(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】ポリエステル系フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230920BHJP
C08G 63/183 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
C08G63/183
(21)【出願番号】P 2020549307
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2019037662
(87)【国際公開番号】W WO2020067193
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2018184650
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019054872
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019069490
(32)【優先日】2019-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】赤松 謙
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 彰子
(72)【発明者】
【氏名】芦原 宏
(72)【発明者】
【氏名】加藤 万琴
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-066405(JP,A)
【文献】国際公開第2018/150997(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-63/91
C08L 67/00-67/08
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂を含むポリエステル系フィルムであって、
(1)ポリエステル樹脂は、酸成分としてテレフタル酸を含有し、グリコール成分としてエチレングリコールを含有し、
(2)融点が155~210℃であり、
(3)密度が1.320~1.380であり、
(4)下式(1):
厚み斑A(%)=[(Tmax-Tmin)/Tave]×100 …(1)
(ただし、Tmaxはポリエステルフィルム4方向(0°、45°、90°及び135°)における最大厚みを示し、Tminはポリエステルフィルム4方向(0°、45°、90°及び135°)における最小厚みを示し、Taveはポリエステルフィルム4方向(0°、45°、90°及び135°)における平均厚みを示す。)
にて算出した厚み斑Aが10%以下であり、
(5)シーラントのために用いられる、
ことを特徴とする延伸ポリエステル系フィルム。
【請求項2】
ガラス転移温度が30~68℃である、請求項1に記載の延伸ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
伸長時破断強度が110MPa以上である、請求項1又は2に記載の延伸ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
TD及びMD方向の乾熱収縮率がいずれも6.0%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。
【請求項5】
突刺強度が0.50N/μm以上である、請求項1~4のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。
【請求項6】
120℃×10日間の熱処理後におけるシール強度が4.5N/cm以上である、請求項1~5のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。
【請求項7】
グリコール成分として1,4-ブタンジオールをさらに含有する、請求項1~6のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。
【請求項8】
前記ポリエステル樹脂において、
(a)テレフタル酸は、前記ポリエステル樹脂中の全酸成分の合計量100mol%中に80~100mol%含有し、
(b)エチレングリコールは、ポリエステル樹脂中の全グリコール成分の合計量100mol%中に10~85mol%含有する、
請求項1~7のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルムと他の層とを含み、かつ、前記延伸ポリエステル系フィルムが最外層に配置されていることを特徴とする積層フィルム。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルムを含む包装体であって、
包装体中に内容物が充填された状態で延伸ポリエステル系フィルムどうしがヒートシールされている包装体。
【請求項11】
包装体内部が真空である、請求項10に記載の包装体。
【請求項12】
内容物として繊維状物質を含み、包装体が断熱材として用いられる請求項10又は11に記載の包装体。
【請求項13】
ポリエステル樹脂を含む未延伸シートから請求項1~8のいずれかに記載のポリエステル系フィルムを製造する方法であって、
シートの流れ(MD)方向の延伸倍率(X)とシートの巾(TD)方向の延伸倍率(Y)との積である面倍率(X×Y)が9.8~12.0又は12.0~16.5を満た
し、かつ、
(1)延伸温度が
(1a)同時二軸延伸の場合は、35~110℃、
(1b)逐次二軸延伸の場合は、MDの延伸は40~63℃、TDの延伸は55~90℃
(2)MD延伸倍率(X)とTD延伸倍率(Y)との延伸倍率比(X/Y)が、
(2a)同時二軸延伸の場合は、0.90~1.15
(2b)逐次二軸延伸の場合は、0.70~0.90
となるように前記未延伸シートを延伸する工程
を含むことを特徴とするポリエステル系フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記の延伸が同時二軸延伸である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
延伸を行うに先立って、予め未延伸シートをMD方向に1.05~1.20倍で延伸する予備延伸工程をさらに含む、請求項13又は14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にシーラントフィルム等に好適に用いることができる延伸ポリエステル系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品をはじめ、医薬品、工業製品に代表される流通物品の多くに用いられる包装材として、延伸フィルムを基材フィルムとし、これにシーラントフィルムをラミネートして得られた積層フィルムが用いられている。
【0003】
シーラントフィルムに用いる樹脂としては各種の合成樹脂が採用されているが、その中でもヒートシール強度、材質そのものの強度等の高さからポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン/ポリプロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂が広く使用されている。
【0004】
しかしながら、ポリオレフィン系樹脂からなるシーラントフィルムは、基材フィルムとのラミネート強度が低いことに加え、油脂、香料等の有機化合物からなる成分を吸着しやすい欠点がある。このため、医薬品、医薬部外品、化粧品、一般化学物質(洗剤等)等の包装には、ポリオレフィン系樹脂からなるシーラント層の使用は適さない場合がある。
【0005】
このような問題を解決するものとして、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で構成され、特定の要件を満たすことを特徴とするシーラント用途のポリエステル系フィルムが提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0006】
しかしながら、特許文献1のポリエステル系フィルムは、熱収縮率が高く、高温環境下に放置するとシーラントフィルムが収縮し、元の形状を保てなくなる場合がある。特許文献2のポリエステル系フィルムにおいても、高温環境下で長期間使用した際にシール強度を十分に保持することができない場合がある。
【0007】
また、近年では、建材等に使用される断熱材のように、非食品分野においてシーラントフィルムを使用するケースも増加しつつある。一般に、このような断熱材は、ガラスウール等のコア材を外装材の内部に封入されたものである。この場合、より高い断熱性を得るため、内部を真空排気した密閉構造を有するものもある。このような真空断熱材は、断熱性を長期間保持するために、その内部を長期間にわたって真空状態を維持しておく必要がある。よって、真空断熱材の外装材はガスバリア性と耐ピンホール性がともに優れていることが必要とされる。
【0008】
