IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日揮触媒化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-シリカ粒子分散液及びその製造方法 図1
  • 特許-シリカ粒子分散液及びその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】シリカ粒子分散液及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/141 20060101AFI20230920BHJP
   C01B 33/148 20060101ALI20230920BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20230920BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20230920BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
C01B33/141
C01B33/148
C09G1/02
C09K3/14 550D
H01L21/304 622D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019180613
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021054683
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】江上 美紀
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 光章
(72)【発明者】
【氏名】村口 良
(72)【発明者】
【氏名】小松 通郎
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-089692(JP,A)
【文献】特表2017-524767(JP,A)
【文献】特開2000-233377(JP,A)
【文献】特開2016-084371(JP,A)
【文献】特開2009-143741(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131874(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/141
C01B 33/148
C09G 1/02
C09K 3/14
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)~(v)の要件を満たすシリカ粒子を含有することを特徴とするシリカ粒子分散液。
(i)平均粒子径dが5~300nmである
(ii)アンモニアを吸蔵する細孔を有し、粒子1g当たりのアンモニア吸蔵量が2mg以上である
(iii)Sears数Yが12.0を超える
(iv)密度ρが1.00g/cm 以下である
(v)粒子径変動係数が10%以下である
【請求項2】
前記要件(iii)のSears数Yが12.0超え20.0以下であることを特徴とする請求項1記載のシリカ粒子分散液。
【請求項3】
前記シリカ粒子は、粒子表面と粒子内部の細孔が連通する構造を有していることを特徴とする請求項1又は2記載のシリカ粒子分散液。
【請求項4】
研磨用であることを特徴とする請求項1~のいずれか記載のシリカ粒子分散液。
【請求項5】
水、有機溶媒及びアンモニアの存在下、アルコキシシランを加水分解及び重縮合させて、平均粒子径dが5~300nmのシリカ粒子を含む分散液を調製する分散液調製工程と、
前記シリカ粒子分散液中の有機溶媒を水に置換する水置換工程と、
前記水置換したシリカ粒子分散液を、前記シリカ粒子のSears数Yが12.0以下とならないように、常圧下pH7以上で加熱する粒子表面調整工程と、
前記粒子表面調整工程で得られた分散液をpH7未満で濃縮する濃縮工程と、
を有することを特徴とするシリカ粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
前記分散液調製工程において、Sears数Yが40以上のシリカ粒子を調製することを特徴とする請求項記載のシリカ粒子分散液の製造方法。
【請求項7】
前記粒子表面調整工程において、Sears数Yを12.0超え20.0以下に調整することを特徴とする請求項5又は6記載のシリカ粒子分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路の金属配線層の基板や、シリコン基板等の研磨に有用なシリカ粒子分散液、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、研磨用シリカ粒子を含む分散液を得る場合、粒子の物理的研磨性能(機械的研磨性能)の向上を図るべく、粒子の緻密化を進めて粒子全体を硬度化することが行われている(例えば、特許文献1~5参照)。
【0003】
しかし、この場合、同時に、良好な研磨面の形成(表面の平滑性の向上及びディフェクトの低減)を形成することは困難であった。従って、このトレードオフの関係にある両者の目的をいかに両立するかが長年の課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2008/123373号
【文献】WO2010/035613号
【文献】特開2011-201719号公報
【文献】特開2012-211080号公報
【文献】特開2013-082584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、所定の研磨速度を保持しつつ、研磨基板の表面平滑性(面質)を向上させてディフェクトを低減できるシリカ粒子分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のように、研磨速度の向上を図るには、粒子の物理的研磨性能の向上を図ることが有効であると考えられていた。
【0007】
一方、シリカ基板等の研磨においては、上記のような粒子の硬度化による物理的研磨作用と共に、研磨用組成物中に配合された塩基性物質のエッチングによる化学的研磨作用も寄与している。しかし、研磨用組成物(研磨液)に塩基性物質を多量に配合すると、基板全体のエッチングが進んでオーバーエッチングとなり、研磨面のうねりの原因となっていた。そこで、塩基性物質の配合量は必然的に限られたものとなり、化学的研磨作用による研磨効果は限定的なものとなっていた。
