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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】移動経路生成装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4093 20060101AFI20230920BHJP
   B25J 9/22 20060101ALI20230920BHJP
   G05B 19/4155 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
G05B19/4093 E
B25J9/22 A
G05B19/4155 V
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019145465
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021026602
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】ゴバック ズン
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/009350(WO,A1)
【文献】特開2007-316942(JP,A)
【文献】特開2005-309990(JP,A)
【文献】特開2015-160277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/4093
B25J 9/16-9/22
G05B 19/4155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットの先端部を始点から障害物を迂回して目標点まで移動させる移動経路を決定する移動経路決定装置であって、
前記始点と前記目標点との間に中間点をランダムに設定し、前記始点、前記中間点及び前記目標点を結ぶ直線と前記障害物との間隔が所定の下限値未満である場合には、中間点を再設定することにより、前記始点と前記目標点との間に前記中間点を設けた複数の移動経路を生成する移動経路生成部と、
前記ロボットが前記始点、前記中間点及び前記目標点を直線で結んで形成される角を面取りすることで前記移動経路を滑らかにする際の前記面取りのパラメータの設定により前記移動経路の滑らかさを指定する滑らかさ設定部であって、前記移動経路生成部が生成した前記移動経路の中間点について、前記ロボットの動作のシミュレーションによって、前記先端部が前記障害物に干渉しない最大の滑らかさをそれぞれ設定する滑らかさ設定部と、
前記滑らかさ設定部が滑らかさを設定した前記複数の移動経路の中から最良の前記移動経路を選択する選択部と、
前記選択部が選択した前記移動経路及び前記障害物の位置を学習する学習部と、
前記学習部が学習した前記移動経路の前記始点前記目標点及び前記障害物の位置関係と、新たに与えられる前記始点前記目標点及び前記障害物の位置関係との間に共通性が認められる場合に、前記学習部が学習した前記移動経路を前記新たに与えられる前記始点及び前記目標点間に適用する適用部と、
を備える、移動経路決定装置。
【請求項2】
前記選択部は、前記始点から前記目標点までの移動時間T、前記先端部の移動距離L、前記ロボットの駆動軸の角度変位の合計値θ、及び正の重み係数m1,m2,m3を用いて、F=m1*T+m2*L+m3*θとして表される評価式Fの値が最小である前記移動経路を選択する、請求項1に記載の移動経路決定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動経路生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットの先端部に設けられるヘッド(例えばワークを保持するハンドやツールを保持するチャック等)を移動させることにより所望の作業を行うロボットシステムにおいて、ヘッドが周辺機器等の障害物と干渉しないように障害物を迂回して移動するようロボットの動作を設定する必要がある。
【0003】
