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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】絶縁検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/14 20060101AFI20230920BHJP
   G01R 31/52 20200101ALI20230920BHJP
【FI】
G01R31/14
G01R31/52
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019181209
(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公開番号】P2021056150
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000159043
【氏名又は名称】菊水電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀行
(72)【発明者】
【氏名】吉川 聡
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-124913(JP,A)
【文献】特開2017-219352(JP,A)
【文献】特開2005-227271(JP,A)
【文献】特開2018-194496(JP,A)
【文献】特開2016-003988(JP,A)
【文献】特開2015-083939(JP,A)
【文献】特開2002-062330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/14
G01R 31/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧の立ち上がり時間を設定できる電源を備えた絶縁検査用電源装置を用いて、被試験物の絶縁を検査する絶縁検査方法であって、
正極端子及び負極端子を有する前記電源と、第1の端子及び第2の端子を有し、前記電源の前記正極端子が前記第1の端子に接続される第1のスイッチと、第3の端子及び第4の端子を有し、前記第1のスイッチの前記第2の端子が前記第3の端子に接続され、前記電源の前記負極端子が前記第4の端子に接続される放電検出器と、を回路として備える絶縁検査用電源装置にて、前記第1のスイッチの前記第2の端子と前記放電検出器の前記第3の端子との間に前記被試験物を接続するステップと、
前記電源が印加する第1の電圧の立ち上がり時間を設定するステップと、
前記第1の電圧の立ち上がり時間が経過した時点で、前記電源が印加した電圧によって前記第1のスイッチから前記被試験物を通って前記放電検出器に向かう電流を検出するステップと、
検出された前記電流が所定レベルより大きかった場合、前記回路を構成する負荷に短絡が生じたことを判定するステップと、
検出された前記電流が前記所定レベル以下であった場合、前記電源が印加する第2の電圧の立ち上がり時間を設定し、前記放電検出器が検出した電流と所定の判定の閾値とを比較することで、前記被試験物の絶縁を検査するステップと、
を含み、
前記第2の電圧の立ち上がり時間を、前記第1の電圧の立ち上がり時間よりも短く設定する、
絶縁検査方法。
【請求項2】
前記第1の電圧の立ち上がり時間が経過した時点において検出された前記電流が前記所定レベルより大きかった場合、前記第1のスイッチを開くことで前記回路を遮断するステップと、をさらに含む
請求項1に記載の絶縁検査方法。
【請求項3】
前記回路を構成する負荷には、前記被試験物による負荷と、前記回路に設けられた負荷と、が含まれる、
請求項1又は2に記載の絶縁検査方法。
【請求項4】
前記第1のスイッチは、取得するパルス信号がハイレベルである期間にオン状態となり、取得する前記パルス信号がロウレベルである期間にオフ状態となる、
請求項1又は2に記載の絶縁検査方法。
【請求項5】
前記絶縁検査用電源装置は、前記回路内において、前記被試験物と、前記放電検出器の前記第3の端子との間に接続される電流センサをさらに備え、
前記電流センサは、前記第1の電圧の立ち上がり時間が経過した時点で、前記電源が印加した電圧によって前記第1のスイッチから前記被試験物を通って前記放電検出器に向かう電流を検出する、
