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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】ステアリングコラム装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/185 20060101AFI20230920BHJP
【FI】
B62D1/185
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019166944
(22)【出願日】2019-09-13
(65)【公開番号】P2021041878
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000237307
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトコラムシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 友紀
(72)【発明者】
【氏名】菊入 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】木口 裕太
(72)【発明者】
【氏名】樋口 耕太
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-006847(JP,A)
【文献】特開2019-044945(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098269(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/208517(WO,A1)
【文献】特開2018-188053(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0204610(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/185
B62D 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトを回転自在に支持するステアリングコラム装置であって、
円筒状のインナチューブと、前記インナチューブに対してその軸方向に沿って摺動可能に外嵌されるとともに弾性的に縮径されることにより前記インナチューブに対して固定される円筒状のアウタチューブと、を備え、
前記アウタチューブは、その軸方向に沿って延びる第1のスリットおよび前記第1のスリットに連続して前記第1のスリットに対して交わる方向に沿って延びる第2のスリットを有することにより縮径可能とされていて、
前記第2のスリットにおける前記第1のスリットと反対側の端部には当該端部までの幅よりも長い幅を有して開口する応力緩和部が設けられるとともに、前記応力緩和部の輪郭形状は前記第2のスリットに対して交わる方向を長軸方向とする楕円弧状の部分を含んで設定されており、
前記アウタチューブには付属部品が挿入される開口部が前記応力緩和部に対して前記アウタチューブの軸方向に間隔をあけて設けられるとともに、前記開口部は、前記第2のスリットから分離し、かつ前記アウタチューブの軸方向において前記第2のスリットと重なるように配置されており、
前記応力緩和部は、前記アウタチューブの軸方向に沿って前記開口部と反対側へのみ延びているステアリングコラム装置。
【請求項2】
前記付属部品は、前記ステアリングシャフトの一部に係合して前記ステアリングシャフトの回転を規制するロック部材である請求項1に記載のステアリングコラム装置。
【請求項3】
前記応力緩和部と前記第2のスリットにおける前記応力緩和部までの部分との間は、滑らかに連続している請求項1または請求項2に記載のステアリングコラム装置。
【請求項4】
前記応力緩和部の輪郭形状は楕円形状である請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載のステアリングコラム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングコラム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のステアリングシャフトを回転自在に支持するステアリングコラムが存在する。たとえば特許文献1のステアリングコラムは、インナコラムとアウタコラムとの2重管構造を有している。アウタコラムには、その軸線に沿って延びる第1のスリット、および第1のスリットに連続してアウタコラムの周方向に沿って延びる第2のスリットが設けられている。また、アウタコラムには、第1のスリットを挟むかたちで互いに対向する一対のクランプ部が設けられている。これらクランプ部は、車体に固定されるコラムブラケットによって挟持されている。コラムブラケットに設けられたクランプ装置の操作を通じて一対のクランプ部が互いに近接する方向へ弾性変形することに伴ってアウタコラムが縮径することによりインナコラムが締付けられる。