(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】インジウム調塗膜形成用塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 1/00 20060101AFI20230920BHJP
C09D 5/38 20060101ALI20230920BHJP
C09D 135/00 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D5/38
C09D135/00
(21)【出願番号】P 2023092864
(22)【出願日】2023-06-06
【審査請求日】2023-06-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507381455
【氏名又は名称】株式会社フェクト
(74)【代理人】
【識別番号】100118393
【氏名又は名称】中西 康裕
(74)【代理人】
【識別番号】100119747
【氏名又は名称】能美 知康
(72)【発明者】
【氏名】有元 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大山 潤哉
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-106903(JP,A)
【文献】特開2020-132998(JP,A)
【文献】国際公開第2022/264188(WO,A1)
【文献】特開2021-172048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00
C09D 5/38
C09D 135/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状インジウム
粒子と、銀ナノ
粒子と、高分子分散剤と、揮発性アルコール溶媒とからなるインジウム調塗膜形成用塗料
であって、
前記鱗片状インジウム
粒子に対する前記銀ナノ
粒子の含有割合は、質量比で3%以上、50%以下であることを特徴とする、インジウム調塗膜形成用塗料。
【請求項2】
前記
揮発性アルコール溶媒が、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール及び1-メトキシ-2-プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項
1に記載のインジウム調塗膜形成用塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鏡面意匠性に優れたインジウム調塗膜を形成し得るインジウム調塗膜形成用塗料に関し、特に輝度感が高い鏡面意匠性に優れたインジウム調塗膜を形成し得るインジウム調塗膜形成用塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の内装部品や外装部品、携帯電話、ノートパソコン、家電製品等の筐体等の商品力を高めるために、製品へ塗装することにより意匠性を高めることが行われているが、近年、鏡と同様の質感をもった鏡面意匠とすることにより、商品の識別性をより高めることも多く行われている。
【0003】
鏡面意匠の付与方法としては、(i)めっき法、(ii)蒸着法(スパッタリング、イオンプレーティング等の物理的薄膜形成方法(PVD)法や化学的薄膜形成方法(CVD))、(iii)銀鏡塗装法、が知られており、それぞれに一長一短がある。(i)のめっき法は、廃水処理等の点で環境負荷が高く、特別な設備が必要となり、工程が多く、製造効率やコストの点で不利である。また、(ii)のPVD法やCVD法は、蒸着加工のための特別な設備が必要であり、設備が大掛かりとなり導入コストの点等で不利である。(iii)の銀鏡塗装法は、塗料の成分によっては廃水処理等が必要となる場合もあるが、一般的な塗装法によって形成できるため、特別な設備が不要であって、導入コストも安価であるという利点が存在する。
【0004】
塗装法によって金属光沢を与える方法としては、金、銀、アルミニウム等の金属粒子を塗料に分散させたり、これらの金属粒子自体を水性溶媒ないし非水性溶媒に分散させたものが知られており、プラスチック、ガラス、セラミックス等の表面、さらには木材の表面にも金属調意匠性を有する塗膜を形成することが行われている。金属調を呈する金属粒子としては、金及び銀は非常に金属調意匠性に優れているが貴金属であって高価であることから、従来の光輝材料はアルミニウムフレークが多く用いられている。しかしながら、アルミニウムフレークは、マイクロメーターオーダーの粒子径を有するため、塗装面にアルミニウムフレークの粒子感が残り、鮮やかさや光沢などの色彩感覚が十分でなく、銀鏡塗装のような鮮やかな銀鏡光沢面が得られず、また、水と反応して水素ガスを発生することがある。したがって、近年では水に対して安定でかつ無毒であり、くすみのあるクロームメッキ調という独特の金属調意匠性を備えているインジウムも用いられるようになってきている。たとえば、特許文献1(特許第6715383号公報)には、純度95%以上のインジウムからなり、特定の粒径範囲を有する薄片状(以下「鱗片状」という)インジウム粒子を含む水性塗料(請求項9参照)の発明が開示されている。
