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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】吹付用高強度コンクリート
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/04 20060101AFI20230920BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20230920BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20230920BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20230920BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B22/14 B
C04B24/26 E
C04B22/14 A
C04B22/10
C04B22/08 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019125873
(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公開番号】P2020011891
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2018128732
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽根井 誉久
(72)【発明者】
【氏名】杉山 彰徳
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-114018(JP,A)
【文献】特開平10-324553(JP,A)
【文献】特開2017-105672(JP,A)
【文献】特開2000-302503(JP,A)
【文献】特開平11-335152(JP,A)
【文献】眞田 千馬、津田 浩人,アルミン酸ソーダの劇物指定,耐火物,2019年09月01日,Vol.71 No.9,P.411-415
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のベースコンクリート(A)とベースコンクリート中のポルトランドセメント含有量100質量部に対し7~14質量部の急結材(B)からなる吹付用高強度コンクリート。
A;ポルトランドセメント100質量部、ブレーン比表面積8000~10500cm2/gの無水石膏7~16質量部、減水剤0.3~2質量部、骨材及び水を含有するベースコンクリート。
B;化学成分としてのCaOとAl23の含有モル比(CaO/Al23)が1.8~2.7のカルシウムアルミネートを68~87質量%、無水石膏10~26質量%、アルカリ金属の硫酸塩及び/又は炭酸塩3~12質量%を含有する粉体状の急結材であって、急結材中の無水石膏がブレーン比表面積6600~8700cm2/gの石膏である急結材(但し、アルミン酸ナトリウムを含まない)。
【請求項2】
急結材(B)がさらに硫酸アルミニウムを含有する請求項1記載の吹付用高強度コンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば地山等の掘削面への吹付施工に用いる高強度コンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル、採掘抗、地下空間等の建設では、掘削面の崩壊防止、地山補強の観点から吹付コンクリートが施工されている。吹付コンクリートの施工として、粉塵やリバウンド(跳ね返り)が比較的少ない湿式吹付工法では、セメントと骨材と必要に応じて混和成分を配合したものに水を加えて混練したベースコンクリートに、吹付直前に急結成分とその助剤等からなる液体又は粉体の急結材を添加して急結性を付与し、吹付施工時の付着性を担保している。粉体急結材は液体急結材よりも高い強度を得るのに適している。かかる急結材は、コンクリート輸送管に接続したY字状又はト字状の三方管を介して、圧送中のベースコンクリートに添加され、添加後は吹付け用ノズルまでの移動の短時間に混合がなされ、ノズル端から吹付コンクリートとして吹き出される。
【0003】