これにより、インナコラムとアウタコラムとの軸方向における相対的な移動が規制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-6847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のステアリングコラムによれば、そのアウタコラムに第1のスリットおよび第2のスリットが設けられることによってアウタコラムが縮径する際の剛性が低下する。このアウタコラムの剛性が低下する分だけアウタコラムを縮径させるために必要とされる力、ひいてはクランプ装置を操作する力を小さくすることができる。このため、クランプ装置の操作性が確保される。
【0005】
ただし、アウタコラムが縮径する際、第2のスリットの末端部には応力が集中する。この末端部における応力集中を緩和するために、第2のスリットの末端部には応力集中緩和部が設けられている。この応力集中緩和部は、第2のスリットにおける末端部までの部分の幅よりも大きい直径を有する円形に開口している。応力集中緩和部の直径を第2のスリットにおける末端部までの部分の幅よりも大きい値に設定することにより、第2のスリットの末端部の曲率がより小さくなる。このため、アウタコラムが縮径する際、第2のスリットの末端部における応力集中が緩和される。
【0006】
ところが、特許文献1のステアリングコラムにおいては、つぎのようなことが懸念される。たとえばステアリングロック装置によりステアリングシャフトの回転が規制された状態でステアリングホイールが操作される場合、アウタコラムにはその軸線回りのねじり力が加わる。この場合、円形の応力集中緩和部を含む第2のスリットの末端部には、依然として応力が集中するおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、アウタチューブにねじり力が加わった際の応力集中をより適切に緩和することができるステアリングコラム装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成し得るステアリングコラム装置は、ステアリングシャフトを回転自在に支持するステアリングコラム装置であって、円筒状のインナチューブと、前記インナチューブに対してその軸方向に沿って摺動可能に外嵌されるとともに弾性的に縮径されることにより前記インナチューブに対して固定される円筒状のアウタチューブと、を備えている。前記アウタチューブは、その軸方向に沿って延びる第1のスリットおよび前記第1のスリットに連続して前記第1のスリットに対して交わる方向に沿って延びる第2のスリットを有することにより縮径可能とされている。前記第2のスリットにおける前記第1のスリットと反対側の端部には当該端部までの幅よりも長い幅を有して開口する応力緩和部が設けられるとともに、前記応力緩和部の輪郭形状は前記第2のスリットに対して交わる方向を長軸方向とする楕円弧状の部分を含んで設定されている。
【0009】
上記の構成によるように、第2のスリットの端部の輪郭形状を第2のスリットに対して交わる方向を長軸方向とする楕円弧状の部分を含んで設定することにより、限られたスペースの中で第2のスリットの端部の曲率をより小さくすることが可能である。このため、何らかの原因でアウタチューブに対してねじり力が加わった場合、アウタチューブにおける第2のスリットの端部に応力が集中することをより適切に抑制することができる。
【0010】
上記のステアリングコラム装置において、前記アウタチューブには付属部品が挿入される開口部が前記応力緩和部に対して前記アウタチューブの軸方向に間隔をあけて設けられていてもよい。この場合、前記応力緩和部は、前記アウタチューブの軸方向に沿って前記開口部と反対側へ向けて延びていることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、応力緩和部を前記アウタチューブの軸方向に沿って開口部側へ向けて延設する場合に比べて、アウタチューブにおける第2のスリットと開口部との間の剛性を確保しやすい。
【0012】
上記のステアリングコラム装置において、前記付属部品は、前記ステアリングシャフトの一部に係合して前記ステアリングシャフトの回転を規制するロック部材であってもよい。
【0013】
この構成によれば、ロック部材によりステアリングシャフトの回転が規制された状態でステアリングシャフトにトルクが加わった場合、アウタチューブにはねじり力が加わる。第2のスリットの端部に上記の応力緩和部が設けられることにより、第2のスリットの端部に応力が集中することが適切に抑制される。
【0014】
上記のステアリングコラム装置において、前記応力緩和部は、前記第2のスリットにおける前記応力緩和部までの部分の幅方向における両側へ向けて延びていてもよい。
この構成は、アウタチューブにおける第2のスリットの近傍に開口した部分が存在しない場合に採用することが可能である。
【0015】
