(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定するマーカー及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6813 20180101AFI20230920BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230920BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20230920BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230920BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230920BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230920BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230920BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230920BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
C12Q1/6813 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6886 Z
G01N33/50 Z
G01N33/53 M
A61K45/00
A61P35/00
A61P43/00 105
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2019010477
(22)【出願日】2019-01-24
【審査請求日】2022-01-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業、「新規T細胞サブセットを規定するコレステロール代謝酵素の機能解析と疾患制御への応用」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】谷口 智憲
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勇人
(72)【発明者】
【氏名】久保 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】天谷 雅行
(72)【発明者】
【氏名】河上 裕
【審査官】加藤 幹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/144267(WO,A1)
【文献】WANG et al.,25-HC decreases the sensitivity of human gastric cancer cells to 5-fluorouracil and promotes cells invasion via the TLR2/NF-κB signaling pathway,International Journal of Oncology,2019年01月11日,Vol.54,Iss.3,p.966-980
【文献】Simigdala et al.,Cholesterol biosynthesis pathway as a novel mechanism of resistance to estrogen deprivation in estrogen receptor-positive breast cancer,Breast Cancer Research,2016年,Vol.18,No.58
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/
C12N 15/
G01N 33/
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cholesterol 25-hydroxylase(Ch25H
)遺伝子のcDNAを増幅するプライマーセット、Ch25H遺伝子のmRNAにハイブリダイズするプローブ、Ch25Hタンパク質に対する特異的結合物質又は
25-水酸化コレステロール(25OHC
)の検出試薬を含む、癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定するためのキット。
【請求項2】
Ch25H遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分として含有する、癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤。
【請求項3】
前記Ch25H遺伝子の発現を抑制する物質が、Ch25H遺伝子のsiRNA又はshRNAである、請求項
2に記載の癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤。
【請求項4】
請求項2
又は3に記載の癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤と、抗癌剤とを含む、癌治療用キット。
【請求項5】
癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤のスクリーニング方法であって、
被験物質の存在下で、コレステロールとCh25Hタンパク質とを接触させて、25OHCを生成させることと、
前記25OHCの生成量が、前記被験物質の非存在下における25OHCの生成量と比較して減少した場合に、前記被験物質は癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤であると判定すること、を含む、方法。
【請求項6】
癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤のスクリーニング方法であって、
被験物質の存在下で癌細胞を培養することと、
前記癌細胞におけるCh25H遺伝子若しくはCh25Hタンパク質の発現量又は25OHCの生成量を測定することと、
前記Ch25H遺伝子若しくは前記Ch25Hタンパク質の発現量又は前記25OHCの生成量が、前記被験物質の非存在下と比較して減少した場合に、前記被験物質は癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤であると判定すること、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定するマーカー及びその使用に関する。より具体的には、本発明は、癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定するマーカー、癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性評価のためのデータを取得する方法、癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定するためのキット、癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤、癌治療用キット、及び、癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、癌細胞を認識するT細胞を誘導する癌免疫療法により、進行期の固形癌でも治癒が可能であることが示されている。癌免疫療法の一つが、抗PD-1抗体等の免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療法であり、悪性黒色腫や肺癌をはじめとする多数の癌腫で明らかな臨床効果を示している。
