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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】粉末状品質保持剤および品質保持方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/3544 20060101AFI20230920BHJP
   A23L 3/3508 20060101ALI20230920BHJP
   A23L 3/3562 20060101ALI20230920BHJP
   A23B 7/154 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
A23L3/3544 501
A23L3/3508
A23L3/3562
A23B7/154
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019193344
(22)【出願日】2019-10-24
(65)【公開番号】P2021065157
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】516089979
【氏名又は名称】株式会社ウエノフードテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】岡 俊道
(72)【発明者】
【氏名】上野 博史
(72)【発明者】
【氏名】古川 陽二郎
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-034527(JP,A)
【文献】特開2015-000018(JP,A)
【文献】特開2001-095479(JP,A)
【文献】特開2015-084773(JP,A)
【文献】特開平08-056610(JP,A)
【文献】国際公開第2006/022174(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101669670(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 4/00 - 9/34
A23L 2/00 - 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸類、酢酸塩およびプルランを含有する粉末状品質保持剤であって、該品質保持剤を、温度45℃、相対湿度20%RHの環境下で12時間乾燥させた時の乾燥減量(Xa)が-0.1~0.1%であり、温度120℃の環境下で4時間乾燥させた時の乾燥減量(Xb)が0.05~0.5%であり、且つ、50mL容の蓋付きガラス瓶に密封した該品質保持剤を、温度45℃の環境下で2週間保管後の黄色度(YIa)と温度0℃の環境下で2週間保管後の黄色度(YIb)との色差(ΔYI)が14未満である、粉末状品質保持剤。
【請求項2】
乾燥減量(Xa)が-0.05~0.08%であり、乾燥減量(Xb)が0.06~0.4%であり、色差(ΔYI)が12未満である、請求項1に記載の粉末状品質保持剤。
【請求項3】
アスコルビン酸類としては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸カルシウム、L-アスコルビン酸カリウム、L-アスコルビン酸アンモニウム、L-アスコルビン酸モノエタノールアミン、L-アスコルビン酸ジエタノールアミン、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸カルシウム、エリソルビン酸カリウム、エリソルビン酸アンモニウム、エリソルビン酸モノエタノールアミン、エリソルビン酸ジエタノールアミンからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1または2に記載の粉末状品質保持剤。
【請求項4】
酢酸塩が酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウムからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1~3のいずれかに記載の粉末状品質保持剤。
【請求項5】
アスコルビン酸類と酢酸塩の混合比が、1:99~99:1である、請求項1~4のいずれかに記載の粉末状品質保持剤。
【請求項6】
アスコルビン酸類および酢酸塩の割合の合計が粉末状品質保持剤全重量に対し、40~99重量%である、請求項1~5のいずれかに記載の粉末状品質保持剤。
【請求項7】
