(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】液滴吐出装置および液滴吐出方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20230920BHJP
【FI】
B41J2/01 203
B41J2/01 123
(21)【出願番号】P 2019084650
(22)【出願日】2019-04-25
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】506159976
【氏名又は名称】株式会社SIJテクノロジ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】村田 和広
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-114380(JP,A)
【文献】特開2010-188264(JP,A)
【文献】特開2007-271811(JP,A)
【文献】特開2008-213221(JP,A)
【文献】特開2016-210184(JP,A)
【文献】国際公開第2016/124814(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/028712(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B05C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1液体を保持するための第1液体保持部および当該第1液体保持部の第1液体を第1液滴として吐出するための第1先端部を含む第1液滴吐出部と、
第2液体を保持するための第2液体保持部および当該第2液体保持部の第2液体を第1液滴とは異なる第2液滴として吐出するための第2先端部を含む第2液滴吐出部と、
前記第1液体および前記第2液体が吐出される対象物を保持するための対象物保持部と、
前記対象物保持部に対して、前記第1先端部および前記第2先端部を相対的に第1方向に移動させるための駆動部と、を含み、
前記第2先端部の内径は、前記第1先端部の内径よりも大きく、
前記第1先端部および前記第2先端部は、前記第1方向に沿って配置され、
前記第2先端部は、
前記第1液滴と重なるように前記第2液滴を吐出するように前記第1先端部に対して後方に配置され、
前記第1液滴吐出部は、静電吐出型ノズルヘッドを有し、
前記第2液滴吐出部は、ピエゾ型ノズルヘッドを有する、
液滴吐出装置。
【請求項2】
前記第2液滴吐出部の単位時間当たりの吐出量は、前記第1液滴吐出部の単位時間当たりの吐出量よりも多い、
請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記第1液滴吐出部および前記第2液滴吐出部は、前記第1液滴吐出部および前記第2液滴吐出部が前記第1方向に対して交差する方向に複数設けられる、
請求項1または2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
対象物の第1領域に第1液滴を吐出し、
前記第1領域に、前記吐出された前記第1液滴と接触するように前記第1液滴よりも多い吐出量で前記第1液滴と異なる第2液滴を吐出し、
前記第1液滴と重なるように前記第1領域に第2液滴を吐出することと同期して前記第1領域とは異なる第2領域に前記第1液滴を吐出し、
前記第1液滴は、静電吐出型ノズルヘッドから吐出され、
前記第2液滴は、ピエゾ型ノズルヘッドから吐出される、
液滴吐出方法。
【請求項5】
前記第1液滴の少なくとも一部が、前記第2液滴が吐出される前に、前記対象物に固定される、
請求項4に記載の液滴吐出方法。
【請求項6】
前記吐出された前記第1液滴のサイズは、100nm以上500μm以下である、
請求項4または5に記載の液滴吐出方法。
【請求項7】
前記第1液滴の溶媒と、
前記第2液滴の溶媒とは、同種の液体である、
請求項4乃至6のいずれか一項に記載の液滴吐出方法。
【請求項8】
前記第1液滴は、粒子を含まず、
前記第2液滴は、粒子を含む、
請求項4乃至7のいずれか一項に記載の液滴吐出方法。
【請求項9】
前記対象物上には構造体が前記対象物の前記第1領域および前記第2領域の各々を囲むように設けられ、
前記対象物の表面は、親液性を有し、
前記構造体の表面は、撥液性を有する、
請求項4乃至8のいずれか一項に記載の液滴吐出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出装置および液滴吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット印刷技術の工業用プロセスへの応用が行われている。例えば、液晶ディスプレー用のカラーフィルター製造工程などはその一例である。インクジェット印刷技術として、従来の機械的圧力や振動により液滴を吐出するいわゆるピエゾ型インクジェットヘッドが用いられている。
