(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】膜分離装置の性能診断方法および膜分離装置
(51)【国際特許分類】
B01D 65/10 20060101AFI20230920BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20230920BHJP
【FI】
B01D65/10
C02F1/44 A
(21)【出願番号】P 2019105815
(22)【出願日】2019-06-06
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】清水 竜
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-055833(JP,A)
【文献】特開平09-029070(JP,A)
【文献】国際公開第2015/178783(WO,A1)
【文献】特開2007-160242(JP,A)
【文献】特表2010-513009(JP,A)
【文献】特開昭56-124403(JP,A)
【文献】特開2012-083258(JP,A)
【文献】特開2011-209033(JP,A)
【文献】特開2009-031243(JP,A)
【文献】特開2005-288220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 - 71/82
24/00 - 37/04
C02F 1/44
1/28
A61M 1/00 - 1/38
60/00 - 60/90
G01N 25/00 - 25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが原水を透過水と濃縮水に分離する
複数の分離膜
のうちどの分離膜が閉塞しているかを特定するための膜分離装置の性能診断方法であって、
前記
複数の分離膜のうち所定の分離膜に原水を供給する原水ラインを通じて、前記
所定の分離膜に温水を供給し、前記
所定の分離膜からの透過水を流通させる透過水ラインに流通させる工程と、
前記透過水ラインに前記温水が流通している間、前記透過水ラインを構成する配管の
表面温度の時間変化を取得する工程と、
前記取得した
時間変化に基づいて、前記
所定の分離膜の閉塞の有無を判定する工程と、を含
み、
前記閉塞の有無を判定する工程は、前記取得した時間変化が、前記所定の分離膜が閉塞していないときに取得した前記時間変化、または、閉塞していない別の分離膜に対して取得した前記時間変化よりも緩やかであるか否かに基づいて、前記所定の分離膜が閉塞しているか否かを判定することを含む、膜分離
装置の性能診断方法。
【請求項2】
それぞれが原水を透過水と濃縮水に分離する
複数の分離膜
のうちどの分離膜が閉塞しているかを特定するための膜分離装置の性能診断方法であって、
前記
複数の分離膜のうち所定の分離膜からの透過水を流通させる透過水ラインを構成する配管を外部から加熱する工程と、
前記配管を加熱した後、前記
所定の分離膜に原水を供給する原水ラインを通じて、前記
所定の分離膜に原水を供給し、前記透過水ラインに流通させる工程と、
前記透過水ラインに前記原水が流通している間、前記配管の
表面温度の時間変化を取得する工程と、
前記取得した
時間変化に基づいて、前記
所定の分離膜の閉塞の有無を判定する工程と、を含
み、
前記閉塞の有無を判定する工程は、前記取得した時間変化が、前記所定の分離膜が閉塞していないときに取得した前記時間変化、または、閉塞していない別の分離膜に対して取得した前記時間変化よりも緩やかであるか否かに基づいて、前記所定の分離膜が閉塞しているか否かを判定することを含む、膜分離
装置の性能診断方法。
【請求項3】
前記
表面温度の時間変化を取得する工程が、前記配管からの放射熱を熱画像としてサーモグラフィで撮影し、該撮影した熱画像から前記
表面温度の時間変化を取得することを含む、請求項1または2に記載の膜分離装置の性能診断方法。
【請求項4】
前記
表面温度の時間変化を取得する工程が、前記配管の表面に設置した熱電対から前記
表面温度の時間変化を取得することを含む、請求項1または2に記載の膜分離装置の性能診断方法。
【請求項5】
それぞれが原水を透過水と濃縮水に分離する
複数の分離膜と、
前記
複数の分離膜に原水を供給する
複数の原水ラインと、
前記
複数の分離膜からの透過水を流通させる
複数の透過水ラインと、
前記
複数の原水ラインを通じて前記
