(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】送風装置および空調装置
(51)【国際特許分類】
F04D 29/44 20060101AFI20230920BHJP
F04D 29/66 20060101ALI20230920BHJP
F24F 6/00 20060101ALI20230920BHJP
F24F 13/24 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
F04D29/44 P
F04D29/44 N
F04D29/44 Y
F04D29/66 N
F24F6/00 B
F24F13/24
(21)【出願番号】P 2019176546
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000109026
【氏名又は名称】ダイニチ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 直紀
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-296194(JP,A)
【文献】特開2016-183606(JP,A)
【文献】特開2000-009084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/44
F04D 29/66
F24F 6/00
F24F 13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転して該回転軸と交差する方向に風を送るファンと、
前記ファンを内部に収納して、空気を吸い込む吸気口と空気を吹き出す吐出口とを有するケーシングと、
前記ケーシングの上板に設けられ、前記吸気口を形成するベルマウス部と、を備え、
前記吸気口は、前記ケーシングの上板よりも空気の流入方向における上流側であって、前記ケーシングの上板からの前記回転軸方向の距離が最大となる位置に形成され、
前記ベルマウス部は、前記ケーシングの上板よりも空気の流入方向における上流側に設けられ、
前記ファンの吸気面は、前記ケーシングの上板よりも空気の流入方向における下流側に設けられ、
前記回転軸方向における、前記ケーシングの上板から
前記吸気口までの距離L1と、前記ケーシングの上板から前記ファンの吸気面までの距離L2との比L1/L2は、0.8~1.8である送風装置。
【請求項2】
前記ベルマウス部は前記回転軸と直交する方向に延びる平面からなる水平部を有し、
前記水平部の端部に前記吸気口が形成されている請求項1記載の送風装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された送風装置を備える空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送風装置および送風装置を備える空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の送風装置として、回転軸と交差する方向に風を送る略円筒型のファンと、このファンを内部に収納するケーシングとを備える、いわゆる遠心式ファンが知られている。そして、送風装置のケーシングは、空気を吸い込む吸気口と、空気を吐出する吐出口とを有しており、吸気口にはベルマウスが形成されている。このベルマウスは、ファンの内側に空気を導入する役割を有している(たとえば特許文献1)。
【0003】
このような送風装置においては、ケーシングの吸気口から吸い込まれた空気は、ファンの内側から外側に向かって吹き出されたのち、ケーシングの吐出口から吐出される。ところが、ファンの外側に向かって吹き出された空気の一部はケーシングの吐出口に向かわずに逆流し、ファンとケーシングの上板との間を通って再びファンの内側に流入する。この逆流は、ベルマウスから流入する空気(本流)に衝突し、空気の流れを乱すことによって騒音を発生させる原因となってしまう。そこで、ベルマウスの先端をファンの内側、すなわち空気の流入方向の下流に向かって屈曲するような形状とし、これにより逆流の向きをファンの回転軸方向に偏向させるようになっている。逆流の向きが偏向されることで、逆流と本流との衝突が抑制されるため、逆流は本流にスムーズに合流して騒音が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の送風装置においては、ベルマウスによって逆流の流れを強制的に変える形状であるため、逆流の流速が速い場合には、逆流がベルマウスに衝突することで騒音を発生させてしまう可能性がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためのもので、効果的に騒音を低減することのできる送風装置、および送風装置を備える空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、回転軸を中心に回転して該回転軸と交差する方向に風を送るファンと、
