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特許7351518LED駆動回路、LED照明システム及びLED駆動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】LED駆動回路、LED照明システム及びLED駆動方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 45/18 20200101AFI20230920BHJP
【FI】
H05B45/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019219582
(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公開番号】P2021089848
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】591245509
【氏名又は名称】株式会社松村電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100092576
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 久男
(72)【発明者】
【氏名】岩間 祐一
(72)【発明者】
【氏名】網野 勇二
【審査官】塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-125446(JP,A)
【文献】特開2006-171693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流定電圧が印加されたLED素子を流れる直流駆動電流を調節することによって、前記LED素子を調光するLED駆動回路であって、
外部から入力される調光信号のレベルに対応する制御電圧値を生成する制御電圧生成部と、
前記制御電圧値に応じて前記直流駆動電流を制御する電流制御部と、
前記LED素子の相対光度の温度特性と正負が同じ温度特性を有し、前記LED素子の周囲温度に対応した温度電圧値を出力する温度出力部と、
前記LED素子の点灯開始点の調光信号のレベルに対応する前記制御電圧値として前記制御電圧生成部において初期設定された初期制御電圧値と、初期設定時に前記温度出力部から前記温度電圧値として出力された初期温度電圧値とを加算して、基準電圧値を生成する第1加算部と
期設定後、次に前記LED素子を点灯する際に、前記初期制御電圧値と、前記温度出力部から前記温度電圧値として出力された、現在の前記LED素子の周囲温度に対応した現在温度電圧値とを加算して、加算電圧値を生成する第2加算部と
記基準電圧値と前記加算電圧値とを比較する比較部と、を備え、
前記制御電圧生成部は、前記比較部による比較結果に基づいて、前記加算電圧値が前記基準電圧値に近づくように、前初期制御電圧値を補正して補正制御電圧値を生成し、
前記第2加算部は、前記補正制御電圧値と前記現在温度電圧値とを加算して、補正加算 電圧値を生成し、
前記比較部は、前記基準電圧値と前記補正加算電圧値とを比較し、
前記補正加算電圧値が前記基準電圧値に近づくまで、前記制御電圧生成部が前記補正制 御電圧値を生成し、前記第2加算部が前記補正加算電圧値を生成し、前記比較部が前記基 準電圧値と前記補正加算電圧値とを比較することを繰り返す
ことを特徴とする、LED駆動回路。
【請求項7】
調光信号のレベルに対応する制御電圧値を生成し、直流定電圧が印加されたLED素子を流れる直流駆動電流を前記制御電圧値に応じて制御することによって、前記LED素子を調光するLED駆動方法であって、
前記調光信号のレベルに対応する前記制御電圧値を初期設定する初期設定工程と、
初期設定後、次に前記LED素子を点灯する際に、前記調光信号のレベルに対する前記制御電圧値を現在の前記LED素子の周囲温度に応じて補正する温度補償工程と、を有し、
前記初期設定工程は、
前記LED素子の点灯開始時の調光信号のレベルに対応する初期制御電圧値を設定する工程と、
前記初期制御電圧値と、前記LED素子の相対光度の温度特性と正負が同じ温度特性を有する温度出力部から出力された、初期設定時の前記LED素子の周囲温度に対応した初期温度電圧値とを加算して、基準電圧値を生成する工程と
有し、
前記温度補償工程は、
(a)前記初期制御電圧値と、前記温度出力部から出力された、前記LED素子の周囲温度に対応した現在温度電圧値とを加算して、加算電圧値を生成する工程と、
(b)前記基準電圧値と前記加算電圧値とを比較する工程と、
(c)前記加算電圧値が前記基準電圧値に近づくように、前初期制御電圧値を補正 て補正制御電圧値を生成する工程と、
(d)前記補正制御電圧値と前記現在温度電圧値とを加算して、補正加算電圧値を生成す る工程と、
(e)前記基準電圧値と前記補正加算電圧値とを比較する工程と、
(f)前記補正加算電圧値が前記基準電圧値に近づくまで、前記(c)~(e)の工程 を繰り返す工程と、
を有することを特徴とする、LED駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED駆動回路、LED照明システム及びLED駆動方法に係り、より詳細には、LED素子の温度補償を行うことができるLED駆動回路、LED照明システム及びLED駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LED(light emitting diode:発光ダイオード)素子を光源として使用した種々の照明装置が普及している。LED素子には、ハロゲンランプ等の従来の電球と比較して、発熱量及び消費電力が格段に少ないという利点があるため、舞台やスタジオで使用される演出用の照明装置(即ち、ステージ照明用の照明装置)のように高輝度の照明光が要求される照明装置においても、ハロゲンランプ等の電球に代わり、LED素子が光源として使用されるようになってきている。