プルランの割合が粉末状品質保持剤全重量に対し1~10重量%である、請求項1~6のいずれかに記載の粉末状品質保持剤。
【請求項8】
さらに、pH調整剤を含有する、請求項1~7のいずれかに記載の粉末状品質保持剤。
【請求項9】
pH調整剤がクエン酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、アジピン酸、乳酸、酒石酸、グルコン酸、フィチン酸、プロピオン酸、酪酸、リン酸、次亜リン酸および亜リン酸、又はそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩およびアンモニウム塩からなる群から選ばれる1種以上である、請求項8に記載の粉末状品質保持剤。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の粉末状品質保持剤を溶解させた溶液に、食品を浸漬することを特徴とする、食品の品質保持方法。
【請求項11】
食品が緑色野菜、ボイル緑色野菜、カット野菜、カットフルーツからなる群から選ばれる1種以上である、請求項10に記載の品質保持方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれかに記載の粉末状品質保持剤を食品の原材料と共に混合することを特徴とする、食品の品質保持方法。
【請求項13】
食品が野菜惣菜、果実加工品、フィリングからなる群から選ばれる1種以上である、請求項12に記載の品質保持方法。
【請求項14】
アスコルビン酸類および酢酸塩を含有する粉末状品質保持剤に粉末状プルランを混合することを特徴とする粉末状品質保持剤の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に食品に対する静菌効果と変色抑制効果を有する、アスコルビン酸類を含有する粉末状品質保持剤に関する。また、本発明は食品に対する静菌効果と変色抑制効果を向上する、食品の品質保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から食品分野では、食品の保存性改善を目的として様々な対策が採られてきた。その中でもpH調整剤の添加による保存は代表的な方法として知られ、様々な食品に採用されている。しかしながら、pH調整剤の添加による保存では、十分な保存性が確保できる程度にpHを低下させると食品が不自然な酸味を呈するという問題があった。また、野菜類、特にインゲン、グリーンピース、サヤエンドウ、枝豆等の緑色野菜をボイルしたボイル緑色野菜に使用した場合には、pHの低下により変色および退色が促進されるという問題もあった。変色や退色の進行したボイル緑色野菜は商品価値が著しく低下する。
【0003】
このような野菜類の変色や退色を防止する手段としては、アスコルビン酸ナトリウムを利用した方法が提案されている(特許文献1~3)。
【0004】
また、アスコルビン酸やアスコルビン酸ナトリウムは、果物、野菜、畜肉などを加工する際の酸化防止剤として、広く利用されている成分であるが、保管中に水分、酸素、酸、アルカリ等の影響により、分解や着色が進行する不安定な物質であることが知られている。そのため、従来からアスコルビン酸類の安定性を改善する方法が提案されている。
【0005】
特許文献4には、L-アスコルビン酸およびその塩類を油脂類で被覆することによる安定化法が提案されているが、製造に労力を要する上、水への溶解性の低下や非加熱食品への適用が困難であるなどの課題があった。
【0006】
特許文献5には、ビタミンCにクロロゲン酸を配合することによる安定化法が提案されているが、クロロゲン酸は渋味や酸味を有することから、食品の味質への影響が無視できないものであった。
【0007】
特許文献6には、プロタミン又はその塩を安定化剤として配合したアスコルビン酸含有組成物が提案されているが、プロタミンは特有の臭いを有することから、食品の味質への影響が無視できないものであった。
【0008】
特許文献7には、ビタミンC類およびエリスリトールを含むビタミンC含有組成物が提案されているが、エリスリトールは特有の甘味を有する上、再結晶化し易く、食品の味質および物性への影響が無視できないものであった。
【0009】
しかしながら、これらの方法によってもアスコルビン酸類の着色抑制は十分ではなく、特に種々の有機酸やその塩を含有する食品用日持ち向上剤等においては、保管中の着色が顕著であり、着色の進行に伴い、特有の臭気が発生していた。
【0010】