複数の分離膜に供給される原水を加熱して温水を生成する加熱手段と、
前記
複数の透過水ラインを構成する
複数の配管の温度情報を取得する取得手段と
、
前記取得手段により取得された温度情報に基づいて、前記
複数の分離膜の
うちどの分離膜が閉塞
しているかを特定する判定手段と、を有
し、
前記取得手段は、前記複数の分離膜のうち所定の分離膜に供給された温水が前記所定の分離膜からの透過水を流通させる透過水ラインを流通している間に、該透過水ラインを構成する配管の表面温度の時間変化を取得し、
前記判定手段は、前記取得手段により取得された時間変化が、前記所定の分離膜が閉塞していないときに取得された前記時間変化、または、閉塞していない別の分離膜に対して取得された前記時間変化よりも緩やかであるか否かに基づいて、前記所定の分離膜が閉塞しているか否かを判定する、膜分離装置。
【請求項6】
それぞれが原水を透過水と濃縮水に分離する
複数の分離膜と、
前記
複数の分離膜に原水を供給する
複数の原水ラインと、
前記
複数の分離膜からの透過水を流通させる
複数の透過水ラインと、
前記
複数の透過水ラインを構成する
複数の配管を外部から加熱する加熱手段と、
前記
複数の配管の温度情報を取得する取得手段と
、
前記取得手段により取得された温度情報に基づいて、前記
複数の分離膜の
うちどの分離膜が閉塞
しているかを特定する判定手段と、を有
し、
前記取得手段は、前記複数の透過水ラインが前記加熱手段により加熱された後、前記複数の分離膜のうち所定の分離膜に供給された原水が前記所定の分離膜からの透過水を流通させる透過水ラインを流通している間に、該透過水ラインを構成する配管の表面温度の時間変化を取得し、
前記判定手段は、前記取得手段により取得された時間変化が、前記所定の分離膜が閉塞していないときに取得された前記時間変化、または、閉塞していない別の分離膜に対して取得された前記時間変化よりも緩やかであるか否かに基づいて、前記所定の分離膜が閉塞しているか否かを判定する、膜分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離装置の性能診断方法および膜分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
稼働している逆浸透膜や限外ろ過膜などの分離膜の性能診断方法として、複数の膜モジュール(分離膜)を備えた膜モジュールユニット全体の運転状態データ(透過水や濃縮水の流量、圧力損失など)に基づいて、膜モジュールユニット内の膜モジュールが閉塞しているか否かを判定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
膜モジュールユニットのうち特定の膜モジュールが閉塞した場合、コストの面からは、その膜モジュールだけを洗浄または交換することが好ましい。しかしながら、上述した方法では、どの膜モジュールが閉塞しているかまでは特定することができないため、閉塞していない膜モジュールを含めたユニット全体の洗浄または交換を行わざるを得ない場合がある。閉塞の有無を個別に判定するには、膜モジュールごとに流量計や圧力計を設置することも考えられるが、実際の装置では、そのような設置スペースがないのが現状である。また、膜モジュールごとに流量計や圧力計を設置しようとすると、装置の大幅な改良が必要になり、多大なコストもかかってしまう。
【0005】
そこで、本発明の目的は、流量計や圧力計を個別に設置することなく、分離膜の閉塞の有無を個別に判定可能な膜分離装置の性能診断方法および膜分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様による膜分離装置の性能診断方法は、それぞれが原水を透過水と濃縮水に分離する複数の分離膜のうちどの分離膜が閉塞しているかを特定するための膜分離装置の性能診断方法であって、複数の分離膜のうち所定の分離膜に原水を供給する原水ラインを通じて、所定の分離膜に温水を供給し、所定の分離膜からの透過水を流通させる透過水ラインに流通させる工程と、透過水ラインに温水が流通している間、透過水ラインを構成する配管の表面温度の時間変化を取得する工程と、取得した時間変化に基づいて、所定の分離膜の閉塞の有無を判定する工程と、を含み、閉塞の有無を判定する工程は、取得した時間変化が、所定の分離膜が閉塞していないときに取得した時間変化、または、閉塞していない別の分離膜に対して取得した時間変化よりも緩やかであるか否かに基づいて、所定の分離膜が閉塞しているか否かを判定することを含んでいる。
