路として形成されている。空気極20にて発生する水(後述)は、空気流通溝23Cに流入する。圧送された空気(酸素)は供給口23Aから空気流通溝23Cに流入して、空気流通溝23Cを流れると、空気極20にて発生する水とともに、排出孔23Bから回収配管62(
図1参照)に排出される。なお、空気流通溝23Cは、燃料流通溝13Bと同形状に形成しても良い。
【0030】
空気極拡散層22は、厚みが約0.05~0.5[mm]程度の層状に形成されている。空気極拡散層22は、水および空気を透過できるとともに、電子伝導性を有する多孔質材であり、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロスを用いることができる。空気極拡散層22は、空気極集電体23の供給口23Aから流入した空気(酸素)を、拡散させながら空気極触媒層21に導く。外気の空気に含まれる酸素は、空気極拡散層22に浸透して空気極触媒層21の電極触媒粒子に到達する。
【0031】
空気極触媒層21は、厚みが約0.05~0.5[mm]程度の層状に形成されている。空気極触媒層21は、空気極の電極触媒粒子(不図示)と、電極触媒粒子を担持する電極触媒担持体(不図示)とを備えている。空気極20の電極触媒粒子は、大気中の酸素を還元する反応の反応速度を促進させる触媒の粒子であり、例えば白金(Pt)粒子を用いることができる。電極触媒担持体は、電極触媒粒子を担持できるとともに、導電性を備えるものであればよく、例えばカーボン粉末を用いることができる。燃料としてギ酸を用いた場合、空気極触媒層21の電極触媒粒子によって、(式1)に示す酸化還元反応が進行する。なお、生成された水(H
2O)は、空気極触媒層21から空気流通溝23Cに流入して、空気極集電体23の排出孔23Bから回収配管62(
図1参照)に排出され、回収配管62を経由して排液タンク60に導かれる。
2H
+ + 1/2O
2 + 2e
- → H
2O (式1)
【0032】
燃料極集電体13は、厚みが約1~10[mm]程度の導電性を有する板状の金属等である。燃料極集電体13は、燃料極拡散層12に接触する燃料流通面13Aを有しており、燃料流通面13Aには、燃料極拡散層12の側が開口された燃料流通溝13Bが形成されている。燃料流通溝13Bは、淀みなく燃料が流れるように、幅が狭い流路とされている。また、電子e
-を回収するために、燃料流通溝13Bの周囲には、燃料極拡散層12に接触するランド部13Eが形成されている。燃料極集電体13には、
図1に示すように、電気負荷(例えば、電動モータ)の他方端が接続される。
【0033】
また燃料流通溝13Bは、燃料極集電体13の一方縁部(または他方縁部)から、対向する他方縁部(または一方縁部)へと略水平方向に延びる複数の流通溝部13Cを有している。また複数の流通溝部13Cのそれぞれは、燃料極集電体13の一方縁部または他方縁部の近傍に形成されて略鉛直方向に延びる折り返し溝部13Dにて接続されている。また燃料流通溝13Bは、燃料極集電体13の下方に形成された燃料流入口7Aと、燃料極集電体13の上方に形成された燃料流出口7Bと、に接続されている。
【0034】
従って、燃料流入口7Aに流入された燃料は、流通溝部13Cにて一方縁部の側から他方縁部の側へと導かれ、折り返し溝部13Dにて方向転換されて、次の流通溝部13Cにて他方縁部の側から一方縁部の側へと導かれ、次の折り返し溝部13Dにて方向転換されることを繰り返しながら、つづら折り状とされた燃料流通溝13B内を流れ、燃料極拡散層12中に拡散される。
【0035】
燃料極拡散層12は、厚みが約0.05~0.5[mm]程度の層状に形成されている。燃料極拡散層12は、ギ酸水溶液が内部に浸透できるとともに、電子伝導性を有する多孔質材であり、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロスを用いることができる。燃料極拡散層12は、燃料極集電体13の燃料流通面13Aに形成された燃料流通溝13Bに流される燃料を、拡散させながら燃料極触媒層11に導く。