上記のステアリングコラム装置において、前記応力緩和部と前記第2のスリットにおける前記応力緩和部までの部分との間は滑らかに連続していることが好ましい。
この構成によれば、アウタチューブにおける第2のスリットの周縁部に応力が集中することが抑えられる。
【0016】
上記のステアリングコラム装置において、前記応力緩和部の輪郭形状は楕円形状であることが好ましい。
第2のスリットの端部の輪郭形状を円形状に設定することも考えられるところ、応力緩和部を同一サイズの領域に設けると仮定した場合、長軸方向に沿った楕円弧の曲率は円弧の曲率よりも小さくなる。このため、応力緩和部の輪郭形状として楕円形状を採用することにより、限られたスペースの中で第2のスリットの端部の曲率をより小さくすることが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のステアリングコラム装置によれば、アウタチューブにねじり力が加わった際の応力集中をより適切に緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ステアリングコラム装置の一実施の形態の概略構成を示す模式図。
図2図1のII-II線に沿って切断した断面模式図。
図3】一実施の形態のアウタチューブを車体の固定部と反対側からみた正面図。
図4】一実施の形態のステアリングコラム装置を軸線に直交する方向に沿って切断した要部断面図。
図5】一実施の形態のアウタチューブのスリットの末端周辺を示す側面図。
図6】比較例のアウタチューブのスリットの末端形状を示す側面図。
図7】一実施の形態のアウタチューブのスリットの末端形状を示す側面図。
図8】他の実施の形態のアウタチューブのスリットの末端形状を示す要部側面図。
図9】他の実施の形態のアウタチューブのスリットの末端形状を示す要部側面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、ステアリングコラム装置の一実施の形態を説明する。
図1に示すように、ステアリングコラム装置1は、ステアリングシャフト2を回転自在に支持する。ステアリングシャフト2の第1の端部には、ステアリングホイール3が連結されている。ステアリングシャフト2の第2の端部は、中間軸およびピニオン軸を介して車体の左右方向に沿って延びるラック軸に噛み合わせられる。ラック軸の両端部はタイロッドを介して左右の転舵輪に連結される。ステアリングホイール3の操作に伴い転舵輪の向きが変更される。
【0020】
ステアリングシャフト2は、アウタシャフト11およびインナシャフト12を有している。アウタシャフト11およびインナシャフト12は、たとえばスプライン結合によって互いに連結されている。アウタシャフト11およびインナシャフト12は、一体回転可能かつ互いの軸方向に沿って相対移動可能である。ステアリングシャフト2は、ステアリングホイール3が上側に位置するように、車両の前後方向X1に対して斜めに設けられる。
【0021】
ステアリングコラム装置1は、車体のフレームなどの固定部13に固定されるステアリングコラム15を有している。ステアリングコラム15には、ステアリングシャフト2が挿通されている。ステアリングシャフト2は、軸受を介してステアリングコラム15に対して回転可能に支持されている。
【0022】
ステアリングコラム15は、アウタチューブ16およびインナチューブ17を有している。アウタチューブ16およびインナチューブ17は、それぞれ筒状をなしている。アウタチューブ16およびインナチューブ17は、ステアリングシャフト2の軸方向に沿って互いに相対移動可能に嵌め合わされている。インナチューブ17は、アウタチューブ16の内部にステアリングホイール3と反対側から挿入されている。アウタチューブ16は、コラムブラケット21を介して車体側の固定部13に固定される。
【0023】
図2に示すように、コラムブラケット21は、アッパーブラケット22、チルトブラケット23、および2つのクランプブラケット24a,24bを有している。
アッパーブラケット22は、車体の左右方向(図2中の左右方向)に沿って延びる平板状をなしている。アッパーブラケット22の両端には、それぞれ取付座22aが設けられている。アッパーブラケット22は、これら取付座22a,22aを介して車体の固定部13に固定される。具体的には、つぎの通りである。
【0024】
すなわち、固定部13には、2つのボルト31,31が突出して設けられている。これらボルト31,31は、その軸方向Z1が鉛直方向に対して交わるように延びている。これらボルト31,31は、ステアリングシャフト2の軸方向からみて、ステアリングシャフト2を基準とする車体の左側および右側に一つずつ設けられている。ボルト31は、その両端に雄ねじが設けられたスタッドボルトである。ボルト31の第1の端部は、固定部13に螺合されている。ボルト31の第2の端部は、取付座22aを貫通している。ボルト31の第2の端部にナット32を締め付けることにより、取付座22aが固定部13に固定される。ナット32と取付座22aとの間には、座金33が介在されている。