【0008】
本発明者らは、高い研磨速度を実現するには、粒子の物理的研磨作用が有効であるという一般的概念を離れ、従来限定的であった化学的研磨による研磨能力の向上に着目した。その結果、塩基性物質を十分に保持すると共に、研磨時にこの塩基性物質を粒子外に効果的に吐出する粒子構造とすることが有効であることを見出した。すなわち、このような粒子構造とすることにより、研磨時に研磨粒子から研磨部分に直接高濃度の塩基性物質が付与され化学的研磨作用の向上が図られる。しかも、このシリカ粒子は、粒子自体が比較的柔らかく、また、粒子と接触する研磨部分以外の不要なエッチングが抑制されることから、良好な研磨面の形成(表面の平滑性の向上及びディフェクトの低減)も同時に実現できる。
【0009】
更に、表面に所定のOH基(シラノール基)を有するシリカ粒子は、水溶性高分子との相互作用の適正化を図ることで、シリカ粒子を凝集体にできる。この凝集体は、シリカ粒子より適度に大きいため、高い研磨速度が実現できる。その一方で、この凝集体における粒子の結合力は比較的弱いため、研磨時に凝集体に強い力が働いた場合には容易に崩壊ことから、研磨基板における平滑性を担保し、ディフェクトの発生を抑制できる。
【0010】
すなわち、本発明は、シリカ粒子分散液に関する。この分散液に含まれるシリカ粒子は、下記(i)~(iii)の要件を満たす。
(i)平均粒子径dが5~300nmである
(ii)粒子1g当たりの塩基性物質吸蔵量が2mg以上である
(iii)Sears数Yが12.0を超える
【0011】
また、本発明は、シリカ粒子の分散液の製造方法に関する。この製造方法は、水、有機溶媒及びアルカリ触媒の存在下、アルコキシシランを加水分解及び重縮合させて、平均粒子径dが5~300nmのシリカ粒子を含む分散液を調製する分散液調製工程と、このシリカ粒子分散液中の有機溶媒を水に置換する水置換工程と、この水置換したシリカ粒子分散液を、シリカ粒子のSears数Yが12.0以下とならないように、常圧下pH7以上で加熱する粒子表面調整工程と、この粒子表面調整工程で得られた分散液をpH7未満で濃縮する濃縮工程とを備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシリカ粒子分散液は、所定の研磨速度を保持しつつ、良好な研磨面の形成(表面の平滑性の向上及びディフェクトの低減)を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明における平均粒子径dの算出方法を説明する図である。黒塗り部は粒子間の接合部のイメージであり、接合部は空間を含んでいてもよい。
図2】分散液調製工程における粒子の成長曲線を示す図である。図の一番左側の曲線がa’=29であり、最も右側の曲線がa’=9である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[シリカ粒子分散液]
本発明のシリカ粒子分散液は、これに含まれるシリカ粒子が、下記(i)~(iii)の要件を満たす。
【0015】
(i)平均粒子径dが5~300nmである
(ii)粒子1g当たりの塩基性物質吸蔵量が2mg以上である
(iii)Sears数Yが12.0を超える
【0016】
シリカ粒子は、平均粒子径dが、5~300nmである。この平均粒子径dは、シリカ粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、任意の100個の粒子について、図1に例示するように、各粒子の一次粒子径の最長径を測定し、その最長径を平均したものである。
【0017】
シリカ粒子の平均粒子径dが5nm未満だと、分散液の安定性が不十分となる。また、一次粒子径が小さすぎるため、研磨用組成物として十分な研磨速度が得られない。逆に、平均粒子径dが300nmを超えると、研磨基板にスクラッチが発生し、所望の平滑性が得られない。この平均粒子径dは、5~100nmが好ましく、10~80nmがより好ましく、20~60nmが更に好ましく、25~55nmが特に好ましく、30~50nmが最も好ましい。
【0018】
シリカ粒子は、塩基性物質を吸蔵する細孔を有している。すなわち、粒子表面と粒子内部の細孔が連通する構造を有している。このシリカ粒子は、粒子1g当たりの塩基性物質飽和吸蔵量が、2mg以上であり、2.5mg以上であることが好ましい。その上限は、特に制限はないが、例えば5.0mgである。粒子1g当たりの塩基性物質飽和吸蔵量が5.0mgを超える粒子は、柔らかすぎて研磨粒子として不適な場合がある。
【0019】
このようにシリカ粒子が塩基性物質を吸蔵する細孔(粒子1g当たりの塩基性物質飽和吸蔵量が、2mg以上)を備えることにより、研磨時に、吸蔵した塩基性物質が粒子外に吐出される。これにより、研磨部分に直接高濃度の塩基性物質が直接付与され、化学的研磨が効果的に促進される。粒子表面に存在する塩基性化合物が化学的研磨に大きく寄与するが、粒子内部に保持された塩基性物質も、基板と研磨パッド間の押圧力によるポンピング作用により押し出され、化学的研磨に寄与する。しかも、このシリカ粒子は、多数の細孔を有しており比較的柔らかく、また、研磨用組成物への塩基性物質の必要以上の配合を抑えて研磨部分以外の不要なエッチングが抑制されることから、良好な研磨面の形成(表面の平滑性の向上及びディフェクトの低減)も同時に実現できる。
【0020】
このシリカ粒子1g当たりの塩基性物質吸蔵量は、シリカ濃度9質量%、pH9の状態(平衡状態)の分散液における吸蔵量をいい、具体的には、以下のようにして求める。なお、塩基性物質を多量に添加するとシリカ粒子が溶解して測定が困難であるため、本発明ではこのような測定法を用いる。
【0021】
シリカ粒子水分散液(シリカ濃度20質量%、pH6~8)に、水とアンモニア水を添加して、シリカ濃度9質量%、pH9のスラリーを調整する。アンモニア添加後、pHが安定するまで時間が掛かるので、1日かけて調整する。スラリー中のシリカ粒子を遠心分離して、スラリー(遠心処理前)と、上澄みのアンモニア量を定量する。この差分を粒子吸着分とする。
【0022】
塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、アミン、アルカリ金属水素化物、アルカリ土類金属水素化物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、第4級アンモニウム化合物、アミン系カップリング剤等が挙げられる。中でも、アンモニアは、基板の平滑性等の研磨性能が向上し、研磨において洗浄されやすく、基板に残りにくいので好適である。これら塩基性化合物は、単独あるいは組み合わせて使用できる。