真空断熱材の外装材は、コア材を封入する外装材(袋体)の最内面にシーラントフィルムを用い、シーラントフィルムの一部を溶融して融着させることでコア材を密封する。他方、シーラントフィルムの溶融した領域以外のシーラントフィルムは、コア材と接触することとなるため、コア材に対する耐ピンホール性を有していることが必要である。コア材で通常使用されるガラスウール等の繊維状物質は、その端部が針のように突き刺す力をもっているため、外装材に突き刺さると真空状態を維持できなくなる。
【0009】
このように、断熱材(特に真空断熱材)の外層材として使用するシーラントフィルムには、シール領域では高温環境下で長期間使用した際にシール強度を十分に保持することができる性能と、非シール領域では優れた耐ピンホール性とを併せ有することが要求される。しかしながら、このような両性能を兼ね備えたシーラントフィルムは、未だ開発されているに至っていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開WO2014/175313号
【文献】特開2017-165059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の主な目的は、上記のような問題点を解決し、特に、高温環境下で長期間使用してもシール強度を保持することができるとともに、高い突刺強度を有し、ピンホール発生が抑制されたシーラントフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の製法によって特性値を有する延伸ポリエステル系フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記のポリエステル系フィルム及びその製造方法に係る。
1. ポリエステル樹脂を含むポリエステル系フィルムであって、
(1)ポリエステル樹脂は、酸成分としてテレフタル酸を含有し、グリコール成分としてエチレングリコールを含有し、
(2)融点が155~210℃であり、
(3)密度が1.320~1.380である、
ことを特徴とする延伸ポリエステル系フィルム。
2. ガラス転移温度が30~70℃である、前記項1に記載の延伸ポリエステル系フィルム。
3. 下式(1):
厚み斑A(%)=[(Tmax-Tmin)/Tave]×100
…(1)
(ただし、Tmaxはポリエステルフィルム4方向(0°、45°、90°及び135°)における最大厚みを示し、Tminはポリエステルフィルム4方向(0°、45°、90°及び135°)における最小厚みを示し、Taveはポリエステルフィルム4方向(0°、45°、90°及び135°)における平均厚みを示す。)
にて算出した厚み斑Aが10%以下である、前記項1又は2に記載の延伸ポリエステル系フィルム。
4. 伸長時破断強度が110MPa以上である、前記項1~3のいずかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。
5. TD及びMD方向の乾熱収縮率がいずれも6.0%以下である、前記項1~4のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。
6. 突刺強度が0.50N/μm以上である、請求項1~5のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。
7. 120℃×10日間の熱処理後のシール強度が4.5N/cm以上である、前記項1~6のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。
8. グリコール成分として1,4-ブタンジオールをさらに含有する、前記項1~7のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。
9. 前記ポリエステル樹脂において、
(a)テレフタル酸は、前記ポリエステル樹脂中の全酸成分の合計量100mol%中に80~100mol%含有し、
(b)エチレングリコールは、ポリエステル樹脂中の全グリコール成分の合計量100mol%中に10~85mol%含有する、
前記項1~8のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。
10. シーラントのために用いられる、前記項1~9のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルム。
11. 前記項1~10のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルムと他の層とを含み、かつ、前記延伸ポリエステル系フィルムが最外層に配置されていることを特徴とする積層フィルム。
12. 前記項1~10のいずれかに記載の延伸ポリエステル系フィルムを含む包装体であって、包装体中に内容物が充填された状態で延伸ポリエステル系フィルムどうしがヒートシールされている包装体。
13. 包装体内部が真空である、前記項12に記載の包装体。
14. 内容物として繊維状物質を含み、包装体が断熱材として用いられる前記項12又は13に記載の包装体。
15. ポリエステル樹脂を含む未延伸シートから前記項1~10のいずれかに記載のポリエステル系フィルムを製造する方法であって、
シートの流れ(MD)方向の延伸倍率(X)とシートの巾(TD)方向の延伸倍率(Y)との積である面倍率(X×Y)が9.8~12.0又は12.0~16.5を満たすように前記未延伸シートを延伸する工程を含むことを特徴とするポリエステル系フィルムの製造方法。
16. 前記の延伸が同時二軸延伸である、前記項15に記載の製造方法。
17. 延伸を行うに先立って、予め未延伸シートをMD方向に1.05~1.20倍で延伸する予備延伸工程をさらに含む、前記項15又は16に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高温環境下で長期間使用しても高いシール強度を保持することができるとともに、高い突刺強度を有し、ピンホール発生が抑制されたシーラントフィルムを提供することができる。特に、本発明のフィルムは、特定のフィルム特性値を満足するものであるため、高温環境下で長期間使用しても、優れた耐ピンホール性及び耐ブロッキング性を効果的に発揮することができる。
【0015】
このような特徴を有する本発明のポリエステル系フィルムは、特に上記のような物性が要求される各種の用途に好適に用いることができる。例えば、食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、洗剤、電子部品等の各種製品の包装材料(外装材等)として使用できるほか、断熱材の構成部材としても有効に利用することができる。より具体的には、建材をはじめ、例えば冷蔵庫、冷凍庫、冷凍コンテナ、自動販売機、ショーケース、クーラーボックス、ポット、エアコン室外機等に用いられる断熱材(特に真空断熱材)の包装材として利用することができる。断熱材として利用する場合は、コア材(例えばガラスウール等の繊維状物質)を外装材で密閉包装されてなる包装体の内面(コア材と直に接触する面)を構成するシーラント層(すなわち、外装材のシーラント層)として効果的に用いることができる。特に、コア材を包装した包装体内部が真空になっている真空断熱材の当該包装体内面を構成するシーラント層としても有利に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のポリエステル系フィルムを含む積層フィルムの構成例を示す模式図である。
【
図2】本発明のポリエステル系フィルムを含む積層フィルムを用いた袋体の模式図である。
【
図3】本発明のポリエステル系フィルムを含む積層フィルムを用いた袋体に繊維状物質が包装された状態を示す模式図である。
【
図4】本発明のポリエステル系フィルムを含む積層フィルムを用いた袋体の模式図である。
【
図5】本発明のポリエステル系フィルムを含む積層フィルムを用いた袋体に繊維状物質が包装された状態を示す模式図である。
【
図6】試験例1の伸長時破断強度の測定において、測定用の試料のサンプリング方法を示す概略図である。
【
図7】試験例1の厚み斑の測定において、測定用の試料のサンプリング方法を示す概略図である。
図7では、MDから時計回りに45度の方向を測定する場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.ポリエステル系フィルム
本発明のポリエステル系フィルム(本発明フィルム)は、ポリエステル樹脂を含むポリエステル系フィルムであって、
(1)ポリエステル樹脂は、酸成分としてテレフタル酸を含有し、グリコール成分としてエチレングリコールを含有し、
(2)融点が155~210℃であり、
(3)密度が1.320~1.380である、
ことを特徴とする。
【0018】
1-1.本発明フィルムの材質・組成
本発明フィルムには主成分として特定のポリエステル樹脂(本発明ポリエステル樹脂)が含まれるが、本発明フィルム中における本発明ポリエステル樹脂の含有率は通常70質量%以上であり、特に80質量%以上であることが好ましく、その中でも90質量%以上であることが最も好ましい。前記含有率の上限値は、特に限定されないが、通常は100質量%程度とすることができる。従って、前記含有量は、例えば95~100質量%の範囲内に設定することもできる。また、本発明フィルムは、本発明の効果を妨げない範囲内で他の成分が必要に応じて含まれていても良い。