【0025】
チルトブラケット23は、アッパーブラケット22に固定されている。チルトブラケット23は、アッパーブラケット22と反対側に開放した角型U字状をなしている。チルトブラケット23は、連結板41および2つの側板42a,42bを有している。連結板41は、アッパーブラケット22の車体の固定部13と反対側の面(図2中の下面)に固定されている。2つの側板42a,42bは、ステアリングシャフト2の軸方向からみた車体の左右方向において、連結板41の両側縁に連結されている。2つの側板42a,42bは、車体の固定部13と反対側(図2中の下方)へ向けて延びている。2つの側板42a,42bには、ボルト31の軸方向Z1に沿って延びる長孔が設けられる。
【0026】
2つのクランプブラケット24a,24bは、金属の平板が角型U字状に屈曲されてなる。2つのクランプブラケット24a,24bは、アウタチューブ16の外周面に固定されている。2つのクランプブラケット24a,24bは、車体の固定部13と反対側(図2中の下方)へ向けて延びている。2つのクランプブラケット24a,24bは、ステアリングシャフト2の軸方向からみた車体の左右方向において、チルトブラケット23における2つの側板42a,42bの内側に位置し、かつ2つの側板42a,42bに接触した状態に保持される。2つのクランプブラケット24a,24bには、ステアリングシャフト2の軸方向に沿って延びる長孔が設けられる。
【0027】
チルトブラケット23と2つのクランプブラケット24a,24bとは、ボルトからなる締付け軸51を介して連結されている。2つのクランプブラケット24a,24bは、締付け軸51によってチルトブラケット23に対して相対的に位置調整可能に支持されている。締付け軸51は、ステアリングシャフト2の軸方向に対して交わる方向(図2中の左右方向)に沿って延びている。締付け軸51は、チルトブラケット23の側板42a,42bの長孔および2つのクランプブラケット24a,24bの長孔を貫通している。この貫通した締付け軸51の頭部52と反対側の端部である先端部には、ナット53が螺合されている。締付け軸51において、頭部52と一方(図2中の左方)のクランプブラケット24aとの間には、レバー54が回転自在に支持されている。
【0028】
レバー54の基端部におけるクランプブラケット24a側の側面には、第1のカム55が一体的に設けられている。また、第1のカム55とチルトブラケット23の一方の側板42aとの間には、第2のカム56が設けられている。第2のカム56は、側板42aに対して相対的な回転が規制された状態に設けられる。第1のカム55における第2のカム56側の側面の周縁部には、複数の突部が間隔をあけて設けられている。第2のカム56における第1のカム55側の側面の周縁部にも、複数の突部が間隔をあけて設けられている。第1のカム55の回転位置は、レバー54の回転操作を通じて第1の回転位置と第2の回転位置との間で切り替わる。第1の回転位置は、第1のカム55の突部が第2のカム56の突部と突部との間に噛み合うかたちで係合する位置をいう。第2の回転位置は、第1のカム55の突部が第2のカム56の突部に乗り上げる位置をいう。
【0029】
レバー54の回転操作を通じて、第1のカム55の回転位置が第1の回転位置から第2の回転位置へ切り替えられたとき、第1のカム55は第2のカム56に対して相対的に回転するとともに、この回転に伴い第1のカム55の突部が第2のカム56の突部に乗り上げる。レバー54の締付け軸51に沿った方向への移動が規制されているため、第1のカム55の突部が第2のカム56の突部に乗り上げた分だけ、第2のカム56はナット53側へ向けて移動しようとする。これに伴い、第2のカム56とナット53との間において、チルトブラケット23の2つの側板42a,42bは互いに近接する方向へ向けて弾性変形することによって2つのクランプブラケット24a,24bに押し付けられる。これにより、2つのクランプブラケット24a,24bがチルトブラケット23に対して相対的に移動することが規制される。
【0030】
また、2つのクランプブラケット24a,24bは、チルトブラケット23の2つの側板42a,42bを介して、互いに近接する方向へ向けて弾性変形する。ここで、アウタチューブ16における2つのクランプブラケット24a,24bの間の部分には、スリット61が設けられている。このスリット61は、アウタチューブ16の軸方向に沿って第1の端部から第2の端部へ向けて延びる部分を有している。このため、2つのクランプブラケット24a,24bの間隔が狭まることによってアウタチューブ16はスリット61の間隔が狭まるかたちで弾性変形する。すなわち、アウタチューブ16は、その内径が小さくなるように弾性変形することにより、インナチューブ17の外周面を締め付ける。これにより、アウタチューブ16のインナチューブ17に対する軸方向に沿った相対的な移動が規制される。
【0031】