【0023】
シリカ粒子のSears数Yは、12.0を超える値である。ここで、Sears数とは、シリカ粒子のOH基(シラノール基)の量を示す指標である。Sears数Yが12.0を超えると、粒子に存在するOH基量が多く、粒子表面により多くの塩基性物質を吸着することができ、化学的研磨性能を向上させることができる。また、このシリカ粒子表面のOH基と、研磨用組成物に配合される水溶性高分子との相互作用の適正化を図ることで、シリカ粒子を研磨に適した凝集体にできる。この凝集体は、シリカ粒子より適度に大きいため、高い研磨速度が実現できる。その一方で、この凝集体における粒子の結合力は比較的弱いため、研磨時に凝集体に強い力が働いた場合には容易に崩壊する。このため、研磨基板における平滑性を担保し、ディフェクトの発生を抑制できる。
【0024】
ここで、シリカ粒子のSears数Yは、12.0超え20.0以下が好ましく、12.0超え18.0以下がより好ましく、12.0超え16.0以下が更に好ましい。このようなSears数Yの範囲であると、研磨速度をより向上できる。すなわち、このような粒子は、ある程度の硬度を有しており、物理的研磨性能を担保できると共に、表面により多くの塩基性物質を担持しており、より高い化学的研磨性能を担保できる。なお、Sears数Yが20を超える本発明のシリカ粒子は、比較的柔らかい粒子となり、研磨速度よりも良好な研磨面の形成に有利に働くことから、仕上げ研磨用として有用である。
【0025】
Sears数Yは、SearsによるAnalytical Chemistry 28(1956), 12, 1981-1983.の記載に沿って、水酸化ナトリウムの滴定によって測定する。本測定法により、粒子表面(細孔外)のOH基量が測定される。
具体的には、シリカ粒子濃度が1質量%になるように、純水で希釈したもの150gに対し、30gの塩化ナトリウムを加え、塩酸でpHを4.0に調整した後、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を0.1ml/sで滴定し、pH9.0までに要した量で表される。
【0026】
すなわち、Sears数Yは、シリカ1.5gに対して必要な0.1NのNaOH水溶液の滴定量である。このSears数Yは、研磨用組成物に含まれるシリカ粒子全体の挙動を考慮したものといえる。
【0027】
また、シリカ粒子は、密度ρが、1.00g/cm以下であることが好ましい。1.00g/cm以下であることにより、粒子内部に十分な細孔が形成され、粒子に所望の塩基性化合物を保持することができる。密度ρは、0.6g/cm以下がより好ましい。その下限は、研磨効果(粒子の強度)を考慮して、0.1g/cm程度が好ましい。
【0028】
ここで、密度ρは、電子顕微鏡写真より求めた平均粒子径dから算出した体積と、Sears数Yに基づく比表面積SAより算出したものである。
Sears数Yに基づく比表面積SAは、SearsによるAnalytical Chemistry 28(1956), 12, 1981-1983.の記載に沿って、下記の式1により算出する。
【0029】
SA=32*(Sears数)-25 [式1]
【0030】
また、シリカ粒子の真球度は、0.80~1.00が好ましい。シリカ粒子の形状が、真球もしくは、より真球に近いほど、研磨面の平滑性が向上し、ディフェクトの発生が抑制できる。このため、真球度は0.90~1.00がより好ましく、1.00が特に好ましい。
【0031】
シリカ粒子の真球度は、電子顕微鏡写真を撮影し、任意の100個の粒子について、それぞれその最大径(D)と、これと直交する短径(D)との比(D/D)の平均値を求め、これを真球度とする。なお、シリカ粒子の真球度は、連結していない粒子から算出する。
【0032】
シリカ粒子の粒子径変動係数(CV値)は、10%以下が好ましい。CV値が10%を超えると、研磨基板にスクラッチが発生し、所望の平滑性が得られない場合がある。研磨組成物のシリカ粒子は、粒子径が揃っている方が研磨面の平滑性の向上及びディフェクト発生の抑制が図れる。このため、CV値は、8%以下が好ましく、6%以下がより好ましい。
【0033】
本発明に係る分散液は、シリカ粒子が2個以上連結した連結粒子を含んでいてもよい。特に2個のシリカ粒子が連結した粒子は、研磨基板表面への影響が小さく、研磨速度の向上が望めることから、全シリカ粒子個数の10%以上含むことが好ましい。このような2個の連結粒子は、研磨時に凝集体が崩壊した際に、連結粒子が研磨基板と接するように横向きになりやすい。そのため、研磨基板にディフェクトが発生しにくく、研磨基板との接触面積が大きくなることで研磨速度が向上する。この2個の連結粒子の含有割合は、20%以上がより好ましい。
【0034】
連結粒子の含有割合は、シリカ粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、任意の100個の粒子について、連結の有無を確認し、連結していないもの、2個連結したもの、3個以上連結したものに分け、各粒子の個数をカウントし、全粒子数に対する割合を算出する。
【0035】
また、シリカ粒子は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Fe、Ti、Zn、Pd、Ag、Mn、Co、Mo、Sn、Al、Zrの各々の含有量が0.1ppm未満、Cu、Ni、Crの各々の含有量が1ppb未満、U、Thの各々の含有量が0.3ppb未満であることが好ましい。これらの金属元素は、不純分であり、分散液中にも含まれないことが好ましい。これらの元素を上述の量より多く含む分散液を用いた研磨材では、基板に元素が残存する場合がある。その場合、金属配線のインピーダンスの増加、応答速度の遅れ、消費電力の増大等が起きることがある。また、この元素イオンが移動(拡散)し、過酷な使用条件下や長期にわたる使用の場合に、上述のような不具合を生じることがある。特に、U、Thは放射線を発生するため、微量でも残存すると半導体の誤作動を引き起こす。なお、アルカリ金属とは、Li、Na、K、Rb、Cs、Frを表す。アルカリ土類金属とは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Raを表す。
【0036】
分散液中のシリカ粒子濃度は、例えば12質量%以上であり、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。シリカ粒子濃度の上限は特に制限されないが、例えば40質量%である。
【0037】