【0036】
燃料極触媒層11は、厚みが約0.05~0.5[mm]程度の層状に形成されている。燃料極触媒層11は、電極触媒粒子(不図示)と、電極触媒粒子を担持する電極触媒担持体(不図示)とを備えている。燃料極10の電極触媒粒子は、燃料であるギ酸の酸化反応の速度を促進させる触媒の粒子であり、例えばパラジウム(Pd)粒子を用いることができる。電極触媒担持体は、電極触媒粒子を担持できるとともに、導電性を備えるものであればよく、例えばカーボン粉末を用いることができる。燃料としてギ酸を用いた場合、燃料極触媒層11の電極触媒粒子によって、(式2)に示す酸化反応が進行する。
HCOOH → CO2 + 2H+ +2e- (式2)
【0037】
電解質膜30は、厚みが約0.01~0.3[mm]程度の薄膜状に形成されている。電解質膜30は、燃料極10の燃料極触媒層11と空気極20の空気極触媒層21との間に挟まれており、電子伝導性を持たず、水およびプロトン(H+)を透過できるプロトン交換膜である。電解質膜30には、例えば、Du Pont社製のNafion(登録商標)等のパーフルオロエチレンスルフォン酸系膜を用いることができる。以上で説明した、燃料極触媒層11と、燃料極拡散層12と、電解質膜30と、空気極触媒層21と、空気極拡散層22とが接合されて一体化されたものを、本明細書では、膜/電極接合体(MEA;Membrane Electrode Assembly)と記載する場合もある。
【0038】
●[燃料電池の作動について(
図1~
図2)]
ギ酸水溶液(燃料水溶液)は、燃料供給ポンプ52により燃料タンク50内から燃料供給配管51に送りだされて、燃料極集電体13の燃料流入口7Aから、燃料流通溝13Bに流入する。ギ酸水溶液は、燃料流通溝13Bを流れるにつれ、燃料極拡散層12に浸透して、燃料極触媒層11の電極触媒粒子の表面に到達する。そして、燃料極触媒層11の電極触媒粒子の表面上で、上記の(式2)に示すギ酸の酸化反応が進行する。
【0039】
(式2)に示す、ギ酸の酸化反応で生成された二酸化炭素(CO2)は、集まって泡となり燃料極10から排出され、プロトン(H+)は電解質膜30を透過して空気極触媒層21の電極触媒粒子に到達する。また、ギ酸から生成された電子e-は、燃料極拡散層12、燃料極触媒層11、燃料極集電体13を流れ、さらに、燃料極集電体13から外部回路(電気負荷)に流れる。なお、燃料極触媒層11の電極触媒粒子の表面上において、ギ酸の酸化反応で生成された二酸化炭素(CO2)は、集まって泡となり、燃料極拡散層12、燃料流通溝13Bを流れて、燃料流出口7Bから燃料排出配管61を経由して排液タンク60に溜められる。
【0040】
電子e
-は、外部回路(電気負荷)から空気極集電体23へ流れ、さらに、空気極集電体23、空気極拡散層22、空気極触媒層21を流れて空気極触媒層21に到達する。空気極触媒層21の電極触媒粒子表面には、外部回路(電気負荷)からのe
-と、電解質膜30を透過したプロトンH
+と、空気極拡散層22を透過した外気の酸素とが到達し、上記の(式1)に示す酸化還元反応が進行する。(式1)に示すように、空気極触媒層21の電極触媒粒子表面では水(H
2O)が生成されるが、空気極触媒層21の電極触媒粒子表面で生成される水(H
2O)は、
図1および
図2に示す様に、空気極触媒層21から空気流通溝23Cに流入して、空気極集電体23の排出孔23Bから回収配管62に排出され、回収配管62を経由して排液タンク60に貯められる。
【0041】