【0007】
また、本発明の他の態様による膜分離装置の性能診断方法は、それぞれが原水を透過水と濃縮水に分離する複数の分離膜のうちどの分離膜が閉塞しているかを特定するための膜分離装置の性能診断方法であって、複数の分離膜のうち所定の分離膜からの透過水を流通させる透過水ラインを構成する配管を外部から加熱する工程と、配管を加熱した後、所定の分離膜に原水を供給する原水ラインを通じて、所定の分離膜に原水を供給し、透過水ラインに流通させる工程と、透過水ラインに原水が流通している間、透過水ラインを構成する配管の表面温度の時間変化を取得する工程と、取得した時間変化に基づいて、所定の分離膜の閉塞の有無を判定する工程と、を含み、閉塞の有無を判定する工程は、取得した時間変化が、所定の分離膜が閉塞していないときに取得した時間変化、または、閉塞していない別の分離膜に対して取得した時間変化よりも緩やかであるか否かに基づいて、所定の分離膜が閉塞しているか否かを判定することを含んでいる。
【0008】
また、本発明の一態様による膜分離装置は、それぞれが原水を透過水と濃縮水に分離する複数の分離膜と、複数の分離膜に原水を供給する複数の原水ラインと、複数の分離膜からの透過水を流通させる複数の透過水ラインと、複数の原水ラインを通じて複数の分離膜に供給される原水を加熱して温水を生成する加熱手段と、複数の透過水ラインを構成する複数の配管の温度情報を取得する取得手段と、取得手段により取得された温度情報に基づいて、複数の分離膜のうちどの分離膜が閉塞しているかを特定する判定手段と、を有し、取得手段は、複数の分離膜のうち所定の分離膜に供給された温水が所定の分離膜からの透過水を流通させる透過水ラインを流通している間に、その透過水ラインを構成する配管の表面温度の時間変化を取得し、判定手段は、取得手段により取得された時間変化が、所定の分離膜が閉塞していないときに取得された時間変化、または、閉塞していない別の分離膜に対して取得された時間変化よりも緩やかであるか否かに基づいて、所定の分離膜が閉塞しているか否かを判定する。
【0009】
また、本発明の他の態様による膜分離装置は、それぞれが原水を透過水と濃縮水に分離する複数の分離膜と、複数の分離膜に原水を供給する複数の原水ラインと、複数の分離膜からの透過水を流通させる複数の透過水ラインと、複数の透過水ラインを構成する複数の配管を外部から加熱する加熱手段と、複数の配管の温度情報を取得する取得手段と、取得手段により取得された温度情報に基づいて、複数の分離膜のうちどの分離膜が閉塞しているかを特定する判定手段と、を有し、取得手段は、複数の透過水ラインが加熱手段により加熱された後、複数の分離膜のうち所定の分離膜に供給された原水が所定の分離膜からの透過水を流通させる透過水ラインを流通している間に、その透過水ラインを構成する配管の表面温度の時間変化を取得し、判定手段は、取得手段により取得された時間変化が、所定の分離膜が閉塞していないときに取得された時間変化、または、閉塞していない別の分離膜に対して取得された時間変化よりも緩やかであるか否かに基づいて、所定の分離膜が閉塞しているか否かを判定する。
【0010】
このような膜分離装置の性能診断方法および膜分離装置によれば、配管の温度情報に基づいて分離膜の閉塞の有無を判定するため、分離膜が複数の場合にも個別に流量計や圧力計を設置する必要がない。また、配管の温度情報を取得する手段(サーモグラフィや熱電対など)は、既存の装置にも容易に追加導入可能であり、装置の大幅な改良を必要とすることもない。
【発明の効果】
【0011】
以上、本発明によれば、流量計や圧力計を個別に設置することなく、分離膜の閉塞の有無を個別に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る膜分離装置の構成を示す概略図である。
【
図2】本発明を適用可能な膜モジュールユニットの一構成例を示す概略図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係る膜分離装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る膜分離装置の構成を示す概略図であり、
図1(b)は、
図1(a)の膜分離装置を構成する膜モジュールユニットの構成を示す概略図である。
【0015】