分散液中に存在するシリカ粒子以外の「珪素を含む化合物」(未反応物)の量は、200ppm以下が好ましい。この「珪素を含む化合物」の量が少ない程、基板への付着物を抑制できる。また、研磨材に添加される各種薬品の吸着や、各種薬品との反応が抑制されるため、各種薬品の効果が発揮できる。
【0038】
なお、「珪素を含む化合物」には、製造目的とするシリカ粒子まで反応が進んでいないものが含まれる。例えば、未反応の原料アルコキシシランやその低分子加水分解物(オリゴマー、ミクロゲル)等が挙げられる。
【0039】
[研磨用組成物(研磨材)]
上記本発明のシリカ粒子分散液は、水溶性高分子等の他の成分を追加して、又は分散液中のシリカ粒子を用いて適宜調製して、研磨用組成物として用いることができる。研磨用組成物は、シリカ粒子及び水溶性高分子の他に、塩基性化合物、pH調整剤、界面活性剤、キレート剤等の他の添加剤を含んでいてもよい。
【0040】
シリカ粒子は、研磨用組成物中で、水溶性高分子と相互作用して、研磨作用を向上させる。本発明で用いるシリカ粒子は、Sears数Yが高く、水溶性高分子との相互作用が大きいことから、水溶性高分子の量は従来の量より少量であることが好ましい。
【0041】
水溶性高分子の配合量は、水溶性高分子化合物の種類により最適な範囲は異なるが、研磨用組成物の全量に対して0.0005~5質量%が好ましい。また、シリカ粒子に対して0.005~40質量%が好ましい。水溶性高分子の配合量がこの範囲であると、研磨パット内での研磨用組成物の交換がよりスムーズに行われ、高い研磨速度と良好な研磨面形成の実現が容易となる。また、シリカ粒子のOH基との適度な相互作用により、適度な凝集体を形成できる。この水溶性高分子の配合量は、研磨用組成物の全量に対して0.0005~2質量%がより好ましい。また、シリカ粒子に対して0.05~10質量%がより好ましい。
【0042】
水溶性高分子としては、水溶性セルロース、水溶性ビニルポリマー、多価アルコール高分子等が挙げられる。具体的に、水溶性セルロースは、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース等が例示される。また、水溶性ビニルポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー等が例示される。これらの中でも、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドンが好ましい。多価アルコール高分子は、ポリビニルアルコール、ポリ(2-プロペノール)、ポリ(エチレン-1,2-ジオール)、ポリ(プロピレン-1,2-ジオール)、ポリ(プロピレン-1,3-ジオール)、ポリ(ブタジエン-1,4-ジオール)、ポリ(ブタジエン-1,3-ジオール)、ポリ(ブタジエン-2,3-ジオール)等が例示される。これらは、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
研磨用組成物におけるシリカ粒子の濃度は、0.1~50質量%が好ましい。シリカ粒子の濃度が0.1質量%未満だと、基材や絶縁膜の種類によっては研磨速度が遅くなることがある。逆に、シリカ粒子の濃度が50質量%を超えると、研磨用組成物の安定性が不十分となり、研磨速度や研磨効率が更に向上することもない。また、研磨処理のために研磨用組成物を供給する工程で乾燥物が生成して付着することがあり、スクラッチ発生の原因となることがある。シリカ粒子濃度は、0.2~30質量%がより好ましい。
【0044】
[シリカ粒子分散液の製造方法]
本発明のシリカ粒子分散液の製造方法を説明する。
【0045】
まず、水、有機溶媒及びアルカリ触媒の存在下、アルコキシシランを加水分解及び重縮合させて所定サイズのシリカ粒子を含有する分散液を調製する(シリカ粒子分散液調製工程)。続いて、このシリカ粒子分散液中の有機溶媒を水に置換する(水置換工程)。更に、この水置換したシリカ粒子分散液を、シリカ粒子のSears数Yが12.0以下とならないように、常圧下pH7以上で加熱する(粒子表面調整工程)。その後、この粒子表面調整工程で得られた分散液をpH7未満で濃縮する(濃縮工程)。
【0046】
このような製造方法によれば、塩基性物質を吸蔵でき、かつ所望量のOH基を含有するシリカ粒子を高濃度で含む分散液を容易に製造できる。すなわち、上述の要件(i)~(iii)を満たすシリカ粒子を含有する分散液を製造することができる。また、本製造方法は、他の工程を有していてもよい。特に断りがない限り、pHは25℃に換算した時の値である。
【0047】
以下に、各工程を詳細に説明する。
[分散液調製工程]
ここでは、原料のアルコキシシランを、水、有機溶媒及びアルカリ触媒の存在下で、加水分解及び重縮合してシリカ粒子を形成させ、平均粒子径dが5~300nmのシリカ粒子を含む分散液を調製する。
【0048】
アルコキシシランは、下記[式2]で表されるアルコキシシランの1種類でも2種類以上でもよい。
【0049】
Si(OR)4-n ・・・[式2]
ここで、Xは水素原子、フッ素原子、炭素数1~8のアルキル基、アリール基またはビニル基を示し、Rは水素原子、炭素数1~8のアルキル基、アリール基またはビニル基を示し、nは0~3の整数である。
【0050】
上記式[2]で表されるアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラオクトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、ジフルオロジメトキシシラン、ジフルオロジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルイソプロポキシシラン、トリメチルブトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0051】
ここで、アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン(TMOS)やテトラエトキシシラン(TEOS)等のアルキル鎖が短いものが好ましい。これらは、加水分解速度が速く、三次元的に成長するため、密度の低い粒子が得られやすい。
【0052】
アルコキシシランの加水分解によりシリカ粒子の分散液を調製する方法として、次の2つの方法を例示できる。
(方法I)水、有機溶媒及び触媒を含む容器内の液に対して、アルコキシシラン及び有機溶媒の混合溶液を添加する方法。
(方法II)実質的に有機溶媒からなる容器内の液に対して、アルコキシシランを含有する液Aと、触媒及び水を含有する液Bとを添加する方法。
【0053】