【0003】
免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療は、単独療法での奏効率は約20%にとどまっている。不応例の多くでは、癌に対するT細胞応答惹起を阻害する免疫抑制的な癌微小環境が構築されている。このため、この免疫抑制を解除する治療法の開発が必要である。また、癌患者への癌免疫療法の適用の有効性を判定する方法の開発が求められている(例えば、特許文献1を参照)。一般的な抗癌剤治療や、手術においても、最初の免疫状態が悪い癌患者は、これらの治療法の予後が悪い可能性がある。
【0004】
ところで、Cholesterol 25-hydroxylase(以下、「Ch25H」という場合がある。)はコレステロールを25-水酸化コレステロール(以下、「25OHC」という場合がある。)に代謝する酵素である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された、抗癌剤による治療効果を試験する方法は、抗癌剤が投与された患者由来の試料を用いて所定の細胞表面分子のT細胞上での発現を調べることを含むものである。このため、治療前に癌患者への癌免疫療法の適用の有効性を判定することはできない。本発明は、癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定する新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を含む。
[1]癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定するマーカーとしてのCholesterol 25-hydroxylase(Ch25H)遺伝子、Ch25Hタンパク質又は25-水酸化コレステロール(25OHC)の使用。
[2]癌患者由来の生体試料中の、Ch25H遺伝子のmRNA、Ch25Hタンパク質又は25OHCの存在量を測定することを含み、前記mRNA、前記タンパク質又は前記25OHCの存在量を、対照の生体試料中における存在量と比較した量の多寡が、前記癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性評価のためのデータである、前記癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性評価のためのデータを取得する方法。
[3]前記mRNA、前記タンパク質又は前記25OHCの存在量が、対照の生体試料中における存在量よりも多いことが、前記癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性が低いことを示す、[2]に記載の方法。
[4]前記mRNA、前記タンパク質又は前記25OHCの存在量が、対照の生体試料中における存在量よりも多いことが、前記癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性が高いことを示す、[2]に記載の方法。
[5]前記生体試料が、血液又は腫瘍組織である、[2]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]Ch25H遺伝子のcDNAを増幅するプライマーセット、Ch25H遺伝子のmRNAにハイブリダイズするプローブ、Ch25Hタンパク質に対する特異的結合物質又は25OHCの検出試薬を含む、癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定するためのキット。
[7]Ch25Hタンパク質の阻害薬を有効成分として含有する、癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤。
[8]前記Ch25Hタンパク質の阻害薬が、Ch25H遺伝子の発現を抑制する物質である、[7]に記載の癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤。
[9]前記Ch25H遺伝子の発現を抑制する物質が、Ch25H遺伝子のsiRNA又はshRNAである、[8]に記載の癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤。
[10][7]~[9]のいずれかに記載の癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤と、抗癌剤とを含む、癌治療用キット。
[11]癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤のスクリーニング方法であって、被験物質の存在下で、コレステロールとCh25Hタンパク質とを接触させて、25OHCを生成させることと、前記25OHCの生成量が、前記被験物質の非存在下における25OHCの生成量と比較して減少又は増加した場合に、前記被験物質は癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤であると判定すること、を含む、方法。
[12]前記25OHCの生成量が、前記被験物質の非存在下における25OHCの生成量と比較して減少した場合に、前記被験物質は癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤であると判定する、[11]に記載の方法。
[13]癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤のスクリーニング方法であって、被験物質の存在下で癌細胞を培養することと、前記癌細胞におけるCh25H遺伝子若しくはCh25Hタンパク質の発現量又は25OHCの生成量を測定することと、前記Ch25H遺伝子若しくは前記Ch25Hタンパク質の発現量又は前記25OHCの生成量が、前記被験物質の非存在下と比較して減少又は増加した場合に、前記被験物質は癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤であると判定すること、を含む、方法。
[14]前記Ch25H遺伝子若しくは前記Ch25Hタンパク質の発現量又は前記25OHCの生成量が、前記被験物質の非存在下と比較して減少した場合に、前記被験物質は癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤であると判定する、[13]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定する新たな技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実験例1における各群のマウスの腫瘍の体積の経時変化を示すグラフである。