膜分離装置1は、原水タンク2と膜モジュールユニット3を有し、原水タンク2から供給される原水(井水、河川水、湖沼水、水道水、地下水、またはこれらを一次処理して得られる一次純水など)中の不純物を膜モジュールユニット3で除去して透過水(処理水)を生成するものである。膜モジュールユニット3は、並列に接続された複数の膜モジュール31,32から構成されている。各膜モジュール31,32は、膜面に平行に供給される原水を、不純物を含む濃縮水と不純物が除去された透過水とに分離するクロスフロー方式の分離膜31a,32aを備えている。分離膜31a,32aとしては、逆浸透膜(RO膜)、ナノろ過膜(NF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、精密ろ過膜(MF膜)、電気脱塩/濃縮用のイオン交換膜、または脱気膜が用いられる。
【0016】
膜モジュールユニット3には、膜モジュールユニット3に原水を供給する原水ラインL1と、膜モジュールユニット3からの透過水を流通させて処理水タンクまたはユースポイントに供給する透過水ラインL2と、膜モジュールユニット3からの濃縮水を流通させて外部に排出する濃縮水ラインL3とが接続されている。原水ラインL1は、2つの原水分岐ラインL11,L12に分岐し、クロスフロー方式での通水方向の上流側で分離膜31a,32aの一次側にそれぞれ接続されている。分離膜31a,32aの二次側には、2つの透過水分岐ラインL21,L22がそれぞれ接続され、これらは1つに合流して透過水ラインL2となる。分離膜31a,32aの一次側のうちクロスフロー方式での通水方向の下流側には、2つの濃縮水分岐ラインL31,L32がそれぞれ接続され、これらは1つに合流して濃縮水ラインL3となる。
【0017】
原水ラインL1には、原水タンク2に貯留された原水を膜モジュールユニット3に供給するための加圧ポンプ4が設けられ、その下流側には、膜モジュール3への原水の供給流量を調整するために開度を調整可能な流量調整弁(図示せず)が設けられている。原水ラインL1には、後述する性能診断工程で使用されるバルブV1が設けられている。なお、原水タンク2には、図示しない原水補給ラインが接続され、必要に応じて原水が供給される。また、透過水ラインL2および濃縮水ラインL3にはそれぞれ、透過水および濃縮水の流量を検出する流量計5,6が設けられている。
【0018】
さらに、膜分離装置1には、膜モジュールユニット3の運転状態(透過水や濃縮水の圧力損失など)を検出するための複数の圧力センサ(図示せず)が設けられている。これにより、膜モジュールユニット3の運転状態データが得られるだけでなく、その運転状態データに基づいて、膜モジュールユニット3内の膜モジュール31,32が閉塞しているか否かを判定することも可能になる。しかしながら、膜モジュールユニット3の運転状態データだけでは、どの膜モジュール31,32が閉塞しているかまでは特定することができず、そのため、閉塞している膜モジュールだけを洗浄または交換することは困難である。一方、膜モジュール31,32ごとの運転状態(例えば、透過水と濃縮水の流量)を検出(測定)することができれば、閉塞の有無を個別に判定することはできるが、流量計の設置スペースの問題がある上、装置の大幅な改良も必要になる。
【0019】
そこで、本実施形態では、上述した運転状態データに基づいて膜モジュール31,32が閉塞していることが判明した場合、それがどの膜モジュール31,32であるかを特定するために性能診断工程が行われる。具体的には、膜モジュール31,32(分離膜31a,32a)に温水を通水することで閉塞の有無を判定する性能診断工程が行われる。そのための構成として、本実施形態の膜分離装置1は、熱交換器7と、サーモグラフィ8と、制御部10とを有している。
【0020】
熱交換器7は、原水ラインL1に接続されたバイパスラインL4に設けられ、原水ラインL1を通じて膜モジュールユニット3に供給される原水を加熱して温水(例えば、40~50℃程度の水)を生成する加熱手段として機能する。バイパスラインL4は、原水ラインL1のバルブV1をバイパスするように、バルブV2,V3を介して原水ラインL1に接続されている。サーモグラフィ8は、膜モジュール31,32の温度情報、具体的には、各膜モジュール31,32の透過水分岐ラインL21,L22を構成する各配管の温度情報を取得する機能を有している。また、制御部10は、膜分離装置1の運転を制御する機能に加え、膜モジュールユニット3に供給された温水が透過水分岐ラインL21,L22を流通している間にサーモグラフィ8により取得された上記温度情報に基づいて、膜モジュール31,32(分離膜31a,32a)の閉塞の有無を個別に判定する判定手段としての機能も有している。
