(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】印刷媒体反転装置
(51)【国際特許分類】
B65H 29/58 20060101AFI20230920BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230920BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20230920BHJP
B65H 5/06 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
B65H29/58 B
B41J2/01 305
G03G15/00 460
B65H5/06 M
(21)【出願番号】P 2019178477
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128451
【氏名又は名称】安田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】野口 芳史
(72)【発明者】
【氏名】中川 淳一
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-012207(JP,A)
【文献】特開2019-142629(JP,A)
【文献】特開2017-119563(JP,A)
【文献】特開2018-034926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 29/58
B41J 2/01
G03G 15/00
B65H 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送ローラ対によって搬送された印刷媒体を受け入れて、該受け入れた印刷媒体をスイッチバック搬送して下流側に受け渡すスイッチバック経路と、
前記スイッチバック経路上に設けられ、回転方向を反転することによって前記印刷媒体をスイッチバックするスイッチバックローラ部と、
前記スイッチバックローラ部の回転速度を制御する制御部とを備え、
前記制御部が、前記受け入れた印刷媒体が所定の加速開始位置まで搬送された時点から前記スイッチバックローラ部の回転速度を加速し、かつ前記加速開始位置を前記印刷媒体の搬送方向の長さに応じて変更する
とともに、印刷媒体間の反転マージン時間が予め設定された閾値以上となるように前記加速開始位置を変更する印刷媒体反転装置。
【請求項2】
搬送ローラ対によって搬送された印刷媒体を受け入れて、該受け入れた印刷媒体をスイッチバック搬送して下流側に受け渡すスイッチバック経路と、
前記スイッチバック経路上に設けられ、回転方向を反転することによって前記印刷媒体をスイッチバックするスイッチバックローラ部と、
前記スイッチバックローラ部の回転速度を制御する制御部とを備え、
前記制御部が、前記受け入れた印刷媒体が所定の加速開始位置まで搬送された時点から前記スイッチバックローラ部の回転速度を加速し、かつ前記加速開始位置を前記印刷媒体の搬送方向の長さに応じて変更するとともに、印刷装置の前記搬送ローラ対の態様に応じて、前記印刷媒体の搬送方向に長さに対する前記加速開始位置を変更する印刷媒体反転装置。
【請求項3】
搬送ローラ対によって搬送された印刷媒体を受け入れて、該受け入れた印刷媒体をスイッチバック搬送して下流側に受け渡すスイッチバック経路と、
前記スイッチバック経路上に設けられ、回転方向を反転することによって前記印刷媒体をスイッチバックするスイッチバックローラ部と、
前記スイッチバックローラ部の回転速度を制御する制御部とを備え、
前記制御部が、前記受け入れた印刷媒体が所定の加速開始位置まで搬送された時点から前記スイッチバックローラ部の回転速度を加速し、かつ前記加速開始位置を前記印刷媒体の搬送方向の長さに応じて変更するとともに、前記印刷媒体の種類に応じて、前記印刷媒体の搬送方向に長さに対する前記加速開始位置を変更する印刷媒体反転装置。
【請求項4】
前記加速開始位置は、前記印刷媒体の搬送方向の長さが所定の長さより長い場合には、前記印刷媒体が前記所定の長さより短い場合に比べて前記スイッチバック経路の下流側となるように制御される請求項