【
図2】実験例2における各群のマウスの腫瘍の体積の経時変化を示すグラフである。
【
図3】(a)及び(b)は、実験例3におけるIFN-γの産生量を定量した結果を示すグラフである。
【
図4】(a)及び(b)は、実験例4において、免疫染色した組織切片の光学顕微鏡写真である。
【
図5】実験例5における血清中の25OHCの測定値を示すグラフである。
【
図6】実験例6における各群のマウスの腫瘍の体積の経時変化を示すグラフである。
【
図7】(a)及び(b)は、実験例7におけるIFN-γの産生量を定量した結果を示すグラフである。
【
図8】実験例8において検討した、各種ヒト癌組織におけるCh25H遺伝子のmRNAの発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定するマーカー]
1実施形態において、本発明は、癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定するマーカーとしてのCholesterol 25-hydroxylase(Ch25H)遺伝子、Ch25Hタンパク質又は25-水酸化コレステロール(25OHC)の使用を提供する。
【0011】
ここで、Ch25Hタンパク質とは、Cholesterol 25-hydroxylaseと同義であり、コレステロールの25位に水酸基を導入し、25OHCを生成する酵素である。
【0012】
実施例において後述するように、発明者らは、癌組織中におけるCh25Hの発現が高いマウスでは、癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性が低下することを明らかにした。また、Ch25Hの発現が高い癌組織を有するマウスは、血清中の25OHCの存在量が増加することを明らかにした。また、癌免疫療法を含む癌治療法の種類等によっては、逆に、癌組織中におけるCh25Hの発現が高い場合に癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性が向上することも考えられる。Ch25Hの発現または血中の25OHCの発現は、患者の免疫状態を反映していると考えられる。
【0013】
したがって、Ch25H遺伝子、Ch25Hタンパク質又は25OHCを癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定するマーカーとして使用することができる。
【0014】
ヒトCh25H遺伝子のNCBIアクセッション番号はNM_003956.3であり、ヒトCh25Hタンパク質のNCBIアクセッション番号はNP_003947.1である。また、マウスCh25H遺伝子のNCBIアクセッション番号はNM_009890.1であり、マウスCh25Hタンパク質のNCBIアクセッション番号はNP_034020.1である。
【0015】
[癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定する方法]
1実施形態において、本発明は、癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定する方法であって、前記癌患者由来の生体試料中の、Ch25H遺伝子のmRNA、Ch25Hタンパク質又は25OHCの存在量を測定することを含み、前記mRNA、前記タンパク質又は前記25OHCの存在量が、対照の生体試料中における存在量よりも多いこと又は少ないことが、前記癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性に関連する方法を提供する。本実施形態の方法は、癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性評価のためのデータを取得する方法であるということもできる。
【0016】
実施例において後述するように、発明者らは、癌組織中におけるCh25Hの発現が高いマウスでは、癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性が低下することを明らかにした。また、Ch25Hの発現が高い癌組織を有するマウスは、血清中の25OHCの存在量が増加することを明らかにした。また、癌免疫療法を含む癌治療法の種類等によっては、逆に、癌組織中におけるCh25Hの発現が高い場合に癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性が向上することも考えられる。
【0017】
したがって、癌患者由来の生体試料中の、Ch25H遺伝子のmRNA、Ch25Hタンパク質又は25OHCの存在量が、対照の生体試料中における存在量よりも多い場合又は少ない場合に、前記癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性が低いと判断することができる。また、本実施形態の方法によれば、治療前に、癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定することができる。
【0018】
癌としては特に限定されないが、特に、悪性黒色腫、肺癌、腎癌、胃癌等の抗PD-1抗体が保険適応となっている癌が挙げられる。
【0019】
本実施形態の方法において、検出するCh25遺伝子のmRNA又はCh25タンパク質は、癌患者(又は患畜)と同種であるmRNA又はタンパク質を検出することが好ましく、ヒトの癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定する場合には、ヒトCh25遺伝子のmRNA又はヒトCh25タンパク質を検出することが好ましい。
【0020】
本実施形態の方法において、生体試料としては、血液、腫瘍組織等が挙げられる。また、対照の生体試料としては、健常者又は癌免疫療法を含む癌治療法の適用が有効な患者由来の生体試料を用いることができる。血液試料としては、血清、血漿等が挙げられる。また、生体試料が腫瘍組織である場合、対照の生体試料としては、例えば、癌免疫療法を含む癌治療法の適用が有効であることが予め確認されている患者由来の腫瘍組織、健常者における前記腫瘍組織に対応する組織由来の試料等を用いることができる。
【0021】
また、本実施形態の方法を実施するたびに対照の生体試料を用意する必要はなく、あらかじめ対照の生体試料中における、Ch25H遺伝子のmRNA、Ch25Hタンパク質又は25OHCの存在量を測定しておき、当該測定値を、癌患者由来の生体試料中における、Ch25H遺伝子のmRNA、Ch25Hタンパク質又は25OHCの存在量と比較してもよい。
【0022】
Ch25H遺伝子のmRNAの存在量の測定方法は特に限定されず、例えば、RT-PCR、定量的RT-PCT、DNAマイクロアレイ解析等により行うことができる。
【0023】
また、Ch25Hタンパク質の存在量の測定方法は特に限定されず、例えば、ELISA、ウエスタンブロッティング、フローストリップ法、プロテインチップ等により行うことができる。
