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特許7351602タグ識別装置、タグ識別方法、及びタグ識別プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】タグ識別装置、タグ識別方法、及びタグ識別プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20230920BHJP
【FI】
G05B23/02 301Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018017606
(22)【出願日】2018-02-02
(65)【公開番号】P2019133596
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-01-18
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】小林 靖典
(72)【発明者】
【氏名】ソンジェ サチンクマール
【合議体】
【審判長】渋谷 善弘
【審判官】鈴木 貴雄
【審判官】田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0135944(US,A1)
【文献】特開2016-115195(JP,A)
【文献】特開平10-143238(JP,A)
【文献】特開平9-54567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タグ毎に、ユーザが任意に設定したタグ名と、前記タグ名を用いて取り扱われるデータであるタグデータの種類、上下限値、及び工業単位とが定義された第1定義情報を格納する格納部と、
前記第1定義情報から、前記タグデータの種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つと、予め特定されたプロセス値であって前記タグ名との対応関係が不明な第1プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つとが一致するタグを抽出し、抽出したタグのうち、定義されている前記タグ名を用いて取り扱われるタグデータが、前記第1プロセス値の特徴を最も表しているタグを、前記第1プロセス値に対応する第1タグと識別する第1処理を行う処理部と、
を備えるタグ識別装置。
【請求項2】
前記格納部は、プロセス監視に用いられる相互に関連する監視画面であってタグに関する情報が含まれるグラフィックが複数定義された第2定義情報を格納し、
前記処理部は、前記第1定義情報から、予め特定されたプロセス値であって前記タグ名との対応関係が不明な第2プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つが一致するタグを抽出してタググループを作成し、作成したタググループのうち、前記第1タグが含まれる前記グラフィックに存在するタググループを、前記第2プロセス値に対応する第2タグと識別する第2処理を行う、請求項1記載のタグ識別装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記第2タグが含まれる前記グラフィックの中から、予め特定されたプロセス値であって前記タグ名との対応関係が不明な第n(nは、3以上の整数)プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つが一致するタグを抽出し、抽出したタグのうち、定義されている前記タグ名を用いて取り扱われるタグデータが、前記第nプロセス値の特徴を最も表しているタグを、前記第nプロセス値に対応する第nタグと識別する第3処理を繰り返す、請求項2記載のタグ識別装置。
【請求項4】
前記処理部は、識別すべきプロセス値が複数ある場合には、前記タグ名の類似性も考慮して前記タグの抽出を行う、請求項1から請求項3の何れか一項に記載のタグ識別装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記第1タグが含まれる前記グラフィックにタググループが存在しない場合には、前記グラフィックの関連性に基づいて、前記グラフィックを辿って前記タググループの検索を行う、請求項2又は請求項3記載のタグ識別装置。
【請求項6】
タグ毎に、ユーザが任意に設定したタグ名と、前記タグ名を用いて取り扱われるデータであるタグデータの種類、上下限値、及び工業単位とが定義された第1定義情報を格納部に格納するステップと、
前記第1定義情報から、前記タグデータの種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つと、予め特定されたプロセス値であって前記タグ名との対応関係が不明な第1プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つとが一致するタグを抽出し、抽出したタグのうち、定義されている前記タグ名を用いて取り扱われるタグデータが、前記第1プロセス値の特徴を最も表しているタグを、前記第1プロセス値に対応する第1タグと識別する第1ステップと、
を有するタグ識別方法。
【請求項7】
プロセス監視に用いられる相互に関連する監視画面であってタグに関する情報が含まれるグラフィックが複数定義された第2定義情報を前記格納部に格納するステップと、
前記第1定義情報から、予め特定されたプロセス値であって前記タグ名との対応関係が不明な第2プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つが一致するタグを抽出してタググループを作成し、作成したタググループのうち、前記第1タグが含まれる前記グラフィックに存在するタググループを、前記第2プロセス値に対応する第2タグと識別する第2ステップと、
を更に有する請求項6記載のタグ識別方法。
【請求項8】
前記第2タグが含まれる前記グラフィックの中から、予め特定されたプロセス値であって前記タグ名との対応関係が不明な第n(nは、3以上の整数)プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つが一致するタグを抽出し、抽出したタグのうち、定義されている前記タグ名を用いて取り扱われるタグデータが、前記第nプロセス値の特徴を最も表しているタグを、前記第nプロセス値に対応する第nタグと識別する第3ステップを更に有する請求項7記載のタグ識別方法。
【請求項9】
コンピュータを、タグ毎に、ユーザが任意に設定したタグ名と、前記タグ名を用いて取り扱われるデータであるタグデータの種類、上下限値、及び工業単位とが定義された第1定義情報を格納する格納手段と、
前記第1定義情報から、前記タグデータの種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つと、予め特定されたプロセス値であって前記タグ名との対応関係が不明な第1プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つとが一致するタグを抽出し、抽出したタグのうち、定義されている前記タグ名を用いて取り扱われるタグデータが、前記第1プロセス値の特徴を最も表しているタグを、前記第1プロセス値に対応する第1タグと識別する第1処理を行う処理手段と、