【0003】
ピエゾインクジェットヘッドを用いた印刷技術は、成熟した技術である一方で、形成できる液滴のサイズ、着弾精度などを制御することが難しい。例えば、4ピコリットルの液滴量のインクジェットは、液滴の直径が約20μm程度であり、数μmピッチのQD(量子ドット)ディスプレーのピクセル形成に対応することは困難である。
【0004】
そこで、より微細な液滴を吐出できる静電型インクジェットヘッドが注目されている。特許文献1には、静電吐出型インクジェット記録装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、静電吐出型のインクジェット方式の場合、精度や吐出量に関して優れた制御性を有するものの、液滴を大きくすることが困難である。そのため、静電吐出型のインクジェット方式では、処理時間の短縮という点で課題を有する。また、静電吐出型のインクジェットで粒子を含んだ材料を扱う場合、ノズルの乾燥による詰まりが生じる恐れがある。
【0007】
そこで、本発明は、位置精度を高めつつ、高い処理能力を有する液滴吐出技術を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、第1液体を保持するための第1液体保持部および当該第1液体保持部の第1液体を第1液滴として吐出するための第1先端部を含む第1液滴吐出部と、第2液体を保持するための第2液体保持部および当該第2液体保持部の第2液体を第1液滴とは異なる第2液滴として吐出するための第2先端部を含む第2液滴吐出部と、前記第1液体および前記第2液体が吐出される対象物を保持するための対象物保持部と、前記対象物保持部に対して、前記第1先端部および前記第2先端部を相対的に第1方向に移動させるための駆動部と、を含み、前記第2先端部の内径は、前記第1先端部の内径よりも大きく、前記第1先端部および前記第2先端部は、前記第1方向に沿って配置され、前記第2先端部は、前記第1先端部に対して後方に配置されている、液滴吐出装置が提供される。
【0009】
上記液滴吐出装置において、前記第2液滴吐出部の単位時間当たりの吐出量は、前記第1液滴吐出部の単位時間当たりの吐出量よりも多くてもよい。
【0010】
上記液滴吐出装置において、前記第1液滴吐出部は、静電吐出型ノズルヘッドを有し、前記第2液滴吐出部は、ピエゾ型ノズルヘッドを有してもよい。
【0011】
上記液滴吐出装置において、前記第1液滴吐出部および前記第2液滴吐出部は、前記第1液滴吐出部および前記第2液滴吐出部が前記第1方向に対して交差する方向に複数設けられてもよい。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、対象物の第1領域に第1液滴を吐出し、前記第1領域に、前記吐出された前記第1液滴と接触するように前記第1液滴よりも多い吐出量で前記第1液滴と異なる第2液滴を吐出し、前記第1領域に第2液滴を吐出することと同期して前記第1領域とは異なる第2領域に前記第1液滴を吐出する、液滴吐出方法が提供される。
【0013】
上記液滴吐出方法において、前記第1液滴の少なくとも一部が、前記第2液滴が吐出される前に、前記対象物に固定されてもよい。
【0014】
上記液滴吐出方法において、前記吐出された前記第1液滴のサイズは、100nm以上500μm以下であってもよい。
【0015】
上記液滴吐出方法において、前記第1液滴の溶媒と、前記第2液滴の溶媒とは、同種の液体であってもよい。
【0016】
上記液滴吐出方法において、前記第1液滴は、粒子を含まず、前記第2液滴は、粒子を含んでもよい。
【0017】
上記液滴吐出方法において、前記対象物上には構造体が前記対象物の前記第1領域および前記第2領域の各々を囲むように設けられ、前記構造体の表面は親液性を有し、前記構造体の表面は撥液性を有してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一実施形態を用いることにより、位置精度を高めつつ、高い処理速度で液滴吐出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置の概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る液滴吐出方法の断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る液滴吐出方法の断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る液滴吐出方法の断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る液滴吐出方法の断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