【0024】
また、25OHCの存在量の測定方法は特に限定されず、例えば、質量分析、ELISA、各種クロマトグラフィー等により測定することができる。
【0025】
本実施形態の方法において、癌免疫療法を含む癌治療法としては、免疫チェックポイント阻害薬の投与、サイトカイン療法、養子免疫療法、癌ワクチン療法等が挙げられる。養子免疫療法としては、体外で培養した腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を投与する治療法、癌抗原に対するT細胞受容体(TCR)遺伝子導入T細胞(TCR-T)を投与する治療法、キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T)を投与する治療法等が挙げられる。
【0026】
免疫チェックポイント阻害薬としては、例えば、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体等が挙げられる。抗PD-1抗体としては、例えば、ニボルマブ、ペムブロリズマブ等が挙げられる。抗CTLA-4抗体としては、例えば、イピリムマブ等が挙げられる。抗PD-L1抗体としては、例えば、アベルマブ、アテゾリズマブ等が挙げられる。
【0027】
[癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定するためのキット]
1実施形態において、本発明は、Ch25H遺伝子のcDNAを増幅するプライマーセット、Ch25H遺伝子のmRNAにハイブリダイズするプローブ、Ch25Hタンパク質に対する特異的結合物質又は25OHCの検出試薬を含む、癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定するためのキットを提供する。
【0028】
本実施形態のキットにより、上述した、癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定する方法を実施することができる。
【0029】
プライマーセットとしては、Ch25H遺伝子のcDNAを増幅することができるものであれば特に限定されない。
【0030】
また、プローブとしては、Ch25H遺伝子のmRNAに特異的にハイブリダイズするものであれば特に限定されない。プローブは、担体上に固定されてDNAマイクロアレイ等を構成していてもよい。
【0031】
また、特異的結合物質としては、抗体、抗体断片、核酸アプタマー、ペプチドアプタマー等が挙げられる。抗体断片としては、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv、scFv等が挙げられる。特異的結合物質は、Ch25Hタンパク質に特異的に結合することができれば特に制限されず、市販のものであってもよい。また、特異的結合物質は、担体上に固定されてプロテインチップ等を構成していてもよい。
【0032】
[癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤]
1実施形態において、本発明は、Ch25Hタンパク質の阻害薬を有効成分として含有する、癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤を提供する。
【0033】
実施例において後述するように、宿主側又は癌細胞側においてCh25H遺伝子又はタンパク質の発現を抑制することにより、癌免疫療法を含む癌治療法の有効性を向上することができる。したがって、Ch25Hタンパク質の阻害薬を、癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤の用途に用いることができる。
【0034】
本実施形態の向上剤において、Ch25Hタンパク質の阻害薬とは、Ch25Hタンパク質の機能を阻害する物質であれば特に限定されない。より具体的には、例えば、Ch25H遺伝子の発現(転写又は翻訳)を阻害又は抑制する物質、Ch25Hタンパク質の阻害薬等が挙げられる。Ch25Hタンパク質の阻害薬は低分子化合物であってもよい。
【0035】
Ch25H遺伝子の転写又は翻訳を阻害する物質の具体例としては、Ch25H遺伝子のmRNAに対する阻害性核酸が挙げられる。また、阻害性核酸としては、siRNA、shRNA等が挙げられる。Ch25H遺伝子に対するsiRNA又はshRNAは周知の方法によって作製することができる。
【0036】
Ch25Hタンパク質の阻害薬としては、Ch25Hタンパク質の、コレステロールの25位に水酸基を導入し、25OHCを生成する活性を阻害する物質等が挙げられる。
【0037】
[癌治療用キット]
1実施形態において、本発明は、上述した癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤と、抗癌剤とを含む、癌治療用キットを提供する。
【0038】
癌患者に、上述した癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤と抗癌剤とを組み合わせて投与することにより、癌免疫療法を含む癌治療法の有効性(治療効果)を向上させることができる。本実施形態のキットにおいて、癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤と抗癌剤とは、別々に患者に投与してもよいし、混合して患者に投与してもよい。
【0039】
抗癌剤としては、癌免疫療法を含む癌治療法に用いられる薬物が挙げられ、例えば、免疫チェックポイント阻害薬、サイトカイン療法に用いられるサイトカイン(例えば、IFN-α、IFN-β、IFN-2、IFN-γ等)、キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T)療法に用いられるCAT-T細胞、癌抗原に対するT細胞受容体(TCR)遺伝子導入T細胞療法に用いられるTCR-T細胞、体外で培養した腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を投与する治療法に用いられるTIL、癌ワクチン療法に用いられるペプチドワクチン等が挙げられる。免疫チェックポイント阻害薬としては上述したものと同様であり、例えば、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、イピリムマブ、アベルマブ、アテゾリズマブ等、その他通常用いられている抗癌剤が挙げられる。
【0040】
[癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤のスクリーニング方法]
(第1実施形態)
第1実施形態に係る、癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤のスクリーニング方法は、被験物質の存在下で、コレステロールとCh25Hタンパク質とを接触させて、25OHCを生成させることと、前記25OHCの生成量が、前記被験物質の非存在下における25OHCの生成量と比較して減少又は増加した場合に、前記被験物質は癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤であると判定することを含む方法である。