して機能させるタグ識別プログラム。
【請求項10】
前記格納手段は、プロセス監視に用いられる相互に関連する監視画面であってタグに関する情報が含まれるグラフィックが複数定義された第2定義情報を格納し、
前記処理手段は、前記第1定義情報から、予め特定されたプロセス値であって前記タグ名との対応関係が不明な第2プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つが一致するタグを抽出してタググループを作成し、作成したタググループのうち、前記第1タグが含まれる前記グラフィックに存在するタググループを、前記第2プロセス値に対応する第2タグと識別する第2処理を行う、請求項9記載のタグ識別プログラム。
【請求項11】
前記処理手段は、前記第2タグが含まれる前記グラフィックの中から、予め特定されたプロセス値であって前記タグ名との対応関係が不明な第n(nは、3以上の整数)プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つが一致するタグを抽出し、抽出したタグのうち、定義されている前記タグ名を用いて取り扱われるタグデータが、前記第nプロセス値の特徴を最も表しているタグを、前記第nプロセス値に対応する第nタグと識別する第3処理を繰り返す、請求項10記載のタグ識別プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タグ識別装置、タグ識別方法、及びタグ識別プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製製品、石油化学製品、電力、ガス、ガラス、紙・パルプ等の各種製品は、プラントや工場等(以下、これらを総称する場合には、単に「プラント」という)において、プロセス系によって製造される。プラントでは、プロセス系における各種の状態量(例えば、圧力、温度、流量、レベル等)を制御するプロセス制御システムが構築されており、高度な自動操業が実現されている。このプロセス制御システムの一つに、操作監視部とコントローラとが分散配置される分散制御システム(DCS:Distributed Control System)がある。
【0003】
プラントに構築される分散制御システムの規模は、概ねプラントの規模に応じて増減する。そこで取り扱われるデータ(プロセス状態量を測定する各種フィールド機器からの入力値、分散配置された各コントローラから調節弁や回転機器への出力値、監視のための過去数時間前から現在までの履歴値等)点数もプラントの規模に応じて増減し、大規模なプラントでは数千点~数万点にもなる。分散制御システムでは、データの各々に「タグ」と呼ばれる識別情報が割り当てられており、各種データはタグを用いて取り扱われている。
【0004】
以下の特許文献1には、従来の分散制御システムの一例が開示されている。具体的に、以下の特許文献1には、複数のフィールド機器とコントローラとがネットワークに接続されており、コントローラが、フィールド機器の一種である測定器(流量計や温度計等)の測定結果を取得し、この測定結果に応じてフィールド機器の一種である操作器(バルブ等)を操作する分散制御システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4399773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した分散制御システムで取り扱われる各種データは、プラントの過去から現在までの運転状態を示すものであるから、例えばプラントに設けられた各種機器、装置、設備に加えて運転員のパフォーマンスや、運転そのもののパフォーマンス(安全性、利益性、省エネ性、生産性等)の監視、診断、問題原因分析等に広く活用できるものと考えられる。しかしながら、一般的に、分散制御システムの製造者は、石油会社や化学会社等のプロセス製造者ではなく、システムが導入されているプロセスの化学工学的知識やプラントの各種業務知識(運転知識を含む)を有していないため、上記の各種データをプロセス監視制御の目的以外では活用することが難しかった。このため、上記の各種データは、基本的には、プロセスの監視制御のみに用いられ、プロセスの監視制御に使用された後は捨てられるか、要求に応じてプラント情報管理システム等の上位システムに提供されるのが一般的である。
【0007】
分散制御システムで取り扱われるデータに割り当てられるタグの名称(タグ名)は、エンドユーザ(プロセス運転者)が任意に設定することが可能であることから、タグ名は、例えばエンドユーザが理解しやすい名称とされることが多い。このため、分散制御システムにおいて、タグを用いて取り扱われるデータ(タグデータ)が、どのプロセス値(常圧蒸留塔の塔頂圧力値等)に該当するのかは、タグ名を設定したエンドユーザしか分からないのが殆どである。また、各タグに短いコメント文字列を追加定義することはできるが、これもエンドユーザが理解しやすい名称とされることが多いため、エンドユーザしか分からないのが殆どである。分散制御システムの製造者が、プロセスの化学工学的知識やプラントの各種業務知識を得ることによって、分散制御システムで取り扱われるタグデータをプロセス監視制御以外の目的でエンドユーザのために活用しようとしても、既に導入済みのシステムの場合は、エンドユーザに聞かない限り、タグデータがどのプロセス値に該当するのかが分からないことから、エンドユーザに確認する前に先んじて活用することができていないのが実情である。
【0008】
分散制御システムの製造者が、タグ名を設定したエンドユーザから、タグ名とプロセス値との対応関係を聞き出せば、上記のタグデータをプロセス監視制御以外の目的で活用することができる。しかしながら、エンドユーザからタグ名とプロセス値との対応関係を聞き出すには、その目的、効果、費用等をエンドユーザに説明した上で、エンドユーザの合意を得なければならない。このため、エンドユーザの合意が得られない場合には、例えエンドユーザのためであっても分散制御システムで取り扱われるタグデータをプロセス監視制御以外の目的で活用することができないという問題がある。この問題は、分散制御システムに限られる問題ではなく、データをタグ形式で取り扱っているシステム全般における問題である。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ユーザが任意に設定したタグ名とプロセス値との対応関係を自動的に識別することができるタグ識別装置、タグ識別方法、及びタグ識別プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様によるタグ識別装置は、ユーザが任意に設定したタグ名とプロセス値との対応関係を自動的に識別するタグ識別装置(40)であって、タグ毎に、前記タグ名と、前記タグ名を用いて取り扱われるデータであるタグデータの種類、上下限値、及び工業単位とが定義された第1定義情報(TL)から、予め特定された第1プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つが一致するタグを抽出し、抽出したタグに定義されている前記タグ名を用いて取り扱われるタグデータを、前記タグデータの実測値(PD)を用いて選択して前記第1プロセス値と識別する第1処理を行う処理部(44)を備えるタグ識別装置。
