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▶ 株式会社山田養蜂場本社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】酵素分解ローヤルゼリーの安定化
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/3562 20060101AFI20230920BHJP
   A23L 21/20 20160101ALI20230920BHJP
   A23L 5/41 20160101ALI20230920BHJP
【FI】
A23L3/3562
A23L21/20
A23L5/41
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020519632
(86)(22)【出願日】2019-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2019018994
(87)【国際公開番号】W WO2019221078
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2018095907
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598162665
【氏名又は名称】株式会社山田養蜂場本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉松 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】高田 弓梨乃
(72)【発明者】
【氏名】駒井 彩
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-037235(JP,A)
【文献】特開2000-342176(JP,A)
【文献】特開2006-061038(JP,A)
【文献】特開2012-175907(JP,A)
【文献】特開2008-194031(JP,A)
【文献】特開2011-152103(JP,A)
【文献】特開2015-082993(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0064417(KR,A)
【文献】国際公開第2018/034268(WO,A1)
【文献】消化性王乳ローヤルゼリープレミアム 120包,Yahoo! ショッピング,2016年,[online], [検索日:2023年4月11日], URL:https://store.shopping.yahoo.co.jp/kokoro-shop/100.html?sc_i=shp_pc_store-item_strrcm#
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローヤルゼリーのペプチダーゼ処理の前、同時又は後に、ペクチンを添加し、酵素処理ローヤルゼリーを上記ペクチンとの共存下に置くことを特徴とする、酵素処理ローヤルゼリーの着色抑制方法。
【請求項2】
ローヤルゼリーのペプチダーゼ処理の前、同時又は後に、ペクチンを添加し、酵素処理ローヤルゼリーを上記ペクチンとの共存下に置くことを特徴とする、酵素処理ローヤルゼリーの着色抑制及び溶解性の向上方法。
【請求項3】
ローヤルゼリーのペプチダーゼ処理の前、同時又は後に、ペクチンを添加して、酵素処理ローヤルゼリーを上記ペクチンとの共存下で凍結乾燥処理することを特徴とする、酵素処理ローヤルゼリーの着色抑制方法。
【請求項4】
ローヤルゼリーのペプチダーゼ処理の前、同時又は後に、ペクチンを添加して、酵素処理ローヤルゼリーを上記ペクチンとの共存下で凍結乾燥処理することを特徴とする、酵素処理ローヤルゼリーの着色抑制及び溶解性の向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色が抑制されてなる酵素処理ローヤルゼリー組成物に関する。また、本発明は、酵素処理ローヤルゼリーの経時的に生じる着色を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ローヤルゼリーは、有用な天然素材であるが、一方でアレルギー反応を引き起こす場合があることが知られている。そこで、アレルゲンとなりえるタンパク質を分解又は低分子化してアレルゲン量を低減させる方法が種々検討されている。
【0003】