吹き付け付着後のコンクリートに対しては、用途や目的により、例えば材齢28日での一軸圧縮強度が120N/mm2以上という高強度コンクリートを必要とするケースがある。高強度コンクリートを得るには、一般的に、含水量を低くする方策がとられるが、前記のような湿式吹付工法では、含水量を下げると、ベースコンクリートの圧送性が極端に悪化し、急結材との混合性も低下するため、安定した吹付量で均質な吹付コンクリートを得るのが困難になる。減水剤類の配合により低水量でも流動性が高められるが、湿式吹付工法に適した圧送性や混合性を得るには、多量の減水剤類を必要とする。減水剤量の増加は凝結を遅延させ、急結性が阻害される。また、シリカフュームやフライアッシュ等のポゾラン反応性物質をベースコンクリートに配合することで高強度化も可能であるが(例えば、特許文献1参照。)、収縮が大きくなる他、混合水がポゾラン反応にも消費されるため、良好なベースコンクリートの圧送性や急結材との混合性を確保する上で水量を減らすことはできず、初期強度発現性が低迷し易い。水和反応活性が低下し易い低温時の初期強度発現性改善に、アルカリ金属硫酸塩をカルシウムアルミネート類と硫酸アルミニウムの混合物に加えた急結剤(例えば、特許文献2参照。)を使用することも知られている。また、コンクリートの強度の伸びを高めるため、ブレーン比表面積が11000~14000cm2/gのかなり反応活性の高い無水石膏をベースコンクリートに配合し、かつ急結材にも無水石膏を配して、両者を混合させた吹付コンクリートが、反応活性が低下し易い状況下でも、良好な付着性と比較的高い強度発現性が得られることが知られている。(例えば、特許文献3参照。)しかしながら、特に低温のような外的に低活性な環境下でない場合の施工では、硬化が異常に促進され、コンクリートがノズル孔や輸送管内壁に付着して固結し易くなり、孔や管内を閉塞する虞があった。さらに、ベースコンクリート中にかなり高い水和反応活性の石膏が多く含まれると混合水が急速に消費されるため、急結材の混合性が低下し、均質な吹付コンクリートが得られ難くなる。逆に、反応活性の高くない石膏を大量使用すると、凝結遅延作用が際立ってくるめ急結性が阻害され、高い初期強度発現性が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-177279号公報
【文献】特開2002-053357号公報
【文献】特開2017-105672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、吹付施工、特に湿式吹付工法での施工に適した材齢28日圧縮強度が36N/mm2以上の高強度コンクリートであって、高い初期強度発現性と強力な付着性も具備し、例えば常温環境下で湿式吹付工法により施工しても施工装置(吹付装置)へのコンクリート固結による圧送、吹き付け障害も起こらず、安定した性状の吹付用高強度コンクリートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題解決のため検討した結果、カルシウムアルミネート類を主成分とし、特定量のアルカリ金属の硫酸塩及び/又は炭酸塩と、特定の粉末度の石膏を含む急結材を、ポルトランドセメントと骨材と前記石膏よりも高い粉末度の石膏と水を含むベースコンクリートに加えた吹付用コンクリートが、初期~長期に至るまで高い強度発現性を具備でき、付着性にも優れ、例えば常温環境下で湿式吹付工法により施工しても、施工障害が極めて起こりにくいという知見を得、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、次の〔1〕~〔3〕の吹付用高強度コンクリートである。
〔1〕次のベースコンクリート(A)とベースコンクリート中のポルトランドセメント含有量100質量部に対し7~14質量部の急結材(B)からなる吹付用高強度コンクリート。
A;ポルトランドセメント100質量部、ブレーン比表面積8000~11000cm2/gの無水石膏7~16質量部、減水剤0.3~2質量部、骨材及び水を含有するベースコンクリート。
B;化学成分としてのCaOとAl23の含有モル比(CaO/Al23)が1.8~2.7のカルシウムアルミネートを68~87質量%、無水石膏10~26質量%、アルカリ金属の硫酸塩及び/又は炭酸塩3~12質量%を含有する急結材であって、急結材中の無水石膏が粉末度6600~8700cm2/gの石膏である急結材。
〔2〕急結材(B)がさらに硫酸アルミニウムを含有する前記〔1〕の吹付用高強度コンクリート。