したがって、食品の味質や風味に対する影響が少なく、静菌効果と変色抑制効果を有し、且つ、アスコルビン酸類の着色が抑制された安定性に優れる品質保持剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平08-056610号公報
【文献】特開平08-308523号公報
【文献】特開2015-000018号公報
【文献】特開昭53-127819号公報
【文献】特開平06-009603号公報
【文献】特開平06-247854号公報
【文献】特開平09-095447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、食品の味質や風味に対する影響が少なく、静菌効果と変色抑制効果を有し、品質保持剤の着色と異臭の発生が抑制された安定性に優れる品質保持剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、アスコルビン酸類を含有する製剤に含まれる水分量が特定の条件を満たすようにプルランを配合することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち本発明は、アスコルビン酸類、酢酸塩およびプルランを含有する粉末状品質保持剤であって、該品質保持剤を、温度45℃、相対湿度20%RHの環境下で12時間乾燥させた時の乾燥減量(Xa)が-0.1~0.1%であり、温度120℃の環境下で4時間乾燥させた時の乾燥減量(Xb)が0.05~0.5%であり、且つ、50mL容の蓋付きガラス瓶に密封した該品質保持剤を、温度45℃の環境下で2週間保管後の黄色度(YIa)と温度0℃の環境下で2週間保管後の黄色度(YIb)との色差(ΔYI)が14未満である、粉末状品質保持剤を提供する。
【0015】
本発明はまた、上記粉末状品質保持剤を溶解させた溶液に食品を浸漬する、あるいは原材料と共に混合することを特徴とする、食品の品質保持方法を提供する。本発明はまた、アスコルビン酸類および酢酸塩を含有する粉末状品質保持剤に粉末状プルランを混合することを特徴とする、粉末状品質保持剤の安定化方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明において「品質保持」とは、添加する対象の日持ち向上と変色抑制の両方が達成されることを意味する。
【0018】
本発明の粉末状品質保持剤に使用されるアスコルビン酸類と酢酸塩は、特に限定されないが、食品添加物として市販されているものを用いればよい。
【0019】
アスコルビン酸類としては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸カルシウム、L-アスコルビン酸カリウム、L-アスコルビン酸アンモニウム、L-アスコルビン酸モノエタノールアミン、L-アスコルビン酸ジエタノールアミン、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸カルシウム、エリソルビン酸カリウム、エリソルビン酸アンモニウム、エリソルビン酸モノエタノールアミン、エリソルビン酸ジエタノールアミン等が例示される。その中でも、水に対する溶解性、食品に対する分散性、変色抑制効果に優れる、L-アスコルビン酸ナトリウムが好ましい。
【0020】
上記アスコルビン酸類は、無水物および水和物のいずれも使用可能であり、2種以上を併用してもよい。
【0021】
また、上記アスコルビン酸類は、平均粒子径(D50)が50~250μmであるのが好ましく、80~240μmであるのがより好ましく、100~230μmであるのがさらに好ましい。平均粒子径が50μm未満である場合、品質保持剤の着色が進行する傾向があり、250μmを超える場合、偏析が生じ易い傾向がある。
【0022】
酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム等が例示される。その中でも水に対する溶解性、食品に対する分散性、静菌効果に優れる酢酸ナトリウムが好ましい。
【0023】
上記酢酸塩は、無水物および水和物のいずれも使用可能であり、2種以上を併用してもよい。
【0024】
また、上記酢酸塩は、平均粒子径(D50)が150~350μmであるのが好ましく、180~320μmであるのがより好ましく、200~300μmであるのがさらに好ましい。平均粒子径が150μm未満である場合、品質保持剤の着色が進行する傾向があり、350μmを超える場合、偏析が生じ易い傾向がある。
【0025】
本発明の粉末状品質保持剤における、アスコルビン酸類と酢酸塩の混合比は、特に限定されず、1:99~99:1の範囲で、目的に応じて調整すればよいが、静菌効果と変色抑制効果がバランスよく発揮される点で、5:95~95:5が好ましく、10:90~90:10がより好ましく、15:85~85:15がさらに好ましく、20:80~80:20がさらにより好ましい。