【0005】
また、特に自動車用のエンブレムに障害物検出用のレーザレーダないしミリ波レーダ等のセンサを組みこむことが行われるようになっており、塗装工程のみでミリ波透過などの電波特性と金属光沢色を有する美観とを両立できる偏平状のインジウム粒子を含む塗料を用いて金属調塗膜を形成した例も知られている。
【0006】
たとえば、特許文献2(特許第6920509号公報)には、金属調塗膜及びその形成方法に関し、基材の表面上又は前記基材上に設けられたアンダーコート層の表面上に、特定の粒径範囲の鱗片状のインジウム粒子と溶剤とを含有し、かつ、樹脂成分を含有しない島部形成用塗料を塗布して島部を形成する工程と、前記島部が形成された面上にトップコート層を形成する工程とにより形成され、前記島部は、前記鱗片状のインジウム粒子の一つの粒子ないし前記鱗片状のインジウム粒子の複数の粒子が相互に少なくとも一部において重なり合っており、前記トップコート層は、前記島部の表面上を覆うとともに、前記島部が存在しない部分では前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上を覆っている金属調塗膜の発明が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3(特許第7146311号公報)には、被塗物の上に直接又は間接的に設けられた特定の組成を有する下塗塗膜層と、前記下塗塗膜層の上に設けられた、特定の粒径範囲の蒸着インジウム薄膜フレーク(以下、「鱗片状インジウム粒子」という)の重量濃度(PWC)が72.7%以上である金属含有塗膜層を有する塗装物の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6715383号公報
【文献】特許第6920509号公報
【文献】特許第7146311号公報
【文献】特許第5950427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されている発明によれば、入射角20°のグロス値が150以上であり、入射角60°でのグロス値(光沢値)が170以上(請求項11参照)という高グロス値の優れた金属意匠性を発現できる塗膜を得ることができ、しかもCIE Lab表色系においてL*値(全反射)が60以上、a*値が-5以上0.2以下、b*値が値-1以上8.5以下(請求項15参照)であり、金属調意匠性を付与する代表的な公報であるクロームメッキと遜色ない意匠性を付与することができるという優れた効果を奏することができるようになる。
【0010】
また、特許文献2に開示されている発明によれば、塗装工程のみでミリ波透過などの電波特性と金属光沢色を有する美観とを両立できる金属調塗膜及びその形成方法を提供できる。さらに、特許文献3に開示されている発明によれば、20°光沢値が150以上及び60°光沢値が170以上であり、かつ、24GHz帯及び78GHz帯における電波透過率が75%以上の金属調塗膜を得ることができるようになる。
【0011】
しかしながら、特許文献1~3に開示されている発明によって形成される金属調塗膜の金属調はいずれも鱗片状インジウム粒子そのものによって発揮されるものであるため、輝度感もインジウム金属自体のくすみのあるクロームメッキ調というレベルを越えてはおらず、より輝度感に優れた金属調塗膜が要望されている。
【0012】
発明者等は、このような鱗片状インジウム粒子を含む塗料を用いて形成された金属調塗膜の輝度感を向上させるべく種々検討を重ねた結果、鱗片状インジウム粒子に銀ナノ粒子を併用することによって、インジウム金属自体のくすみのあるクロームメッキ調という性質を保持したまま輝度感を高めることが出来ることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。すなわち、本発明は、輝度感が高い鏡面意匠性に優れたインジウム調塗膜形成用塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、鱗片状インジウム粒子と、銀ナノ粒子と、高分子分散剤と、揮発性アルコール溶媒とからなるインジウム調塗膜形成用塗料であって、前記鱗片状インジウム粒子に対する前記銀ナノ粒子の含有割合は、質量比で3%以上、50%以下であるインジウム調塗膜形成用塗料が提供される。