〔3〕急結材(B)中のアルカリ金属硫酸塩(NS)とアルカリ金属炭酸塩(NC)との含有量が、(1)カルシウムアルミネート含有量が68質量%のときNS=0、NC=3~12質量%、(2)カルシウムアルミネート含有量が87質量%のときNC=0、NS=3~12質量%、(3)カルシウムアルミネート含有量が80質量%のときNS/NC=2:3~3:2、NS+NC=3~12質量%、(4)カルシウムアルミネート含有量が68質量%超80質量%未満のときカルシウムアルミネート含有量の増加に比例してNSは増加してNCは減少し、NS/NC=2:3~3:2になる、(5)カルシウムアルミネート含有量が80質量%超87質量%未満のときカルシウムアルミネート含有量の減少に比例してNCは増加してNSは減少し、NS/NC=2:3~3:2になる、前記〔1〕又は〔2〕記載の吹付用高強度コンクリート。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、次の(1)~(4)の効果が奏される。
(1)湿式吹付工法で施工した際に、水量や減水剤量を多くしなくとも、ベースコンクリートと急結材の混合性が良好なため、均質な性状の吹付コンクリートになる。
(2)吹付施工したコンクリートとしては材齢28日の圧縮強度が36N/mm2以上の安定した強度発現性の高強度のコンクリートを得ることができる。
(3)高い急結性と高い初期強度発現性も具備するため付着性に優れるものの、瞬結化による吹付装置への圧送障害や吹付障害は起き難い。
(4)アルカリ分が少ないため人体及び環境へのダメージリスクが軽減される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の吹付用高強度コンクリートを構成する急結材(B)は、カルシウムアルミネートを主たる急結成分として含むものであり、他に少なくとも特定の粉末度の無水石膏と、アルカリ金属の硫酸塩及び/又は炭酸塩とを含む粉体状の急結材である。この急結材に使用するカルシウムアルミネートとは、CaOとAl23を主要化学成分とする無機水和活性物質であり、CaO源となる原料とAl23源となる原料を、化学成分としてのCaOとAl23の含有モル比(CaO/Al23)が1.8~2.7の加熱物(クリンカ)が得られるように配合した原料混合物を、好適には溶融するまで加熱することで得られる。好ましい含有モル比(CaO/Al23)は、2.0~2.6である。前記モル比が(CaO/Al23)が、1.8未満では、急結性が低くなることに加え、高い初期強度が得難くなるので好ましくない。前記モル比(CaO/Al23)が2.7を超えると、強い瞬結性が起こり易く、施工性が悪化するので好ましくない。また、本急結混和材に使用するカルシウムアルミネートには、その製造原料に例えば天然鉱物原料を用いたときのように、原料由来のCaOとAl23以外の不純物等の異成分も、その存在形態に拘わらず、本発明の効果を阻害させない範囲で含むことは可能である。
【0010】
また、製造時の加熱後の冷却過程の違いにより、冷却後のカルシウムアルミネートの構造状態に様々な差異が生じるため、冷却条件、例えば冷却速度に応じて、非晶質化の度合であるガラス化率を調整できる。一般にガラス化率が高いほど反応活性が高く、急結性も高まるため、本急結混和材に使用するカルシウムアルミネートは、限定されるものではないが、実質的に結晶質のカルシウムアルミネートよりもガラス化が進んだカルシウムアルミネートを使用するのが良い。好ましくは、ガラス化率が60%以上のカルシウムアルミネートを使用する。最も好ましくは、ガラス化率が概ね95%以上のカルシウムアルミネートである。カルシウムアルミネートの粉末度は特に制限されない。好ましくは、コンリートへの急結材に使用したときに適度な反応活性が得易いことから、混和対象となる水硬性組成物中のセメントと同程度かそれ以上の粉末度とする。より好ましくは、粉末度としてブレーン比表面積3000~6000cm2/gである。
【0011】
本発明における急結材(B)には、このようなカルシウムアルミネートを68~87質量%含むものである。急結混和材中のカルシウムアルミネート含有量が68質量%未満では、急結性が不足し、吹付コンクリートに混和したときの付着性が劣るので好ましくない。また、87質量%を超える含有では、瞬結化が強く現れて吹付コンクリートの圧送障害や吹付障害が生じたり、硬化性が減退することもあるので好ましくない。好ましいカルシウムアルミネートの含有量は69~85質量%であり、より好ましくは69~84質量%である。
【0012】