請求項1又は2に記載の絶縁検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、絶縁検査用電源装置を用いて、被試験物の絶縁を検査する絶縁検査方法が記載されている。特許文献1に記載の絶縁検査方法では、電源の電圧の立ち上がり時間と所定以上の大きさの電圧を維持する時間とを個別に設定して、被試験物の絶縁を検査している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-219352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の絶縁検査方法では、電源となる直流電圧発生部と被試験物とを含む回路の負荷が短絡している場合、回路内に過電流が流れることにより、絶縁検査用電源装置に設けられた高圧スイッチ(高電圧スイッチ)が破損するおそれがある。なお、この高圧スイッチは、直流電圧発生部の正極端子に一端が接続され、他端が試験電圧の立ち上がり時間を変更するための可変インダクタに接続されるスイッチである。
【0005】
そこで、本発明の目的は、電源と被試験物とを含む回路内に過電流が流れないようにすることが可能な絶縁検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、電圧の立ち上がり時間を設定できる電源を備えた絶縁検査用電源装置を用いて、被試験物の絶縁を検査する絶縁検査方法である。前記絶縁検査方法は、第1の電圧の立ち上がり時間を設定するステップと、前記第1の電圧の立ち上がり時間が経過した時点で、前記電源と前記被試験物とを含む回路における電流を検出するステップと、検出された前記電流が所定レベルより大きかった場合、前記回路に異常が生じたことを判定するステップと、検出された前記電流が前記所定レベル以下であった場合、第2の電圧の立ち上がり時間を設定して前記被試験物の絶縁を検査するステップと、を含む。前記絶縁検査方法では、前記第2の電圧の立ち上がり時間を、前記第1の電圧の立ち上がり時間よりも短く設定する。
【0007】
この一態様に係る絶縁検査方法では、絶縁検査用電源装置の第1の電圧の立ち上がり時間を長くすることで、回路に電流が急激に流れるのを抑制する。この一態様に係る絶縁検査方法では、それとともに、電流が所定レベル以上に生じた場合は回路の異常を判定し、異常がないと判定されたときは、第1の電圧よりも立ち上がり時間が短い第2の電圧で被検査物の絶縁を検査する。よって、この一態様によれば、電源と被試験物とを含む回路内に過電流が流れないようにすることが可能になる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電源と被試験物とを含む回路内に過電流が流れないようにすることが可能な絶縁検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係る絶縁検査方法の一例を説明するためのフロー図である。
図2図1の絶縁検査方法で使用される短絡チェック電圧の一例を示す図である。
図3図2の短絡チェック電圧で短絡チェックを実施した場合の電流値の例を示す図である。
図4図1の絶縁検査方法で使用される検査電圧の一例を示す図である。
図5図4の検査電圧で絶縁状態を検査した場合の電流値の例を示す図である。
図6図1の絶縁検査方法で用いられる絶縁検査用電源装置の一構成例を示すブロック図である。
図7図1の絶縁検査方法で用いられる絶縁検査用電源装置の他の構成例を示すブロック図である。
図8図1の絶縁検査方法で用いられる絶縁検査用電源装置の他の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施の形態に限定するものではない。また、実施の形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。以下、図面を参照しながら実施の形態について説明する。各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複する説明は省略されている。
【0011】
(実施の形態)