また、本発明の一態様によるタグ識別装置は、前記処理部が、前記第1定義情報から、予め特定された第2プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つが一致するタグを抽出し、抽出したタグに定義されている前記タグ名を用いて取り扱われるタグデータを、プロセス監視に用いられる相互に関連する監視画面であってタグに関する情報が含まれるグラフィックが複数定義された第2定義情報(GD)及び前記タグデータの実測値の少なくとも一方を用いて選択して前記第2プロセス値と識別する第2処理を行う。
また、本発明の一態様によるタグ識別装置は、前記処理部が、前記第1定義情報及び前記第2定義情報の少なくとも一方から、予め特定された第n(nは、3以上の整数)プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つが一致するタグを抽出し、抽出したタグに定義されている前記タグ名を用いて取り扱われるタグデータを前記第nプロセス値と識別する第3処理を繰り返す。
また、本発明の一態様によるタグ識別装置は、前記処理部が、識別すべきプロセス値が複数ある場合には、前記タグ名の類似性も考慮して前記タグの抽出を行う。
また、本発明の一態様によるタグ識別装置は、前記処理部が、前記第2定義情報を用いる場合には、前記グラフィックの関連性に基づいて、前記グラフィックを辿って前記タグデータの選択又は前記タグの抽出を行う。
本発明の一態様によるタグ識別方法は、ユーザが任意に設定したタグ名とプロセス値との対応関係を自動的に識別するタグ識別方法であって、タグ毎に、前記タグ名と、前記タグ名を用いて取り扱われるデータであるタグデータの種類、上下限値、及び工業単位とが定義された第1定義情報(TL)から、予め特定された第1プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つが一致するタグを抽出し、抽出したタグに定義されている前記タグ名を用いて取り扱われるタグデータを、前記タグデータの実測値(PD)を用いて選択して前記第1プロセス値と識別する第1ステップ(S11)を有する。
また、本発明の一態様によるタグ識別方法は、前記第1定義情報から、予め特定された第2プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つが一致するタグを抽出し、抽出したタグに定義されている前記タグ名を用いて取り扱われるタグデータを、プロセス監視に用いられる相互に関連する監視画面であってタグに関する情報が含まれるグラフィックが複数定義された第2定義情報(GD)及び前記タグデータの実測値の少なくとも一方を用いて選択して前記第2プロセス値と識別する第2ステップ(S12)を更に有する。
また、本発明の一態様によるタグ識別方法は、前記第1定義情報及び前記第2定義情報の少なくとも一方から、予め特定された第n(nは、3以上の整数)プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つが一致するタグを抽出し、抽出したタグに定義されている前記タグ名を用いて取り扱われるタグデータを前記第nプロセス値と識別する第3ステップ(S14)を更に有する。
本発明の一態様によるタグ識別プログラムは、コンピュータを、ユーザが任意に設定したタグ名とプロセス値との対応関係を自動的に識別するタグ識別装置(40)として機能させるタグ識別プログラムであって、前記コンピュータを、タグ毎に、前記タグ名と、前記タグ名を用いて取り扱われるデータであるタグデータの種類、上下限値、及び工業単位とが定義された第1定義情報(TL)から、予め特定された第1プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つが一致するタグを抽出し、抽出したタグに定義されている前記タグ名を用いて取り扱われるタグデータを、前記タグデータの実測値(PD)を用いて選択して前記第1プロセス値と識別する第1処理を行う処理手段(44)として機能させる。
また、本発明の一態様によるタグ識別プログラムは、前記処理手段が、前記第1定義情報から、予め特定された第2プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つが一致するタグを抽出し、抽出したタグに定義されている前記タグ名を用いて取り扱われるタグデータを、プロセス監視に用いられる相互に関連する監視画面であってタグに関する情報が含まれるグラフィックが複数定義された第2定義情報(GD)及び前記タグデータの実測値の少なくとも一方を用いて選択して前記第2プロセス値と識別する第2処理を行う。
また、本発明の一態様によるタグ識別プログラムは、前記処理手段が、前記第1定義情報及び前記第2定義情報の少なくとも一方から、予め特定された第n(nは、3以上の整数)プロセス値の種類、上下限値、及び工業単位の少なくとも1つが一致するタグを抽出し、抽出したタグに定義されている前記タグ名を用いて取り扱われるタグデータを前記第nプロセス値と識別する第3処理を繰り返す。
【0011】
つまり、本発明の一態様は、該当プラントに定義されたタグデータのタグ名、データ種別(温度、圧力、流量、レベル等)、スケールの上下限値、工業単位、定義されている制御ドローイング名といった属性が網羅的に定義された第1定義情報(TL)から、タグ名の類似性(名称の先頭から1文字ずつ同一かどうかを比較し、同一率をもって判断する)及び属性の組み合わせが特徴的なタグの候補をプロセスの化学工学的知識を使ってプロセスユニット毎に抽出し、前記タグデータの実測値(PD)と組み合わせて最終的に何のプロセス値(第1プロセス値)であるかを特定する。
次に、特定したタグを起点に、当該プロセスユニットに存在する別の特徴的なタグ(特徴的だが、前述の組み合わせだけでは特定できない)を特定する。これには、各グラフィックにどのタグが含まれているかの情報と、各グラフィック間の呼び出し関係が定義された第2定義情報(GD)とを使う。まず、特定したタグが含まれるグラフィックを抽出する。次に、それらグラフィックの中から、当該プロセスユニットで次に特徴的なタグ(但し、直接特定できないタグ)を特定する。仮に、そのグラフィックに見つからなかった場合は、呼び出し関係が近い別のグラフィック内で特定を試みる。それでも見つからなかった場合は、次に呼び出し関係が近い別のグラフィックで特定を試みるということを繰り返す。