【0003】
舞台等の演出用の照明装置は、照明光の明るさを変化させることが多く、コンソールから照明装置に入力されるDMX(Digital Multiplex)信号のような調光信号のレベルに対するLED素子の明るさ(相対光度)は調光カーブで表される。コンソールの操作者が意図したとおりの演出照明を実現するために、演出用の照明装置には調光カーブの正確な再現性が要求される。
一般に、相対光度が高い場合には、明るさが多少変化しても人間の目ではほとんど認識されないが、相対光度が低い場合には、明るさの僅かな変化であっても人間の目で認識される。その結果、舞台等の演出においては、スポットライト等によりフェードインする際の点灯開始時の明るさや、フェードアウトする際の消灯直前の明るさが、重要な演出効果を有する。このため、演出用の照明装置では、特に、フェードインの点灯開始点(フェードアウトの消灯点)を含む、調光カーブの点灯開始点付近、即ち、LED素子が最小光度で発光する領域において、調光カーブの正確な再現性が要求される。
【0004】
このため、演出用の照明装置では、調光カーブの点灯開始点の調光信号のレベルに対する照明の明るさが厳密に初期設定される。このとき、フェードインする際の点灯開始点の照明の明るさ(即ち、フェードアウトする際の消灯直前の照明の明るさ)が暗いほど、フェードイン及びフェードアウトが円滑に行えるため、点灯開始点の調光信号のレベルに対応する明るさができるだけ暗くなるように、点灯開始時のLEDの直流駆動電流は、LED素子の順方向電圧を超えかつ順方向電圧にできるだけ近くなるように設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-201473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、LED素子の相対光度(明るさ)は一般に負の温度特性(負の温度係数)を有し、LED素子の温度が低下するほど相対光度が上昇し、一方、LED素子の温度が上昇するほど相対光度が低下する。その結果、LED素子を使用した演出用の照明装置においても、周囲温度によりLED素子の相対光度が変動する。
例えば、演出照明時の温度が初期設定時の温度よりも低い場合には、LED素子の相対光度が初期設定時よりも上昇し、LED駆動電流が同じ場合、調光信号のレベルに対するLED素子の明るさ(相対光度)が明るくなる。反対に、演出照明時の温度が初期設定時の温度よりも高い場合には、LED素子の相対光度が初期設定時よりも低下し、LED駆動電流が同じ場合、調光信号のレベルに対するLED素子の明るさが暗くなる。
【0007】
特に、フェードインする際の点灯開始時(フェードアウトする際の消灯直前)は、照明が暗いため、明るさの僅かな違いであっても認識されてしまう。その結果、温度変化により、点灯開始時の照明の明るさが初期設定時のものと異なると、演出効果に大きく影響する。さらに、夏季など、演出照明時の温度が初期設定時の温度よりも高い場合には、相対光度が低下する結果、DMX信号レベルを点灯開始の初期設定レベルまで上げてもLED素子が点灯しない事態も発生しうる。
その結果、LED素子の温度特性のために、フェードインの点灯開始時やフェードアウトの消灯時のような、調光カーブの点灯開始点付近において、コンソールの操作者が意図したとおりの演出照明を実現することが困難となるおそれがあった。
【0008】
ここで、上記の特許文献1には、LCD(liquid crystal display:液晶ディスプレイ)バックライトに利用可能なカラーLEDの温度変化による特性変動を補償するためにNTC(negative temperature coefficient)サーミスタをLED素子に直列に接続したカラーLED駆動回路が記載されている。そこで、LED素子を使用した演出用の照明装置においても、照明装置のLED駆動回路において、LED素子にNTCサーミスタを直列に接続することによって、調光カーブを温度補償することが考えられる。
【0009】
しかしながら、劇場やホールといった施設では、施設ごとに温度環境が異なるうえ、個々のLED素子の順方向電圧及びその温度特性にばらつきがあるため、演出用の照明装置では、いわゆる現場合わせが必要となり、単に工場などで出荷前にLED素子にサーモスタットを直列接続しただけでは、舞台演出上の実用に耐える調光カーブの再現性、特に、点灯開始点付近の調光カーブの高い再現性を実現することが困難であった。
【0010】
また、光源にLED素子を使用した照明装置を調光するにあたっては、一般に、LED素子の明滅をPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御している。