る液滴吐出方法の断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る液滴吐出方法の断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る液滴吐出方法により形成されたパターンの上面図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る液滴吐出方法の断面図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る液滴吐出方法の断面図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る液滴吐出方法の断面図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る液滴吐出方法の断面図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る液滴吐出方法の断面図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係る液滴吐出方法により形成されたパターンの上面図である。
【
図15】本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置の概略図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る第2液滴ノズルの上面図である。
【
図17】本発明の一実施形態に係る第2液滴ノズルの一部を拡大した上面図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本出願で開示される発明の各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0021】
なお、本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号(数字の後にA、B等を付しただけの符号)を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なったり、構成の一部が図面から省略されたりする場合がある。
【0022】
さらに、本発明の詳細な説明において、ある構成物と他の構成物の位置関係を規定する際、「上に」「下に」とは、ある構成物の直上あるいは直下に位置する場合のみでなく、特に断りの無い限りは、間にさらに他の構成物を介在する場合を含むものとする。
【0023】
<第1実施形態>
(1-1.液滴吐出装置100の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置100の概略図である。
【0024】
液滴吐出装置100は、制御部110、記憶部115、電源部120、駆動部130、第1液滴吐出部140、第2液滴吐出部150、および対象物保持部160を含む。
【0025】
制御部110は、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Flexibe Programable Gate Array)、またはその他の演算処理回路を含む。制御部110は、あらかじめ設定された液滴吐出用プログラムを用いて、第1液滴吐出部140よび第2液滴吐出部150の吐出処理を制御する。
【0026】
制御部110は、第1液滴吐出部140の第1液滴147(
図3参照)の吐出のタイミングおよび第2液滴吐出部150の第2液滴157(
図5参照)の吐出のタイミングを制御する。詳細は後述するが、第1液滴吐出部140による第1液滴147の吐出と、第2液滴吐出部150の第2液滴157の吐出は、同期している。本実施形態における「同期する」とは第1液滴および第2液滴が一定の周期で吐出されることを意味する。この例では、第1液滴147および第2液滴157が同時に吐出される。また、制御部110は、第1液滴吐出部140が第1液滴147を吐出した対象物200の第1領域から離れた第2領域に移動したときに、第2液滴吐出部150に第1領域に移動し、第2液滴157を吐出させるように制御する。
【0027】
記憶部115は、液滴吐出用プログラム、および液滴吐出用プログラムで用いられる各種情報を記憶するデータベースとしての機能を有する。記憶部115には、メモリ、SSD、または記憶可能な素子が用いられる。
【0028】
電源部120は、制御部110、駆動部130、第1液滴吐出部140および第2液滴吐出部150と接続される。電源部120は、制御部110から入力される信号をもとに、第1液滴吐出部140および第2液滴吐出部150に電圧を印加する。この例では、電源部120は、第1液滴吐出部140に対してパルス状の電圧を印加する。なお、パルス電圧に限定されず、一定の電圧が常時印加されてもよい。
【0029】