本発明における急結材(B)には、特定の粉末度の無水石膏を含有する。使用する無水石膏は何れの結晶構造のものでも良い。無水石膏を含有することで、初期から長期にわたる全体的な強度の底上げと硬化性の促進がなされるのに寄与する。使用する無水石膏の粉末度はブレーン比表面積で6600~8700cm2/gとする。好ましい粉末度はブレーン比表面積で7000~8500cm2/gである。無水石膏の粉末度がブレーン比表面積で6600cm2/g未満では、反応活性が弱く、初期強度の底上げがなされ難いので好ましくなく、ブレーン比表面積で8700cm2/gを超えると、吸湿し易くなることに加え、粉体流動性が低下するため急結材が吹付装置へスムーズに流れず、供給量変動が起こる虞があるので好ましくない。また、急結材中の無水石膏含有量は、10~26質量%である。好ましくは12~22質量%であり、より好ましくは12~18質量%である。10質量%未満では、前記のような配合作用が十分得られないので好ましくなく、また26質量%を超えると、急結性が阻害されるので好ましくない。
【0013】
本発明における急結材(B)には、アルカリ金属の硫酸塩及び/又は炭酸塩を含有する。アルカリ金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウムを挙げることができる。コスト的な観点からナトリウムが推奨される。アルカリ金属の硫酸塩やアルカリ金属の炭酸塩は、何れも無水物の使用が望ましい。アルカリ金属の硫酸塩は凝結促進に寄与し、アルカリ金属の炭酸塩は特に初期における強い硬化促進作用を付与する。アルカリ金属の硫酸塩とアルカリ金属の炭酸塩の急結材中の含有量は、何れか一方しか含まない場合や両者とも含む場合であっても、無水物換算で、3~12質量%とする。好ましくは4~12質量%であり、より好ましくは4~11質量%であり、さらに好ましくは、両者を併用し、それぞれ2~6質量%ずつ含有する場合である。急結材中のアルカリ金属の炭酸塩と硫酸塩(炭酸塩か硫酸塩の何れか1種しか含まないときはその1種の量、両方含むときはその合計量)の含有量が3質量%未満では配合効果が殆ど得られないので好ましくなく、12質量%を超えると急結性又は強度発現性を阻害する虞があるので好ましくない。
【0014】
最も好ましくは、カルシウムアルミネートの含有量に連動して、アルカリ金属硫酸塩(NS)とアルカリ金属炭酸塩(NC)の合計含有量は前記範囲としつつ、両者の含有量を次の関係になるように変動させた量にすることである。すなわち、急結材(B)中のアルカリ金属硫酸塩(NS)とアルカリ金属炭酸塩(NC)との含有量が、(1)カルシウムアルミネート含有量が68質量%のときNS=0、NC=3~12質量%;(2)カルシウムアルミネート含有量が87質量%のときNC=0、NS=3~12質量%;(3)カルシウムアルミネート含有量が80質量%のときNS/NC=2:3~3:2、NS+NC=3~12質量%;(4)カルシウムアルミネート含有量が68質量%超80質量%未満のときカルシウムアルミネート含有量の増加に比例してNSは増加してNCは減少し、最終的にNS/NC=2:3~3:2になる;(5)カルシウムアルミネート含有量が80質量%超87質量%未満のときカルシウムアルミネート含有量の減少に比例してNCは増加してNSは減少し、最終的にNS/NC=2:3~3:2になる。
さらに好ましい一例としては、急結材(B)中のアルカリ金属硫酸塩の含有量をSy質量%、アルカリ金属炭酸塩の含有量をCy質量%、及びカルシウムアルミネート含有量をAx質量%(質量は何れも無水物換算)とすると、
【0015】
(数1)
3≦Sy+Cy≦12、68≦Ax≦87、及びSy+Cy+Ax≦90を前提条件とし、
Ax=68のときに、Sy=0、3≦Cy≦12;
68<Ax<80のときに、2・Cy・(Ax-68)/27<Sy<Cy・(Ax-68)/6;
Ax=80のときに、2/3≦Sy/Cy≦3/2;
80<Ax<87のときに、Sy・(174-2・Ax)/21<Cy<Sy・3・(87-Ax)/14;
Ax=87のときに、Cy=0、Sy=3。
【0016】
以上の関係を総じて満たすアルカリ金属炭酸塩とアルカリ金属硫酸塩の含有量にする。この条件を満たすと、施工障害となりうるような瞬結化を避けつつ高い初期強度と高い付着性が特にバランス良く発現できる。
【0017】