ステアリングホイール3の位置を変更する際には、レバー54の回転操作を通じて、第1のカム55の回転位置を第2の回転位置から第1の回転位置へ切り替えればよい。第1のカム55の突部が第2のカム56の突部と突部との間に嵌ることにより、チルトブラケット23の2つの側板42a,42bの互いに近接する方向における締付け、および2つのクランプブラケット24a,24bの互いに近接する方向における締付けが解除される。チルトブラケット23の2つの側板42a,42b、および2つのクランプブラケット24a,24bがそれぞれ原位置へ弾性復帰することによって、2つの側板42a,42bの間隔および2つのクランプブラケット24a,24bの間隔がそれぞれ広がる。
【0032】
これにより、チルトブラケット23の2つの側板42a,42bが2つのクランプブラケット24a,24bを挟み込む力が弱まる。このため、2つのクランプブラケット24a,24bが固定されたアウタチューブ16は、チルトブラケット23に対して上下方向へ相対的に移動することが可能となる。ステアリングホイール3を上下方向へ移動させることにより、ステアリングホイール3の上下方向の位置を調節することが可能である。また、アウタチューブ16によるインナチューブ17の締め付けが解除されることにより、アウタチューブ16がインナチューブ17に対して軸方向に沿って相対的に移動することが可能となる。ステアリングホイール3を軸方向に沿って移動させることにより、ステアリングホイール3の軸方向における位置を調節することが可能である。
【0033】
つぎに、アウタチューブ16について詳細に説明する。
図3に示すように、アウタチューブ16の周壁には、先のスリット61および矩形状の開口部62が設けられている。開口部62は、アウタチューブ16の軸方向において、スリット61とステアリングホイール3側の端部(図3中の右端部)との間に位置している。
【0034】
図4に示すように、アウタシャフト11の周壁には、ロック凹部63が設けられている。ロック凹部63は、アウタシャフト11の軸方向に沿って延びている。アウタシャフト11のロック凹部63の位置と、アウタチューブ16の開口部62の位置とは、アウタシャフト11の軸方向において互いに一致している。このため、アウタシャフト11が1回転する間において、ロック凹部63と開口部62とがアウタシャフト11の回転方向において互いに一致する状態が形成される。
【0035】
アウタシャフト11のロック凹部63とアウタチューブ16の開口部62とがアウタシャフト11の回転方向において互いに一致した状態において、ロック凹部63には開口部62を介してステアリングロック装置のロック部材64が挿入される。ロック部材64は、たとえばイグニッションキーの操作に連動して、ロック位置とアンロック位置との間を移動する。ロック位置は、ロック部材64の先端がアウタチューブ16の開口部62を介してアウタシャフト11のロック凹部63に挿入される位置である。アンロック位置は、ロック部材64の先端がロック凹部63あるいは開口部62の外部へ抜け出た位置である。
【0036】
イグニッションキーが車両電源のオン位置からロック位置へ操作されるとき、ロック部材64はアンロック位置からロック位置へ移動する。ステアリングホイール3の操作を通じてステアリングシャフト2が回転しようとするとき、アウタシャフト11のロック凹部63の内側面がロック部材64に係合する。これにより、ステアリングシャフト2、ひいてはステアリングホイール3の回転が規制される。これに対し、イグニッションキーがロック位置から電源オン位置へ操作されるとき、ロック部材64はロック位置からアンロック位置へ移動する。これにより、ステアリングホイール3の回転が許容される。
【0037】
図3に示すように、スリット61は、第1のスリット71および第2のスリット72を有している。これら第1のスリット71および第2のスリット72は互いに連続していて全体としてL字状をなしている。
【0038】
第1のスリット71は、アウタチューブ16の軸線に沿って延びている。第1のスリット71は、アウタチューブ16におけるステアリングホイール3と反対側の端部(図3中の左端部)からアウタチューブ16の軸方向における中央付近までの範囲に設けられている。第1のスリット71のステアリングホイール3と反対側の端部は開放されている。第2のスリット72は、第1のスリット71のステアリングホイール3側の端部(図3中の右端部)を起点として第1のスリット71に対して交わる方向、ここではアウタチューブ16の円周方向に沿って延びている。アウタチューブ16の軸方向において、第2のスリット72と開口部62とは所定の間隔をあけて互いに隣り合っている。
【0039】
図5に示すように、第2のスリット72の端部には、応力緩和部72aが設けられている。第2のスリット72の端部とは、第2のスリット72における第1のスリット71と反対側の端部をいう。応力緩和部72aは、第2のスリット72における応力緩和部72aまでの部分の幅よりも長い長軸を有する楕円形状に開口している。応力緩和部72aは、アウタチューブ16の軸方向に沿って開口部62と反対側(図5中の左側)へ向けて延びている。すなわち、応力緩和部72aは、第2のスリット72における応力緩和部72aまでの部分を基準とする開口部62側(図5中の右側)へはみ出さないように設けられている。応力緩和部72aと第2のスリット72における応力緩和部72aまでの部分との間は、滑らかな曲面を介して連続している。