駆動部130は、モータ、ベルト、ギアなどの駆動部材により構成される。駆動部130は、制御部110からの指示に基づき、この例では第1液滴吐出部140および第2液滴吐出部150を対象物200上の所定の位置に移動させる。
【0030】
第1液滴吐出部140は、第1液滴ノズル141および第1インクタンク143(第1液体保持部ともいう)を含む。第1液滴ノズル141には、静電吐出型のインクジェットノズルが用いられる。第1液滴ノズル141のノズル先端部141aの内径は、100nm以上30μm以下、好ましくは0.5μm以上20μm以下、より好ましくは1.5μm以上10μm以下である。
【0031】
第1液滴ノズル141は、ガラス管を有し、ガラス管の内部に電極145が設けられる。この例では、電極145には、タングステンの細線が用いられる。なお、電極145は、タングステンに限定されず、ニッケル、モリブデン、チタン、金、銀、銅、白金などが設けられてもよい。
【0032】
第1液滴ノズル141の電極145は、電源部120と電気的に接続されている。第1液滴ノズル141の内部および電極145に対して電源部120から印加された電圧(この例では、1000V)により第1インクタンク143に保持された第1液体が第1液滴ノズル141のノズル先端部141a(第1先端部ともいう)から第1液滴147として吐出される。電源部120から印加される電圧を制御することにより、第1液滴147により形成される液滴(パターン)の形状を制御することができる。
【0033】
第2液滴吐出部150は、第2液滴ノズル151および第2インクタンク153を含む。この例では、第2液滴ノズル151には、ピエゾ型インクジェットノズルが用いられる。第2液滴ノズル151の上部には圧電素子155が設けられる。圧電素子155は、電源部120と電気的に接続される。圧電素子155は、電源部120から印加された電圧により、第2液体を押圧することにより、第2インクタンク153に保持された第2液体を第2液滴ノズル151のノズル先端部151a(第2先端部ともいう)から第2液滴157を吐出する。
【0034】
第2液滴吐出部150の第2液滴ノズル151は、対象物200の表面に対して垂直に設けられる。
【0035】
第2液滴ノズル151のノズル先端部151aの内径は、第2液滴ノズル151のノズル先端部151aの内径よりも広いことが望ましい。このため、第2液滴吐出部150の単位時間当たりの吐出量を、第1液滴吐出部140の単位時間当たりの吐出量よりも多くすることができる。
【0036】
対象物保持部160は、対象物200を保持する機能を有する。対象物保持部160は、この例ではステージが用いられる。対象物保持部160が対象物200を保持する機構は特に制限されず、一般的な保持機構が用いられる。この例では、対象物200は、対象物保持部160に真空吸着している。なお、これに限定されず、対象物保持部160は固定具を用いて対象物200を保持してもよい。
【0037】
第1液滴吐出部140および第2液滴吐出部150は、第1液滴吐出部140および第2液滴吐出部150が対象物保持部160に対して移動する方向(この例では第1方向(D1方向))に沿って配置される。具体的には、第2液滴吐出部150(より具体的には第2液滴ノズル151のノズル先端部151a)は、D1方向において第1液滴吐出部140(より具体的には第1液滴ノズル141のノズル先端部141a)の後方に配置される。なお、第1液滴吐出部140と、第2液滴吐出部150との距離Lは、適宜調整することができる。
【0038】
(1-2.液滴吐出方法)
次に、液滴吐出方法について図面を用いて説明する。
【0039】
まず、第1液滴吐出部140および第2液滴吐出部150は、制御部110および駆動部130により液滴吐出装置100に準備された対象物200上に移動する。このとき、
図2に示すように、第1液滴吐出部140が、対象物200の第1領域R1上に表面から一定の距離で離れて配置される。
【0040】
対象物200は、第1液滴147および第2液滴157が吐出される部材をいう。この例では、対象物200には平坦なガラス板が用いられる。なお、対象物200は平坦なガラス板に限定されない。例えば、金属板であってもよいし、有機樹脂部材でもよい。また、対象物200には、適宜対向電極が設けられてもよい。
【0041】
次に、
図3に示すように、第1液滴吐出部140は、第1領域R1に第1液滴147をD2方向に吐出する。
【0042】
第1液滴147には、粒子を含まない液体材料が用いられる。具体的には、顔料などの粒子を含まない有機溶媒が用いられる。第1液滴147に粒子を含まないことにより、第1液滴吐出部140のノズル先端部141aのつまりが抑えられる。このため、第1液滴吐出部140からの吐出不良が抑制される。
【0043】