【0019】
a)本発明ポリエステル樹脂
本発明ポリエステル樹脂は、当該樹脂中の全酸成分の合計量を100mol%中にテレフタル酸を80~100mol%含有していることが好ましく、90~100mol%含有していることがより好ましい。テレフタル酸含有量が全酸成分の80mol%未満であると、結晶性が低下する傾向にあり、融点を有さなくなるほか、密度が低くなる傾向にある。また、樹脂の十分な乾燥が困難となり、製膜工程上のトラブルが生じたり、高温環境下にてシール強度が低下することがある。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂における、テレフタル酸以外の酸成分としては、特に限定されず、例えばイソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸、4-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトン、乳酸等が挙げられる。また、これらの共重合成分は2種以上併用しても良い。その中でも、好ましいガラス転移温度範囲の観点から、イソフタル酸を含むことが好ましい。
【0021】
本発明ポリエステル樹脂は、グリコール成分としてエチレングリコールを含有する。エチレングリコールの含有量は、限定的ではないが、通常は当該樹脂中の全グリコール成分の合計量100mol%中10~85mol%であることが好ましく、特に20~80mol%であることがより好ましく、その中でも30~70mol%であることが最も好ましい。エチレングリコールの含有量が全グルコール成分の10mol%未満となる場合又は85mol%を超える場合、融点が高くなり、ヒートシールが困難となる場合があるほか、シール強度が低下する場合がある。
【0022】
また、本発明ポリエステル樹脂では、グリコール成分として1,4-ブタンジオールをさらに含むことが好ましい。1,4-ブタンジオールの含有量は、限定的ではないが、当該樹脂中の全グリコール成分の合計量100mol%中15~90mol%であることが好ましく、特に20~80mol%であることがより好ましく、その中でも30~70mol%であることが最も好ましい。1,4-ブタンジオールの含有量が全グルコール成分の15mol%未満となる場合又は90mol%を超える場合は、融点が高くなり、ヒートシールが困難となる場合があるほか、シール強度が低下することがある。
【0023】
本発明ポリエステル樹脂では、本発明の効果を妨げない範囲内において、エチレングリコール及び1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分を含んでいても良い。このようなグリコール成分としては、例えば1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の脂肪族グリコール、ポリエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコール等が挙げられる。グリコール以外の多価アルコールとして、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオール等が挙げられる。また、ヒドロキノン、4,4′-ジヒドロキシビスフェノール、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5-ナフタレンジオール等のフェノール類が挙げられる。
【0024】
本発明ポリエステル樹脂の製造方法
本発明ポリエステル樹脂の製造方法は、特に限定されず、本発明ポリエステル樹脂の組成以外は、公知のポリエステル樹脂の製造条件を採用することもできる。
【0025】
特に、本発明では、例えば1)エステル化合物、酸成分及びグリコール成分を含む原料を220~280℃の温度でエステル化又はエステル交換反応を行うことによりエステル化反応物を得る工程(第1工程)、2)エステル化反応物にグリコール成分を加え、減圧下で230~280℃の温度で重縮合反応を行う工程(第2工程)を含む製造方法によって好適に製造することができる。
【0026】
また、上記の製造方法では、目的又は用途に応じて、第2工程の後において、3)重縮合反応により得られたポリマーに酸成分又はグリコール成分を添加し、220~280℃の温度で解重合反応を行う工程(第3工程)をさらに含む方法も採用することができる。以下、各工程について説明する。
【0027】
第1工程
第1工程では、エステル化合物、酸成分及びグリコール成分を含む原料を220~280℃の温度でエステル化又はエステル交換反応を行うことによりエステル化反応物を得る。
【0028】
エステル化合物としては、特に限定されないが、例えばビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレートを好適に用いることができ。また、これらのエステル化合物は、モノマーの形態であっても良いが、オリゴマー等であっても良い。酸成分及びグリコール成分としては、前記で示したものをそれぞれ使用することができる。
【0029】
酸成分とグリコール成分との配合割合は、所望のエステル化反応生成物が得られるように、両者の反応量論比付近であれば特に限定されないが、通常はモル比で酸成分:グリコール成分=1:0.9~1.1程度の範囲内とすれば良い。
【0030】
反応温度は、通常は220~280℃程度、好ましくは250~280とすれば良い。また、圧力は、限定的ではないが、減圧下とすることが好ましい。例えば0.01~13.3hPa程度とすることができる。反応時間は、反応温度等により適宜設定でき、例えば8時間程度(一例として7~9時間程度)で所定の極限粘度とすることができる。
【0031】
第2工程
第2工程では、エステル化反応物にグリコール成分を加え、減圧下で230~280℃の温度で重縮合反応を行う。
【0032】
添加するグリコール成分としては、第1工程で使用した残りのグリコール成分を全て用いる。第1工程及び第2工程におけるグリコール成分の振り分け方は、特に限定されないが、エステル化反応物と各グリコール成分の反応を効率良く反応させるために、用いるグリコール成分ごとに工程を分けて反応させることが好ましい。例えば、グリコール成分として、エチレングリコールと1,4-ブタンジオールを用いる場合は、第1工程でエステル化反応物にエチレングリコールを添加し、第2工程で1,4-ブタンジオールを添加することができる。また、その逆の形態として、第1工程でエステル化反応物に1,4-ブタンジオールを添加し、第2工程でエチレングリコールを添加することもできる。
【0033】
重縮合反応は、通常は重縮合触媒の存在下で行うことが望ましい。前記触媒としては、一般的な重縮合反応で使用されているものと同様のものを使用できる。例えば、チタン、アンチモン、ゲルマニウム、スズ、コバルト等の金属の化合物が用いられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。本発明では、これらの中でもチタン化合物が好ましい。
【0034】
反応温度は、通常は230~280℃程度、好ましくは250~280℃とすれば良い。また、圧力は、減圧下とすれば良く、特に13.3hPa程度の減圧下とすることが好ましく、特に0.01~5hPaとすることがより好ましい。反応時間は、反応温度等により適宜設定でき、例えば4時間程度(一例として3~5時間程度)で所定の極限粘度とすることができる。
【0035】
第3工程
第3工程では、重縮合反応により得られたポリマーに酸成分又はグリコール成分を添加し、220~280℃の温度で解重合反応を行う。この場合も、第2工程の場合と同様、重縮合触媒を用いることが好ましい。
【0036】
b)本発明ポリエステル樹脂以外の成分
本発明フィルム中には本発明の効果を妨げない範囲内で他の成分が含まれていても良い。例えばポリエステル樹脂以外の樹脂成分のほか、滑剤、耐屈曲ピンホール性改良剤、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、帯電防止剤の添加剤を1種あるいは2種以上を含んでいても良い。
【0037】