【0041】
実施例において後述するように、発明者らは、癌組織中におけるCh25Hの発現が高いマウスでは、癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性が低下することを明らかにした。また、Ch25Hの発現が高い癌組織を有するマウスは、血清中の25OHCの存在量が増加することを明らかにした。
【0042】
したがって、25OHCの生成量が、被験物質の非存在下における25OHCの生成量と比較して減少した場合に、前記被験物質は癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤であると判定することができる。
【0043】
また、癌免疫療法を含む癌治療法の種類等によっては、逆に、癌組織中におけるCh25Hの発現が高い場合に癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性が向上することも考えられる。このような場合には、25OHCの生成量が、被験物質の非存在下における25OHCの生成量と比較して増加した場合に、前記被験物質は癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤であると判定することができる。
【0044】
被験物質としては特に制限されず、例えば、天然化合物ライブラリ、合成化合物ライブラリ、既存薬ライブラリ、代謝物ライブラリ等が挙げられる。
【0045】
第1実施形態のスクリーニング方法では、まず、被験物質の存在下で、コレステロールとCh25Hタンパク質とを接触させて、25OHCを生成させる。本工程は、精製されたCh25Hタンパク質を用いて試験管内で実施してもよいし、Ch25H遺伝子を導入した細胞等を用いて実施してもよい。
【0046】
続いて、生成された25OHCの量を定量する。25OHCの定量方法は特に限定されず、例えば、質量分析、ELISA、各種クロマトグラフィー等が挙げられる。その結果、被験物質の存在下における25OHCの生成量が、被験物質の非存在下における25OHCの生成量と比較して減少又は増加した場合、当該被験物質は癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤又はその候補であると判定することができる。
【0047】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る、癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤のスクリーニング方法は、被験物質の存在下で癌細胞を培養することと、前記癌細胞におけるCh25H遺伝子若しくはCh25Hタンパク質の発現量又は25OHCの生成量を測定することと、前記Ch25H遺伝子若しくは前記Ch25Hタンパク質の発現量又は前記25OHCの生成量が、前記被験物質の非存在下と比較して減少又は増加した場合に、前記被験物質は癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤であると判定することを含む方法である。
【0048】
実施例において後述するように、発明者らは、癌組織中におけるCh25Hの発現が高いマウスでは、癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性が低下することを明らかにした。また、Ch25Hの発現が高い癌組織を有するマウスは、血清中の25OHCの存在量が増加することを明らかにした。
【0049】
したがって、被験物質の存在下における癌細胞によるCh25H遺伝子若しくはCh25Hタンパク質の発現量又は25OHCの生成量が、被験物質の非存在下と比較して減少した場合に、前記被験物質は癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤であると判定することができる。
【0050】
また、上述したように、癌免疫療法を含む癌治療法の種類等によっては、逆に、癌組織中におけるCh25Hの発現が高い場合に癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性が向上することも考えられる。このような場合には、被験物質の存在下における癌細胞によるCh25H遺伝子若しくはCh25Hタンパク質の発現量又は25OHCの生成量が、被験物質の非存在下におけるCh25H遺伝子若しくはCh25Hタンパク質の発現量又は25OHCの生成量がと比較して増加した場合に、前記被験物質は癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤であると判定することができる。
【0051】
第2実施形態のスクリーニング方法では、まず、被験物質の存在下で、癌細胞を培養する。被験物質としては第1実施形態のスクリーニング方法と同様である。癌細胞は、癌患者由来の癌細胞であってもよいし、樹立された癌細胞であってもよい。
【0052】
続いて、癌細胞におけるCh25H遺伝子若しくはCh25Hタンパク質の発現量又は25OHCの生成量を測定する。Ch25H遺伝子のmRNAの存在量の測定方法、Ch25Hタンパク質の存在量の測定方法、25OHCの生成量の測定方法は上述したものと同様である。
【0053】
その結果、被験物質の存在下におけるCh25H遺伝子若しくはCh25Hタンパク質の発現量又は25OHCの生成量が、被験物質の非存在下におけるCh25H遺伝子若しくはCh25Hタンパク質の発現量又は25OHCの生成量と比較して減少又は増加した場合、当該被験物質は癌免疫療法を含む癌治療法の有効性の向上剤又はその候補であると判定することができる。
【0054】
[その他の実施形態]
1実施形態において、本発明は、癌患者由来の生体試料中の、Ch25H遺伝子のmRNA、Ch25Hタンパク質又は25OHCの存在量を測定することと、前記mRNA、前記タンパク質又は前記25OHCの存在量が、対照の生体試料中における存在量と同等以下である場合に、前記癌患者に癌免疫療法を含む癌治療法を適用すること、を含む、癌の治療方法を提供する。
【0055】
1実施形態において、本発明は、癌患者由来の生体試料中の、Ch25H遺伝子のmRNA、Ch25Hタンパク質又は25OHCの存在量を測定することと、前記mRNA、前記タンパク質又は前記25OHCの存在量が、対照の生体試料中における存在量よりも多い場合に、前記癌患者に癌免疫療法を含む癌治療法を適用すること、を含む、癌の治療方法を提供する。
【0056】
1実施形態において、本発明は、癌患者由来の生体試料中の、Ch25H遺伝子のmRNA、Ch25Hタンパク質又は25OHCの存在量を測定することと、前記mRNA、前記タンパク質又は残基25OHCの存在量が、対照の生体試料中における存在量よりも多い場合に、前記癌患者に、Ch25Hタンパク質の阻害薬及び抗癌剤を投与すること、を含む、癌の治療方法を提供する。
【0057】
1実施形態において、本発明は、癌の治療のためのCh25Hタンパク質の阻害薬を提供する。
【0058】