【0014】
本発明のインジウム調塗膜形成用塗料においては、鱗片状インジウム粒子と銀ナノ粒子とが共存していることが必須である。これにより、インジウム金属自体のくすみのあるクロームメッキ調という性質を保持したまま、より輝度感が高い(光沢値が大きい)インジウム調塗膜を得ることができるようになる。
【0015】
なお、銀ナノ粒子に換えて一般的な銀微粒子を用いた場合は、鏡面が得られないため、光沢値の向上に繋がらない。また、銀ナノ粒子を含まず、鱗片状インジウム粒子と、高分子分散剤と、揮発性アルコール溶媒とからなる塗料を用いて塗膜を形成した後、その表面に鱗片状インジウム粒子を含まず、銀ナノ粒子と、高分子分散剤と、揮発性アルコール溶媒とからなる塗料を塗布して塗膜を形成しても、外観はインジウム調が失われて実質的に銀塗膜となってしまうので、好ましくない。
【0016】
また、高分子分散剤は、鱗片状インジウム粒子及び銀ナノ粒子が共に凝集せずに安定した状態でインジウム調塗膜形成用塗料中に分散された状態とするために必要である。また、アルコール溶媒は、高分子分散剤とともに本発明のインジウム調塗膜形成用塗料中の鱗片状インジウム粒子と銀ナノ粒子の分散性を良好に維持することができると共に、揮発性が良好であるため、本発明のインジウム調塗膜形成用塗料を各種基材に塗布した後、乾燥させるだけで輝度感が高いインジウム調塗膜を形成することができるようになる。
【0017】
なお、本発明における「鱗片状」とは、薄片状、平板状、塗フレーク状等と称されるものも含む。また、本発明のインジウム調塗膜形成用塗料を用いて塗膜を形成する方法としては、スプレー塗装法、刷毛塗り法、ローラーコーター法等周知の方法を採用できる。
【0018】
本発明のインジウム調塗膜形成用塗料においては、鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合は、質量比で、3%以上、50%以下であることが好ましい。鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合が質量比で3%未満であると銀ナノ粒子添加による輝度向上という効果が小さく、同じく50%を越えても輝度向上効果が飽和してしまい、しかも銀ナノ粒子が高価であるため、不経済となる。より好ましい鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合は、質量比で、10%以上、40%以下である。
【0019】
また、本発明のインジウム調塗膜形成用塗料においては、銀ナノ粒子は、アルコール溶媒中にスチレン-無水マレイン酸樹脂構造を有し、前記無水マレイン酸の一部が末端水酸基のポリアルキレングリコール又は末端アミノ基のポリアルキレングリコールで変性されているものからなる酸価が150以下の高分子分散剤を溶解させるとともに、酸化銀及び炭酸銀から選択される少なくとも1種の銀化合物を分散させたアルコール溶液を用い、前記アルコール溶液中に超音波を照射することにより製造されたものを使用することが好ましい。このような製造方法により製造された銀ナノ粒子は、高分子分散剤を含むアルコール溶媒中に分散された状態で得られるが、不純物が少なく、特に銀ナノ粒子を分別することなくそのまま本発明のインジウム調塗膜形成用塗料の調製に使用することができるようになる。
【0020】
また、本発明のインジウム調塗膜形成用塗料としては、アルコール溶媒が、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール及びジアセトンアルコールからなる群から選択される少なくとも1種とすることが好ましい。これらのアルコール溶媒は、揮発性が良く、超音波照射法(ソノケミカル法)による銀化合物を還元するための還元剤としても有効に作用し、高分子分散剤の溶解性にも優れている。加えて、これらのアルコール溶媒は、常温での蒸発速度が速く、しかも、インジウム調塗膜を形成する基材としてのプラスチックや下塗り層に対して作用がマイルドであり、基材のクレージングなどの浸食作用がないので、短時間に、平坦性に優れ、良好な輝度感が高いインジウム調塗膜を形成することができるようになる。より好ましいアルコール溶媒は、1-メトキシ-2-プロパノール(プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルないしメトキシプロパノールと称されることもある)である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実験例1~10のインジウム調塗膜形成用塗料の組成と光沢値の関係を示すグラフである。