このようなロボットの動作を設定するために、仮想空間に障害物を配置し、ロボットの先端部を始点から障害物を迂回して目標点まで移動させる移動経路をシミュレーションによって決定する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載のシミュレーション装置は、第1の教示点と第2の教示点との間に、第1の教示点(始点)又は第2の教示点(目標点)から、乱数で定めた探索方向に乱数で定めた探索距離だけ離れた少なくとも1つの第3の教示点を自動的に追加し、ロボットと周辺物との干渉が発生しない第2の動作経路を生成する動作経路生成部と、動作経路生成部が生成した複数の異なる第2の動作経路の各々について、予め定めた少なくとも1つのパラメータに基づく評価を行う評価部と、評価部が行った評価に基づいて、複数の第2の動作経路から、ロボットの最適動作経路を選択する動作経路選択部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-160277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のシミュレーション装置では、乱数を用いて多数の移動経路を生成し、この多数の移動経路の中から最も適切と評価される移動経路を選択する。このため、特許文献1に記載のシミュレーション装置では、適切な移動経路を決定するために必要な処理時間が長くなりやすい。このため、効率よく適切な移動経路を決定することができる移動経路決定装置が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る移動経路決定装置は、ロボットの先端部を始点から障害物を迂回して目標点まで移動させる移動経路を決定する移動経路決定装置であって、前記始点と前記目標点との間に中間点を設けた複数の移動経路を生成する移動経路生成部と、前記移動経路生成部が生成した前記移動経路の中間点について、前記先端部が前記障害物に干渉しない最大の滑らかさをそれぞれ設定する滑らかさ設定部と、前記滑らかさ設定部が滑らかさを設定した前記複数の移動経路の中から最良の前記移動経路を選択する選択部と、前記選択部が選択した前記移動経路及び前記障害物の位置を学習する学習部と、前記学習部が学習した前記移動経路の前記始点及び前記目標点と、新たに与えられる前記始点及び前記目標点との間に共通性が認められる場合に、前記学習部が学習した前記移動経路を前記新たに与えられる前記始点及び前記目標点間に適用する適用部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様に係る移動経路決定装置によれば、効率よく適切な移動経路を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態の産業機械の構成を示す模式図である。
図2】ロボットの動作を説明する模式図である。
図3】滑らかさ設定部による滑らかさの設定に伴う移動経路の変化を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本開示に係る移動経路決定装置1の構成を示す。移動経路決定装置1は、図2に示すように、ロボットMの先端部を始点(直接又は加工プログラムを用いてユーザが指定する第1の教示点)P1から障害物Sを迂回して目標点(ユーザが指定する第2の教示点)P2まで移動させる移動経路Rを決定する。
【0011】
移動経路決定装置1は、始点P1と目標点P2との間に中間点(移動経路決定装置1が挿入する教示点)Pmを設けた複数の移動経路Rを生成する移動経路生成部10と、複数の移動経路Rの中間点Pmについて、障害物Sに干渉しない最大の滑らかさをそれぞれ設定する滑らかさ設定部20と、複数の移動経路Rの中から最良の移動経路を選択する選択部30と、選択部30が選択した移動経路R及び障害物Sの位置を学習する学習部40と、学習部40が学習した移動経路Rの始点P1及び目標点P2と、新たに与えられる始点P1及び目標点P2との間に共通性が認められる場合に、学習部40が学習した移動経路Rを、新たに与えられる始点P1及び目標点P2に適用する適用部50と、を備える。
【0012】
移動経路決定装置1は、例えばCPU、メモリ、各種インターフェイス等を備えるコンピュータ装置に適切な処理プログラムを実行させることによって実現することができる。移動経路決定装置1は、ロボットMの制御装置と一体に構成、つまりロボットMの制御装置の一機能として実現されてもよい。移動経路決定装置1において、移動経路生成部10、滑らかさ設定部20、選択部30、学習部40及び適用部50は、機能的に区別されるものであって、物理的構成及びプログラム構成において明確に区分できるものでなくてもよい。
【0013】
移動経路決定装置1が移動経路Rを決定するロボットシステムのモデルは、図2に示すように、先端部がワークWを保持するハンドHとされた垂直多関節型のロボットMを有し、ハンドHを移動可能な空間内に障害物Sが配置されている。移動経路決定装置1は、ロボットM、ワークW及び障害物Sを仮想空間内にモデリングし、ロボットMの動作のシミュレーションを行う。
【0014】