例えば、ローヤルゼリーについてアレルゲン量を低減させる方法、言い換えれば低アレルゲン化ローヤルゼリーを調製する方法としては、ローヤルゼリーに糖分解酵素処理及び蛋白質分解酵素処理を施す方法(特許文献1)、ローヤルゼリーにエンド型中性ペプチダーゼ処理を施す方法(特許文献2)、エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方を有するアルカリ性ペプチダーゼでローヤルゼリーを一段階酵素処理する方法(特許文献3)、及びエンドペプチダーゼ作用を有する酵素とエキソペプチダーゼ作用を有する酵素を用いてローヤルゼリーを同時又は逐次的に酵素処理する方法(特許文献4)などが提案されている。
【0004】
しかし、ペプチダーゼによりタンパク質を分解し、低アレルゲン化されたローヤルゼリー(酵素分解ローヤルゼリー)は、酵素処理していないローヤルゼリーと比べて温度及び湿度の影響を受けやすく、加温、加湿条件などの過酷条件下で着色して褐色化が進行する。かかる着色は、酵素分解によって断片化されたペプチド及びアミノ酸のアミド基と還元糖のアノメリック炭素との間に起こるメイラード反応によるものと考えられる。
【0005】
このような酵素処理ローヤルゼリーの着色を抑制する方法として、特許文献5では酵素処理ローヤルゼリーをローカストビーンガムとの共存下におくことが報告されている。また、特許文献6では、ローヤルゼリーと、デンプン及びデキストロース当量が18以下のデキストリンから選ばれる少なくとも一種とを溶媒に溶解した後、凍結乾燥することで経時的な外観の変色を防止することができることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2002-112715号公報
【文献】日本国特開2005-287411号公報
【文献】日本国特開2007-295919号公報
【文献】日本国特開2007-295920号公報
【文献】日本国特許第4182366号公報
【文献】日本国特開2011-152103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献5において使用されているローカストビーンガムの溶解には加熱が必要であり溶解性はあまり高くない。また、着色抑制作用も更なる改善の余地がある。
【0008】
本発明は、ペプチダーゼで処理された酵素処理ローヤルゼリーを含みながらも着色が抑制されてなる酵素処理ローヤルゼリー組成物、特に凍結乾燥された酵素処理ローヤルゼリー組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、酵素処理ローヤルゼリーについて着色を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、酵素処理ローヤルゼリーをペクチンとの共存下におくことで、その経時的着色が有意に防止できるという知見を得た。さらには、ペクチンと酵素処理ローヤルゼリーとを混合したものは高い溶解性を有していることも見出した。
【0010】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、以下の酵素処理ローヤルゼリー組成物、酵素処理ローヤルゼリー組成物の製造方法及び酵素処理ローヤルゼリーの着色抑制方法を提供するものである。
【0011】
(I) 酵素処理ローヤルゼリー組成物
(I-1) ペクチンと、ペプチダーゼで処理された酵素処理ローヤルゼリーとを含む、固形状の酵素処理ローヤルゼリー組成物。
(I-2) 2.2質量%を超える量のペクチンと、ペプチダーゼで処理された酵素処理ローヤルゼリーとを含む酵素処理ローヤルゼリー組成物。
(I-3) ペプチダーゼで処理された酵素処理ローヤルゼリーと、該酵素処理ローヤルゼリー100質量部当たり1質量部を超える量のペクチンとを含む酵素処理ローヤルゼリー組成物。
(I-4) ガラクトマンナン、ガラクトマンナンを含む多糖類、キサンタンガム及びデキストリンからなる群から選択される少なくとも1種と、ペクチンと、ペプチダーゼで処理された酵素処理ローヤルゼリーとを含む、酵素処理ローヤルゼリー組成物。
(I-5) 前記ガラクトマンナンを含む多糖類が、ローカストビーンガム、タラガム及びフェヌグリークガムからなる群から選択される少なくとも1種である、(I-4)に記載の酵素処理ローヤルゼリー組成物。
(I-6) 前記組成物が凍結乾燥物である、(I-1)~(I-5)のいずれか一項に記載の酵素処理ローヤルゼリー組成物。
【0012】
(II) 酵素処理ローヤルゼリー組成物の製造方法