【0026】
アスコルビン酸類および酢酸塩の割合は、その合計が粉末状品質保持剤全重量に対し、40~99重量%であるのが好ましく、45~95重量%であるのがより好ましく、50~90重量%であるのがさらに好ましい。アスコルビン酸類および酢酸塩の割合の合計が、粉末状品質保持剤全重量に対し、40重量%未満である場合、静菌効果または変色抑制効果が不十分となる傾向があり、99重量%を超える場合、品質保持剤の着色抑制効果が低く、食品の味質への影響が大きくなる傾向がある。
【0027】
本発明の粉末状品質保持剤に使用されるプルランは、微生物の産生する多糖類であり、グルコースが重合した構造を有する。したがって、プルランの分子量は一定でなく、種々のプルランが存在する。本発明においては、いずれのプルランであっても利用可能であるが、通常は食品添加物あるいは医薬品添加物として市販されているものを用いればよい。
【0028】
また、上記プルランは、平均粒子径(D50)が100~300μmであるのが好ましく、130~270μmであるのがより好ましく、150~250μmであるのがさらに好ましい。平均粒子径が100μm未満である場合、偏析が生じ易い傾向があり、300μmを超える場合、品質保持剤の着色が進行する傾向がある。
【0029】
プルランの割合は、上記アスコルビン酸類および酢酸塩の割合に応じて、適宜調整すればよいが、アスコルビン酸類の着色抑制効果と食品の物性に与える影響を少なくするため、粉末状品質保持剤全重量に対し、1~10重量%であるのが好ましく、1.5~8重量%であるのがより好ましく、2~7重量%であるのがさらに好ましい。
【0030】
本発明の粉末状品質保持剤の材料である、上記アスコルビン酸類、酢酸塩およびプルランは、保持する水分量がそれぞれ異なるうえ、各材料を保管する環境によっても水分量が変化することから、粉末状品質保持剤を調製した後、乾燥減量(Xa)と乾燥減量(Xb)を測定し、測定結果に基づいて、材料の配合割合を適宜調整することにより、乾燥減量を調整することができる。乾燥減量は、乾燥前後の重量から以下の計算式により算出すればよい。
乾燥減量(%)=((乾燥前重量-乾燥後重量)/乾燥前重量)×100
【0031】
乾燥減量(Xa)は、乾燥前の重量を測定した後、温度45℃、相対湿度20%RHの環境下で12時間乾燥させ、乾燥後の重量を測定し、乾燥前後の重量から上記計算式により算出する。乾燥減量(Xa)は、-0.1~0.1%であればよく、-0.05~0.08%であるのが好ましく、0~0.07%であるのがより好ましい。
【0032】
乾燥減量(Xb)は、乾燥前の重量を測定した後、温度120℃の環境下で4時間乾燥させ、乾燥後の重量を測定し、乾燥前後の重量から上記計算式により算出する。乾燥減量(Xb)は、0.05~0.5%であればよく、0.06~0.4%であるのが好ましく、0.07~0.35%であるのがより好ましい。
【0033】
乾燥減量(Xa)と乾燥減量(Xb)は、いずれも上記範囲に調整する必要があり、両方を上記範囲とすることにより、保管中の品質保持剤の着色の進行が抑制される。
【0034】
したがって、本発明の粉末状品質保持剤においては、さらに、着色抑制効果が発揮されていることを確認する必要がある。具体的には、50mL容の蓋付きガラス瓶に密封した粉末状品質保持剤を、温度45℃の環境下で2週間保管後の黄色度(YIa)と温度0℃の環境下で2週間保管後の黄色度(YIb)との色差(ΔYI)が14未満となるように調整する。色差(ΔYI)は、12未満であるのが好ましく、11未満であるのがより好ましい。
【0035】
本発明において黄色度は、当業者に一般的に知られている測定器を用いて測定され得る。当該測定器としては、黄色度が測定可能なものであれば、特に制限されないが、分光色差計(例えば、SE7700(日本電色工業株式会社製))、測色色差計(例えば、ZE6000(日本電色工業株式会社製))などが挙げられる。本発明の粉末状品質保持剤は、測色色差計ZE6000(日本電色工業株式会社製)を用いて、ASTM D 1925に規定される黄色度(YI)測定法により、黄色度(YIa)、黄色度(YIb)および色差(ΔYI)を求める。
【0036】
