(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】駆動回路及び電子デバイス
(51)【国際特許分類】
G11C 8/08 20060101AFI20230920BHJP
G11C 11/56 20060101ALI20230920BHJP
G11C 16/08 20060101ALI20230920BHJP
G11C 16/26 20060101ALI20230920BHJP
G11C 16/32 20060101ALI20230920BHJP
G11C 7/22 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
G11C8/08
G11C11/56 220
G11C16/08 120
G11C16/26
G11C16/32
G11C7/22 300
(21)【出願番号】P 2020558390
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2019045128
(87)【国際公開番号】W WO2020105596
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2018217136
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】丹沢 徹
(72)【発明者】
【氏名】松山 和樹
【審査官】後藤 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-216025(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0035423(US,A1)
【文献】特開2006-309916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11C 7/22
G11C 8/08
G11C 11/56
G11C 16/08
G11C 16/26
G11C 16/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線的に配列された複数のセルに接続される直線状の配線部を介して、前記複数のセルを駆動する駆動回路であって、
ステップ状に所定電圧値ほど変化する電圧信号の立ち上りあるいは立ち下りに対応したタイミングにおいて所定波高値のプリパルスが設定された駆動電圧を生成し、前記駆動電圧を前記配線部に印加する電圧印加部と、
前記配線部の所定箇所の電圧値を検出し、検出した電圧値に応じて前記プリパルスの時間幅を設定する制御部と、
を備え、
前記制御部は、予め設定された目標値と前記電圧値とを比較し、当該比較の結果に応じて前記プリパルスをオン/オフすることにより、前記時間幅を設定し、
前記目標値は、前記所定電圧値及び前記所定波高値に基づいて予め設定される、
駆動回路。
【請求項2】
直線的に配列された複数のセルに接続される直線状の配線部を介して、前記複数のセルを駆動する駆動回路であって、
ステップ状に所定電圧値ほど変化する電圧信号の立ち上りあるいは立ち下りに対応したタイミングにおいて所定波高値のプリパルスが設定された駆動電圧を生成し、前記駆動電圧を前記配線部に印加する電圧印加部と、
前記配線部の所定箇所の電圧値を検出し、検出した電圧値に応じて前記プリパルスの時間幅を設定する制御部と、
を備え、
前記制御部は、予め設定された目標値と前記電圧値とを比較し、当該比較の結果に応じて前記プリパルスをオン/オフすることにより、前記時間幅を設定し、
前記目標値は、前記配線部における隣接配線間の容量と前記配線部と前記配線部が搭載される基板との間の容量によって決まる値である、
駆動回路。
【請求項5】
前記制御部は、前記目標値と前記電圧値とを比較する比較器を有し、
前記電圧印加部は、前記比較器の出力に応じて前記プリパルスをオン/オフするスイッチを有する、
請求項1又は2に記載の駆動回路。
【請求項6】
前記制御部は、前記配線部の端部の電圧値を検出する、
請求項1、2、5のいずれか1項に記載の駆動回路。
【請求項7】
前記電圧印加部は、ステップ状に多段階に変化する電圧信号の立ち上りあるいは立ち下りに対応した複数のタイミングにおいて前記プリパルスが設定された駆動電圧を生成する、
請求項1、2、5、6のいずれか1項に記載の駆動回路。
【請求項8】
請求項1、2、5~7のいずれか1項に記載の駆動回路と、
前記複数のセルと、
を備える電子デバイス。
【請求項9】
複数のダミーセルが配列されたダミーアレイ部と、
前記複数のセルが配列された1以上のアレイ部とを備え、
前記制御部は、前記ダミーアレイ部に対応する前記配線部の電圧値を検出し、検出した電圧値に応じて前記1以上のアレイ部に対応する前記配線部に印加する前記駆動電圧の前記プリパルスの時間幅を設定する、
請求項8に記載の電子デバイス。
【請求項10】
前記複数のセルが配列された1以上のアレイ部を備え、
前記制御部は、前記1以上のアレイ部のうちのいずれかのアレイ部に対応する前記配線部の電圧値を検出し、検出した電圧値に応じて前記1以上のアレイ部のそれぞれに対応する前記配線部に印加する前記駆動電圧の前記プリパルスの時間幅を設定する、
請求項8に記載の電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一側面は、複数のセルを駆動する駆動回路及び電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年広く普及している半導体メモリ(フラッシュメモリ、3Dクロスポイントメモリ等)、フラットパネルディスプレイ、CMOSイメージセンサ、タッチパネルディスプレイ等の電子デバイスには、一列に配置されたメモリセルあるいは画素を駆動するためのワード線、ゲート線等の直線状の配線部が設けられている。このような配線部は寄生抵抗及び寄生容量を持つため、配線部を伝搬する電圧信号にはそれらによって決まる遅延時間が生じる。従って、このような電子デバイスの高速化のためには、配線部における信号の遅延時間をいかに短くするかが問題となる。このような配線部における遅延時間を短くするための技術として、配線部に印加するパルス波形の前部を通常よりも大きく立ち上げるプリエンファシス(Pre-Emphasis)と呼ばれる手法が用いられている(下記非特許文献1~3参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】W. Jeonget al., “A 128 Gb 3b/cellV-NAND Flash Memory With 1 Gb/s I/O Rate” IEEE Journal of Solid-State Circuits, Vol. 51, No. 1, pp.204-212, 2016.