ここで、方法IIにおける液Aは、有機溶媒を含んでいてもよい。また、「実質的に有機溶媒からなる」とは、有機溶媒の製造過程から不可避的に含まれる不純物等は含まれ得るが、それ以外は含まないことを意味する。例えば、有機溶媒が99質量%以上であり、好ましくは99.5質量%以上である。
【0054】
アルコキシシランの加水分解は、通常、常圧下で、使用する溶媒の沸点以下の温度で行われる。なお、両方法とも、容器内の液中に予め準備したシード粒子を加えておく、いわゆるシード法を採用することもできる。
【0055】
本発明においては、最終的に、塩基性物質を多く吸蔵することができる粒子を得るため、分散液調製工程において、密度の低い粒子を調製することが好ましい。そのためには、粒子の調製を低温で短時間に行う(粒子を急速に成長させる)ことが好ましい。これにより、十分な塩基性物質を吸蔵する細孔を備えると共に、Sears数の大きな多孔質粒子を得ることができる。
【0056】
具体的には、例えば、反応温度は、20℃未満が好ましく、18℃以下がより好ましい。また、粒子の成長に関わる時間は、60分以内が好ましく、30分以内がより好ましい。
【0057】
また、本工程においては、塩基性物質を多く吸蔵することができる粒子を得るため、粒子の成長速度を考慮して粒子を調製することが好ましい。
(粒子の成長速度)
分散液調製工程の条件を最適化すると、途中で新たな核粒子が発生することを抑制でき、初期に発生した粒子を核として、その粒子の表面上のみで成長が進むため、アルコキシシランの添加量と得られる粒子の体積は比例する。
よって、アルコキシシランの添加量と平均粒子径dの関係は、下記のようになる。なお、aは粒子成長曲線の係数である。
平均粒子径d=a*(アルコキシシラン添加量)1/3・・・[式3]
【0058】
粒子成長期中のアルコキシシランの添加速度が一定の場合、(アルコキシシラン添加量)は、(添加時間)と置き換えることができ、下記のように表現できる。なお、a’は粒子成長曲線の係数である。
平均粒子径d=a’*(アルコキシシラン添加時間)1/3・・・[式4]
【0059】
上記式においては、成長が速いものほど、係数a’が大きい値となる。[式4]に基づく具体的な粒子の成長曲線を図2に示す。
核粒子の数が同じ場合には、成長速度が速いものほど、粒子内部のネットワークが疎となり、より多くの塩基性物質を吸蔵することができると考えられる。
【0060】
従って、今回の塩基性物質を多く吸蔵することができる目的粒子を得るためには、例えば、d=50nmの粒子の場合、[式4]における係数a’が15以上であることが好ましく、20以上がより好ましく、25以上が更に好ましい。d=30nmの場合には、係数a’が9以上であることが好ましく、12以上がより好ましく、15以上が更に好ましい。
このように、好ましい係数a’は、平均粒子径dによって異なるため、係数a’の値を平均粒子径dで割った値をbとすると、平均粒子径d=5~300nmの範囲においては、b=0.3~0.6であると目的の粒子が得られやすい。
【0061】
本工程においては、後の工程においてSears数Yが減少する傾向にあるため、最終製品としてのシリカ粒子のSears数Yより大きなSears数Yのシリカ粒子を調製する。本工程で調製されるシリカ粒子のSears数Yは、40以上が好ましい。これにより、水への溶媒置換や濃度調整等、使用上必要な後処理を行った場合でも、最終製品としてのシリカ粒子のSears数Yを、12.0を超える値になるよう調整することができる。本工程の調製されるシリカ粒子のSears数Yは、60以上がより好ましく、70以上が更に好ましく、80以上が特に好ましい。
【0062】
有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類などが挙げられる。より具体的には、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノプロピルエーテルなどのグリコールエーテル類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコールなどのグリコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル類が用いられる。これらの中でも、メタノール又はエタノールがより好ましく、メタノールが特に好ましい。これらの有機溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0063】
アルカリ触媒としては、アンモニア、アミン、アルカリ金属水素化物、アルカリ土類金属水素化物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、第4級アンモニウム化合物、アミン系カップリング剤など、塩基性物質が用いられる。これらの触媒は、単独あるいは組み合わせて使用できる。その使用条件や使用量等にもよるが、アンモニアが好ましい。
【0064】
アンモニアはその構造に有機基を含まないため、研磨用組成物に加工する際に、有機基が粒子表面のOH基を被覆することがないので、粒子と添加剤との相互作用を妨げない。また、製造上の取り扱いが容易であり、余剰なアンモニアを加熱等により系外に容易に排出できる。このため、分散液中のアンモニア残存量も調整しやすい。更に、アルカリ金属水素化物、アルカリ土類金属水素化物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物のように、研磨した基板の回路の絶縁性等に影響のおそれがある金属元素を含まない点でも好ましい。
【0065】
加水分解に用いる触媒の量は、アルコキシシラン1モル当たり、0.005~2.0モルが好ましい。0.005モル未満であると加水分解が生じにくく、粒子の粒度分布が広くなるおそれがある。逆に、2.0モルを超えると、加水分解スピードが著しく速くなるため、粒子になりにくく、ゲル状物となるおそれがある。触媒の量は、アルコキシシラン1モル当たり0.01~1.5モル添加することがより好ましい。
【0066】
加水分解に用いる水の量は、アルコキシシランを構成するSi-OR基1モル当たり0.5~10モルが好ましく、1~5モルがより好ましい。
【0067】
分散液のシリカ粒子濃度は、10質量%未満が好ましく、8質量%未満がより好ましく、5質量%未満が更に好ましい。
【0068】
上記のような条件で加水分解すると、アルコキシシランの重縮合が三次元的に進行する。
本工程で得られるシリカ粒子は、平均粒子径dが5~300nmである。シリカ粒子の平均粒子径dは、5~100nmが好ましく、10~80nmがより好ましく、20~60nmが更に好ましく、25~55nmが特に好ましく、30~50nmが最も好ましい。なお、最終製品としてのシリカ粒子の平均粒子径は、本工程で製造されるシリカ粒子の平均粒子径と同等である。