しかしながら、演出用の照明装置の大電流・高輝度LED素子をPWM制御によって明滅させると、LED素子の明滅周波数が十分に高速でないとちらつきを感じることがあり、そのうえ、高精度に電流を調整できないという問題があった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、高精度に電流を調整した調光が可能であり、かつ、点灯開始点付近でのLED素子の明るさを温度補償して、点灯開始点付近での調光カーブの高い再現性の実現を図ることができるLED駆動回路、LED照明システム及びLED駆動方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明のLED駆動回路は、直流定電圧が印加されたLED素子を流れる直流駆動電流を調節することによって、前記LED素子を調光するLED駆動回路であって、外部から入力される調光信号のレベルに対応する制御電圧値を生成する制御電圧生成部と、前記制御電圧値に応じて前記直流駆動電流を制御する電流制御部と、前記LED素子の相対光度の温度特性と正負が同じ温度特性を有し、前記LED素子の周囲温度に対応した温度電圧値を出力する温度出力部と、前記LED素子の点灯開始点の調光信号のレベルに対応する前記制御電圧値として前記制御電圧生成部において初期設定された初期制御電圧値と、初期設定時に前記温度出力部から前記温度電圧値として出力された初期温度電圧値とを加算して、基準電圧値を生成する第1加算部と、初期設定後、次に前記LED素子を点灯する際に、前記初期制御電圧値と、前記温度出力部から前記温度電圧値として出力された、現在の前記LED素子の周囲温度に対応した現在温度電圧値とを加算して、加算電圧値を生成する第2加算部と、前記基準電圧値と前記加算電圧値とを比較する比較部と、を備え、前記制御電圧生成部は、前記比較部による比較結果に基づいて、前記加算電圧値が前記基準電圧値に近づくように、前初期制御電圧値を補正して補 正制御電圧値を生成し、前記第2加算部は、前記補正制御電圧値と前記現在温度電圧値と を加算して、補正加算電圧値を生成し、前記比較部は、前記基準電圧値と前記補正加算電 圧値とを比較し、前記補正加算電圧値が前記基準電圧値に近づくまで、前記制御電圧生成 部が前記補正制御電圧値を生成し、前記第2加算部が前記補正加算電圧値を生成し、前記 比較部が前記基準電圧値と前記補正加算電圧値とを比較することを繰り返すことを特徴としている。
【0013】
また、本発明のLED照明システムは、本発明のLED駆動回路と前記LED駆動回路によって駆動されるLED素子とを備えたLED照明装置と、前記LED照明装置に前記調光信号を入力する操作部と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明のLED駆動方法は、調光信号のレベルに対応する制御電圧値を生成し、直流定電圧が印加されたLED素子を流れる直流駆動電流を前記制御電圧値に応じて制御することによって、前記LED素子を調光するLED駆動方法であって、前記調光信号のレベルに対応する前記制御電圧値を初期設定する初期設定工程と、初期設定後、次に前記LED素子を点灯する際に、前記調光信号のレベルに対する前記制御電圧値を現在の前記LED素子の周囲温度に応じて補正する温度補償工程と、を有し、前記初期設定工程は、前記LED素子の点灯開始時の調光信号のレベルに対応する初期制御電圧値を設定する工程と、前記初期制御電圧値と、前記LED素子の相対光度の温度特性と正負が同じ温度特性を有する温度出力部から出力された、初期設定時の前記LED素子の周囲温度に対応した初期温度電圧値とを加算して、基準電圧値を生成する工程と、を有し、前記温度補償工程は、(a)前記初期制御電圧値と、前記温度出力部から出力された、前記LED素子の周囲温度に対応した現在温度電圧値とを加算して、加算電圧値を生成する工程と、(b)前記基準電圧値と前記加算電圧値とを比較する工程と、(c)前記加算電圧値が前記基準電圧値に近づくように、前初期制御電圧値を補正して補正制御電圧値を生成する工程と、(d)前記補正制御電圧値と前記現在温度電圧値とを加算して、補正加算電圧値を生成する 工程と、(e)前記基準電圧値と前記補正加算電圧値とを比較する工程と、(f)前記補 正加算電圧値が前記基準電圧値に近づくまで、前記(c)~(e)の工程を繰り返す工程 と、を有することを特徴としている。
【0015】
本発明のLED駆動回路、LED照明システム及びLED駆動方法では、LED素子に直流定電圧を印加しておき、LED素子を流れる直流駆動電流の大きさを制御電圧値に応じて制御することによって、LED素子を調光する。これにより、LED素子が直接PWM制御されて明滅する場合とは異なり、LED素子をフリッカフリーで(即ち、フリッカー現象が発生することなく)調光することができる。
【0016】
さらに、本発明では、LED素子の相対光度の温度特性と正負が同じ温度特性を有する温度出力部から出力される、LED素子の周囲温度に対応した温度電圧値を利用する。
そして、本発明では、点灯開始領域の調光カーブの正確な再現を実現するにあたって、単にLED素子の温度特性をサーミスタ等で直接相殺して温度補償するのではなく、初期設定時の初期温度電圧値と初期設定されたLED素子の点灯開始時の調光信号のレベルに対応する初期制御電圧値とを加算した基準電圧値に、現在の温度電圧値と点灯開始時の制御電圧値とを加算した加算電圧値が近づくように、制御電圧値を補正する。理想的には、加算電圧値が基準電圧値と一致するように制御電圧値を補正する。
【0017】
これにより、LED素子の相対光度の温度特性のばらつきによらず、LED素子の点灯開始点の明るさを温度補償して一定に保つことができ、点灯開始点付近の調光カーブの高い再現性の実現を図ることができる。
例えば、点灯開始時の調光信号のレベルに対する照明の明るさが初期設定された後、初期設定時の温度と異なる温度環境下であっても、初期設定した点灯開始時の明るさと実質的に同等の明るさでLED素子を発光させることができる。