移動経路決定装置1は、ハンドHの基準点を始点P1から障害物Sを迂回して目標点P2まで移動するために、始点P1と目標点P2との間に基準点が通るべき1又は複数の中間点Pmを設定する。つまり、移動経路決定装置1が決定する移動経路Rは、始点P1から中間点Pmを通って目標点P2に至る。
【0015】
移動経路生成部10は、与えられる1組の始点P1及び目標点P2に対して、それぞれ始点P1と目標点P2との間に1又は複数の中間点Pmを設けた複数の移動経路Rを生成する。移動経路生成部10には、例えば次に示すような形式で始点P1、目標点P2、ワークW及び障害物Sの位置を特定する動作条件データが与えられる。
【0016】
(動作条件データ)
Start Position:(J1,J2,J3,J4,J5,J6…)
Target Position:(J1,J2,J3,J4,J5,J6…),
Work Position: (X,Y,Z,W,P,R)
Obstacle Position: (X,Y,Z,W,P,R)
【0017】
移動経路生成部10は、中間点Pmをランダムに設定し、始点P1と最初の中間点Pmとを結ぶ直線、隣接する2つの中間点を結ぶ直線、及び最後の中間点Pmと目標点P2とを結ぶ直線と障害物Sとの間隔がロボットMの先端部(ハンドH及びワークW)の大きさを考慮した所定の下限値以上である場合にのみ、始点P1、1又は複数の中間点Pm及び目標点P2を順番に結ぶよう連続する線を1つの移動経路Rとする。つまり、移動経路生成部10は、始点P1、中間点Pm及び目標点P2を結ぶ直線と障害物Sとの間隔が所定の下限値未満である場合には、中間点Pmを再設定する。
【0018】
移動経路生成部10は、1組の始点P1及び目標点P2に対して、予め定められる数の、例えば10の移動経路Rを生成する。移動経路生成部10により生成される複数の移動経路Rは、互いに中間点Pmの位置が異なり、場合によっては中間点Pmの数も異なってもよい。
【0019】
移動経路生成部10は、例えば次に示すような形式で、1又は複数の中間点Pmを挿入した移動経路Rの移動経路データを記録する。
【0020】
(移動経路データ)
Start Position: (J1,J2,J3,J4,J5,J6…)
Middle Position 1: (J1,J2,J3,J4,J5,J6…)
Middle Position 2: (J1,J2,J3,J4,J5,J6…)



Target Position: (J1,J2,J3,J4,J5,J6…)
【0021】
滑らかさ設定部20は、移動経路生成部10が生成した複数の移動経路Rの中間点Pmについて、障害物Sに干渉しない最大の滑らかさをそれぞれ設定する。具体的には、滑らかさ設定部20は、図3に示すように、始点P1と中間点Pmと目標P2とを直線で結んで形成される角を面取りすることで移動経路Rを滑らかにする。このような機能は、ロボットMにも設けられており、滑らかさの程度を指定するパラメータを設定することで、個々の教示点における移動経路Rにおける基準点の軌跡を丸めることができる。
【0022】
図示するように、滑らかさのパラメータを大きくするほど、基準点の移動経路Rが始点P1、中間点Pm及び目標点P2を結ぶ直線から離れてゆく。図示するように、中間点Pmの近くに障害物Sが存在する場合、滑らかさのパラメータを大きくし過ぎると移動経路Rが障害物Sと重なってしまう。
【0023】
滑らかさ設定部20は、ロボットMにおける滑らかさのパラメータに従って移動経路Rを滑らかにする機能をシミュレートして、特定の設定値において移動経路Rに沿って移動するロボットMの先端部(ハンドH及びワークW)が障害物Sに干渉するか否かを確認することで、障害物Sに干渉しない最大の滑らかさの設定値を特定する。滑らかさ設定部20は、ロボットMの先端部と障害物Sとの間隔が所定のクリアランス以下である場合に両者が干渉すると判断してもよい。
【0024】
滑らかさ設定部20は、演算負荷を軽減するために、例えば二分探索法によって、より少ないシミュレーションの回数で移動経路Rが障害物Sに干渉しない最大の滑らかさの設定値を特定できるよう構成されることが好ましい。滑らかさ設定部20は、滑らかさのパラメータ設定値を最小値又は最大値から順番に変化させてシミュレーションを繰り返すことで移動経路Rが障害物Sに干渉しない最大の滑らかさの設定値を特定するよう構成されてもよい。
【0025】
選択部30は、滑らかさ設定部20により1組の始点P1及び目標点P2に対して設定された複数の移動経路Rの中から最良の移動経路Rを選択する。選択部30は、移動経路Rと障害物Tとの位置関係から導出されるパラメータと、移動経路Rに沿ってロボットMの先端部を移動させるシミュレーションを行うことよって得られるパラメータとに基づいて、最良の移動経路Rを選択するよう構成され得る。