【0021】
本実施形態の膜分離装置1における性能診断工程は、膜分離装置1の通常運転(採水運転)と並行して行われる。性能診断工程が開始されると、バイパスラインL4のバルブV2,V3が開放され、熱交換器7が作動するのと同時に、原水ラインL1のバルブV1が閉鎖される。これにより、バイパスラインL4から原水分岐ラインL11,L12を通じて膜モジュール31,32に温水が供給される。そして、その一部は、分離膜31a,32aを通過して透過水分岐ラインL21,L22に流れ、透過水ラインL2から処理水タンクまたはユースポイントに供給され、残りは、濃縮水分岐ラインL31,L32を流れ、濃縮水ラインL3を通じて外部に排出される。なお、温水の温度は、温水が透過水としてユースポイントに供給される場合、そこで許容される最高温度に応じて設定される。
【0022】
このとき、透過水分岐ラインL21,L22では、内部を流通する温水により、それぞれのラインを構成する配管の温度が上昇し、その表面から熱が放射される。この放射熱が熱画像としてサーモグラフィ8で撮影され、撮影された熱画像から各配管の温度情報、具体的には、表面温度の時間変化に関する情報が取得される。
【0023】
配管の表面温度は、配管内を流れる温水の流量に応じて変化すると考えられるが、その流量は、膜モジュールの閉塞の程度に応じて変化する。すなわち、閉塞の程度がより大きい膜モジュールでは、接続された配管内を流れる流量が少なくなり、それに応じて配管の表面温度がより緩やかに上昇する。このため、膜モジュール31,32のうち一方が閉塞していれば、それに応じて、透過水分岐ラインL21,L22を流れる温水の流量に差異が生じ、その結果、透過水分岐ラインL21,L22を構成する配管の表面温度の時間変化にも差異が生じる。したがって、サーモグラフィ8で取得された情報に基づいてこのような差異を確認することで、膜モジュール31,32のうちどちらが閉塞しているかを特定することができる。換言すると、透過水分岐ラインL21,L22を構成する配管のうちどちらの表面温度がより緩やかに上昇するかによって、膜モジュール31,32のうちどちらが閉塞しているかを特定することができる。
【0024】
一方、膜モジュール31,32のいずれもが閉塞している場合、透過水分岐ラインL21,L22を構成する配管の表面温度の時間変化にほとんど差がない。そのため、透過水分岐ラインL21,L22または濃縮水分岐ラインL31,L32を構成する2つの配管の表面温度の時間変化を比較するだけでは、膜モジュール31,32の閉塞の有無を明確に判定することは困難である。このような場合には、それぞれの膜モジュール31,32において閉塞していないときに取得された初期の温度情報との比較に基づいて、膜モジュール31,32の閉塞の有無を個別に判定することができる。すなわち、閉塞していないときに比べて、配管の表面温度がより緩やかに上昇する場合、あるいは、配管の表面温度の時間変化からは、その配管内を流れる温水の流量を算出することができるが、こうして算出された流量が閉塞していないときの初期流量よりも小さい場合には、その配管に接続された膜モジュールが閉塞していると判定することができる。
【0025】
なお、透過水分岐ラインL21,L22を構成する配管に加えて、濃縮水分岐ラインL31,L32を構成する配管もサーモグラフィ8で撮影して、膜モジュール31,32の一次側(原水および濃縮水の流通側)の閉塞状態を確認するようになっていてもよい。これにより、各膜モジュール31,32の原水流入量、回収率、濃縮度などを推定することができる。
【0026】
閉塞している膜モジュールが特定されると、膜モジュールユニット3への温水の供給が停止され、性能診断工程が終了する。具体的には、熱交換器7が停止され、バイパスラインL4のバルブV2,V3が閉鎖され、性能診断工程が終了する。性能診断工程が終了すると、必要に応じて、閉塞している膜モジュールの洗浄または交換が行われる。その場合、膜分離装置1の運転が停止されるが、後述するように、膜モジュールの洗浄または交換の必要がない場合には、性能診断工程が終了すると、原水ラインL1のバルブV1が開放され、採水運転が継続される。
【0027】