その結果、外部からLED駆動回路に入力される調光信号のレベルに対するLED素子の明るさ(相対光度)を表す調光カーブの正確な再現を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高精度に電流を調整した調光が可能であり、かつ、点灯開始点付近でのLED素子の明るさを温度補償して、点灯開始点付近での調光カーブの高い再現性の実現を図ることができるLED駆動回路、LED照明システム及びLED駆動方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係るLED照明システムのブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係るLED駆動回路の回路図である。
図3】(a)は、調光信号レベルに対するPWM信号のデューティー比を説明する模式図であり、(b)は、PWM信号のデューティー比の補正を説明する模式図である。
図4】(a)は、調光信号のレベルとLED素子の明るさとの関係を表す調光カーブの模式図であり、(b)は、(a)に示す破線円Cで囲んだ点灯開始点付近の調光カーブの拡大図を示す。
図5】(a)は、LED素子の相対光度の温度特性を示すグラフであり、(b)は、NCTサーミスタの抵抗値の温度特性を示すグラフである。
図6】(a)は、LED素子の相対光度の温度特性を示すグラフであり、(b)は、温度出力部の温度電圧値の温度特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1に、本発明の第1実施形態に係るLED照明システムのブロック図を示す。同図に示すように、LED照明システムは、LED素子を駆動するLED駆動回路1を備えたLED照明装置2と、操作部(コンソール)3とから構成されている。
【0021】
本実施形態のLED照明装置2は、例えば、スポットライトを構成し、赤、緑、青の三原色をそれぞれ出力する3種類のLED素子(図1では図示せず。)を備えている。赤色LED素子は、例えば570~690nmの波長範囲内にピーク波長を有し、緑色LED素子は、例えば460~620nmの波長範囲内にピーク波長を有し、青色LED素子は、例えば420~530nmの波長範囲内にピーク波長を有する。ここで、LED素子のピーク波長とは、LED素子の発光スペクトルのうち、発光強度が最大となる波長をいう。
3種類のLED素子は、それぞれ別個のLED駆動回路1で駆動されるが、図1では、3つのLED駆動回路1のうち1のブロックだけを代表して示す。
【0022】
操作部3には、LED素子の出力光の明るさを制御する調光信号のレベルの調整手段が設けられている。この調整手段は、スライドバー、回転摘まみ、又はトグルスイッチ、その他の機構で構成することができる。操作部3からLED照明装置2の各LED駆動回路1に、それぞれ外部信号としてDMX信号のような調光信号が、調整されたレベルで入力される。
【0023】
図2に、LED駆動回路1の回路図を示す。なお、同図では、LED駆動回路1によって駆動されるLED素子100として、互いに直列に接続された四つのLED素子100模式的に示すが、LED素子100の数はこれに限定されない。
【0024】
LED素子100のアノード側には、直流定電圧(DC+)が印加されている。LED駆動回路1は、直流定電圧が印加されたLED素子100を流れる直流駆動電流IFを調光信号により調節することによって、LED素子を調光する。
そのために、LED駆動回路1は、外部から入力される調光信号のレベル(DMX信号のレベル)に対応する制御電圧値を生成する制御電圧生成部10と、制御電圧値に応じて直流駆動電流を制御する電流制御部20とを備えている。
【0025】
制御電圧生成部10は、電圧波形が矩形状に時間変化するPWM信号を出力するPWM信号出力部11と、PWM信号出力部11から出力されたPWM信号の平均電圧を制御電圧値として出力する第1及び第2平均化部12a及び12bと、外部から入力された調光信号のレベルに対応してPWM信号のデューティー比を制御する演算部13とを備えている。
ここで、図3(a)に、調光信号のレベルに応じたPWM信号のデューティー比を示す。図3(a)に折れ線Iで示すように、PWM信号のデューティー比は、調光信号のレベルに従って増加する。
本実施形態では、第1及び第2平均化部12a及び12bはローパスフィルタで構成され、演算部13はコンピュータ(CPU)130で構成されている。
【0026】
電流制御部20は、LED素子100と接地電位との間に直列に接続されたトランジスタとしてのNチャネルのMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)21と演算増幅器(オペアンプ)22とを備える。
MOSFET21は、LED素子100のカソード側に、直接又は間接的に接続された第1端子としてのドレイン端子Dと、電流制御抵抗R13を介して接地電位に直接又は間接的に接続された第2端子としてのソース端子Sと、制御端子としてのゲート端子Gとを備え、ゲート端子Gに印加される電圧に応じてドレイン端子Dとソース端子との間を流れるドレイン-ソース電流である直流駆動電流を制御する。
【0027】
演算増幅器(オペアンプ)22には、その非反転入力端子221に、制御電圧値が入力され、反転入力端子222に、電流制御抵抗R13とLED駆動回路素子D3との間のノードN1の電圧が、抵抗R14を介して入力され、その出力が抵抗R12を介して、MOSFET21のゲート端子Gに印加される。これにより、ゲート端子Gの電位が、制御電圧値の増減に応じて増減する。