本実施の形態に係る絶縁検査方法では、電圧の立ち上がり時間を設定できる電源を備えた絶縁検査用電源装置を用いて、被試験物の絶縁を検査する方法である。この絶縁検査方法は、後述するような第1設定ステップ、検出ステップ、判定ステップ、及び検査ステップを備える。
【0012】
以下、図1図5を参照しながら、この絶縁検査方法の例について説明する。図1は、本実施の形態に係る絶縁検査方法の一例を説明するためのフロー図である。また、図2は短絡チェック電圧の一例を示す図で、図3はその短絡チェック電圧で短絡チェックを実施した場合の電流値の例を示す図である。図4は、図1の絶縁検査方法で使用される検査電圧の一例を示す図で、図5はその検査電圧で絶縁状態を検査した場合の電流値の例を示す図である。なお、絶縁検査用電源装置の例については、図6以降を参照しながら後述する。
【0013】
本実施の形態に係る絶縁検査方法は、まず絶縁検査用電源装置において内部の電源に負荷を接続し(ステップS1)、短絡チェック電圧としての第1の電圧を印加する(ステップS2)。また、上記の負荷は、絶縁検査用電源装置に接続した被試験物による負荷と、絶縁検査用電源装置の内部負荷とで構成されることができる。そして、ステップS2における第1の電圧の印加に先立ち、上記第1設定ステップとして、第1の電圧についての立ち上がり時間(第1の立ち上がり時間)を設定しておく。なお、第1の立ち上がり時間は検査開始前に設定しておいてもよい。第1の電圧は、図2で例示するように時間の経過とともに緩やかに電圧値が増加するように設定しておくことができる。
【0014】
次いで、上記検出ステップとして、第1の立ち上がり時間が経過した時点で、電源と被試験物とを含む回路における電流を検出する(ステップS3)。ここで、電源と被試験物とを含む回路とは、その電源を含む絶縁検査用電源装置と被試験物とを接続した回路とすることができる。また、被試験物は問わないが、例えばモータ等の絶縁部分を必要とする機器などが挙げられる。
【0015】
次いで、ステップS3で検出した電流が所定レベルの電流以下であるか否かを判定する(ステップS4)。この判定は、例えば、検出した電流値が所定値以下であるか否かを検出することにより実施することができる。
【0016】
また、所定レベルの電流は、上記回路が破損する電流(破損電流)より小さく設定しておけばよい。例えば、ステップS4では、破損電流以下であるか否かを判定する。なお、第1の立ち上がり時間が経過する前から電流の検出を行っておくこともできるが、ステップS4での判定は基本的に経過した時点での判定とする。
【0017】
上記判定ステップとして、ステップS4でNOの場合、つまり検出された電流が所定レベルより大きかった場合、短絡していたことを意味するため、上記回路に異常が生じたことを判定し、処理を終了する(ステップS5)。ステップS5は、短絡によって検査が異常に終了したことを意味する。
【0018】
図3において、グラフ31は短絡時の電流値の変化を示すグラフで、グラフ32は非短絡時(負荷正常時)の電流値の変化を示すグラフである。所定レベルは、第1の立ち上がり時間が経過した時点でのグラフ31,32の値が区別できるように決めておけばよい。
【0019】
上記検査ステップとして、ステップS4でYESの場合(グラフ32で例示した場合のように検出された電流が上記所定レベル以下であった場合)、検査電圧としての第2の電圧を印加し(ステップS6)、絶縁破壊による放電を検出したか否かを判定する(ステップS7)。なお、ステップS7の判定の閾値は絶縁破壊による放電を検出できる程度に設定しておけばよい。上記検出ステップでは、このような放電検出判定により被試験物の絶縁を検査する。但し、絶縁の検査(絶縁状態の検査)の方法はこれに限らない。
【0020】
上記検査ステップでは、ステップS6における印加に先立ち、第2の電圧についての立ち上がり時間(第2の立ち上がり時間)を設定しておくが、第2の立ち上がり時間は、第1の立ち上がり時間よりも短く設定しておく。換言すれば、上記第1設定ステップでは、第1の立ち上がり時間を、第2の立ち上がり時間よりも長く設定しておく。第2の電圧は、図2で例示した長い立ち上がり時間をもつ第1の電圧と比べ、図4で例示するように急峻に電圧値が増加するように設定される。
【0021】