【
図2】実験例1~10のインジウム調塗膜形成用塗料の組成とCIE Lab表色系におけるL
*値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るインジウム調塗膜形成用塗料について、各種実験例を用いて詳細に説明する。ただし、以下に示す各種実験例は、本発明の技術思想を具体化するための例を示すものであって、本発明をこれらの実験例に示したものに特定することを意図するものではない。本発明は特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適応し得るものである。
【0023】
[鱗片状インジウム粒子分散液の調製]
各種実験例に共通して用いる鱗片状インジウム粒子分散液は以下のようにして調製した。鱗片状インジウム粒子ペースト(濃度20質量%)として市販されているリーフパウダー49CJ-1120(商品名、尾池メタリックデザイン(株)、平均粒径:0.2~0.5μm)を、1-メトキシ-2-プロパノール中に分散させて鱗片状インジウム粒子含有割合が10質量%となるようにし、各種実験例に共通して用いる鱗片状インジウム粒子分散液を調製した。
【0024】
[銀ナノ粒子分散液の調製]
200mlガラスビーカーを用いて、高分子分散剤としてDisperbyk2015(不揮発分40%、酸価10、BYK社製)4gを2-プロパノール(イソプロピルアルコール)100g中に溶解し、酸化銀粉末25gを懸濁させた。この高分子分散剤の不揮発分の酸価は25であり、高分子分散剤の含有割合は酸化銀に対して質量比で(4×0.4/25)×100=6.4%となる。なお、Disperbyk2015は、スチレン-無水マレイン酸樹脂構造を有し、この無水マレイン酸の一部が末端水酸基のポリアルキレングリコールによって変性されたものからなる。
【0025】
次いで、この懸濁液に超音波装置H3 650((有)カワジリマシナリー社製)を使用して、15~17℃の室温下で2時間、20KHzで照射してソノケミカル反応を起こさせた。次に1μmのフィルターでろ過して褐色の銀ナノ粒子分散液を得た。この銀ナノ粒子分散液は425nm付近に銀ナノ粒子に由来する表面プラスモンバンドも観測できている。そして、この銀ナノ粒子分散液を、1-メトキシ-2-プロパノールで希釈し、銀ナノ粒子含有有割合が10質量%となるようにして、実験例で使用する銀ナノ粒子分散液を得た。なお、この銀ナノ粒子分散液の調製方法は、上記特許文献4に開示されている方法に従ったものであり、公知の方法である。
【0026】
[実験例1]
実験例1では、上述のようにして調製された鱗片状インジウム粒子分散液をそのまま使用し、黒色ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂)板にスプレー塗装し、80℃で30分間乾燥することにより、実験例1の塗布試料を作成した。この実験例1の塗布試料中のインジウム濃度は10質量%に相当する。この実験例1の塗布試料について、micro-gross60(商品名、BYK社製)を用いて光沢値を測定し、同じくカラーリーダーCR-10Plus(商品名、コニカミノルタ社製)を用いてCIE Lab表色系におけるL*値を測定した。結果を塗布試料の組成と共に表1にまとめて示した。
【0027】
[実験例2]
実験例2では、上述のようにして調製された鱗片状インジウム粒子分散液の100gと、同じく上述のようにして調製された銀ナノ粒子分散液の3gを混合し、実験例2で使用する鱗片状インジウム粒子及び銀ナノ粒子分散液を調製し、その他は実験例1の場合と同様にして実験例2の塗布試料を作成して光沢値を測定した。この実験例2の塗布試料中の実験例1の塗布試料を作成した。この実験例2の塗布試料中のインジウム濃度は9.7質量%に相当し、鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合は、質量比で、3%である。結果を塗布試料の組成と共に表1にまとめて示した。
【0028】
[実験例3]
実験例3では、上述のようにして調製された鱗片状インジウム粒子分散液の100gと、同じく上述のようにして調製された銀ナノ粒子分散液の5gを混合し、実験例2で使用する鱗片状インジウム粒子及び銀ナノ粒子分散液を調製し、その他は実験例1の場合と同様にして実験例3の塗布試料を作成して光沢値を測定した。この実験例3の塗布試料中のインジウム濃度は9.5質量%に相当し、鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合は、質量比で、5%である。結果を塗布試料の組成と共に表1にまとめて示した。