以上の様に、燃料電池7は燃料タンク50内のギ酸水溶液を用い発電するが、電解質膜30では、燃料極10の燃料極触媒層11と、空気極20の空気極触媒層21との間でプロトン(H+)伝導を行う。プロトン(H+)の周囲に水分子が無ければ、プロトン(H+)は容易には移動できない。このため、電解質膜30がプロトン(H+)を良好に伝達できるためには、電解質膜30が水を十分含んだ含水状態になっている必要があるため、燃料電池システム1は、以下の様に制御されている。
【0042】
●[第1の実施の形態の燃料電池システム1の制御について(
図3、
図4)]
次に、
図3に示すフローチャートを用いて、発電電力の供給を開始する前に制御装置80が開始する、準備期間処理の実行処理手順の例等について説明する。以下、準備期間とは、空気極20への空気(酸素)の供給を開始してから発電電力の供給を開始するまでを意味する。なお、制御装置80が準備期間処理の実行を開始するときまでには、スイッチSW1は、燃料極集電体13および内部抵抗検出装置71を接続した状態に設定される。制御装置80は起動されるとステップS110に処理を進める。
【0043】
ステップS110にて制御装置80は、エアポンプ(図示省略)に空気極20の供給口23Aへの空気(酸素)の圧送を開始するよう制御信号を出力し、空気極20への空気(酸素)の供給を開始して、ステップS120へと処理を進める。なお、エアポンプ(図示省略)により圧送された空気(酸素)は、供給口23Aから空気流通溝23Cへと流れて、空気極拡散層22に浸透し、空気極拡散層22に拡散されて空気極触媒層21に導かれる。この様に、制御装置80は、準備期間において、下記のステップS120にてギ酸水溶液(燃料)を燃料極10(燃料流入口7A)に圧送する前に、ステップS110にて空気極20(空気流通溝23Cおよび空気極拡散層22)に空気(酸素)を流す。
【0044】
ステップS120にて制御装置80は、燃料供給ポンプ52が準備期間流量Qpでギ酸水溶液(燃料)を圧送し続けるよう、燃料供給ポンプ52に制御信号を出力してステップS130へと処理を進める。ここで、準備期間流量Qpとは、後述するステップS160での発電期間流量Qs(例えば、約3ml/分)よりも燃料流量が多く、例えば、約100ml/分の燃料流量である。燃料タンク50内のギ酸水溶液(燃料)は、準備期間流量Qpで、燃料電池7の燃料流入口7Aに圧送され続ける。そして、ギ酸水溶液は、燃料極拡散層12、燃料極集電体13、電解質膜30(
図2参照)へと浸透する。ここで、準備期間流量Qp(第2燃料流量に相当)を後述する発電期間流量Qs(第1燃料流量に相当)よりも多くしていることで、より短時間で電解質膜30にギ酸水溶液に含まれる水が浸透してゆき、電解質膜30は水を吸収し、電解質膜30に含まれる水分が増加していく。
【0045】
ところで、プロトン(H+)が電解質膜30を透過することで、電解質膜30は、燃料極10の燃料極触媒層11と、空気極20の空気極触媒層21との間でプロトン(H+)の伝導を行う。プロトン(H+)の周囲に水分子があれば、プロトン(H+)は移動しやすくなり、プロトン(H+)の周囲に水分子が無ければ、プロトン(H+)は容易には移動できない。このため、電解質膜30に含まれる水分が増加するにつれ、プロトン(H+)が電解質膜30内を移動しやすくなる。ここで、電解質膜30内に、1価の電荷を有するプロトン(H+)が移動することに対応して、内部抵抗検出装置71の有する電気抵抗に電気が流れる。
【0046】
図4には、内部抵抗Rbの時間変化を模式的に示した。
図4において、T0は、ステップS120が実行される時を表す。R0は、ステップS120が実行される前の、電解質膜30が乾いている状態における燃料電池7の内部抵抗Rbの値を表す。
図4に示すように、ステップS120にて、ギ酸水溶液が燃料電池7に供給されることにより、電解質膜30にギ酸水溶液に含まれる水が浸透してゆき、電解質膜30に含まれる水分が増加するにつれ、電解質膜30内をプロトン(H