特に、本発明フィルムは、その特性を損なわない範囲で、酸化防止剤を含有していることが好ましい。例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤として、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,1,3-トリ(4-ヒドロキシ-2-メチル-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,1-ビス(3-t-ブチル-6-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタン、3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-ベンゼンプロパノイック酸、ペンタエリトリチルテトラキス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-5-メチル-ベンゼンプロパノイック酸、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニロキシ]エチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が挙げられる。リン系酸化防止剤として、3,9-ビス(p-ノニルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジフォスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(オクタデシロキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジフォスファスピロ[5.5]ウンデカン、トリ(モノノニルフェニル)フォスファイト、トリフェノキシフォスフィン、イソデシルフォスファイト、イソデシルフェニルフォスファイト、ジフェニル2-エチルヘキシルフォスファイト、ジノニルフェニルビス(ノニルフェニル)エステルフォスフォラス酸、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジトリデシルフォスファイト-5-t-ブチルフェニル)ブタン、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、ペンタエリスリトールビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニルフォスファイト)、2,2′-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルフォスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト等が挙げられる。チオエーテル系酸化防止剤として、4,4′-チオビス[2-t-ブチル-5-メチルフェノール]ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオネート]、チオビス[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-メチル-4,1-フェニレン]ビス[3-(テトラデシルチオ)-プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス(3-n-ドデシルチオプロピオネート)、ビス(トリデシル)チオジプロピオネートが挙げられる。酸化防止剤は単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0038】
また、本発明フィルムは、滑剤を含むことが好ましい。滑剤としては、無機滑剤又は有機滑剤のいずれでも良いが、特に無機滑剤を用いることが好ましい。無機滑剤としては、限定的ではなく、例えばシリカ、アルミナ、カオリン等の無機滑剤(粉末)が挙げられる。無機滑剤を含有させることによって、フィルム表面にスリップ性を付与することができるため、製造時の工程通過性を良好にすることができる。
【0039】
各種の添加剤を添加する方法としては、特に制限されず、例えばa)原料とするポリエステル樹脂中に含有させて添加する方法、b)押出機に直接添加する方法等を挙げることができ、このうちいずれかの一方の方法を採用しても良く、2つ以上の方法を併用しても良い。
【0040】
特に無機滑剤を添加する場合、製膜前(特に溶融時)の段階で添加することが好ましい。例えば、a)ポリエステル樹脂の重合時にスラリー又は粉体の形態で添加する方法、b)溶融押出し、シート化する際にポリエステルペレットとともにスラリー又は粉体の形態で溶融混合する方法、c)ポリエステルペレットと無機滑材を溶融混合した無機滑材を含有するマスターバッチを作製し、溶融押出し、シート化する際にマスターバッチをポリエステルペレットとともに溶融押出する方法等が挙げられる。このように、延伸前の段階で無機滑剤を配合した場合、得られるフィルムの熱伝導率が低くなる傾向にある。その理由は、定かではないが、以下の機序によるものと考えられる。すなわち、延伸工程において、ポリエステル樹脂が延伸される一方、無機滑剤(無機粒子)は延伸に追従しにくいため、延伸される樹脂部分と、延伸追従しにくい無機粒子部分との間に微細なボイド部(空間)が形成される結果、当該ボイド部が空気層と同様の熱伝導率と考えられるため、他の樹脂部よりも熱伝導率が低くなる。そのため、ボイドが生成されない有機滑剤に比べ、フィルムの熱伝導率が低くなると考えられる。
【0041】
これらの添加剤の含有量は、特に限定されず、前記で示した本発明ポリエステル樹脂の含有量を満たす範囲内において、添加剤の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0042】
1-2.本発明フィルムの物性
本発明フィルムは、延伸フィルム(特に二軸延伸フィルム)であることが好ましい。すなわち、特定の方向に配向した構造を有するフィルムがあることが望ましい。このような構造は、後記に示す製造方法で好適に形成することができる。
【0043】
また、本発明フィルムは、以下に示すような各物性をそれぞれ有することが望ましい。
【0044】
本発明フィルムの融点(Tm)は、通常155~210℃であり、特に160~200℃であることが好ましく、その中でも165~195℃であることが最も好ましい。融点が155℃未満であると、伸長時破断強度、突刺強度等が低下するおそれがある。融点が210℃を超えると、シール強度等が低下する傾向にある。
【0045】
本発明フィルムの密度は、通常1.320~1.380g/cm3であり、特に1.325~1.370g/cm3であることが好ましく、その中でも1.330~1.365g/cm3であることがより好ましく、1.330~1.350g/cm3であることが最も好ましい。本発明フィルムの密度が1.320g/cm3未満であると、結晶化が低く、突刺強度が低下し、ピンホールが発生しやすくなる。一方、ポリエステル系フィルムの密度が1.380g/cm3を超えると、高温環境下でのシール強度が低下し、さらには突刺強度も低下する。
【0046】
本発明フィルムのガラス転移温度(Tg)は、フィルムの耐ブロッキング性、突刺強度向上の観点から30~68℃程度であることが好ましく、その中でも40~60℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が30℃未満では、突刺強度の低下、耐ブロッキング性の低下等を引き起こす場合がある。一方、ガラス転移温度が68℃を超えると、突刺強度の低下等を引き起こす場合がある。なお、ガラス転移温度は、例えばポリエステル樹脂の共重合成分を変えることにより適宜調整可能である。
【0047】
本発明フィルムの伸長時破断強度は、通常は90MPa以上が好ましく、特に100MPa以上であることが好ましく、その中でも110MPa以上であることが最も好ましい。ポリエステル系フィルムの伸長時破断強度が90MPa未満では、十分なシール強度が得られない場合がある。
【0048】
本発明フィルムの乾熱収縮率は、MD方向及びTD方向のいずれにおいても6.0%以下であることが好ましく、特に5.5%以下であることがより好ましく、その中でも4.5%以下であることが最も好ましい。乾熱収縮率が6.0%を超えると、ヒートシールした際にフィルムが収縮してしまい、包装体の品位が低下しやすくなる。上記乾熱収縮率の下限値は、特に限定されないが、例えば-0.5%程度とすることができる。なお、MD方向及びTD方向の乾熱収縮率は、互いに同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0049】
本発明フィルムの突刺強度は、通常0.40N/μm以上であることが好ましく、特に0.50N/μm以上であることがより好ましく、その中でも0.55N/μm以上であることが最も好ましい。突刺強度が0.40N/μm未満では、ガラスウール等の内容物を封入した際に、フィルムにピンホールが発生しやすくなり、例えば真空断熱材用途のように耐ピンホール性が必要な用途には不向きとなるおそれがある。上記突刺強度の上限値は、特に限定されないが、例えば1.0N/μm程度とすることができる。
【0050】
本発明フィルムのシール強度は4.5N/cm以上であることが好ましく、5.0N/cm以上であることがより好ましく、その中でも7.0N/cm以上であることが最も好ましい。4.5N/cm未満では十分なシール強度が得られず、内容物を封入した際にシール部分の剥離が発生するおそれがある。上記シール強度の上限値は、特に限定されないが、例えば60.0N/cm程度とすることができる。なお、シール強度は、後記の試験例に示すように、ポリエステル系フィルムを含む積層フィルムを試験片として用いた結果を示す。
【0051】