本発明の粉末状品質保持剤は、さらにpH調整剤を含有してもよい。pH調整剤としては、アスコルビン酸類と酢酸塩以外で食品添加物として使用可能であることが確認されているものであればいずれを用いてもよい。好ましいpH調整剤としては、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、アジピン酸、乳酸、酒石酸、グルコン酸、フィチン酸、プロピオン酸、酪酸、リン酸、次亜リン酸および亜リン酸、又はそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩およびアンモニウム塩からなる群から選択される1種以上が挙げられる。その中でも水溶性の高さや食品の味質に与える影響の少なさの点でクエン酸、クエン酸三ナトリウム、フマル酸一ナトリウムおよびリンゴ酸からなる群から選択される1種以上がより好ましく、クエン酸、クエン酸三ナトリウムおよび/またはフマル酸一ナトリウムが特に好ましい。
【0037】
上記pH調整剤の添加量は、特に限定されないが、4重量%水溶液のpHが6.3~6.9となるように調整するのが好ましく、6.4~6.8がより好ましく、6.5~6.7がさらに好ましい。pH6.3未満では野菜類の変色抑制効果が低下する傾向があり、6.9を超えると静菌効果が低下する傾向がある。
【0038】
本発明の粉末状品質保持剤は、上記アスコルビン酸類、酢酸塩、pH調整剤が食品の味質に与える影響を少なくするため、さらに塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムを含有してもよい。変色抑制効果および味質が特に優れる点から塩化ナトリウムがより好ましい。塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムの添加量は特に限定的ではなく、粉末状品質保持剤を適用した場合の味質への影響を考慮して決定すればよい。
【0039】
本発明の粉末状品質保持剤の調製には特別な操作は必要なく、上記各成分を混合すればよい。また、製剤の物性及び安定性を改善する目的で、デキストリン等の賦形剤または微粒二酸化ケイ素等の固結防止剤を含有してもよい。
【0040】
本発明の粉末状品質保持剤の包装形態は特に限定されず、調製後、適当な材質の袋や容器等に充填することができる。例えば、包装袋に充填する場合、その材質としては、水蒸気透過性が低いプラスチック製包装材料が好ましく、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンおよび蒸着フィルム等が例示される。これら包装材料の中でも、ポリエチレン、アルミ蒸着フィルム、シリカ蒸着フィルムがより好ましい。また、これら包装材料は単層フィルムであっても、積層フィルムであってもよい。
【0041】
本発明の粉末状品質保持剤を適用するタイミングは、特に限定されない。例えば、ボイル緑色野菜に適用する場合であれば、緑色野菜をボイルする前であっても後であってもよく、ボイル中であってもよい。本発明の粉末状品質保持剤の適用方法としては、例えば、粉体を添加したボイル液にて緑色野菜をボイルする、緑色野菜をボイルした後、ボイル液に粉体を添加する、粉体をドレッシングなどの調味液に添加してボイル緑色野菜にまぶす、粉体を直接ボイル緑色野菜にまぶす、粉末状品質保持剤を溶解させた溶液に、ボイル緑色野菜を浸漬する、当該溶液を緑色野菜に噴霧する、塗布する等の方法が挙げられる。また、別の適用方法としては、例えば、フィリング類に適用する場合であれば、フィリングの原材料と共に混合する方法が挙げられる。
【0042】
本発明の食品の品質保持方法としては、本発明の粉末状品質保持剤を溶媒に溶解させた溶液に、食品を浸漬する方法が挙げられる。浸漬液は溶媒に対して、粉末状品質保持剤を好ましくは2~7重量%、より好ましくは3~5重量%溶解して調製する。2重量%未満では変色抑制効果および静菌効果が不足するため好ましくなく、7重量%を超えると味質に対する影響が大きくなるため好ましくない。
【0043】
本発明の粉末状品質保持剤を溶解させた溶液のpHは6.3~6.9であり、6.4~6.8が好ましく、6.5~6.7が特に好ましい。溶媒としては、水および水とエタノールの混合液が例示され、溶液のpHが上記範囲内である限り、核酸系液体調味料、醤油系液体調味料等の調味料を含有する調味液に溶解させて食品の調味と共に用いてもよい。本発明の粉末状品質保持剤としては、上記各成分を適当な溶媒あるいは調味液へ溶解させた溶液剤として提供されるものも包含する。
【0044】
浸漬液の温度および浸漬時間は特に限定されるものではないが、0~15℃で10~120分間程度が好ましく、0~10℃で30~90分間程度がより好ましい。浸漬液の液量は処理する野菜が浸かる量であれば特に限定されず、目安としては野菜重量の2倍量程度である。
【0045】