尚、上記の化学工学的知識とは、石油・化学製品の製造の仕組み(物質収支、熱収支、反応、分離、製造プロセスの設計、プロセス制御系の設計)に関する知識である。例えば、「石油精製プラントで一番圧力値が低いのはどの装置のどのプロセス値か」、「加熱炉には、2×n個のパスがある、それぞれのレンジは同一であり、タグの名称も類似している」等の知識である。また、上記のプロセスユニットは、プロセス(加工処理)の違いを基準にして規定される。例えば、常圧蒸留装置にある一連の設備のまとまりが1つのプロセスユニットとして、流動接触分解装置にある一連の設備のまとまりが1つのプロセスユニットとしてそれぞれ規定される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ユーザが任意に設定したタグ名とプロセス値との対応関係を自動的に識別することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態によるタグ識別装置、タグ識別方法、及びタグ識別プログラムが用いられるプロセス制御システムの要部構成を示すブロック図である。
図2】タグ識別装置としてのエンジニアリング端末の要部構成を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態で用いられるタグリストの一例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態で用いられるグラフィックの一例を簡略化して示す図である。
図5】本発明の一実施形態で用いられるグラフィックの一例を簡略化して示す図である。
図6】本発明の一実施形態で用いられるグラフィックの相互の関連性の一例を示す図である。
図7】本発明の一実施形態によるタグ識別方法の概要を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態によるタグ識別装置、タグ識別方法、及びタグ識別プログラムについて詳細に説明する。
【0015】
〔プロセス制御システム〕
図1は、本発明の一実施形態によるタグ識別装置、タグ識別方法、及びタグ識別プログラムが用いられるプロセス制御システムの要部構成を示すブロック図である。図1に示す通り、プロセス制御システム1は、フィールド機器10、コントローラ20、操作監視端末30、及びエンジニアリング端末40を備えており、操作監視端末30からの指示等に応じてコントローラ20がフィールド機器10を制御することによってプラント(図示省略)で実現されるプロセスの制御を行う。
【0016】
ここで、フィールド機器10及びコントローラ20はフィールドネットワークN1に接続され、コントローラ20、操作監視端末30、及びエンジニアリング端末40は、制御ネットワークN2に接続されている。フィールドネットワークN1は、例えばプラントの現場に敷設された有線のネットワークである。他方、制御ネットワークN2は、例えばプラントの現場と監視室との間を接続する有線のネットワークである。尚、これらフィールドネットワークN1及び制御ネットワークN2は、無線のネットワークであっても良い。
【0017】
フィールド機器10は、例えば流量計や温度センサ等のセンサ機器、流量制御弁や開閉弁等のバルブ機器、ファンやモータ等のアクチュエータ機器、その他のプラントの現場に設置される機器である。尚、本実施形態では、理解を容易にするために、制御すべきプロセスにおける状態量が流体の流量である場合を例に挙げて説明する。このため、図1においては、プラントに設置された複数のフィールド機器10のうちの流体の流量を測定する1つのセンサ機器10aと流体の流量を制御(操作)する1つのバルブ機器10bとを図示している。
【0018】
コントローラ20は、操作監視端末30からの指示等に応じてフィールド機器10との間で通信を行ってフィールド機器10の制御を行う。具体的に、コントローラ20は、あるフィールド機器10(例えば、センサ機器10a)で測定されたプロセス値を取得し、他のフィールド機器10(例えば、バルブ機器10b)の操作量を演算して送信することによって、他のフィールド機器10(例えば、バルブ機器10b)を制御する。ここで、コントローラ20で取り扱われるデータの各々にはタグが割り当てられており、コントローラ20は、タグを用いて各種データの取り扱いを行う。尚、図1では、理解を容易にするために、1つのコントローラ20のみを図示しているが、コントローラ20は、幾つかの制御ループ毎に複数設けられていても良い。
【0019】
操作監視端末30は、例えばプラントの運転員によって操作されてプロセスの監視のために用いられる端末である。具体的に、操作監視端末30は、フィールド機器10の入出力データをコントローラ20から取得してプロセス制御システム1を構成するフィールド機器10やコントローラ20の挙動を運転員に伝えるとともに、運転員の指示に基づいてコントローラ20の制御を行う。
【0020】
エンジニアリング端末40は、不図示の計装データベースに格納された設計情報(プロセス制御システム1を含めたプラントの設計情報)に基づいて、フィールド機器10、コントローラ20、及び操作監視端末30に設定すべき情報やプログラム等を作成するための端末である。また、エンジニアリング端末40は、コントローラ20で用いられるタグ名とプロセス値との対応関係を自動的に識別する。以下、タグ識別装置としてのエンジニアリング端末40の構成について詳細に説明する。
【0021】
〔タグ識別装置〕
図2は、タグ識別装置としてのエンジニアリング端末の要部構成を示すブロック図である。図2に示す通り、エンジニアリング端末40は、操作部41、表示部42、格納部43、処理部44(処理手段)、通信部45、及びドライブ装置46を備える。このようなエンジニアリング端末40は、例えばパーソナルコンピュータやワークステーションにより実現される。
【0022】
操作部41は、例えばキーボードやポインティングデバイス等の入力装置を備えており、エンジニアリング端末40を使用する作業者の操作に応じた指示(エンジニアリング端末40に対する指示)を処理部44に出力する。表示部42は、例えば液晶表示装置等の表示装置を備えており、処理部44から出力される各種情報を表示する。尚、操作部41及び表示部42は、物理的に分離されたものであっても良く、表示機能と操作機能とを兼ね備えるタッチパネル式の液晶表示装置のように物理的に一体化されたものであっても良い。
【0023】
格納部43は、例えばHDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)等の補助記憶装置を備えており、各種データを格納する。例えば、格納部43は、プロジェクトファイルPF及びプロセスデータPD(タグデータの実測値)を格納する。尚、図2においては図示を省略しているが、格納部43には、例えばエンジニアリング端末40で実行される各種プログラムも格納される。
【0024】
上記のプロジェクトファイルPFは、プロセス制御システム1で用いられる各種データが定義されている定義ファイルであり、タグリストTL(第1定義情報)とグラフィックデータGD(第2定義情報)とを含む。タグリストTLは、コントローラ20でタグを用いて取り扱われるタグデータの定義情報が含まれるリストである。グラフィックデータGDは、操作監視端末30に表示される監視画面(グラフィック)の定義情報が含まれるデータである。尚、プロジェクトファイルPFに含まれるタグリストTL及びグラフィックデータGDの詳細については後述する。