1記載の印刷媒体反転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷媒体をスイッチバック搬送して下流側の装置に受け渡す印刷媒体反転装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷装置において印刷処理が施された印刷媒体を受け入れ、その印刷媒体の表裏を反転させるスイッチバック搬送を行って下流側に排出する印刷媒体反転装置が提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
このような印刷媒体反転装置は、印刷媒体を反転して搬送するためのスイッチバック経路と、そのスイッチバック経路上に設けられたスイッチバックローラ対とを備える。そして、スイッチバック経路上においてスイッチバックローラ対が正方向とその逆方向とに回転することによって、印刷媒体が反転して搬送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述したような印刷媒体反転装置によって印刷媒体を反転させて下流側の装置に受け渡す場合、印刷装置から所定の搬送速度で順次搬送されてくる印刷媒体を衝突させることなく、下流側の装置に順次排出する必要があるため、印刷装置の印刷媒体の搬送速度よりも速い搬送速度で印刷媒体を搬送する必要がある。
【0006】
したがって、印刷媒体が印刷媒体反転装置内に受け入れられた後、所定の加速開始位置まで搬送された時点からスイッチバックローラ対の回転速度を加速し、搬送速度を上げることが行われている。
【0007】
スイッチバックローラ対の回転速度を加速するタイミングとしては、印刷媒体の後端が印刷装置の最下流に配置された搬送ローラを抜けた後であることが好ましい。
【0008】
しかしながら、近年、印刷媒体反転装置の小型化が進んでおり、スイッチバック経路が短くなっているため、印刷媒体の後端が印刷装置内に残った状態での搬送速度の加速が必要となる。
【0009】
印刷媒体が印刷装置の下流の搬送ローラにニップされた状態でスイッチバックローラ対の回転速度を加速した場合、印刷装置から排出された印刷媒体がスイッチバックローラ対によって引っ張られることとなり、搬送ローラと印刷媒体との間で紙粉が発生する。この紙粉は、たとえば印刷装置のインクジェットヘッドに付着したりして、好ましくない影響を及ぼす。また、印刷装置から排出された印刷媒体がスイッチバックローラ対によって引っ張られることにより、印刷装置の搬送ローラの故障の原因となる。特に、搬送ローラが、ワンウェイクラッチ付きの搬送ローラである場合には、構造上故障が生じやすい。
【0010】
上述した紙粉の発生や搬送ローラの故障を抑制するため、上述した加速開始位置をスイッチバック経路の範囲内において、できるだけ下流側に設定する方法が考えられる。
【0011】
しかしながら、搬送方向の長さが短い印刷媒体を搬送する場合、スイッチバックローラ対より、より下流側に加速開始位置を設定すると反転のための加速と高速搬送する搬送距離が十分にとれない。
【0012】
このような場合にまで、加速開始位置を下流側に配置したのでは、印刷媒体の搬送速度の加速が遅れてしまい、印刷媒体間の反転マージン時間が十分に確保できず、先行する印刷媒体と次の印刷媒体とが衝突する問題が発生するおそれがある。なお、反転マージン時間とは、スイッチバックローラ対によって先行して搬送される印刷媒体の後端が、上記スイッチバックローラ対の位置を通過した時点から次の印刷媒体の先端が上記スイッチバックローラ対の位置に到達するまでの時間である。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑み、紙粉の発生および印刷装置の搬送ローラの故障を抑制することができ、印刷媒体間の反転マージン時間も十分に確保することができる印刷媒体反転装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の印刷媒体反転装置は、搬送ローラ対によって搬送された印刷媒体を受け入れて、その受け入れた印刷媒体をスイッチバック搬送して下流側に受け渡すスイッチバック経路と、スイッチバック経路上に設けられ、回転方向を反転することによって印刷媒体をスイッチバックするスイッチバックローラ部と、スイッチバックローラ部の回転速度を制御する制御部とを備え、制御部が、受け入れた印刷媒体が所定の加速開始位置まで搬送された時点からスイッチバックローラ部の回転速度を加速し、かつ加速開始位置を印刷媒体の搬送方向の長さに応じて変更する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の印刷媒体反転装置によれば、受け入れた印刷媒体が所定の加速開始位置まで搬送された時点からスイッチバックローラ部の回転速度を加速し、かつ加速開始位置を印刷媒体の搬送方向の長さに応じて変更する。