前記ファンを内部に収納して、空気を吸い込む吸気口と空気を吹き出す吐出口とを有するケーシングと、
前記ケーシングの上板に設けられ、前記吸気口を形成するベルマウス部と、を備え、
前記吸気口は、前記ケーシングの上板よりも空気の流入方向における上流側であって、前記ケーシングの上板からの前記回転軸方向の距離が最大となる位置に形成され、
前記ベルマウス部は、前記ケーシングの上板よりも空気の流入方向における上流側に設けられ、
前記ファンの吸気面は、前記ケーシングの上板よりも空気の流入方向における下流側に設けられ、
前記回転軸方向における、前記ケーシングの上板から前記吸気口までの距離L1と、前記ケーシングの上板から前記ファンの吸気面までの距離L2との比L1/L2は、0.8~1.8である送風装置である。
【発明の効果】
【0008】
上述のように構成することにより、ケーシング内の逆流がベルマウスに衝突することによって発生する騒音を抑制するとともに、逆流の流速を弱めることでファンの本流との合流をスムーズに行わせることができるため、騒音を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】本実施形態の送風装置においてケーシングの上板を取り外した上面図である。
【
図4】ベルマウス部の高さと騒音値の関係を示すグラフである。
【
図5】本実施形態の送風装置を備える加湿装置の外観図である。
【
図6】本実施形態の送風装置を備える加湿装置の断面図である。
【
図7】本実施形態の送風装置を備える加湿装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
好適と考える本発明の実施形態を、本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0011】
本発明は、送風装置のケーシングに形成されるベルマウスの形状に関するものであって、空気を吸い込む吸気口を、空気の流入方向における上流側であって、ケーシングの上板からのファン回転軸方向の距離が最大となる位置に形成した。つまり、ベルマウスの先端は、従来のように空気の流入方向の下流側に向かって屈曲するのではなく、ケーシングの上板から空気の流入方向の上流側に向かって延びる形状を有し、ベルマウス部とファンとの間に空間を形成する。この空間により、ベルマウス部へ流れ込んだ逆流空気の流速が弱められるため、ファンへ流れ込む空気流の本流にスムーズに合流させることができる。また、ベルマウス部は、逆流空気の流れを強制的に変えるものではないため、逆流空気がベルマウス部に衝突することによって発生する騒音も抑制することができ、騒音を低減させることができる。
【0012】
また、ベルマウス部は、ファンの回転軸と直交する方向に延びる平面からなる水平部を有し、この水平部の端部に吸気口が形成されている。これにより、ベルマウス部とファンとの間の空間に流入した逆流空気は、本流と合流する際には流れの向きが水平方向に整流されるため、よりスムーズに本流と合流させることができ、騒音を効果的に低減させることができる。
【0013】
また、ベルマウス部は、ケーシングの上板よりも空気の流入方向における上流側に設けられている。これにより、ケーシング内で発生した逆流空気は、吸気口に至るまでの間にベルマウス部に流れを阻害されることがなくなるため、逆流空気の流れが乱されることを抑制して、より騒音値を低減させることができる。
【0014】
また、ケーシングの上板から吸気口までの距離をL1、ケーシングの上板からファンの吸気面までの距離をL2としたとき、L1/L2は0.8~1.8である。逆流空気の流速を弱めるためには、逆流空気が流れ込む空間にはある程度の高さが必要であるが、一方で、その高さが大きすぎると空間内で逆流空気の乱れが発生してしまい新たな騒音の原因となってしまう。そこで、流速を弱めつつ空気の乱れを起こさない高さとして、距離の比L1/L2を0.8~1.8とする。これにより、騒音を効果的に低減させることができる。
【0015】
また、空調装置は、請求項1~4のいずれかに記載された送風装置を備える。これにより、騒音値が低く静音性に優れた空調装置となる。
【実施例1】
【0016】
以下、本発明の一実施例を図面により説明する。
【0017】
図1は、本実施形態の送風装置の断面図、
図2は、
図1のA-A‘断面図である。送風装置1は、回転軸21を中心に回転して回転軸21と交差する方向に風を送るファン10、回転軸21と連結しファン10を回転させる駆動モータ20、ファン10を収容するケーシング30、を備えて構成される。