【0025】
プロセスデータPDは、過去においてプロセス制御に用いられたデータ(過去のタグデータ)である。例えば、図1に示すセンサ機器10aで測定されたプロセス値を示すデータ、バルブ機器10bの操作量を示すデータ等、及び各種アラームが含まれる。このプロセスデータPDは、本来的にはコントローラ20に蓄積され、予め規定された権限が無ければアクセスすることができないデータである。本実施形態では説明を簡単にするために、コントローラ20で蓄積されたプロセスデータPDと同じものが格納部43に格納されているものとする。
【0026】
処理部44は、操作部41から入力される操作指示、又は制御ネットワークN2を介して送信されてくる指示に基づいて、エンジニアリング端末40の動作を統括して制御する。例えば、コントローラ20に設定すべき情報の作成指示が操作部41から入力された場合には、不図示の計装データベースに格納された設計情報に基づいて、必要となる情報を作成する処理を行う。また、処理部44は、コントローラ20で用いられるタグ名とプロセス値との対応関係を自動的に識別する処理を行う。尚、処理部44で行われる処理の詳細については後述する。
【0027】
通信部45は、処理部44によって制御され、制御ネットワークN2を介した通信を行う。尚、通信部45は、有線通信を行うものであっても、無線通信を行うものであっても良い。ドライブ装置46は、例えばCD-ROM又はDVD(登録商標)-ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体Mに記録されているデータの読み出しを行う。この記録媒体Mは、エンジニアリング端末40の各ブロックの機能(例えば、処理部44の機能)を実現するプログラムを格納している。
【0028】
このような記録媒体Mに格納されたプログラムがドライブ装置46によって読み込まれ、エンジニアリング端末40にインストールされることにより、エンジニアリング端末40の各ブロックの機能がソフトウェア的に実現される。つまり、これらの機能は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって実現される。尚、エンジニアリング端末40の各ブロックの機能を実現するプログラムは、記録媒体Mに記録された状態で配布されても良く、インターネット等の外部のネットワークを介して配布されても良い。
【0029】
〈タグリスト〉
図3は、本発明の一実施形態で用いられるタグリストの一例を示す図である。前述の通り、タグリストTLは、コントローラ20でタグを用いて取り扱われるタグデータの定義情報が含まれるリストである。図3に示す例では、タグ毎に、「FCS名」、「ドローイング」、「タグ名」、「タグ種類」、「タグコメント」、「上限値」、「下限値」、「工業単位」が定義されている。
【0030】
「FCS名」は、各タグが定義されているコントローラ20を特定するための情報である。この情報としては、予め各コントローラ20に割り当てられた識別情報(識別名)が用いられる。例えば、図3に示す例では、「FCS名」として“FCS2101”が定義されている。尚、図3に示す例では、「FCS名」として“FCS2101”のみが定義されているが、複数のコントローラ20が設けられる場合には、各々のコントローラ20に割り当てられた識別情報が「FCS名」として定義される。
【0031】
「ドローイング」は、各タグが定義されている制御ドローイングを特定する情報である。ここで、制御ドローイングとは、コントローラ20の制御機能を定義するものであり、例えば制御ループ毎に用意される。制御ドローイングを特定する情報としては、予め各制御ドローイングに割り当てられた識別情報(識別名)が用いられる。例えば、図3に示す例では、「ドローイング名」として“DR0021”及び“DR0035”が定義されている。
【0032】
「タグ名」は、コントローラ20で取り扱われるタグデータの各々に割り当てられたタグの名称である。このタグ名は、エンドユーザ(例えば、プラントの管理者)が任意に設定することが可能である。図3に示す例では、「タグ情報」として、4桁の特定の数字(“2100”)と、2文字の任意の英字(“FI”,“PI”,“FC”等)と、3桁の任意の数字とからなる計9文字の文字列が定義されている。
【0033】
「タグ種類」は、タグの種類を示す情報である。図3に示す例では、「タグ種類」として“PVI”及び“PID-STC”が定義されている。「タグ種類」として“PVI”が定義されているタグ(タグデータ)は監視用のタグ(タグデータ)を意味しており、“PID-STC”が定義されているタグ(タグデータ)は制御用のタグ(タグデータ)を意味している。
【0034】
「タグコメント」は、タグの付加情報である。このタグコメントは、エンドユーザ(例えば、プラントの管理者)が任意に設定することが可能であり、例えば、そのタグが、どのような状態量を示すものであるかを示す情報が定義される。「上限値」は、タグデータのスケールの上限値を規定する値であり、「下限値」は、タグデータのスケールの下限値を規定する値である。
【0035】
「工業単位」は、タグを用いて取り扱われるタグデータの単位を示す情報である。例えば、タグデータが圧力を示すものである場合には、「工業単位」としてPA(パスカル)、PAA(Pascals Absolute:パスカル絶対圧)、bar、barg(ゲージ圧)、PSIA(Pounds per Square Inch Absolute:PSI絶対圧)、PSIG(Pounds per Square Inch Gauge:PSIゲージ圧)等が定義される。また、タグデータが流量を示すものである場合には、「工業単位」としてkg/h、m/h、t/h、nm/h等が定義される。
【0036】
〈グラフィックデータ〉
図4図5は、本発明の一実施形態で用いられるグラフィックの一例を簡略化して示す図である。尚、図4,5においては、理解を容易にするために、グラフィックを極力簡略して図示している点に注意されたい。前述の通り、グラフィックは、操作監視端末30に表示される監視画面である。このグラフィックは、プラントの配管・計装図(P&ID:Piping and Instrumentation Diagram)を模したものであり、プラントの各種機器、装置、設備を簡単な図形(円、四角形、線、矢印等)及び文字(テキスト)を用いて表現したものである。
【0037】
また、このグラフィックには、その監視画面にグラフィックに表示される機器等で用いられるタグデータ(温度値、流量値等)が表示される。尚、タグデータが何であるかを分かり易くするために、タグデータに付随してタグ名が表示されることもある。このため、グラフィックを表示するために必要となるグラフィックデータGDには、プラントの機器等を表現する図形の種類(円、四角形等)を示す情報、監視画面内における各図形の表示位置を示す情報、監視画面内に表示されるタグデータのタグ名を示す情報、及びタグデータ及びタグ名の表示位置を示す情報等が含まれる。尚、ここでは、説明を簡単にするために、タグ名を示す情報がグラフィックに含まれるものとして説明するが、タグ名を示す情報を、グラフィックデータGDに関連付けた状態でグラフィックデータGDとは別に設けても良い。