【0040】
さて、ステアリングホイール3の位置の調節が完了した後、レバー54の回転操作を通じて第1のカム55の回転位置が第1の回転位置から第2の回転位置へ切り替えられる。この操作に伴い、チルトブラケット23の2つの側板42a,42bが互いに近接する方向へ向けて締め付けられることによって、2つのクランプブラケット24a,24bのチルトブラケット23に対する相対的な移動が規制される。また、アウタチューブ16におけるスリット61が設けられた部分が縮径してインナチューブ17の外周面を締め付ける。これにより、アウタチューブ16のインナチューブ17に対する軸方向に沿った相対的な移動が規制される。
【0041】
ここで、アウタチューブ16における2つのクランプブラケット24a,24bの間に設けられたスリット61は、アウタチューブ16の軸方向に沿って延びる第1のスリット71のみならず、アウタチューブ16の円周方向に沿って延びる第2のスリット72を有している。このため、アウタチューブ16のスリット61が設けられた部分が縮径する際の剛性が他の部分の剛性に対して、より低下する。アウタチューブ16を縮径させるために必要とされるレバー54の操作力がより小さくなるため、レバー54の操作性が向上する。
【0042】
<応力緩和部の作用>
つぎに、応力緩和部72aによる作用を説明する。
イグニッションキーが車両電源のオン位置からロック位置へ操作されたとき、ロック部材64がアウタチューブ16の開口部62を介してアウタシャフト11のロック凹部63に挿入されることによりステアリングシャフト2の回転が規制される。この状態で、たとえばステアリングホイール3を操作しようとする場合、アウタチューブ16にはその開口部62が設けられた部分を介してねじり力が加わる。このねじり力は、アウタチューブ16の軸線回りのトルクとしてスリット61に伝わる。このとき、アウタチューブ16のスリット61における開口部62に最も近い部分であって、かつアウタチューブ16の円周方向に沿って延びる第2のスリット72の先端部に応力が集中することが懸念される。
【0043】
この点、第2のスリット72の端部には、当該端部までの幅よりも長い長軸を有する楕円形状の応力緩和部72aが設けられている。すなわち、第2のスリット72の端部の輪郭形状が第2のスリット72に対して交わる方向を長軸方向とする楕円弧状の部分を含んで設定されることにより、限られたスペースの中で第2のスリット72の端部の曲率をより小さくすることが可能である。このため、アウタチューブ16にねじり力が加わった際、応力緩和部72aを含む第2のスリット72の端部に応力が集中しにくくなる。ちなみに、第2のスリット72の端部の輪郭形状である楕円弧の曲率が小さいほど、換言すれば楕円弧の曲率半径が大きいほど、第2のスリット72の端部における応力集中が緩和される。
【0044】
図6に比較例として示すように、第2のスリット72の端部、すなわち応力緩和部72aの輪郭形状をたとえば第2のスリット72における応力緩和部72aまでの部分の幅よりも大きな直径を有する円形状に設定することも考えられる。
【0045】
ところが、たとえば円形状の応力緩和部72aと楕円形状の応力緩和部72aとを同一サイズの領域に設けると仮定した場合、円弧の曲率は長軸方向に沿った楕円弧の曲率よりも大きくなる。このため、円形状の応力緩和部72aの直径によるものの、アウタチューブ16にねじり力が加わった際、円形状の応力緩和部72aを含む第2のスリット72の端部には、依然として応力が集中するおそれがある。
【0046】
この第2のスリット72の端部における応力集中をより緩和するためには、その円形状の応力緩和部72aの直径をより大きな値に設定すればよい。しかし、応力緩和部72aの直径をより大きな値に設定するほど、応力緩和部72aの開口面積が広くなるため、アウタチューブ16におけるスリット61が設けられた部分の剛性が低下する。また、アウタチューブ16の外周面におけるスペース上の制約から応力緩和部72aの大型化には限界がある。
【0047】
この点、応力緩和部72aの輪郭形状を楕円形状に設定することにより、応力緩和部72aの開口面積の増大を抑えつつ、限られたスペースの中で第2のスリット72の端部の曲率をより小さく設定することが可能である。
【0048】
図7に二点鎖線で示すように、応力緩和部72aの輪郭形状として円形状を採用する場合において、応力緩和部72aの輪郭形状として楕円形状を採用する場合に得られる第2のスリット72の端部の曲率と同程度の曲率を得ようとするとき、楕円形状の応力緩和部72aの開口面積に比べて、円形状の応力緩和部72aの開口面積のほうが広くなる。
【0049】