本発明フィルムは、高温環境下で長期間使用してもシール強度を保持することができることを示す指標として、120℃雰囲気下で10日間保存した後のシール強度が4.0N/cm以上であることが好ましく、特に5.0N/cm以上であることがより好ましく、その中でも6.0N/cm以上であることが最も好ましい。上記シール強度の上限値は、特に限定されないが、例えば50.0N/cmとすることができる。
【0052】
本発明フィルムの厚みは、限定的ではないが、通常は5~40μm程度とし、特に10~35μmとすることが好ましく、その中でも15~35μmとすることが最も好ましい。厚みが5μm未満では、所望のシール強度を発現させることが難しくなるおそれがある。また、厚みが40μmを超える場合は、真空断熱材用途に用いる際に厚み由来の伝熱量が大きくなってしまい、真空断熱材用途に適さなくなることがある。
【0053】
本発明フィルムは、厚み精度(厚みの均一性)が非常に高いものであることを示す指標として、フィルム面の4方向における下式にて算出した厚み斑が10%以下であることが好ましく、特に8%以下であることがより好ましく、その中でも7%以下であることが最も好ましい。なお、その下限値は、例えば3%程度とすることができるが、これに限定されない。
厚み斑(%)=[(Tmax-Tmin)/Tave]×100
Tmax:ポリエステルフィルム4方向における最大厚み
Tmin:ポリエステルフィルム4方向における最小厚み
Tave:ポリエステルフィルム4方向における平均厚み
【0054】
上記で算出した厚み斑が10%以下である場合、フィルム表面の厚みのバラツキが非常に小さいものとなり、例えば真空断熱材として使用する場合においても長期間良好なシール強度を維持できる。厚み斑が10%を超える場合、厚み精度が低いため、シール強度が部分的に弱い個所ができ、真空断熱材として長期間の使用に適さなくなるおそれがある。
【0055】
なお、上記フィルム面の4方向とは、任意の点Aから特定の方向を0度とし、その方向に対して時計回りに45°、90°、135°の方向をいう。その中でも、フィルムの流れ方向(MD)を0°とすることが好ましい。
【0056】
2.本発明フィルムの製造方法
本発明フィルムの製造方法は、特に制限されないが、例えば以下の方法によって、前記のような物性をもつフィルムをより確実に製造することができる。
【0057】
すなわち、ポリエステル樹脂を含む未延伸シートからポリエステル系フィルムを製造する方法であって、シートの流れ(MD)方向の延伸倍率(X)とシートの巾(TD)方向の延伸倍率(Y)との積である面倍率(X×Y)が9.8~12.0又は12.0~16.5を満たすように前記未延伸シートを延伸する工程を含むことを特徴とするポリエステル系フィルムの製造方法を好適に採用することができる。
【0058】
ポリエステル樹脂を含む未延伸シートは、例えばポリエステル樹脂を含む溶融混練物をシート状に成形することにより未延伸シートを好適に得ることができる。
【0059】
溶融混練物は、本発明ポリエステル樹脂のほか、必要に応じて各種の添加剤を配合することもできる。添加剤は、前記で説明したようなものが挙げられる。
【0060】
溶融混練物の成形方法自体は、公知の方法に従って実施すれば良い。例えば、加熱装置を備えた押出機にポリアミド樹脂を含む原料を投入し、所定温度に加熱することによって溶融させた後、その溶融混練物をTダイにより押し出し、キャスティングドラム等により冷却固化させることによってシート状の成形体である未延伸シートを得ることができる。
【0061】
未延伸シートの平均厚みは特に限定されないが、一般的には100~750μm程度とし、延伸後のフィルムの厚み斑低減の観点で、特に150~500μmとすることが好ましく、200~400μmとすることがより好ましい。このような範囲内に設定することによって、より効率的に延伸工程を実施することができる。
【0062】
次いで、前記の未延伸シートを延伸工程に供する。延伸は、一軸延伸又は二軸延伸のいずれでも良いが、前記したフィルムの4方向における厚み斑の低減等の観点から、二軸延伸であることが好ましい。この場合、二軸延伸法としては、同時二軸延伸法又は逐次二軸延伸法のいずれも採用することができる。
【0063】
同時二軸延伸では、例えばテンターを用いて未延伸シートの両端を把持し、シートの流れ方向(MD方向)に延伸すると同時に巾方向(TD方向)にも延伸する方法が挙げられる。同時二軸延伸法によって、フィルムの4方向における厚みがより均一な延伸フィルムを得ることが可能となる。
【0064】
逐次二軸延伸法では、例えばMD及びTDの少なくとも一方向をテンターにより延伸することが好ましい。これにより、より均一なフィルム厚みを得ることが可能となる。テンターを用いる逐次二軸延伸は、(1)回転速度が異なる複数のロールに未延伸シートを通過させることによりMDに延伸した後、その延伸されたフィルムをテンターによりTDに延伸する方法、(2)未延伸シートをテンターによりMDに延伸した後、その延伸されたフィルムをテンターによりTDに延伸する方法等がある。得られるフィルムの物性、生産性等の点で前記(1)の方法が特に好ましい。テンターを用いる逐次二軸延伸は、MDをロールによって延伸することから生産性、設備面等において有利であり、TDをテンターによって延伸することからフィルム厚みの制御等において有利となる。
【0065】
また、本発明では、上記のような同時二軸延伸又は逐次二軸延伸に先立って、未延伸シートを予めMD方向に延伸(予備延伸)を施しておくことが望ましい。予備延伸の延伸倍率は、限定的ではないが、通常1.05~1.20倍程度とし、特に1.10~1.20倍とすることがより好ましく、その中でも1.10~1.15倍とすることが最も好ましい。予備延伸倍率が低すぎると、二軸延伸(特に同時二軸延伸)により付与する配向が弱くなり、厚み斑が大きくなり、フィルム4方向において均一な物性(例えば、フィルム4方向における引張強度)のフィルムを得ることが難しくなる。予備延伸倍率が大きすぎると、二軸延伸時(特に同時二軸延伸時)の延伸応力が強くなりすぎるため、結晶化度の調整が難しくなり、本発明で規定する範囲の密度にコントロールすることが困難となることがある。
【0066】
上記の予備延伸の場合の延伸温度は、特に限定されないが、通常は35~110℃の範囲内で適宜設定することができるが、特に40~100℃とすることが好ましく、その中でも50~90℃とすることが最も好ましい。
【0067】
同時二軸延伸又は逐次二軸延伸における具体的な延伸条件としては、特に限定されないが、特に以下の(A),(B)ように設定することが望ましい。特に、本発明では、得られる延伸フィルムの厚み斑をより少なくできるという点で下記(A)の同時二軸延伸を採用することが好ましい。
【0068】
(A)同時二軸延伸の場合
同時二軸延伸する際の延伸倍率は、MD延伸の各段における延伸倍率の積で表されるMD延伸倍率(X)及びTD延伸倍率(Y)が、面倍率(X×Y)=9.8~12.0(好ましくは9.8~11.0)を満たすように延伸する。これにより、所定のフィルム密度等を満たす延伸フィルムをより確実に得ることができる。
【0069】
また、MD延伸倍率(X)と、TD延伸倍率(Y)との延伸倍率比(X/Y)は、特に限定されず、例えば0.90~1.15程度(好ましくは0.95~1.10)とすれば良い。
【0070】
延伸工程における延伸温度は、特に限定されないが、通常は35~110℃の範囲内で適宜設定することができるが、特に40~100℃とすることが好ましく、その中でも60~90℃とすることが最も好ましい。
【0071】
(B)逐次二軸延伸の場合
逐次二軸延伸する場合の延伸倍率は、MD延伸倍率(X)と、TD延伸倍率(Y)との延伸倍率比(X/Y)が0.70~0.90(特に0.70~0.85)を満たし、かつ、面倍率(X×Y)が12.0~16.5(特に13.0~16.0)を満たすように延伸することが望ましい。上記の延伸倍率比及び面倍率のいずれか一方でも満足しないと、得られるポリエステル系フィルムは密度や伸長時破断強度、乾熱収縮率が本発明で規定する範囲になくなるため、本発明のポリエステル系フィルムを得ることが困難となることがある。
【0072】
延伸温度については、MDの延伸は、通常40~65℃で行うことが好ましく、特に45~63℃であることがより好ましい。また、TDの延伸は、通常55~90℃で行うことが好ましく、特に60~90℃とすることが好ましく、その中でも65~90℃とすることが最も好ましい。MD又はTDの延伸温度が上記の範囲よりも高くなると、延伸配向が弱いためフィルムの厚み斑が大きくなり、全面で均一な物性のフィルムを得ることが難しくなるおそれがある。上記の範囲よりも低くなると、延伸応力が強くなりすぎるため、結晶化度の調整が難しくなり、本発明で規定する範囲の密度にコントロールすることが困難となることがある。
【0073】
上記(A),(B)のいずれの場合も、二軸延伸工程を終了した後、必要に応じて、弛緩熱処理を実施することが好ましい。これにより、所望のフィルム密度等を満足できるフィルムをより確実に得ることができる。処理条件は、特に限定されないが、以下のような条件を採用することが望ましい。
【0074】