(II-1) ローヤルゼリーのペプチダーゼ処理の前、同時又は後に、ペクチンを添加することを特徴とする、(I-1)~(I-3)のいずれか一項に記載の酵素処理ローヤルゼリー組成物の製造方法。
(II-2) ローヤルゼリーのペプチダーゼ処理の前、同時又は後に、ガラクトマンナン、ガラクトマンナンを含む多糖類、キサンタンガム及びデキストリンからなる群から選択される少なくとも1種と、ペクチンとを添加することを特徴とする、(I-4)に記載の酵素処理ローヤルゼリー組成物の製造方法。
(II-3) 前記ガラクトマンナンを含む多糖類が、ローカストビーンガム、タラガム及びフェヌグリークガムである、(II-2)に記載の製造方法。
(II-4) (II-1)~(II-3)のいずれか一項に記載の製造方法において、更に凍結乾燥処理を行うことを特徴とする、(I-6)に記載の酵素処理ローヤルゼリー組成物の製造方法。
【0013】
(III) 酵素処理ローヤルゼリーの着色抑制方法
(III-1) ローヤルゼリーのペプチダーゼ処理の前、同時又は後に、ペクチンを添加し、酵素処理ローヤルゼリーを上記ペクチンとの共存下に置くことを特徴とする、酵素処理ローヤルゼリーの着色抑制方法。
(III-2) ローヤルゼリーのペプチダーゼ処理の前、同時又は後に、ペクチンを添加し、酵素処理ローヤルゼリーを上記ペクチンとの共存下に置くことを特徴とする、酵素処理ローヤルゼリーの着色抑制及び溶解性の向上方法。
(III-3) ローヤルゼリーのペプチダーゼ処理の前、同時又は後に、ペクチンを添加して、酵素処理ローヤルゼリーを上記ペクチンとの共存下で凍結乾燥処理することを特徴とする、酵素処理ローヤルゼリーの着色抑制方法。
(III-4) ローヤルゼリーのペプチダーゼ処理の前、同時又は後に、ペクチンを添加して、酵素処理ローヤルゼリーを上記ペクチンとの共存下で凍結乾燥処理することを特徴とする、酵素処理ローヤルゼリーの着色抑制及び溶解性の向上方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アレルギー性の低減による安全性の向上を実現しつつ、ペプチダーゼ分解によって生じる着色が抑制された酵素処理ローヤルゼリー組成物を提供することができる。また、本発明によれば、着色の抑制に加えて高い溶解性を有する酵素処理ローヤルゼリー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
なお、本明細書において「含む、含有する(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0017】
(1)酵素処理ローヤルゼリー組成物及びその製造方法
本発明の酵素処理ローヤルゼリー組成物は、以下の(a)~(d)を特徴とする。
(a) ペクチンと、ペプチダーゼで処理された酵素処理ローヤルゼリーとを含み固形状であること
(b) 2.2質量%を超える量(又は2.5、3、5若しくは10質量%以上の量)のペクチンと、ペプチダーゼで処理された酵素処理ローヤルゼリーとを含むこと
(c) ペプチダーゼで処理された酵素処理ローヤルゼリーと、酵素処理ローヤルゼリー100質量部当たり1質量部を超える量(又は1.5質量部以上、2質量部以上、3質量部以上、3.5質量部以上、5質量部以上、10質量部以上、370質量部以上若しくは90質量部以下の量)のペクチンとを含むこと
(d) ガラクトマンナン、ガラクトマンナンを含む多糖類、キサンタンガム及びデキストリンからなる群から選択される少なくとも1種と、ペクチンと、ペプチダーゼで処理された酵素処理ローヤルゼリーとを含むこと
【0018】
当該酵素処理ローヤルゼリー組成物は、酵素処理ローヤルゼリー中での褐色物質の生成が抑制されて褐色化の進行が抑えられており、その意味で経時的に安定化している。
【0019】
ローヤルゼリーは、蜜蜂のうち日齢3~12日の働き蜂が下咽頭腺及び大腮腺から分泌する分泌物を混合して作る乳白色のゼリー状物質である。ローヤルゼリー中の主な生理活性成分としては、例えば、ローヤルゼリーに特有な10-ハイドロキシデセン酸(以下、「デセン酸」と記載する)等の有機酸類をはじめ、タンパク質、脂質、糖類、ビタミンB類、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸等のビタミン類、各種ミネラル類等が挙げられる。このローヤルゼリーの生理活性及び薬理作用としては、抗菌作用、免疫増強作用、抗うつ作用、抗腫瘍作用、抗炎症作用、血流量増加作用等が知られている。また、制癌剤の副作用低減及び放射線傷害時の延命効果も報告されている。
【0020】