【文献】J. Bang,et al., “A Load-AwarePre-Emphasis Column Driver with 27% Settling-Time Reduction in ±18% Panel-Load RC Delay Variation for 240Hz UHDFlat-Panel Displays” ISSCC 2016.
【文献】K.Matsuyama and T. Tanzawa, “Aclosed-form expression for pre-emphasis pulses with minimal RC deley time” IEICE general conference, C12-35, Mar. 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような従来の手法では、電子デバイス毎の製造ばらつきに対応して最適な特性を実現するために、電子デバイス毎に特性を測定して印加するパルス信号のキャリブレーションを行っていた。すなわち、製造ばらつきによってワード線の寄生抵抗および寄生容量が製品毎に違ったものになるため、製品毎に寄生抵抗および寄生容量の影響を是正するためのテストを行い、そのテストの結果に応じて、プリエンファシスの大きさあるいは時間幅をあらかじめ製品毎に設定するようキャリブレーションを行っていた。そのため、テストコストを増加させたり、キャリブレーション処理のためのテスト時間を増加させたりする傾向にあった。
【0005】
本発明の一側面は、上記課題に鑑みて為されたものであり、テストコスト及びテスト時間を抑制することが可能な駆動回路及び電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一形態にかかる駆動回路は、直線的に配列された複数のセルに接続される直線状の配線部を介して、複数のセルを駆動する駆動回路であって、ステップ状に所定電圧値ほど変化する電圧信号の立ち上りあるいは立ち下りに対応したタイミングにおいて所定波高値のプリパルスが設定された駆動電圧を生成し、駆動電圧を配線部に印加する電圧印加部と、配線部の所定箇所の電圧値を検出し、検出した電圧値に応じてプリパルスの時間幅を設定する制御部と、を備える。
【0007】
或いは、本発明の他の形態にかかる電子デバイスは、上述した駆動回路と、複数のセルとを備える。
【0008】
上記形態の駆動回路或いは電子デバイスによれば、駆動回路において、配線部の電圧値が検出され、その電圧値に応じてプリパルスの時間幅が設定され、ステップ状に変化する電圧信号にその時間幅のプリパルスが設定された駆動電圧が、配線部に印加される。これにより、配線部の電圧値に応じてプリパルスの時間幅が設定されるので、駆動電圧のキャリブレーションの迅速化が可能となる。その結果、駆動電圧のキャリブレーションのためのテストコスト及びテスト時間を抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、テストコスト及びテスト時間を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の好適な一実施形態にかかるNANDフラッシュメモリを含むコンピュータシステムの概略構成を示す図である。
【
図2】
図1のNANDフラッシュメモリ1の全体構成を示すブロック図である。
【
図3】NANDフラッシュメモリ1のメモリセル周辺の回路構成を示す図である。
【
図4】駆動回路19によって生成される駆動電圧の波形を示す図である。
【
図6】駆動回路19とワード線WLとの接続構成を示す図である。
【
図7】駆動回路19の詳細構成を示す回路図である。
【
図8】駆動回路19において処理される各種信号の時間波形のイメージを示す図である。
【
図9】本実施形態においてデバイスの製造誤差とワード線WLを伝搬する電圧の遅延時間との関係を示すグラフである。
【
図10】NANDフラッシュメモリ1における、ワード線WL及びビット線BLを伝搬する電圧波形、及びデータ読み出し時に出力される出力信号の波形を示す図である。
【
図11】変形例にかかるNANDフラッシュメモリ1Aの全体構成を示すブロック図である。
【
図12】実施形態及び変形例において生成される駆動電圧の波形を示す図である。
【
図14】
図13に示す等価回路を分布定数回路に置き換えた図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る電子デバイスの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
図1に示されるように、本発明の好適な一実施形態である電子デバイスであるNANDフラッシュメモリ1は、フラッシュメモリコントローラ3、メインメモリDRAM(Dynamic Random Access Memory)5、及びCPU(Central Processing Unit)7と組み合わせてコンピュータシステムとして使用されうる。フラッシュメモリコントローラ3は、NANDフラッシュメモリ1の動作を制御するICであり、システムバスBUSを介して、CPU7からNANDフラッシュメモリ1へのデータの書き込み、又はCPU7からNANDフラッシュメモリ1のデータの読み出しを可能にする。すなわち、フラッシュメモリコントローラ3は、CPU7からシステムバスBUSを経由して送られたコマンドに応じて、NANDフラッシュメモリ1内の所定アドレスにおけるデータの書き込み或いは読み出しを制御し、書き込み対象のデータ又は読み出されたデータをNANDフラッシュメモリ1とCPU7との間で中継する。