【0029】
[実験例4]
実験例4では、上述のようにして調製された鱗片状インジウム粒子分散液の100gと、同じく上述のようにして調製された銀ナノ粒子分散液の10gを混合し、実験例4で使用する鱗片状インジウム粒子及び銀ナノ粒子分散液を調製し、その他は実験例1の場合と同様にして実験例4の塗布試料を作成して光沢値を測定した。この実験例4の塗布試料中のインジウム濃度は9.1質量%に相当し、鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合は、質量比で、10%である。結果を塗布試料の組成と共に表1にまとめて示した。
【0030】
[実験例5]
実験例5では、上述のようにして調製された鱗片状インジウム粒子分散液の100gと、同じく上述のようにして調製された銀ナノ粒子分散液の20gを混合し、実験例5で使用する鱗片状インジウム粒子及び銀ナノ粒子分散液を調製し、その他は実験例1の場合と同様にして実験例5の塗布試料を作成して光沢値を測定した。この実験例5の塗布試料中のインジウム濃度は8.3質量%に相当し、鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合は、質量比で、20%である。結果を塗布試料の組成と共に表1にまとめて示した。
【0031】
[実験例6]
実験例6では、上述のようにして調製された鱗片状インジウム粒子分散液の100gと、同じく上述のようにして調製された銀ナノ粒子分散液の30gを混合し、実験例6で使用する鱗片状インジウム粒子及び銀ナノ粒子分散液を調製し、その他は実験例1の場合と同様にして実験例6の塗布試料を作成して光沢値を測定した。この実験例6の塗布試料中のインジウム濃度は7.7質量%に相当し、鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合は、質量比で、30%である。結果を塗布試料の組成と共に表1にまとめて示した。
【0032】
[実験例7]
実験例7では、上述のようにして調製された鱗片状インジウム粒子分散液の100gと、同じく上述のようにして調製された銀ナノ粒子分散液の40gを混合し、実験例7で使用する鱗片状インジウム粒子及び銀ナノ粒子分散液を調製し、その他は実験例1の場合と同様にして実験例7の塗布試料を作成して光沢値を測定した。この実験例7の塗布試料中のインジウム濃度は7.1質量%に相当し、鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合は、質量比で、40%である。結果を塗布試料の組成と共に表1にまとめて示した。
【0033】
[実験例8]
実験例8では、上述のようにして調製された鱗片状インジウム粒子分散液の100gと、同じく上述のようにして調製された銀ナノ粒子分散液の50gを混合し、実験例8で使用する鱗片状インジウム粒子及び銀ナノ粒子分散液を調製し、その他は実験例1の場合と同様にして実験例8の塗布試料を作成して光沢値を測定した。この実験例8の塗布試料中のインジウム濃度は6.7質量%に相当し、鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合は、質量比で、50%である。結果を塗布試料の組成と共に表1にまとめて示した。
【0034】
[実験例9]
実験例8では、上述のようにして調製された鱗片状インジウム粒子分散液の100gと、同じく上述のようにして調製された銀ナノ粒子分散液の60gを混合し、実験例9で使用する鱗片状インジウム粒子及び銀ナノ粒子分散液を調製し、その他は実験例1の場合と同様にして実験例9の塗布試料を作成して光沢値を測定した。この実験例9の塗布試料中のインジウム濃度は6.3質量%に相当し、鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合は、質量比で、60%である。結果を塗布試料の組成と共に表1にまとめて示した。
【0035】
[実験例10]
実験例10では、上述のようにして調製された鱗片状インジウム粒子分散液の100gと、同じく上述のようにして調製された銀ナノ粒子分散液の70gを混合し、実験例10で使用する鱗片状インジウム粒子及び銀ナノ粒子分散液を調製し、その他は実験例1の場合と同様にして実験例10の塗布試料を作成して光沢値を測定した。この実験例10の塗布試料中のインジウム濃度は5.9質量%に相当し、鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合は、質量比で、70%である。結果を塗布試料の組成と共に表1にまとめて示した。
【0036】