【0026】
具体的には、選択部30は、始点P1から目標点P2までの移動時間T[sec]、基準点の移動距離L、ロボットMの駆動軸の角度変位の合計値θ[deg]、及び正の重み係数m1,m2,m3を用いて、F=m1*T+m2*L+m3*θとして表される評価式Fの値が最小である移動経路を、1組の始点P1及び目標点P2に対して選択する構成とすることができる。重み係数m1,m2,m3は、その合計が1となるよう設定することができる。このため、角度変位の合計値θの重み係数m3は、m3=(1-m1-m2)として算出してもよい。
【0027】
選択部30は、例えば次に示すような形式で、選択した最良の移動経路Rをその条件と共に記述する学習データとして記録する。
【0028】
(学習データ)
Start Position:(J1,J2,J3,J4,J5,J6…)
Target Position:(J1,J2,J3,J4,J5,J6…),
Work Position: (X,Y,Z,W,P,R)
Obstacle Position: (X,Y,Z,W,P,R)
Middle Position 1: (J1,J2,J3,J4,J5,J6…)
Middle Position 2: (J1,J2,J3,J4,J5,J6…)



CNT :C
【0029】
学習部40は、学習データを読み込んで、選択部30が選択した移動経路R及び障害物Sの位置を学習する。つまり、学習部40は、始点P1、目標点P2及び障害物Sの位置関係のパターンを認識するルールを確立する。
【0030】
適用部50は、学習部40が確立したルールに基づいて、新たに与えられた始点P1、目標点P2及び障害物Sの位置関係のパターンを認識し、この位置関係のパターンが共通する学習データの移動経路Rの位置関係と同様となるよう中間点Pmを挿入することにより、始点P1から障害物Sを迂回して目標点P2まで移動させる移動経路Rを決定する。
【0031】
適用部50は、学習部40が確立したルールに基づいて、新たに与えられた始点P1、目標点P2及び障害物Sの位置関係が、学習部40が学習した始点P1、目標点P2及び障害物Sの位置関係との間に共通性がないと判断される場合には、移動経路生成部10、滑らかさ設定部20及び選択部30により、新たに与えられた始点P1、目標点P2及び障害物Sの位置関係に対して最適な移動経路Rを決定する。移動経路生成部10及び滑らかさ設定部20による複雑な演算を行うことなく、適用部50が過去に決定した移動経路Rを新たに与えられた始点P1と目標点P2との間の移動経路Rとして適用するので、演算負荷を抑制することがでる。このため、移動経路決定装置1は、新たに始点P1、目標点P2及び障害物Sの位置関係を与えたときに、迅速にロボットMの実際の動作を開始することができる。
【0032】
以上のように、移動経路決定装置1は、滑らかさ設定部20を備えるので、ロボットMの先端部を移動経路Rに沿って始点P1から障害物Sを迂回して目標点P2まで移動させる間の加減速を少なくするよう、移動経路Rを最適化することができる。これにより、移動経路決定装置1は、移動時間を短縮するとともに、ロボットの負荷を軽減して寿命を延ばすことができる。
【0033】
また、移動経路決定装置1は、学習部40及び適用部50を備えるので、始点P1、目標点P2及び障害物Sの位置関係が、過去に移動経路Rを決定したときと共通性を有する場合には過去の移動経路Rを適用して演算負荷を軽減することができる。したがって、移動経路決定装置1は、効率よく適切な移動経路Rを決定することができる。
【0034】
以上、本開示に係る移動経路生成装置の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限るものではない。また、前述した実施形態に記載された効果は、本開示に係る移動経路生成装置から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本開示に係る移動経路生成装置による効果は、前述の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0035】
本開示に係る移動経路生成装置において、選択部は、評価式Fとは異なる指標を用いて最良の移動経路を特定してもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 移動経路決定装置
10 移動経路生成部
20 滑らかさ設定部
30 選択部
40 学習部
50 適用部
H ハンド
P1 始点
P2 目標点
Pm 中間点
R ロボット
S 障害物
T 移動経路
W ワーク
図1
図2
図3