(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】ケトンおよびフェノールの縮合反応からのビスフェノール調製から得られる生成物の異性化プロセス
(51)【国際特許分類】
C07C 37/20 20060101AFI20230920BHJP
C07C 39/16 20060101ALI20230920BHJP
B01J 31/10 20060101ALI20230920BHJP
C08F 8/36 20060101ALI20230920BHJP
C08F 12/08 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
C07C37/20
C07C39/16
B01J31/10 Z
C08F8/36
C08F12/08
(21)【出願番号】P 2021574959
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(86)【国際出願番号】 TH2020000041
(87)【国際公開番号】W WO2020263195
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-02-14
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TH
(73)【特許権者】
【識別番号】513160707
【氏名又は名称】ピーティーティー グローバル ケミカル パブリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポンズリヤサ、パパピダ
(72)【発明者】
【氏名】ルンヴォンサ、サラウット
(72)【発明者】
【氏名】タン-アモンスサン、スチャダ
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-501015(JP,A)
【文献】国際公開第97/008122(WO,A1)
【文献】特開平01-135736(JP,A)
【文献】特開2007-217301(JP,A)
【文献】特開昭57-098229(JP,A)
【文献】Iranian Polymer Journal,2006年,Vol.15, No.6,pp.497-504
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 37/20
C07C 39/16
B01J 31/10
C08F 8/36
C08F 12/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケトンとフェノールとの縮合反応からのビスフェノール調製から得られる生成物の異性化プロセスであって、2,4'-イソプロピリデンジフェノールを含む望ましくない生成物の前記異性化のために、水性条件において、ケトンとフェノールとの縮合反応からのビスフェノール調製から得られる前記生成物をイオン交換樹脂と接触させる段階と、より高いビスフェノール含有量を有する生成物を分離する段階とを備え、前記イオン交換樹脂は、
a)構造式(I)
【化1】
(I)
[式中、
Xはヘテロ原子を表し、
nは1~4の整数である。]
に示される化合物から選択される、少なくとも1種の促進剤と、
b)少なくとも1種のアミノアルキルメルカプタンの促進剤と
を含む促進剤で改変されたスルホン酸基を有する芳香族重合体である、異性化プロセス。
【請求項2】
前記促進剤は、構造式(II)
【化2】
(II)
に示される化合物であるか、または構造式(III)
【化3】
(III)
に示される化合物である、請求項1に記載の異性化プロセス。
【請求項3】
前記アミノアルキルメルカプタンはシステアミンである、請求項1または2に記載の異性化プロセス。
【請求項4】
前記促進剤は、前記アミノアルキルメルカプタンを、全促進剤の10~90モル%の量で含む、請求項1または2に記載の異性化プロセス。
【請求項5】
前記促進剤は、前記アミノアルキルメルカプタンを、全促進剤の30~70モル%の量で含む、請求項4に記載の異性化プロセス。
【請求項6】
促進剤で改変された前記スルホン酸基は、全スルホン酸基の10~20%である、請求項1から5のいずれか一項に記載の異性化プロセス。
【請求項7】