酵素分解ローヤルゼリーの製造に用いられるローヤルゼリーとしては、特に制限されず、例えば、生ローヤルゼリー、生ローヤルゼリーを乾燥させて粉末化したローヤルゼリー粉末、生ローヤルゼリーを水若しくは含水エタノール等により抽出した物等を挙げることができる。
【0021】
ローヤルゼリーの産地は、制限されず、日本、中国、ブラジル、ヨーロッパ諸国、オセアニア諸国、アメリカ等のいずれであってもよい。
【0022】
本発明が対象とする酵素分解ローヤルゼリーは、ローヤルゼリーをタンパク質分解酵素で処理した物である。好ましくは、ペプチダーゼ処理によってローヤルゼリーに含まれるタンパク質に起因するアレルギー反応が抑制されてなる、低アレルゲン化酵素分解ローヤルゼリーである。したがって、本発明の酵素分解ローヤルゼリーには、ローヤルゼリー中に含まれるタンパク質のペプチダーゼ分解物の他に、前述するデセン酸等の有機酸類、脂質、糖類、ビタミン類、及び各種ミネラル類が含まれ得る。
【0023】
ローヤルゼリーを酵素分解するのに使用される酵素としては、ペプチダーゼを好適に挙げることができる。使用されるペプチダーゼは、エンドペプチダーゼ作用及びエキソペプチダーゼ作用の少なくとも一方を有していればよいが、好ましくは少なくともエンドペプチダーゼ作用を有する物、より好ましくはこれら両方の作用を有する物である。
【0024】
本発明の酵素分解ローヤルゼリーは、好ましくはローヤルゼリーに含まれるタンパク質を加水分解して低アレルゲン化された物である。このためには、ローヤルゼリーを、少なくともエンドペプチダーゼ作用を有するペプチダーゼ(エンドペプチダーゼ)を用いて、好ましくはエンドペプチダーゼ作用及びエキソペプチダーゼ作用の両方を有するペプチダーゼを用いて、加水分解することが好ましい。ここで、エンドペプチダーゼ作用及びエキソペプチダーゼ作用の両方を有するペプチダーゼとして、これら両方の作用を同時に有するペプチダーゼを単独で使用してもよいし、また、エンドペプチダーゼ作用を有するペプチダーゼ(エンドペプチダーゼ)とエキソペプチダーゼ作用を有するペプチダーゼ(エキソペプチダーゼ)とを組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本発明で使用することができるエンドペプチダーゼとしては、少なくともエンドペプチダーゼ活性を有するタンパク質分解酵素であれば如何なる物であってもよい。例えば、動物由来(例えば、トリプシン、キモトリプシン等)、植物由来(例えば、パパイン等)、又は微生物由来(例えば、乳酸菌、酵母、カビ、枯草菌、放線菌等)のエンドペプチダーゼを広く例示することができる。
【0026】
エキソペプチダーゼとしては、少なくともエキソペプチダーゼ活性を有するタンパク質分解酵素であれば如何なる物であってもよい。例えば、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、若しくは微生物由来(例えば、乳酸菌、アスペルギルス属菌、リゾープス属菌等)のエキソペプチダーゼ、又はエンドペプチダーゼ活性も併せて有するパンクレアチン、ペプシン等を例示することができる。
【0027】
ところでペプチダーゼには、実質的にエキソペプチダーゼ作用のみを有するエキソペプチダーゼ、実質的にエンドペプチダーゼ作用のみを有するエンドペプチダーゼ、並びにエキソペプチダーゼ作用及びエンドペプチダーゼ作用の両方を有するペプチダーゼが存在する。これらのうち、エキソペプチダーゼ作用及びエンドペプチダーゼ作用の両方を有する酵素は、エンドペプチダーゼ作用が強力な場合には「エンドペプチダーゼ」として使用可能であり、エキソペプチダーゼ作用が強力な場合には「エキソペプチダーゼ」として使用可能であり、エキソペプチダーゼ作用とエンドペプチダーゼ作用とが同等又はほぼ同等の場合には、エンドペプチダーゼ作用及びエキソペプチダーゼ作用を同時に有するペプチダーゼとして使用可能である。
【0028】
このようなペプチダーゼのうち、エキソペプチダーゼ作用を有する酵素の好ましい例としては、例えば、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus orizae)産生ペプチダーゼ、アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)産生ペプチダーゼ、アスペルギルス属産生ペプチダーゼ、リゾプス・オリゼー(Rhizopus oryzae)産生ペプチダーゼ等を挙げることができる。
【0029】
