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  • 特許-アクチュエータ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02N 11/00 20060101AFI20230920BHJP
   D21H 13/50 20060101ALI20230920BHJP
   D21H 27/30 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
H02N11/00 Z
D21H13/50
D21H27/30 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019144859
(22)【出願日】2019-08-06
(65)【公開番号】P2020127351
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2019019088
(32)【優先日】2019-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大矢 剛嗣
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-204682(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108018742(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106245438(CN,A)
【文献】特表2008-532462(JP,A)
【文献】国際公開第2010/100907(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/088746(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 11/00
D21H 13/50
D21H 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持基材の両方の面に、カーボンナノチューブ及びパルプを複合したカーボンナノチューブ複合基材を貼り合わせた積層体を備え、
前記積層体にイオン液体を含有し、
前記保持基材が紙基材であるアクチュエータ。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ複合基材において、前記カーボンナノチューブが5~30質量%含まれている請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブである請求項1または2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記パルプが、木材パルプ、非木材パルプまたは古紙パルプである請求項1~のいずれか一項に記載のアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、軽量・柔軟なアクチュエータ素子の開発が求められている。特に、様々な電気活性のある高分子を用い、電気駆動の伸縮型のアクチュエータの開発・研究が実用化に近く、期待されている。
【0003】
このようなアクチュエータとして、カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube、以下CNTとも称する)をアクチュエータ電極として使用する研究がなされている。CNTは炭素からなる物質であり、高い電気伝導性、軽量、高硬度、柔軟であるといった多くの優れた性質を持つ。その性質から様々な応用が期待されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】安積欣志、Synthesiology(シンセシオロジー)、第9巻、pp.117-123、2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、CNTは通常ナノスケールの粉末状で存在している。その結果、単体で扱うことが一般的には困難であり、加工の面で問題がある。また、複雑な立体構造を形成することが困難で構造上の自由度が低いという問題がある。このように、CNTをアクチュエータの電極として使用する際には更なる改良が課題となる。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑み、加工が容易で、構造上の自由度が高いアクチュエータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、加工が容易で身近なものとしてパルプに注目し、CNTをパルプと組み合わせたCNT複合材料を開発した。このように、CNT単独ではなく、CNT複合材料とすることで、CNTの優れた特性を生かしつつ、さらに加工を容易とすることが可能となる。そして、当該CNT複合材料によるアクチュエータが実現できれば、複雑な立体構造を形成することができ、従来よりも複雑な動きを実現できることを見出した。
【0008】
上記知見を基礎にして完成した本発明は一側面において、保持基材の少なくとも一方の面に、カーボンナノチューブ及びパルプを複合したカーボンナノチューブ複合基材を貼り合わせた積層体を備え、前記積層体にイオン液体を含有するアクチュエータである。
【0009】
本発明に係るアクチュエータは一実施形態において、前記カーボンナノチューブ複合基材において、前記カーボンナノチューブが5~30質量%含まれている。
【0010】
本発明に係るアクチュエータは別の一実施形態において、前記保持基材が紙基材である。
【0011】
本発明に係るアクチュエータは更に別の一実施形態において、前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブである。
【0012】
本発明に係るアクチュエータは更に別の一実施形態において、前記パルプが、木材パルプ、非木材パルプまたは古紙パルプである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加工が容易で、構造上の自由度が高いアクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るアクチュエータの構成及び動作原理を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係る紙漉き法の工程を説明する模式図である。