弛緩熱処理温度は、限定的ではないが、通常は100~180℃とすることが好ましく、特に120~160℃とすることがより好ましい。弛緩熱処理温度が100℃未満であると、本発明で規定する範囲の乾熱収縮率を有するポリエステル系フィルムを得られない場合がある。弛緩熱処理温度が180℃を超えると、結晶化が大きく進行するため、本発明で規定する範囲のフィルム密度が得られない場合がある。
【0075】
弛緩率は、3.0~10.0%とすることが好ましく、特に4.0~8.0%とすることがより好ましい。弛緩率が3.0%未満であると、TD方向への弛緩効果が小さく、TD方向の乾熱収縮率が本発明で規定する範囲を満たさない場合がある。弛緩率が10.0%を超えると、ポリエステル系フィルムが弛み、弛緩熱処理ゾーン内でフィルムが加熱用吹き出しノズルに擦れてフィルム表面にキズが発生したり、巻き取り時にシワになる場合がある。
【0076】
このようにして本発明フィルムを製造することができるが、本発明フィルムと他の層とを積層してなる積層フィルムを製造することもできる。この場合は、1)本発明フィルムに他の層を形成するための塗工液を塗布する工程を含む方法、2)本発明フィルムと他の層を構成し得るフィルムとを接着する工程を含む方法、3)本発明フィルムと他の層を構成し得る溶融物とを同時ラミネートする方法等のいずれの方法も採用することかできる。
【0077】
また、本発明の効果を妨げない範囲内において、本発明フィルムに対して、通常のフィルムに適用されている表面処理を施すこともできる。例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、プライマー処理、蒸着処理等を挙げることができる。また、後記に示すように、別の機能層(酸素バリア層、水蒸気バリア層、易接着コーティング層等)を積層することによる機能付与も適宜行うことができる。
【0078】
3.本発明フィルムの使用
本発明フィルム自体は、単層で使用しても良いし、本発明フィルムを二層以上に積層した複層で使用しても良いが、生産工程の簡略化という観点からは本発明フィルム自体は単層で用いることが好ましい。
【0079】
また、本発明フィルムは、単独で使用することもできるが、他の層と積層してなる積層フィルム(積層体)としても使用することができる。特に、積層フィルムとして使用する場合は、本発明フィルムと他の層とを含み、かつ、ポリエステル系フィルム表面が最外面に露出している積層フィルム(本発明積層フィルム)とすることが好ましい。他の層としては、基材層(支持層)、接着剤層、印刷層、金属蒸着層、無機蒸着層、金属箔、プライマー層等の各層の少なくとも1つを積層フィルムの用途等に応じて適宜採用することができる。これらの各層は、公知の包装材料等で採用されている材料を適用することができる。例えば、前記の基材層としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等の合成樹脂層を採用することができる。
【0080】
積層フィルムの実施形態としては、例えばa)本発明フィルム/基材層、b)本発明フィルム/接着剤層/基材層、c)本発明フィルム/接着剤層/基材層/接着剤層/基材層、d)本発明フィルム/接着剤層/金属蒸着層/基材層、e)本発明フィルム/接着剤層/金属蒸着層/基材層/接着剤層/金属蒸着層/基材層、f)本発明フィルム/接着剤層/無機蒸着層/基材層、g)本発明フィルム/接着剤層/無機蒸着層/基材層/接着剤層/無機蒸着層/基材層、h)本発明フィルム/接着剤層/金属箔/接着剤層/基材層等が挙げられる。また、これらa)~h)の構成を含み、かつ、それらの構成の下層及び/又は下層に別の層が積層されてなる積層フィルムも採用することができる。ここで、上記の「金属蒸着層/基材層」として、金属蒸着層付きフィルムを採用することもできる。同様に、上記の「無機蒸着層/基材層」として、無機蒸着層付きフィルムを採用することもできる。
【0081】
積層フィルムの厚みは、積層フィルムの用途等に応じて適宜設定することができる。例えば、後記に示す包装体(断熱材)として用いられる場合は、厚みは15~80μm程度の範囲が好ましく、特に25~50μmであることがより好ましい。
【0082】
また、本発明フィルム又は積層フィルムは、包装体(袋体)の形態をとることもできる。従って、本発明は、本発明フィルムを含む包装体であって、包装体中に内容物が充填された状態で本発明フィルムどうしがヒートシールされている包装体(本発明包装体)も包含する。本発明フィルムは、ヒートシール性(熱接着性)に優れるシーラント層として機能するため、内容物を外気と遮断できるように密封することもできる。例えば、包装体内部を減圧ないしは真空状態に維持することもできる。
【0083】
袋体(包装体)の構成としては、例えば、
図1に示すように、本発明フィルム10の一方の面に他の層11(A1層,A2層)が積層されている積層フィルム20の形態を挙げることができる。
図1では、他の層が2層であるが、他の層11を3層以上積層する場合も、本発明フィルム10の表面10a(他の層が積層されていない面)には他の層は積層されることなく、表面10aは露出した状態になっている。このように、表面10aが露出した状態とすることにより、表面10aに他のフィルムと接着できるシーラント層として機能させることができる。特に、本発明フィルムはヒートシール性にも優れるため、本発明積層フィルムの本発明フィルムの表面どうしをヒートシールすることによって、袋体を形成することが可能となる。
【0084】
図2には、本発明積層フィルムで形成された袋体の模式図を示す。
図2の袋体30は、2枚の本発明積層フィルムを用い、各フィルム10,10の表面10a,10aどうしを対向させた状態で互いに端部S1,S2でヒートシールすることにより袋体を成形することができる。その袋体に内容物が充填され、前記ヒートシールによって密閉された袋体を
図3に示す。
図3では、袋体30の内部に内容物12(グラスウール等の繊維状物質)が充填された状態を示す。
【0085】
図4には、本発明積層フィルムで形成された袋体の別形態の模式図を示す。
図4の袋体30は、1枚の本発明積層フィルムを用い、本発明フィルム10の表面10aが内側になるように2つに折り曲げ、対向した10aどうしの端部S1でヒートシールすることにより袋体を成形することができる。その袋体に内容物が充填され、前記ヒートシールによって密閉された袋体を
図5に示す。
図5では、袋体30の内部に内容物12(グラスウール等の繊維状物質)が充填された状態を示す。
【0086】
本発明包装体は、各種の用途に使用することができる。例えば、断熱材(保温材を含む。)、防音材、クッション材等の用途が挙げられる。これらは、例えば家電製品、自動車用品、医療機器、建材等に適用することができる。特に、本発明包装体では、本発明フィルムがヒートシール性、耐ピンホール性等に優れることから、繊維状物質を包装してなる断熱材として好適に用いることができる。特に高温雰囲気下(例えば使用温度上限150℃以下の範囲)で使用可能な断熱材として用いることもできる。
【0087】
本発明包装体を断熱材として用いる場合、それを構成するフィルムとしては、本発明フィルム又は積層フィルムを用いることができるが、特に積層フィルムを用いることが好ましい。積層フィルムで採用される層としては、前記で示した各層を挙げることができるが、特に金属蒸着層又は金属蒸着フィルムを含むことが好ましい。これにより、周囲環境の酸素、水蒸気等の透過を遮断するのに十分なバリア性をより確実に付与することができる。例えば、金属蒸着加工を施したポリエステル系フィルム等を好適に用いることができる。また、コア材(内容物)に真空層を多く形成できるガラスウール等の繊維状物質を用いる場合があるため、ピンホール防止のため、耐突刺性(耐ピンホール性)に優れたポリアミドフィルム等が基材に用いられる場合もある。各層の積層方法は、特に限定されないが、外層に用いられるポリエステル系フィルム又はポリアミド系フィルムと本発明のポリエステル系フィルムとが接着剤層を介して接着したものであることが好ましい。
【0088】
本発明の断熱材のコア材として使用される繊維状物質は、短繊維又は長繊維のいずれであっても良い。また、合成繊維又は天然繊維のいずれであっても良い。また、公知の断熱材で使用されているものと同様のものを使用することもできる。本発明では、例えば、ガラスウール、ロックウール等の無機繊維のほか、セルロースファイバー等の有機繊維等を挙げることができる。これらの繊維状物質自体は、公知又は市販の断熱材で使用されているものと同様のものを使用することもできる。
【0089】
さらに、本発明の断熱材は、本発明包装体に繊維状物質が充填された状態で本発明フィルムがヒートシールされることにより、繊維状物質が密閉された状態を保つことができる。この場合、包装体内部の圧力は、常圧、減圧ないしは真空、加圧等のいずれであっても良いが、より高い断熱性を得るために減圧ないしは真空とすることが好ましい。包装体内部が減圧ないしは真空雰囲気となった場合、包装体内部の繊維状物質と包装体内面とが互いに高い圧力で接触(密着)することになる結果、繊維状物質が包装体(積層フィルム)を突き破るおそれが高くなるが、本発明包装体は高い耐ピンホール性を有するため、そのようなリスクを低減することができる。また、包装体内部の雰囲気は、限定的ではなく、例えば空気のほか、不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等)を充填することもできる。