前記スルホン酸基は、イオン結合を介して促進剤で改変される、請求項1または6に記載の異性化プロセス。
【請求項8】
スルホン酸基を有する前記芳香族重合体は、スルホン酸基を有するポリスチレン、またはスルホン酸基を有するスチレン-ジビニルベンゼン共重合体から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の異性化プロセス。
【請求項9】
スルホン酸基を有する前記芳香族重合体は、スルホン酸基を有する前記スチレン-ジビニルベンゼン共重合体である、請求項8に記載の異性化プロセス。
【請求項10】
スルホン酸基を有する前記スチレン-ジビニルベンゼン共重合体は、1~15重量%の量でジビニルベンゼンを有する、請求項9に記載の異性化プロセス。
【請求項11】
スルホン酸基を有する前記スチレン-ジビニルベンゼン共重合体は、10~15重量%の量でジビニルベンゼンを有する、請求項10に記載の異性化プロセス。
【請求項12】
スルホン酸基を有する前記芳香族重合体は、500~1500ミクロンの範囲の粒径を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の異性化プロセス。
【請求項13】
スルホン酸基を有する前記芳香族重合体は、600~850ミクロンの範囲の粒径を有する、請求項12に記載の異性化プロセス。
【請求項14】
イオン交換樹脂と前記ビスフェノール調製から得られる生成物との重量比は、1:1~1:5の範囲である、請求項1から13のいずれか一項に記載の異性化プロセス。
【請求項15】
イオン交換樹脂と前記ビスフェノール調製から得られる生成物との重量比は、1:1~1:3の範囲である、請求項14に記載の異性化プロセス。
【請求項16】
前記異性化反応は、40~120℃の範囲の温度および大気圧で行われる、請求項1から15のいずれか一項に記載の異性化プロセス。
【請求項17】
前記異性化反応は、60~80℃の範囲の温度および大気圧で行われる、請求項16に記載の異性化プロセス。
【請求項18】
前記異性化反応は、0.01~3.5重量%の範囲の含水量を有する水性条件において行われる、請求項1から17のいずれか一項に記載の異性化プロセス。
【請求項19】
前記異性化反応は、0.05~0.5重量%の範囲の含水量を有する水性条件において行われる、請求項18に記載の異性化プロセス。
【請求項20】
前記ビスフェノール調製から得られる前記生成物は、4,4'-イソプロピリデンジフェノールをさらに含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の異性化プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学分野に関し、具体的には、ビスフェノール調製から得られる望ましくない生成物の異性化プロセスのためのイオン交換樹脂の調製における化学混合物および化学プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールは、フェノールとケトンとの間の縮合反応から得られる物質、特に、ポリカーボネートの調製において前駆体として使用される主たる望ましいビスフェノール生成物である4,4'-イソプロピリデンジフェノール(4,4'BPA)であることが公知である。上記ビスフェノールの生成プロセスは、(1)触媒として酸性化合物を使用するアセトンとフェノールとの間で縮合反応させるステップと、(2)水除去によって縮合生成物を濃縮させるステップと、(3)ステップ(2)から得られる混合物を冷却することによって4,4'-イソプロピリデンジフェノール生成物を結晶化させ、次いで4,4'-イソプロピリデンジフェノールの結晶を母液からろ過によって分離するステップと、(4)ステップ(3)におけるろ過後の母液を、促進剤で改変されてもよいスルホン酸基を有する芳香族重合体を含むイオン交換樹脂と接触させることによって、上記液体から得られる生成物を異性化して4,4'-イソプロピリデンジフェノールにするステップと、(5)4,4'-イソプロピリデンジフェノールを分離するために、ステップ(4)における異性化プロセスからの液体混合物をステップ(2)に戻すステップと、(6)系に送り返して使用するためにフェノールとビスフェノールとの混合物を分離し、かつプロセスにおける副反応から発生されるタールを系から分離するステップと、(7)液体の4,4'-イソプロピリデンジフェノール生成物を凝固させ、乾燥させるステップとを含む。