図4のような検査電圧を使用した場合において、仮に短絡が生じていた場合には、グラフ51に示すような電流値となってその頂点付近において絶縁検査用電源装置の内部のスイッチ(後述する高圧スイッチ)が破損してしまう。しかしながら、本実施の形態では、既にステップS4の判定でYESの場合のみ、立ち上がり時間を短くしているため、非短絡時(負荷正常時)についての電流値を例示したグラフ52のようにこの高圧スイッチの破損を回避することができる。
【0022】
ステップS7でNOの場合、被試験物の絶縁状態に問題がない(OKである)と判定し、処理を終了する(ステップS8)。一方で、ステップS7でYESの場合、被試験物の絶縁状態に問題がある(NGである)と判定し、処理を終了する(ステップS9)。なお、ステップS8,S9は、短絡なしの状態で検査が正常に終了できたことを意味する。
【0023】
また、ステップS5,S8,S9の結果は、上記絶縁検査用電源装置に設けた又は接続した表示装置(単なる表示ランプであってもよい)により、検査者に通知するようにしておけばよい。
【0024】
次に、図6を参照しながら、図1の絶縁検査方法で用いられる上記絶縁検査用電源装置の構成例について説明する。図6は上記絶縁検査用電源装置の一構成例を示すブロック図である。
【0025】
図6に示すように、絶縁検査用電源装置10は、直流電圧発生部(以下、直流高電圧発生部11で例示)、スイッチ(以下、高圧スイッチ12で例示)、パルス発生器(パルス発振器)12、可変インダクタ14、及び放電検出器15を備えることができる。
【0026】
さらに、絶縁検査用電源装置10は、第1の接続端子TT1、第2の接続端子TT2、スイッチSW1~SW4、抵抗素子(以下、終端抵抗Rsで例示)、及び過電流保護回路16を備えることができる。スイッチSW1~SW4は、第1の接続端子TT1及び第2の接続端子TT2の極性の切り替えに用いられるスイッチである。
【0027】
なお、図6では、被試験物20の例としてモータを想定し、モータの端子のうち絶縁検査用電源装置10に接続される2つの被試験端子のみを示した。第1の接続端子TT1は、被試験端子の一方(第1の被試験端子TM1)に接続され、第2の接続端子TT2は、被試験端子の他方(第2の被試験端子TM2)に接続される。
【0028】
直流高電圧発生部11は、直流電圧(例えば、直流高電圧)を出力する。さらに、直流高電圧発生部11は、電圧の立ち上がり時間を外部からの指示により可変できる機能を有する。
【0029】
高圧スイッチ12は、直流高電圧発生部11の正極端子に一端が接続され、他端が過電流保護回路16を介して可変インダクタ14に接続される。また、高圧スイッチ12は、パルス発生器13が出力するパルス信号がハイレベルの期間にオン状態とされ、パルス信号がロウレベルの期間にオフ状態とされる。パルス発生器13は、高圧スイッチ12の開閉状態を切り替えるパルス信号を出力する。また、パルス発生器13は、パルス信号のパルス幅を設定により変更可能であり、これによりピーク維持時間を変更することが可能になる。
【0030】
可変インダクタ14は、一端が過電流保護回路16を介して高圧スイッチ12の他端に接続され、他端が第1の接続端子TT1に接続される。図6に示す例では、高圧スイッチ12の他端は、スイッチSW3がオン状態、かつ、スイッチSW1がオフ状態のときは第1の接続端子TT1に接続される。一方、高圧スイッチ12の他端は、スイッチSW3がオフ状態、かつ、スイッチSW1がオン状態のときは第2の接続端子TT2に接続される。また、高圧スイッチ12は、設定値に応じてインダクタンス値を変更する。
【0031】
可変インダクタ14は、図示したように、インダクタンス値を可変可能な1つの部品として搭載されていればよいが、例えば複数のインダクタのうち有効に機能させるインダクタの個数を切り替えることでインダクタンス値を切り替えるよう構成することもできる。
【0032】
絶縁検査用電源装置10では、第2の接続端子TT2と直流高電圧発生部11の負極端子との間を接続する負極配線を有する。放電検出器15は、この負極配線上に設けられる。放電検出器15は、第1の接続端子TT1から出力され被試験物20を介して戻ってくる電流を検出する。コンデンサCは、直流高電圧発生部11の正極端子と負極端子との間に接続される。終端抵抗Rsは、第1の接続端子TT1と第2の接続端子TT2との間に接続される。
【0033】