【0028】
本実施形態のLED駆動回路1では、LED素子100に直流定電圧を印加しておき、LED素子100を流れる直流駆動電流IFの大きさを制御電圧値に応じて制御することによって、LED素子100を調光する。これにより、LED素子100が直接PWM制御されて明滅する場合とは異なり、LED素子100の駆動電流を高精度で調整することによって調光することができる。
【0029】
図4(a)に、LED駆動回路1に外部から入力されるDMX信号のような調光信号のレベルとLED素子100の明るさとの関係を表す調光カーブを曲線Iで示す。曲線Iで示すように、調光カーブは、調光信号のレベルが所定のレベルに達する点灯開始点L0から、調光信号のレベルが増加するのにつれて、幾何級数的に増加する。
【0030】
舞台等の演出においては、スポットライト等によりフェードインする際の点灯開始時の明るさや、フェードアウトする際の消灯直前の明るさが、重要な演出効果を有するため、特に、フェードインの点灯開始点(フェードアウトの消灯点)L0を含む、調光カーブの点灯開始点付近、即ち、LED素子が最小光度で発光する領域において、調光カーブの正確な再現性が要求される。
このため、演出用の照明装置では、制御電圧生成部10の演算部13において、外部から入力された調光信号のレベルに対応するPWM信号のデューティー比を調整して初期設定することによって、調光カーブの点灯開始点の調光信号のレベルに対する照明の明るさが厳密に初期設定される。
【0031】
ここで、図5(a)にLED素子の相対光度の温度特性を示す。同図の横軸は、LED素子の周囲温度(℃)を示し、縦軸は、LED素子の相対光度を対数表示で示す。なお、同図では、25℃のときの相対光度を1としている。
図5(a)に曲線Iで模式的に示すように、一般に、LED素子の相対光度は負の温度特性を示す。このため、LED素子の温度が低下するほど相対光度が上昇し(明るくなり)、一方、LED素子の温度が上昇するほど相対光度が低下する(暗くなる)。その結果、LED素子を使用した演出用の照明装置においても、LED素子の温度と実質的に等しいLED素子の周囲温度によりLED素子の相対光度(明るさ)が変動する。
その結果、照明装置の使用時の環境温度によって、調光カーブが初期設定されたものからずれてしまうことがある。
【0032】
ここで、図4(b)に、図4(a)に示す楕円Cで囲んだ、舞台演出上の特に高い再現性が要求される点灯開始点付近の調光カーブの拡大図を模式的に示す。
例えば、演出照明時のLED素子100の周囲温度T1が初期設定時の周囲温度T0よりも低い場合(T1<T0)には、LED素子100の相対光度が初期設定時よりも上昇し、LED駆動電流が同じ場合、図4(b)に曲線IIで示すように、調光信号のレベルに対するLED素子100の明るさ(相対光度)が、曲線Iで示す初期設定時の調光カーブよりも明るくなる。
反対に、演出照明時のLED素子100の周囲温度T2が初期設定時の周囲温度T0よりも高い場合(T2>T0)には、LED素子100の相対光度が初期設定時よりも低下し、LED駆動電流が同じ場合、図4(b)に曲線IIIに示すように、調光信号のレベルに対するLED素子100の明るさが、曲線Iで示す初期設定時の調光カーブよりも暗くなる。
【0033】
特に、フェードインする際の点灯開始時(フェードアウトする際の消灯直前)は、照明が暗いため、明るさの僅かな違いであっても認識されてしまう。その結果、温度変化により、点灯開始時の照明の明るさが初期設定時のものと異なると、演出効果に大きく影響する。
例えば、冬季など、演出照明時の温度の初期設定時の温度よりも低い場合には、LEDの相対光度が上昇する結果、点灯開始時のLED素子の相対光度が、初期設定時のものよりも明るくなってしまう。
また、夏季など、演出照明時の温度が初期設定時の温度よりも高い場合には、相対光度が低下し、DMX信号レベルを点灯開始の初期設定レベルまで上げてもLED素子が点灯しない事態も発生しうる。
【0034】
調光カーブの高い再現性を実現するためには、演出照明時のLED素子100の周囲温度T1が初期設定時の周囲温度T0よりも低い場合(T1<T0)には、DMX信号レベルに対するLED素子の直流駆動電流IFを減少させてLED素子の明るさを低下させることによって、図4(b)に曲線IIで示す調光カーブを補正して、曲線Iで示す初期設定時の調光カーブに近づける必要があり、理想的には一致させることが望まれる。
反対に、演出照明時のLED素子100の周囲温度T2が初期設定時の周囲温度T0よりも高い場合(T2>T0)には、DMX信号レベルに対するLED素子の直流駆動電流IFを増加させてLED素子の明るさを上昇させることによって、図4(b)に曲線IIIで示す調光カーブを補正して、曲線Iで示す初期設定時の調光カーブに近づける必要があり、理想的には一致させることが望まれる。
【0035】
そこで、本実施形態では、点灯開始領域の調光カーブの正確な再現を実現するにあたって、単にLED素子の温度特性をサーミスタ等で直接相殺して温度補償するのではなく、初期設定時のLED素子100の周囲温度に対応した初期温度電圧値と初期設定されたLED素子100の点灯開始時の調光信号のレベルに対応する初期制御電圧値とを加算した基準電圧値を生成し、この基準電圧値に現在の温度電圧値と点灯開始時の制御電圧値とを加算した加算電圧値が近づくように、制御電圧値を補正する。理想的には、加算電圧値が基準電圧値と一致するように制御電圧値を補正する。
【0036】