印刷媒体が長い場合には、加速開始位置を下流側に設定することによって、印刷装置の搬送ローラにニップされた状態での印刷媒体の搬送距離を短くすることができ、これにより紙粉の発生や印刷装置の搬送ローラの故障を抑制することができる。また、印刷媒体が短い場合には、加速開始位置を上流側に設定することによって、印刷媒体間の反転マージン時間も十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の印刷媒体反転装置の一実施形態を用いた印刷システムの概略構成を示す図
【
図2】
図1に示す印刷システムの制御系の概略構成を示すブロック図
【
図3】導入センサ、反転センサおよびスイッチバックセンサの検出タイミングと、導入ローラ対、反転進入ローラ対およびスイッチバックローラ対の搬送速度の時間変化とを示すタイミングチャート
【
図4】印刷媒体のサイズと加速開始位置とを対応付けたテーブルの一例を示す図
【
図5】印刷装置のインクジェットヘッドから印刷媒体反転装置のスイッチバックローラ対までの搬送経路を直線状に延ばした図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の印刷媒体反転装置の一実施形態を用いた印刷システムについて詳細に説明する。
図1は、本実施形態の印刷システム1の概略構成図である。
図2は、
図1に示す印刷システムの制御系の概略構成を示すブロック図である。
【0018】
本実施形態の印刷システム1は、
図1に示すように、印刷装置10と、印刷媒体反転装置20と、後処理装置30とを備えている。なお、本実施形態の印刷システム1は、印刷媒体反転装置20の構成に特徴があるため、印刷装置10と後処理装置30については、一部の構成のみを示している。
【0019】
本実施形態の印刷装置10は、インクジェット印刷装置であり、印刷媒体に対してインクを吐出して印刷処理を施す。印刷装置10は、CMYKおよびグレー色などの基本色のインクを用いて印刷媒体に印刷処理を施す。印刷装置10は、たとえば各色のインクを吐出するラインヘッド型インクジェットヘッドを有する。
図1では、各色のインクをそれぞれ吐出する複数のインクジェットヘッドのうち、最下流に配置されるインクジェットヘッド11のみを示し、インクジェットヘッド11よりも上流側の構成については、図示省略している。
【0020】
また、印刷装置10は、インクジェットヘッド11の下流側に、プラテンローラ12と、2組のワンウェイクラッチ付きの搬送ローラ対13,14とが設けられている。プラテンローラ12および搬送ローラ対13,14は、インクジェットヘッド11などによって印刷処理が施されて、プラテン上を搬送される印刷媒体をニップして、印刷媒体反転装置20に向けて搬送し、印刷媒体反転装置20に印刷媒体を受け渡すローラである。
【0021】
印刷装置10は、プラテンローラ12および搬送ローラ対13,14を回転駆動する搬送モータ15を備えている。
【0022】
なお、本実施形態においては、印刷装置10をインクジェット印刷装置としたが、これに限らず、上述したワンウェイクラッチ付きの搬送ローラ対13,14を有するレーザ印刷装置や孔版印刷装置としてもよい。
【0023】
印刷媒体反転装置20は、印刷装置10の搬送ローラ対13,14によって搬送された印刷処理済みの印刷媒体を受け入れ、その受け入れた印刷媒体を後処理装置30に受け渡す。印刷媒体反転装置20は、排紙搬送部21と、反転部22とを備える。
【0024】
ここで、
図1において太線で示す経路が、印刷媒体反転装置20において印刷媒体が搬送される搬送経路である。搬送経路のうち、実線で示す経路が排紙経路RD、破線で示す経路が反転進入経路RI、一点鎖線で示す経路が反転経路RS、二点鎖線で示す経路が反転出口経路ROである。本実施形態においては、反転進入経路RI、反転経路RSおよび反転出口経路ROが、本発明のスイッチバック経路に相当する。反転進入経路RI、反転経路RS、反転出口経路ROおよび排紙経路RD上には、種々のサイズの印刷媒体を搬送可能なように複数のガイド板が配置されている。