過電流保護回路16は、高圧スイッチ12と同じ経路上にあり、電流センサと、その出力と高圧スイッチが破損する電流値と比較する比較器と、比較器の比較結果に応じて開閉するスイッチと、を有することができる。高圧スイッチ12が破損するような電流が流れると上記電流センサの出力が大きくなり、上記比較器の出力によりスイッチを開き、回路を遮断する。過電流保護回路16は、回路を監視する機能を有し、このような遮断時にはその機能が異常状態を検知して絶縁検査用電源装置10の外部に異常状態を通知する。
【0034】
上述のような構成の絶縁検査用電源装置10において、ステップS1では被試験物20が接続され、かつ、スイッチSW1~SW4の制御により、内部の電源に相当する直流高電圧発生部11に負荷が接続されることになる。ステップS2,S6でそれぞれ印加される第1の電圧、第2の電圧は、外部等から直流高電圧発生部11を制御することで、それらの立ち上がり時間とともに設定されることができる。そして、絶縁検査用電源装置10において、ステップS3では、過電流保護回路16内の電流センサを利用して電流が検出され、ステップS4での判定もそこで行うことができる。また、絶縁検査用電源装置10において、ステップS7では、放電検出器15を利用して放電が検出される。
【0035】
そして、ステップS5,S8,S9の結果は、絶縁検査用電源装置10に設けた又は接続した表示装置により、検査者に通知されることができる。
【0036】
以上に説明したように、本実施の形態に係る絶縁検査方法では、絶縁検査用電源装置10の第1の電圧の立ち上がり時間を長くすることで、回路に電流が急激に流れるのを抑制する。この絶縁検査方法では、それとともに、電流が所定レベル以上に生じた場合は回路の異常を判定し、異常がないと判定されたときは、第1の電圧よりも立ち上がり時間が短い第2の電圧で被検査物の絶縁を検査する。よって、本実施の形態に係る絶縁検査方法によれば、電源と被試験物とを含む回路内に過電流が流れないようにすることが可能になり、高圧スイッチ12の破損を防止できる。
【0037】
ここで、被試験物20を、ハイブリッド自動車や電気自動車等の車両に搭載されるモータとした場合の効果について説明する。モータに含まれるステータの製造ラインで絶縁検査に使用される電源の電圧波形は、そのモータを搭載する車両での使用時に近付けるため電圧の立ち上がり時間が既存の電源と比較して短くなっている。
【0038】
そのため、本実施の形態のように電圧の立ち上がり時間を制御しない場合には、次のような事象が発生する。即ち、負荷が短絡していてインピーダンスが極端に低い場合は、回路内に過電流保護回路16で例示したようにヒューズなどの過電流保護機能を設けていたとしても、過電流により回路を遮断する前に高圧スイッチ12が破損することがある。これは、絶縁検査に用いる電圧波形の立ち上がり時間は例えば40kV/μsec程度と短時間で高電圧に達するためである。そして、高圧スイッチ12が破損すると、絶縁検査用電源装置10は復帰できず、修理に時間と金額が掛かり、絶縁検査用電源装置10が使用できない期間が発生してしまう。
【0039】
しかしながら、本実施の形態に係る絶縁検査用電源装置10では、電圧の立ち上がり時間を可変できる電源の機能を利用して、まず、立ち上がり時間を大きく設定して負荷が短絡していないかを確認する。仮に負荷が短絡していたとしても電圧の立ち上がり時間を大きくしていれば、電流が立ち上がる時間も大きくなり、過電流保護機能が働く時間が確保できるため、高圧スイッチ12が破損する前に回路を遮断することができる。
【0040】
そして、過電流保護機能が働かずに、負荷が短絡していないことが確認できた後は、立ち上がり時間を小さくしても高圧スイッチ12が破損することなく絶縁検査を行うことができる。
【0041】
(代替例)
上述した実施の形態では、絶縁検査方法で使用する絶縁検査用電源装置として、絶縁検査用電源装置10を例に挙げて説明したが、他の構成の絶縁検査用電源装置を採用することもできる。例えば、絶縁検査用電源装置10は、電源波形を立ち上がり時間、電圧維持時間(ピーク維持時間)の2つの値について各々別個に変化させることができる電源を有する例を挙げたが、電圧維持時間が固定されるような絶縁検査用電源装置を使用することもできる。
【0042】
また、絶縁検査用電源装置は、図7又は図8で例示するような構成例を採用することもできる。図7及び図8は、図1の絶縁検査方法で用いられる絶縁検査用電源装置の他の構成例を示すブロック図で、図7図8は互いに異なる構成例である。