したがって、応力緩和部72aの輪郭形状として楕円形状を採用することによって、応力緩和部72aの開口面積の増大を抑えつつ、第2のスリット72の端部における応力集中をより効果的に緩和することができる。
【0050】
また、応力緩和部72aは、アウタチューブ16の軸方向において、開口部62と反対側へ向けて延びている。このため、たとえば応力緩和部72aを開口部62側へ向けて延設する場合と比較して、アウタチューブ16における第2のスリット72と開口部62との間の部分の剛性が確保される。
【0051】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)第2のスリット72の端部の輪郭形状を第2のスリット72に対して交わる方向を長軸方向とする楕円弧状の部分を含んで設定することにより、限られたスペースの中で第2のスリット72の端部の曲率をより小さくすることが可能である。このため、アウタチューブ16に対してねじり力が加わった場合、アウタチューブ16における第2のスリット72の端部に応力が集中することをより適切に抑制することができる。
【0052】
(2)具体的には、第2のスリット72の端部に設けられる応力緩和部72aの輪郭形状として楕円形状が採用されている。第2のスリット72の端部の輪郭形状を円形状に設定することも考えられるところ、たとえば円形状の応力緩和部72aと楕円形状の応力緩和部72aとを同一サイズの領域に設けると仮定した場合、長軸方向に沿った楕円弧の曲率は円弧の曲率よりも小さくなる。このため、応力緩和部72aの輪郭形状として楕円形状を採用することにより、限られたスペースの中で第2のスリット72の端部の曲率をより小さくすることが可能である。したがって、アウタチューブ16にねじり力が加わった際、第2のスリット72の端部における応力集中をより効果的に緩和することができる。
【0053】
(3)応力緩和部72aは、アウタチューブ16の軸方向において、開口部62と反対側へ向けて延びている。このため、アウタチューブ16における第2のスリット72と開口部62との間の部分の剛性を確保することができる。アウタチューブ16におけるステアリングシャフト2の支持剛性も確保される。
【0054】
(4)応力緩和部72aと第2のスリット72における応力緩和部72aまでの部分との間は滑らかな曲面を介して連続している。このため、第2のスリット72の端部の周縁部に応力が集中することが抑えられる。
【0055】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・アウタシャフト11には、その円周方向において所定の間隔をあけて複数のロック凹部63を設けてもよい。ステアリングロック装置のロック部材64がアウタチューブ16の開口部62を介して複数のロック凹部63のうちいずれか一つに挿入されることにより、ステアリングシャフト2の回転が規制される。
【0056】
・ステアリングロック装置のロック部材64が挿入される部分として、ロック凹部63に代えてアウタシャフト11の周壁を貫通する孔を採用してもよい。
・本実施の形態では、第2のスリット72をアウタチューブ16の円周方向に沿って、かつ第1のスリット71に対して直交するように延設したが、第2のスリット72を第1のスリット71に対して所定の鋭角あるいは鈍角をなして交わるように設けてもよい。
【0057】
・製品使用などによってはアウタチューブ16にステアリングロック装置が設けられないこともある。この場合、アウタチューブ16として開口部62を割愛した構成を採用することが可能である。この構成が採用される場合であれ、何らかの原因によってアウタチューブ16にねじり力が加わるおそれがある。また、アウタチューブ16として開口部62を割愛した構成が採用される場合、図8に示すように、楕円形状の応力緩和部72aを第2のスリット72における応力緩和部72aまでの部分の両側にはみ出すかたちで設けてもよい。この場合、図9に示すように、楕円形状の応力緩和部72aと第2のスリット72の主たる部分との間を滑らかな曲線で連続させてもよい。このようにしても、前記実施の形態の(1)と同様の効果を得ることができる。
【0058】
・アウタチューブ16における第2のスリット72の近傍位置には、ロック部材64が挿入される開口部62ではなく、ワイヤハーネスなどの他の付属部材を挿入するための開口部が設けられてもよい。
【0059】
・応力緩和部72aの輪郭形状は楕円形状に限らない。応力緩和部72aの輪郭形状は第2のスリット72に対して交わる方向を長軸方向とする楕円弧状の部分を含んで設定されていればよい。
【符号の説明】
【0060】
1…ステアリングコラム装置、2…ステアリングシャフト、16…アウタチューブ、17…インナチューブ、61…スリット、62…開口部、64…ロック部材(付属部品)、71…第1のスリット、72…第2のスリット、72a…応力緩和部。
図1
図2
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図7
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図9