【0013】
図2は、NANDフラッシュメモリ1の全体構成を示すブロック図である。NANDフラッシュメモリ1は、半導体チップ上に複数のトランジスタ(MOSFET)を実装した半導体メモリであり、
図2に示すように、メモリアレイ11、センスアンプ部13、入出力回路15、検出回路17、駆動回路19、及び制御回路21を含んで構成されている。これらのメモリアレイ11、センスアンプ部13、入出力回路15、検出回路17、駆動回路19、及び制御回路21は、同一の半導体チップ上に形成されている。
【0014】
メモリアレイ11は、トランジスタ(MOSFET)によって構成された複数のメモリセルが二次元アレイ状に配列されて構成されており、それらのメモリセルのそれぞれにおいて2値あるいは多値のデータを記憶する機能を有する。このメモリアレイ11は、一次元的(直線状)に複数のメモリセルが配列された複数のサブアレイ部11aと、一次元的(直線状)に複数のダミーのメモリセルが配列されたダミーサブアレイ部11bとを含む。ここで、複数のサブアレイ部11aとダミーサブアレイ部11bとは、同一の構成、同一の個数、及び同一の配列状態の複数のメモリセルによって構成され、互いに複数のメモリセルが同一方向に配列されるように隣接して設けられる。
【0015】
センスアンプ部13は、サブアレイ部11aの各メモリセルに電気的に接続されたビット線の電流を測定し、その電流に応じて各メモリセルに記憶されたデータの値を決定する。入出力回路15は、センスアンプ部13によって決定された各メモリセルのデータの値をシリアルデータとして外部(例えば、フラッシュメモリコントローラ3)に出力する。また、入出力回路15は、外部(例えば、フラッシュメモリコントローラ3)から各メモリセルに書き込むデータの値の入力を受け、そのデータをデータ書き込み用の回路部(図示せず)に受け渡す。
【0016】
図3には、NANDフラッシュメモリ1のメモリセル周辺の回路構成を示す。各サブアレイ部11a内に直線状に配列された複数(例えば、1024個)のメモリセルMCのゲートには、一本の直線状の配線部であるワード線WLが電気的に接続され、複数のメモリセルMCのドレインには、それぞれ、複数の直線状の配線部であるビット線BLを介して、センスアンプ部13内に各メモリセルMCに対応して複数(例えば、1024個)設けられるセンスアンプSAが電気的に接続されている。ワード線WLは、複数のサブアレイ部11a及びダミーサブアレイ部11bごとに設けられ、センスアンプ部13内のそれぞれのセンスアンプSAは、複数のサブアレイ部11a内の対応する各メモリセルMCに共通に設けられる。これらのセンスアンプSAは、各メモリセルMCからのデータ読み出し時に、ワード線WLに印加されたステップ状の電圧信号である駆動電圧に応じて、各メモリセルMCのドレイン電流を検出し、そのドレイン電流を閾値と比較することによって各メモリセルMCに記憶されたデータの値を決定する。さらに、複数のセンスアンプSAは、サブアレイ部11a毎にそれぞれが決定したデータの値を、シリアルデータとして、シリアルバス23を経由して入出力回路15に出力する。
【0017】
図2に戻って、検出回路17は、ダミーサブアレイ部11bに対応して設けられたワード線WLに電気的に接続されて、そのワード線WLの所定箇所の接続点の電圧値を検出し、検出した電圧値を示す検出信号を駆動回路19に出力する。駆動回路19は、複数のサブアレイ部11a及びダミーサブアレイ部11bに対応して設けられた複数のワード線WLの一方の端部に電気的に接続されて、検出回路17から出力された検出信号を基にメモリアレイ11内のメモリセルMCを駆動するための駆動電圧を生成し、その駆動電圧を各ワード線WLの一方の端部に印加する。ここで、検出回路17とワード線WLとの接続点は、任意の箇所が選択されうるが、NANDフラッシュメモリ1のメモリセルMC全体の高速駆動を実現する観点からは、駆動電圧が印加される一方の端部の反対側の他方の端部に設定されることが好適である。
【0018】
制御回路21は、外部(例えば、フラッシュメモリコントローラ3)からの指示コマンドに応じて、NANDフラッシュメモリ1内の所定アドレスのメモリセルMCにおけるデータの書き込み或いはデータの読み出しの動作を制御する。例えば、制御回路21は、データの書き込み時には、入出力回路15及びデータ書き込み用の回路部(図示せず)を制御して所定アドレスのメモリセルMCにデータを記憶させるように制御する。また、制御回路21は、データの読み出し時には、検出回路17、駆動回路19、及び入出力回路15を制御して、所定アドレスのメモリセルMCからデータを読み出すように制御する。すなわち、入出力回路15は、制御回路21から入力されたコマンドに応じて、メモリセルMCから読み出したデータの値をシリアルデータとして外部に出力するとともに、外部から受けた書き込み用のデータをNANDフラッシュメモリ1内部の回路に受け渡す。
【0019】
次に、上述した駆動回路19によって生成される駆動電圧の詳細についてまず示し、その後に、本発明者らによるワード線WLにおける駆動電圧の伝搬状態の理論解析の結果を示す。
【0020】