【0018】
本実施例のファン10は、略円筒形状のいわゆるシロッコファンであり、駆動モータ20の回転軸21の軸方向に細長く形成された複数の翼片11が回転軸21に対して放射状に所定の間隔で配置されている。これら翼片11の一端(
図1における下端)は、円板12の外縁部分に取り付けられており、翼片11の他端(
図1における上端)は、環状の支持板13に取り付けられている。円板12は、中央で駆動モータ20の回転軸21に固定されており、駆動モータ20の駆動によってファン10が回転軸21を中心に回転する。
【0019】
ケーシング30は、駆動モータ20が固定される底板31と、ファン10の外周を囲うように湾曲形成された周壁板32と、周壁板32を介して底板31と対向する上板33とから構成され、送風装置1の外部から空気を吸い込む吸気口34と、吸い込んだ空気を送風装置1の外部に吐出する吐出口35とを有している。図中に一点鎖線で示した矢印は、ケーシング30内での風の流れる向きを示しており、吸気口34から吸いこまれた空気は、ファン10の内側から外側に向かって回転軸21と交差する方向に吹き出されたのち、ケーシング30の周壁板32に沿って流れ吐出口35から吐出される。
【0020】
なお、本実施形態では、
図1に基づき吸気口34を上にした状態でケーシング30を構成する各面について説明しているが、送風装置1は必ずしも
図1に示す状態で使用されるものではない。したがって、送風装置1が設置される向きに関わらず、吸気口34が形成される面が上板33、上板33に対向する面が底板31、上板33と底板31の間に配置される面が側周壁32となる。
【0021】
ケーシング30の上板33には、ベルマウス部36が一体に形成されている。ベルマウス部36は、上板33よりもケーシング30の外側、言い換えると空気の流入方向における上流側に張り出して形成されており、ベルマウス部36の端部に吸気口34が設けられている。空気吸入時の騒音を抑制するため、ベルマウス部36の最小内径である吸気口34の径は、ファン10の内径(翼片11の内側の径)より大きく形成されている。
【0022】
図3は、ベルマウス部周辺の拡大図である。なお、以下の説明においては、空気の流入方向上流側を上方、ファン10の回転軸21に沿う方向を上下方向、回転軸21と直交する方向を水平方向と呼ぶものとする。
【0023】
図3では、ベルマウス部36に形成された吸気口34と、ケーシング30の上板33とのファン10の回転軸方向(図においては上下方向)の距離をHで表している。吸気口34は、空気の流入方向における上流側であって、距離Hが最大となる位置に形成されている。言い換えると、ベルマウス部36の先端は、従来のようにファン10の内側、すなわち空気の流入方向の下流側に向かって屈曲するのではなく、ケーシング30の上板33から空気の流入方向の上流側に向かって延びる形状を有している。これにより、吸気口34はケーシング30の上板33よりも高い位置に設けられることとなり、ベルマウス部36とファン10の吸気側の面との間には空間Sが形成される。
【0024】
吸気口34から流入した空気は、前述のようにファン10の内側から外側に向かって吹き出されたのち吐出口35から吐出される。ところが、ファン10の外側に向かって吹き出された空気の一部は吐出口35に向かわずに逆流する。この逆流する空気を逆流空気Rとする。逆流空気Rはファン10とケーシング30の上板33との間を通過し、さらにはベルマウス部36の下方に形成された空間Sを通って再びファン10の内側に流入する。逆流空気Rの流速が速いと、吸気口34から流入する空気流(以下、本流)に合流する際に本流と衝突し、さらには本流の乱れを生じさせるため騒音を発生させてしまう。しかしながら、本実施形態においては、空間Sは比較的広い空間であるため、逆流空気Rは空間Sに流入する際に流速が弱められることとなり、本流との衝突を抑制してスムーズに本流に合流させることができる。これにより、騒音値を低下させることができる。また、ベルマウス部36は従来のように逆流空気Rの流れを強制的に変えるものではないため、逆流空気Rがベルマウス部36に衝突することで騒音を発生させてしまうことも効果的に抑制することができる。
【0025】
さらに、ベルマウス部36は、ケーシング30の上板33を起点として斜め上方に延びる段差部36aと、この段差部36aから水平方向に延びる水平部36bとを有する形状とすることができる。これにより、ベルマウス部36の下方の空間Sに流入した逆流空気Rは、本流と合流する際には流れの向きが水平方向に整流されるため、よりスムーズに本流と合流させることができ、騒音を効果的に低減させることができる。
【0026】