本発明の食品の品質保持方法の別の態様としては、本発明の粉末状品質保持剤を食品の原材料と共に混合する方法が挙げられる。粉末状品質保持剤の食品への添加量としては、食品の全重量に対し、好ましくは0.1~5重量%、より好ましくは0.3~3重量%となるように添加する。0.1重量%未満では変色抑制効果および静菌効果が不足するため好ましくなく、5重量%を超えると味質に対する影響が大きくなるため好ましくない。
【0046】
本発明の粉末状品質保持剤の安定化方法としては、アスコルビン酸類および酢酸塩を含有する粉末状品質保持剤に粉末状プルランを混合する方法が挙げられるが、これに限定されない。
【0047】
本発明に用いられる食品としては、緑色野菜、カット野菜等の野菜類、ボイル緑色野菜、野菜スープ等の野菜加工品類、ポテトサラダ、煮物、和え物等の野菜惣菜類、カットフルーツ等の果実類、ジャム、フルーツソース等の果実加工品類、カレーパンや中華饅頭の詰め物、サンドイッチの具材等のフィリング類、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、魚肉ハム、魚肉ソーセージなどの水産練り製品類、ハム、ソーセージ、ベーコン、ハンバーグ、ミンチボールなどの畜肉製品類、コロッケ、トンカツ、フライドチキン、魚フライ、唐揚げなどのフライ製品類、チャーハン、炊き込み御飯等の米飯類、中華麺、パスタ、うどん、そば等の麺類、カスタードクリーム、ホイップクリーム、フラワーペースト等のクリーム類、カステラ、スポンジケーキ、饅頭、餡等の菓子類、果実飲料、野菜飲料、炭酸飲料、茶飲料等の清涼飲料類などの種々の食品に使用することが可能である。その中でも、野菜、野菜加工品、野菜惣菜、果実、果実加工品、フィリングが好ましく、特にクロロフィルを含有している緑色野菜、カット野菜、ボイル緑色野菜がより好ましく、インゲン、グリーンピース、サヤエンドウ、枝豆等のマメ科の緑色野菜に対してより効果が期待できる。
【0048】
本発明の粉末状品質保持剤が任意の方法で適用された食品は、そのままで提供されても、あらたに調理および/または調味されて提供されてもよい。そのまま、あるいは調理および/または調味された食品を冷凍して、冷凍食品として提供されてもよい。
【0049】
以下、実施例および比較例を示して本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0050】
試験例1~15
着色防止材料のスクリーニング試験
表1-1~表1-3に示す各製剤を調製した。調製した製剤を50mL容の蓋付きガラス瓶に各40g入れ、冷凍機付きインキュベーター(PHC株式会社製:MIR-554-J)にて、0℃および45℃で1か月間保管した。保管後の各製剤について、着色の程度を目視にて観察し、下記評価基準にて評価した。また、保管後の各製剤について、臭いの確認を行い、下記評価基準にて評価した。着色および臭いの評価結果を表1-1~1-3に示す。尚、各製剤の調製には、下記材料を用いた。
【0051】
・無水L-アスコルビン酸ナトリウム(平均粒子径(D50):155μm、維生薬業有限公司製)
・無水酢酸ナトリウム(平均粒子径(D50):276μm、三菱ケミカル株式会社製)
・プルラン(平均粒子径(D50):233μm、株式会社林原製)
・デキストリンI(Max1000EX-C(DE:7.0~9.0)、松谷化学工業株式会社製)
・デキストリンII(パインデックス(登録商標)#2(DE:10.0~12.0)、松谷化学工業株式会社製)
・デキストリンIII(クラスターデキストリン(登録商標)(DE:5未満)、グリコ栄養食品株式会社製)
・デキストリンIV(CAVAMAX(登録商標) W7 Food、株式会社シクロケム製)
・キサンタンガム:(キサンタンガムC/大宮糧食工業株式会社製)
・トレハロース(株式会社林原製)
・フマル酸(川崎化学工業株式会社製)
・アジピン酸(旭化成ケミカルズ株式会社製)
・クエン酸(昭和化工株式会社製)
・フマル酸一ナトリウム(川崎化学工業株式会社製)
・クエン酸ナトリウム(磐田化学工業株式会社製)
・フェルラ酸(築野食品工業株式会社製)
・アラニン(株式会社武蔵野化学研究所製)
【0052】
[着色の評価基準]
〇:試験例1の45℃で1か月保管と比べて着色を抑制
△:試験例1の45℃で1か月保管と比べて同等
×:試験例1の45℃で1か月保管と比べて着色
【0053】
[臭いの評価基準]
〇:試験例1の0℃で1か月保管と比べて同等
×:試験例1の0℃で1か月保管と比べて異臭あり
【0054】
【表1-1】
【0055】
【表1-2】
【0056】
【表1-3】
【0057】
実施例1~11および比較例1~9
粉末状品質保持剤の調製