第1液滴吐出部140には、静電吐出型インクジェットが設けられているため、電源部120から与えられた電圧により吐出量が制御される。第1液滴147の吐出量は、0.1fl以上100pl以下、好ましくは0.1fl以上10pl以下、より好ましくは0.3fl以上1pl以下であることが望ましい。このとき、対象物200上に着弾された第1液滴147のサイズは100nm以上500μm以下であることが望ましい。
【0044】
また、対象物200上に滴下された第1液滴147の一部は、第2液滴157を吐出する前に対象物200に固定されることが望ましい。このとき、第1液滴147には、ピンニング処理をすることが望ましい。ピンニング処理には光照射処理が用いられることが望ましい。照射される光の波長は、吐出される材料に応じて適宜調整される。
【0045】
次に、
図4に示すように、第1液滴吐出部140は、対象物200の第1領域R1上から第2領域R2上に移動する。第2液滴吐出部150は、第1液滴吐出部140の移動に合わせて第1液滴147が吐出された第1領域R1上に移動する。このとき、第1液滴吐出部140および第2液滴吐出部150は、D1方向に移動するということができる。第1液滴吐出部140および第2液滴吐出部150の移動速度は、第1液滴147の乾燥時間、第1液滴吐出部140と第2液滴吐出部150との間の距離Lなどを考慮してあらかじめ設定することが望ましい。
【0046】
次に、
図5に示すように、第1液滴吐出部140は、第1領域R1と同様に、対象物200の第2領域R2に第1液滴147をD2方向に吐出する。第2液滴吐出部150は、第1液滴吐出部140が第1液滴147を第2領域R2に吐出することと同期して第1領域R1に第2液滴157をD2方向に吐出する。この例では、第2液滴吐出部150は、第1液滴吐出部140が第1液滴147を吐出するのと同時に第2液滴157を吐出する。
【0047】
第2液滴157には、第1液滴147よりも粘度が高い材料が用いられる。具体的には、第2液滴157には、顔料を含むパターン形成用のインクが用いられる。第1液滴147の溶媒と第2液滴157の溶媒とは、同種の液体であることが望ましい。また、第1液滴147は顔料の粒子を含まず、第2液滴157が顔料などの粒子を含んでもよい。
【0048】
このとき、
図6に示すように、吐出される第2液滴157のサイズは、第1液滴147のサイズよりも広いことが望ましい。また、第2液滴157は、第1液滴147と接触するように吐出されることが望ましい。また、対象物200の表面は、第2液滴157に対して撥液性を有することが好ましい。
【0049】
図7は、第2液滴157が第1領域R1において所定の位置からずれて吐出された時の断面図である。
図7に示すように、第2液滴157の吐出位置が所定の位置からずれて吐出された場合でも、第2液滴157が第1液滴147と接触していると、表面エネルギーの最小化をはかるために、ピンニング処理された第1液滴147を取り込むように第2液滴157が移動し位置を変える(リアライメントする)ことができる。これにより、第2液滴157の吐出位置がずれても、目的の位置に位置合わせをすることができる。
【0050】
第1液滴吐出部140および第2液滴吐出部150は、上記処理を繰り返すことにより、所望の液滴吐出を行う。
図8は、液滴吐出後の対象物200の上面図である。
図8に示すように、対象物200の所望の位置にパターン(第1液滴および第2液滴157)を配置することができる。
【0051】
ここで、従来技術と本発明とを比較すると、従来技術では、工業用に広く用いられているピエゾインクジェット方式では、微細液滴化が困難であり、着弾精度や分解能の点で課題があった。また、静電吐出型インクジェット方式は、微少液滴を吐出でき、位置精度、分解能などに優れる技術であるが、タクトタイムの減少、高スループット化などとの間でトレードオフが存在する。
【0052】
しかしながら、本実施形態を用いることにより、静電吐出型インクジェットで高精度に位置制御されて着弾した第1液滴によってピエゾインクジェットヘッドで吐出されたサイズの大きい第2液滴が位置制御されることとなる。つまり、本実施形態を用いることにより、高精細化、高精密化および高生産性の両立が可能となる。
【0053】
また、本実施形態を用いることにより、静電吐出型インクジェットヘッドからは、第1液滴として粒子を含まない溶媒が吐出される。また、パターン形成用の粒子を有する液体(インク)は静電吐出型インクジェットノズルの先端部の内径よりも大きい内径を有するピエゾ型インクジェットヘッドから吐出される。したがって、粒子(固形物)に由来するインクジェットのノズルの詰まりを防止することができる。
【0054】
<第2実施形態>
本実施形態では、対象物200の表面に構造体170を有する例について図面を用いて説明する。
【0055】