また、ベルマウス部36は、ケーシング30の上板33よりも上方に設けることができる。これにより、空間Sを広く確保することができるとともに、逆流空気Rは、吸気口34に至るまでの間にベルマウス部36に流れを阻害されることがなくなるため、逆流空気Rの流れが乱されることを抑制して、より騒音値を低減させることができる。
【0027】
なお、本実施形態のベルマウス部36の形状は、上述の効果を奏するための実施例の一つであって、これに限定されるものではない。ベルマウス部36は、逆流空気Rとベルマウス部36との衝突を抑えるとともに、逆流空気Rの流速を弱めるように形成すればよく、つまりは、ベルマウス部36に形成された吸気口34と、ケーシング30の上板33との上下方向の距離をHとすると、吸気口34は空気の流入方向における上流側であって、距離Hが最大となる位置に形成されていればよい。したがって、段差部36aは垂直方向に延びていてもよいし、円弧状であってもよい。さらには形状の異なる段差部36aを組み合わせたものであってもよい。また、ベルマウス部36は段差部36aのみで水平部36bを備えていなくてもよい。
【0028】
ところで、逆流空気Rの流速を弱めるためには、空間Sにはある程度の高さが必要であるが、一方で、その高さが大きすぎると空間S内で逆流空気Rの流れに乱れが発生してしまい新たな騒音の原因となってしまう。そこで、ベルマウス部36は、逆流空気Rの流速を弱めつつ乱流を起こさない高さに設定する必要がある。
【0029】
図4は、ベルマウス部の高さと騒音値の関係を示すグラフである。グラフの横軸は、ケーシング30の上板33から吸気口34までの距離をL1、ケーシング30の上板33からファン10の吸気面までの距離をL2とした場合の、L1とL2の距離の比(L1/L2)、縦軸は騒音値である。より詳細には、距離L1およびL2の基準となるケーシング30の上板33とは、上板33の内壁面33aを指している。グラフに示すように、L1/L2がおよそ1.3のときに騒音値が最低となっている。このことから、L1/L2に上限値と下限値を設定することでより効果的に騒音を低減させることができ、好ましくはL1/L2は0.8~1.8の範囲に設定するのがよい。したがって、例えばL2が4.5mmの場合、ベルマウス部36の高さL1の最適値は3.6mm~8.1mmである。
【0030】
次に、空調装置における送風部として、本実施形態の送風装置を用いた例について
図5~
図7を用いて説明する。
【0031】
図5は、本実施形態の送風装置を備える空調装置の一例である加湿装置の外観図である。なお、空調装置は加湿装置に限らず、室内の空気を調節するものであればよく、このほか空気清浄装置、暖房装置などにも適用可能である。加湿装置50は、本体51の上面に、加湿装置50の動作を指示する各種ボタンを備えた操作部52と、装置内部で発生させた加湿空気を吹き出す吹出口53を備えている。
【0032】
図6は、加湿装置のY-Z平面の断面図、
図7は、同装置のX-Y平面の断面図である。本体51の内部側方には、水を供給する給水タンク54が配置されており、本体51の底部には、給水タンク54から供給された水を一定水量貯える水槽部55、水槽部55内に配置され水槽部55に貯えられた水を吸水して湿潤する気化フィルタ56が配置されている。さらに、本体51の背面には、本体51内部に空気を取り入れる吸込口58が設けられている。
【0033】
また、気化フィルタ56の上部には、本体51内に空気の流れを発生させる送風部57が設けられている。本実施形態の加湿装置50における送風部57は、前述の送風装置1を駆動モータ20が側方に位置するようにして取り付けたものである。よって、ケーシング30の吸気口34が側方に、吐出口35が上方に開口した状態となる。そして吐出口35は加湿装置50の吹出口53に連通している。
【0034】
駆動モータ20の駆動によりファン10が回転すると、送風部57の吸気口34から流入した空気が吐出口35から吐出される。この空気の流れによって、本体51背面の吸込口58から天面の吹出口53にいたる通風路に送風が行われる。また、通風路中の気化フィルタ56の上流には、吸込口58から導入された空気を加熱して温風とするための温風用ヒータ59が設けられている。したがって、吸込口58から取り込まれた室内の空気は、温風用ヒータ59で加熱され、水槽部55内の水を吸い上げて湿潤している気化フィルタ56を通過する際に加湿空気となり、吹出口53より室内に放出されることで空気が加湿される。
【0035】
このような加湿装置50においても、送風部57の騒音を低減することができるため、静音性に優れ快適に使用することのできる装置となる。
【符号の説明】
【0036】
1 送風装置
10 ファン
21 回転軸
30 ケーシング
33 上板
34 吸気口
35 吐出口
36 ベルマウス部
36b 水平部