本発明における急結材(B)には、さらに硫酸アルミニウムを含有することができる。硫酸アルミニウムは、何れの硫酸アルミニウムでも良く、例えば16水和物でも、無水物でも使用できる。好ましくは性状安定性が高いことから硫酸アルミニウム16水和物の使用が推奨される。アルミニウムの硫酸塩の含有は、急結助剤として急結性付与に寄与し、特に凝結開始時間をより促進する作用を呈する。急結材中の硫酸アルミニウムの含有量は限定されるものではないが、含有する場合は、無水物換算で2~5質量%が好ましい。
【0018】
本発明における急結材(B)には、前記以外の成分も本発明の効果を阻害しない範囲で含有することができる。また、本発明の急結材は、粒度は特に制限されず、粉末や顆粒状であれば良い。望ましくは、風化し易くなく、良好な急結性や強度発現性が得られることから、ブレーン比表面積で概ね3000~6500cm2/gで最大粒径が約1mm以下の粉体とするのが良い。
【0019】
また、本発明の吹付用高強度コンクリートを構成するベースコンクリート(A)は、ポルトランドセメントを主たる結合相形成成分とし、他に少なくとも骨材と特定の粉末度の無水石膏と高性能減水剤及び水を含有する。使用するポルトランドセメントは何れのものでも良く、具体的には、普通、早強、超早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩等のポルトランドセメントの少なくとも何れか1種以上とする。ポルトランドセメントの粉末度は特に制限されるものではない。好ましくは、水和反応活性と経済性の観点からブレーン比表面積約2500~4500cm2/gが適当である。また、ポルトランドセメントの一部を他の水硬性無機物質、例えば高炉スラグ微粉など、と置換することは、本発明の効果を阻害しない範囲で許容されるが、極力ポルトランドセメントのみを使用するのが望ましい。尚、一般に、ポルトランドセメントには少量の石膏類が含まれるが、本発明では成分含有量に関し、ポルトランドセメント中にもともと含まれる石膏類は、ベースコンクリート形成のために配合含有される無水石膏として考慮せずに、ポルトランドセメントそのものの一部分として扱う。
【0020】
また、本発明における前記ベースコンクリート(A)に含まれる骨材は、コンクリートに使用できる細骨材と粗骨材であれば何れのものでも良く、その両者を含有する。好ましくは、細骨材及び粗骨材とも、所定の骨材強度が確保し易く、他の含有成分との密度差が少ないため材料分離が起き難いことから、表乾密度が2.3~2.9g/cmの骨材を使用する。このような骨材としては、例えば、細骨材として珪砂や石灰石砂等の天然骨材、安山岩、砂岩、玄武岩等の砕砂などを挙げることができる。また、粗骨材としては珪石、石灰石、安山岩、砂岩、玄武岩等の砕石や砂利を挙げることができる。ベースコンクリート(A)中の骨材含有量は特に制限されない。好ましくは、ポルトランドセメント含有量100質量部に対する粗骨材と細骨材の合計含有量が150~800質量部とする。より好ましくは、ポルトランドセメント含有量100質量部に対し、粗骨材120~160質量部、細骨材180~260質量部である。
【0021】
また、本発明における前記ベースコンクリート(A)に含まれる減水剤は、モルタルやコンクリートに使用できるものであって、高性能減水剤、高性能AE減水剤、分散剤、流動化剤等と称されている減水剤類も該当する。その有効成分は限定されず、状態も液体や粒状の何れでも良い。減水剤を配合含有することで、強度低下に繋がる水量増加をしなくとも、良好な圧送性や混合性確保が行える。ベースコンクリート(B)におけるポルトランドセメント含有量100質量部に対する減水剤の含有量は、固形分換算で、0.3~2質量部である。好ましくは、0.4~1.8質量部である。0.3質量部未満では、水量を増やさないと圧送性や混合性が悪化するので好ましくない。また2質量部を超えると、凝結が遅延し、付着性が低下するので好ましくない。
【0022】
また、本発明における前記ベースコンクリート(A)に含まれる無水石膏は、粉末度がブレーン比表面積8000~11000cm2/gの無水石膏を使用する。好ましくはブレーン比表面積9000~10500cm2/gの無水石膏を使用する。このような粉末度の無水石膏を含有することで、反応活性が高い石膏がセメントと水和反応し、高強度なエトリンガイト相の生成が促進される、初期から長期にわたる強度の底上げがなされるため高い強度発現性が得られる。無水石膏のブレーン比表面積が8000cm2/g未満では、反応活性が不足し、主に初期における硬化性が十分向上せず、高い強度発現性が得難くなるので好ましくない。