【0025】
排紙搬送部21は、印刷装置10から排出された印刷媒体を、そのまま反転することなく搬送して排紙する。
図1および
図2に示すように、排紙搬送部21は、導入ローラ対23と、導入モータ24と、フェイスアップローラ対25と、排紙モータ43と、上昇ローラ対26と、上昇モータ27と、排出ローラ対28と、排出モータ29とを備える。
【0026】
導入ローラ対23は、印刷装置10から排出された印刷媒体を、印刷媒体反転装置20内へと取り込む。導入ローラ対23は、排紙経路RDの最上流側に配置されている。排紙経路RDの上流端は、印刷装置10の搬送経路の下流端に接続されている。
【0027】
導入モータ24は、導入ローラ対23を回転駆動させる。排紙モータ43は、フェイスアップローラ対25を回転駆動させる。
【0028】
フェイスアップローラ対25は、導入ローラ対23により印刷装置10から取り込まれた印刷媒体を上昇ローラ対26に向けて搬送する。フェイスアップローラ対25は、排紙経路RDに沿って導入ローラ対23の下流側に配置されている。
【0029】
上昇ローラ対26は、フェイスアップローラ対25または後述の中間ローラ対36から搬送されてきた印刷媒体を、排出ローラ対28に向けて搬送する。上昇ローラ対26は、排紙経路RDと反転出口経路ROとの合流点の下流側近傍の排紙経路RD上に配置されている。
【0030】
上昇モータ27は、上昇ローラ対26を回転駆動させる。
【0031】
排出ローラ対28は、上昇ローラ対26から搬送されてきた印刷媒体を搬送し、後処理装置30に排出する。排出ローラ対28は、排紙経路RDの最下流部に配置されている。
【0032】
排出モータ29は、排出ローラ対28を回転駆動させる。
【0033】
反転部22は、印刷装置10から排出された印刷媒体を上下反転するためのスイッチバック搬送を行う。
図1および
図2に示すように、反転部22は、経路切替フリッパ31と、経路切替ソレノイド32と、反転進入ローラ対33と、反転進入モータ44と、スイッチバックローラ対34と、スイッチバックモータ35と、中間ローラ対36と、中間搬送モータ37と、導入センサ38と、反転センサ39と、スイッチバックセンサ40とを備える。
【0034】
経路切替フリッパ31は、印刷媒体の搬送経路を排紙経路RDと反転進入経路RIとの間で切り替える。経路切替フリッパ31は、排紙経路RDと反転進入経路RIとの分岐点に配置されている。
【0035】
経路切替ソレノイド32は、経路切替フリッパ31を駆動させる。
【0036】
反転進入ローラ対33は、経路切替フリッパ31により反転進入経路RIに導かれた印刷媒体をスイッチバックローラ対34に向けて搬送する。反転進入ローラ対33は、反転進入経路RI上であって、経路切替フリッパ31とスイッチバックローラ対34との間に配置されている。
【0037】
スイッチバックローラ対34は、反転進入経路RIから反転経路RSへ進入した印刷媒体をスイッチバック搬送して反転出口経路ROへ送り出す。スイッチバックローラ対34は、印刷媒体のスイッチバック搬送を行うため、正方向とその逆方向とに回転可能に構成されている。スイッチバックローラ対34は、反転進入経路RIと反転経路RSと反転出口経路ROの合流点近傍の反転経路RS上に配置されている。スイッチバックローラ対34は、本発明のスイッチバック部の構成の一例である。スイッチバック部としては、これに限らず、対向配置され、反転駆動可能な一対のベルト搬送部からなる構成としてもよい。
【0038】
スイッチバックモータ35は、スイッチバックローラ対34を正方向に回転駆動またはその逆方向に回転駆動させる。
【0039】
中間ローラ対36は、スイッチバックローラ対34によりスイッチバックされた印刷媒体を上昇ローラ対26に向けて搬送する。中間ローラ対36は、反転出口経路RO上であって、スイッチバックローラ対34と上昇ローラ対26との間に配置されている。
【0040】
反転進入モータ44は、反転進入ローラ対33を回転駆動させ、中間搬送モータ37は、中間ローラ対36を回転駆動させる。
【0041】
導入センサ38、反転センサ39およびスイッチバックセンサ40は、搬送される印刷媒体の先端を検出するセンサである。導入センサ38、反転センサ39およびスイッチバックセンサ40は、たとえば光学式センサから構成される。