【0038】
図4に例示するグラフィックは、加熱炉110a,110b及び蒸留塔120を備える製油所減圧蒸留装置100についてのグラフィックである。加熱炉110a,110bは、燃料及び蒸気が供給されており、例えば製品の原料としての原油を加熱するものである。蒸留塔120は加熱炉110a,110bから供給される原油(加熱された原油)を蒸留するものである。また、図4に例示するグラフィックでは、蒸留塔120の圧力(Column Pressure)を示すタグのタグ名TG1と、加熱炉110aにおける原料の流量(Furnace Pass Flow)を示すタグのタグ名TG2が表示されている。
【0039】
図5に例示するグラフィックは、図4に示す製油所減圧蒸留装置100のうちの加熱炉110aのみについてのグラフィックである。図5に示す例では、加熱炉110aが図4に示すものよりも拡大表示されている。また、図5に例示するグラフィックでは、加熱炉110aにおける原料の流量(Furnace Pass Flow)を示すタグのタグ名TG2に加えて、加熱炉110aで用いられる蒸気の流量(Furnace Velocity Steam Flow)を示すタグのタグ名TG3、加熱炉110aの出力側の温度(Furnace Pass Outlet Temperature)を示すタグのタグ名TG4、及び加熱炉110aの放射領域の温度(Radiant Zone Temperature)を示すタグのタグ名TG5が表示されている。
【0040】
ここで、グラフィックは、上述の通り、操作監視端末30に表示される監視画面である。このため、各グラフィックは、図6に示す通り、相互に関連しており、操作監視端末30を使用する作業者の指示に応じて、操作監視端末30に表示されるグラフィックを、そのグラフィックに関連するグラフィックに切り替え可能である。図6は、本発明の一実施形態で用いられるグラフィックの相互の関連性の一例を示す図である。
【0041】
例えば、図4に例示するグラフィックは、図6中の“2TP012”なるグラフィックであって、図5に例示するグラフィックは、図6中の“2TP016”なるグラフィックである。図6に示す通り、これらのグラフィックは互いに接続されており、相互に関連していることから、操作監視端末30を使用する作業者の指示に応じて、図4に示すグラフィックが操作監視端末30に表示されている場合には、図5に示すグラフィックに切り換えることが可能であり、図5に示すグラフィックが操作監視端末30に表示されている場合には、図4に示すグラフィックに切り換えることが可能である。
【0042】
グラフィックデータGDは、操作監視端末30にグラフィックを表示する場合に用いられるのは勿論であるが、操作監視端末30にグラフィックを表示する場合以外にも用いられる。例えば、エンジニアリング端末40の処理部44でタグ名とプロセス値との対応関係を自動的に識別する処理が行われる場合にも用いられる。具体的には、図6に示す関連性に基づいてグラフィックを順に辿って、グラフィックデータに含まれるタグ名を検索する際に用いられる。
【0043】
〔タグ識別方法〕
次に、本発明の一実施形態によるタグ識別方法について説明する。図7は、本発明の一実施形態によるタグ識別方法の概要を示すフローチャートである。図7に示すフローチャートは、例えば、プラントに新たに構築されたプロセス制御システム1の稼働が開始されたとき、プラントに構築されているプロセス制御システム1が更新(例えば、コントローラ20で用いられている制御プログラムの更新)された後に稼働されたとき、タグに関する情報が変更された場合、等に開始される。
【0044】
本実施形態のタグ識別方法は、端的にいうと、予め特徴的なプロセス値を幾つか選択しておき、エンジニアリング端末40が、プロジェクトファイルPF及びプロセスデータPDを用いて、選択したプロセス値とタグ名との対応関係を自動的に識別するものである。ここで、予め選択する特徴的なプロセス値としては、他のプロセス値とは容易に区別することができるプロセス値であることが好ましい。例えば、図3に示すタグリストTLに定義されている項目(「タグ種類」、「タグコメント」、「上限値」、「下限値」、「工業単位」)の少なくとも1つが、他のプロセス値とは相違している(或いは、大きく乖離している)プロセス値を選択するのが好ましい。
【0045】
以下では理解を容易にするために、図4に示す蒸留塔120及び図4,5に示す加熱炉110aにおける以下のプロセス値が上記の特徴的なプロセス値として予め選択されているものとする。
・蒸留塔120の圧力(Column Pressure)
・加熱炉110aにおける原料の流量(Furnace Pass Flow)
・加熱炉110aで用いられる蒸気の流量(Furnace Velocity Steam Flow)
・加熱炉110aの出力側の温度(Furnace Pass Outlet Temperature)
・加熱炉110aの放射領域の温度(Radiant Zone Temperature)
【0046】
上記の蒸留塔120の圧力は、製油所減圧蒸留装置100において最も低い圧力になる点において最も特徴的なプロセス値である。上記の加熱炉110aにおける原料の流量(Furnace Pass Flow)、蒸気の流量(Furnace Velocity Steam Flow)、出力側の温度(Furnace Pass Outlet Temperature)、及び放射領域の温度(Radiant Zone Temperature)は、最も特徴的なプロセス値である蒸留塔120の圧力に近い場所で得られるプロセス値として選択されている。
【0047】
図7に示すフローチャートの処理が開始されると、まず最も特徴的なタグ(第1タグ)を識別する処理(第1処理)が、エンジニアリング端末40の処理部44で行われる(ステップS11:第1ステップ)。具体的には、プロジェクトファイルPFのタグリストTL及びプロセスデータPDを用いて、最も特徴的なプロセス値である蒸留塔120の圧力(Column Pressure)に対応するタグを識別する処理が、エンジニアリング端末40の処理部44で行われる。
【0048】
詳細には、プロジェクトファイルPFのタグリストTLから、以下の3つの抽出条件の全てが合致するタグを抽出する処理が行われる。
(1)「工業単位」が、圧力(例えば、PA、PAA、bar、barg、PSIA、PSIG等)であるタグ
(2)「タグ種類」が、“PID”又は“PVD”であるタグ
(3)絶対圧のタグ、又はゲージ圧のタグであって「下限値」がマイナスのタグ
【0049】
また、上記の処理とともに、プロセスデータPDから、実測値が0~200[mbar]又は0~20[kPa]であるタグデータ(タグ)を抽出する処理が行われる。そして、プロジェクトファイルPFのタグリストTLから抽出されたタグのうち、プロセスデータPDから抽出されたタグデータのうちの実測値が最も小さいタグデータに割り当てられているタグを、最も特徴的なプロセス値である蒸留塔120の圧力(Column Pressure)に対応するタグ(第1タグ)であると識別する処理が行われる。