また、無水石膏のブレーン比表面積が11000cm2/gを超えると、反応活性が高過ぎるため、注水後のコンクリート中で、無水石膏と水との反応が優先的に進み易く、セメントの水和反応が支障をきたし、エトリンガイトが効率良く生成され難くなるので好ましくない。前記粉末度の無水石膏のベースコンクリート中の含有量は、セメント含有量100質量部に対し、7~16質量部とする。好ましくは、8~12質量部である。セメント含有量100質量部に対する無水石膏含有量が7質量部未満では、エトリンガイト相生成が促進され難くなって、全体的な強度の底上げが十分できないことがあるので好ましくなく、16質量部を超える含有量では凝結遅延やコンクリート施工物が過膨張を起こす虞もあるので好ましくない。
【0023】
また、本発明における前記ベースコンクリート(A)に含まれる水量は、特に限定されるものではないが、ポルトランドセメントセメント含有量100質量部に対し、施工障害や高い強度発現性が得難くなるリスクを避ける上では、概ね45~55質量部が望ましい。
【0024】
また、本発明におけるベースコンクリート(A)は、前記以外の成分も本発明の効果を実質喪失させないものであれば含有することができる。例えば、カルシウムアルミネートや硫酸アルミニウム等の急結成分は、施工阻害要因となるので極力ベースコンクリートに含まれないことが望ましい。また、含有できるような成分を例示すると、何れもモルタルやコンクリートに用いることのできる、増粘剤、保水剤、短繊維、ポゾラン反応性物質、乾燥収縮低減剤等が挙げられるが、記載例に限定されるものではない。
【0025】
本発明の吹付用高強度コンクリートは、前記ベースコンクリート(A)と、ベースコンクリート中のポルトランドセメント含有量100質量部に対し7~14質量部(無水物換算)の前記急結材(B)とからなる。好ましくは、9~12質量部(無水物換算)の急結材(B)とからなる。ベースコンクリート中のポルトランドセメント含有量100質量部に対し、7質量部未満の急結材の配合では、所望の急結性と特に初期に於ける高強度が得られないことがあるので好ましくなく、また14質量部を超える急結材の配合では、瞬結性が強くなり施工障害を起こす虞があるので好ましくない。
【0026】
本発明の吹付用高強度コンクリートの製造方法の具体的な推奨例(以下に記載の推奨例に限定されるものではない。)を示すと、例えば二軸強制コンクリートミキサ等の混練可能な混合機を使用し、前記の如くベースコンクリート(A)の成分含有配合に基づいた量の成分(水を含む)を一括投入し、概ね1乃至2mあたりの混練時間を60~90秒程度として混練することでベースコンクリート(A)を得る。また、例えばヘンシェルミキサ等を使用し、前記の如く急結材(B)の成分含有配合に基づいた量の成分を一括投入し、概ね1分程度混合することで急結材(B)を得る。ベースコンクリート(A)を吹付装置にポンプ圧送し、圧送中のベースコンクリートに対し、Y字管やト字管等の三方管を用いて前記所定量の急結材(B)を添加する。添加後は吹付装置内移動中に混合が進み、吹付用高強度コンクリートが形成される。この吹付用高強度コンクリートを吹付装置のノズル孔から噴射し、対象物に吹き付ける。
【実施例
【0027】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は記載した実施例に限定されるものではない。尚、実施例は、特記無い限り、20±1℃の環境下で行った。
【0028】
[カルシウムアルミネートの作製]
市販の工業用薬品のCaCO3とAl23を用い、CaO及びAl23の含有モル比(CaO/Al23)の値が表1に示すカルシウムアルミネートが得られるように秤量配合し、ヘンシェル型混合機で原料調合物を作製した。この原料調合物を電気炉中で、約1600℃±50℃にて60分間加熱した。一部のものを除き、前記加熱時間経過後は加熱物を直ちに炉外に取り出した。取り出した加熱物の表面に冷却用の窒素ガスを最大流速約30mL/秒で吹付けて急冷し、擬塊状の冷却物を得た。尚、冷却物のガラス化率については、窒素ガスの流速を調整する、具体的には前記最大流速よりも下げた値に調整する、ことで所望のガラス化率に調整した。前記最大流速の冷却用ガス吹付で得られた冷却物が、ガラス化率が概ね99%を超える実質的に非晶質のカルシウムアルミネート冷却物であることを確認し、他にガラス化率約95%及びガラス化率約60%のカルシウムアルミネートの冷却物も作製した。各冷却物は、全鋼製のボールミルで粉砕し、分級装置にかけてブレーン比表面積約5400cm2/gに整粒した。整粒粉末として、表1に表すガラス化率と、CaO及びAl23の含有モル比(CaO/Al23)のカルシウムアルミネート粉末を得た。得られたカルシウムアルミネート粉末は吸湿が進んでいない無含水の粉末であるため、配合使用時まで密封容器で保管した。尚、カルシウムアルミネートのガラス化率は、粉末エックス線回折装置を用い、質量がM1のカルシウムアルミネートクリンカに含まれる各鉱物の質量を内部標準法等で定量し、定量できた含有鉱物相の総和質量;M2を算出し、残部が純ガラス相と見なし、次式でガラス化率を算出した。