また、エンドペプチダーゼ作用を有するペプチダーゼの好ましい例としては、例えば、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)産生ペプチダーゼ、バチルス・リシェニフォルミス(Bacillus licheniformis)産生ペプチダーゼ、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)産生ペプチダーゼ、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)産生ペプチダーゼ、バチルス属産生ペプチダーゼ等を挙げることができる。
【0030】
さらに、エキソペプチダーゼ作用及びエンドペプチダーゼ作用の両方を有するペプチダーゼ、特にアルカリ性ペプチダーゼの好ましい例としては、例えば、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)産生ペプチダーゼ、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus orizae)産生ペプチダーゼ、アスペルギルス・メレウス(Aspergillus melleus)産生ペプチダーゼ等を挙げることができる。かかるペプチダーゼを使用した酵素処理によれば、一段階酵素処理でタンパク質を低分子化することができるので、操作が簡便であるとともに、ローヤルゼリーに含まれる有用成分の生理活性の消失及び大幅な低減を防止することができるという利点がある。
【0031】
ローヤルゼリーに対するペプチダーゼの使用量は、使用するローヤルゼリー濃度、酵素力価、反応温度及び反応時間により異なり一概には言えない。一般的には、ローヤルゼリーに含まれるタンパク質1 g当り50~10000作用単位の割合でペプチダーゼを用いることが好ましい。なお、このとき、ペプチダーゼのローヤルゼリーへの添加は、一度に添加してもよく、少量ずつ分割して添加してもよい。
【0032】
ペプチダーゼ処理に際してローヤルゼリーのpHは、使用酵素の至適pHに対応して、pH2~12、好ましくはpH7.5~10、より好ましくはpH7.8~9の範囲から選択される。具体的には、前記ローヤルゼリーにペプチダーゼを添加する前に、使用酵素の種類によりpH2~12、好ましくはpH7.5~10、より好ましくはpH7.8~9の範囲内になるように、酸、アルカリ剤、あるいは緩衝剤の添加により所望のpHに調整される。この場合、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸等を;アルカリ剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等を;また、緩衝剤としては、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤等をそれぞれ例示することができる。
【0033】
ペプチダーゼ処理の温度は、特に制限はなく、ペプチダーゼ作用、好ましくはエンドペプチダーゼ作用、より好ましくはエンドペプチダーゼ作用及びエキソペプチダーゼ作用の両作用が発現する最適温度範囲を含む、実用に供せられ得る範囲、すなわち、通常30~70℃の範囲から選択される。温度をペプチダーゼの至適温度(好ましくは約40~55℃)より低温又は高温、例えば、50~60℃の範囲に維持することによりペプチダーゼ処理工程での腐敗を防止することもできる。ペプチダーゼ処理の時間は、使用酵素の種類、反応温度、pH等の反応条件に依存し、特に限定されない。
【0034】
なお、ローヤルゼリーは、そのまま、又は水に溶解若しくは分散させた状態でタンパク質分解酵素処理に供することができる。ローヤルゼリーが乾燥形態である場合は、水に溶解させた状態でタンパク質分解酵素処理に供することが好ましい。
【0035】
ペプチダーゼ処理の停止は、ペプチダーゼを失活又は除去することにより行う。失活操作は加熱処理(例えば、80℃で15分間等)により行うことができる。
【0036】
本発明における酵素分解ローヤルゼリーは、少なくとも前述するようにペプチダーゼで処理したローヤルゼリーであればよく、ペプチダーゼ処理だけでなく、その他の酵素との組み合わせ処理、例えば、ペプチダーゼ処理と合わせて糖分解酵素処理したローヤルゼリーも含まれる。
【0037】
本発明において使用されるペクチン(pectin)は、植物の細胞膜に多く含まれるものであって、主にレモン、ライム等の柑橘類から抽出される多糖類であり、ガラクチュロン酸とカルボキシル基がメチルエステル化されたガラクチュロン酸メチルエステルとがα-1,4結合により重合した多糖類である。ペクチンのエステル化度は特に制限されず、いずれのエステル化度のペクチンも使用することができる。また、ペクチンは常温の水に可溶である(http://sansho.co.jp/find/polthknr/pectin参照)。