実験例1~10の塗布試料中の鱗片状インジウム
粒子に対する銀ナノ
粒子の含有割合と測定された光沢値及びL
*値を表1にまとめて示し、さらに、塗布試料中の鱗片状インジウム
粒子に対する銀ナノ
粒子の含有割合と測定された光沢値の関係を
図1に、塗布試料中の鱗片状インジウム
粒子に対する銀ナノ
粒子の含有割合と測定された及びL
*値の関係を
図2に示した。
【0037】
【0038】
表1及び
図1に示した結果から以下のことが分かる。すなわち、光沢値については、インジウム調塗膜形成用塗料中に銀ナノ
粒子が含まれていない実験例1の塗膜の場合は、銀ナノ
粒子が含まれている実験例2~10の塗膜の光沢値よりも低くなっている。それに対し、インジウム調塗膜形成用塗料中に銀ナノ
粒子が含まれている実験例2~10の塗膜の光沢値は、実験例1の塗膜のものよりも大きくなっており、実験例2~9までのインジウム調塗膜形成用塗料中に銀ナノ
粒子が含まれている塗膜の光沢値は、銀ナノ
粒子の含有割合に比例して大きくなっているが、その増加の傾向は、銀ナノ
粒子が含まれていない実験例1と銀ナノ
粒子の含有割合が3%である実験例2との間が最も大きく、銀ナノ
粒子の含有割合が多くなるに従って小さくなっており、実験例9及び10の塗膜では実質的に同一の光沢値となっている。
【0039】
また、L*値については、インジウム調塗膜形成用塗料中に銀ナノ粒子の含有割合の増大に比例して徐々に大きくなっているが、その増加の傾向は、銀ナノ粒子の含有割合が50%を越えると飽和してきており、実験例8~10の塗膜では実質的に同一のL*値となっている。
【0040】
以上の結果から、塗膜中の鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合は、質量比で、3%未満であると銀ナノ粒子添加による光沢値向上という効果が小さく、同じく50%を越えても光沢値向上効果が飽和してしまい、しかも銀ナノ粒子が高価であるため、不経済となるので、上限は50%以下が好ましいことが分かる。さらに、塗膜中の鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合が10%未満では銀ナノ粒子の含有割合の低下に従う塗膜の光沢値の低下割合が大きいため、より好ましい鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合は、質量比で、10%以上、40%以下であると思われる。
【0041】
同じく、L*値の観点で眺めて見ると、塗膜中の鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合は、銀ナノ粒子の含有割合の増大に伴ってL*値も増大するが、40%を越えてもL*値の向上効果が飽和している。さらに塗膜中の鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合が40%と50%の間では銀ナノ粒子の含有割合の増加に従う塗膜の光沢値の上昇割合が小さいため、上限は50%以下、銀ナノ粒子が効果であることから経済性をも考慮すると、好ましくは40%以下が好ましいことが分かる。
【0042】
金属調の意匠の表現として、輝度感といった表現があるが、輝度感を数値で表すことは困難であり、また、一般に光沢値及びL*値ともに測定装置に依存した数値であるため、光沢値からL*値、逆にL*値から光沢値をそれぞれ一義に定めることは難しい状況である。ただ、輝度感の指標として、光沢値が高く、L*値(明度)が高くなることで輝度が向上していることを提示できる。したがって、本発明においては、光沢値及びL*値の測定結果を総合して判断し、さらには銀ナノ粒子が高価であるという経済性をも勘案すると、輝度感向上効果を奏するための好ましい塗膜中の鱗片状インジウム粒子に対する銀ナノ粒子の含有割合は、質量比で、3%以上、50%以下であり、より好ましくは10%以上、40%以下であると思われる。
【要約】
【課題】輝度感が高い鏡面意匠性に優れたインジウム調塗膜を形成し得るインジウム調塗膜形成用塗料を提供する。
【解決手段】本発明のインジウム調塗膜形成用塗料は、鱗片状インジウムフィラーと、銀ナノフィラーと、高分子分散剤と、揮発性アルコール溶媒とからなる。前記鱗片状インジウムフィラーに対する前記銀ナノフィラーの含有割合は、質量比で3%以上、50%以下が好ましく、より好ましくは、質量比で10%以上、40%以下である。アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール及び1-メトキシ-2-プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。
【選択図】
図1