【0003】
一般に、ビスフェノールの生成から得られる生成物は多くの化合物、特に、アセトンとフェノールとの間の縮合反応からの主生成物である2,4'-イソプロピリデンジフェノールを含有する。触媒として酸を使用し、好適な条件下で行うことによって、4,4'-イソプロピリデンジフェノールの形態のビスフェノール生成物への異性化反応が起こり得ることが報告されている。使用される酸は、硫酸および塩酸などの無機酸であり得る。それにもかかわらず、上記酸触媒は、依然として、装置における腐食、主生成物に対して得られる生成物の転化率の低さ、望ましい生成物の生成の選択性の低さなどのいくつかの好ましくない特性を有する。現在、触媒として酸性基を有するイオン交換樹脂、または固定化がイオン結合または化学結合を介し得る、メルカプタン促進剤を固定したイオン交換樹脂の使用を、ビスフェノール生成から得られる生成物の異性化のために用いることができるという報告が多数ある。
【0004】
特許文献US4590303号は、異性化反応中の反応器へのアセトン追加を併せた、メルカプタン化合物を固定したイオン交換樹脂の使用を開示している。しかしながら、アセトン転化率は増大したものの、得られた他の生成物も多分に形成された。その上、増大されるアセトン転化率が、4,4'-イソプロピリデンジフェノール生成物の量の増加に影響するということは報告されていない。
【0005】
特許文献US4825010号は、異性化反応における、アルキルメルカプタンの少なくとも2つの分枝鎖を含むメルカプトアミン化合物を用いた表面改質に供されたイオン交換樹脂の使用を開示している。1,3,3-トリメチル-p-ヒドロ-キシフェノール-6-ヒドロキシインダンおよび4-メチル-2,4-ビス-(4'-ヒドロキシフェニル)-ペンテンなどの、異性化中の副反応からの化合物の形成を増大させずに、2,4'-イソプロピリデンジフェノールおよび他のものなどの生成物を異性化できることが見出された。しかしながら、この特許文献は、4,4'-イソプロピリデンジフェノール生成物の量の増大を示していない。
【0006】
特許文献US5001281号は、その構造に、ビスフェノールフルオレンの生成のための異性化触媒としてスルホン酸基を有するペルフルオロ重合体の使用を開示している。2,4'-ビスフェノールフルオレンおよび9-フルオレノンなどの得られた生成物は、4,4'-ビスフェノールフルオレンに異性化され得ることが見出された。
しかしながら、異性化反応における上記触媒の使用およびプロセスが副反応からの化合物の量を低減できるということは報告されていない。
【0007】
特許文献US4822923号は、異性化反応における、共フィード促進剤(co-feed promoter)の形態のアルキルメルカプタン促進剤の使用と併せた、スルホン酸基を有するイオン交換樹脂の触媒としての使用を開示している。
1,3,3-トリメチル-p-ヒドロ-キシフェノール-6-ヒドロキシインダンおよび4-メチル-2,4-ビス-(4'-ヒドロキシフェニル)-ペンテンなどの、異性化中の副反応からの化合物の形成を増大させずに、2,4'-イソプロピリデンジフェノールおよび他のものなどの得られる生成物を異性化できることが見出された。しかしながら、この特許文献は、4,4'-イソプロピリデンジフェノール生成物の量の増大を示しておらず、促進剤が使用されている場合、それの汚染のために、産業上の利用において不利点を有する。したがって、得られた生成物から促進剤を分離するための他のさらなるプロセスが必要とされる。
【0008】
ビスフェノールの生成プロセスの開発は、依然として、得られる生成物の量を低減するか、または上記得られる生成物を4,4'-イソプロピリデンジフェノール生成物に転化するのに効果的であるステップを有し、かつ分解から発生されるタールの量を低減することを必要とする。この本発明は、構造式(I)に示される化合物から選択される促進剤で改変されたスルホン酸基を有する芳香族重合体を含むイオン交換樹脂を使用する、ケトンとフェノールとの縮合反応からのビスフェノール調製から得られる生成物の異性化プロセスを開発することを目的とする。上記得られる生成物の異性化プロセスは、ビスフェノール、特に4,4'-イソプロピリデンジフェノールの量を増大し、生成プロセスにおけるタールの量を低減し、このことにより、生成物の前駆体に対する比を増大する。