このように、本実施形態の性能診断工程によれば、膜モジュール31,32に接続された配管の温度情報に基づいて、膜モジュール31,32(分離膜31a,32a)の閉塞の有無が判定される。そのため、膜モジュール31,32ごとに運転状態を検出するための流量計や圧力計などの検出手段を設ける必要がない。また、配管の温度情報を取得する取得手段としてサーモグラフィ8が用いられているが、サーモグラフィ8は、既存の装置にも容易に追加導入可能であり、その設置には装置の大幅な改良を必要とすることもなく、余計なコストがかかることもない。
【0028】
本実施形態では、膜モジュール31,32(分離膜31a,32a)の性能診断のために温水が用いられるが、この温水は、分離膜31a,32aの膜面に付着した汚れ(スケールやスライムなど)に対して一定の溶解力を有しているとも言える。そのため、膜モジュール31,32の一次側に供給されて分離膜31a,32aの膜面を平行に流れる温水は、そこに付着した汚れを溶解させて取り込みながら、濃縮水ラインL3を通じて外部に排出されることになる。したがって、温水を用いた本実施形態の性能診断工程は、副次的に分離膜31a,32aに対する洗浄効果が得られる点でも有利である。このような観点から、性能診断工程において閉塞している膜モジュールが特定された後も、閉塞している膜モジュールの洗浄のために、膜モジュールユニット3への温水の供給を継続して行ってもよい。ただし、閉塞の程度が大きい場合には、膜分離装置1の通常運転を停止し、必要に応じて、閉塞している膜モジュールに対して薬液による洗浄や交換を行ってもよい。
【0029】
本実施形態の性能診断工程は、膜モジュールユニット3の運転状態データに基づいて膜モジュール31,32が閉塞していることが判明した場合に実施されるが、実施のタイミングはこれに限定されるものではない。例えば、膜分離装置1の設置後の試運転時に、膜モジュール31,32が正常に機能するか否かを判定するために実施してもよく、膜モジュール31,32の閉塞の有無を予測するために、通常運転の最中に定期的に実施してもよい。また、閉塞している膜モジュールが特定され、その膜モジュールの洗浄を行った後で、その効果を確認するために実施してもよい。このように、性能診断工程が終了しても、膜モジュールの洗浄または交換を行う必要がない場合、膜分離装置1の運転を停止させずに、そのまま採水運転が継続される。
【0030】
なお、本実施形態の性能診断工程では、上述したように、透過水分岐ラインL21,L22を構成する配管に加えて、濃縮水分岐ラインL31,L32を構成する配管の温度情報も取得することで、各膜モジュール31,32の回収率(透過水の流量と濃縮水の流量との和に対する透過水の流量の割合)を算出することもできる。したがって、本実施形態の性能診断工程は、各膜モジュール31,32の実際の回収率が設定値からずれているか否かを判定するために、膜分離装置1の通常運転の最中に定期的に実施してもよい。また、このような目的で本実施形態の性能診断工程を実施する場合には、図示したように、透過水分岐ラインL21,L22および濃縮水分岐ラインL31,L32にそれぞれ流量調節バルブV21,V22,V31,V32が設けられていることが好ましい。これにより、実際の回収率が設定値からずれていたとしても、流量調節バルブV21,V22,V31,V32を調節することで、各膜モジュール31,32の回収率を最適な値に調整することができる。例えば、膜モジュール31の実際の回収率が設定値を上回った場合には、流量調節バルブV21を絞ることで、透過水分岐ラインL21を流れる透過水の流量を減少させ、回収率を低くすることができる。また、膜モジュール31の実際の回収率が設定値を下回った場合には、流量調節バルブV31を絞ることで、濃縮水分岐ラインL31を流れる濃縮水の流量を減少させ、回収率を高くすることができる。なお、流量調節バルブV21,V22,V31,V32の開度調節は、通常は手動で行われるが、制御部10またはその他の制御装置(図示せず)により自動で行われてもよい。この場合、制御部10またはその他の制御装置は、サーモグラフィ8により取得された各配管の温度情報から回収率を算出し、算出した回収率が設定値になるように、流量調節バルブV21,V22,V31,V32の開度調節を行う。
【0031】
本実施形態では、透過水分岐ラインL21,L22や濃縮水分岐ラインL31,L32を構成する各配管の表面温度の時間変化を検出するために、サーモグラフィ8が用いられているが、その代わりに、各配管の表面に熱電対が設置されていてもよい。また、膜モジュールユニット3に供給される温水を生成するために、バイパスラインL4を流れる原水を熱交換器7で加熱する代わりに、原水タンク2内の原水を直接加熱するなどして、原水タンク2内の原水を温水に置換してもよい。