+)が移動しやすくなり、その結果、燃料電池7の内部抵抗Rbは、Rsの値となるまで低下してゆく。そして、内部抵抗Rbが、所定抵抗値Rwとなったときに、電解質膜30が水を十分含んだ含水状態になっていると推定することができる。所定抵抗値Rwの値は、例えば、R0とRsの中間の値(Rw=(R0+Rs)/2)である。なお、
図4において、内部抵抗Rbが、所定抵抗値Rwとなった時を時間Twとする。
【0047】
ステップS130にて制御装置80は、内部抵抗検出装置71を用いて燃料電池7の内部抵抗Rbを検出してステップS140へと処理を進める。
【0048】
ステップS140にて制御装置80は、ステップS130で検出した燃料電池7の内部抵抗Rbが所定抵抗値Rw以下か否かを判定し、内部抵抗Rbが所定抵抗値Rw以下(内部抵抗Rb≦所定抵抗値Rw)の場合(YES)はステップS150に処理を進め、内部抵抗Rbが所定抵抗値Rw以下ではない(所定抵抗値Rw<内部抵抗Rb)場合(NO)はステップS130に戻って処理を進める。
【0049】
なお、内部抵抗Rbが所定抵抗値Rw以下ではない(所定抵抗値Rw<内部抵抗Rb)場合(NO)は、電解質膜30に水が十分含まれておらず、電解質膜30がさらに多くの水を含む必要あると推定できる。そこで、内部抵抗Rbが所定抵抗値Rw以下ではない(所定抵抗値Rw<内部抵抗Rb)場合(ステップS140:NO)は、内部抵抗Rbが所定抵抗値Rw以下(内部抵抗Rb≦所定抵抗値Rw)の場合(ステップS140:YES)になるまで、再びステップS130~ステップS140の処理を繰り返す。
【0050】
これに対して、内部抵抗Rbが所定抵抗値Rw以下(内部抵抗Rb≦所定抵抗値Rw)の場合(ステップS140:YES)は、電解質膜30に水が十分含まれていると推定することができ、ステップS150に処理を進める。燃料電池システム1は、電解質膜30が含水状態になったか否かの推定をするために、燃料電池7の内部抵抗Rbを検出する内部抵抗検出装置71を用いるため、電解質膜30が含水状態になったか否かの推定をより正確に判断し得る。
【0051】
ステップS130の処理を実行しているCPU88は、電解質膜30の含水状態を推定する含水状態推定部88A(
図1参照)に相当している。そして制御装置80(CPU88)は、ステップS130(含水状態推定部88A)にて、電解質膜30の含水状態を、内部抵抗検出装置71を用いて検出した燃料電池7の内部抵抗Rbに基づいて推定する。
【0052】
また、ステップS140の処理を実行しているCPU88は、含水状態推定部88Aによって推定した電解質膜30の含水状態に基づいて、燃料電池7の発電電力の供給を開始できるか否かを判定する電力供給開始判定部88B(
図1参照)に相当している。そして制御装置80(CPU88)は、ステップS140(電力供給開始判定部)にて、検出した燃料電池7の内部抵抗Rbが所定抵抗値以下となった場合(ステップS140:Yes)に、燃料電池7による発電電力の供給を開始できると判定する。
【0053】
ステップS150にて制御装置80は、スイッチSW1に制御信号を出力して、スイッチSW1を、燃料極集電体13および内部抵抗検出装置71を接続した状態から、燃料極集電体13および外部回路(電気負荷)を接続した状態に切り替え、ステップS160に処理を進める。これにより、燃料電池システム1は、外部回路(電気負荷)への発電電力の供給を開始する。燃料電池7による発電電力の供給は、電解質膜30が十分水を含んだ含水状態になったと推定された場合(ステップS140:YES)に行われるため、燃料電池システム1は、燃料電池7による発電電力をより安定して供給できる。
【0054】