【0038】
本発明において使用されるデキストリンとは、デンプンを酸、酵素、熱などで加水分解することで得られる多糖類である。デキストリンとしては、例えば、マルトデキストリン、デキストリン、シクロデキストリン、難消化性デキストリンなどが挙げられる。また、デキストリン当量(DE)は特に制限されず、いずれのDEを有するデキストリンも使用することができる。
【0039】
本発明において使用されるキサンタンガム(xanthan gum)は、キサントモナス・カンペストリスが生産する多糖類であり、グルコース、マンノース、及びグルクロン酸から構成される多糖類である。
【0040】
本発明において使用されるガラクトマンナンとは、D-ガラクトースとD-マンノースとから構成される多糖を広く意味する。具体的には、ガラクトマンナンは、β-1,4結合したマンノース残基の主鎖(マンナン)にガラクトース残基が側鎖としてα-1,6結合した構造を有する。なお、マンノース残基とガラクトース残基の割合は特に制限されない。
【0041】
また、本発明ではガラクトマンナンに代えて、又はこれと組み合わせて、ガラクトマンナンを含む多糖類を使用することもできる。当該多糖類としては、好適にはガラクトマンナンを主成分とする多糖類、具体的には、ローカストビーンガム、グアガム、タラガム、フェヌグリークガムなどが例示される。好ましくはローカストビーンガム、タラガム、及びフェヌグリークガムであり、より好ましくはローカストビーンガムである。なお、これらの多糖類は単独で、又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。
【0042】
ローカストビーンガムは、冷水に膨潤し40℃以上で一部溶解するが、80~85℃の加熱により完全溶解し、粘稠な水溶液となる(http://sansho.co.jp/find/polthknr/locustbeangum/参照)。
【0043】
本発明が対象とするガラクトマンナンを含む多糖類には、ガラクトマンナン並びにその構成糖であるD-ガラクトース及びD-マンノース以外に、例えばD-グルコース等の、他の糖を含む多糖類が含まれる。この場合、50%程度以上の割合で上記ガラクトマンナンを含み、残りの成分としてD-ガラクトースと、D-マンノースとそれ以外の糖を包含する多糖類であってもよい。
【0044】
本発明の酵素処理ローヤルゼリー組成物に含まれる上記多糖類(「ペクチン、デキストリン、キサンタンガム、ガラクトマンナン、及びガラクトマンナンを含む多糖類」のことを意味する。以下も同様)の割合は、酵素処理ローヤルゼリー組成物中に含まれる酵素処理ローヤルゼリー100質量部(固形分)あたり、これらの総量として、通常0.1~200質量部程度、1~100質量部程度、1~10質量部程度、370質量部以上又は90質量部以下である。かかる成分の配合量が少なすぎると着色抑制性が低下する。
【0045】
本発明の酵素処理ローヤルゼリー組成物に含まれる多糖類の割合は、多糖類の総量として、例えば、2.2質量%を超える量、2.5質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、又は10~90質量%である。
【0046】
本発明の酵素処理ローヤルゼリー組成物は、上記多糖類を、ローヤルゼリーのペプチダーゼ処理の前後、又は同時に添加することによって製造することができる。好ましくは、ローヤルゼリーのペプチダーゼ処理後、すなわち酵素処理ローヤルゼリーに添加混合することによって製造される。
【0047】
本発明の酵素処理ローヤルゼリー組成物は、その形態を特に制限せず、液状でも固体状でもよいが、凍結乾燥形態を有することが好ましい。当該凍結乾燥物は、上記多糖類を、ローヤルゼリーのペプチダーゼ処理の前後又は同時に、好ましくはペプチダーゼ処理後の酵素処理ローヤルゼリーに添加混合し、次いでこれを凍結乾燥処理に供することによって調製することができる。なお、凍結乾燥処理は定法に従って行うことができる。
【0048】
斯くして調製される本発明の酵素処理ローヤルゼリー組成物は、ドリンク剤、シロップ剤などの液剤の形態であってもよく、凍結乾燥物(例えば、凍結乾燥粉末)、あるいはこれに適当な添加剤を加えてタブレット、チュアブル錠、カプセル、顆粒などの形態とすることもできる。
【0049】
(2)酵素処理ローヤルゼリーの着色抑制方法