【実施例】
【0090】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0091】
A.同時二軸延伸の実施例A
実施例A1
(1)ポリエステル樹脂の製造
ビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート及びそのポリエステル低重合体からなるエステル化合物が充填されたエステル化反応缶に、テレフタル酸(以下「TPA」という。)とエチレングリコール(以下「EG」という。)のEG/TPAのモル比1.5とした混合スラリーを連続的に供給し、温度250℃及び圧力0.1MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、反応率95%のエステル化反応物(以下「PETオリゴマー」という。)を連続的に得た。
得られたPETオリゴマー1657.2質量部を重縮合反応缶に移送し、1,4-ブタンジオールを、反応缶内容物の温度が180~200℃になるように調整しながら482.9質量部添加した。次いで、重縮合触媒としてテトラブチルチタネートを1.1質量部添加した。10分間攪拌した後、反応缶内の温度を240℃まで昇温しつつ、缶内圧力を徐々に減じて90分後に1.2hPa以下にした。この条件下で攪拌しながら重縮合反応を4時間行い、表1に示すような組成を有するポリエステル樹脂Aを得た。
【0092】
(2)ポリエステル系フィルムの製造
得られたポリエステル樹脂Aに平均粒径2.7μmの凝集シリカ(富士シリシア化学株式会社製SY-310P)を含有量0.075質量%となるように添加し、温度230℃で溶融し、Tダイからシート状に押し出し、表面温度18℃の冷却ドラムに密着させて冷却し、厚み285μmの未延伸シートを得た。
得られた未延伸シートをロール式縦延伸機にてMD方向に1.15倍で予備延伸した。次に、予備延伸されたフィルムをテンター式同時二軸延伸機に供給し、同時二軸延伸法にてMD方向に3.00倍、TD方向に3.30倍となるように延伸した。延伸された二軸延伸フィルムの面倍率(X×Y)は11.4倍であった。なお、延伸温度は、上記の予備延伸及び同時二軸延伸ともに80℃とした。
次いで、温度150℃×4秒間でTD方向に8.0%の熱弛緩処理を施した後、室温まで冷却して片面をコロナ放電処理後にロール状に巻き取り、25μm厚みのポリエステル系フィルムを得た。
【0093】
実施例A2~A10及び比較例A1~A8
ポリエステル樹脂の組成及びフィルム延伸、熱処理条件を表1~表2に示すように変更した以外は、実施例A1と同様にして25μm厚みのポリエステル系フィルムを得た。なお、表1中の「ε-CL」はε-カプロラクトン、「NPG」はネオペンチルグリコール、「CHDM」は1、4-シクロヘキサンジメタノールをそれぞれ示す。
【0094】
【0095】
【0096】
試験例1
各実施例及び比較例で得られた延伸ポリエステル系フィルムについて、下記の物性についてそれぞれ評価した。その結果を表3に示す。
【0097】
(1)ポリエステル系フィルムの密度
延伸ポリエステル系フィルムの密度は、JIS K-7112に記載の密度勾配管法を用いて測定した。測定媒質(溶液)としてはリグロイン(ナカライテスク社製、25℃比重0.73)とアサヒクリンAK-225(AGC社製、25℃比重1.55)を混合し、比重1.24と比重1.36の混合液をそれぞれ調製し、前記2液を勾配間管に入れた後、勾配管に試験片をゆっくり入れ、25℃で5時間静置後の値を測定した。比重が1.35より大きい場合は、比重1.31と比重1.43の混合液をそれぞれ調製し、同様に測定した。なお、測定はそれぞれ3回ずつ行い、その平均値を算出し、ポリエステル系フィルムの密度とした。
【0098】
(2)ポリエステル系フィルムのガラス転移温度、融点
実施例及び比較例で得られた延伸ポリエステル系フィルムを測定サンプルとし、Perkin Elmer社製DSCを用い、20℃/分で昇温し、ポリエステル系フィルムのガラス転移温度及び融点を測定した。
【0099】
(3)伸長時破断強度
まず、測定用の試料を調製した。延伸ポリエステル系フィルムを23℃×50%RHで2時間調湿した後、
図6に示すようにサンプリングを実施した。すなわち、フィルム上の任意の位置を中心点Aとし、中心点AからMD方向に200mm離れた点を中心点Bとする。さらに中心点BからMD方向に200mm離れた点を中心点C、中心点CからMD方向に200mm離れた点を中心点Dとした。中心点Aが長手方向及び幅方向それぞれの中央となるように、MD方向(0°)が測定方向になるように長さ150mm×幅10mmの試料を5本採取した。また、中心点BではMD方向(0°)から時計回りに45°、中心点CではMD方向から90°(TD方向)、中心点DではMD方向から135°の4方向についても、MD方向の場合と同様に長さ150mm×幅10mmの試料をそれぞれ5本ずつ採取した。
これらの試料(合計20本)について、1kN測定用のロードセルとサンプルチャックとを取り付けた引張試験機(島津製作所社製「AG-1S」)を用い、掴み具間間隔を100mmに設定し、引張速度500mm/分にて、ポリエステルフィルムが破断した時の強度の測定を行った。各方向について、それぞれ試料数5で測定を実施し、平均値を算出して伸長時破断伸度とした。
【0100】
(4)乾熱収縮率
前記「(3)伸長時破断伸度」の測定に用いた試料の採取方法に準じて、中心点Aからそれぞれの測定方向に150mm、測定方向に対して垂直方向に10mmとなるように、延伸ポリエステル系フィルムを短冊状に裁断して、試料を採取する。採取した試料の長手方向両端から内側20mmの位置に、内側間隔が110mmとなるように油性インキでマークを記入した。試料を23℃×50%RHで2時間調湿(調湿1)した後、110℃の乾燥空気中に8分間晒し、その後さらに23℃×50%RHにおいて2時間調湿(調湿2)する。調湿1後のマーク間隔と、調湿2後のマーク間隔長さを測定し、乾熱収縮率を次式にて求める。なお、試料数5で測定を実施し、平均値を乾熱収縮率とする。なお、「融点がない」樹脂については、110℃で軟化するため、乾熱収縮率は測定できなかった。
乾熱収縮率(%)=
{(調湿1後のマーク間隔-調湿2後のマーク間隔)/調湿1後のマーク間隔}×100
【0101】
(5)突刺強度(耐ピンホール性)
内径30mmφの円形型枠に延伸ポリエステル系フィルムを緊張下で固定し、温度20℃及び相対湿度65%雰囲気下でフィルムの中央部に先端径が 0.5mmの針を、50mm/分の速度で垂直にフィルムに突き刺し、試料が破壊する際の強度を測定した。
【0102】
(6)厚み斑
延伸ポリエステル系フィルムを23℃×50%RH環境にて2時間調湿した後、
図7に示すように延伸ポリエステル系フィルム10の任意の中心点Aからフィルムの流れ方向(MD)を0°方向とし、MDから時計回りに45°方向、90°方向(TD)、135°方向の4方向へ厚みゲージ(ハイデンハイン社製 HEIDENHAIN-METRO MT1287)を用いて、それぞれ中心点Aから10mm間隔で厚みを10点ずつ計40点測定した。
厚み斑は、得られた40点の測定値における最大厚みをTmax、最小厚みをTmin、平均厚みをTaveとし、次式を用いて算出した。
厚み斑(%)=[(Tmax-Tmin)/Tave]×100
【0103】
(7)シール強度(ヒートシール温度220℃)
片面にアルミニウム蒸着処理を行った厚さ12μmのポリエステルフィルム(I)のポリエステルフィルム面に、DIC(株)製のLX-401A/SP-60を塗布量が4g/m2となるように塗布し、80℃で10秒間乾燥した。その接着剤塗布面に、各実施例及び比較例で得られたポリエステル系フィルムのコロナ放電処理面を貼り合わせ、40℃で2日間養生して接着剤層を硬化させ、「アルミニウム蒸着面/ポリエステルフィルム(I)/接着層/実施例で得られた延伸ポリエステル系フィルム(シーラントフィルム)」の順に積層された積層体を得た。
上記積層体を2枚用い、シーラントフィルムどうしを重ね合わせてヒートシールを行った。ヒートシール条件は、上面温度220℃、下面温度130℃、シール圧力1kg/cm2、シール時間2.0秒間で行った。
ヒートシールされたフィルムを15mm幅の試験片として切り出し、引張試験機を用いて、引張速度300mm/分、チャック間距離50mm、シール部T型保持の条件で剥離強度を測定した。測定中、シール部分が剥離せず、シール部分際でフィルムが切れる場合があるが、その場合はフィルムが切れた際の強度を読み取った。常温でのシール強度は、実用レベルでは、4.5N/cm以上が求められ、5.0N/cm以上が好ましく、7.0N/cm以上が最も好ましい。
【0104】
(8)シール強度(ヒートシール温度200℃)
ヒートシール条件を上面温度200℃、下面温度130℃、シール圧力1kg/cm2、シール時間2.0秒間で行った以外は、上記(7)と同様に行った。