そのために、図2に示すように、本実施形態のLED駆動回路1は、LED素子100の相対光度の温度特性と正負が同じ温度特性を有し、LED素子100の周囲温度に対応した温度電圧値を出力する温度出力部30を設け、初期設定時に温度出力部30から温度電圧値として出力された初期温度電圧値と、LED素子100の点灯開始点の調光信号のレベルに対応する制御電圧値として制御電圧生成部10において初期設定された初期制御電圧値とを加算して基準電圧値を生成する第1加算部40を備え、さらに、基準電圧値を格納するための記憶部50を備えている。
なお、本実施形態では、温度出力部30の温度をLED素子100の周囲温度と実質的に等しいものとしている。
【0037】
さらに、本実施形態のLED駆動回路1は、初期設定後、次にLED素子を点灯する際に、初期制御電圧値と、温度出力部30から温度電圧値として出力された、現在の記LED素子100の周囲温度に対応した現在温度電圧値とを加算して、加算電圧値を生成する第2加算部60を備え、さらに、記憶部50から読み出された基準電圧値と加算電圧値とを比較する比較部70を備えている。
【0038】
そして、制御電圧生成部10は、比較部70による比較結果に基づいて、加算電圧値が基準電圧値に近づくように、調光信号のレベルに対する制御電圧値を補正する。
【0039】
(温度出力部)
ここで、LED駆動回路1の温度出力部30を説明する。
図5(b)に、温度出力部30を構成するNCTサーミスタ31の抵抗値の温度特性を曲線IIで模式的に示す。LED素子の相対光度が、図5(a)に曲線Iで示したように、温度変化に対してほぼ一定の傾きを有する負の温度特性を示すのに対して、NCTサーミスタ31の抵抗値は、図5(b)に曲線IIで示すように、温度が低くなるほど指数関数的に増加する負の温度特性を示す。
【0040】
そこで、本実施形態のLED駆動回路では、図2に示すように、温度出力部30が、定電位(例えば、+5V)である第1電位と、第1電位よりも低い接地電位である第2電位(例えば、接地電位)との間に、第1電位側から順に直列に接続された第1抵抗R11とNCTサーミスタ31とを備え、第1抵抗R11とNCTサーミスタ31との間のノードN2の分電圧を温度電圧値として出力する。これにより、ノードN2の分電圧として、負の温度特性を有する初期温度値が出力される。
【0041】
さらに、温度出力部30において、第2抵抗R21の抵抗値は、LED素子100の周囲温度が所定温度変化したときに、NCTサーミスタ31の温度特性による温度電圧値の所定温度あたりの変化量が、LED素子100の相対光度を一定に保つのに必要な制御電圧値の所定温度あたりの変化量と実質的に一致するように設定される。
具体的には、図5(b)に曲線IIで示したNCTサーミスタ31の指数関数的に増加する抵抗値の温度特性を、図5(b)に曲線IIIで示すような、温度上昇に対してほぼ一定割合で低下する負の温度特性にするために、NCTサーミスタ31と並列に接続された第2抵抗R21を設けて曲線IIを上下に圧縮する。さらに、本実施形態では、NCTサーミスタ31と第2電位との間に第3抵抗R20を設けて、NCTサーミスタ31の抵抗値の温度変化による温度電圧値の変化幅を更に調整する。
例えば、NCTサーミスタ31の0℃のときの抵抗値と25℃のときの抵抗値との差ΔR1と、25℃のときの抵抗値と50℃のときの抵抗値との差ΔR2とが等しくなるようにすることによって、温度電圧値も温度上昇に対してほぼ一定割合で低下する負の温度特性にすることができる。
【0042】
特に、図6(a)に曲線Iで模式的に示すLED素子100の相対光度の温度特性の傾きが、図6(b)に曲線IIで模式的に示す温度出力部30の温度電圧値(ノードN2の分電圧)の温度特性の傾きと実質的に同じになることが望ましい。
LED素子100の相対光度の温度特性の傾きはLED素子100ごとに異なり、ばらつきがあるが、温度電圧値の温度特性を、LED素子100の温度特性に実質的に合わせて設定することができる。このため、第2抵抗を可変抵抗として、LED素子100の温度特性に実質的に合わせて、現場合わせで調節してもよい。
【0043】
(初期設定工程)
次に、調光信号のレベルに対応する制御電圧値を初期設定する初期設定工程を説明する。
初期設定時には、制御電圧生成部10において、LED素子100の点灯開始点の調光信号のレベルに対応する制御電圧値として初期制御電圧値V0が初期設定される。
具体的には、LED素子100の点灯開始点の調光信号のレベルのDMX信号を、外部からLED駆動回路1の制御電圧生成部10に入力する。このとき、制御電圧生成部10では、演算部13が、PWM信号出力部11から出力されたPWM信号のデューティー比を、LED素子100の点灯開始点の調光信号のレベルに応じて制御し、第1平均化部12aが、そのデューティー比が制御されたPWM信号の平均電圧を初期制御電圧値V0として出力する
【0044】
このとき、温度出力部30からは、温度電圧値として、初期設定時のLED素子100の周囲温度T0に対応した初期温度電圧値VT0が出力されている。
そして、第1加算部40において、これら初期温度電圧値VT0と初期制御電圧値V0とが加算されて基準電圧値S0(=V0+VT0)が生成される。
例えば、初期制御電圧値V0=0.3V、初期温度電圧値VT0=1.0Vの場合、基準値S0=V0+VT0=0.3+1.0=1.3Vとなる。
図2に示すように、第1加算部40は、OPアンプを非反転加算回路として構成されている。このため、図2中のR7とR8の抵抗値を等しくし、かつ、R9とR10の抵抗値も等しくしている。
なお、図2では、第1及び第2加算部40及び60のOPアンプの正負の電源端子の図示を省略している。