1実施形態において、本発明は、癌の治療のためのCh25H遺伝子の発現抑制剤を提供する。
【0059】
1実施形態において、本発明は、癌の治療薬を製造するためのCh25Hタンパク質の阻害薬又はCh25H遺伝子の発現抑制剤の使用を提供する。
【0060】
これらの各実施形態において、生体試料、対照、癌免疫療法を含む癌治療法、抗癌剤、Ch25Hタンパク質の阻害薬については上述したものと同様である。
【実施例】
【0061】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
<I.Ch25Hを強制発現させた癌細胞を野生型マウスに移植したモデルでの検討>
[実験例1]
(抗PD-1抗体療法の有効性の検討1)
マウス大腸癌細胞株CT26にマウスCh25H遺伝子の発現ベクターを遺伝子導入し、安定過剰発現細胞株を得た。
【0063】
続いて、野生型のBalb/cマウスの側腹部位に、Ch25Hを過剰発現させたCT26細胞株を移植し、腫瘍の体積を経時的に測定した。また、比較のために、野生型のBalb/cマウスの側腹部位に、Ch25Hを導入していないCT26細胞株(空の発現ベクターのみを導入したCT26細胞株)を移植し、腫瘍の体積を経時的に測定した。
【0064】
また、細胞移植から5日目、9日目、13日目に、各マウスに抗PD-1抗体(BioXcell社)200μg/マウスを腹腔内投与した。また、比較のために、抗PD-1抗体の代わりにアイソタイプコントロール抗体(ハムスターIgG、BioXcell社)200μg/マウスを腹腔内投与した群も用意した。
【0065】
図1(a)~(d)は、各群のマウスの腫瘍の体積の経時変化を示すグラフである。
図1(a)~(d)中、「MOCK」はCh25Hを導入していないCT26細胞株を移植したマウスの結果であることを示し、「Ch25H」はCh25Hを過剰発現させたCT26細胞株を移植したマウスの結果であることを示し、「アイソタイプ」は、アイソタイプコントロール抗体を投与したマウスの結果であることを示し、「抗PD-1抗体」は抗PD-1抗体を投与したマウスの結果であることを示す。
【0066】
その結果、Ch25Hを導入していないCT26細胞株を移植したマウス(MOCK)では、抗PD-1抗体の投与により腫瘍体積の増加が有意に抑制された。これに対し、Ch25Hを過剰発現させたCT26細胞株を移植したマウス(Ch25H)では、抗PD-1抗体の投与による腫瘍体積の増加の抑制が認められなくなり、抗PD-1抗体療法に対して不適応になったことが明らかとなった。
【0067】
[実験例2]
(抗PD-1抗体療法の有効性の検討2)
マウス線維芽肉腫細胞株MCA205にマウスCh25H遺伝子の発現ベクターを遺伝子導入し、安定過剰発現細胞株を得た。
【0068】
続いて、野生型のC57BL/6マウスの側腹部位に、Ch25Hを過剰発現させたMCA205細胞株を移植し、腫瘍の体積を経時的に測定した。また、比較のために、野生型のC57BL/6マウスの側腹部位に、Ch25Hを導入していないMCA205細胞株(空の発現ベクターのみを導入したMCA205細胞株)を移植し、腫瘍の体積を経時的に測定した。
【0069】
また、細胞移植から4日目、8日目、12日目、15日目に、各マウスに抗PD-1抗体(BioXcell社)200μg/マウスを腹腔内投与した。また、比較のために、抗PD-1抗体の代わりにアイソタイプコントロール抗体(ハムスターIgG、BioXcell社)200μg/マウスを腹腔内投与した群も用意した。
【0070】
図2(a)~(d)は、各群のマウスの腫瘍の体積の経時変化を示すグラフである。
図2(a)~(d)中、「MOCK」はCh25Hを導入していないMCA205細胞株を移植したマウスの結果であることを示し、「Ch25H」はCh25Hを過剰発現させたMCA205細胞株を移植したマウスの結果であることを示し、「アイソタイプ抗体」は、アイソタイプコントロール抗体を投与したマウスの結果であることを示し、「抗PD-1抗体」は抗PD-1抗体を投与したマウスの結果であることを示す。
【0071】
その結果、Ch25Hを導入していないMCA205細胞株を移植したマウス(MOCK)では、抗PD-1抗体の投与により腫瘍体積の増加が有意に抑制され、6匹中5匹が完治した。これに対し、Ch25Hを過剰発現させたMCA205細胞株を移植したマウス(Ch25H)では、抗PD-1抗体の投与による腫瘍体積の増加の抑制が認められなくなり、抗PD-1抗体療法に対して不適応になったことが明らかとなった。
【0072】
[実験例3]
(細胞傷害性T細胞の検討1)
実験例2で作製した担癌マウスにおける所属リンパ節内及び腫瘍組織内の腫瘍抗原特異的T細胞の誘導作用を、IFN-γ産生アッセイで評価した。
【0073】
具体的には、まず、実験例2でアイソタイプコントロール抗体を投与した、Ch25Hを導入していないMCA205細胞株を移植したマウス、及び、Ch25Hを過剰発現させたMCA205細胞株を移植したマウスを、細胞移植から38日後に安楽死させた。
【0074】
続いて、各マウスから腫瘍組織を摘出し、はさみで切り刻んだ後、コラゲナーゼ溶液20mL(2mg コラゲナーゼ+30U DNase/1mL RPMI1640)に入れ、37℃で30分間振盪した。その後、CD8磁気ビーズ(Miltenyi社)を用いて、CD8陽性T細胞を分離した。
【0075】
また、各マウスから所属リンパ節(癌細胞移植側の腋窩、鼠径リンパ節)を摘出し、スライドグラスを用いてすり潰すようにしてリンパ節を破壊し、リンパ節細胞を回収した。その後、CD8磁気ビーズ(Miltenyi社)を用いて、CD8陽性T細胞を分離した。
【0076】
得られた腫瘍組織及びリンパ節由来のT細胞(3×105~5×105個)のそれぞれを、野生型健常マウスより採取し、32Gyの放射線照射処理した脾臓細胞(1×107個)と混合し、腫瘍抗原gp70ペプチド(マウス白血病ウイルスMuLV gp70 p15Eの第604~611番目のアミノ酸からなるペプチド:KSPWFTTL、配列番号1)(1.0μg/mL)、ヒトインターロイキン(IL)-2(20U/mL)、マウスIL-7(10ng/mL)を含む10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地中、48ウェルプレート(1mL/ウェル)で、腫瘍組織由来T細胞は2日間、リンパ節由来T細胞は7日間培養した。
【0077】
続いて、Lymphoprep(Alere Technologies AS)を用いてT細胞を回収した。回収した腫瘍組織由来のT細胞(1×105個)を、マウスリンパ腫由来の細胞であるEL4細胞(1×105個)と終濃度1μg/mLのgp70ペプチドの存在下、96ウェルプレート(200μL/ウェル)中、10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地で、各群3ウェルずつ混合培養し、培養24時間後の培養上清中のIFN-γをELISA法で測定した。
【0078】