図4には、駆動回路19によって生成される駆動電圧の波形を示す。駆動回路19は、各サブアレイ部11aのメモリセルMCからのデータの読み出し開始時の時刻t=0と仮定した場合に、ステップ状に所定電圧値Eほど変化(上昇)する電圧信号の立ち上りに対応した時刻t=0のタイミングにおいて、波高値(α×E、αは予め設定された実数)のプリパルスが設定された駆動電圧を生成する。このとき、駆動回路19は、後述する機能により、時刻t=0からのプリパルスが設定される期間(時間幅)Tを、ワード線WLにおける伝搬の遅延時間を最短にするように設定する。言い換えれば、駆動回路19は、時刻t=0以降に立ち上がる所定電圧値Eのステップ状の電圧信号において、そのステップ状の電圧信号の立ち上りに対応する前部において期間Tで電圧値α×Eのプリエンファシス電圧が生じるように、駆動電圧を設定する。
【0021】
このような駆動電圧が伝搬するワード線WLは、コンダクタンス成分及びリアクタンス成分を除いたインピーダンス成分及びキャパシタンス成分が分布した伝送線路と等価なものと考えることができる。詳細には、
図5に示すように、ワード線WLは、長さl[m]、単位長当たりの抵抗R[Ω/m]、単位長当たりの容量C[F/m]の伝送線路と考えることができ、全体の抵抗をR×l[Ω]、全体の容量をC×l[F]と見積もることができる。以下の計算では、ワード線WLの駆動電圧V
inが印加される一方の端部の位置xをx=0とし、ワード線WLの他方の端部の位置xをx=lとする。また、時刻tにおいてワード線WLの任意の位置xを伝搬する電圧及び電流の式をe(x,t)、i(x,t)と表すものとする。
【0022】
ここで、ワード線WL上の任意の位置xにおける電圧e(x,t)が電圧値β×E(βは、0<β<1を満たす実数)に到達する理論的な遅延時間tdelayを見積もる。
【0023】
まず、時刻t及び位置xにおける電圧及び電流を、それぞれ、e(x,t)、i(x,t)とすると、電圧e(x,t)及び電流i(x,t)は、分布定数回路の基礎方程式を利用することにより、下記式;
【数1】
【数2】
のように表される。さらに、これらの方程式をラプラス変換を利用して式を変形し、時刻t=0で全ての位置xで電流及び電圧が0であるという条件と、近端(x=0)の電圧がα×Eであり、かつ、遠端(x=l)の電流が0であるという条件とを用いることにより、プリエンファシス電圧印加中(t≦T)におけるe(x,t)及び電流i(x,t)を次のように定式化することができる。
【数3】
【数4】
【0024】
そして、このようにして得られた電圧e(x,t)及び電流i(x,t)の式(3),(4)と、方程式(1),(2)をラプラス変換した式と、プリエンファシス電圧印加後(t>T)において近端(x=0)の電圧がEであり、かつ、遠端(x=l)の電流が0であるという条件とを用いることにより、プリエンファシス電圧印加後(t>T)における電圧e(x,t)を以下のように定式化することができる。
【数5】
上記式(5)中、τは、τ=4RCl
2/π
2で表される定数である。
【0025】
このようにして評価された電圧e(x,t)の理論式を用いて、ワード線WL上の任意の位置xにおいて遅延時間t
delayが最小になる条件について考察する。上記式(5)においては、k=0~∞の項のうち、k=0の項の影響が電圧値に対する影響が最も大きいことが分かるので、その項の係数が0になるときの期間Tおよび係数αが、遅延時間t
delayの最小値を与えるものとなる。この条件より、下記式;
【数6】
で与えられる期間T=T
optが、最小の遅延時間t
delayを与える条件となることが理解された。つまり、期間T
optが最適なプリエンファシス時間となる。また、このときの最小の遅延時間t
delay_minは、上記式(5)を近似してtについて解いた後に上記式(6)をTに代入することにより、下記式;
【数7】
によって与えられる。ここでは、1<αの実用的な範囲で、{α/(α-1)}
8>>1が成立するとしている。
【0026】
このように、本発明者らにより、最小の遅延時間t
delay_minを得るためには、上記式(6)で与えられる期間T
optに近似される期間Tでプリエンファシス電圧が生じた駆動電圧を印加することが条件であることが明らかにされた。加えて、本発明者らは、時刻t=T
optにおける駆動電圧の理論値を評価した。すなわち、式(3)において影響の少ないk=0の項以外の項を無視し、k=0の項のみの近似でワード線WL上の位置xにおける時刻t=T
optでの電圧を計算すると、下記式;
【数8】
が得られる。この式より、ワード線WLの回路特性値である抵抗Rおよび容量Cによらず、最適なプリエンファシス電圧の印加終了時点(t=T
opt)の位置xにおける電圧V
det(x)が決まることが明らかにされた。例えば、ワード線WLの遠端におけるプリエンファシス電圧の印加終了時点における電圧V
det(x=l)は、下記式;
【数9】
により与えられる。
【0027】
本実施形態の駆動回路19は、上記の駆動電圧の伝搬状態の解析結果を踏まえて構成された機能を有する。以下、駆動回路19の構成の詳細について説明する。
【0028】