【化1】
(I)、
式中、
Xはヘテロ原子を表し、
nは1~4の整数である。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、ケトンとフェノールとの縮合反応からのビスフェノール調製から得られる生成物の異性化プロセスに関し、当該プロセスは、望ましくない生成物の異性化のために、水性条件において、ケトンとフェノールとの縮合反応からのビスフェノール調製から得られる生成物をイオン交換樹脂と接触させる段階と、より高いビスフェノール含有量を有する生成物を分離する段階とを含み、前記イオン交換樹脂は、構造式(I)
【化2】
(I)、
[式中、
Xはヘテロ原子を表し、
nは1~4の整数である。]
に示される化合物から選択される少なくとも1種の促進剤で改変されたスルホン酸基を有する芳香族重合体である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、促進剤で改変されたスルホン酸基を有する芳香族重合体を含むイオン交換樹脂を使用する、ケトンとフェノールとの縮合反応からのビスフェノール調製から得られる生成物の異性化プロセスに関する。
【0011】
本明細書で説明される任意の態様はまた、別段の定めがない限り、本発明の他の態様への適用を含むことを意味する。
【0012】
定義
本明細書で使用される技術的用語または科学的用語は、別段の定めがない限り、当業者によって理解されるような定義を有する。
【0013】
本明細書において挙げられる任意の器具、装置、方法、または化学物質は、本発明においてのみ特定の器具、装置、方法、または化学物質であるという別段の定めがない限り、当業者によって一般的に操作されるか、または使用される器具、装置、方法、または化学物質を意味する。
【0014】
特許請求の範囲または明細書における「含む(comprising)」を伴う単数名詞または単数代名詞の使用は「1つ」を意味し、かつ「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、「1つ以上」も含む。
【0015】
本願における、開示されるすべての組成物および/または方法ならびに特許請求の範囲は、本発明と著しく異なるいかなる実験も行うことなく、任意の因子の任意の操作、実行、修正、または調節による実施形態を包含し、特許請求の範囲で具体的に記述されていなくても、当業者によれば本実施形態と同じ実用性および結果を有する目的物に当てはまることを意図するものである。したがって、当業者には明白であり得る任意の小幅な修正または調節を含む、本発明の実施形態に対して代替可能な、または同様の目的物は、添付の特許請求の範囲に現れるように、発明の趣旨、範囲、および概念内にとどまるものとして解釈されるべきである。
【0016】
本願を通して、「約(about)」という用語は、湿度および温度などの制御不能な因子の反応条件における変化から生じる変動または逸脱を含む、装置、方法、または上記装置もしくは方法の個人の使用の任意のエラーの結果変動または逸脱され得る、本明細書において現れるか、または表される任意の数を意味する。
【0017】
ヘテロ原子は、非炭素元素の原子を含むことを意味し、上記原子は、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、および鉛である第14族元素(tetrels group element)、窒素、リン、ヒ素、アンチモン、およびビスマスであるプニクトゲン族元素、酸素、硫黄、セレン、およびテルルであるカルコゲン族元素、またはフッ素、塩素、臭素、およびヨウ素であるハロゲン族元素を含むが、これらに限定されない。
【0018】
以下、発明実施形態が、本発明の任意の範囲を限定するいかなる目的もなしに、示される。
【0019】
本発明は、ケトンとフェノールとの縮合反応からのビスフェノール調製から得られる生成物の異性化プロセスに関し、当該プロセスは、望ましくない生成物の異性化のために、水性条件において、ケトンとフェノールとの縮合反応からのビスフェノール調製から得られる生成物をイオン交換樹脂と接触させる段階と、より高いビスフェノール含有量を有する生成物を分離する段階とを含み、前記イオン交換樹脂は、構造式(I)