図3】本発明の実施形態に係るシリコーンケース法の工程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0016】
(アクチュエータの構成)
図1は、本発明の実施形態に係るアクチュエータの構成及び動作原理を示す模式図である。本発明の実施形態に係るアクチュエータは、保持基材と、保持基材の少なくとも一方の面に、カーボンナノチューブ及びパルプを複合したカーボンナノチューブ複合基材を貼り合わせた積層体を備える。カーボンナノチューブ複合基材は、保持基材の両面に貼り合わせるのが、よりアクチュエータとしての機能が向上するため好ましい。
【0017】
本発明の実施形態に係る保持基材の形状は、アクチュエータの用途によって適宜設計することができるが、取り扱いのしやすさや、用途の広さの観点から、フィルム状に形成されているのが好ましい。保持基材の厚みは特に限定されないが、0.2~0.5mm厚に形成することができる。
【0018】
本発明の実施形態に係る保持基材の材料としては、少なくとも一方の面に、カーボンナノチューブ及びパルプを複合したカーボンナノチューブ複合基材を貼り合わせて保持することができ、且つ、屈曲性のある材料であれば特に限定されない。保持基材は、良好な柔軟性を有するものであるのが好ましく、紙基材、不織布、樹脂製のスポンジ等で形成されているのがより好ましい。また、保持基材の材料は、用途展開しやすいという観点から、貼り合わせるカーボンナノチューブ複合基材のパルプと同様の素材で形成されているのが好ましい。例えば、カーボンナノチューブ複合基材のパルプが木材パルプであるならば、保持基材は紙基材であるのが好ましい。また、保持基材が紙基材であり、且つ、カーボンナノチューブ複合基材のパルプが木材パルプで形成されていると、環境にやさしく、焼却により処分することができる。
【0019】
本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ複合基材は、カーボンナノチューブ及びパルプを複合して構成されている。カーボンナノチューブ複合基材のカーボンナノチューブは、グラフェンシートが筒形に巻いた形状から成る炭素系材料であり、その周壁の構成数から単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブとがある。単層カーボンナノチューブを用いると、よりカーボンナノチューブ複合基材の柔軟性が増す。一方、多層カーボンナノチューブを用いると、よりカーボンナノチューブ複合基材の強度が増す。単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブは、アクチュエータの用途によって適宜選択することができる。また、カーボンナノチューブ複合基材のカーボンナノチューブは、グラフェンシートの構造の違いから、カイラル(らせん)型、ジグザグ型、アームチェア型等の構造を有していてもよい。
【0020】
本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ複合基材において、カーボンナノチューブが5~30質量%含まれているのが好ましい。カーボンナノチューブ複合基材において、カーボンナノチューブが5質量%以上含まれていると、アクチュエータの電極としてより良好な導電性が得られる。また、カーボンナノチューブ複合基材において、カーボンナノチューブが30質量%を超えて含まれても、アクチュエータの電極として導電性がそれ以上向上することが困難となる一方で、コストの面で不利となる傾向がある。本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ複合基材において、カーボンナノチューブが10~30質量%含まれているのがより好ましく、10~20質量%含まれているのが更により好ましい。
【0021】
カーボンナノチューブ複合基材のパルプは、特に限定されないが、木材パルプ(針葉樹パルプや広葉樹パルプ)、非木材パルプ(ケナフパルプ、コットンパルプ、竹パルプ、バガスパルプ、アバカパルプ、海藻パルプ、わらパルプ、樹皮パルプ、クワパルプ、ヨシパルプ、果実パルプ等)または古紙パルプを用いることができる。
【0022】
また、カーボンナノチューブ複合基材のパルプは、特に限定されないが、機械パルプ(MP:Mechanical Pulp)、化学パルプ(CP:Chemical Pulp)等を使用することもできる。
【0023】
機械パルプは、物理的な力で木材を破砕することでパルプ化する方法でできたパルプを意味する。機械パルプの種類には、砕木パルプ(GP:Ground Pulp)、リファイナーグランドパルプ(RGP:Refiner Ground Pulp)、サーモメカニカルパルプ(TMP:Thermo-Mechanical Pulp)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP:Chemi-Thermo-Mechanical Pulp)などがある。
【0024】
化学パルプは、化学的な反応で、木材(チップへの破砕は必要)を分解・リグニンなどを分離する(蒸解と呼ぶ)ことでパルプ化されたパルプを意味する。化学パルプの種類には、クラフトパルプ(KP:Kraft Pulp)、サルファイドパルプ(SP:Sulfide Pulp)、アルカリパルプ(AP:Alkaline Pulp)などがある。
【0025】
本発明の実施形態に係るアクチュエータは、保持基材とカーボンナノチューブ複合基材との積層体が、イオン液体(ionic liquid)を含有している。当該イオン液体は、一般に常温溶融塩または単に溶融塩などとも称されるものであり、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈する塩である。当該イオン液体は、陽イオンと陰イオンとの間でサイズ差(イオン体積差)が認められるものであればよく、理論上、数千以上の種類を作製することが可能である。