図6には、駆動回路19とワード線WLとの接続構成を示している。駆動回路19は、その駆動電圧Voutの出力が、複数のサブアレイ部11a及びダミーサブアレイ部11bに対応する複数のワード線WLのそれぞれに対して、デコード回路25を介して電気的に接続されるように構成される。それぞれのデコード回路25は、制御回路21からのアドレス信号A1を受けて、アドレス信号の示すメモリセルMCに対して駆動電圧Voutを印加するようにスイッチングするスイッチング回路である。このデコード回路25は、全てのサブアレイ部11a内に同時に同じ波形の駆動電圧Voutを印加する場合には、省略されてもよい。駆動回路19には、制御回路21からデータの読み出し動作を制御する制御信号φ1が入力され、プリエンファシス電圧を生じさせる電源電圧Vpre、及び駆動電圧の目標電圧を生じさせる電源電圧Vtargetが外部から供給される。
【0029】
図7は、駆動回路19の詳細構成を示す回路図である。駆動回路19には、回路を構成する素子として、オペアンプ(比較器)27、NOT回路29、NOR回路31a,31b、MOSトランジスタ(スイッチ)33a,33b,33cが実装されている。オペアンプ27、NOT回路29、及びNOR回路31a,31bは、駆動電圧におけるプリパルスの時間幅Tを設定する制御部35を構成し、MOSトランジスタ33a,33b,33cは、制御部35によって設定されたプリパルスを有する駆動電圧を印加する電圧印加部37を構成する。
【0030】
オペアンプ27は、その反転入力に、検出回路17から出力されたワード線WLの電圧検出値を示す入力電圧Vinが入力され、その非反転入力に予め設定された電圧値A×Vtargetに対応した電圧が入力され、それらの電圧の電圧差を増幅することにより、パルス信号φを出力するように構成される。ここで、Vtargetは、予め設定される駆動電圧の上昇電圧値E(
図4)に対応し、係数Aは、駆動電圧に設定されるプリエンファシス電圧に対応する係数αに基づいて予め下記式;
A=α-(4/π)×(α-1)
によって計算される値である。
【0031】
NOR回路31aは、その一方の入力にNOT回路29を経由してパルス信号φが入力され、他方の入力に制御信号φ1が入力されるように構成される。また、NOR回路31bは、その一方の入力にパルス信号φが入力され、他方の入力に制御信号φ1が入力されるように構成される。
【0032】
2つのMOSトランジスタ33a,33bとは、互いの電流端子が接続されることにより互いに直列に接続され、一方のMOSトランジスタ33aの電流端子(ドレイン)に電源電圧Vpreが印加され、他方のMOSトランジスタ33bの電流端子(ソース)に低電圧(例えば接地電圧)が印加される。そして、MOSトランジスタ33aの制御端子(ゲート)にNOR回路31aが生成するパルス信号φ2が入力され、MOSトランジスタ33bの制御端子(ゲート)に制御信号φ1が入力される。さらに、MOSトランジスタ33cも同様にMOSトランジスタ33bと直接に接続され、MOSトランジスタ33aの電流端子(ドレイン)に電源電圧Vtargetが印加され、MOSトランジスタ33cの制御端子(ゲート)にNOR回路31bが生成するパルス信号φ3が入力される。これらのMOSトランジスタ33a,33b,33cの接続点が、駆動電圧Voutを出力する出力端子に電気的に接続される。
【0033】
このような構成により、制御部35は、予め設定された電圧の目標値A×Vtargetとワード線WLの電圧検出値とを比較し、その比較結果に応じて駆動電圧におけるプリパルスをオン/オフするように制御することにより、時間幅Tを設定する機能を有する。また、電圧印加部37は、制御部35による制御に応じてプリパルスをオン/オフするスイッチング機能を有する。
【0034】
図8には、上記構成の駆動回路19において処理される各種信号の時間波形のイメージを示しており、(a)部には、制御信号φ1の波形、(b)部~(d)には、パルス信号φ2,φ3,φの波形、(e)部には、ワード線WLにおける電圧e(x,t)の波形をそれぞれ示している。
【0035】
制御信号φ1は、データの読み取り対象のメモリセルMCのアドレスが確定したタイミングでハイからローに切り替えられる。このタイミングでは、ワード線WLに印加される駆動電圧が立ち上がっておらず入力電圧Vinがローレベルにあるため、パルス信号φがハイレベルとなっている。同時に、NOR回路31aの出力するパルス信号φ2がローからハイに立ち上がる一方で、NOR回路31bの出力するパルス信号φ3はローレベルを維持する。従って、このときに出力端子に現れる駆動電圧Voutにおいては、電源電圧Vpreによって規定されるプリエンファシス電圧でステップ状に立ち上がるような波形が設定される。その後の時間の経過に従って、ワード線WLに生じる電圧e(x,t)が徐々に上昇する。
【0036】
その後、ワード線WLの遠端(x=l)における電圧e(l,t)が上昇し、その値がA×Vtargetを超えたタイミングで、パルス信号φがハイからローに立ち下がる。これに応じて、パルス信号φ2がハイからローに立ち下がると同時にパルス信号φ3がローからハイに立ち上がる。従って、このときに出力端子に現れる駆動電圧Voutにおいては、電源電圧Vtargetによって規定される駆動電圧の目標電圧に立ち下がる波形が設定される。このような駆動回路19の動作により、上述した式(9)によって計算される電圧Vdet(x=l)に近似する電圧がワード線WLにおいて検出されたタイミングで、プリエンファシス電圧がオフされて目標電圧に切り替えられる制御が実現される。