以上で説明したように、第1の実施の形態の準備期間処理では、制御装置80は、まず、空気極20に大気中の空気(酸素)を供給し(ステップS110)、次に燃料供給ポンプ(燃料供給装置)52を用いて燃料極10にギ酸水溶液(燃料)の供給を開始(ステップS120)した後、含水状態推定部88A(
図1参照)と電力供給開始判定部88B(
図1参照)を介して燃料電池7による発電電力の供給を開始できると判定した場合(ステップS140:YES)に、燃料電池7の発電電力の供給を開始(ステップS150)するように制御する。
【0055】
ステップS160にて制御装置80は、燃料供給ポンプ(燃料供給装置)52が発電期間流量Qsでギ酸水溶液(燃料)を圧送し続けるよう、燃料供給ポンプ52に制御信号を出力して準備期間処理を終了する。ここで、発電期間流量Qsとは、上記の準備期間流量Qpよりも小さい値の所定の燃料流量(ギ酸水溶液流量)であり、例えば、約3ml/分である。これにより、制御装置80は、ステップS120にてギ酸水溶液(燃料)の供給を開始してから発電電力の供給を開始する(ステップS150)までの期間である準備期間(ステップS120~S150)では、発電電力の供給の開始以降に燃料極10に供給する燃料流量(発電期間流量Qs)よりも多い燃料流量(準備期間流量Qp)を燃料極10に供給する(発電期間流量Qs<準備期間流量Qp)。従って、燃料極10に供給する燃料流量は、準備期間ではより多くなるため、準備期間においてより速やかに電解質膜30に水を含ませ得る。その結果、準備期間に必要な時間を短縮し得る。
【0056】
●[第2の実施の形態の燃料電池システムの全体構成]
第2の実施の形態の燃料電池システムの構成は、第1の実施の形態の燃料電池システム1の構成から内部抵抗検出装置71を省いた構成を備える。これにともない、第2の実施の形態の燃料電池システムの構成は、燃料電池システム1のスイッチSW1を、制御装置80から出力される制御信号に応じて、燃料極集電体13および外部回路(電気負荷)を接続した状態と、接続していない開放した状態に切り替えるスイッチ(不図示)にした構成を備えている。
【0057】
●[第2の実施の形態の燃料電池システムの制御について(
図5)]
次に、
図5に示すフローチャートを用いて、発電電力の供給を開始する前に第2の実施の形態の制御装置80が開始する、準備期間処理の実行処理手順の例等について説明する。なお、第2の実施の形態の制御装置80が準備期間処理の実行を開始するときまでには、上述の制御装置80が制御するスイッチ(不図示)は、燃料極集電体13および外部回路(電気負荷)を接続していない開放した状態に設定される。
【0058】
ステップS210にて制御装置80は、エアポンプ(図示省略)に空気極20の供給口23Aへの空気(酸素)の圧送を開始するよう制御信号を出力し、空気極20への空気(酸素)の供給を開始して、ステップS220へと処理を進める。なお、エアポンプ(図示省略)により圧送された空気(酸素)は、供給口23Aから空気流通溝23Cへと流れて、空気極拡散層22に浸透し、空気極拡散層22に拡散されて空気極触媒層21に導かれる。この様に、制御装置80は、準備期間において、下記のステップS220にてギ酸水溶液(燃料)を燃料極10(燃料流入口7A)に圧送する前に、ステップS210にて空気極20(空気流通溝23Cおよび空気極拡散層22)に空気(酸素)を流す。
【0059】
ステップS220にて制御装置80は、燃料供給ポンプ52が準備期間流量Qpでギ酸水溶液(燃料)を圧送し続けるよう、燃料供給ポンプ52に制御信号を出力してステップS230へと処理を進める。ここで、準備期間流量Qpとは、上述した第1の実施の形態の準備期間処理(