表2-1~2-4に示す組成の製剤A~Tを調製した(表中の各成分の割合を示す数値の単位は重量%)。尚、各製剤の調製に用いた材料は、上記試験例と同一のものを使用した。
【0058】
乾燥減量の測定
調製した製剤A~Tを秤量瓶に2g入れ、室温25℃、相対湿度60%RHの室内で、45℃に設定した恒温乾燥器(三洋電機特機株式会社製:MOV-202)に入れ(相対湿度20%RH)、12時間乾燥させた。同様にして室温25℃、相対湿度60%RHの室内で120℃に設定した真空乾燥器(株式会社東洋製作所製:VO-32D)で4時間乾燥させた。各温度における乾燥前後の重量から減少率を算出し、乾燥減量とした。温度45℃、相対湿度20%RHの環境下で12時間乾燥させた時の乾燥減量(Xa)および温度120℃の環境下で4時間乾燥させた時の乾燥減量(Xb)の測定結果を表2-1~2-4に示す。
【0059】
色差の測定
調製した製剤A~Tを50mL容の蓋付きガラス瓶に各40g入れ、冷凍機付きインキュベーター(PHC株式会社製:MIR-554-J)にて、0℃および45℃で2週間保管した。保管後の製剤について、測色色差計ZE6000(日本電色工業株式会社製)を用いて、ASTM D 1925に規定される黄色度(YI)測定法により、黄色度を測定した。45℃で保管した製剤の黄色度(YIa)から、0℃で保管した製剤の黄色度(YIb)を差し引いて、色差(ΔYI)を算出した。色差の測定結果を表2-1~2-4に示す。
【0060】
【表2-1】
【0061】
【表2-2】
【0062】
【表2-3】
【0063】
【表2-4】
【0064】
本発明の粉末状品質保持剤は、比較例の製剤に比べ、色差(ΔYI)が小さく、L-アスコルビン酸ナトリウムに由来する着色が抑制されていた。
【0065】
実施例12
製剤の乾燥減量および色差の測定
表3に示す製剤を上記実施例と同様の方法により、乾燥減量(Xa、Xb)および色差(ΔYI)を測定した。結果を表3に示す。尚、各製剤の調製には、下記材料を用いた。
【0066】
・無水酢酸ナトリウム(平均粒子径(D50):276μm、三菱ケミカル株式会社製)
・無水L-アスコルビン酸ナトリウム(平均粒子径(D50):155μm、維生薬業有限公司製)
・塩化ナトリウム(日本食塩製造株式会社製)
・クエン酸三ナトリウム(磐田化学工業株式会社製)
・フマル酸一ナトリウム(扶桑化学工業株式会社製)
・プルラン(平均粒子径(D50):233μm、株式会社林原製)
【0067】
ボイルインゲンの変色抑制試験
表3に示す製剤8gを水道水200gに溶解して4重量%水溶液を調製した。市販の冷凍インゲンを1%食塩水で1分30秒間ボイルした後、液切りし、調製した水溶液に4℃にて60分間浸漬した。浸漬液からインゲンを取り出し、5gずつ滅菌処理済みの細菌検査用ポリ袋に入れて密封し、サンプルとした。サンプルは25℃の恒温器内で1000lx照射下にて2日間保存した。保存後のサンプルの一般細菌数を測定し、下記静菌効果評価基準により評価した。保存後のサンプルの色調変化は目視で観察し、下記変色抑制効果評価基準(目視)により評価した。また、測色色差計ZE6000(日本電色工業株式会社製)を用いて、製造直後と保存後のボイルインゲンの明度L値、色相a値(緑色⇔赤色)、色相b値(青色⇔黄色)を測定した。製造直後の値をp、保存後の値をqの添え字で示すとき、下式により総合的な色の差であるΔEを算出した。
【0068】
(式)ΔE=[(Lq-Lp)+(aq-ap)+(bq-bp)1/2
なお、ΔEは製造直後と保存後のL、a、bの数値の差を表し、下記変色抑制効果評価基準(色差ΔE)により評価した。さらに、浸漬液から取り出した直後のインゲンの味質を下記味質評価基準により評価した。
【0069】
[静菌効果評価基準]
○:一般細菌数(CFU/g)<10
△:10≦一般細菌数(CFU/g)<10
×:10≦一般細菌数(CFU/g)
【0070】
[変色抑制効果評価基準(目視)]
○:無処理と比べて変色抑制効果あり
×:無処理と比べて変色抑制効果なし
【0071】
[変色抑制効果評価基準(色差ΔE)]
ΔEの数値が小さいほど、製造直後からの変化が少なく、変色抑制効果が高いことを示す。ΔEの値が12以下であるのが好ましく、11以下であるのがより好ましい。
【0072】
[味質評価基準]
○:ほとんど異味がなく、好ましい
△:僅かに異味があるが、好ましい
×:異味があり、好ましくない
【0073】
【表3】
【0074】
本発明の粉末状品質保持剤は、2週間保管後も製剤調製時の色調が維持されており、異臭の発生等もなく、インゲンに対して優れた静菌効果と変色抑制効果を示した。