【化3】
(I)、
[式中、
Xはヘテロ原子を表し、
nは1~4の整数である。]
に示される化合物から選択される少なくとも1種の促進剤で改変されたスルホン酸基を有する芳香族重合体である。
【0020】
好ましくは、少なくとも1種の促進剤は、構造式(II)
【化4】
(II)
または(III)
【化5】
(III)
に示される化合物である。
より好ましくは、促進剤は、構造式(II)
【化6】
(II)
に示される化合物である。
一態様において、上記促進剤は、システアミン、2-アミノ-1-プロパンチオール、および3-メルカプトプロピルアミンから選択されてもよいアミノアルキルメルカプタンをさらに含む。好ましくは、アミノアルキルメルカプタンはシステアミンである。
【0021】
最も好ましくは、促進剤は、構造式(II)による化合物およびシステアミンの混合物である。
【0022】
本発明の一態様において、促進剤は、アミノアルキルメルカプタンを、全促進剤の10~90モル%の、好ましくは全促進剤の30~70モル%の量で含む。
【0023】
本発明の一態様において、促進剤で改変されたスルホン酸基は、全スルホン酸基の10~20%である。
【0024】
一態様において、スルホン酸基はイオン結合を介して促進剤で改変され、当該イオン結合は、上記促進剤の窒素原子および芳香族重合体のスルホン酸基を介して形成されてもよい。
【0025】
一般に、上記改変は、スルホン酸基を有する芳香族重合体と促進剤との間の混合により行われてもよく、ここで、水または芳香族ヒドロキシ化合物が溶媒として使用される。
【0026】
本発明の一態様において、スルホン酸基を有する芳香族重合体は、スルホン酸基を有するポリスチレンまたはスルホン酸基を有するスチレン-ジビニルベンゼン共重合体から選択されてもよく、スルホン酸基を有するスチレン-ジビニルベンゼン共重合体であるのが好ましい。
【0027】
一態様において、スルホン酸基を有する上記スチレン-ジビニルベンゼン共重合体は、約1~15%の量で、好ましくは約10~15%の量で、ジビニルベンゼンを有してもよい。
【0028】
一態様において、スルホン酸基を有する上記芳香族重合体は、約500~1500ミクロンの範囲の、好ましくは約600~850ミクロンの範囲の粒径を有する。
【0029】
本発明の一態様において、イオン交換樹脂とビスフェノール調製から得られる生成物との重量比は、1:1~1:5の範囲であり、好ましくは1:1~1:3の範囲である。
【0030】
本発明の一態様において、上記異性化反応は、40~120℃の範囲の温度および大気圧で、好ましくは60~80℃の範囲の温度および大気圧で行われる。
【0031】
本発明の一態様において、上記異性化反応は、0.01~3.5重量%の範囲の、好ましくは0.05~0.5重量%の範囲の含水量を有する水性条件において行われる。
【0032】
一態様において、異性化反応が起こる前にビスフェノール調製から得られる生成物は、4,4'-イソプロピリデンジフェノールおよび2,4'-イソプロピリデンジフェノールである望ましくない生成物を含む。
【0033】
本発明の一態様において、ケトンは、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、および1,3-ジクロロアセトンから選択されてもよいが、これらに限定されず、フェノールは、非置換のフェノール、アルキルフェノール、アルコキシフェノール、ナフトール、アルキルナフトール、およびアルコキシナフトールから選択されてもよいが、これらに限定されない、ケトンとフェノールとの縮合反応からのビスフェノール調製。
【0034】
一態様において、本発明による異性化反応において使用されるイオン交換樹脂は、バッチ方式での反応のためにスラリの形態で使用されてもよく、または連続方式での反応のために固定床の形態で使用されてもよい。
【0035】
一態様において、反応時間は、バッチ方式での反応および連続方式での反応のために、約1~24時間の範囲であってもよい。液空間速度(LHSV)は、約0.015~10時間-1の範囲であってもよい。
【0036】