【0042】
導入センサ38は、排紙経路RD上に設けられ、導入ローラ対23の下流側近傍に配置されている。また、反転センサ39は、反転進入経路RI上に設けられ、反転進入ローラ対33の下流側近傍に配置されている。また、スイッチバックセンサ40は、反転経路RS上に設けられ、スイッチバックローラ対34の下流側近傍に配置されている。
【0043】
後処理装置30は、印刷媒体反転装置20の下流側に配置され、印刷媒体反転装置20の排紙経路RDの下流端が、後処理装置30の搬送経路の上流端に接続されている。後処理装置30の搬送経路の最上流には、受け入れローラ41が配置されている。また、後処理装置30は、受け入れローラ41を回転駆動する受け入れローラ駆動モータ42を備えている。なお、
図1では、後処理装置30の受け入れローラ41のみを示し、受け入れローラ41よりも下流側の構成については、図示省略している。
【0044】
後処理装置30は、印刷媒体反転装置20から排出された印刷媒体を受け入れローラ41によって受け入れ、その受け入れた印刷媒体に対して後処理を施す。後処理としては、ステープル、パンチ、ソート、小冊子製本および封入封緘などがある。また、後処理装置30の代わりに、大容量排紙装置などの排紙装置を接続するようにしてもよい。
【0045】
制御部50は、印刷システム1全体の動作を制御する。制御部50は、CPU(Central Processing Unit)、半導体メモリおよびハードディスクなどから構成される。半導体メモリまたはハードディスクには、印刷媒体の搬送制御プログラムがインストールされており、搬送制御プログラムがCPUによって実行されることにより、印刷システム1における印刷媒体の搬送が制御される。
【0046】
特に、本実施形態の制御部50は、スイッチバックローラ対34の回転速度を制御する。
【0047】
ここで、本実施形態の印刷システム1においては、印刷媒体反転装置20によって印刷媒体の表裏を反転させて後処理装置30に排出する場合、印刷装置10から所定の搬送速度で順次搬送されてくる印刷媒体を衝突させることなく、後処理装置30に順次排出する必要があるため、印刷装置10の印刷媒体の搬送速度よりも速い搬送速度で印刷媒体を搬送する必要がある。
【0048】
したがって、制御部50は、印刷媒体反転装置20に受け入れられた印刷媒体が、所定の加速開始位置まで搬送された時点から導入ローラ対23、反転進入ローラ対33およびスイッチバックローラ対34の回転速度を加速し、搬送速度を上げる。
【0049】
導入ローラ対23、反転進入ローラ対33およびスイッチバックローラ対34の回転速度を加速するタイミングとしては、印刷媒体の後端が印刷装置10の搬送ローラ対14を抜けた後であることが好ましい。しかしながら、上述したように、印刷媒体反転装置20の小型化が進んでおり、スイッチバック経路は短くなっているため、印刷媒体の後端が印刷装置10内に残った状態での搬送速度の加速が必要となる場合がある。印刷媒体が、印刷装置10のワンウェイクラッチ付きの搬送ローラ対13,14にニップされた状態で導入ローラ対23、反転進入ローラ対33およびスイッチバックローラ対34の回転速度を加速した場合、上述したように搬送ローラ対13,14の故障の原因となったり、紙粉が発生しやすい問題がある。
【0050】
そこで、本実施形態の制御部50は、搬送ローラ対13,14の故障や紙粉の発生をできるだけ抑制するため、導入ローラ対23、反転進入ローラ対33およびスイッチバックローラ対34の回転速度を加速し始める上述した加速開始位置を、印刷媒体の搬送方向の長さに応じて変更する。
【0051】
具体的には、制御部50は、印刷媒体の搬送方向の長さが所定の閾値よりも長い場合には、印刷媒体の先端が、スイッチバックローラ対34の下流側近傍の加速開始位置に到達した時点から導入ローラ対23、反転進入ローラ対33およびスイッチバックローラ対34の回転速度を加速する。これにより、導入ローラ対23、反転進入ローラ対33およびスイッチバックローラ対34の回転速度の加速開始後に、印刷媒体が搬送ローラ対13,14にニップされた状態で搬送される距離を短くすることができるので、搬送ローラ対13,14の故障や紙粉の発生を抑制することができる。
【0052】