【0037】
さらに、対象のメモリセルMCからのデータの読み取り処理が終了したタイミングで、制御信号φ1がローからハイに切り替えられる。これに応じて、NOR回路31bの出力するパルス信号φ3がハイからローに立ち下がる一方で、NOR回路31aの出力するパルス信号φ2はローレベルを維持する。これによって、出力端子に現れる駆動電圧Voutが低電圧(例えば、接地電圧)に低下するように設定される。その結果、ワード線WLに生じる電圧e(x,t)も徐々に低電圧に低下し、それに応じてパルス信号φもローからハイに遷移する。
【0038】
上述した実施形態のNANDフラッシュメモリ1の作用効果について説明する。
【0039】
上記のNANDフラッシュメモリ1によれば、ワード線WLの端部の電圧値が検出され、その電圧値に応じてプリパルスの時間幅が設定され、最短の伝搬遅延時間を実現するように最適な時間幅Toptに近似する時間幅Tのプリパルスが設定された駆動電圧が、ワード線WLに印加される。これにより、検出されたワード線WLの電圧値に応じてプリパルスの時間幅Tが自動的に設定されるので、駆動電圧のキャリブレーションの自動化および迅速化が可能となる。その結果、駆動電圧のキャリブレーションのためのテストが不要となり、テストコスト及びテスト時間を抑制することができる。また、NANDフラッシュメモリ1の駆動回路19は、駆動電圧の目標電圧値及びプリパルスの波高値に基づいて予め設定された目標値と検出した電圧値とを比較し、その比較の結果に応じて駆動電圧におけるプリパルスをオン/オフする機能を有している。このような機能により、駆動電圧のキャリブレーションのさらなる自動化および迅速化が可能となるとともに、ワード線WLにおける駆動電圧の伝搬の遅延時間を最適化して、メモリセルからのデータの読み出しの高速化を実現することができる。
【0040】
特に、NANDフラッシュメモリ1の駆動回路19は、ワード線WLの遠端の電圧値を検出することにより、駆動電圧のキャリブレーションを行っている。このような構成により、ワード線WLに接続される複数のセル全体において駆動電圧の遅延時間を短くすることができ、複数のセル全体の高速な駆動が可能となる。
【0041】
また、NANDフラッシュメモリ1においては、サブアレイ部11aと同一デバイス上に構成されたダミーサブアレイ部11bに対応するワード線WLの電圧値を検出することによりプリパルスの時間幅が設定されるので、駆動電圧のキャリブレーションの適正化が容易となる。
【0042】
ここで、本実施形態の効果を、理論計算に基づいて説明する。
図9は、本実施形態においてプリパルスの時間幅Tのキャリブレーションを停止した場合のデバイスの製造誤差とワード線WLを伝搬する電圧の遅延時間との関係を理論計算によって求めた結果を示している。この理論計算では、実数α=1.6、実数β=0.01とし、遅延時間をプリエンファシスを用いない場合を1とした場合の相対値として計算している。このように、キャリブレーションを停止した場合は、仮にワード線WLの特性値の製造目標値である抵抗R及び容量Cを基にして時間幅Tを設定したとしても、R×Cの製造誤差が20パーセント発生すると遅延時間が相対値で0.25から0.85に悪化する。これに対して、本実施形態によれば、キャリブレーションにより、製造誤差が発生した場合でも遅延時間を最小値近傍に維持することができ、たとえR×Cの製造誤差が20パーセント生じても、プリエンファシスを用いない場合に比較した遅延時間の短縮化の効果を、30%減から75%減に増大させることができる。
【0043】
図10には、本実施形態のNANDフラッシュメモリ1における、ワード線WL及びビット線BLを伝搬する電圧波形V
WL,V
BL、及びデータ読み出し時に出力される出力信号の波形V
IOの一例を示している。このように、データ読み出し開始から出力信号において読み出されたデータが出力されるまでの全体の遅延時間は、電圧波形V
WLが立ち上がる遅延時間(例えば、20μsec)と電圧波形V
BLが立ち上がる遅延時間(例えば、10μsec)と出力波形V
IOの遅延時間(例えば、5μsec)とを加算した時間(例えば、35μsec)となり、全体の遅延時間の半分以上をワード線WLにおける遅延時間が占める。このことから、本実施形態による駆動電圧の伝搬の遅延時間の短縮化により、データ出力の高速化が効果的に実現できることが分かる。
【0044】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。上記実施形態の構成は様々変更されうる。
【0045】
例えば、本実施形態の構成を適用する電子デバイスは、NANDフラッシュメモリに限定されるものではなく、直線状の配線部により一列に配置された半導体素子あるいは画素等のセルを駆動する電子デバイスであればよい。例えば、このような電子デバイスとして、3Dクロスポイントメモリ、CMOSイメージセンサ、タッチパネルディスプレイの他、液晶ディスプレイ(LCD)等のフラットパネルディスプレイが挙げられる。
【0046】
また、