本発明の一態様において、高い純度を有する4,4'-イソプロピリデンジフェノールを分離するための、より高いビスフェノール含有量を有する生成物の分離は、4,4'-イソプロピリデンジフェノール生成物の結晶化である。
【0037】
以下の実施例は、本発明の態様を示すためだけのものであり、いかなる形でも本発明の範囲の限定であることを意図するものではない。
【0038】
本発明によるイオン交換樹脂を調製するための促進剤の調製
構造式(II)に示される化合物
約5gの2-ピリデンカルボン酸および約6gのシステアミン塩酸塩を、アルゴン雰囲気下、約50mLのジクロロメタン溶媒に溶解した。次いで、約17gのジシクロヘキシルカルボジイミドと約1gの4-ジメチルアミノピリデンとの混合物溶液を約20mLのジクロロメタン溶媒に加えた。上記混合物を、室温にてアルゴン雰囲気下、約24時間撹拌した。得られた混合物から固体をろ過した。次いで、ろ液を減圧下で蒸発させた。その後、有機溶媒中でろ液を結晶化させた、またはシリカカラムを使用して精製に供した。得られた固体を分離し、乾燥させた。
【0039】
本発明によるイオン交換樹脂の調製
約600~850ミクロンの範囲の粒径を有する、スルホン酸基を有するスチレン-ジビニルベンゼン共重合体型の芳香族重合体Amberlyst36(Am36)を、本発明によるイオン交換樹脂の調製において使用した。
【0040】
促進剤を、約20mLの脱イオン水に溶解し、次いで、脱イオン水に懸濁させた約20gのスチレン-ジビニルベンゼン共重合体に加えた。次いで、上記混合物を、室温にて約1時間撹拌した。撹拌後、得られた混合物をガラスカラムに充填し、脱イオン水で洗浄した。芳香族重合体改変前後のスルホン酸基(SO
3H)含有量を決定するために、水酸化ナトリウム溶液を用いた滴定法によって、得られた固体を分析して、残存スルホン酸基を求めた。以下の方程式から、促進剤で改変されたスルホン酸基の百分率を算出することができた。
【数1】
【0041】
イオン交換樹脂を使用する異性化反応の試験以下の方法によって、ビスフェノール調製から得られる生成物の異性化効率を試験するために、触媒として、本発明によるイオン交換樹脂を使用した。
【0042】
使用に先立って、約60~70℃の温度で約15分間、約10gのイオン交換樹脂を約100gのフェノールに接触させることによってイオン交換樹脂を脱水した。このステップを3回繰り返した。次いで、約1.5gの得られたイオン交換樹脂を丸底フラスコに加えた。ケトンとフェノールとの縮合反応からのビスフェノール調製から得られた約3gの生成物を、望ましい含水量を有する水性条件において上記イオン交換樹脂に接触させ、次いで望ましい温度で加熱した。次いで、望ましくない生成物の異性化反応を望ましい時間の終わりまで実施した。
【0043】
以下は、本発明によるイオン交換樹脂を使用する異性化反応から得られる生成物組成の試験の実施例であり、試験で使用される方法および装置は、一般的に使用される方法および装置であり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0044】
約1ml/minの流速で、逆相PhenomenexGemini-NX 5μ C18カラム、および移動相として水とアセトニトリルとの間の溶媒系を使用して、高速液体クロマトグラフィ(Shimadzu LC-20AD)によって、生成物の組成および量を分析した。
【0045】
2,4'-イソプロピリデンジフェノール(2,4'BPA)の%転化、4,4'-イソプロピリデンジフェノール(4,4'BPA)の%重量増加、およびタール低減を、以下の方程式から算出した。
【数2】
【表1】
【0046】
表1より、比較試料1~5を、約80℃の温度での異性化反応による試験効率に供した本発明による試料1~4と比較すると、本発明によるイオン交換樹脂は、高い2,4'-イソプロピリデンジフェノール転化率および4,4'-イソプロピリデンジフェノール重量増加率を与えることが見出された。構造式(II)に示される促進剤を使用する本発明によるイオン交換樹脂およびシステアミンが、最も高い効率を示した。
【0047】
さらに、比較試料6を、約100℃の温度での異性化反応による試験効率に供した本発明による試料4と比較すると、本発明によるイオン交換樹脂は、より高い2,4'-イソプロピリデンジフェノール転化率、4,4'-イソプロピリデンジフェノール重量増加率、およびタール低減率を与えることが見出された。