まず、構造体170を有する対象物200上に第1液滴吐出部140および第2液滴吐出部150が駆動部130により移動する。対象物200の表面に設けられた構造体170(パターン、構造体ともいう)は、有機絶縁層として設けられる。構造体170に用いられる有機絶縁層は、特に限定されないが、この例では、構造体170にポリイミド樹脂が用いられる。なお、構造体170は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などのほかの有機樹脂でもよいし、酸化シリコン(SiOx)、窒化シリコン(SiNx)、酸化アルミニウム(AlOx)などの無機材料が用いられてもよい。また、この例では、構造体170は、対象物200の一部の表面を露出するように井桁状に設けられる。このため、第1液滴147および第2液滴157が吐出される第1領域R1および第2領域R2の各々は、構造体170により囲まれる。本実施形態において、対象物200の表面は親液性を有し、構造体170の表面は撥液性を有することが好ましい。このため、対象物200には適宜最適な材料を選択することが望ましい。
【0056】
図9に示すように、第1液滴吐出部140は第1領域R1上に配置される。第1液滴吐出部140は、第1領域R1に第1液滴147を吐出する。第1液滴147は、
図10に示すように、対象物200の表面の第1領域R1(より具体的には第1領域R1内のあらかじめ設定された位置)に着弾する。
【0057】
対象物200に着弾した第1液滴147は、ピンニング処理されることが望ましい。これにより、第1液滴147の少なくとも一部分が対象物200に固定される。また、第1液滴147を吐出する前に、対象物200に対して表面処理してもよい。これにより、対象物200の濡れ性を向上させ、対象物200が第1液滴147に対して親液性を有することができる。
【0058】
次に、
図11に示すように、第1液滴吐出部140は、対象物200の第1領域R1上から第2領域R2上に移動する。第2液滴吐出部150は、第1液滴147が吐出された第1領域R1上に移動する。第1液滴吐出部140は、第1領域R1と同様に、対象物200の第2領域R2に第1液滴147を吐出する。第2液滴吐出部150は、第1液滴吐出部140が第1液滴147を第2領域R2に吐出することと同期して第1領域R1に第2液滴157を吐出する。この例では、第2液滴吐出部150は、第1液滴吐出部140が第1液滴を吐出するのと同時に第2液滴157を吐出する。このとき、第2液滴157は、第1液滴147と接触するように吐出されることが望ましい。
【0059】
第2液滴157が所定の位置に吐出された場合には、
図12に示すように、第2液滴157は構造体170で設けられた井桁構造の内部の対象物200の表面に着弾する。一方で、
図13に示すように、第2液滴157が所定の位置からずれて吐出される場合がある。この場合において、第2液滴157が第1液滴147と接触していると、表面エネルギーの最小化をはかるために、ピンニング処理された第1液滴147を取り込むように第2液滴157の構造体170上に存在する部分が対象物200へと移動し第2液滴157全体の位置が変わる(リアライメントする)。これにより、第2液滴157の吐出位置がずれても、目的の位置に第2液滴157を位置合わせすることができる。この現象は、対象物200の表面が親液性であり、構造体の表面が撥液性である場合、第2液滴157が移動しやすくなり、効果的である。
【0060】
第1液滴吐出部140および第2液滴吐出部150は、上記処理を繰り返すことにより、
図14に示すように、第1液滴147および第2液滴157は構造体170上ではなく対象物200の表面に設けられる。
【0061】
<第3実施形態>
本実施形態では、第1実施形態とは異なるパターンの形成装置について説明する。具体的には、第1液滴ノズル141および第2液滴ノズル151が複数設けられている例について説明する。なお、説明の関係上、適宜部材を省略して説明する。
【0062】
(3-1.液滴吐出装置100の構成)
図15は、本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置100Aの概略図である。液滴吐出装置100Aは、制御部110、記憶部115、電源部120、駆動部130、第1液滴吐出部140A、および第2液滴吐出部150Aを含む。
【0063】
本実施形態では、第1液滴吐出部140Aは、移動する方向(この場合にはD1方向)に交差する方向(具体的にはD1方向に直交するD3方向)に複数設けられる(具体的には、第1液滴吐出部140Aは、それぞれ独立して設けられた第1液滴ノズル141A-1,141A-2,141A-3,および141A-4を有する。)。同様に、第2液滴吐出部150Aは、進行方向に交差する方向に複数設けられる(より具体的には、第2液滴吐出部150Aは、それぞれ独立して設けられた第2液滴ノズル151A-1,151A-2,151A-3,および151A-4を有する。)。本実施形態では、第1液滴吐出部140Aおよび第2液滴吐出部150Aを有することにより、液滴吐出の処理時間を短縮することができる。