図3参照)と同様に、後述するステップS260での発電期間流量Qs(例えば、約3ml/分)よりも燃料流量が多く、例えば、約100ml/分の燃料流量である。準備期間流量Qp(第2燃料流量に相当)を後述する発電期間流量Qs(第1燃料流量に相当)よりも多くしていることで、より短時間で電解質膜30にギ酸水溶液に含まれる水が浸透してゆき、電解質膜30は水を吸収し、電解質膜30に含まれる水分が増加していく。
【0060】
ステップS230にて制御装置80は、時間計測手段(タイマ)81を初期化して、経過時間Tの計測を開始させて、ステップS240へと処理を進める。
【0061】
ステップS240にて制御装置80は、時間計測手段(タイマ)81が計測している経過時間Tが所定時間Tdw以上か否かを判定し、経過時間Tが所定時間Tdw以上(所定時間Tdw≦経過時間T)の場合(YES)はステップS250に処理を進め、経過時間Tが所定時間Tdw以上ではない(経過時間T<所定時間Tdw)場合(NO)は再びステップS240を繰り返す。所定時間Tdwとは、
図4を用いて上述した、内部抵抗Rbが、所定抵抗値Rwとなると推定できる時間Twになったときの経過時間(すなわち、所定時間Tdw=Tw-T0)とする。ここで、所定時間Tdwは、例えば、第1の実施形態の燃料電池システム1を用いた実験データを用いて見積もることができる。そして、経過時間Tが所定時間Tdw以上となる場合には、電解質膜30が十分水を含んだ含水状態になったと推定でき、ステップS250に処理を進める。ここで、本実施の形態の燃料電池システムは、電解質膜30が含水状態になったか否かの推定を、時間計測手段81が計測する経過時間Tだけで判断できるため、電解質膜30が十分水を含んでいるか否かの判断をより簡易に行うことが出来る。
【0062】
ステップS230の処理を実行しているCPU88は、電解質膜30の含水状態を推定する含水状態推定部88A(
図1参照)に相当している。そして制御装置80(CPU88)は、ステップS230(含水状態推定部88A)にて、電解質膜30の含水状態を、時間計測手段(タイマ)81を用いて計測した経過時間Tに基づいて推定する。
【0063】
また、ステップS240の処理を実行しているCPU88は、含水状態推定部によって推定した電解質膜30の含水状態に基づいて、燃料電池7発電電力の供給を開始できるか否かを判定する電力供給開始判定部88B(
図1参照)に相当している。そして制御装置80(CPU88)は、ステップS240(電力供給開始判定部)にて、計測した経過時間Tが所定時間Tdw以上となった場合(ステップS240:Yes)に、燃料電池7による発電電力の供給を開始できると判定する。
【0064】
ステップS250にて制御装置80は、スイッチSW1に制御信号を出力して、燃料極集電体13および外部回路(電気負荷)を接続した状態に切り替え、ステップS260に処理を進める。これにより、燃料電池システム1は、外部回路(電気負荷)への発電電力の供給を開始する。燃料電池7による発電電力の供給は、電解質膜30が十分水を含んだ含水状態になったと推定された場合(ステップS240:YES)に行われるため、燃料電池システム1は、燃料電池7による発電電力をより安定して供給できる。
【0065】
以上で説明したように、第2の実施の形態の準備期間処理では、制御装置80は、まず、空気極20に大気中の空気(酸素)を供給し(ステップS210)、次に燃料供給ポンプ(燃料供給装置)52を用いて燃料極10にギ酸水溶液(燃料)の供給を開始(ステップS220)した後、含水状態推定部88A(
図1参照)と電力供給開始判定部88B(
図1参照)を介して燃料電池7による発電電力の供給を開始できると判定した場合(ステップS240:YES)に、燃料電池7の発電電力の供給を開始(ステップS250)するように制御する。
【0066】