一方、印刷媒体の搬送方向の長さが所定の閾値よりも短い場合、導入ローラ対23、反転進入ローラ対33およびスイッチバックローラ対34による反転のための加速と高速搬送する搬送距離が十分にとれないため、このような場合にまで、上述した加速開始位置で導入ローラ対23、反転進入ローラ対33およびスイッチバックローラ対34の加速を開始したのでは、印刷媒体の搬送速度の加速が遅れてしまい、印刷媒体間の反転マージン時間が十分に確保できず、先行する印刷媒体と次の印刷媒体とが衝突する問題が発生するおそれがある。
【0053】
そこで、本実施形態の制御部50は、印刷媒体の搬送方向の長さが所定の閾値よりも短い場合、印刷媒体の先端が、スイッチバックローラ対34の上流側近傍の加速開始位置に到達した時点から導入ローラ対23、反転進入ローラ対33およびスイッチバックローラ対34の回転速度を加速する。これにより反転マージン時間を十分に確保することができ、印刷媒体の衝突を回避することができる。なお、加速開始位置については、後で詳述する。
【0054】
次に、印刷システム1の動作について説明する。なお、本実施形態の印刷システム1は、印刷媒体反転装置20の動作に特徴を有するため、印刷媒体反転装置20の動作を中心に説明する。
【0055】
印刷媒体反転装置20の搬送動作は、印刷装置10での印刷動作に応じて行われる。制御部50は、印刷装置10から排出された印刷媒体の表裏の向きをそのままにして排紙するか、印刷媒体の表裏を反転させて排紙するかの指示を印刷装置10から受け取る。
【0056】
印刷媒体を表裏反転させて排紙する場合、制御部50は、導入モータ24、上昇モータ27、排出モータ29、スイッチバックモータ35、中間搬送モータ37および反転進入モータ44を駆動開始させる。これにより、導入ローラ対23、上昇ローラ対26、排出ローラ対28、スイッチバックローラ対34、中間ローラ対36および反転進入ローラ対33の駆動が開始される。
【0057】
また、制御部50は、経路切替ソレノイド32により、印刷媒体を反転進入経路RIへ導く方向に経路切替フリッパ31を設定する。
【0058】
図3は、印刷媒体を表裏反転させて排紙する場合における導入センサ38、反転センサ39およびスイッチバックセンサ40の印刷媒体の検出タイミングと、導入ローラ対23、反転進入ローラ対33およびスイッチバックローラ対34の搬送速度の時間変化とを示すタイミングチャートである。
【0059】
まず、導入ローラ対23、反転進入ローラ対33およびスイッチバックローラ対34が回転を開始し、印刷装置10の印刷媒体の搬送速度と同じ搬送速度V1で印刷媒体を搬送する。
【0060】
そして、印刷装置10から印刷媒体が排紙経路RDに進入すると、印刷媒体は、導入ローラ対23により搬送されつつ、経路切替フリッパ31により反転進入経路RIへ導かれる。この際、時刻t1のタイミングで導入センサ38による印刷媒体の検出が開始される。
【0061】
その後、印刷媒体は、導入ローラ対23および反転進入ローラ対33によって搬送され、反転センサ39によって印刷媒体の先端が検出される。
【0062】
そして、制御部50は、印刷媒体の先端が反転センサ39によって検出された時刻t2からの経過時間(印刷媒体の搬送距離)Tを計測し、印刷媒体の先端が予め設定された加速開始位置1に到達した時刻t3から導入ローラ対23、反転進入ローラ対33およびスイッチバックローラ対34の回転速度の加速を開始し、印刷媒体の搬送速度をV2まで上げる。
【0063】
ここで、本実施形態の制御部50は、上述したように印刷媒体の搬送速度の加速開始位置を印刷媒体の搬送方向の長さに応じて変更する。制御部50には、
図4に示すような印刷媒体のサイズと加速開始位置とを対応付けたテーブルが予め設定されている。制御部50は、印刷媒体のサイズを取得し、
図4に示すテーブルを参照することによって加速開始位置を決定する。なお、印刷媒体のサイズについては、印刷ジョブから取得してもよいし、ユーザが操作パネル上(図示省略)において設定入力するようにしてもよい。
【0064】
具体的には、本実施形態では、2つの加速開始位置1および加速開始位置2が設定されている。制御部50は、印刷媒体のサイズ(搬送方向の長さ)が、B4縦(364mm)以下である場合には、印刷媒体の先端が加速開始位置1に到達した時点から、導入ローラ対23、反転進入ローラ対33およびスイッチバックローラ対34の回転速度の加速を開始する。
【0065】