【0069】
[水置換工程]
水置換工程では、シリカ粒子分散液中の有機溶媒を水(純水)に置換する。本工程は、分散液調製工程後の適当な段階で実施できる。中でも、粒子表面調整工程前に実施することが好ましい。
【0070】
水置換の方法は、有機溶媒を水(純水)に置換できれば特に制限されない。この方法としては、例えば、加熱置換法、減圧置換法、膜置換法等が挙げられる。中でも、加熱置換法は、その後に粒子表面調整工程を連続して行えるので好ましい。この方法は、例えば、分散液を加熱して有機溶媒を蒸発させると共に水の添加により液量を一定として水に置換する方法である。これは、操作上、常圧で行うことが好ましい。なお、液量を一定とすることなく、濃縮を兼ねることも可能である。
水置換は、常圧で加熱する場合、液温が実質的に水の沸点(100℃)になった時点で完了することもできる。ただし、ミクロゲル等の発生を抑えるためには、100℃に到達しない(沸騰しない)ように制御することが好ましい。これは、例えば、90~96℃程度を維持して、所定時間加熱した時点で完了する方法である。
【0071】
[粒子表面調整工程]
粒子表面調整工程では、分散液調製工程で形成されたシリカ粒子分散液をpH7以上で加熱して、シリカ粒子のOH基含有量を調整する。ここでは、シリカ粒子のSears数Yが12.0以下とならないように調整する。所望のSears数Yに調整するには、分散液調製工程で調製されたシリカ粒子の表面状態に応じて、pH及び保持時間を調整する。すなわち、Sears数Yをより小さくするには、高pHで長時間保持する。なお、pH7未満で加熱する場合、シリカ粒子のOH基含有量は変化しにくい。このpHは、7.5以上が好ましく、8以上がより好ましい。pHの上限は特に制限されないが、例えば10程度である。
【0072】
なお、所定のpHにするために、アルカリを加熱開始前又は加熱中に添加してもよい。ただし、既に所定のpHである場合には添加しなくてもよい。アルカリとしては、上述の分散液調製工程で用いた触媒が使用できる。このアルカリ種は、pHの調整が容易で、シリカ粒子を修飾して研磨性能や分散液の安定性を低下させるおそれがある有機基や、研磨した基板の回路の絶縁性等に影響のおそれがある金属元素を含まない点で、アンモニアが好ましい。
【0073】
ここで、高い研磨速度及び良好な研磨面の形成の両者を満足できる点から、シリカ粒子のSears数Yを12.0超え20.0以下に調整することが好ましい。
【0074】
本工程における加熱は、常圧下、分散媒の沸点未満の温度で沸騰しないように行うことが好ましい。その理由は、沸騰させない条件で加熱することにより、ミクロゲルの発生を抑制し、ひいては濾過性の向上や研磨基板におけるディフェクトの発生を抑制できるためである。例えば、常圧下又は加圧下、分散媒の沸点未満の温度で加熱できる。具体的には、常圧下、100℃未満での加熱が好ましく、90~96℃での加熱がより好ましい。
【0075】
また、本工程は、密閉系で行ってもよいし、開放系で行ってもよい。密閉系で行うと、系外へのアルカリの排出を防ぎ、系内のpHを維持したままOH基の調整ができる。一方、開放系で行うと、アンモニアやアミン等をアルカリとして使用する場合、加熱による溶媒の蒸発と共にアルカリも系外に排出される。このため、本工程は、pHの維持が容易で、OH基のより精密な調整が可能な、密閉系で行うことが好ましい。
【0076】
[濃縮工程]
濃縮工程では、粒子表面調整工程で得られた分散液をpH7未満で濃縮する。その下限は6.0程度である。本工程では、粒子表面調整工程で調整したOH基量を変化させないように濃縮する。なお、本濃縮工程は、粒子表面調整工程の後に行われる。ただし、粒子表面調整前の適当な段階(例えば、水置換工程の前)に、予備濃縮工程を設けてもよい。なお、pHの調整は、加熱によるアルカリの留去の他、イオン交換、限外膜処理等で行ってもよく、これらを併用してもよい。このpHは、6.9以下が好ましく、6.7以下がより好ましい。
【0077】
濃縮方法は、分散液のシリカ濃度を高められる方法であれば特に制限されない。例えば、加熱濃縮法、減圧濃縮法、膜濃縮法等が挙げられる。中でも、加熱濃縮法は、前の工程から連続して行えるので好ましい。この方法は、例えば、必要に応じてシリカ粒子分散液を添加しながら、分散液を加熱して有機溶媒及び水を蒸発させて濃縮する方法である。
【0078】
加熱濃縮法は、pH7以上であるとシリカ粒子のSears数Y(OH基量)が容易に変化する。このため、上記範囲でのpH管理が重要である。また、加熱は、分散液の分散媒が沸騰しない条件下で行うことが好ましい。これは、沸騰しない条件で加熱することにより、ミクロゲルの発生を抑制し、ひいては濾過性の向上や、研磨基板におけるディフェクトの発生を抑制できるためである。すなわち、常圧下、分散媒の沸点未満の温度で加熱することが好ましい。具体的には、分散媒が水の場合、常圧下、100℃未満で加熱することが好ましく、90~96℃で加熱することがより好ましい。
【0079】
ところで、粒子表面調整工程では、分散液調製工程で得られた分散液の粘度(シリカ濃度20質量%に換算)が、例えば60mPa・s以上まで一旦上昇する。しかしながら、粒子表面調整工程から濃縮工程の過程で、分散液のpHを7未満まで低下させることにより粘度を低下させられる。このように、60mPa・s以上まで粘度が一旦上昇した後、低下する工程を経た分散液は、粘度変化が起こる過程で、粒子の表面同士が相互作用し、緻密化が進行するためか、分散液は未反応物を含まないものになりやすい。このように、粒子表面調整工程及び濃縮工程を経ることより「珪素を含む化合物」(未反応物)を200ppm以下まで低減できる。
【実施例
【0080】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0081】
<シリカ粒子分散液>
[合成実施例1]
(分散液調製工程)
テトラメトキシシラン(多摩化学工業(株)製(以下同じ))432.0gとメタノ-ル144.0gを混合し、原料溶液を調製した。反応槽に予めメタノ-ル、水、アンモニアを混合した溶媒5,400gを仕込んだ。この混合溶媒中の水の濃度は15質量%、アンモニアは1質量%であった。反応溶媒の温度が15℃に保持できるように液温を調節しながら、原料溶液を20分間、均等速度で反応槽に滴下し、シリカ粒子濃度2.9質量%のシリカ粒子分散液を得た。
【0082】
(予備濃縮工程)