【0043】
図6に示した絶縁検査用電源装置10で使用している電源は、直流高電圧発生部11で例示したように電圧の立ち上がり時間を変更する機能を有している。よって、立ち上がり時間を大きく設定して負荷の短絡状態を確認する際に、過電流保護回路16を使用せずに、放電検出器15の電流出力を使用して、電流出力が大きくなった場合にパルス発生器13の出力を落とし、高圧スイッチ12を開いて回路を遮断可能である。
【0044】
そのような構成の例が、図7に示す絶縁検査用電源装置10aである。絶縁検査用電源装置10aは、図6に示す絶縁検査用電源装置10において過電流保護回路16を取り除いたものである。当然ながら過電流保護回路16を使用するよりも、過電流が生じてから回路を遮断するまでの時間はかかるようになるが、その時間を見越した電圧の立ち上がり時間に設定しておけば高圧スイッチ12が破損することなく回路を遮断することができる。このような構成を採用することで、過電流保護回路16を搭載せずとも同様の機能を実現することができる。
【0045】
図8に示す絶縁検査用電源装置10bは、図7に示す絶縁検査用電源装置10aにおいて、終端抵抗Rsの一端と被試験物20の一端との間に電流センサ17を設けたものである。つまり、絶縁検査用電源装置10bは、絶縁検査用電源装置10,10aにおいて、電流を検出する電流センサ17を被試験物20の近傍に設置したものである。
【0046】
絶縁検査用電源装置10bでは、電圧の立ち上がり時間を可変できる機能を用いて、立ち上がり時間を大きく設定して負荷の短絡状態を確認する際に、過電流保護回路16や放電検出器15を使用せずに、電流センサ17を使用する。そして、絶縁検査用電源装置10bは、電流センサ17からの電流出力が大きくなった場合にパルス発生器13の出力を落とし、高圧スイッチ12を開いて回路を遮断する動作を行う。
【0047】
このような構成を採用することで、負荷が解放状態の場合に電流センサ17を通過する電流が生じないため、負荷の解放を検出することもできる。負荷が解放された場合、過電流が生じて絶縁検査用電源装置10bの他の内部回路や被試験物20が破損することはないが、検査を実施しても無意味であるため、検査前に試験物異常などの信号を出力することができ、無駄な試験時間を短縮することができる。
【0048】
以上に、本実施の形態について説明したが、上記実施の形態は、以下の特徴を有する。
即ち、上記実施の形態に係る絶縁検査方法は、電圧の立ち上がり時間を設定できる電源を備えた絶縁検査用電源装置を用いて、被試験物の絶縁を検査する。この絶縁検査方法は、第1設定ステップ、検出ステップ、判定ステップ、及び検査ステップを備える。上記第1設定ステップは、第1の電圧の立ち上がり時間を設定する。上記検出ステップは、第1の電圧の立ち上がり時間が経過した時点で、電源と被試験物とを含む回路における電流を検出する。上記判定ステップは、検出された電流が所定レベルより大きかった場合、上記回路に異常が生じたことを判定する。上記検査ステップは、検出された電流が所定レベル以下であった場合、第2の電圧の立ち上がり時間を設定して被試験物の絶縁を検査する。ここで、第2の電圧の立ち上がり時間は、第1の電圧の立ち上がり時間よりも短く設定される。
【0049】
以上の絶縁検査方法では、絶縁検査用電源装置の第1の電圧の立ち上がり時間を長くすることで、回路に電流が急激に流れるのを抑制するとともに、電流が所定レベル以上に生じた場合は回路の異常を判定する。そして、この絶縁検査方法では、異常がないと判定されたときは、第1の電圧よりも立ち上がり時間が短い第2の電圧で被検査物の絶縁を検査する。よって、以上の絶縁検査方法によれば、電源と被試験物とを含む回路内に過電流が流れないようにすることが可能になる。
【符号の説明】
【0050】
10、10a、10b 絶縁検査用電源装置
11 直流高電圧発生部
12 高圧スイッチ
13 パルス発生器
14 可変インダクタ
15 放電検出器
16 過電流保護回路
17 電流センサ
20 被試験物
Rs 終端抵抗
SW1、SW2、SW3、SW4 スイッチ
TM1 第1の被試験端子
TM2 第2の被試験端子
TT1 第1の接続端子
TT2 第2の接続端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8