一方、制御部50は、印刷媒体のサイズ(搬送方向の長さ)が、A3縦(420mm)以上である場合には、印刷媒体の先端が加速開始位置2に到達した時点から、導入ローラ対23、反転進入ローラ対33およびスイッチバックローラ対34の回転速度の加速を開始する。なお、
図4に示すテーブルでは、一部の印刷媒体のサイズしか示していないが、その他のサイズの印刷媒体についても、その搬送方向の長さによって加速開始位置1か加速開始位置2が設定される。
【0066】
また、
図4では、各サイズの印刷媒体に対して加速開始位置1または加速開始位置2を設定した場合に確保される反転マージン時間を示している。本実施形態では、反転マージン時間を60ms以上確保できるように、加速開始位置1に対応する印刷媒体のサイズの範囲と加速開始位置2に対応する印刷媒体のサイズの範囲とを設定している。このように反転マージン時間が、予め設定された閾値以上となるように加速開始位置を変更することによって、先行する印刷媒体と次の印刷媒体の衝突を確実に回避することができる。
【0067】
また、
図5Aおよび
図5Bは、印刷装置10のインクジェットヘッド11から印刷媒体反転装置20のスイッチバックローラ対34までの印刷媒体の搬送経路を直線状に延ばした図である。
図5Aは、B4縦の印刷媒体の先端が、加速開始位置1に到達した状態を示しており、
図5Bは、Ledger縦の印刷媒体の先端が、加速開始位置2に到達した状態を示している。
【0068】
なお、
図3のタイミングチャートは、加速開始位置1から加速を開始する場合であるが、加速開始位置2から加速する場合には、
図5Aに示す加速開始位置1と
図5Bに示す加速開始位置2との間の距離に応じた搬送時間だけ、時刻t3よりも遅い時刻t3’から導入ローラ対23、反転進入ローラ対33およびスイッチバックローラ対34の回転速度の加速が開始される。
【0069】
図3に戻り、印刷媒体は、導入ローラ対23、反転進入ローラ対33およびスイッチバックローラ対34によって搬送速度V2によって搬送され、制御部50は、印刷媒体の後端が導入センサ38を抜けた時刻t5から導入ローラ対23の回転速度を減速し、搬送速度をV1に戻す。
【0070】
次いで、制御部50は、印刷媒体の後端が反転センサ39を抜けた時刻t6から反転進入ローラ対33の回転速度を減速し、搬送速度をV1に戻す。
【0071】
その後、制御部50は、印刷媒体の先端がスイッチバックセンサ40によって検出された時刻t4からの経過時間(印刷媒体の搬送距離)を計測し、予め設定された経過時間になった時刻t7からスイッチバックローラ対34の回転を減速して、印刷媒体の後端部をニップした状態で停止させる。
【0072】
次いで、制御部50は、時刻t8からスイッチバックモータ35の逆転駆動を開始させる。これにより、スイッチバックローラ対34が逆方向の回転を開始し、印刷媒体は中間ローラ対36へと搬送される。逆転駆動開始後のスイッチバックローラ対34、中間ローラ対36による搬送速度は、反転速度V3とする。
【0073】
スイッチバックされた印刷媒体は、中間ローラ対36、上昇ローラ対26、排出ローラ対28により搬送され、後処理装置30へと排出される。
【0074】
一方、印刷装置10から排出された印刷媒体の表裏の向きをそのままにして排紙する場合、制御部50は、導入モータ24、排紙モータ43、上昇モータ27および排出モータ29を駆動開始させる。これにより、導入ローラ対23、フェイスアップローラ対25、上昇ローラ対26および排出ローラ対28の駆動が開始される。
【0075】
また、制御部50は、経路切替ソレノイド32により、印刷媒体を導入ローラ対23からフェイスアップローラ対25へ導く方向に経路切替フリッパ31を設定する。
【0076】
印刷装置10から印刷媒体が排紙経路RDに進入すると、印刷媒体は、導入ローラ対23により搬送されつつ、経路切替フリッパ31によりフェイスアップローラ対25へ導かれる。そして、印刷媒体は、フェイスアップローラ対25、上昇ローラ対26および排出ローラ対28により搬送され、後処理装置30に向けて排出される。
【0077】
なお、上記実施形態の印刷システム1においては、
図4に示すテーブルのように2つの加速開始位置1および加速開始位置2を設定するようにしたが、これに限らず、印刷媒体のサイズを3以上に分類し、3以上の加速開始位置を設定するようにしてもよい。
【0078】