分散液調製工程で得られた分散液(シリカ粒子濃度2.9質量%)を加熱濃縮法により濃縮した。具体的には、分散液調製工程で得られた分散液を常圧下加熱して、有機溶媒及び水を蒸発させると共に、液量が一定となるように予め調製しておいたシリカ粒子分散液(シリカ粒子濃度2.9質量%)を添加し、分散液を濃縮した。
【0083】
(水置換工程)
濃縮された分散液に水を添加しながら常圧にて加熱置換法により水置換を行った。液温が96℃に到達した時点で、水置換工程を終了した。
【0084】
(粒子表面調整工程)
水置換工程終了後、常圧下で液温96℃を保ちながら、pH7以上で25時間加熱処理を行った。この工程でも留去する液量と同量の水を添加し、系内のシリカ濃度を一定に保ったまま加熱を続け、シリカ粒子を目標とするSears数に調整した。
【0085】
(濃縮工程)
pHが7を下回っていることを確認し、水の添加をやめ、シリカ粒子濃度が20質量%になるまで常圧下96℃にて濃縮を行い、シリカ粒子分散液Aを調製した。
【0086】
濃縮工程終了時の分散液のSears数Y、粒子密度ρ、平均粒子径d、粒子変動係数(CV値)、2個以上の連結粒子の割合、未反応物量、及び塩基性物質吸蔵量を表1に示す(以下の合成実施例及び合成比較例も同様)。なお、以下の方法で各種パラメータを測定した。
【0087】
《分散液のシリカ粒子濃度》
サンプル5gを150℃で1時間乾燥させ、乾燥後の質量から、固形分濃度を算出した。この固形分濃度から、後述のシリカ粒子の金属元素含有量を酸化物換算したものと未反応物量とを差し引いた値から、シリカ粒子濃度を算出した。
【0088】
《シリカ粒子の平均粒子径d》
シリカ粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、任意の100個の粒子について、図1に例示するように、各粒子の一次粒子径の最長径を測定し、その平均値をシリカ粒子の平均粒子径dとした。
【0089】
《シリカ粒子のSears数Y》
Sears数Yは、SearsによるAnalytical Chemistry 28(1956), 12, 1981-1983.の記載に沿って、水酸化ナトリウムを用いる滴定によって測定した。
具体的には、シリカ粒子濃度が1質量%になるように純水で希釈したもの150gに対し、塩化ナトリウム30gを加え、塩酸でpHを4.0に調整した後、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、pH9.0までに要した量で表した(すなわち、シリカ量1.5gに対する0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液滴定量)。なお、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液の滴定は、自動滴定装置を用い、0.1ml/秒に固定して行った。
【0090】
《シリカ粒子の密度》
粒子密度ρは、上記平均粒子径d、及び上記Sears数Yに基づく比表面積(SA=32*(Sears数)-25)から求める。
粒子径d[nm]から、
粒子1個あたりの表面積(S)=4π(d/2)=πd[nm/個]
粒子1個あたりの体積(V)
=(4/3)π(d/2)=(πd)/6[nm/個]
粒子密度をρ[g/cm]とすると、
SA[m/g]=1000・S/ρV=(1000/ρ)・(6/d)
=6000/ρd
となるため、
ρ[g/cm]は、SA[m/g]、d[nm]から、次式で求められる。
ρ[g/cm]=6000/SA・d
【0091】
《シリカ粒子の粒子径変動係数》
下記の式により求めた。なお、粒子径変動係数(CV値)を求める際の個々の粒子径及び平均粒子径は、上記の電子顕微鏡写真により求めたものを用いた。
【0092】
【数1】
【0093】
《連結粒子の割合》
シリカ粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、任意の100個の粒子について、連結の有無を確認し、連結していないもの、2個連結したもの、3個以上連結したものに分け、各粒子の個数をカウントし、全粒子数に対する2個連結したものの割合を算出した。
【0094】
《分散液中の未反応物量》
小型超遠心機(日立工機株式会社製 CS150GXL)を用いて、分散液を設定温度30℃、137,000rpm(1,000,000G)で30分遠心処理した。この処理液の上澄み中に存在するシリカ粒子以外の「珪素を含む化合物」(未反応物)を、ICP発光分析装置(株式会社島津製作所製 ICPS-8100)でSiとして測定した。この測定値から、分散液中のSiO濃度に換算した。
【0095】
《塩基性物質吸着量の評価》
シリカ粒子分散液を28%アンモニア水と純水を用いて、シリカ粒子濃度9.0質量%、pH9.0に調整した。その液を遠心分離し、遠心分離前(全体)と遠心分離後(上澄み)中のアンモニア量を定量し、その差分をシリカ粒子の吸蔵分とした。シリカ1gあたりに換算してアンモニア吸蔵量(塩基性物質吸蔵量)とした。遠心分離は、小型超遠心機(日立工機株式会社製CS150GXL)を用いて、分散液を設定温度30℃、137,000rpm(1,000,000G)で30分遠心処理した。
【0096】
《シリカ粒子の金属元素含有量》
シリカ粒子中のアルカリ金属、アルカリ土類金属、Fe、Ti、Zn、Pd、Ag、Mn、Co、Mo、Sn、Al、Zrの含有量、Cu、Ni、Crの含有量、及びU、Thの含有量は、シリカ粒子をフッ酸で溶解し、加熱してフッ酸を除去した後、必要に応じて純水を加え、得られた溶液について、ICP-MS誘導結合プラズマ質量分析装置(Agilent社製 7900s)を用いて測定した。
【0097】
《シリカ粒子の一次粒子の真球度》
電子顕微鏡写真を撮影し、任意の100個の粒子について、それぞれその最大径(D)と、これと直交する短径(D)との比(D/D)の平均値を求め、これを真球度とした。なお、真球度は、連結していない粒子から算出した。
【0098】
[合成実施例2]
水置換工程を減圧下(-0.06MPa(ゲージ圧表記))で行った以外は合成実施例1と同様にして、シリカ粒子分散液Bを調製した。
【0099】
[合成実施例3]
(分散液調製工程)
テトラメトキシシラン388.8gとメタノ-ル129.6gを混合し、原料溶液を調製した。反応槽に予めメタノ-ル、水、アンモニアを混合した溶媒5,400gを仕込んだ。この混合溶媒中の水の濃度は15質量%、アンモニアは1質量%であった。反応溶媒の温度が13℃に保持できるように液温を調節しながら、原料溶液を18分間、均等速度で反応槽に滴下し、シリカ粒子濃度2.6質量%のシリカ粒子分散液を得た。
【0100】
(予備濃縮工程)