【0048】
上述の結果から、本発明の目的において述べられたように、本発明によるイオン交換樹脂は、2,4'-イソプロピリデンジフェノール転化率、4,4'-イソプロピリデンジフェノール重量増加率、およびタール低減率に関して高い効率を与えると言うことができる。
【0049】
[本発明の最良の様式または好ましい実施形態]
本発明の最良の様式または好ましい実施形態は、本発明の説明において提供されているとおりである。[項目1]
ケトンとフェノールとの縮合反応からのビスフェノール調製から得られる生成物の異性化プロセスであって、望ましくない前記生成物の前記異性化のために、水性条件において、ケトンとフェノールとの縮合反応からのビスフェノール調製から得られる前記生成物をイオン交換樹脂と接触させる段階と、より高いビスフェノール含有量を有する前記生成物を分離する段階とを含み、前記イオン交換樹脂は、構造式(I)
【化7】
(I)、
[式中、
Xはヘテロ原子を表し、
nは1~4の整数である。]
に示される化合物から選択される少なくとも1種の促進剤で改変されたスルホン酸基を有する芳香族重合体である、プロセス。[項目2]
前記促進剤は、構造式(II)
【化8】
(II)
に示される化合物であるか、または構造式(III)
【化9】
(III)
に示される化合物である、項目1に記載のプロセス。[項目3]
前記促進剤はアミノアルキルメルカプタンをさらに含む、先行する項目のいずれか一項に記載のプロセス。[項目4]
前記アミノアルキルメルカプタンはシステアミンである、項目3に記載のプロセス。[項目5]
前記促進剤は、前記アミノアルキルメルカプタンを、全促進剤の10~90モル%の量で含む、項目3または4に記載のプロセス。[項目6]
前記促進剤は、前記アミノアルキルメルカプタンを、全促進剤の30~70モル%の量で含む、項目5に記載のプロセス。[項目7]
促進剤で改変された前記スルホン酸基は、全スルホン酸基の10~20%である、項目1に記載のプロセス。[項目8]
前記スルホン酸基は、イオン結合を介して促進剤で改変される、項目1または7に記載のプロセス。[項目9]
スルホン酸基を有する前記芳香族重合体は、スルホン酸基を有するポリスチレン、またはスルホン酸基を有するスチレン-ジビニルベンゼン共重合体から選択される、項目1に記載のプロセス。[項目10]
スルホン酸基を有する前記芳香族重合体は、スルホン酸基を有する前記スチレン-ジビニルベンゼン共重合体である、項目9に記載のプロセス。[項目11]
スルホン酸基を有する前記スチレン-ジビニルベンゼン共重合体は、1~15%の量でジビニルベンゼンを有する、項目10に記載のプロセス。[項目12]
スルホン酸基を有する前記スチレン-ジビニルベンゼン共重合体は、10~15%の量でジビニルベンゼンを有する、項目11に記載のプロセス。[項目13]
スルホン酸基を有する前記芳香族重合体は、500~1500ミクロンの範囲の粒径を有する、項目1に記載のプロセス。[項目14]
スルホン酸基を有する前記芳香族重合体は、600~850ミクロンの範囲の粒径を有する、項目13に記載のプロセス。[項目15]
イオン交換樹脂と前記ビスフェノール調製から得られる生成物との重量比は、1:1~1:5の範囲である、項目1に記載のプロセス。[項目16]
イオン交換樹脂と前記ビスフェノール調製から得られる生成物との重量比は、1:1~1:3の範囲である、項目15に記載のプロセス。[項目17]
前記異性化反応は、40~120℃の範囲の温度および大気圧で行われる、項目1に記載のプロセス。[項目18]
前記異性化反応は、60~80℃の範囲の温度および大気圧で行われる、項目17に記載のプロセス。[項目19]
前記異性化反応は、0.01~3.5重量%の範囲の含水量を有する水性条件において行われる、項目1に記載のプロセス。[項目20]
前記異性化反応は、0.05~0.5重量%の範囲の含水量を有する水性条件において行われる、項目19に記載のプロセス。[項目21]
前記ビスフェノール調製から得られる前記生成物は、4,4'-イソプロピリデンジフェノールおよび2,4'-イソプロピリデンジフェノールである前記望ましくない生成物を含む、項目1に記載のプロセス。