同様に、回収したリンパ節由来のT細胞(5×104個)を、EL4細胞(1×105個)と終濃度1μg/mL、0.1μg/mL、0.01μg/mL、0.001μg/mL及び0μg/mLのgp70ペプチドの存在下、96ウェルプレート(200μL/ウェル)中、10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地で、各群3ウェルずつ混合培養し、培養24時間後の培養上清中のIFN-γをELISA法で測定した。
【0079】
また、比較のために、gp70ペプチドの代わりに無関係のβ-Galペプチド(β-ガラクトシダーゼの第96~103番目のアミノ酸からなるペプチド:DAPIYTNV、配列番号2)(1.0μg/mL)を接触させた群も用意した。
【0080】
この結果、T細胞中に癌抗原特異的細胞傷害性T細胞が存在した場合、癌抗原ペプチドを接触させることによりIFN-γが産生される。
【0081】
図3(a)及び(b)は、IFN-γの産生量を定量した結果を示すグラフである。
図3(a)は、腫瘍組織由来の細胞の結果であり、
図3(b)はリンパ節由来の細胞の結果である。
図3(a)及び(b)中、「Tumor」は腫瘍組織由来の細胞の結果であることを示し、「LN」はリンパ節由来の細胞の結果であることを示し、「MOCK」はCh25Hを導入していないMCA205細胞株を移植したマウス由来の腫瘍組織又はリンパ節の結果であることを示し、「Ch25H」はCh25Hを過剰発現させたMCA205細胞株を移植したマウス由来の腫瘍組織又はリンパ節の結果であることを示し、「gp70」はgp70ペプチドを接触させた結果であることを示し、「β-gal」はβ-galペプチドを接触させた結果であることを示す。また、また、「*」はp<0.05で有意差が存在することを示す。
【0082】
その結果、Ch25Hを導入していないMCA205細胞株を移植したマウス由来の腫瘍組織及びリンパ節には、癌抗原特異的細胞傷害性T細胞が存在することが明らかとなった。また、Ch25Hを過剰発現させたMCA205細胞株を移植したマウス由来の腫瘍組織及びリンパ節中の癌抗原特異的細胞傷害性T細胞の数は、Ch25Hを導入していないMCA205細胞株を移植したマウス由来の腫瘍組織及びリンパ節中の癌抗原特異的細胞傷害性T細胞の数よりも有意に少ないことが明らかとなった。
【0083】
以上の結果は、癌細胞がCh25Hを過剰発現すると、腫瘍組織及びリンパ節において、癌抗原特異的細胞傷害性T細胞の数が減少することを示す。
【0084】
[実験例4]
(細胞傷害性T細胞の検討2)
実験例2で作製した担癌マウス(細胞移植から38日目)より、腫瘍組織を摘出してホルムアルデヒド固定し、組織切片を作製した。続いて、作製した組織切片を抗CD8抗体で染色し、CD8陽性T細胞を検出した。
【0085】
図4(a)及び(b)は、免疫染色した組織切片の光学顕微鏡写真である。
図4(a)及び(b)中、「MCA205-MOCK」はCh25Hを導入していないMCA205細胞株を移植したマウス由来の腫瘍組織の結果であることを示し、「MCA205-Ch25H」はCh25Hを過剰発現させたMCA205細胞株を移植したマウス由来の腫瘍組織の結果であることを示す。スケールバーはいずれも100μmである。
【0086】
その結果、Ch25Hを過剰発現させたMCA205細胞株を移植したマウス由来の腫瘍組織では、Ch25Hを導入していないMCA205細胞株を移植したマウス由来の腫瘍組織と比較して、CD8陽性T細胞の侵入が顕著に減少したことが明らかとなった。
【0087】
[実験例5]
(血清中25-水酸化コレステロール(25OHC)の検出)
実験例2で作製した担癌マウス(細胞移植から38日目)より採血し、血清を調製した。続いて、血清中の25-水酸化コレステロール(25OHC)の存在量を質量分析により定量した。
【0088】
具体的には、まず、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で10倍に希釈した血清1mLに1μgの内部標準(エタノールに0.1mg/mLになるように重水素標識D6-25水酸化コレステロールを溶解したもの)10μLを加えた。続いて、試料を珪藻土カラム(商品名「SLE+」、Biotage社)に1mLアプライし、3mLのn-ヘキサンで溶出した。続いて、溶出物の全量をシリカカラム(商品名「Sep-pak」、waters社)にアプライし、n-ヘキサン:酢酸エチル(9:1)1mLで洗浄してコレステロールを除去し、更に酢酸エチル1mLをアプライして溶出物を回収した。オキシステロールは全てこの画分に回収された。
【0089】
続いて、溶出液を40℃に加温し、窒素気流下で乾固させた後、10μLのピリジンに溶解し、50μLのBSTFA:TMCS(99:1)を加えて混和し、OH基を全てトリメチルシリル化した。続いて、誘導化された試料2μLをGC-MSにインジェクションして解析した。定量値は、内部標準と25OHCのピーク面積比を用いて計算した。
【0090】
GC-MSの分析条件は以下の通りであった。
《GC-MS分析条件》
キャピラリーカラム:Rtx-5MS(長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
オーブン温度:150℃、保持1分-20℃/分→250℃、5℃/分→280℃、保持10分-20℃/分→330℃、保持3分。
キャリアガス:He、線速度39.0cm/秒
イオン源温度:200℃
インターフェース温度:280℃
気化室温度:250℃
【0091】
図5は血清中の25OHCの測定値を示すグラフである。
図5中、「MCA205-MOCK」はCh25Hを導入していないMCA205細胞株を移植したマウス由来の血清中の25OHCの定量値を示し、「MCA205-Ch25H」はCh25Hを過剰発現させたMCA205細胞株を移植したマウス由来の血清中の25OHCの定量値を示す。
【0092】
その結果、Ch25Hを過剰発現させたMCA205細胞株を移植したマウス由来の血清中の25OHCの存在量は、Ch25Hを導入していないMCA205細胞株を移植したマウス由来の血清中の25OHCの存在量よりも有意に多いことが明らかとなった(p=0.0015)。この結果は、血液試料を用いて、25OHCの存在量を測定できることを示す。
【0093】
<II.マウス癌細胞をCh25Hノックアウトマウスに移植したモデルでの検討>
[実験例6]
(抗PD-L1抗体療法の有効性の検討)
Ch25H遺伝子のノックアウトマウスの側腹部位に、マウス大腸癌細胞株であるMC38を移植し、腫瘍の体積を経時的に測定した。また、比較のために、野生型のC57BL/6マウスの側腹部位に、MC38細胞株を移植し、腫瘍の体積を経時的に測定した。
【0094】
また、細胞移植から4日目、7日目、10日目、14日目に、各マウスに抗PD-L1抗体(BioXcell社)200μg/マウスを腹腔内脈投与した。また、比較のために、抗PD-L1抗体の代わりにアイソタイプコントロール抗体(ラットIgG2b、BioXcell社)200μg/マウスを腹腔内投与した群も用意した。
【0095】
図6(a)~(d)は、各群のマウスの腫瘍の体積の経時変化を示すグラフである。