【0045】
生成された基準電圧値S0は、記憶部50に格納される。本実施形態では、メモリ取り込みスイッチ51をオンにしたときに、基準電圧値S0が記憶部50に格納される。
なお、記憶部50は、種々の記憶媒体で構成することができ、また、LED駆動回路内に組み込まれてもよいし、LED駆動回路の外部に配置されてもよいし、通信回線で接続されたネットワーク上に設けてもよい。
【0046】
(温度補償工程)
続いて、初期設定後、次にLED素子100を点灯する際に、調光信号のレベルに対する制御電圧値を現在のLED素子100の周囲温度に応じて補正する温度補償工程を説明する。
本実施形態では、温度補償工程において、まず、LED素子100の点灯開始点の調光信号のレベルのDMX信号をLED駆動回路1の制御電圧生成部10に入力する。このとき、制御電圧生成部10では、演算部13が、PWM信号出力部11から出力されたPWM信号のデューティー比を、LED素子100の点灯開始点の調光信号のレベルに応じて制御する。温度補償工程では、第2平均化部12bが、そのデューティー比が制御されたPWM信号の平均電圧を初期制御電圧値V0として出力する。
【0047】
このとき、温度出力部30からは、その時点でのLED素子100の周囲温度に対応した現在温度電圧値VT1が出力されている。
そして、第2加算部60において、初期制御電圧値V0と現在温度電圧値VT1とを加算して、加算電圧値S1(=V0+VT1)が生成される。
図2に示すように、第2加算部60は、OPアンプを含む非反転加算回路として構成されている。このため、図2中のR2とR3の抵抗値を等しくし、かつ、R5とR6の抵抗値も等しくしている。
【0048】
一方、制御電圧生成部10との演算部13によって、記憶部50から基準電圧値S0が読み出されて出力される。
そして、比較部70において、基準電圧値S0と加算電圧値S1とを比較する。図2に示すように、比較部70は、OPアンプを含む比較回路として構成され、加算電圧値S1が基準電圧値S0よりも大きい場合に「H」値を出力し、加算電圧値S1が基準電圧値S0よりも小さい場合に「L」値を出力する。
比較部70の出力は、制御電圧生成部10に入力される。
【0049】
演出照明時の温度T1が初期設定時の温度T0よりも低い場合(T1<T0)には、加算電圧値S1が基準電圧値S0よりも大きくなり、「H」値が出力される。
例えば、初期設定時に、初期制御電圧値V0=0.3V、初期温度電圧値VT0=1.0、基準値S0=V0+VT0=1.3Vであった場合において、初期設定時よりも温度が低下したときには、温度電圧値が、例えば、初期温度電圧値1.0から現在温度電圧値VT1=1.5Vに上昇する結果、加算電圧値S1=V0+VT1=0.3+1.5=1.8Vとなる。その結果、加算電圧値S1>基準値S0となり、「H」値が出力される。
【0050】
反対に、演出照明時の温度T2が初期設定時の温度T0よりも高い場合(T2>T0)には、加算電圧値S1が基準電圧値S0よりも小さくなり、「L」値が出力される。
例えば、初期設定時に、初期制御電圧値V0=0.3V、初期温度電圧値VT0=1.0、基準値S0=V0+VT0=1.3Vであった場合において、初期設定時よりも温度が上昇したときには、温度電圧値が、例えば、初期温度電圧値1.0から現在温度電圧値VT1=0.7Vに下降する結果、加算電圧値S1=V0+VT1=0.3+0.7=1.0Vとなる。その結果、加算電圧値S1<基準値S0となり、「L」値が出力される。
【0051】
制御電圧生成部10では、演算部13が基準電圧値S0と加算電圧値S1とを比較して、加算電圧値S1が基準電圧値S0に近づくように、調光信号のレベルに対する制御電圧値を補正する。
【0052】
例えば、加算電圧値S1が基準電圧値S0よりも小さい場合には、演算部13は、PWM信号のデューティー比を所定の割合で増加させることによって初期制御電圧値V0を補正し、補正した初期制御電圧値V0+を第2加算部60へ出力する。
【0053】
第2加算部60は、補正した初期制御電圧値V0+と現在温度電圧値VT1とを加算して、補正した加算電圧値S1+を比較部70へ出力する。
比較部70では、補正された加算電圧値S1+と基準電圧値S0とを比較して、比較結果を制御電圧生成部10へフィードバックする。
比較部70から出力されるフィードバック値が「L」値から「H」値に変わるまで、このフィードバック処理が繰り返される。
【0054】
そして、フィードバック値が「L」値から「H」値となったとき、又は、「H」値から「L」値となったときの(初期設定時のデューティー比に対する)補正率でデューティー比を補正したPWM信号を第1平均化部12aへ入力し、第1平均化部12aから温度補償された制御電圧値が電流制御部20へ出力される。
【0055】
反対に、加算電圧値S1が基準電圧値S0よりも大きい場合には、演算部13は、PWM信号のデューティー比を所定の割合で減少させることによって初期制御電圧値V0を補正し、補正した初期制御電圧値V0-を第2加算部60へ出力する。
【0056】
第2加算部60は、補正した初期制御電圧値V0-と現在温度電圧値VT1とを加算して、補正した加算電圧値S1+を比較部70へ出力する。
比較部70では、補正された加算電圧値S1-と基準電圧値S0とを比較して、比較結果を制御電圧生成部10へフィードバックする。
比較部70から出力されるフィードバック値が「H」値から「L」値に変わるまで、このフィードバック処理が繰り返される。
【0057】