【0050】
ここで、識別すべきタグ(プロセス値)が複数ある場合には、タグ名の類似性も考慮して上記のタグを抽出する処理が行われる。識別すべきタグ(プロセス値)が複数ある場合とは、例えば1つの配管が複数に分岐している場合に、分岐している配管を流れる流体の流量の各々に対応する複数のタグを識別する場合である。このようなタグのタグ名は、似たようなタグ名が付されることが多いことから、タグを抽出する際にタグ名の類似性が考慮される。
【0051】
タグ名の類似性は、例えばタグ名の先頭から1文字ずつ同一であるか否かを比較することによって判断する。例えば、“FIC104A”、“FIC104B”、“FIC2022”、“FIO2112”なるタグ名があった場合、“FIC104A”なるタグ名に対する類似性は、以下の通り判断される。
“FIC104B”:類似性6/7(7文字中、先頭から6文字同一)
“FIC2022”:類似性3/7(7文字中、先頭から3文字同一)
“FIO2112”:類似性2/7(7文字中、先頭から2文字同一)
つまり、“FIC104A”なるタグ名に対しては、“FIC104B”なるタグ名の類似性が最も高いと判断される。
【0052】
次に、上記の最も特徴的なタグ(第1タグ)に近いタグ(第2タグ)を識別する処理(第2処理)が、エンジニアリング端末40の処理部44で行われる(ステップS12:第2ステップ)。具体的には、プロジェクトファイルPFのタグリストTLと、プロジェクトファイルPFのグラフィックデータGD及びプロセスデータPDの少なくとも一方とを用いて、最も特徴的なプロセス値である蒸留塔120の圧力(Column Pressure)が得られる位置に近い位置で得られる加熱炉110aにおける原料の流量(Furnace Pass Flow)に対応するタグを識別する処理が、エンジニアリング端末40の処理部44で行われる。
【0053】
詳細には、プロジェクトファイルPFのタグリストTLから、以下の3つの抽出条件の全てが合致するタグを抽出し、タググループを作成する処理が行われる。
(1)「工業単位」が、流量(例えば、kg/h、m/h、t/h、nm/h等)であるタグ
(2)「タグ種類」が、“PID”又は“PVD”であるタグ
(3)「上限値」と「下限値」とが同じ値であるタグ
【0054】
上記の処理で作成されたタググループが「4」以上の場合には、「下限値」が一定以上のタグを抽出する処理が行われる。例えば、「下限値」が、2000[kg/h」以上のタグ、50[m/h」以上のタグ、2[t/h]以上のタグを抽出する処理が行われる。これに対し、上記の処理で作成されたタググループが「2」の場合には、「下限値」を大きめにしてタグを抽出する処理が行われる。ここで、識別すべきタグ(プロセス値)が複数ある場合には、タグ名の類似性も考慮して上記のタグを抽出する処理を行っても良い。
【0055】
以上の処理で残ったタググループのうち、上記の最も特徴的なプロセス値である蒸留塔120の圧力(Column Pressure)に対応すると識別されたタグ(第1タグ)が含まれるグラフィックに存在するタググループを抽出する処理が行われる。仮に、この処理にて、抽出されるタググループが無い場合には、図6に示すグラフィックの関連性に基づいて、第1タグが含まれるグラフィックから順に他のグラフィックを辿って上記のタググループを抽出(検索)する処理が行われる。そして、最も先に抽出されたタググループ又は最も多く現れたタググループを、加熱炉110aにおける原料の流量(Furnace Pass Flow)に対応するタグ(第2タグ)であると識別する処理が行われる。尚、現れる数が同じ場合には、実測値の合計値が大きいタググループを、加熱炉110aにおける原料の流量(Furnace Pass Flow)に対応するタグ(第2タグ)であると識別する処理が行われる。このような処理が行われることで、例えば、図4,5中のタグ名TG2が付されたタグが、原料の流量(Furnace Pass Flow)に対応するタグ(第2タグ)であると識別される。
【0056】
以上の処理が終了すると、識別すべきタグの有無がエンジニアリング端末40の処理部44で判断される(ステップS13)。ここでは、識別すべきタグとして、加熱炉110aで用いられる蒸気の流量(Furnace Velocity Steam Flow)、出力側の温度(Furnace Pass Outlet Temperature)、及び放射領域の温度(Radiant Zone Temperature)があるため、判断結果は「YES」になる。
【0057】
すると、第1タグ及び第2タグの何れかに近いタグ(第3タグ)を識別する処理(第3処理)が、エンジニアリング端末40の処理部44で行われる(ステップS14:第3ステップ)。具体的には、プロジェクトファイルPFのタグリストTL又はグラフィックデータGDから、最も特徴的なプロセス値である蒸留塔120の圧力(Column Pressure)が得られる位置と、加熱炉110aにおける原料の流量(Furnace Pass Flow)が得られる位置との何れかに近い位置で得られる加熱炉110aで用いられる蒸気の流量(Furnace Velocity Steam Flow)に対応するタグを識別する処理が、エンジニアリング端末40の処理部44で行われる。
【0058】
詳細には、上記の加熱炉110aにおける原料の流量(Furnace Pass Flow)に対応すると識別されたタグ(第2タグ)が含まれるグラフィックの中から「工業単位」が流量であるタグを抽出する処理が行われる。尚、識別すべきタグ(プロセス値)が複数ある場合には、タグ名の類似性も考慮して上記のタグを抽出する処理を行っても良い。そして、流量値が、加熱炉110aにおける原料の流量(Furnace Pass Flow)の次に大きく、同じ数のタググループを、加熱炉110aで用いられる蒸気の流量(Furnace Velocity Steam Flow)に対応するタグ(第3タグ)であると識別する処理が行われる。仮に、この処理にて、抽出されるタググループが無い場合には、図6に示すグラフィックの関連性に基づいて、第2タグが含まれるグラフィックから順に他のグラフィックを辿って上記のタググループを抽出(検索)する処理が行われる。
【0059】
以上の処理が終了すると、再び識別すべきタグの有無がエンジニアリング端末40の処理部44で判断される(ステップS13)。ここでは、識別すべきタグとして、加熱炉110aの出力側の温度(Furnace Pass Outlet Temperature)、及び放射領域の温度(Radiant Zone Temperature)があるため、判断結果は「YES」になる。
【0060】
すると、第1タグ~第3タグの1つに近いタグ(第4タグ)を識別する処理(第3処理)が、エンジニアリング端末40の処理部44で行われる(ステップS14:第3ステップ)。具体的には、プロジェクトファイルPFのタグリストTL又はグラフィックデータGDから、最も特徴的なプロセス値である蒸留塔120の圧力(Column Pressure)が得られる位置、加熱炉110aにおける原料の流量(Furnace Pass Flow)が得られる位置、及び加熱炉110aで用いられる蒸気の流量(Furnace Velocity Steam Flow)が得られる位置の1つに近い位置で得られる加熱炉110aの出力側の温度(Furnace Pass Outlet Temperature)に対応するタグを識別する処理が、エンジニアリング端末40の処理部44で行われる。