【0029】
(数2)
ガラス化率(%)=(1-M2/M1)×100
【0030】
【表1】
【0031】
[急結材の作製]
前記作製の表1に表すカルシウムアルミネート粉末と以下の使用材料とから選定された材料を、無水物換算で表2の配合割合になるよう秤量してヘンシェルミキサに一括投入した。このミキサで約2分間混合し、粉体状の急結性混和剤を作製した。作製した急結性混和剤は後述するベースコンクリートに添加使用するまで密封容器中で保管した。尚、無水石膏は市販のII型無水石膏を粉砕・分級処理することにより所定の粉末度に整えた。また、表2中の配合材料名は、次の略号を用いて記す。
【0032】
[急結材作製のための使用材料(カルシウムアルミネートを除く)]
CS-A;無水石膏A(ブレーン比表面積;6600cm2/g)
CS-B;無水石膏B(ブレーン比表面積;7600cm2/g)
CS-C;無水石膏C(ブレーン比表面積;8700cm2/g)
CS-D;無水石膏D(ブレーン比表面積;10500cm2/g)
NS;無水中性芒硝(ブレーン比表面積;5000cm2/g、市販工業用薬品)
NC;炭酸ナトリウム(市販粉末試薬)
LC;炭酸リチウム(市販粉末試薬)
SA;硫酸アルミニウム・16水和物(市販粉末試薬)
【0033】
【表2】
【0034】
[ベースコンクリートの作製]
次に表す使用材料と水から選定される材料を、表3で表す配合となるよう強制二軸ミキサ(回転数62rpm)に投入し、約90秒混練することで、約1m3のベースコンクリートを作製した。尚、使用材料のII型無水石膏は市販品を粉砕・分級処理により所定粒度に整えた。
【0035】
[ベースコンクリート作製の使用材料]
OPC;普通ポルトランドセメント(ブレーン比表面積3160cm2/g)
CS-F;無水石膏(ブレーン比表面積9000cm2/g)
CS-E;無水石膏(ブレーン比表面積9800cm2/g)
CS-D;無水石膏(ブレーン比表面積10500cm2/g)
CS-G;無水石膏(ブレーン比表面積14000cm2/g)
SG;普通細骨材(掛川産陸砂、F.M.=2.7、表乾密度2.56g/cm3
G1;普通粗骨材(砂岩砕石、最大粒径15mm、表乾密度2.74g/cm3
TS;ポリカルボン酸系高性能減水剤(濃度23%液状、市販品、表3及び5記載の配合量は固形分換算量)
【0036】
【表3】
【0037】
[吹付用コンクリートの作製]
表3で表した急結材を、無水物換算で表4に示す添加量になるよう前記作製のベースコンクリートに加え、以下の手順で吹付用コンクリートを作製した。即ち、前記のようにベースコンクリートを混合機で混練後、これを長さ約10m、内径6cmの樹脂製ホースを介して吹付装置へポンプ圧送した。使用した吹付装置は、ベースコンクリートを圧送する内径2インチの圧送管と、その側面に約30度の傾斜角で連通するベースコンクリートに急結材を供給添加するための円筒状側管と、吹付用コンクリートを吹き付ける内径(先端孔径)2インチの噴射用ノズルとを基本構成とした市販品である。ここで、前記急結材供給用の側管は、前記圧送管と噴射用ノズルとの間に鋼製ト字状管(三方管)を介すことで形成させた。即ち、ト字状管の直線上に位置する二方の管口に圧送管と噴射用ノズルがそれぞれ接続され、残りの管口に、別送される急結材の供給管(側管)が接続される構造とした。ト字状管内でのベースコンクリートへの急結材の添加位置(ベースコンクリートと急結材の合流地点)から噴射用ノズルまでの距離の間に、ベースコンクリートと急結材の混合がなされ、その距離(混合距離)は概ね1.5mとした。急結材は圧搾空気により所定量を空気圧送し、これを前記吹付装置内で圧送中のベースコンクリートに添加し、添加されたコンクリートは所定の混合距離を進む間に混合が進み、吹付用コンクリートが得られた。
【0038】
【表4】
【0039】
[急結性の評価]