【0064】
なお、本実施形態では、第1液滴吐出部140Aにおいて複数の第1液滴ノズル141Aがそれぞれ独立して設けられる例を示したが、これに限定されない。
図16は、第1液滴ノズル141Cの上面図である。
図17は、第1液滴ノズル141Cの一部を拡大した上面図及び断面図である。
図16および
図17に示すように、第1液滴ノズル141Bは、複数のノズル部141Bbおよびプレート部141Bcを有する。この例では、複数のノズル部141Bbが1列に並んで配置されるが、複数列に並んで配置されてもよい。
【0065】
ノズル部141Bbには、ニッケルなどの金属材料が用いられる。ノズル部141Bbは、例えば、電鋳法により先細る形状を有して形成される。プレート部141Bcには、ステンレスなどの金属材料が用いられる。プレート部141Bcは、ノズル部141Bbと重畳する部分にノズル部141Bbのノズル先端部141Baの内径r141Baよりも大きい内径r141Bcを有する穴を有する。ノズル部141Bbは、プレート部141Bcに対して溶接してもよいし、接着剤により固定してもよい。第1液滴ノズル141Bを用いた場合、ノズル部141Bbに電圧を印加してもよいし、プレート部141Bc(または第1インクタンク143)に電圧を印加してもよい。
【0066】
本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例および修正例に想到し得るものであり、それら変更例および修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。例えば、前述の各実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0067】
(変形例)
本発明の第1実施形態では、駆動部130により、第1液滴吐出部140および第2液滴吐出部150が対象物200上を移動する例を示したが、これに限定されない。例えば、液滴吐出装置100において、駆動部130は、対象物200を移動させてもよい。この場合、第1液滴吐出部140および第2液滴吐出部150は、同じ位置に固定されてもよい。
【0068】
また、本発明の第1実施形態では、第1液滴ノズル141は、対象物200の表面に対して垂直に設けられる例を示したが、これに限定されない。第1液滴ノズル141は、対象物200の表面の垂直方向に対して傾きを有してもよい。第2液滴吐出部150の第2液滴ノズル151も同様である。
【0069】
また、本発明の第1実施形態では、構造体に有機絶縁層が用いられた例を示したが、これに限定されない。例えば、構造体170は、配線パターンでもよいし、無機材料が用いられてもよい。また、対象物200自身を加工して構造体を設けてもよい。また、対象物200は、配線が積層された配線基板でもよい。
【0070】
また、本発明の第1実施形態で第1液滴147を吐出したときに、撮像装置を用いて撮像してもよい。この場合、撮像結果を制御部110にて判断してもよい。制御部110は、吐出不良があると判断した場合には、不良発生領域に対して第2液滴157を吐出しないように制御してもよい。吐出不良発生領域は、対象物全体の液滴吐出処理が終了したのちに、再び第1液滴147および第2液滴を吐出してもよい。これにより、液滴吐出不良を抑制することができる。
【0071】
なお、本発明の第1実施形態では、第2液滴157は、第1液滴147と接触するように吐出される例について示したが、これに限定されない。例えば、第2液滴157は、第1液滴147に近接して吐出された場合にも適用可能である。
【0072】
本発明の第1実施形態では、第1液滴ノズル141に静電吐出型ノズルが用いられる例を示したが、これに限定されない。位置制御が可能であれば、第1液滴ノズル141にピエゾ型インクジェットノズルが用いられてもよい。
【0073】
なお、本発明の第1実施形態では、ピンニング処理が光を用いて行われる例を示したが、これに限定されない。例えば、ピンニング処理が熱を用いて行われてもよい。また、光や熱によるピンニング処理を行わない場合、第1液滴147には金属塩を含む水溶液が用いられてもよい。金属塩には、カルシウム塩、ナトリウム塩などが用いられる。第1液滴が金属塩を含むことにより、第1液滴の水分が蒸発したとき金属塩が堆積し、ピンニング性が高まる。
【符号の説明】
【0074】
100・・・液滴吐出装置,110・・・制御部,115・・・記憶部,120・・・電源部,130・・・駆動部,140・・・第1液滴吐出部,141・・・第1液滴ノズル,141a・・・ノズル先端部,143・・・第1インクタンク,145・・・電極,147・・・第1液滴,150・・・第2液滴吐出部,151・・・第2液滴ノズル,151a・・・ノズル先端部,153・・・第2インクタンク,155・・・圧電素子,157・・・第2液滴,160・・・対象物保持部,170・・・構造体,200・・・対象物