ステップS260にて制御装置80は、燃料供給ポンプ52が発電期間流量Qsでギ酸水溶液(燃料)を圧送し続けるよう、燃料供給ポンプ52に制御信号を出力して準備期間処理を終了する。ここで、発電期間流量Qsとは、上記の準備期間流量Qpよりも小さい値の所定の燃料流量であり、例えば、約3ml/分である。これにより、制御装置80は、ステップS210にて空気極20への空気(酸素)の供給を開始してから発電電力の供給を開始する(ステップS250)までの期間である準備期間(ステップS210~S250)では、発電電力の供給の開始以降に燃料極10に供給する燃料流量(発電期間流量Qs)よりも多い燃料流量(準備期間流量Qp)を燃料極10に供給する(発電期間流量Qs<準備期間流量Qp)。従って、燃料極10に供給する燃料流量は、準備期間ではより多くなるため、準備期間においてより速やかに電解質膜30に水を含ませ得る。その結果、準備期間に必要な時間を短縮し得る。
【0067】
●[他の実施の形態]
本発明の、第1の実施の形態の燃料電池システム1および第2の実施の形態の燃料電池システムは、上述した構成、構造、形状、外観等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、準備期間処理では、
図5のフローチャートに示すように、経過時間Tが所定時間Tdw以上(所定時間Tdw≦経過時間T)となった後(
図5のステップS240:Yes)、
図3のフローチャートに示すように、内部抵抗Rbを検出(
図3のステップS130)して、内部抵抗Rbが所定抵抗値Rwよりも小さいか否かを判定する(
図3ステップS140)する処理を含めてもよい。より具体的には、準備期間処理は、制御装置80が、
図3に示すステップS120を実行した後、
図5に示すステップS230~S260を実行してもよい。
【0068】
第1の実施の形態の準備期間処理(
図3参照)では、ステップS110にて空気極20への空気(酸素)の供給を開始してから発電電力の供給を開始する(ステップS150)までの期間である準備期間では、発電電力の供給の開始以降に燃料極に供給する燃料流量(発電期間流量Qs)よりも多い燃料流量(準備期間流量Qp)を燃料極に供給する(発電期間流量Qs<準備期間流量Qp)。これは第2の実施の形態の準備期間処理(
図5参照)も同様である。第1の実施の形態の準備期間処理(
図3参照)、第2の実施の形態の準備期間処理(
図5参照)のいずれも、準備期間の準備期間流量Qpは、発電電力の供給の開始以降の発電期間流量Qsと同じあってもよく、より少なくともよい。
【0069】
図5に示す第2の実施の形態の準備期間処理において、制御装置80は、ステップS220の後にステップS230を実行するが、この順番を逆にして、まずステップS230を実行した後にステップS220を実行してもよい。
【0070】
電解質膜30が水を含んだ含水状態になったか否かを推定する含水状態推定部では、第1の実施の形態では内部抵抗検出装置71を用い、第2の実施の形態では時間計測手段81を用いているが、これら以外のものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 燃料電池システム
7 燃料電池
7A 燃料流入口
7B 燃料流出口
10 燃料極
11 燃料極触媒層
12 燃料極拡散層
13 燃料極集電体
13A 燃料流通面
13B 燃料流通溝
13C 流通溝部
13D 折り返し溝部
13E ランド部
20 空気極
21 空気極触媒層
22 空気極拡散層
23 空気極集電体
23A 供給口
23B 排出孔
30 電解質膜
50 燃料タンク
51 燃料供給配管
52 燃料供給ポンプ(燃料供給装置)
60 排液タンク
61 燃料排出配管
62 回収配管
71 内部抵抗検出装置
80 制御装置
81 時間計測手段(タイマ)
88 CPU
88A 含水状態推定部
88B 電力供給開始判定部
SW1 スイッチ
Qp 準備期間流量(第2燃料流量)
Qs 発電期間流量(第1燃料流量)