そして、フィードバック値が「L」値から「H」値となったとき、又は、「H」値から「L」値となったときの(初期設定時のデューティー比に対する)補正率でデューティー比を補正したPWM信号を第1平均化部12aへ入力し、第1平均化部12aから温度補償された制御電圧値が電流制御部20へ出力される。
【0058】
図3(b)に、図3(a)に示した調光信号のレベルに応じたPWM信号の一つのパルスを示す。図3(b)中、初期設定されたデューティー比のパルスを実線Iで示し、フィードバック値が「L」値から「H」値となったときの補正率でデューティー比を補正したパルスを破線IIで示し、フィードバック値が「H」値から「L」値となったときの補正率でデューティー比を補正したパルスを破線IIIで示す。
フィードバック値が「L」値から「H」値となったときの補正率は、図3(b)に示す初期設定されたデューティー比d1に対する補正されたデューティー比d2、即ち、d2/d1として表される。
反対に、フィードバック値が「H」値から「L」値となったときの補正率は、図3(b)に示す初期設定されたデューティー比d1に対する補正されたデューティー比d3、即ち、d3/d1として表される。
なお、フィードバック値が「L」値から「H」値となったときの補正率d2/d1、又は、フィードバック値が「H」値から「L」値となったときの補正率d3/d1で、調光カーブの一部分、例えば、デューティー比の小さい点灯開始領域でのみデューティー比を補正してもよいし、その補正率で調光カーブ全体を補正してもよい。
【0059】
これにより、調光カーブの高い再現性を実現するために、演出照明時の温度T1が初期設定時の温度T0よりも低い場合(T1<T0)には、DMX信号レベルに対するLED素子100の直流駆動電流IFを減少させてLED素子100の明るさを低下させることによって、図4(b)に曲線IIで示した調光カーブを補正して、曲線Iで示す初期設定時の調光カーブに近づけることができ、理想的には一致させることができる。
【0060】
反対に、演出照明時の温度T2が初期設定時の温度T0よりも高い場合(T2>T0)には、DMX信号レベルに対するLED素子100の直流駆動電流IFを増加させてLED素子100の明るさを上昇させることによって、図4(b)に曲線IIIで示した調光カーブを補正して、曲線Iで示す初期設定時の調光カーブに近づけることができ、理想的には一致させることができる。
【0061】
本実施形態では、上述したように、温度出力部30において、第2抵抗R21の抵抗値は、LED素子100の周囲温度が所定温度変化したときに、NCTサーミスタ31の温度特性による温度電圧値の所定温度あたりの変化量が、LED素子100の相対光度を一定に保つのに必要な制御電圧値の所定温度あたりの変化量と実質的に一致するように設定されている。このため、加算電圧値S1を基準値S0に実質的に一致するように制御電圧生成部10の制御電圧値を補正することによって、LED素子100の相対光度が実質的に一定に保たれる。
【0062】
したがって、LED素子100の相対光度の温度特性のばらつきによらず、LED素子100の点灯開始点の明るさを温度補償して実質的に一定に保つことができ、点灯開始点付近の調光カーブの高い再現性の実現を図ることができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は種々の変更及び変形を行うことができる。
上述した実施形態では、三原色の各色をそれぞれ出力する3種類のLED素子を、本発明のLED駆動回路で駆動する例を説明したが、本発明のLED照明システム及びLED照明装置では、全てのLED素子を本発明のLED駆動回路で駆動する必要はなく、例えば、1種類のLED素子だけを本発明のLED駆動回路で駆動するように構成してもよい。
【0064】
また、電流制御部20は、LED素子100と接地電位との間に直列に接続されたトランジスタとしてNチャネルのMOSFETを設けた例を説明したが、トランジスタの種類はこれに限定されず、例えば、PチャネルMOSFETでもよいし、接合型FETでもよいし、バイポーラトランジスタでもよい。
【0065】
また、上述した実施形態では、三原色の各色をそれぞれ出力する3種類のLED素子だけを設けた例を説明したが、本発明のLED照明装置及びLED照明システムでは、4種類以上のLED素子を設けてもよい。例えば、三原色の3種類のLED素子に加えて、白色光を出力するLED素子を設けてもよい。
【0066】
また、上述した実施形態では、制御電圧生成部に第1平均化部と第2平均化部を設けた例を説明したが、本発明のLED駆動回路では、第1平均化部と第2平均化部を兼ねた一つの平均化部を設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、種々のLED素子の駆動回路、LED照明装置及びLED照明システムに適用することができ、特に、スタジオ又は舞台で使用される演出用の照明装置及び照明システムに適用して好適である。
【符号の説明】
【0068】
1 LED駆動回路
2 LED照明装置
3 操作部
10 制御電圧生成部
11 PWM信号出力部
12a 第1平均化部
12b 第2平均化部
13 演算部
20 電流制御部
21 MOSFET
22 増幅器(オペアンプ)
30 温度出力部
31 NCTサーミスタ
40 第1加算部
50 記憶部
60 第2加算部
70 比較部
100 LED素子
221 非反転入力端子
222 反転入力端子
D ドレイン端子
G ゲート端子
S ソース端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6