本発明の実施形態に係るアクチュエータのイオン液体としては、特に限定されないが、常温(室温)または常温に近い温度において液体を呈し安定なものが好ましい。本発明の実施形態に係るアクチュエータのイオン液体としては、例えば、以下の表1に記載の陽イオンと陰イオンとのイオン液体を用いることができる。
【0026】
【表1】
【0027】
(アクチュエータの動作原理)
本発明の実施形態に係るアクチュエータは図1に示すように、電極層にカーボンナノチューブ複合基材を用い、その間に電解質層として保持基材を挟み込んだ構造をしている。このアクチュエータにイオン液体を含ませる。イオン液体には、イオン体積の異なるカチオン(陽イオン)とアニオン(陰イオン)とが存在している。この状態(図1の(a))から、電圧を印加することにより、イオンの移動が起こり、イオン液体においてカチオン(陽イオン)がアニオン(陰イオン)よりも大きいことから、陽イオンが集まる負極側は伸び、陰イオンが集まる正極側は縮む(図1の(b))。
【0028】
このような構成によれば、電極層にCNT単独ではなく、CNTとパルプとの複合材料を用いることで、パルプの中でCNTのネットワークが形成され、これによってCNTの優れた特性を生かしつつ、さらに加工を容易とすることが可能となる。また、これによって複雑な立体構造を有するアクチュエータを形成することができ、従来よりも複雑な動きを実現できる。さらに、パルプ繊維が間に存在することで、間隔の大きな3次元CNTネットワークが形成される。この隙間部分の獲得は、イオン液体の陽イオンもしくは陰イオンを引き込む際に重要であり、より大きなサイズのイオンの利用も可能となる。このように大きいイオンが利用できるということは、より大きな変位の獲得が期待できる利点がある。また、三次元的にCNT間の接触部分が増えることになり、電極部分(カーボンナノチューブ複合基材)の耐久性が向上し、また抵抗を下げることができる。
【0029】
本発明の実施形態に係るアクチュエータが有することができる複雑な立体構造の例としては、例えば、紙ばね構造、ミウラ折り構造などが挙げられる。紙ばね構造は、2枚の紙基材が交互に折り重ねられた構造であり、アクチュエータの1つ1つの力が小さくても組み合わせることで力を増幅させることができる。ミウラ折り構造は、紙基材の端の2点を持ちながら引っ張ることで広がるような構造であり、例えば、人工衛星で太陽光パネルを展開する際に使用することができる。
【0030】
また、保持基材として、例えば紙基材のようなフレキシブルな基材を用いて紙アクチュエータを構成した場合、非常にフレキシブルで、従来のものと比較して高耐久性を有するアクチュエータが得られる。さらには、紙バネ等の既存の折り紙技術との組み合わせにより、複雑な形状のアクチュエータに発展させることや、用途に合わせてその場ではさみ等による加工が可能となる。
【0031】
(アクチュエータの製造方法及び動作確認方法)
次に、本発明の実施形態に係るアクチュエータの製造方法及び動作確認方法について説明する。まず、CNTを超音波分散などにより、水に分散したCNT分散液と、パルプを水に分散したパルプ分散液との混合液を作製する。
次に、網を用いて脱水を行う紙漉き法、または、シリコーンケースに投入して乾燥させるシリコーンケース法などにより、カーボンナノチューブ複合基材を作製する。図2に、当該紙漉き法の工程を説明する模式図を示す。図3に、当該シリコーンケース法の工程を説明する模式図を示す。
【0032】
続いて、カーボンナノチューブ複合基材を脱水した後、熱プレスにより成形・乾燥を行う。このようにしてカーボンナノチューブ複合基材を2枚作製し、当該2枚のカーボンナノチューブ複合基材で電解質層となる保持基材を挟み込み、熱プレスをすることで接着を行い、アクチュエータを作製する。
【0033】
次に、作製したアクチュエータに対して、イオン液体を滴下してイオン液体を含浸させる。このとき、イオン液体は、アクチュエータを構成する保持基材とカーボンナノチューブ複合基材との積層体がイオン液体を吸収しなくなるまで含浸させる。
次に、イオン液体を含浸させたアクチュエータに電極・導線を設け、所定の電圧を印加し、アクチュエータとして動作の確認を行う。
【0034】
本発明の実施形態に係るアクチュエータは、特に限定されないが、例えば、家具、インテリア、ウェアラブル品(触覚刺激等)、物流等に用いることができる。具体的には、家具やインテリアの表面に必要に応じて突起を出現させることができる。また、扉や引き出し等の開閉を補助する手段として利用することができる。また、様々な物に形状変化を付与することができる。例えば、提灯を例に挙げると、自動的に展開したり収縮したりすることができる。また、物流に関しては、例えば、段ボールの蓋の開閉を補助する手段等に利用することができる。
【実施例
【0035】
以下に本発明を実施例でさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
CNTとしてSGCNT(日本ゼオン社製、単層CNT)15mgを超音波分散により水に分散したCNT分散液と、紙の原料であるパルプ50mgを水に分散したパルプ分散液との混合液を作製し、網を用いて脱水を行う紙漉き法により、CNT複合紙を作製した。
【0037】
続いて、CNT複合紙を脱水した後、熱プレスにより成形・乾燥を行った。このようにしてCNT複合紙を2枚作製した。
【0038】
また、別途、電解質層となる紙基材として、ケイドライ(日本製紙クレシア社製、2.82mg/cm2)を2枚重ね構造とした。
【0039】
次に、作製した2枚のCNT複合紙で、当該電解質層となる紙基材を挟み込み、熱プレスをすることで接着を行うことで、紙基材の両面にCNT複合紙をそれぞれ貼り合わせ、アクチュエータを作製した。作製したアクチュエータのサイズは、縦×横×厚み=1.5cm×6.0cm×0.03cm程度であった。
【0040】
作製したアクチュエータに対して、片面に対してそれぞれ20μLずつ、両面にイオン液体を滴下してイオン液体(EMI-TFSI)を含浸させた。ここで、EMI-TFSIの組成について表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
次に、イオン液体を含浸させたアクチュエータに電極・導線を設け、所定の電圧を印加したところ、アクチュエータとしての所望の動作が確認された。
図1
図2
図3