【0105】
(8)高温長期保管後のシール強度(120℃、10日間)
前記(7)及び(8)でヒートシールされたフィルムを熱風乾燥機FC-62(東洋精機製作所社製)を用い、120℃で10日間の熱処理を行った。その後、(7)と同様の測定条件で、剥離強度を測定した。高温長期保管後のシール強度は、実用レベルでは、4.0N/cm以上が求められ、5.0N/cm以上が好ましく、6.0N/cmが最も好ましい。
【0106】
(9)耐ブロッキング性
各実施例A及び比較例Aで得られた延伸ポリエステル系フィルム(シーラントフィルム)を50mm×50mmの大きさに切り出し、コロナ処理面同士を合わせ、25mm×50mmの紙を挟み、30℃で10kPaの荷重をかけた状態で、24時間放置した。荷重を取り除いて室温まで冷却した後、15mm幅の試験片として切り出し、引張試験機を用いて、紙を挟んだ部分を上下チャック部分に取り付け、引張速度300mm/分、チャック間距離50mm、T型保持の条件で剥離強度を測定することでポリエステル系フィルム(シーラントフィルム)間の耐ブロッキング性を評価した。
耐ブロッキング性においては、実用上、剥離強度が0.3N/cm未満であることが求められ、0.1N/cm未満であるもしくは引張試験機で剥離強度測定前に剥がれている場合が好ましい。なお、表3中の「○」は、0.1N/cm未満であるもしくは引張試験機で剥離強度測定前に剥がれたため測定できなかった場合の評価である。
【0107】
(10)真空断熱パウチ高温環境下評価
前記(7)で得られた積層体をA4サイズに切り出した後、半折し、内部に半切部以外の二方を前記(7)と同条件でヒートシールして一方の袋口が開いている状態のパウチを作製した。袋口から「ファイバーマックスボード1600Pボード」(株式会社ITM製)を封入し、脱気シーラーを用いて脱気しながら封入部をヒートシールし、真空断熱パウチを作製した。得られた真空断熱パウチを熱風乾燥機FC-62(東洋精機製作所社製)を用いて、120℃で10日間の熱処理を行った。その後、パウチを解体し、ファイバーマックスボードP1600ボードと接したシーラントフィルム面にエージレスシールチェックスプレー(三菱ガス化学社製)を用いて染色されるスポット数を確認した。
この評価結果においては、実用レベルでは染色スポットの数が10ヵ所未満である必要があり、5ヵ所未満であることが好ましく、1ヵ所であることがより好ましく、染色スポットの数が0個であることが最も好ましい。
【0108】
【0109】
実施例A1~A10のポリエステル系フィルムは、高温環境下で長期間保管した場合であってもヒートシール性に優れており、突刺強度が高く、真空断熱パウチのシーラントフィルムとして用い、高温環境下に長期間保管した場合でも耐ピンホール性に優れていた。
一方、比較例A1、A2のポリエステル系フィルムは、結晶化せず融点を持たないフィルムであったため突刺強度が低く、真空断熱パウチを高温環境下で長期間保管した際にはピンホールが発生した。
比較例A3のポリエステル系フィルムはフィルム融点が本発明で規定する範囲を満たしていないため、突刺強度が低く、真空断熱パウチを高温環境下で長期間保管した際にはピンホールが発生した。
比較例A4、A6のポリエステル系フィルムは、フィルム融点が本発明で規定する範囲を超えているため、シール強度に劣り、高温長期保管後に至ってはシールが剥がれる状況であった。また、比較例6は、フィルム密度も本発明で規定する範囲を超えているため、突刺強度に劣るものであった。
比較例A5のポリエステル系フィルムは、フィルム密度が本発明で規定する範囲を下回ったため、突刺強度に劣り、真空断熱パウチを高温環境下で長期間保管した際にはピンホールが発生した。
比較例A7のポリエステル系フィルムは、フィルム密度が本発明で規定する範囲を満たしていなかったため、突刺強度が低く、真空断熱パウチを高温環境下で長期間保管した際にはピンホールが発生した。
比較例A8のポリエステル系フィルムは、フィルム融点が本発明で規定する範囲を大きく超えており、ヒートシールができない結果となった。
【0110】
B.逐次二軸延伸の実施例B
実施例B1
(1)ポリエステル系樹脂の製造
ビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート及びそのポリエステル低重合体からなるエステル化合物が充填されたエステル化反応缶に、テレフタル酸(以下「TPA」という。)とエチレングリコール(以下「EG」という。)とのEG/TPAのモル比1.5とした混合スラリーを連続的に供給し、温度250℃及び圧力0.1MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、反応率95%のエステル化反応物(以下「PETオリゴマー」という。)を連続的に得た。
得られたPETオリゴマー1657.2質量部を重縮合反応缶に移送し、1,4-ブタンジオールを、反応缶内容物の温度が180~200℃になるように調整しながら482.9質量部添加した。次いで、重縮合触媒としてテトラブチルチタネートを1.1質量部添加した。10分間攪拌した後、反応缶内の温度を240℃まで昇温しつつ、缶内圧力を徐々に減じて90分後に1.2hPa以下にした。この条件下で攪拌しながら重縮合反応を4時間行い、表1に示すような組成を有するポリエステル樹脂Aを得た。
【0111】
(2)ポリエステル系フィルムの製造
得られたポリエステル樹脂Aに平均粒径2.7μmの凝集シリカ(富士シリア化学株式会社製SY-310P)を含有量0.075wt%となるように添加し、温度230℃で溶融し、Tダイからシート状に押し出し、表面温度18℃の冷却ドラムに密着させて冷却し、未延伸シートを得た。
得られた未延伸シートをロール式縦延伸機にてMD延伸倍率(X)が3.40倍となるように55℃でMD延伸を行った。続いて、MD延伸されたフィルムの端部をテンター式横延伸機のクリップに把持し、TD延伸倍率(Y)が4.50倍となるように65℃でTD延伸した。前記逐次二軸延伸法にて延伸された二軸延伸フィルムの延伸倍率比(X/Y)は0.76であり、面倍率(X×Y)は15.3であった。
次いで、150℃×4秒間でTD方向に8.0%の熱弛緩処理を施した後、室温まで冷却してロール状に巻き取り、25μm厚みのポリエステル系フィルムを得た。
【0112】
実施例B2~B11及び比較例B1~B9
ポリエステル樹脂の組成又はフィルム延伸条件を表4~表5に示すように変更した以外は、実施例B1と同様にしてポリエステル系フィルムを得た。なお、表1~表2中、「εCL」はε-カプロラクトン、「NDCA」は2、6-ナフタレンジカルボン酸、「NPG」はネオペンチルグリコール、「CHDM」は1、4-シクロヘキサンジメタノールをそれぞれ示す。
【0113】
【0114】
【0115】
試験例2
各実施例及び比較例で得られたポリエステル系フィルムについて、試験例1と同様にして各物性を測定した。その結果を表6に示す。
【0116】
【0117】
表6の結果からも明らかなように、実施例B1~B11のポリエステル系フィルムは、耐ピンホール性に優れており、ヒートシール性に優れており、高温環境下で長期間保管した場合であってもヒートシール性に優れていることがかる。
一方、比較例B1のポリエステル系フィルムは、全酸成分のテレフタル酸含有量が本発明で規定する範囲を満たしていないポリエステル樹脂を用いたため、結晶性が低く、融点及びフィルム化した時の密度において本発明の規定する範囲を満たさず、耐ピンホール性に劣るものであった。
比較例B2のポリエステル系フィルムは、1,4-ブタンジオールを含有していないポリエステル樹脂を用いたため、ガラス転移温度、融点及びフィルム密度が本発明で規定する範囲を超え、耐ピンホール性に劣り、ヒートシールすることができなかった。
比較例B3のポリエステル系フィルムは、延伸時の面倍率が高く、フィルム密度が本発明で規定する範囲を超えていたため、伸長時破断強度、耐ピンホール性及びシール強度がいずれも劣っていた。
比較例B4のポリエステル系フィルムは、延伸時の面倍率が低く、フィルム密度が本発明で規定する範囲を満たさなかったため、乾熱収縮率が高く、耐ピンホール性、シール強度に劣るものであった。
比較例B5のポリエステル系フィルムは、全グリコール成分の1,4-ブタンジオール含有量が本発明で規定する範囲を満たしていないポリエステル樹脂を用いたため、ガラス転移温度及びフィルム密度が本発明で規定する範囲外となり、耐ピンホール性及びシール強度に劣るものであった。
比較例B6のポリエステル系フィルムは、ガラス転移温度が本発明で規定する範囲を満たさなかったため、伸長時破断強度及び耐ピンホール性に劣るものであった。
比較例B7~B8のポリエステル系フィルムは、1,4-ブタンジオールを含有していないポリエステル樹脂を用いたため、融点及びフィルム密度が本発明で規定する範囲を満たさず、伸長時破断強度及び耐ピンホール性に劣るものであった。
比較例B9のポリエステル系フィルムは、全グリコール成分の1,4-ブタンジオール含有量が本発明で規定する範囲を超えたポリエステル樹脂を用いたため、融点及びフィルム密度が本発明で規定する範囲外であり、ヒートシールができなかった。