図11には、変形例にかかるNANDフラッシュメモリ1Aの構成を示している。この変形例においては、メモリアレイ11においてダミーサブアレイ部11bが除かれ、検出回路17が、複数のサブアレイ部11aごとに設けられ、複数のサブアレイ部11aに対応するそれぞれのワード線WLの遠端の電圧を検出するように構成されている。さらに、制御回路21は、データの読み出し時に、サブアレイ部11aごとに、検出回路17によって検出されたワード線WLの電圧に応じて駆動電圧の時間幅をキャリブレーションしてその駆動電圧を印加するように、駆動回路19を制御する。このような構成によれば、それぞれのサブアレイ部11a毎のワード線WLの電圧に応じて駆動電圧の時間幅をキャリブレーションするので、より精度のよい時間幅制御が可能となる。
【0047】
また、
図11に示した変形例においては、全てのサブアレイ部11aのそれぞれに検出回路17を設けなくてもよい。例えば、代表的な1つのサブアレイ部11aにのみ検出回路17を設け、制御回路21は、代表的な1つのサブアレイ部11aに対応するワード線WLを対象に検出回路17によって検出された電圧に応じて、全てのサブアレイ部11aに対応するワード線WLに印加する駆動電圧の時間幅をキャリブレーションするように、駆動回路19を制御してもよい。あるいは、複数のサブアレイ部11a毎に検出回路17を1つ設け、同様な検出回路17を複数設けてもよい。
【0048】
また、上記実施例及び変形例は、メモリセルに2値(1ビット)のデータを記憶することには限定されず、多値(2ビット以上)のデータを記憶するように動作してもよい。また、上記実施例及び変形例は、駆動電圧としてステップ状に電圧が上昇する駆動電圧を用いることには限定されず、駆動電圧としてステップ状に電圧が下降する駆動電圧を印加するように構成されてもよい。
【0049】
図12において、(a)部に1ビットのデータが記憶された場合の駆動電圧の波形を示し、(b)部に2ビットのデータが記憶された場合の駆動電圧の波形を示し、(c)部にはステップ状に下降する駆動電圧の波形を示している。このように、1ビットのデータを読み出す場合には、電圧値Eに上昇する電圧信号にプリパルスが設定された波形が用いられ、2ビットのデータを読み出す場合には、複数の電圧値E1,E2,E3(E1<E2<E3)に順番に多段階でステップ状に上昇し、それぞれの立ち上がるタイミングに同期(対応)した複数のタイミングでプリパルスが設定された駆動電圧が用いられる。また、2ビットのデータを読み出す場合には、最初に電圧値E3にステップ状に上昇し、その後に電圧値E2,E1に順番に多段階でステップ状に下降する駆動電圧が用いられてもよい(E1<E2<E3)。このときは、最初に電圧E3に立ち上がるタイミングに同期して立ち上がり幅に対して正電圧方向に高い波高値のプリパルスが設定され(オーバードライブ)、その後に電圧E2,E1に立ち下がるそれぞれのタイミングに同期して立ち下がり幅に対して負方向に高い波高値のプリパルスが設定される(アンダードライブ)。これらの場合においても、それぞれのプリパルスの時間幅がワード線WLの検出電圧を基に逐次キャリブレーションされる。
【0050】
また、上記実施形態においては、駆動回路19が上記式(6)に示す時間幅Toptに設定するように駆動電圧を生成していたが、この時間幅Toptは上記式(6)に示す値には限定されない。
【0051】
すなわち、上記式(5)においてkが1以上の項も考慮された時間幅T
optに設定することができる。例えば、上記式(5)においてk=2以降の項を無視すると、下記式;
【数10】
が成立する。上記式(10)において第2項及び第3項が0になる時刻tを最小にするTを最適な時間幅T
optと考えることができる。このような理論を利用して、例えば、ワード線WLの遠端の電圧における遅延時間を最短にするためには、駆動回路19は、下記式を満たすtを最小にする時間幅T
optに駆動電圧を設定する。
【数11】
【0052】
また、上記実施形態においては、駆動回路19がワード線WLの遠端における検出電圧が上記式(9)に示す電圧Vdetに至ったときにプリパルスをオフするように駆動電圧を生成していたが、この電圧Vdetは上記式(9)に示す値には限定されない。
【0053】
すなわち、上記式(3)においてkが1以上の項も考慮して電圧値V
detを設定することができる。例えば、上記式(3)においてk=2以降の項を無視すると、下記式;
【数12】
が成立する。上記式(12)に式(6)の値を代入することにより、ワード線WLの任意の位置xにおける時刻t=T
optでの電圧を下記式により計算することができる。
【数13】
従って、駆動回路19がワード線WLの遠端における検出電圧が上記式(13)に示す電圧V
detに至ったときにプリパルスをオフするように駆動電圧を生成することにより、最適な時間幅T
optに設定することができる。
【0054】
また、上記実施形態および上記変形例では、ワード線WLの遠端における電圧を検出してその電圧に応じてプリパルスの時間幅を設定していたが、検出するワード線WLの場所は任意の位置xであっても構わない。すなわち、上記式(8)あるいは上記式(13)に示す任意の位置xでの電圧値V
det(x)と検出電圧値とを比較してプリパルスをオフするように制御してもよい。例えば、ワード線WLの中間点x=l/2での検出電圧を用いる場合には、下記式;
【数14】
に示す電圧値V
det(x=l/2)と比較するように動作してもよい。
【0055】
また、上記実施形態および上記変形例では、駆動回路19は、データの読み出し処理時に、ステップ状に所定電圧値Eほど変化する電圧信号に対して、その電圧信号の立ち上りに同期したタイミングで波高値(α×E-E)で立ち上がるプリパルスを重畳する(重ね合わせる)ことによって、駆動電圧を生成してもよい。