分散液調製工程で得られた分散液(シリカ粒子濃度2.6質量%)を加熱濃縮法により濃縮した。具体的には、分散液調製工程で得られた分散液を常圧下加熱して、有機溶媒及び水を蒸発させると共に、液量が一定となるように予め調製しておいたシリカ粒子分散液(シリカ濃度2.6質量%)を添加し、分散液を濃縮した。
水置換工程以降は、合成実施例1と同様にして、シリカ粒子分散液Cを得た。
【0101】
[合成実施例4]
(分散液調製工程)
テトラメトキシシラン345.6gとメタノ-ル115.2gを混合し、原料溶液を調製した。反応槽に予めメタノ-ル、水、アンモニアを混合した溶媒5,400gを仕込んだ。この混合溶媒中の水の濃度は15質量%、アンモニアは1質量%であった。反応溶媒の温度が12.0℃に保持できるように液温を調節しながら、原料溶液を16分間、均等速度で反応槽に滴下し、シリカ粒子濃度2.3質量%のシリカ粒子分散液を得た。
【0102】
(予備濃縮工程)
分散液調製工程で得られた分散液(シリカ粒子濃度2.3質量%)を加熱濃縮法により濃縮した。具体的には、分散液調製工程で得られた分散液を常圧下加熱して、有機溶媒及び水を蒸発させると共に、液量が一定となるように予め調製しておいたシリカ粒子分散液(シリカ濃度2.3質量%)を添加し、分散液を濃縮した。
水置換工程以降は、合成実施例1と同様にして、シリカ粒子分散液Dを得た。
【0103】
なお、いずれの合成実施例においても、シリカ粒子中のアルカリ金属、アルカリ土類金属、Fe、Ti、Zn、Pd、Ag、Mn、Co、Mo、Sn、Al、Zrの各々の含有量は0.1ppm未満、Cu、Ni、Crの各々の含有量は1ppb未満、U、Thの各々の含有量は0.3ppb未満であった。また、シリカ粒子の一次粒子の真球度は、0.80~1.00であった。
【0104】
[合成実施例5]
(分散液調製工程)
テトラメトキシシラン648gとメタノ-ル216gを混合し、原料溶液を調製した。反応槽に予めメタノ-ル、水、アンモニアを混合した溶媒5,400gを仕込んだ。この混合溶媒中の水の濃度は15質量%、アンモニアは1質量%であった。反応溶媒の温度が20℃に保持できるように液温を調節しながら、原料溶液を30分間、均等速度で反応槽に滴下し、シリカ粒子濃度4.1質量%のシリカ粒子分散液を得た。
【0105】
(予備濃縮工程)
分散液調製工程で得られた分散液(シリカ粒子濃度4.1質量%)を加熱濃縮法により濃縮した。具体的には、分散液調製工程で得られた分散液を常圧下加熱して、有機溶媒及び水を蒸発させると共に、液量が一定となるように予め調製しておいたシリカ粒子分散液(シリカ濃度4.1質量%)を添加し、分散液を濃縮した。水置換工程以降は、合成実施例2と同様にして、シリカ粒子分散液Eを得た。
【0106】
[合成比較例1]
(分散液調製工程)
純水440.8g、28%アンモニア水135.0g、メタノール3669.0gの混合液に、テトラメトキシシラン3044.4g、メタノール229.2gの混合液および、純水621.0g、28%アンモニア水134.9gの混合液を、液温を30℃に保ちつつ150分かけて添加し、シリカ粒子濃度14.5%のシリカ粒子分散液を得た。
(水置換工程)
予備濃縮工程は行わず、分散液調製工程で得られた分散液に水を添加しながら常圧にて加熱置換法により水置換を行った。液温が96℃に到達した時点で、水置換工程を終了した。
以降は、合成実施例1と同様にし、シリカ粒子分散液Fを得た。
【0107】
[合成比較例2]
水硝子法により調製されたシリカ粒子(日揮触媒化成(株)製SI-45P)を比較例とした。
【0108】
なお、合成比較例1におけるシリカ粒子中のアルカリ金属、アルカリ土類金属、Fe、Ti、Zn、Pd、Ag、Mn、Co、Mo、Sn、Al、Zrの各々の含有量は0.1ppm未満、Cu、Ni、Crの各々の含有量は1ppb未満、U、Thの各々の含有量は0.3ppb未満であった。また、いずれの合成比較例においても、シリカ粒子の一次粒子の真球度は、0.80~1.00であった。
【0109】
<研磨用組成物>
[実施例1]
シリカ粒子分散液Aと水溶性高分子(ヒドロキシエチルセルロース(分子量350000))を表2に示す比率で混合し、シリカ粒子濃度0.45質量%の研磨用組成物Aを調製した。なお、研磨用組成物中にはアンモニアを0.02質量%配合した。
【0110】
[実施例2]
シリカ粒子分散液Bを用いる以外は実施例1と同様にして、研磨用組成物Bを調製した。
【0111】
[実施例3]
シリカ粒子分散液Cを用いる以外は実施例1と同様にして、研磨用組成物Cを調製した。
【0112】
[実施例4]
シリカ粒子分散液Dを用いる以外は実施例1と同様にして、研磨用組成物Dを調製した。
【0113】
[実施例5]
シリカ粒子分散液Eを用いる以外は実施例1と同様にして、研磨用組成物Eを調製した。
【0114】
[比較例1]
シリカ粒子分散液Fを用いる以外は実施例1と同様にして、研磨用組成物Fを調製した。
【0115】
表2に、研磨特性(研磨速度、平滑性、ディフェクト)の判定を示す。なお、各測定値は、以下の方法で求めた。
【0116】
<研磨用組成物の評価>
1.研磨速度
研磨用基板(結晶構造が1.0.0である単結晶シリコンウエハー)を用い、研磨装置(ナノファクター(株)製 NF300)にセットし、研磨パッドポリテックスP103、研磨荷重0.05MPa、テーブル回転速度50rpm、スピンドル速度50rpmで、上記研磨用組成物を使用して、100ml/分の速度で研磨用基板の研磨を5分間行った。その後、純水にて洗浄し風乾した。この基板の研磨速度を以下の基準で評価した。
【0117】
《研磨速度判定法》
〇:25nm/分超
△:20~25nm/分
×:20nm/分未満
【0118】
2.研磨面の状態
得られた研磨基板の研磨表面を、走査型白色干渉計(Zygo New View 7300)を用いて波長50~500μmでのうねりを観察し、表面の平滑性を以下の基準(うねり)で評価した。
【0119】
《研磨面平滑性判定法》
○:うねりが0.5nm未満
△:うねりが0.5nm以上1.0nm未満
×:うねりが1.0nm以上
【0120】
レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製 VK-X250)を用いて研磨基板に生じたスクラッチ等のディフェクトの程度を確認し、ディフェクトを以下の基準で評価した。
【0121】
《ディフェクト判定法》
〇:ディフェクトがほとんど認められない
△:ディフェクトが僅かに認められる
×:ディフェクトが広範囲に認められる
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
図1
図2