【0032】
なお、本実施形態では、本発明の性能診断工程を2つの膜モジュール(分離膜)に適用した場合を例示したが、3つ以上の膜モジュールはもちろん、単一の膜モジュールにも適用可能であることは言うまでもない。また、本発明の性能診断工程は、並列に接続された複数の膜モジュールを多段に設置した膜モジュールユニット3に対しても適用可能である。
図2は、そのような膜モジュールユニットの一構成例を示す概略図である。
図2に示す膜モジュールユニット3では、各段の膜モジュール31,32は同様の構成を有し、1段目の膜モジュール31,32からの濃縮水は2段目の膜モジュール31,32に供給され、2段目の膜モジュール31,32の膜モジュール31,32からの濃縮水が濃縮水ラインL3を通じて外部に排出される。また、1段目と2段目の膜モジュール31,32からの透過水は共に、透過水ラインL2を通じて処理水タンクまたはユースポイントに供給される。このような膜モジュールユニット3では、1段目と2段目の膜モジュール31,32における配管の温度情報は、まとめて取得してもよく、あるいは、別々に取得してもよい。なお、図示していないが、このような膜モジュールユニット3においても、各段の透過水分岐ラインL21,L22や濃縮水分岐ラインL31,L32には、上述した流量調節バルブが設けられていてもよい。また、膜モジュールの段数や各段の膜モジュールの個数に特に制限はなく、例えば、膜モジュールの段数は3段以上であってもよく、各段の膜モジュールの個数も1つまたは3つ以上であってもよい。
【0033】
(第2の実施形態)
図3(a)は、本発明の第2の実施形態に係る膜分離装置の構成を示す概略図であり、
図3(b)は、
図3(a)の膜分離装置を構成する膜モジュールユニットの構成を示す概略図である。以下、第1の実施形態と同様の構成については、図面に同じ符号を付してその説明を省略し、第1の実施形態と異なる構成のみ説明する。
【0034】
本実施形態は、第1の実施形態の変形例であり、過水分岐ラインL21,L22を構成する各配管の温度情報として、配管の表面温度が上昇する際の時間変化ではなく、低下する際の時間変化に関する情報を取得している点で、第1の実施形態と異なっている。そのために、本実施形態では、第1の実施形態の熱交換器7(およびバイパスラインL4)の代わりに、透過水分岐ラインL21,L22を構成する各配管を外部から加熱する配管加熱装置9a,9bが設けられている。配管加熱装置9a,9bとしては、例えば、赤外線ヒータやバンドヒータなどが挙げられる。
【0035】
本実施形態の性能診断工程は、膜分離装置1の通常運転(採水運転)が停止されると開始される。すなわち、加圧ポンプ4が停止され、原水ラインL1のバルブV1と透過水ラインL2のバルブ(図示せず)が閉鎖されると、性能診断工程は開始される。性能診断工程が開始されると、配管加熱装置9a,9bが作動し、透過水分岐ラインL21,L22を構成する各配管が加熱される。そして、各配管の表面温度が所定の温度(例えば、50℃)に到達すると、配管加熱装置9a,9bが停止され、原水ラインL1のバルブV1と透過水ラインL2のバルブ(図示せず)が開放され、加圧ポンプ4が作動することで、採水運転が再開される。このとき、常温の原水が透過水分岐ラインL21,L22を流通することにより、各ラインL21,L22を構成する配管は冷却され、その表面温度は徐々に低下するが、このときの様子がサーモグラフィ8により熱画像として撮影される。その後、撮影された熱画像から各配管の温度情報を取得し、取得した配管の温度情報に基づいて、膜モジュール31,32(分離膜31a,32a)の閉塞の有無を判定する手法については、第1の実施形態と同様である。なお、図示していないが、本実施形態においても、透過水分岐ラインL21,L22や濃縮水分岐ラインL31,L32には、上述した流量調節バルブが設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 膜分離装置
2 原水タンク
3 膜モジュールユニット
31,32 膜モジュール
31a,32a 分離膜
4 加圧ポンプ
7 熱交換器
8 サーモグラフィ
9a,9b 配管加熱装置
10 制御部
L1 原水ライン
L11,L12 原水分岐ライン
L2 透過水ライン
L21,L22 透過水分岐ライン
L3 濃縮水ライン
L31,L32 濃縮水分岐ライン
L4 バイパス流ライン
V1~V3 バルブ