【0056】
また、上記実施形態および上記変形例においては、駆動回路19がワード線WLの遠端における検出電圧が上記式(9)に示す電圧Vdetに至ったときにプリパルスをオフするように駆動電圧を生成していたが、この電圧Vdetはワード線WLのモデルに応じて異なる設定値に設定されてもよい。
【0057】
例えば、ワードWL線において隣り合う配線間の距離が比較的近い場合には、ワード線WLは、
図13に示すような、隣接配線間の容量C
1、及び配線とその配線が搭載されている基板との間の容量C
2を含む回路と考えることができ、この回路は
図14に示す分布定数回路に置き換えることができる。隣接する2つの配線の電圧および電流をe
1(x,t)、e
2(x,t)、i
1(x,t)、i
2(x,t)とすると、以下の方程式(15)~(18)が導かれる。
【数15】
【数16】
【数17】
【数18】
【0058】
上記方程式を解くことにより電圧e
1(t)が下記式(19)、(20)のように定式化される。
【数19】
【数20】
【0059】
上記式を用いることにより、β=0.01のときのワード線WLの遠端における電圧値V
det(x)に関する電圧比Aが、以下の表に示すように計算できる。以下の表には、容量比C
1/C
2と電圧比Aとの関係(β=0.01)を示しており、プリパルスの増幅率αをα=1.1,1.2,…,2と設定した場合の各容量比の値C
1/C
2=0,1/8,…,∞に対して設定されるべき電圧比Aの値を各カラムに示している。すなわち、容量比C
1/C
2に応じて決定された電圧値Eに対する電圧比Aを持つ電圧値V
det(x)を設定することにより、最適なプリパルスが設定される。このとき、電圧値V
det(x)は、抵抗値R、容量値C
1、C
2の大きさでは決まらず容量比C
1/C
2のみによって決定される。この電圧比Aは、上記式(19)および(20)を基に数値計算によって最適値が導出されたものである。容量比C
1/C
2が0と∞のときの値は、導出した式を基に計算されたものである。
【表1】
【0060】
ここで、上記実施形態では、制御部は、予め設定された目標値と電圧値とを比較し、当該比較の結果に応じてプリパルスをオン/オフすることにより、時間幅を設定する、ことも好ましい。この場合、駆動電圧のキャリブレーションのさらなる迅速化が可能となる。
【0061】
また、目標値は、所定電圧値及び所定波高値に基づいて予め設定されることも好ましい。また、目標値は、配線部における隣接配線間の容量と配線部と配線部が搭載される基板との間の容量によって決まる値であることも好ましい。この場合、配線部における駆動電圧の伝搬の遅延時間を最適化することができる。
【0062】
また、制御部は、目標値と電圧値とを比較する比較器を有し、電圧印加部は、比較器の出力に応じてプリパルスをオン/オフするスイッチを有する、ことも好ましい。こうすれば、簡易な構成により駆動電圧のキャリブレーションの迅速化が可能となる。
【0063】
また、制御部は、配線部の端部の電圧値を検出する、ことも好ましい。この場合には、配線部に接続される複数のセル全体において駆動電圧の遅延時間を短くすることができ、複数のセル全体の高速な駆動が可能となる。
【0064】
また、 電圧印加部は、ステップ状に多段階に変化する電圧信号の立ち上りあるいは立ち下りに対応した複数のタイミングにおいてプリパルスが設定された駆動電圧を生成する、ことも好ましい。この場合には、複数段階の電圧値の駆動電圧によって駆動される複数のセル全体の高速な駆動が可能となる。
【0065】
ここで、上記形態の電子デバイスは、複数のダミーセルが配列されたダミーアレイ部と、複数のセルが配列された1以上のアレイ部とを備え、制御部は、ダミーアレイ部に対応する配線部の電圧値を検出し、検出した電圧値に応じて1以上のアレイ部に対応する配線部に印加する駆動電圧のプリパルスの時間幅を設定する、ことが好ましい。かかる構成とすれば、アレイ部と同一デバイス上に構成されたダミーアレイ部に対応する配線部の電圧値を検出することによりプリパルスの時間幅が設定されるので、駆動電圧のキャリブレーションの適正化が容易となる。
【0066】
また、複数のセルが配列された1以上のアレイ部を備え、制御部は、1以上のアレイ部のうちのいずれかのアレイ部に対応する配線部の電圧値を検出し、検出した電圧値に応じて1以上のアレイ部のそれぞれに対応する配線部に印加する駆動電圧のプリパルスの時間幅を設定する、ことも好ましい。かかる構成とすれば、同一デバイス上に構成された1以上のアレイ部のいずれかのアレイ部に対応する配線部の電圧値を検出することによりプリパルスの時間幅が設定されるので、駆動電圧のキャリブレーションの適正化が容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の一側面は、複数のセルを駆動する駆動回路及び電子デバイスを使用用途とし、テストコスト及びテスト時間を抑制することができるものである。
【符号の説明】
【0068】
1,1A…NANDフラッシュメモリ、17…検出回路、19…駆動回路、21…制御回路、27…オペアンプ(比較器)、33a,33b,33c…MOSトランジスタ(スイッチ)、35…制御部、37…電圧印加部、MC…メモリセル、WL…ワード線。