また、上記実施形態の印刷システム1においては、
図4に示すテーブルにしたがって加速開始位置を設定するようにしたが、たとえば印刷媒体反転装置20に接続される印刷装置10の種類が変わった場合には、印刷装置10の印刷媒体の排出口からワンウェイクラッチ付きの搬送ローラ対13,14までの距離が変わる場合がある。
【0079】
その場合、印刷装置10の搬送ローラ対13,14から加速開始位置1または加速開始位置2までの距離(
図5A、
図5B参照)が変わるため、加速開始位置1に対応する印刷媒体のサイズの範囲と加速開始位置2に対応する印刷媒体のサイズの範囲とを変更することが好ましい。
【0080】
たとえば搬送ローラ対13,14が、
図5Aおよび
図5Bに示す位置よりも上流側(印刷装置10の印刷媒体の排出口からより離れた位置)に配置されている場合には、加速開始位置1に対応する印刷媒体のサイズをA3縦まで含めるようにしてもよい。
【0081】
逆に、たとえば搬送ローラ対13,14が、
図5Aおよび
図5Bに示す位置よりも下流側(印刷装置10の印刷媒体の排出口により近い位置)に配置されている場合には、加速開始位置2に対応する印刷媒体のサイズをB4縦まで含めるようにしてもよい。これにより、搬送ローラ対の態様が異なる種々の印刷装置10に対して、より適切な加速開始位置を設定することができる。
【0082】
また、印刷媒体の種類としては、紙粉が発生しやすいものと、紙粉が発生しにくいものとがある。そして、紙粉が発生しやすい印刷媒体については、スイッチバックローラ対34の回転速度を加速した後、その後端が印刷装置10の搬送ローラ対13,14から早く抜けることが好ましい。
【0083】
そこで、たとえば制御部50が、印刷媒体の種類に応じて、上述した加速開始位置を変更するようにしてもよい。たとえば印刷媒体の種類が、紙粉を発生しやすいものである場合には、上述した加速開始位置2に設定し、紙粉が発生しにくいものである場合には、上述した加速開始位置1に設定するようにしてもよい。具体的には、たとえば制御部50に、印刷媒体の種類と加速開始位置とを対応付けたテーブルを設定するようにすればよい。印刷媒体の種類については、制御部50が、印刷ジョブから取得するようにしてもよいし、図示省略した操作パネル上においてユーザが設定入力するようにしてもよい。これにより、印刷媒体の種類に応じて適切な加速開始位置を設定することができる。
【0084】
本発明の印刷媒体反転装置に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記)
【0085】
本発明の印刷媒体反転装置において、制御部は、印刷媒体間の反転マージン時間が予め設定された閾値以上となるように加速開始位置を変更することができる。
【0086】
また、本発明の印刷媒体反転装置において、制御部は、印刷装置の搬送ローラ対の態様に応じて、印刷媒体の搬送方向に長さに対する加速開始位置を変更することができる。
【0087】
また、本発明の印刷媒体反転装置において、制御部は、印刷媒体の種類に応じて、印刷媒体の搬送方向長さに対する加速開始位置を変更することができる。
【0088】
また、本発明の印刷媒体反転装置において、加速開始位置を、印刷媒体の搬送方向の長さが所定長さより長い場合には、当該印刷媒体が前記所定長さより短い場合に比べてスイッチバック経路の下流側となるように制御することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 印刷システム
10 印刷装置
11 インクジェットヘッド
12 プラテンローラ
13,14 搬送ローラ対
15 搬送モータ
20 印刷媒体反転装置
21 排紙搬送部
22 反転部
23 導入ローラ対
24 導入モータ
25 フェイスアップローラ対
26 上昇ローラ対
27 上昇モータ
28 排出ローラ対
29 排出モータ
30 後処理装置
31 経路切替フリッパ
32 経路切替ソレノイド
33 反転進入ローラ対
34 スイッチバックローラ対
35 スイッチバックモータ
36 中間ローラ対
37 中間搬送モータ
38 導入センサ
39 反転センサ
40 スイッチバックセンサ
41 受け入れローラ
42 受け入れローラ駆動モータ
43 排紙モータ
44 反転進入モータ
50 制御部
RD 排紙経路
RI 反転進入経路
RO 反転出口経路
RS 反転経路