【0061】
詳細には、上記の加熱炉110aにおける原料の流量(Furnace Pass Flow)に対応すると識別されたタグ(第2タグ)が含まれるグラフィックの中から「工業単位」が温度であり、且つ「タグ種類」が“PID”であるタグを抽出する処理が行われる。尚、識別すべきタグ(プロセス値)が複数ある場合には、タグ名の類似性も考慮して上記のタグを抽出する処理を行っても良い。そして、最大のレンジが設定されており且つ実測値が最大のタグを、加熱炉110aの出力側の温度(Furnace Pass Outlet Temperature)に対応するタグ(第4タグ)であると識別する処理が行われる。
【0062】
以上の処理が終了すると、再び識別すべきタグの有無がエンジニアリング端末40の処理部44で判断される(ステップS13)。ここでは、識別すべきタグとして、加熱炉110aの放射領域の温度(Radiant Zone Temperature)があるため、判断結果は「YES」になる。
【0063】
すると、第1タグ~第4タグの1つに近いタグ(第5タグ)を識別する処理(第3処理)が、エンジニアリング端末40の処理部44で行われる(ステップS14:第3ステップ)。具体的には、プロジェクトファイルPFのタグリストTL又はグラフィックデータGDから、最も特徴的なプロセス値である蒸留塔120の圧力(Column Pressure)が得られる位置、加熱炉110aにおける原料の流量(Furnace Pass Flow)が得られる位置、加熱炉110aで用いられる蒸気の流量(Furnace Velocity Steam Flow)が得られる位置、及び加熱炉110aの出力側の温度(Furnace Pass Outlet Temperature)が得られる位置の1つに近い位置で得られる加熱炉110aの放射領域の温度(Radiant Zone Temperature)に対応するタグを識別する処理が、エンジニアリング端末40の処理部44で行われる。
【0064】
詳細には、上記の加熱炉110aにおける原料の流量(Furnace Pass Flow)が含まれるグラフィック、又はそのグラフィックに関連する近くの他のグラフィックから、「上限値」及び「下限値」で規定されるレンジが0~1000[℃]であるタグを抽出する処理が行われる。尚、識別すべきタグ(プロセス値)が複数ある場合には、タグ名の類似性も考慮して上記のタグを抽出する処理を行っても良い。そして、抽出されたタグを、加熱炉110aの放射領域の温度(Radiant Zone Temperature)に対応するタグ(第5タグ)であると識別する処理が行われる。
【0065】
以上の処理が終了すると、再び識別すべきタグの有無がエンジニアリング端末40の処理部44で判断される(ステップS13)。ここでは、識別すべきタグが無いため、判断結果は「NO」になり、図7に示す一連の処理が終了する。
【0066】
以上の通り、本実施形態では、まず、最も特徴的なプロセス値である蒸留塔120の圧力(Column Pressure)に対応するタグを識別する処理を行い、次に、最も特徴的なプロセス値である蒸留塔120の圧力(Column Pressure)が得られる位置に近い位置で得られる加熱炉110aにおける原料の流量(Furnace Pass Flow)に対応するタグを識別する処理を行っている。そして、第1~第nタグの1つに近い位置で得られるタグ(加熱炉110aで用いられる蒸気の流量(Furnace Velocity Steam Flow)、出力側の温度(Furnace Pass Outlet Temperature)、放射領域の温度(Radiant Zone Temperature))を識別する処理を繰り返している。これにより、いわばジグソーパルズを組み立てるように、タグ名とプロセス値との対応関係を自動的に識別することができる。また、タグ名とプロセス値との対応関係を自動的に識別することができることから、タグ名によって取り扱われるタグデータを有効に活用することができる。
【0067】
このようにして対応関係を識別したタグとプロセス値を、監視のノウハウ・知識を蓄積した監視アプリケーションソフトに入力することによって、ユーザはプラント運転の利益性の監視機能をエンジニアリングレスでDCS上において直ちに利用できる(従来はDCS上には無かった)。ここでいう監視のノウハウ・知識は、プラントの中にあるどのタグとプロセス値を見れば、プラント運転の利益性を監視できるかを明示したノウハウ・知識である。
【0068】
このようにして対応関係を識別したタグとプロセス値を、監視のノウハウ・知識を蓄積した監視アプリケーションソフトに入力することによって、ユーザはプラント設備(塔漕類、タンク、配管、熱交換器、回転機等)の可用性・信頼性の監視機能をエンジニアリングレスでDCS上において直ちに利用できる(従来はDCS上には無かった)。ここでいう監視のノウハウ・知識は、プラントの中にあるどのタグとプロセス値を見れば、プラント設備の可用性・信頼性を監視できるかを明示したノウハウ・知識である。
【0069】
このようにして対応関係を識別したタグとプロセス値を、監視のノウハウ・知識を蓄積した監視アプリケーションソフトに入力することによって、ユーザは運転員の能力の監視機能をエンジニアリングレスでDCS上において直ちに利用できる(従来はDCS上には無かった)。ここでいう監視のノウハウ・知識は、プラントの中にあるどのタグとプロセス値を見れば、運転員の能力を監視できるかを明示したノウハウ・知識である。
【0070】
このようにして対応関係を識別したタグとプロセス値を、監視のノウハウ・知識を蓄積した監視アプリケーションソフトに入力することによって、ユーザはDCSの監視制御機能(PID制御、監視グラフィック等)をエンジニアリングレスにおいて直ちに利用できる(従来はユーザから要求仕様を受け取り、それをエンジニアリングしていた)。ここでいう監視のノウハウ・知識は、プラントの中にあるどのタグとプロセス値を見れば、DCSの監視制御機能(PID制御、監視グラフィック等)を利用できるかを監視できるかを明示したノウハウ・知識である。
【0071】
以上、本発明の一実施形態によるタグ識別装置、タグ識別方法、及びタグ識別プログラムについて説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、エンジニアリング端末40がタグ名とプロセス値との対応関係を自動的に識別する処理を行う機能を備える例について説明した。しかしながら、この機能をコントローラ20や操作監視端末30が備えていても良い。
【符号の説明】
【0072】
40 エンジニアリング端末
44 処理部
GD グラフィックデータ
PD プロセスデータ
TL タグリスト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7