本発明の酵素処理ローヤルゼリーの着色抑制方法(又は着色抑制及び溶解性の向上方法)は、ローヤルゼリーのペプチダーゼ処理の前、同時又は後に、ペクチンを添加し、酵素処理ローヤルゼリーを上記ペクチンとの共存下におくことによって実施することができる。ペクチンとの共存下におくことで、高い溶解性が得られる。
【0050】
ここで対象とするローヤルゼリー、使用するペプチダーゼの種類及びペプチダーゼ処理、並びに使用するペクチンについては、(1)に前述の通りである。
【0051】
また、酵素処理ローヤルゼリーの着色抑制方法(又は着色抑制及び溶解性の向上方法)は、ペプチダーゼで処理された酵素処理ローヤルゼリーに、ペクチンを添加して、酵素処理ローヤルゼリーと上記ペクチンとの共存下で凍結乾燥処理することによっても実施することができる。ペクチンとの共存下におくことで、高い溶解性が得られる。
【0052】
当該方法によって得られる凍結乾燥物は、酵素処理ローヤルゼリーを着色抑制(又は着色抑制及び溶解性が向上)した状態で含む本発明において好適な酵素処理ローヤルゼリー組成物である。凍結乾燥処理も(1)に記載する方法で実施することができる。
【実施例
【0053】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0054】
製造例
中国産生ローヤルゼリー500 gを2000 mLビーカーに量りとり、イオン交換水250 mLを加えて均一になるまで攪拌してローヤルゼリー希釈液を調製した。これに2N NaOH水溶液を加えてローヤルゼリー希釈液のpHを8.6~8.9に調整した。次に、エキソプロテアーゼ作用及びエンドプロテアーゼ作用の両方を有するペプチダーゼ5 gをイオン交換水50 mLに溶かした溶液を上記のローヤルゼリー希釈液に加え、更にイオン交換水を、イオン交換水の全量が500 mLになるように加えた。反応混合物をプロペラで撹拌しながら50~55℃(恒温水槽)で2時間反応させて、加水分解を行った。次いで、恒温水槽の温度を80℃に上げて15分間加熱し酵素を失活させた後、酵素処理ローヤルゼリー(溶液)を得た。この酵素処理ローヤルゼリー137 gを300 mLビーカーに量りとり、これに、下記に示す処方に従って、表1に示す多糖類を0.9 g及び結晶セルロースを1.7 g加えて均一になるまで攪拌した。これを凍結乾燥し、酵素処理ローヤルゼリー組成物(凍結乾燥物)を得た(凍結乾燥物中の多糖類の含量3.1質量%:酵素処理ローヤルゼリー100質量部(固形分)に対する多糖類の質量:3.4質量部)。
【0055】
(処方)
酵素処理ローヤルゼリー溶液 137 g
多糖類 0.9 g
結晶セルロース 1.7 g
【0056】
試験例1:着色抑制性
実施例及び比較例の多糖類入り酵素処理ローヤルゼリー組成物を、それぞれ「35℃、湿度75%RH条件」の気密条件下、暴露条件下に放置し、24時間後に色調を測定し、色調の変化を判定することで安定性(着色抑制性)を評価した。なお、「35℃、湿度75%RH条件」には、恒温恒湿器を利用して調整した。
・測定装置:分光式色差計SE-2000
・使用ソフト:カラーメイト4
・色調変化の測定法:明度の減少率(-ΔL*)、赤色の増加率(Δa*)、黄色の増加率(Δb*)の3要素から、下式に従って色差(ΔE* ab)を算出した。色調変化の判定は、下式に従って、着色抑制率(%)を算出することで行った。
・色差(ΔE* ab)=[(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2]1/2
・着色抑制率(%)=[1-(多糖類の色差)/(ローカストビーンガムの色差)]×100
【0057】
試験結果を表1に示す。その結果、表1に示すように、ペクチンを配合して多糖類入りの酵素処理ローヤルゼリー組成物とすることで、ローカストビーンガムを配合した時以上に酵素処理ローヤルゼリーの着色化が抑えられることが判明した。
【0058】
【表1】
【0059】
試験例2:溶解性
製造例で作製した酵素処理ローヤルゼリー137 gを300 mLビーカーに量りとり、これに、下記に示す処方に従って、表2に示す多糖類を0.9 g及び結晶セルロースを1.7 g加えて均一になるまで攪拌した。溶解時間を記録し溶解性を確認した。
(処方)
酵素処理ローヤルゼリー溶液 137 g
多糖類 0.9 g
結晶セルロース 1.7 g
【0060】
試験結果を表2に示す。その結果、表2に示すように、ペクチンを配合して多糖類入りの酵素処理ローヤルゼリー組成物とすることで、ローカストビーンガムを配合した時と比べて溶解性が高いことが判明した。
【0061】
【表2】