表4のベースコンクリートの配合において、それぞれ含有する粗骨材と細骨材の合計含有量に相当する量を全て細骨材の含有量にし、粗骨材を含まず、また他の成分とその含有量は変更せずに表2のままとし、モルタル配合に変更したベースモルタルも、前記ベースコンクリートと同様の手順で作製した。前記ベースモルタルの配合は表5に示す。
【0040】
【表5】
【0041】
得られたベースモルタルに前記急結材を、ベースモルタル中のポルトランドセメント含有量100質量部に対する添加量が、対応する表4に示すベースコンクリート中のポルトランドセメント100質量部あたりの急結材添加量と同一量となるように加え、高速ミキサで5秒間混合し、モルタル混練物を作製した。ベースモルタルへの具体的な添加量は表6に示す。
【0042】
【表6】
【0043】
前記急結混和材添加から、30秒経過時、60秒経過時及び180秒経過時のモルタル混練物のプロクター貫入抵抗値を測定し、急結性を評価した。プロクター貫入抵抗の測定方法は、土木学会コンクリート標準示方書「吹付コンクリート用急結剤品質規格」附属書「急結剤を添加したモルタルの貫入抵抗による瞬結時間測定方法」に準拠し、断面積0.125cm2のプロクター針を使用した。この貫入抵抗値の測定結果も表7に示す。ここで、表中に記載した「×」は、モルタルの硬化が進み貫入抵抗の測定ができなかったことを表す。また、「>16(N/mm2)」なる記載はプロクター針の打込みはできたが、今回の使用機材の測定限界(最大16N/mm2)を超えたものである。
【0044】
【表7】
【0045】
[吹付コンクリートの付着性の評価]
前記の吹付装置を使用し、得られた吹付用コンクリートを直ちに吹付施工に供した。吹付施工は次のような対象物に向かって吹き付けた。即ち、前記吹付装置のノズル孔端から約100cm離れた地点に垂直に設置した厚さ9mmで3m四方のコンクリート製平板面に向かって、10m3/時間の流量で、前記吹付用コンクリートを吹き付けた。吹き付けたコンクリートの付着性の評価を、目視観察により次のように行った。即ち、前記平板面に吹き付けたコンクリートに垂れや剥落が起こることなく、付着し続けたものを付着性が「良好」と判断し、それ以外の状態になったものや瞬結等により吹き付け施工自体ができなかったものは、全て付着性が「不良」と判断した。結果を表8に示す。
【0046】
【表8】
【0047】
また、このような吹付を5分間行った後に、ベースコンクリートの圧送供給を30分間停止して吹付を中断した後、ベースコンクリートの圧送供給を再開し、再度吹付けを行った。その際、ト字管や吹付装置の圧送経路中に狭窄や閉塞等の圧送障害や、吹付用コンクリートの吹出量(噴射量)の明らかな低下や脈動などの吹付障害があったものを圧送性「不良」と判断した。また、これらの現象が見られず、スムーズに圧送でき、吹付量の変動や圧送時の脈動も見られなかったものは、圧送性「良好」と判断した。この結果も表8に示す。
【0048】
[吹付コンクリートの強度発現性の評価]
前記の如く作製した吹付用コンクリートを、作製後直ちに、内寸30×40×20cmの成形用型枠内に吹き付け、型枠内を満たすようにした。これを20℃(±1℃)恒温庫に入れ所定時間経過後、型枠内の硬化コンクリートからコアドリルによって直径5cm、高さ10cmの円柱状供試体を採取し、材齢24時間並びに28日にした供試体を得た。各材齢の供試体の一軸圧縮強度をアムスラー式圧縮強度試験機で測定した。また、土木学会規準JSCE-G561に規定するプルアウト試験用型枠と埋込具を使用し、前記と同様に作製した吹付用コンクリートを、JSCE-G561に準拠したプルアウト試験に供した。当該試験により材齢15分の吹付用コンクリートの圧縮強度を測定した。以上の各強度測定の結果を表8に示す。尚、所定材齢で未硬化のものや瞬結等により吹き付けができなかったものは、強度測定試験不能なため、表8の測定値の欄は「×」と表記した。
【0049】
表7の結果から、本発明品の吹付コンクリートは、吹付施工時の付着性を十分確保するための高い急結性を具備することがわかる。一方で、表8の結果から急結剤の添加前後ともスムーズな圧送に適したコンクリートの流動性が確保でき、圧送障害が起こり難いため、良好な施工性と混合状態を得やすいことがわかる。さらに、表8の結果からは、本発明品は非常に高い初期~長期にかけての強度発現性を具備できることがわかる。これに対し、従来技術の範疇や本発明から外れる技術の吹付用コンクリートでは、本発明品よりも強度が低いか、同等レベルの強度発現性であっても付着性に劣ることがわかる。