図6(a)~(d)中、「WT」は野生型マウスの結果であることを示し、「Ch25H KO」はCh25Hノックアウトマウスの結果であることを示し、「アイソタイプ抗体」は、アイソタイプコントロール抗体を投与したマウスの結果であることを示し、「抗PD-L1抗体」は抗PD-L1抗体を投与したマウスの結果であることを示す。
【0096】
その結果、野生型マウスでは、抗PD-L1抗体の投与により腫瘍体積の増加が抑制されなかった個体が存在したのに対し、Ch25Hノックアウトマウス(Ch25H-KO)では、抗PD-L1抗体の投与により全ての個体において、腫瘍が完全に拒絶された。
【0097】
この結果は、宿主側のCh25Hを除去又は阻害することにより、抗PD-L1抗体療法の有効性が向上することを示す。
【0098】
[実験例7]
(細胞傷害性T細胞の検討3)
実験例6で作製した担癌マウスにおける所属リンパ節内及び腫瘍組織内の腫瘍抗原特異的T細胞の誘導作用を、IFN-γ産生アッセイで評価した。
【0099】
具体的には、まず、実験例6でアイソタイプコントロール抗体を投与した、MC38細胞株を移植した野生型マウス、及び、MC38細胞株を移植したCh25Hノックアウトマウスを、細胞移植から22日後に安楽死させた。
【0100】
続いて、各マウスから腫瘍組織を摘出し、はさみで切り刻んだ後、コラゲナーゼ溶液20mL(2mg コラゲナーゼ+30U DNase/1mL RPMI1640)に入れ、37℃で30分間振盪した。その後、CD8磁気ビーズ(Miltenyi社)を用いて、CD8陽性T細胞を分離した。
【0101】
得られた腫瘍組織由来のT細胞を、10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地中、野生型健常マウスより採取し、32Gyの放射線照射処理した脾臓細胞と混合し、T細胞脾臓細胞混合懸濁液A(T細胞4×105個+脾臓細胞1×107個/mL)を作製した。
【0102】
また、各マウスから所属リンパ節(癌細胞移植側の腋窩、鼠径リンパ節)を摘出し、スライドグラスを用いてすり潰すようにしてリンパ節を破壊し、リンパ節細胞を回収し、10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地中、7×106個/mLに調製したリンパ節細胞懸濁液Bを作製した。
【0103】
続いて、T細胞脾臓細胞混合懸濁液Aを、腫瘍抗原gp70ペプチド(マウス白血病ウイルスMuLV gp70 p15Eの第604~611番目のアミノ酸からなるペプチド:KSPWFTTL、配列番号1)(1.0μg/mL)、ヒトIL-2(20U/mL)、マウスIL-7(10ng/mL)を含む10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地中、48ウェルプレート(1mL/ウェル)で、2日間培養した。
【0104】
また、リンパ節細胞懸濁液Bを、腫瘍抗原gp70ペプチド(1.0μg/mL)、ヒトIL-2(20U/mL)、マウスIL-7(10ng/mL)を含む10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地中、48ウェルプレート(1mL/ウェル)で、7日間培養した。
【0105】
続いて、Lymphoprep(Alere Technologies AS)を用いてリンパ球を回収した。回収した腫瘍組織由来のT細胞(1×105個)を、EL4細胞(1×105個)と終濃度1μg/mL、0.1μg/mLのgp70ペプチドの存在下、96ウェルプレート(200μL/ウェル)中、10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地で、各群3ウェルずつ混合培養し、培養24時間後の培養上清中のIFN-γをELISA法で測定した。
【0106】
同様に、回収したリンパ節由来の細胞(5×104個)を、EL4細胞(1×105個)と終濃度1μg/mL、0.1μg/mL、0.01μg/mL、0.001μg/mL及び0μg/mLのgp70ペプチドの存在下、96ウェルプレート(200μL/ウェル)中、10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地で、各群3ウェルずつ混合培養し、培養24時間後の培養上清中のIFN-γをELISA法で測定した。
【0107】
また、比較のために、gp70ペプチドの代わりに無関係のβ-Galペプチド(β-ガラクトシダーゼの第96~103番目のアミノ酸からなるペプチド:DAPIYTNV、配列番号2)(1.0μg/mL)を接触させた群も用意した。
【0108】
この結果、細胞中に癌抗原特異的細胞傷害性T細胞が存在した場合、癌抗原ペプチドを接触させることによりIFN-γが産生される。
【0109】
図7(a)及び(b)は、IFN-γの産生量を定量した結果を示すグラフである。
図7(a)は、腫瘍組織由来の細胞の結果であり、
図7(b)はリンパ節由来の細胞の結果である。
図7(a)及び(b)中、「Tumor」は腫瘍組織由来の細胞の結果であることを示し、「LN」はリンパ節由来の細胞の結果であることを示し、「WT」は野生型マウス由来の腫瘍組織又はリンパ節の結果であることを示し、「Ch25H KO」はCh25Hノックアウトマウス由来の腫瘍組織又はリンパ節の結果であることを示し、「gp70」はgp70ペプチドを接触させた結果であることを示し、「β-gal」はβ-galペプチドを接触させた結果であることを示す。また、また、「*」はp<0.05で有意差が存在することを示す。
【0110】
その結果、Ch25Hノックアウトマウス由来の腫瘍組織中の癌抗原特異的細胞傷害性T細胞の数は、野生型マウス由来の腫瘍組織中の癌抗原特異的細胞傷害性T細胞の数よりも有意に多いことが明らかとなった。また、Ch25Hノックアウトマウス由来のリンパ節には、癌抗原特異的細胞傷害性T細胞が存在することが明らかとなった。これに対し、野生型マウス由来のリンパ節には、癌抗原特異的細胞傷害性T細胞の存在が明確には認められなかった。
【0111】
以上の結果は、宿主側のCh25Hを除去又は阻害することにより、腫瘍組織及びリンパ節において、癌抗原特異的細胞傷害性T細胞の数が増加することを示す。
【0112】
<III.各種ヒト癌組織におけるCh25Hの発現>
[実験例8]
(各種ヒト癌組織におけるCh25Hの発現)
TCGA(The Cancer Genome Atlas)(http://cancergenome.nih.gov/)で公開されているRNAシーケンスデータを用いて、各種ヒト癌組織におけるCh25Hの発現量を、The Human Protein Atlas(https://www.proteinatlas.org/)の提供する解析ツールを用いて検討した。
図8は、各種ヒト癌組織におけるCh25H遺伝子のmRNAの発現量を示すグラフである。その結果、Ch25H遺伝子の発現量が高い疾患例が認められた。これらの疾患例では、癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性が低い可能性が考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によれば、癌患者への癌免疫療法を含む癌治療法の適用の有効性を判定する新たな技術を提供することができる。
【配列表】